説明

マイクロニードルとマイクロニードルアレイとマイクロニードルアレイ製造方法

【課題】 皮膚に対して容易に突き刺すことができるとともに、十分な量の薬剤を確実に皮膚内に送り込むことができ、且つ、容易に製造できるように工夫したマイクロニードルを提供すること。
【解決手段】 尖形形状を成している針体と、上記針体の外周面に設けられた平面状の薬剤塗布面と、上記薬剤塗布面に開口した状態で該薬剤塗布面に直交する方向に延長・形成され開口面積が上記針体の先端に向かって小さくなるように設けられた薬剤保持部と、を具備し、樹脂を原料とした射出成形法により成形されたことを特徴とするマイクロニードル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、皮膚に突き刺して注射を行うマイクロニードルとマイクロニードルアレイとマイクロニードルアレイ製造方法に係り、特に、マイクロニードルを皮膚に対して容易に突き刺すことができるとともに、十分な量の薬剤を確実に皮膚内に送り込むことができ、且つ、容易に製造できるように工夫したものに関する。
【0002】
従来、マイクロニードルを利用して薬剤を投与する場合、表面に薬剤が塗布、もしくは、コーティングされたマイクロニードルを皮膚に突き刺し、皮膚内に上記薬剤を浸透、吸収させることが行われていた。
【0003】
しかし、マイクロニードルの表面に塗布、もしくは、コーティングできる薬剤の量は限られている。そのため、このようなマイクロニードルでは、十分な量の薬剤を投与することが困難であった。
そこで、特許文献1に開示されているようなカスプ型皮膚表面内挿入用微細針を用いて、十分な量の薬剤を投与することが考えられている。これは、皮膚内可溶性材料であるヒアルロン酸等から形成された微細針に薬剤を含浸させたり、あるいは、微細針に設けられた穴や窪みに薬剤や薬剤の入ったマイクロカプセルを保持させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−279237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の構成によると次のような問題があった。
すなわち、特許文献1に記載された微細針は、皮膚内可溶性材料であるヒアルロン酸等から構成されているため、十分な強度を持たない。そのため、皮膚に突き刺す際に微細針が破損し、薬剤投与が正しく行われない可能性がある。
また、特許文献1に記載された微細針は、薬剤を含有することのできる皮膚内可溶性材料であるため、加工条件や形状等が限定されてしまう。例えば、特許文献1に記載された微細針は切削加工によって製造されているため、その製造には時間と労力が必要とされる。よって、使い捨てを前提として大量生産を行いつつ皮膚に刺さり易いシャープな形状の微細針を製造することが困難である。
【0006】
本願発明は、このような点に基づいてなされたもので、その目的とするところは、皮膚に対して突き刺す際に微細針が不用意に破損することなく薬剤投与を行うことができ、また、加工条件や形状等が限定されることなく使い捨てを前提として大量生産を行うことができるマイクロニードルとマイクロニードルアレイとマイクロニードルアレイ製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく請求項1に記載されたマイクロニードルは、尖形形状を成している針体と、上記針体の外周面に設けられた平面状の薬剤塗布面と、上記薬剤塗布面に開口した状態で該薬剤塗布面に直交する方向に延長・形成され開口面積が上記針体の先端に向かって小さくなるように設けられた薬剤保持部と、を具備し、樹脂を原料とした射出成形法により成形されたことを特徴とするものである。
上記課題を解決するべく請求項2に記載されたマイクロニードルは、請求項1記載のマイクロニードルにおいて、上記薬剤保持部は複数の微小穴又は複数の微小貫通孔又は複数の微小溝であることを特徴とするものである。
上記課題を解決するべく請求項3に記載されたマイクロニードルアレイは、請求項1又は請求項2記載のマイクロニードルを複数連設したことを特徴とするものである。
上記課題を解決するべく請求項4に記載されたマイクロニードルアレイ製造方法は、請求項3記載のマイクロニードルアレイを製造するマイクロニードルアレイ製造方法において、上型及び下型を使用し、上記上型又は下型には、上記マイクロニードルの軸方向が上記上型及び下型の抜き方向に対して直交する方向に指向するような凹部が形成されており、上記上型及び下型を使用して射出成形により製造するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように、請求項1記載のマイクロニードルは、樹脂、例えば、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの生体適合性と生分解性を有する樹脂を原料とした射出成形法により成形されたものであるので、皮膚に突き刺した際に不用意に破損することがないマイクロニードルを得ることができる。
また、請求項1記載のマイクロニードルは、樹脂、例えば、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの生体適合性と生分解性を有する樹脂を原料とした射出成形法により成形されたものであるので、薬剤保持部を備える等微細な構造をなし、且つ、皮膚に突き刺し易い形状のものを、容易に、且つ、大量に生産することができる。これは、使い捨てを前提とした安価なマイクロニードルを提供する上で極めて有効である。
また、針体の外周面に設けられた平面状の薬剤塗布面と、上記薬剤塗布面に開口した状態で該薬剤塗布面に直交する方向に延長・形成された薬剤保持部と、を具備しているため、必要な量の薬剤を確実に保持して効率よく投与することができる。特に、上記薬剤保持部は開口面積が上記針体の先端に向かって小さくなるように設けられているので、上記針体の薬剤塗布面における上記薬剤保持部が占める領域を十分なものとすることができ、それによって、効率のよい薬剤の保持・投与を行うことができる。
また、請求項2に記載されたマイクロニードルは、上記薬剤保持部として複数の微小穴又は複数の微小貫通孔又は複数の微小溝が設けられているため、薬剤の量を制御することが可能になり、それによって、必要な量の薬剤を保持して効率良く投与することが可能になる。
また、請求項3に記載されたマイクロニードルアレイは、請求項1又は請求項2記載のマイクロニードルを複数連設したものであるため、上記効果を確実なものとすることができるとともに、例えば、マイクロニードル毎に薬剤の種類を変える等、使いがっての向上を図ることができる。
また、請求項4に記載されたマイクロニードルアレイ製造方法は、請求項3記載のマイクロニードルアレイを製造するマイクロニードルアレイ製造方法において、上型及び下型を使用し、上記上型又は下型には、上記マイクロニードルの軸方向が上記上型及び下型の抜き方向に対して直交する方向に指向するような凹部が形成されており、上記上型及び下型を使用して射出成形により製造するように構成されているので、型の抜けを考慮する必要がない。よって、デザインの自由度が高く、様々な形状・大きさの薬剤保持部が設けられ、薬剤の保持と投与をより確実なものとすることができるマイクロニードルを容易に製造することができる。
また、このような型を用いることにより、アスペクト比が大きく、極めてシャープで刺さり易い形状のマイクロニードルを有するマイクロニードルアレイを容易に製造することができる。
また、射出成形法を採用しているので、使い捨てを前提とした安価なマイクロニードルアレイを大量生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、図1(a)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素を薬剤塗布面側から見た斜視図、図1(b)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素を反薬剤塗布面側から見た斜視図である。
【図2】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、図2(a)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素の端部を拡大した平面図、図2(b)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素の端部を拡大した正面図、図2(c)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素の右側面図である。
【図3】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、複数のマイクロニードルアレイ要素が接続されたマイクロニードルアレイを示す斜視図である。
【図4】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素の製造に用いる上型及び下型を示す斜視図である。
【図5】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、図4におけるV−V断面図である。
【図6】本願発明の第2の実施の形態を示す図で、図6(a)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素のマイクロニードル付近を拡大した正面図であり、図6(b)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素のマイクロニードル付近を拡大した側面図である。
【図7】本願発明の第3の実施の形態を示す図で、図7(a)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素のマイクロニードル付近を拡大した正面図であり、図7(b)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素のマイクロニードル付近を拡大した側面図である。
【図8】本願発明の第4の実施の形態を示す図で、図8(a)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素のマイクロニードル付近を拡大した正面図であり、図8(b)は本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素のマイクロニードル付近を拡大した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜図5を参照して、本願発明の第1の実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素及びマイクロニードルアレイについて説明する。
本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1には、図1(a)、図1(b)、及び、図2(a)〜図2(c)に示すように、まず、略直方体形状の支持部3がある。この支持部3の一方の面(図2(c)左側の面)の左右両端側(図2(b)中左右方向両端)には、それぞれ連結穴3aが1つずつ穿孔されている。また、上記支持部3の他方の面(図2(c)中右側の面)の左右両端(図2(b)中左右方向両端)には、上記連結穴3aに対応した連結ボス3bが1つずつ突出・形成されている。
【0011】
上記支持部3の上面(図2(b)中上側の面)からは、5つの土台部5が突出・形成されている。この土台部5は、略円柱を均等に2分割した形状を成しており、その分割面が上記支持部3の一方の面と連続している。
【0012】
上記個々の土台部5の上面(図2(b)中上側の面)からは、マイクロニードル7が突出・形成されている。このマイクロニードル7には、まず略四角錘形状を均等に2分割した形状を成している針体7aがある。その分割面は、薬剤塗布面7bとなっており、上記支持部3の一方の面や上記土台部5の分割面と連続している。
また、上記針体7aには、薬剤保持部7dが設けられている。この薬剤保持部7dは、上記薬剤塗布面7bに開口した複数(本実施の形態では9個)の凹部7cから構成されている。上記凹部7cは円柱形状を成していて、その円柱の軸方向が上記薬剤塗布面7bに直交しており、上記凹部7cの底面は上記薬剤塗布面7bと平行になっている。また、上記凹部7cの径は略同一に設定されている。また、図2(b)に示すように、上記針体7aの基部側(図2(b)中下側)から上記針体7aの先端側(図2(b)中上側)に向かうほど個々の上記凹部7cの数が少なくなるように構成されている。
【0013】
また、図2(b)に示すように、上記凹部7cのうちの上記針体7aの最も基部側(図2(b)中下側)の列の中央にあるものの深さが最も深くなっている。
また、上記凹部7cのうち、上記針体7aの最も基部側の列の左右両端にあるものは、この列の中央にあるものよりも浅くなっている。
また、上記凹部7cのうち、上記針体7aの基部側から2番目の列から最も先端側(図2(b)中上側)にあるものの深さは、上記針体7aの基部側(図2(b)中下側)から上記針体7aの先端側(図2(b)中上側)に向かうほど浅くなるように設定されている。
【0014】
なお、図2(b)に示すように、上記薬剤保持部7dを構成する上記凹部7cの数は、基部側(図2(b)中下側)の列から順に、3個、2個、2個、1個、1個となっている。この場合、上記凹部7cが2個の列が2つ連続し、上記凹部7cが1個の列も2つ連続しているが、このような構成も、本願の請求項1にいうところの「開口面積が上記針体の先端に向かって小さくなるように設けられた」構成に含まれるものである。
また、上記薬剤保持部7dを構成する上記凹部7cの数や大きさは、投与される薬剤の量等に応じて設定されるものである。
また、夫々の上記マイクロニードル7に異なる種類の薬剤を保持させることも考えられる。
【0015】
上記マイクロニードルアレイ要素1は、それ単体でもマイクロニードルアレイとして使用することができるが、複数の上記マイクロニードルアレイ要素1を上記連結穴3a、3aに上記連結ボス3b、3bを圧入することで接続し、図3に示すようなマイクロニードルアレイ8として使用することもできる。
このようなマイクロニードルアレイ8を用いると、より広い範囲にわたって薬剤の投与を行うことができる。また、投与可能な薬剤量を増加させることもできる。また、夫々の上記マイクロニードル7に異なる種類の薬剤を保持させる場合は、その種類を増やすことができる。
なお、請求項3におけるマイクロニードルアレイには、上記マイクロニードルアレイ8のようなものの他、上記マイクロニードルアレイ要素1のようなものも含まれる。
【0016】
次に、本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1及びマイクロニードルアレイ8の作用について説明する。
上記マイクロニードルアレイ要素1による薬剤の投与は、次のようにして行われる。
まず、上記マイクロニードル7を、例えば、液体の薬剤(以下、薬液)に浸漬させる。すると、上記薬剤保持部7d内部に薬液が浸入する。その後、上記マイクロニードル7を薬液から引き上げると、上記薬剤保持部7d内に薬液が保持されるとともに、上記針体7aの外周面、特に、上記薬剤塗布面7bに薬液が付着した状態となる。この薬液の付着は、薬液の表面張力によるものである。上記薬剤塗布面7bに薬液が付着し易いのは、上記薬剤塗布面7bに付着した薬液は、上記薬剤保持部7d内に保持された薬液と一体となり、表面張力により薬剤保持部7d内に保持された薬液と共に保持されるからである。
【0017】
また、上記マイクロニードルアレイ8に薬液を保持させる方法であるが、薬液を保持させる前の上記マイクロニードルアレイ要素1を接続して上記マイクロニードルアレイ8を構成した後に薬液を保持させる方法や、予め薬液を保持させた上記マイクロニードルアレイ要素1を接続して上記マイクロニードルアレイ8を構成する方法が考えられる。
【0018】
そして、このようにして薬液を保持した上記マイクロニードル7を患者の皮膚に突き刺すと、上記薬剤保持部7d内や上記薬剤塗布面7b等に保持された薬剤が患者の皮下に投与されることとなる。本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1は、薬液の注入以外にも別の用途に使用することもできる。すなわち、薬液を充填せずに上記マイクロニードル7を皮膚に穿刺することで、上記薬剤保持部7d内に組織や皮膚内物質などを回収することもできる。
【0019】
次に、上記マイクロニードルアレイ要素1の製造方法について説明する。
上記マイクロニードルアレイ要素1は、例えば、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの生体適合性と生分解性を有する樹脂を射出成形により成形することにより製造される。その射出成形には、図4及び図5に示すような上型9及び下型11を用いる。
上記上型9には、上記マイクロニードルアレイ要素1の構成要素のうち、上記支持部3、上記連結ボス3b、上記土台部5、及び、上記マイクロニードル7の針体7aに対応した形状の凹部9aが設けられている。上記上型9は、図5に示すように、上記凹部9aの上記針体7aに対応する部分の軸方向が上記上型9及び下型11の抜き方向(図5中上下方向)に直交する方向(図5中左右方向)に指向するよう形成されている。
【0020】
上記下型11は、上記上型9と共に使用され、上記マイクロニードルアレイ要素1の構成要素のうち、上記連結穴3aに対応した突起11a、及び、上記薬剤保持部7dに対応した複数の突起11bが突出・形成されているものである。
上記突起11aや上記突起11bは、図5に示すように、上記上型9及び下型11の抜き方向(図5中上下方向)に指向するように形成されたものである。
また、上記上型9と上記下型11との合わせ面が、成形される上記マイクロニードルアレイ要素1の薬剤塗布面7bや、上記支持部3の一方の面、及び、上記土台部の分割面と一致している。
【0021】
上記上型9及び上記下型11を使用して射出成形法によりマイクロニードルアレイ要素1の成形を行う。その際、上記上型9及び下型11の抜けについては、これをさほど考慮する必要がない。これは、上記上型9には、上記マイクロニードル7に対応する部分の軸方向が上記上型9及び下型11の抜き方向に対して直交する方向に指向するような凹部9aが形成されており、上記下型11には、上記上型9及び下型11の抜き方向に指向するように上記突起11aや上記突起11bが形成されているからである。したがって、成形後に上記上型9及び下型11を成形されたマイクロニードルアレイ要素1から引っ掛かることなく除去することができる。
そのため、上記マイクロニードルアレイ要素1を射出成形法によって容易に大量生産することができる。
【0022】
以上本実施の形態によると、以下のような効果を奏する。
すなわち、本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1は、例えば、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの生体適合性と生分解性を有する樹脂を射出成形法により成形することにより製造されるため、皮膚に対して突き刺したときに破損しにくいマイクロニードル7を備えたマイクロニードルアレイ要素1を得ることができる。
また、上記マイクロニードルアレイ要素1は、例えば、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの生体適合性と生分解性を有する樹脂を原料とした射出成形法により成形されたものであるため、薬剤保持部7dを備える等、微細な構造であって皮膚に突き刺さり易い形状を有するマイクロニードル7を、容易に、且つ、大量に生産することができる。これは、使い捨てを前提としたマイクロニードルアレイ要素1を大量に提供する上で極めて効果的なことである。
特に、上記マイクロニードルアレイ要素1の製造に用いる上型9には、上記マイクロニードル7の軸方向が上記上型9及び下型11の抜き方向に対して直交する方向に指向するような凹部9aが形成されており、下型11には上記薬剤保持部7dに対応した突起11bや連結穴3aに対応した突起11aが上記上型9及び下型11の抜き方向に突出して設けられているので、製造時に型の抜けをさほど考慮する必要がない。よって、このような上記上型9や下型11を用いることにより、例えば、従来のような切削加工を用いた場合と比べると、加工条件や形状等が限定されることがなく、デザインの自由度が高くなる。そのため、アスペクト比が大きく、極めてシャープで刺さり易い形状で且つ上記薬剤保持部7dが設けられた上記マイクロニードル7を有する上記マイクロニードルアレイ要素1を容易に製造することができる。
【0023】
また、上記マイクロニードルアレイ要素1は、複数の凹部7cからなる薬剤保持部7dを具備しているため薬液の量の制御が容易となる。すなわち、上記凹部7cの数を調整する、或いは、薬液を保持させる凹部7cの個数を調整することにより、保持される薬液の量を調整することができ、それによって、投与される薬液の量を容易に制御することができるものである。
また、上記マイクロニードル7において、上記薬剤保持部7dが上記薬剤塗布面7bに開口された凹部となっているため、上記薬剤塗布面7b側に対して、効率よく薬剤を投与することができる。
また、その表面張力によって、上記薬剤保持部7dと上記薬剤塗布面7bに薬液を効率よく保持させることができる。
また、上記薬剤保持部7dを構成する凹部7cの数は、上記針体7aの基部側(図2(b)中下側)から上記針体7aの先端側(図2(b)中上側)に向かうほど少なくなるように構成されている。つまり、幅広の基部側には数多くの凹部7cが設けられ、幅狭の先端側においては、数少ない凹部7cが設けられていて、薬剤塗布面7bの面積を有効に使用してできるだけ広い領域に凹部7cを設けるように構成しているので、効率のよい薬剤の保持・投与が可能となる。
また、本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1は、薬液の注入以外にも別の用途に使用することもできる。例えば、薬剤保持部7dの凹部7cに薬液を保持させない状態で皮膚に突き刺して引き抜くことにより、上記薬剤保持部7d内に組織や皮膚内物質などを回収することもできる。
【0024】
次に、図6を参照して、本願発明の第2の実施の形態について説明する。
本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素13も、前述した第1の実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1と略同様な構成となっており、同様の使用方法によって使用され、同様の製造方法により製造されるものである。
【0025】
図6(a)及び図6(b)に示すように、本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素13のマイクロニードル15の針体15aにも薬剤塗布面15b及び複数の貫通孔15cから構成された薬剤保持部15dが設けられている。
本実施の形態における上記薬剤保持部15dは、上記針体15aを貫通する3つの貫通孔15cから構成されている。この上記貫通孔15cは、図6(a)に示すように、上記針体15aの基部側(図6(a)中下側)から先端側(図6(a)中上側)に向かって配置されており、上記針体15aの基部側(図6(a)中下側)に設けられている上記貫通孔15cほど径が大きく、上記針体15aの先端側(図6(a)中上側)に設けられている上記貫通孔15cほど径が小さくなるように構成されている。
【0026】
上記マイクロニードル15を薬液に浸漬させると、その表面張力により、薬液が上記薬剤保持部15d内に保持される。また、上記針体15aの外周面や上記薬剤塗布面15bにも上記薬液が保持される。
そして、上記マイクロニードル15を患者の皮膚に対して突き刺すことで、上記薬液を患者に投与することができる。
【0027】
本実施の形態においても、前述の第1の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。特に、上記薬剤保持部15dが上記3つの貫通孔15c、15c、15cから構成されているため、上記薬剤保持部15dと上記薬剤塗布面15bだけでなく、上記薬剤保持部15dの反薬剤塗布面15b側の開口部付近にも表面張力によって薬液が保持され、効率のよい薬液の保持と投与が可能となる。
【0028】
次に、図7を参照して、本願発明の第3の実施の形態について説明する。
本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素17も、前述した第1の実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1と略同様な構成となっており、同様の使用方法によって使用され、同様の製造方法により製造されるものである。
【0029】
図7(a)及び図7(b)に示すように、本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素17のマイクロニードル19の針体19aにも薬剤塗布面19bが設けられており、この薬剤塗布面19bに開口された薬剤保持部19cが設けられている。
上記薬剤保持部19cは、上記薬剤塗布面19bに大きな略台形形状の開口部を有する凹部である。上記薬剤保持部19cは、上記針体19aの基部側(図7(a)中下側)において幅(図7(a)中左右方向長さ)と深さが大きく、上記針体19aの先端側(図7(a)中上側)に向かうほど幅と深さが小さくなるように構成されている。
また、上記薬剤保持部19cの底面は上記針体19aの底面に沿って傾斜しており、上記薬剤保持部19cの断面形状は略3角形となっている。
【0030】
上記マイクロニードル19を薬液に浸漬させると、その表面張力により、薬液が上記薬剤保持部19c内に保持される。また、上記針体19aの外周面や上記薬剤塗布面19bにも上記薬液が保持される。
そして、上記マイクロニードル19を患者の皮膚に対して突き刺すことで、上記薬液を患者に投与することができる。
また、本実施の形態の場合は、上記薬剤保持部19cに固体の薬剤を保持することも可能である。
【0031】
本実施の形態においても、前述の第1の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。また、上記薬剤保持部19cが上記薬剤塗布面19bに大きな略台形形状の開口部を有する凹部であるため、液体の薬剤だけでなく、固体の薬剤も保持・投与することができる。
【0032】
次に、図8を参照して、本願発明の第4の実施の形態について説明する。
本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素21も、前述した第1の実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素1と略同様な構成となっており、同様の使用方法によって使用され、同様の製造方法により製造されるものである。
【0033】
図8(a)及び図8(b)に示すように、本実施の形態によるマイクロニードルアレイ要素21のマイクロニードル23の針体23aにも薬剤塗布面23bが設けられている。そして、上記薬剤塗布面23bには、横方向(図8(a)中左右方向)に延長・形成され、縦方向(図8(a)中上下方向)に等間隔に配置された4つの溝状の凹部23cから構成された薬剤保持部23dが設けられている。
上記薬剤保持部23dを構成する個々の凹部23cは、上記針体23aの基部(図8(a)中下側)にあるものほど幅(図8(a)中左右方向長さ)と深さが大きなものとなっており、先端側(図8(a)中上側)にあるものほど幅(図8(a)中左右方向長さ)と深さが小さなものとなるように構成されている。
また、上記凹部23cの底面は、図8(a)及び図8(b)に示すように、上記針体23aの外周面に合わせて傾斜した形状となっており、その断面形状は略5角形となっている。
【0034】
上記マイクロニードル23を薬液に浸漬させると、その表面張力により、薬液が上記薬剤保持部23d内に保持される。また、上記針体23aの外周面や上記薬剤塗布面23bにも上記薬液が保持される。
そして、上記マイクロニードル23を患者の皮膚に対して突き刺すことで、上記薬液を患者に投与することができる。
また、上記マイクロニードル23を患者に対して突き刺す深さに応じて、上記薬剤保持部23dを構成する上記凹部23cの数と縦方向(図8(a)中上下方向)の位置を調整する場合がある。
また、針を突き刺す深さに応じて、任意の上記凹部23cに薬液を充填・塗布することも考えられる。
また、薬剤を充填せずに上記マイクロニードル23を皮膚に穿刺した場合には、上記薬剤保持部23d内に組織や皮膚内物質などを回収することができ、そのような回収物から穿刺深さの判定や物質の成分分析等を行うことも考えられる。
【0035】
本実施の形態においても、前述の第1の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。また、上記マイクロニードル23を患者に対して突き刺す深さに応じて、上記薬剤保持部23dを構成する上記凹部23cの数と縦方向(図8(a)中上下方向)の位置を調整したり、任意の上記凹部23cに薬液を充填・塗布することで、使用態様にあわせたより効果の高い薬剤の投与を行うことができる。
【0036】
なお、本発明は、前記第1〜第4の実施の形態に限定されない。
例えば、マイクロニードルや薬剤保持部、及び、薬剤保持部を構成する凹部の形状、大きさ、数は、薬剤の投与量などの使用態様に応じて、さまざまな場合が考えられる。
また、マイクロニードルアレイ要素やマイクロニードルアレイを成形する材料には様々なものが考えられ、例えば、ポリカーボネートやアクリルなどの樹脂を用いることも考えられる。また、その他の生分解性樹脂等の生体適合材料を用いることも考えられる。
また、上記実施の形態においては、マイクロニードルの薬剤保持部等に表面張力によって薬液を保持させていたが、マイクロニードルの表面に薬剤をコーティングする場合も考えられる。また、薬剤保持部に対して、固形や粉末性状の薬剤の充填やマイクロカプセル型薬剤の挿入を行うことも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、マイクロニードルとマイクロニードルアレイとマイクロニードルアレイ製造方法に係り、特に、マイクロニードルを皮膚に対して容易に突き刺すことができるとともに、十分な量の薬剤を確実に皮膚内に送り込むことができ、且つ、容易に製造できるように工夫したものに係り、例えば、薬剤の経皮投与に使用されるマイクロニードルアレイに好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 マイクロニードルアレイ要素
7 マイクロニードル
7a 針体
7b 薬剤塗布面
7d 薬剤保持部
8 マイクロニードルアレイ
9 上型
9a 凹部
11 下型
13 マイクロニードルアレイ要素
15 マイクロニードル
15a 針体
15b 薬剤塗布面
15d 薬剤保持部
17 マイクロニードルアレイ要素
19 マイクロニードル
19a 針体
19b 薬剤塗布面
19c 薬剤保持部
21 マイクロニードルアレイ要素
23 マイクロニードル
23a 針体
23b 薬剤塗布面
23d 薬剤保持部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
尖形形状を成している針体と、
上記針体の外周面に設けられた平面状の薬剤塗布面と、
上記薬剤塗布面に開口した状態で該薬剤塗布面に直交する方向に延長・形成され開口面積が上記針体の先端に向かって小さくなるように設けられた薬剤保持部と、
を具備し、
樹脂を原料とした射出成形法により成形されたことを特徴とするマイクロニードル。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロニードルにおいて、
上記薬剤保持部は複数の微小穴又は複数の微小貫通孔又は複数の微小溝であることを特徴とするマイクロニードル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のマイクロニードルを複数連設したことを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
請求項3記載のマイクロニードルアレイを製造するマイクロニードルアレイ製造方法において、
上型及び下型を使用し、
上記上型又は下型には、上記マイクロニードルの軸方向が上記上型及び下型の抜き方向に対して直交する方向に指向するような凹部が形成されており、
上記上型及び下型を使用して射出成形により製造するようにしたことを特徴とするマイクロニードルアレイ製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−217653(P2012−217653A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86831(P2011−86831)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(391008537)ASTI株式会社 (73)
【Fターム(参考)】