説明

ポリ乳酸系積層2軸延伸フィルム

【課題】ヒートシール特性を有すると共に、十分な耐熱収縮性を有するポリ乳酸系フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも2層からなる積層フィルムであって、上記積層フィルム中の1つの層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Da(%)と、上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Db(%)の関係が、
Da≦7 かつ Db−Da>3
であり、上記他の1つの層を、上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒートシール性の良好な生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セロファンは包装用フィルムとして広く用いられ、繊維包装、菓子等の包装、薬袋等に使用され、またポリ塩化ビニリデンを表面にコートして防湿性、ヒートシール性を兼ね備えたフィルムとして使用されていた。このセロファンは、木材からとれるパルプ質を主原料としているので分解性があることが特徴であるが、パルプ質を化学処理して一旦溶解した後、製膜される流延法といわれる製造方法をとることから、生産性が低く、また廃水処理の点から設備を整える投資を必要とする。このため、今日では製造コストの低い石油由来原料からなるポリエチレン、ポリオレフィンや芳香族ポリエステルからなるフィルムにほとんどがとって代わられている。この石油由来のポリエチレン、ポリオレフィンや芳香族ポリエステルは様々な加工法により耐熱性、収縮性、ヒートシール性、印刷性、防湿性や防曇性等を付与したフィルムが製造されており、用途も包装材に限らず、工業材としても広く用いられている。
【0003】
しかし、上記のセロファンは、香水やお茶、コーヒーなどの香りを収着しない特性があり、包装材として見直され、上記の問題点を有しながらも、多くの使用量を有する。また、石油由来原料からなるフィルムは燃焼時の発熱量が多く、燃焼処理中に燃焼炉を傷める恐れがある。さらに、埋め立て処理されることも多いが、その科学的、生物的安定性のためほとんど分解せず残留し、埋立地の寿命を短くする等の問題を起こしている。このため、セロファンのように土壌中、水中で分解するものが望まれ、多くの研究がなされている。
【0004】
今日開発が進められている、土壌中、水中で分解する材料、すなわち、生分解性材料の例としてはポリ乳酸があげられる。このポリ乳酸は、燃焼熱量はポリエチレンの半分以下であり、また土中・水中で自然に加水分解が進行し、次いで微生物により無害な分解物となる。現在、ポリ乳酸を用いて成形物、具体的にはフィルム、シートやボトルなどの容器等を得る研究がなされている。
【0005】
ところで、ポリ乳酸の無延伸フィルムは、伸びが数%しかなく、脆い材料である。このため、無延伸の薄いフィルムは包装用として実用性はない。一方、ポリ乳酸を一軸延伸若しくは二軸延伸することにより、フィルムが配向して伸びが増大し、さらに熱処理することで熱収縮性を抑制した実用性の高いフィルムが得られることは既に公知である。さらにポリ乳酸系重合体からなるフィルムの特徴としてはセロファンと同じように香りの成分を収着しない特徴がある。このため、従来から使用されているポリオレフィン系のヒートシーラント材に代わってポリ乳酸系フィルムを使用することが期待される。これは、ポリオレフィン系のシーラント材は包装する対象物によってはこれら香りの成分を収着し、中身が変化する恐れがあるのに対し、安心して使用することができる点で優位であるからである。
【0006】
ヒートシーラント材として用いる場合に、好ましい特性としては、
(1)シール温度領域が適度であること、
(2)他のプラスチックフィルムや紙、金属箔とラミネートしやすいこと、
(3)シール時に収縮性が低いこと
などがあげられる。
【0007】
上記(1)は、今日広く使用されているポリエチレンからなるシーラント材と照らし合わせたときの温度域で使用できることが、従来から使用される二次加工装置、具体的にはヒートシール装置を備えた製袋機にそのまま流すことができ、新たに設備を導入する必要がなく、経済的となるからである。ポリエチレンのシール温度域は厚みにもよるが高くて130℃以上、低くても80℃以上であり、ヒートシーラント材としての目安となる。上記(2)は、ドライラミネート法、ウエットラミネート法で通常使用される公知の装置でラミネート可能であることが必要であることを示す。ラミネート装置は、一方のフィルムを所定の張力を与えながら巻出し、必要に応じて熱を加えた後接着剤を塗布し、他方のフィルムを同様に所定の張力を与えながら巻出し、これら2種類のフィルムを接着剤を介して重ね合わせて圧着する装置である。したがって、張力によってあるいはこれら張力の微妙な変化によって、巻出し途中のフィルムが破断しないこと、さらに加える熱によってフィルム寸法等が変化しないことが重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリ乳酸系フィルムの場合、上記のように無延伸フィルムではもろいため、ラミネート適性から、延伸配向させたポリ乳酸系フィルムを使用することが好適である。しかし、例えば袋にするような十分なシール強度を得るためには通常フィルムが溶融する温度領域程度に加熱する必要があるが、このような条件でシールすると延伸フィルムは収縮してしまい、上記(3)の要件を満たさず、できあがった製品には収縮によるしわ、波打ち、カールなどが見られ、ひどいと全く製品にならない場合がある。
【0009】
そこで、この発明は、ヒートシール特性を有すると共に、十分な耐熱収縮性を有するポリ乳酸系の延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも2層からなる積層フィルムであって、上記積層フィルム中の1つの層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Da(%)と、上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Db(%)の関係が、
Da≦7 かつ Db−Da>3
であり、上記他の1つの層を、上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層から構成させることにより上記の課題を解決したのである。
【0011】
所定のD−乳酸含有割合を有する結晶性ポリ乳酸系重合体からなる層を1層とするので、収縮変形が生じにくく、耐熱収縮性を発揮することができる。また、所定のD−乳酸含有割合を有するポリ乳酸系重合体からなる層を他の1層とするので十分なヒートシール特性を有し、得られる積層体は、ヒートシーラント材として用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明による積層体は、耐熱収縮性を有する支持層と、ヒートシール特性を有するヒートシール層を有する。
【0013】
また、この発明による積層体は、従来二軸延伸ポリプロピレンフィルムや二軸延伸ポリエステルフィルムが使用されていた個包装、ピロー包装、製袋用などに好適で、かつ他のプラスチックフィルムをラミネートした場合においてはヒートシーラント層となる生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を説明する。
【0015】
この発明にかかるポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムは、ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも2層からなる積層フィルムである。
【0016】
上記ポリ乳酸系重合体は、乳酸を主成分とするモノマーを縮重合してなる重合体である。上記乳酸には、2種類の光学異性体のL−乳酸およびD−乳酸があり、これら2種の構造単位の割合で結晶性が異なる。例えば、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ80:20〜20:80のランダム共重合体では結晶性が無く、ガラス転移点60℃付近で軟化する透明完非結晶性ポリマーとなる。一方、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ100:0〜80:20、又は20:80〜0:100のランダム共重合体は、結晶性を有する。その結晶化度は、上記のL−乳酸とD−乳酸の割合によって定まるが、この共重合体のガラス転移点は、上記と同様に60℃程度のポリマーである。このポリマーは、溶融押出した後、ただちに急冷することで透明性の優れた非晶性の材料になり、ゆっくり冷却することにより、結晶性の材料となる。例えば、L−乳酸のみ、また、D−乳酸のみからなる単独重合体は、180℃以上の融点を有する半結晶性ポリマーである。
【0017】
この発明にかかるポリ乳酸系重合体は、D−乳酸単位とL−乳酸単位との重合体であって、少量共重合成分として他のヒドロキシカルボン酸単位を含んでもよく、また少量の鎖延長剤残基を含んでもよい。
【0018】
重合法としては、縮重合法、開環重合法等公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸又はD−乳酸あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して、任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。
【0019】
また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必用に応じて重合調節剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。
【0020】
ポリ乳酸に共重合される上記の他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0021】
また、必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールや、乳酸及び/又は乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。
【0022】
本発明において使用されるポリ乳酸系重合体の重量平均分子量の好ましい範囲としては6万〜70万であり、より好ましくは8万〜40万、特に好ましくは10万〜30万である。分子量が小さすぎると機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されず、大きすぎると溶融粘度が高すぎ成形加工性に劣る。
【0023】
この発明にかかる積層フィルム中の1つの層(以下、「第1層」と称する。)は、ポリ乳酸系重合体から構成され、結晶性であることが好ましい。また、上記積層フィルムの他の1つの層(以下、「第2層」と称する。)は、ポリ乳酸系重合体から構成される。
【0024】
上記第1層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合(以下「Da」と称する。)(%)と、上記第2層を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合(以下「Db」と称する。)(%)とは、
Da≦7 かつ Db−Da>3
の関係を有するのがよい。
【0025】
すなわち、第1層は支持層となるので、この第1層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体中のD−乳酸の割合(Da)は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。7%を上回ると支持層としての結晶化度が低く、耐熱性が得られず加熱されると収縮変形しやすい。
【0026】
また、第2層はヒートシール層となるので、この第2層を構成するポリ乳酸系重合体中のD−乳酸の割合(Db)は、Daよりも3%よりも高いことが好ましい。この差が3%以下となると、結晶化度及び融点とも上記第1層を構成するポリ乳酸系重合体と近接し、高温でシールする必要が生じるからである。すなわち、高温のシールでは支持層も加熱され熱収縮が起るので、製品に波打ち、しわなどを発生させるといった問題を生じさせるからである。したがって、支持層に比して結晶化度、融点を低めるためには、上記の範囲に設定することが好ましい。
【0027】
なお、上記第1層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体、及び上記第2層を構成するポリ乳酸系重合体は、異なる2種類以上のポリ乳酸系重合体の混合体であってもよい。この場合、D−乳酸割合Da及びDbはそれぞれ2種類以上のポリ乳酸系重合体を構成するD−乳酸の配合割合から算出される平均値となる。
【0028】
上記第2層は、ヒートシール特性を有することから、上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層を構成する。
【0029】
この発明にかかる積層フィルムの構成は、耐熱性の高い第1層を中間層に持ち、両面にヒートシール特性を有する第2層からなる第2層/第1層/第2層の3層構成が汎用性に優れる。また、第2層/第1層/第2層/第1層/第2層の5層構成、及び第2層/第1層/第2層/第1層/・・・/第2層の多層構成でもよい。また、フィルムのカールと耐熱性に考慮するなら片面のみがヒートシール層となる第2層/第1層の2層構成、あるいは第2層/第1層/第2層/第1層の4層構成さらには第2層/第1層/・・・/第1層の多層構成でもよい。これらの最終の多層フィルムの最外層を構成する第2層の厚みは、2μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、そして、最終の積層フィルムの厚みは、10〜100μm、好ましくは15〜80μmである。
【0030】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で第1層/第2層間の各層の間に厚みが10μm以下、好ましくは5μm以下の接着剤層、接着用樹脂層、リサイクル樹脂層あるいは第1層と第2層の中間的な層を積層してあってもよい。
【0031】
また、第1層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体は、第2層を構成するポリ乳酸系重合体を含んだ混合体であってもよく、また、フィルム全層のリサイクルであってもよい。
【0032】
本発明で用いられる重合体には、諸物性を調整する目的で、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、滑剤、可塑剤、無機充填材、着色剤、顔料等を添加することもできる。
【0033】
積層方法としては、通常に用いられる方法を採用することができる。例えば複数の押出機からフィードブロック式あるいはマルチマニホールド式にひとつの口金に連結するいわゆる共押出をする方法、巻き出した混合フィルムの表面上に別種のフィルムをロールやプレス板を用いて加熱圧着する方法がある。
【0034】
ポリ乳酸系重合体を主成分とする2軸延伸フィルムの製造方法としては、Tダイ、Iダイ、丸ダイ等から押し出ししたシート状物又は円筒状物を冷却キャストロールや水、圧空等により急冷し非結晶に近い状態で固化させた後、ロール法、テンター法、チューブラー法等により2軸に延伸する方法が挙げられる。
【0035】
通常2軸延伸フィルムの製造においては縦延伸をロール法で、横延伸をテンター法で行う逐次2軸延伸法、また縦横同時にテンターで延伸する同時2軸延伸法が一般的である。
【0036】
延伸条件としては、延伸温度55〜90℃、好ましくは65〜80℃、縦延伸倍率1.5倍、好ましくは2〜4倍、横延伸倍率1.5〜5倍、好ましくは2〜4倍、延伸速度10〜100000%/分、好ましくは100〜10000%/分である。しかしながら、これらの適性範囲は重合体の組成や、未延伸シートの熱履歴によって異なってくるので、フィルムの強度、伸びを考慮しながら適宜決められる。
【0037】
上記延伸倍率ならびに延伸温度の範囲にない場合には、得られたフィルムの厚み精度は著しく低下したものであり、特に延伸後熱処理されるフィルムにおいてはこの傾向が著しい。このような厚み振れは、フィルムを印刷したり、あるいは他のフィルムや金属薄膜、紙とのラミネーションさらには製袋等の二次加工において、製品にしわ、波打ち等の外観をひどく生じさせてしまうような要因となる。
【0038】
フィルムの熱収縮を抑制する点においてはフィルムを把持した状態で熱処理する。通常テンター法では、クリップでフィルムを把持した状態で延伸されるので直ちに熱処理される。フィルムの二次加工工程において、加工中にフィルムが収縮する等の問題を生じ易い。
【0039】
上記各層には諸物性を調整する目的で、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、滑剤、可塑剤、無機充填材、着色剤、顔料等を添加することもできる。
【0040】
得られるポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムの収縮率は、水浴80℃/1分間後で5%以下であることが好ましい。5%を越えると、フィルムにしわ、波打ち等の外観をひどく生じさせてしまうような要因が生じるからである。
【0041】
この発明によって製造されるポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムは、収縮性が極力抑えられ、かつヒートシール性を兼ね備えたポリ乳酸系フィルムとなる。この2軸延伸フィルムを包装材として使用する場合、次に例をあげるような場合において品質を満足する必要がある。例えば、個包装、ピロー包装には背貼り部分、折り込み部分等をヒートシールして包装が容易に解けないようにする必要がある。また、フィルムをヒートシールして製袋し、非包装体をこの袋にいれてからその開口部もヒートシールして完全に密封する場合がある。このような場合、ヒートシール強度は、フィルム15mm幅に対して1N以上であることが必要である。1Nを下回るとフィルムのシール強度は低く、ヒートシールして包装体にしても外力や衝撃が加わると容易に包装が解け使用の目的を達成しないからである。
【0042】
この発明にかかるポリ乳酸系積層二軸延伸フィルムは、従来の二軸延伸ポリプロピレンフィルムや二軸延伸ポリエステルフィルムが使用されていた個包装、ピロー包装、製袋用などに好適で、かつ他のプラスチックフィルムをラミネートした場合においてはヒートシーラント層となることのできる生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムを提供することができ、繊維包装、野菜包装、チョコレート、キャラメル、キャンディー等の菓子の個包装、オーディオテープやオーディオディスク等のオーバーラップに好適なフィルムとしての用途がある。また、他のプラスチックフィルム、紙、アルミ箔等とラミネートして使用することもできる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。まず、下記に、この実施例及び比較例における物性測定方法を示す。
【0044】
(1)延伸倍率
・縦延伸倍率=縦延伸後のフィルムの流れ速度/縦延伸前の原シートの流れ速度
・横方向の延伸倍率は、縦延伸前の原シート幅からテンターのクリップに把持する部分の幅を差し引いた値で、横延伸後に得られる幅からクリップに把持していた部分の幅を差し引いた長さを割り付けた値である。
横延伸倍率={(延伸後のフィルム幅)−(クリップが把持していた幅)}/{(延伸前の原シート幅)−(クリップが把持していた幅)}
【0045】
(2)収縮率
フィルムのMD及びTDに沿って長さ100mm、幅は100mmに切り出し、80℃の温水バスに1分間浸漬した後、その収縮後の寸法を計り、次式にしたがって熱収縮率を算出した。収縮率は延伸方向に沿って測定しており、本試験ではMD、TDともに試験方向となる。
収縮率(%)={(収縮前の寸法)−(収縮後の寸法)}×100/(収縮前の寸法)
【0046】
(3)ヒートシール強度及び仕上がり
MD170mm×TD130mmに切り出したフィルムを用意し、これを二方に折りヒートシーラント材となる面同士が接触するように重ね合わせ、ヒートシールバーでシールして底辺がMDにそって折り込んだ二方シール袋を作製した。シール条件は80、100及び120℃でおよそ5秒間押し当てた後、放冷した。加熱バーの幅は10mm、圧力1.5kgf/cmである。
【0047】
シール後、その袋を観察し、しわ、波打ち、収縮むら等が著しく見られるものには×と表記した。一方、若干これらがみられるものの、十分に袋として仕上がっているものについては○と表記した。
ヒートシール強さはJIS Z1711「ポリエチレンフィルム製袋」に記載されている方法で15mm幅における強度を求めた。したがって、片端をシール側にして、そのシールの長手方向とは垂直になるように(つまりフィルムのMDにそって)幅15mmにフィルムを切り出した。その切り出したフィルムを広げて、引張試験機のチャックに把持して試験を行った。
仕上りの悪い袋はシール強度も比較的悪く、またばらつく傾向がある。フィルムが著しく収縮したものについては、測定できず、測定不能と表記した。
【0048】
(4)総合評価
上記の収縮率及びヒートシール強度及び仕上がりの評価が、全て○ものを○とし、1つでも×のあるものを×とした。
(積層体の構成樹脂)
積層体を構成する樹脂として、表1に示す第1成分単独、または、第1成分と第2成分との混合物を用いた。混合体の場合のD−乳酸割合は両者の重量分率から平均値として算出した。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例1)
L−乳酸:D−乳酸=80:20の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)52℃のポリ乳酸80%、L−乳酸:D−乳酸=95:5の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)56℃のポリ乳酸20%を混合して、合計100重量部のポリ乳酸(Db=17%、表1の樹脂6)に乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株)製)0.1重量部混合して25mmφの同方向二軸押出機にて、220℃でマルチマニホールド式の口金より表裏層として押出した。
【0051】
また、L−乳酸:D−乳酸=99.5:0.5(Da=0.5%)の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)58℃のポリ乳酸重合体(表1の樹脂1)を40mmφ単軸押出機にて、上記口金より中間層として押出した。
【0052】
表層、中間層、裏層の厚み比は1:10:1になるよう溶融樹脂の吐出量を調整した。この共押出シートを約43℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。続いて長手方向に76℃で2.6倍のロール延伸、次いで、幅方向にテンターで72℃の温度で3.2倍に延伸した。テンターでの熱処理ゾーンの温度は130℃にし、熱処理したフィルムを作製した。フィルム厚みはおおよそ平均で30μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。フィルムの評価結果を表2に示す。
【0053】
(実施例2、3及び比較例1〜5)
表2又は表3に示すように、L−乳酸とD−乳酸の異なるポリ乳酸系重合体(表1に記載の各樹脂に相当する。)を各々実施例1のようにして表層、中間層及び裏層にして所定の厚み比率になるよう押出し、2軸延伸後熱処理してフィルムを作製した。各フィルムの評価結果を表2及び表3に示す。
【0054】
なお、比較例2は熱処理中にフィルムは破断した。比較例1及び4ではシールして作製した袋の外観が悪く、仕上りの良好なものを得ることができなかった。また、比較例3及び5は、袋として形態を取り得る十分なシール強度を得ることはできなかった。各フィルムの評価結果を表2又は表3に示す。
【0055】
(参考例1)
L−乳酸:D−乳酸=80:20の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)52℃のポリ乳酸80%、L−乳酸:D−乳酸=95:5の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)56℃のポリ乳酸20%を混合して、合計100重量部のポリ乳酸(Db=17%、表1の樹脂6)に乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株) 製)0.1重量部混合して25mmφの同方向二軸押出機にて、2層のマルチマニホールド式の口金より表層として210℃で押出した。
【0056】
また、L−乳酸:D−乳酸=99.5:0.5(Da=0.5%)の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)58℃のポリ乳酸重合体(表1の樹脂1)に乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株)製)0.1重量部混合して40mmφ単軸押出機にて、210℃で上記口金より中間層として押出した。得られる積層体は2層構造なので、中間層は、そのまま裏層を形成する。
【0057】
この積層体の厚み比率が表層:中間層が1:2になるように、溶融樹脂の吐出量を調整した。この共押出シートを約42℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。続いて長手方向に75℃で2.6倍のロール延伸、次いで、幅方向にテンターで74℃の温度で3.6倍に延伸した。テンターでの熱処理ゾーンの温度は135℃にし、熱処理したフィルムを作製した。フィルム厚みはおおよそ平均で15μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。フィルムの評価結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも3層を共押出し、延伸した積層フィルムであって、
上記積層フィルム中の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Da(%)と、上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Db(%)の関係が、Da≦7 かつ Db−Da>3であり、
上記他の1つの層は、上記積層フィルムの両最外層を構成すると共に、上記1つの層は、上記積層フィルムの中間層のうちの少なくとも1層を構成するポリ乳酸系積層2軸延伸フィルム。
【請求項2】
ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも3層を積層して未延伸の積層シートを得、次いで、この未延伸の積層シートを2軸延伸するポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムの製造方法であって、
上記の未延伸の積層シートは、共押出しによって得られた積層シートであり、
上記の未延伸の積層シート中の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Da(%)と、上記未延伸の積層シートの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸の含有割合Db(%)の関係が、Da≦7 かつ Db−Da>3であり、
上記他の1つの層は、上記未延伸の積層シートの両最外層を構成すると共に、上記1つの層は、上記積層フィルムの中間層のうちの少なくとも1層を構成するポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−105428(P2008−105428A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293182(P2007−293182)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【分割の表示】特願2006−147800(P2006−147800)の分割
【原出願日】平成12年2月14日(2000.2.14)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】