説明

ポリ乳酸系水性インキ用バインダー、水系エマルジョン及び水性インキ

【課題】 乳化剤を添加しなくても安定な水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有し、なおかつ植物原料由来の樹脂骨格を有するポリ乳酸系樹脂を含有する水性インキ用バインダー、これを含有する水系エマルジョンおよび水性インキ組成物を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性インキ用バインダー、これを含有する水性インキ調製用水系エマルジョンおよび水性インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子中に共重合されたポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを有し、このスルホン酸金属塩基により自己乳化する、顔料分散性に優れた水性インキ用バインダー、水系エマルジョン及び水性インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題から塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、粘着剤、シール剤、プライマー及び繊維製品や紙製品の各種処理剤が従来の有機溶剤系から水系化、ハイソリッド化、粉体化の方向に進みつつある。とりわけ水分散体による水系化は作業性の良さと作業環境保護の面から最も汎用的で有望視されている。加えて水分散体を形成する合成樹脂自身にも生分解性や植物由来原料を主体として構成されている事が廃棄後の環境汚染の面から好ましい。
【0003】
ポリ乳酸原料の乳酸はトウモロコシやイモなどの天然の素材を原料としており、関連した業界では注目されている。ポリ乳酸樹脂は土壌や海水中では数年内に水と二酸化炭素に分解される性質を持ち、安全性が高く人体に無害である。その水分散体は優れた塗膜加工性、各種基材への密着性から塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、プライマー、等の工業製品、及び優れた洗浄性、保水性、抗菌性、人体への低毒性を利用して衣料用、食器用、石鹸や洗剤、歯磨き、シャンプー、リンス、化粧品、乳液、整髪料、香水、ローション、軟膏など幅広い分野で用いられる可能性がある。
【0004】
ポリ乳酸の水分散体を水性印刷インキ用バインダーとして用いた例としては特許文献1,2が挙げられる。これらの事例で用いられている水系ポリ乳酸は乳化剤により強制乳化されたポリ乳酸が用いられており、ポリ乳酸分子自体には顔料と親和性を有する様な極性基は導入されていない。特許文献3及び特許文献4にはスルホン酸塩含有芳香族ポリエステルポリオールにラクチドを開環付加反応させたスルホン酸金属塩基共重合型のポリ乳酸系樹脂が開示されており、各々顔料分散性に優れる事が示されている。しかしながら双方の特許文献に開示されている上記手法ではポリマー中のスルホン酸塩濃度を十分に高める事が出来ず、本発明のような安定な自己乳化型水系エマルジョン粒子を形成させる事が出来ない。また、特許文献5に示された様なポリ乳酸樹脂の分子末端のみに親水性基を導入する方法ではエマルジョン保存安定性に優れた粒子径の小さなエマルジョンを得るに十分な濃度の極性基を導入出来ない。或いは末端基の数を増やそうとするとポリ乳酸樹脂の分子量を低下させなければならず、バインダーとしての塗膜形成機能が低下し、印刷塗膜が脆くなるためバインダー性能が低下してしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−13657号公報
【特許文献2】特開2008−13658号公報
【特許文献3】特開2003−147248号公報
【特許文献4】特開2001−323052号公報
【特許文献5】特開2003−277595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、環境に配慮した植物原料由来の樹脂骨格を有し、乳化剤を添加しなくても安定な水系エマルジョンを形成することができ、なおかつ顔料分散性に優れた機能を発揮する水性インキ用バインダー及びそれを用いて調製した水性インキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見い出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) ポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性インキ用バインダー。
(2) 前記共重合ポリウレタン樹脂が、ポリ乳酸ジオール(A)、スルホン酸金属塩基含有ジオール(B)、(A)(B)以外のジオール(C)、を、ジイソシアネート化合物(D)との重付加反応により結合した構造からなる(1)記載の水性インキ用バインダー。
(3) 前記共重合ポリウレタン樹脂のスルホン酸金属塩基濃度が100eq/ton以上500eq/ton以下である(1)または(2)に記載の水性インキ用バインダー。
(4) 前記ジオール(C)が2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートを含有する(1)または(2)に記載の水性インキ用バインダー。
(5) 前記ジオール(C)がポリエーテルジオールを含有する(1)または(2)に記載の水性インキ用バインダー。
(6) 前記ポリ乳酸ジオールのL乳酸とD乳酸のモル比(L/D)が1〜9である(1)または(2)に記載の水性インキ用バインダー。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の水性インキ用バインダーを含有する水性インキ調製用水系エマルジョン。
(8) エマルジョンの平均粒子径が200nm未満である(7)記載の水性インキ調製用水系エマルジョン。
(9) 前記共重合ポリウレタン樹脂以外の乳化剤を含有しない(7)または(8)に記載の水性インキ調製用水系エマルジョン。
(10) (1)〜(6)のいずれかに記載の水性インキ用バインダーおよび/または(7)〜(9)のいずれかに記載の水性インキ調製用水系エマルジョンを含有する水性インキ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂は分子中に十分な濃度のスルホン酸金属塩基を有するため、共重合ポリウレタン樹脂自体が水への自己乳化機能を有し、乳化剤を添加しなくても粒子径の小さい水系エマルジョンを形成する事が出来、その結果としてエマルジョンの保存安定性に優れ、さらにスルホン酸金属塩基の効果により、顔料分散性にも優れる。このため、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性インキ用バインダーを用いることにより、別途乳化剤を添加しなくても保存安定性に優れなおかつ顔料分散性に優れる水性インキを提供することができる。また、本発明の水性インキから得られる塗膜はその好ましい実施態様において塗膜表面の光沢に優れ、なおかつ基材との密着性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂はスルホン酸金属塩基を分子中に有し、その濃度は樹脂重量に対して50eq/ton以上500eq/tonであることが好ましく、より好ましくは100eq/ton以上、更に好ましくは150eq/ton以上である。本発明の共重合ポリウレタン樹脂はこのスルホン酸金属塩基により自己乳化機能を発現し、粒子系の小さなエマルジョン粒子を形成することができ、保存安定性に優れる水系エマルジョンを得ることができる。スルホン酸金属塩基濃度が100eq/ton未満では形成される水分散体粒子の粒子径が大きくなり、エマルジョン保存安定性が低下する傾向がある。スルホン酸金属塩基濃度が低い場合には、微量の乳化剤を併用することにより、エマルジョンの保存安定性を改善できる場合がある。また、スルホン酸金属塩基濃度が500eq/tonを越えるとポリウレタン溶液の溶液粘度が高くなり、重合反応が困難となる傾向がある。
【0010】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂におけるポリ乳酸セグメントおよびスルホン酸金属塩基含有セグメントは、例えば、ポリ乳酸含有ジオールとスルホン酸金属塩基含有ジオールとジイソシアネートの重付加反応によって得ることができる。更に異なるジオール成分を共存させて重付加反応を行うことも可能であり、用いるジオール成分の選択により、種々の機能を付加したりすることができる。
【0011】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に共重合されるスルホン酸金属塩基含有セグメントとは、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸或いはそのジエステル化合物と、グリコール成分との縮合反応により得られる化学構造を有するポリエステルジオール化合物であることが好ましい。前記スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、3−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−カリウムスルホ−1,8−無水ナフタレンから選ばれる1種以上であることが好ましい。また前記スルホン酸金属塩基としては、ナトリウム塩基、リチウム塩基、カリウム塩基を挙げることができる。金属塩のほか、四級アンモニウム塩基や四級ホスホニウム塩基等の有機塩基も同様の効果を示す。これらのうち、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が汎用性と共重合される事により得られたスルホン酸金属塩基含有セグメントの汎用溶剤への溶解性の点で特に好ましい。また、前記グリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール類や1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族グリコール類或いはビスフェノールAの両末端水酸基へのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物の様な芳香族系グリコール類から選ばれる1種以上であることが好ましい。これらグリコール成分のうち、得られたスルホン酸金属塩基含有ポリエステルジオール化合物の汎用溶剤への溶解性の面からは、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールが好ましい。更に好ましくは2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、最も好ましくは2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートである。
【0012】
前記スルホン酸金属塩基含有セグメントにおいて、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸或いはそのジエステル化合物以外の二塩基酸及びそれらのジエステル化合物を、全酸性分を100モル%としたとき90モル%未満の範囲で共重合させることにより、スルホン酸金属塩基含有セグメントの溶剤溶解性を向上させる事が出来る。具体的な二塩基酸成分としてはナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族二塩基酸や、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族二塩基酸、或いは1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸及びそれらのジエステル化合物が挙げることができる。
【0013】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に共重合されるポリ乳酸セグメントは、ポリオールを開始剤としてラクチドを開環付加することによって得ることができる化学構造を有するポリエステルジオールであることが好ましい。前記ポリオールはジオールであることが好ましく、更に好ましくは脂肪族ジオールである。
【0014】
また本発明のポリ乳酸セグメント中のL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)は1〜9であることが好ましく、この範囲ではポリウレタン重合時の反応溶媒への良好な溶解性とウレタン反応性が得られる。L−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が上記範囲を外れると、ポリ乳酸セグメントの汎用溶剤への溶解性が悪くなり、共重合反応性が低下する。
【0015】
本発明のポリ乳酸セグメントの合成方法としては以下2種の方法を例示できる。
<第1の合成法>スルホン酸金属塩基を含有しないジオールを開始剤としてラクチドモノマーを開環付加重合させる方法。
<第2の合成法>スルホン酸金属塩基を含有するジオールを開始剤としてラクチドモノマーを開環付加重合させる方法。
【0016】
前記<第1の合成法>で使用される開始剤は、前記スルホン酸金属塩基含有セグメントの構成成分として例示した種々のグリコール類を用いる事が出来る。これらのうち、エチレングリコール、2−メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の比較的分子量の低いグリコール類を用いることにより、バイオマス度を比較的高く保つことができ、好ましい。この場合得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸ジオールと前記スルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合する事で本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0017】
前記<第2の合成法>で使用される開始剤は、前記スルホン酸金属塩基含有セグメントおよび/または5−ナトリウムスルホイソフタル酸への2倍モルのエチレングリコール縮合付加物等のスルホン酸金属塩基含有ジオールを用いる事が出来る。この場合、得られたポリ乳酸セグメントにはスルホン酸金属塩基が含有されているのでスルホン酸金属塩基含有セグメントでもあり、これをウレタン共重合させる事で本発明の共重合ポリウレタン樹脂が得られる。
【0018】
また、前記<第2の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントと前記<第1の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸セグメントをウレタン共重合させる事によっても、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。さらには、前記<第2の合成方法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントとポリ乳酸成分を含有しないスルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合すること、前記<第2の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントと前記<第1の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸セグメントとポリ乳酸成分を含有しないスルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合することによっても本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。これらの方法は、共重合ポリウレタン樹脂のスルホン酸金属塩基の濃度の制御が容易である点で優れている。
【0019】
前記ポリ乳酸セグメントの数平均分子量は400〜10000であることが好ましく、より好ましくは800〜5000、更に好ましくは1000〜3000の範囲である。数平均分子量が400未満では開始剤に開環付加させるラクチドモノマー量が少なく、得られる共重合ポリウレタン樹脂のバイオマス度を上げる事が出来ない。一方、数平均分子量が10000を越える場合、分子末端の水酸基の数が少ないのでポリ乳酸ジオールの反応性が低くなり、ウレタン共重合による高分子量化反応が進みにくくなる。
【0020】
本発明の好ましい実施態様において、共重合ポリウレタン樹脂にポリエーテルセグメントを共重合させる事により、フィルム等への印刷適性を向上させることが出来る。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(以下、PTMGと略記することがある)等が挙げられるが、これらのうち、ポリエチレングリコールが印刷適性改善効果の点で最も好ましい。本発明の共重合ポリウレタン樹脂中への共重合率は5重量%〜20重量%が好ましい。5重量%未満では印刷適性を向上する効果があまり発現されず、20重量%を越えると共重合ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が低下し、耐ブロッキング特性が低下する傾向にあり好ましくない。また共重合されるポリエーテルセグメント鎖の数平均分子量は200〜6000のものが好適であるが、共重合反応性と印刷適性を高める効果からより好ましくは400〜2000、更に好ましくは400〜1000である。
【0021】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物としては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート、またはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびm−キシレンジイソシアネートの水添物等の脂肪族、脂環族系ジイソシアネートが挙げられるが、これらの内、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが汎用性の面から好ましい。
【0022】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物の一部を3官能以上のポリイソシアネートで置換することにより、共重合ポリウレタン樹脂の分子量を上げやすくすること、また硬化剤との反応性を向上させることが可能である。但し、3官能ポリイソシアネートの置換比率が低すぎるとこれらの効果が発揮されず、置換比率が高すぎると共重合ポリウレタン樹脂のゲル化が生じるので、3官能以上のポリイソシアネートへの置換率は0.1モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以上3モル%以下であることが更に好ましい。好ましい3官能以上のポリイソシアネートとしては、トリメチロールプロパン或いはグリセリン各々1分子に対し、3分子のトリレンジイソシアネートもしくは3分子の1,6−ヘキサンジイソシアネートの付加物、さらには3分子の1,6−ヘキサンジイソシアネートで形成されるイソシアヌレート環を有する化合物を挙げることができる。
【0023】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂にジオール化合物やアミノアルコール化合物、ジアミン化合物を共重合させることにより、塗膜の強靭性を向上させることが出来る場合がある。ジオール化合物としては例えば前記スルホン酸金属塩基含有セグメントの構成成分として例示した種々のグリコール類を挙げることができる。エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2−メチルプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、N−メチルモノエタノールアミン、エチレンジアミン等の比較的低分子量の化合物が、バイオマス度を比較的高く保つことができ、好ましい。
【0024】
また本発明の共重合ポリウレタン樹脂に、トリメタノールプロパン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール等のポリオール化合物を、得られる共重合ポリウレタン樹脂がゲル化しない範囲で共重合させることにより、共重合ポリウレタン樹脂の分子量を上げやすくする、或いは硬化剤との反応性を向上させる事が可能である。これらポリオールの中ではバイオマス度を比較的高く保つことができるので、分子量の小さいトリメチロールプロパンが好ましい。ポリオール化合物の共重合比率は、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を構成するポリ乳酸ジオール(A)、スルホン酸金属塩基含有ジオール(B)、(A)(B)以外のジオール(C)の合計に対し、0.1モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以上3モル%以下であることが更に好ましい。
【0025】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性インキの水系エマルジョン粒子の平均粒子径は200nm以下であることが好ましい。平均粒子径が200nmを越えるとエマルジョン液の保存安定性が悪く、保存中に樹脂が沈殿し易い。また、印刷適性も低下し、平滑で表面光沢に優れるインキ塗膜が形成されにくい。
【0026】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂の数平均分子量は5000以上40000未満である事が好ましい。より好ましくは8000以上30000未満、更に好ましくは10000以上25000未満である。5000未満では一分子中のスルホン酸金属塩基濃度が低く、その共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性インキは安定なエマルジョン粒子を形成出来にくくなる傾向にある。また、印刷して得られるインキ塗膜も脆くなる。一方、40000を越える場合、その共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性インキは印刷適性が劣り、平滑で表面光沢に優れるインキ塗膜が形成されにくくなる傾向にある。
【0027】
本発明の自己乳化型ポリ乳酸ポリウレタン樹脂の水系エマルジョンの製造方法は、まず第一段階においてメチルエチルケトン(以下、MEKと略記する場合がある)溶液中で共重合ポリウレタン樹脂を重合し、次いで第二段階で得られた樹脂のMEK溶液に水を混合し、次いで系からMEKを留去させる方法で調製出来るが、この方法に限ったものでは無い。より好ましい調製方法としては、100%MEK中で本発明の共重合ポリウレタン樹脂を重合した後、固形分濃度30重量%溶液に対して5〜40重量%のイソプロピルアルコール又はエチルアルコールを均一混合し、減圧下に50℃以下の条件でMEK及びイソプロピルアルコール又はエタノールを留去する方法が挙げられる。MEK溶液にイソプロピルアルコール又はエチルアルコールを混合させておく事で相転移がスムーズに進行し、得られるエマルジョン粒子がより微粒子化され、かつ粒子径分布もより狭くなる。
【0028】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂は有機溶剤を含有しない水中にポリマー粒子が分散した水系エマルジョンとして安定に保存かつ基材に塗布可能であるが、共溶剤としてメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級モノアルコール類、或いはエチルアセテート、ブチルアセテート等のアセテート類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤を任意の濃度で配合した水系エマルジョンとし、特定基材への印刷適性を更に改善させても良い。
【0029】
本発明の水性インキに用いられるバインダー樹脂としては本発明の共重合ポリウレタン樹脂単独でも良く、必要に応じてロジン系、アクリル系、塩ビ系、塩酢ビ系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレングリコール系等の親水性樹脂を配合使用しても良い。ロジン系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレングリコール系等の生分解性の親水性樹脂を配合使用すれば、水性インキ全体の生分解性を高くすることができ、特に好ましい。また本発明の水性インキの溶剤成分としては水の他、水と親和性の高い有機溶剤を添加し、印刷物の乾燥性の調整や印刷基材との密着性を改善させる事ができる。
【0030】
また本発明の水性インキには必要に応じて耐候性安定剤や消泡剤、防腐剤、レベリング剤、増粘剤、凍結防止剤等の種々の添加剤を配合出来る。さらには水系硬化剤を配合する事で二液型水性インキとしても使用出来る。使用出来る硬化剤としてはノニオン系乳化剤で乳化されたポリイソシアネート系硬化剤或いはポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等の親水性ポリエポキシ系硬化剤が挙げられる。これら硬化剤は主剤としてのバンダー樹脂配合量の5〜40重量%の範囲で配合されることが好ましい。
【0031】
本発明の水性インキはバインダー樹脂、顔料、水、必要により顔料分散剤、上記種々の添加剤及びイソプロピルアルコール、エタノール等の低級アルコール等の共溶剤を混合し、ビーズミル、3本ロール等で分散・混練させる事により得られる。バインダー樹脂はあらかじめ水系エマルジョンとしておくことが好ましく、その場合、別途水を加える必要は必ずしもない。
【0032】
以上、本発明の共重合ポリウレタンの水系エマルジョンとは水100%の分散媒中に分散した本発明の共重合ポリウレタンのエマルジョンのみならず、この共重合ポリウレタンのエマルジョン粒子の分散安定性を損ねない範囲で任意の割合に親水性有機溶剤が水と混合されたエマルジョンも含まれる。また本発明の水性インキとは本発明の共重合ポリウレタン樹脂が顔料及び上述した種々添加剤と共に有機溶剤を含有しない水分散媒中、或いはインキとしての性能を損ねない任意の範囲で親水性有機溶剤が水と混合された分散媒中に分散されているインキ組成物を意味するものである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
なお、以下、特記のない場合、部は重量部を表す。また、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
(1)数平均分子量
ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)150Cを用い、テトラヒドロフランをキャリアー溶剤とし、検出器には示差屈折計(RI)検出器を用いて、流速1ml/分で測定した。カラムとして昭和電工(株)製 Shodex KF−802、KF−804、KF−806を3本連結しカラム温度は30℃に設定した。分子量標準サンプルとしてはポリスチレン標準物質を用いた。
【0035】
(2)スルホン酸金属塩基含有ジオール原料−Gの酸価
スルホン酸金属塩基含有ジオール原料−Gの80重量%トルエン溶液0.2gを20mlのテトラヒドロフランに溶解後、0.1N−NaOHエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値をスルホン酸金属塩基含有ジオール原料−Gの10g中の当量で示した。
【0036】
(3)ポリ乳酸オリゴマーの酸価
樹脂0.5gをクロロホルム/メタノール=3/1混合溶液20mlに溶解後、0.1N−ナトリウムメトキシドメタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値を樹脂固形分10g中の当量(eq/ton)で示した。
【0037】
(4)スルホン酸金属塩基濃度の定量
スルホン酸ナトリウム含有ジオール原料及び共重合ポリウレタン樹脂中のスルホン酸金属塩基濃度を見積もるための手段としてナトリウム濃度の定量を行った。ナトリウムの定量は共重合ポリウレタン樹脂を加熱炭化、灰化させ、残留灰分を塩酸酸性溶液とした後、原子吸光法により定量した。検出されたナトリウムが全て共重合ポリウレタン樹脂に含有されているスルホン酸ナトリウム塩基に由来するものとみなして、スルホン酸金属塩基濃度を算出した。
【0038】
(5)ガラス転移温度
サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0039】
(6)ポリマー組成
試料をクロロホルム−dに樹脂を溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)“ジェミニ−200”を用い、H−NMRにより樹脂組成比を求めた。
【0040】
(7)エマルジョン粒子の平均粒子径
HORIBA LB−500を用いて体積粒子径基準の算術平均径を測定し、エマルジョン粒子の平均粒子径として採用した。
【0041】
(8)エマルジョン安定性
得られたエマルジョンを室温で2ヶ月、暗所密閉下に静置保存し、エマルジョン液の外観をエマルジョン調製直後と比較した。また、目視で沈殿物を認めずエマルジョン状態が保持できていたエマルジョン液については、エマルジョン粒子径を測定した。
【0042】
(9)バイオマス度
共重合ポリウレタン樹脂の合成に用いた仕込原料全体(但し、溶媒および触媒は除く)に対するラクチドモノマーの重量分率を計算し、バイオマス度(%)とした。
【0043】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。
NPG:ネオペンチルグリコール
EG:エチレングリコール
TMP:トリメチロールプロパン
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
PEG#1000:ポリエチレングリコール1000
PEG#400:ポリエチレングリコール400
【0044】
合成例−1
1)スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−Gの合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコに2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート408部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル197部、テトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。230℃でメタノールの溜出終了を確認後、250℃に昇温、10分間減圧下に攪拌し、反応物を100℃まで冷却。トルエン141部を混合し、均一溶解させた。
得られた80重量%トルエン溶液中のスルホン酸金属塩基濃度及び酸価は下記のとおりであった。
スルホン酸金属塩基濃度:948eq/ton
酸価 :23eq/ton
【0045】
2)ポリ乳酸ジオール−Aの合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにネオペンチルグリコール18部、L−ラクチド400部、D−ラクチド100部及び触媒としてオクチル酸錫0.33部を仕込み、常温で30分窒素ガスを封入した。次いで常温下に30分間減圧し、内容物を更に乾燥させた。
再び窒素ガスを封入しつつ反応系を180℃に昇温し、3時間攪拌した。次いでリン酸0.22部を添加し、20分攪拌後、系を減圧し、未反応残留ラクチドを留去した。約20分後、未反応ラクチドの留出が収まった後内容物を取り出し冷却した。得られたポリ乳酸ジオール−Aの分子量、酸価を測定し、以下に示した。
数平均分子量:3000
酸価 :24eq/ton
【0046】
3)共重合ポリウレタン樹脂(LU−1)の合成
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記ポリ乳酸ジオール−A100部、前記スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)62.5部、をMEK200部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート38部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.4部を添加した。70℃で4時間反応後、MEK238部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−1)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
4)水系エマルジョン(E−1)の調製
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した2Lガラスフラスコに前記共重合ポリウレタン樹脂LU−1のMEK溶液400部を仕込み、50℃に加温し、攪拌しつつイソプロピルアルコール80部次いで脱イオン水340部を徐々に添加し、均一に混合させた。次いで内容物を50℃に保ちながら減圧下にイソプロピルアルコールとMEKを留去させ、約420部のイソプロピルアルコール/MEK/水混合液を除いた。得られた水系エマルジョン液E−1の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0050】
【表3】

【0051】
合成例−2
共重合ポリウレタン樹脂(LU−2)の合成及び水系エマルジョン(E−2)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記合成例−1で得られたポリ乳酸ジオール−A100部、スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)62.5部をMEK200部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート52部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.1部を添加した。1時間反応後、ポリエチレングリコール#1000を25部投入した。70℃で3時間反応後トリメチロールプロパン4部を添加し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。70℃で更に2時間反応後、MEK340部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−2)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−2)を得た。得られたエマルジョン液、E−2の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0052】
合成例−3
共重合ポリウレタン樹脂(LU−3)の合成及び水系エマルジョン(E−3)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記合成例−1で得られたポリ乳酸ジオール−A100部、スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)37.5部をMEK200部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート44.5部を溶解し、触媒としてジ
ブチル錫ラウレート0.1部を添加した。1時間反応後、ポリエチレングリコール#400を30部投入し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。70℃で更に2時間反応後、MEK280部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−3)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−3)を得た。得られたエマルジョン液、E−3の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0053】
合成例−4
1)スルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸ジオール−Bの合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコに合成例−1で得られたスルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G91部(80重量%トルエン溶液)、L−ラクチド400部、D−ラクチド100部及び触媒としてオクチル酸錫0.33部を仕込み、常温で30分窒素ガスを封入した。次いで常温下に30分間減圧し、内容物を更に乾燥させた。
再び窒素ガスを封入しつつ反応系を180℃に昇温し、3時間攪拌した。次いでリン酸0.22部を添加し、20分攪拌後、系を減圧し、未反応残留ラクチドを留去した。約20分後、未反応ラクチドの留出が収まった後内容物を取り出し冷却した。得られたポリ乳酸ジオールの分子量、酸価、及びスルホン酸金属塩基濃度を測定し、以下に示した。
数平均分子量 :3300
酸価 :28eq/ton
スルホン酸金属塩基濃度 :150eq/ton
2)共重合ポリウレタン樹脂(LU−4)の合成及び水系エマルジョン(E−4)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記ポリ乳酸ジオール−B100部、前記スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)25部、ネオペンチルグリコール4部をMEK150部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート25部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を添加した。70℃で4時間反応後、MEK207部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−4)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−4)を得た。得られたエマルジョン液、E−4の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0054】
合成例−5
共重合ポリウレタン樹脂(LU−5)の合成及び水系エマルジョン(E−5)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記合成例−1で得られたポリ乳酸ジオール−A100部、スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)15部をMEK200部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート40.0部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.1部を添加した。1時間反応後、ポリエチレングリコール#400を40部投入し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。70℃で更に3時間反応後、MEK250部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−5)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−5)を得た。得られたエマルジョン液、E−5の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0055】
比較合成例−6
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1LガラスフラスコにL−ラクチド160部、D−ラクチド40部、グリコール酸1.52g及び触媒としてオクチル酸錫0.33部を仕込み、常温で30分窒素ガスを封入した。次いで常温下に30分間減圧し、内容物を更に乾燥させた。
再び窒素ガスを封入しつつ反応系を190℃に昇温し、3時間攪拌した。次いでリン酸0.22部を添加し、20分攪拌後、系を減圧し、未反応残留ラクチドを留去した。約20分後、未反応ラクチドの留出が収まった後内容物を取り出し冷却した。得られたポリ乳酸樹脂(L−6)の分子量、酸価を測定し、表1に示した。
上記ポリ乳酸樹脂30部にステアリン酸ナトリウム3部、テトラヒドロフラン20部を加えて50℃で均一混合し、脱イオン水100部を徐々に加えた。次いで50℃で減圧下にテトラヒドロフラン/水混合液を留去し、ポリ乳酸樹脂の水系エマルジョン(E−6)を得た。得られたエマルジョン液、E−6の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0056】
比較合成例6のポリ乳酸樹脂はスルホン酸金属塩を含有せず、またウレタン結合を有さないポリ乳酸樹脂である。
【0057】
実施例−1
合成例−1で得られたポリ乳酸ウレタン(LU−1)の水系エマルジョン(E−1)を用いて以下の配合処方にて水性インキを調製した。
水系エマルジョン(E−1) 100部
フタロシアニンブルー 30部
イソプロピルアルコール 20部
脱イオン水 10部
ジルコニアビーズ(直径1mm) 300部
上記配合物をペイントシェーカー(東洋精機(株)製)を用いて6時間分散処理し、得られたインキを50μm厚のポリエチレンテレフタレート製フィルム上およびポリ乳酸製フィルム上に乾燥塗膜厚みが約2μmになる様にワイヤーバーを用いて塗布し、次いで120℃で10分間、熱風乾燥させた。
【0058】
インキ塗膜状態の観察
得られた乾燥塗膜の外観を目視観察、及び塗布した基材フィルムを折り曲げた際の塗膜の状態を、表面光沢、柔軟性、基材密着性の3つの観点から評価し、以下の指標でランク分けし、評価結果を表3に示した。
<表面光沢> ○:光沢有り ×:光沢無し
<柔軟性> ○:折り曲げても割れない ×:折り曲げると割れる
<基材密着性> ○:折り曲げても剥がれない ×:折り曲げると剥がれる
【0059】
実施例−2〜5
合成例−2〜5で得られたポリ乳酸ウレタン(LU−2〜5)の水系エマルジョン(E−2〜5)を用いて実施例−1と同様の処方にて水性インキを調製し、実施例−1と同様に評価した。評価結果を表3にまとめた。
【0060】
比較例−6
比較合成例−6で得られたポリ乳酸樹脂(L−6)の水系エマルジョン(E−6)を用いて実施例−1と同様の処方にて水性インキを調製し、実施例−1と同様に評価した。評価結果を表3にまとめた。
【0061】
表3の結果から本発明の共重合ポリウレタン樹脂により形成された水系エマルジョンを用いて調製された水性インキの乾燥塗膜は表面光沢、及び柔軟性に優れ、基材との密着性も良好である事が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂は自己乳化型水系エマルジョンを形成し、顔料の分散性に優れる事から水性インキ用バインダーとして使用する事で優れた光沢と基材密着性に優れた印刷塗膜を形成する事が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性インキ用バインダー。
【請求項2】
前記共重合ポリウレタン樹脂が、ポリ乳酸ジオール(A)、スルホン酸金属塩基含有ジオール(B)、(A)(B)以外のジオール(C)、を、ジイソシアネート化合物(D)との重付加反応により結合した構造からなる請求項1記載の水性インキ用バインダー。
【請求項3】
前記共重合ポリウレタン樹脂のスルホン酸金属塩基濃度が100eq/ton以上500eq/ton以下である請求項1または2に記載の水性インキ用バインダー。
【請求項4】
前記ジオール(C)が2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートを含有する請求項1または2に記載の水性インキ用バインダー。
【請求項5】
前記ジオール(C)がポリエーテルジオールを含有する請求項1または2に記載の水性インキ用バインダー。
【請求項6】
前記ポリ乳酸ジオールのL乳酸とD乳酸のモル比(L/D)が1〜9である請求項1または2に記載の水性インキ用バインダー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性インキ用バインダーを含有する水性インキ調製用水系エマルジョン。
【請求項8】
エマルジョンの平均粒子径が200nm未満である請求項7記載の水性インキ調製用水系エマルジョン。
【請求項9】
前記共重合ポリウレタン樹脂以外の乳化剤を含有しない請求項7または8に記載の水性インキ調製用水系エマルジョン。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性インキ用バインダーおよび/または請求項7〜9のいずれかに記載の水性インキ調製用水系エマルジョンを含有する水性インキ。

【公開番号】特開2010−174170(P2010−174170A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19777(P2009−19777)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】