説明

ポリ乳酸繊維、繊維系ボード、フィルム付繊維系ボード及び繊維系ボードの製造方法

【課題】
優れた耐熱性を保持するポリ乳酸繊維を提供し、かつ、該ポリ乳酸繊維を用いた、ルーター加工やドリル加工時の摩擦熱によるポリ乳酸の軟化を抑制することができる繊維系ボード、さらには、加工刃へのポリ乳酸の固着、加工ボードの切削面への切り屑付着及びバリが改善され、切削加工性に優れたポリ乳酸繊維系ボードを提供する。
【解決手段】
ポリ乳酸繊維は、ポリ乳酸樹脂からなる繊維に芳香環を有するホスホン酸金属塩が0.1〜5.0質量%含有されたものとし、該ポリ乳酸繊維と天然繊維とで、表層部が結晶化度10%以上であり、かつ、中層部が40%以上である繊維系ボードとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維系ボードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対してあらゆる分野が注目するようになり、例えば、廃棄時の環境負荷低減を目的に、ポリ乳酸樹脂及び天然繊維を混在させて加熱、加圧し、全体の見かけ密度を特定範囲に成形した繊維系ボードの製造方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。これは、ポリ乳酸樹脂と天然繊維とを混在させて熱プレスしてなる繊維系ボードの原料に生分解性繊維を使用するため環境負荷が少ないこと、および製造が比較的容易であるために、環境負荷を低減できるというものである。しかしながら、上記技術では、ボード表面の孔あけ加工(ドリル加工)や、ルーターなどの切削工具による溝切り加工時に、高速回転による摩擦熱と圧縮のため、ポリ乳酸が軟化し、加工刃へのポリ乳酸の固着、加工ボードの切削面への切り屑付着及びバリ(切削部の毛羽立ち)が発生するなど、汎用品である木材などに比べ切削加工性に劣るという欠点がある。
【0003】
また、ポリ乳酸の耐熱性を向上させる観点よりポリ乳酸に結晶化速度の速い結晶核剤が提案されている。(例えば特許文献2参照)しかしながら、結晶化速度の速い結晶核剤を用いたポリ乳酸の繊維化技術は難しく、まだ確立されていないため、ポリ乳酸繊維の耐熱性の問題は解決されていなかった。
【特許文献1】特開2004−130796号公報(請求項1、0027)
【特許文献2】国際公開第05/097894号パンフレット(請求項1、0018、0025)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、優れた耐熱性を保持するポリ乳酸繊維を提供すること、ならびに、前記ポリ乳酸繊維を用いた、ルーター加工やドリル加工時の摩擦熱によるポリ乳酸の軟化を抑制することができる繊維系ボード、さらには、加工刃へのポリ乳酸の固着、加工ボードの切削面への切り屑付着及びバリが改善され、切削加工性に優れたポリ乳酸繊維系ボードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明は、以下のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1)ポリ乳酸樹脂からなる繊維に芳香環を有するホスホン酸金属塩が0.1〜5.0質量%含有されていることを特徴とするポリ乳酸繊維。
(2)前記(1)に記載のポリ乳酸繊維と天然繊維とを含み、表層部が結晶化度10%以上であり、かつ、中層部が40%以上であることを特徴とする繊維系ボード。
(3)密度が0.1g/cm以上であることを特徴とする前記(2)に記載の繊維系ボード。
(4)前記(2)または(3)に記載の繊維系ボードの表裏面の少なくとも一方にフィルムが積層されていることを特徴とするフィルム付繊維系ボード。
(5)前記(1)に記載のポリ乳酸繊維と天然繊維とを混合し、加熱、加圧して一体成形後、アニール処理することを特徴とする繊維系ボードの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れた耐熱性を有するポリ乳酸繊維が得られ、その結果、加工刃へのポリ乳酸の固着、加工ボードの切削面への切り屑付着及びバリ問題が改善され、切削加工性に優れたポリ乳酸繊維系ボードが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0008】
本発明のポリ乳酸繊維は、ポリ乳酸樹脂からなる繊維であって、結晶核剤として作用する、芳香環を有するホスホン酸金属塩が含有されてなるが、かかるホスホン酸金属塩の含有量が重要となる。そして、本発明では、当該ポリ乳酸繊維と天然繊維とを用いて繊維系ボード、フィルム付繊維系ボードを構成するが、以下に、それらポリ乳酸繊維、繊維系ボード、フィルム付繊維系ボードの詳細を説明する。
【0009】
A.ポリ乳酸繊維
(ポリ乳酸樹脂)
本発明の繊維に用いられるポリ乳酸樹脂は、−(O−CHCH−CO)−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものである。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在する。ポリ乳酸の光学純度が高いほどポリ乳酸の融点も高く、すなわち耐熱性が向上するため好ましい。ポリ乳酸の光学純度としては、90%以上が好ましい。またポリ乳酸の融点としては、繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましい。
【0010】
ポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)とをブレンドする場合、繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにするとよい。これにより、融点を220〜230℃にまで高めることができる。この場合のポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)とのブレンド比としては、40/60〜60/40が、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ好ましい。
【0011】
また、通常、ポリ乳酸中には低分子量残留物として残存ラクチドが存在しうる。ポリ乳酸中の残存ラクチド量としては3000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは1000質量ppm以下、さらに好ましくは300質量ppm以下である。ポリ乳酸中の残存ラクチド量を抑えることにより、繊維の加水分解を防ぎ、耐久性を維持することができる。ポリ乳酸中の残存ラクチド量を低減させる方法としては、重合方法として固相重合を採用することや、ペレットを80℃程度の温水で洗浄することが挙げられる。
【0012】
なお、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、及びヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。
【0013】
ポリ乳酸の重合方法としては、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下でそのまま脱水縮合する直接脱水縮合法や、少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下で共重合およびエステル交換反応させる方法や、乳酸を一旦脱水して環状二量体とした後に開環重合する間接重合法等を挙げることができる。
【0014】
ポリ乳酸の重量平均分子量としては、耐摩耗性を高める上で8万以上とすることが好ましく、より好ましくは10万以上、さらに好ましくは12万以上である。一方、曳糸性や延伸性を維持する上で、ポリ乳酸の重量平均分子量は35万以下が好ましく、より好ましくは30万以下、さらに好ましくは25万以下である。
【0015】
ポリ乳酸は、分子鎖の一部のカルボキシル基末端が封鎖されていることが好ましい。ポリ乳酸の分子鎖の一部のカルボキシル基末端を封鎖することで、耐熱性や耐加水分解性を向上させることができる。ポリ乳酸の、残存モノマー及び残存オリゴマーの分も含めた、カルボキシル基末端濃度としては、10当量/ton以下、好ましくは5当量/ton以下であるとよい。10当量/ton以下とすることで、耐熱性および耐加水分解性を向上させることができる。一方、製造コストや生産性の上では、1当量/ton以上とすることが好ましい。ポリ乳酸のカルボキシル基末端は、カルボジイミド化合物やグリシジル基を有する化合物を添加することにより封鎖することができる。すなわち、ポリ乳酸は、カルボジイミド基またはグリシジル基との付加反応物を有することが好ましい。ポリ乳酸のカルボキシル基末端封鎖剤としてカルボジイミド化合物やグリシジル基を有する化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリ乳酸に対するカルボジイミド化合物あるいはグリシジル基を有する化合物の添加量としては、0.1〜10質量%が好ましい。
【0016】
ポリ乳酸には、結晶核剤として作用する、芳香環を有するホスホン酸金属塩が、繊維中0.1〜5.0質量%となるように含有されていることが重要である。
【0017】
ポリ乳酸樹脂に結晶化速度の速い芳香環を有するホスホン酸金属塩を混在させることで、当該ポリ乳酸樹脂を繊維化することができ、且つ、繊維系ボードに用いた場合にポリ乳酸の結晶化度が高くなり、結晶サイズが小さくなるため、軟化点付近の耐熱性を飛躍的に向上させることができ、切削加工性に優れるボードを得ることができる。繊維中、芳香環を有するホスホン酸金属塩が5質量%を超えると、芳香環を有するホスホン酸金属塩の凝集により結晶化促進効果の増加がほとんど見られなくなる反面、紡糸での濾圧上昇によりパックライフが短くなるとともに、紡糸、延伸での毛羽立ちや糸切れが多発する。0.1質量%未満では結晶核剤の量が少ないため、繊維系ボード成形時の急冷により結晶化が進まず、ポリ乳酸の軟化点付近の耐熱性が低いままであるため切削加工時の摩擦熱により、ポリ乳酸が軟化し、加工刃にポリ乳酸が媚びり付く問題や、ボードの切削面に切り屑が固着する問題が発生する。
【0018】
芳香環を有するホスホン酸金属塩において、芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ピラゾール環、ピリジン環およびピラン環等のいずれでもよいが、成形性、耐熱性およびコストの点で、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。芳香環を有するホスホン酸金属塩を形成する芳香環を有するホスホン酸成分の具体例としては、フェニルホスホン酸、2−メチルフェニルホスホン酸、3−メチルフェニルホスホン酸、4−メチルフェニルホスホン酸、4−エチルフェニルホスホン酸、2−イソプロピルフェニルホスホン酸、2−メトキシフェニルホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、2−ニトロフェニルホスホン酸、3−ニトロフェニルホスホン酸、4−ニトロフェニルホスホン酸、2−メチル−4−ニトロフェニルホスホン酸、3−メチル−5−ニトロフェニルホスホン酸、2−メトキシ−4−ニトロフェニルホスホン酸、2−クロロ−5−メチルフェニルホスホン酸、2−フルオロフェニルホスホン酸、4−クロロフェニルホスホン酸、4−ブロモフェニルホスホン酸、2−ヨードフェニルホスホン酸、2,3−キシリルホスホン酸、2,4−キシリルホスホン酸、2,5−キシリルホスホン酸などが挙げられ、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
芳香環を有するホスホン酸金属塩において、金属種としては、特に限定されないが、成形性、耐熱性および耐久性の点で、周期律表の1A族から6B族までの軽金属および重金属が好ましく、成形性および耐熱性の点で、2価の金属がより好ましく、中でも、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅および亜鉛のいずれか1種がさらに好ましく、亜鉛が特に好ましい。これらは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。特に、成形性および耐熱性の点で、フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸カルシウムおよびフェニルホスホン酸亜鉛のいずれか1種以上が好ましく、耐久性の点で、フェニルホスホン酸亜鉛がより好ましい。これらは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
芳香環を有するホスホン酸金属塩の平均粒子径D50(メジアン径)は、結晶化度を高めるとともに、製糸での濾圧上昇や曳糸性、延伸性を確保するために、5μm以下であることが必要である。また、後述するように芳香環を有するホスホン酸金属塩の粒子径は小さいほど比表面積が大きくなり、結晶核剤としての効果も飛躍的に向上する。そのため、芳香環を有するホスホン酸金属塩の粒子径は4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。最も好ましくは2μm以下である。なお、芳香環を有するホスホン酸金属塩の平均粒子径D50の下限は特に限定されるものではないが、粒子径が小さくなると凝集性が高くなり、ポリマー中への分散性が悪くなるため、0.2μm以上であることが好ましい。
【0021】
また、粒子径が10μm以上の芳香環を有するホスホン酸金属塩の含有率は、芳香環を有するホスホン酸金属塩全量に対して0〜4.5体積%以下であることが好ましい。ポリ乳酸繊維を産業資材用として用いる場合、その単繊維の繊維直径は15〜50μmのものが汎用グレードとして要求される。我々の検討では、添加する芳香環を有するホスホン酸金属塩の粒子径に対し、繊維直径が2倍未満になると繊維強度が急激に低下し、強度分布も低強度側にシフトすることがわかった。そのため、粒子径10μm以上の芳香環を有するホスホン酸金属塩の含有量は芳香環を有するホスホン酸金属塩全量に対し0〜4.5体積%以下であることが好ましい。さらに好ましくは0〜3体積%、より好ましくは0〜2体積%、最も好ましくは0体積%である。
【0022】
なお、各ホスホン酸金属塩の粒子径は、(株)島津製作所製SALD−7100を用い、レーザー回折法で測定し、粒度分布から平均粒子径D50と含有率を求める。
【0023】
そして、ポリ乳酸は示差走査熱量計(DSC)測定による降温結晶化温度T’cが90〜140℃であることが好ましい。これは、芳香環を有するホスホン酸金属塩を所定量含むことにより達成することができる。T’cは、結晶化速度を計るパラメーターであり、T’cは高いほど結晶化速度が速くなる。したがって、T’cは高いほど結晶化速度が速く、到達結晶化度も高いため、ボード製造工程における冷却においても必要とする耐熱性を得るための高結晶化が達成でき、所望する力学特性が向上される。T’cは好ましくは100〜140℃であり、より好ましくは110〜140℃、最も好ましくは120〜140℃である。
【0024】
なお、結晶化度及びT’cは、DSCを用いて測定する。測定は、試料2.0mgを昇温速度10℃/min、目標温度200℃、ホールド時間5分間、その後、降温速度−10℃/min、目標温度30℃にて行い、得た融解吸熱曲線(昇温時)の極値の温度を融点(℃)、結晶化発熱曲線(降温時)の極値の温度を降温結晶化温度とする。また、結晶化度は結晶化度(%)=100×(融解エンタルピー+結晶化エンタルピー)/93の式より算出する。
【0025】
また、ポリ乳酸は、結晶核剤以外に、粒子、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、エチレンビスステアリンサンアミドなどの滑剤等を含有していてもよい。
【0026】
(ポリ乳酸繊維の形状・寸法)
本発明においてポリ乳酸繊維の断面形状としては、丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面(三角断面、Y断面、T断面など)等の多葉断面、扁平断面、W断面、X断面等を採用することが可能である。
【0027】
ポリ乳酸繊維の単糸維繊度としては、0.5〜100dtexであることが好ましい。より好ましくは0.8〜80dtexである。0.5dtex未満であると、紡績やカーディング通過性が著しく悪化し、紡績糸や不織布を得ることが困難になる。一方、100dtex超であると、不織布製造工程における繊維分散性が低下する。
【0028】
ポリ乳酸繊維としては、5〜150mmの短繊維であることが好ましい。5mm未満であると、不織布を構成する繊維同士の絡合が不十分となり、繊維系ボードとしての強度が低下する。一方、150mm超であると、不織布製造工程において均一に分散させることが困難となるため、生産性が低下すると共に強度が不均一となり、部分的に強度が低下する恐れがある。
【0029】
ポリ乳酸繊維は、平滑剤を含有する紡糸油剤が付与されていることが好ましい。ポリ乳酸繊維に平滑剤を含有する油剤を付与することによって、ポリ乳酸繊維の滑り性が向上し、紡糸や延伸をはじめ、カーディングや紡績での工程通過性、および得られる繊維自体の捲縮斑や毛羽等の品位を向上させるとともに、繊維の開繊性や繊維構造体中での繊維の分散性を向上させることができる。平滑剤としては例えば、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、ポリエーテル、シリコーン、鉱物油等が挙げられる。また、これらの平滑剤は単一成分で用いても良いし、複数の成分を混合して用いても良い。また、油剤の付着量としては、繊維に対して0.1〜2.0質量%が好ましく、より好ましくは、0.2〜0.7質量%である。当該範囲内とすることで、カーディング時の工程通過性を向上させることができる。油剤には、平滑剤の他に、油剤を水に乳化させ低粘度化して糸条への付着や浸透性を向上させる乳化剤、帯電防止剤、イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤等を配合することも好ましい。
【0030】
ポリ乳酸繊維には、捲縮を付与することが好ましい。捲縮を付与することで、紡績糸における繊維同士の絡まりを強固なものとし、また、カーディング時の工程通過性を向上させることができる。捲縮数としては、6〜20山/25mmが好ましく、より好ましくは8〜15山/25mmである。捲縮率としては、10〜50%が好ましく、より好ましくは15〜30%である。
【0031】
(ポリ乳酸繊維の製造方法)
ポリ乳酸繊維は、芳香環を有するホスホン酸金属塩が混在する上記ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸することにより製造できる。溶融したポリ乳酸樹脂からなる糸条は、冷却され、油剤が付与され、引き取られる。引取速度としては、400〜2,000m/分が好ましい。次いで、ポリ乳酸繊維の未延伸糸は、引き揃えられ、延伸される。引き揃えは、延伸後のトウの総繊度が5万〜100万dtexとなるようにすると良い。ポリ乳酸繊維の延伸は、60〜100℃の温水を用いた液浴延伸にて行うことが、均一なトウを得る上で好ましい。ポリ乳酸繊維の延伸における延伸倍率としては、1.5〜6倍が好ましい。そうすることで、適切な強度を備えたポリ乳酸繊維が得られる。また、必要に応じて、仕上げ剤として油剤を、延伸後や次述する捲縮付与後に付与してもよい。次いで、延伸糸に捲縮を付与すると良い。捲縮付与方法としては例えば、スタッフィングボックス法、押し込み加熱ギア法、高速エアー噴射押し込み法等が挙げられる。ポリ乳酸繊維には、捲縮付与後、トウの状態で、弛緩熱処理(熱セット)を施すことが好ましい。そうすることで、優れた寸法安定性や捲縮保持性を得ることができる。その後、ポリ乳酸繊維は、例えばロータリーカッター等の切断装置により所望の繊維長にカットすることができる。

B.繊維系ボードおよびフィルム付繊維系ボード
(構成)
本発明の繊維系ボードは、上記のようなポリ乳酸繊維と天然繊維よりなる集積体であって、表層部の結晶化度が10%以上、中層部の結晶化度が40%以上である。
【0032】
本発明の繊維系ボードにおいては、ポリ乳酸繊維と天然繊維とが混在しているので、曲げ強度などのボードの力学特性が高く、また、廃棄時の環境負荷も抑制されたものとなる。
【0033】
また、通常、繊維系ボードの表層部はボード成形工程における冷却により急冷されるため、上記のような結晶核剤を含まないポリ乳酸では結晶化度が5%程度となり、結晶化度を高めることが難しい。しかしながら、本発明の繊維系ボードは、芳香環を有するホスホン酸金属塩を所定量含有するポリ乳酸繊維で構成するため、表層部においても10%以上の結晶化度を有するものとすることができ、表面部の強度が高くなり、その結果、切削加工時のバリの発生を抑制することができる。一方、中層部は表層部に比べ、比較的ゆっくり冷却されるため、結晶化度が高くなりやすいが、結晶核剤の汎用品であるタルクを用いても結晶化度が30%程度である。しかしながら、本発明の繊維系ボードは、芳香環を有するホスホン酸金属塩を所定量含有するポリ乳酸繊維で構成するため、中層部は結晶化度が40%以上となり、飛躍的に耐熱性が向上し、切削加工時の摩擦熱による加工刃への切り屑の固着や、ボード端部への切り屑の付着を低減することが可能となる。また、本発明の繊維系ボードは、芳香環を有するホスホン酸金属塩を所定量含有するポリ乳酸繊維で構成するため、偏光顕微鏡写真にて測定された表層部及び中層部のポリ乳酸の結晶サイズが100μm以下となり易く、結晶が小さく密に存在するため、熱に対してより強くなり、耐熱性が向上する。この結晶サイズは50μm以下がより好ましく、最も好ましくは10μm以下である。このような結晶化度により繊維系ボードのポリ乳酸繊維の耐熱性が向上し、切削加工時の問題を解決することが可能となる。なお、本発明において、表層部は表面から2mmまでの範囲の層で、その表層部にはさまれる部分を中層部という。
【0034】
本発明の繊維系ボードは、密度が0.1g/cm以上であることも好ましい。密度を0.1g/cm以上にすることで、ボードの強度が向上することは勿論、また、切削加工においても、切削刃と繊維系ボードの摩擦抵抗が高くなるため、強力の高い天然繊維を繊維系ボードと一緒に綺麗に切削することができ、切削加工面のバリが抑制される。より好ましくは0.3g/cm以上、さらに好ましくは0.5g/cm以上である。そして、上記のような繊維系ボードは、少なくとも一方にフィルムが積層されることでフィルム付繊維系ボードとなる。フィルム付繊維系ボードによれば、表面の硬度が高くなり、加工時のバリがより解消される。
【0035】
(天然繊維)
本発明の繊維系ボードに用いられる天然繊維としては、木材パルプ、バガス、ムギワラ、アシ、パピルス、タケ、パルプ、木綿、ケナフ、ローゼル、アサ、アマ、ラミー、ジュート、ヘンプ、サイザルアサ、マニラアサ、ヤシ、バナナ、羊毛等があり、これらを単独で又は複数種を併用して用いてもよい。例えば、天然繊維の中でも比較的繊維長が長く、一年草であって熱帯地方及び温帯地方での成長が極めて早く容易に栽培できる草本類に属するケナフあるいはジュートから採取される繊維を採用することにより、優れた強度を得ることができる。特に、ケナフの靭皮にはセルロースが60質量%以上と高い含有率で存在しており、かつ高い強度を有しており、安価であることから、ケナフ靭皮から採取されるケナフ繊維を用いることが好ましい。
【0036】
前記天然繊維は、その平均繊維長が5〜150mmの範囲内であることが好ましい。これら一定の繊維長の、すなわち短繊維の天然繊維で繊維系ボードを構成することにより、曲げ強度に優れ、切削加工時のバリの発生を抑制することができる繊維系ボードが得られる。短繊維長が5mmを下回ると強度が著しく低下する。一方、短繊維長が150mmを超えると、不織布製造工程において、天然繊維とポリ乳酸繊維とを均一に分散させることが困難となり、生産性が低下すると共に強度が不均一となり、部分的に強度が低下する恐れがある。より好ましい天然繊維の平均繊維長は、20〜130mm、最も好ましい範囲は50〜100mmである。
【0037】
(フィルム)
フィルム付繊維系ボードを構成するフィルムとしては、熱可塑性樹脂からなるものが好ましく用いられる。例えば、ポリ乳酸樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等から選ばれる1種類以上の樹脂である。この中でも、成形性が良好で強度に優れ、かつ環境に優しいポリ乳酸樹脂を用いることが好ましい。フィルムの厚さとしては、30〜500μmの範囲であることが好ましい。フィルムの厚さが30μm未満の場合は、天然繊維が表面樹脂層に混入する可能性が高く、切削加工時にバリが発生する恐れがある。また、500μmを超える厚い表面樹脂層の場合は、ボードの表層に熱可塑性樹脂が多量にある為に、切削加工時の摩擦熱発生に伴い切り屑が軟化し、ボード表面又は切削機に切り屑が固着しやすくなる。さらに、より好ましいフィルム厚さの範囲としては、50〜300μmである。
【0038】
(繊維系ボードおよびフィルム付繊維系ボードの製造方法)
1.不織布製造方法
本発明の繊維系ボードは、上記ポリ乳酸繊維と上記天然繊維とを、例えば、オープナーにかけて開繊した後、カーディング法又はエアレイド法にてウェブ化し、更に1〜20段に積層する。そして、この積層体をまとめてニードルパンチ法などにより繊維間相互を絡合させて密度が高くなった布状の不織布を得る。また、加熱炉などの既知の装置によりポリ乳酸繊維を溶融させ繊維間を結合させ、不織布を得る方法などもある。この時点で密度は、0.03〜0.40g/cm、目付は50〜4500g/m、厚さが2〜400mm程度の絡合繊維が締まった布状体となる。この工程では、ポリ乳酸繊維と天然繊維とを混綿、開繊、絡合しているので、均一に分散させることができるとともに、二種類以上の繊維が相互に絡合された繊維積層体である不織布を得ることができる。
【0039】
2.ボード成形方法
本発明の繊維系ボードは、上記のようにして得られる不織布をボード状の板状体に成形するために一定時間熱プレスする。用いるプレス機としては、一対の熱ロール間に材料を連続的に通して熱プレスするロールプレス機でも良いが、十分な熱プレス時間を確保するために、高周波熱源で加熱できる上下一対の熱プレス定盤に材料を通してプレスする熱プレス板のほうが好ましい。
【0040】
プレスと加熱のタイミングは、プレスした後、次工程で一定時間加熱しても良いし、これら加熱と圧縮とを一つの工程で同時に行ってもよい。プレス圧力としては、0.5〜10MPaの範囲が好ましい。0.5MPa未満であると、プレスに要する時間が長くなり、ボード成形時の加工性が低下することから好ましくなく、10MPaを超えるとプレス時間は短縮されるが、積層体の不織布がずれ、均一なボードが成形できない恐れがあることから好ましくない。プレス温度としては、プレス機の定盤温度と不織布の内部温度が、ポリ乳酸繊維融点のマイナス20℃からプラス50℃の範囲内となるように温度条件を設定する。
【0041】
さらに、その後、繊維系ボードを冷却することがより好ましい。冷却方法としては、冷却プレス機などにより圧力0.5〜5MPa、温度5〜40℃の条件下で冷却プレスする。これら条件を適宜操作することによりポリ乳酸の結晶化が促進し、曲げ強度、切削加工性に優れた繊維系ボードを得ることが可能となる。
【0042】
また、上記不織布にプレス前にフィルムを積層しておくことにより、フィルム付繊維系ボードを得ることができる。フィルムを積層する場合のプレス温度としては、プレス機の定盤温度を、フィルムの融点のマイナス20℃からプラス35℃の範囲内にすることが好ましい。
【0043】
3.アニール処理方法
ボードの切削加工性を向上させるために、アニール処理を行うことが好ましい。本発明で言う「アニール」(anneal)処理とは、ボード成形後に再加熱して、結晶化を促進させる方法である。結晶化が進むと高分子同士がお互いに整列し、分子の動きが制限された状態になり、外部から温度をかけても、分子が動きにくい状態になることにより、切削加工による切削刃へのポリ乳酸の固着や、切削面への切り屑の付着を抑制できる。具体的なアニール処理としては、前記熱プレス工程を終えて得られた繊維系ボードを、例えば、加熱炉、熱風乾燥装置などの炉内に入れ、その炉内温度をポリ乳酸の結晶の成長が促進される80〜150℃の温度下にし、2〜400分間加熱することで、ポリ乳酸の結晶化を促進させ、切削加工時の摩擦熱に強いボードを得ることが可能となる。また、80〜150℃の温度下で再度プレス加工を行う事も好ましい。
【0044】
なお、フィルムを積層している場合においてもアニール処理を上記条件にて行うことができる。
【0045】
以上のような本発明によれば、これまでの課題であったポリ乳酸繊維系ボードの切削加工時の摩擦熱に伴う、切削刃へのポリ乳酸の固着、切削面への切り屑の付着やバリを抑制でき、さらには強度に優れた繊維系ボードを効率的に得ることができる。
【実施例】
【0046】
[測定方法]
(1)残存ラクチド量
試料1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加する。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。
【0047】
(2)重量平均分子量
ポリ乳酸をクロロホルムに溶解させて測定溶液とし、これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。測定数は5回とし、その平均値を算出した。
【0048】
(3)カルボキシル基末端濃度
精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。
【0049】
(4)平均粒子径D50、含有率
平均粒子径D50、含有率は島津製作所製SALD−7100を用い、レーザー回折法により平均粒子径D50(μm)を測定した。また、得られた粒度分布から10μm以上の含有率(体積%)を求めた。
【0050】
(5)単糸繊度
JIS L 1013(1999)8.3.1 A法に基づき、112.5m分のかせをサンプル数5採取し、その質量を測定し、その値(g)に10000/112.5をかけ、見掛け繊度(dtex)を求めた。見かけ繊度から、次の式によって正量繊度を求め、平均値を算出した。
正量繊度(dtex)=D'×(100+Rc)/(100+Re)
ここに、D':見かけ繊度(dtex)
Rc:公定水分率(%)
Re:平衡水分率(%)。
【0051】
(6)繊維長
JIS A 1015(1999)8.4.1に準じて測定した。試料を800mg量り取り、ステープルダイヤグラムを作成し、図記したステープルダイヤグラムを50の繊維長群に等分し、各区分の境界及び両端の繊維長を測定し、両端繊維長の平均に49の境界繊維長を加えて50で除し、平均繊維長(mm)を算出し、2回の平均値をとった。
【0052】
(7)引張強度及び引張伸度
JIS A 1015(1999)8.7.1に準じて測定した。引張速度20mm/min、つかみ間隔20mmで試験し、次の式により引張強度と引張伸度を求めた。試験回数は10回試験し、その平均値を算出した。
引張強度(cN/dtex)=SD/F0
ここに、SD:最大荷重(cN)
F0:試料の単糸繊度(dtex)
引張伸率(%)=(E1−E2)/(L+E1)×100
ここに、E1:緩み(mm)
E2:最大荷重時の伸び(mm)
L :つかみ間隔(mm)。
【0053】
(8)捲縮数及び捲縮率
捲縮数はJIS L1015(1999)8.12.1、捲縮率はJIS L1015(1999)8.12.2に準じて測定した。
【0054】
(9)融点、結晶化度、降温結晶化温度
島津製作所社製示差走査熱量計DSC−60型を用い、試料2.0mgを昇温速度10℃/min、目標温度200℃、ホールド時間5分間、その後、降温速度−10℃/min、目標温度30℃にて測定した。得た融解吸熱曲線(昇温時)の極値の温度を融点(℃),その時のエンタルピーをΔHm(J/g)、結晶化発熱曲線(昇温時)のエンタルピーをΔHc(J/g)、結晶化発熱曲線(降温時)の極値の温度を降温結晶化温度T’c(℃)とした。試験回数は5回とし、その平均値より算出した。また、結晶化度は次の式より算出した。
【0055】
結晶化度(%)=100×(ΔHm+ΔHc)/93
ここに、ΔHm:融解エンタルピー(J/g)
ΔHc:結晶化エンタルピー(j/g)。
【0056】
(10)密度、目付
密度はJIS A 5905(2003)6.3に準じて測定した。すなわち、繊維系ボードを温度20℃、湿度65%RHの標準状態にて24hr放置後、外形寸法が10cm×10cmの試験片を3枚切り出した。次に1枚の試験片について、幅、長さ及び厚さを測定し、それぞれについての平均値を求め、試験片の幅、長さ及び厚さとし、体積(v)を求めた。次に、質量(g)を測定し、次式によって算出した。厚さは0.05mm、幅及び長さは0.1mm、質量は0.01gの精度まで測定し、密度は0.01g/cm単位まで次式によって算出した。1枚の試験片ごとに密度を求めた上で、3枚の試験片の平均値を求め、この値を密度とした。
【0057】
密度(g/cm)=m/v
ここに、m:質量(g)
v:体積(cm
目付はJIS L 1906(2000)5.2に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、温度20℃、湿度65%RHの標準状態にて24hr放置後、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0058】
(11)ルーター加工
ボードをルーター刃により溝切り加工し、加工ボードの切削面への切り屑付着及びバリの有無を目視にて次の基準により評価した。
【0059】
[切り屑付着]
○:ボードに切り屑付着がない。
【0060】
×:ボードに切り屑付着がある。
【0061】
[バリ]
◎:ボードにバリがなく、ボードの表面と切削面が直角に切削されている。
【0062】
○:ボードにバリがないが、ボードの表面と切削面が直角に切削されてはいない。
【0063】
×:ボードにバリがある。
【0064】
(12)ドリル加工
ボードをドリル刃により孔あけ加工し、加工刃への切り屑及びポリ乳酸の固着の有無を目視にて次の基準により評価した。
【0065】
○:刃に切り屑及びポリ乳酸の固着がない。
【0066】
×:刃に切り屑及びポリ乳酸の固着がある。
【0067】
(実施例1〜3)
ポリ乳酸チップ(融点170℃、重量平均分子量15万)と、結晶核剤としての粒子径D50が3μmの日産化学工業(株)フェニルフォスフォン酸亜鉛「ECOPROMOTE」(粒子径10μm以上の含有量は全量に対して0体積%)と、(株)日清紡製のポリカルボジイミド化合物「LA−1」(カルボジイミド1当量/カルボジイミド化合物247g)0.7重量%とを紡糸機ホッパーに仕込み、エクストルーダー型紡糸機にて、紡糸温度230℃にて溶融紡糸し、この紡糸糸条を冷却させ、油剤付与・収束した後、1000m/分で引き取り、未延伸糸を得た。なお、実施例1〜3においては、表1に示すように得られる繊維における結晶核剤の含有量を変化させた。
【0068】
得られた未延伸糸を収束して80万dtexとして、90℃の液浴中で4.0倍に延伸した後、スタッファーボックスで機械捲縮を付与し、145℃×10分間熱処理後、油剤を繊維に対し0.5重量%になるようにスプレー方式にて付与し、51mmに切断し、単子繊度6.6dtexのポリ乳酸短繊維を得た。紡糸、延伸工程で糸切れや毛羽の発生もなく、安定して原綿を得ることができた。得られたポリ乳酸短繊維は引張強度3.6cN/dtex、引張伸度40%、捲縮数10山/25mm、捲縮率11%と十分実用性のある力学特性であり、T’cも129℃と結晶化速度の早いものであった。
【0069】
一方、天然繊維として、平均繊維長が75mmのケナフの靭皮繊維を用意した。
【0070】
前記ポリ乳酸短繊維とケナフ靭皮繊維とを30:70の重量比でローラーカードを用いて混綿し、開繊し、次にニードルパンチマシンを用いて絡合させて不織布を得た。次にこの不織布を13層積重ね装置で積層し、目付が約12,600g/m程度の積層体を得た。プレス機の定盤温度が170℃に加熱された熱板と、積層体の内部温度が200℃になるように設定した高周波プレス機で、厚さが18mmのスペーサーと共に挟み、圧力2.4MPaにおいて、50分間の加熱、加圧成形を同時に行い、その後、定盤温度が40℃のプレス機にて冷却プレスを行った。得られた繊維系ボードの厚さは約18.0mmであり、ボード全体の密度は約0.70g/cmであった。
【0071】
(実施例4)
実施例2で用いた不織布の積層体の両面に、厚さ200μmの未延伸ポリ乳酸フィルム(融点168℃)を積層し、実施例1同様にボードを成形した。
【0072】
(比較例1)
ポリ乳酸短繊維中のフェニルフォスフォン酸亜鉛の含有量を変化させた以外は実施例1と同様にボードを成形した。 (比較例2)
ポリ乳酸繊維中のフェニルフォスフォン酸亜鉛の含有量を変化させた以外は実施例1と同様にポリ乳酸短繊維を紡糸・延伸しようとしたが、毛羽立ちや糸切れが多発し、ポリ乳酸短繊維を安定して得ることができなかった。
【0073】
(比較例3)
結晶核剤を添加せずにポリ乳酸短繊維を紡糸した以外は実施例1同様にボードを成形した。
【0074】
(比較例4)
結晶核剤を粒子径D50が2μmの日本タルク(株)のタルク「SG−2000」(粒子径10μm以上の含有量は全量に対して0体積%)を用いた以外は実施例1同様にボードを成形した。
【0075】
【表1】

【0076】
上記実施例1〜4、比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0077】
実施例1〜4はボードの切削工程である「ルーター加工性」及び「ドリル加工性」に優れていることが分かる。一方、比較例1〜4は切削工程における双方又はどちらか一方の加工性が不足している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の繊維系ボードは、ポリ乳酸繊維が優れた耐熱性を有し、加工刃へのポリ乳酸の固着、加工ボードの切削面への切り屑付着及びバリ問題が改善され、加工性に優れているので、遊技機部材、自動車部材、建築部材、電気・電子部材、土木部材、農業資材などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂からなる繊維に芳香環を有するホスホン酸金属塩が0.1〜5.0質量%含有されていることを特徴とするポリ乳酸繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のポリ乳酸繊維と天然繊維とを含み、表層部が結晶化度10%以上であり、かつ、中層部が40%以上であることを特徴とする繊維系ボード。
【請求項3】
密度が0.1g/cm以上であることを特徴とする請求項2に記載の繊維系ボード。
【請求項4】
請求項2または3に記載の繊維系ボードの表裏面の少なくとも一方にフィルムが積層されていることを特徴とするフィルム付繊維系ボード。
【請求項5】
請求項1に記載のポリ乳酸繊維と天然繊維とを混合し、加熱、加圧して一体成形後、アニール処理することを特徴とする繊維系ボードの製造方法。

【公開番号】特開2010−126816(P2010−126816A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299102(P2008−299102)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】