マイクロチップ
【課題】表面上に付着した液体の存否を、目視でも容易に確認することができるマイクロチップを提供する。
【解決手段】少なくとも、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、該マイクロチップ表面の少なくとも一部には、微細凹凸が形成されているマイクロチップである。微細凹凸は、たとえば、試薬注入口の周囲に設けられる。
【解決手段】少なくとも、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、該マイクロチップ表面の少なくとも一部には、微細凹凸が形成されているマイクロチップである。微細凹凸は、たとえば、試薬注入口の周囲に設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、特には、検査・分析等の対象となる検体と混合または反応させるための液体試薬を、あらかじめマイクロチップ内に内蔵する液体試薬内蔵型マイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有し、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0003】
マイクロチップは、通常、その内部に流体回路を有しており、該流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体の計量、検体(たとえば、血液等)と試薬との混合などの種々の流体処理が行なわれる。このような流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。
【0004】
上記マイクロチップのうち、液体試薬内蔵型マイクロチップは、検体または検体中の特定成分と混合あるいは反応させるための液体試薬を流体回路内にあらかじめ保持しているマイクロチップであり、その流体回路には、液体試薬を保持するための1または複数の液体試薬保持部が設けられる(液体試薬保持部を有するマイクロチップについては、たとえば特許文献1参照)。また、液体試薬内蔵型マイクロチップには、その一方の表面に、液体試薬保持部内に液体試薬を注入するための、該液体試薬保持部まで貫通する試薬注入口が1または2以上形成されるのが通常であり、該試薬注入口は、液体試薬が注入された後、たとえば封止用ラベル(シール)などをマイクロチップ表面に貼付することにより封止される。
【0005】
ここで、液体試薬を液体試薬保持部に注入する際には、注入された液体試薬が試薬注入口を逆流し、マイクロチップ表面上に溢れ出したり、液体試薬が一部飛散し、マイクロチップ表面上に液体試薬の液滴が付着する場合がある。このような液体試薬の漏出や飛散は、封止用ラベル(シール)とマイクロチップ表面との良好な密着性を阻害し、この場合、液体試薬を密封性良く封止することができない恐れがある。液体試薬注入時における液体試薬のマイクロチップ表面上への漏出、飛散を目視で確認することは困難であり、このような液体試薬の漏出または飛散が生じていた場合に、これを認識して、不良品の流出を防止することは困難であるのが現状であった。
【特許文献1】特開2007−285792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、表面上に付着した液体の存否を、目視でも容易に確認することができるマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、該マイクロチップ表面の少なくとも一部には、微細凹凸が形成されているマイクロチップを提供する。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、マイクロチップは、流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、マイクロチップ表面上に形成された、液体試薬保持部内に液体試薬を注入するための試薬注入口とを備え、該試薬注入口の周囲に微細凹凸が形成されている。
【0009】
また、本発明の他の実施形態において、マイクロチップは、流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、マイクロチップ表面上に形成された、液体試薬保持部内に液体試薬を注入するための試薬注入口と、マイクロチップ表面上に、試薬注入口を取り囲むように形成された凹部とを備え、該試薬注入口と該凹部との間に位置するマイクロチップ表面上に微細凹凸が形成されている。
【0010】
本発明においてマイクロチップが、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、該第1の基板における溝形成側表面が該第2の基板に対向するように貼り合わせることにより構成されており、第1の基板が透明基板である場合、微細凹凸は、第1の基板における、第2の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。この際、微細凹凸は、第1の基板における、第2の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されないことが好ましい。
【0011】
また、本発明のマイクロチップは、第3の基板と、両表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせることにより構成されていてもよい。この場合、微細凹凸は、第2の基板または第3の基板における、第1の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。この際、第2の基板および第3の基板が透明基板である場合には、微細凹凸は、第2の基板または第3の基板における、第1の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されないことが好ましい。
【0012】
微細凹凸の高さは、0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマイクロチップによれば、マイクロチップ表面上に付着した液体試薬などの液体の存否を、目視やCCDカメラ等の画像認識装置で容易に確認することができる。したがって、マイクロチップ表面と試薬注入口を封止するための封止用ラベル(シール)との密着性が良好な封止用ラベル(シール)付マイクロチップを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査・分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、1つの好ましい態様において、基板表面に溝を備える第1の基板と第2の基板とを、第1の基板の溝形成側表面が第2の基板に対向するように貼り合わせてなる。かかる2枚の基板からなるマイクロチップは、その内部に、第1の基板表面に設けられた溝と第2の基板における第1の基板に対向する側の表面とから構成される空洞部からなる流体回路を備える。
【0015】
また、別の好ましい態様において、本発明のマイクロチップは、第3の基板と、基板の両表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせてなる。かかる3枚の基板からなるマイクロチップは、第3の基板における第1の基板に対向する側の表面および第1の基板における第3の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第2の基板における第1の基板に対向する側の表面および第1の基板における第2の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、の2層の流体回路を備えている。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。第1の流体回路と第2の流体回路とは、第1の基板に形成された厚み方向に貫通する1または2以上の貫通穴によって連結されていてもよい。
【0016】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザ等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法;超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。
【0017】
本発明のマイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0018】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの有機材料;シリコン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。
【0019】
第1の基板、第2の基板および第3の基板は透明基板であってもよく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等を添加することにより黒色基板とするなど、着色基板としてもよいが、マイクロチップを第1および第2の基板の2枚から構成する場合には、一方の基板(たとえば、流体回路を構成する溝を有する基板である第1の基板)を透明基板とし、他方の基板(たとえば、第2の基板)を黒色基板等の着色基板とすることが好ましい。流体回路を構成する溝が形成される側の基板を透明基板とし、他方の基板を着色基板とすることにより、レーザなどの光を用いた溶着法により基板の貼り合わせを行なう場合、着色基板の貼り合わせ表面が主に融解されて貼合されることとなるため、溝の変形を最小限に抑えることができる。また、マイクロチップを第1の基板、第2の基板および第3の基板の3枚から構成する場合には、真ん中の基板である第1の基板を黒色基板等の着色基板とし、これを狭持する第2および第3の基板を透明基板とすることが好ましい。これにより、3枚の基板からなるマイクロチップであっても、後述するような、検査・分析が行なわれる検体と液体試薬との混合液が収容された部位(たとえば検出部)に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0020】
第1の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。
【0021】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路(2層の流体回路を備える場合には、第1の流体回路および第2の流体回路)は、流体回路内の液体に対して適切な様々な処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0022】
本発明のマイクロチップは、典型的には、液体試薬をあらかじめチップ内部に保持している液体試薬内蔵型マイクロチップであり、その流体回路は、これを構成する部位の1つとして、液体試薬を保持するための液体試薬保持部を備える。液体試薬保持部は1つのみであってもよいし、2以上あってもよい。「液体試薬」とは、検査・分析の対象となる検体と混合または反応させるための物質(試薬)である。液体試薬は、1つのマイクロチップ内に1種のみ内蔵されていてもよいし、2種以上内蔵されていてもよい。なお、「検体」とは、流体回路内に導入される検査・分析の対象となる物質(たとえば血液)、または、該物質中の特定成分(たとえば血漿成分)を意味する。
【0023】
本発明のマイクロチップが液体試薬保持部を有する液体試薬内蔵型マイクロチップである場合においては、その基板表面には、内部の液体試薬保持部まで貫通する貫通穴である試薬注入口が設けられるのが通常である。このような液体試薬内蔵型マイクロチップは、通常、試薬注入口から液体試薬が注入された後、マイクロチップ表面に当該試薬注入口を封止するためのラベルまたはシールが貼着されて、使用に供される。
【0024】
本発明において流体回路は、液体試薬保持部以外の部位を備えていてもよく、かかる部位としては、たとえば流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための液体試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部などを挙げることができる。本発明のマイクロチップは、これら例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。これらの部位は、所望する流体処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置され、かつ微細な流路を介して接続されている。
【0025】
検体と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液は、特に限定されないが、たとえば、該混合液が収容された部位(たとえば検出部)に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定などに供され、検査・分析が行なわれる。
【0026】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および/または液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、ローター(回転子)と、当該ローター上に設置された回転自在なステージを備えており、該ステージ上にマイクロチップを載置し、ローターを回転させることにより遠心力を印加することができる。この際、マイクロチップに印加される遠心力の方向は、ステージを回転させて、ローターに対するマイクロチップの角度を調整することにより、所望の方向とすることができる。
【0027】
ここで、本発明のマイクロチップは、その表面上の少なくとも一部に微細凹凸が形成されている。液体試薬を液体試薬保持部に注入する際には、注入された液体試薬が試薬注入口を逆流し、マイクロチップ表面上に溢れ出したり、あるいは液体試薬が一部飛散し、マイクロチップ表面上に液体試薬の液滴が付着する場合がある。微細凹凸をマイクロチップ表面に付与することにより、その微細凹凸表面に、液体試薬などの液体が付着した場合、液体が付着した表面領域では光の乱反射が起こらないため、液体が付着していない表面領域と比較して暗く見え、液体付着の存否を目視等でも容易に確認することができる。一方、液体が付着していない表面領域は、微細凹凸による乱反射に起因して、相対的に明るく見える。このように、液体付着の存否が容易に確認できるようになることにより、マイクロチップ表面上に貼着される封止用ラベルまたはシールの密着性が低い等の不良品の流出を効果的に防止することができる。
【0028】
液体付着の有無の確認は、目視によって十分に行なうことができるが、たとえばCCDカメラなどの画像認識装置を用いて行なってもよい。画像認識装置を用いる場合、取得された画像から表面の輝度(明るさ)を識別し、液体が付着しているかどうかを判断する。
【0029】
上記微細凹凸の高さ(凹部の底点から凸部の頂点までの距離)は、特に制限されないが、たとえば0.1〜10μmの範囲内であり、好ましくは、1〜5μmの範囲内である。微細凹凸の高さが0.1μm未満であると、液体が付着しているときと、付着していないときの判別が困難な場合がある。また、微細凹凸の高さが10μmを超えると、液体が付着しているにもかかわらず、光の乱反射が生じ、液体付着表面が明るく見える場合がある。微細凹凸のピッチ、すなわち、凸部の頂部から次の頂部までの距離は、特に限定されないが、たとえば0.1〜10μm程度とすることができる。
【0030】
基板表面に微細凹凸を形成する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、基板を射出成形により作製する際に、ブラスト処理、放電処理またはエッチング処理が施され、微細凹凸が形成された金型を用いる方法;基板の成形後もしくは基板を貼り合わせた後、研磨紙等を用いて基板表面を研磨して微細凹凸を形成する方法などを挙げることができる。
【0031】
図1は、本発明のマイクロチップの一例を示す概略斜視図であり、図2は、図1に示されるI−I線における概略断面図である。図1および図2に示されるマイクロチップ100は、表面に流体回路を構成する溝103を有する、透明基板である第1の基板101と、黒色基板である第2の基板102とを、第1の基板101の溝形成側表面が第2の基板102に対向するように貼り合わせてなる。マイクロチップ100の上側表面、すなわち、第1の基板101の溝形成側(第2の基板102側)とは反対側の表面は、微細凹凸を有する表面領域105と、微細凹凸を有しない表面領域106を有する。また、マイクロチップ100は、微細凹凸を有する側の表面に、流体回路の一部である液体試薬保持部(図1において図示せず)まで貫通する貫通穴である試薬注入口104を備える。
【0032】
マイクロチップ100が有する微細凹凸表面についてより詳細に説明する。まず、マイクロチップ100は、2つの試薬注入口104の周囲に微細凹凸を有する表面領域105を有している(図1参照)。液体試薬を試薬注入口から注入する際、マイクロチップ表面上に溢れ出したり、あるいは液体試薬が一部飛散することにより液体が付着する領域は、当該試薬注入口の周囲であることが多いため、図1に示されるように少なくとも試薬注入口の周囲に微細凹凸を有する表面領域を形成しておくことが好ましい。
【0033】
また、レーザ等の光を用いて少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を溶解させて溶着させる方法等により基板同士を貼り合わせる場合においては、マイクロチップ表面上の微細凹凸は、流体回路を構成する溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。マイクロチップ100においては、第1の基板101における第2の基板102と対向する表面とは反対側の表面上のうち、溝103が形成されている領域Aにのみ微細凹凸が形成されており、第1の基板101における第2の基板102と接触する表面領域(第1の基板101の第2の基板102との貼り合わせ部分)と対向する表面領域B(すなわち、第1の基板101における第2の基板102と対向する表面とは反対側の表面上のうち、第2の基板102との貼り合わせ部分直上の表面領域)には微細凹凸を有しない(図2参照)。微細凹凸を溝が形成されている領域に形成し、貼り合わせ部分直上の表面領域には微細凹凸を形成しないことにより、第1の基板における微細凹凸を有する表面側からレーザ等の光を照射して、一方または双方の基板の貼り合わせ部分を融解させて溶着させる際、照射光が微細凹凸により散乱されて、該照射光の透過率が低下するという問題を回避することができ、効率良く基板の貼り合わせを行なうことができる。また、一方または双方の基板の貼り合わせ部分の溶着状態を、基板の貼り合わせ後にCCDカメラ等の画像認識装置を用いて確認することができるが、貼り合わせ部分直上の表面領域に微細凹凸が形成されていると、透明基板である第1の基板101の透明度が低下するために、当該確認が困難となる場合がある。
【0034】
なお、レーザ等の光を用いて基板同士の溶着を行なう場合において、マイクロチップ100のように、透明基板と黒色基板等の着色基板とを用いると、着色基板の方が光吸収率が高いため、主に、着色基板の貼り合わせ部分が融解され、溶着がなされる。
【0035】
図3は、本発明のマイクロチップの別の一例を示す概略断面図である。図3に示されるマイクロチップ300は、透明基板である第2の基板302と、一方の表面に溝304を有し、他方の表面に溝305を有する、黒色基板である第1の基板301と、透明基板である第3の基板303とをこの順で貼り合わせてなる。すなわち、マイクロチップ300は、溝304と第2の基板302の第1の基板301側表面とによって形成される流体回路(上側流体回路)、および、溝305と第3の基板303の第1の基板301側表面とによって形成される流体回路(下側流体回路)の2層の流体回路を備える。また、図示されていないが、マイクロチップ300は、第2の基板302表面上に液体試薬を注入するための試薬注入口を有しており、当該試薬注入口は、上側流体回路内に設けられた液体試薬保持部まで貫通している。そして、マイクロチップ300の上側表面、すなわち、第2の基板302の第1の基板301側とは反対側の表面上の一部に、微細凹凸が形成されている。
【0036】
かかる構成のマイクロチップにおいても、微細凹凸が形成される表面領域について、2枚の基板から構成されるマイクロチップと同様のことがいえる。すなわち、レーザ等の光を用いて基板同士を貼り合わせる場合においては、マイクロチップ表面上の微細凹凸は、流体回路を構成する溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。マイクロチップ300においては、第2の基板302における第1の基板301と対向する表面とは反対側の表面上のうち、溝304が形成されている領域A’にのみ微細凹凸が形成されており、第2の基板302における第1の基板301と接触する表面領域(第2の基板302の第1の基板301との貼り合わせ部分)と対向する表面領域B’(すなわち、第2の基板302における第1の基板301と対向する表面とは反対側の表面上のうち、第1の基板301との貼り合わせ部分直上の表面領域)には微細凹凸を有しない(図3参照)。
【0037】
図4は、本発明のマイクロチップのさらに別の一例を示す概略図であり、図4(a)はマイクロチップ表面に形成された試薬注入口周辺部を示す概略斜視図、図4(b)は試薬注入口周辺部を示す概略断面図である。図4に示されるマイクロチップ400は、流体回路を構成する溝を有する第1の基板401と、第2の基板402とから構成されており、その内部に流体回路を有し、当該流体回路は液体試薬保持部403を備える。この液体試薬保持部403内に液体試薬が保持される。第1の基板401には、液体試薬保持部403まで貫通する、液体試薬を注入するための試薬注入口405が形成されている。そして、第1の基板401表面上には、試薬注入口405を取り囲むように、凹部410が設けられており、当該凹部410と試薬注入口405との間に位置するマイクロチップ表面は微細凹凸を有し、微細凹凸を有する表面領域406が形成されている。
【0038】
図5(a)に示されるように、液体試薬502を液体試薬保持部403に注入後、封止用ラベル501を貼付する際には、注入された液体試薬502が表面張力によって封止用ラベル501と第1の基板401表面間に行き渡る場合がある。また、図5(b)に示されるように、液体試薬502を注入する際に液体試薬が一部飛散し、第1の基板401表面上に液体試薬の液滴502aが付着する場合もある。
【0039】
このような場合においても、試薬注入口を取り囲むように凹部を形成することにより、図6に示されるように、第1の基板401表面上に付着した液体試薬は、凹部410内に保持され、凹部410の外側のマイクロチップ表面上に滲み出すことがない。よって、第1の基板401と封止用ラベル501とは、界面XおよびYを介して、良好な密着性をもって貼合されているため、封止後の液体試薬の漏れを効果的に回避することができる。
【0040】
さらに、試薬注入口405と凹部410との間に位置するマイクロチップ表面上に微細凹凸を形成しておけば、液体試薬502が図5(a)および(b)に示される場合のように、マイクロチップ表面上に付着した場合、これを容易に検知することが可能であるので、図6に示される界面Zにおける密着性をも確保することができ、製造されるマイクロチップの信頼性をさらに向上させることができる。
【0041】
なお、凹部410の形状は、円形状に限定されるものではなく、たとえば楕円状、長方形状、正方形状、三角形状等適宜の形状とすることができる。溝の幅や深さも特に限定されるものではなく、マイクロチップ表面上に付着し得る液体試薬の量は、通常0.1〜5μl程度と考えられることから、この量を収容可能な幅および深さとすればよく、より具体的には、特に制限されないが、凹部の幅および深さはそれぞれ1mm程度とすることができる。
【0042】
マイクロチップが複数の液体試薬を保持する場合、該マイクロチップは複数の試薬注入口を有することとなるが、この場合、それぞれの試薬注入口の周囲に凹部を設けることが好ましい。当該複数の凹部の形状は、同じであっても異なっていてもよい。
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
図7は、本実施例のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。本実施例のマイクロチップは、一方の表面に流体回路を構成する溝を有する、透明基板である第1の基板と、黒色基板である第2の基板とを、第1の基板の溝形成側表面が第2の基板と対向するように貼り合わせてなり、第1の基板における溝形成側表面とは反対側の表面に微細凹凸を有する。図7は、当該微細凹凸が形成されている表面を示すCCD画像である。本実施例のマイクロチップにおいて、微細凹凸は、第1の基板表面のほぼ全面に形成されている。
【0045】
本実施例のマイクロチップは、概略次のようにして作製した。まず、PET等の樹脂を用いて、流体回路を構成する溝を備える第1の基板を射出成形により作製した後、これを概略同じ外形を有する平板状の第2の基板(PET等の樹脂にカーボンブラックを添加した基板)を、レーザ溶着により貼合した。レーザ溶着においては、第2の基板上に第1の基板を積層した後、透明基板である第1の基板側からレーザを照射して、主に、第2の基板の貼り合わせ面を融解させ、両基板を圧着することにより基板の貼合を行なった。次に、得られたマイクロチップの第1の基板表面に、研磨処理を行ない、図7に示されるような領域に微細凹凸を形成し、微細凹凸を有するマイクロチップを得た。
【0046】
図8は、図7に示される本実施例のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図8から明らかなように、微細凹凸表面上に液体が付着すると、その部分が液体が付着していない部分と比較して暗く見え(マイクロチップ中央左上の丸い部分)、液体の付着の有無を容易に確認できることがわかる。
【0047】
図9は、本実施例のマイクロチップの流体回路構造を示す上面図である。実際には、流体回路を構成する溝は、第1の基板における図9に示される表面とは反対側の表面に形成されているが、流体回路構造を明確に示すため、図9においては、流体回路を実線で示している。本実施例のマイクロチップは、被験者から採取された全血を含むキャピラリー等のサンプル管を組み込むためのサンプル管載置部901、サンプル管より導出された全血から血球などを除去して血漿成分を得る血漿分離部902、分離された血漿成分を計量する検体計量部903、液体試薬を保持するための2つの液体試薬保持部904a、904b、液体試薬を計量する2つの液体試薬計量部905a、905b、血漿成分と液体試薬とを混合する混合部906a〜906d、ならびに、得られた混合液についての検査・分析が行なわれる検出部907から主に構成される。2つの液体試薬保持部部904a、904bは、液体試薬を注入するための試薬注入口910a、910bをそれぞれ有している。
【0048】
本実施例のマイクロチップの動作方法は、概略以下のとおりである。なお、以下に説明する動作方法は一例を示したものであり、この方法に限定されるものではない。まず、全血サンプルを採取したサンプル管をサンプル管載置部901に挿入する。次に、マイクロチップに対して、図9における右向き方向(以下、単に右向きという。他の方向についても以下同様。)に遠心力を印加し、サンプル管内の全血サンプルを取り出した後、下向きの遠心力により、全血サンプルを血漿分離部902に導入して遠心分離を行ない、血漿成分と血球成分とに分離する。全血サンプルを血漿分離部902に導入した際、血漿分離部902から溢れ出た全血サンプルは、廃液溜め部908に収容される。この下向き遠心力により、液体試薬保持部904a内の液体試薬Mは、液体試薬計量部905aにて計量される。
【0049】
ついで、分離された血漿成分を、左向き遠心力により検体計量部903に導入する。この際、計量された液体試薬Mは、混合部906bに移動するとともに、液体試薬保持部904b内の液体試薬Nは、液体試薬保持部904bから排出される。
【0050】
次に、下向き遠心力により、計量された血漿成分と液体試薬Mとが混合部906aにて混合されるとともに、液体試薬Nは、液体試薬計量部905bにて計量される。ついで、左向き、下向き、左向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部906aおよび906b間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。次に、上向き遠心力により、液体試薬Mおよび血漿成分からなる混合液と計量された液体試薬Nとを混合部906cにて混合させる。ついで、右向き、上向き、右向き、上向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部906cおよび906d間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。最後に、左向き遠心力により、混合部906c内の混合液を検出部907に導入する。検出部907内の混合液は、たとえば、検出部907に光を照射し、その透過光の強度を測定するなどの光学測定に供される。
【0051】
<比較例1>
図10は、本比較例のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。図10に示されるマイクロチップは、表面に微細凹凸を形成しないこと以外は、実施例1のマイクロチップと同様である。また、図11は、図10に示される本比較例のマイクロチップの表面上の一部(図8と同じ位置である)に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図10および11からも見てとれるように、微細凹凸が形成されていない場合には、液体の付着している領域と付着していない領域との表面の明るさにほとんど差がなく、液体が付着しているかどうかを確認することは極めて困難であることがわかる。
【0052】
<実施例2>
図12は、本実施例のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。図12に示されるマイクロチップは、マイクロチップ表面のうち、液体試薬保持部904a(図9参照)が位置する表面領域のみに微細凹凸を形成したこと以外は実施例1と同様である。なお、図12において、黒く見えるラインは、裏側に形成されている流体回路の壁であり、すなわち、流体回路を構成する溝が形成されていない領域である。したがって、本実施例のマイクロチップにおいては、微細凹凸は、試薬注入口の周囲であって、流体回路を構成する溝が形成されている領域にのみ形成されている。
【0053】
図13は、図12に示されるマイクロチップの微細凹凸表面上の一部(試薬注入口の右横)に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図13から明らかなように、微細凹凸表面上に液体が付着すると、その部分が液体が付着していない部分と比較して暗く見え、液体の付着の有無を容易に確認できることがわかる。
【0054】
<実施例3>
図14は、本実施例のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。図14に示されるマイクロチップは、マイクロチップ表面のうち、液体試薬保持部905a(図9参照)が有する試薬注入口910bの周囲のみに微細凹凸を形成したこと以外は実施例1と同様である。
【0055】
図15は、図14に示されるマイクロチップの微細凹凸表面上の一部(試薬注入口の左上)に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図15から明らかなように、微細凹凸表面上に液体が付着すると、その部分が液体が付着していない部分と比較して暗く見え、液体の付着の有無を容易に確認できることがわかる。
【0056】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のマイクロチップの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1のI−I線における概略断面図である。
【図3】本発明のマイクロチップの別の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のマイクロチップのさらに別の一例を示す概略断面図である。
【図5】表面に液体試薬が付着した図4に示されるマイクロチップに封止用ラベルを貼付する際の状態を説明する概略断面図である。
【図6】表面に液体試薬が付着した図4に示されるマイクロチップに封止用ラベルを貼付したときの状態を説明する概略断面図である。
【図7】実施例1のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。
【図8】実施例1のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【図9】実施例1のマイクロチップの流体回路構造を示す上面図である。
【図10】比較例1のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。
【図11】比較例1のマイクロチップの表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【図12】実施例2のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。
【図13】実施例2のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【図14】実施例3のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。
【図15】実施例3のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【符号の説明】
【0058】
100,300,400 マイクロチップ、101,301,401 第1の基板、102,302,402 第2の基板、103,304,305 溝、104 試薬注入口、105,406 微細凹凸を有する表面領域、106 微細凹凸を有しない表面領域、303 第3の基板、403 液体試薬保持部、405,910a,910b 試薬注入口、410 凹部、501 封止用ラベル、502 液体試薬、502a 液体試薬の液滴、901 サンプル管載置部、902 血漿分離部、903 検体計量部、904a,904b 液体試薬保持部、905a,905b 液体試薬計量部、906a,906b,906c,906d 混合部、907 検出部、908 廃液溜め部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、特には、検査・分析等の対象となる検体と混合または反応させるための液体試薬を、あらかじめマイクロチップ内に内蔵する液体試薬内蔵型マイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有し、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0003】
マイクロチップは、通常、その内部に流体回路を有しており、該流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体の計量、検体(たとえば、血液等)と試薬との混合などの種々の流体処理が行なわれる。このような流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。
【0004】
上記マイクロチップのうち、液体試薬内蔵型マイクロチップは、検体または検体中の特定成分と混合あるいは反応させるための液体試薬を流体回路内にあらかじめ保持しているマイクロチップであり、その流体回路には、液体試薬を保持するための1または複数の液体試薬保持部が設けられる(液体試薬保持部を有するマイクロチップについては、たとえば特許文献1参照)。また、液体試薬内蔵型マイクロチップには、その一方の表面に、液体試薬保持部内に液体試薬を注入するための、該液体試薬保持部まで貫通する試薬注入口が1または2以上形成されるのが通常であり、該試薬注入口は、液体試薬が注入された後、たとえば封止用ラベル(シール)などをマイクロチップ表面に貼付することにより封止される。
【0005】
ここで、液体試薬を液体試薬保持部に注入する際には、注入された液体試薬が試薬注入口を逆流し、マイクロチップ表面上に溢れ出したり、液体試薬が一部飛散し、マイクロチップ表面上に液体試薬の液滴が付着する場合がある。このような液体試薬の漏出や飛散は、封止用ラベル(シール)とマイクロチップ表面との良好な密着性を阻害し、この場合、液体試薬を密封性良く封止することができない恐れがある。液体試薬注入時における液体試薬のマイクロチップ表面上への漏出、飛散を目視で確認することは困難であり、このような液体試薬の漏出または飛散が生じていた場合に、これを認識して、不良品の流出を防止することは困難であるのが現状であった。
【特許文献1】特開2007−285792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、表面上に付着した液体の存否を、目視でも容易に確認することができるマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、該マイクロチップ表面の少なくとも一部には、微細凹凸が形成されているマイクロチップを提供する。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、マイクロチップは、流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、マイクロチップ表面上に形成された、液体試薬保持部内に液体試薬を注入するための試薬注入口とを備え、該試薬注入口の周囲に微細凹凸が形成されている。
【0009】
また、本発明の他の実施形態において、マイクロチップは、流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、マイクロチップ表面上に形成された、液体試薬保持部内に液体試薬を注入するための試薬注入口と、マイクロチップ表面上に、試薬注入口を取り囲むように形成された凹部とを備え、該試薬注入口と該凹部との間に位置するマイクロチップ表面上に微細凹凸が形成されている。
【0010】
本発明においてマイクロチップが、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、該第1の基板における溝形成側表面が該第2の基板に対向するように貼り合わせることにより構成されており、第1の基板が透明基板である場合、微細凹凸は、第1の基板における、第2の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。この際、微細凹凸は、第1の基板における、第2の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されないことが好ましい。
【0011】
また、本発明のマイクロチップは、第3の基板と、両表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせることにより構成されていてもよい。この場合、微細凹凸は、第2の基板または第3の基板における、第1の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。この際、第2の基板および第3の基板が透明基板である場合には、微細凹凸は、第2の基板または第3の基板における、第1の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されないことが好ましい。
【0012】
微細凹凸の高さは、0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマイクロチップによれば、マイクロチップ表面上に付着した液体試薬などの液体の存否を、目視やCCDカメラ等の画像認識装置で容易に確認することができる。したがって、マイクロチップ表面と試薬注入口を封止するための封止用ラベル(シール)との密着性が良好な封止用ラベル(シール)付マイクロチップを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査・分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、1つの好ましい態様において、基板表面に溝を備える第1の基板と第2の基板とを、第1の基板の溝形成側表面が第2の基板に対向するように貼り合わせてなる。かかる2枚の基板からなるマイクロチップは、その内部に、第1の基板表面に設けられた溝と第2の基板における第1の基板に対向する側の表面とから構成される空洞部からなる流体回路を備える。
【0015】
また、別の好ましい態様において、本発明のマイクロチップは、第3の基板と、基板の両表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせてなる。かかる3枚の基板からなるマイクロチップは、第3の基板における第1の基板に対向する側の表面および第1の基板における第3の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第2の基板における第1の基板に対向する側の表面および第1の基板における第2の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、の2層の流体回路を備えている。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。第1の流体回路と第2の流体回路とは、第1の基板に形成された厚み方向に貫通する1または2以上の貫通穴によって連結されていてもよい。
【0016】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザ等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法;超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。
【0017】
本発明のマイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0018】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの有機材料;シリコン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。
【0019】
第1の基板、第2の基板および第3の基板は透明基板であってもよく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等を添加することにより黒色基板とするなど、着色基板としてもよいが、マイクロチップを第1および第2の基板の2枚から構成する場合には、一方の基板(たとえば、流体回路を構成する溝を有する基板である第1の基板)を透明基板とし、他方の基板(たとえば、第2の基板)を黒色基板等の着色基板とすることが好ましい。流体回路を構成する溝が形成される側の基板を透明基板とし、他方の基板を着色基板とすることにより、レーザなどの光を用いた溶着法により基板の貼り合わせを行なう場合、着色基板の貼り合わせ表面が主に融解されて貼合されることとなるため、溝の変形を最小限に抑えることができる。また、マイクロチップを第1の基板、第2の基板および第3の基板の3枚から構成する場合には、真ん中の基板である第1の基板を黒色基板等の着色基板とし、これを狭持する第2および第3の基板を透明基板とすることが好ましい。これにより、3枚の基板からなるマイクロチップであっても、後述するような、検査・分析が行なわれる検体と液体試薬との混合液が収容された部位(たとえば検出部)に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0020】
第1の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。
【0021】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路(2層の流体回路を備える場合には、第1の流体回路および第2の流体回路)は、流体回路内の液体に対して適切な様々な処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0022】
本発明のマイクロチップは、典型的には、液体試薬をあらかじめチップ内部に保持している液体試薬内蔵型マイクロチップであり、その流体回路は、これを構成する部位の1つとして、液体試薬を保持するための液体試薬保持部を備える。液体試薬保持部は1つのみであってもよいし、2以上あってもよい。「液体試薬」とは、検査・分析の対象となる検体と混合または反応させるための物質(試薬)である。液体試薬は、1つのマイクロチップ内に1種のみ内蔵されていてもよいし、2種以上内蔵されていてもよい。なお、「検体」とは、流体回路内に導入される検査・分析の対象となる物質(たとえば血液)、または、該物質中の特定成分(たとえば血漿成分)を意味する。
【0023】
本発明のマイクロチップが液体試薬保持部を有する液体試薬内蔵型マイクロチップである場合においては、その基板表面には、内部の液体試薬保持部まで貫通する貫通穴である試薬注入口が設けられるのが通常である。このような液体試薬内蔵型マイクロチップは、通常、試薬注入口から液体試薬が注入された後、マイクロチップ表面に当該試薬注入口を封止するためのラベルまたはシールが貼着されて、使用に供される。
【0024】
本発明において流体回路は、液体試薬保持部以外の部位を備えていてもよく、かかる部位としては、たとえば流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための液体試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部などを挙げることができる。本発明のマイクロチップは、これら例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。これらの部位は、所望する流体処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置され、かつ微細な流路を介して接続されている。
【0025】
検体と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液は、特に限定されないが、たとえば、該混合液が収容された部位(たとえば検出部)に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定などに供され、検査・分析が行なわれる。
【0026】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および/または液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、ローター(回転子)と、当該ローター上に設置された回転自在なステージを備えており、該ステージ上にマイクロチップを載置し、ローターを回転させることにより遠心力を印加することができる。この際、マイクロチップに印加される遠心力の方向は、ステージを回転させて、ローターに対するマイクロチップの角度を調整することにより、所望の方向とすることができる。
【0027】
ここで、本発明のマイクロチップは、その表面上の少なくとも一部に微細凹凸が形成されている。液体試薬を液体試薬保持部に注入する際には、注入された液体試薬が試薬注入口を逆流し、マイクロチップ表面上に溢れ出したり、あるいは液体試薬が一部飛散し、マイクロチップ表面上に液体試薬の液滴が付着する場合がある。微細凹凸をマイクロチップ表面に付与することにより、その微細凹凸表面に、液体試薬などの液体が付着した場合、液体が付着した表面領域では光の乱反射が起こらないため、液体が付着していない表面領域と比較して暗く見え、液体付着の存否を目視等でも容易に確認することができる。一方、液体が付着していない表面領域は、微細凹凸による乱反射に起因して、相対的に明るく見える。このように、液体付着の存否が容易に確認できるようになることにより、マイクロチップ表面上に貼着される封止用ラベルまたはシールの密着性が低い等の不良品の流出を効果的に防止することができる。
【0028】
液体付着の有無の確認は、目視によって十分に行なうことができるが、たとえばCCDカメラなどの画像認識装置を用いて行なってもよい。画像認識装置を用いる場合、取得された画像から表面の輝度(明るさ)を識別し、液体が付着しているかどうかを判断する。
【0029】
上記微細凹凸の高さ(凹部の底点から凸部の頂点までの距離)は、特に制限されないが、たとえば0.1〜10μmの範囲内であり、好ましくは、1〜5μmの範囲内である。微細凹凸の高さが0.1μm未満であると、液体が付着しているときと、付着していないときの判別が困難な場合がある。また、微細凹凸の高さが10μmを超えると、液体が付着しているにもかかわらず、光の乱反射が生じ、液体付着表面が明るく見える場合がある。微細凹凸のピッチ、すなわち、凸部の頂部から次の頂部までの距離は、特に限定されないが、たとえば0.1〜10μm程度とすることができる。
【0030】
基板表面に微細凹凸を形成する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、基板を射出成形により作製する際に、ブラスト処理、放電処理またはエッチング処理が施され、微細凹凸が形成された金型を用いる方法;基板の成形後もしくは基板を貼り合わせた後、研磨紙等を用いて基板表面を研磨して微細凹凸を形成する方法などを挙げることができる。
【0031】
図1は、本発明のマイクロチップの一例を示す概略斜視図であり、図2は、図1に示されるI−I線における概略断面図である。図1および図2に示されるマイクロチップ100は、表面に流体回路を構成する溝103を有する、透明基板である第1の基板101と、黒色基板である第2の基板102とを、第1の基板101の溝形成側表面が第2の基板102に対向するように貼り合わせてなる。マイクロチップ100の上側表面、すなわち、第1の基板101の溝形成側(第2の基板102側)とは反対側の表面は、微細凹凸を有する表面領域105と、微細凹凸を有しない表面領域106を有する。また、マイクロチップ100は、微細凹凸を有する側の表面に、流体回路の一部である液体試薬保持部(図1において図示せず)まで貫通する貫通穴である試薬注入口104を備える。
【0032】
マイクロチップ100が有する微細凹凸表面についてより詳細に説明する。まず、マイクロチップ100は、2つの試薬注入口104の周囲に微細凹凸を有する表面領域105を有している(図1参照)。液体試薬を試薬注入口から注入する際、マイクロチップ表面上に溢れ出したり、あるいは液体試薬が一部飛散することにより液体が付着する領域は、当該試薬注入口の周囲であることが多いため、図1に示されるように少なくとも試薬注入口の周囲に微細凹凸を有する表面領域を形成しておくことが好ましい。
【0033】
また、レーザ等の光を用いて少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を溶解させて溶着させる方法等により基板同士を貼り合わせる場合においては、マイクロチップ表面上の微細凹凸は、流体回路を構成する溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。マイクロチップ100においては、第1の基板101における第2の基板102と対向する表面とは反対側の表面上のうち、溝103が形成されている領域Aにのみ微細凹凸が形成されており、第1の基板101における第2の基板102と接触する表面領域(第1の基板101の第2の基板102との貼り合わせ部分)と対向する表面領域B(すなわち、第1の基板101における第2の基板102と対向する表面とは反対側の表面上のうち、第2の基板102との貼り合わせ部分直上の表面領域)には微細凹凸を有しない(図2参照)。微細凹凸を溝が形成されている領域に形成し、貼り合わせ部分直上の表面領域には微細凹凸を形成しないことにより、第1の基板における微細凹凸を有する表面側からレーザ等の光を照射して、一方または双方の基板の貼り合わせ部分を融解させて溶着させる際、照射光が微細凹凸により散乱されて、該照射光の透過率が低下するという問題を回避することができ、効率良く基板の貼り合わせを行なうことができる。また、一方または双方の基板の貼り合わせ部分の溶着状態を、基板の貼り合わせ後にCCDカメラ等の画像認識装置を用いて確認することができるが、貼り合わせ部分直上の表面領域に微細凹凸が形成されていると、透明基板である第1の基板101の透明度が低下するために、当該確認が困難となる場合がある。
【0034】
なお、レーザ等の光を用いて基板同士の溶着を行なう場合において、マイクロチップ100のように、透明基板と黒色基板等の着色基板とを用いると、着色基板の方が光吸収率が高いため、主に、着色基板の貼り合わせ部分が融解され、溶着がなされる。
【0035】
図3は、本発明のマイクロチップの別の一例を示す概略断面図である。図3に示されるマイクロチップ300は、透明基板である第2の基板302と、一方の表面に溝304を有し、他方の表面に溝305を有する、黒色基板である第1の基板301と、透明基板である第3の基板303とをこの順で貼り合わせてなる。すなわち、マイクロチップ300は、溝304と第2の基板302の第1の基板301側表面とによって形成される流体回路(上側流体回路)、および、溝305と第3の基板303の第1の基板301側表面とによって形成される流体回路(下側流体回路)の2層の流体回路を備える。また、図示されていないが、マイクロチップ300は、第2の基板302表面上に液体試薬を注入するための試薬注入口を有しており、当該試薬注入口は、上側流体回路内に設けられた液体試薬保持部まで貫通している。そして、マイクロチップ300の上側表面、すなわち、第2の基板302の第1の基板301側とは反対側の表面上の一部に、微細凹凸が形成されている。
【0036】
かかる構成のマイクロチップにおいても、微細凹凸が形成される表面領域について、2枚の基板から構成されるマイクロチップと同様のことがいえる。すなわち、レーザ等の光を用いて基板同士を貼り合わせる場合においては、マイクロチップ表面上の微細凹凸は、流体回路を構成する溝が形成されている領域の一部または全部に形成されることが好ましい。マイクロチップ300においては、第2の基板302における第1の基板301と対向する表面とは反対側の表面上のうち、溝304が形成されている領域A’にのみ微細凹凸が形成されており、第2の基板302における第1の基板301と接触する表面領域(第2の基板302の第1の基板301との貼り合わせ部分)と対向する表面領域B’(すなわち、第2の基板302における第1の基板301と対向する表面とは反対側の表面上のうち、第1の基板301との貼り合わせ部分直上の表面領域)には微細凹凸を有しない(図3参照)。
【0037】
図4は、本発明のマイクロチップのさらに別の一例を示す概略図であり、図4(a)はマイクロチップ表面に形成された試薬注入口周辺部を示す概略斜視図、図4(b)は試薬注入口周辺部を示す概略断面図である。図4に示されるマイクロチップ400は、流体回路を構成する溝を有する第1の基板401と、第2の基板402とから構成されており、その内部に流体回路を有し、当該流体回路は液体試薬保持部403を備える。この液体試薬保持部403内に液体試薬が保持される。第1の基板401には、液体試薬保持部403まで貫通する、液体試薬を注入するための試薬注入口405が形成されている。そして、第1の基板401表面上には、試薬注入口405を取り囲むように、凹部410が設けられており、当該凹部410と試薬注入口405との間に位置するマイクロチップ表面は微細凹凸を有し、微細凹凸を有する表面領域406が形成されている。
【0038】
図5(a)に示されるように、液体試薬502を液体試薬保持部403に注入後、封止用ラベル501を貼付する際には、注入された液体試薬502が表面張力によって封止用ラベル501と第1の基板401表面間に行き渡る場合がある。また、図5(b)に示されるように、液体試薬502を注入する際に液体試薬が一部飛散し、第1の基板401表面上に液体試薬の液滴502aが付着する場合もある。
【0039】
このような場合においても、試薬注入口を取り囲むように凹部を形成することにより、図6に示されるように、第1の基板401表面上に付着した液体試薬は、凹部410内に保持され、凹部410の外側のマイクロチップ表面上に滲み出すことがない。よって、第1の基板401と封止用ラベル501とは、界面XおよびYを介して、良好な密着性をもって貼合されているため、封止後の液体試薬の漏れを効果的に回避することができる。
【0040】
さらに、試薬注入口405と凹部410との間に位置するマイクロチップ表面上に微細凹凸を形成しておけば、液体試薬502が図5(a)および(b)に示される場合のように、マイクロチップ表面上に付着した場合、これを容易に検知することが可能であるので、図6に示される界面Zにおける密着性をも確保することができ、製造されるマイクロチップの信頼性をさらに向上させることができる。
【0041】
なお、凹部410の形状は、円形状に限定されるものではなく、たとえば楕円状、長方形状、正方形状、三角形状等適宜の形状とすることができる。溝の幅や深さも特に限定されるものではなく、マイクロチップ表面上に付着し得る液体試薬の量は、通常0.1〜5μl程度と考えられることから、この量を収容可能な幅および深さとすればよく、より具体的には、特に制限されないが、凹部の幅および深さはそれぞれ1mm程度とすることができる。
【0042】
マイクロチップが複数の液体試薬を保持する場合、該マイクロチップは複数の試薬注入口を有することとなるが、この場合、それぞれの試薬注入口の周囲に凹部を設けることが好ましい。当該複数の凹部の形状は、同じであっても異なっていてもよい。
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
図7は、本実施例のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。本実施例のマイクロチップは、一方の表面に流体回路を構成する溝を有する、透明基板である第1の基板と、黒色基板である第2の基板とを、第1の基板の溝形成側表面が第2の基板と対向するように貼り合わせてなり、第1の基板における溝形成側表面とは反対側の表面に微細凹凸を有する。図7は、当該微細凹凸が形成されている表面を示すCCD画像である。本実施例のマイクロチップにおいて、微細凹凸は、第1の基板表面のほぼ全面に形成されている。
【0045】
本実施例のマイクロチップは、概略次のようにして作製した。まず、PET等の樹脂を用いて、流体回路を構成する溝を備える第1の基板を射出成形により作製した後、これを概略同じ外形を有する平板状の第2の基板(PET等の樹脂にカーボンブラックを添加した基板)を、レーザ溶着により貼合した。レーザ溶着においては、第2の基板上に第1の基板を積層した後、透明基板である第1の基板側からレーザを照射して、主に、第2の基板の貼り合わせ面を融解させ、両基板を圧着することにより基板の貼合を行なった。次に、得られたマイクロチップの第1の基板表面に、研磨処理を行ない、図7に示されるような領域に微細凹凸を形成し、微細凹凸を有するマイクロチップを得た。
【0046】
図8は、図7に示される本実施例のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図8から明らかなように、微細凹凸表面上に液体が付着すると、その部分が液体が付着していない部分と比較して暗く見え(マイクロチップ中央左上の丸い部分)、液体の付着の有無を容易に確認できることがわかる。
【0047】
図9は、本実施例のマイクロチップの流体回路構造を示す上面図である。実際には、流体回路を構成する溝は、第1の基板における図9に示される表面とは反対側の表面に形成されているが、流体回路構造を明確に示すため、図9においては、流体回路を実線で示している。本実施例のマイクロチップは、被験者から採取された全血を含むキャピラリー等のサンプル管を組み込むためのサンプル管載置部901、サンプル管より導出された全血から血球などを除去して血漿成分を得る血漿分離部902、分離された血漿成分を計量する検体計量部903、液体試薬を保持するための2つの液体試薬保持部904a、904b、液体試薬を計量する2つの液体試薬計量部905a、905b、血漿成分と液体試薬とを混合する混合部906a〜906d、ならびに、得られた混合液についての検査・分析が行なわれる検出部907から主に構成される。2つの液体試薬保持部部904a、904bは、液体試薬を注入するための試薬注入口910a、910bをそれぞれ有している。
【0048】
本実施例のマイクロチップの動作方法は、概略以下のとおりである。なお、以下に説明する動作方法は一例を示したものであり、この方法に限定されるものではない。まず、全血サンプルを採取したサンプル管をサンプル管載置部901に挿入する。次に、マイクロチップに対して、図9における右向き方向(以下、単に右向きという。他の方向についても以下同様。)に遠心力を印加し、サンプル管内の全血サンプルを取り出した後、下向きの遠心力により、全血サンプルを血漿分離部902に導入して遠心分離を行ない、血漿成分と血球成分とに分離する。全血サンプルを血漿分離部902に導入した際、血漿分離部902から溢れ出た全血サンプルは、廃液溜め部908に収容される。この下向き遠心力により、液体試薬保持部904a内の液体試薬Mは、液体試薬計量部905aにて計量される。
【0049】
ついで、分離された血漿成分を、左向き遠心力により検体計量部903に導入する。この際、計量された液体試薬Mは、混合部906bに移動するとともに、液体試薬保持部904b内の液体試薬Nは、液体試薬保持部904bから排出される。
【0050】
次に、下向き遠心力により、計量された血漿成分と液体試薬Mとが混合部906aにて混合されるとともに、液体試薬Nは、液体試薬計量部905bにて計量される。ついで、左向き、下向き、左向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部906aおよび906b間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。次に、上向き遠心力により、液体試薬Mおよび血漿成分からなる混合液と計量された液体試薬Nとを混合部906cにて混合させる。ついで、右向き、上向き、右向き、上向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部906cおよび906d間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。最後に、左向き遠心力により、混合部906c内の混合液を検出部907に導入する。検出部907内の混合液は、たとえば、検出部907に光を照射し、その透過光の強度を測定するなどの光学測定に供される。
【0051】
<比較例1>
図10は、本比較例のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。図10に示されるマイクロチップは、表面に微細凹凸を形成しないこと以外は、実施例1のマイクロチップと同様である。また、図11は、図10に示される本比較例のマイクロチップの表面上の一部(図8と同じ位置である)に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図10および11からも見てとれるように、微細凹凸が形成されていない場合には、液体の付着している領域と付着していない領域との表面の明るさにほとんど差がなく、液体が付着しているかどうかを確認することは極めて困難であることがわかる。
【0052】
<実施例2>
図12は、本実施例のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。図12に示されるマイクロチップは、マイクロチップ表面のうち、液体試薬保持部904a(図9参照)が位置する表面領域のみに微細凹凸を形成したこと以外は実施例1と同様である。なお、図12において、黒く見えるラインは、裏側に形成されている流体回路の壁であり、すなわち、流体回路を構成する溝が形成されていない領域である。したがって、本実施例のマイクロチップにおいては、微細凹凸は、試薬注入口の周囲であって、流体回路を構成する溝が形成されている領域にのみ形成されている。
【0053】
図13は、図12に示されるマイクロチップの微細凹凸表面上の一部(試薬注入口の右横)に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図13から明らかなように、微細凹凸表面上に液体が付着すると、その部分が液体が付着していない部分と比較して暗く見え、液体の付着の有無を容易に確認できることがわかる。
【0054】
<実施例3>
図14は、本実施例のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。図14に示されるマイクロチップは、マイクロチップ表面のうち、液体試薬保持部905a(図9参照)が有する試薬注入口910bの周囲のみに微細凹凸を形成したこと以外は実施例1と同様である。
【0055】
図15は、図14に示されるマイクロチップの微細凹凸表面上の一部(試薬注入口の左上)に液体試薬(検査試薬水溶液)を付着させたときのCCD画像である。図15から明らかなように、微細凹凸表面上に液体が付着すると、その部分が液体が付着していない部分と比較して暗く見え、液体の付着の有無を容易に確認できることがわかる。
【0056】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のマイクロチップの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1のI−I線における概略断面図である。
【図3】本発明のマイクロチップの別の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のマイクロチップのさらに別の一例を示す概略断面図である。
【図5】表面に液体試薬が付着した図4に示されるマイクロチップに封止用ラベルを貼付する際の状態を説明する概略断面図である。
【図6】表面に液体試薬が付着した図4に示されるマイクロチップに封止用ラベルを貼付したときの状態を説明する概略断面図である。
【図7】実施例1のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。
【図8】実施例1のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【図9】実施例1のマイクロチップの流体回路構造を示す上面図である。
【図10】比較例1のマイクロチップの上面を示すCCD画像である。
【図11】比較例1のマイクロチップの表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【図12】実施例2のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。
【図13】実施例2のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【図14】実施例3のマイクロチップの上面を一部拡大して示すCCD画像である。
【図15】実施例3のマイクロチップの微細凹凸表面上の一部に液体試薬を付着させたときのCCD画像である。
【符号の説明】
【0058】
100,300,400 マイクロチップ、101,301,401 第1の基板、102,302,402 第2の基板、103,304,305 溝、104 試薬注入口、105,406 微細凹凸を有する表面領域、106 微細凹凸を有しない表面領域、303 第3の基板、403 液体試薬保持部、405,910a,910b 試薬注入口、410 凹部、501 封止用ラベル、502 液体試薬、502a 液体試薬の液滴、901 サンプル管載置部、902 血漿分離部、903 検体計量部、904a,904b 液体試薬保持部、905a,905b 液体試薬計量部、906a,906b,906c,906d 混合部、907 検出部、908 廃液溜め部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、
前記マイクロチップ表面の少なくとも一部には、微細凹凸が形成されているマイクロチップ。
【請求項2】
前記流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、
マイクロチップ表面上に形成された、前記液体試薬保持部内に前記液体試薬を注入するための試薬注入口と、
を備え、
前記試薬注入口の周囲に微細凹凸が形成されている請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、
マイクロチップ表面上に形成された、前記液体試薬保持部内に前記液体試薬を注入するための試薬注入口と、
マイクロチップ表面上に、前記試薬注入口を取り囲むように形成された凹部と、
を備え、
前記試薬注入口と前記凹部との間に位置するマイクロチップ表面上に微細凹凸が形成されている請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなるマイクロチップであって、
前記微細凹凸は、前記第1の基板における、前記第2の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、前記溝が形成されている領域の一部または全部に形成される請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記微細凹凸は、前記第1の基板における、前記第2の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されない請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記第1の基板は、透明基板である請求項4または5に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
第3の基板と、両表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせてなるマイクロチップであって、
前記微細凹凸は、前記第2の基板または前記第3の基板における、前記第1の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、前記溝が形成されている領域の一部または全部に形成される請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記微細凹凸は、前記第2の基板または前記第3の基板における、前記第1の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されない請求項7に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記第2の基板および前記第3の基板は、透明基板である請求項7または8に記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記微細凹凸の高さは、0.1〜10μmの範囲内である請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項1】
少なくとも、表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、
前記マイクロチップ表面の少なくとも一部には、微細凹凸が形成されているマイクロチップ。
【請求項2】
前記流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、
マイクロチップ表面上に形成された、前記液体試薬保持部内に前記液体試薬を注入するための試薬注入口と、
を備え、
前記試薬注入口の周囲に微細凹凸が形成されている請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記流体回路の一部を構成する液体試薬を保持するための液体試薬保持部と、
マイクロチップ表面上に形成された、前記液体試薬保持部内に前記液体試薬を注入するための試薬注入口と、
マイクロチップ表面上に、前記試薬注入口を取り囲むように形成された凹部と、
を備え、
前記試薬注入口と前記凹部との間に位置するマイクロチップ表面上に微細凹凸が形成されている請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝形成側表面が前記第2の基板に対向するように貼り合わせてなるマイクロチップであって、
前記微細凹凸は、前記第1の基板における、前記第2の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、前記溝が形成されている領域の一部または全部に形成される請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記微細凹凸は、前記第1の基板における、前記第2の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されない請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記第1の基板は、透明基板である請求項4または5に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
第3の基板と、両表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせてなるマイクロチップであって、
前記微細凹凸は、前記第2の基板または前記第3の基板における、前記第1の基板と対向する表面とは反対側の表面上であって、前記溝が形成されている領域の一部または全部に形成される請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記微細凹凸は、前記第2の基板または前記第3の基板における、前記第1の基板と接触する表面領域と対向する表面領域には形成されない請求項7に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記第2の基板および前記第3の基板は、透明基板である請求項7または8に記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記微細凹凸の高さは、0.1〜10μmの範囲内である請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−180577(P2009−180577A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18680(P2008−18680)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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