説明

ポリ乳酸系樹脂組成物、その成形体及びその成形方法

【課題】 結晶化速度を向上させ、硬く脆い性質を改善しながら、安定性、特に高温、高湿度下における安定性を向上させたポリ乳酸系樹脂を含む樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸系樹脂、有機系造核剤、可塑剤および安定剤を含む樹脂組成物であって、可塑剤をポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部含む樹脂組成物。有機系造核剤としては、トリメシン酸トリアミド化合物が好ましく、トリメシン酸トリアミド化合物としては、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、及びトリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系樹脂組成物、その成形体及びその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に優しい資源循環型プラスチックが注目されている。それらの1つとして、ポリ乳酸系樹脂がある。ポリ乳酸系樹脂は、植物から得ることができるため、石油資源を使用しないカーボンニュートラルな素材、持続可能な資源として、循環型社会の構築に貢献しうるものであり、脚光を浴びている。また、ポリ乳酸系樹脂は、他の樹脂に比べて、生分解性が高く、環境に優しい樹脂として、幅広い分野での普及が期待される樹脂である。
【0003】
ところで、ポリ乳酸系樹脂は一般にその結晶化速度が遅い。そのため、耐熱性向上を目的にポリ乳酸系樹脂の結晶化を行なう際に長い時間を必要とし、生産性が悪い。充分な結晶化を行なわずに食器、コップまたは家電製品などの、比較的高温にさらされる製品に成形すると、該製品(成形体)は熱変形等を引き起こす問題があった。このような問題を解決する手段として、ポリ乳酸系樹脂にマイカや炭酸カルシウム等の無機系造核剤を配合する技術や、有機系造核剤を配合し、結晶化速度を向上させる技術が知られている(特許文献1および2参照)。しかしながら、無機系造核剤の添加は、成形時に樹脂の流動性を低下させて、成形性が悪化するという問題があった。
【0004】
また、ポリ乳酸系樹脂は一般に硬く脆い物性を有している。このような物性を改善する目的でポリ乳酸系樹脂に可塑剤を添加する技術が知られている。ところが、上記のような、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上のために、ポリ乳酸系樹脂に有機系造核剤を配合した組成物に更に可塑剤を配合すると、得られる樹脂組成物の熱安定性、特に高温、高湿度下における強度が著しく低下する場合があることがわかった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−87975号公報
【特許文献2】国際公開第03/042302号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、結晶化速度が速く、成形性が良好で、しかも、硬くて脆い性質が改善されて、通常の成形によって高強度で、熱安定性に優れた(特に、高温、高湿度下での安定性に優れた)成形体を得ることができるポリ乳酸系樹脂組成物及び該ポリ乳酸系樹脂組成物を用いた高強度で熱安定性に優れた成形体を提供すること、並び高強度で熱安定性に優れた成形体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究をした結果、ポリ乳酸系樹脂に有機系造核剤と可塑剤とともに安定剤を配合し、さらにその際の可塑剤の配合量を特定量に設定することで、良好な成形性を示し、結晶化速度が速く、ポリ乳酸系樹脂特有の硬くて脆い性質も改善され、しかも、成形体の熱安定性が大きく改善される樹脂組成物と成り得ること、さらに、該樹脂組成物中の、有機系造核剤を完全に溶解した状態で成形することにより、結晶化速度が更に速く、且つ成形体の熱安定性にも優れた樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕ポリ乳酸系樹脂、有機系造核剤、可塑剤および安定剤を含む樹脂組成物であって、可塑剤をポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部含む樹脂組成物。
〔2〕ポリ乳酸系樹脂が、該ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対するL−乳酸残基からなる構造単位の割合が80〜99.5モル%であるか、または、該ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対するD−乳酸残基からなる構造単位の割合が80〜99.5モル%である、上記〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔3〕有機系造核剤が、一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは、同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物。
〔4〕トリメシン酸トリアミド化合物が、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、及びトリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記〔3〕に記載の樹脂組成物。
〔5〕トリメシン酸トリアミド化合物が、平均粒径10μm以下、且つ最大粒径が30μm以下の粒子形状を有する上記〔3〕又は〔4〕に記載の樹脂組成物。
〔6〕ポリ乳酸系樹脂、有機系造核剤、可塑剤および安定剤を、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して可塑剤が0.1〜10重量部となる割合で溶融混練することにより得られる樹脂組成物であって、該有機系造核剤が平均粒径10μm以下、且つ最大粒径が30μm以下の粒子形状を有するトリメシン酸トリアミド化合物である、上記〔3〕または〔4〕に記載の樹脂組成物。
〔7〕有機系造核剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
〔8〕可塑剤が、ポリエチレングリコールジベンゾエートである、上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
〔9〕安定剤が、ポリ乳酸系樹脂と架橋反応し得る化合物からなる、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
〔10〕ポリ乳酸系樹脂と架橋反応し得る化合物が、カルボジイミド化合物である、上記〔9〕に記載の樹脂組成物。
〔11〕安定剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.2〜10重量部である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
〔12〕ガラス転移温度(Tg)が40〜70℃である、上記〔1〕〜〔11〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
〔13〕酸成分含量が5当量/トン以下である、上記〔1〕〜〔12〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
〔14〕結晶化完了時間が、300秒以下である、上記〔1〕〜〔13〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
〔15〕上記〔1〕〜〔14〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
〔16〕上記〔1〕〜〔14〕のいずれか一つに記載の樹脂組成物から、成形体を製造する方法であって、該樹脂組成物を、有機系造核剤の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度にて、該有機系造核剤が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、該有機系造核剤が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解した状態で、成形工程に供することを特徴とする成形体の製造方法。
〔17〕成形工程が、射出成形、押出成形、射出ブロー成形、射出押出ブロー成形、射出圧縮成形、押出ブロー成形、押出サーモフォーム成形又は溶融紡糸である上記〔16〕に記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、成形性が良好であり、しかも、結晶化速度が速く、また、ポリ乳酸系樹脂特有の硬くて脆い性質も改善されることから、通常の成形によって、強度及び耐熱性の良好な成形体を短時間で得ることができる。また、こうして得られる成形体は熱安定性(特に、高温、高湿度下での安定性)に優れ、高温、高湿度下における強度低下が抑制される成形体を達成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の詳細な説明を行う。
本発明の樹脂組成物はポリ乳酸系樹脂を含む。本発明おいて、ポリ乳酸系樹脂は、特に限定されず、種々の光学純度の乳酸単位を有するポリ乳酸系樹脂を使用できるが、L−乳酸残基からなる構造単位(いわゆるL−乳酸単位)またはD−乳酸残基からなる構造単位(いわゆるD−乳酸単位)が、ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して80〜99.5モル%の範囲内であることが好ましい。このようなポリ乳酸系樹脂は、その入手が比較的容易であり、また、高い融点を有するため、より優れた耐熱性を有する樹脂組成物が得やすくなる。L−乳酸残基またはD−乳酸残基からなる構造単位はポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して90〜99.2モル%の範囲内であることがより好ましく、93〜99モル%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0013】
また、ポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド単独又はこれらの混合物から誘導されるものを使用することができる。すなわち、乳酸の直接脱水縮合で生成したものでも、ラクチドの開環法で生成したものでもよい。
【0014】
また、該ポリ乳酸系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、乳酸残基以外の他の構造単位を有していてもよい(該範囲としては、好ましくは50モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。)。このような他の構造単位としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコールとから誘導されるヒドロキシカルボン酸単位;グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等のヒドロキシカルボン酸の単位等などが挙げられる。
なお、ポリ乳酸系樹脂がこのような乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含むものである場合、本発明における「ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位」とは、乳酸由来の構造単位(乳酸残基)と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位の両方のことである。
【0015】
本発明おいて、ポリ乳酸系樹脂の分子量は特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が5,000〜400,000の範囲であることが好ましく、10,000〜200,000であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が5,000より小さい場合には、得られる樹脂組成物を用いて成形品を作製した際にその強度が低下したり、酸成分含量の上昇や加水分解性の増大などに起因してその安定性が低くなる傾向がある。一方、400,000より大きい場合には、得られる樹脂組成物を成形する際に、その成形性が悪化する傾向がある。なお、本発明において、数平均分子量とは、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の値である。GPC測定条件としては、GPC装置としてウォーターズ社製150C ALC/GPC、カラムに昭和電工(株)製Shodex(登録商標)HFIP806M、検出器にRI検出器、展開溶媒に20mMトリフルオロ酢酸ナトリウムのヘキサフルオロイソプロパノール溶液を使用し、カラム温度は40℃であり、流量は1.0mL/分である。PMMA換算に用いられる標準PMMAは、Polymer Laboratories社製PM1である。
【0016】
なお、本発明で使用するポリ乳酸系樹脂は、入手容易性の点から、植物から誘導されるものを使用してもよく、また、L−またはD−乳酸メチル、L−またはD−乳酸エチル等の乳酸誘導体を原料(単量体)にして製造されたものや、微生物により生成されるものを使用することも可能である。
【0017】
本発明の樹脂組成物は有機系造核剤を含む。本発明において、有機系造核剤は熱可塑性樹脂に対し造核作用を有するものであれば制限なく使用でき、例えば、トリメシン酸トリアミド化合物;モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩等が挙げられるが、中でもトリメシン酸トリアミド化合物が好ましい。トリメシン酸トリアミド化合物を使用することで、樹脂組成物の結晶化速度向上に大きな効果を示す。本発明において、有機系造核剤は1種または複数種の化合物を用いることができる。
【0018】
トリメシン酸トリアミド化合物は、一般式(1)
【0019】
【化2】

【0020】
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは、同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表され、トリメシン酸又はその酸クロライドと、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミン、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキルアミンとをアミド化することにより得られる化合物である。
上記炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミンの具体例としては、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、
3−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、2−エチルシクロヘキシルアミン、3−エチルシクロヘキシルアミン、4−エチルシクロヘキシルアミン、2−n−プロピルシクロヘキシルアミン、3−n−プロピルシクロヘキシルアミン、4−n−プロピルシクロヘキシルアミン、2−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、3−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、4−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、2−n−ブチルシクロヘキシルアミン、3−n−ブチルシクロヘキシルアミン、4−n−ブチルシクロヘキシルアミン、2−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、3−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、4−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、2−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、3−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、4−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、2−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、3−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,4−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,3,4−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,4,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、3,4,5−トリメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、iso−プロピルアミン、n−ブチルアミン、iso−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミンが挙げられる。
【0021】
上記トリメシン酸トリアミド化合物のなかでも、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上に特に優れる点で、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)が好ましく、特に、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)が好ましい。
【0022】
本発明の樹脂組成物中における有機系造核剤の形状には特に制限がないが、有機系造核剤としてトリメシン酸トリアミド化合物を用いる場合には、平均粒径10μm以下、且つ最大粒径30μm以下の粒子形状であることが好ましく、平均粒径5μm以下、且つ最大粒径20μm以下の粒子形状であることが特に好ましい。平均粒径が10μmより大きいか又は最大粒径が30μmより大きい場合には、トリメシン酸トリアミド化合物のポリ乳酸系樹脂への溶解が不十分となり、ポリ乳酸系樹脂への造核作用が低下する傾向がある。その結果、得られる成形体の相対結晶化度が低下し、耐熱性が低下する傾向が見られ好ましくない。
トリメシン酸トリアミド化合物が上記のような平均粒径および最大粒径を有する本発明の樹脂組成物は、該平均粒径および最大粒径を有するトリメシン酸トリアミド化合物を用いることにより製造することができる。
【0023】
有機系造核剤の使用量は、樹脂組成物の具体的な用途に応じて適宜変更可能であるが、一般的には、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部が好ましく、0.1〜2重量がより好ましく、0.2〜1.5重量部がとりわけ好ましい。該使用量が0.05重量部に満たない場合には、結晶化速度向上効果が小さくなる傾向がある。また、5重量部を超える場合には、添加した量に見合う効果の上昇がみられずコスト高となる傾向がある。
【0024】
また、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等の無機系造核剤をさらに添加してもよい。無機系造核剤を添加する場合の添加量としては、好ましくは、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して3〜30重量部である。
【0025】
本発明の樹脂組成物は可塑剤を含む。本発明において、可塑剤としては、熱可塑性樹脂の可塑剤として用いられるものが使用できる。例えば、グリセリントリアセテート、グリセリントリ2−エチルヘキサン酸エステル、グリセリントリイソステアリン酸エステル等の多価アルコール誘導体;アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリプロピル、アセチルクエン酸トリ(2−エチルヘキシル)、アセチルクエン酸トリイソステアリル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリ(2−エチルヘキシル)、クエン酸トリイソステアリル等のヒドロキシカルボン酸誘導体;オレイン酸ブチル、オレイン酸イソステアリル、アジピン酸イソブチル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)等の脂肪族カルボン酸エステル;フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル等の芳香族カルボン酸エステル;ポリエチレングリコールジ酢酸エステル、ポリエチレングリコールジプロピオン酸エステル、ポリエチレングリコールジ2−エチルヘキサン酸エステル、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリプロピレングリコールジ酢酸エステル、ポリプロピレングリコールジプロピオン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ2−エチルヘキサン酸エステル、ポリプロピレングリコールジベンゾエート等のポリエーテルポリオール誘導体;りん酸トリブチル、りん酸トリ(2−エチルヘキシル)、りん酸トリフェニル、りん酸トリイソステアリル等のりん酸誘導体等を挙げることができる。これらのうちでも、日常的な使用条件下で、経時安定性、柔軟性に優れ、且つ、可塑剤のブリードアウトがない成形体を製造でき、また、揮発性が少ないという特性を有していることから、ポリエーテルポリオール誘導体が好ましく、その中でもポリエチレングリコールジベンゾエートを使用することが特に好ましい。本発明においては、可塑剤は1種または複数種の化合物を用いることができる。
【0026】
可塑剤の使用量としては、上記ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部であり、0.5〜7重量部であることが好ましい。可塑剤の使用量が10重量部よりも多い場合にはガラス転移温度(Tg)が下がり強度保持率が低くなる。また、0.1重量部よりも少ない場合には、得られる樹脂組成物から成形される成形品は脆くなる。
【0027】
本発明の樹脂組成物は安定剤を含む。本発明において、安定剤は、ポリ乳酸系樹脂と架橋反応をし得る化合物であれば、種々の化合物を制限なく使用できるが、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物等が好ましく、カルボジイミド化合物が特に好ましい。エポキシ化合物としては、例えば、2−フェニルフェニルグリシジルエーテル等が例示できる。また、カルボジイミド化合物としては、分子内に1個以上のカルボジイミド基を有する限り、特に制限はなく、従来公知の方法に従って、例えば、イソシアナート化合物より脱炭酸反応で合成されたものを使用することができる。又、市販されているものを使用してもよい。分子内にカルボジイミド基を1個有するモノカルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド等の脂肪族又は脂環族モノカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド等の芳香族モノカルボジイミド等を例示することができる。分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドの合成におけるイソシアナート化合物としては、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアナート等芳香族ジイソシアナート;1,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアナート等が例示される。ポリカルボジイミドは、末端に残存するイソシアナート基の全て、又は一部を封止しているものでよく、かかる封止剤としては、シクロヘキシルイソシアナート、フェニルイソシアナート、トリルイソシアナート等のモノイソシアナート化合物;水酸基、アミノ基等の活性水素を有する化合物等が例示される。上記カルボジイミド化合物の中でも、得られる樹脂組成物から成形される成形品の耐加水分解性改善の観点から、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドが好ましく、また、ポリ乳酸系樹脂との相溶性、得られる樹脂組成物から成形される成形品の耐加水分解安定性の点から、脂肪族又は脂環族カルボジイミド、脂肪族又は脂環族ジイソシアナートから得られるポリカルボジイミドが好ましい。本発明において、安定剤は1種または複数種の化合物を用いることができる。
【0028】
上記、安定剤の使用量としては、各用途に応じて適宜変更可能であるが、使用されるポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.2〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることがより好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、二塩基性硫酸塩、二塩基性ステアリン酸鉛、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム等の無機添加剤;滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解性向上剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料などの各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤などの任意成分を必要に応じて配合することができる。
【0030】
さらに、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、ポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエステル樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物;ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の共重合体;芳香族ビニル化合物−シアン化ビニル化合物−オレフィン化合物共重合体;メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体;スチレン系重合体、オレフィン系重合体等の他の樹脂を含有していてもよい。
【0031】
本発明の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、各用途に応じて適宜変更が可能であるが、40〜70℃であることが好ましく、50〜60℃であることがより好ましい。このような範囲のガラス転移温度(Tg)を有する樹脂組成物から得られる成形品は、使用中において変形等の問題が生じにくく、かつ、脆さが改善されるため好ましい。樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、可塑剤の使用量を調整することにより所望の温度に調整することができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物の酸成分含量は、各用途に応じて適宜変更が可能であるが、より高い安定性を有する樹脂組成物を得やすくなることから、0当量/トン以上5当量/トン以下であることが好ましく、0当量/トン以上1当量/トン以下であることがより好ましい。該酸成分含量は、例えば、上記した安定剤の使用量や種類を変化させることにより調整することが可能である。
なお、該酸成分含量は、本発明の樹脂組成物中における、ポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基末端濃度や、有機系造核剤、可塑剤、安定剤、任意成分等に含まれる酸性官能基の濃度等によって変化する。該酸成分含量は、後述の実施例において述べるような滴定法によって求めることができる。
【0033】
本発明の樹脂組成物の結晶化完了時間としては、0〜300秒の範囲内であることが好ましく、0〜200秒の範囲内であることがさらに好ましい。結晶化完了時間が該範囲にあると、樹脂組成物を成形する際に、通常の成形法によって、高い耐熱性を有した成形品を得やすくなる。樹脂組成物の該結晶化完了時間は、有機系造核剤の使用量を増減することにより調整することができる。
なお、本明細書において、結晶化完了時間とは、示差走査熱量分析装置(DSC)で測定される、結晶化に起因する発熱が完了するまでの時間である。
【0034】
上記各成分を混練することにより、本発明の樹脂組成物を得ることができる。各成分の混錬方法としては特に制限はなく、従来公知の方法により混合することができる。例えば、各成分をタンブラー、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘルシェルミキサー、タンブラーミキサーなどに仕込み混練するドライブレンド法、更に該ドライブレンド物を1軸又は2軸押出機、ニーダー、ロール等で溶融混練し冷却、ペレット化する方法、または、各樹脂を溶媒に溶かし、混合した後に溶媒を除去する溶液ブレンド法などが挙げられる。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、押出成形、射出成形、カレンダー成形、真空成形、圧空成形等の公知の成形法によって、種々の形状の成形体に容易に成形することができ、しかも、得られる成形体は高強度で熱安定性に優れたものとなりうる。また、溶融紡糸することにより、繊維状に成形することもできる。
【0036】
さらに、本発明の樹脂組成物を本発明の成形体の製造方法に従って、成形することにより、耐熱性と、強度保持率に特に優れた成形体を得ることができる。かかる成形体の製造方法は、有機系造核剤の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度に樹脂温度を設定するとともに、該有機造核剤が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、該有機系造核剤が、溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解した状態で成形工程に供することを特徴とするものであって、これにより、短い成形時間で、成形体に高い相対結晶化度を与え、優れた耐熱温度と強度保持率を付与することができる。なお、相対結晶化度は、後述の実施例に記載の方法で測定される値である。
【0037】
有機系造核剤、特にトリメシン酸トリアミド化合物は、一般に融点が180℃〜380℃程度の高融点であるから、ポリ乳酸系樹脂の融点(一般に145℃〜180℃)よりも高いので、両者を一緒に加熱すると、ポリ乳酸系樹脂が先に溶解し、次いで有機系造核剤が溶融ポリ乳酸樹脂に溶解する。従って、本明細書において、有機系造核剤の溶融ポリ乳酸系樹脂への「溶解温度」は、光学顕微鏡下で、該有機系造核剤を含む樹脂組成物(ペレット又はドライブレンド物)を加熱し、溶融ポリ乳酸系樹脂に該有機系造核剤が溶解して、固体が観察されなくなった時点の温度である。また、該有機系造核剤が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解しているかどうかは、射出成形の場合、加熱シリンダーのノズル先端から出てくる溶融樹脂組成物を目視観察することにより容易に判断することができる。即ち、該有機系造核剤が、溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解し終わっておらず、固体が若干でも残留していると、溶融樹脂組成物は濁っているが、完全に溶解していると濁りはなく透明である。同様に押出成形においても、ダイから吐出される溶融樹脂組成物の透明性を目視観察することにより完全に溶解しているかどうかが確認できる。他の成形方法の場合も成形工程において、シリンダノズル又はダイから吐出された溶融樹脂組成物の透明性を目視観察することにより完全に溶解しているかどうかが確認できる。
上記溶解温度は、該有機系造核剤の種類、粒径及びその使用量、ポリ乳酸系樹脂の種類、安定剤の種類及びその使用量、並びに、可塑剤の種類及びその使用量に依存して変化するが、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、有機系造核剤が0.05〜5重量部の範囲では、通常210℃〜250℃の範囲であり、有機系造核剤のポリ乳酸系樹脂への溶解速度と、ポリ乳酸系樹脂の熱分解抑制のバランスから220℃〜245℃が好ましい。
また、固体の有機系造核剤が存在しなくなるように混練するには、加熱溶融時の樹脂組成物の滞留時間、スクリュー回転速度等を調整することにより行うことができる。次いで、この溶融状態を維持したまま、成形工程に供して、樹脂組成物を冷却・結晶化させる。なお冷却時の温度(例えば、射出成形においては金型温度)は、60〜120℃、特に90〜110℃が好ましい。
かかる成形方法を用いることにより、結晶化速度が速く成形性に優れ、かつ、相対結晶化度、強度保持率の高い成形体を得ることができる。
【0038】
本発明の成形体は、例えば、車両パーツ、家電製品のボディー等の筐体、歯車、一般雑貨、衣料品、バッグ、ファスナーやボタン等の掛止部材、農業資材、建築資材、土木資材、食器類、玩具類等として好適に使用できる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定はされない。以下の実施例、比較例における測定方法や使用薬品類は次に示すとおりである。
【0040】
<測定方法>
有機系造核剤の粒径:レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、マイクロトラック粒度分布装置FRA)を使用して、非イオン系界面活性剤(トリトンX−100)を溶解した水中に、有機系造核剤を分散した後、3分間超音波分散させた後、粒度分布を測定した。
【0041】
ガラス転移温度:示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を使用して樹脂組成物を10℃/分の条件下で昇温した際の、該樹脂組成物がゴム状に変化した時点における温度をガラス転移温度とした。
【0042】
酸成分含量:100mL容三角フラスコに100℃で12時間送風乾燥後の樹脂組成物(0.5g)並びにクロロホルム(50mL)を入れて溶解させた。これにさらにベンジルアルコール(50mL)を加えた。この溶液に対して、フェノールフタレインを指示薬として、0.005N水酸化カリウム/エタノール溶液にて滴定を行ない、滴定量を求めた。別に、樹脂組成物を用いないブランク試験を行ない、滴定量を求めた。両滴定量から、酸成分含量を算出した。
【0043】
結晶化完了時間:示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を使用して、樹脂組成物(10mg)を200℃で2分間溶融させ、さらに、−70℃/分の速度で100℃まで冷却し、その後、100℃で保持し、時間に対する発熱量を測定した。100℃に到達した時点を基点として、発熱が完了するまでの時間(発熱ピークがベースラインに戻った時点までの時間)を結晶化完了時間とした。
【0044】
相対結晶化度:示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を使用して、以下の各実施例、比較例により得られたテストピースを切断し評価試料とした。該評価試料約10mgを10℃/分の速度で、20℃から200℃まで昇温した際の、結晶化熱量ΔHc(J/g)及び融解熱量ΔHm(J/g)を測定し、相対結晶化度を下記式より算出した。
相対結晶化度(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm × 100
【0045】
成形性:以下の各実施例、比較例においてテストピースを作製する際の成形性を、以下の基準で評価した。
◎:離型性が良く容易に成形が可能。
○:若干、金型に附着する傾向があるが比較的容易に成形が可能。
×:金型に対する離型性が悪く成形が困難。
【0046】
耐熱温度:JIS K−7191に従って、荷重たわみ温度(HDT)を測定した。これにより得られる温度を耐熱温度とした。
【0047】
強度保持率:以下の各実施例、比較例により得られたテストピースを、温度80℃、湿度95%Rhの条件下、30時間放置した。放置前、放置後の引張り強度(測定はJIS K−7113に準拠)を測定して、以下の式により強度保持率を算出した。
強度保持率(%)=(放置後の引張り強度)/(放置前の引張り強度)×100
【0048】
<使用薬品類>
(ポリ乳酸系樹脂)
ポリ乳酸系樹脂:カーギル・ダウ社製(#3001D)(L−乳酸残基からなる構造単位の含量:98.5モル%、数平均分子量(Mn:150,000))
(有機系造核剤)
有機系造核剤A:トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド(平均粒径 1.6μm、最大粒径 10μm):新日本理化株式会社製
有機系造核剤B:トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)(平均粒径 1.5μm、最大粒径 10μm):新日本理化株式会社製
(可塑剤)
ポリエチレングリコール(平均分子量200)ジベンゾエート:新日本理化株式会社製(リカフロー LA−100)
(安定剤)
ポリカルボジイミド:日清紡績株式会社製(カルボジライト LA−1)
【0049】
<実施例1>
ポリ乳酸系樹脂(100重量部)、有機系造核剤A(1重量部)、ポリエチレングリコール(平均分子量200)ジベンゾエート(5重量部)およびポリカルボジイミド(1重量部)をドライブレンドして樹脂組成物を得た。該樹脂組成物(ドライブレンド物)を、220〜250℃で溶融混練し、酸成分含量が1.0当量/トン以下になった時点で、ストランド状に水中に押し出して、ペレタイザーで切断し、該樹脂組成物(溶融混練物)のペレットを得た。次にこのペレットを80℃、12時間真空乾燥機にて乾燥した後、樹脂温度235℃、金型温度100℃に設定した射出成形機で60秒の冷却時間で厚さ4mmのテストピースを成形した。テストピース成形時の成形性、該テストピースの耐熱温度、相対結晶化度および強度保持率を以下の表1にまとめた。尚、テストピースの作製時において、有機系造核剤Aが、溶融ポリ乳酸系樹脂に完全に溶解していることは、射出成形機の加熱シリンダーのノズル先端から出る溶融樹脂が透明であることを目視観察して確認した。
【0050】
<実施例2、3>
表1に記載の樹脂組成とした以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピース成形時の成形性、該テストピースの耐熱温度、相対結晶化度および強度保持率を以下の表1にまとめた。
尚、いずれのテストピースの作製時においても、有機系造核剤が、溶融ポリ乳酸系樹脂に完全に溶解していることは、射出成形機の加熱シリンダーのノズル先端から出る溶融樹脂が透明であることを目視観察して確認した。
【0051】
<実施例4、5>
表1に記載の樹脂組成とし、射出成形時の樹脂温度を195℃にした以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピース成形時の成形性、該テストピースの耐熱温度、相対結晶化度および強度保持率を以下の表1にまとめた。
尚、いずれのテストピースの作製時においても、有機系造核剤が、溶融ポリ乳酸系樹脂に完全に溶解しておらず、射出成形機の加熱シリンダーのノズル先端から出る溶融樹脂が僅かに濁っていることを目視観察して確認した。
【0052】
<比較例1>
ポリエチレングリコール(平均分子量200)ジベンゾエートの使用量を5重量部から15重量部に変えた以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピース成形時の成形性、該テストピースの耐熱温度、相対結晶化度および強度保持率を以下の表1にまとめた。
【0053】
<比較例2>
ポリ乳酸系樹脂のみを用いて、金型温度100℃に設定した射出成形機で60秒の冷却時間で厚さ4mmのテストピースを作製した。成形時における金型からの離型性が悪く、さらに得られたテストピースには、突き出しなどの変形が見られた。該テストピースの耐熱温度および強度保持率を以下の表1にまとめた。
【0054】
<比較例3>
金型温度の設定を100℃より30℃に変更した以外は、比較例2と同様の方法に従って、ポリ乳酸系樹脂のみからなるテストピースを作製した。テストピース成形時の成形性、該テストピースの耐熱温度および強度保持率を以下の表1にまとめた。
【0055】
<比較例4>
ポリカルボジイミドを使用しない以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピース成形時の成形性、該テストピースの耐熱温度および強度保持率を以下の表1にまとめた。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の樹脂組成物は、結晶化速度が早いため通常の成形法によって高い耐熱性を有した成形品を得ることができる上、硬く脆い性質を改善しながら、さらに、安定性、特に高温、高湿度下における安定性に優れ、成形性にも優れるため、車両パーツ、家電製品のボディー等の筐体、歯車、一般雑貨、衣料品、バッグ、ファスナーやボタン等の掛止部材、農業資材、建築資材、土木資材、食器類、玩具類等の成形品として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂、有機系造核剤、可塑剤および安定剤を含む樹脂組成物であって、可塑剤をポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部含む樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂が、該ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対するL−乳酸残基からなる構造単位の割合が80〜99.5モル%であるか、または、該ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対するD−乳酸残基からなる構造単位の割合が80〜99.5モル%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
有機系造核剤が、一般式(1)
【化1】

[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは、同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
トリメシン酸トリアミド化合物が、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、及びトリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
トリメシン酸トリアミド化合物が、平均粒径10μm以下、且つ最大粒径が30μm以下の粒子形状を有する請求項3または4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリ乳酸系樹脂、有機系造核剤、可塑剤および安定剤を、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して可塑剤が0.1〜10重量部となる割合で溶融混練することにより得られる樹脂組成物であって、該有機系造核剤が平均粒径10μm以下、且つ最大粒径が30μm以下の粒子形状を有するトリメシン酸トリアミド化合物である、請求項3または4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
有機系造核剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
可塑剤が、ポリエチレングリコールジベンゾエートである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
安定剤が、ポリ乳酸系樹脂と架橋反応し得る化合物からなる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
ポリ乳酸系樹脂と架橋反応し得る化合物が、カルボジイミド化合物である、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
安定剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.2〜10重量部である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
ガラス転移温度(Tg)が40〜70℃である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
酸成分含量が5当量/トン以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
結晶化完了時間が、300秒以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物から成形体を製造する方法であって、該樹脂組成物を、有機系造核剤の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度にて、該有機系造核剤が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、該有機系造核剤が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解した状態で、成形工程に供することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項17】
成形工程が、射出成形、押出成形、射出ブロー成形、射出押出ブロー成形、射出圧縮成形、押出ブロー成形、押出サーモフォーム成形又は溶融紡糸である請求項16に記載の成形体の製造方法。

【公開番号】特開2006−328163(P2006−328163A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151597(P2005−151597)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】