説明

マイクロチップおよびその使用方法

【課題】流体回路のパターン形状のつぶれ度合い、すなわち該パターン形状のマイクロチップ厚み方向の長さを定量的に評価することが可能な構造を有するマイクロチップおよびその使用方法を提供する。
【解決手段】基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなり、当該溝と第2の基板の第1の基板側表面とからなる流体回路を内部に有するマイクロチップであって、該第1の基板は、該流体回路のうちの一部の流体回路における、マイクロチップ厚み方向の長さを評価するための評価部を備え、該評価部は、第1の基板の厚み方向に貫通する貫通穴からなる貫通部と、該貫通部に隣接して設けられた段差部とを有し、ここで、該段差部の高さは、上記一部の流体回路を構成する溝の深さと同一であるかまたは略同一であるマイクロチップおよびその使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップおよびその使用方法に関し、より詳しくは、マイクロチップが有する流体回路のパターン形状のつぶれ度合いを評価することが可能なマイクロチップおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm〜10cm角で厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検体(その一例として血液が挙げられる)と混合あるいは反応、または該検体を処理するための液体試薬を保持する液体試薬保持部、該検体や液体試薬を計量する計量部、検体と液体試薬とを混合する混合部、混合液について分析および/または検査するための検出部などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路(たとえば、数百μm程度の幅)とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体および液体試薬の計量、混合、ならびに該混合液の検出部への導入等を行なうことができる(内部に流体回路を有するマイクロチップの一例として、たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−17342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内部に流体回路を有するマイクロチップは、一方の基板表面に溝を有する第1の基板と、第2の基板とを、溝形成側表面が第2の基板に対向するようにして貼り合わせることにより作製することができる。基板の貼り合わせ方法としては、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解し溶着する方法を用いることができる。
【0005】
ここで、溶着法によりマイクロチップを作製する場合、基板貼り合わせ時に、融解された基板が盛り上がり、第1の基板上に形成された溝と第2の基板表面とによって形成される流体回路のパターン形状がつぶれ、変形が生じる場合があった。このようなパターンつぶれが生じたマイクロチップは、不良品として選別除去されるべき場合があるが、パターンつぶれの度合いを検査する適切な方法がこれまでなかった。マイクロチップ内部に存在するパターン形状を外部から測定することは困難であり、測定しようとすると、断面観察などの破壊検査によるしかない。しかし、1つのマイクロチップの破壊検査でパターン形状が正常であると判断されても、他のマイクロチップも同様に正常であるとは限らないため、非破壊検査により全数について検査を行なうことが望ましい。
【0006】
また、レーザ顕微鏡を用いてパターン形状のマイクロチップ厚み方向の長さを測定し、パターン形状のつぶれ度合いを非破壊的に評価する方法も考え得るが、この場合、マイクロチップ表面で入射光が反射、散乱してしまい、評価可能な測定データを得ることができない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、流体回路のパターン形状のつぶれ度合い、すなわち該パターン形状のマイクロチップ厚み方向の長さを定量的に評価することが可能な構造を有するマイクロチップおよびその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなり、当該溝と第2の基板の第1の基板側表面とからなる流体回路を内部に有するマイクロチップであって、該第1の基板は、該流体回路のうちの一部の流体回路における、マイクロチップ厚み方向の長さを評価するための評価部を備え、該評価部は、第1の基板の厚み方向に貫通する貫通穴からなる貫通部と、該貫通部に隣接して設けられた段差部とを有し、ここで、該段差部の高さは、上記一部の流体回路を構成する溝の深さと同一であるかまたは略同一であるマイクロチップである。
【0009】
ここで、評価部は、上記一部の流体回路を構成する溝の近傍に配置されることが好ましく、評価部の貫通部は、上記一部の流体回路を構成する溝を形成する壁面を貫通するように配置されることがより好ましい。
【0010】
また、評価部は、貫通部における、第2の基板側とは反対側の開口の一部を覆うひさし構造部をさらに有することが好ましい。当該ひさし構造部のマイクロチップ厚み方向の長さは、上記一部の流体回路を構成する溝が位置する部分における第1の基板の厚み方向の長さと同一であるかまたは略同一であることが好ましい。
【0011】
本発明のマイクロチップの流体回路は、液体を計量するための計量部を少なくとも1つ有していることが好ましい。この場合において、上記一部の流体回路は、当該計量部を含むことが好ましい。より好ましくは、流体回路は、液体を計量するための計量部を複数有し、上記一部の流体回路は、当該複数の計量部のすべてを含む。
【0012】
本発明において、第1の基板は、透明基板であることが好ましい。第2の基板は、不透明基板であることが好ましく、黒色基板であることがより好ましい。
【0013】
さらに本発明により、上記マイクロチップの使用方法が提供される。本発明のマイクロチップの使用方法は、任意に設定された基準面Xから上記貫通部直下の第2の基板表面までの距離と、基準面Xから上記段差部上面までの距離とを測定することにより、上記一部の流体回路のマイクロチップ厚み方向の長さを評価する工程を含む。
【0014】
任意に設定された基準面Xから上記貫通部直下の第2の基板表面までの距離と、基準面Xから上記段差部上面までの距離との測定は、レーザ顕微鏡を用いて行なうことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流体回路のパターン形状のつぶれ度合いを定量的に評価することができる。また、本発明によれば、許容範囲を超えるパターンつぶれを有するマイクロチップ不良品を効率的かつ非破壊的に選別、除去することができるようになるため、マイクロチップ製造の効率化を図ることができるとともに、信頼性の高いマイクロチップを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のマイクロチップは、基板表面に溝が形成された第1の基板の溝形成側表面上に、第2の基板を貼り合わせてなる内部に流体回路を有するマイクロチップである。該流体回路は、第1の基板表面に形成された溝と第2の基板の貼り合わせ面とによって構成されている。マイクロチップの大きさは、特に限定されないが、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0017】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、流体回路内の流体(特には、液体)に対して適切な様々な処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0018】
上記部位としては、特に限定されるものではないが、液体試薬を保持するための液体試薬保持部、検体(または該検体中の特定成分。以下、単に検体とも称する。)や液体試薬を計量するための計量部、計量された液体試薬と検体とを混合するための混合部、該混合液についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)を行なうための検出部などを挙げることができる。必要に応じてさらに別の部位が設けられてもよい。計量部は、所定の容量を有しており、検体や液体試薬を計量部に導入することにより、所定量の検体や液体試薬を計り取ることができる。なお、液体試薬とは、マイクロチップを用いて行なわれる検査・分析の対象となる検体を処理する、または該検体と混合あるいは反応される試薬であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の液体試薬保持部に内蔵されている。上記混合液についての検査・分析方法としては、特に限定されないが、たとえば検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法;検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定により行なうことができる。
【0019】
検体や液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、典型的には、マイクロチップを、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なわれる。
【0020】
ここで、本発明のマイクロチップにおいては、上記した第1の基板(流体回路を構成する溝が形成されている基板)が、マイクロチップが有する流体回路のうちの一部の流体回路におけるマイクロチップ厚み方向の長さ(すなわち、流体回路のパターン形状のつぶれ度合い)を評価するための評価部を有している。マイクロチップが当該評価部を備えることにより、この評価部を利用して、上記一部の流体回路におけるマイクロチップ厚み方向の長さを擬似的に計測することが可能となる。上記「一部の流体回路」とは、マイクロチップが有する流体回路のうち、いずれの部分(部位)であってもよいが、パターン形状のつぶれ度合いによっては、正確な流体処理を行なうことができなくなり、正確な検査・分析結果が得られなくなるおそれがあることから、パターン形状のつぶれ度合いを検査しておくべきと考えられる部位であることが好ましい。かかる部位としては、検体を計量する検体計量部、液体試薬を計量する液体試薬計量部を挙げることができる。これらの計量部は、所定の容量を有すべき部位であり、当該部位においてパターン形状の変形が生じている場合には、正確な量の検体または液体試薬を計量することができず、正確な検査・分析結果が得られなくなる可能性がある。評価部は、1つのマイクロチップに対して1つまたは複数設けることができる。流体回路が、検体計量部および液体試薬計量部などの計量部を複数有している場合には、複数の評価部を設けることが好ましく、それぞれの計量部に対して評価部を設置することがより好ましい。以下、評価部の構造について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明における評価部の一例を示す断面模式図であり、基板表面に溝が形成された第1の基板101と、第2の基板102とを貼り合わせる前の状態を示している。当該溝と第2の基板表面とによって流体回路が形成されることとなる。図1に示される溝103は、第1の基板101に形成された溝のうち、パターン形状のつぶれ度合いを評価する対象である流体回路部分を構成する溝である。
【0022】
第1の基板101は、溝103の近傍に設けられた評価部104を有しており、評価部104は、第1の基板101の厚み方向に貫通する貫通穴からなる貫通部105と、貫通部105に隣接して設けられた段差部106とから構成されている。ここで、段差部106の高さa1は、溝103の深さb1と同一かまたは略同一としている。略同一とは、誤差と認められる範囲内(±0.5mm程度の範囲内)で相違することを意味する。
【0023】
かかる構成を有する評価部104を設けることにより、以下に説明するように、溝103と第2の基板102表面とによって形成される流体回路のマイクロチップ厚み方向に長さ(深さ)を擬似的に計測することが可能となる。
【0024】
図2は、図1に示される第1の基板101と第2の基板102とを溶着法によって貼合して得られるマイクロチップを示す断面模式図である。図2を参照して、第1の基板101の溝103と第2の基板102表面とによって形成される流体回路203のマイクロチップ厚み方向の長さをb2、貫通部105直下の第2の基板表面(たとえば、図2における点B)と段差部106の上面(たとえば、図2における点A)との高低差をa2とする。溶着法による基板貼合においては、融解された基板(特には、第2の基板)の盛り上がり等により、通常、b2<b1、a2<a1となる(b2=b1および/またはa2=a1の場合もあり得る。)。
【0025】
ここで、評価部104は、溝103の近傍に設置されていることから、貼合時における貫通部105直下の第2の基板表面が晒される条件(貼合時の基板の溶融状態、印加される圧力、基板温度など)は、流体回路203を構成する第2の基板が晒される条件と同じであるとみなすことができる。したがって、段差部106の高さa1は、溝103の深さb1と同一かまたは略同一であることに鑑みれば、流体回路203のマイクロチップ厚み方向の長さb2は、基板貼合後における貫通部105直下の第2の基板表面と段差部106の上面との高低差a2と同じであるとみなすことができる。このことは、基板貼合後の高低差a2を測定することにより得られる値が、実質的に、流体回路203のマイクロチップ厚み方向の長さb2を示していることを意味している。よって、基板貼合後の高低差a2を測定することにより、流体回路203のつぶれ度合いを評価することが可能となる。
【0026】
基板貼合後の高低差a2を測定する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、レーザ顕微鏡を用いる方法を好適に用いることができる。レーザ顕微鏡を用いる方法においては、レーザ顕微鏡をマイクロチップの第1の基板101側表面上部の任意の位置に設置し、任意に設定された基準面Xから評価部104の貫通部105直下の第2の基板表面(たとえば、図2における点B)までの距離と、当該基準面Xから段差部106の上面(たとえば、図2における点A)までの距離とを測定し、これらの差を求めることにより、基板貼合後の高低差a2を得ることができる。このように、レーザ顕微鏡を用いる場合においては、評価部104に貫通部105を設けておく必要がある。
【0027】
評価部104は、パターン形状のつぶれ度合いを評価する対象である流体回路部分を構成する溝103の近傍に配置することが好ましい。これにより、基板貼合後の高低差a2が、流体回路203のマイクロチップ厚み方向の長さb2をより正確に反映することとなる。また、評価部104の貫通部105は、パターン形状のつぶれ度合いを評価する対象である流体回路部分を構成する溝103を形成する壁面を貫通するように配置されることが好ましい。かかる構成によっても、基板貼合後の高低差a2が、流体回路203のマイクロチップ厚み方向の長さb2をより正確に反映することとなる。
【0028】
なお、図1に示される評価部104においては、貫通部105が、段差部106と比較して、溝103により近い側に配置されているが、このような構成に限定されるものではなく、図3に示されるように、段差部306が溝303により近い側に配置されてもよい。
【0029】
図1を参照して、段差部106の横方向の長さL1は、特に制限されないが、たとえば0.5〜2.0mm程度とすることができ、好ましくは0.5〜1.0mm程度である。また、貫通部の横方向の長さL2についても特に制限されず、たとえば0.5〜2.0mm程度とすることができ、好ましくは0.5〜1.0mm程度である。
【0030】
図4は、本発明における評価部のさらに別の一例を示す断面模式図であり、基板表面に溝が形成された第1の基板401と、第2の基板402とを貼り合わせる前の状態を示している。また、図5は、図4に示される第1の基板401の概略上面図である。図4および5に示されるように、第1の基板401の評価部404は、貫通部405における、第2の基板402側とは反対側の開口の一部を覆うように形成された、ひさし構造部407をさらに有している。当該ひさし構造部407の幅方向の長さT3(図5参照)は、特に制限されないが、貫通部405の幅方向の長さL4より短く、上からみたときに、ひさし構造部407の両脇に第2の基板表面まで貫通する空洞部IおよびIIが形成されるようにしている。
【0031】
第2の基板上に第1の基板を積層し、第1の基板側からレーザを照射して第2の基板の貼り合わせ面を融解させることにより貼合を行なうレーザ溶着法を用いる場合、溝403の直下に位置する第2の基板402表面へのレーザ照射は、溝403上部に位置する第1の基板401を介してなされることとなる。第1の基板401を介してレーザ照射を行なう場合と、これを介さずレーザ照射を行なう場合とでは、流体回路のつぶれ度合いに変化が生じ得る。ひさし構造部は、この点を考慮して設けられるものである。すなわち、溝403領域へのより正確なレーザ照射条件を貫通部405に再現したものであり、ひさし構造部407を介してレーザ照射されたひさし構造部407直下の第2の基板402の高さ(盛り上がり)は、溝403によって構成される流体回路のつぶれ度合いをより正確に反映する。
【0032】
このようなひさし構造部407を有する場合においては、任意に設定された基準面Xからひさし構造部407直下の第2の基板表面までの距離と、当該基準面Xから段差部406の上面までの距離とを測定し、これらの差を求めることにより、基板貼合後の高低差を得る。基準面Xからひさし構造部407直下の第2の基板表面までの距離は、レーザ顕微鏡を用い、レーザを、図5における空洞部I(またはII)から斜めに照射し、空洞部II(またはI)から反射光を取り出すことにより、測定することができる。
【0033】
なお、図4を参照して、ひさし構造部407の突出長さ(横方向の長さ)T1は、特に制限されるものではなく、貫通部405の横方向の長さL3と同程度であるか、もしくははこれより短くてもよい。または、貫通部405の横方向の長さL3より長くしてもよい。また、ひさし構造部407の厚みT2も、特に制限されるものではないが、溝403によって構成される流体回路のつぶれ度合いをより正確に反映するためには、溝403上部に位置する第1の基板401の厚みと同程度であることが好ましく、同じであることがより好ましい。
【0034】
本発明のマイクロチップを構成する第1の基板(流体回路を構成する溝が形成されている基板)および第2の基板の材質は特に制限されないが、加工性を考慮すると、樹脂を用いることが好ましい。樹脂のなかでも、ポリスチレン系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリル樹脂などが好ましく用いられ、なかでも、耐湿性、加工性(射出成形のし易さなど)が良好であることから、ポリスチレン系樹脂がより好ましい。
【0035】
第1の基板は、上記したように、表面に流体回路を構成する溝が形成される基板である。このような第1の基板は、光学測定の際、検出光が照射させる部位を含んでいることから、透明基板とすることが好ましく、少なくとも検出部における検出光が通過する領域は透明樹脂から構成する必要がある。また、第2の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよい。第1の基板と第2の基板との貼合は、たとえばレーザ溶着、熱溶着、超音波溶着等の溶着法;接着剤による接着などに行なうことができ、溶着法が好ましく用いられる。たとえばレーザ溶着法においては、第1の基板、第2の基板の少なくとも一方の貼り合わせ面にレーザを照射し、該貼り合わせ面を融解させることにより接着を行なうが、この際、基板に不透明基板(好ましくは黒色基板)を用いることにより、光吸収率が増大し、効率的にレーザ溶着を行なうことができる。したがって、第1の基板を透明基板とする場合には、第2の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。
【0036】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
図6は、基板表面に溝が形成された第1の基板601と、第2の基板602とを貼り合わせてなるマイクロチップ600における第1の基板601側表面を示す概略上面図である。すなわち、図6は、第1の基板601における、流体回路を形成する溝が形成されていない側の面を示している。また、図7は、第1の基板601における溝が形成されている側の面を示す概略上面図である。マイクロチップ600は、全血から血漿成分を取り出し、該血漿成分について検査・分析を行なうマイクロチップとして好適に適用され得る流体回路構造を有している。
【0038】
図7を参照して、マイクロチップ600が有する流体回路は、被験者から採取された全血を含むキャピラリー等のサンプル管を組み込むためのサンプル管載置部702、サンプル管より導出された全血から血球成分などを除去して血漿成分を得る血漿分離部703、分離された血漿成分を計量するための検体計量部704、液体試薬を保持するための2つの液体試薬保持部705aおよび705b、液体試薬を計量するための液体試薬計量部706aおよび706b、血漿成分と液体試薬とを混合するための混合部707a〜707d、ならびに、得られた混合液についての検査・分析が行なわれる検出部708から主に構成される。マイクロチップ600は、あらかじめ流体回路内に液体試薬が内蔵された「液体試薬内蔵型マイクロチップ」であり、該液体試薬は、液体試薬保持部705aおよび705bに形成された、第1の基板601の厚み方向に貫通する貫通穴である液体試薬導入口770a、770bを介して、マイクロチップ600における第1の基板601側表面側から注入される。これら液体試薬導入口の開口部は、マイクロチップ600における第1の基板601側表面に封止用ラベルなどを貼合することによって封止される。
【0039】
本実施例のマイクロチップ600は、検体計量部704および液体試薬計量部706a、706bの近傍に、これらの部位のマイクロチップ厚み方向の長さ(これらの部位のパターン形状のつぶれ度合い)を評価するための評価部714、724、734を備えている。たとえば検体計量部704近傍に配置された評価部714は、貫通部715、段差部716およびひさし構造部717からなる。また、評価部724は、貫通部725および段差部726からなり、評価部734は貫通部735および段差部736からなる。図8に、図6のVI−VI線における断面図(評価部714の断面図)を示す。
【0040】
評価部を構成する貫通部715、725および735はそれぞれ、検体計量部704および液体試薬計量部706a、706bを形成する壁面741、742、743を貫通するように配置されている。
【0041】
まず、マイクロチップ600の動作方法の一例について説明する。なお、以下に説明する動作方法は一例を示したものであり、この方法に限定されるものではない。まず、被験者から採取された全血を含むサンプル管をサンプル管載置部702に搭載する。次に、マイクロチップ600に対して、図7における左向き方向(以下、単に左向きという。他の方向についても以下同様。)に遠心力を印加し、サンプル管内の全血を取り出した後、下向きの遠心力により、全血を血漿分離部703に導入して遠心分離を行ない、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離する。この際、過剰の全血は、廃液溜め709aに収容される。また、この下向き遠心力により、液体試薬保持部705a内の液体試薬Xは、液体試薬計量部706aに導入され計量される。液体試薬計量部706aから溢れ出た液体試薬Xは、液体試薬計量部706aの出口側端部に接続された流路を通って、廃液溜め709aに収容される。
【0042】
ついで、分離された、血漿分離部703内の血漿成分を、右向き遠心力により検体計量部704に導入し、計量する。検体計量部704から溢れ出た血漿成分は、検体計量部704の出口側端部に接続された流路を通って、廃液溜め709bに収容される。また、計量された液体試薬Xは、混合部707bに移動するとともに、液体試薬保持部705b内の液体試薬Yは、液体試薬保持部705bから排出される。
【0043】
次に、下向き遠心力により、計量された血漿成分および計量された液体試薬Xは、混合部707aに移動するとともに、混合される。また、液体試薬Yは、液体試薬計量部706bに導入され、計量される。液体試薬計量部706bから溢れ出た液体試薬Yは、液体試薬計量部706bの出口側端部に接続された流路を通って、廃液溜め709cに収容される。ついで、右向き、下向き、右向き遠心力を順次印加して、血漿成分と液体試薬Xとの混合液を混合部707aおよび707b間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。次に、上向き遠心力により、血漿成分と液体試薬Xとの混合液と計量された液体試薬Yとを混合部707cにて混合させる。ついで、左向き、上向き、左向き、上向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部707cおよび707d間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。最後に、右向き遠心力により、混合部707c内の混合液を検出部708に導入する。検出部708内に収容された混合液は、たとえば上記したような光学測定に供され、検査・分析が行なわれる。
【0044】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明における評価部の一例を示す断面模式図である。
【図2】図1に示される第1の基板と第2の基板とを溶着法によって貼合して得られるマイクロチップを示す断面模式図である。
【図3】本発明における評価部の別の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明における評価部のさらに別の一例を示す断面模式図である。
【図5】図4に示される第1の基板の概略上面図である。
【図6】実施例1のマイクロチップの第1の基板側表面を示す概略上面図である。
【図7】実施例1のマイクロチップの第1の基板における溝が形成されている側の面を示す概略上面図である。
【図8】図6のVI−VI線における断面図である。
【符号の説明】
【0046】
101,301,401,601 第1の基板、102,302,402,602 第2の基板、103,303,403 溝、104,304,404,714,724,734 評価部、105,305,405,715,725,735 貫通部、106,306,406,716,726,736 段差部、203 流体回路、407,717 ひさし構造部、600 マイクロチップ、702 サンプル管載置部、703 血漿分離部、704 検体計量部、705a,705b 液体試薬保持部、706a,706b 液体試薬計量部、707a,707b,707c,707d 混合部、708 検出部、709a,709b,709c 廃液溜め部、770a,770b 液体試薬導入口、741,742,743 壁面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなり、前記溝と前記第2の基板の前記第1の基板側表面とからなる流体回路を内部に有するマイクロチップであって、
前記第1の基板は、前記流体回路のうちの一部の流体回路における、マイクロチップ厚み方向の長さを評価するための評価部を備え、
前記評価部は、前記第1の基板の厚み方向に貫通する貫通穴からなる貫通部と、前記貫通部に隣接して設けられた段差部とを有し、ここで、前記段差部の高さは、前記一部の流体回路を構成する溝の深さと同一であるかまたは略同一である、マイクロチップ。
【請求項2】
前記評価部は、前記一部の流体回路を構成する溝の近傍に配置される請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記貫通部は、前記一部の流体回路を構成する溝を形成する壁面を貫通するように配置される請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記評価部は、前記貫通部における、前記第2の基板側とは反対側の開口の一部を覆うひさし構造部をさらに有する請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記ひさし構造部のマイクロチップ厚み方向の長さは、前記一部の流体回路を構成する溝が位置する部分における前記第1の基板の厚み方向の長さと同一であるかまたは略同一である、請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記流体回路は、液体を計量するための計量部を少なくとも1つ有する請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記一部の流体回路は、前記計量部を含む請求項6に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記流体回路は、液体を計量するための計量部を複数有し、前記一部の流体回路は、前記複数の計量部のすべてを含む請求項6に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記第1の基板は、透明基板である請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記第2の基板は、不透明基板である請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項11】
前記第2の基板は、黒色基板である請求項10に記載のマイクロチップ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のマイクロチップの使用方法であって、
任意に設定された基準面Xから前記貫通部直下の前記第2の基板表面までの距離と、前記基準面Xから前記段差部上面までの距離とを測定することにより、前記一部の流体回路のマイクロチップ厚み方向の長さを評価する工程を含むマイクロチップの使用方法。
【請求項13】
任意に設定された基準面Xから前記貫通部直下の前記第2の基板表面までの距離と、前記基準面Xから前記段差部上面までの距離との測定は、レーザ顕微鏡を用いて行なわれる請求項12に記載のマイクロチップの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−121914(P2009−121914A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295391(P2007−295391)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】