マイクロストリップアンテナ
【課題】送受信間結合を小さくする励振素子を従来より小型に、かつ簡単な構成で実現可能な送受分離型のマイクロストリップアンテナを提供する。
【解決手段】本発明のマイクロストリップアンテナは、誘電体基板上に形成された送信用パッチに、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線から電磁結合により給電して電波を送信する送信用マイクロストリップアンテナと、無給電素子と上記誘電体基板上に上記無給電素子と空間を隔てて対向して形成された励振素子とにより受信した電波を、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線に電磁結合により給電する受信用マイクロストリップアンテナとをそれぞれ少なくとも1つずつ備え、上記励振素子は複数の金属片から構成され、各金属片の隣接部分はメアンダ状の一定幅の間隙により隔てられている。
【解決手段】本発明のマイクロストリップアンテナは、誘電体基板上に形成された送信用パッチに、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線から電磁結合により給電して電波を送信する送信用マイクロストリップアンテナと、無給電素子と上記誘電体基板上に上記無給電素子と空間を隔てて対向して形成された励振素子とにより受信した電波を、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線に電磁結合により給電する受信用マイクロストリップアンテナとをそれぞれ少なくとも1つずつ備え、上記励振素子は複数の金属片から構成され、各金属片の隣接部分はメアンダ状の一定幅の間隙により隔てられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に移動体通信用基地局で用いられる送受分離型のマイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロストリップアンテナを基地局アンテナとして用いる場合、受信用アンテナと送信用アンテナとを、分離しつつ設置スペースを小さくするため、同一のレドーム内に一体的に構成することが望ましい。
【0003】
図24に、本発明の基礎技術である送受分離型のマイクロストリップアンテナ100の構成例を示す(非特許文献1参照)。図24(a)は分解斜視図、図24(b)は図24(a)のA−A断面図である。
【0004】
マイクロストリップアンテナ100は、受信用マイクロストリップアンテナ110と送信用マイクロストリップアンテナ120とから構成され、これらをそれぞれ少なくとも1つずつ備える。更に具体的には、受信用マイクロストリップアンテナ110と送信用マイクロストリップアンテナ120の共通部分として、誘電体基板101、グランド板102、誘電体基板103、レドーム104を備え、受信用マイクロストリップアンテナ110については、受信用パッチ111、給電線112、無給電素子113、スロット114を備え、送信用マイクロストリップアンテナ120については、送信用パッチ121、給電線122、無給電素子123、スロット124を備える。
【0005】
受信用マイクロストリップアンテナ110は、誘電体基板101上に形成された受信用パッチ111に、誘電体基板101の裏面に被着したグランド板102に形成されたスロット114を介して給電線112に電磁結合により給電する。電磁結合により給電するのは、給電線からの放射によるパッチの放射パターンの乱れを回避するためである。なお、受信用パッチ111は、空間130を介して対向して配置される無給電素子113と一体的に機能することで広い共振周波数帯域を実現する。また、グランド板124と給電線112との間には誘電体基板103が挿入されている。
【0006】
送信用マイクロストリップアンテナ120についても受信用マイクロストリップアンテナ110と同様な構成であり、誘電体基板101上に形成された送信用パッチ121に、誘電体基板101の裏面に被着したグランド板102に形成されたスロット124を介して給電線122から電磁結合により給電し電波を送信する。また、送信用パッチ121は、空間130を介して対向して配置される無給電素子123と一体的に機能し、グランド板124と給電線122との間には、誘電体基板103が挿入されている。
【0007】
なお、受信用マイクロストリップアンテナ110と送信用マイクロストリップアンテナ120は、誘電体のカバーであるレドーム104により一体的に覆われ、無給電素子113、123はこのレドーム104のパッチに対向する側の面に被着される。
【0008】
マイクロストリップアンテナ100のSパラメータの周波数特性の例を図25に示す。なお、Sパラメータは受信用アンテナを端子1として、送信用アンテナを端子2としてとったものであり、従ってS12が送信用アンテナから受信用アンテナに回り込む送受信結合量を表す(以下同様)。図25からわかるように、マイクロストリップアンテナ100においては、Txの両矢印で示した送信周波数帯域内(送信用マイクロストリップアンテナ120のVSWRが1.5以下(S22が−13.9dB以下)となる周波数帯域)において最大で−23dBの送受信間結合が生じている。
【0009】
送受信間結合は送信用アンテナと受信用アンテナとの距離を広げれば小さくすることができるが、アンテナ全体が大きくなり、設置スペースを小さくすべく両者を一体構成する意味が無くなる。そこで、送信用アンテナと受信用アンテナとの距離を広げることなく送受信間結合を小さくする発明が特許文献1に開示されている。
【0010】
図26に、特許文献1の発明による送受分離型のマイクロストリップアンテナ200の構成例を示す。図26(a)は分解斜視図、図26(b)は図26(a)のB−B断面図、図26(c)は励振素子211の平面図である。
【0011】
マイクロストリップアンテナ200は、受信用マイクロストリップアンテナ210と送信用マイクロストリップアンテナ120とから構成される。マイクロストリップアンテナ100との違いは、受信用パッチ111が励振素子211に置き換わっている点にあり、その他については同じである。そこで、先に説明した構成要素と内容が全く同じ構成要素については同じ符号を付し説明を省略する(以下同様)。
【0012】
励振素子211と無給電素子113は一体的に受信用パッチとして機能するが、励振素子211を図26に示すような複数の(長方形や台形の)短冊状素子により構成することで、励振素子211がフィルタの効果を奏し、送受信間結合量を小さくすることができる。具体的には図27からわかるように、マイクロストリップアンテナ200(ここでは励振素子211を図26(c)に示すような長方形の短冊状素子211aと211bの2個で構成)においては、Txの両矢印で示した送信周波数帯域内において送受信間結合量を最大でも−29.7dBに抑えることができている。ここで、2個の短冊状素子の長手方向の長さL00、L01はそれぞれ0.27λ0、0.31λ0(λ0は送信周波数帯の下限周波数における波長)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−71795号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nirod. K. Das and David M. Pozar、"Multiport scattering analysis of general multilayered printed antennas fed by multiple feed ports: II. Applications"、IEEE Trans. On Antennas and Propagation、1992年5月、Vol.40, No.5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1で開示された構成によれば、送受信間結合を抑制することができるが、図27で例示したような送受信間結合特性を得るためには、励振素子211を構成する短冊状素子の長さを対向する無給電素子113の長さとほぼ同じにする必要がある。また、励振素子は偏波方向に依存性がある。そのため、特許文献1で開示された構成を用いて偏波共用アンテナを実現するには別に直交偏波用の励振素子を設ける必要があり、このアンテナをある限られた大きさで実現しようとすると、直交偏波用の励振素子を同一平面内に設ける場合には、面積の不足から2つの励振素子が接触し励振素子として正常に動作させることができない恐れがある。また、直交偏波用の励振素子を積層することも考えられるが、この場合には重なり合う励振素子相互の影響が大きく所望の特性を得ることが難しい。
【0016】
本発明の目的は上記の問題点を解決すべく、送受信間結合を小さくする励振素子を従来より小型に、かつ簡単な構成で実現可能な送受分離型のマイクロストリップアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のマイクロストリップアンテナは、誘電体基板上に形成された送信用パッチに、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線から電磁結合により給電して電波を送信する送信用マイクロストリップアンテナと、無給電素子と上記誘電体基板上に上記無給電素子と空間を隔てて対向して形成された励振素子とにより受信した電波を、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線に電磁結合により給電する受信用マイクロストリップアンテナとをそれぞれ少なくとも1つずつ備え、上記励振素子は複数の金属片から構成され、各金属片の隣接部分はメアンダ状の一定幅の間隙により隔てられている。さらに、上記金属片の間隙の中心が、上記スロットの中心と対向しないように配置してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマイクロストリップアンテナによれば、送受信間結合を小さくする励振素子を従来より小型に、かつ簡単な構成で実現することができる。そのため、アンテナの大きさを変えることなく同一平面内に直交偏波用励振素子を配置することができ、かつ、製造も容易に行うことができる。さらに、上記金属片の間隙の中心が上記スロットの中心と対向しないように配置すれば、広帯域性とフィルタ機能とを両立した送受別アンテナを、簡単な構成で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のマイクロストリップアンテナの構成例を示す分解斜視図。
【図2】図1のマイクロストリップアンテナの平面図及び断面図。
【図3】本発明のマイクロストリップアンテナで用いる励振素子の構成例を示す図。
【図4】図3の励振素子を用いた場合のSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【図5】励振素子の電流分布の使用周波数帯による相違を示すイメージ図。
【図6】励振素子を構成する2つの金属片の長さの比を変えた場合のSパラメータの周波数特性の相違を示す図。
【図7】励振素子の位置をスロットの位置に対してオフセットするイメージを示す図。
【図8】励振素子をオフセットした場合のSパラメータの周波数特性の相違を示す図。
【図9】実施例1変形例3の受信用マイクロストリップアンテナの構成を示す図。
【図10】y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図。
【図11】y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図。
【図12】x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図。
【図13】x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図。
【図14】オフセット量をx方向とy方向ともに0.018 l0にした受信用マイクロストリップアンテナを、図1のマイクロストリップアンテナに用いたときのSパラメータを示す図。
【図15】励振素子と受信用パッチとの相対位置を変えるイメージを示す図。
【図16】励振素子と受信用パッチとの相対位置を変えた場合のSパラメータの周波数特性を示す図。
【図17】本発明のマイクロストリップアンテナで用いる励振素子の別の構成例を示す図。
【図18】図17の励振素子を用いた場合のSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【図19】2つの励振素子を直交配置するイメージを示す図。
【図20】金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cがスロット114の中心と対向しないように配置した受信用マイクロストリップアンテナの2つを直交配置するイメージを示す図。
【図21】図20の受信用マイクロストリップアンテナと、2組のスロット124と給電線122を方向が直交するように配置した送信用マイクロストリップアンテナとを図1のマイクロストリップアンテナに用いた場合の反射減衰量を示す図。
【図22】図20の受信用マイクロストリップアンテナと、2組のスロット124と給電線122を方向が直交するように配置した送信用マイクロストリップアンテナとを図1のマイクロストリップアンテナに用いた場合の相互結合量を示す図。
【図23】本発明のマイクロストリップアンテナをアレー構成する例を示す図。
【図24】従来のマイクロストリップアンテナの構成例を示す分解斜視図及び断面図。
【図25】図24のマイクロストリップアンテナのSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【図26】従来のマイクロストリップアンテナの別の構成例を示す分解斜視図及び断面図。
【図27】図26のマイクロストリップアンテナのSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0021】
図1に本発明のマイクロストリップアンテナ300の構成例の分解斜視図を、図2(a)にその平面図を、図2(b)に図2(a)のC−C断面図をそれぞれ示す。
【0022】
マイクロストリップアンテナ300は、受信用マイクロストリップアンテナ310と送信用マイクロストリップアンテナ120とから構成される。特許文献1の発明に係る従来のマイクロストリップアンテナ200との相違は、励振素子211が励振素子311に置き換わっている点にあり、その他の構成要素の内容はマイクロストリップアンテナ200と同じである。
【0023】
励振素子311の構成例を図3に示す。励振素子311は、複数(図3の例では金属片311aと金属片311bの2個)の金属片から構成され、各金属片の隣接部分はメアンダ状の一定幅gの間隙により隔てられている。
【0024】
図4に、図3に示す励振素子311を用いたマイクロストリップアンテナ300のSパラメータの周波数特性の例を示す。なお、金属片311aの長さL1は0.17λ0、金属片311bの長さL0は0.16λ0であり、マイクロストリップアンテナ300の真上から見た時、図7(a)に示すように励振素子311の間隙の中心Cとスロット114の中心とが一致した状態で対向しており、また、図15(a)に示すように励振素子311は無給電素子113の角の部分(この例では左下)に対向している。図4から、受信用マイクロストリップアンテナ310の共振周波数帯域Rxの高域における反射減衰量特性S11は急峻になっており、送信用マイクロストリップアンテナ120の共振周波数帯域Txと近接しているにもかかわらず、周波数帯域Txにおける反射減衰量S11は非常に低いレベルに抑えられていることがわかる。また、周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12の最悪値も−27.3dBに低減できていることがわかる。
【0025】
以上のように、マイクロストリップアンテナ300においては、励振素子311の長さがマイクロストリップアンテナ200の励振素子211の長さ(L00=0.27λ0、L01=0.31λ0)より40%以上短縮されているにもかかわらず送信周波数帯域において、マイクロストリップアンテナ100に比べて優れた特性を、またマイクロストリップアンテナ200とほぼ同等な特性を得ることができる。
【0026】
励振素子311にメアンダ状の間隙を設けることで良好な特性が得られるのは、マイクロストリップアンテナ200と同様、励振素子がフィルタの効果を奏しているためである。マイクロストリップアンテナ100の場合、観測周波数にかかわらず受信用パッチ111に流れる電流の向きは一定である(特許文献1参照)。一方、マイクロストリップアンテナ300において受信用パッチ111に対応する励振素子311上の大まかな電流分布を図5(a)、(b)に示す。図5(a)は低い周波数帯域(受信周波数帯域Rx)、図5(b)は高い周波数帯域(送信周波数帯域Tx)における電流分布である。また、矢印の方向が電流の方向を示し、矢印が太いほど電流が大きいことを示す。図5(a)、(b)から、受信周波数帯域ではメアンダ状の間隙の経路長が長い金属片311aに金属片311bより大きな電流が流れてアンテナとして動作する一方、送信周波数帯域では双方の金属片にほぼ同じ大きさの逆向きの電流が流れるため、相殺してアンテナとして動作しなくなると考えられる。このような原理により、受信周波数帯域Rxの高域における反射減衰量S11の急峻化と送信周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12の低減というフィルタ効果を奏すると考えられる。
【0027】
[変形例1]
図4に示したSパラメータの周波数特性は、励振素子311の金属素子311aの長さL1と金属素子311bの長さL0との比L1/L0が約1.1である場合の特性を示したものであるが、この比を変えても本発明の効果を奏する。図6にL1/L0を1.0(L1=L0)から1.28まで6段階に変化させた場合の送受信間結合特性S12を示す。図6から、L1/L0の値が大きいほどS12特性の落ち込み部分が低域にシフトし、つまりフィルタとして動作する遮断周波数が低域にシフトすることがわかる。このように、L1/L0の値を変化させることで、励振素子311がフィルタとして動作する周波数を所望の周波数に調整することができる。
【0028】
[変形例2]
図4に示したSパラメータの周波数特性は、マイクロストリップアンテナ300を真上から見た時に、図7(a)に示すように励振素子311の間隙の中心Cとスロット114の中心とが一致した状態で対向している時の特性である。しかし、励振素子311をスロット114に対してオフセットした場合においても本発明の効果を奏する。図7(b)は、図7(a)に示すオフセットしていない状態を0として、紙面右方向を+方向、左方向を−方向と定義した場合に、+方向にオフセットした状態を示したものである。図8に±2mmの範囲で励振素子311をオフセットした場合の送受信間結合特性S12を示す。図8から、−方向にオフセットするほどフィルタとして動作する遮断周波数が低域にシフトし、かつS12特性のくぼみが急峻になることがわかる。このように、励振素子311をスロット114に対してオフセットすることで、励振素子311がフィルタとして動作する周波数を所望の周波数に調整することができる。
【0029】
[変形例3]
実施例1のマイクロストリップアンテナ300では、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cが、スロット114の中心と対向するように配置していた。このような構成の場合、図4のような受信間結合S12特性を得るためには、受信アンテナの比帯域幅がフィルタ動作素子なしモデル(非特許文献1)より狭帯域になることが分かる。一方、偏波共用アンテナを構成した場合、送信帯域内における送受信間結合S12特性を低減しつつ、受信アンテナの比帯域幅が広いことが要求される。しかし、フィルタ機能とアンテナの広帯域化の両立が難しいことから、受信アンテナの広帯域性と送受信間結合抑制の両方を実現することが困難であった。また、変形例2では、励振素子311をオフセットした場合にも実施例1と同様の効果が得られることを示した。
【0030】
本変形例では、積極的に励振素子311をオフセットした場合について示す。図9は、本変形例のマイクロストリップアンテナの構成を示す図であって、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cが、スロット114の中心と対向しないように配置されている。図9の紙面左右方向がx方向、紙面上下方向がy方向であり、紙面右側がx方向の+、紙面上側がy方向の+である。図9の例では、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cは、スロットの中心よりも+x方向、+y方向にオフセットされている。
【0031】
図10は、y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図である。図11は、y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図である。基地局アンテナとして使うためには、VSWRが1.5以下となる受信アンテナ比帯域幅と送信周波数帯域内の送受信間結合(送信帯域内の最悪値)を評価する必要がある。図10から、本発明の構成を用いて励振素子の中心(金属片311aと金属片311bの間隙の中心C)を給電スロットの中心からx方向にオフセットして配置することによって、受信アンテナの比帯域幅が大きくなることが分かる。また、図11から、x方向のオフセットの増加に伴ってローパスフィルタとして動作するカットオフ周波数が低域にシフトすることが分かる。なお、図10、11の結果では、x方向のオフセットが約0.018 l0の時、受信アンテナの比帯域幅が一番広く取れることが分かる。
【0032】
図12は、x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図である。図13は、x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図である。図12より、y方向にオフセットしない時と比べ、y方向にオフセット配置した方が受信アンテナの比帯域幅が増加することが分かる。また、図13より、y方向にオフセット配置しても、送受信間結合を表すS21特性がほとんど変わらないことが分かる。つまり、y方向へのオフセット配置は、送信帯域内における送受信間結合特性を維持しながら、受信アンテナの広帯域化を実現できる。
【0033】
このようにS11の広帯域化ができる理由は、受信アンテナの比帯域幅に影響を与える給電スロットと励振素子との電磁結合が改善されたことと考えられる。また、フィルタとして機能するために、メアンダ状の隙間を狭くする必要があるが、そうすることで給電スロットと励振素子との電磁結合が難しくなり、受信アンテナの比帯域幅が狭くなったと考えられる。そして、給電スロットと励振素子との相対位置をオフセット配置することにより、給電スロットから放射された電波が励振素子に励振しやすくなり、結果として受信アンテナの比帯域幅拡大に貢献できたと考えられる。
【0034】
オフセット量をx方向とy方向ともに0.018 l0にした受信用マイクロストリップアンテナを、図1のマイクロストリップアンテナに用いたときのSパラメータを図14に示す。送信アンテナから受信側への回り込み(送受信間結合:S12)は、送信帯域内での最悪値を約−36.8dBにでき、なおかつ受信アンテナの比帯域幅を約11.6%と広帯域化できた。実施例1の受信アンテナの比帯域幅は約4.8%だったが、本変形例の構成を用いることにより、受信アンテナ比帯域幅を約2.4倍拡大できる。このように、本変形例のマイクロストリップアンテナは、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cがスロット114の中心と対向しないように配置されているので、広帯域性とフィルタ機能とを両立した送受別アンテナを、簡単な構成で実現できる。
【実施例2】
【0035】
図4に示したSパラメータの周波数特性は、マイクロストリップアンテナ300を真上から見た時に、図15(a)に示すように励振素子311が無給電素子113の角の部分(この例では左下)に対向している時の特性である。しかし、励振素子311と無給電素子113との相対位置を変えても実施例1と同様な効果を奏する。例えば、図15(b)に示すように励振素子311を無給電素子113の中央部分に対向配置した場合のSパラメータの周波数特性を図16に示す。図16から、送信周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12が最悪でも−30dBとれていることがわかる。このように、励振素子311と無給電素子113との相対位置を変えても、励振素子311はフィルタとして動作し、送受信間結合量を低減させることができる。
【実施例3】
【0036】
図4に示したSパラメータの周波数特性は、励振素子311が図3の形状である場合の特性である。しかし、メアンダ状の間隙が図17に示すように迂回するルートが異なるものであっても図18に示すように、受信周波数帯域Rxの高域における反射減衰量S11の急峻化と送信周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12の低減(この例では約−27dB)というフィルタ効果を奏する。また、図17の形状を図3の形状の場合と同様な外形寸法(同じ長さL0、L1、幅w、間隙幅g)で構成した場合、メアンダ状の間隙の経路長が長くなるため、フィルタとして動作する遮断周波数が低域にシフトする。言いかえれば、図3の形状の場合と同じ遮断周波数のフィルタを、より小さい外形の励振素子で実現できる。このように、励振素子311内でのメアンダ状の間隙の迂回ルートを変えることで、励振素子311がフィルタとして動作する周波数を所望の周波数に調整することができる。
【実施例4】
【0037】
上記各実施例に示すように、励振素子211より40%以上小型化された励振素子311を用いることで、同一平面内に2個の励振素子311を配置することも可能となる。そのため、例えば図19に示すように、各励振素子の長手方向が直交するように2個の励振素子311を誘電体基板101上に配置することで、直交偏波共用アンテナにおいてもアンテナサイズを拡大することなく送受信間結合の抑制効果を得ることが可能となる。なお、直交偏波用励振素子の適用時には、給電線112についても同一平面内に直交偏波用給電線を設ける必要がある。この場合、各給電線112が互いに接触しないよう、図19に示すように各給電線112の先端を曲げても構わないが、開放端の長さを先端を曲げない場合と同じにしないと受信アンテナや送信アンテナのインピーダンス整合に影響が生じるため、その点につき留意が必要である。
【0038】
[変形例]
図20に、各励振素子の長手方向が直交するように2個の励振素子311を誘電体基板101上に配置した構成であって、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cがスロット114の中心と対向しないように配置した受信用マイクロストリップアンテナの例を示す。この受信用マイクロストリップアンテナと、2組のスロット124と給電線122を方向が直交するように配置した送信用マイクロストリップアンテナとを図1のマイクロストリップアンテナに用いた場合の反射減衰量を図21に、送信アンテナから受信アンテナへの回り込みを示す相互結合量を図22に示す。図21のS11、S33が受信用アンテナの2つの偏波の反射減衰量を、S22、S44が送信用アンテナの2つの偏波の反射減衰量を示している。図22のS12、S21が一方の偏波の送信用アンテナと受信用アンテナの相互結合量を、S34、S43が他方の偏波の送信用アンテナと受信用アンテナの相互結合量を示している。図21、22から分かるように、偏波共用アンテナの場合にも、実施例1変形例3と同じように、受信アンテナの比帯域幅拡大と送信帯域内の送受信間結合低減を両立できる。
【実施例5】
【0039】
基地局アンテナとして所望の利得を得るために、レドーム104内に本発明の受信用マイクロストリップアンテナ310及び送信用マイクロストリップアンテナ120を複数個、一列に配置することが考えられる。図23は、受信アンテナと送信アンテナとの組(図1に示したマイクロストリップアンテナ)をレドーム内に2組配置し背面にトーナメント状の給電線路を設けて送受分離型のマイクロストリップアンテナを構成する例を示したものである。この場合、受信アンテナR#1とR#2として本発明の受信用マイクロストリップアンテナ310を配置することにより、送信アンテナT#1とT#2からの不要な回り込みを防ぐことができる。
【0040】
なお、図23では1つの偏波用のアンテナを並べた例を示したが、この例に限定する必要は無い。実施例4、実施例4変形例で示した偏波共用アンテナを複数個並べたときも、同じ効果が得られる。
【符号の説明】
【0041】
100、200、300 マイクロストリップアンテナ
101、103 誘電体基板
102 グランド板
104 レドーム
110、210、310 受信用マイクロストリップアンテナ
111 受信用パッチ
112、122 給電線
113、123 無給電素子
114、124 スロット
120 送信用マイクロストリップアンテナ
211、311 励振素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に移動体通信用基地局で用いられる送受分離型のマイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロストリップアンテナを基地局アンテナとして用いる場合、受信用アンテナと送信用アンテナとを、分離しつつ設置スペースを小さくするため、同一のレドーム内に一体的に構成することが望ましい。
【0003】
図24に、本発明の基礎技術である送受分離型のマイクロストリップアンテナ100の構成例を示す(非特許文献1参照)。図24(a)は分解斜視図、図24(b)は図24(a)のA−A断面図である。
【0004】
マイクロストリップアンテナ100は、受信用マイクロストリップアンテナ110と送信用マイクロストリップアンテナ120とから構成され、これらをそれぞれ少なくとも1つずつ備える。更に具体的には、受信用マイクロストリップアンテナ110と送信用マイクロストリップアンテナ120の共通部分として、誘電体基板101、グランド板102、誘電体基板103、レドーム104を備え、受信用マイクロストリップアンテナ110については、受信用パッチ111、給電線112、無給電素子113、スロット114を備え、送信用マイクロストリップアンテナ120については、送信用パッチ121、給電線122、無給電素子123、スロット124を備える。
【0005】
受信用マイクロストリップアンテナ110は、誘電体基板101上に形成された受信用パッチ111に、誘電体基板101の裏面に被着したグランド板102に形成されたスロット114を介して給電線112に電磁結合により給電する。電磁結合により給電するのは、給電線からの放射によるパッチの放射パターンの乱れを回避するためである。なお、受信用パッチ111は、空間130を介して対向して配置される無給電素子113と一体的に機能することで広い共振周波数帯域を実現する。また、グランド板124と給電線112との間には誘電体基板103が挿入されている。
【0006】
送信用マイクロストリップアンテナ120についても受信用マイクロストリップアンテナ110と同様な構成であり、誘電体基板101上に形成された送信用パッチ121に、誘電体基板101の裏面に被着したグランド板102に形成されたスロット124を介して給電線122から電磁結合により給電し電波を送信する。また、送信用パッチ121は、空間130を介して対向して配置される無給電素子123と一体的に機能し、グランド板124と給電線122との間には、誘電体基板103が挿入されている。
【0007】
なお、受信用マイクロストリップアンテナ110と送信用マイクロストリップアンテナ120は、誘電体のカバーであるレドーム104により一体的に覆われ、無給電素子113、123はこのレドーム104のパッチに対向する側の面に被着される。
【0008】
マイクロストリップアンテナ100のSパラメータの周波数特性の例を図25に示す。なお、Sパラメータは受信用アンテナを端子1として、送信用アンテナを端子2としてとったものであり、従ってS12が送信用アンテナから受信用アンテナに回り込む送受信結合量を表す(以下同様)。図25からわかるように、マイクロストリップアンテナ100においては、Txの両矢印で示した送信周波数帯域内(送信用マイクロストリップアンテナ120のVSWRが1.5以下(S22が−13.9dB以下)となる周波数帯域)において最大で−23dBの送受信間結合が生じている。
【0009】
送受信間結合は送信用アンテナと受信用アンテナとの距離を広げれば小さくすることができるが、アンテナ全体が大きくなり、設置スペースを小さくすべく両者を一体構成する意味が無くなる。そこで、送信用アンテナと受信用アンテナとの距離を広げることなく送受信間結合を小さくする発明が特許文献1に開示されている。
【0010】
図26に、特許文献1の発明による送受分離型のマイクロストリップアンテナ200の構成例を示す。図26(a)は分解斜視図、図26(b)は図26(a)のB−B断面図、図26(c)は励振素子211の平面図である。
【0011】
マイクロストリップアンテナ200は、受信用マイクロストリップアンテナ210と送信用マイクロストリップアンテナ120とから構成される。マイクロストリップアンテナ100との違いは、受信用パッチ111が励振素子211に置き換わっている点にあり、その他については同じである。そこで、先に説明した構成要素と内容が全く同じ構成要素については同じ符号を付し説明を省略する(以下同様)。
【0012】
励振素子211と無給電素子113は一体的に受信用パッチとして機能するが、励振素子211を図26に示すような複数の(長方形や台形の)短冊状素子により構成することで、励振素子211がフィルタの効果を奏し、送受信間結合量を小さくすることができる。具体的には図27からわかるように、マイクロストリップアンテナ200(ここでは励振素子211を図26(c)に示すような長方形の短冊状素子211aと211bの2個で構成)においては、Txの両矢印で示した送信周波数帯域内において送受信間結合量を最大でも−29.7dBに抑えることができている。ここで、2個の短冊状素子の長手方向の長さL00、L01はそれぞれ0.27λ0、0.31λ0(λ0は送信周波数帯の下限周波数における波長)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−71795号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nirod. K. Das and David M. Pozar、"Multiport scattering analysis of general multilayered printed antennas fed by multiple feed ports: II. Applications"、IEEE Trans. On Antennas and Propagation、1992年5月、Vol.40, No.5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1で開示された構成によれば、送受信間結合を抑制することができるが、図27で例示したような送受信間結合特性を得るためには、励振素子211を構成する短冊状素子の長さを対向する無給電素子113の長さとほぼ同じにする必要がある。また、励振素子は偏波方向に依存性がある。そのため、特許文献1で開示された構成を用いて偏波共用アンテナを実現するには別に直交偏波用の励振素子を設ける必要があり、このアンテナをある限られた大きさで実現しようとすると、直交偏波用の励振素子を同一平面内に設ける場合には、面積の不足から2つの励振素子が接触し励振素子として正常に動作させることができない恐れがある。また、直交偏波用の励振素子を積層することも考えられるが、この場合には重なり合う励振素子相互の影響が大きく所望の特性を得ることが難しい。
【0016】
本発明の目的は上記の問題点を解決すべく、送受信間結合を小さくする励振素子を従来より小型に、かつ簡単な構成で実現可能な送受分離型のマイクロストリップアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のマイクロストリップアンテナは、誘電体基板上に形成された送信用パッチに、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線から電磁結合により給電して電波を送信する送信用マイクロストリップアンテナと、無給電素子と上記誘電体基板上に上記無給電素子と空間を隔てて対向して形成された励振素子とにより受信した電波を、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線に電磁結合により給電する受信用マイクロストリップアンテナとをそれぞれ少なくとも1つずつ備え、上記励振素子は複数の金属片から構成され、各金属片の隣接部分はメアンダ状の一定幅の間隙により隔てられている。さらに、上記金属片の間隙の中心が、上記スロットの中心と対向しないように配置してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマイクロストリップアンテナによれば、送受信間結合を小さくする励振素子を従来より小型に、かつ簡単な構成で実現することができる。そのため、アンテナの大きさを変えることなく同一平面内に直交偏波用励振素子を配置することができ、かつ、製造も容易に行うことができる。さらに、上記金属片の間隙の中心が上記スロットの中心と対向しないように配置すれば、広帯域性とフィルタ機能とを両立した送受別アンテナを、簡単な構成で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のマイクロストリップアンテナの構成例を示す分解斜視図。
【図2】図1のマイクロストリップアンテナの平面図及び断面図。
【図3】本発明のマイクロストリップアンテナで用いる励振素子の構成例を示す図。
【図4】図3の励振素子を用いた場合のSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【図5】励振素子の電流分布の使用周波数帯による相違を示すイメージ図。
【図6】励振素子を構成する2つの金属片の長さの比を変えた場合のSパラメータの周波数特性の相違を示す図。
【図7】励振素子の位置をスロットの位置に対してオフセットするイメージを示す図。
【図8】励振素子をオフセットした場合のSパラメータの周波数特性の相違を示す図。
【図9】実施例1変形例3の受信用マイクロストリップアンテナの構成を示す図。
【図10】y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図。
【図11】y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図。
【図12】x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図。
【図13】x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図。
【図14】オフセット量をx方向とy方向ともに0.018 l0にした受信用マイクロストリップアンテナを、図1のマイクロストリップアンテナに用いたときのSパラメータを示す図。
【図15】励振素子と受信用パッチとの相対位置を変えるイメージを示す図。
【図16】励振素子と受信用パッチとの相対位置を変えた場合のSパラメータの周波数特性を示す図。
【図17】本発明のマイクロストリップアンテナで用いる励振素子の別の構成例を示す図。
【図18】図17の励振素子を用いた場合のSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【図19】2つの励振素子を直交配置するイメージを示す図。
【図20】金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cがスロット114の中心と対向しないように配置した受信用マイクロストリップアンテナの2つを直交配置するイメージを示す図。
【図21】図20の受信用マイクロストリップアンテナと、2組のスロット124と給電線122を方向が直交するように配置した送信用マイクロストリップアンテナとを図1のマイクロストリップアンテナに用いた場合の反射減衰量を示す図。
【図22】図20の受信用マイクロストリップアンテナと、2組のスロット124と給電線122を方向が直交するように配置した送信用マイクロストリップアンテナとを図1のマイクロストリップアンテナに用いた場合の相互結合量を示す図。
【図23】本発明のマイクロストリップアンテナをアレー構成する例を示す図。
【図24】従来のマイクロストリップアンテナの構成例を示す分解斜視図及び断面図。
【図25】図24のマイクロストリップアンテナのSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【図26】従来のマイクロストリップアンテナの別の構成例を示す分解斜視図及び断面図。
【図27】図26のマイクロストリップアンテナのSパラメータの周波数特性の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0021】
図1に本発明のマイクロストリップアンテナ300の構成例の分解斜視図を、図2(a)にその平面図を、図2(b)に図2(a)のC−C断面図をそれぞれ示す。
【0022】
マイクロストリップアンテナ300は、受信用マイクロストリップアンテナ310と送信用マイクロストリップアンテナ120とから構成される。特許文献1の発明に係る従来のマイクロストリップアンテナ200との相違は、励振素子211が励振素子311に置き換わっている点にあり、その他の構成要素の内容はマイクロストリップアンテナ200と同じである。
【0023】
励振素子311の構成例を図3に示す。励振素子311は、複数(図3の例では金属片311aと金属片311bの2個)の金属片から構成され、各金属片の隣接部分はメアンダ状の一定幅gの間隙により隔てられている。
【0024】
図4に、図3に示す励振素子311を用いたマイクロストリップアンテナ300のSパラメータの周波数特性の例を示す。なお、金属片311aの長さL1は0.17λ0、金属片311bの長さL0は0.16λ0であり、マイクロストリップアンテナ300の真上から見た時、図7(a)に示すように励振素子311の間隙の中心Cとスロット114の中心とが一致した状態で対向しており、また、図15(a)に示すように励振素子311は無給電素子113の角の部分(この例では左下)に対向している。図4から、受信用マイクロストリップアンテナ310の共振周波数帯域Rxの高域における反射減衰量特性S11は急峻になっており、送信用マイクロストリップアンテナ120の共振周波数帯域Txと近接しているにもかかわらず、周波数帯域Txにおける反射減衰量S11は非常に低いレベルに抑えられていることがわかる。また、周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12の最悪値も−27.3dBに低減できていることがわかる。
【0025】
以上のように、マイクロストリップアンテナ300においては、励振素子311の長さがマイクロストリップアンテナ200の励振素子211の長さ(L00=0.27λ0、L01=0.31λ0)より40%以上短縮されているにもかかわらず送信周波数帯域において、マイクロストリップアンテナ100に比べて優れた特性を、またマイクロストリップアンテナ200とほぼ同等な特性を得ることができる。
【0026】
励振素子311にメアンダ状の間隙を設けることで良好な特性が得られるのは、マイクロストリップアンテナ200と同様、励振素子がフィルタの効果を奏しているためである。マイクロストリップアンテナ100の場合、観測周波数にかかわらず受信用パッチ111に流れる電流の向きは一定である(特許文献1参照)。一方、マイクロストリップアンテナ300において受信用パッチ111に対応する励振素子311上の大まかな電流分布を図5(a)、(b)に示す。図5(a)は低い周波数帯域(受信周波数帯域Rx)、図5(b)は高い周波数帯域(送信周波数帯域Tx)における電流分布である。また、矢印の方向が電流の方向を示し、矢印が太いほど電流が大きいことを示す。図5(a)、(b)から、受信周波数帯域ではメアンダ状の間隙の経路長が長い金属片311aに金属片311bより大きな電流が流れてアンテナとして動作する一方、送信周波数帯域では双方の金属片にほぼ同じ大きさの逆向きの電流が流れるため、相殺してアンテナとして動作しなくなると考えられる。このような原理により、受信周波数帯域Rxの高域における反射減衰量S11の急峻化と送信周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12の低減というフィルタ効果を奏すると考えられる。
【0027】
[変形例1]
図4に示したSパラメータの周波数特性は、励振素子311の金属素子311aの長さL1と金属素子311bの長さL0との比L1/L0が約1.1である場合の特性を示したものであるが、この比を変えても本発明の効果を奏する。図6にL1/L0を1.0(L1=L0)から1.28まで6段階に変化させた場合の送受信間結合特性S12を示す。図6から、L1/L0の値が大きいほどS12特性の落ち込み部分が低域にシフトし、つまりフィルタとして動作する遮断周波数が低域にシフトすることがわかる。このように、L1/L0の値を変化させることで、励振素子311がフィルタとして動作する周波数を所望の周波数に調整することができる。
【0028】
[変形例2]
図4に示したSパラメータの周波数特性は、マイクロストリップアンテナ300を真上から見た時に、図7(a)に示すように励振素子311の間隙の中心Cとスロット114の中心とが一致した状態で対向している時の特性である。しかし、励振素子311をスロット114に対してオフセットした場合においても本発明の効果を奏する。図7(b)は、図7(a)に示すオフセットしていない状態を0として、紙面右方向を+方向、左方向を−方向と定義した場合に、+方向にオフセットした状態を示したものである。図8に±2mmの範囲で励振素子311をオフセットした場合の送受信間結合特性S12を示す。図8から、−方向にオフセットするほどフィルタとして動作する遮断周波数が低域にシフトし、かつS12特性のくぼみが急峻になることがわかる。このように、励振素子311をスロット114に対してオフセットすることで、励振素子311がフィルタとして動作する周波数を所望の周波数に調整することができる。
【0029】
[変形例3]
実施例1のマイクロストリップアンテナ300では、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cが、スロット114の中心と対向するように配置していた。このような構成の場合、図4のような受信間結合S12特性を得るためには、受信アンテナの比帯域幅がフィルタ動作素子なしモデル(非特許文献1)より狭帯域になることが分かる。一方、偏波共用アンテナを構成した場合、送信帯域内における送受信間結合S12特性を低減しつつ、受信アンテナの比帯域幅が広いことが要求される。しかし、フィルタ機能とアンテナの広帯域化の両立が難しいことから、受信アンテナの広帯域性と送受信間結合抑制の両方を実現することが困難であった。また、変形例2では、励振素子311をオフセットした場合にも実施例1と同様の効果が得られることを示した。
【0030】
本変形例では、積極的に励振素子311をオフセットした場合について示す。図9は、本変形例のマイクロストリップアンテナの構成を示す図であって、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cが、スロット114の中心と対向しないように配置されている。図9の紙面左右方向がx方向、紙面上下方向がy方向であり、紙面右側がx方向の+、紙面上側がy方向の+である。図9の例では、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cは、スロットの中心よりも+x方向、+y方向にオフセットされている。
【0031】
図10は、y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図である。図11は、y方向のオフセットを0にし、x方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図である。基地局アンテナとして使うためには、VSWRが1.5以下となる受信アンテナ比帯域幅と送信周波数帯域内の送受信間結合(送信帯域内の最悪値)を評価する必要がある。図10から、本発明の構成を用いて励振素子の中心(金属片311aと金属片311bの間隙の中心C)を給電スロットの中心からx方向にオフセットして配置することによって、受信アンテナの比帯域幅が大きくなることが分かる。また、図11から、x方向のオフセットの増加に伴ってローパスフィルタとして動作するカットオフ周波数が低域にシフトすることが分かる。なお、図10、11の結果では、x方向のオフセットが約0.018 l0の時、受信アンテナの比帯域幅が一番広く取れることが分かる。
【0032】
図12は、x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS11パラメータを示す図である。図13は、x方向のオフセットを0.018 l0にし、y方向のオフセットを変更した場合のS12パラメータ(S21パラメータ)を示す図である。図12より、y方向にオフセットしない時と比べ、y方向にオフセット配置した方が受信アンテナの比帯域幅が増加することが分かる。また、図13より、y方向にオフセット配置しても、送受信間結合を表すS21特性がほとんど変わらないことが分かる。つまり、y方向へのオフセット配置は、送信帯域内における送受信間結合特性を維持しながら、受信アンテナの広帯域化を実現できる。
【0033】
このようにS11の広帯域化ができる理由は、受信アンテナの比帯域幅に影響を与える給電スロットと励振素子との電磁結合が改善されたことと考えられる。また、フィルタとして機能するために、メアンダ状の隙間を狭くする必要があるが、そうすることで給電スロットと励振素子との電磁結合が難しくなり、受信アンテナの比帯域幅が狭くなったと考えられる。そして、給電スロットと励振素子との相対位置をオフセット配置することにより、給電スロットから放射された電波が励振素子に励振しやすくなり、結果として受信アンテナの比帯域幅拡大に貢献できたと考えられる。
【0034】
オフセット量をx方向とy方向ともに0.018 l0にした受信用マイクロストリップアンテナを、図1のマイクロストリップアンテナに用いたときのSパラメータを図14に示す。送信アンテナから受信側への回り込み(送受信間結合:S12)は、送信帯域内での最悪値を約−36.8dBにでき、なおかつ受信アンテナの比帯域幅を約11.6%と広帯域化できた。実施例1の受信アンテナの比帯域幅は約4.8%だったが、本変形例の構成を用いることにより、受信アンテナ比帯域幅を約2.4倍拡大できる。このように、本変形例のマイクロストリップアンテナは、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cがスロット114の中心と対向しないように配置されているので、広帯域性とフィルタ機能とを両立した送受別アンテナを、簡単な構成で実現できる。
【実施例2】
【0035】
図4に示したSパラメータの周波数特性は、マイクロストリップアンテナ300を真上から見た時に、図15(a)に示すように励振素子311が無給電素子113の角の部分(この例では左下)に対向している時の特性である。しかし、励振素子311と無給電素子113との相対位置を変えても実施例1と同様な効果を奏する。例えば、図15(b)に示すように励振素子311を無給電素子113の中央部分に対向配置した場合のSパラメータの周波数特性を図16に示す。図16から、送信周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12が最悪でも−30dBとれていることがわかる。このように、励振素子311と無給電素子113との相対位置を変えても、励振素子311はフィルタとして動作し、送受信間結合量を低減させることができる。
【実施例3】
【0036】
図4に示したSパラメータの周波数特性は、励振素子311が図3の形状である場合の特性である。しかし、メアンダ状の間隙が図17に示すように迂回するルートが異なるものであっても図18に示すように、受信周波数帯域Rxの高域における反射減衰量S11の急峻化と送信周波数帯域Txにおける送受信間結合量S12の低減(この例では約−27dB)というフィルタ効果を奏する。また、図17の形状を図3の形状の場合と同様な外形寸法(同じ長さL0、L1、幅w、間隙幅g)で構成した場合、メアンダ状の間隙の経路長が長くなるため、フィルタとして動作する遮断周波数が低域にシフトする。言いかえれば、図3の形状の場合と同じ遮断周波数のフィルタを、より小さい外形の励振素子で実現できる。このように、励振素子311内でのメアンダ状の間隙の迂回ルートを変えることで、励振素子311がフィルタとして動作する周波数を所望の周波数に調整することができる。
【実施例4】
【0037】
上記各実施例に示すように、励振素子211より40%以上小型化された励振素子311を用いることで、同一平面内に2個の励振素子311を配置することも可能となる。そのため、例えば図19に示すように、各励振素子の長手方向が直交するように2個の励振素子311を誘電体基板101上に配置することで、直交偏波共用アンテナにおいてもアンテナサイズを拡大することなく送受信間結合の抑制効果を得ることが可能となる。なお、直交偏波用励振素子の適用時には、給電線112についても同一平面内に直交偏波用給電線を設ける必要がある。この場合、各給電線112が互いに接触しないよう、図19に示すように各給電線112の先端を曲げても構わないが、開放端の長さを先端を曲げない場合と同じにしないと受信アンテナや送信アンテナのインピーダンス整合に影響が生じるため、その点につき留意が必要である。
【0038】
[変形例]
図20に、各励振素子の長手方向が直交するように2個の励振素子311を誘電体基板101上に配置した構成であって、金属片311aと金属片311bの間隙の中心Cがスロット114の中心と対向しないように配置した受信用マイクロストリップアンテナの例を示す。この受信用マイクロストリップアンテナと、2組のスロット124と給電線122を方向が直交するように配置した送信用マイクロストリップアンテナとを図1のマイクロストリップアンテナに用いた場合の反射減衰量を図21に、送信アンテナから受信アンテナへの回り込みを示す相互結合量を図22に示す。図21のS11、S33が受信用アンテナの2つの偏波の反射減衰量を、S22、S44が送信用アンテナの2つの偏波の反射減衰量を示している。図22のS12、S21が一方の偏波の送信用アンテナと受信用アンテナの相互結合量を、S34、S43が他方の偏波の送信用アンテナと受信用アンテナの相互結合量を示している。図21、22から分かるように、偏波共用アンテナの場合にも、実施例1変形例3と同じように、受信アンテナの比帯域幅拡大と送信帯域内の送受信間結合低減を両立できる。
【実施例5】
【0039】
基地局アンテナとして所望の利得を得るために、レドーム104内に本発明の受信用マイクロストリップアンテナ310及び送信用マイクロストリップアンテナ120を複数個、一列に配置することが考えられる。図23は、受信アンテナと送信アンテナとの組(図1に示したマイクロストリップアンテナ)をレドーム内に2組配置し背面にトーナメント状の給電線路を設けて送受分離型のマイクロストリップアンテナを構成する例を示したものである。この場合、受信アンテナR#1とR#2として本発明の受信用マイクロストリップアンテナ310を配置することにより、送信アンテナT#1とT#2からの不要な回り込みを防ぐことができる。
【0040】
なお、図23では1つの偏波用のアンテナを並べた例を示したが、この例に限定する必要は無い。実施例4、実施例4変形例で示した偏波共用アンテナを複数個並べたときも、同じ効果が得られる。
【符号の説明】
【0041】
100、200、300 マイクロストリップアンテナ
101、103 誘電体基板
102 グランド板
104 レドーム
110、210、310 受信用マイクロストリップアンテナ
111 受信用パッチ
112、122 給電線
113、123 無給電素子
114、124 スロット
120 送信用マイクロストリップアンテナ
211、311 励振素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板上に形成された送信用パッチに、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線から電磁結合により給電して電波を送信する送信用マイクロストリップアンテナと、
無給電素子と上記誘電体基板上に上記無給電素子と空間を隔てて対向して形成された励振素子とにより受信した電波を、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線に電磁結合により給電する受信用マイクロストリップアンテナと、
をそれぞれ少なくとも1つずつ備えるマイクロストリップアンテナにおいて、
上記励振素子は、複数の金属片から構成され、各金属片の隣接部分がメアンダ状の一定幅の間隙により隔てられていることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロストリップアンテナであって、
前記金属片の間隙の中心が、前記スロットの中心と対向しないように配置していることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロストリップアンテナであって、
上記励振素子が、上記誘電体基板上にそれぞれの中心軸が直交するように2個配置されることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマイクロストリップアンテナであって、
上記送信用マイクロストリップアンテナと上記受信用マイクロストリップアンテナは、一列に配置されることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項1】
誘電体基板上に形成された送信用パッチに、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線から電磁結合により給電して電波を送信する送信用マイクロストリップアンテナと、
無給電素子と上記誘電体基板上に上記無給電素子と空間を隔てて対向して形成された励振素子とにより受信した電波を、上記誘電体基板の裏面に被着したグランド板に形成されたスロットを介して給電線に電磁結合により給電する受信用マイクロストリップアンテナと、
をそれぞれ少なくとも1つずつ備えるマイクロストリップアンテナにおいて、
上記励振素子は、複数の金属片から構成され、各金属片の隣接部分がメアンダ状の一定幅の間隙により隔てられていることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロストリップアンテナであって、
前記金属片の間隙の中心が、前記スロットの中心と対向しないように配置していることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロストリップアンテナであって、
上記励振素子が、上記誘電体基板上にそれぞれの中心軸が直交するように2個配置されることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマイクロストリップアンテナであって、
上記送信用マイクロストリップアンテナと上記受信用マイクロストリップアンテナは、一列に配置されることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2011−71954(P2011−71954A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41400(P2010−41400)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】
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