説明

ポリ塩化ビニルの回収方法

【課題】廃塩化ビニル樹脂組成物に含まれる重金属類を、設備コストの負担が少なく、より安全な溶媒を用いて低エネルギーで効率的に除去しポリ塩化ビニルを回収する方法を提供する。
【解決手段】廃塩化ビニル樹脂組成物を有機溶剤に溶解したポリマー溶解液とゼオライト及びキレート樹脂から選ばれる吸着剤とを接触させた後、固液分離によりポリマー溶解液から重金属類を除去する。特に、従来、遠心分離操作等で分離が困難であった溶解性重金属が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃塩化ビニル樹脂組成物からのポリ塩化ビニルの回収方法に関し、より詳しくは、廃塩化ビニル樹脂組成物に含有された重金属濃度が低減されたポリ塩化ビニルの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂(ポリビニルクロライド、PVC、ポリ塩化ビニル)組成物は、様々な製品に広く使用されている。例えば、建材、自動車部品、ホース、野菜や果物のハウス栽培に用いられる農業用フィルム、工事中等に建物を覆う為のシート等が挙げられる。しかし、用途の拡大に伴い毎年大量の塩化ビニル樹脂組成物がスクラップにされており、社会的な問題になっている。
【0003】
塩化ビニル樹脂は、排煙浄化装置を備えた焼却炉で、充分に管理された条件下で焼却処理されることが法的に求められている。現在、廃塩化ビニル樹脂組成物の一部は焼却処理されているものの、多くは埋め立て処理されている。このような状況下において、大量の廃棄された塩化ビニル樹脂組成物を回収し、再利用する手段が希求されている。
【0004】
廃棄される塩化ビニル樹脂組成物の種類は非常に多く、例えば、農業用フィルム、壁紙、コンベヤーベルト、被覆繊維、ビヒクル仕上げのインテリア用品、工事用シート、パイプ、ホース、窓枠、絶縁電力ケーブル等が挙げられる。
こうした塩化ビニル樹脂組成物を含む製品には、成形時の樹脂の熱劣化を抑制するため、重金属を成分とした熱安定剤が配合されている。特に、鉛熱安定剤は有効であり従来一般的に使用されてきたが、近年では熱安定剤が鉛系からスズや亜鉛等の他の重金属に転換されるものもあり、添加剤が多種に渡っている。
【0005】
この場合、廃棄された塩化ビニル樹脂組成物を含む製品から、ポリ塩化ビニルを回収し、より広範な製品に再使用するには、廃塩化ビニル樹脂組成物中の重金属を除去することが好ましい。特に鉛系安定剤を含有した廃塩化ビニル樹脂組成物を非鉛系塩化ビニル樹脂組成物に組成したい場合、鉛系安定剤を除去しない限り樹脂としての再使用ができない。
【0006】
そこで、従来、塩化ビニル樹脂組成物からの鉛熱安定剤の除去を目的としたいくつかの研究が行なわれている。
例えば、熱安定剤である三塩基性硫酸鉛及び二塩基性ステアリン酸鉛を含む塩化ビニル樹脂組成物を、ポリ塩化ビニルの軟化点以上の温度で酢酸と混合し、生成した酢酸鉛を析出物として固液分離回収して除去する方法(特許文献1参照);廃電線被覆材をテトラヒドロフランに溶解し、遠心分離により塩化ビニル樹脂溶液から添加剤(主として鉛化合物、炭酸カルシウム)を除去する方法(特許文献2参照);三塩基性硫酸鉛を配合調整したテスト用電線被覆材をテトラヒドロフランに溶解し、遠心分離することにより鉛を除去する方法(特許文献3参照)等が報告されている。また、塩化ビニル樹脂溶液から添加剤を除去する場合は、溶剤の使用量が多いほど効率が良いとされている。
【0007】
【特許文献1】特開平09−291288号公報
【特許文献2】特開2000−285756号公報
【特許文献3】特開2001−210160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したように、近年提案されたポリ塩化ビニルの回収方法においても、未だこれを工業的、経済的に実施することは困難である。例えば、特許文献1では、酢酸の取り扱いが製品中に残存する臭気や装置の腐食の点で煩雑である。また、特許文献2及び特許文献3に記載された方法では、塩化ビニル樹脂溶液から添加剤を除去する場合は、溶剤の使用料が多いほど効率が高いとされている。このため、装置が巨大化することによる経済的な課題がある。
【0009】
また、本発明者等の検討によれば、廃塩化ビニル樹脂組成物に含まれる重金属類のうち、従来の方法による遠心分離法では除去できないものが存在することを見出した。
【0010】
このような課題に鑑み、本発明の目的は、上述した廃塩化ビニル樹脂組成物からポリ塩化ビニルの再生を行うに際し、効率的に重金属類を除去する、廃塩化ビニル樹脂組成物からのポリ塩化ビニルの回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく本発明者等は鋭意検討した結果、廃塩化ビニル樹脂組成物を有機溶剤に溶解させた後、得られたポリマー溶解液に吸着剤を添加共存させ、重金属類を吸着剤に吸着させた後、重金属類を固液分離し、ポリマー溶解液中の重金属類を除去することにより上記課題を解決することができることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は以下の(1)〜(5)に存する。
(1) 廃塩化ビニル樹脂組成物からのポリ塩化ビニルの回収方法であって、廃塩化ビニル樹脂組成物を有機溶剤に溶解したポリマー溶解液を調製し、ポリマー溶解液と吸着剤とを接触させた後、固液分離によりポリマー溶解液から重金属類を除去することを特徴とするポリ塩化ビニルの回収方法。
(2) 吸着剤が、細孔径4Å〜20Åを有する多孔質材料であることを特徴とする上記(1)に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。
(3) 多孔質材料が、ゼオライトであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。
(4) 吸着剤が、キレート樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。
(5) キレート樹脂は、キレート生成基としてポリアミン基又はイミノジ酢酸基を有することを特徴とする上記(4)に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、重金属類を含有する廃塩化ビニル樹脂組成物から、設備コストの負担が少なく、安全な溶媒を用いて、低エネルギーで効率的に重金属類を除去することができる。
また、重金属類の含有量が低減されたポリ塩化ビニルを再生することにより、ポリ塩化ビニル再生品の用途を拡大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、廃塩化ビニル樹脂組成物からのポリ塩化ビニルの回収方法であって、廃塩化ビニル樹脂組成物を有機溶剤に溶解したポリマー溶解液を調製し、前記ポリマー溶解液と吸着剤と接触させた後、固液分離により当該ポリマー溶解液から重金属類を除去することを特徴とするものである。
一般的に、重金属類が固体の粒子であれば、遠心分離やフィルターによる濾過によって、ポリマー溶解液からこれらの重金属類をある程度除去することが可能である。しかし、本発明者等の検討により、こうした単なる機械的な操作では分離できない重金属類が存在することを見出した。
【0014】
このような重金属類のポリマー溶解液中における存在形態には、均一に溶解した重金属或いは機械的操作で分離困難な極微小な粒子であるかの明確な区別はない。しかし、ゼオライトやキレート樹脂等によって除去できることから、例えば、ポリマー溶解液中で金属イオンとなっており、イオン結合による吸着作用が働いているものと考えられる(以下、このような重金属類を、「溶解性重金属」と称することがある。)。
本発明は、重金属類からなる添加剤を含有する塩化ビニル樹脂組成物に適用することができる。重金属類としては、主として鉛化合物、カドミウム化合物、スズ化合物、亜鉛化合物等も含まれる。特に、熱安定剤の機能を失った重金属類を含む塩化ビニル樹脂組成物に本発明を適用することが好ましい。
ここで、「熱安定剤の機能を失った重金属類」とは、ポリ塩化ビニルから熱履歴等で発生した塩素を捕捉した重金属類であって、具体的には、重金属類の塩化物と考えられる。
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は、これらの内容に限定されるものではない。
本実施の形態において、再生の対象とする廃塩化ビニル樹脂組成物としては、硬質塩化ビニル樹脂組成物、軟質塩化ビニル樹脂組成物のいずれであってもよい。また、ポリ塩化ビニル以外の他の樹脂、金属との混合物であってもよい。
【0016】
ここで、硬質塩化ビニル樹脂組成物とは、可塑剤の添加が無添加か極微量であるポリ塩化ビニルであり、具体的にはパイプ、雨樋、窓枠、外壁材等が挙げられる。
また、軟質塩化ビニル樹脂組成物とは、可塑剤が添加されて常温でも可塑性のあるポリ塩化ビニルであって、具体的には、ロープ、被覆電線、農業用フィルム、ホース、シート、自動車内装部品等が挙げられる。
廃塩化ビニル樹脂組成物の成分としては、ポリ塩化ビニルや可塑剤の他に、不燃材、色素、抗酸化剤、熱安定剤等種々の添加剤を含有していてもよい。
【0017】
本実施の形態において、廃塩化ビニル樹脂組成物の大きさ、形状は、廃塩化ビニル樹脂組成物の溶解時間と粉砕の労力との兼ね合いによって適宜決められ、特に限定されるものではない。通常、廃塩化ビニル樹脂組成物を溶媒に溶解する直前に、破砕等の処理により、所定の大きさ、所定の形態に調製することが、溶解装置を設計する際に好都合である。また、原料容積が縮小され、かつ溶媒との接触面積が大きくなるので溶解速度が増し、装置が小型化されるので好ましい。
【0018】
廃塩化ビニル樹脂組成物の形状が農業用フィルム、工事用シート等のシートであれば、大きさは、通常、0.1cm〜1000cm程度、好ましくは、1cm〜100cm程度である。また、廃塩化ビニル樹脂組成物の形状がパイプ、窓枠、電線、ホース等の成形体であれば、大きさは、通常、0.001cm〜100cm程度、好ましくは、0.1cm〜10cm程度である。
【0019】
本実施の形態において、廃塩化ビニル樹脂組成物を溶解する溶媒としては、窒素原子を有する3個の結合手のそれぞれに炭素原子が結合している水溶性アミド化合物及び水溶性ラクトン化合物よりなる群から選ばれた化合物を主成分とするものが挙げられる。なかでも、炭素数6以下、特に炭素数5以下のアミド化合物又はラクトン化合物が好ましい。
【0020】
アミド化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
ラクトン化合物としては、例えば、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドンは、溶解力が非常に大きいので特に好ましい。
【0021】
これらの溶媒は、単独でも廃塩化ビニル樹脂組成物に対して大きな溶解力を示すが、さらに、これらの溶媒と炭素数2〜炭素数8を有する水溶性グリコールエーテルを混合して用いると、溶解力を更に高めることもできる。
【0022】
水溶性グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これらの水溶性グリコールエーテルは、溶媒中に1容量%〜50容量%、好ましくは、20容量%〜40容量%となるように含有させるのが好ましい。
【0023】
廃塩化ビニル樹脂組成物を溶解処理する際の溶解温度は、室温での浸漬溶解も可能であるが、長時間を要する。通常は、溶解速度を速めるため加熱した方が好ましい。その際、再生したポリ塩化ビニルの熱劣化を抑制するために、溶解温度は、10℃以上70℃以下、特に、40℃以上60℃以下が好ましい。
【0024】
廃塩化ビニル樹脂組成物(C)と溶媒(S)との混合比(C/S)は、特に限定されないが、通常、混合比(C/S)は、1/99〜30/70(重量比)、好ましくは、10/90〜25/75(重量比)である。溶媒は過度に多いと、溶解後に樹脂から分離回収する溶媒量が多くなり経済的に不利である。
【0025】
一方、廃塩化ビニル樹脂組成物の溶解を効率よく行うためには、所定の溶解槽で廃塩化ビニル樹脂組成物と溶媒との混合物を流動させることが好ましい。即ち、使用する溶解槽には、廃塩化ビニル樹脂組成物を効率よく溶媒に溶解させるために、撹拌装置を設けるのが好ましい。
【0026】
また、別法として、外部循環ポンプにより溶解槽内の液体を強制的に流動させても良い。調製するポリマー溶解液の粘度は、ポリマー溶解液を容易に流動、配管輸送できる程度の粘度であることが好ましい。ポリマー溶解液の粘度は、通常、10,000cP以下、特に、5,000cP以下、但し、100cP以上となるように、廃塩化ビニル樹脂組成物と溶媒との混合比を調整することが好ましい。
【0027】
本実施の形態において使用する吸着剤としては、細孔径4Å〜20Å、好ましくは、5Å〜15Åを有する多孔質材料、又は、キレート樹脂が挙げられる。多孔質材料は、除去する重金属化合物の分子またはイオンサイズに応じて適宜選択することができる。キレート樹脂は、重金属をキレート配位することにより選択的に重金属を除去できる。
【0028】
多孔質材料としては具体的には、ゼオライトが好ましい。ゼオライトは、結晶アルミノ・シリケートの含水アルカリ金属塩又はアンモニウム塩であり、カチオンとしてはNa、K、Ca、NH等が使われる。ゼオライトとしては、具体的には、フォージャサイト、シャバサイト、グメリナイト、エリオナイト、レビナイト等の天然ゼオライト;4A、5A等のA型、10X、13X等のX型、F型、H型、Y型等の人工ゼオライトを挙げることができる。
【0029】
ゼオライトとしては、入手の容易な人工ゼオライトが好ましい。ゼオライトの形状は、ペレット、ビーズ、パウダー等の何れの形状でもよい。特に、ペレット及びビーズは、重金属を吸着した後の濾過分離において取り扱い易いので好ましい。
【0030】
本実施の形態において、ゼオライトの使用量は、使用するゼオライトに対して除去しようとする重金属類の吸着能力に応じて適宜調整される。通常、ポリマー溶解液の重量に対し、接触させるゼオライトが0.1重量%〜10重量%、好ましくは、1重量%〜5重量%になるように使用される。尚、ポリマー溶解液とゼオライトとを連続的に接触させる場合は、ポリマー溶解液の総量に対し、同様の量のゼオライトを使用する。
【0031】
次に、本実施の形態において使用するキレート樹脂は、例えば、スチレン等の原料モノマーとジビニルベンゼン等の2官能以上の架橋剤との共重合体からなる三次元網目構造の高分子基体に、金属とキレート結合しやすいキレート生成基を導入した構造を有する。
キレート生成基としては、重金属類イオンを選択的に吸着できるものなら特に制限されない。例えば、重金属類イオンへの選択性の点で、イミノジ酢酸基、ポリアミン基が好ましい。また、吸着速度、吸着容量の観点からは、高分子基体がマクロポーラス型であるものが好ましい。
【0032】
このようなキレート樹脂としては、市販されているキレート樹脂の中から適宜選定することができる。例えば、ダイヤイオンCR−10、CR−11、CRP−200(三菱化学株式会社製);エポラスMX−10、MX−2(ミヨシ油脂株式会社製);DowexA−1(Dow Chemical);アンバーライトIRC−718(ロームアンドハース社製)等が挙げられる。
【0033】
本実施の形態では、キレート樹脂の使用量は、イオン交換容量に応じて適宜選択される。通常、ポリマー溶解液の重量に対し、接触させるキレート樹脂が0.1重量%〜10重量%、好ましくは、1重量%〜5重量%になるように使用される。尚、ポリマー溶解液とキレート樹脂とを連続的に接触させる場合は、ポリマー溶解液の総量に対し、同様の量のキレート樹脂を使用する。
【0034】
本実施の形態において、廃塩化ビニル樹脂組成物を有機溶剤に溶解したポリマー溶解液と吸着剤とを接触させる方法は、ポリマー溶解液と吸着剤との接触が十分行われる方法であれば特に限定されない。例えば、ポリマー溶解液を調製する溶解槽に吸着剤(ゼオライト又はキレート樹脂)を導入し、撹拌或いは振動を与える方法;吸着剤(ゼオライト又はキレート樹脂)の充填層にポリマー溶解液を流通接触させる方法等が挙げられる。
また、吸着剤(ゼオライト又はキレート樹脂)をポリマー溶解液を調製する溶解槽に導入する時期は、特に限定されず、廃塩化ビニル樹脂組成物の溶解初期に投入しても良いし、溶解が完了してからでも良い。
【0035】
本実施の形態において、ポリマー溶解液と吸着剤とを接触させる際の接触処理温度は特に限定されないが、プロセス上溶解温度である10℃〜70℃、好ましくは、40℃〜60℃程度で行われる。
【0036】
本実施の形態において、重金属類としては、例えば、鉛、カドミウム、スズ、亜鉛等の元素を挙げることができる。特に、鉛元素を含む化合物、具体的には、鉛系熱安定剤が好ましい。鉛系熱安定剤としては、例えば、金属鉛の他、アジ化鉛、一酸化鉛、塩化鉛、塩基性クロム酸鉛、クロム酸鉛、鉛ケイフッ化、酢酸鉛、三塩基性硫酸鉛、シアナミド鉛、シアン化鉛、四酸化鉛、硝酸鉛、水酸化鉛、ステアリン酸鉛、炭酸鉛、鉛酸カルシウム、二塩基性亜燐酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、二酸化鉛、ヒ酸水素鉛、フッ化鉛、メタ亜ヒ酸鉛、メタ珪酸鉛、ヨウ化鉛、硫酸鉛、リン酸鉛、硫化鉛等が挙げられる。
【0037】
これらの化合物は吸着剤によりポリマー溶解液から除去することができるが、より好ましくは、これら熱安定剤としての機能を失った重金属類である。熱安定剤の機能を失った重金属類とは、ポリ塩化ビニルが加工成形の際に受ける熱履歴や長期使用等で分解し、その分解物から発生した塩素を捕捉した重金属であって、重金属の塩化物と考えられる。このような塩化物は、ポリ塩化ビニルを溶解する溶剤に対し、比較的高い溶解性を示すため、吸着剤による除去効率が高く、特に好ましい。
【0038】
本実施の形態において、吸着剤を溶解槽に導入する場合、沈降性の重金属類と溶解性重金属類を吸着した吸着剤とを同時に回収することができる。また、沈降性の重金属類をポリマー溶解液から除去した後、ポリマー溶解液と吸着剤とを接触させ、次いで、更に遠心分離や遠心沈降操作により吸着剤を分離する方法も可能である。
【0039】
本実施の形態において、吸着剤は固液分離によりポリマー溶解液から分離される。固液分離の方法としては、例えば、遠心沈降、遠心分離、フィルター濾過等の従来の方法が挙げられる。これらの方法は、いずれもバッチ式、連続式で適用可能である。
なお、固液分離の際には、操作性を向上するため、必要に応じて、溶解溶剤によるポリマー溶解液のさらなる希釈、加熱による粘度の調整等を行うことが可能であるが、これらは一般に経済的に不利な操作である。
本実施の形態では、ポリマー溶解液の希釈や加熱は必ずしも必要ではなく、固液分離操作は、ポリ塩化ビニルの溶解温度である10℃〜70℃、好ましくは、40℃〜60℃で行うことができる。また、遠心力は、1,000G〜10,000G、遠心時間は1分〜10分で行なうことができる。
【0040】
上述した重金属類を除去したポリマー溶解液は、加熱下に溶媒を揮発させながら混練し、ポリ塩化ビニル溶融物とする。好ましくは、ポリマー溶解液から予め溶媒を揮発させて溶液を濃縮し、その後、混練に供する。濃縮の程度は特に限定されないが、通常、溶液の粘度が1×10cP以上となるまで濃縮するのが好ましい。
【0041】
混練脱気操作は加熱下で行われ、ポリ塩化ビニルに同伴する溶媒を揮発させ、かつ樹脂を溶融させる。通常、ポリ塩化ビニルの軟化温度は65℃〜85℃、溶融温度は170℃、熱分解温度は190℃である。ポリ塩化ビニルは熱分解温度以上になると熱分解して塩化水素が発生する。従って、混練温度は、100℃以上、特には150℃以上であり、かつ、230℃以下、特に、150℃〜180℃で混練するのが好ましい。
【0042】
また、混練操作に際しては、溶媒の揮発を促進させ、溶媒の残存量をできるだけ減少させるために、減圧脱気を行ってもよい。減圧度は、溶媒により異なり特に限定されない。混練温度で溶媒が沸点に達する圧力以下の圧力となるように減圧度を決めることが好ましく、通常、1torr〜760torrである。例えば、溶媒がN−メチルピロリドンであれば、300torr以下で20torr以上、特に100torr以上の減圧℃とするのが好ましい。混練に用いる装置としては、通常は押出機を用いる。なかでも、剪断熱の発生の多い2軸押出機を用いるのが好ましい。
【0043】
加熱下の混練操作で得られたポリ塩化ビニル溶融物は、通常、押出成形により、直径1mm〜10mm程度のポリ塩化ビニルストランドとする。押出成形は常法により行えばよく、押出温度は、通常、50℃〜120℃、成形速度は、通常、0.01m/分〜10m/分である。
通常、押出されたポリ塩化ビニルストランドは、水等により冷却して固化され、次いで、カッターにより、通常、1mm〜10mmの長さに切断され、ペレットとする。
上記のように、ポリマー溶解液を直接、混練脱気することによって、良溶媒を除去し、ポリ塩化ビニルを回収することができる。
【0044】
さらに、ポリマー溶解液からポリ塩化ビニルを回収する方法としては、再生樹脂の熱劣化を低減できる観点から、以下に述べるポリ塩化ビニル析出回収法が好ましい。ポリ塩化ビニル析出回収法によれば、ポリマー溶解液と、ポリ塩化ビニルに対する貧溶媒を含む析出液とを接触させることによりポリ塩化ビニルを析出させ、回収することができる。この析出液とは、ポリ塩化ビニルに対する貧溶媒、または良溶媒と貧溶媒との混合溶液をいう。
ここで貧溶媒とは、ポリ塩化ビニルを溶解する能力を有さない、または実質的に有さないものであって、具体的には、溶媒100gに対して、ポリ塩化ビニルの溶解量が1g以下である溶媒のことをいう。また、析出液として使用する貧溶媒は、良溶媒と均一に混合する溶媒の中から選ばれる。
このような貧溶媒の例としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等が挙げられる。中でも、水が好ましい。
【0045】
また、上述した析出液として良溶媒と貧溶媒との混合溶液を使用する場合は、析出液中の貧溶媒の濃度が高いほうが好ましい。具体的には、混合溶液における貧溶媒の濃度が10重量%以上、好ましくは40重量%以上であれば、ポリ塩化ビニル溶解液からポリ塩化ビニルを略全量析出させることができる。
析出液における貧溶媒の濃度が過度に低いと、ポリ塩化ビニルの回収率が不十分となる傾向がある。さらに、析出液中の良溶媒の濃度が高いと、後述するリンス操作において良溶媒の除去効率が低下する傾向がある。
【0046】
上述した析出物の形状は、析出方法によって種々の形状とすることができる。析出物の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、ストランド状、粒子状、粉状等が挙げられる。このような析出物は、薄く、細く、且つ小さい形状であることが好ましい。析出物をこのような形状とすることにより固化時間を短縮することができ、且つ、リンス操作において、析出物中から良溶媒を効率良く抽出除去することができる。
【0047】
ポリマー溶解液と析出液とを接触させる際、ポリマー溶解液と析出液との量比は、ポリ塩化ビニルを析出させることができれば特に限定されず、また、析出物が充分に固化するまでの時間、ポリマー溶解液と析出液とを接触させれば良い。
具体的には、例えば、ポリマー溶解液を少量の析出液と接触させる場合はスチームを使用し、一方、大量の析出液と接触させる場合は、所定の水槽に満たした析出液中にポリマー溶解液を導入すればよい。さらに具体的に例示すると、析出槽の析出液面上方に配されたノズルからポリマー溶解液を吐出し析出液と接触させることができる。
【0048】
析出操作における析出液の温度は、10℃以上120℃以下が好ましく、より好ましくは、20℃以上60℃以下である。析出液の温度が過度に低いと、冷却装置が必要となり経済的に不利である。また、析出液の温度が過度に高いと、リンス効率の低下、樹脂の熱劣化が起こりやすい傾向がある。
【0049】
上述した析出物の形態が、粒子状または粉体状の場合は、そのままリンス操作に送ることができる。また、析出物の形態が、シート状、フィルム状またはストランド状の場合、析出操作とリンス操作との間に、下記に説明するように、破砕工程を設け、析出物を所定の大きさに破砕することが好ましい。これにより、リンス操作において、析出物中から効率よく良溶媒を抽出することができる。
【0050】
前記の破砕工程で使用する破砕機は、特に制限はなく、一般的な粉砕機を使用することができる。破砕サイズは操作性の観点から、0.1mm以上5mm以下にすることが好ましい。特に好ましくは0.4mm以上4mm以下である。粉砕サイズが過度に小さいと、リンス操作において洗浄溶媒に浸漬することが困難となる場合がある。一方、粉砕サイズが過度に大きいと、リンス操作において良溶媒の抽出を効率よく行うことができない場合がある。
【0051】
リンス操作は、上述した析出操作で析出させたポリ塩化ビニルを抽出溶媒と接触させ、析出物中の良溶媒を抽出溶媒に抽出させることにより、析出物中の良溶媒の含有量を低減する操作である。
抽出溶媒としては、ポリマー溶解液を調製する際に使用した溶媒と均一に溶解し、且つ、ポリ塩化ビニルに対して溶解性の低い溶媒が挙げられる。このような溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等が挙げられる。溶媒の精製回収系を複雑にしないためには、析出操作で用いた貧溶媒と同じ溶媒を抽出溶媒として用いることが好ましい。
【0052】
析出操作で得られた析出物を抽出溶媒と接触させる方法としては、撹拌機を備える所定の槽中で析出物を流動させる方法(流動法);所定の槽中に析出物を導入し、流動させずに浸漬させる方法(浸漬法);析出物を含有する液中にガス(水蒸気)を通すことにより析出物を流動させる方法(ガスストリッピング法)等が挙げられる。
析出物と接触させる抽出溶媒の容量比に制限はなく、少量で外部循環して析出物と接触させても良いし、十分に多量の抽出溶媒中に浸漬させることもできる。
【0053】
リンス操作における抽出の温度は、10℃〜120℃が好ましく、30℃〜60℃がより好ましい。抽出操作の温度が過度に低いと、冷却設備が必要となり、経済的に不利である。また、一般に、抽出操作の温度が高いほど抽出速度が大きくなるが、抽出操作の温度が過度に高いと、ポリ塩化ビニルが熱劣化する傾向あるので好ましくない。
【0054】
リンス操作で得られた析出物(即ち、ポリマー溶解液と貧溶媒とを接触させて回収した析出物)は、一般に多孔質であり、多量の貧溶媒や抽出溶媒を細孔に含有している。このため、伝導加熱型乾燥機や滞留時間の短い気流乾燥機では、細孔内の奥深くに存在する抽出溶媒を十分に効率よく乾燥できない。この問題を解決する方法としては、例えば、押出機で溶媒を取り除き乾燥物を得る方法;流動乾燥機や熱風乾燥機等で加熱乾燥する方法等が挙げられる。
【0055】
上述した押出機を用いる場合、リンス操作後の析出物を押出機に導入し、析出物をせん断しつつ圧縮することによって抽出溶媒及び良溶媒を絞り出すことができる。
このような方法で使用する押出機の具体例としては、例えば、シリンダー部に複数のスリットまたはスクリーンを有した搾りゾーンと、必要に応じて、脱気用のベントゾーンとダイヘッドとを有する二軸の押出機が好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
使用済み廃ポリ塩化ビニルパイプから得られた平均1cm角の破砕品を、撹拌器及び温水ジャケットを備える容器中に供給し、NMP(N−メチル−2−メチルプロリドン)に、ポリ塩化ビニル濃度が20重量%になるように50℃で撹拌しながら溶解した(c/s=20/80)。
このとき、ポリマー溶解液の粘度は4,700cPであった。また、このポリマー溶解液中の全鉛濃度(単位:ppm)は1,599ppmであった。
このポリマー溶解液を遠心分離器(株式会社クボタ製KS−5200C)により遠心分離操作(回転数5,000rpm、回転時間2分間)を施し、遠心沈降後の液の上澄み液を採取した。この上澄み液中の鉛濃度((a)処理前鉛濃度)は866ppmであった。この上澄み液には、溶解性の鉛が含有されている。
【0058】
この上澄み液を原料として、ポリマー溶解液の重量に対して、ゼオライト(和光純薬工業株式会社製ゼオライトHS341:細孔径5Å)2重量%を添加し、50℃で3時間撹拌した。
その後、このポリマー溶解液を遠心分離器(株式会社クボタ製KS−5200C)により、5,000rpm×2分間で遠心沈降させ、上澄み液を分離し鉛濃度((b)処理後鉛濃度)を測定した。
【0059】
尚、ポリマー溶解液、上澄み液、ゼオライト処理後の上澄み液の鉛濃度は、湿式分解した後、ICP−AES分析(誘導結合プラズマ発光分光分析:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)により定量した。測定結果を表1に示す。
尚、表1中、鉛除去率((a−b)/(a))は、原料中に含まれる鉛濃度(a)から残存鉛濃度(b)を差し引いた量を原料中の鉛濃度(a)(単位:%)で割ったものとして求めた。
【0060】
(実施例2)
実施例1において、ゼオライトを和光純薬工業株式会社製ゼオライトHS321H(細孔径5Å)にした以外は、実施例1の方法に従った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
使用済み廃ポリ塩化ビニルパイプから得られた平均1cm角の破砕品を、撹拌器及び温水ジャケットを備える容器中に供給し、NMP(N−メチル−2−メチルプロリドン)に、ポリ塩化ビニル濃度が20重量%(c/s=20/80)になるように撹拌しながら溶解しポリマー溶解液を調製した。このポリマー溶解液中の全鉛濃度は1,599ppmであった。
次に、このポリマー溶解液をNMPで4倍(重量基準)希釈し(鉛濃度400ppm)、遠心分離器(クボタ株式会社製KS−5200C)により、回転数3,000rpm、回転時間30分の条件で処理した。遠心分離処理後、上澄み液を採取したところ、上澄み液中の鉛濃度(a)は20ppmであった。この上澄み液中には、溶解性又は非沈降性の微粒子の鉛が含有されている。
【0062】
次いで、キレート樹脂(三菱化学株式会社製;ダイヤイオンCR11(イミノジ酢酸型キレート樹脂))2gに対して、上述の上澄み液20mlを添加し、スターラーで1時間撹拌し、フィルターでキレート樹脂を濾過後、濾液中の鉛濃度(b)を、ICP−AES分析により定量した。測定結果を表1に示す。
【0063】
(実施例4)
実施例3において、キレート樹脂を三菱化学株式会社製ダイヤイオンCR20(ハイポーラス型キレート樹脂)にした以外は、実施例1の方法に従った。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示す結果から、上澄み液中の(a)処理前鉛濃度に比べ、(b)処理後鉛濃度が大幅に低減することが分かる。
即ち、廃塩化ビニル樹脂組成物のポリマー溶解液とゼオライト又はキレート樹脂とを接触させることにより、従来、遠心分離操作等では分離することが困難であった溶解性鉛を除去できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃塩化ビニル樹脂組成物からのポリ塩化ビニルの回収方法であって、
前記廃塩化ビニル樹脂組成物を有機溶剤に溶解したポリマー溶解液を調製し、
前記ポリマー溶解液と吸着剤とを接触させた後、固液分離により当該ポリマー溶解液から重金属類を除去する
ことを特徴とするポリ塩化ビニルの回収方法。
【請求項2】
前記吸着剤が、細孔径4Å〜20Åを有する多孔質材料であることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。
【請求項3】
前記多孔質材料が、ゼオライトであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。
【請求項4】
前記吸着剤が、キレート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。
【請求項5】
前記キレート樹脂は、キレート生成基としてポリアミン基又はイミノジ酢酸基を有することを特徴とする請求項4に記載のポリ塩化ビニルの回収方法。

【公開番号】特開2008−174666(P2008−174666A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10715(P2007−10715)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】