説明

ポリ乳酸系樹脂組成物、及びその成形体、並びに該成形体の製造方法

【課題】
結晶化速度が速く、成形性が良好で、しかも、通常の成形によって結晶化度を高めたポリ乳酸樹脂成形体を得ること、及び該成形体の製造方法、並びにポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上方法を提供すること。
【解決手段】
ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、
(A)下記一般式(1)
−(CONHR (1)
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。
3個のRは同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物を0.01〜0.5重量部、及び
(B)ナフタレンジカルボン酸ジアミド化合物、タルク、ハイドロタルサイト、マイカ及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01〜20重量部含有するポリ乳酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系樹脂組成物、その成形体及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に優しい資源循環型プラスチックが注目されている。それらの1つとして、ポリ乳酸系樹脂がある。ポリ乳酸系樹脂は、植物から得ることができるため、石油資源を使用しないカーボンニュートラルな素材、持続可能な資源として、循環型社会の構築に貢献しうるものであり、脚光を浴びている。また、ポリ乳酸系樹脂は、他の樹脂に比べて、生分解性が高く、環境に優しい樹脂として、幅広い分野での普及が期待される樹脂である。
【0003】
ところで、ポリ乳酸系樹脂は一般にその結晶化速度が遅いため、耐熱性向上を目的にポリ乳酸系樹脂の結晶化を行なう際、長い時間を必要とすることから、生産性が悪い。充分な結晶化を行なわずに食器、コップまたは家電製品などの、比較的高温にさらされる製品に成形すると、該製品(成形体)は熱変形等を引き起こす問題があった。このような問題を解決する手段として、ポリ乳酸系樹脂にタルク及び/又は窒化ホウ素からなる無機粒子を配合する技術が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、無機粒子の添加は、結晶化速度を向上させるためには比較的多量の添加が必要であり、成形時に樹脂の流動性を低下させて、成形性が悪化する場合がある。
【0004】
一方ポリ乳酸系樹脂に対して有機系成分(例えばアミド化合物)を配合し、結晶化速度を向上させる技術も知られている(特許文献2参照)。ポリ乳酸樹脂に対する有機系成分の添加は優れた結晶化速度を向上させる効果を有するが、成形性の観点から更なる結晶化速度の向上が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平8―003432号公報
【特許文献2】特開平10−87975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、結晶化速度が速く、成形性が良好で、しかも、通常の成形によって結晶化度を高めたポリ乳酸樹脂成形体を得ること、及び該成形体の製造方法、並びにポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究をした結果、ポリ乳酸系樹脂にトリメシン酸トリアミド化合物((A)成分)及び溶融ポリ乳酸系樹脂に対して難溶又は不溶の無機物若しくは有機物である(B)成分を特定量、ポリ乳酸に含有させることによりポリ乳酸樹脂の結晶化速度が向上し結晶化度が高い成形体が得られることを見出した。又、該樹脂成形体の製造にあたって、溶融ポリ乳酸樹脂組成物中の、(A)成分が完全に溶解した状態で成形することで、さらに良好な結晶化速度向上効果が得られることを見出した。
【0008】
本発明は係る知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
【0009】
(項1)
ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、
(A)下記一般式(1)
−(CONHR(1)
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、それぞれ炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物を0.01〜0.5重量部、及び、
(B)下記一般式(2)で表されるアミド系化合物、タルク、ハイドロタルサイト、マイカ及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01〜20重量部含有するポリ乳酸系樹脂組成物。
【化1】

[式中、2個のRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数6〜30の脂環族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基、又は炭素数6〜30の芳香族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基を表す。]
【0010】
(項2)
(A)成分が、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド又はトリメシン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)のいずれかである上記項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【0011】
(項3)
(B)成分が、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド及びタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記項1又は2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【0012】
(項4)
(B)成分の平均粒径が、10μm以下である上記項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【0013】
(項5)
さらに、耐加水分解性向上剤を0.01〜5重量部含有する上記項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【0014】
(項6)
耐加水分解性向上剤がカルボジイミド化合物である上記項5に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【0015】
(項7)
結晶化完了時間が、1.2分以下である、上記項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0016】
(項8)
上記項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【0017】
(項9)
示差走査熱量測定法により求められる相対結晶化度が80%以上である上記項8に記載の成形体。
【0018】
(項10)
上記項1〜7のいずれか一つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物から、成形体を製造する方法。
【0019】
(項11)
ポリ乳酸系樹脂組成物を、(A)成分の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度にて、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解している状態で、成形工程に供することを特徴とする上記項10に記載の製造方法。
【0020】
(項12)
成形工程が、射出成形、押出成形、射出ブロー成形、射出圧縮成形、押出ブロー成形、発泡成形又は溶融紡糸である請求項10又は11に記載の製造方法。
【0021】
(項13)
ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、
(A)下記一般式(1)
−(CONHR (1)
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、それぞれ炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物を0.01〜0.5重量部、及び、
(B)下記一般式(2)で表されるアミド系化合物、タルク、ハイドロタルサイト、マイカ及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01〜20重量部含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂の結晶化速度を向上する方法。
【化2】

[式中、2個のRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数6〜30の脂環族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基、又は炭素数6〜30の芳香族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基を表す。]
【0022】
(項14)
ポリ乳酸系樹脂組成物を、(A)成分の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度にて、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解している状態で、成形工程に供することを特徴とする上記項13に記載の方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂にトリメシン酸トリアミド化合物((A)成分)及び溶融ポリ乳酸系樹脂に対して難溶又は不溶の無機物若しくは有機物である(B)成分を特定量含有させることで、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度を向上することを見出した。又、溶融ポリ乳酸系樹脂中で(A)成分を溶解させる工程を経ることで、成形の際、良好な結晶化速度向上効果が得られることを見出した。本発明の製造方法で得られた成形体は、結晶化度が高く、良好な耐熱性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の詳細な説明を行う。
【0025】
<ポリ乳酸系樹脂>
本発明に係るポリ乳酸系樹脂は、特に限定されず、L−乳酸残基からなる構造単位(即ちL−乳酸単位)及び/又はD−乳酸残基からなる構造単位(即ちD−乳酸単位)を有するポリ乳酸系樹脂を使用できる。一般に、L−乳酸単位又はD−乳酸残基のどちらかがポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して80〜100モル%の範囲内である場合、樹脂組成物は高い融点を示し、結晶化度がより高く、耐熱性に優れる樹脂成形体が得られやすい。ポリ乳酸系樹脂全構造単位に対してL−乳酸単位またはD−乳酸単位が90〜100モル%であることが好ましく、95〜100モル%であることで本発明の結晶化速度向上効果がより得られやすい。
【0026】
本発明で使用するポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド単独又はこれらの混合物から誘導されるものを使用することができる。すなわち、乳酸の直接脱水縮合で生成したものでも、ラクチドの開環法で生成したものでもよい。
【0027】
なお、ポリ乳酸系樹脂は、入手容易性の点から、植物から誘導されるものを使用してもよく、また、L−またはD−乳酸メチル、L−またはD−乳酸エチル等の乳酸誘導体を原料(単量体)にして製造されたものや、微生物により生成されるものを使用することも可能である。
【0028】
また本発明のポリ乳酸系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、乳酸残基以外の他の構造単位を有していてもよい(該範囲としては、好ましくは50モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。このような他の構造単位としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコールとから誘導されるヒドロキシカルボン酸単位;グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等のヒドロキシカルボン酸の単位等などが挙げられる。
なお、ポリ乳酸系樹脂がこのような乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含むものである場合、本発明における「ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位」とは、乳酸由来の構造単位(乳酸残基)と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位の両方のことである。
【0029】
本発明おいて、ポリ乳酸系樹脂の分子量は特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が5,000〜400,000の範囲であることが好ましく、10,000〜200,000であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が5,000より小さい場合には、得られる樹脂組成物を用いて成形品を作製した際にその強度が低下したり、酸成分含量の上昇や加水分解性の増大などに起因してその安定性が低くなったりする傾向がある。一方、400,000より大きい場合には、得られる樹脂組成物を成形する際に、その成形性が悪化する傾向がある。なお、本発明において、数平均分子量とは、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)で測定したポリスチレン(PS)換算の値である。GPC測定条件としては、GPC装置として(株)島津製作所製GPC、カラムに東ソー(株)製TSKgel、検出器にRI検出器、展開溶媒にTHF溶液を使用し、カラム温度は40℃であり、流量は1.0mL/分である。PS換算に用いられる標準PSは、東ソー(株)製標準PSである。
【0030】
<(A)成分>
本発明の(A)成分は下記一般式(1)
−(CONHR (1)
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物である。
【0031】
該トリメシン酸トリアミド化合物の製法には特に限定はなく、例えば、トリメシン酸又はその酸クロライドと、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミンを用いアミド化反応を行うことにより得ることができる。
【0032】
上記炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミンの具体例としては、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、2−エチルシクロヘキシルアミン、3−エチルシクロヘキシルアミン、4−エチルシクロヘキシルアミン、2−n−プロピルシクロヘキシルアミン、3−n−プロピルシクロヘキシルアミン、4−n−プロピルシクロヘキシルアミン、2−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、3−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、4−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、2−n−ブチルシクロヘキシルアミン、3−n−ブチルシクロヘキシルアミン、4−n−ブチルシクロヘキシルアミン、2−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、3−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、4−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、2−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、3−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、4−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、2−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、3−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,4−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,3,4−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,4,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、3,4,5−トリメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0033】
上記トリメシン酸トリアミド化合物のなかでも、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上に特に優れる点で、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)が好ましく、特に、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)が好ましい。
【0034】
トリメシン酸トリアミド化合物の形状には特に制限がないが、平均粒径は、10μm以下が好ましく、5μm以下が好ましい。トリメシン酸トリアミド化合物の最大粒径は30μm以下が好ましく、20μm以下が特に好ましい。
平均粒径が10μmより大きいか又は最大粒径が30μmより大きい場合には、トリメシン酸トリアミド化合物のポリ乳酸系樹脂への溶解が不十分となり、ポリ乳酸系樹脂への造核作用が低下する傾向がある。その結果、得られる成形体の相対結晶化度が低下し、耐熱性が低下する傾向が見られ好ましくない。尚、ここで、平均粒径及び最大粒径は、後述の実施例に記載した方法で測定した値であり、また最大粒径は、当該粒径より小さい粒子量の、全粒子量に対する百分率が99重量%である粒径をいう。
【0035】
ポリ乳酸系樹脂に対する(A)成分の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.01〜0.5重量部の範囲であり、0.05〜0.45重量部が好ましく、0.1〜0.4重量部がより好ましい。含有量が0.01重量部に満たない場合には、結晶化速度向上効果が小さくなる傾向がある。また、0.5重量部を超える場合には、含有量に見合う効果の上昇がみられずコスト高となる傾向がある。
【0036】
<(B)成分>
本発明に係る(B)成分は、溶融ポリ乳酸系樹脂に対して難溶又は不溶の無機物若しくは有機物である。難溶又は不溶とは、ポリ乳酸系樹脂を溶融混練する温度において、未溶解の(B)成分に由来する濁りが溶融樹脂のストランド中に観察される状態をいう。
【0037】
(B)成分のうち有機物として、下記一般式(2)
【化3】

[式中、2個のRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数6〜30の脂環族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基、又は炭素数6〜30の芳香族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基を表す。]
で表されるアミド系化合物が挙げられ、無機物としては、タルク、ハイドロタルサイト、マイカ、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0038】
上記(B)成分の中でも、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上効果に優れる点から、一般式(2)で表されるアミド系化合物とタルクが好ましく、アミド系化合物の中でも、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミドがより好ましい。
【0039】
(B)成分の粒径には特に制限はないが、平均粒系が10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、特に3μm以下が好ましい。平均粒子系が10μmより大きい場合には、ポリ乳酸系樹脂の耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0040】
(B)成分の含有量としては、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部の範囲が挙げられ、0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。この範囲内において、(A)成分との相乗効果により、優れた結晶化速度向上効果を得ることができる。20重量部を越えて含有しても添加量に見合う効果が得られにくいばかりか、耐衝撃性を低下させる虞があり、添加量が0.01重量部より少ないと結晶化速度向上効果が得られ難い。
【0041】
<耐加水分解性向上剤>
本発明に係る樹脂組成物は、必要に応じて、耐加水分解性向上剤(末端封鎖剤)を配合することができる。
【0042】
上記、耐加水分解性向上剤とは、本発明に係るポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基又は水酸基末端の一部または全部と反応して、活性のある官能基を封鎖する働きを示すものである。係る耐加水分解性向上剤として、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物や、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの付加反応型の化合物などが挙げられる。後者の付加反応型の化合物を用いると、例えば、アルコールとカルボキシル基の脱水縮合反応による末端封鎖のように余分な副生成物を反応系外に排出する必要がない。従って、本発明の樹脂組成物を製造するにあたり付加反応型の耐加水分解性向上剤を添加・混合・反応させることにより、副生成物による樹脂の分解を抑制しつつ、ポリ乳酸系樹脂の末端封鎖効果を十分に得ることができ、実用的に耐加水分解性を備えた成形品を得ることができる。
【0043】
本発明に用いることのできる耐加水分解性向上剤のうちカルボジイミド化合物としては、分子内に1個以上のカルボジイミド基を有する限り、特に制限はなく、公知の方法で合成されたものを使用することができる。例えば、対応する尿素化合物を五酸化リン等の脱水剤を用いて脱水する方法や、イソシアナート化合物を、有機リン系化合物又は有機金属化合物を触媒として用い、脱炭酸縮合反応する方法が挙げられる。又、市販されているものを使用してもよい。
分子内にカルボジイミド基を1個有するモノカルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド等の脂肪族又は脂環族モノカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド等の芳香族モノカルボジイミド等を例示することができる。分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物の原料となるイソシアナート化合物としては、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアナート等芳香族ジイソシアナート;1,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアナート化合物等が例示される。ポリカルボジイミド化合物は、末端に残存するイソシアナート基の全て又は一部を封止しているものも使用でき、かかる封止剤としては、シクロヘキシルイソシアナート、フェニルイソシアナート、トリルイソシアナート等のモノイソシアナート;水酸基、アミノ基等の活性水素を有する化合物等が例示される。上記カルボジイミド化合物の中でも、得られる樹脂組成物から成形される成形品の耐加水分解性改善の観点から、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物が好ましく、また、ポリ乳酸系樹脂との相溶性、得られる樹脂組成物から成形される成形品の耐加水分解安定性の点から、脂肪族又は脂環族カルボジイミド化合物、脂肪族又は脂環族ジイソシアナートから得られるポリカルボジイミド化合物が好ましい。本発明において、カルボジイミド化合物は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明に用いることのできる耐加水分解性向上剤のうちエポキシ化合物の例としては、N−グリシジルフタルイミド、N−グリシジル−4−メチルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−3−メチルフタルイミド、N−グリシジル−3,6−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−4−エトキシフタルイミド、N−グリシジル−4−クロルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジクロルフタルイミド、N−グリシジル−3,4,5,6−テトラブロムフタルイミド、N−グリシジル−4−n−ブチル−5−ブロムフタルイミド、N−グリシジルサクシンイミド、N−グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N−グリシジル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、N−グリシジルマレインイミド、N−グリシジル−α,β−ジメチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−エチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−プロピルサクシンイミド、N−グリシジルベンズアミド、N−グリシジル−p−メチルベンズアミド、N−グリシジルナフトアミド、N−グリシジルステラミド、N−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−エチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−フェニル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−ナフチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−トリル−3−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、3−(2−キセニルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、シクロヘキシルグリシジルエーテル、α−クレシルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、オクチレンオキサイド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが挙げられ、さらには、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジメチルジグリシジルエステル、フェニレンジグリシジルエーテル、エチレンジグリシジルエーテル、トリメチレンジグリシジルエーテル、テトラメチレンジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、反応性の点でエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが好ましい。これらのエポキシ化合物の1種または2種以上の化合物を任意に選択して用いることができる。
【0045】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちオキサゾリン化合物の例としては、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−ブトキシ−2−オキサゾリン、2−ペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘプチルオキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2−メタアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−クロチルオキシ−2−オキサゾリン、2−フェノキシ−2−オキサゾリン、2−クレジル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリン、2−ペンチル−2−オキサゾリン、2−ヘキシル−2−オキサゾリン、2−ヘプチル−2−オキサゾリン、2−オクチル−2−オキサゾリン、2−ノニル−2−オキサゾリン、2−デシル−2−オキサゾリン、2−シクロペンチル−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−メタアリル−2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリンなどが挙げられ、さらには、2,2−ビス(2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4,4?−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4,4?−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2−9,9−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物など、例えばスチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体などが挙げられる。これらのオキサゾリン化合物を単独でまたは2種以上を任意に選択して用いることができる。
【0046】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちオキサジン化合物の例としては、2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−エトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−プロポキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ブトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘプチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−オクチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ノニルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−デシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−アリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−メタアリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−クロチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどが挙げられ、さらには、2,2?−ビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−メチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−エチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−プロピレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−ブチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−m−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−ナフチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2−p,p’−ジフェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)などが挙げられる。この中でも、さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物などが挙げられる。これらのオキサジン化合物を単独でまたは2種以上を任意に選択して用いることができる。
【0047】
本発明に係る耐加水分解性向上剤のうちアジリジン化合物の例としては、モノ,ビスあるいはポリイソシアネート化合物とエチレンイミンとの付加反応物などが挙げられる。
【0048】
また、上記のカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの耐加水分解性向上剤は、単独で又は2種以上を併用すして用いることもできる。
【0049】
耐加水分解性向上剤を使用する場合、その含有量はポリ乳酸成分100重量部あたり、0.01〜5重量部の範囲が挙げられ、好ましくは0.05〜4重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
【0050】
<その他の添加成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、滑剤、可塑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料などの各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;木粉等の充填剤;各種カップリング剤などの任意成分配合することができる。
【0051】
さらに、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、ポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエステル樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物;ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の共重合体;芳香族ビニル化合物−シアン化ビニル化合物−オレフィン化合物共重合体;メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体;スチレン系重合体、オレフィン系重合体等の他の樹脂を含有していてもよい。
【0052】
<ポリ乳酸系樹脂組成物>
【0053】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂に対して、上述の(A)成分及び(B)成分を含有することにより、結晶化速度が格段に向上した樹脂組成物である。結晶化速度は結晶化完了時間で表され、1.2分以下であることが好ましく、0.6分以下であることがさらに好ましい。結晶化完了時間が該範囲にあると、樹脂組成物を成形する際に、通常の成形法によって、高い耐熱性を有した成形品をより短時間で得やすくなる。
なお、本明細書及び特許請求の範囲における、結晶化完了時間とは、後述の実施例に記載の条件で、示差走査熱量分析装置(DSC)を用い測定される、ポリ乳酸系樹脂の結晶化に起因する発熱が完了するまでの時間である。
【0054】
<ポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、上述の各成分を混合又は混練することにより得ることができる。各成分の混合、混練方法としては特に制限はなく、従来公知の方法により行うことができる。例えば、各成分をタンブラー、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘルシェルミキサー、タンブラーミキサーなどに仕込み混合するドライブレンド法、更に該ドライブレンド物を1軸又は2軸押出機、ニーダー、ロール等で、ポリ乳酸系樹脂の溶融温度以上で溶融混練し冷却、ペレット化する方法が挙げられる。また、各樹脂を溶媒に溶かし、混合した後に溶媒を除去する溶液ブレンド法などが挙げられる。
【0055】
<ポリ乳酸系樹脂成形体及びその製造方法>
本発明の樹脂組成物は、射出成形、押出成形、射出ブロー成形、射出圧縮成形、発泡成形、溶融紡糸等の公知の成形法によって、種々の形状の成形体に容易に成形することができ、しかも、得られる成形体は耐熱性に優れた成形体となりうる。また、上記成型方法で得られた成形体を更に押出ブロー成形、押出サーモフォーム成形、圧空成形、真空成形を行うことが可能である。
【0056】
さらに、本発明の樹脂組成物を本発明の成形体の製造方法に従って、成形することにより、結晶化速度がより向上し、短時間で耐熱性に優れる成形体を得ることができる。かかる成形体の製造方法は、(A)成分の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度に樹脂温度を設定するとともに、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、(A)成分が、溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解した状態で成形工程に供することを特徴とするものであって、これにより、短い成形時間で、成形体に高い相対結晶化度を与え、優れた耐熱温度を付与することができる。なお、相対結晶化度は、後述の実施例に記載の方法で測定される値である。
【0057】
(A)成分は、一般に融点が300℃以上の高融点であるから、ポリ乳酸系樹脂の融点(一般に145℃〜180℃)よりも高いので、両者を一緒に加熱すると、ポリ乳酸系樹脂が先に溶融し、次いで(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解する。従って、本明細書において、(A)成分の溶融ポリ乳酸系樹脂への「溶解温度」は、光学顕微鏡下で、(A)成分を含む樹脂組成物(ペレット又はドライブレンド物)を加熱し、溶融ポリ乳酸系樹脂に(A)成分が溶解して、固体が観察されなくなった時点の温度である。また、(B)成分は溶融樹脂に対し、不溶もしくは難溶の成分であるため、(A)成分の溶解温度が不明瞭となる場合には、別途(B)成分を添加しない組成にて、(A)成分の溶解温度を測定しても良い。(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解し終わっておらず、固体が若干でも残留していると、溶融樹脂組成物は濁っているが、完全に溶解していると濁りはなく透明である。
上記溶解温度は、(A)成分の種類、粒径及びその使用量、ポリ乳酸系樹脂の種類に依存して変化するが、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、(A)成分が0.01〜0.5重量部の範囲では、通常200℃〜250℃の範囲である。従って、上記添加量の範囲においては、200℃〜250℃、ポリ乳酸系樹脂の熱分解抑制のバランスから、205℃〜245℃の温度で混練することが好ましい。
また、固体の(A)成分が存在しなくなるように混練するには、加熱溶融時の樹脂組成物の滞留時間、スクリュー回転速度等を調整することにより行うことができる。次いで、この溶融状態を維持したまま、成形工程に供して、樹脂組成物を冷却・結晶化させる。なお冷却時の温度(例えば、射出成形においては金型温度)は、60〜130℃、特に90〜130℃が好ましい。また、冷却時間としては、1〜90秒が例示され、好ましくは2〜80秒、特に10〜60秒が好ましい。冷却時間が短いほど、生産性が向上するとともに、シリンダー内部での樹脂組成物の滞留時間が短いため、樹脂の分解を抑制することができる。係る成形方法を用いることにより、結晶化速度が速く成形性に優れ、かつ、相対結晶化度、耐熱温度の高い成形体を得ることができる。
また、冷却時の温度を60℃以下とし成形体を得たのち、更に次の成形行程(例えば、圧空成形においては金型温度)にて成形体を60〜130℃の温度にて結晶化を行っても良い。この場合にも、冷却時間は1〜90秒が例示される。
【0058】
かくして得られる成形体の相対結晶化度は、樹脂の種類、各成分の配合量等、成形方法等により異なるが、通常80%以上であって、90%以上であることが好ましい。
【0059】
本発明の成形体は、例えば、車両パーツ、家電製品のボディー等の筐体、歯車、一般雑貨、衣料品、バッグ、ファスナーやボタン等の掛止部材、農業資材、建築資材、土木資材、食器類、玩具類等として好適に使用できる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定はされない。以下の実施例、比較例における測定方法や使用薬品類は次に示すとおりである。
【0061】
<測定方法>
(A)成分及び(B)成分の粒径:レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、マイクロトラック粒度分布装置FRA)を使用して、非イオン系界面活性剤(トリトンX−100)を溶解した水中に、測定試料を分散した後、3分間超音波分散させた後、粒度分布を測定した。
【0062】
結晶化完了時間:示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、ダイヤモンドDSC)を使用して、樹脂組成物(10mg)を230℃で2分間溶融させ、さらに、−200℃/分の速度で130℃まで冷却し、その後、130℃で保持し、時間に対する発熱量を測定した。130℃に到達した時点を基点として、発熱が完了するまでの時間(発熱ピークがベースラインに戻った時点までの時間)を結晶化完了時間とした。
【0063】
相対結晶化度:示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、ダイヤモンドDSC)を使用して、以下の各実施例、比較例により得られた試験片を切断し評価試料とした。該評価試料約10mgを10℃/分の速度で、20℃から200℃まで昇温した際の、結晶化熱量ΔHc(J/g)及び融解熱量ΔHm(J/g)を測定し、相対結晶化度を下記式より算出した。
相対結晶化度(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm × 100
【0064】
成形性:以下の各実施例、比較例においてテストピース(厚さ1mm)を作製する際の成形性を、以下の基準で評価した。
◎:離型性が良く容易に成形が可能。
○:若干、金型に附着する傾向があるが比較的容易に成形が可能。
×:金型に対する離型性が悪く成形が困難。
【0065】
耐熱温度:以下の各実施例、比較例により得られたテストピース(厚さ4mm)をJIS K−7191に従って、荷重たわみ温度(1.82MPa高荷重下)を測定した。これにより得られる温度を耐熱温度とした。
【0066】
<使用薬品類>
(ポリ乳酸系樹脂)
ポリ乳酸系樹脂:トヨタ自動車株式会社社製(U'z S−17)
【0067】
(A)成分
A:トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド(平均粒径 2.3μm、最大粒径 9.3μm):新日本理化株式会社製(エヌジェスター TF−1)
【0068】
(B)成分
B−1:タルク(平均粒径 4.0μm):日本タルク株式会社製(ミクロエース P−6)
(B−2):タルク(平均粒径 1.0μm):日本タルク株式会社製(ミクロエース SG2000)
B−3:炭酸カルシウム(平均粒径 1.5μm):白石カルシウム株式会社製(ソフトン2200)
B−4:マイカ(平均粒径 1.5μm):株式会社山口雲母工業所製 (雲母粉A−11)
B−5:ハイドロタルサイト(平均粒径 0.5μm):協和化学工業株式会社製 (DHT−4A−2)
B−6:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド(平均粒径 1.4μm):新日本理化株式会社製 (エヌジェスターNU−100)
【0069】
耐加水分解性向上剤
C:カルボジイミド:日清紡社製(カルボジライトLA−1)
【0070】
<実施例1>
ポリ乳酸系樹脂(100重量部)、A(0.2重量部)、B−1(0.1重量部)をドライブレンドして樹脂組成物を得た。該樹脂組成物(ドライブレンド物)を、二軸押出機にて樹脂温度235℃で溶融混練し、ストランド状に水中に押し出して、ペレタイザーで切断し、該樹脂組成物(溶融混練物)のペレットを得た。次にこのペレットを80℃、6時間真空乾燥機にて乾燥した後、圧縮成形機にて樹脂温度235℃にて1分溶融させた後、20℃に冷却し、厚さ0.5mmのテストピースを成形した。テストピースの結晶化完了時間を表1に示した。
【0071】
<(A)成分の溶融温度の確認>
尚、A(0.2重量部)が、溶融ポリ乳酸系樹脂に樹脂温度235℃で完全に溶解していることは、(B)成分を配合しなかった以外は、上記と同様の方法で別途作成したテストピースにてホットステージ光学顕微鏡を用いて、溶融ポリ乳酸系樹脂中のAの溶解状態を観察することにより確認した。
【0072】
<実施例2〜6>
表1に記載の樹脂組成とした以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピースの結晶化完了時間を以下の表1にまとめた。
【0073】
尚、A(0.2重量部)が、溶融ポリ乳酸系樹脂に樹脂温度235℃で完全に溶解していることは、実施例1における(A)成分の溶融温度の確認と同様にして行った。
【0074】
<比較例1>
(B)成分を使用しない以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピースの結晶化完了時間を以下の表1にまとめた。
【0075】
<比較例2>
(A)成分を使用しない以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピースの結晶化完了時間を以下の表1にまとめた。
【0076】
<比較例3>
(A)成分を使用せず、(B)成分の添加量を1重量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピースの結晶化完了時間を以下の表1にまとめた。
【0077】
【表1】

【0078】
<実施例7>
ポリ乳酸系樹脂(100重量部)、A(0.3重量部)、B−1(0.2重量部)をドライブレンドして樹脂組成物を得た。該樹脂組成物(ドライブレンド物)を、二軸押出機にて樹脂温度235℃で溶融混練し、ストランド状に水中に押し出して、ペレタイザーで切断し、該樹脂組成物(溶融混練物)のペレットを得た。次にこのペレットを80℃、6時間真空乾燥機にて乾燥した後、樹脂温度235℃、金型温度100℃に設定した射出成形機で40秒の冷却時間で厚さ1mmのテストピースを成形した。また、40秒の冷却時間で厚さ4mmのテストピースを成形した。厚さ1mmのテストピース成形時の成形性、該テストピースの結晶化完了時間、相対結晶化度および厚さ4mmのテストピースの耐熱温度を以下の表2にまとめた。
【0079】
<(A)成分の溶融温度の確認>
尚、A(0.2重量部)が、溶融ポリ乳酸系樹脂に樹脂温度235℃で完全に溶解していることは、(B)成分を配合しなかった以外は、上記と同様の方法で別途作成したテストピースにてホットステージ光学顕微鏡を用いて、溶融ポリ乳酸系樹脂中のAの溶解状態を観察することにより確認した。
【0080】
<実施例8>
表2に記載の樹脂組成とした以外は、実施例7と同様の方法に従って、テストピースを作製した。厚さ1mmのテストピース成形時の成形性、該テストピースの結晶化完了時間、相対結晶化度および厚さ4mmのテストピースの耐熱温度を以下の表2にまとめた。
【0081】
<比較例4>
(B)成分を使用しない以外は、実施例7と同様の方法に従って、テストピースを作製した。厚さ1mmのテストピース成形時の成形性、該テストピースの結晶化完了時間、相対結晶化度および厚さ4mmのテストピースの耐熱温度を以下の表2にまとめた。
【0082】
<比較例5>
(A)成分を使用しない以外は、実施例8同様の方法に従って、テストピースを作製した。厚さ1mmのテストピース成形時の成形性、該テストピースの結晶化完了時間、相対結晶化度および厚さ4mmのテストピースの耐熱温度を以下の表2にまとめた。
【0083】
【表2】

【0084】
<実施例9>
ポリ乳酸系樹脂(100重量部)、A(0.2重量部)、B−1(0.1重量部)およびカルボジイミド(0.75重量部)をドライブレンドして樹脂組成物を得た。該樹脂組成物(ドライブレンド物)を、二軸押出機にて樹脂温度235℃で溶融混練し、ストランド状に水中に押し出して、ペレタイザーで切断し、該樹脂組成物(溶融混練物)のペレットを得た。次にこのペレットを80℃、6時間真空乾燥機にて乾燥した後、圧縮成形機にて樹脂温度235℃にて1分溶融させた後、20℃に冷却し、厚さ0.5mmのテストピースを成形した。テストピースの結晶化完了時間を表3に示した。
【0085】
<(A)成分の溶融温度の確認>
尚、A(0.2重量部)が、溶融ポリ乳酸系樹脂に樹脂温度235℃で完全に溶解していることは、(B)成分を配合しなかった以外は、上記と同様の方法で別途作成したテストピースにてホットステージ光学顕微鏡を用いて、溶融ポリ乳酸系樹脂中のAの溶解状態を観察することにより確認した。
【0086】
<比較例6>
(B)成分を使用しない以外は、実施例10と同様の方法に従って、テストピースを作製した。テストピースの結晶化完了時間を以下の表3にまとめた。
【0087】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の樹脂組成物は、結晶化速度が早いため通常の成形法によって高い耐熱性を有した成形品を得ることができる上、さらに、安定性、特に高温、高湿度下における安定性に優れ、成形性にも優れるため、車両パーツ、家電製品のボディー等の筐体、歯車、一般雑貨、衣料品、バッグ、ファスナーやボタン等の掛止部材、農業資材、建築資材、土木資材、食器類、玩具類等の成形品として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、
(A)下記一般式(1)
−(CONHR(1)
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、それぞれ炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物を0.01〜0.5重量部、及び、
(B)下記一般式(2)で表されるアミド系化合物、タルク、ハイドロタルサイト、マイカ及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01〜20重量部含有するポリ乳酸系樹脂組成物。
【化1】

[式中、2個のRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数6〜30の脂環族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基、又は炭素数6〜30の芳香族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基を表す。]
【請求項2】
(A)成分が、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド又はトリメシン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)のいずれかである請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分が、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド及びタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分の平均粒径が、10μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、耐加水分解性向上剤を0.01〜5重量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
耐加水分解性向上剤がカルボジイミド化合物である請求項5に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
結晶化完了時間が、1.2分以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項9】
示差走査熱量測定法により求められる相対結晶化度が80%以上である請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物から、成形体を製造する方法。
【請求項11】
ポリ乳酸系樹脂組成物を、(A)成分の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度にて、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解している状態で、成形工程に供することを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
成形工程が、射出成形、押出成形、射出ブロー成形、射出圧縮成形、押出ブロー成形、発泡成形又は溶融紡糸である請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、
(A)下記一般式(1)
−(CONHR (1)
[式中、Rはトリメシン酸から全てのカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。3個のRは同一又は相異なって、それぞれ炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
で表されるトリメシン酸トリアミド化合物を0.01〜0.5重量部、及び、
(B)下記一般式(2)で表されるアミド系化合物、タルク、ハイドロタルサイト、マイカ及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01〜20重量部含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂の結晶化速度を向上する方法。
【化2】

[式中、2個のRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数6〜30の脂環族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基、又は炭素数6〜30の芳香族モノアミンからアミノ基を除いて得られる残基を表す。]
【請求項14】
ポリ乳酸系樹脂組成物を、(A)成分の溶融ポリ乳酸系樹脂に対する溶解温度以上の温度にて、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解するまで混練し、(A)成分が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解している状態で、成形工程に供することを特徴とする請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2009−67856(P2009−67856A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235987(P2007−235987)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】