説明

ポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその製造法、ポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物。

【課題】 ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を大幅に促進すると共に良好な機械的強度を有するポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその製造法、該ポリ乳酸アイオノマー樹脂を利用した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリエステルーアミド置換反応を利用して、ポリ乳酸樹脂1モル(繰返し単位で計算)に対して、アミノ酸化合物0.0001〜0.05モル、アミノ酸化合物1モルに対して脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物0.01〜1モルを配合溶融混錬することにより結晶化速度の優れたポリ乳酸アイオノマー樹脂を得る。
そして、該ポリ乳酸アイオノマー樹脂にタルク等の公知の結晶核剤を配合することに更に優れた結晶化速度を有するポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化を促進したポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその製造法、ポリ乳酸アイオノマー樹脂を利用した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護の見地から、生分解可能な脂肪族ポリエステルに関する研究が精力的に行われている。中でもポリ乳酸は、融点が160〜180℃と高く、透明性に優れるため、環境に優しいフィルム・容器などの包装材料、衣料、フロアマット、自動車用内装材、電気・電子製品の筐体や部品などの成形材料として期待されている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は結晶化速度が遅いため延伸が行われない射出成形品では結晶化度が低くなり、60℃前後のガラス転移温度を超えると成形品が変形するという欠点を有している。結晶化度を上げるために金型温度を高くして金型内での冷却時間を長くする方法が試みられているが、この方法では成形サイクルが長くなり生産性に課題を残す。
【0003】
ポリ乳酸樹脂の成形品を高い生産性(速い成形サイクル)で製造し幅広い用途で利用するためにはポリ乳酸樹脂の結晶化速度を速め、結晶化度を高めることが必要である。ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を速める方法としては、特定粒径以下のタルク及び/又は窒化ホウ素からなる無機粒子(特許文献1参照)、アミド化合物(特許文献2参照)、ソルビトール誘導体(特許文献3参照。)、リン酸エステル金属塩及び塩基性無機アルミニウム化合物(特許文献4参照)、メラミン化合物(特許文献5参照)等の結晶核剤技術やポリL乳酸とポリD乳酸で形成されるステレオコンプレックスポリ乳酸技術(特許文献6、7、8参照)、ポリ乳酸にアミドを導入する技術(特許文献9、10、11参照)などが知られている。これらの方法は、確かに結晶化速度を速くし結晶化度を高めることに効果はあるが、未だ十分でなく更なるポリ乳酸樹脂の結晶化促進技術の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開平08−03432号公報
【特許文献2】特開平10−087975号公報
【特許文献3】特開平10−158369号公報
【特許文献4】特開2003−192883号公報
【特許文献5】特開2005−272679号公報
【特許文献6】特開平08−311199号公報
【特許文献7】特開2005−255806号公報
【特許文献8】特開2005−281331号公報
【特許文献9】特開2004−285121号公報
【特許文献10】特開平11−302374号公報
【特許文献11】特開平11−302374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を大幅に促進すると共に良好な機械的強度を有するポリ乳酸樹脂及びその製造法、該ポリ乳酸アイオノマー樹脂を利用した樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
アイオノマーとは高分子主鎖に側鎖として部分的にカルボン酸又はスルホン酸などの金属塩またはアンモニウム塩のイオン基を少量含んだイオン性高分子を言う。イオン基部はミクロ相分離を起こし、イオン会合体を形成する。イオン会合体は温度によりその会合度合いが変化する。高温ではイオン会合体は緩く、低温になるにつれ強固な会合体を作る。強固なイオン会合体相は架橋点として作用するため、アイオノマーはホスト高分子の性質を維持しながら優れた機械的強度や接着性、透明性などの材料物性を付与することが知られている。ポリ乳酸樹脂の主鎖中にイオン基を導入できれば、イオン会合体が形成され、結晶化速度の促進が期待される。
【0007】
本発明者は先にポリエステル樹脂の主鎖にエステルーアミド置換反応によりアミド結合を導入する手法を開発した。本ポリエステルーアミド置換反応を利用して、ポリ乳酸樹脂1モル(繰返し単位で計算)に対して、アミノ酸化合物0.0001〜0.05モル(エステルーアミノ置換反応)、アミノ酸化合物1モルに対して脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物0.01〜1モル(中和反応)を配合、熔融混錬することにより結晶化速度の優れた下記一般式(1)で表されるポリ乳酸アイオノマー樹脂を得た。
【0008】
【化1】

【0009】

(式中、Xは水素又は炭素数1〜30の脂肪族又は芳香族の1−アシル基、Aは炭素数1〜6のアミノ酸残基、Meは長周期周期律表第1〜13族且第2〜4周期に属する金属元素、nは100〜3000、mは1〜4の整数である。)
そして、該ポリ乳酸アイオノマー樹脂にタルク等の公知の結晶核剤を配合することに更に優れた結晶化速度を有するポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物を得ることができることを発見した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂とアミノ酸、脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩を配合、熔融混錬することにより優れた結晶化速度と機械的強度を有するポリ乳酸アイオノマー樹脂を製造することが出来る。該ポリ乳酸アイオノマー樹脂にタルク等の公知の結晶核剤配合すれば更に優れた結晶化速度を有するポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂は、下記一般式(1)で示される。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Xは水素又は炭素数1〜30の脂肪族又は芳香族の1−アシル基、Aは炭素数1〜6のアミノアミノ酸残基、Meは長周期周期律表第1〜13族且第2〜4周期に属する金属元素、nは100〜3000、mは1〜4の整数である。)
【0014】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂は、ポリ乳酸の重合法としての公知のラクチド法又は乳酸の直接脱水縮合法においアミノ酸金属塩を必要量共存させるか、又は、先ず、アミノ酸を共存させ、しかる後にアミノ酸のカルボン酸を脂肪族又は芳香族カルボン酸金属化合物と中和反応させることで製造することができるが、ポリエステルーアミド置換反応を利用して下記に記載するポリ乳酸樹脂、アミノ酸化合物、脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物を同時に配合、熔融混錬することで好都合に得ることができる。
【0015】
即ち、本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂を得るために使用されるポリ乳酸樹脂とは、特に限定されるものではないが、例えばラクチドを開環重合させたものや、乳酸のL体、D体、ラセミ体などを直接重縮合させたもの、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックス体などで、数平均分子量が10,000から500,000程度のものを言う。又、乳酸以外のヒドロキシカルボン酸化合物を50モル%未満含む共重合体でもよい。共重合体はランダム、ブロック、グラフトのいずれであってもよい。又、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂、汎用樹脂、汎用エンプラとのブレンドポリマーであってもよい。
【0016】
次に、本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂を得るために使用されるアミノ酸化合物とは、分子内にアミノ基とカルボキシル基を各1個づつ持つアミノカルボン酸化合物をいう。それらの具体例は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、メチオニン、トリフトファン、チロシン、フロリン、シスチンなどのα―アミノ酸やアミノ安息香酸などである。中でも、グリシン、アラニン、バリン、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸が好ましい。
【0017】
これらアミノ酸化合物は、1種又は2種以上のものを混合して使用することも出来る。アミノ酸化合物の配合量は、ポリ乳酸1モル(繰返し単位で計算)に対して、0.0001〜0.05モル、好ましくは0.0003〜0.03モルである。アミノ酸化合物の配合量が0.0001モル未満では本ポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその組成物の結晶化速度が促進されない、一方、0.05モル以上では該樹脂及びその組成物の機械的強度が低下する。
【0018】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂を得るために使用される脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物とは、炭素数2〜30の脂肪族又は芳香族カルボン酸イオンと長周期周期律表第1〜13族且第2〜4周期に属する金属イオンが中和して生じた塩化合物である。
【0019】
その具体例は、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸亜鉛、酢酸クロム、酢酸コバルト、酢酸すず、酢酸鉄、酢酸パラジウム、酢酸ビスマス、酢酸マンガン、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸亜鉛、カプリル酸ナトリウム、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸ニッケル、コハク酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸亜鉛などである。中でも、酢酸ナトリウム、酢酸亜鉛、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸亜鉛、カプリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、安息香酸亜鉛などの脂肪族又は芳香族カルボン酸のナトリウム塩や亜鉛塩が好ましい。これら脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物は、1種又は2種以上のものを混合して使用することも出来る。
【0020】
脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物の配合量は、アミノ酸化合物1モルに対して0.01〜1モル、好ましくは0.02〜1モルである。脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物の配合量が、アミノ酸化合物に対して0.01モル未満では本ポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその樹脂組成物の結晶化速度が促進されない、一方、1モル以上では該樹脂及びその樹脂組成物の機械的強度が低下する。
【0021】
次に、本発明の結晶核剤とは、タルク又は層状粘度鉱物、アミド基を有する低分子化合物である。タルクは耐熱性に優れ化学的に安定な鉱物のため、好ましく用いることができる。タルクの組成は特に限定されないが、ポリ乳酸樹脂中にできるだけ均一に分散させるために、その平均粒径は小さいほど好ましい。具体的には、平均粒径が30μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、7.0μm以下であることが特に好ましい。また、タルクは、ポリ乳酸樹脂との接着性を向上させるために表面処理を施していてもよい。タルクの含有量は、ポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物全体を基準として、0.1〜40質量%であることが好ましく、0.2〜30質量%であることがより好ましい。タルクの含有量が0.1質量%未満では本ポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物の結晶化速度の向上が不十分である、一方、40質量%以上では該樹脂組成物成形体の強度が低下する。
【0022】
層状粘土鉱物とは、具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト族、カオリナイト、ハロサイト等のカオリナイト族、ジオクタヘドラルバーミキュライト、トリオクタヘドラルバーミキュライト等のバーミキュライト族、テニオライト、テトラシリシックマイカ、マスコバイト、イライト、セリサイト、フロゴバイト、バイオタイト等のマイカ等が挙げられる。これらの層状粘土鉱物は、天然鉱物であってもよく、水熱合成、溶融法、固相法等による合成鉱物であってもよい。層状粘土鉱物としては、有機化されたものを用いることがより好ましい。ここで、有機化とは、有機物を層状粘土鉱物の層間及び/又は表面に物理的、化学的方法(好ましくは化学的方法)により吸着及び/又は結合させることを意味する。このような有機化には、有機オニウム塩が用いられる。この有機オニウム塩は、層状粘土鉱物を有機化してその層間距離を広げるものであり、これによりポリ乳酸樹脂組成物中での分散均一性を高めることができる。本発明では、上記の層状粘土鉱物のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。層状粘土鉱物の配合量は、ポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物全量に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜3質量部である。0.01質量部未満では本ポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物の結晶化速度の促進効果が少なく、10質量部以上では該樹脂組成物の機械的強度が低下する。
【0023】
アミド基を有する低分子化合物とは、脂肪族モノカルボン酸アミド、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド、脂肪族ビスカルボン酸アミド、N−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド、N−置換尿素類などの脂肪族カルボン酸アミドや、芳香族カルボン酸アミド、あるいはこれらの化合物が水酸基でさらに置換されたヒドロキシアミドなどが挙げられる。これらの化合物が有するアミド基は1個でもよいし、2個以上でもよい。これらの中でも、ビスアミドは結晶化速度をより向上させることができる点で好ましく、また、ヒドロキシアミドはポリ乳酸中での安定性に優れ、耐熱性をさらに高めることができる点で好ましい。ビスヒドロキシアミドは、ビスアミド及びヒドロキシアミドを用いた場合に得られるそれぞれの効果を同時に得ることができる点で特に好ましい。
【0024】
アミド基を有する低分子化合物の具体例は、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、乳酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド、N−ブチル−N’−ステアリル尿素、N−プロピル−N’−ステアリル尿素、N−ステアリル−N’−ステアリル尿素、N−フェニル−N’−ステアリル尿素、キシレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素などを例示することができる。これらの中でも、乳酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド及びポリオキシエチレンオレイン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0025】
アミド基を有する低分子化合物の分子量は、好ましくは1,000以下であり、より好ましくは100〜900である。分子量が1,000を超えると、ポリ乳酸との相溶性が低下して、分散性が低下したり成形体からブリードアウトしたりする傾向にある。アミド基を有する低分子化合物の融点は、好ましくは20〜230℃である。この融点が20℃未満であると低分子化合物が成形体からブリードアウトして成形体の外観が損なわれる傾向にあり、230℃を超えると成形の際に溶融させにくいため、成形性が低下する傾向にある。アミド基を有する低分子化合物の含有量は、ポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物全量に対して、0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜8質量%である。アミド基を有する低分子化合物の含有量がポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物全量に対して0.1質量%未満であると該組成物の結晶化速度の向上が不十分である、又10質量%以上では可塑剤的作用が発現し該樹脂組成物の強度が低下する。
【0026】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその組成物は、ポリ乳酸樹脂とアミノ酸化合物、脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物及び結晶核剤の各々必要量をドライブレンドして、公知の方法で熔融混錬することにより容易に得ることが出来る。例えば、ポリ乳酸樹脂とアミノ酸化合物、脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物及び結晶核剤をそれぞれ各種ミキサーでドライブレンドし、単軸或いは2軸押出機などを用いて熔融混錬すれば良い。熔融混錬は通常150℃〜220℃程度の温度で行なわれる。各成分を高濃度で含有するマスターバッチを生成し、これをポリ乳酸樹脂に添加することも可能である。また、ポリ乳酸樹脂の重合段階で、アミノ酸化合物、脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物、及び結晶核剤を添加することも可能である。
【0027】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂が、高結晶化速度と良好な機械的強度を併せ有する理由は定かでないが、(1)アミノ酸のアミノ基がポリ乳酸のエステル基を攻撃してアミド化(ポリエステル―アミド置換反応)して、ポリ乳酸の末端にアミノ酸が反応する。(2)アミノ酸の他方にあるカルボン酸基が脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩と中和反応する。結果として、(3)ポリ乳酸の末端にイオンクラスター(アイオノマー構造)が形成されることにより高結晶化と高機械的強度が発現したものと推定される。
【0028】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその組成物は、公知の各種無機充填剤を含むことができる。無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタンなどが挙げられる。これら無機充填剤は1種又は2種以上のものを混合して使用することができる。そして、ポリ乳酸アイオノマー樹脂又はその組成物100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
【0029】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその組成物は、公知の各種難燃剤を使用することができる。難燃剤としては、例えば、臭素系や塩素系などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、シリコーン系化合物などの無機系難燃剤、赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フオスファーゼンなどのリン系難燃剤、窒素系難燃剤、PTFEなどのフッ素系難燃剤などが挙げられる。これら難燃剤は1種又は2種以上のものを混合して使用することができる。これら難燃剤は、ポリ乳酸アイオノマー樹脂又はその樹脂組成物100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
【0030】
又、上記無機充填剤、難燃剤以外に、各種熱安定剤、光安定剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離形剤、滑剤、可塑剤、相溶剤、発泡剤、香料、坑菌坑カビ剤、シラン系、チタン系、アルミニウム系のカップリング剤、その他の各種充填剤、一般的な合成樹脂の製造時に通常使用される各種添加剤を併用することができる。
【0031】
本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその組成物は、通常の射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、圧縮成形などの各種成形法により各種の成形品に容易に成形される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。尚、試験片の作製、引張強度の測定、結晶化速度の測定は以下の方法で行なった。
【0033】
引張試験片の作製と引張強度測定:実施例及び比較例で得られたポリ乳酸アイオノマー樹脂及びその組成物のペレットを100℃10時間熱風乾燥機で乾燥した。次に、該乾燥ペレットを東芝機械社製55トン射出成形機を用いてシリンダー温度190℃、金型温度100℃で引張試験片(JIS−1号ダンベル、厚さ2mm)を成形した。該試験片を用いてJISK7113に準じ引張強度を測定した。
【0034】
結晶化速度測定用サンプルパンの調整:各サンプル10mg前後をDSC測定用アルミニウムパンに精秤、アルミニウム製蓋を被せ200℃のヒートステージ上で1分間加熱加圧熔融した。次に、100℃に設定されたヒートステージ上に移し1分間急冷した後20℃の水表面に移してDSC測定用サンプルパンを調整した。
【0035】
結晶化速度の測定:上記DSC測定用アルミニウムパンをDSC6000(セイコーインストルメンツ社製)にセット、窒素ガス下、20℃/分で昇温しつつ、再結晶化温度(Tcc,ピーク位置)と再結晶化発熱量(△Hcc)及び融点(Tm,ピーク位置)と結晶融解吸熱量(△Hm)を求めた。次に、200℃で1分間保持後、20℃/分で降温、結晶化開始温度(Tc,ピーク位置)と結晶化発熱量(△Hc)を求めた。Tcc、△Hccが低くて少なく、Tm、Tcが高く、△Hm、△Hcが多いほど結晶化速度が優れていると判断される。
【0036】
実施例1〜10、比較例1〜4:ポリ乳酸樹脂としてレイシアH400(三井化学社製)、アミノ酸化合物としてグリシン、アラニン、p−アミノ安息香酸(和光純薬社製)、脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物として酢酸ナトリウム、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛(和光純薬社製)、結晶核剤としてマイクロエースP−6(日本タルク社製、タルク)、ハイクリーンSX(日本化成社製、キシリレンビスステアリル尿素)を表1に示す配合でドライブレンド、2軸押出機ZE40A(ベルストルフ社製、L/D=38,3ベント)を用いてバレル設定温度190℃で熔融混錬、冷却してペレットとした。得られたペッレトの結晶化速度と射出成形品の引張強度を上記方法で測定した。
結果を表1に纏めた。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から明らかな如く、本発明のポリ乳酸アイオノマー樹脂とその組成物は対応する未変性のポリ乳酸樹脂及びその組成物に比べ優れた結晶化速度と引張強度を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるポリ乳酸アイオノマー樹脂。
【化1】

(式中、Xは水素又は炭素数1〜30の脂肪族又は芳香族の1−アシル基、Aは炭素数1〜6のアミノ酸残基、Meは長周期周期律表第1〜13族且第2〜4周期に属する金属元素、nは100〜3000、mは1〜4の整数である。)
【請求項2】
請求項1記載のポリ乳酸アイオノマー樹脂を、ポリ乳酸樹脂1モル(繰返し単位で計算)に対して、アミノ酸化合物0.0001〜0.05モル、アミノ酸化合物1モルに対して脂肪族又は芳香族カルボン酸金属塩化合物0.01〜1モルを熔融混錬することを特徴とするポリ乳酸アイオノマー樹脂の製造法。
【請求項3】
請求項1記載のポリ乳酸アイオノマー樹脂100質量部に対して、結晶核剤0.1〜40質量部を配合したポリ乳酸アイオノマー樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−63512(P2008−63512A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245044(P2006−245044)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(596046509)エムアンドエス研究開発株式会社 (9)
【Fターム(参考)】