説明

ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法及びポリ乳酸系樹脂発泡体

【課題】表面性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができるポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部及び発泡剤として二酸化炭素11〜21重量部を押出機に供給して溶融混練し押出発泡させて平均気泡径が40〜250μmで且つ見掛け密度が30〜100kg/m3のポリ乳酸系樹脂発泡体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法及びポリ乳酸系樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油をはじめとする化石燃料の使用による大気中への温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化が近年一層深刻さを増しつつあり、温室効果ガス排出量の削減の要望が年々強くなってきている。
【0003】
上記要望に対応するべく、非化石原料の検討が加速され、植物由来の樹脂が注目されてきている。特に、ポリ乳酸系樹脂は、天然に存在する乳酸を重合して得られた合成樹脂であって、自然界に存在する微生物によって分解可能な生分解性樹脂であると共に、常温での機械的特性についても優れていることから注目を集めている。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸系樹脂は、溶融張力が低く、歪硬化性も乏しいため、押出発泡成形において気泡が安定せず、気泡が成長しても破泡してしまい、均一な気泡径を有する発泡体を得ることが困難である。
【0005】
そこで、特許文献1には、重量平均分子量が10〜30万、酸価が10〜20(当量/重量トン)の結晶性ポリ乳酸系重合体(A)と、分子内に2つ以上のエポキシ官能基を有する化合物(B)からなる樹脂組成物(C)において、結晶性ポリ乳酸系重合体(A)の酸価総量(X:当量/重量トン)と化合物(B)のエポキシ官能基総量(Y:当量/重量トン)の比(X/Y)が0.3〜1.3である樹脂組成物(C)からなる発泡体が開示されている。
【0006】
又、特許文献2には、結晶性ポリ乳酸系重合体を95重量%以上含有する樹脂組成物を、超臨界状態の揮発性発泡剤で発泡させたポリ乳酸系樹脂押出発泡体であって、該発泡体の密度収縮率が10%未満であるポリ乳酸系樹脂押出発泡体が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載されたポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法において、架橋剤を添加した場合、ポリ乳酸系重合体の溶融粘度が上昇してしまうため、押出機に加わる負荷が高くなり、生産性が低下するという問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−231285号公報
【特許文献2】特開2008−231283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、押出機に加わる負荷を低減し、表面性に優れたポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができるポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法及びこの製造方法で得られたポリ乳酸系樹脂発泡体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法は、結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部及び発泡剤として二酸化炭素11〜21重量部を押出機に供給して溶融混練し押出発泡させて平均気泡径が40〜250μmで且つ見掛け密度が30〜100kg/m3のポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することを特徴とする。
【0011】
先ず、本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂について説明する。本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂は、一般に市販されている結晶性ポリ乳酸系樹脂を用いることができ、具体的には、D−乳酸及びL−乳酸をモノマーとして共重合させるか、D−乳酸又はL−乳酸の何れか一方をモノマーとして重合させるか、或いは、D−ラクチド、L−ラクチド及びDL−ラクチドからなる群より選ばれた一又は二以上のラクチドを開環重合させることによって得ることができ、何れの結晶性ポリ乳酸系樹脂であってもよい。
【0012】
上記結晶性ポリ乳酸系樹脂が、その構成モノマー成分としてD体及びL体の双方の光学異性体を含有し且つD体又はL体のうちの少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、或いは、構成モノマー成分としてD体又はL体のうちの何れか一方の光学異性体のみを含有している場合、得られるポリ乳酸系樹脂は、その結晶性が高くなり融点が高くなる一方、モノマーとしてD体とL体とを併用した場合においてD体又はL体のうちの少ない方の割合が5モル%以上である時は、少ない方の光学異性体が増加するにしたがって、得られる結晶性ポリ乳酸系樹脂は、その結晶性が低くなり、耐熱性が低下する。
【0013】
従って、本発明では、構成モノマー成分としてD体及びL体の双方の光学異性体を含有し且つD体又はL体のうちの少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるポリ乳酸樹脂か、或いは、構成モノマー成分としてD体又はL体のうちの何れか一方の光学異性体のみを含有している結晶性ポリ乳酸系樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
ここで、ポリ乳酸系樹脂中におけるD体又はL体の含有量は以下の方法によって測定することができる。ポリ乳酸系樹脂を凍結粉砕し、ポリ乳酸系樹脂の粉末200mgを三角フラスコ内に供給した後、三角フラスコ内に1Nの水酸化ナトリウム水溶液30ミリリットルを加える。そして、三角フラスコを振りながら65℃に加熱してポリ乳酸系樹脂を完全に溶解させる。しかる後、1N塩酸を三角フラスコ内に供給して中和し、pHが4〜7の分解溶液を作製し、メスフラスコを用いて所定の体積とする。
【0015】
次に、分解溶液を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した後、液体クロマトグラフを用いて分析し、得られたチャートに基づいてD体及びL体由来のピーク面積から面積比を存在比としてD体量及びL体量を算出する。そして、上述と同様の要領を5回繰り返して行い、得られたD体量及びL体量をそれぞれ相加平均して、ポリ乳酸系樹脂のD体量及びL体量とした。
【0016】
HPLC装置(液体クロマトグラフ):日本分光社製 商品名「PU-2085 Plus型システム」
カラム:住友分析センター社製 商品名「SUMICHIRAL OA5000」(4.6mmφ×250mm)
カラム温度:25℃
移動相:2mMCuSO4水溶液と2-プロパノールとの混合液
(CuSO4水溶液:2-プロパノール(体積比)=95:5)
移動相流量:1.0ミリリットル/分
検出器:UV 254nm
注入量:20マイクロリットル
【0017】
結晶性ポリ乳酸系樹脂の熱機械的分析(TMA)による軟化温度は、低いと、得られるポリ乳酸系樹脂発泡体の耐熱性が低下することがあるので、120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、150℃以上が特に好ましく、高過ぎると、結晶性ポリ乳酸系樹脂を押出機で溶融混練する際に結晶性ポリ乳酸系樹脂を高温に加熱する必要があり、結晶性ポリ乳酸系樹脂が劣化することがあるので、170℃以下が好ましい。
【0018】
なお、結晶性ポリ乳酸系樹脂の熱機械的分析(TMA)による軟化温度は、JIS K7196に準拠して測定された温度をいう。具体的には、結晶性ポリ乳酸系樹脂を真空度70cmHg以下にて雰囲気温度80℃で5時間に亘って乾燥処理する。
【0019】
上記結晶性ポリ乳酸系樹脂を200℃の熱プレス機で3分間に亘って予備加熱した直後に、結晶性ポリ乳酸系樹脂を10MPaの圧力で2分間に亘って押圧した上で3分間に亘って冷却して、一辺が150mmの平面正方形状で且つ厚みが1mmの板状体を作製する。
【0020】
上記板状体を130℃の恒温槽にて5時間に亘ってアニーリング処理し、板状体から一辺が5mmの平面正方形状で且つ厚みが1mmの試験片を切り出し、この試験片を真空度70cmHg以下にて雰囲気温度80℃で5時間に亘って乾燥処理する。
【0021】
得られた試験片をTMA軟化温度測定装置内の試料台中央に載置する。先端部が直径1mmで且つ長さが1mmの円柱状に形成された圧子を試験片の上面中央部に静かに置き、圧子を試験片の上面に0.5±0.01Nの圧力で押し付ける。なお、試験片の雰囲気は純度99.5体積%の窒素で充満させておく。試験片の雰囲気温度を室温から5℃/分の昇温速度で昇温させ、圧子の試験片への侵入が完了し、横軸に温度、縦軸に変位量をとって描かれるTMA曲線が平坦となるまで測定を行う。
【0022】
得られたTMA曲線において、圧子が試験片に侵入を始めるよりも低温側に表れている直線部を高温側に延長して第一直線とする一方、圧子の試験片への侵入速度が最大となるTMA曲線部分における接線を低温側に延長して第二直線とし、第一直線と第二直線との交点の温度をポリ乳酸系樹脂の熱機械的分析による軟化温度とする。
【0023】
なお、ポリ乳酸系樹脂の熱機械的分析による軟化温度は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社から商品名「EXSTAR TMA/SS6100」にて市販されている測定装置を用いて測定することができる。
【0024】
結晶性ポリ乳酸系樹脂は、加熱下で加水分解を受けやすいため、予め乾燥機で含有水分率を結晶性ポリ乳酸系樹脂の全重量に対して500ppm以下にしておくことが好ましく、300ppm以下にしておくことがより好ましい。
【0025】
上記結晶性ポリ乳酸系樹脂を押出機に供給して押出発泡するが、結晶性ポリ乳酸系樹脂の他に架橋剤を供給することが好ましい。架橋剤としては、特に限定されないが、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル−スチレン系架橋剤が好ましい。なお、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0026】
分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル−スチレン系架橋剤は、理由は定かではないが、エポキシ基間に嵩高い分子構造を有していることから、架橋構造によるポリ乳酸系樹脂の増粘効果を奏すると共に、押出発泡工程におけるゲル化物の生成を抑制することができ、押出発泡を安定的に行うことができる。
【0027】
分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル−スチレン系架橋剤は、エポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーとスチレンモノマーとを共重合させて得られた重合体である。
【0028】
エポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどの1,2−エポキシ基を含有するモノマーが挙げられる。又、スチレンモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0029】
分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル−スチレン系架橋剤は、その共重合成分にエポキシ基を有しない(メタ)アクリルモノマーを含有していてもよく、このような(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。
【0030】
押出機に供給する架橋剤の量は、多いと、結晶性ポリ乳酸系樹脂の架橋密度が高くなり過ぎて結晶性ポリ乳酸系樹脂がゲル化することがあるので、結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、0.01〜1重量部がより好ましい。
【0031】
又、押出機には、架橋剤の他に、気泡核剤、顔料、酸化防止剤、加水分解抑制剤、結晶核剤などの添加剤が必要に応じて供給されてもよい。
【0032】
気泡核剤としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸の混合物などの有機化合物などが挙げられ、タルク、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。なお、気泡核剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0033】
顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料などが挙げられる。
【0034】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などの酸化防止剤が挙げられる。加水分解抑制剤としてはカルボジイミド系の加水分解抑制剤が挙げられる。
【0035】
結晶核剤としては、例えば、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチエレンビスラウリル酸アミドなどの脂肪族カルボン酸アミド系結晶核剤や、脂環族カルボン酸アミド系、芳香族カルボン酸アミド系などの有機系結晶核剤、タルク、スメクタイトなどの層状ケイ酸塩など無機系結晶核剤が挙げられる。
【0036】
結晶性ポリ乳酸系樹脂に必要に応じて架橋剤やその他の添加剤を押出機に供給して溶融混練すると共に、押出機内に発泡剤として二酸化炭素を供給し、ポリ乳酸系樹脂中に二酸化炭素を分散させた後に押出機の先端に取り付けたダイから押出発泡してポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができる。なお、押出機としては、単軸押出機、二軸押出機、タンデム型押出機などが挙げられ、タンデム型押出機が好ましい。ダイとしては、Tダイ、環状ダイなどの汎用のダイが用いられる。ダイと押出機との間にギヤポンプなどを配設してもよい。
【0037】
結晶性ポリ乳酸系樹脂、架橋剤及びその他の添加剤は、それぞれ別々に押出機に供給してもよいし、予めポリ乳酸系樹脂に架橋剤及びその他の添加剤を混合してなるマスターバッチとして押出機に供給してもよい。
【0038】
詳細には、例えば、第一押出機に第二押出機が接続されてなるタンデム型押出機を用い、第一押出機に、結晶性ポリ乳酸系樹脂に必要に応じて架橋剤やその他の添加剤を供給して溶融混練すると共に押出機内に二酸化炭素を圧入して溶融混練して、結晶性ポリ乳酸系樹脂中に二酸化炭素を分散させてなる発泡性樹脂組成物とし、この発泡性樹脂組成物を連続的に第二押出機に供給して押出発泡に適した温度に冷却した上で、第二押出機の先端に取り付けたダイから発泡性樹脂組成物を押出発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができる。
【0039】
押出機中に供給する二酸化炭素の量は、少ないと、押出機に加わる負荷が大きくなり、押出発泡が不可能となり、或いは、押出機に加わる負荷を抑えるために樹脂温度を上げると、発泡性樹脂組成物の押出発泡性が低下し、低密度のポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することができず、多いと、結晶性ポリ乳酸系樹脂の溶融粘度が低下し過ぎて押出発泡が不安定となるので、結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して11〜21重量部に限定され、11〜18重量部が好ましく、11〜15重量部がより好ましい。
【0040】
得られたポリ乳酸系樹脂発泡体の平均気泡径は、小さいと、ポリ乳酸系樹脂発泡体の見掛け密度が大きくなり、大きいと、ポリ乳酸系樹脂発泡体の表面性が低下するので、40〜250μmに限定され、50〜250μmが好ましく、80〜200μmがより好ましい。
【0041】
なお、ポリ乳酸系樹脂発泡体の平均気泡径は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して測定された平均弦長に基づいて算出されたものをいう。具体的には、ポリ乳酸系樹脂発泡体を平均気泡径を測定したい方向に沿った面で切断し、その切断面のうちの外周部を除いた中央部分を任意に4箇所、走査型電子顕微鏡を用いて拡大して電子顕微鏡写真を撮影する。
【0042】
次に、撮影した各写真に写真上長さ60mmの直線を、平均気泡径を測定したい方向に描き、この直線上にある気泡数から、気泡の平均弦長tを下記式1に基づいて算出する。直線は写真毎に6本づつ描き、直線ごとに平均弦長tを算出し、写真毎に平均弦長tの相加平均を算出し、この相加平均値を気泡の平均弦長tとする。なお、直線上に長さ60mmの直線を描けない場合には、長さ20mm或いは30mmの直線を写真上に描き、この直線上にある気泡数を測定し、長さ60mmの直線上にある気泡数に比例換算する。
平均弦長t=60/(気泡数×写真の倍率)・・・式1
【0043】
そして、下記式2により気泡径Dを算出し、各写真の気泡径Dの相加平均をポリ乳酸系樹脂発泡体の所望方向の平均気泡径とする。
気泡径D=平均弦長t/0.616・・・式2
【0044】
上述の要領で、ポリ乳酸系樹脂発泡体における押出方向(MD)及び押出方向に直交する方向(TD)の平均気泡径をそれぞれ測定し、MDの平均気泡径とTDの平均気泡径の相加平均値をポリ乳酸系樹脂発泡体の平均気泡径とする。
【0045】
又、ポリ乳酸系樹脂発泡体の見掛け密度は、低いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体の機械的強度が低下し、高いと、ポリ乳酸系樹脂発泡体の軽量性が低下するので、30〜100kg/m3に限定され、30〜80kg/m3が好ましい。
【0046】
なお、ポリ乳酸系樹脂発泡体の見掛け密度は下記の要領で測定されたものをいう。先ず、ポリ乳酸系樹脂発泡体の重量Wgを測定する。次に、メスシリンダー内に水を入れ、この水中にポリ乳酸系樹脂発泡体を完全に沈め、ポリ乳酸系樹脂発泡体を沈める前後のメスシリンダー内の水量の差をポリ乳酸系樹脂発泡体の体積Vcm3とし、下記式に基づいてポリ乳酸系樹脂発泡体の見掛け密度を算出する。
ポリ乳酸系樹脂発泡体の見掛け密度(g/cm3)=W/V
【発明の効果】
【0047】
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法は、上述のようにして構成されていることから、得られるポリ乳酸系樹脂発泡体は、優れた表面性及び軽量性を有している。そして、ポリ乳酸系樹脂発泡体は、生分解性を有していると共に、石油由来樹脂ではないポリ乳酸系樹脂を用いていることから、二酸化炭素の排出量の抑制を図ることができ、地球環境の保護を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
結晶性ポリ乳酸系樹脂(ユニチカ社製 商品名「TP4000」、熱機械的分析による軟化温度:160℃、D体:1モル%、L体:99モル%)を熱風循環式除湿乾燥機内にて80℃で3時間に亘って乾燥させた。結晶性ポリ乳酸系樹脂の含有水分率は、結晶性ポリ乳酸系樹脂の全重量に対して250ppmであった。
【0050】
この結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部と、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤のマスターバッチ(クラリアント社製 商品名「Cesa−Extend OMAN698493」、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤の含有量:30重量%、結晶性ポリ乳酸系樹脂の含有量:70重量%)1重量部とをドライブレンドして均一に混合してポリ乳酸系樹脂組成物を作製した。
【0051】
次に、第一押出機(L/D:30、口径φ:40mm)の先端に接続配管を介して第二押出機(L/D:28、口径φ:50mm)が接続されてなるタンデム型押出機を用意し、このタンデム型押出機の第一押出機に上記ポリ乳酸系樹脂組成物を供給して220℃にて溶融混練すると共に、第一押出機の途中から二酸化炭素をポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して12.4重量部となるように圧入して、ポリ乳酸系樹脂組成物中に二酸化炭素を均一に分散させて発泡性樹脂組成物を作製した。
【0052】
そして、第一押出機から発泡性樹脂組成物を第二押出機に接続配管を介して連続的に供給して所定温度に冷却した上で第二押出機の先端に取り付けられている朝顔型環状ダイ(クリアランスの外径:30mm、スリットクリアランス)0.3mm)から押出発泡させて円筒状のポリ乳酸系樹脂発泡体を製造し、このポリ乳酸系樹脂発泡体を徐々に拡径させた後に冷却マンドレルに供給して冷却した。しかる後、円筒状のポリ乳酸系樹脂発泡体をその押出方向に内外周面間に亘って切断して展開することによってポリ乳酸系樹脂発泡シートを得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が141μm、見掛け密度が50kg/m3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは優れた表面性を有していた。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は26MPa、発泡性樹脂組成物の温度は136℃であった。
【0053】
なお、第一押出機はシリンダー3ゾーンを有しており、ホッパー側からシリンダーをそれぞれ、シリンダー1、2、3とし、シリンダー1を200℃、シリンダー2を230℃、シリンダー3を210℃に保持した。
【0054】
第二押出機はシリンダー3ゾーンを有しており、第一押出機側からシリンダーをそれぞれ、シリンダー1、2、3とし、シリンダー1を125℃、シリンダー2及び3を120℃に保持した。朝顔型環状ダイを135℃に、接続配管を175℃に保持した。
【0055】
(実施例2)
第一押出機に圧入した二酸化炭素の量を、ポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して12.4重量部の代わりに14.9重量部としたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が138μm、見掛け密度が47kg/m3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは優れた表面性を有していた。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は27MPa、発泡性樹脂組成物の温度は134℃であった。
【0056】
(実施例3)
第一押出機にポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂組成物100重量部に対しタルクを3重量部供給したこと、朝顔型環状ダイの温度を137℃に保持したこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が130μm、見掛け密度が63kg/m3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは優れた表面性を有していた。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は28MPa、発泡性樹脂組成物の温度は137℃であった。
【0057】
(実施例4)
結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部と、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤のマスターバッチ(クラリアント社製 商品名「Cesa−Extend OMAN698493」、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤の含有量:30重量%、結晶性ポリ乳酸系樹脂の含有量:70重量%)2重量部とをドライブレンドして均一に混合してポリ乳酸系樹脂組成物を作製したこと、第一押出機に圧入した二酸化炭素の量を、ポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して12.4重量部の代わりに11.5重量部としたこと、第二押出機のシリンダー1〜3を全て130℃に保持したこと、朝顔型環状ダイを145℃に保持したこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が115μm、見掛け密度が60kg/m3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは優れた表面性を有していた。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は27MPa、発泡性樹脂組成物の温度は145℃であった。
【0058】
(実施例5)
結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部と、架橋剤として分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤(BASF社製 商品名「ADR−4368CS」)0.5重量部とをドライブレンドして均一に混合してポリ乳酸系樹脂組成物を作製したこと、第二押出機のシリンダー1〜3を順に、150℃、140℃、140℃に保持したこと、朝顔型環状ダイを140℃に保持したこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が118μm、見掛け密度が57kg/m3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは優れた表面性を有していた。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は28MPa、発泡性樹脂組成物の温度は141℃であった。
【0059】
(実施例6)
結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部と、架橋剤として分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤(BASF社製 商品名「ADR−4368CS」)0.5重量部とをドライブレンドして均一に混合してポリ乳酸系樹脂組成物を作製したこと、第一押出機に圧入した二酸化炭素の量を、ポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して12.4重量部の代わりに14.9重量部としたこと、第二押出機のシリンダー1〜3を順に、150℃、135℃、135℃に保持したこと、朝顔型環状ダイを137℃に保持したこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が127μm、見掛け密度が50kg/m3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは優れた表面性を有していた。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は28MPa、発泡性樹脂組成物の温度は137℃であった。
【0060】
(実施例7)
ポリ乳酸系樹脂としてユニチカ社から商品名「HV6250H」にて市販されている結晶性ポリ乳酸系樹脂(熱機械的分析による軟化温度:158℃、D体:1モル%、L体:99モル%)を用いたこと、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤のマスターバッチを用いなかったこと、第一押出機に圧入した二酸化炭素の量を、ポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して12.4重量部の代わりに11.5重量部としたこと、第二押出機のシリンダー1〜3を順に、150℃、135℃、136℃に保持したこと、朝顔型環状ダイを136℃に保持したこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは、その平均気泡径が133μm、見掛け密度が63kg/m3であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡シートは優れた表面性を有していた。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は14MPa、発泡性樹脂組成物の温度は135℃であった。
【0061】
(比較例1)
第一押出機に圧入した二酸化炭素の量を、ポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して12.4重量部の代わりに7.5重量部としたこと、第二押出機のシリンダー1〜3を全て160℃に保持したこと、朝顔型環状ダイを160℃に保持したこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを製造しようとしたが、第一、第二押出機内の負荷が上がり過ぎてポリ乳酸系樹脂発泡シートを製造することができなかった。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は29MPa、発泡性樹脂組成物の温度は163℃であった。
【0062】
(比較例2)
第一押出機に圧入した二酸化炭素の量を、ポリ乳酸系樹脂組成物を構成している結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して12.4重量部の代わりに22重量部としたこと、第二押出機のシリンダー1〜3を全て120℃に保持したこと、朝顔型環状ダイを125℃に保持したこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡シートを製造しようとしたが、第二押出機内において結晶性ポリ乳酸系樹脂が結晶化してしまうために押出発泡することできず、ポリ乳酸系樹脂発泡シートを製造することができなかった。朝顔型環状ダイ部分において、発泡性樹脂組成物の圧力は27MPa、発泡性樹脂組成物の温度は134℃であった。
【0063】
【表1】

【0064】
なお、表1において、結晶性ポリ乳酸系樹脂Aは、ユニチカ社から商品名「TP4000」にて市販されている結晶性ポリ乳酸系樹脂を意味し、結晶性ポリ乳酸系樹脂Bは、ユニチカ社から商品名「HV6250H」にて市販されている結晶性ポリ乳酸系樹脂を意味する。
【0065】
又、表1において、架橋剤Aは、クラリアント社から商品名「Cesa−Extend OMAN698493」で市販されているマスターバッチ中に含有されている分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤を意味し、架橋剤Bは、BASF社から商品名「ADR−4368CS」で市販されているマスターバッチ中に含有されている分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性アクリル−スチレン系架橋剤を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部及び発泡剤として二酸化炭素11〜21重量部を押出機に供給して溶融混練し押出発泡させて平均気泡径が40〜250μmで且つ見掛け密度が30〜100kg/m3のポリ乳酸系樹脂発泡体を製造することを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
結晶性ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して架橋剤5重量部以下を押出機に供給することを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
結晶性ポリ乳酸系樹脂の熱機械的分析による軟化温度が120℃以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法で得られたことを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体。

【公開番号】特開2011−16941(P2011−16941A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163085(P2009−163085)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】