説明

マイクロドメイン病のバイオマーカー

【課題】
本発明は、マイクロドメイン病のバイオマーカーや操作性が簡便で安価なマイクロドメイン病の検出方法等に係る技術を提供することを目的とする。
【解決手段】
(1)マイクロドメイン病のバイオマーカーとしてのGM2Aの使用、並びに(2)被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定する工程、及び前記の測定されたGM2Aの量又は活性を閾値と比較する工程を含む、前記被検動物におけるマイクロドメイン病を検出する方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロドメイン病のバイオマーカー等に関する。
【背景技術】
【0002】
生活慣習病の原因の1つである肥満は、脂肪細胞の数の増加と脂肪細胞自身の肥大化とが見られる状態で、一般に糖尿病、高血圧、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞等の病態を発症させる引き金になると考えられている。脂肪細胞が産生する生理活性物質は、総称してアディポサイトカイン(adipocytokine)と呼ばれる。これらの物質は、本来は脂肪細胞自身の代謝に重要な役割を果たすが、肥満等をきっかけに過剰分泌・分泌不全といった分泌制御の異常が生じると、病態の発症を引き起こす原因となる。例えば、線溶系の重要な調節因子であるプラスミノーゲンアクティベータインヒビター1(PAI−1)は、脂肪蓄積がおこると特に内臓脂肪で著しく発現量が増加して血中濃度も増加し、血管合併症の成因の一つとなると考えられている。また、分子量約20kDaのレジスチンは、インシュリンによる糖の取り込み促進作用を抑制するので、TNF−α等と同様にII型糖尿病の発症に関わる因子であると考えられている。その抑制機構は、SOCS3やNF−kB等のシグナル伝達分子を活性化することによって、インシュリンのシグナル伝達を阻害する、即ち、インシュリン抵抗性を誘導するものと考えられている。
さらに、肥満患者では、摂食を抑制するレプチンが血中に高濃度で存在するにも関わらず、レプチンの作用が減弱するレプチン抵抗性が観察される。そのため、脂肪細胞から分泌されたレプチンが視床下部に作用しても、摂食行動が抑制されず、過食の状態が維持されることになる。
さらに、最近では、認知症の代表的疾患であるアルツハイマー病と、生活習慣病との関連性が注目されている。例えば、糖尿病患者では健常人に比して、アルツハイマー病への罹患率が2倍に上昇することが知られている。神経成長因子(Nerve Growth Factor:NGF)は、神経細胞の増殖を促進し、神経細胞の細胞死を抑制するタンパク質であるが、糖尿病患者ではNGFの作用が減弱しているため、アルツハイマー病に罹患しやすくなると考えられる。
肥満、糖尿病及びその合併症等の生活慣習病の病態は、スフィンゴ糖脂質の異常発現によって細胞膜のマイクロドメインの構成、構造及び機能が変化し、サイトカインやホルモンによるシグナル伝達が異常となっている疾病、即ち、マイクロドメイン病である、という仮説が提唱されている。井ノ口らは、脂肪細胞や炎症細胞が産生するTNF−αが、TNF−α受容体を介して、細胞内に存在するガングリオシドGM3合成酵素の発現を促進し、マイクロドメインの構成成分であるGM3が増加することによって、マイクロドメインの構造が変化し、マイクロドメインに存在するインシュリン受容体の機能が減弱することを見出している(非特許文献1参照)。しかしながら、TNF−αがGM3を介して、レプチン抵抗性やNGFの作用抑制を誘導することは、これまで報告されていない。
これまで、インシュリン抵抗性を診断する方法として、一般的にグルコース負荷試験が用いられているが、簡便性という点で問題がある。また、レプチン抵抗性やNGFの作用抑制を診断しうるバイオマーカーはこれまで知られていない。そこで、マイクロドメイン病のバイオマーカーや操作性が簡便で安価なマイクロドメイン病の検出方法等に係る技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2007)、104、p.13678−13683
【非特許文献2】Endocrine Journal(2008)、55(4)、p.767−776
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、マイクロドメイン病のバイオマーカーや操作性が簡便で安価なマイクロドメイン病の検出方法等に係る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、かかる状況の下、脂肪細胞の肥大化に伴って細胞外へ分泌されるアディポサイトカインに注目して鋭意検討した結果、糖尿病モデル動物、糖尿病患者及び肥満のヒトにおいては、正常動物や健常人に比して、脂肪組織中のGM2A(Ganglioside GM2 Activator)の量が増加すること、並びに、GM2Aが、サイトカイン(インシュリン、レプチン及びNGF)のシグナル伝達を抑制することを見出した。
GM2Aは、スフィンゴ糖脂質の代謝に関与する公知の糖タンパク質である。その機能としては、ガングリオシドの分解に関与する補酵素として働き、例えば、サポシンBと協同してGM1をGM2に分解し、一方、ヘキソサミニダーゼAと協同して、GM2をGM3に、GA2をラクトシルセラミドに分解する。GM2A前駆体は、アミノ末端側のペプチドが除去されて、細胞外へ分泌される。例えば、ヒトGM2Aは、分子量約25kDa、199アミノ酸残基の公知の糖タンパク質であり、アミノ末端側の31残基が切断されて細胞外へ分泌される。
しかしながら、上記の知見はこれまで知られておらず、本発明者によって初めて見出されたものである。本発明は、かかる知見に基づくものである。
即ち、本発明は、GM2Aをマイクロドメイン病のバイオマーカーとして使用することを要旨とする。
【0006】
本発明は、
[1] 被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定する工程、及び、前記の測定されたGM2Aの量又は活性を閾値と比較する工程を含むことを特徴とする前記被検動物におけるマイクロドメイン病を検出する方法;
[2] 被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定する工程、及び、前記の測定されたGM2Aの量又は活性を前記被検動物について異なる時点で測定されたGM2Aの量又は活性と比較する工程を含むことを特徴とするマイクロドメイン病の疾患状態の変化をモニタリングする方法;
[3] 前記生物学的試料が、血液、リンパ液、組織又は細胞であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載される方法;
[4] 前記GM2Aの量又は活性の測定が、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法、蛍光免疫測定法、エライザ法、免疫組織化学染色法、免疫沈降法、ウェスタンブロッティング法、ノーザンブロッティング法又はRT−PCR法により行われることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載される方法;
[5] マイクロドメイン病のバイオマーカーとしてのGM2Aの使用;
[6] 前記マイクロドメイン病が、肥満、高脂血症、高血圧、動脈硬化症、糖尿病若しくはその合併症、癌、中枢神経障害、子宮内膜症、骨粗しょう症又は自己免疫疾患であることを特徴とする上記[5]に記載される使用;
[7] GM2Aの量又は活性の測定用試薬を含有することを特徴とするマイクロドメイン病の診断用キット;
[8] 前記GM2Aの量又は活性の測定用試薬が、抗GM2A抗体、又はラジオアイソトープ若しくは蛍光色素で標識されたガングリオシドであることを特徴とする上記[7]に記載される診断用キット;
[9] GM2Aの発現レベルが上昇するように修飾された遺伝子が導入されたトランスジェニック動物;
[10] 脂肪細胞においてGM2Aの発現レベルを上昇させた上記[9]に記載されるトランスジェニック動物;
[11] GM2Aタンパク質を投与し、血液中のGM2Aの量又は活性を人工的に上昇させた動物;
[12] マイクロドメイン病の症状を呈することを特徴とする上記[9]〜[11]のいずれか一項に記載される動物;
[13] 抗GM2A抗体を有効成分として含有することを特徴とするマイクロドメイン病の予防若しくは治療薬;
[14] GM2A阻害活性化合物を有効成分として含有することを特徴とするマイクロドメイン病の予防若しくは治療薬;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マイクロドメイン病のバイオマーカーや操作性が簡便で安価なマイクロドメイン病の検出方法等に係る技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一態様は、マイクロドメイン病のバイオマーカーとしてのGM2Aの使用、である。より具体的には、GM2Aはマイクロドメイン病のバイオマーカーとして、下記のように使用される。
【0009】
〔1〕マイクロドメイン病を検出する方法
本発明のマイクロドメイン病を検出する方法は、被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定する工程、及び、前記の測定されたGM2Aの量又は活性を閾値と比較する工程を含む。
本明細書中、「マイクロドメイン病」なる語は、スフィンゴ糖脂質の異常発現によって細胞膜のマイクロドメイン(例、カベオラ等のラフト)の構成、構造及び機能が変化し、サイトカイン(例、インシュリン、レプチン、神経成長因子(NGF))又はホルモンによるシグナル伝達が異常となっている疾病を意味する。
「マイクロドメイン病」の例としては、具体的には、肥満、高脂血症、高血圧、動脈硬化症、糖尿病及びその合併症(例、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経疾患)、癌、中枢神経障害(例、アルツハイマー病)、子宮内膜症、骨粗しょう症、並びに自己免疫疾患が挙げられる。なかでも、本発明は、肥満、高脂血症、高血圧、動脈硬化症、糖尿病若しくはその合併症(例、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経疾患)、又は中枢神経障害(例、アルツハイマー病)に好適に適用できる。本発明において、肥満としては、レプチン抵抗性に起因するものが好ましく、中枢神経障害(例、アルツハイマー病)としては、NGF作用の抑制に起因するものが好ましい。
本明細書中、「マイクロドメイン病を検出する」とは、被検動物がマイクロドメイン病に罹患しているか否かを評価することを包含する事を意図して用いられる。また、本明細書中、「マイクロドメイン病に罹患している」とは、マイクロドメイン病の外見的な症状が観察されない場合も包含する事を意図して用いられる。
本発明における被検動物は、好ましくは非ヒト動物又はヒトであり、より好ましくは非ヒト哺乳動物又はヒトであり、特に好ましくはヒトである。
【0010】
本発明における生物学的試料は、好ましくは血液、リンパ液、組織(例、脂肪組織)又は細胞(例、脂肪細胞)である。
測定の対象となるGM2Aは、天然に存在しうる形態のGM2Aであればよく、例えば、GM2Aの完全長GM2A(GM2A前駆体)であってもよく、アミノ末端側のポリペプチドが除去されて細胞外へ分泌されたものであってもよい。
GM2Aの量の測定法としては、GM2Aの量を決定できる方法であれば限定されないが、例えば、GM2Aタンパク質に対する特異的抗体、GM2Aの糖鎖に対するレクチンや特異的抗体又はGM2A遺伝子と結合する核酸を用いた、酵素免疫測定法(EIA)、放射性免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、エライザ法(ELISA)、免疫組織化学染色法、高速液体クロマトグラフィー定量法、マススペクトル定量法、酵素法、免疫沈降法、及びウェスタンブロッティング法等の翻訳レベルでGM2Aの発現量を測定する方法、レクチン組織化学染色法、及びレクチンブロッティング法等の糖修飾レベルでGM2Aの発現量を測定する方法並びにノーザンブロッティング法、RT−PCR法及びin situ ハイブリダイゼーション等の転写レベルでGM2Aの発現量を測定する方法が用いられる。
また、GM2Aの活性の測定法としては、GM2Aの活性を測定できる方法であれば限定されないが、例えば、ラジオアイソトープ又は蛍光色素で標識されたガングリオシドを基質として、サポシン又はヘキソサミニダーゼ等との共存又は非共存下で、生成物又は結合物を定量する方法が用いられる。
これらの方法を用いることによって、GM2Aの量又は活性を定量的に測定することが可能である。また、自動分析装置等を使用することによって、短時間で大量の生物学的試料の測定が可能となる。
酵素免疫測定法(EIA)等の免疫学的測定法に用いる抗体としては、特に限定されず、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体が用いられるが、好ましくはモノクローナル抗体が用いられる。また、GM2Aにおいて、抗体が認識するエピトープの位置は、特に限定されるものではない。抗体は完全な抗体分子でもよいし、Fabフラグメント若しくはF(ab’)フラグメント等、抗原に特異的に結合し得る抗体フラグメントでもよい。
【0011】
本発明にあっては、上記のような方法で被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定し、得られた測定値が、健常者及びマイクロドメイン病に罹患している動物の生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を参照して予め設定された閾値よりも高い場合に、前記の被検動物がマイクロドメイン病に罹患していると評価するものである。
ここで、健常者とは、マイクロドメイン病に罹患していない被検動物を意味し、他の疾患に罹患している被検動物も包含しうる。
当該閾値は、被検動物の種、性別、年齢(週齢)、生活習慣によって変動するため、これら毎に、予め設定する必要がある。
当該閾値は、例えば、健常者及びマイクロドメイン病に罹患している複数の動物の生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を上述の方法により測定し、それぞれについて得られた測定値の平均値±標準偏差を参照して設定することができる。閾値決定のための、健常者であるか、またはマイクロドメイン病に罹患している動物であるか、を判断する方法としては、マイクロドメイン病に包含される疾病の既知の診断法を利用すればよい。このような閾値の具体的な設定例としては、例えば、(マイクロドメイン病に罹患した動物の生物学的試料における、GM2Aの量又は活性の平均値−標準偏差)等が挙げられる。
なお、「平均値」とは、同一種の動物である複数の固体から採取した生物学的試料についてそれぞれのGM2Aの量又は活性を測定し、これらの測定値の総和を個体数(試料数)で除して得られる相加平均値である。
このようにして設定した閾値と、被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性とを比較し、この測定値が、前記閾値以上であれば、前記の被検動物はマイクロドメイン病に罹患していると評価する。
特に、本発明の方法は、マイクロドメイン病を早期に(例えば、糖尿病であれば、血糖値検査によって糖尿病が検出されるより早い時期に)検出できることが期待される。
【0012】
〔2〕マイクロドメイン病の疾患状態の変化をモニタリングする方法
本発明の、マイクロドメイン病の疾患状態の変化をモニタリングする方法は、被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定する工程、及び、前記の測定されたGM2Aの量又は活性を前記被検動物について異なる時点で測定されたGM2Aの量又は活性と比較する工程を含む。
当該方法は、前記の本発明の「マイクロドメイン病を検出する方法」と基本的に同様に実施することができるが、一の被検動物について異なる時点でGM2Aの量又は活性を測定し、測定されたGM2Aの量又は活性同士を比較する点で異なる。
GM2Aの量又は活性は、一定の期間(例えば、1日間、3日間、1週間、2週間、1ヶ月)を空けて、測定される。
得られた測定値が経時的に上昇又は低下した場合、それぞれ、マイクロドメイン病が増悪又は改善したと評価することができる。このようなモニタリングを行うことによって、マイクロドメイン病に罹患している又は罹患する可能性があると評価された動物において、適当な治療薬又は予防薬の選択、及び、その効果の判定等を有効に行うことができる。
これは、適当な治療計画の決定、並びに新薬の評価に利用することができる。
【0013】
〔3〕マイクロドメイン病の診断用キット
また、本発明は、上記で説明した本発明の方法を実施するために使用できる、マイクロドメイン病の診断キットを提供する。このキットは、GM2Aの量又は活性の測定用試薬を含む。このような測定試薬としては、抗GM2A抗体等のGM2Aを認識しうる試薬、又はラジオアイソトープ若しくは蛍光色素で標識されたガングリオシド等のGM2AとサポシンB若しくはラクトヘキソサミニダーゼAとの協同によって分解される試薬を使用することができる。
【0014】
抗GM2A抗体としては、特に限定されないが、好ましくはモノクローナル抗体である。GM2Aの量を免疫学的手法により測定する場合、本発明によるキットはさらに、抗体の固相化、抗体の検出等に用いることのできる物質及び器具等を含んでもよい。抗体の固相化のためには、マイクロタイタープレート等の担体、炭酸緩衝液等の固相化用液体、ゼラチンやアルブミン等を含むブロッキング液を含むことができる。抗体の検出のためには、抗体を予め標識しておくことが好ましく、その場合には、本発明によるキットはその検出用試薬を含むことができる。例えば、標識物質としてビオチンを使用する場合には、検出用試薬としてストレプトアビジンと西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とのコンジュゲート、並びに、HRPの作用によって発色する発色液を含むことができる。また、GM2Aの活性測定に用いる基質としては、好ましくはラジオアイソトープ又は蛍光色素で標識されたガングリオシドである。
【0015】
〔動物〕
本発明はまた、GM2Aの発現レベルが上昇するように修飾された遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を提供する。これらトランスジェニック動物は、当該技術分野において慣用の遺伝子導入技術を用いて、当業者が容易に作製することができる。
GM2Aの発現レベルが上昇するように修飾された遺伝子とは、GM2A遺伝子に後述する所定遺伝子のエンハンサー配列部分、プロモーター配列部分及びポリAシグナル配列部分を結合させたDNAフラグメントからなる遺伝子である。
GM2A遺伝子は、結合させる前記所定遺伝子に応じて発現する組織・細胞を決定することができる。
所定遺伝子として、例えば脂肪細胞のみに発現しているaP2遺伝子を用いた場合はGM2A遺伝子を脂肪細胞で高発現させることができ、神経細胞で発現している神経細胞特異的エノラーゼ遺伝子を用いた場合はGM2A遺伝子を神経細胞で高発現させることができる。他に所定遺伝子として、アルブミン遺伝子やインシュリン遺伝子等を挙げることができる。GM2Aの発現レベルが上昇するように修飾された遺伝子が導入されたトランスジェニック動物として好ましくは、上述のようにしてGM2A遺伝子を脂肪細胞で高発現させたトランスジェニック動物等の、脂肪細胞においてGM2Aの発現レベルを上昇させたトランスジェニック動物である。
前記エンハンサー配列部分として、SV40エンハンサー、ポリオーマウイルスエンハンサー等のウイルスエンハンサー、IgHエンハンサー、IgLエンハンサー、T細胞レセプターα鎖エンハンサー等の免疫系遺伝子のエンハンサー、β−アクチンエンハンサー、MCKエンハンサー、エラスターゼI遺伝子エンハンサー等の細胞エンハンサー等が挙げられる。
前記プロモーター配列部分として、ウイルス(例えば、サイトメガロウィルス、モロニー白血病ウィルス、JCウィルス、乳癌ウィルス)由来のプロモーター配列部分や、メタロチオネイン、メタロプロテナーゼ1組織インヒビター、平滑筋αアクチン、ポリペプチド鎖延長因子1α、βアクチン、α及びβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1及び2、ミエリン基礎タンパク等のプロモーター配列部分等を挙げることができる。
前記ポリAシグナル配列部分として、SV40−ポリAシグナル、成長ホルモン−ポリAシグナル等が挙げられる。
GM2Aの発現レベルが上昇するように修飾された遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を作製するには、前記DNAフラグメントからなる遺伝子を非ヒト哺乳動物の受精卵にマイクロインジェクション法等により導入し、当該受精卵を偽妊娠雌性非ヒト哺乳動物に移植し、当該非ヒト哺乳動物を分娩させることにより実施することができる。非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類の他、ニワトリ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、サル等を使用することができるが、作製、育成及び使用の簡便さ等の観点から、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類が好ましく、そのなかでもマウスが最も好ましい(非特許文献2参照)。
本発明はまた、GM2Aタンパク質を投与し、血液中のGM2Aの量又は活性を人工的に上昇させた動物を提供する。
GM2Aタンパク質を動物に投与する方法としては、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、皮下投与、エアゾル投与、脳室内投与等が挙げられる。また、更に、GM2Aタンパク質を動物に投与する方法のうち、体内から動物に投与する方法としては、例えば、GM2Aタンパク質をペレットにして皮下や皮内等に埋め込む方法、浸透圧ポンプにGM2Aタンパク質を封じ込めて皮下、皮内又は腹腔内等に埋め込む方法等が挙げられる。
前記動物としては、特に限定されず、好ましくは非ヒト動物であり、より好ましくは非ヒト哺乳動物(例、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、 イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル)である。
このように、血液又は組織中のGM2A遺伝子の発現、あるいはGM2Aの量又は活性が上昇している動物は、マイクロドメイン病の症状を呈し得、マイクロドメイン病の予防若しくは治療薬等の医薬品開発のためのモデル動物として、あるいは該医薬品のスクリーニング用の動物として、非常に有用である。
【0016】
〔形質転換細胞〕
本発明はまた、GM2Aの発現レベルが上昇するように修飾された遺伝子が導入された動物細胞を提供する。このような形質転換細胞は、当該技術分野において慣用の遺伝子導入技術を用いて、当業者が容易に作製することができる。
例えば、導入するGM2A遺伝子に、脂肪細胞にのみ発現している遺伝子のエンハンサー及びプロモーター、又はこれらの高発現用に改変したものを結合し、その遺伝子を染色体に導入することによって、GM2A遺伝子がGM2A遺伝子の発現が上昇させられている形質転換動物細胞を作製することができる。導入するGM2A遺伝子は、翻訳されてGM2Aの機能を発揮するものであれば特に限定されず、修飾された遺伝子であってもよい。
宿主細胞は、特に限定されず、マウス骨髄腫細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS−7細胞、Vero細胞、HeLa細胞、ラット由来のGHS細胞等の動物細胞が用いられる。
このような形質転換動物細胞は、マイクロドメイン病の予防若しくは治療薬等の医薬品開発等に用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明する。
【0018】
実施例1(正常ラット脂肪細胞でのGM2A遺伝子の定量)
正常ラット脂肪細胞(内臓脂肪細胞、皮下脂肪細胞、精巣周囲脂肪細胞)及び液体培地(脂肪細胞分化メディウム)は、プライマリーセル社から購入した。GM2Aプライマー(下記に、配列番号1及び2で示す。)は、Invitrogen社に合成を委託して、入手した。
各脂肪細胞(0.75x10細胞)に液体培地6mlを加えて分散し、得られた脂肪細胞分散物を500rpm、5分間で遠心分離した。沈渣に液体培地3.2mlを加えて再度分散した後、得られた脂肪細胞再分散物を1ウエル当たり0.5mlの割合で24ウエルプレートに加えた。これを37℃、5% COの雰囲気下で培養した。翌日(Day1とする)、得られた培養物に液体培地0.5ml加えて一晩培養し、以後、2日毎に液体培地を全量交換した。Day2、4、6、10にそれぞれ脂肪細胞をPBS(−)で洗浄し、洗浄された脂肪細胞からRNeasy Mini Kit(カタログ番号74106、Qiagen社)を用いて全RNAを調製した。
次に、10ng/μl 全RNA 12.5μl、20μM オリゴdT 2.5μl、10mM dNTP 2.5μl及び精製水 12.5μl(計30μl)を混合し、得られた混合物を65℃で5分間保温した後、氷中で冷却した。冷却された混合物に、5xバッファー 10μl、0.1M DTT 5μl、SuperScript III Reverse Transcriptase 1.25μl(カタログ番号18080−044、Invitrogen社)、RNase OUT 1.25μl(カタログ番号10777−019、Invitrogen社)及び精製水 2.5μl(計20μl)を加えて混合し、得られた混合物を42℃で60分間、99℃で3分間反応させた後、これを4℃で保温することによりcDNA溶液を調製した。
次に、10xPCRバッファー 5μl、2mM dNTP 5μl、25mM MgSO 2μl、KOD −Plus− 1μl(カタログ番号KOD−201、TOYOBO社)、10μM GM2Aプライマー 各1μl(下記に、配列番号1及び2で示す。)、cDNA溶液 2μl及び精製水 33μl(計50μl)を混合し、得られた混合物をPCR(条件は、1サイクル:94℃ 30秒間、29サイクル:94℃ 15秒間、56℃ 30秒間、68℃ 1分間、1サイクル:68℃ 7分間)に供した。また、GM2Aプライマーの代わりに、GAPDHプライマー(Applied Biosystems社)を加えて同様な操作(PCR)を行った。生成したPCR産物 5μlを、エチジウムブロミドを含む1% アガロースゲルを用いて電気泳動した後、電気泳動後のアガロースゲルにおける蛍光画像をImage Reader LAS−1000(Fuji Film社製)を用いて取り込み、前記蛍光画像における蛍光強度をImage Gauge(Fuji Film社製)を用いて測定した。以下の式に基づき、GM2A遺伝子の相対発現量を算出し、その結果を表1に示す。
GM2A遺伝子の相対発現量=GM2Aの蛍光強度/GAPDHの蛍光強度
[ラットGM2Aプライマー]
配列番号1:gtgctgggct tgctgttc
配列番号2:gatgctctgg atgcggtagt
【0019】
【表1】

【0020】
各脂肪細胞中の脂肪滴は、顕微鏡観察の結果、Day2において細胞質の約10%、Day4において細胞質の約30%、Day6で約90%を占めていた。一方、GM2A遺伝子の相対発現量は、全ての脂肪細胞において、Day2に比してDay4以降で明らかに増加した。即ち、脂肪滴の量が少ない段階から、GM2A遺伝子の相対発現量は既に増加していた。
【0021】
実施例2(糖尿病モデル動物における各組織中のGM2A遺伝子の定量)
代表的な糖尿病モデル動物として、15週齢のKK−Ayマウス(日本クレア社)及び16週齢のdb/dbマウス(日本チャールズリバー社)を用いた。また、正常動物として、16週齢C57BLマウス(日本チャールズリバー社)を用いた。まず、各マウスを失血死させた後、精巣周囲脂肪組織・大腿筋・肝臓・腎臓・脾臓・精巣をそれぞれ採取した。次に、Handy Pestle(カタログ番号HMX−301、TOYOBO社)を用い、各組織 約30mgをRNA later(カタログ番号7021、Ambion社)1ml中でホモゲナイズした後、得られた破砕物の静置後に生じる上清の一部からRNeasy Mini Kitを用いて全RNAを調製した。
次に、調製された全RNAから、実施例1で用いられた方法と同様な方法によりcDNA溶液を調製した。次いで、TaqMan Gene Expression Assays(Assay ID:Mm00494656_m1、Applied Biosystems社)を用い、各組織中のGM2A遺伝子の発現量を測定した。即ち、Assay溶液 1μl、2xFast Master Mix 10μl(カタログ番号4304437、Applied Biosystems社)、cDNA溶液 5μl及び精製水 4μl(計20μl)を混合し、得られた混合物を7900HT Fast Real−Time PCR System(Applied Biosystems社製)を用いてPCRに供した。また、上記のAssay溶液の代わりに、Rodent GAPDHプライマー及びRodent GAPDHプローブ(Applied Biosystems社)を加えて同様な操作(PCR)を行うことにより、GAPDH遺伝子の発現量を測定した。尚、標準液として、精巣から調製したcDNA溶液を2倍ずつ希釈した溶液を調製して用いた。
PCRの条件は1サイクル:94℃ 30秒間、40サイクル:94℃ 15秒間、56℃ 30秒間、68℃ 1分間、1サイクル:68℃ 7分間であり、各遺伝子量は標準直線を基にして測定した。尚、GM2A遺伝子の相対発現量は、以下の式に基づき算出した。その結果を表2に示す。
GM2A遺伝子の相対発現量=GM2Aの発現量/GAPDHの発現量
【0022】
【表2】

【0023】
糖尿病モデルマウスでは、C57BLマウスに比して、脂肪組織でのGM2A遺伝子の発現量が明らかに増加していた。一方、他の組織では、糖尿病モデルマウスと正常マウスとで明らかな差異は認められなかった。
【0024】
実施例3(糖尿病モデル動物における脂肪組織中のGM2Aタンパク質の定量)
糖尿病モデルマウス及び正常マウスの精巣周囲脂肪組織 約30mgに、RIPAバッファー(50mM Tris−HCl(pH8.0)、50mM NaCl、1% Nonidet P−40、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、1mM EDTA、1mM PMSF、1mM NaVO、10mM NaF、15μg/ml アプロチニン、10μg/ml ロイペプチン)200μlを加え、得られた混合物を氷中で超音波処理した。次に、得られた破砕物を15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。得られた上清を脂肪組織抽出物とした。尚、各脂肪組織抽出物のタンパク質濃度は、牛血清アルブミンを標準タンパク質にして、BCA Protein Assay Reagent(カタログ番号23228、Pierce社)を用いて測定した。
脂肪組織抽出物 100μgを10−20% SDS−PAGEした後、分離された各タンパク質をPVDF膜(カタログ番号RPN303F、GE Healthcare社)に転写した。PVDF膜を5% スキムミルク(カタログ番号198−10605、和光純薬社)を含むTBS−T溶液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、0.15M NaCl、0.1% Tween−20)でブロッキングした後、これにTBS−T溶液で500倍希釈したウサギ抗GM2A抗体(カタログ番号10864−2−AP、Proteintech社)を加え、室温に1時間放置した。次に、得られたPVDF膜をTBS−T溶液で3回洗浄した後、これにTBS−T溶液で1000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(カタログ番号sc−2004、Santa Cruz社)を加え、室温に1時間放置した。得られたPVDF膜をTBS−T溶液で3回洗浄した後、これをChemi−Lumi One(カタログ番号05027−20、ナカライテスク社)に浸し、Image Reader LAS−1000により発光画像を取り込み、Image Gaugeを用いてGM2Aタンパク質のバンドに相当する発光強度を測定した。次に、WB Stripping Solution(カタログ番号05364−55、ナカライテスク社)を得られたPVDF膜に加えて、これを37℃、1時間振とうさせながら保温した。その後、得られたPVDF膜を1000倍希釈したヤギ抗アクチン抗体(カタログ番号sc−1616、Santa Cruz社)及びHRP標識ロバ抗ヤギIgG抗体(カタログ番号sc−2020、Santa Cruz社)と反応させ、上記と同様にして、アクチンタンパク質のバンドに相当する発光強度を測定した。以下の式に基づきGM2Aタンパク質の相対発現量を算出した。その結果を表3に示す。
GM2Aタンパク質の相対発現量=GM2Aタンパク質の発光量/アクチンの発光量
【0025】
【表3】

【0026】
糖尿病モデルマウスでは、C57BLマウスに比し、脂肪組織でのGM2Aタンパク質の発現量が増加していた。
【0027】
実施例4(肥満患者におけるGM2A遺伝子の発現解析)
ヒトの組織別、疾患別の遺伝子発現データを収載している商用データベースであるGene Logic社のAscentaを用いて、GM2A遺伝子のヒト正常組織における発現分布を調べた。各種ヒト組織において、GM2A遺伝子に対応するプローブである212737_atの発現を調べた結果、ほとんど全ての組織においてGM2A遺伝子の発現が認められた。次に、肥満患者の脂肪組織、骨格筋、肝臓におけるGM2A遺伝子の発現を健常人と比較した。その結果を表4に示す。
【0028】
【表4】

【0029】
肝臓と骨格筋とにおいては、肥満患者と非肥満患者との間で、GM2A遺伝子の発現量に有意な差は認められなかった。一方、脂肪組織においては、肥満患者は非肥満患者に対し、有意に高いGM2A遺伝子の発現が認められた(p<0.005)。
【0030】
実施例5(GM2Aタンパク質による細胞内シグナル伝達阻害作用)
マウス骨格筋細胞株C2C12(CRL−1772)及びラット褐色細胞腫細胞株PC12(CRL−1721)は、ATCC社から購入した。両細胞株の細胞を、非働化牛胎児血清を10%含むD−MEM(カタログ番号14247−15、ナカライテスク社)中で、37℃、5%CO雰囲気下において培養した。分化マウス骨格筋細胞株C2C12の細胞は、非働化馬血清を2%含むD−MEMに交換し、8〜10間培養することにより調製した。
ヒトGM2Aタンパク質は、以下の通りに調製した。まず、ヒト肺癌細胞株HARA−B(カタログ番号JCRB1080.1、ヒューマンサイエンス研究資源バンク)から、オリゴdTを用いてcDNAを調製した。調製されたcDNAを用いて、ヒトGM2A遺伝子の全長を含むPCR断片を取得した。取得したPCR断片をpET24aベクター(カタログ番号69749−3、Novagen社)に挿入することにより、ヒトGM2A/pET24aプラスミドを調製した。次に、大腸菌BL21(DE3)pLysS(カタログ番号69451−4、Novagen社)にヒトGM2A/pET24aを添加することにより、当該大腸菌を形質転換させた後、得られた大腸菌を50μg/mlカナマイシンを含むLB培地中にて、OD600=約0.5になるまで37℃で振とう培養した。次いで、得られた培養物に最終濃度0.5mMになるように、Isopropyl−β−thiogalactopyranoside(カタログ番号9030、タカラバイオ社)を添加した後、更に18℃、3時間振とう培養した。得られた培養物を遠心分離することにより菌体を回収し、回収された菌体を超音波処理した。次いで、得られた破砕物を、11,000rpm、30分間遠心分離した。得られた上清に、Ni−NTAアガロース(カタログ番号1018244、Qiagen社)を加えて4℃、2時間放置した後、得られた放置物を5回洗浄した。得られた洗浄物から、250mM イミダゾールでタンパク質を溶出させることによりタンパク質の溶出画分を得た。得られた溶出画分を陰イオン交換クロマトHiTrapQ HPで精製することにより、ヒトGM2Aタンパク質を調製した。
GM2Aタンパク質によるシグナル伝達阻害試験については、以下の通りに実施した。
分化マウス骨格筋細胞株C2C12の細胞にヒトGM2Aタンパク質を加えて24時間培養した後、得られた培養物から液体培地を除去し、次いでグルコース及び血清を含まないD−MEM(カタログ番号11966、Gibco社)に交換し、これを更に2時間培養した。次に、得られた培養物に1μg/ml インシュリン(カタログ番号I−5500、Sigma社)を加えて10分間培養した後、得られた細胞を10mM Tris−HCl(pH7.5)で洗浄した。このようにして得られた細胞から前記実施例で用いられた方法と同様な方法により、細胞抽出物を調製した。同様にして、未分化マウス骨格筋細胞株C2C12の細胞にヒトGM2Aタンパク質を加えて、これを24時間培養した後、得られた培養物から液体培地を除去し、次いで血清を含まないD−MEMに交換し、これを更に2時間培養した。次いで、得られた培養物に0.1μg/ml レプチン(カタログ番号450−31、Peprotech社)を加えて30分間培養した後、得られた細胞から上記と同様な方法により細胞抽出物を調製した。また、ラット褐色細胞腫細胞株PC12の細胞にヒトGM2Aタンパク質を加えて、これを24時間培養した後、得られた培養物から液体培地を除去し、次いで血清を含まないD−MEMに交換し、これを更に1時間培養した。次に、得られた培養物に0.1μg/ml NGF(カタログ番号147−04641、和光純薬社)を加えて10分間培養した後、得られた細胞から上記と同様な方法により細胞抽出物を調製した。
実施例3に記載した方法に準じて、細胞抽出物をPVDF膜に転写した後、インシュリンについては、抗リン酸化Akt抗体(カタログ番号9271、Cell Signaling社)及び抗Akt抗体(カタログ番号9272、Cell Signaling社)、レプチンについては、抗リン酸化AMPKα抗体(カタログ番号2531、Cell Signaling社)及び抗AMPKα抗体(カタログ番号2603、Cell Signaling社)、NGFについては、抗リン酸化Akt抗体及び抗Akt抗体を用いてブロッティングした。次に、各バンドの発光強度を測定し、非リン酸化タンパクに対するリン酸化タンパクの相対量を算出した。その結果を表5に示す。
【0031】
【表5】

【0032】
上記試験結果から明らかなように、GM2Aタンパク質は、インシュリン、レプチン及びNGFの細胞内シグナル伝達を濃度依存的に阻害した。
【0033】
実施例6(GM2Aタンパク質の定量法)
(1)ウサギ抗ヒトGM2A抗体の作製
ウサギ抗ヒトGM2Aポリクローナル抗体は、抗原として、配列番号3又は配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるペプチドをウサギに免疫し、得られた抗血清から抗原カラムを用いて、それぞれ、抗ヒトGM2A抗体I又は抗ヒトGM2A抗体IIを得た。得られた抗ヒトGM2A抗体とGM2Aタンパク質との反応性を確認するため、ヒト、マウス及びラットGM2Aを電気泳動して得られたゲルを、上記の各抗体1μg/mlでブロッティングした。その結果、抗ヒトGM2A抗体I及び抗ヒトGM2A抗体IIは、ヒト、マウス及びラットGM2Aタンパク質とのいずれにも反応することが確認された。
【0034】
配列番号3
CysAspGluGlyLysAspProAlaValIleArgSerLeu
配列番号4
CysProPheLysGluGlyThrTyrSerLeuProLysSerGluPheValVal
【0035】
(2)抗ヒトGM2A抗体IIのビオチン標識
Peroxidase Labeling Kit−NH(Dojindo社)を用い、本キットのプロトコールに従って、抗ヒトGM2A抗体II 200μgをHRP標識した(以下、抗ヒトGM2A抗体II−HRPと記す)。
【0036】
(3)エライザ法(検量線作成)
抗ヒトGM2A抗体Iをコーティングバッファー(25mM NaHCO、25mM NaCO)で100倍に希釈して10μg/mlの抗体液を調製した。得られた抗体液を1ウエル当たり100μlずつの割合で96ウエルプレートに添加し、これを室温で1時間放置した。抗体液を吸引により除去した後、洗浄バッファー(50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.14M NaCl)を1ウエル当たり200μlの割合で用いて洗浄し、当該洗浄操作を3回繰り返した。次に、得られた洗浄物に、1% BSAを含む洗浄バッファー(以下、ブロッキングバッファーと記す。)を200μl加え、これを室温で2時間放置した後、洗浄バッファーで3回洗浄した。次に、得られた洗浄物に、種々の濃度でヒトGM2Aタンパク質を含有する検体100μlを添加し、これを室温で1時間放置した後、洗浄バッファーで5回洗浄した。抗ヒトGM2A抗体II−HRPをブロッキングバッファーで1000倍に希釈して1μg/mlの検出用抗体液を調製した。得られた検出用抗体液を1ウエル当たり100μlずつの割合で添加し、これを室温で1時間放置した。得られた放置物を洗浄バッファーで5回洗浄した後、これにTMB peroxidase substrate溶液(カタログ番号50−76−01、KPL社)を100μl添加した。得られた混合物を約15分間放置した後、これに2M 硫酸を100μl添加することにより反応を停止させた。次に、得られた反応物を含む各ウェルの450nmの吸光度を測定した。その結果、1ng/ml〜1μg/mlの範囲で直線性が認められた。
【0037】
実施例7(生物学的試料におけるGM2Aタンパク質の定量)
(1)正常ラット内臓脂肪細胞培養上清
実施例1で用いられた方法と同様な方法により、正常ラット内蔵脂肪細胞を培養し、Day3、5、7、8にそれぞれ培養上清を回収した。次に、実施例6(3)で用いられた方法と同様な方法により、培養上清中のGM2Aタンパク質の量を定量した。その結果を表6に示す。
【0038】
【表6】

【0039】
培養上清中のGM2Aタンパク質は、培養日数の増加(即ち、脂肪滴の蓄積)とともに従って増加した。
【0040】
(2)ヒト血清
非肥満血清13検体及び肥満患者血清7検体をILSbio社から購入した。購入された各血清検体を、20〜100倍に希釈した後、実施例6(3)で用いられた方法と同様な方法により、ヒト血清中のGM2Aタンパク質の量を定量した。その結果を表7に示す。
【0041】
【表7】

【0042】
肥満患者では非肥満患者に対し、血清中のGM2Aタンパク質量が有意に高値を示した(p<0.05)。
【0043】
実施例8(GM2Aタンパク質によるグルコース取り込み阻害作用)
マウス脂肪細胞株3T3−L1は、(財)ヒューマンサイエンス研究資源バンクから購入した。購入されたマウス脂肪細胞株3T3−L1の細胞を、10%牛胎児血清を含むD−MEM(以下、D−MEM(10)と記す。)中で、37℃、5%CO雰囲気下において培養した。培養された当該細胞を6ウエルプレートに播き、コンフルエントになって2日後に、培養液を前分化培養液(1μg/ml インシュリン(対照では無添加)、0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、1μM デキサメタゾンを含むD−MEM(10))へ交換して更に4日間培養した。次に、前分化培養液を後分化培養液(1μg/ml インシュリン(対照では無添加)を含むD−MEM(10))へ交換して3日間培養した後、マウスGM2Aタンパク質を表8に記載した濃度で含むD−MEM(10)へ交換して更に1日間培養した。翌日、得られた培養物から培養液を除去した後、マウスGM2Aタンパク質を表8に記載した濃度で含む後分化培養液又はD−MEM(10)へ交換して4時間培養した。次いで、得られた上記細胞をHRPHバッファー(20mM HEPES−OH(pH7.4)、5mM KHPO、1mM MgSO、1mM CaCl、136mM NaCl、4.7mM KCl、0.1% 牛血清アルブミン)で2回洗浄した後、これに1mM 2−デオキシグルコースを含むHRPHバッファーを添加して30分間培養した。次に、得られた培養物をHRPHバッファーで2回洗浄した後、スクレイパーを用いて細胞を回収した。次いで、回収物を遠心分離することにより得られた沈渣に0.1M NaOHを加えた後、これをボルテックスすることにより、前記細胞を凍結融解した。凍結融解された細胞(細胞溶液)を85℃、30分間保温した後、これに0.1M HClを加えて中和することにより、検体を調製した。尚、検体のタンパク濃度は、牛血清アルブミンを標準タンパク質にして、BCA Protein Assay Reagent(カタログ番号23228、Pierce社)を用いて測定した。
検体中の2−デオキシグルコースの量は、以下の方法に従って定量した。蛍光測定用プレートにアッセイバッファー(50mM トリエタノールアミン(pH8.1)、50mM KCl、0.5mM MgCl、0.02% 牛血清アルブミン、670μM ATP、0.12μM NADP、25μM レサズリン、5.5単位/ml ヘキソキナーゼ、16単位/ml G6PDH、1単位/ml ジアホラーゼ)100μl及び検体100μlを加えた。得られた混合物を37℃、90分間保温した後、得られた混合物の蛍光強度を測定した(励起波長530nm、検出波長595nm)。2−デオキシグルコース 500μM、250μM、125μM、0μM(蒸留水)を標準物として検量線を作成し、当該検量線に基づき定量した。検体のタンパク量当たりの、細胞内へ取り込まれた2−デオキシグルコース量を相対値としてGM2Aタンパク算出した。その結果を表8に示す。
【0044】
【表8】

【0045】
GM2Aタンパク質は、インシュリンによる2−デオキシグルコースの細胞内取り込み促進作用を濃度依存的に阻害した。
【0046】
実施例9(抗GM2A抗体及びリガンドによるグルコース取り込み促進作用)
ヒトGM2Aのリガンド結合ドメインに対する抗体である抗ヒトGM2A抗体II、及び、ヒトGM2AのリガンドであるガングリオシドGM2(カタログ番号G8397、Sigma社)を分化マウス脂肪細胞株3T3−L1の細胞(培養液中へGM2Aタンパク質を分泌している)に添加した後、細胞中の2−デオキシグルコース量を測定した。実施例8で用いられた方法と同様な方法により、後分化培養液中で3日間培養した後、抗ヒトGM2A抗体II又はウサギIgG(コントロール抗体)、ガングリオシドGM2又はDMSOを含む後分化培養液に交換して1日間培養した。翌日、得られた培養物から培養液を除去し、次いでHRPHバッファーで2回洗浄した後、これに1mM 2−デオキシグルコースを含むHRPHバッファーを添加して30分間培養した。検体中の2−デオキシグルコース量は、実施例8で用いられた方法と同様な方法により測定した。細胞内へ取り込まれた2−デオキシグルコースの量を相対値としてGM2Aタンパク算出した。その結果を表9に示す。
【0047】
【表9】

【0048】
抗ヒトGM2A抗体II及びガングリオシドGM2は、2−デオキシグルコースの細胞内取り込みを促進した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の方法は、マイクロドメイン病の早期検出及び疾患状態のモニタリング等に利用でき、本発明の動物は、マイクロドメイン病の予防若しくは治療薬等の医薬品開発等に利用できる。また、抗GM2A抗体やGM2A阻害活性化合物は、マイクロドメイン病の予防若しくは治療薬として利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0050】
配列番号1:プライマー
配列番号2:プライマー
配列番号3:抗原ペプチド
配列番号4:抗原ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定する工程、及び、前記の測定されたGM2Aの量又は活性を閾値と比較する工程を含むことを特徴とする前記被検動物におけるマイクロドメイン病を検出する方法。
【請求項2】
被検動物から採取した生物学的試料におけるGM2Aの量又は活性を測定する工程、及び、前記の測定されたGM2Aの量又は活性を前記被検動物について異なる時点で測定されたGM2Aの量又は活性と比較する工程を含むことを特徴とするマイクロドメイン病の疾患状態の変化をモニタリングする方法。
【請求項3】
前記生物学的試料が、血液、リンパ液、組織又は細胞であることを特徴とする請求項1又は2に記載される方法。
【請求項4】
前記GM2Aの量又は活性の測定が、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法、蛍光免疫測定法、エライザ法、免疫組織化学染色法、免疫沈降法、ウェスタンブロッティング法、ノーザンブロッティング法又はRT−PCR法により行われることを特徴とする請求項1又は2に記載される方法。
【請求項5】
マイクロドメイン病のバイオマーカーとしてのGM2Aの使用。
【請求項6】
前記マイクロドメイン病が、肥満、高脂血症、高血圧、動脈硬化症、糖尿病若しくはその合併症、癌、中枢神経障害、子宮内膜症、骨粗しょう症又は自己免疫疾患であることを特徴とする請求項5に記載される使用。
【請求項7】
GM2Aの量又は活性の測定用試薬を含有することを特徴とするマイクロドメイン病の診断用キット。
【請求項8】
前記GM2Aの量又は活性の測定用試薬が、抗GM2A抗体、又はラジオアイソトープ若しくは蛍光色素で標識されたガングリオシドであることを特徴とする請求項7に記載される診断用キット。
【請求項9】
GM2Aの発現レベルが上昇するように修飾された遺伝子が導入されたトランスジェニック動物。
【請求項10】
脂肪細胞においてGM2Aの発現レベルを上昇させた請求項9に記載されるトランスジェニック動物。
【請求項11】
GM2Aタンパク質を投与し、血液中のGM2Aの量又は活性を人工的に上昇させた動物。
【請求項12】
マイクロドメイン病の症状を呈することを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載される動物。
【請求項13】
抗GM2A抗体を有効成分として含有することを特徴とするマイクロドメイン病の予防若しくは治療薬。
【請求項14】
GM2A阻害活性化合物を有効成分として含有することを特徴とするマイクロドメイン病の予防若しくは治療薬。

【公開番号】特開2010−101880(P2010−101880A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219526(P2009−219526)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】