説明

マイクロアレイ形式のアッセイにおける、万能ナノ粒子プローブを用いた標識不要の遺伝子発現プロファイリング

アレイ形式のアッセイにおいて、ナノ粒子プローブを用いて標識を使用せずに広範囲な遺伝子発現を検出するための方法およびキットが記載される。該方法は、蛍光標識および標的の増幅に伴う問題を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロアレイ形式のアッセイにおいて、万能ナノ粒子プローブを用いて標識を使用せずに広範囲な遺伝子発現を検出するための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
[相互参照]
本願は、2003年2月27日付けで出願された米国仮出願第60/450,268号(参照により本明細書に完全に援用される)の優先権を主張するものである。
【0003】
[発明の背景]
現在、mRNA標的試料は、発現解析のため、蛍光染料(例えば、Cy3(登録商標)またはCy5(登録商標))で直接標識されるか、または他の分子(例えば、ビオチン)で間接的に標識されるのが一般的である。蛍光を基にした検出の感度には限界があるため、mRNA標的は、マイクロアレイとのハイブリダイゼーションの前に増幅されてから標識されることが多い。例えば、mRNA標的は、RNA逆転写酵素およびDNAポリメラーゼによって2本鎖cDNAに変換される。次に、T7RNAポリメラーゼが用いられてin vitro転写で標的が増幅される。さらに、前記RNA標的は、in vitro転写の最中またはin vitro転写の後に標識される。このRNAの標識および増幅処理は、面倒であり、費用も時間もかかる。そのうえ、遺伝子の違いによって増幅速度が異なる可能性があり、色素分子の違いによって標識効率が異なる可能性があり、さらには異なる色素を含有するcDNAのハイブリダイゼーション動態が異なる可能性があり、これらはいずれも発現解析の精度を歪める可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今日まで、蛍光標識および増幅に伴う問題を回避する、遺伝子発現の検出方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書において提案されている、万能ナノ粒子プローブを用いた標識不要の発現解析は、RNA標識プロセスを排除する。該ナノ粒子プローブの感度が高いので、標的増幅の必要性も低減される。
【0006】
本発明は、アレイ形式のアッセイにおいて、ナノ粒子プローブを用いて標識を使用せずに広範囲な遺伝子発現を検出するための方法およびキットに関する。銀で増感された金ナノ粒子は、高い特異性および高い感度を有する検出を可能にすることが見出されている。
【0007】
本発明の一実施形態では、試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法が提供され、前記試料は、1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的核酸を有すると考えられ、各タイプの標的核酸はオリゴヌクレオチドの末端部を有し、前記方法は:標的核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と;前記オリゴヌクレオチドの末端部の少なくとも一部分に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子を提供する工程と;試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程であって、該接触は、基材に結合した捕捉核酸配列に対する標的核酸のハイブリダイゼーションおよびナノ粒子に対する標的核酸のハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され
る工程と;検出可能な変化を観察する工程と、を含む。
【0008】
本発明の一態様において、標的核酸は、RNA(例えば、mRNA)またはDNA(例えば、cDNA)であり得る。オリゴヌクレオチドの末端部は、ポリdT、ポリdA、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドを含んでなる。ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドは、ポリdT、ポリdA、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドを含んでなる。捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる。ナノ粒子は金製であり得る。
【0009】
本発明の別の態様では、前記試料を最初に前記基材と接触させ、該接触は、標的核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に基材に結合した標的核酸をナノ粒子と接触させ、該接触は、基材に結合した標的核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0010】
本発明の別の態様では、前記試料を最初に前記ナノ粒子と接触させ、該接触は、標的核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次にナノ粒子に結合した標的核酸を基材と接触させ、該接触は、ナノ粒子に結合した標的核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0011】
本発明の別の態様では、標的核酸と、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドおよび基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、試料、ナノ粒子、および基材を同時に接触させる。
【0012】
本発明の別の態様において、検出可能な変化は、標的核酸およびナノ粒子を有する基材を染色材料と接触させた後に観察される。染色材料は、銀染色剤でもよいし、任意の好適な染色材料でもよい。
【0013】
本発明の別の態様において、試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法が提供され、前記試料は1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的リボ核酸を有すると考えられ、各タイプの標的リボ核酸はポリdAオリゴヌクレオチドの末端部または所定の配列の合成オリゴヌクレオチドの末端部を含み、前記方法は:標的リボ核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的リボ核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と;ポリdTオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの末端部の配列と相補的な合成オリゴヌクレオチド配列が結合したナノ粒子を提供する工程と;試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程であって、該接触は、基材に結合した捕捉核酸配列への標的リボ核酸のハイブリダイゼーションおよびナノ粒子への標的リボ核酸のハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される工程と;前記基材に結合したナノ粒子を染色材料と接触させて検出可能な変化を生じさせる工程と;前記検出可能な変化を観察する工程と、を含む。
【0014】
本発明の一態様において、前記試料を最初に前記基材と接触させ、該接触は、標的リボ核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に基材に結合した標的リボ核酸をナノ粒子と接触させ、該接触は、基材に結合した標的リボ核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0015】
本発明の別の態様において、前記試料を最初に前記ナノ粒子と接触させ、該接触は、標的リボ核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果
的な条件下で実施され、次にナノ粒子に結合した標的リボ核酸を基材と接触させ、該接触は、ナノ粒子に結合した標的リボ核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0016】
本発明の別の態様において、標的核酸と、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドおよび基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、試料、ナノ粒子、および基材を同時に接触させる。
【0017】
本発明の別の態様において、ナノ粒子は金製である。
本発明の別の態様において、染色材料は銀染色剤または任意の好適な材料である。
本発明の別の態様において、捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる。
【0018】
本発明の別の実施形態において、試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法が提供される。前記試料は、1つまたは複数の異なるタイプの標的cDNAを有すると考えられ、各タイプの標的cDNAは、ポリdTオリゴヌクレオチドの末端部または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドの末端部を含む。前記方法は、標的リボ核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的リボ核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と、ポリdAオリゴヌクレオチドまたは所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子を提供する工程と、試料、基材およびナノ粒子を接触させる工程であって、該接触は、標的cDNAと基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションおよび標的cDNAとナノ粒子とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される工程と、前記基材に結合したナノ粒子を染色材料と接触させて検出可能な変化を生じさせる工程と、検出可能な変化を観察する工程と、を含む。
【0019】
本発明の一態様では、試料を最初に基材と接触させ、該接触は、標的cDNAと基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。次に、基材に結合した標的cDNAをナノ粒子と接触させ、該接触は、基材に結合した標的cDNAとナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0020】
本発明の別の一態様では、試料を最初にナノ粒子と接触させ、該接触は、標的cDNAとナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。次に、ナノ粒子に結合した標的cDNAを基材と接触させ、該接触は、ナノ粒子に結合した標的cDNAと基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0021】
本発明の別の態様では、標的cDNAと、ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドおよび基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、標的cDNA、ナノ粒子、および基材を同時に接触させる。
【0022】
本発明の別の態様において、ナノ粒子は金製である。
本発明の別の態様において、染色材料は銀染色剤またはその他の任意の好適な材料である。
【0023】
本発明の別の態様において、捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる。
本発明の別の実施形態において、試料中の遺伝子発現を検出または定量するキットが提供され、前記試料は1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的核酸を有する
と考えられ、各タイプの標的核酸はポリdT、ポリdAオリゴヌクレオチドの末端部、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドの末端部を含んでなり、前記キットは:標的核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材と;ポリdTオリゴヌクレオチド、ポリdAオリゴヌクレオチド、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドが結合した1つまたは複数のタイプのナノ粒子と、を備える。
【0024】
本発明の別の態様において、前記ナノ粒子は金製である。
本発明の別の態様において、捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる。
【0025】
上記およびその他の本発明の実施形態は、以下のさらに詳細な本発明の説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
状況により必要とされない限り、単数形表現は複数を含み、複数形表現は単数を含む。
本開示に用いられる場合、別途指定がない限り、以下の用語は以下の意味を有するものと理解されたい。
【0027】
本明細書中で用いられる場合、「核酸配列」、「核酸分子」、または「核酸」は、本明細書中で定義されるように、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを示す。本明細書中で用いられる場合、「標的核酸分子」または「標的核酸配列」は、本発明の方法の使用者が試料中に検出したいと望む配列を含んでなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを示す。
【0028】
「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書中では、少なくとも10塩基の長さの一本鎖または二本鎖の核酸ポリマーを意味する。ある実施形態において、ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドはリボヌクレオチドでもデオキシリボヌクレオチドでもよく、いずれかのタイプのヌクレオチドの修飾型でもよい。前記修飾は、ブロモウリジンのような塩基修飾、アラビノシドおよび2’,3’−ジデオキシリボースのようなリボース修飾、ならびにホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート(phosphoroselenoate)、ホスホロジセレノエート(phosphorodiselenoate)、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate )、ホスホラニラデート(phosphoraniladate )、およびホスホロアミデートのようなヌクレオチド間結合修飾を含む。「ポリヌクレオチド」という用語は、具体的には一本鎖および二本鎖の形態のDNAを含む。
【0029】
本明細書中で言及される「オリゴヌクレオチド」という用語は、天然に存在するヌクレオチド、ならびに天然には存在しない修飾ヌクレオチドが、天然に存在するオリゴヌクレオチド結合および/または天然には存在しないオリゴヌクレオチド結合により共に結合されたものを含む。オリゴヌクレオチドは、通常一本鎖であり200塩基以下の長さの成員から成るポリヌクレオチドのサブセットである。ある実施形態において、オリゴヌクレオチドは10〜60塩基長である。ある実施形態において、オリゴヌクレオチドは、12、13、14、15、16、17、18、19、または20〜40塩基長である。オリゴヌクレオチドは、例えば、遺伝子突然変異体の構築に用いるのには、一本鎖でも二本鎖でもよい。本発明のオリゴヌクレオチドは、タンパク質をコードする配列に対して、センスオリゴヌクレオチドでもアンチセンスオリゴヌクレオチドでもよい。
【0030】
「天然に存在するヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドを含む。「修飾ヌクレオチド」という用語は、糖部分などが修飾または置換されたヌクレオチドを含む。「オリゴヌクレオチド結合」という用語は、ホスホロチオエ
ート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホラニラデート、およびホスホロアミデート等のオリゴヌクレオチド結合を含む。例えば、ラプランシュ(LaPlanche )等、1986, Nucl. Acids Res., 14:9081 ;ステック(Stec)等、1984, J. Am. Chem. Soc., 106:6077 ;スタイン(Stein )等、1988, Nucl. Acids Res., 16:3209 ;ゾン(Zon )等、1991, Anti-Cancer Drug
Design, 6:539; ゾン等、1991, OLIGONUCLEOTIDES AND ANALOGUES: A PRACTICAL APPROACH, pp. 87-108 (エフ・エクスタイン(F. Eckstein )編)、Oxford University Press, Oxford England ;ステック等、米国特許第5,151,510号;アルマンおよびペイマン(Uhlmann and Peyman)、1990, Chemical Reviews, 90:543を参照されたい。前記文献の開示は、目的に応じて参照により本明細書中に援用される。オリゴヌクレオチドは、該オリゴヌクレオチドまたはそのハイブリダイゼーションの検出を可能にするための検出可能な標識を含み得る。
【0031】
本発明の方法において用いられる「位置指定可能な基材」または「基材」は、オリゴヌクレオチドが結合することが可能な任意の表面であり得る。このような表面としては、ガラス、金属、プラスチック、またはオリゴヌクレオチドを結合するよう設計された官能基でコーティングされた材料が挙げられるが、これらに限定されない。コーティングは、単分子層より厚くてもよい。事実、コーティングは、オリゴヌクレオチドが拡散し内部表面に結合し得る、多孔性の三次元構造を生じるのに十分な厚さの多孔性材料を含み得る。
【0032】
本明細書中で用いられる「捕捉オリゴヌクレオチド」という用語は、基材に結合されるオリゴヌクレオチドであって、標的核酸分子上の相補的なヌクレオチド配列または遺伝子を探し出す(すなわち、試料中でハイブリダイズする)ことができる核酸配列を含んでなるオリゴヌクレオチドを指し、従って標的核酸分子はハイブリダイズすると捕捉オリゴヌクレオチドを介して基材に結合される。捕捉オリゴヌクレオチドの、好適な、だが限定されない例として、DNA、RNA、PNA、LNA、またはこれらの組み合わせが挙げられる。捕捉オリゴヌクレオチドは、天然の配列を含んでも合成配列を含んでもよく、修飾ヌクレオチドを含んでも含まなくてもよい。
【0033】
本発明の「検出プローブ」は、1つまたは複数の検出オリゴヌクレオチドが結合され得る任意の担体でよい。1つまたは複数の検出オリゴヌクレオチドは、特定の核酸配列に相補的なヌクレオチド配列を含んでなる。前記担体は、それ自体が標識として働いてもよいが、検出可能な標識を含んでも検出可能な標識で修飾されてもよく、または検出オリゴヌクレオチドがこのような標識を担持してもよい。本発明の方法に好適な担体は、ナノ粒子、量子ドット、デンドリマー、半導体、ビーズ、アップコンバージョン蛍光体もしくはダウンコンバージョン蛍光体、巨大タンパク質、脂質、炭化水素、または十分な大きさの好適な任意の無機分子もしくは有機分子、あるいはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書中で用いられる場合、「検出オリゴヌクレオチド」は、本明細書中で定義されるように、標的核酸分子上の相補的なヌクレオチド配列または遺伝子を探し出す(すなわち、試料中でハイブリダイズする)のに用いられ得る核酸配列を含むオリゴヌクレオチドである。検出オリゴヌクレオチドの好適な、だが限定されない例として、DNA、RNA、PNA、LNA、またはこれらの組み合わせが挙げられる。検出オリゴヌクレオチドは、天然の配列を含んでも合成配列を含んでもよく、修飾ヌクレオチドを含んでも含まなくてもよい。
【0035】
本明細書中で用いられる場合、「標識」という用語は、光学的、電子的、光電子的、磁気的、重力的、音響学的、酵素的、またはその他の物理的もしくは化学的手段によって検出されうる検出可能なマーカーを示す。「標識された」という用語は、このような検出可
能なマーカーの取り込み、例えば放射標識されたヌクレオチドの取り込みまたは検出可能なマーカーのオリゴヌクレオチドへの結合、を示す。
【0036】
本明細書中で用いられる場合、「試料」という用語は、核酸を含み、本発明の方法において用いられ得る、任意の量の物質を示す。例えば、試料は生体試料でもよいし、またはヒト、動物、植物、菌類、酵母、細菌、ウイルス、組織培養物またはウイルス培養物、あるいはこれらの組み合わせ由来の生体試料から抽出されてもよい。試料は、固形組織(例えば、骨髄、リンパ節、脳、皮膚)、体液(例えば、血清、血液、尿、唾液、精液、またはリンパ液)、骨格組織、または個々の細胞を含んでいてもよいし、これらから抽出されてもよい。また、試料は、精製核酸分子または部分的に精製された核酸分子と、例えば、本発明の方法を順調に行うための適切な条件とするのに用いられる緩衝剤および/または試薬とを含み得る。
【0037】
本発明の一実施形態において、試料中の標的核酸分子は、ゲノムDNA、ゲノムRNA、発現RNA、プラスミドDNA、細胞の核酸または細胞内小器官(例えばミトコンドリア)もしくは寄生生物に由来する核酸、またはこれらの組み合わせを含みうる。
【0038】
ある実施形態において、本発明は、逆転写、PCR増幅またはその他の任意の増幅方法を必要とせず、蛍光標識も必要としない、全ゲノムRNAまたはDNA中の標的核酸分子の信頼できる検出に基づいた、遺伝子発現を検出する方法を提供する。具体的には、本発明の方法は、ハイブリダイゼーション条件(反応容量、塩、ホルムアミド、温度、およびアッセイ形式を含む)、基材に結合した捕捉オリゴヌクレオチド配列、検出プローブ、および捕捉オリゴヌクレオチドと検出プローブの両方により認識された標識核酸分子を検出するのに十分な感度の手段の組み合わせ、を含む。
【0039】
実施例において示されるように、本発明は、初めて、標的配列を選択的に増加させるための増幅を予めすることなく、かついかなる酵素反応の助けを伴わず、一工程のハイブリダイゼーションで、ヒト全RNAでの遺伝子発現解析を行うことに成功した方法を提供する。前記一工程のハイブリダイゼーションは、2つのハイブリダイゼーション事象、すなわち標的配列の第一の部分の捕捉プローブへのハイブリダイゼーション、および前記標的配列の第二の部分の検出プローブへのハイブリダイゼーションを含む。いずれのハイブリダイゼーション事象も、同一の反応において起こる。標的は、初めに捕捉オリゴヌクレオチドに結合してから概略図で示されるナノ粒子のような検出プローブにさらにハイブリダイズすることもできるし、あるいは標的は初めに検出プローブに結合してから捕捉オリゴヌクレオチドに結合することもできる。
【0040】
一実施形態において、本発明の方法は、二工程のハイブリダイゼーションを用いて達成され得る。このプロセスにおいて、ハイブリダイゼーション事象は、2つの別個の反応で起こる。標的は、初めに捕捉オリゴヌクレオチドに結合し、結合しなかった核酸を全て除去した後、捕捉された標的核酸の第二の部分に特異的に結合し得る検出プローブを提供する第二のハイブリダイゼーションが行われる。
【0041】
二工程のハイブリダイゼーションを伴う本発明の方法は、反応が2つの工程で起こるため、第一のハイブリダイゼーション事象(すなわち標的核酸分子の捕捉)の間、検出プローブの特定の固有な特性(ナノ粒子プローブの高いTmおよび鋭敏な融解特性等)を調整しなくても機能するであろう。第一の工程は、所望の標的配列のみを捕捉するのには十分厳密(ストリンジェント)ではない。したがって、次に第二の工程(検出プローブの結合)が、標的核酸分子に対する所望の特異性を達成するために提供される。これら2つの識別力を有するハイブリダイゼーション事象の組み合わせにより、標的核酸分子に対する総合的な特異性が可能となる。しかし、この優れた特異性を達成するために、ハイブリダイ
ゼーション条件は非常に厳密であるように選ばれる。そのような厳密な条件下では、微量の標的および検出プローブしか、捕捉プローブによって捕捉されない。この標的の量は、通常は非常に少なく、バックグラウンドに埋没してしまうため、標準的な蛍光分析法による検出をすり抜けてしまう。このため、この微量の標的を適切に設計された検出プローブを用いて検出することは、本発明にとって極めて重要である。本発明において記載される検出プローブは、通常は多くの検出オリゴヌクレオチドを含有するように改変された担体部分にあり、この担体部分が検出プローブのハイブリダイゼーション動態を高める。第二に、検出プローブは1つまたは複数の高感度の標識部分でさらに標識され、適切な検出機器とともに、少数の捕捉された標的−検出プローブ複合体の検出を可能にする。したがって、高感度の検出システムと組み合わされた全ての要素を適切に調整することにより、この方法が正しく機能する。
【0042】
本発明の二工程のハイブリダイゼーション法は、本明細書中に記載される任意の検出プローブを検出工程に用いることを含み得る。好ましい一実施形態では、ナノ粒子プローブが本方法の第二の工程で使用される。ナノ粒子が使用され、第二のハイブリダイゼーション工程のストリンジェンシー条件が第一の工程のストリンジェンシー条件と同じであるとき、ナノ粒子プローブ上の検出オリゴヌクレオチドを、捕捉オリゴヌクレオチドよりも長くすることができる。したがって、ナノ粒子プローブ固有の特徴(高いTmおよび鋭敏な融解特性)に必要な条件は必要とされない。
【0043】
一工程および二工程のハイブリダイゼーション法と、本発明の適切に設計された捕捉オリゴヌクレオチドおよび検出プローブとの組み合わせにより、試料中の標的核酸配列を検出する従来の方法に対して、新規および予想外の利点が提供される。具体的には、本発明の方法は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる検出方法において必要とされるような、標的に結合する可能性を高めるために標的の数を最大化すると同時に試料中の非標的配列の相対濃度を低減する増幅工程を、必要としない。事前の標的配列の増幅を伴わない特異的な検出法は、多大な利点を提供する。例えば、増幅はしばしば研究所または分析研究所の汚染につながり、偽陽性の検査結果を生む。PCRまたはその他の標的増幅は、特別に訓練を受けた人材、高価な酵素、および特別な装置を必要とする。最も重要なことは、増幅の効率が、個々の標的配列およびプライマー対によって異なる可能性があり、標的配列および/またはゲノム中に存在する標的配列の相対量の測定誤差または測定の失敗につながることである。加えて、本発明の方法は、工程数が少なく、したがってサザンブロット分析およびノーザンブロット分析のようなゲルを用いる核酸標的の検出方法よりも実施が簡単かつ効率的である。
【0044】
本発明の1つの実施形態において、試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法を提供する。該試料は、1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的核酸を有するものと考えられ、各タイプの標的核酸がオリゴヌクレオチドの末端部を有する。前記方法は、標的核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と、前記オリゴヌクレオチドの末端部の少なくとも一部分と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子を提供する工程と、標的核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションおよび標的核酸とナノ粒子とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程と、検出可能な変化を検出する工程とを含む。
【0045】
本発明の1つの態様において、標的核酸はRNA(例えば、mRNA)、またはDNA(例えばcDNA)であり得る。オリゴヌクレオチドの末端部は、ポリdT、ポリdA、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドを含む。ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドは、ポリdT、ポリdA、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチド
を含む。捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含む。ナノ粒子は金製であり得る。
【0046】
本発明の別の態様では、試料を最初に基材と接触させ、該接触は、標的核酸と基材に結合した捕捉標的核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件のもとで実施される。その後、基材に結合した標的核酸をナノ粒子と接触させ、該接触は、基材に結合した標的核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件のもとで実施される。
【0047】
本発明の別の態様では、試料を最初にナノ粒子と接触させ、該接触は、標的核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。その後、ナノ粒子に結合した標的核酸を基材と接触させ、該接触は、ナノ粒子に結合した標的核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0048】
本発明の別の態様において、標的核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション、および標的核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件のもとに、試料、ナノ粒子、および基材を同時に接触させる。
【0049】
本発明の別の態様において、標的核酸およびナノ粒子を有する基材を染色材料と接触させた後、検出可能な変化を観察する。染色材料は、銀染色または任意の適切な染色材料でよい。
【0050】
本発明の別の態様において、試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法を提供する。該試料は、1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的リボ核酸を有するものと考えられ、各タイプの標的リボ核酸は、ポリdAオリゴヌクレオチドの末端部または所定配列の合成オリゴヌクレオチドの末端部を有する。前記方法は、標的リボ核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的リボ核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と、ポリdTオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド末端部の配列に相補的な合成オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子を提供する工程と、標的リボ核酸の基材に結合した捕捉核酸配列へのハイブリダイゼーションおよび標的リボ核酸のナノ粒子へのハイブリダイゼーションに効果的な条件のもとで、試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程と、前記基材に結合したナノ粒子を染色材料と接触させ、検出可能な変化を生じさせる工程と、検出可能な変化を観察する工程とを含む。
【0051】
本発明の1つの態様では、試料を最初に基材と接触させ、該接触は、標的リボ核酸と基材に結合した捕捉標的核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。その後、基材に結合した標的リボ核酸をナノ粒子と接触させ、該接触は、基材に結合した標的リボ核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0052】
本発明の別の態様では、試料を最初にナノ粒子と接触させ、該接触は、標的リボ核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。その後、ナノ粒子に結合した標的リボ核酸を基材と接触させ、該接触は、ナノ粒子に結合した標的リボ核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0053】
本発明の別の態様では、標的核酸とナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション、および標的核酸と基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼー
ションに効果的な条件下で、試料、ナノ粒子、および基材を同時に接触させる。
【0054】
本発明の別の態様において、捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含む。
本発明の別の実施形態において、試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法を提供する。該試料は、1つまたは複数の異なるタイプの標的cDNAを有すると考えられ、各タイプの標的cDNAは、ポリdTオリゴヌクレオチドの末端部または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドの末端部を含む。前記方法は、標的リボ核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的リボ核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と、ポリdAオリゴヌクレオチドまたは所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子を提供する工程と、標的cDNAの基材に結合した捕捉核酸配列へのハイブリダイゼーションおよび標的cDNAのナノ粒子へのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程と、前記基材に結合したナノ粒子を染色材料と接触させて検出可能な変化を生じさせる工程と、検出可能な変化を観察する工程とを含む。
【0055】
本発明の1つの態様では、試料を最初に基材と接触させ、該接触は、標的cDNAと基材に結合した捕捉標的核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。その後、基材に結合した標的cDNAをナノ粒子と接触させ、該接触は、基材に結合した標的cDNAとナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0056】
本発明の別の態様では、試料を最初にナノ粒子と接触させ、該接触は、標的cDNAとナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。その後、ナノ粒子に結合した標的cDNAを基材と接触させ、該接触は、ナノ粒子に結合した標的cDNAと基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される。
【0057】
本発明の別の態様において、標的cDNAとナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションおよび標的cDNAと基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、標的cDNA、ナノ粒子、および基材を同時に接触させる。
【0058】
本発明の別の態様において、捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含む。
本発明の別の実施形態において、検出オリゴヌクレオチドを検出可能なように標識することができる。ポリヌクレオチドの各種標識方法は当業者に既知であり、本明細書に開示する方法において有利に使用され得る。特定の実施形態において、本発明の検出可能な標識は、蛍光性、発光性、ラマン活性、リン光性、放射性、または散乱光において有効な標識であってよく、固有の質量を有していても、または標識によっては容易にかつ特異的に検出可能な物理的もしくは化学的特性を有していてもよく、かつ前記検出可能な特性を増強するために標識を凝集させることができてもよいし、または1つ以上の標識を、担体(例えば、デンドリマー、分子集合体、量子ドット、またはビーズ)に結合させてもよい。標識は、例えば、光子的、電子的、音響的、光音響的、重力的、電子化学的、酵素的、化学的、ラマン法、または質量分析的手段により検出され得る。
【0059】
1つの実施形態において、本発明の検出プローブは、検出オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子プローブであり得る。ナノ粒子は、そのサイズに起因する固有の物理的特性および化学的特性ゆえに高い関心の的となっている。これらの特性により、ナノ粒子は、従来の検出法よりも感度が高く、より特異的であり、かつ費用効率が高い新しいタイプのバ
イオセンサの開発に関して、前途有望な方法を提供している。ナノ粒子の合成法およびその結果得られた特性を研究する方法論は、過去10年にわたり広く進展してきている(クラブンデ(Klabunde)編、Nanoscale Materials in Chemistry, Wiley Interscience, 2001)。しかし、バイオセンシングにおけるナノ粒子の使用は、ナノ粒子と目的の生体分子という2つの本質的に異なる物質が本来相容れないものであるため、ナノ粒子を目的の生体分子で機能化させる強固な方法が存在しないことにより制限されていた。ナノ粒子を修飾オリゴヌクレオチドで機能化させる効率の高い方法が開発されている(米国特許番号第6, 361, 944号および同第6, 417, 340号を参照のこと(譲受人:ナノスフェアー インコーポレイテッド(Nanosphere, Inc.)) 。本特許文献は参照により全体が本明細書に援用される)。この方法により、オリゴヌクレオチドで高度に機能化された、驚くべき粒子安定性およびハイブリダイゼーション特性を有するナノ粒子がもたらされる。また、得られたDNA修飾粒子の、電解質濃度の高い溶液中での安定性、遠心分離または凍結に対する安定性、ならびに加熱および冷却の反復時の温度安定性から証明されるように、得られたDNA修飾粒子が非常に堅固であることが明らかとなっている。また、この装着方法は、制御可能かつ柔軟性がある。様々なサイズおよび組成のナノ粒子が機能化されており、ナノ粒子上へのオリゴヌクレオチド認識配列の装着は、この装着方法を介して制御可能である。好適なナノ粒子は、米国特許第6,506,564号、国際特許出願第PCT/US02/16382号、2003年5月7日に出願された米国特許出願第10/431,341号、および国際特許出願第PCT/US03/14100号(これらはいずれも参照により全体が本明細書に援用される)に開示されるナノ粒子を含むが、これらに限定されない。
【0060】
DNAで修飾されたナノ粒子、特にDNAで修飾された金ナノ粒子プローブの調製に関する前記装着方法は、オリゴヌクレオチドに関する新たな比色検出方式の進展をもたらした。この方法は、2つの金ナノ粒子プローブと目的のDNA標的の2つの異なる領域とのハイブリダイゼーションに基づいている。各プローブは、同じ配列を有する複数のオリゴヌクレオチドで機能化されるので、十分な標的が存在する場合、標的の結合により、標的DNA/金ナノ粒子プローブ凝集体の形成がもたらされる。粒子の粒子間距離が小さくなるため、DNA標的の認識により比色変化がもたらされる。この比色変化は、UV‐可視分光光度計を用いて光学的に、または肉眼で視覚的にモニターされ得る。また、膜上で溶液を濃縮すると、色彩が増強される。したがって、単純な比色変化により、特定のDNA配列が存在するかしないかについての証拠が得られる。このアッセイ法を用いることによって、フェムトモル量およびナノモル濃度のモデルDNA標的およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅された核酸配列が検出されている。重要なことに、金プローブ/DNA標的複合体は極めて鋭敏な融解転移を示し、このことが金プローブ/DNA標的複合体をDNA標的に対する特異性の高い標識としている。モデル系では、1塩基の挿入、欠失、または誤対合が、色および温度に基づいたスポット試験を介して、または分光光度法により凝集体の融解転移をモニターすることによって、容易に検出することが可能であった( ストーホフ(Storhoff)等、J. Am. Chem. Soc., 120, 1959(1998)。また、例えば米国特許第5,506,564号を参照のこと)。
【0061】
本明細書に記載されるように、ナノ粒子プローブ、特に金ナノ粒子プローブは、驚くべきことにおよび予想外に、ゲノムRNAを用いた、増幅および蛍光標識を実施しない遺伝子発現解析に適している。第一に、ナノ粒子オリゴヌクレオチド検出プローブで観察された極めて鋭敏な融解転移は、バックグラウンドにヒトゲノムRNAが存在している場合ですらmRNA検出を可能にする、驚くべきかつ新奇なアッセイ特異性をもたらす。第二に、RNAマイクロアレイを用いたアッセイにおける銀を用いたシグナル増幅手段により、超高感度の増強がさらに提供されうる。
【0062】
本発明の方法において、ナノ粒子は、例えば、光学スキャナまたはフラットベッド・ス
キャナを用いて検出され得る。スキャナは、グレイスケールの測定値を計算することが可能なソフトウエアがロードされたコンピュータに連結されてもよく、グレイスケールの測定値が計算されて検出された核酸量が定量的に測定される。
【0063】
適切なスキャナには、反射モードで動作可能な、書類をスキャンしてコンピュータに取り込むために使用されるもの(例えばフラットベッド・スキャナ)、この機能を実行することが可能な他の装置または同じタイプの光学系を利用する装置、任意のタイプのグレイスケールを感知する測定装置、および本発明の基材をスキャンするように改変された標準的スキャナ(例えば、基材用のホルダを備えるように改変されたフラットベッド・スキャナ)(今日まで、透過モードで動作するスキャナを使用できることは、解っていなかった)が挙げられる。基材上の反応領域がスキャナの単一画素よりも大きくなるように、スキャナの解像度が十分でなければならない。スキャナは、アッセイにより生じた検出可能な変化が基材を背景として観察可能であれば任意の基材を用いて使用可能である(例えば、銀染色によって形成されるようなグレイスポットは、白色の背景に対しては観察可能であるが、灰色の背景に対しては観察できない)。スキャナは、白黒スキャナでよいが、カラースキャナが好ましい。
【0064】
スキャナは、書類をスキャンしてコンピュータに取り込むのに用いられるタイプの標準的カラースキャナであることが、最も好ましい。かかるスキャナは、安価で容易に入手可能である。例えば、エプソン(Epson )のExpression 636( 600×600dpi)、ユーマックス(UMAX)のAstra 1200( 300×300dpi)、またはマイクロテック(Microtec)のMicrotec 1600( 1600×1600dpi)が使用され得る。スキャナは、基材をスキャンすることにより得られた画像を加工するソフトウエアがロードされたコンピュータに連結される。ソフトウエアは、容易に入手可能な標準的なソフトウエア、例えば、アドビ(Adobe )のPhotoshop(登録商標)5.2およびコレル(Corel )のPhotopaint(登録商標)8.0でよい。このソフトウエアを用いてグレイスケールの測定値を計算することによって、アッセイの結果を定量する手段が提供される。
【0065】
また、上記ソフトウエアは、着色したスポットについて色数を提供することができ、スキャン画像(例えば、プリントアウト)を作成することができるが、この画像を精査して、核酸の存在の定性的測定、核酸の定量、またはその両方を実施することが可能である。加えて、アッセイの感度は、正の結果を示す色彩から負の結果を示す色彩を差し引くことにより増強できることが見出されている。
【0066】
コンピュータは、容易に入手可能な市販の標準的個人用コンピュータでよい。従って、標準的なソフトウエアがロードされた標準的なコンピュータに連結された標準的なスキャナを用いて、アッセイを基材上で行う場合に核酸を検出および定量する簡便かつ容易かつ安価な手段が提供され得る。また、スキャン結果を、さらなる参照用または利用用に結果の記録を保存するためにコンピュータ内に保存することもできる。勿論、所望により、より高性能の機器およびソフトウエアを使用してもよい。
【0067】
銀染色は、銀の還元を触媒する任意のタイプのナノ粒子とともに用いることができる。好ましくは、貴金属(例えば、金および銀)から作られるナノ粒子である(Bassell, et al., J. Cell Biol., 126, 863-876 (1994); Braun-Howland et al., Biotechniques, 13, 928-931 (1992)を参照のこと)。核酸の検出に用いられるナノ粒子が銀の還元を触媒しない場合には、銀イオンを核酸と複合体形成させて還元を触媒することができる(Braun et al., Nature, 391, 775 (1998) を参照のこと)。銀染色は、核酸上のリン酸基と反応できることも知られている。
【0068】
前記したアッセイなどの基材上で行われる任意のアッセイにおいて、検出可能な変化を生成または増強するために銀染色を用いることができる。特に、銀染色は、1つのタイプのナノ粒子を用いるアッセイに関して感度を顕著に増強することが見出されており、ナノ粒子の層、凝集体プローブ、およびコアプローブを使用せずにすむことが多い。
【0069】
別の実施形態において、基材に結合したオリゴヌクレオチドを2つの電極の間に配置し、ナノ粒子を電気伝導体である材料から作製し、かつ本発明の方法のステップ(d)に、電導性の変化を検出する工程を含めることができる。さらに別の実施形態では、それぞれ異なる標的核酸配列を認識することができる複数のオリゴヌクレオチドを基材上にスポットのアレイ状に結合させ、オリゴヌクレオチドのスポットそれぞれを2つの電極の間に配置し、ナノ粒子を電気伝導体である材料から作製し、かつ本発明の方法のステップ(d)に、電導性の変化を検出する工程を含める。電極は例えば金製でもよく、ナノ粒子は金製である。あるいは、電導性の変化を生じるように、基材を銀染色剤と接触させてもよい。
【0070】
本発明の別の実施態様において、試料中の遺伝子発現を検出または定量するキットを提供する。該試料は、1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的核酸を有すると考えられ、各タイプの標的核酸は、ポリdT、ポリdAオリゴヌクレオチドの末端部、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドを含む。前記キットは、標的核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材と、ポリdTオリゴヌクレオチド、ポリdAオリゴヌクレオチド、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドが結合した1つまたは複数のタイプのナノ粒子とを含む。
【0071】
[実施例]
以下の具体的な実施例により本発明をさらに説明する。実施例を実例により示すが、実施例は本発明をどのようにも制限するものではない。実施例において、全ての割合(%)は、固体に関しては重量で、液体に関しては容量で示し、全ての温度は別途記載のない限り摂氏温度である。
【実施例1】
【0072】
[ナノ粒子プローブを用いて標識を使用せずに遺伝子発現を検出するための一工程および二工程のハイブリダイゼーション法]
標的RNA配列を検出するためのナノ粒子−オリゴヌクレオチドプローブを、1997年7月21日に出願された国際特許出願第PCT/US97/12783号、2000年6月26日に出願された同第PCT/US00/17507号、および2001年1月12日に出願された同第PCT/US01/01190号(参照により全体が本明細書に援用される)に開示されている手法を用いて調製した。オリゴヌクレオチドが結合した万能金ナノ粒子プローブを、アンチセンス捕捉プローブオリゴヌクレオチドを有するDNAマイクロアレイを用いた種々の標的RNA標的の検出に用いた。ナノ粒子(例えば、15nmの金粒子)を、ジスルフィド結合を介して、ポリdTオリゴヌクレオチド(6量体〜100量体)もしくはポリdAオリゴヌクレオチド(6量体〜100量体)、または固有のオリゴヌクレオチド(6量体〜100量体)で機能化させる。ポリdTもしくはポリdAまたは固有のオリゴヌクレオチドで修飾された金粒子を、実施例2で示す標識不要の発現解析用の万能プローブとした。ナノ粒子に結合させたオリゴヌクレオチドの配列は、RNA標的の配列の一部(例えば、ポリA末端)と相補的である。一方、アレイガラスチップに結合している捕捉オリゴヌクレオチド配列は、標的配列の別の部分と相補的である。ハイブリダイゼーション条件のもと、ナノ粒子プローブ、捕捉プローブ、および標的配列が結合して複合体を形成する。得られた複合体のシグナル検出は、従来の銀染色により増強可能である。
【0073】
A:材料と方法
(a)金ナノ粒子の調製
金コロイド(直径15nm)を、Frens, 1973, Nature Phys. Sci., 241:20およびGrabar, 1995, Anal. Chem. 67:735に記載されているように、クエン酸塩でHAuClを還元することにより調製した。簡潔に述べると、全てのガラス器具を、王水(HClを3部とHNOを1部)中で洗浄し、ナノピュア(登録商標)HOですすぎ、使用前にオーブンで乾燥させた。HAuClおよびクエン酸ナトリウムをアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company) から購入した。HAuCl水(1mM、500mL)を攪拌しながら還流させた。次いで、38.8mMクエン酸ナトリウム(50mL)を素早く加えた。溶液の色は淡黄色から赤紫色に変化し、還流を15分間続けた。室温に冷却した後、この赤色の溶液を1ミクロンのフィルター(ミクロン・セパレーション・インコーポレイテッド(Micron Separations Inc.))でろ過した。ヒューレット・パッカード(Hewlett Packard )の8452Aダイオードアレイ分析分光光度計を用いた紫外‐可視分光法、ならびに日立(Hitachi )の8100透過型電子顕微鏡を用いた透過型電子顕微鏡法(TEM)により、Auコロイドを特徴付けた。10〜35ヌクレオチドの範囲の標的およびプローブオリゴヌクレオチド配列と会合する場合、直径15nmの金粒子は、可視的な色の変化を生じるであろう。
【0074】
(b)オリゴヌクレオチドの合成
標的RNAの一部と相補的な捕捉プローブオリゴヌクレオチドをホスホロアミダイト化学法[エクスタイン(Ecksterin, F. )編、Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach (IRL Press, Oxford, 1991)] により単一カラム式でABI8909DNA合成機を用いて1マイクロモル規模で合成した。この捕捉配列には、アレイ作製時に共有結合するための活性基として作用するいずれかの3’−アミノ修飾基を含めた。オリゴヌクレオチドは、DNA合成に関する以下の標準的なプロトコルにより合成した。固体支持体に結合した3’−アミノ修飾基を有するカラム、標準的なヌクレオチドホスホロアミダイト、および試薬をグレンリサーチ社(Glen Research )から入手した。最後のジメトキシトリチル(DMT)保護基は、精製しやすくするためにオリゴヌクレオチドから切断しなかった。合成後、DNAをアンモニア水で固体支持体から切断し、3’−末端に遊離アミンを含有するDNA分子が生成された。逆相カラム(バイダック(Vydac ))を装着したアジレント(Agilent )の1100シリーズ機器を用いて、0.03M EtNHOAc緩衝液(TEAA)、pH7と、95%CHCN/5%TEAAの1%/分の勾配を用いて、逆相HPLCを行った。流速を1mL/分とし、260nmのUV検出を実施した。緩衝液を回収および蒸発させた後、80%の酢酸で室温にて30分間処理することによりDMTをオリゴヌクレオチドから切断した。次に、溶液をほぼ乾固するまで蒸発させ、水を加え、オリゴヌクレオチド水溶液から切断されたDMTを酢酸エチルで抽出した。オリゴヌクレオチド量を260nmでの吸光度によって測定し、最終純度を逆相HPLC分析により評価した。
【0075】
図面を示すために用いた捕捉配列は以下の通りである:
(図1)
捕捉オリゴはArrayControl Sense oligo Spots(商品名)1‐8とした(配列不明:米国テキサス州オースティン所在のアンビオン(Ambion)、カタログ番号1781)
(図2)
捕捉オリゴはArrayControl Sense oligo Spots(商品名)1‐8とした(配列不明:米国テキサス州オースティン所在のアンビオン(Ambion)、カタログ番号1781)
(図3)
捕捉オリゴはArrayControl Sense oligo Spots(商品名
)1‐8とした(配列不明:米国テキサス州オースティン所在のアンビオン(Ambion)、カタログ番号1781)
(図4)
捕捉オリゴはArrayControl Sense oligo Spots(商品名)1‐8とした(配列不明:米国テキサス州オースティン所在のアンビオン(Ambion)、カタログ番号1781)
【0076】
【化1】






(図9)
捕捉オリゴはArrayControl Sense oligo Spots(商品名)1‐8とした(配列不明:米国テキサス州オースティン所在のアンビオン(Ambion)、カタログ番号1781)
標的RNA配列の検出用に設計された検出プローブオリゴヌクレオチドは、5’末端のステロイドジスルフィドリンカーとその後に続く認識配列を含む。該プローブに関する配列を以下に示す。
【0077】
【化2】

(Sはエピアンドロステロンジスルフィド基を介して作製された接続ユニットを示す)。
【0078】
検出プローブオリゴヌクレオチドの合成は、以下の修飾を用いて捕捉プローブについて述べた方法に従った。第一に、アミノ修飾カラムの代わりに、認識配列の3’末端を反映する適切なヌクレオチドを有する支持体を用いた。第二に、5’末端ステロイド環状ジスルフィドをステロイドジスルフィド(レシンガー(Letsinger )等、2000年、Bioconjugate Chem. 11:289-291 および国際特許出願第PCT/US01/01190号(ナノスフェアー インコーポレイテッド)を参照のこと。同文献の開示は、参照により全体が本明細書に援用される)を含有する修飾ホスホロアミダイトを用いてカップリング工程で導入した。ホスホロアミダイト試薬は以下のように調製されてもよい:エピアンドロステロン(0.5g)、1,2‐ジチアン‐4,5‐ジオール(0.28g)、およびp‐トルエンスルホン酸(15mg)のトルエン(30mL)溶液を、水を除去する条件のもと(ディーン・スターク装置)7時間還流し;その後、トルエンを減圧下で除去し、残留物を酢酸エチルに溶解した。この溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮してシロップ状の残留物とした。この残留物をペンタン/エーテル中に一晩放置し、白色固体のステロイド‐ジチオケタール化合物(400mg)を産出させた;Rf(TLC、シリカのプレート、溶出液としてエーテル)は0.5;比較のため、同条件のもとで得られたエピアンドロステロンのRf値、および1,2‐ジチアン‐4,5‐ジオールのRf値は、それぞれ0.4および0.3である。ペンタン/エーテルから再結晶化して白色粉末を産出させた。該白色粉末は、mp 110−112℃;H NMR、δ3.6(1H、COH)、3.54−3.39(2H、m 2OCHジチアミン環)、3.2−3.0(
4H、m 2CHS)、2.1−0.7(29H、m ステロイドH);マススペクトル(ES)はC2336(M+H)の計算値425.2179、測定値425.2151であった。分析(C2337)S:計算値15.12;測定値15.26。ステロイドジスルフィドケタールホスホロアミダイト誘導体を調製するため、ステロイド‐ジチオケタール(100mg)をTHF(3mL)に溶解し、ドライアイスアルコール浴中で冷却した。N,N−ジイソプロピルエチルアミン(80μL)およびβ‐シアノエチルクロロジイソプロピルホスホロアミダイト(80μL)を続けて加えた;その後、混合液を室温に暖め、2時間攪拌し、酢酸エチル(100mL)を混ぜ、5%NaHCO水溶液および水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮乾固した。残留物を最小量のジクロロメタンに溶解し、ヘキサンを添加して−70℃で析出させ、真空中で乾固させた(収量100mg;31P NMR146.02)。DNA合成の完了後、アンモニア水条件下でエピアンドロステロン‐ジスルフィドが結合したオリゴヌクレオチドを支持体から脱保護し、前記したような逆相カラムを用いてHPLCで精製した。
【0079】
(c)オリゴヌクレオチドの金ナノ粒子への連結
最初に、オリゴヌクレオチド溶液4μMを、15nmクエン酸で安定させた金ナノ粒子コロイド溶液の約14nMの溶液とともに最終容量2mLで24時間インキュベートすることによりプローブを調製した。この調製における塩濃度を、室温で40時間にわたって徐々に0.8Mに上昇させた。得られた溶液を0.2μm酢酸セルロースフィルターに通し、13,000Gで20分間遠心してナノ粒子プローブをペレットにした。上精を除去した後、ペレットを水中で再懸濁させた。最終段階で、プローブ溶液を再度ペレットにし、プローブ保存緩衝液(10mMリン酸、100mM NaCl、0.01%(w/v)NaN)中に再懸濁させた。520nmでの吸光度(ε=2.4×10−1cm−1)を基にした濃度を概算した後、濃度を10nMに調整した。
【0080】
【化3】

(S’はエピアンドロステロンジスルフィド基を介して調製された連結ユニットを示す)。
【0081】
(d)DNAマイクロアレイの調製
GMS417アレイヤー(アフィメトリクス(Affymetrix))を用いて、CodeLink(商標)スライド(アマシャム・インコーポレイテッド(Amersham, Inc.))上に捕捉鎖をアレイ状に配置(アレイ化)した。アレイ化されるスポットの位置は各スライド上で複数のハイブリダイゼーション実験が可能なように設計され、このことはシリコーンガスケット(グレイスバイオラボ(Grace Biolabs ))によりスライドを区切って別個の試験ウェルを作製することにより達成された。スポットは、製造業者が提供するスポット用緩衝液中にて三連でスポット作製した。製造業者によって推奨されるプロトコルに従ってアレイ作製後のスライドの処理を実施した。
【0082】
(e)ハイブリダイゼーションアッセイ条件
アッセイでは、RNA標的(標識されていない全RNAまたはmRNA)を、アンチセンス捕捉オリゴヌクレオチドを結合させたアレイにハイブリダイズさせる。ポリdTで修飾した金粒子を、mRNA分子のポリA末端にハイブリダイズさせる。あるいは、RNA標的を、ポリdTプライマーまたはキメラオリゴヌクレオチドプライマー(ランダムプライマー(またはポリdTプライマー)と固有のオリゴヌクレオチドに相補的な配列とを備える)を用いてcDNAに変換させ、その後センス捕捉オリゴヌクレオチドを結合させたアレイにハイブリダイズさせてもよい。ポリdAで修飾された金粒子は、cDNAのポリdT末端にハイブリダイズし、万能プローブとして作用することになる。別例として、固有のオリゴヌクレオチドで修飾された金粒子は、cDNAの相補的な末端部にハイブリダ
イズし、万能プローブとして作用することになる。サンドイッチアッセイを一工程のハイブリダイゼーション(すなわち、RNA標的およびオリゴ修飾されたナノ粒子を共に混合してアレイにハイブリダイズさせる)または二工程のハイブリダイゼーションアッセイ(すなわち、RNA標的を最初にアレイにハイブリダイズさせ、続いてナノ粒子プローブで2回目のハイブリダイゼーション工程を実施する)において、行うことができる。ハイブリダイゼーションおよび結合していないナノ粒子プローブの除去後、結合したナノ粒子プローブを銀で増幅させ、ハイブリダイゼーションシグナルを光分散の検出により得る。この以下の実施例および実施例2に示す蛍光標識を用いた検出法との比較検討において、シグナルのダイナミックレンジ、アッセイの特異性および感度、ならびに標的濃度とシグナル強度との相関などのパラメータを調べ、万能ナノ粒子プローブを用いた標識不要の遺伝子発現解析の性能を評価する。
【0083】
B:標識不要の遺伝子発現検出に関する万能ナノ粒子プローブの実現可能性の検討
標識不要の遺伝子発現解析に万能ナノ粒子プローブを適用することについて実現可能性を示すために、試験アレイを設計した。6つの遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(アミノ修飾、70量体)を米国テキサス州オースティン所在のアンビオン社(Ambion)から購入し、上述のA項で述べたようにCodeLink(商標)ガラススライド上に三連で結合させた。RNA1−6をアンビオン社から購入した(カタログ番号1780、Array
Control RNA Spikes(商品名)1−8)。配列は不明である。
【0084】
15nm金ナノ粒子をポリdA(20量体)(5’−aaaaaaaaaaaaaaaaaaaa−3’)で機能化させた。蛍光シグナルと万能ナノ粒子プローブのシグナルとを比較するために、上記の6つのRNA標的(それぞれ長さ約1Kb長でありそれぞれ30量体のポリA末端を含有する)を、アマシャム社(Amersham)(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ所在)から購入したCy3(登録商標)またはCy5(登録商標)で標識されたヌクレオチドの存在下、該製造業者により薦められた手順を用いて、ポリdTプライマー(18量体)で逆転写した。逆転写は、標的の濃度勾配を作製するために、様々な量の6つのRNA標的を混合することによって実行した。例えば、あるチューブでは、100ng RNA−1、10ng RNA−2、10ng RNA−3、1ng RNA−4、0.1ng RNA−5、0ng RNA−6を共に混合し、Cy3で標識した。別のチューブでは、0.1ng RNA−1、1ng RNA−2、10ng RNA−3、10ng RNA−4、100ng RNA−5、0ng RNA−6を共に混合し、Cy5で標識した。各チューブの精製かつ標識された標的を、最終容量50μlに希釈した。
【0085】
1.標的RNAのハイブリダイゼーションに対するナノ粒子プローブの影響
標的のハイブリダイゼーションに対するナノ粒子プローブの存在の影響について試験するため、Cy3で標識した標的物を、ナノ粒子ポリdAプローブの存在下または非存在下で、試験アレイにハイブリダイズさせた。遺伝子特異的RNA標的および対応する捕捉オリゴをアンビオン社から購入した(配列情報は不明) 。捕捉オリゴ(30μM)をCodeLinkスライド上にスポットした。Cys3で標識したcDNA標的を、30%ホルムアミド、5×SSC、および0.05%Tween20を含有する混合液中で、40℃にて1時間、オリゴdA(20量体)金粒子プローブの存在下または非存在下で、一工程のハイブリダイゼーションによりハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNO3および0.05%Tween20中で室温にて2分間洗浄し(2回)、2×SSC中で室温にて2分間洗浄し、その後、0.5×SSC中で0秒間洗浄した。スライドの遠心乾燥後、画像化装置arrayWoRX(登録商標)(型番号:e、アプライド・プレンジョン・インコーポレイテッド(Applied Precision, Inc. )(米国ワシントン州イサクアー所在)を用いて、Cy3チャネルでスライドを撮像した。
【0086】
ハイブリダイゼーション後、両条件(ナノ粒子存在下または非存在下)においてCy3シグナルが同様であることが見出された。このことは、標的のハイブリダイゼーションに対するナノ粒子プローブの不都合な阻害作用はないことを示している(図1)。これらの結果から、ナノ粒子プローブを用いて一工程のサンドイッチハイブリダイゼーションを行うことができることも示唆される。
【0087】
2.ナノ粒子標識および蛍光標識の感度の比較
感度を比較するため、アレイ上の各スポットについて、標的およびナノ粒子プローブとのハイブリダイゼーション後、Cy3シグナルおよびナノ粒子(散乱)シグナルの両方を測定した。一工程および二工程のハイブリダイゼーションアッセイを用いた。
【0088】
一工程のハイブリダイゼーションアッセイでは、Cy3で標識したcDNA標的およびオリゴマーdA(20量体)金ナノ粒子ブローブを、30%ホルムアミド、5×SSC、および0.05%Tween20を含有する混合液中で、40℃にて1時間、マイクロアレイプレート上に同時にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNOおよび0.05%Tween20中で、室温にて2分間洗浄し(2回)、2×SSC中で室温にて2分間洗浄し、その後、0.5×SSC中で10秒間洗浄した。遠心乾燥後、ArrayWork(商標)を用いてCy3チャネルでスライドを撮像した。スライドをさらに0.5M NaNOで洗浄し、その後、銀染色して散乱シグナルを得た。
【0089】
二工程のハイブリダイゼーションでは、Cy3で標識したcDNA標的を、30%ホルムアミド、5×SSC、および0.05%Tween20を含有する混合液中で、40℃にて1時間、マイクロアレイプレート上にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNOおよび0.05%Tween20中で、室温で2分間洗浄し(2回)、2×SSC中で室温にて2分間洗浄し、その後、0.5×SSC中で10秒間洗浄した。遠心乾燥後、ArrayWorkを用いてCy3チャネルでスライドを撮像した。その後、スライドを、30%ホルムアミド、5×SSC、および0.05%Tween20を含有する混合液中で、40℃にて45分間、オリゴdA(20量体)金粒子プローブとハイブリダイズさせた。プローブハイブリダイゼーション工程の後、スライドを、0.5M NaNOおよび0.05%Tween20中で、室温にて2分間洗浄し(2回)、その後スライドを銀染色して散乱シグナルを得た。ナノ粒子の散乱シグナルを、arrayWoRx(登録商標)装置(型番号:e、アプライド・プレンジョン・インコーポレイテッド)を用いて撮像した。正味のシグナル(原シグナル−局所バックグラウンド)のバックグラウンドに対する比は、ハイブリダイゼーションの形式、すなわち、一工程または二工程のハイブリダイゼーションとは無関係に、対応するCy3蛍光シグナルよりもナノ粒子プローブについて30〜50倍大きいことがわかった(図2)。
【0090】
3.標的濃度とナノ粒子シグナルの相関の測定
万能プローブのハイブリダイゼーションは非常に特異的であり、標的濃度とナノ粒子シグナルとの間で3log範囲を超えて線形相関が観察された。万能ナノ粒子プローブの存在下で、3枚のスライドを2.5μl、5μl、または10μlのCy3標識した標的混合物とハイブリダイズさせることにより、標的漸増実験を行った。遺伝子特異的RNA標的および対応する捕捉オリゴをアンビオン社から購入した(配列情報は入手不可) 。捕捉オリゴ(30μM)をCodeLinkスライド上にスポットした。
【0091】
一工程のハイブリダイゼーションアッセイでは、RNA標的を、図3(A)に示すように様々な濃度で混合し、Cy3で標識した。Cy3標識したcDNA標的およびオリゴマーdA(20量体)金ナノ粒子プローブを、30%ホルムアミド、5×SSC、および0.05%Tween20を含有する混合液中で、40℃にて1時間、マイクロアレイプレ
ート上で同時にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNO3および0.05%Tween20中で、室温にて2分間洗浄し(2回)、2×SSC中で室温にて2分間洗浄し、その後、0.5×SSC中で10秒間洗浄した。遠心乾燥後、arrayWoRx機器を用いて、Cy3チャネルでスライドを撮像した。スライドをさらに0.5M NaNO3で洗浄し、その後、銀染色して散乱シグナルを得た。
【0092】
図3のAおよびBに示すように、観察された散乱シグナルは標的濃度と相関する。第一に、陰性対照の遺伝子(遺伝子6、ハイブリダイゼーション混合物に標的を添加していない)には、検出可能なハイブリダイゼーションシグナルは存在せず、このことはハイブリダイゼーションの特異性を示している。全てのスポット(3枚のスライド)に関して散乱シグナルをプロットすると、標的濃度とナノ粒子濃度との間の線形相関を3log範囲を超えて示すことができる(図3、B)。この結果は、遺伝子発現の検出にナノ粒子を用いることの実現可能性を実証している。
【0093】
散乱(ナノ粒子)シグナルと蛍光シグナルとの間で良好な相関が観察された。遺伝子特異的RNA標的および対応する捕捉オリゴを、アンビオン社から購入した(配列情報は入手不可) 。捕捉オリゴ(30μM)をCodeLinkスライド上にスポットした。一工程のハイブリダイゼーションでは、RNAを図3(A)に示すように様々な濃度で混合し、その後Cy3で標識した。Cy3標識したcDNA標的およびオリゴdA(20量体)金粒子プローブを、30%ホルムアミド、5×SSC、および0.05%Tween20を含有する混合液中で、40℃にて1時間、マイクロアレイ上で同時にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNO3および0.05%Tween20中で室温にて2分間洗浄し(2回)、2×SSC中で室温にて2分間洗浄し、その後、0.5×SSC中で10秒間洗浄した。遠心乾燥後、ArrayWorkを用いて、Cy3チャネルでスライドを撮像した。スライドをさらに0.5M NaNO3で洗浄し、その後、銀染色して散乱シグナルを得た。
【0094】
図4(A)に、ナノ粒子シグナルとCy3蛍光シグナルとの間の、3logを超える標的濃度範囲にわたる線形相関を示す。しかし、散乱シグナルのバックグラウンドに対するシグナル比は、全ての標的濃度において、Cy3蛍光シグナルのバックグラウンドに対するシグナル比より10〜40倍高く(図4、B)、このアッセイ系におけるナノ粒子標識の感度が高いことを示している。
【実施例2】
【0095】
[万能ナノ粒子プローブを用いた標識不要のヒト遺伝子発現解析]
実施例1に記載の手順および材料を用いて、標識不要のヒト遺伝子発現解析に関して万能ナノ粒子プローブを適用することの実現可能性について実験するために、ヒト試験アレイを設計した。14種のヒト遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(アミノ修飾された70量体)を米国テキサス州所在のミッドランド(Midland )から購入し、Codelinkガラススライド上に100μMで結合させた。15nm金粒子をポリdT(20量体)で機能化させた。しかし、このプローブと捕捉オリゴヌクレオチドとの結合が一部の捕捉オリゴヌクレオチド(例えば、ヒトβアクチン)で認められた。ハイブリダイゼーション条件は以下の通りである。2つの捕捉オリゴ(βアクチンとXX)を、Codelinkスライド上にスポットした。オリゴdT(20量体)金粒子プローブ(1nM)を、20%〜40%ホルムアミド、4×SSC、および0.04%TWEEN20を含有する混合液中で、40℃にて30分間、マイクロアレイプレート上に加えた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNOおよび0.05%TWEEN20中で、室温にて2分間洗浄し(4回)、0.5M NaNO中で室温にて2分間洗浄した(2回)。スライドを銀染色し(5.5分間)、散乱シグナルを得た。
【0096】
ナノ粒子プローブと捕捉オリゴヌクレオチドとの相互作用により、擬陽性のシグナルが生じて遺伝子発現プロファイリングの精度に影響を及ぼす可能性がある。プローブと捕捉オリゴヌクレオチドとの相互作用を回避するために、ヒトβアクチン捕捉オリゴマーをCodelinkスライド(アマシャム)上に様々な濃度(100μM、10μM、1μM、および0.5μM)で結合させた。オリゴdT(20量体)で修飾した金ナノ粒子とともにインキュベーションした後、捕捉オリゴ濃度が低下するに従ってプローブと捕捉オリゴとの相互作用は著しく低減することがわかった(図5)。また、非特異的シグナルの低減は、核酸二本鎖のTMを低下させるハイブリダイゼーション混合物中のホルムアミド量の増加にも伴って認められる。
【0097】
ヒト試験アレイ(アミノ修飾された50量体)を、様々なオリゴ濃度(1μM、3μM、および9μM)で、CodeLinkガラススライド上に作製した。該ヒト試験アレイを、全ヒトRNA試料、または対照としてRNAを含まない試料とハイブリダイズさせた後、オリゴdT(20量体)で修飾した金ナノ粒子とハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液において、界面活性剤(SDSおよびTween20)の組み合わせを取り入れた。3つ全ての捕捉オリゴ濃度についてプローブと捕捉オリゴとの相互作用は認められなかった(図6、A)。実験の条件は、以下の通りとした。捕捉オリゴをCodeLinkスライド上にスポットした。オリゴdT(20量体)金粒子プローブ(1nM)を、20%〜40%ホルムアミド、4×SSC、0.04%Tween、および0.02%SDSを含有する混合液中で、40℃にて30分間、マイクロアレイ上に加えた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNO/0.02%Tween/0.01%SDS中で、室温にて洗浄し(3回)、0.5M NaNO中で洗浄した(2回)。スライドを銀染色し(5.5分間)、散乱シグナルを得た。非特異的結合は低いホルムアミド濃度でも認められなかった。
【0098】
加えて、ヒト全RNAのハイブリダイゼーションから、シグナル強度は全3つの捕捉オリゴ濃度に関して同程度であることが示された(図6、B)。捕捉オリゴをCodeLinkスライド上にスポットした。標準的ヒト全RNA1μgを、30%〜50%ホルムアミド、4×SSC、0.04%Tween、および0.02%SDSを含有する混合液中で、40℃にて2時間、マイクロアレイ上でハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを0.5M NaNO/0.02%Tween/0.01%SDS中で室温にて洗浄し(3回)、0.2×SSC中で10秒間洗浄し(2回)、遠心乾燥した。アレイを、さらに、20%〜40%ホルムアミド、4×SSC、0.04%Tween、および0.02%SDSを含有する混合液中で、40℃にて30分間、1nM dT(20量体)金ナノ粒子プローブとハイブリダイズさせた。アレイを、0.5M NaNO/0.02%Tween/0.01%SDS中で室温にて洗浄し(3回)、0.5M NaNO中で洗浄した(2回)。スライドを銀染色し(5.5分間)、散乱シグナルを得た。
【0099】
次いで、ハイブリダイゼーションにおける様々な界面活性剤の組み合わせの作用について試験した。Tween20濃度を固定して(ハイブリダイゼーション混合物中0.04%)、ヒト試験アレイを標準的ヒト全RNA(total human universal reference RNA(商品名)、BDバイオサイエンスクロンテック(BD
Bioscience Clontech) )0.1μgとハイブリダイズさせ、SDS濃度を0.001%〜0.01%まで漸増させた。SDS濃度が0.001%〜0.02%まで高くなるに従って、ハイブリダイゼーションシグナルは強くなった(図7)。実験の条件は、以下の通りとした。捕捉オリゴ(1μM、3μM、および9μM)をCodeLinkスライド上にスポットした。標準的ヒト全RNA0.1μgを、50%ホルムアミド、4×SSC、0.04%Tween、および記載したように様々なSDS濃度を有する混合液5μl中で、40℃にて1.5時間、マイクロアレイ上でハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼ
ーション後、アレイを0.5M NaNO/0.02%Tween/0.001%SDS中で室温にて洗浄し(3回)、0.2×SSC中で10秒間洗浄し(2回)、遠心乾燥させた。アレイを、さらに、30%ホルムアミド、4×SSC、0.04%Tween、および記載したように様々なSDS濃度を有する混合液中で、40℃にて30分間、1nMのdT(20量体)金ナノ粒子プローブとハイブリダイズさせた。アレイを、0.5M
NaNO/0.02%Tween/0.001%SDS中で室温にて洗浄し(3回)、0.5M NaNO中で洗浄した(2回)。スライドを銀染色し(5.5分間)、散乱シグナルを得た。ハイブリダイゼーションシグナルが増加したのは、RNA標的のスライド表面への非特異的結合が減少した結果、ハイブリダイゼーション動態が改善されたことによるのかもしれない。
【0100】
改善されたアッセイ条件のもと、蛍光を使用する検出および金ナノ粒子を使用する検出の感度を、ヒト遺伝子試験アレイを用いて比較した。金粒子プローブで直接mRNAを検出するためのヒトβアクチンのアンチセンスオリゴヌクレオチド、およびCy3で標識したcDNAを検出するためのヒトβアクチンのセンスオリゴヌクレオチドの両方を用いてヒト試験アレイを作製した。ヒト全RNAをCy3標識したdCTPの存在下で逆転写し、得られたcDNAをヒト捕捉マイクロアレイにハイブリダイズさせたが、ハイブリダイゼーション条件は、ヒト脳の全RNAを直接ハイブリダイズするため(ナノ粒子検出用)に用いたのと同じ条件とした。感度を比較するため、ヒト脳の全RNA(BDバイオサイエンスクロンテック)または逆転写したcDNA試料の量を、各ウェルに対して50ng〜0.05ngまで漸減させた。2時間のハイブリダイゼーションでは、βアクチンのスポットにおける特異的なハイブリダイゼーションシグナルが、ナノ粒子検出を用いたヒト全RNA0.5ngおよび蛍光検出を用いたCy3標識cDNA50ngにおいて認められた(図8、A)。5μlの反応液中に46%FM、4×SSC/0.04%TW20、および0.01%SDSの存在下で、2時間の標的ハイブリダイゼーションを行った。スライドを、0.5N NaNO/0.02%TW20/0.01%SDSで3回洗浄し、0.2×SSCで2回洗浄した後、プローブのハイブリダイゼーション(32%FM、4×SSC/0.04%TW20/0.005%SDS)を25分間行った。スライドを、再び、0.5N NaNO/0.02%TW20/0.005%SDSで3回洗浄し、0.5N NaNOで2回洗浄した後、銀で現像して光散乱検出を行った。
【0101】
一晩のハイブリダイゼーションでは、βアクチンスポット上の特異的なハイブリダイゼーションシグナルが、ナノ粒子検出を用いたヒト全RNA0.2ngおよび蛍光検出を用いたCy3標識cDNA5ngにおいて認められた(図8、B)。5μlの反応液中に46%FM、4×SSC/0.04%TW20、および0.01%SDSの存在下で、一晩の標的ハイブリダイゼーションを行った。スライドを、0.5N NaNO/0.02%TW20/0.01%SDSで3回洗浄し、0.2×SSCで2回洗浄した後、プローブのハイブリダイゼーション(32%FM、4×SSC/0.04%TW20/0.005%SDS)を25分間行った。スライドを、再び、0.5N NaNO/0.02%TW20/0.005%SDSで3回洗浄し、0.5N NaNOで2回洗浄した後、銀で現像して光散乱検出を行った。
【0102】
これらの結果から、ヒトRNAの検出法において、ナノ粒子検出の感度は、蛍光検出の感度より25〜100倍高いことが示された。
RNA検出の感度を調べ、シグナル強度とmRNAコピー数との相関を立証するために、改善したアッセイ条件で、細菌の対照RNAを漸増させた。対照のRNAスパイク4(1,000塩基、in vitro転写物、アンビオン社カタログ番号1780のArrayControl(商標)RNA Spikes(商品名))を、ヒト全RNA混合物に、0.5pg/ハイブリダイゼーション〜0.5fg/ハイブリダイゼーションに希釈して含有させた。ハイブリダイゼーションの結果から、一晩のハイブリダイゼーションで
は5〜50fgのmRNA(10,000〜100,000コピーに相当)、2時間のハイブリダイゼーションでは50〜500fg(100,000〜1,000,000に相当)の低い検出限界が示された(図9)。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】一工程のハイブリダイゼーション条件において、試験アレイ基材を用いた、ポリdA(20量体)で機能化された万能金ナノ粒子の存在下または非存在下における、蛍光Cy3標識されたRNA標的の検出を示す図(パートA)。いずれの条件においてもCy3シグナルは同様であり、標的のハイブリダイゼーションに対するナノ粒子プローブの悪影響は無いことが裏付けられている。
【図2】(パートA)一工程または二工程のハイブリダイゼーション条件下での、標的および万能ナノ粒子プローブとのハイブリダイゼーション後の、アレイ上の各スポットについてのCys3シグナルおよびナノ粒子の散乱シグナルを測定することによる、蛍光Cy3標識されたRNA標的の検出を示す図。(パートB)一工程または二工程のハイブリダイゼーション方式のどちらが使われるかに関わらず、ナノ粒子プローブの存在下のほうが非存在下よりもCysシグナルが大きいことが見出されたことを示す。
【図3】(A)観察されたナノ粒子の散乱シグナルと標的濃度との間の線形相関を示す図。対照(標的を添加していない)では、検出可能な散乱シグナルは観察されなかった。(B)ナノ粒子の散乱シグナルが直線状にプロットされること見出され、標的濃度とナノ粒子濃度との間の線形相関と、遺伝子発現を検出するためのナノ粒子の使用の実現可能性とが示されている。
【図4】(A)3logを超える標的濃度範囲についてナノ粒子の散乱シグナルとCy3蛍光シグナルとが線形相関することを示す図。(B)散乱シグナルについてのシグナル対バックグラウンドノイズ比は、全ての標的濃度において、Cy3蛍光シグナルについてのシグナル対バックグラウンドノイズ比よりも10〜40倍高く、本アッセイ系においてナノ粒子標識の感度が高いことを示している。
【図5】様々な濃度でマイクロアレイ化されたヒト遺伝子特異的捕捉オリゴマーを用い、かつハイブリダイゼーション混合物中に様々な濃度のホルムアミドを用いた、標識不要のヒト遺伝子発現解析に対する、万能ナノ粒子プローブの適用の実現可能性を示す図。捕捉オリゴマーの濃度が低下すると、プローブと捕捉オリゴとの結合による阻害の低減が観察された。また、ホルムアミドの量が増加すると、非特異的シグナルの低下が観察された。
【図6】異なる捕捉オリゴマー濃度(1μM,3μM、および9μM)でアレイ化された試験アレイにおける、二工程のハイブリダイゼーションの結果を示す図。ヒト全RNAまたは対照(RNA無し)の試料をアレイにハイブリダイズさせた。3種全ての捕捉オリゴマー濃度に対して、プローブと捕捉オリゴとの相互作用は観察されなかった。また、ハイブリダイゼーション緩衝液中のホルムアミド濃度が低くても、非特異的結合は観察されなかった(A)。さらに、ヒトの全RNAをハイブリダイゼーションすると、3種全ての捕捉オリゴマー濃度についてシグナル強度が同程度であることが示された(B)。(C)は、(A)および(B)ならびに図7で示されたアレイのレイアウトを示す。
【図7】ハイブリダイゼーションにおける、様々なSDS界面活性剤濃度の効果を示す図。SDS濃度は0.001%〜0.1%まで漸増させた。SDS濃度が0.001%〜0.2%に高まるにつれて散乱シグナル(A)およびハイブリダイゼーションシグナル(B)が増大することが観察された。
【図8】ヒト遺伝子試験アレイを用いた、ヒトβアクチン遺伝子の、蛍光を用いた検出または金ナノ粒子を用いた検出の感度の比較を示す図。(A)2時間のハイブリダイゼーション、(B)一晩のハイブリダイゼーション。ヒトRNA検出アッセイにおいて、ナノ粒子を用いた検出は蛍光検出よりも25〜100倍高い感度であったことが示されている。
【図9】一晩または2時間のハイブリダイゼーション後の、RNAの検出感度、ならびにシグナル強度とmRNAコピー数との相関の測定について示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法であって、該試料は1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的核酸を有すると考えられ、各タイプの標的核酸はオリゴヌクレオチドの末端部を有し、該方法は、
標的核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と、
前記オリゴヌクレオチドの末端部の少なくとも一部と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子を提供する工程と、
試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程であって、該接触は、基材に結合した捕捉核酸配列への標的核酸のハイブリダイゼーションおよびナノ粒子への標的核酸のハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施されることを特徴とする工程と、
検出可能な変化を観察する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記標的核酸はRNAまたはDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的核酸はmRNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的核酸はcDNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドの末端部は、ポリdT、ポリdA、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドは、ポリdT、ポリdA、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチド含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料を最初に前記基材と接触させ、該接触は、前記標的核酸と前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に前記基材に結合した前記標的核酸をナノ粒子と接触させ、該接触は、前記基材に結合した前記標的核酸と前記ナノ粒子に結合したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記試料を最初に前記ナノ粒子と接触させ、該接触は、前記標的核酸と前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に前記ナノ粒子に結合した前記標的核酸を前記基材と接触させ、該接触は、前記ナノ粒子に結合した前記標的核酸と前記基材に結合した捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記標的核酸と、前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドおよび前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、前記試料、前記ナノ粒子、および前記基材を同時に接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ粒子は金製である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記検出可能な変化は、標的核酸およびナノ粒子を有する前記基材と染色材料とを接触させた後に観察される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記染色材料は銀染色剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法であって、該試料は1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的リボ核酸を有すると考えられ、各タイプの標的リボ核酸はポリdAオリゴヌクレオチドの末端部または所定の配列の合成オリゴヌクレオチドの末端部を有し、該方法は、
標的リボ核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的リボ核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工程と、
ポリdTオリゴヌクレオチドまたは前記オリゴヌクレオチドの末端部の配列と相補的な合成オリゴヌクレオチド配列が結合した、ナノ粒子を提供する工程と、
試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程であって、該接触は、前記基材に結合した前記捕捉核酸配列への前記標的リボ核酸のハイブリダイゼーションおよび前記ナノ粒子への前記標的リボ核酸のハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施されることを特徴とする工程と、
前記基材に結合したナノ粒子を染色材料と接触させて検出可能な変化を生じさせる工程と、
前記検出可能な変化を観察する工程と
を含む方法。
【請求項15】
前記試料を最初に前記基材と接触させ、該接触は、前記標的リボ核酸と前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に前記基材に結合した前記標的リボ核酸をナノ粒子と接触させ、該接触は、前記基材に結合した前記標的リボ核酸と前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記試料を最初に前記ナノ粒子と接触させ、該接触は、前記標的リボ核酸と前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に前記ナノ粒子に結合した前記標的リボ核酸を前記基材と接触させ、該接触は、前記ナノ粒子に結合した前記標的リボ核酸と前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記標的核酸と、前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドおよび前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、前記試料、前記ナノ粒子、および前記基材を同時に接触させる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子は金製である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記染色材料は銀染色剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
試料中の遺伝子発現を検出または定量する方法であって、該試料は1つまたは複数の異なるタイプの標的cDNAを有すると考えられ、各タイプの標的cDNAはポリdTオリゴヌクレオチドの末端部または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドの末端部を有し、該方法は、
標的リボ核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的リボ核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材を提供する工
程と、
ポリdAオリゴヌクレオチドまたは所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドが結合したナノ粒子を提供する工程と、
試料、基材、およびナノ粒子を接触させる工程であって、該接触は、前記基材に結合した前記捕捉核酸配列への前記標的cDNAのハイブリダイゼーションおよび前記ナノ粒子への前記標的cDNAのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施されることを特徴とする工程と、
前記基材に結合したナノ粒子を染色材料と接触させて検出可能な変化を生じさせる工程と、
前記検出可能な変化を観察する工程と
を含む方法。
【請求項22】
前記試料を最初に前記基材と接触させ、該接触は、前記標的cDNAと前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に前記基材に結合した前記標的cDNAをナノ粒子と接触させ、該接触は、前記基材に結合した前記標的cDNAと前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記試料を最初に前記ナノ粒子と接触させ、該接触は、前記標的cDNAと前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施され、次に前記ナノ粒子に結合した前記標的cDNAを前記基材と接触させ、該接触は、前記ナノ粒子に結合した前記標的cDNAと前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記標的cDNAと、前記ナノ粒子に結合した前記オリゴヌクレオチドおよび前記基材に結合した前記捕捉核酸配列とのハイブリダイゼーションに効果的な条件下で、前記標的cDNA、前記ナノ粒子、および前記基材を同時に接触させる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記ナノ粒子は金製である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記染色材料は銀染色剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
試料中の遺伝子発現を検出または定量するためのキットであって、該試料は1つまたは複数の異なるタイプの標識されていない標的核酸を有すると考えられ、各タイプの標的核酸はポリdT、ポリdAオリゴヌクレオチドの末端部または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドの末端部を含み、該キットは、
標的核酸の複数の部分の検出、複数の異なる標的核酸の検出、またはその両方を実施するための、複数のタイプの捕捉核酸配列がアレイ状に結合した基材、および
ポリdTオリゴヌクレオチド、ポリdAオリゴヌクレオチド、または所定の配列を有する合成オリゴヌクレオチドが結合した、1つまたは複数のタイプのナノ粒子
を備えるキット。
【請求項29】
前記ナノ粒子は金製である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記捕捉核酸配列は、オリゴヌクレオチド、cDNA、またはゲノム配列の断片を含んでなる、請求項28に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2007−524347(P2007−524347A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518595(P2005−518595)
【出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/006273
【国際公開番号】WO2005/001143
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(501216012)ナノスフェアー インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】NANOSPHERE INC.
【Fターム(参考)】