説明

ポリ乳酸系延伸フィルム

【課題】ポリ乳酸とポリ(メタ)アクリレート系樹脂とを配合して、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムによって、透明性、高温剛性、成形性に優れたフィルムを提供すること。
【解決手段】(A)重量平均分子量5万以上のポリ乳酸系樹脂と(B)ポリ(メタ)アクリレート系樹脂とを配合してなる、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムであって、DSC昇温測定における該フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)が15J/g以上であるポリ乳酸系延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、高温剛性、成形性に優れるポリ乳酸系延伸フィルムに関するものであり、さらに詳細には、透明性、高温での剛性および成形を必要とする工業材料、包装材料などの用途に用いることができるポリ乳酸系延伸フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、高い融点を持ち、また溶融成形可能で実用上優れた生分解性ポリマーとして期待されている。例えば、ポリ乳酸フィルムは各種生分解性フィルムの中でも最も引っ張り強度や弾性率が高く、光沢、透明性にも優れているとされているが、樹脂のガラス転移温度が比較的低いため、この温度以上での熱変形や剛性低下が大きいため、汎用ポリマーに比べ耐熱性が劣るという問題点があった。(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
この問題点を解決する方法としては、ポリ乳酸よりもガラス転移温度が高い樹脂を配合することが行われているが、通常は両者が非相溶であるため、その効果は十分ではなく、また透明なフィルムが得られないという問題点があった。一方、ポリ乳酸と相溶性を有する樹脂を混合する方法としては、非特許文献2および3などに、ガラス転移温度が約100℃であるポリメチルメタクリレートと混合することで、その樹脂組成物のガラス転移温度が向上することが記載され、また特許文献1には、ポリ乳酸を含むα−ヒドロキシカルボン酸重合体とポリ(メタ)アクリレート樹脂の混合によって加水分解性に優れた樹脂が生成することが記載され、特許文献2にはポリ乳酸にアクリル系化合物を配合し、耐候性、成型加工性に優れる樹脂組成物が得られることが記載されているが、いずれも高温剛性向上に関する技術思想については全く開示されておらず、その解決手段についての示唆もない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】望月政嗣他,「生分解性ケミカルスとプラスチック」,株式会社シーエムシー,2000年,p147
【非特許文献2】ポリマー(Polymer)39巻(26) , p6891 (1998)
【非特許文献3】マクロモレキュール・ケミカル・フィジックス(Macromol.Chem.Phys.)201巻 , p.1295(2000)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−59949号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2002−155207号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明性、高温剛性、成形性に優れたポリ乳酸系延伸フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、重量分子量が5万以上のポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを配合してなる延伸フィルムが優れた透明性、高温剛性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(A)重量平均分子量5万以上のポリ乳酸系樹脂と(B)ポリ(メタ)アクリレート系樹脂とを配合してなる、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムであって、DSC昇温測定における該フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)が15J/g以上であることを特徴とするポリ乳酸系延伸フィルム。
【0009】
(2)延伸フィルムの面配向係数(fn)が0.014以下であることを特徴とする(1)に記載のポリ乳酸系延伸フィルム。
【0010】
(3)(B)成分がポリメチルメタクリレートであることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリ乳酸系延伸フィルム。
【0011】
(4)(B)成分が1重量%以上60重量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載のポリ乳酸系延伸フィルム。
により構成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂とを配合してなる少なくとも一軸方向に延伸することによって、透明性、高温剛性、成形性優れたフィルムが得られた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい様態について詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂は、実用的な機械特性を満足させるため、重量平均分子量が5万以上であることが必要である。好ましくは8万以上、さらに好ましくは10万以上である。重量平均分子量の上限は特に限定されないが、100万以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
【0015】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーをいうが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。そのような共重合成分たるモノマー単位としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の共重合成分の共重合量は、全単量体成分に対し、30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明において、特に高い高温剛性を有する延伸フィルムを得るためには、ポリ乳酸系樹脂として乳酸成分の光学純度が高いものを用いることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂の総乳酸成分のうち、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることが特に好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることが更に好ましい。
【0017】
ポリ乳酸系樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、さらに150℃以上であることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂の融点は通常、乳酸成分の光学純度を高くすることにより高くなり、融点120℃以上のポリ乳酸系樹脂は、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることにより、また融点150℃以上のポリ乳酸系樹脂は、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることにより得ることができる。
【0018】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0019】
本発明におけるポリ(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とするものであり、2種以上の単量体を共重合して用いても構わない。ポリ(メタ)アクリレートを構成するに使用されるアクリレートおよびメタクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが挙げられるが、より高い高温剛性および成形性を付与するには、ポリメチルメタクリレートをもちいることが好ましい。
【0020】
本発明で用いられるポリ(メタ)アクリレートは、重量平均分子量が20000〜500000であることが好ましく、100000〜200000であることがより好ましい。重量平均分子量が20000未満では成形品の強度が低下する場合があり、重量平均分子量が500000を超えると成形時の流動性が低下する場合がある。
【0021】
これらの単量体を重合あるいは共重合する方法については特に限定されるものではなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合等の公知の重合方法を用いることができる。
【0022】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムであることが必要である。延伸方向は、フィルムの長手方向、幅方向のどちらでも構わない。好ましくは、フィルムの長手方向、幅方向の両方向に延伸した二軸延伸フィルムである。延伸を施していないフィルムをポリ乳酸のガラス転移温度以上で用いた場合、熱変形や熱結晶化が起こり、品質安定性の面から好ましくないためである。
【0023】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、DSC昇温測定における該フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)が15J/g以上であることが必要である。かかる範囲未満であると、高温での安定性が不十分なものとなり、変形、白化が生じる恐れがある。結晶融解熱量は、より好ましくは20J/g以上、さらに好ましくは25J/gである。結晶融解熱量の上限は特に制限されるのものではないが、好ましくは70J/gである。15J/g以上の結晶融解熱量を達成するための方法は特に限定されないが、好ましく用いられる方法として、フィルム成形後に熱処理を行うことが挙げられる。かかる熱処理温度は、ポリ乳酸系樹脂組成物の融点以下の任意の温度とすることができるが、好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは100〜150℃である。また熱処理時間は任意とすることができるが、0.1〜60秒間が好ましく、さらに好ましくは1〜20秒間である。かかる熱処理は、フィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させつつ行ってもよい。さらに、再延伸を各方向に対して1回以上行ってもよく、その後熱処理を行ってもよい。
【0024】
延伸フィルムの面配向係数は、好ましくは0.014以下、より好ましくは0.013以下、さらに好ましくは0.012以下である。fnの下限は特に制限されないが、好ましくは0.003以上、さらに好ましくは0.005以上である。
【0025】
面配向係数を上記好ましい範囲とすると、高温での剛性が良好となり、また、成形性を良好に保つことができる。
【0026】
ここで面配向係数(fn)とは、アッベ屈折率計等で測定されるフィルムの屈折率により定義される数値であり、フィルムの長手方向の屈折率をnMD、幅方向の屈折率をnTD、厚み方向の屈折率をnZDとすると、fn=(nMD+nTD)/2−nZDの関係式で表される。フィルムが不透明であるなどの理由で屈折率の測定が困難な場合は、他の手法により求めることが可能であり、たとえばX線、赤外分光、ラマン分光等の手法が挙げられる。特に赤外分光法のATR法では、容易にフィルム表面の配向の状態を測定可能であるので好ましく使用することができる。これらの場合、あらかじめ屈折率の測定可能なフィルムを用いて面配向係数と、その他の手法による配向度との相関関係を求めておき、目的のフィルムの面配向係数へ換算することにより求めることができる。
【0027】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合し溶媒を除去後、製膜して得ることも可能であるが、溶媒へ原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要で、実用的な製造方法である溶融製膜法を採用することが好ましい。溶融製膜法は、各成分を溶融混練することにより製造する方法である。その溶融製膜方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の通常使用されている公知の混合機を用いて樹脂組成物を得た後、溶融混合樹脂をスリット状の口金に導き、冷却キャスティングドラム上にシート状に押出し、Tダイ法やタッチロールキャスト法等を用いてシートを得る方法等が挙げられる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用してシート化することが好ましい。また樹脂の混合順序についても特に制限はなく、例えばポリ乳酸とポリ(メタ)アクリレートをドライブレンド後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸とポリ(メタ)アクリレートを溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸とを溶融混練後、製膜する方法等が挙げられる。また必要に応じて、その他の添加剤を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸とポリ(メタ)アクリレートとを溶融混練する方法を用いてもよい。また溶融混練時の温度は190℃〜240℃の範囲が好ましく、またポリ乳酸の劣化を防ぐ意味から、200℃〜220℃の範囲とすることがより好ましい。
【0028】
本発明で用いるポリ乳酸系樹脂組成物は、相溶性または混和性に優れており、各種透明用途で好適に用いられることができる。ここで「相溶化」とは、分子レベルで両成分が均一に混合していることを意味する。具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していないことをいう。また、「非相溶」とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことをいう。相溶しているか否かは、例えば「ポリマーアロイとポリマーブレンド」(L.A.Utracki著,西敏夫訳,東京化学同人,1991年,p.111)に記載のように、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。この相溶性最も一般的な方法としては、ガラス転移温度で判断する方法が挙げられる。相溶化している場合には、ガラス転移温度が各々単独のものより変化し、多くの場合、単一のガラス転移温度を示す。ガラス転移温度の測定方法としては、DSCで測定する方法、動的粘弾性試験により測定する方法のいずれも用いることができる。
【0029】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルム中のポリ(メタ)アクリレート配合量に関しては特に制限はないが、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート樹脂の合計を100重量部としたときに、ポリ乳酸系樹脂99重量%以下40重量%以上及びポリ(メタ)アクリレート1重量%以上60重量%以下とする場合には、ポリ乳酸系樹脂の特性を改良する点で有用であり、特にポリ乳酸系樹脂の透明性や成形性、高温剛性の改良に特に効果がある。上記特性のさらなる改良の観点から、より好ましくはポリ乳酸系樹脂95重量%以下45重量%以上及び5重量%以上55重量%以下、さらに好ましくはポリ乳酸系樹脂90重量%以下60重量%以上及びポリ(メタ)アクリレート10重量%以上40重量%以下である。
【0030】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルム中には、目的や用途に応じて各種の粒子を添加することができる。添加する粒子は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。これらの粒子を2種以上添加しても構わない。ポリ乳酸フィルムの機械的特性の観点から、かかる粒子の添加量は、0.01〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.02〜1重量%である。
【0031】
また、添加する粒子の平均粒子径は、好ましくは0.001〜10μmであり、さらに好ましくは0.01〜2μmである。平均粒子径がかかる好ましい範囲であると、フィルムの欠陥が生じにくくなり、透明性の悪化、成形性の悪化などを引き起こすことはない。
【0032】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムには、本発明の目的・効果を損なわない範囲で必要に応じて添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤またはポリシロキサン等の消泡剤、顔料または染料等の着色剤を適量配合することができる。
【0033】
また、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂などの少なくとも1種以上をさらに含有することができる。
【0034】
また、フィルム構成としては、単層であってもかまわないし、表面に易滑性、接着性、粘着性、耐熱性、耐候性など新たな機能を付与するために積層構成としてもよい。例えば、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートからなるA層に、樹脂または添加剤の組成の異なるB層、C層を積層した場合には、A/Bの2層、B/A/B、B/A/C、あるいはA/B/Cの3層などが例として挙げられる。さらには必要に応じて3層より多層の積層構成であってもよく、各層の積層厚み比も任意に設定できる。
【0035】
また、本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、接着性や加工性、特に加工時のフィルムしわ発生を抑制する点から、成形温度での少なくとも一方向の熱収縮率が−10〜10%の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、熱収縮率は−5〜+5%の範囲である。熱収縮率が、この範囲である場合、フィルム表面が膨れて外観を損ねたり、基材と剥離したり、印刷が歪んでしまうなどの問題を生じることなく、良好な加工性を付与できる。
【0036】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、成形して用いてもよい。該成形品は加熱下での熱変形が著しく抑制される。成形方法についても特に制限はなく、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形、プラグアシスト成形等、公知の各種成形法を用いることができる。
【0037】
次に、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを配合して二軸延伸フィルムを製造する場合を例にとって具体的に説明する。ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを性状に応じた計量装置を用いて所定の比率で二軸押出機に供給する。二軸押出機としては、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを未乾燥で供給可能であるためベント式二軸押出機を好ましく用いることができる。供給されたポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートは樹脂組成物の溶融粘度に応じて押出温度190〜220℃で溶融混合させた後、溶融混合樹脂をスリット状の口金に導き、冷却キャスティングドラム上にシート状に押出し、未延伸フィルムを成形する。Tダイ法を用いた場合、急冷時に静電印加密着法またはタッチロールキャスト法を用いることができ、特に静電印加密着法によると厚みの均一な未延伸フィルムを得ることができる。
【0038】
次いで未延伸フィルムを延伸装置に送り、同時または逐次二軸延伸などの方法で延伸する。逐次二軸延伸の場合、その延伸順序は、フィルムを長手方向および幅方向の順、またはこの逆の順としてもよい。さらに、逐次二軸延伸においては、長手方向または幅方向の延伸を2回以上行うことも可能である。
【0039】
延伸方法については特に制限はなく、ロール延伸、テンター延伸等の方法を採用することができる。また延伸時のフィルム形状は、フラット状、チューブ状等、どのようなものであってもよい。フィルムの長手方向および幅方向の延伸倍率は、目的とする耐熱性、加工性、蒸着適性などに応じて任意に設定することができるが、厚み斑を良好とする上でそれぞれの方向に好ましくは1.5〜6.0倍、さらに好ましくは1.5〜4.5倍である。長手方向、幅方向の延伸倍率はどちらを大きくしてもよく、同一としてもよい。また、延伸速度は1000%/分〜1000000%/分であることが望ましく、特に延伸速度を300000%/分以下で製膜することが好ましい。延伸温度は、ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移温度以上、融点以下の範囲であれば任意の温度とすることができるが、好ましくは60〜150℃である。
【0040】
さらに、この後に必要に応じてフィルムの熱処理を行うことができるが、この熱処理はオーブン中、加熱されたロール上等、従来から知られている任意の方法で行うことができる。熱処理温度はポリ乳酸系樹脂組成物の融点以下の任意の温度とすることができるが、好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは100〜150℃である。また熱処理時間は任意とすることができるが、0.1〜60秒間が好ましく、さらに好ましくは1〜20秒間である。かかる熱処理は、フィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させつつ行ってもよい。さらに、再延伸を各方向に対して1回以上行ってもよく、その後熱処理を行ってもよい。
【0041】
本発明の延伸フィルムの厚みは使用する用途に応じて自由にとることができる。厚みは通常0.5〜300μmの範囲であり、製膜安定性の面から好ましくは1〜200μm、さらに好ましくは5〜180μmである。
【0042】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、コロナ放電処理などの表面処理を施すことにより、必要に応じて接着性や印刷性を向上させることが可能である。また、各種コーティングを施してもよく、その塗布化合物の種類、塗布方法や厚みは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されない。必要に応じてエンボス加工などの成形加工、印刷などを施して使用することができる。
【0043】
上記のようにして得られた本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、単一フィルムあるいは複合フィルムにより透明性、高温剛性を必要とする各種工業材料、包装材料として用いることが可能である。
【0044】
また、本発明のポリ乳酸系延伸フィルムからなる成形品もまた、透明性、高温剛性を必要とする各種材料として用いることが可能である。具体的には、食品を始め、衛生、生活雑貨、農業ならびに園芸分野等の様々な容器・包装資材として用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。まず、本発明で用いた物性値の特定方法について説明する。
【0046】
(1)ポリ乳酸の重量平均分子量
日本Warters(株)製、Warters2690を用い、PMMAを標準とし、カラム温度40℃、クロロホルム溶媒を用いて測定した。
【0047】
(2)二軸延伸フィルムの結晶融解熱量
延伸フィルムの吸熱量は、試料5mgを、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量計RDC220型を用い、窒素雰囲気下、−30℃で5分間保持後20℃/分の昇温速度下での測定から求めた。
【0048】
(3)面配向係数(fn)
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの長手方向の屈折率(nMD),幅方向の屈折率(nTD),厚み方向の屈折率(nZD)を測定し、下記式から面配向係数(fn)を算出した。なお、測定値は小数点4桁目を四捨五入した。
fn=(nMD+nTD)/2−nZD
【0049】
(4)弾性率、破断応力
幅10mm、長さ150mmにフィルム試料を切り出し、この試料をJIS Z 1702に準じて、オリエンテック(株)社製引張試験機を用い初期長50mm、引張速度300mm/分、加熱オーブン中80℃の条件で引張試験を行い、弾性率(MPa)、破断点応力(MPa)を測定した。なお、これらの測定値はフィルムの長手方向(MD)5点、幅方向(TD)5点(実施例1〜4および比較例1)、幅方向(TD)10点(実施例5)のサンプルによるものである。
【0050】
使用した樹脂は次のとおりである。
・PLA:ポリ乳酸(D体の含有量が1.2%であり、PMMA換算の重量平均分子量が16万であるポリL乳酸樹脂)
・PMMA:ポリメチルメタクリレート(住友化学工業(株)社製“スミペックス”MGSS)。
【0051】
(実施例1)
PLAチップは真空、120℃の条件下で5時間、PMMAチップは80℃の熱風オーブンで5時間それぞれ乾燥後、PMMAを20重量%ブレンドしたものを押出機に供給し、Tダイ口金温度200℃でフィルム状に押し出し、25℃に冷却したドラム上にキャストして未延伸フィルムを作製した。連続して78℃の加熱ロール間で長手方向に15000%/分の速度で3倍延伸した後、一軸延伸フィルムをクリップで把持してテンター内に導き、80℃の温度で加熱しつつ横方向に20000%/分の速度で3.5倍延伸し、幅方向に固定した状態で140℃、10秒間の熱処理を行い、厚さ50μmのポリ乳酸系二軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、80℃での弾性率、破断伸度、破断応力ともPLA単独の二軸延伸フィルムより大きく、高温剛性に優れていた。
【0052】
(実施例2)
PMMAを10重量%ブレンドしたものを用いた以外は実施例1と同様にして厚さ50μmのポリ乳酸系二軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、80℃での弾性率、破断応力ともPLA単独の二軸延伸フィルムより大きく、高温剛性に優れていた。
【0053】
(実施例3)
PMMAを50重量%ブレンドしたものを用いた以外は実施例1と同様にして厚さ50μmのポリ乳酸系二軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、80℃での弾性率、破断点応力が著しく向上し、高温剛性に優れていた。
【0054】
(実施例4)
PMMAを80重量%ブレンドしたものを用いた以外は実施例1と同様にして厚さ50μmのポリ乳酸系二軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、80℃での伸度が若干小さいものの弾性率が著しく向上し、高温剛性に優れていた。
【0055】
(実施例5)
PMMAを0.5重量%ブレンドしたものを用いた以外は実施例1と同様にして厚さ50μmのポリ乳酸系二軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、80℃での伸度、破断応力がPLA単独の二軸延伸フィルムと変わらないものの弾性率が若干向上し、高温剛性に優れていた。
【0056】
(実施例6)
PMMAを3重量%ブレンドしたものを用いた以外は実施例1と同様にして厚さ50μmのポリ乳酸系二軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、80℃での弾性率が向上し、高温剛性に優れていた。
【0057】
(実施例7)
PLAチップは真空、120℃の条件下で5時間、PMMAチップは80℃の熱風オーブンで5時間それぞれ乾燥後、PMMAを20重量%ブレンドしたものを押出機に供給し、Tダイ口金温度200℃でフィルム状に押し出し、25℃に冷却したドラム上にキャストして未延伸フィルムを作製した。未延伸フィルムをクリップで把持してテンター内に導き、80℃の温度で加熱しつつ横方向に20000%/分の速度で3.5倍延伸し、幅方向に固定した状態で140℃、10秒間の熱処理を行い、厚さ50μmのポリ乳酸系一軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、80℃での弾性率、破断伸度、破断応力ともPLA単独の二軸延伸フィルムより大きく、高温剛性に優れていた。
【0058】
【表1】

【0059】
(比較例1)
PMMAを配合しなかったこと以外は、実施例1〜4と同様に溶融製膜を行い、ポリ(メタ)アクリレート混合系との比較用サンプルとした。
【0060】
(比較例2)
延伸を行わなかった以外は、実施例1〜4と同様に溶融製膜した。得られたフィルムの特性値は表1に示す通りで、熱処理時の白化により透明性が低下した。
【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量5万以上のポリ乳酸系樹脂と(B)ポリ(メタ)アクリレート系樹脂とを配合してなる、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムであって、DSC昇温測定における該フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)が15J/g以上であることを特徴とするポリ乳酸系延伸フィルム。
【請求項2】
延伸フィルムの面配向係数(fn)が0.014以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系延伸フィルム。
【請求項3】
(B)成分がポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸系延伸フィルム。
【請求項4】
(B)成分が1重量%以上60重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリ乳酸系延伸フィルム。

【公開番号】特開2011−42802(P2011−42802A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238139(P2010−238139)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【分割の表示】特願2003−198293(P2003−198293)の分割
【原出願日】平成15年7月17日(2003.7.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】