説明

ポリ乳酸系共重合樹脂およびその製造方法

【課題】簡便な方法で広範囲に応用可能な、耐熱性の向上したポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ビスフェノール系化合物(A)成分とポリ乳酸(B)成分とを含有するポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法であって、数平均分子量10,000以下のビスフェノール系化合物(A)1〜50質量%と、ポリ乳酸の原料化合物(B´)99〜50質量%とを共重合することを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。ポリ乳酸の原料化合物(B´)がラクチドである上記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノール系化合物を含有するポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化に関連した京都議定書の発効や、炭酸ガス排出権取引が話題になるなど、地球温暖化に対する注目が高まり、炭酸ガスの排出に厳しい目が向けられるようになった。このような中、生分解性プラスチックの分野では、「カーボンニュートラル」という考え方が用いられるようになり、広まってきている。
「カーボンニュートラル」の考え方は以下のようなものである。生物自身が合成する、または生物が生産する物質から合成される生分解性プラスチックにおいては、これが生分解されて発生する炭酸ガスと水は、元は大気中の炭酸ガスと土壌にあった水であるから、ライフサイクル全体でとらえれば、地表に存在する炭酸ガスの量を増やさず、したがって地球温暖化を促進しない。
【0003】
生分解性プラスチックのなかでもポリ乳酸樹脂は、再生可能な植物資源(トウモロコシやサツマイモなど)が原料であり、機械的特性、価格の面からも最も普及が期待されている。環境面では、生分解することから廃棄物問題が生じず、カーボンニュートラルな性質から地球温暖化防止に大きく寄与し、さらに、石油資源に由来しないため、石油由来成分を用いた合成樹脂の代替品として石油資源の節約にも貢献できる。
【0004】
一方、ポリ乳酸樹脂の特性に目を向けると、ポリ乳酸樹脂と同じポリエステル系の合成樹脂として広く普及しているポリエチレンテレフタレート(PET)ではガラス転移温度(Tg)が約78℃であるのに対して、ポリ乳酸樹脂のTgは分子量や共重合組成にもよるが概ね60℃未満であり、耐熱性に劣っている。このため、ポリ乳酸樹脂を使用した製品は、トラックや船舶での輸送の際に室内の温度が上がると、融着したり変形したりするという問題があった。
【0005】
ポリ乳酸樹脂の耐熱性を向上する方法としては、結晶化速度を向上させる方法、ステレオコンプレックスを用いる方法、Tgを向上する方法などが考えられる。結晶化速度の向上ではタルクなど結晶化を促進する核剤の添加が一般的である。しかしながら、樹脂が不透明になる、物性が低下するなどの問題点がある。ステレオコンプレックスを用いる場合にはポリD−乳酸が必要であるが、D−乳酸の生産量が少なく、高価で入手が困難であること、成型条件によっては耐熱性を向上できないなどの問題点がある。
【0006】
Tgを向上させる技術として、特許文献1には芳香族ヒドロキシカルボン酸アリールエステルとラクチドを共重合する方法、特許文献2および3には環構造含有化合物とラクチドを共重合する方法、特許文献4にはポリ乳酸を芳香族ジカルボン酸で解重合した後にビスフェノール等と共に重縮合する方法、特許文献5には芳香族ポリカーボネートとラクチドを共重合する方法、特許文献6には芳香族ポリカーボネートとポリ乳酸を共重合する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法ではTgの向上は十分ではなく、また、特許文献2においては、環構造含有エポキシ化合物ではTgの向上は十分ではなく、その他の環構造含有モノマー化合物は高価である。さらに、特許文献3および6の方法では、反応が有機溶剤中で行われ、操作が煩雑で、大量生産には向かない。特許文献4の方法では、ポリ乳酸樹脂を解重合した後の重縮合反応時にラクチドの副生および着色が顕著で、実用的ではなかった。特許文献5の方法では、用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量が1万以上のため、得られる共重合体は不透明なものであった。
【特許文献1】特開2002−338666号公報
【特許文献2】特開2003−238667号公報
【特許文献3】特開2006−037055号公報
【特許文献4】特開2006−143810号公報
【特許文献5】特開平7−82369号公報
【特許文献6】特開平9−216942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解決するものであり、簡便な方法で広範囲に応用可能な、耐熱性の向上したポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ビスフェノール単位を有する化合物に着目し、これとポリ乳酸の原料化合物とを共重合することによって、Tgが向上したポリ乳酸系共重合樹脂を製造できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)ビスフェノール系化合物(A)成分とポリ乳酸(B)成分とを含有するポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法であって、数平均分子量10,000以下のビスフェノール系化合物(A)1〜50質量%と、ポリ乳酸の原料化合物(B´)99〜50質量%とを共重合することを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
(2)ビスフェノール系化合物(A)が、ビスフェノールA、ビスフェノールSエチレングリコール付加体、ビスフェノールAエチレングリコール付加体、およびビスフェノール単位と2個の水酸基を有する芳香族ポリカーボネートオリゴマーもしくは芳香族ポリエステルオリゴマーよりなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
(3)ポリ乳酸の原料化合物(B´)がラクチドであることを特徴とする(1)または(2)記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
(4)ビスフェノール系化合物(A)とポリ乳酸の原料化合物(B´)との共重合反応後に、水酸基と反応しうる官能基を分子内に2個以上有する鎖延長剤を反応させることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により得られるポリ乳酸系共重合樹脂。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、ポリ乳酸系共重合樹脂を簡便に得ることができる。
本発明の製造方法で得られるポリ乳酸系共重合樹脂は、従来のポリ乳酸に比べてTgが高められており、耐熱性の必要とされる広範な分野に応用が可能である。また、透明性に優れ、透明性の必要とされる用途への適用が可能である。さらに、ポリ乳酸を使用していることから、カーボンニュートラルであるため地球温暖化防止に大きく寄与し、また、石油資源の節約にも貢献できるなど、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法で製造するポリ乳酸系共重合樹脂は、ビスフェノール系化合物(A)成分とポリ乳酸(B)成分とを含有する。
ポリ乳酸(B)成分は、ポリ乳酸の原料化合物(B´)を重合することによって、ポリ乳酸系共重合樹脂に導入することができる。ポリ乳酸の原料化合物(B´)としては、D−乳酸、L−乳酸、乳酸オリゴマー、L−またはD−ラクチドなどが挙げられ、重合反応が容易な点から、ラクチドが好ましい。
なお、乳酸オリゴマーを原料化合物として用いる場合は、高分子量化の点から、その両末端基が水酸基および/またはカルボキシル基であることが好ましい。両末端基が水酸基である乳酸オリゴマーは、ジオール分子を開始剤としてラクチドを重合するか、ポリ乳酸をジオールで解重合することによって得られる。また両末端基がカルボキシル基である乳酸オリゴマーは、ポリ乳酸をジカルボン酸で解重合することによって得られる。さらに水酸基とカルボキシル基とを末端に有する乳酸オリゴマーは、乳酸を重縮合するか、ポリ乳酸を加水分解することによって得られる。
ポリ乳酸成分(B)成分におけるD/L比に関しては特に制限はない。
【0012】
本発明において、ポリ乳酸系共重合樹脂を構成するビスフェノール系化合物(A)成分は、ビスフェノール単位を含有するものであり、
(1)ビスフェノール単位を1つ含有するモノマー(A−1)
(2)上記モノマーのアルキレングリコール付加体(A−2)
(3)ビスフェノール単位を複数含有し、2個の水酸基を有するオリゴマー(A−3)
が挙げられる。
【0013】
ビスフェノール単位を1つ含有するモノマー(A−1)としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−メチル−2−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールフルオレン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、4,4’−[1,4−フェニレン−ビス(2−プロピリデン)−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)]、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’−メチレンビスフェノール、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、テルペンジフェノール、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジsec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチルフェニル)エタン、ビス(3−ノニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチル−6−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−5−フルオロフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−フェニルメタン、ビス(3ーフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−(p−フルオロフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−(p−フルオロフェニル)メタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラtert−ブチル−4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2,3,5−トリメチル−4−ヒドロキシフェニル)−フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−シクロヘキシルフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチルフェニル)エタン、イサチンビスフェノール、イサチンビスクレゾール、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル−4,4’−ビフェノール、ビス(2ーヒドロキシフェニル)メタン、2,4’−メチレンビスフェノール、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−3−アリルフェニル)メタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(2ーヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)エタン、ビス(2−ヒドロキシ−5−フェニルフェニル)メタン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−シクロヘキシルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、1,2−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチルフェニル)メタン、2,2−ビス(3−スチリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−(p−ニトロフェニル)エタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’,5,5’−テトラtert−ブチル−2,2’−ビフェノール、2,2’−ジアリル−4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5,5−テトラメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,4−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−エチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロペンタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9、9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,4−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどが挙げられる。
これらの中で、入手しやすさの理由で、ビスフェノールAが好ましい。
【0014】
上記モノマーのアルキレングリコール付加体(A−2)は、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの炭素数が2〜6であるグリコールを、上記モノマー1モルに対し、1〜2モル付加させた化合物であり、具体的には、ビスフェノールAエチレングリコール付加体、ビスフェノールSエチレングリコール付加体などが挙げられる。
本発明の製造方法において、ビスフェノール系化合物(A)としてアルキレングリコール付加体(A−2)を使用し、ポリ乳酸の原料化合物(B´)としてラクチドを使用した場合、フェノール性水酸基にエチレングリコールなどが付加して生成した(A−2)のアルコール性水酸基が、ラクチドの開環重合の開始剤として有効に作用し、共重合反応効率を高めるために好ましい。
【0015】
また、ビスフェノール単位を複数含有し、2個の水酸基を有するオリゴマー(A−3)としては、上記モノマー(A−1)を含有する芳香族ポリカーボネートオリゴマーや芳香族ポリエステルオリゴマーなどが挙げられる。
これらのオリゴマー(A−3)は、水酸基を2個有することが必要である。水酸基を2個有しないオリゴマーでは、ポリ乳酸原料成分との共重合がうまく進行しない。通常、界面重縮合で製造される芳香族ポリカーボネートやポリアリレートは、末端が封鎖されているため、水酸基を2個有しておらず、そのままでは共重合に用いることができない。水酸基を2個有する芳香族ポリカーボネートオリゴマーや芳香族ポリエステルオリゴマーの製造方法としては、芳香族ポリカーボネートや芳香族ポリエステルを、ジオール成分で解重合する方法や、重縮合時の末端封鎖剤として、フェノール性水酸基とアルコール性水酸基を1個ずつ有する化合物を用いる方法などがある。
なお、芳香族ポリエステルオリゴマーのジオール成分としては、前述のとおり上記モノマー(A−1)が挙げられ、酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸が挙げられる。
【0016】
本発明において、ビスフェノール系化合物(A)の数平均分子量は、ポリ乳酸の原料化合物(B´)と共重合する際の原料化合物(B´)との相溶性や、得られるポリ乳酸系共重合樹脂のTgと透明性を向上させる観点から、10,000以下であることが必要であり、7,000以下であることが好ましくは、5,000以下であることがより好ましい。
なお、ビスフェノール系化合物(A)は、後述する鎖延長剤により連結して、その分子量を上記範囲内で増大させてもよい。
【0017】
本発明の製造方法において、ビスフェノール系化合物(A)1〜50質量%と、ポリ乳酸の原料化合物(B´)99〜50質量%とを共重合することが必要である。ビスフェノール系化合物(A)の共重合割合を50質量%以下とすることにより、高分子量化した共重合樹脂を得ることができ、共重合反応後に鎖延長剤を使用する場合にその添加量を少なくすることができ、共重合割合は40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。一方、ビスフェノール系化合物(A)共重合割合を1質量%以上とすることにより、得られる共重合樹脂のTgを上昇させることができ、その耐熱性を向上させることができる。
【0018】
ビスフェノール系化合物(A)とポリ乳酸の原料化合物(B´)との共重合反応は、常法によって行われる。
具体的には、ポリ乳酸の原料化合物(B´)としてラクチドを使用する場合には、重合温度が150〜230℃であり、触媒として開環重合触媒(オクチル酸錫など)を使用し、重合時間が10〜120分程度であることが好ましい。
ポリ乳酸の原料化合物(B´)として乳酸を使用する場合には、有機溶剤の存在または非存在下で、重合温度50〜250℃、触媒に低温重合用ポリエステル重合触媒(塩化錫など)を用い、20hPa以下程度に減圧し、1〜50時間程度反応させることが好ましい。
ポリ乳酸の原料化合物(B´)として乳酸オリゴマーを使用する場合には、カップリング剤を用いてビスフェノール化合物と連結して、ポリ乳酸共重合樹脂を得ることができる。カップリング剤としては2つ以上の官能基を持つ化合物が挙げられる。官能基としてはイソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、酸クロライド、酸無水物、ビニル基などが挙げられ、それぞれに適した反応条件でカップリング反応を行えばよい。
【0019】
本発明の製造方法においては、ポリ乳酸系共重合樹脂の分子量を増大するために、鎖延長剤を用いることができる。鎖延長剤としてはアルコール性またはフェノール性水酸基と反応し得る2つ以上の官能基を持つ化合物が挙げられる。官能基としては、アルコール性水酸基に対しては、イソシアネート、カルボジイミド、エポキシ、酸無水物、酸クロライド、酸無水物および酸クロライドなどが、フェノール性水酸基に対しては、エポキシ、オキサゾリン、酸無水物および酸クロライドなどが、それぞれ挙げられる。ポリ乳酸系共重合樹脂のTg向上のためには芳香環を有する鎖延長剤が好適に用いられる。
好ましい鎖延長剤としては、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート、ビスイソシアナトメチルシクロヘキサンなどのジイソシアネート、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタル酸、ジグリシジルイソフタル酸、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ジオキソテトラヒドロフラニルメチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物、テトラフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物、ターフェニルテトラカルボン酸無水物、シクロブタンテトラカルボン酸無水物、カルボキシメチルシクロペンタントリカルボン酸無水物などの酸無水物、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族カルボン酸およびその酸クロライド、2,2’−(1,3−フェニレン)ビス−2−オキサゾリンなどのビスオキサゾリンなどが挙げられる。
なかでもアルコール性水酸基に対してはジイソシアネートが、フェノール性水酸基に対してはジグリシジルエーテルやビスオキサゾリンが、それぞれ反応性が高く、取り扱いが容易であることから特に好ましい。さらには、Tgの低下を防ぐ効果が高いことから、脂環族系ジイソシアネートやビスフェノール系ジグリシジルエーテルが最も好適である。
本発明の製造方法において、鎖延長剤は、製造の任意の段階で用いることができるが、ビスフェノール系化合物(A)とポリ乳酸の原料化合物(B´)との共重合反応後であることが、高分子量化しやすい理由で好ましい。
鎖延長剤を反応させる場合、反応温度はポリ乳酸系共重合樹脂の融点あるいは流動開始温度以上230℃以下であることが好ましく、反応時間は3分〜2時間であることが好ましく、鎖延長剤の使用量は、鎖延長剤の官能基量と、鎖延長するポリ乳酸系共重合樹脂の末端官能基量との比(鎖延長剤/共重合樹脂)が0.98〜1.1の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法によって、重量平均分子量が20,000以上であるポリ乳酸系共重合樹脂を製造することができる。重量平均分子量が20,000以下ではTgが十分に高くならないことがあり、40,000以上であることが好ましく、60,000以上であることがさらに好ましい。
また、本発明の製造方法によって、厚み100μmでの全光線透過率が80%以上である透明性にすぐれたポリ乳酸系共重合樹脂を製造することができる。全光線透過率が80%未満であると、透明性に劣るため、使用用途が制限される。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
(1)平均分子量
平均分子量は示差屈折率計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液とし、分子量はポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として換算した。
【0022】
(2)ガラス転移温度(Tg)
Tgの測定には示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いた。Tgは60℃以上であることが好ましく、用途が拡大することから65℃以上であることがより好ましい。
【0023】
(3)全光線透過率
全光線透過率の測定は、払い出した樹脂を180℃で厚さ100μmのシートに熱プレス成形した後、日本電色工業社製ヘイズメーターを用いて測定した。全光線透過率80%以上を透明と判断した。
【0024】
製造例1<末端水酸基含有芳香族ポリカーボネートオリゴマー>
磁気攪拌子および還流冷却管を備えた反応容器中に、1,2,4−トリクロロベンゼン300mL、芳香族ポリカーボネート(住友ダウ社製 カリバー200−13)60g、ビスフェノールA8.1g、酢酸亜鉛0.5gを入れて懸濁させ、180℃に加熱溶解して、3時間攪拌反応させた。放冷後、内容物を3Lのメタノール中に投入して反応生成物を沈澱させ、濾過分離・乾燥させて、末端にフェノール性水酸基を有する数平均分子量2,500の芳香族ポリカーボネートオリゴマーを得た。
【0025】
製造例2<両末端水酸基含有ポリ乳酸オリゴマー>
L−ラクチド150g、1,6−ヘキサンジオール(HD)3.5gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、加熱溶解した後、オクチル酸錫0.02gを加え、攪拌しながら180℃で1時間反応させた。30分間、5hPaにした後、生成物を払い出した。得られた両末端にアルコール性水酸基を有するポリ乳酸オリゴマーの数平均分子量は5,000であった。
【0026】
製造例3<末端水酸基含有芳香族ポリカーボネート>
ビスフェノールAの量を2.0gとした以外は、製造例1と同様にして、末端にフェノール性水酸基を有する数平均分子量12,000の芳香族ポリカーボネートを得た。
【0027】
実施例1
ビスフェノールA20gおよびL−ラクチド(武蔵野化学研究所製)80gをガラス製重合管に入れ、窒素ガスで置換した後、攪拌しながら190℃まで加熱した。190℃になったところでオクチル酸錫0.02gを加えた。1時間後、重合反応が平衡に達した後、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BAGE)20gを加えて30分間、攪拌した。5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0028】
実施例2
ビスフェノールSエチレングリコール付加体(小西化学工業社製)を20g、L−ラクチドを80g、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を13.2gとした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。
【0029】
実施例3
製造例1で得られた芳香族ポリカーボネートオリゴマー40gと、L−ラクチド60gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、180℃に加熱して溶解した。オクチル酸錫0.02gを加えて攪拌しながら1時間反応させた。5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0030】
実施例4
はじめにビスフェノールA20g、L−ラクチド80gをガラス重合管に入れ、窒素ガス気流下で攪拌しながら、190℃まで加熱溶解した。ここにBAGEを10g加えて30分間反応させてから、オクチル酸錫0.02gを加えた。1時間後、重合反応が平衡に達した後、IPDIを10g添加して30分間反応させた。5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0031】
実施例5
ビスフェノールA20gと、製造例2で得られた分子量5,000のポリ乳酸オリゴマー80gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、180℃に加熱して溶解した。攪拌しながら1時間反応させた後、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)17.3g添加して30分間反応させた。5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0032】
比較例1
ビスフェノールAの代わりにHD10gを用い、L−ラクチドを90g、IPDIを19gとし、実施例1と同様にして重合し、重合物を得た。
【0033】
比較例2(ポリ乳酸の合成)
HD0.07g、L−ラクチド100gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、加熱溶解した後、オクチル酸錫0.02gを加え、攪拌しながら180℃で1時間反応させた。5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、得られたポリ乳酸を払い出した。GPCで測定したところ、得られたポリ乳酸の重量平均分子量は180,000であった。
【0034】
比較例3
製造例3で得られた芳香族ポリカーボネート20gとL−ラクチド80gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、190℃に加熱して溶解した。オクチル酸錫0.02gを加えて攪拌しながら1時間反応させた。5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0035】
実施例および比較例で得られた共重合体の特性を表1にまとめた。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、各実施例で製造した共重合樹脂は、ビスフェノール系化合物を共重合させたことで、比較例1、2で製造したポリ乳酸と比較してTgが上昇した。また比較例3において、ビスフェノール系化合物として数平均分子量が10,000以上のものを共重合させたところ、得られた樹脂組成物は不透明であり、Tgは56℃と136℃の2つであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール系化合物(A)成分とポリ乳酸(B)成分とを含有するポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法であって、数平均分子量10,000以下のビスフェノール系化合物(A)1〜50質量%と、ポリ乳酸の原料化合物(B´)99〜50質量%とを共重合することを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項2】
ビスフェノール系化合物(A)が、ビスフェノールA、ビスフェノールSエチレングリコール付加体、ビスフェノールAエチレングリコール付加体、およびビスフェノール単位と2個の水酸基を有する芳香族ポリカーボネートオリゴマーもしくは芳香族ポリエステルオリゴマーよりなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項3】
ポリ乳酸の原料化合物(B´)がラクチドであることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項4】
ビスフェノール系化合物(A)とポリ乳酸の原料化合物(B´)との共重合反応後に、水酸基と反応しうる官能基を分子内に2個以上有する鎖延長剤を反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られるポリ乳酸系共重合樹脂。

【公開番号】特開2008−115288(P2008−115288A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300254(P2006−300254)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】