説明

ポリ乳酸発泡体およびその製造方法

【課題】発泡時のガス保持性に優れ、表面性の良好な高発泡倍率のポリ乳酸発泡体を、ゲル化物などの発生により操業性を低下させることなく製造することにある。
【解決手段】ポリ乳酸80〜99重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ1〜20重量%からなるポリ乳酸樹脂組成物を発泡させてなることを特徴とするポリ乳酸発泡体、および該ポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対し、揮発性発泡剤を1〜10重量部注入して発泡させることを特徴とするポリ乳酸発泡体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性の良好な高発泡倍率の発泡体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリオレフィン系樹脂発泡体、ポリウレタン系樹脂発泡体などの樹脂発泡体が軽量性、断熱性、成形性、緩衝性などに優れていることから、広く工業的に用いられてきた。
【0003】
しかしながら、これらの樹脂発泡体は、軽量ではあるものの、廃棄する場合には嵩張り、再利用が困難であった。また、これらの樹脂発泡体は、土中に埋没しても半永久的に残存し、焼却あるいは埋め立てによるゴミ廃棄場所の確保などで地球環境を汚染し、自然の景観を損なう場合も少なくなかった。
【0004】
このため、自然環境中で微生物などにより分解される生分解性樹脂を用いた発泡体の検討が実施されている。これらの生分解性樹脂の中でも、とりわけポリ乳酸については、主原料となる乳酸がコーンスターチやコーンシロップなどを発酵させることで製造できるため、植物由来のクリーンな生分解性樹脂として注目を浴び、その活用のための研究が盛んに行われている。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸は、重縮合時に発生する水などのために高分子量化することが難しく、発泡体を作成するために必要な溶融粘度を樹脂に付与することが困難であった。
【0006】
これを解決する方法として、例えば、α−および/またはβ−ヒドロキシカルボン酸単位を50モル%以上含有する生分解性ポリエステル樹脂100質量部と、(メタ)アクリル酸エステル化合物0.01〜20質量部とからなることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、有機過酸化物を分解させる温度条件では、ポリ乳酸の架橋による伸長粘度の上昇も起こりうるが、3級炭素を有するポリ乳酸ではラジカルによる分解も競合して起こるため、本発明者らが検討したところ、到達させる粘度の調整が非常に困難であり、連続生産性に劣り、かつ着色しやすい結果であった。
【0007】
また、高分子量の脂肪族ポリエステルに特定量のジイソシアネートまたはポリイソシアネートを反応させ、実用に耐えうる高分子領域まで分子量を高める方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法では再溶融時に粘度の低下が起こりやすいほか、操業時の安全性に問題がある。
【0008】
また、粒子径10μm以下のポリテトラフルオロエチレン粒子と有機重合体とを含有するポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体を有する生分解性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、本発明者らが検討したところ、ポリ乳酸は溶融粘度が低いために、ポリテトラフルオロエチレン粒子が均一に分散せず、そのため吐出ムラなどが発生し、安定して発泡体を作成することができなかった。
【0009】
また、重量平均分子量5万〜50万のポリ(メタ)アクリレート30〜90重量部と、重量平均分子量1000〜50万のα−ヒドロキシカルボン酸重合体70〜10重量部からなる加水分解性に優れた樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量が50万を超えると成形時の流動性が低下する可能性があるとされており、ポリ乳酸に対して分子量100万以上の高分子量ポリマを添加した発泡体については何ら提案されていない。
【0010】
また、通常の押出成形においては、重量平均分子量が100万以上の分子量の大きいポリマを使用すると押出機に対する負荷が高くなったり、口金出口部で樹脂が詰まったり、ベントアップなどが発生し易いといった様々な問題点があり、高分子量ポリマは優れた機能を有しているものの、その使用方法や添加量が制限されているのが現状である。またこのような溶融粘度の高い高分子量ポリマを、ポリ乳酸のような溶融粘度の低いポリマに添加しても均一に相溶しないために高分子量ポリマが異常滞留し易く、単にポリ乳酸に高分子量ポリマを添加するだけでは十分な効果が得られなかった。
【特許文献1】特開2003−128901号公報
【特許文献2】特開平04−189822号公報
【特許文献3】特開2002−129042号公報
【特許文献4】特開平08−059949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決しようとするものであり、発泡時のガス保持性に優れ、表面性の良好な高発泡倍率のポリ乳酸発泡体、および該ポリ乳酸発泡体を、ゲル化物などの発生により操業性を低下させることなく製造することができるポリ乳酸発泡体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の高分子量ポリマを特定量添加することによりこれを解決できることを見出した。また、発泡剤として二酸化炭素や窒素などの揮発性発泡剤を使用し、押出機内で超臨界状態となるように条件調整することで、高分子量ポリマを十分可塑化し、押出性を向上させることができることを見出した。
【0013】
このような超臨界流体によるポリマの可塑化効果については、近年様々な報告がなされているが、本発明者らは溶融粘度の低いポリ乳酸に、重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマを添加して発泡体を作成するに際して、超臨界流体の可塑化効果を利用することにより安定した発泡成形が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)ポリ乳酸80〜99重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ1〜20重量%からなるポリ乳酸樹脂組成物を発泡させてなることを特徴とするポリ乳酸発泡体。
【0015】
(2)前記高分子量ポリマが、アクリル系樹脂、エチレン系樹脂、およびスチレン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の高分子量ポリマであることを特徴とする前記(1)に記載のポリ乳酸発泡体。
【0016】
(3)前記ポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対し、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、およびオキサゾリン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を、0.1〜5重量部添加してなることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリ乳酸発泡体。
【0017】
(4)ポリ乳酸80〜99重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ1〜20重量%からなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対し、揮発性発泡剤を1〜10重量部注入して発泡させることを特徴とするポリ乳酸発泡体の製造方法。
【0018】
(5)前記揮発性発泡剤が、二酸化炭素および/または窒素であることを特徴とする前記(4)に記載のポリ乳酸発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、発泡時のガス保持性に優れ、表面性の良好な高発泡倍率のポリ乳酸発泡体を、ゲル化物などの発生により操業性を低下させることなく製造することができ、様々な用途に使用可能な発泡体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明で使用するポリ乳酸としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物、または(L−乳酸)と(D−乳酸)の共重合体、もしくは前記共重合体と前記混合物の両方を用いることができる。好ましくは光学異性体含有量が0%以上6%以下のポリ(L−乳酸)またはポリ(D−乳酸)、より好ましくは光学異性体含有量が0%以上4%以下のポリ(L−乳酸)またはポリ(D−乳酸)である。光学異性体含有量が多くなると、耐熱性が低下する傾向にあるため好ましくない。なお特開2003−20355号公報には、結晶性のポリ乳酸は融点近傍で急激に粘度が低下するため押出発泡させるには適していないとの記載があるが、本発明の方法によれば、結晶性、非晶性に関わらず良好な押出発泡体を作成することができる。
【0022】
このようなポリ乳酸は、従来より公知の方法、すなわち、乳酸から直接重合する方法、およびラクチドを開環重合させる方法、などにより合成されたものを用いることができる。ポリ乳酸の重量平均分子量については特に制限はないが、8万以上であることが好ましく、より好ましくは10万以上であり、特に好ましくは15万以上である。重量平均分子量が8万を下回る場合、得られた発泡体の強度が不十分となる場合があり好ましくない。また、ポリ乳酸の重量平均分子量は特に上限はないが、50万を超えるとなると製造が困難になり、経済的でなくなる可能性があるため、50万以下であることが好ましい。
【0023】
本発明で使用する高分子量ポリマは、重量平均分子量が100万以上のものである。本発明において高分子量ポリマは、ポリ乳酸の発泡に必要な粘度を付与する目的で用いる。そのため、高分子量ポリマの分子量が100万を下回ると、その添加効果が十分ではなく、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物を発泡した際にガス抜けが発生しやすくなり、表面性の良好な高発泡倍率のポリ乳酸発泡体が得られない。高分子量ポリマの重量平均分子量に上限は特にないが、分子量が1000万を超えると重合時のポリマの払い出しが困難になるなどの問題が発生することが考えられるため、1000万以下であることが好ましい。
【0024】
このような重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマとしては特に制限はないが、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、ナイロン系樹脂、カーボネート系樹脂などを用いることができる。これらの高分子量ポリマを、特定量ポリ乳酸に配合することにより、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなる樹脂組成物の伸長粘度を発泡に必要な適切な領域に調整することができる。これら重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマの中でも、ポリ乳酸との相溶性の点からアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂が最も好ましい。アクリル系樹脂を使用するとポリ乳酸との相溶性に優れることに加え、得られた発泡体表面に光沢が生じるため、表面性の頗る良好な発泡体を作成することができる。そのため、本発明の発泡体を食品などの容器やトレイなどに用いると光沢性に優れるため中身の商品の見栄えが良くなり、商品価値が向上するなどの利点があるために、重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマとしてはアクリル系樹脂が最も好ましい。
【0025】
本発明で使用する重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマとしてのアクリル系樹脂は、アクリル酸およびそのエステル、メタクリル酸およびそのエステルなどの単量体で構成されたものがよく、これら単量体1種のみの単独重合体、または2種以上の単量体の共重合体の何れでもよく、共重合体においてはブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、あるいはこれらの組み合わせによるいずれの共重合体であっても良い。このような(メタ)アクリル酸およびそのエステルの単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロオクチルエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチルおよび(メタ)アクリル酸トリシクロデシニルなどが挙げられる。また、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレンなどの置換スチレンなどの単量体を共重合させることもできる。
【0026】
これらの単量体を用いて分子量100万以上の高分子量アクリル系樹脂を合成する方法としては、例えば、特開平11−255812号公報、再公表特許WO2004/020518号公報などに開示されている手法を用いて重合することができる。これらアクリル系樹脂の中でも、本発明の重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマとしては、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸ブチルの共重合体が好ましく用いられる。
【0027】
本発明で使用する高分子量ポリマとしてのスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体で構成されたものでよく、これら単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレンなどの置換スチレンが挙げられ、これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。共重合体においてはブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、あるいはこれらの組み合わせによるいずれの共重合体であってもよい。また、これらスチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などの有機酸類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド類、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン類なども挙げることができる。これらの単量体を用いて分子量100万以上の高分子量スチレン系樹脂を合成する方法としては、例えば特開2005−178914号公報、特開2002−97206号公報などに開示されている手法を用いることができる。
【0028】
またポリ乳酸とスチレン系樹脂の相溶性は、ポリ乳酸とアクリル系樹脂の相溶性ほどは優れないため次の手段などを用いて相溶性を高める方法が好ましく用いられる。例えば、ポリ乳酸の酸末端と反応してブロック共重合体を形成するエポキシ変性スチレン−ブタジエン共重合体やその水素添加物などを、スチレン系樹脂と併せて使用すると、ポリ乳酸とスチレン系樹脂の相溶性が向上するため、好ましい態様の一つである。またその他に、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体およびその水素添加物、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体なども相溶化剤として用いることができる。
【0029】
本発明で使用する高分子量ポリマとしてのエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体であってもよいし、エチレンと共重合し得る他の単量体との共重合体であってもよい。共重合体においてはブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、あるいはこれらの組み合わせによるいずれの共重合体であってもよい。共重合に用いる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、1,2−ブタジエン、イソブチレン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族アルキルエステルあるいはこれらの混合物などが挙げられる。エチレンやこれらの単量体を用いて分子量100万以上の高分子量エチレン系樹脂を合成する方法としては、例えば、特開2005−070519号公報、再公表特許WO2003−022920号公報などに開示されている手法を用いることができる。
【0030】
また、ポリ乳酸とエチレン系樹脂の相溶性は、ポリ乳酸とアクリル系樹脂の相溶性ほどは優れないため、次の手段などを用いて相溶性を高める方法が好ましく用いられる。ポリ乳酸の酸末端と反応してブロック共重合体を形成するグリシジルメタクリレート変性ポリエチレンや、エチレンとグリシジルメタクリレートと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとグリシジルメタクリレートと(メタ)アクリル酸メチルの共重合体などを併せて使用すると、ポリ乳酸とエチレン系樹脂の相溶性が向上するために、好ましい態様の一つである。またその他に、エチレン−酢酸ビニル共重合体なども相溶化剤として用いることができる。
【0031】
さらに本発明の重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマとして、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂を用いる場合、必要に応じてアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂のそれぞれの製造段階において、多官能性単量体を使用し、分岐構造や架橋構造を導入させることは好ましい態様の一つである。重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ中に、分岐構造や架橋構造を導入することにより、ポリ乳酸との絡み合いが増大し、高発泡倍率の発泡体を作成するために必要な伸長粘度を付与しやすくなる。
【0032】
このような多官能性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレートなどのアクリレート系またはメタクリレート系化合物;トリメリット酸トリアリルエステル、ピロメリット酸トリアリルエステル、シュウ酸ジアリルなどのカルボン酸のアリルエステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのシアヌール酸またはイソシアヌール酸のアリルエステル;N−フェニルマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドなどのマレイミド系化合物;フタル酸ジプロパギル、マレイン酸ジプロパギルなどの2個以上の三重結合を有する化合物などが挙げられる。
【0033】
本発明で使用する高分子量ポリマの重量平均分子量は、ポリ乳酸の重量平均分子量に対して5〜20倍の範囲であることが好ましく、より好ましくは7〜18倍の範囲である。高分子量ポリマの重量平均分子量がポリ乳酸の5倍未満であると、高分子量ポリマの添加効果が不十分であり、顕著な増粘効果が得られなくなる。また、20倍を超える場合は、ポリ乳酸の分子量が小さすぎるか、または高分子量ポリマの分子量が大きすぎる場合であり、前者の場合は発泡時のガス抜けが多く、表面性の良好な発泡体が得られ難くなり、後者の場合は連続生産性や相溶性の点で好ましくない。
【0034】
本発明で使用するポリ乳酸と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂組成物100重量%に対してポリ乳酸が80〜99重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ1〜20重量%の構成であり、より好ましくはポリ乳酸が85〜98.5重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマが1.5〜15重量%である。本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、高分子量ポリマの重量比率が1重量%を下回る場合、その高分子量ポリマの添加効果が不十分であり、発泡体を作成するために必要な伸長粘度が得られ難くなる。また本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、高分子量ポリマの重量比率が、20重量%を超えると押出成形時の圧力が高くなりすぎたり、溶融粘度が高くなりすぎて運転条件に制約ができたり、押出機の中に異常滞留する可能性があるために好ましくない。
【0035】
本発明では、ポリ乳酸と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対して、ポリ乳酸の酸末端およびアルコール末端と反応するエポキシ化合物、カルボジイミド化合物、およびオキサゾリン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を、0.1〜5重量部添加することが好ましい態様の一つである。これらの化合物を添加することにより、ポリ乳酸の酸末端およびアルコール末端を封鎖することとなり、ポリ乳酸の加水分解に伴う分子量低下を防止できる他、多官能性のエポキシ化合物、カルボジイミド化合物、およびオキサゾリン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることで、ポリ乳酸に増粘効果を付与することができ、非常に好ましい。
【0036】
しかしながら、これらの化合物、特に多官能性化合物は、微量の添加でもポリ乳酸の部分的なゲル化を発生させやすいため添加には注意が必要である。これらの化合物は、その分子量および分子量当たりの官能基数にもよるが、ポリ乳酸と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対して、0.1〜5重量部の範囲であることが好ましく、特に好ましくは0.2〜1.0重量部の範囲である。ポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対して、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、およびオキサゾリン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物の添加量が0.1重量部を下回る場合、添加効果が不十分であるため好ましくなく、5重量部を超えるとゲル化を促進するため好ましくない。
【0037】
このように好ましく用いられるエポキシ化合物としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0038】
カルボジイミド化合物としては、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N'−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0039】
オキサゾリン化合物としては、2,2'−エチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−プロピレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−ブチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−m−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−ナフチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−P,P'−ジフェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、スチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体などが挙げられる。
【0040】
このようなエポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物は、ポリ乳酸の酸末端および/またはアルコール末端との反応性を持つ官能基を有する単量体以外のその他の単量体を含んでいても良い。このように酸末端および/またはアルコール末端との反応性を持つ官能基を有する単量体以外の単量体を含むことで、これらのエポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物をポリ乳酸に添加したときの増粘効果に優れ、その結果、高分子量ポリマを添加したときの増粘効果がより現れやすくなるため好ましい態様である。その理由は、酸末端および/またはアルコール末端との反応性を持つ官能基を有する単量体以外の単量体を、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物が構成単位として含むことで、1分子当たりの官能基数を維持しつつ、架橋点間の分子量を大きくすることが可能であり、このためゲル化することなく、ポリ乳酸に長鎖分岐を生じやすくしているものと考えられる。このような酸末端および/またはアルコール末端との反応性を持つ官能基を有する単量体以外の単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0041】
本発明のポリ乳酸発泡体は、本発明の目的を阻害しない範囲で、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、触媒失活剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核材などを添加することができる。
【0042】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが挙げられる。
【0043】
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤などが使用できるが、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミ、水酸化マグネシウム)、N含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物)などが挙げられる。
【0044】
触媒失活剤としては、アルキルホスフェートおよび/またはアルキルホスホネート化合物などが挙げられ、モノオクチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、モノエチルヘキシルホスフェート、ジエチルヘキシルホスフェート、モノステアリルホスフェート、ジステアリルホスフェートなどが挙げられる。
【0045】
無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、窒化ホウ素、グラファイトなどが挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、籾殻、フスマなどの天然に存在するポリマーやこれらの変性品などが挙げられる。
【0046】
無機結晶核材としては、タルク、カオリンなどが挙げられ、有機結晶核材としては、ソルビトール化合物、安息香酸およびその化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物などを必要に応じて添加することができる。
【0047】
また本発明のポリ乳酸発泡体は、本発明の目的を阻害しない範囲で、ポリ乳酸と高分子量ポリマ以外の樹脂を添加しても良い。これらの樹脂としては、特に生分解性を有するポリエステル樹脂であることが好ましいが、特に限定はされない。
【0048】
例えば、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、エナントラクトンや4−メチルカプロラクトン、2,2,4−トリメチルカプロラクトンなどの各種メチル化ラクトンの単独重合体または共重合体、およびそれらの混合物などのラクトン樹脂、以下に代表される脂肪族ポリエステル、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/カーボネートなどのジオールとジカルボン酸または該酸無水物などの誘導体を重縮合してなる脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート/サクシネート、ポリエチレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/アジペートなどの芳香族共重合ポリエステル、ポリヒドロキシブチレート・バリレートなどの天然直鎖状ポリエステル系樹脂、酢酸セルロース、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート、硝酸セルロース、硫酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、硝酸酢酸セルロースなどの生分解性セルロースエステルなど、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリロイシンなどのポリペプチドや、ポリビニルアルコールなど、澱粉として、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉などの生澱粉、酢酸エステル化澱粉、メチルエーテル化澱粉、アミロースなどの加工澱粉など、セルロース、カラギーナン、キチン・キトサン質などの天然高分子といった、生分解性を有する樹脂が挙げられる。また、上記生分解性を有する樹脂以外としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリブテン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどの樹脂を添加しても良い。
【0049】
本発明の発泡体の発泡倍率は、2〜50倍の範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜50倍、さらに好ましくは10〜40倍の範囲である。発泡倍率が2倍を下回ると強度は十分であるものの軽量性に劣るため好ましくなく、発泡倍率が50倍を超えると軽量性には優れるが強度が不十分であるため好ましくない。本発明においては、高分子量ポリマを添加することで高発泡倍率のポリ乳酸発泡体を作成することが容易となり、発泡倍率が50倍程度の高発泡倍率のものでも安定して作成することができる。
【0050】
本発明の発泡体の独立気泡率は70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上である。独立気泡率が70%を下回ると表面性が低下する可能性があり、断熱性や二次成形性が低下する可能性があるため好ましくない。なお、独立気泡率の上限は100%である。
【0051】
本発明の発泡体の平均気泡径は特に限定はされないが、20〜400μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜200μmの範囲である。また気泡径が100μmを下回ると頗る表面性が向上し、顔料等の特別な添加剤を入れずとも表面の白色度が向上するため、平均気泡径は30μm以上100μm未満が特に好ましい。気泡径は小さい方が表面が平滑になりやすく好ましいが、平均気泡径20μm未満の気泡径で、発泡倍率5倍以上の高発泡倍率の発泡体を作成することは困難であり、平均気泡径400μmを超えると発泡体の表面性が低下するため好ましくない。
【0052】
本発明の発泡体の熱伝導率は特に限定はされず、低い方が断熱性に優れるため好ましいが、他の物性との兼ね合いで決定される。熱伝導率は0.03〜0.05W/(m・K)の範囲であることが好ましい。0.05W/(m・K)を超えると発泡倍率が低いか、独立気泡率が低いために、緩衝性や断熱性が低下するため好ましくなく、0.03W/(m・K)を下回ると発泡倍率が高すぎて強度が不十分となる可能性があるため好ましくない。
【0053】
次に、本発明の製造方法について説明する。
【0054】
本発明のポリ乳酸発泡体の製造方法は、ポリ乳酸80〜99重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ1〜20重量%からなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対し、揮発性発泡剤を1〜10重量部注入して発泡させることを特徴とするポリ乳酸発泡体の製造方法であることが好ましい。
【0055】
本発明で使用する揮発性発泡剤としては、二酸化炭素、窒素、水、およびエタン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素、塩化メチル、モノクロルトリフルオロメタン、ジクロルフルオロメタン、ジクロルテトラフルオロメタンなどのハロゲン化炭化水素などが用いられる。これらの揮発性発泡剤は単独で用いても良いし、2種類上を組み合わせて用いても良い。これらの中でも二酸化炭素と窒素が安全性、環境負荷の面から最も好ましい。また二酸化炭素や窒素を超臨界状態として用いることで、重量平均分子量が100万以上の高分子量ポリマを均一に溶解し、ポリ乳酸との相溶性も向上し、かつ異常滞留や異常な圧力上昇などが見られず、押出発泡成形性が良好となる。
【0056】
ここで、超臨界状態について簡単に説明する。一般に物質は、温度や圧力などの変化により、気体・液体・固体の異なる三つの状態をとることができる。横軸に温度、縦軸に圧力をとって物質の状態図を考えると、固体と液体の境界が存在する限界は実験的に得られていないが、液体と気体の境界は臨界点が限界である。温度、圧力を上げていき、臨界点を超えると一相の流体となり、それ以上に加圧圧縮しても液体とならず、昇温しても気体にはならない。この状態を超臨界状態とよび、この状態の流体を超臨界流体という。
【0057】
超臨界流体の有する溶媒特性の一つとして、その溶解能力が挙げられる。二酸化炭素や窒素は超臨界状態が比較的得やすいことが知られており、例えば二酸化炭素は、臨界温度31.0℃、臨界圧力7.4MPa、窒素は、臨界温度−147.0℃、臨界圧力3.4MPaである。
【0058】
これらの揮発性発泡剤は、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対して、1〜10重量部の範囲で用いられる。ポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対して、揮発性発泡剤の添加量が1重量部を下回ると、得られる発泡体の発泡倍率が低くなりやすいため好ましくなく、10重量部を超えると発泡時のガス抜けが多くなりやすく、気泡が破泡しやすくなり表面性が劣る他、独立気泡率が低くなりやすくなるため好ましくない。
【0059】
本発明の発泡体は、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物に、ガスおよび/または超臨界流体を含浸させる工程と、脱ガスさせて樹脂を発泡させる工程とを有する製造方法が挙げられ、この2工程を備えていることが好ましく、他の条件は特に限定されないが、より好ましい例としては、密閉したオートクレーブ中にガスおよび/または超臨界流体を封入し、一定時間含浸させたのちオートクレーブの圧力を開放して発泡させる方法、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなる樹脂組成物を溶融押出機に投入し、シリンダーの途中からガスおよび/または超臨界流体を注入し、シリンダー内の圧力を利用してガスおよび/または超臨界流体を含浸させ、押出機のダイ出口において発泡させる方法などが挙げられる。これらの中でも高発泡倍率の発泡体を製造する場合においては、押出機などを用いて超臨界流体を含浸させダイから押し出し、発泡させる方法が連続生産性に優れている点から特に好ましい。
【0060】
押出機としては、単軸押出機、二軸押出機や、単軸押出機と単軸押出機、または二軸押出機と単軸押出機を組み合わせたタンデム型押出機などを用いることができる。これらの中でも、ポリ乳酸の場合はタンデム型押出機を用いることが最も好ましい。また、必要に応じて、押出機とダイの間にギヤポンプなどを設置してもよい。
【0061】
押出機やギヤポンプなどの先端に取り付けるダイとしては、Tダイやサーキュラーダイなどの公知のものを取り付けることができる。高発泡倍率のポリ乳酸発泡体を作成するためには、サーキュラーダイの方が表面性の良好な発泡体が得られるため好ましい。また、ダイから発泡させた発泡体は、Tダイの場合はロールなどで、サーキュラーダイの場合はマンドレルなどの公知の方法により冷却しながら表面性を整えることは好ましい態様の一つである。
【0062】
ポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物を押出発泡させる時の温度としては、使用するポリ乳酸および高分子量ポリマにより異なるが、一般的には、溶融させるために樹脂温度を160〜230℃とした後、120〜170℃の範囲に冷却し、粘度を調整して、発泡させることが好ましい。またダイの温度は上記冷却後の樹脂温度と樹脂温度より30℃程高い温度の間に設定することで、表面性の良好な発泡体が得られる。
【0063】
サーキュラーダイを用いた場合、発泡体の冷却に用いるマンドレルは、100℃以下に設定することが好ましい。温度が高すぎるとマンドレルに沿って発泡体を進行させようとした場合に抵抗が大きくなることがある。また、発泡体のマンドレルに接しない側の面を冷却するために、エアーや水などを吹き付けることは好ましい態様の一つである。このマンドレルとサーキュラーダイの口径の比率は、目的とする発泡倍率に応じて適時設定することができるが、一般的にはマンドレル外径/サーキュラーダイ口径の比は1.5〜5の範囲である。
【0064】
さらに、ダイ部分の圧力は発泡時の樹脂温度とダイのクリアランスにも依存するが、ダイ部分の圧力は二酸化炭素を用いる場合は10MPa以上、窒素を用いる場合は5MPa以上であることが好ましい。これらの圧力を下回ると二酸化炭素や窒素などの発泡剤とポリ乳酸が分離しやすくなり、安定して発泡体が得られ難くなる。好ましくは12MPa以上である。ダイ部分の圧力は高いほうが得られる発泡体の気泡径が細かくなりやすく、表面性が良好となりやすい。ダイ部分の圧力には特に上限はないが、50MPaを超えると製造設備の経費が高くなり好ましくなく、通常40MPa程度までとするのが好ましい。
【0065】
また、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物、とりわけポリ乳酸は押出機などでの溶融前に乾燥しておくことが好ましい。乾燥方法としては従来より公知のものを用いることができるが、ホッパードライヤーなどで連続的に除湿乾燥する方法、真空乾燥機で乾燥する方法などが好ましく用いられる。
【0066】
本発明のポリ乳酸発泡体は、軽量性、機械的物性、表面性に優れるため、例えば、生鮮食品用包装容器、菓子または食品用トレイ、パッキンなどの食品用途、コンテナー、コンテナーのあて材、通函、函の仕切り板、緩衝材などの包装・梱包用途、デスクマット、バインダー、カットファイル、カットボックスなどの文具、パーテーション用芯材、畳芯材、表示板、緩衝壁材、長尺屋根材、キャンプ時の敷板などの土木・建築用途、苗床、水耕栽培時の種苗基材ケースなどに、漁業網用浮き、釣り用浮き、オイルフェンス用浮きなどの農業資材・水産資材用途、パイプカバー、クーラーボックスなどの断熱用途、粘着テープ用基材、紙管巻芯などの産業資材用途などの幅広い用途に用いることができる。
【実施例】
【0067】
次に、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明する。なお、実施例における各種特性の評価は以下の方法および基準で行った。
【0068】
なお、重量平均分子量は以下の方法で測定を行った。東ソー(株)製HLC8121GPCを用いて測定し、標準ポリスチレンを用いて換算した。ただし、ポリ乳酸の場合はクロロホルムを溶離液とし、カラム温度を40℃として、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂の場合はテトラヒドロフランを溶離液とし、カラム温度を40℃として、ポリエチレン系樹脂の場合は1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とし、カラム温度を180℃として測定を行った。
【0069】
(1)発泡倍率の測定
浮力式比重測定装置(Electronic densimetor:型式「MD−300S」;MIRAGE社製)により発泡前の真比重と発泡体の見かけ比重を測定し、下記の式より算出した。
【0070】
発泡倍率=発泡前の真比重/発泡体の見かけ比重
(2)独立気泡率の測定
独立気泡率は以下の式により算出した。
独立気泡率(%)=100−連続気泡率(%)
連続気泡率(%)={(Va−Vx)/Va}×100
ここで、Vx(実容積)は空気比較式比重計(型式「1000型」;東京サイエンス株式社)により測定された発泡体の容積であり、Va(見かけの容積)は発泡体表面をテープでシールし、同様に測定された容積である。
【0071】
(3)熱伝導率の測定
熱伝導率はJISA1412−2に従い測定を行った。測定温度は25℃、測定装置はホロメトリックス社製Rapid−Kを使用した。
【0072】
(4)平均気泡径の測定
発泡体の平均気泡径は、発泡体を発泡体厚み方向に対して、長手方向に平行にカットし、その断面を走査型電子顕微鏡で観察(Hitachi−570)し、得られた画像を二値化処理し、円相当径を平均気泡径とした。
【0073】
(5)発泡体の表面性の評価
発泡体の表面性は以下の判断基準で判断した。
【0074】
表面性◎・・・発泡体の表面性が頗る良好で、白色度が高く、表面に気泡破れ、コルゲートなどが無い。
【0075】
表面性○・・・発泡体の表面性が良好で、表面に気泡破れ、コルゲートなどが無い。
【0076】
表面性△・・・発泡体の表面性は良好であるが、表面に気泡破れやコルゲートがある。
【0077】
表面性×・・・発泡体の表面性は悪く、表面に気泡破れやコルゲートがある。
【0078】
(6)発泡体の連続生産性
発泡体の製造を、2時間以上連続運転で行い、5秒毎に運転条件を記録した際、運転条件を固定しているにもかかわらずダイ部分の圧力変動が見られることがあり、発泡体の長手方向に厚みムラが発生しやすくなる。発泡体の2時間以上の連続生産において、ダイ部分の圧力の最大値と最小値の差で圧力変動有無を判断した。なお、圧力計はサーキュラーダイと押出機とを接続するフランジ部分に設置した。
【0079】
また、8時間以上連続運転を行った後に押出機を分解し、スクリューや単管部分にゲル化物などが付着しているかどうかを目視評価し、ゲル化物の付着の有無を目視判断した。
【0080】
連続生産性○・・・圧力変動が2MPa未満で、かつゲル化物の付着が無い。
【0081】
連続生産性△・・・圧力変動が2MPa以上であるか、もしくはゲル化物の付着がある。
【0082】
連続生産性×・・・圧力変動が2MPa以上であり、かつゲル化物の付着がある。
実施例1
重量平均分子量23万、融点155℃の結晶性ポリ乳酸(Nature Works製)95重量%と、重量平均分子量360万のアクリル系高分子量ポリマ(三菱レイヨン(株)製 P530A)5重量%とを均一に混合し、第一段押出機がL/D(スクリュー長さ(L)とシリンダー内径(D)の比率)=32、スクリュー径40mmφ、第二段押出機がL/D=34、スクリュー径50mmφのタンデム型押出機((株)日本製鋼所製)に連続的に投入し、第一段押出機のシリンダーの途中から、二酸化炭素をポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対して7重量部添加しながら、直径22mmφのサーキュラーダイから押し出し、直径80mmφのマンドレルで冷却しながら切開し、幅約220mmのシート状発泡体を作成した。
【0083】
第一段押出機の温度はシリンダー6ゾーンに対して、シリンダー1を150℃、シリンダー2〜6を200℃とし、第二段押出機の温度はシリンダー6ゾーンに対し、シリンダー1を100℃、シリンダー2を170℃に設定、シリンダー3からシリンダー6は125℃、ダイ温度を140℃とした。第二段押出機とダイとをつなぐフランジに温度計を設置し、樹脂温度を測定したところ、樹脂温度は133度、ダイ部分での圧力は18MPa、樹脂組成物の吐出量は19kg、発泡体の巻き取り速度は22m/minであった。
【0084】
得られた発泡体の厚さは2.3mm、発泡倍率は31倍であり、表面性が良好で連続生産性に優れるものであった。
実施例2〜10、比較例1〜5
実施例2〜5、7、8、および比較例1〜5は表1に示した原料組成とした以外は、実施例1と同様な条件で発泡体を作成した。結果とともに表1に示す。なお、ポリ乳酸と高分子量ポリマの合計が100重量%となるように、表1に従ってポリ乳酸と高分子量ポリマを添加した。さらに増粘剤やタルクなどのその他添加剤を添加する場合は、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対して、その他添加剤を表1に従って添加した。
【0085】
なお実施例6においては、高融点のポリ乳酸を用いたため、実施例1において第二段押出機のシリンダー3〜6を140℃、ダイ温度を150℃として、表1に示した原料組成とした以外は、実施例1と同様な条件で発泡体を作成した。
【0086】
さらに、実施例4,5,6,8,9,10において添加したその他添加剤である増粘剤及び/またはタルクは、ポリ乳酸と高分子量ポリマからなるポリ乳酸樹脂組成物と予め均一にドライブレンドしてから押出機に投入した。
【0087】
また、実施例9および10においては、相溶化剤としてグリシジルメタクリレート変性ポリエチレン(住友化学(株)製 ボンドファーストE)をポリ乳酸と重量平均分子量345万の高分子量ポリエチレン(旭化成ケミカルズ(株)製サンファインUH−900)からなる樹脂組成物100重量部に対して、2重量部添加した。ポリ乳酸、高分子量ポリマ、相溶化剤と、増粘剤またはタルクを予め均一にドライブレンドしてから押出機に投入した。
【0088】
表1に記載のA〜Eの高分子量ポリマは、A〜Dはそれぞれ重量平均分子量の異なるアクリル系樹脂、Eはエチレン系樹脂である。また添加剤として使用した増粘剤は、Fはエポキシ化合物、Gはカルボジイミド化合物であり、Hのタルクは核剤として使用した。
【0089】
実施例1〜10においては、表面性が良好で、発泡時のガス保持性に優れ、また発泡後の収縮も小さく、連続生産性に優れる高発泡倍率の発泡体を、安定して再現良く製造することができた。特に高分子量ポリマとしてアクリル系重合体を用いた、実施例1〜8は、発泡体表面の光沢に非常に優れており、トレーなどのディスプレー材として好適である。また、実施例4〜6、および8の増粘剤を併用した場合は気泡径も小さく、特に表面性が優れていた。
【0090】
比較例1では、高分子量ポリマを使用しなかったために発泡倍率が低く、表面性の悪いサンプルしか得られず、熱伝導率の測定には及ばなかった。
【0091】
比較例2および5では、増粘剤により発泡に必要な粘度を付与できているものの、連続生産性が悪く、特にゲル化物の生成がひどかった。
【0092】
比較例3では分子量が低いポリマを使用したため十分な粘度が得られず、逆に比較例4では高分子量ポリマの添加量が多すぎるため発泡体の表面に気泡破れが多く、吐出ムラによる発泡体の厚さ変動が大きかった。
【0093】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のポリ乳酸発泡体は、表面性に優れるため、例えば生鮮食品用包装容器、菓子または食品用トレイ、パッキンなどの食品用途、コンテナー、コンテナーのあて材、通函、函の仕切り板、緩衝材などの包装・梱包用途、デスクマット、バインダー、カットファイル、カットボックスなどの文具、パーテーション用芯材、畳芯材、表示板、緩衝壁材、長尺屋根材、キャンプ時の敷板などの土木・建築用途、苗床、水耕栽培時の種苗基材ケースなどに、漁業網用浮き、釣り用浮き、オイルフェンス用浮きなどの農業資材・水産資材用途、パイプカバー、クーラーボックスなどの断熱用途、粘着テープ用基材、紙管巻芯などの産業資材用途などの幅広い用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸80〜99重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ1〜20重量%からなるポリ乳酸樹脂組成物を、発泡させてなることを特徴とする、ポリ乳酸発泡体。
【請求項2】
前記高分子量ポリマが、アクリル系樹脂、エチレン系樹脂、およびスチレン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の高分子量ポリマであることを特徴とする、請求項1に記載のポリ乳酸発泡体。
【請求項3】
前記ポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対し、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、およびオキサゾリン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を、0.1〜5重量部添加してなることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリ乳酸発泡体。
【請求項4】
ポリ乳酸80〜99重量%と重量平均分子量100万以上の高分子量ポリマ1〜20重量%からなるポリ乳酸樹脂組成物100重量部に対し、揮発性発泡剤を1〜10重量部注入して発泡させることを特徴とする、ポリ乳酸発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記揮発性発泡剤が、二酸化炭素および/または窒素であることを特徴とする、請求項4に記載のポリ乳酸発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2008−231284(P2008−231284A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74242(P2007−74242)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】