説明

ポリ乳酸樹脂組成物および成形品

【課題】 時間が経過しても非常に高い柔軟性と透明性、かつ強度を保持している生分解性ポリ乳酸樹脂組成物および該組成物からなる成形品を提供すること。
【解決手段】 結晶性ポリ乳酸、非結晶性ポリ乳酸および可塑剤から本質的になり、非結晶性ポリ乳酸が、結晶性ポリ乳酸と非結晶性ポリ乳酸との合計量の5〜33質量%、可塑剤が組成物全量の30質量%以下の割合で含まれる、ポリ乳酸樹脂組成物および該組成物からなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリ乳酸樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、トウモロコシやサツマイモなどの植物資源を原料として、微生物による乳酸発酵を介して乳酸が作られ、その乳酸またはラクチドを重合することによって得られる。ポリ乳酸は生態環境下において加水分解や酵素分解されることにより、乳酸へと戻り、さらに二酸化炭素と水まで分解される環境循環型の生分解性高分子である。ポリ乳酸は、石油資源の枯渇化からもそれらに変わる代替材料として注目されており、また地球環境の保護と地球資源の有効利用という観点から研究も盛んに行われている。
【0003】
ポリ乳酸に関する研究は、1932年にCarothersによって乳酸から合成される高分子として開拓されて感心を集めた。当初は低分子量体のみしかえられなかったことから、その機械的特性は乏しく、実用化には遠いものとして考えられていた。1954年にDuPont社によって高分子量体の生産が開発された。1972年にはEthiconによって高強度を有した生分解性ファイバーとして、生体内において徐々に分解され吸収される生体吸収性縫合糸として、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体が報告された。これを境に医用材料として骨固定材や薬剤徐放担体としての応用が検討されている。
【0004】
ポリ乳酸は非常に優れた生体適合性と生分解性を有した高分子であるが、その製造にコストがかかり、その適用範囲は非常に制限されたものであった。ここ10年で生産技術が格段に進歩し、工業的に大量生産が可能となったことから、最近では、ポリ乳酸を安価で入手することができる。
【0005】
ポリ乳酸は、その透明性、強度等の特性を利用して、包装材やトレー、園芸用資材などの生活用品を含め種々の実用品が開発され市場に投入されている。
【0006】
ポリ乳酸は、本質的に、硬くて脆いので、この硬くて脆いポリ乳酸を改質するために、種々研究開発が行われている。
【0007】
例えば、特許文献1においては、結晶性のポリ乳酸100質量部に対し、非結晶性のポリ乳酸を50質量部以上含ませることにより、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れたシートを提供している。
【0008】
またポリ乳酸に可塑剤を添加することにより、ポリ乳酸の物性を改質、改良する技術もしられており、ポリ乳酸用可塑剤は種々検討されている(例えば特許文献2)。
【0009】
しかし、例えば、結晶性であるポリ乳酸に可塑剤を使用したフィルムの場合、成形初期は良好な透明性、柔軟性が見られるものの、室温付近で結晶化が進行してしまい、時間の経過にともない、その透明性および柔軟性の低下が起こる。また、非結晶性ポリ乳酸に可塑剤を添加した場合、室温以上での物性の温度依存性が強く、耐熱性に問題がある。
【特許文献1】特開2004−204128号公報
【特許文献2】特開2003−73532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、時間が経過しても非常に高い柔軟性と透明性、かつ強度を保持している生分解性ポリ乳酸樹脂組成物および該組成物からなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、少なくとも、結晶性ポリ乳酸、非結晶性ポリ乳酸および可塑剤を含有する組成物により達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
「結晶性ポリ乳酸」という用語における「結晶性」という用語は、適度な条件下で結晶化後、偏光顕微鏡等で結晶ドメインが観察されるものの意味で使用している。結晶性ポリ乳酸とは、D体乳酸の重合体(以下、「ポリD乳酸」という)またはL体乳酸の重合体(以下、「ポリL乳酸」という)を包含する意味で使用している。ポリD乳酸とポリL乳酸の混合物(100/0〜0/100:質量比)であってもよい。ポリD乳酸あるいはポリL乳酸はすでに公知の化合物であり、それ自体は、本質的に硬くて脆い性質を有している。本発明においては、上記「結晶性」という定義に当てはまる限り、ポリD乳酸の場合であれば、L乳酸モノマー単位、または脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸等の乳酸モノマーと共重合可能な他のモノマー単位を含んでいてもよい。ポリL乳酸の場合も同様である。本発明においてはそのような共重合体も結晶性ポリ乳酸に含まれる。
【0013】
本発明に使用できる結晶性ポリ乳酸は、適当な溶媒に溶解し、その溶液から溶媒を除去しポリ乳酸のフィルムが形成できる程度の分子量を有していれば特に限定されない。このような結晶性ポリ乳酸として、重量平均分子量(Mw)50,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜500,000の範囲で製造あるいは入手可能であり、目的とする用途あるいは成形品により、結晶性ポリ乳酸を適宜選定選択すればない。市販品としてはレイシアH−100(三井化学社製)、トヨタエコプラスチックU’s(トヨタ自動車社製)等が入手可能である。
なお、本発明で使用する重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、サイズ排除クロマトグラフにより測定された標準ポリスチレン換算値を使用している。以下同様である。
【0014】
「非結晶性ポリ乳酸」における「非結晶性」という用語は、適度な条件下で結晶化後、偏光顕微鏡等で結晶ドメインが観察されないものの意味で使用している。非結晶性ポリ乳酸とは、D体乳酸とL体乳酸の共重合体(以下、「ポリDL乳酸」という)であるという意味で使用している。D体とL体の比率は上記非結晶性が確保する限りどのような重合比率であってもよく、D乳酸:L乳酸の共重合比90:10〜10:90の範囲から適宜選択選定するようにすればよい。また共重合体の形態は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体等いずれであってもよい。本発明においては、上記「非結晶性」という定義に当てはまる限り、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸等の乳酸モノマーと共重合可能な他のモノマー単位を含んでいてもよい。本発明においてはそのような共重合体も非結晶性ポリ乳酸に含まれる。
【0015】
本発明に使用できる非結晶性ポリ乳酸は、重量平均分子量(Mw)50,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜500,000の範囲で製造あるいは入手可能であり、市販品としてはレイシアH−280(三井化学社製)等が入手可能である。
【0016】
非結晶性ポリ乳酸は、結晶性ポリ乳酸と非結晶ポリ乳酸との合計量の50質量%以下、好ましくは33質量%以下、より好ましくは30質量以下、さらに好ましくは少なくとも5質量%以上の量を使用するようにする。このように非結晶性ポリ乳酸を結晶性ポリ乳酸に添加することにより、下記する可塑剤との添加と相俟って、実用可能な強度と耐熱性を保持する程度に結晶化の進行を抑制し、柔軟性、透明性の経時での低下を低減させることができる。非結晶性ポリ乳酸の割合が多すぎても、添加量に見合うさらなる効果の向上が見られず、また強度および熱的耐性の低下、ブロッキングが生じ、少なすぎると本発明の効果を十分に享受できない恐れが生じる。
【0017】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を利用すると、結晶性ポリ乳酸の結晶の大きさ、結晶の分散性、結晶化度を制御することができ、その結果、強度と柔軟性の両立を図れ、かつ透明性を確保することができる。
【0018】
本発明で使用する可塑剤は樹脂に添加して柔軟性を付与する化合物であれば、特に制限はなく用いることができる。本発明の可塑剤としては、例えば、多塩基酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、多価アルコール系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、脂肪酸系可塑剤、スルホン酸系可塑剤などをあげることができる。好ましい可塑剤は、多価アルコール系可塑剤である。
【0019】
多塩基酸エステル系可塑剤の具体例としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジアミルフタレート、ジヘキシルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ブチルイソデシルフタレート、ブチルラウリルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−オクチルフタレート、ブチルココナットアルキルフタレート、椰子油の高圧還元による高級アルコールのフタレート、高級アルコールのフタレート、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物のフタレート、混合アルコールフタレート、直鎖アルコールフタレート、ジラウリルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、オクチルデシルフタレート、n−オクチル,n−デシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、エチルヘキシルデシルフタレート、ジノニルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジアリルフタレート、アルキルアリルフタレート、アルキルアリル変性フタレート、アルキル脂肪酸フタレート、n−アルキル脂肪酸フタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジブトキシエチルフタレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、変性フタレート等のフタル酸エステル;ジ−n−ブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジカプリルアジペート、ベンジル−n−ブチルアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ジブトキシエチルアジペート、ベンジルオクチルアジペート、高級アルコールのアジペート、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物のアジペート等のアジピン酸エステル;ジ−2(−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ−2−エチルヘキシル−4−チオアゼレート、ジ−n−ヘキシルアゼレート、ジイソブチルアゼレート等のアゼライン酸エステル。ジメチルセバケート、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソオクチルセバケート等のセバシン酸エステル;ジ−n−ブチルマレート、ジメチルマレート、ジエチルマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)マレート、ジノニルマレート等のマレイン酸エステル;ジブチルフマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フマレート等のフマル酸エステル。トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、n−オクチル,n−デシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、ジイソオクチルモノイソデシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル。トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−オクチル,n−デシルシトレート、アセチルトリ−(2−エチルヘキシル)シトレート等のクエン酸エステルなどがあげられる。
【0020】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルなどを挙げることができる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0021】
多価アルコール系可塑剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、トリメチレンプロパノール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコールやこれらの重合体、また、エチレンオキシド付加重合体、プロピレンオキシド付加重合体などのアルキレンオキシド付加重合体などをあげる事ができる。さらにこれらの多価アルコールの誘導体も好適に用いることが出来、例えば、トリエチレングリコールジ−(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、トリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビス−チオグリコレート、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、グリセリントリアセテート、グリセリントリブチレート、グリセリントリプロピオネート、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンモノリシノレートトリアセテート、グリセリンモノアセトモノモンタネート、ポリオキシエチレングリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、ポリグリセリンモノラウレートアセテートなどを挙げることができる。
【0022】
リン酸エステル系可塑剤の具体例としては、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニル−2−エチルヘキシル、リン酸トリキシリルおよびリン酸トリクレシルなどを挙げることができる。
【0023】
エポキシ系可塑剤の具体例としては、ブチルエポキシステアレート、エポキシモノエステル、オクチルエポキシステアレート、エポキシ化ブチルオレート、ジ−(2−エチルヘキシル)4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−カーボキシレート、エポキシ化半乾性油、エポキシ化トリグリセライド、エポキシブチルステアレート、エポキシオクチルステアレート、エポキシデシルステアレート、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、メチルエポキシヒドロステアレート、グリセリルトリ−(エポキシアセトキシステアレート)、イソオクチルエポキシステアレート、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0024】
脂肪酸系可塑剤の具体例としては、メチルオレート、ブチルオレート、メトキシエチルオレート、テトラヒドロフルフリルオレート、グリセリルモノオレート、ジエチレングリコールモノオレート、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレート、グリセリルトリ−(アセチルリシノレート)、アルキルアセチルリシノレート、n−ブチルステアレート、グリセリルモノステアレート、ジエチレングリコールジステアレート、安定化ペンタクロロメチルステアレート、塩素化メチルステアレート、塩素化アルキルステアレート、ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、トリエチレングリコールジペラルゴネート、ブチルセロソルブペラルゴネート、クロルヒドリンメチルエーテル構造を含む直鎖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0025】
スルホン酸系可塑剤の具体例としては、ベンゼンスルホンブチルアミド、o−トルエンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド、N−エチル−p−トルエンスルホンアミド、o−トルエンエチルスルホンアミド、p−トルエンエチルスルホンアミド、N−シクロヘキシル−p−トルエンスルホンアミド、フェノール及びクレゾールのアルキルスルホン酸エステル、スルホンアミド−ホルムアミド等が挙げられる。
【0026】
可塑剤は、組成物全量(固形分)の30質量%以下、好ましくは25質量%以下であり、少なくとも5質量%含有させるようにする。その含有量が、多すぎると可塑剤のブリーディング、強度及びフィルム成形能、透明性の低下などの問題があり、少なすぎると十分な柔軟性が得られないといった問題がある。
【0027】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、本発明の目的効果を損なわない限り、その他の添加剤、例えば紫外線等の光吸収剤、熱安定剤、染顔料、無機充填剤、結晶核剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤等、その他ポリ乳酸に相溶性があり所望の特性を有する物質を適宜選択して添加してもよい。
【0028】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、種々の形態、例えばフィルム、板状体、糸状体、ペレット、ボール(フレイク)にすることができ、最終成形体として、ラップ等の包装体、トレー、ボトル等の日用品等もちろん、現在使用されている非生分解性合成樹脂の代替樹脂成形品として種々適用することができる。成形方法は従来公知のいずれの成形方法、例えば加熱溶融法、溶媒法、スピンキャスト法、ディップコート等を採用することができる。それらの成形品は、柔軟で透明であり、かつ実用的強度、耐熱性を有し、しかもそれらの特性を長期間保持できる。
【0029】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を、例えばフィルムに成形した場合、そのフィルムの有する諸特性を以下に示す。なお、下記には、フィルムの物性値を例示しているが、フィルム以外の成形品も、それらの諸物性が反映されて、時間が経過しても非常に高い柔軟性と透明性、かつ強度を保持していることは言うまでもない。
【0030】
諸物性測定の対象の「フィルム」は、結晶性ポリ乳酸、非結晶性ポリ乳酸および可塑剤を含有し、非結晶性ポリ乳酸が、結晶性ポリ乳酸と非結晶性ポリ乳酸との合計量の30質量%以下の割合で含まれるポリ乳酸樹脂組成物を、100mg、溶媒(クロロホルム)10mlに室温で溶解させ、シャーレにキャスト後、室温で48時間乾燥させ、直径300mm x (厚さ)40μmに成形することにより形成した。
【0031】
結晶粒子(結晶化度、結晶子径、球晶)
(1)結晶化度(%):23%以下、3%以上、好ましくは7%以上、
大気環境下60℃、1時間処理後の結晶化度:42%以下、22%以上、好ましくは40%以上
結晶化度(crystalinity)(%)とは、試料全体に対する結晶質の割合を意味し、X線回折装置により測定した回折パターンから非晶質に起因するブロードなハロー及び結晶質に起因するシャープなピーク面積を算出し、結晶質と非晶質のピーク面積の和に対する結晶質の割合を示したものである。
【0032】
結晶化度は、本発明に於いて引っ張り強度と柔軟性に大きく影響し、その値が大きくなる程、引っ張り強度が増加するのに対し、柔軟性が低下する。一方、その値が小さすぎる場合には、実用に十分な強度、耐熱性が得られなくなる。
【0033】
(2)結晶子径
結晶子径(Å):110〜140
大気環境下60℃、1時間処理後の結晶化度:160〜190
結晶子(crystallite)とは、単結晶とみなせる最大の集まりを意味し、結晶子径(crystallite size)(Å)は、X線回折により得られた回折ピークから半価幅をScherrerの式(D=K・λ/βcosθ D:結晶子の大きさ λ:測定X線波長 β:半価幅 θ:回折線のブラッグ角 K:Scherrer定数)に代入することにより算出したものである。結晶子径は、本発明に於いて光透過性に影響し、その値が増加すると、透明性の低下を招く)。
【0034】
(3)球晶
最大球晶径:4〜10μm
球晶(spherulite)とは、単結晶の球状集合体で、最大球晶径(spherulite size)は、偏光顕微鏡観察により得られた画像をWinROOFで解析することにより測定し算出したものである。最大球晶径は、本発明に於いて透明性に大きく影響し、その値が大きくなる程、透明性は低下する。
【0035】
球晶径分布
直径1μm以下の球晶の個数割合が40%以上
球晶径分布は、偏光顕微鏡観察により得られた画像をWinroofで解析することにより測定し算出したものである。球晶径分布は、本発明に於いて透明性に大きく影響し、より小さい球晶の分布割合が多くなればなるほど、透明性は増す。
【0036】
引張強度、引張率
引張強度:90Mpa以上
切断時の伸張率:190%以上
【0037】
透明性(HAZE値(単位厚さ(μm)当たり))
HAZE値:0.45以下
大気環境下60℃、1時間処理後のHAZE値:0.45以下
【0038】
HAZEとは、試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から2.5°以上それた透過光の百分率を意味し、透明性を評価する目安となる値である。その値が大きいほどフィルムは不透明であり、反対にその値が小さいほどフィルムは透明である。
【0039】
[発明の効果]
柔軟で透明であり、かつ実用的強度、耐熱性を有し、しかもそれらの特性を長期間保持できる生分解性ポリ乳酸樹脂組成物および該組成物からなる成形品を提供した。
【実施例】
【0040】
[ポリ乳酸フィルムの作製]
本実施例では、結晶性ポリ乳酸として、
ポリL乳酸(PLLA)、
重量平均分子量(Mw):150000、
数平均分子量(Mn):74000、
Mw/Mn=2.1、
融点(mp):164℃、
[α]25=−150°、
溶融粘度(MFR):7.7(190℃、2.16kg)のものを用いた。
【0041】
また、非結晶性ポリ乳酸として、
ポリDL乳酸(PDLLA)、
重量平均分子量(Mw):220000、
数平均分子量(Mn):110000、
Mw/Mn=2.0、
融点(mp):なし
[α]25=−118°、
溶融粘度(MFR):2.5(190℃、2.16kg)を用いた。
【0042】
可塑剤としてジグリセロールテトラアセテート(DGTA)(リケマールPL−710;理研ビタミン社製)、C8,C10アセチル化モノグリセリド(8,10AMG)(リケマールPL−019;理研ビタミン社製の2種類、多価アルコール系化合物を用いた。
【0043】
PLLA、PDLLA、可塑剤(DGTA)をそれぞれクロロホルムに1g/dlの濃度で溶解させた。その溶液を使用し、PLLAとPDLLAの合計量に対してPDLLAが質量含有率で5、15、25、30%含まれるポリ乳酸フィルムを作製した。
【0044】
すべてのサンプルに対し可塑剤は、フィルム全量(固形分)の15質量%とした。
【0045】
フィルムは、PLLA、PDLLAおよび可塑剤を所定の割合で混合した溶液(10ml)をシャーレにキャスト後、室温で48時間乾燥させて得た。
【0046】
[結晶性]
得られたフィルムの結晶状態を、偏光顕微鏡(OLYMPUS BX51:OLYMPUS社製)を用いて観察した。
【0047】
非結晶性ポリ乳酸を添加していない可塑剤(DGTA)添加ポリ乳酸フィルムは、室温に置いて約1週間経過した後に、フィルム全体に渡って結晶が確認されたが、非結晶性ポリ乳酸を添加したフィルムにおいてはほとんど結晶の形成が観察されなかった。
【0048】
得られたフィルムを大気環境下60℃で1時間処理し、上記と同様に結晶状態を観察した。非結晶性ポリ乳酸を添加したフィルムは、このような熱処理をした後においても、結晶の形成が観察されなかった。
【0049】
[結晶粒子]
図5に、上記で得られたフィルムの偏光顕微鏡(OLYMPUS BX51:OLYMPUS社製)を示した。例えば、L:DL(100:0)の写真中、白点がポリ乳酸の球晶である。
PDLLAの割合が多くなるほど、ポリ乳酸の球晶の大きさが小さくなっているのがわかる。
下記表1に、結晶化度(%)、結晶子径(Å)、最大球晶径をまとめた。表2にフィルムを大気環境下60℃で1時間処理した後の結晶化度(%)、結晶子径(Å)をまとめた。表3に、球晶径分布を示した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
結晶化度(crystalinity)(%)は、X線回折装置(Rint 2000:Rigaku社製)により測定した値を示している。回折パターンから非晶質に起因するブロードなハロー及び結晶質に起因するシャープなピーク面積を算出し、結晶質と非晶質のピーク面積の和に対する結晶質の割合を示したものである。
X線回折測定は5゜<2θ<35゜の範囲で行い16.7゜、19゜の位置に現れるピークを結晶質由来のピークとして測定を行った。
【0054】
表1,2におけるフィルムの結晶化度をグラフで表したものが図6である。図6からPDLLAの添加量が増加するに従い、結晶化度が低下していることが明瞭にわかる。
【0055】
結晶子径(crystallite size)(Å)は、X線回折装置(Rint 2000:Rigaku社製)により得られた、回折ピークから半価幅をScherrerの式(D=K・λ/βcosθ D:結晶子の大きさ λ:測定X線波長(CuKα=1.54Å) β:半価幅 θ:回折線のブラッグ角 K:Scherrer定数(0.94))に代入することにより算出したものである。
【0056】
結晶子径は、本発明に於いて光透過性に影響し、その値が可塑剤やPDLLAの添加によって増加していないことから、透明性の低下を抑えていることが分かる。
【0057】
最大球晶径(spherulite size)は、偏光顕微鏡観察(OLYMPUS BX51:OLYMPUS社製)により得られた画像をWinROOFで解析することにより測定し算出したものである。
【0058】
表1における最大球晶径をグラフで表したものが図7である。図7からPDLLAの添加量を増加させる程、最大球晶径が減少するということが明瞭にわかる。
【0059】
球晶径分布は、偏光顕微鏡観察(OLYMPUS BX51:OLYMPUS社製)により得られた画像をWinROOFで解析することにより測定し算出したものである。PDLLAの添加量が増加するに従い、1μm以下の球晶の割合が増加していることが分かる。
【0060】
表3における球晶径分布をグラフで表したものが図8である。図8からPDLLAの添加量が増加するに従い、球晶のサイズが減少していることが明瞭にわかる。
【0061】
[引張強度、伸張率]
フィルムの引張強度、切断時の伸長率を、引張試験機(KYOWA)を用いて室温(20±2℃)にて行った。サンプルは、横幅30mm、縦7mmの中12mmを4mm幅とした厚さ50μmのダンベル状(図1参照)にカットしたものを使用した。結果を図2に示す。
図2から、本発明のポリ乳酸フィルムは、適度な引張強度を保持したままで伸張率が増加していることがわかる。
【0062】
フィルムを大気環境下60℃で1時間処理し、上記と同様に引張強度、切断時の伸長率を測定した。結果を図3に示す。
結晶性ポリ乳酸を添加していないフィルムにおいては、熱処理により完全に結晶化が進行し、非常に硬くて脆いフィルムに変化した。非結晶性ポリ乳酸を添加したフィルムにおいては、60℃で1時間処理したにもかかわらず、高い切断伸張率を保持した。
【0063】
[透明性]
PLLA、PDLLA、可塑剤(8,10AMG)をそれぞれクロロホルムに1g/dlの濃度で溶解させた。その溶液を使用し、PLLAとPDLLAの合計量に対してPDLLAが質量含有率で5、15、25%含まれるポリ乳酸フィルムを作製した。可塑剤はフィルム全量(固形分)の質量15%含有させた。
【0064】
上記で得られたフィルムおよび大気環境下60℃で1時間処理したフィルムの透明性を、JISK7136に従って測定した。その際使用した測定機器は、NDH2000(日本電色工業社製)である。結果を下記表4に示す。単位厚さ当たりのHAZE値(熱処理前後)のグラフを図4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
図4に示されているように、本発明のポリ乳酸フィルムは、単位厚さ(1μm−1)当たり0.4以下であり、また熱処理による透明性の変化も少なく、熱処理後であっても、0.45以下であり)、透明性に優れている。
【0067】
[耐熱性]
フィルム作製
PLLAとPDLLAの合計量に対して、PDLLAが5%、25%、30%含まれるようにPLLA、PDLLA、可塑剤(8,10AMG)、アンチブロッキング剤(エルカ酸アミド)をストレンドダイを備えた2軸押出機にて200℃で混練しコールドカットしてペレットを作製した。作製したペレットは80℃で5時間乾燥した。作製したペレットを用い、Tダイを備えた単軸押出機にて、加工温度200℃にて30μm厚のフィルムを成型した。得られたフィルムは幅2cm、縦10cmにカットした後、60℃、1時間熱処理を行った。また、比較サンプルとしてPLLA、可塑剤、アンチブロッキング剤よりなるフィルムおよび、PDLLA、可塑剤、アンチブロッキング剤よりなるフィルムを作製した。
【0068】
すべてのサンプルに対し可塑剤は、フィルム全量(固形分)の15質量%、アンチブロッキング剤は1.0質量%とした。作製したフィルムは20℃湿度50%の条件で保管した。
【0069】
測定温度に調整したオーブン中に、フィルム下部に10gの荷重をかかるようにして吊り下げ、1時間後フィルムが切断しているかを観察した。フィルムが切断していない場合は、測定温度を5℃上げて、新しいフィルムにて再度テストを行った。フィルムが切断した温度を耐熱温度とした。結果を図9に示した。本発明のフィルムは高い耐熱温度(120℃以上)を有していることがわかる。
【0070】
[経時物性変化]
フィルム作成1日後および4ヶ月後のフィルムの引張強度、引張弾性率、切断時の伸張率を引張り試験機にて室温にて測定した。また透明性(単位当たり)を測定した。結果を表5に示した。
【0071】
引張強度:成型直後(1日後)の引張強度を4ヶ月後においても90%以上維持(室温)。
切断時の伸張率:成型直後(1日後)の切断時の伸張率を4ヶ月後においても90%以上維持(室温)。
本発明のフィルムは成型直後の物性を4ヶ月後においても維持していた。
【0072】
なお、引張弾性率は、フィルムの柔軟性の目安であり、その値が大きいほどフィルムは硬くなり、逆に、その値が小さいほどフィルムは柔軟である。
【0073】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】引張試験用サンプルの模式的形状。
【図2】ポリ乳酸フィルム(熱処理無)の引張強度および引張時の伸張率を示すグラフ。
【図3】ポリ乳酸フィルム(熱処理有)の引張強度および引張時の伸張率を示すグラフ。
【図4】ポリ乳酸フィルムの単位厚さ当たりのHAZE値(熱処理前後)を示すグラフ。
【図5】ポリ乳酸フィルムの偏光顕微鏡写真。
【図6】ポリ乳酸フィルムの結晶化度を示すグラフ。
【図7】ポリ乳酸フィルムの最大球晶径を示すグラフ。
【図8】ポリ乳酸フィルムの球晶径分布を示すグラフ。
【図9】ポリ乳酸フィルムの耐熱温度を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリ乳酸、非結晶性ポリ乳酸および可塑剤から本質的になり、非結晶性ポリ乳酸が、結晶性ポリ乳酸と非結晶性ポリ乳酸との合計量の5〜33質量%、可塑剤が組成物全量の30質量%以下の割合で含まれる、ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
結晶性ポリ乳酸が、ポリL乳酸である請求項1に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
非結晶性ポリ乳酸が、ポリDL乳酸である請求項1または請求項2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
可塑剤が、多塩基酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、多価アルコール系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、脂肪酸系可塑剤およびスルホン酸系可塑剤からなるグループから選択される少なくとも1種である、請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
可塑剤が、多価アルコール系可塑剤である、請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【請求項8】
球晶径分布において直径1μm以下の球晶の個数割合が40%以上、最大球晶サイズが15μm以下であり、かつ該フィルムを60℃で1時間処理後の単位厚さ当たりのHAZE値が、0.45以下の値を有することを特徴とする、請求項8に記載のフィルム。
【請求項9】
結晶性ポリ乳酸、非結晶性ポリ乳酸および可塑剤から本質的になり、非結晶性ポリ乳酸が、結晶性ポリ乳酸と非結晶性ポリ乳酸との合計量の5〜33質量%以下、可塑剤が組成物全量の30質量%以下の割合で含まれる、ポリ乳酸樹脂組成物であって、該組成物をフィルムにしたときに、球晶径分布において直径1μm以下の球晶の個数割合が40%以上、最大球晶サイズが15μm以下であり、かつ該フィルムを60℃で1時間処理後の単位厚さ当たりのHAZE値が、0.45以下の値を有することを特徴とする、ポリ乳酸樹脂組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−2243(P2007−2243A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146833(P2006−146833)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】