説明

ポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体

【課題】熱融着性、成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂を含むポリ乳酸系樹脂発泡体であり、
前記ポリ乳酸系樹脂を、前記ポリ乳酸系樹脂と前記アクリル系樹脂との合計量100重量部に対して50重量部より多く90重量部以下の割合で含み、前記ポリ乳酸系樹脂に由来する85〜115℃の結晶化ピーク温度を有し、前記結晶化ピーク温度が前記ポリ乳酸系樹脂に由来する固有結晶化ピーク温度より10〜40℃高く、(I):0.1≦Fpla/Fac≦2.5を満たすことを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体に関する。さらに詳しくは、本発明は、熱融着性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体ならびに前記ポリ乳酸系樹脂発泡体から得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護意識の高まりから、プラスチックにおいても植物由来樹脂の利用が進んでいる。特に、ポリ乳酸系樹脂の使用が進んでおり、発泡成形体でもポリ乳酸を使用した発泡体の開発が行われている。またこれらは生分解性や環境イメージから、土壌改良材や緩衝材等で使用されている。
【0003】
前記発泡成形体の一例として、特許文献1には異性体比率8%以上のポリ乳酸からなるポリ乳酸系樹脂とその他の樹脂成分とからなるポリ乳酸系樹脂発泡成形体が記載されている。また、特許文献2には乳酸成分単位を50モル%以上含み、熱流束示差熱量測定を行った場合、特定の吸熱量および発熱量を示すポリ乳酸系樹脂からなるポリ乳酸系樹脂発泡成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−56869号公報
【特許文献2】特許4289547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1に記載のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を製造する場合、乳酸モノマー異性体比率8%以上のポリ乳酸からなる比較的耐熱性に劣るポリ乳酸系樹脂を主成分として使用するため、発泡成型機内の温度を60℃程度の低温に設定しなければならず、ポリ乳酸系樹脂発泡体の耐熱性の点で満足のいくものではなかった。また、引用文献2に記載のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を製造する場合、走査型示差熱量計により測定される吸熱ピークが比較的低温のポリ乳酸系樹脂を使用するため、同様に発泡成型機内の温度を65℃程度の低温に設定しなければならず、この場合も、ポリ乳酸系樹脂発泡体の耐熱性の点で満足のいくものではなく、耐熱性が必要とされる建材や自動車部材等への展開はなされていない。
【0006】
このような低温で発泡成型を行った場合、十分な熱融着性を確保することができないためにポリ乳酸系樹脂発泡体同士を強固かつ十分に熱融着させることができず、その結果、得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は極めてもろく、十分な強度を有するポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができなかった。他方、これらのポリ乳酸系樹脂発泡体を前記温度範囲以上の高温で発泡成型を行った場合、樹脂成分の耐熱性不足に起因して、金型に接する樹脂成分が飴状に融解することによって、得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体の外観が美麗でないこともあった。以上のことから、現状では、これらの発泡体は、建築部材や自動車部材で必須の物性である耐熱性及び機械的強度を共に満足するポリ乳酸系樹脂発泡体ではなかった。
【0007】
従って、これらの問題点に鑑みて、土木、建築、園芸分野等での構造部材、自動車分野での内装材、外装材等の原材料として幅広く使用し得る、熱融着性、および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして本発明によれば、構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうち少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、または、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有するポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂を含むポリ乳酸系樹脂発泡体であり、
前記ポリ乳酸系樹脂を、前記ポリ乳酸系樹脂と前記アクリル系樹脂との合計量100重量部に対して50重量部より多く90重量部以下の割合で含み、
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において、前記ポリ乳酸系樹脂に由来する85〜115℃の結晶化ピーク温度を有し、
前記結晶化ピーク温度が、前記ポリ乳酸系樹脂のみを含む樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において測定される前記ポリ乳酸系樹脂に由来する固有結晶化ピーク温度より10〜40℃高く、
下記式(I):
0.1≦Fpla/Fac≦2.5・・・・・式(I)
(式中、Fplaは190℃、21.2Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートであり、Facは230℃、37.3Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートである。)
を満たすことを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を成形することによって得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱融着性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
【0011】
また本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂がその融点(mp)と、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとが、下記式(II):
(ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃)
≦(交点における温度T)≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・・・式(II)
を満たす場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体内の経時的な発泡圧の低下を防ぐことができるため、より経時安定性が良好で、熱融着性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
【0012】
また本発明によれば、アクリル系樹脂がメタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキルの共重合体の場合、ポリ乳酸との相溶性が高く、優れた発泡性を示し、より耐熱性が良好で、熱融着性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
【0013】
また本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂発泡体が、0.03〜0.3g/cm3の嵩密度を有する場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体内部に十分な空間、気泡等を確保することができるため、より軽量、かつ、断熱性等が良好で、熱融着性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
【0014】
本発明によれば、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を用いてポリ乳酸系樹脂発泡成形体を成型した場合、機械的強度に優れ、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることもできる。
【0015】
また本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体が、6mm以上の曲げ破断点変位を有する場合、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体がより高い曲げ強度等を有するため、さらに機械的強度が良好で、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造装置の一例を示した模式断面図である。
【図2】ノズル金型を正面から見た模式図である。
【図3】実施例1で得られたDSC曲線である。
【図4】比較例1で得られたDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の特徴は、構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうち少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、または、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有するポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂を含むポリ乳酸系樹脂発泡体であり、
前記ポリ乳酸系樹脂を、前記ポリ乳酸系樹脂と前記アクリル系樹脂との合計量100重量部に対して50重量部より多く90重量部以下の割合で含み、
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において、前記ポリ乳酸系樹脂に由来する85〜115℃の結晶化ピーク温度を有し、
前記結晶化ピーク温度が、前記ポリ乳酸系樹脂のみを含む樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において測定される前記ポリ乳酸系樹脂に由来する固有結晶化ピーク温度より10〜40℃高く、
下記式(I):
0.1≦Fpla/Fac≦2.5・・・・・式(I)
(式中、Fplaは190℃、21.2Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートであり、Facは230℃、37.3Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートである。)
を満たすポリ乳酸系樹脂発泡体である。
【0018】
具体的には、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体はその樹脂成分として、構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうち少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、または、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有するポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂を含む。また、ポリ乳酸系樹脂を、ポリ乳酸系樹脂とアクリル系樹脂との合計量100重量部に対して50重量部より多く90重量部以下の割合で含むため、従来のポリ乳酸系樹脂のみからなるポリ乳酸系樹脂発泡体と比べてより高い結晶化ピーク温度を得ることができる。
【0019】
より具体的には、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において、ポリ乳酸系樹脂に由来する85〜115℃の結晶化ピーク温度を有することができる。また得られた結晶化ピーク温度は、ポリ乳酸系樹脂のみを含む樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において測定されるポリ乳酸系樹脂に由来する固有結晶化ピーク温度より10〜40℃高い。このため、十分に樹脂成分を軟化させつつ、ポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡成型をより高温で行うことができる。
【0020】
さらに本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、下記式(I):
0.1≦Fpla/Fac≦2.5・・・・・式(I)
(式中、Fplaは190℃、21.2Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートであり、Facは230℃、37.3Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートである。)
を満たすため、ポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂の平均分子量、流動性等をより好適に設定することによって、発泡成型時等において樹脂組成物の良好な軟化特性を確保することができる。
【0021】
このため、本発明によれば、従来得ることができなかった熱融着性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を極めて容易に得ることができる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体を発泡成型の材料として使用することにより、機械的強度等に優れ、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂発泡成形体を容易に得ることもできる。なお、結晶化ピーク温度とは、DSC曲線において認められる樹脂成分に由来する結晶化ピークのうち、ポリ乳酸系樹脂成分に由来する最も低い結晶化ピーク温度についてのものである。これらの測定方法等については実施例において説明する。
以下、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体等について詳説する。
【0022】
(1)ポリ乳酸系樹脂発泡体
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、ポリ乳酸系樹脂とアクリル系樹脂とを少なくとも含む。
【0023】
(ポリ乳酸系樹脂)
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂として乳酸がエステル結合により重合した樹脂を用いることができ、商業的な入手容易性およびポリ乳酸系樹脂発泡体への発泡性付与の観点から、D−乳酸およびL−乳酸の共重合体、D−乳酸(D体)またはL−乳酸(L体)のいずれか一方の単独重合体、D−ラクチド、L−ラクチドおよびDL−ラクチドからなる群から選択される1または2以上のラクチドの開環重合体が好ましい。
【0024】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、ポリ乳酸系樹脂をポリ乳酸系樹脂とアクリル系樹脂との合計量100重量部に対して50重量部より多く90重量部以下の割合で、好ましくは60〜90重量部の割合で、より好ましくは60〜85重量部の割合で含む。本発明においては、前記の割合が50重量部以下の場合、ポリ乳酸系樹脂に基づく十分な耐熱性を確保することができないことがある。一方、前記の割合が90重量部より多い場合、アクリル系樹脂が不足することによって、所望の熱融着性を得ることができないことがある。
【0025】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂は樹脂成分の粘弾性の観点、耐熱性確保の観点から、好ましくは100000〜350000、より好ましくは100000〜300000の平均分子量を有する。
【0026】
本発明において平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)で測定した数平均分子量を意味する(なお、平均分子量とは、ある特定の物質が、化学的に同じ構造単位から構成される重合体の、異なる重合度を有する分子の集合体である場合、ある一定の重合度の分子の数がnであり、その分子の分子量がMnである場合、Σn・Mnで表される。更に、縦軸にn、横軸にMnをプロットした際、概ね正規分布の形状を取る。)。
【0027】
他方、ポリ乳酸系樹脂は、発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、乳酸以外の単量体として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;
コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等の脂肪族多価カルボン酸;
エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等の脂肪族多価アルコール等を任意に含んでいてもよい。
【0028】
また、本発明で使用するポリ乳酸系樹脂は、同様に発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、アルキル基、ビニル基、カルボキシ基、芳香族基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基等のその他の官能基を含んでいてもよい。また、イソシアネート系化合物、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、過酸化物、酸無水物、エポキシ化合物等により架橋されていてもよく、エステル結合以外の結合手により結合していてもよい。さらに、ポリ乳酸系樹脂を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、特に限定されず公知の方法をいずれも使用することができる。具体的には、オクタン酸スズ(II)等の触媒存在下、ラクチドを重合させるラクチド法;ジフェニルエーテル等の溶媒中で乳酸系化合物を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合を行う直接重合法;乳酸系化合物を溶融させつつ重合を行う溶融法等の重合方法を挙げることができる。
【0030】
ここで、D体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の割合が5モル%未満であるD体とL体との共重合体、およびD体またはL体のいずれか一方の単独重合体は、少ない方の光学異性体が減少するに従って、結晶性が高くなり融点が高くなる傾向がある。一方、D体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の割合が5モル%以上であるD体とL体との共重合体は、少ない方の光学異性体が増加するに従って、結晶性が低くなり、やがて非結晶となる傾向がある。よって、例えば、高い耐熱性が望まれる用途では、前者のポリ乳酸系樹脂を使用することが好ましい。
【0031】
また、前者のポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸系樹脂発泡体を金型内に充填して発泡させて得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の耐熱性を向上させることができ、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体は高い温度であってもその形態を維持できることがある。従って、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体を金型から高い温度のまま取り出すことが可能となってポリ乳酸系樹脂発泡成形体の金型内における冷却時間が短縮され、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の生産効率を向上させ得ることがある。このため、前記の観点から、D体とL体との共重合体は、D体またはL体のうちのいずれか少ない方の光学異性体の割合が5モル%未満であることが好ましく、4モル%未満であることがより好ましい。
【0032】
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂発泡体を押出発泡法で得る場合、ポリ乳酸系樹脂は、その融点(mp)と、動的粘弾性測定により得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとが下記式(II)を満たすように調整されることが好ましい。
(ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃)
≦(交点における温度T)≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・・・式(II)
【0033】
動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率は、粘弾性において弾性的な性質を示す指標であって、発泡過程における気泡膜の弾性の大小を示す指標であり、発泡過程において、気泡膜の収縮力に抗して気泡を膨張させるのに必要な発泡圧の大小を示す指標である。
【0034】
即ち、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率が低いと、気泡膜が伸長された場合、気泡膜が伸長力に抗して収縮しようとする力が小さい。そのため、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造に必要とする発泡圧によって発泡膜が容易に伸長してしまう結果、気泡膜が過度に伸長してしまい破泡を生じることがある。一方、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率が高いと、気泡膜に伸長力が加わった場合、伸長に抗する気泡膜の収縮力が大きくなる。そのため、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造に必要とする発泡圧で一旦、気泡が膨張したとしても、温度低下等に起因する経時的な発泡圧の低下に伴って気泡が収縮してしまうことがある。
【0035】
また、動的粘弾性測定にて得られた損失弾性率は、粘弾性において粘性的な性質を示す指標である。具体的には、発泡過程における気泡膜の粘性を示す指標である。特に、発泡過程において、気泡膜をどの程度まで破れることなく伸長できるかの許容範囲を示す指標であると同時に、発泡圧によって所望の大きさに気泡を膨張させた後、この膨張した気泡をその大きさに維持する能力を示す指標でもある。
【0036】
即ち、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた損失弾性率が低いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造に必要とする発泡圧によって気泡膜が伸長された場合、気泡膜が容易に破れてしまうことがある。一方、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定により得られた損失弾性率が高いと、発泡力が気泡膜によって熱エネルギーに変換されてしまい、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造時に気泡膜を円滑に伸長させることが難しくなり、気泡を膨張させることが困難になることがある。
【0037】
このように、ポリ乳酸系樹脂を発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡体を製造するにあたっては、発泡過程において、発泡圧によって気泡膜が破れることなく適度に伸長するための弾性力、即ち、貯蔵弾性率を有していることが好ましい。加えて、発泡圧によって気泡膜が破れることなく円滑に伸長し、所望大きさに膨張した気泡をその大きさに発泡圧の経時的な減少にかかわらず維持しておくための粘性力、即ち、損失弾性率を有していることが好ましい。
【0038】
つまり、押出発泡工程において、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率および損失弾性率の双方が押出発泡に適した値を有していることが好ましく、このような押出発泡に適した貯蔵弾性率および損失弾性率を押出発泡工程においてポリ乳酸系樹脂に付与するために、ポリ乳酸系樹脂における動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T(以下「温度T」という)と、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが、好ましくは下記式(II)を満たすように、より好ましくは式(III)を満たすように調整される。この調整により、貯蔵弾性率および損失弾性率をそれらのバランスをとりながら押出発泡性を良好なものとし、ポリ乳酸系樹脂発泡体を安定的に製造できる。
〔ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃〕
≦交点における温度T≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・式(II)
〔ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−35℃〕
≦交点における温度T≦〔ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−10℃〕・・・式(III)
【0039】
さらに、温度Tと、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが前記式(II)および(III)を満たすように調整するのが好ましい理由を下記に詳述する。
【0040】
まず、温度Tが、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)よりも40℃を越えて低い場合には、押出発泡時におけるポリ乳酸系樹脂の損失弾性率が貯蔵弾性率に比して大き過ぎるために、損失弾性率と貯蔵弾性率とのバランスが崩れてしまう。
【0041】
そこで、ポリ乳酸系樹脂の損失弾性率に適した発泡力、即ち、粘性に合わせた発泡力とすると、弾性力に対する発泡力が大き過ぎ、気泡膜が破れて破泡を生じて良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得られないことがある。逆に、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率に適した発泡力、即ち、弾性に合わせた発泡力とすると、粘性力に対する発泡力が小さく、ポリ乳酸系樹脂が発泡しにくくなり、良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得られないことがある。
【0042】
また、温度Tが、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)よりも高いと、押出発泡時におけるポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率が損失弾性率に比して大き過ぎることになる。そのため、上述と同様に損失弾性率と貯蔵弾性率とのバランスが崩れてしまうことがある。
【0043】
そこで、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率に適した発泡力、即ち、弾性に合わせた発泡力とすると、粘性力に対する発泡力が大き過ぎ、気泡膜が破れて破泡を生じ良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得られないことがある。逆に、ポリ乳酸系樹脂の損失弾性率に適した発泡力、即ち、粘性に合わせた発泡力とすると、弾性力に対する発泡力が小さく、ポリ乳酸系樹脂が一旦発泡したとしても、経時的な発泡力の低下に伴って気泡が収縮してしまって、やはり良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得られないことがある。
【0044】
ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が高くなるに従って、温度Tが高くなる。よって、温度Tと、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが前記式(II)を満たすように調整するには、ポリ乳酸系樹脂の重合時に反応時間あるいは反応温度を調整することによって、得られるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を調整する方法、押出発泡前にあるいは押出発泡時にポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を増粘剤や架橋剤を用いて調整する方法を挙げることができる。
【0045】
(アクリル系樹脂)
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体はその樹脂成分としてポリ乳酸系樹脂のみならず、アクリル系樹脂も含む。これにより、走査型示差熱量計で得られるDSC曲線において、結晶化ピーク温度を制御することにより、ポリ乳酸系樹脂発泡体は好適な熱融着性を確保することができる。またその結果、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体を用いることにより、機械的強度等に優れ、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる。
【0046】
本発明においては、熱融着性等の所望の物性に影響を与えない限り、いずれのアクリル系樹脂も使用することができる。また、本発明においてアクリル系樹脂とは、アクリル酸アルキル系単量体、メタクリル系単量体を主成分とする(メタ)アクリル系単量体を重合させた重合体が意味される。
【0047】
具体的な(メタ)アクリル系単量体として、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のアクリル系単量体;
メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル等のメタクリル系単量体が挙げることができ、メタクリル酸アルキル系単量体およびアクリル酸アルキル系単量体のいずれかが好ましい。また、(メタ)アクリル系単量体およびアクリル系樹脂は単独で使用することもでき、併用することもできる。なお、本発明において(メタ)アクリルとはメタクリルまたはアクリルを意味する。
【0048】
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂により高い耐熱性の付与を期待することができるため、アクリル系樹脂としてメタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキルの共重合体が好ましい。また、メタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキルの共重合体のアルキル基は、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、直鎖状、分枝鎖状であってよく、単量体成分比は任意に設定されてよい。
【0049】
同様に所望の物性に影響を与えない限り、アクリル系樹脂はその他の架橋性単量体を含んでいてもよく、その他の単量体成分を含んでいてもよく、その他の官能基を含んでいてもよい。架橋性単量体として、例えば、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸デカエチレングリコール、ジメタクリル酸ペンタデカエチレングリコール、ジメタクリル酸ペンタコンタヘクタエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレン、メタクリル酸アリル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、ジメタクリル酸フタル酸ジエチレングリコール;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物等を挙げることができる。
【0050】
また他の単量体成分として、例えば、非架橋性単量体、架橋性単量体を挙げることができる。非架橋性単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0051】
その他の官能基として、例えば、アルキル基、ビニル基、カルボキシ基、芳香族基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基等を挙げることができる。また、本発明においては、同様に所望の物性等に影響を与えない限り、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂等のその他の樹脂成分を適宜含んでいてもよい。
【0052】
また本発明においては、ポリ乳酸系樹脂発泡体が下記式(I):
0.1≦Fpla/Fac≦2.5・・・・・式(I)
(式中、Fplaは190℃、21.2Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートであり、Facは230℃、37.3Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートである。)
を満たす場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体中に含まれる樹脂成分を発泡成型時十分軟化させることができる。このため、より熱融着性、生分解性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。同様の観点から、Fplaは0.5〜6が好ましく、1〜5.5がより好ましい。他方、Facは1.5〜20が好ましく、2〜17がより好ましい。
【0053】
他方、本発明のアクリル系樹脂は十分な発泡性確保の観点から、好ましくは50000〜200000、より好ましくは70000〜180000の平均分子量を有する。
【0054】
(揮発性発泡剤)
本発明においてはポリ乳酸系樹脂とアクリル系樹脂を含む樹脂組成溶融物に揮発性発泡剤を注入、溶融混練し、次いで発泡させることによりポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができる。
揮発性発泡剤として、従来から汎用されているものを用いることができる。例えば、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ヒドラゾイルジカルボンアミド、重炭酸ナトリウム等の化学発泡剤;
プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素、ジメチルエーテル等のエーテル類、塩化メチル、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、モノクロロジフルオロメタン等のフロン、二酸化炭素、窒素等の物理発泡剤等を挙げることができる。この内、ポリ乳酸系樹脂発泡体への高い発泡性付与の観点から、物理発泡剤が好ましく、ノルマルブタン、イソブタンがより好ましい。発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、揮発性発泡剤を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
また、均一な含浸性、発泡性を期待することができるため、揮発性発泡剤を含浸助剤と共に用いてもよい。具体的な含浸助剤としてメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物等を挙げることができる。
【0056】
揮発性発泡剤量が少ない場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体を所望発泡倍率まで発泡できないことがある。一方、揮発性発泡剤量が多い場合、揮発性発泡剤が可塑剤として作用することから溶融状態の樹脂成分の粘弾性が低下し過ぎて発泡性が低下し良好なポリ乳酸系樹脂発泡体を得ることができないことがある。加えてポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡倍率が高過ぎて結晶化度を制御できなくなることがある。よって、揮発性発泡剤量は、ポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂の合計量100重量部に対して、0.5〜4重量部が好ましく、0.8〜3重量部がより好ましい。なお、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体中には安全面、取扱い面から揮発性発泡剤が実質的に含まれていないことが好ましいが、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体100重量部中に1重量部以下の揮発性発泡剤が含まれることがある。
【0057】
本発明においては、溶融混練時、気泡調整剤が添加されることが好ましい。しかしながら、気泡調整剤の多くはポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶核剤として作用するため、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進しない気泡調整剤を用いることが好ましく、このような気泡調整剤として、ポリテトラフルオロエチレン粉末、アクリル樹脂で変性されたポリテトラフルオロエチレン粉末を挙げることができる。
【0058】
また、供給される気泡調整剤の量が少ない場合、ポリ乳酸系樹脂発泡体の気泡が粗大となり、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の外観が低下することがある。一方、供給される気泡調整剤の量が多い場合、ポリ乳酸系樹脂を押出発泡させる際に破泡を生じてポリ乳酸系樹脂発泡体の独立気泡率が低下することがある。このため、気泡調整剤の量はポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂の合計量100重量部に対して、0.01〜3重量部が好ましく、0.05〜2重量部がより好ましく、0.1〜1重量部が特に好ましい。
【0059】
さらに、タルク、珪酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、合成あるいは天然に産出される二酸化ケイ素、エチレンビスステアリン酸アミド、メタクリル酸エステル系共重合体等のその他の気泡調整剤;トリアリルイソシアヌレート6臭素化物等の難燃剤等を含んでいてもよい。
【0060】
本発明においては、所望の物性に影響を与えない限り、ポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、他に顔料、油剤、粉体、フッ素化合物、樹脂、加水分解抑制剤、界面活性剤、粘剤、防腐剤、香料、紫外線防御剤(有機系、無機系を含む。UV−A、Bのいずれに対応していても構わない)、塩類、溶媒、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤、昆虫忌避剤、その他の樹脂等の各種成分を含むこともできる。
【0061】
(2)ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造
ポリ乳酸系樹脂発泡体は、公知の方法によって製造できる。具体的には、市販の押出機を使用して、揮発性発泡剤の存在下、ポリ乳酸系樹脂とアクリル系樹脂とを含む樹脂組成物を溶融押出し、発泡させ、次いで水中カット、ストランドカット等で造粒することによって、ポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができる。造粒方法にもよるが、通常得られるポリ乳酸系樹脂発泡体の形状は、球状、略球状(楕円球状または卵状)、ペレット状またはグラニュラー状である。
【0062】
本発明においては、熱融着性、生分解性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を容易に得ることができるため、
前記ポリ乳酸系樹脂と前記アクリル系樹脂とを含む樹脂組成物とを押出機に供給して揮発性発泡剤の存在下に溶融混練することによってポリ乳酸系樹脂押出物を得る溶融混練工程と、
前記押出機の前端に取り付けたノズル金型から前記ポリ乳酸系樹脂押出物を押出し、前記ポリ乳酸系樹脂押出物を発泡させながら、210〜235℃のノズル金型の温度で、前記ノズル金型の前端面に接触させつつ、2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃によって切断して前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を製造し、前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を切断応力によって飛散させる押出発泡工程と、
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を前記ノズル金型の前方に配設した冷却部材に衝突させて冷却する冷却工程と
を含むポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法を用いることが好ましい。
【0063】
以下、本発明で用い得る製造方法の一例を挙げて説明するが、本発明は以下の製造方法に限定されるものではない。
まず、ポリ乳酸系樹脂とアクリル系樹脂とを含む樹脂組成物を図1および2に示す押出機に供給して揮発性発泡剤の存在下にて溶融混練する。この後、押出機の前端に取り付けたノズル金型からポリ乳酸系樹脂押出物を押出し、このポリ乳酸系樹脂押出物を発泡させながら、210〜235℃のノズル金型の温度で、ノズル金型の前端面に接触させ、次いで2000〜10000rpmの回転数で回転する回転刃によって切断してポリ乳酸系樹脂発泡体を製造し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を切断応力によって飛散させる。なお、前記押出機としては、従来から汎用されている押出機であれば、特に限定されない。例えば、単軸押出機、二軸押出機、複数の押出機を連結させたタンデム型の押出機を挙げることができる。
【0064】
そして、ノズル金型1から押出されたポリ乳酸系樹脂押出物は引き続き切断工程に入る。ポリ乳酸系樹脂押出物の切断は、回転軸2をモータ3により回転させ、ノズル金型1の前端面1aに配設された回転刃5を2000〜10000rpmの一定の回転数で回転させて行うことが好ましい。
【0065】
全ての回転刃5はノズル金型1の前端面1aに常時、接触しながら回転している。ノズル金型1から押出発泡されたポリ乳酸系樹脂押出物は、回転刃5と、ノズル金型1におけるノズルの出口部11端縁との間に生じる剪断応力によって、一定の時間毎に大気中において切断されてポリ乳酸系樹脂発泡体とされる。この時、ポリ乳酸系樹脂押出物の冷却が過度とならない範囲内において、ポリ乳酸系樹脂押出物に水を霧状に吹き付けてもよい。
【0066】
ノズル金型1のノズル内においてポリ乳酸系樹脂が発泡しないことが好ましい。そのため、ポリ乳酸系樹脂は、ノズル金型1のノズルの出口部11から吐出された直後は、未だに発泡しておらず、吐出されてから僅かな時間が経過した後に発泡を始める。従って、ポリ乳酸系樹脂押出物は、ノズル金型1のノズルの出口部11から吐出された直後の未発泡部と、この未発泡部に連続する、未発泡部に先んじて押出された発泡途上の発泡部とからなる。
【0067】
ノズル金型1のノズルの出口部11から突出されてから発泡を開始するまでの間、未発泡部はその状態を維持する。この未発泡部が維持される時間は、ノズル金型1のノズルの出口部11における樹脂圧力や、揮発性発泡剤量等によって調整できる。ノズル金型1のノズルの出口部11における樹脂圧力が高いと、ポリ乳酸系樹脂押出物はノズル金型1から押出されてから直ぐに発泡することはなく未発泡の状態を維持する。ノズル金型1のノズルの出口部11における樹脂圧力の調整は、ノズルの口径、押出量、ポリ乳酸系樹脂の溶融粘度および溶融張力によって調整できる。揮発性発泡剤量を適正な量に調整することによって金型内部においてポリ乳酸系樹脂が発泡することを防止し、未発泡部を確実に形成できる。
【0068】
本発明においては、好ましくは210〜235℃の、より好ましくは215〜230℃のノズル金型の温度下でポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡を行う。210〜235℃の範囲にノズル金型の温度が含まれない場合、所望の球状ないし略球状でかつ連続気泡率の高いポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができないことがある。ここで、ノズル金型の温度とは、金型直近の流路から7mmの位置の温度を意味する。
【0069】
全ての回転刃5はノズル金型1の前端面1aに常時、接触した状態でポリ乳酸系樹脂押出物を切断していることから、ポリ乳酸系樹脂押出物は、ノズル金型1のノズルの出口部11から吐出された直後の未発泡部において切断されてポリ乳酸系樹脂発泡体が製造される。
【0070】
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、ポリ乳酸系樹脂押出物をその未発泡部で切断していることから、切断部の表面には気泡断面は存在しない。そして、ポリ乳酸系樹脂発泡体の表面全面は、気泡断面の存在しない表皮層で被覆されている。
【0071】
また、回転刃5は一定の回転数で回転していることが好ましい。回転刃5の回転数は、2000〜10000rpmが好ましく、3000〜9000rpmがより好ましく、4000〜8000rpmがさらに好ましい。
【0072】
これは、2000rpmを下回ると、ポリ乳酸系樹脂押出物を回転刃5によって確実に切断し難くなる。そのため、ポリ乳酸系樹脂発泡体同士が合体することがあり、ポリ乳酸系樹脂発泡体の形状が不均一となることもある。一方、10000rpmを上回ると下記の問題点を生じることがある。第一の問題点は、回転刃による切断応力が大きくなって、ポリ乳酸系樹脂発泡体がノズルの出口部から冷却部材に向かって飛散される際に、ポリ乳酸系樹脂発泡体の初速が速くなる。その結果、ポリ乳酸系樹脂押出物を切断してから、ポリ乳酸系樹脂発泡体が冷却部材に衝突するまでの時間が短くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡が不充分となることである。第2の問題点は、回転刃および回転軸の摩耗が大きくなって回転刃および回転軸の寿命が短くなることである。
【0073】
さらに、押出機の吐出量と回転数とは式(IV):
【数1】

(式中、
Dn:金型のノズル径(cm)
Q:一穴あたりの吐出量(g/hr)
R:カッター刃回転数(rpm)
N:カッター刃枚数(枚)
X:得られる発泡粒の倍数(g/cm3))
を満たすことが好ましい。式(IV)の関係を満たさない場合、同様に、所望の球状ないし略球状のポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができず、成形性等に影響を与えることがある。
【0074】
ポリ乳酸系樹脂発泡体は、回転刃5による切断応力によって切断と同時に外方あるいは前方に向かって飛散され、冷却ドラム41の周壁部41bの内周面に直ちに衝突する。ポリ乳酸系樹脂発泡体は、冷却ドラム41に衝突するまでの間も発泡し続けており、発泡によって球状ないし略球状に成長している。
【0075】
次いで、得られたポリ乳酸系樹脂発泡体をノズル金型の前方に配設した冷却部材を衝突させて冷却する。具体的には、冷却ドラム41の周壁部41bの内周面は全面的に冷却液42で被覆されており、冷却ドラム41の周壁部41bの内周面に衝突したポリ乳酸系樹脂発泡体は直ちに冷却されて、発泡が停止する。このように、ポリ乳酸系樹脂押出物を回転刃5によって切断した後に、ポリ乳酸系樹脂発泡体を直ちに冷却液42によって冷却していることで、ポリ乳酸系樹脂発泡体を構成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度が上昇するのを防止できると共に、ポリ乳酸系樹脂発泡体が過度に発泡するのを防止できる。
【0076】
従って、ポリ乳酸系樹脂発泡体は、型内発泡成形時に優れた発泡性および熱融着性を発揮する。型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度を上昇させて、ポリ乳酸系樹脂の耐熱性を向上でき、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体は優れた耐熱性を有している。
【0077】
なお、冷却液42の温度は、低いと、冷却ドラム41の近傍に位置するノズル金型が過度に冷却されて、ポリ乳酸系樹脂の押出発泡に悪影響が生じることがある。一方、高いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体を構成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度が高くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡体の熱融着性が低下することがある。よって、温度は、0〜45℃が好ましく、5〜40℃がより好ましく、10〜35℃が特に好ましい。
【0078】
本発明においては、得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温した場合、走査型示差熱量計により測定して得られるDSC曲線において、ポリ乳酸系樹脂の相変化に由来する、80〜115℃、好ましくは80〜113℃、より好ましくは85〜113℃の結晶化ピーク温度が認められる。
【0079】
前記結晶化ピーク温度は、ポリ乳酸系樹脂のみを含む樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により測定してDSC曲線において得られる前記ポリ乳酸系樹脂に由来する固有結晶化ピーク温度より10〜40℃、好ましくは15〜35℃、より好ましくは20〜35℃高いことを示す。このため、熱離履歴によりポリマー成分が劣化等することなく、十分に樹脂成分を軟化させつつ、ポリ乳酸系樹脂発泡体の発泡成型をより高温で行うことができる。このため、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は従来のポリ乳酸系樹脂発泡体と比べて、より高温で発泡成型をすることができ、熱融着性に優れている。なお本発明において、固有結晶化ピーク温度とは、DSC曲線において認められるポリ乳酸系樹脂成分にのみ由来するピーク温度を意味する。
【0080】
また、ポリ乳酸系樹脂発泡体は、好ましくは嵩密度0.03〜0.3g/cm3、より好ましくは嵩密度0.04〜0.2g/cm3を有する。嵩密度が0.3g/cm3より大きいと得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の重量が高くなり、実用性に乏しい場合がある。一方、嵩密度が0.03g/cm3より小さいと得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の強度が低くなり、構造部材等への使用が困難となる場合がある。
【0081】
ポリ乳酸系樹脂発泡体の平均粒子径は1〜5mmが好ましく、1.5〜4mmがより好ましい。平均粒子径が5mmより大きい場合、発泡成形機へのポリ乳酸系樹脂発泡体の充填性が低下することがあり、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の強度が低下することがある。また、1mmより小さい場合、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の嵩比重に影響を与えることがある。
【0082】
ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度は、15〜30%が好ましく、15〜25%がより好ましい。結晶化度が前記範囲に含まれない場合、発泡性に影響を与えることがある。ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化度は、ノズル金型1からポリ乳酸系樹脂押出物が押出されてからポリ乳酸系樹脂発泡体が冷却液42に衝突するまでの時間や、冷却液42の温度によって調整することもできる。
【0083】
(3)ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の製造方法
次いで、得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を、公知の発泡成形機を用いて加熱処理することによって、ポリ乳酸系樹脂発泡体同士を熱融着させ、所望のポリ乳酸系樹脂発泡成形体に型内成形することができる。
【0084】
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂発泡体はポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂を含むため、得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、好ましくは6mm以上、より好ましくは7mm以上の曲げ破断点変位を有する。このことは、従来の樹脂成分としてポリ乳酸系樹脂のみを含むポリ乳酸系樹脂発泡体と比べて良好な機械的特性を有していることを示している。また、本発明においては前記のポリ乳酸系樹脂発泡体を使用しているため、得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面状態も光沢性を有し、その外観も良好である。よって、本発明によれば美麗なポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる。
【0085】
このため、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡成形体は土木、建築、園芸分野等での構造部材、自動車分野での内装材、外装材等として幅広く使用することができる。
【実施例】
【0086】
以下実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
<ポリ乳酸系樹脂のD体またはL体の含有量>
ポリ乳酸系樹脂中におけるD体またはL体の含有量は以下の方法によって測定することができる。
ポリ乳酸系樹脂を凍結粉砕し、ポリ乳酸系樹脂の粉末200mgを三角フラスコ内に供給した後、三角フラスコ内に1Nの水酸化ナトリウム水溶液30mlを加える。そして、三角フラスコを振りながら65℃に加熱してポリ乳酸系樹脂を完全に溶解させる。しかる後に、1N塩酸を三角フラスコ内に供給して中和し、pHが4〜7の分解溶液を作製し、メスフラスコを用いて所定の体積とする。次に、分解溶液を0.45μmのメンブレンフィルタで濾過した後、液体クロマトグラフィを用いて分析し、得られたチャートに基づいてD体およびL体由来のピーク面積から面積比を存在比としてD体量およびL体量を算出する。そして、前記と同様の要領を5回繰り返して行い、得られたD体量およびL体量をそれぞれ相加平均して、ポリ乳酸系樹脂のD体量およびL体量とする。
【0087】
液体クロマトグラフィの測定条件
HPLC装置(液体クロマトグラフィ):日本分光社製 製品名PU−2085 Plus型システム
カラム:住友分析センター社製 製品名SUMICHIRAL OA5000(4.6mmφ×250mm)
カラム温度:25℃
移動相:2mM CuSO4水溶液と2−プロパノールとの混合液(CuSO4水溶液:2−プロパノール(体積比)=95:5)
移動相流量:1.0ml/分
検出器:UV 254nm
注入量:20μl
【0088】
<ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T>
貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tは次のようにして測定する。
まず、発泡粒子を製造する要領において、発泡剤を添加しないこと以外は同様の要領にて、ポリ乳酸系樹脂粒子を得る。このポリ乳酸系樹脂粒子を9.33×104Paの減圧下にて80℃で3時間に亘って乾燥する。このポリ乳酸系樹脂粒子を構成しているポリ乳酸系樹脂の融点よりも40〜50℃だけ高い温度に加熱した測定プレート上に載置して窒素雰囲気下にて5分間に亘って放置し溶融させる。次に、直径が25mmの平面円形状の押圧板を用意し、この押圧板を用いて測定プレート上のポリ乳酸系樹脂を押圧板と測定プレートとの対向面間の間隔が1mmとなるまで上下方向に押圧する。そして、押圧板の外周縁からはみ出したポリ乳酸系樹脂を除去した後、5分間に亘って放置する。
【0089】
しかる後、歪み5%、周波数1rad/秒、降温速度2℃/分、測定間隔30秒の条件下にて、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定を行って貯蔵弾性率および損失弾性率を測定する。次に、横軸を温度とし、縦軸を貯蔵弾性率および損失弾性率として、貯蔵弾性率曲線および損失弾性率曲線を描く。なお、貯蔵弾性率曲線および損失弾性率曲線を描くにあたっては、測定温度を基準として互いに隣接する測定値同士を直線で結ぶ。そして、得られた貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点を読み取ることで温度Tが得られる。なお、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線とが複数箇所において互いに交差する場合は、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との複数の交点における温度のうち最も高い温度を、温度Tとする。また、温度Tは、Reologica Instruments A.B社から商品名「DynAlyser DAR−100」にて市販されている動的粘弾性測定装置を用いて測定する。
【0090】
<ポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂のメルトフローレート>
メルトフローレートの測定はJIS K7210により行う。測定装置および測定条件を下記する。
・ポリ乳酸系樹脂
測定装置:東洋精機製作所製 メルトインデクサー
測定温度:190℃
測定荷重:21.2N
オリフィス径:2.09mm
・アクリル系樹脂
測定装置:東洋精機製作所製 メルトインデクサー
測定温度:230℃
測定荷重:37.3N
オリフィス径:2.09mm
樹脂5gを予め各温度に予熱したメルトインデクサー内に入れ、4分間放置する。次に各荷重の重りをピストンに載せ、オリフィス径2.09mmより樹脂を押し出し測定する。
【0091】
<ポリ乳酸系樹脂発泡体の結晶化ピーク温度>
結晶化温度測定は、DSC測定(JISK7121プラスチックの転移温度測定法およびJISK7122 プラスチックの転移熱測定方法に準拠)により求められる値とする。すなわち、示差走査熱量計装置 DSC6220型(エスアイアイナノテクノロジー(株)社製)を用い、試料量6〜7mgを前記実施例で得られたポリ乳酸系樹脂発泡体から切り出し、試験片を示差走査熱量計装置の容器に入れ、23℃から210℃まで昇温速度5℃/minで昇温する。昇温時に見られる低温側の発熱に由来するピークを結晶化ピークとし、そのピークのピークトップを結晶化ピーク温度とする。また同様に、ポリ乳酸系樹脂のみを含む樹脂発泡体についてのポリ乳酸系樹脂に由来する固有結晶化ピーク温度も測定する。
【0092】
<ポリ乳酸系樹脂発泡体の嵩密度>
ポリ乳酸系樹脂発泡体の嵩密度は、JIS K6911:1995年「熱硬化性プラ
スチック一般試験方法」に準拠して測定されたものをいう。即ち、JIS K6911に
準拠した見掛け密度測定器を用いて測定し、下記式に基づいてポリ乳酸系樹脂発泡体の
嵩密度を測定する。
ポリ乳酸系樹脂発泡体の嵩密度(g/cm3
=〔試料を入れたメスシリンダーの質量(g)−メスシリンダーの質量(g)〕
/〔メスシリンダーの容量(cm3)〕
【0093】
<ポリ乳酸系樹脂発泡体の成形性>
ポリ乳酸系樹脂発泡体の成形性は以下の通りに評価した。
○:98℃の水蒸気を用いて成形を行い、外観良好な成形品が得られた。
×:成形後に成形品の収縮が見られた。
【0094】
<ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面状態>
ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面性は、以下の通りに評価した。
○:表面に光沢性がある。
×:表面に光沢性がない。
【0095】
<ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の曲げ破断点変位>
ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の曲げ破断点変位は、JIS K7221−1 硬質発泡プラスチック-曲げ試験-第1部:曲げ試験に準拠して行った。詳しくは、試験装置:テンシロン万能試験機 UCT−10T((株)オリエンテック製)を用い、以下の試験条件で測定した。曲げ破断点変位は、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体が、破断するときの変位量を測定した。
試験片:25W×130L×20T(mm)(片面スキン有り,スキン面より加圧)
試験速度:10mm/min
支点間距離:100(mm)
たわみ量:35mm
先端治具:加圧くさび…5R 支持台…5R 試験数:3 試験片状態調節
試験環境:23±2℃ RH50±5% 16時間
【0096】
<ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の加熱寸法変化>
ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の加熱寸法変化は、以下の通りに評価した。
得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体を100℃に維持された電気オーブン内に22時間に亘って放置した。そして、電気オーブン内に放置する前後のポリ乳酸系樹脂発泡成形体の寸法を測定し、下記式に基づいて寸法変化率を算出し耐熱性として評価した。なお、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の寸法は、縦方向、横方向及び高さ方向の寸法の相加平均値とした。
加熱寸法変化率(%)=100×(加熱後の寸法−加熱前の寸法)/加熱前の寸法
加熱寸法変化率を以下の通りに評価した。
○:加熱寸法変化率が5%以下の場合
×:加熱寸法変化率が5%より高い場合、及び成形品が得られなかった場合
【0097】
実施例1
結晶性のポリ乳酸系樹脂(ユニチカ社製 商品名「TERRAMAC HV−6250H」、融点(mp):169.1℃、D体比率:1.2モル%、L体比率:98.8モル%、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T:138.8℃、Fpla:4g/10分)90重量部および気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末(旭硝子社製 商品名「フルオンL169J」)0.1重量部、アクリル系樹脂(住友化学社製 スミペックスMG5、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの共重合体、Fac:5g/10分)10重量部を口径が50mmの単軸押出機に前記樹脂を投入した。続いて、単軸押出機の途中から、イソブタン35重量%およびノルマルブタン65重量%からなるブタンをポリ乳酸系樹脂とアクリル系樹脂との樹脂組成物100重量部に対して1.1重量部となるように溶融状態の樹脂組成物に圧入して、樹脂組成物中に均一に分散させた。
【0098】
しかる後、溶融状態の樹脂組成物を冷却した後、単軸押出機の前端に取り付けた出口部の直径が1mmのノズルを20個有しているマルチノズル金型の各ノズルから剪断速度7639sec-1樹脂温度170℃で樹脂組成物を押出発泡させた。押し出されたポリ乳酸系樹脂押出物は、いわゆるホットカット法により切断し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を得た。切断工程においては、ポリ乳酸系樹脂押出物の切断は、回転軸を回転させ、ノズル金型の前端面に配設された回転刃を4000rpmの一定の回転数で回転させて行った。
【0099】
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、直径が2.3〜3.5mmであり、発泡粒密度は0.20g/cm3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を10リットルの圧力容器内に供給して密閉し、この圧力容器内に二酸化炭素を0.4MPaの圧力で圧入して25℃にて2時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡体に二酸化炭素を含浸した。二酸化炭素を含浸させたポリ乳酸系樹脂発泡体をアルミニウム製の金型のキャビティ内に充填した。なお、金型のキャビティの内寸は、縦200mm×横200mm×高さ20mmの直方体形状であった。また、金型に、この金型のキャビティ内と金型外部とを連通させるために、直径が8mmの円形状の供給口を20mm間隔毎に合計252個、形成した。なお、各供給口には、開口幅が1mmの格子部を設けてあり、金型内に充填したポリ乳酸系樹脂発泡体がこの供給口を通じて金型外に流出しないように形成されている一方、金型の供給口を通じて金型外からキャビティ内に水蒸気を円滑に供給することができるように構成されていた。前記キャビティに98℃の水蒸気を3分間導入し、加熱成形した。冷却したのち、40℃―24時間乾燥を行い、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体の中心部(縦100mm、横100mm、厚み10mm付近)から、サンプルを6〜7mg採取し、結晶化温度を上記記載の方法で、測定を実施し、結晶化温度を測定した。
【0100】
実施例2
実施例1で得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を10リットルの圧力容器内に供給して密閉し、この圧力容器内に二酸化炭素を1MPaの圧力で圧入して25℃にて5時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡体に二酸化炭素を含浸した。前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を圧力容器から取り出して、ポリ乳酸系樹脂発泡体を直ちに撹拌機付きの熱風乾燥機に供給し、ポリ乳酸系樹脂発泡体を撹拌しながら65℃の乾燥した熱風で3分間に亘って加熱して発泡させ、粒径が3〜4mm、嵩密度が0.058g/cm3のポリ乳酸系樹脂発泡体を得た。
【0101】
得られた高発泡倍率のポリ乳酸系樹脂発泡体を密閉容器内に供給して、この密閉容器内に二酸化炭素を0.8MPaの圧力にて圧入して常温にて24時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡体に二酸化炭素を含浸させた。二酸化炭素を含浸させたポリ乳酸系樹脂発泡体をアルミニウム製の金型のキャビティ内に充填した。なお、金型のキャビティの内寸は、縦200mm×横200mm×高さ20mmの直方体形状であった。また、金型に、この金型のキャビティ内と金型外部とを連通させるために、直径が8mmの円形状の供給口を20mm間隔毎に合計252個、形成した。なお、各供給口には、開口幅が1mmの格子部を設けてあり、金型内に充填したポリ乳酸系樹脂発泡体がこの供給口を通じて金型外に流出しないように形成されている一方、金型の供給口を通じて金型外からキャビティ内に水蒸気を円滑に供給することができるように構成されていた。前記キャビティに98℃の水蒸気を3分間導入し、加熱成形した。冷却したのち、40℃―24時間乾燥を行い、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。
【0102】
実施例3
結晶性のポリ乳酸系樹脂(ユニチカ社製 商品名「TERRAMAC HV−6250H」、融点(mp):169.1℃、D体比率:1.2モル%、L体比率:98.8モル%、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T:138.8℃、Fpla:4g/10分)70重量部および気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末(旭硝子社製 商品名「フルオンL169J」)0.1重量部、アクリル系樹脂として(住友化学社製 スミペックスMH EXTRA、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの共重合体、Fac:2g/10分)30重量部に変更したこと以外は実施例1、2と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、直径が3〜4mm、嵩密度が0.061g/cm3であった。
【0103】
実施例4
ポリ乳酸系樹脂を60重量部およびアクリル系樹脂(旭化成社製(デルペット560F)、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの共重合体、Fac:13g/10分)を40重量部に変更したこと以外は実施例1、2と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、直径が3〜4mm、嵩密度が0.065g/cm3であった。
【0104】
比較例1
ポリ乳酸系樹脂を100重量部、アクリル系樹脂を添加しなかったこと以外は実施例1および2と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は直径が3.0〜4.0mm、嵩密度が0.055g/cm3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、成形性が悪く、曲げ破断点変位に劣るものであった。
【0105】
比較例2
ポリ乳酸系樹脂として、ポリ乳酸系樹脂(三井化学社製 商品名「LACEA H−360」、融点(mp):142.5℃、D体比率:6モル%、L体比率:94モル%、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T:112.7℃、Fpla:2.5g/10分)90重量部および気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末(旭硝子社製 商品名「フルオンL169J」)0.1重量部、アクリル系樹脂として(住友化学社製 スミペックスEX、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの共重合体、Fac:1.5g/10分)10重量部を口径が65mmの単軸押出機に供給したこと以外は実施例1および2と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡体およびポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は、直径が2〜2.8mm、嵩密度が0.18g/cm3であり、成形時の加熱により収縮が激しく成形品を得ることができなかった。
【0106】
比較例3
結晶性のポリ乳酸系樹脂(ユニチカ社製 商品名「TERRAMAC HV−6250H」、融点(mp):169.1℃、D体比率:1.2モル%、L体比率:98.8モル%、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T:138.8℃、Fpla:4g/10分)70重量部および気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末(旭硝子社製 商品名「フルオンL169J」)0.1重量部、アクリル系樹脂として(住友化学社製 スミペックスEX、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルの共重合体、Fac:0.5g/10分)30重量部を口径が65mmの単軸押出機に供給したこと以外は実施例1および2と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡体を作製したが、押出圧力が高く発泡粒子を得ることができなかった。
【0107】
表1に、実施例および比較例の原料種、発泡成形体の評価結果等を示す。
【0108】
図3および図4に、実施例1、比較例1のDSC曲線を示す。
【0109】
【表1】

【0110】
表1に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体の嵩密度、連続気泡率および成形性の評価結果から、実施例1〜4で得られたポリ乳酸系樹脂発泡体は比較例のものと比べて、熱融着性、生分解性および成形性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体であることを示している。表1に記載のポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面状態、曲げ破断点変位および加熱寸法変化の評価結果から、実施例1〜4で得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は比較例のものと比べて、機械的強度に優れ、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂発泡体であることを示している。
【0111】
従って、本発明のポリ乳酸系樹脂成形体は土木、建築、園芸分野等での構造部材、自動車分野での内装材、外装材等として幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 ノズル金型
1a ノズル金型1の前端面
2 回転軸
3 駆動部材(モータ)
4 冷却部材
5 回転刃
11 ノズルの出口部
41 冷却ドラム
41a 冷却ドラムの前部
41b 冷却ドラムの周壁部
41c 冷却ドラムの供給口
41d 冷却ドラムの供給管
41e 冷却ドラムの排出口
41f 冷却ドラムの排出管
42 冷却ドラムの冷却液
A 回転刃フォルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうち少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、または、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有するポリ乳酸系樹脂およびアクリル系樹脂を含むポリ乳酸系樹脂発泡体であり、
前記ポリ乳酸系樹脂を、前記ポリ乳酸系樹脂と前記アクリル系樹脂との合計量100重量部に対して50重量部より多く90重量部以下の割合で含み、
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において、前記ポリ乳酸系樹脂に由来する85〜115℃の結晶化ピーク温度を有し、
前記結晶化ピーク温度が、前記ポリ乳酸系樹脂のみを含む樹脂発泡体を23℃から210℃まで5℃/分の昇温速度で昇温したときに、走査型示差熱量計により得られるDSC曲線において測定される前記ポリ乳酸系樹脂に由来する固有結晶化ピーク温度より10〜40℃高く、
下記式(I):
0.1≦Fpla/Fac≦2.5・・・・・式(I)
(式中、Fplaは190℃、21.2Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートであり、Facは230℃、37.3Nの荷重下で測定した前記ポリ乳酸系樹脂のメルトフローレートである。)
を満たすことを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂が、その融点(mp)と、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとが、下記式(II):
(ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃)
≦(交点における温度T)≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)・・・・・式(II)
を満たす請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂が、メタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキルの共重合体である請求項1または2に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項4】
前記ポリ乳酸系樹脂発泡体が、0.03〜0.3g/cm3の嵩密度を有する請求項1〜3のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂発泡体を成形することによって得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体。
【請求項6】
前記ポリ乳酸系樹脂発泡成形体が、6mm以上の曲げ破断点変位を有する請求項5に記載のポリ乳酸系樹脂発泡成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−77150(P2012−77150A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222346(P2010−222346)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】