説明

マイクロアレイ測定方法

【課題】スポット単体の位置ばらつきがあるマイクロアレイ基板の測定方法を提供する。
【解決手段】スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応して発光する第一の基質を添加するステップと、前記スポットの光を撮影して1次測光画像を生成するステップと、前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成するステップと、前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去するステップと、前記第二の試薬と化学反応して発光する第二の基質を添加するステップと、前記スポットの光を撮影して2次測光画像を生成するステップと、前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定するステップとで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット単位の位置ばらつきがあるマイクロアレイを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロアレイは生体分子の解析に利用されている。その利用は、遺伝子の解析や遺伝子から発現したタンパク質の機能解析など多岐に渡っている。例えば、マイクロアレイを利用した遺伝子解析であれば、個々の細胞、組織あるいは個体での遺伝子の発現の様子を網羅的に解析することが可能である。
【0003】
マイクロアレイはDNAチップとも呼ばれる。ガラスやシリコン製の1×3インチ大の小基板上に、ナノリットル単位の遺伝子溶液の液滴を高密度に点着させてマイクロメートル単位の微小なスポットを形成することで、ガラスやシリコン製の基板上に遺伝子断片を固定化する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この固定化物を含んだ基板上で、ブロッキング、洗浄、検出反応といった様々な化学反応を行うことで、網羅的な遺伝子解析や発現タンパクの機能解析を行うことが可能となっている。基板上での化学反応は、基板上に反応液を滴下することで行なわれ、検出は、化学反応で発生した発光や化学反応と物理的な力で発生した蛍光をスキャナやCCD(Charge Coupled Devices)カメラで読み取ることで行なわれる。読み取った画像を解析することで目的サンプルの有無や目的サンプル量を発光量から間接的に把握することができる。
【0005】
CCDカメラやスキャナで読み取った画像を自動解析するには、基板の位置ずれや、スポット位置のずれを補正する技術が要求される。スポットの位置ずれ補正をするために、基準パターン領域として、試料解析時に、必ず発光するスポットと必ず発光しないスポットを設け、その発光パターンによりスポット位置を決め、補正を行なう方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特表平10−503841号公報
【特許文献2】特開2003−307518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マイクロアレイ基板上にスポットを形成する際に、位置決めの精度が十分でなく、スポット単体の位置ばらつきが発生すると、予め定めたスポットの測定範囲と実際のスポット発光領域との間に位置ズレが生じ、正確な発光量の測定が出来ないという課題を有していた。
【0007】
そこで、本発明は、スポット単体の位置ばらつきによる発光領域の位置ズレが発生しても、正確な発光量の測定を行うことが出来るマイクロアレイ測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そしてこの目的を達成するために、本発明のマイクロアレイ測定方法は、マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応して発光する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、前記スポットの光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、前記第二の試薬と化学反応して発光する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、前記スポットの光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成される事を特徴としたものである。
【0009】
また本発明のマイクロアレイ測定方法は、マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、前記第二の試薬と化学反応する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成される事を特徴としたものである。
【0010】
また本発明のマイクロアレイ測定方法は、マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、前記マイクロアレイ基板上に設けられた基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第一の固定誤り検出ステップと、前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応して発光する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、前記スポットの光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、前記基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第二の固定誤り検出ステップと、前記第二の試薬と化学反応して発光する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、前記スポットの光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、前記マイクロアレイ基板上に設けられた確認マーク及び前記基板位置決定用マークを用いて前記1次測光解析画像と前記2次測光画像との間で相対的に生じるズレを補正する画像ズレ補正ステップと、前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成される事を特徴としたものである。
【0011】
また本発明のマイクロアレイ測定方法は、マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、前記マイクロアレイ基板上に設けられた基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第一の固定誤り検出ステップと、前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、前記基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第二の固定誤り検出ステップと、前記第二の試薬と化学反応する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、前記マイクロアレイ基板上に設けられた確認マーク及び前記基板位置決定用マークを用いて前記1次測光解析画像と前記2次測光画像との間で相対的に生じるズレを補正する画像ズレ補正ステップと、前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成される事を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のマイクロアレイ測定方法によれば、スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応して発光する第一の基質を添加するステップと、前記スポットの光を撮影して1次測光画像を生成するステップと、前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成するステップと、前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去するステップと、前記第二の試薬と化学反応して発光する第二の基質を添加するステップと、前記スポットの光を撮影して2次測光画像を生成するステップと、前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定するステップとを行うことにより、スポット単体の位置ばらつきが発生しても、正確な発光量の測定を行なうことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の検出エリアの位置検出方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0014】
(実施の形態1)
本実施の形態のマイクロアレイ測定方法は、次のような、マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットにおける、化学反応による発光または蛍光をCCDカメラで撮影し、その発光量から検体の量を測定するものに用いられる。このマイクロアレイ測定方法は、マイクロアレイ基板を固定するステージと、このステージを視野に収めたCCDカメラと、CCDカメラが撮影した画像を処理する信号処理装置とで構成されるマイクロアレイ測定装置において実現される。
【0015】
マイクロアレイ基板には、複数のスポットが設けられている。マイクロアレイ基板上の全てのスポットには、第一の基質と化学反応して発光する第一の試薬が均等に固定化されている。加えて、各スポットには、検体と、第二の基質と化学反応して発光する第二の試薬とを固定化するための抗体が固定化されている。ここで、これらの抗体は、複数の検体を測定出来るように、スポットごとに異なる抗体を固定化しても良い。測定の目的に応じて、抗体の種類は自由に変更可能である。このマイクロアレイ基板の作成については、後で詳細に説明する。
【0016】
ここで、図1を用いて本実施の形態のマイクロアレイ測定方法を説明する。図1は、本実施の形態における、マイクロアレイ測定方法の工程を示すフローチャートである。
【0017】
まず、ステージに固定されたマイクロアレイ基板に第一の基質を添加する、第一の基質添加ステップを行う(S101)。この第一の基質は、溶液であり、マイクロアレイ基板上の全てのスポットに均等に展開されるように添加される。この第一の基質が展開されると、第一の試薬と化学反応を起こし、各スポットで発光が開始される。
【0018】
次に、CCDカメラにてマイクロアレイ基板を撮影する、1次測光ステップを行う(S102)。このCCDカメラは例えばモノクロCCDカメラである。このCCDカメラを所定の時間(例えば1分間)露光し、その間にCCD素子が受けた光量を積分して各画素の輝度値として出力する。この輝度値を多値で表した画像を1次測光画像とする。
【0019】
図2(a)が、CCDカメラが出力する1次測光画像である。図2(a)において、201がスポットである。全てのスポットに均等に第一の試薬を固定化しているため、1次測光画像では、各スポットが均等に発光する。各スポットが発光しているため、スポットに相当するところの輝度値は周囲よりも大きくなる。なお、202、203は単体で位置ズレが発生したスポットを示している。
【0020】
次に、この1次測光画像の解析を行い、各スポットの中心座標とスポットの境界を特定する、第一の画像解析ステップを行う(S103)。この結果得られた画像を1次測光解析画像とし、図2(b)に示す。図2(b)において、204が各スポットの中心座標点、205が各スポットの境界(スポットサイズ)を表したものである。
【0021】
次に、検体添加ステップを行う(S104)。このステップでは、まず、マイクロアレイ基板を洗浄して第一の基質を洗い流す。次に各スポットの抗体と反応する検体、及びこの検体と特異吸着する第二の試薬をマイクロアレイ基板上に過剰に添加し、予め各スポットに固定化しておいた抗体とこの検体中の抗原とを抗原抗体反応させて、特異吸着させる。そして抗原抗体反応が完了した後で、マイクロアレイ基板を洗浄して、抗体と反応しきれずに余った抗原と第二の試薬を除去する。
【0022】
この検体添加ステップは、検体中の成分と固定化物を直接若しくは間接的に反応させる工程、標識物との反応工程や洗浄工程であり、2次測光を生じるための準備工程である。これらの工程は、固定化物が何であるか、検出対象物が何であるか、あるいは、どのような反応方式を用いて光放出をさせるか等の条件で異なってくる。例えば、抗体を固定化する場合でも、既に酵素標識された抗体を固定化するのか、未標識の抗体を固定化するのかで、反応工程が異なるし、抗体の標識物も、蛍光標識、酵素標識やビオチン標識等の標識物の違いでも反応工程は異なる。また、測定方法が、サンドイッチ法なのか、競合法なのかというような違いでも処理が異なる。ここでは、抗体を基板に固定化し、サンドイッチアッセイを行う場合の例を示す。ただし、本反応方式に限定されるものではない。
【0023】
次に、マイクロアレイ基板に第二の基質を添加する、第二の基質添加ステップを行う(S105)。この時、各スポットに特異吸着した抗原量は、検体によって異なるので、各スポットの発光輝度は違ってくる。なお、ここで添加する第二の基質は、第一の試薬とは化学反応を起こさず、第二の試薬とのみ反応して発光するものである。
【0024】
次に、CCDカメラにてマイクロアレイ基板を撮影する、2次測光ステップを行う(S106)。ここでは、1次測光ステップと同様に、所定の時間CCDカメラを露光し、2次測光画像を生成する。この時、各スポットで発光量が異なり、場合によっては、ほとんど光を発しないスポットも存在する。図2(c)に2次測光画像の模式図を示す。
【0025】
次に、この2次測光画像の解析を行い、各スポットの発光量を特定する、第二の画像解析ステップを行う(S107)。まず、図2(d)に示すように2次測光画像を、第一の画像解析ステップで得た1次測光解析画像と重ね合わせる。すると、発光量の検出を行うべきスポットの中心座標とスポットの境界が分かる。各スポットにおいて、スポットの境界内の各画素の輝度値を積算して、それを発光量とする。最後に、この発光量を、予め作成しておいた検量線にあてはめ、検体中の成分量を求める。
【0026】
なお、第一の基質添加ステップと第二の基質添加ステップにおいて、化学反応により蛍光物質を生成する時には、1次測光ステップと2次測光ステップを実行している間、その蛍光物質を励起するための励起光を外部から照射する。
【0027】
ここで、第一の基質及び第二の基質として利用可能な発光基質を次に示す。ルミノール、イソルミノール、ルシフェリン(ホタルルシフェリン、セレンテラジン、ウミホタルルシフェリン)、ルシゲニン、ロフィン、アクリジニウムエステル、没食子酸、インドール誘導体、Disodium 3−(4−methoxyspiro{1,2−dioxetane−3,2´−(5´−chloro)tricyclo〔3.3.1.13,7〕decan}−4−yl)phenyl phosphate、Disodium 2−chloro−5−(4−methoxyspiro{1,2−dioxetane−3,2´−(5´−chloro)tricyclo〔3.3.1.13,7〕decan}−4−yl)phenyl phosphate、3−(2´−Spiroadamantane)−4−methoxy−4−(3´´−phosphoryloxy)phenyl−1,2−dioxetane(AMPPD)、ルミジェンPPD、Galacton(登録商標)などがある。
【0028】
また、第一の基質及び第二の基質として利用可能な蛍光基質を次に示す。cascade Blue、Alexa−405、Alexa−350、AMCA、Pacific Blue、Marina Blue、Cy2、BODIPY FL、Fluorescein、Alexa−488、Oregon Green−488、Alexa−500、Oregon Green−514、Alexa−430、Alexa−514、Cascade Yellow、Alexa−532、Alexa−555、Cy3、Alexa−546、PE−R、Tetrametylrhodamine、Rhodamine Red、Alexa−568、Texas Red、Alexa−594、Alexa−633、APC、Alexa−647、Cy5、Alexa−660、Cy3.5、Cy5.5、Alexa−680、Alexa−700、Cy7、Alexa−750、SYBR Green I、SYBR Green II、SYBR Gold、EtBr、MDPF、SYPRO Orange、SYPRO Ruby、SYPRO Rose、SYPRO Red、SYPRO Tangerin、Pro−Q Emerald 488、Pro−Q Diamond、Pro−Q Emerald 300、Pro−Q Sapphire 365、Pro−Q Sapphire 488、ELF39、ELF97、DDAO、Amplex Gold、Amplex Red、Tyramine、p−Hydroxyphenyl Propionic acid(HPPA)、4−Metylumbellipheryl−β―D−galactoside、4−Metylumbellipherylphosphate、3−(p−Hydroxyphenyl)propionic acid、Pyrene、BBTP(2´−[2−benzothiazoyl]−6´−hydroxybenzothiazole phosphate)などがある。
【0029】
なお、添加用の基質2種類と固定化用試薬2種類の選択において、添加された第一の基質及び第二の基質は、固定化された2試薬の内、個々の固定化試薬に対してのみ反応し、相互干渉はしないものを選ぶ必要がある。
【0030】
ここで、マイクロアレイ基板上に、抗体を固定化してスポットを形成する手順について説明する。図3は、測定用マイクロアレイ基板の作製工程を示した図である。
【0031】
まず、塗布用の基板301を用意する。塗布用の基板301としては、ガラス基板やポリスチレンのようなプラスチック基板が利用可能である。また、基板上のアレイ領域302に、表面化学処理(シラン化、アミノ化、アルデヒド化、チオール化、エポキシ化、活性エステル化)、金被覆、アルミニウム被覆、ニトロセルロース、フッ化ビニリデン、ポリリシンなどカチオン性ポリマー被覆、ポリアクリルアミドゲル、アガロースゲルなどの親水性ポリマー被覆、光反応性、多孔質化といった処理を施して用いても良い。
【0032】
次に、発光若しくは蛍光に関与する2試薬を含んだ混合液305を調整する。調整した溶液は、穏やかに均一になるまで攪拌した上で塗布を行なう。1次測光に直接関与する試薬303及び2次測光に直接関与する試薬として利用できるのは、蛍光タンパク(EBFP、ECFP、TagCFP、AmCyan、Midoriishi−Cyan、CFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami−Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP−m、TurboYFP、ZsYellow、Kusabira−Orange、TurboRFP、DsRed−Express、DsRed2、TagRFP、DsRed−Monomer、AsRed2、TurboFP602、JRed、KillerRed、HcRed、Keima−Red、PS−CFP2、Dendra2、Kaede、Kikume Green−Red、EosFP、PA−GFP、Dronpa−Green、KFPRed(活性化後))、ルシフェラーゼ(非分泌型のものとして、ホタル由来、ウミシイタケ由来、クリックビートル由来、鉄道虫由来、イリオモテボタル由来のもの、分泌型のものとして、コペポーダ由来、ウミホタル由来のもの)、アルカリホスファターゼ(bovine、bovine kidney、bovine liver、calf intestine、escherichia coli、human placenta、porcine intestinal mucosa、porcine kidney、rabbit intestine、shrimp、Antarctic Phosphatase)、ペルオキシダーゼ(horseradish、arthromyces ramosus、glycine max)、グルコースオキシダーゼ(Aspergillus属由来、penicillium属由来)、β―ガラクトシダーゼ(aspergillus oryzae、bovine liver、bovine testes、escherichia coli、kluyveromyces lactis、saccharomyces fragilis)、β―グルクロニダーゼ(bovine liver、escherichia coli、Helix aspersa、Helix pomatia、patella vulgata)、エクオリン、その他の発光や蛍光反応に関与可能なタンパク、蛍光標識したDNAプローブ、発光標識したDNAプローブ、蛍光標識したRNAプローブ、発光標識したRNAプローブが利用できる。2次測光に間接的に関与する試薬としては、抗体、抗原、DNAプローブ、RNAプローブ、タンパク、ペプチド、有機分子、糖鎖、細胞が利用可能である。
【0033】
2試薬の内、1試薬は、全てのスポット201の塗布状況を特定するための試薬で、1次測光に直接関与する試薬303である。もう1試薬は、検体量を測定するための試薬で2次測光に直接若しくは間接的に関与する試薬304である。また、1次測光に直接関与する試薬303は、1次測光時にどのスポット201においても、ほぼ同様の輝度を表示させるために、各スポットにおいて同濃度ずつ塗布されるように調整する。
【0034】
調整した混合液305は、塗布機を用いて基板上に固定化する。塗布方法としては、様々な方法があるが、例えば、混合液を塗布機のピン306に溶液を付着させ、付着した混合液305を基板表面に押し当てることで混合液305を基板のアレイ領域302へ塗布を行なう。代表的な塗布方法としては、光リソグラフィ、マイクロスタンプ、メカニカルマイクロスポット、マイクロピペッティング、マイクロディスペンシング、ジェットプリント、エレクトロスプレーデポジション、ナノリソグラフィがある。塗布を行なった試薬は、基板のアレイ領域302でマトリクス状に固定化される。固定化されたスポット201は、均一に混合した塗布溶液305を固定化しているために、2試薬が各スポット中で偏りなく均一に固定化されるので、2試薬それぞれが示す各スポットの発光形状は、同様のものとなる。そのため、1次測光画像の各スポットの解析データを基に2次測光画像の検出エリアを規定することができる。
【0035】
基板への固定化が完了したら、ブロッキング剤を固定化基板上に添加する。このとき利用可能なブロッキング剤としては、スキムミルク、BSA、フィシュゼラチン、レクチン、血清、カゼイン、合成ポリマー、植物成分由来のブロッキング剤などで、これらを組み合わせて利用したり、界面活性剤を混合して利用したりすることができる。ブロッキングを行なうことで、基板上の固定化領域以外で生じる非特異な反応を抑制することができる。
【0036】
ブロッキングが完了したら、基板上のブロッキング剤を排除する。ブロッキング剤を完全に除去するために、洗浄操作を数回繰り返す。
【0037】
次に、場合によっては、1次測光に関与するバッファで基板洗浄を1回行なう。この操作を行なうのは、上記洗浄操作と基質を溶解してあるバッファの種類やpHが大きく異なる際に行なう。また、この操作は、バッファ交換と言われる操作で、基質を添加した際に、速やかな光放出反応を行なうことが可能となる。このようにして、マイクロアレイ基板が作製される。
【0038】
以上のように本実施の形態においては、まず、マイクロアレイ基板上の全てのスポットが発光する化学反応を起こさせて、スポットの位置を解析しておき、その後、実際の測定を行うようにしたので、スポット単位で位置ズレが発生していても、測定すべきスポットの範囲を特定することが出来るため、正確に発光量を測定することが可能となる。
【0039】
なお、第一の画像解析ステップの後で、マイクロアレイ基板に対する、抗体の塗布エラーの検出も可能である。図4は、1次測光画像から判別可能な塗布エラーの例を示した図である。
【0040】
塗布に成功した場合、1次測光の段階で、エリア401内にある全てのスポット201が発光する。図4(a)のように塗布が成功していれば、全スポット201に同濃度の1次測光用の試薬が塗布されていることになるので、どのスポットもほぼ同様の円形で、スポットサイズもほぼ均一なものが得られる。
【0041】
また、図4(b)は、合否の境界にあたるような塗布の図である。ここには、形状が小さいスポット402、位置ズレスポット403、楕円化したスポット404といった塗布時の形状ばらつきを示した。このようなばらつきを、合格とするか不合格とするかは、予め設定したばらつきの範囲内に収まったスポットかどうかで判断を行なう。範囲の設定内容としては、塗布位置、円の形状、輝度値である。これらの解析パラメータの範囲設定の仕方で、塗布の合否判定を行なうことができる。
【0042】
図4(c)は、塗布エラーと判断した場合の図である。塗布エラーによるスポット形状としては、形状が小さすぎたスポット406、形状が変形しすぎたスポット408、形状が大きすぎたスポット405、位置がずれすぎたスポット407がある。塗布エラーの輝度値としては、形状変化に伴う輝度値の上昇や低下及びソフト上の検知限界を超えた形状変化による識別不能といった問題が発生する。エラースポットの判断基準としては、例えば、スポットサイズの直径が14〜16画素に収まり、スポット位置の誤差が10%以内に収まっていること、というように設定すれば良い。そして、エラースポットと判定されたスポットと、このエラースポットによる影響で正確な発光量の測定が困難であると判断されるスポットは第二の画像解析ステップにおいて、発光量を測定しないようにする。このようにすれば、マイクロアレイ基板におけるスポットの塗布エラーに起因する測定不良を無くすことが可能となる。
【0043】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、マイクロアレイ基板上に、確認マークと基板位置決定用マークとを設け、このマークを用いてマイクロアレイ基板の位置ズレを検出する点が実施の形態1と異なる。
【0044】
まず、図5を用いて、確認マークと基板位置決定用マークについて説明する。図5は、確認マーク501と基板位置決定用マーク502の設置位置を示した図である。
【0045】
確認マーク501の設置位置は、図5(a)に示したように、アレイ領域302の外周部の頂点位置に設ければ良い。確認マーク501を各頂点箇所に設置することで、設置数を最小に抑えることができる。また、測定画像中に全ての確認マーク501があるようにCCDカメラの視野を調整すれば、1つのスポットも取りこぼし無く、測定出来る。
【0046】
また、アレイ領域302が正方形や長方形のように上下を逆にしたり、左右を反転させたりしても対称な場合は、4つの確認マーク501のうちいずれか1つの確認マーク501のそばに、基板位置決定用のマーク502を設ければ、マイクロアレイ基板の固定向きが間違っていることを判別可能となる。
【0047】
ここで確認マーク501及び基板位置決定用マーク502は、第一の基質及び第二の基質と反応することが出来ればよく、それぞれ第一の基質と第二の基質と反応する2種類以上の試薬を混合したものであっても良い。
【0048】
また、アレイ領域302の塗布エリアを広くとるためには、図5(b)に示すように、確認マーク501の設置位置をアレイ領域302内側の各頂点位置に設ければ良く、その際の基板位置決定用マーク502の設置位置は、図5(a)と同様に確認マーク501に隣接する位置に設ければ良い。
【0049】
次に、図6を用いて本実施の形態のマイクロアレイ測定方法を説明する。図6は、本実施の形態におけるマイクロアレイ測定方法の工程を示すフローチャートである。図6において、実施の形態1で示した図1と異なるところは、1次測光ステップ(S102)と第一の画像解析ステップ(S103)の間に、第一の固定誤り検出ステップ(S201)を設けた点と、2次測光ステップ(S106)と第二の画像解析ステップ(S107)の間に、第二の固定誤り検出ステップ(S202)と画像ズレ補正ステップ(S203)を設けた点である。その他のステップにおいては、実施の形態1と同じであるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0050】
まず、第一の固定誤り検出ステップについて説明する。このステップは、マイクロアレイ基板が、上下左右の向きを誤ってステージに固定されているか否かを検出して、向きを誤って固定されていると判定すると、ユーザーにマイクロアレイ基板の固定エラーを通知するものである。
【0051】
例えば、マイクロアレイ基板上の基板位置決定用マーク502が、1次測光画像の左上に存在するように設けられている場合に、1次測光画像内の基板位置決定用マーク502が画像の左上以外の位置に検出された場合には、マイクロアレイ基板が向きを誤って固定されていると判定して、ユーザーに通知する。
【0052】
次に、第二の固定誤り検出ステップについて説明する。このステップは、検体添加ステップ(S104)を、マイクロアレイ基板をステージから取り外して実施した時に必要となる。検体添加ステップを終えて、マイクロアレイ基板を再びステージに固定した際に、固定向きに誤りがあるとユーザーに通知する。具体的方法は第一の固定誤り検出ステップと同じであるので、説明を省略する。
【0053】
次に、画像ズレ補正ステップについて説明する。このステップでは、確認マーク501と基板位置決定用マーク502を用いて、1次測光解析画像と2次測光画像の位置ズレを補正する。位置ズレには、上下左右のズレと、回転ズレが考えられるが、上下左右のズレは、1次測光解析画像と2次測光画像のお互いの確認マーク501の相対位置を検出して、どちらかの画像をずらすように画像補正を行えば解消出来る為、詳細な説明は省略する。ここでは、回転ズレを補正する2つの形態について、以下に説明する。以下の例では、1次測光画像に対して、2次測光画像が相対的に回転している場合を示している。
【0054】
1つ目は、中点座標を利用した補正方法である。図7は、中点座標を用いた2次測光画像の基板位置の補正及び検出エリアの決定方法を示した図である。まず、1次測光解析画像701及び2次測光画像702から確認マーク501の中心座標及び基板位置決定用マーク502の中心座標を算出する。
【0055】
次に、基板位置決定用マーク502に最も近い確認マーク501と対角に位置する確認マーク501の中心座標間を直線で結び、直線上の中点座標を算出する。そして、1次測光解析画像中に中点位置703aを記した画像703に対し、2次測光画像中に中点位置704aを記した画像704を移動させ、中点位置を重ね合わせる。
【0056】
次に、1次測光解析画像と2次測光画像の中点位置を合致させた画像705に対し、中点位置を固定し、この点を中心に、1次測光解析画像の確認マーク501の中心座標に対し、2次測光画像の確認マーク501の中心座標が合致するように画像を回転移動させることで2次測光画像を補正した2次測光補正画像706とする。
【0057】
そして、第二の画像解析ステップにおいて、位置補正を行なった2次測光補正画像と1次測光解析画像の位置データに基づき2次測光補正画像の検出エリアを規定して、検出エリア内のスポットの測定を行う。
【0058】
2つ目の補正方法は、原点座標を用いるものである。図8は、原点座標を用いた2次測光画像の基板位置の補正及び検出エリアの決定方法を示した図である。まず、1次測光解析画像801及び2次測光画像802から確認マーク501の中心座標及び基板位置決定用マーク502の中心座標を算出する。次に、基板位置決定用マーク502に最も近い確認マーク501の中心座標を原点座標とする。
【0059】
次に、1次測光解析画像中に原点位置803aを記した画像803に対し、2次測光画像中に原点位置804aを記した画像804を移動させ、原点座標位置を重ね合わせる。そして、1次測光解析画像と2次測光画像の原点位置を合致させた画像805に対し、原点座標位置を固定し、この点を中心に、1次測光解析画像で取得した確認マーク501の中心座標、及び基板位置決定用マーク502の中心座標に対し、2次測光画像で取得した確認マーク501の中心座標、及び基板位置決定用マーク502の中心座標が合致するように画像を回転移動させる。この工程を簡素化するには、原点座標と対角に位置する確認マーク501の中心座標通しが一致するまで画像を回転移動させたのでも良い。1次測光解析画像と2次測光画像が完全に重なり合ったところで、基板の位置補正が完了する。
【0060】
原点位置を基準に基板の位置補正を行なった画像806の位置データと1次測光により得られたスポット201の位置データに基づき2次測光画像の検出エリアを規定する。
【0061】
この方法により解析を行なえば、中心座標の一つを原点座標として利用するため、中点座標を用いた解析方法と比べて処理数が簡素化できる。
【0062】
以上のように本実施の形態においては、マイクロアレイ基板上に設けられたマークを用いてマイクロアレイ基板のステージへの取り付け位置ズレを補正するようにしたので、取り付け位置ズレによる測定不良を防ぐことが可能となる。
【0063】
なお、本実施の形態における確認マークは、1次及び2次測光時に光を発するスポットを利用した場合であるが、この他にもマイクロアレイ基板自体に透過光を設け、その透過領域を確認マークとして利用することも出来る。この透過領域は本実施の形態に示した確認マーク501及び基板位置決定用マーク502と同じ形状で、同じ位置に配置する。
【0064】
図9は、マイクロアレイ基板に光透過領域を設けた場合のマイクロアレイ測定方法の工程を示すフローチャートである。前述の方法と異なるところは、マイクロアレイ基板にCCDカメラの反対側から光を照射し、そのときの透過光を撮影し、マイクロアレイ基板の固定向き誤りを判定する第一の固定誤り検出ステップ(S301)を、第一の基質添加ステップ(S101)の前に行い、同じく透過光を用いてマイクロアレイ基板の固定向き誤りを判定する第二の固定誤り検出ステップ(S302)を、検体添加ステップ(S104)と第二の基質添加ステップ(S105)の間に行うようにした点である。
【0065】
これらのステップで行うマイクロアレイ基板の向き誤り判定と、画像ズレ補正ステップ(S303)においては、発光するスポットの代わりに透過領域を用いたこと以外の動作は全く同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0066】
なお、本実施の形態においては、CCDカメラで撮影した画像を補正して位置ズレによる測定不良を無くすようにしたが、マイクロアレイ基板を固定するステージを微調整してCCDカメラに映るアレイ領域の位置ズレを無くすようにしても良い。
【実施例】
【0067】
1次測光に直接関与する試薬としてHRPを、2次測光に間接的に関与する試薬としてIgEを用いたモデル実験を行った。
【0068】
基板には、アレイ領域にニトロセルロース処理が行なわれた基板(GenTel社、PATH Protein Microarray Slide)を用いた。塗布溶液中には、Human IgE抗体(ヤマサ醤油株式会社)とHRP (シグマアルドリッチ社)を添加した。HRPを1次測光用試薬として添加し、IgE抗体を2次測光用試薬として添加した。塗布時には、1スポットあたりのHRP量が10fmolずつ塗布できるように塗布溶液を調整した。撮影エリア取りこぼし防止用の確認マークの試薬組成もスポットの試薬組成と同様のものとした。また、IgE抗体は、各スポットあたり、0.3、0.1、0.03、0.01、0.003、0.001fmolずつ塗布されるようにサンプル調整を行なった。また、コントロールには、IgE抗体とBSAを混合したものを固定化したスポットを用意した。BSAは、IgE抗体の低濃度域での構造安定化剤として添加した。調整した混合溶液は、MicroCaster(Whatman社)を用いて基板表面へ塗布を行なった。塗布サンプルは、濡らした布を敷いたタッパー中で、25℃の下、1晩放置し固定化させた。
【0069】
次に、3%スキムミルクに25mM Tris−HCl、0.45M NaCl、0.1% Tween20を添加したものをブロッキング剤としてニトロセルロース基板101上に添加した。ブロッキング処理は、振とう機で攪拌しながら、30分行なった。ブロッキングを行なうことで、固定化領域以外での吸着を抑制することができる。
【0070】
次に、ブロッキング剤を基板上から除去し、洗浄操作を繰り返し3回行なった後、撮影用のステージに基板を固定した。その後、1次測光用の基質であるルミノール溶液(Roche社、BM Chemiluminescence Blotting Substrate)を添加した。ルミノールを添加することで1次発光が発生する。1分間分の発光輝度をCCDカメラで撮影し、1次測光画像とした。
【0071】
次に、ルミノール溶液を基板上から除去した後、洗浄操作を3回繰り返し、2次抗体として抗IgE抗体(BECKMAN COULTER社、Cell Lab Mouse Anti−Human IgE)を添加した。添加後、25℃で1時間振とう機で振とうしながら反応させた。2次抗体には、ビオチン化されているものを用いた。
【0072】
次に、洗浄操作を繰り返し3回行なった後、ルシフェラーゼ(キッコーマン社、Intelite AB)を添加した。添加後、25℃で1時間振とう機上で振とうしながら反応させた。ルシフェラーゼは、ストレプトアビジン化されているものを用いた。
【0073】
次に、未反応物を取り除くために、洗浄操作を繰り返し3回行なった。その後、2次測光用の基質溶液と同じ組成で基質だけ除いた溶液でバッファ交換を1回行なった。
【0074】
その後、撮影用のステージに基板を固定した後、2次測光用の基質溶液として、ルシフェリン溶液(キッコーマン社、Intelite AB)を添加した。ルシフェリンを添加することで2次発光が発生する。5分間分の発光輝度をCCDカメラで撮影し、2次測光画像とした。
【0075】
図10は、上述したHRPとIgEを用いたモデル実験の1次測光画像及び2次測光画像である。図10(a)は、HRPとIgEをモデル実験に用いた1次測光画像1001であり、図10(b)は、HRPとIgEをモデル実験に用いた2次測光画像1002である。ここで、サンプル1003の列がIgEを0.3fmol、サンプル1004の列がIgEを0.1fmol、サンプル1005の列がIgEを0.03fmol、サンプル1006の列がIgEを0.01fmol、サンプル1007の列がIgEを0.003fmol、サンプル1008の列がIgEを0.001fmol塗布したものである。
【0076】
まず、1次測光画像1001から、確認マーク1009、基板位置決定用マーク1010及び各スポットの中心座標及びスポットサイズを求めた。次に、基板位置決定用マーク1010の隣に位置する確認マーク1009と対角に位置する確認マーク1011を直線で結び中点座標を求めた。
【0077】
次に、2次測光画像1002の確認マーク1012及び基板位置決定用マーク1013の中心座標を求めた。次に、基板位置決定用マーク1013の隣に位置する確認マーク1012と対角に位置する確認マーク1014を直線で結び中点座標を求めた。その後、2次測光画像1002の中心座標データを1次測光画像1001の中心座標データに合致するところまで移動させた。次に、中点位置を固定し、中点位置を中心に、確認マーク及び基板位置決定用の確認マークの位置が合致するところまで2次測光画像1002を回転移動させた。1001と1002が完全に合致したところで、1次測光画像1001のスポットの解析データを基に2次測光画像1002のスポットの解析位置を決めた。
【0078】
このようにして得られた解析位置から求めた測定結果(以下、本測定法結果と称す。)を、2次測光画像のみを用いて、各スポット位置を目視で特定してその輝度値を求めた結果(以下、手動法結果と称す。)、および、背景技術に記載した技術において、2次測光画像のみを用いて、各スポットが確認マークを基準として定位置にあるとみなして、この定位置の輝度情報を、各スポットの輝度値として求めた結果(以下、従来法結果と称す。)と比較した。
【0079】
図11(a)は、上述したHRPとIgEを用いたモデル実験の測定結果を示した図である。この中で、菱形が本測定法結果、四角が手動法結果、三角が従来法結果を示している。横軸は固定化したIgEの濃度、縦軸は各スポットの輝度値を積算した発光量を示している。図11(a)に示したように、本測定法結果は、従来法結果と比べて、手動法結果に近い特性を得ることが出来た。これを回帰法の決定係数Rで比較すると、本測定法結果はR=0.9915、従来法結果はR=0.9784、手動法結果はR=0.9927であった。このことからも、本発明のマイクロアレイ測定方法が従来法に比較して有用なことが分かる。
【0080】
さらに、図11(b)は、上述したHRPの代わりにALPを用いたモデル実験の測定結果を示した図である。IgE抗体とALPを用いたモデル実験は、上述したものと同じ手順で行い、異なる箇所は、HRPをALPに置き換え、1次測光用の基質反応で用いるルミノールをルミジェンPPD(和光純薬工業株式会社、Lumi−PhosPlus)に置き換えたことである。図11(b)において、横軸と縦軸は図11(a)と同じであり、菱形が本測定法結果、四角が手動法結果を示すものである。この時、回帰法の決定係数Rで確認すると、本測定法結果はR=0.9779、手動法結果はR=0.9688であった。
【0081】
このことから、ALPを用いてもHRPと同様の結果が得られることが分かり、HRPとALP以外の酵素であっても、酵素活性を失うことなく基板上に固定化可能な酵素であれば、同様の結果が得られるものと推察される。
【0082】
さらに図12は、上述したモデル実験において、BSAを添加したものと、BSAを添加せずHRPのみを添加した場合の測定結果を示すものである。横軸と縦軸は図11(a)と同じであり、菱形がBSAを添加したもの、四角がBSAを添加しなかったものである。ここで、四角の測定結果は、図11(a)に示した本測定法結果と同じである。菱形は、目視でスポット位置を確認した手動法結果である。このとき、菱形の決定係数R=0.9823であったことから、BSAの代わりにHRPを用いた場合においても、良好な結果を示すことが証明された。
【0083】
これにより、従来はIgEの低濃度域では、塗布溶液調整時にサンプルチューブ表面にIgEが吸着されるのを防止するためにBSAが必要であったが、本発明のようにBSAの代わりにHRPを加えることでもIgEの低濃度域での吸着を防止出来ていることが判明した。これはALPなど疎水基を持つアミノ酸が結合した高分子であれば同様の効果が得られると推察される。
【0084】
図13は、上述したモデル実験の画像を示したもので、図13(a)が1次測光画像、図13(b)が2次測光画像である。ここでスポット1301、スポット1302、スポット1303は、縦方向(図面の上下方向)にずれたスポットを表している。これらのスポットの発光量の相対比を示したものが、図14である。
【0085】
図14は、手動法結果の発光量を100%の基準として、それに対する本測定法結果の発光量と従来法結果の発光量の比を示している。図14において、横線棒グラフが本測定法結果、斜線棒グラフが従来法結果を示している。図14から、本測定法結果は、ずれたスポットに対して、いずれも手動法結果に対する比が±10%以内の発光量を測定出来ており、ずれたスポットに対して適切な範囲で輝度値を測定していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明にかかるマイクロアレイの測定方法は、マイクロアレイ基板上でスポット単位で位置ズレが発生しても、スポットの位置を特定して測定を行うことが出来るので、一度に多検体を測定する装置や顕微鏡等における測定方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施の形態1におけるマイクロアレイ測定方法の工程を示すフローチャート
【図2】スポット位置を特定する画像の例を示す図
【図3】マイクロアレイ基板作成の概要を示す図
【図4】塗布エラー判定の例を示す図
【図5】確認マーク及び基板位置決定マークの配置例を示す図
【図6】実施の形態2におけるマイクロアレイ測定方法の工程を示すフローチャート
【図7】位置ズレを補正する手順を示す図
【図8】位置ズレを補正する別形態の手順を示す図
【図9】実施の形態2におけるマイクロアレイ測定方法の別形態の工程を示すフローチャート
【図10】モデル実験で得た1次測光及び2次測光画像を示す図
【図11】モデル実験の測定結果を示す図
【図12】BSAの有無を比較した測定結果を示す図
【図13】モデル実験で得た画像を示す図
【図14】測定精度の比較を示す図
【符号の説明】
【0088】
S101 第一の基質添加ステップ
S102 1次測光ステップ
S103 第一の画像解析ステップ
S104 検体添加ステップ
S105 第二の基質添加ステップ
S106 2次測光ステップ
S107 第二の画像解析ステップ
S201、S301 第一の固定誤り検出ステップ
S202、S302 第二の固定誤り検出ステップ
S203、S303 画像ズレ補正ステップ
201 スポット
501 確認マーク
502 基板位置決定用マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、
前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応して発光する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、
前記スポットの光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、
前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、
前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、
前記第二の試薬と化学反応して発光する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、
前記スポットの光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、
前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成されるマイクロアレイ測定方法。
【請求項2】
マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、
前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、
前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、
前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、
前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、
前記第二の試薬と化学反応する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、
前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、
前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成されるマイクロアレイ測定方法。
【請求項3】
前記マイクロアレイ基板上には、このマイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出するための基板位置決定用マークが配置されており、
前記1次測光ステップと前記第一の画像解析ステップの間に、前記基板位置決定用マークを用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第一の固定誤り検出ステップと、
前記2次測光ステップと前記第二の画像解析ステップの間に、前記基板位置決定用マークを用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第二の固定誤り検出ステップとを設けた請求項1または2に記載のマイクロアレイ測定方法。
前記
【請求項4】
前記マイクロアレイ基板上には、さらにマイクロアレイ基板の位置ズレを検出するための確認マークが配置されており、
前記第二の固定誤り検出ステップと前記第二の画像解析ステップの間に、前記基板位置決定用マークと前記確認マークを用いて、前記1次測光解析画像と前記2次測光解析画像との間に相対的に生じるズレを補正する画像ズレ補正ステップを設けた請求項3に記載のマイクロアレイ測定方法。
【請求項5】
マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、
前記マイクロアレイ基板上に設けられた基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第一の固定誤り検出ステップと、
前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応して発光する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、
前記スポットの光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、
前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、
前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、
前記基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第二の固定誤り検出ステップと、
前記第二の試薬と化学反応して発光する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、
前記スポットの光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、
前記マイクロアレイ基板上に設けられた確認マーク及び前記基板位置決定用マークを用いて前記1次測光解析画像と前記2次測光画像との間で相対的に生じるズレを補正する画像ズレ補正ステップと、
前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成されるマイクロアレイ測定方法。
【請求項6】
マイクロアレイ基板上に設けられた複数のスポットの発光量を測定するマイクロアレイ測定方法において、
前記マイクロアレイ基板上に設けられた基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第一の固定誤り検出ステップと、
前記スポットに予め固定された第一の試薬と化学反応する第一の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第一の基質添加ステップと、
前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して1次測光画像を生成する1次測光ステップと、
前記1次測光画像から前記スポットの位置を特定した1次測光解析画像を生成する第一の画像解析ステップと、
前記第一の基質を除去した後、前記マイクロアレイ基板上に検体と第二の試薬を添加し結合反応させ、前記スポットに予め固定された抗体と結合しなかった前記検体と前記第二の試薬を除去する検体添加ステップと、
前記基板位置決定用マークを透過した光を撮影した画像を用いて前記マイクロアレイ基板の固定位置誤りを検出する第二の固定誤り検出ステップと、
前記第二の試薬と化学反応する第二の基質を前記マイクロアレイ基板上に添加する第二の基質添加ステップと、
前記スポットに励起光を照射し、前記スポットからの蛍光を撮影して2次測光画像を生成する2次測光ステップと、
前記マイクロアレイ基板上に設けられた確認マーク及び前記基板位置決定用マークを用いて前記1次測光解析画像と前記2次測光画像との間で相対的に生じるズレを補正する画像ズレ補正ステップと、
前記1次測光解析画像を用いて前記2次測光画像内の前記スポットの位置を特定し、前記スポットの発光量を測定する第二の画像解析ステップとで構成されるマイクロアレイ測定方法。
【請求項7】
前記画像ズレ補正ステップは、
対角に位置する前記確認マークの中心座標同士を直線で結び、
前記直線上の中点位置を算出し、
1次測光解析画像内の前記確認マークの中点位置に対して前記2次測光画像内の前記確認マークの中点位置が一致するように前記2次測光画像を移動させ、
前記中点が一致した位置を基準に、
前記1次測光解析画像内の前記確認マークの中心座標に対して前記2次測光画像内の前記確認マークの中心座標が一致するまで前記2次測光画像を回転移動させることでズレを補正する請求項4から6のいずれか一項に記載のマイクロアレイ測定方法。
【請求項8】
前記画像ズレ補正ステップは、
前記基板位置決定用マークに隣接する前記確認マークの中心座標を原点座標とし、
前記1次測光解析画像から得られた原点座標に対し、前記2次測光画像から得られた原点座標が一致するように前記2次測光画像を移動させ、
前記原点座標が一致した位置を基準に、前記1次測光解析画像内の原点座標と対角に位置する前記確認マークの中心座標に対して前記2次測光画像内の原点座標と対角に位置する前記確認マークの中心座標位置が一致するまで前記2次測光画像を回転移動させることでズレを補正する請求項4から6のいずれか一項に記載のマイクロアレイ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図10】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−66146(P2010−66146A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233211(P2008−233211)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】