マイクロマシン
【課題】 自律的に自由に運動することができ、その速度や方向の制御も可能となるとともに、信頼性の高いマイクロマシンを実現する。
【解決手段】 本発明のマイクロマシンは、円形または多角形の2枚の固定板の間に1つまたは複数の線状の形状記憶合金および復元用バネを取り付け、さらに必要に応じて剛な芯棒を取り付けたマイクロアクチュエータについて、1つまたは複数の形状記憶合金に電流を通電・遮電を繰り返して収縮と伸張を繰り返させることによって固定板の間隔を繰り返し変化させ、この運動により床面または壁面を自由に移動可能ならしめるか、または固定板を互いに傾斜させることによって方向を変化させる。
【解決手段】 本発明のマイクロマシンは、円形または多角形の2枚の固定板の間に1つまたは複数の線状の形状記憶合金および復元用バネを取り付け、さらに必要に応じて剛な芯棒を取り付けたマイクロアクチュエータについて、1つまたは複数の形状記憶合金に電流を通電・遮電を繰り返して収縮と伸張を繰り返させることによって固定板の間隔を繰り返し変化させ、この運動により床面または壁面を自由に移動可能ならしめるか、または固定板を互いに傾斜させることによって方向を変化させる。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔実施の形態〕
(1.緒言)
本発明は、床面または壁面に沿って移動、制御させることができるマイクロマシンに関するものである。
【0002】
(1.1 研究背景)
マイクロマシンとは、μmから数cm単位の小型機械のことである。また、このようなミクロの機械に関する技術を、マイクロマシン技術(アメリカではMEMS=Micro Electro Mechanical Systems、ヨーロッパではMST=Micro System Technology)と呼んでいる。
【0003】
マイクロマシンの研究は、1980年代後半から始まった。アメリカのカリフォルニア大学で、直径100μmのモータが作成されたことが発端で、日本でも1991年に通産省によるマイクロマシン開発のプロジェクトが推進された。
【0004】
現在、マイクロマシンは様々な分野での活躍が考えられている。またマイクロマシンの製造過程や用いられる技術も応用が期待されている。現在は、インクジェットプリンタのヘッド部分、図1に示す、自動車のエンジン制御圧力センサ、エアバッグやDNAチップ等のMEMS技術を用いた製品が実用化されている。最近では、図2に示すようなMEMS技術を用いて作製される加速度センサが自動車向けを中心に需要が拡大し、市場が活発化している。
【0005】
医療分野もマイクロマシンの活躍が期待されている分野の1つである。例えば、胃や大腸の検査を行う場合、内視鏡検査を行うが、小腸については、腸管の内径が小さく、外部からの支持もなく、複雑に曲がっているため、内視鏡が小腸の奥深くまで侵入できない。そこで、小腸の検査がマイクロマシンを用いて実現できないかと期待されている。実際、図3に示す、イスラエルのGIVEN imaging社製の消化器診察用カプセル内視鏡「M2A」が実用化され、アメリカではすでに8万個、世界で20万個が使用されている。日本国内では、オリンパス社が国内初のカプセル内視鏡を開発したことを発表した(図4)。
【0006】
しかし、どちらのカプセル内視鏡も患部の位置がわからないため、リアルタイムで位置を確認できるシステムや、全方向誘導システム、自立走行システムの開発が必要とされている。これらの技術を用いて小腸の検査が可能になることにより、小腸の病気が解明され、早期発見、適切な治療が可能となる。
【0007】
このように、マイクロマシンは医療分野を含めた広い分野での応用を期待されており、研究開発が求められている。
【0008】
カプセル内視鏡としてのマイクロマシンは、生体の蠕動運動などに任せて自走できない形態のものが実用化されており、自走可能なものとして考案されているものも液体中または筋肉などの生体中において流体や環境物質による流体抵抗を利用して移動、制御させる鞭毛型などが主であった。カプセル内視鏡としてのマイクロマシンによれば、小型カメラを用いて生体内や配管内の写真撮影を行い、その映像によって腫瘍などの病変や異常を検査することができる。
(1.2 従来技術の問題点)
従来のマイクロマシンに採用されるアクチュエータシステムは、生体の消化管や血管などの中を移動させるのに液体や筋肉内でアクチュエータを運動させたときの流体抵抗の反力を利用して移動、制御させるため、液体環境中でなければ適用できなかったので検査前に生理用水などの液体を予め飲む必要があった。そこで、検査をより容易にするにはこれらの環境条件を必要とせずに消化管の床や壁などの面との摩擦力を利用して移動、制御することができるマイクロマシンの開発が求められている。また、従来の内視鏡では患者の苦痛が大きいので苦痛を軽減できる検査法の開発も望まれている。
【0009】
前節でも述べた通り、マイクロマシンは様々な分野で活躍が期待されている。本研究では、体内検査や体液採取など、医療分野での活躍を考えたマイクロマシンの開発を目標としている。そこで、壁面を移動するマイクロマシンの開発を目標とし、今回は種々の方式による壁面移動型のアクチュエータシステムを備えるマイクロマシンを考案した。
【0010】
本アクチュエータシステムは、床面や壁面との摩擦を利用して移動できるよう、車輪型または伸縮型の駆動システムを用いることによって、流体などの環境条件を必要とせずに適用できるようにした。また伸縮型の場合、往復運動を一方向のみ進行し得るようにするため、方向性のある摩擦抵抗を有する足部を設けることによって解決した。
【0011】
(2.基礎知識と理論)
(2.1 マイクロアクチュエータ)
この章ではマイクロマシンを駆動させるためのアクチュエータの説明、および駆動システムに採用したバイオメタルの説明を述べる。
【0012】
(2.1.1 一般的なマイクロアクチュエータ)
マイクロアクチュエータは、マイクロマシンを動かす力を発生する部品である。マイクロアクチュエータの駆動方法には、大きく分けて「場」の力を用いるものと、材料自体の性質を用いるものがある。前者の例として静電力、後者の例として形状記憶合金などがある。どちらにおいても、場を作るための構造の製作や、機能材料の加工にマイクロマシニングが用いられる。
【0013】
マイクロアクチュエータの大きさは10μmから1mm程度であるため、微小化による寸法効果が効いてきて、マクロのものの単なる小型化では、十分な性能が得られない。また、マイクロマシニングの製造プロセスで、容易に作成できる構造と材料でできている必要がある。このため、新しい原理に基づくアクチュエータの開発が行われている。図5〜図9に示したように、駆動原理は静電気、圧電素子、形状記憶合金、熱膨張、超電導体の反発力、電磁力など多岐にわたっている。またその構造も、自分自身が変化するもの、可動部が固定部と接触しながら自由に動くもの、可動部が浮上して動くものなどいろいろな工夫がされている。微小化すると、重力や慣性力に対して摩擦力が支配的になる。摩擦の影響を最小限にして、小さな力で大きな動きや早い動きを得るためにこのような工夫が必要である。
【0014】
いろいろあるマイクロアクチュエータの中で、一概にどれが優れているということは難しく、用途に応じてアクチュエータを選び、要求仕様を満たすように最適化する必要がある。考慮すべき事項には、次の事項等がある。
・ 許容されるアクチュエータの大きさ
・ 要求される可動範囲と精度
・ 要求される動作速度
・ 要求される発生力
・ チップ上への集積化の必要性
・ 許容される消費電力や電圧の上限
・ 使用環境の良し悪し
・ 許容される製造コスト
静電アクチュエータはチップ内に集積化しやすく、制御も容易で消費電力が少ないので、システム内で完了する機械的動作を行うのに適している。一方、熱や磁気を利用したアクチュエータは頑丈で大きな力や変位を発生できるので、外界に作用を及ぼす応用に向いている。
【0015】
(2.1.2 壁面移動型マイクロマシンの例)
壁面移動型マイクロマシンには、2.1.1節で述べたような様々な種類のアクチュエータを応用することができる。ここでは、今回考案した壁面移動型マイクロマシンを説明する。
【0016】
(1)車輪型マイクロマシン
車輪型は図10に示すようにボディに磁石を埋め込み、車輪をつけたもので、外部の交番磁場(a)、または静磁場(b)によって駆動し、壁面を移動するマイクロマシンである。外部磁場で駆動させるため、非接触の遠隔操作が可能である。また、動力を搭載していないので電池のように途中で供給エネルギがなくなることがないのが長所である。
【0017】
(2)伸縮型マイクロマシン
(i) 交流磁場を利用した伸縮移動型マイクロマシン
交流磁場を利用した伸縮移動型マイクロマシンは、図11に示すようなシリコン等で作製したボディに磁石を埋め込み、交流磁場によって伸縮させることによって壁面を推進するマイクロマシンである。足部は一方向に摩擦抵抗が高くなるようにしてある。交流磁場により、遠隔操作が可能であることが長所である。
【0018】
(ii) 形状記憶合金をアクチュエータとして用いた伸縮移動型マイクロマシン
形状記憶合金をアクチュエータとして用いた伸縮移動型マイクロマシンは、図12のようにボディと形状記憶合金アクチュエータと復元バネから成り、形状記憶合金アクチュエータに電圧をかけることにより収縮することと、復元バネが形状記憶合金を再び引き伸ばすことが交互に起こることで伸縮運動を行うマイクロマシンである。
【0019】
(3)交流磁場を利用した尺取虫型マイクロマシン
交流磁場を利用した尺取虫型マイクロマシンは、図13に示すように磁石を取り付け、足部を一方向に摩擦抵抗が高くなるようにし、交流磁場によって尺取虫のように推進するマイクロマシンである。非接触での遠隔操作ができ、構造が単純で動力が不要であるのが長所である。
【0020】
(4)足部
上記の(1)以外はいずれも一方向にマイクロマシンを移動させるようにする必要がある。そのためには摩擦係数が一方に高く、逆方向に低い物質を足部分に取り付ければよい。そのような足部材としては図14に示すように、次のようなものが考えられる。
【0021】
(a)ノコギリ刃状の形状を持つ固定形状部材
(b)ゴムやプラスティックの薄い板状の可とう性のある部材
(c)毛のような形状のものを、または複数束ねた可とう性のある部材
単純に一方向のみ進行させるのであれば(a)でよいが、途中で進行方向を変える必要がある場合、(b)または(c)は、一端持ち上げて湾曲方向を変えるだけで方向転換できるので有効である。
【0022】
今回、比較的構造が簡単な形状記憶合金アクチュエータを用いた壁面移動型マイクロマシンを考案した。
【0023】
(2.2 形状記憶合金アクチュエータ)
(2.2.1 形状記憶合金の歴史)
形状記憶合金は、1960年頃に、アメリカの海軍省の材料研究所において発見された。すなわち、Ti−50at%Ni合金を室温で外力を加えて変形したのち加熱すると、合金は変形前の形に戻ることを見つけ、形状記憶合金(shape memory alloy)と名づけられた。その後、多数の研究者によって研究が行われ、Ti−50at%Ni合金以外の多くの合金が発見された。
【0024】
現在では、眼鏡のフレームやブラジャー、Ti−Ni管継ぎ手など、広い分野で使用されており、様々な応用も考えられている。
【0025】
(2.2.2 形状記憶効果の原理)
図15に形状記憶効果(sharp memory effect)を示す合金の諸性質をまとめたものを示す。一般に、形状記憶合金は、熱弾性型マルテンサイト変態(thermo-elastic martensitic transformation)を伴う。これは鉄鋼のマルテンサイトと同じ名前で呼ばれているが、その内容は非常に異なる。すなわち、熱弾性型マルテンサイト変態においては、一般に、母相とマルテンサイト相との界面の整合性がよく、そのため変態の温度ヒステリシスや変態潜熱が小さく、しかも変態が結晶学的に可逆的であることが特徴である。このような結晶学的可逆性の原因は、母相とマルテンサイト相が共に規則構造を持っており、両者の間に単一な格子対応があって、マルテンサイト相が母相に戻るとき、母相の規則構造を壊すような過程は母相の自由エネルギーを高めるために、元の経路をたどって母相に戻るためである。図15からわかるように、形状記憶合金のほとんどは規則格子構造を持つ。In−Tl、Fe−Pd、Mn−Cuは例外的に不規則格子である。
【0026】
図16は、典型的な形状記憶合金における、母相(オーステナイト)→双晶マルテンサイト相→変形マルテンサイト相→母相への変化に伴う結晶構造変化の様子を模式的に示したものである。
【0027】
図16の(1)はオーステナイトで、Af点以上の温度であり、結晶構造は立方晶である。図16の(2)は双晶マルテンサイトで、Mf点以下の温度に母相を冷却すれば、母相はマルテンサイト相に変態する。一般に、マルテンサイト相は立方晶ではなく、格子変形を伴っている。図16では形状は菱形の格子とし、格子変形を誇張して示してある。なお、格子変形の他に、格子不変変形が起こって、その結果、マルテンサイト相には双晶が伴う。このような双晶は内部双晶と呼ばれ、熱弾性型マルテンサイトに不可欠なものである。マルテンサイト相はこのような双晶を含むために、外形が母相の外形にほぼ近いものとなり、変態に伴う系全体のひずみエネルギーが極端に高くなるのを抑制する。このような格子不変変形による抑制作用を自己修正(self accommodation)という。
【0028】
図16の(3)は変形マルテンサイトで、双晶マルテンサイトに外力を加えて変形を与えたときに生成する。外力によるせん断変形の結果、双晶マルテンサイトの双晶が消滅して単一バリアントとなる。これは、通常の金属・合金の塑性変形がすべり転位の運動による格子面のすべりで起こることとは全く異なる別の機構に基づく変形である。すなわち、多数のバリアントを有する双晶マルテンサイトが、単一バリアント化して変形マルテンサイト相となる過程として、形状記憶合金結晶の変形は特徴づけられる。
【0029】
最後にこのような変形マルテンサイト相をAf点以上の温度に加熱し、逆マルテンサイト変態を起こさせて、母相に戻す場合を考えてみる。マルテンサイトが母相に戻って結晶が立方晶になるにつれて、先の格子変形も格子不変変形も共に消滅してしまう。これに伴って双晶マルテンサイトに与えられた変形も消滅し、外形は元の形(母相のときの形)に戻ってしまう。これが形状記憶効果の原理である。
【0030】
(2.2.3 形状記憶効果と超弾性)
図17は、Ti−Ni合金の各温度における応力−ひずみ特性を三次元的に表示したものである。合金の引張特性が温度によって非常に大きく異なることが特徴である。以下、三つの温度での挙動を順に述べる。
【0031】
(1)Mf点以外の温度T1では、図16の(2)と同様に、合金は双晶マルテンサイトの結晶構造を持ち、通常の形状記憶効果が現れる。双晶マルテンサイトの変形により変形が進行して、最終的には変形マルテンサイトが生じる。図17の(1)では、除荷後に約4%の残留ひずみを生じているのは、このためである。この合金を加熱すると、AS点付近の温度から残留ひずみの減少が始まり、Af点で残留ひずみは完全に回復して、変形前の母相の形に戻る。これは前節で述べた通りの形状記憶効果である。
【0032】
(2)Af点の直上の温度T2では、合金は母相の結晶構造を持ち、超弾性(super elasticity)と呼ばれる特異な性質が現れる。これは疑弾性(pseudo-elasticity)とも呼ばれている。母相に変形を加えると、初めに母相の弾性変形が起こるが、これに引き続いて、ある臨界応力以上でマルテンサイト相が応力誘起される。この応力誘起マルテンサイトは、図16の(2)で述べたような母相を冷却して生じる一般のマルテンサイト(熱誘起マルテンサイトと呼ぶ)とは異なり、外部応力のもとで生じる一種の変形マルテンサイトである。このような応力誘起マルテンサイトと熱誘起マルテンサイトとの相互関係については、図18を参照されたい。このような応力誘起マルテンサイト生成の結果として、約4%のひずみを生じるが、このひずみは試料を除荷するとたちまち消滅してしまう。すなわち図18から明らかなように、応力誘起マルテンサイトは外部応力のもとでのみ安定であって、Af点直上のこの温度においては、マルテンサイトは不安定であり、合金は母相の状態に戻ってしまう。したがって、応力を除去すると、変形はほぼ100%回復する。このような性質は荷重をかけて試料に与えられた変形が、除荷後に元に戻るという意味では弾性的であるが、これはあくまでも結晶の真の弾性(原子間のポテンシャルエネルギーにより生じた弾性)ではない。その意味で疑弾性と呼ばれている。まるでゴムのように伸び縮みするので、金属とは思えないほどしなやかであり、柔らかである。この現象は、通常に金属材料の弾性限をはるかに超える大きなひずみ(数%〜数十%)を伴うので、超弾性と呼ばれて、実用的に重宝される。
【0033】
(3)Af点より十分高い温度T3では、母相が安定である。母相は一般に硬くて、わずかにしか変形しない。温度が十分高いときは、応力誘起マルテンサイト相を生じることはない。ここでは弾性率が高くて、形状記憶合金の形状回復力が大きいゆえんである。
【0034】
形状記憶効果と超弾性は、それぞれ互いに関連しながら観測されるが、それぞれの出現条件を、温度−応力平面上に図示すると、図18のようになる。マルテンサイトは熱でも応力でも誘起されることは上述したとおりであるが、マルテンサイトを誘起するための臨界温度は温度軸上の 点にある。一方、マルテンサイトを応力誘起させるための臨界応力を表す直線ABと、結晶のすべりに対する臨界応力を表す直線CDとで囲まれた範囲においてのみ、これら2種類の効果が観察される。したがって、両効果の出現のためには、すべりに対する臨界応力がなるべく大きいことが必要である。例えば、直線C’D’のようにこの臨界応力が低いときは、動作可能な温度と応力の範囲が狭くて不適当である。そのためには、合金の塑性変形に対する抵抗、言い換えると降伏応力を高めることが必要とされる。実際、合金硬化のための種々の工夫が各合金で行われている。
【0035】
(2.3 バイオメタル)
(2.3.1 バイオメタルとは)
バイオメタルとは、トキ・コーポレーション社が開発したTi−Ni形状記憶合金を原料とした繊維状のアクチュエータで、電流を流すことによって筋肉のように自分で緊張収縮−弛緩伸張する。バイオメタルは一般的な形状記憶合金とは違い、素材内に組織化された構造性を持っており、細くなるほど耐久性や自己伸縮性などの諸性能が向上する傾向がある。バイオメタルには繊維状の「バイオメタル・ファイバー」とバイオメタル・ファイバーを、細いコイル・スプリング状に加工した「バイオメタル・へリックス」の2種類がある。本研究ではコイル・スプリング状のバイオメタル・へリックスを用いた。
【0036】
(2.3.2 バイオメタル・へリックス)
前節で述べたようにバイオメタル・へリックスはバイオメタル・ファイバーを細いコイル・スプリング状に加工したものである。バイオメタル・へリックスには、次のような特徴がある。
(1)大きな操作量と発生力
(2)静かで滑らかな動作
(3)低電圧、小電力で作動
今回用いたバイオメタル・へリックス(製品名 BMX10020、BMX20020)の特性と仕様を図19に示し、その外観写真を図20に示す。
【0037】
また、図21からわかるように引き伸ばされたバイオメタルに電流を流すと、元の長さに収縮する。電流を流すのを止めると、重りにより再び引き伸ばされる。この往復動作を、適切な負荷と運動範囲内において500万回繰り返すことができる。また、動作ひずみは5%であることがわかっている。
【0038】
しかし電流が流れていないときや収縮しているときに許容範囲を超える大きな負荷をかけてしまうとバイオメタルの構造自体が崩れてしまい、収縮しなくなるので、注意が必要である。
【0039】
(3 駆動システムの構造)
この章では駆動システムの実施例の構造を説明する。
【0040】
(3.1 駆動条件)
駆動システムの条件として、次の二条件を満たすことを目的とした構造を考え、三つの駆動システムを開発した。それぞれの駆動システムを駆動システムA、駆動システムB、駆動システムCとする。
● バイオメタルと復元バネによる伸縮運動を行い、進行する。
● 側面がどこを向いても同じ動作ができる。
【0041】
(3.2 駆動システムA)
駆動システムAの構造を図22に示す。アクチュエータとしてBMX10020を使用した。
【0042】
駆動システムAでは図23のように、三本のバイオメタルの内二本を収縮させることと、復元バネ(曲げバネ)によって再び引き伸ばされることが交互に起こることにより、尺取虫のような伸縮運動を行って推進させることを考えた。ただし、2.3.2節でも述べたように、バイオメタルは収縮しているときに大きな負荷をかけると壊れてしまう可能性があるので、任意のバイオメタルを収縮させるのは、残りのバイオメタルが復元バネにより完全に電圧をかける前の状態に戻ってから行うものとした。また、このシステムには三本の内一本のバイオメタルを収縮させることによって方向転換ができるようにすることを考え作製した。実際に作製した駆動システムAの写真を図24に示す。
【0043】
(3.3 駆動システムB)
駆動システムBの構造を図25に示す。アクチュエータとしてBMX10020を使用した。
【0044】
駆動システムBでは駆動システムAとは違い、図26のように、三本のバイオメタルを同時に収縮させることと、復元バネ(圧縮バネ)によって再び引き伸ばされることが交互に起こることにより伸縮運動を行って推進させることを考えた。金属芯は復元バネが曲げられずに安定した伸縮運動が行えるようにボディの中央に搭載した。実際に作製した駆動システムBの写真を図27に示す。
【0045】
(3.4 駆動システムC)
駆動システムCの構造を図28に示す。アクチュエータとしてBMX10020を使用した。
【0046】
駆動システムCでは駆動システムAと駆動システムBの構造を組み合わせており、図29のように、3本のバイオメタルを同時に収縮することと、復元バネである曲げ及び圧縮バネにより再び引き伸ばされることによる伸縮運動で進行させることと、詳しい内容は後の4章で述べるが、駆動システムAの特徴である湾曲した状態にさせるため、任意の一本のバイオメタルを収縮させることにより湾曲した状態ができるように考えた。実際に作製した駆動システムCの写真を図30に示す
(4 駆動実験・結果)
ここでは、実験方法と、各駆動システムの駆動実験を行った結果を述べる。
【0047】
(4.1 実験方法)
駆動実験は以下の順番で行う。
【0048】
(1) 駆動システムの動作確認
作製した駆動システムが考案した通り伸縮運動を行うかを確認した。この時点で伸縮運動ができなかった駆動システムに関して、次の実験は行わなかった。
【0049】
(2)進行方向の測定
上記(1)で安定した伸縮運動が可能であった駆動システムのみ、この実験で進行方向の精度を測定した。駆動システムには一方向のみ摩擦抵抗が高くなるように足部にノコギリ刃状の足部材を取り付けた。進行方向を測定する装置として、図32に示すように胃や腸の表面を平らにした状況を想定し、アクリル板に方眼紙を貼り付け、その上からゴム手袋を貼り付けたものを使用した。この装置の上に駆動システムを駆動させ,各測定点から最小二乗法で求めた線分とY軸との間の角度を測定することを5回繰り返した(図33を参照)。
【0050】
ただし、(1)、(2)とも有線により電力の供給を行った。
【0051】
(4.2 駆動システムAの実験結果)
(4.2.1 駆動実験結果)
図34に二本のバイオメタルに電圧をかけたとき、図35に一本のバイオメタルに電圧をかけたとき、図36に電圧をかけるのを止めたときの状態の写真をそれぞれ示す。
【0052】
図34、図36を見るとわかるように、3.4節で検討した通りの伸縮運動を行うことが確かめられた。しかし、図34をよく見てみると、二本のバイオメタルに電圧がかかってないときは、電圧をかけていない残り一本のバイオメタルに大きな引張負荷がかかっているのがわかる。2.3節でも述べたように、バイオメタルに大きな負荷がかかるとバイオメタルの構造自体が崩れて収縮しなくなる。つまり、この伸縮運動はバイオメタルを壊す可能性があるので、駆動システムAは安全な伸縮運動ができないことがわかった。
【0053】
ただし、次に、図35のように、一本のバイオメタルに電圧をかけたとき、湾曲した状態になれることがわかった。このとき、図34の場合に比べて、電圧のかかっていない二本のバイオメタルが引張負荷を分担するので、このバイオメタルが破損する可能性が低くなるので、駆動システムAの機構として有利であると考えられる。この状態は4.3節で述べる駆動システムBにはできない動作であった。
【0054】
以上の結果より駆動システムAの長所、短所は、次のとおりであることがわかった。
【0055】
長所:一本のバイオメタルに電流を流すことによって湾曲した状態なれる。
【0056】
短所:バイオメタルに比較的大きな負荷がかかるため、安全な伸縮運動を繰り返し行うには許容条件について注意を払う必要がある。
【0057】
(4.3 駆動システムBの実験結果)
(4.3.1 駆動実験結果)
図37に電圧をかけたときの状態、図38に電圧をかけるのを止めたときの状態の写真をそれぞれ示す。図37、図38からわかるように、金属芯が効果的に働き、安定した伸縮運動ができることがわかった。また、駆動システムAのように、三本のバイオメタルが復元バネによる引張力を均等に分担するため、バイオメタルに加わる負荷は少なくなる。よって、駆動システムBは、駆動システムAよりも安定で、安全な伸縮運動が可能であることがわかった。
【0058】
しかし、金属芯があるため駆動システムAのように湾曲した状態になることはできず、真っ直ぐにしか推進できない、という欠点があることがわかった。
【0059】
以上より、駆動システムBの長所、短所は、次のとおりであることがわかった。
長所:金属芯が効果的に働き、安定した伸縮運動を行うことができる、また、バイオメタルにかかる負荷が軽減されるので、駆動最中に壊れる可能性は低い。すなわち、駆動システムAよりも安全性の高い伸縮運動を行うことができる。
短所:金属芯のために湾曲した状態にはなれないので、真っ直ぐにしか推進できない。
【0060】
(4.3.2 伸縮運動による進行方向の測定結果)
駆動システムBは安定した伸縮運動が可能であったため、4.1節の(2)の手順で進行方向の測定を行った。駆動システムBには、前述の足部を設けた。各回での駆動システムBの移動軌跡を図40に示し、その測定結果から最小二乗法で近似直線の傾きを求め、Y軸との間の角度を求めた結果を図39に示す。
【0061】
また、一度のストロークでの進行距離をΔLとして求めた結果を図41に、進行距離ΔLから求めた速度Vの結果を図42に、1ストローク当りの平均時間Δt=2.0とし、図42から得られた各回での平均速度V(上付線)を図43にそれぞれ示す。
【0062】
仮に、駆動システムBが設計上正しく作製できていれば、実験装置上を真っ直ぐに進むはずである。しかし、図39や図43より、全ての測定で進行方向が真っ直ぐではないことがわかる。つまり、今回作製した駆動システムBの加工精度が原因と考えられる。
【0063】
(4.4 駆動システムCの実験結果)
(4.4.1 駆動実験結果)
図44に三本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態、図45に一本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態、図46に電圧をかけるのを止めたときの状態の写真をそれぞれ示す。
【0064】
三本のバイオメタルに電圧をかけると図44のようになり、駆動システムBのように安定した伸縮運動ができないことがわかった。また、一本のバイオメタルに電圧をかけると駆動システムAのように湾曲した状態になることがわかった。
【0065】
以上より、駆動システムCの長所、短所は、次のとおりであることがわかった。
【0066】
長所:任意の一本のバイオメタルに電圧をかけることで、駆動システムAのように
湾曲した状態にすることができる。
短所:三本のバイオメタルを同時に伸縮させても、駆動システムBのような安定した伸縮運動ができない。
【0067】
(5 考察)
(5.1 駆動システムAについての考察)
今回作製した駆動システムAについては目標通りに湾曲運動はできたが、安全な伸縮運動はできなかった。
【0068】
ここで、4.2.1節で述べたように、駆動システムAが安全な伸縮運動を行えない原因として、バイオメタルへの大きな負荷が挙げられるが、仮にバイオメタルに大きな負荷がかからなかったとする。このとき、駆動システムAが安全な伸縮運動を行うことが可能かを考えてみる。
【0069】
もう一度図46を見てみると、一本の収縮したバイオメタルが復元バネによって元の長さに引き伸ばされたとき、他の二本のバイオメタルとの長さに差が生じていることがわかる。長さに差が生じると、各々のバイオメタルの収縮時間に差が生じてしまい、一度伸縮運動を行うと、そのとき接地面であった側面でのみ安定した伸縮運動を行えるが、他の側面が接地面になると、安定した伸縮運動を行うことができなくなることが考えられる(図47を参照)。
【0070】
しかし、4.2.1節の結果から得られた「一本のバイオメタルに電圧をかけると、湾曲した状態になることができる」という長所に着目すると、カメラの向きを変更することや、マイクロマシンの進行方向を変えること等に使用できる可能性がある。よって壁面移動型マイクロマシンにおいて、カメラ等を搭載する頭部、または先端部への利用が考えられる。
【0071】
また、この駆動システムAはバイオメタルの代わりとしてネオジウム磁石を搭載し、外部磁場によって外力を与えることによっても同じ動作が可能ではないかと考えられる。
【0072】
(5.2 駆動システムBについての考察)
今回作製した駆動システムBについてはも目標通りに伸縮運動させることができたが、4.3.2節で得られた結果より、進行方向に関しては精度が悪いことがわかった。進行方向の誤差が生じたこの原因として、次の三つが挙げられる。
【0073】
(1)アクリルでボディを作製した時に生じた誤差
(2)三ヶ所に取り付けられたバイオメタルの長さの違いから生じた誤差
(3)実験装置から発生した誤差
(1)についてはアクリル板から手作りでボディを作製したため側面の加工精度が悪く、マシン自体が傾き、進行の際に働く摩擦力の違いから誤差が生じたと考えられる(図48を参照)。
【0074】
(2)については、バイオメタルを設定した長さに切り取ったとき、切り取った長さに違いが生じたこと、およびアクリル板の取り付ける時の取り付け方法の不具合により、取り付け方法に差異が生じたため、バイオメタルの収縮時の長さに差が生じてしまい、誤差が発生したと考えられる(図49を参照)。
【0075】
(3)についてはゴム手袋を貼り付けるとき、緩みが発生しているところがあり、その緩みにより、足部の摩擦係数に影響を与えたと考えられる。
【0076】
また、4.3.1節の結果から得られたように「湾曲した状態になることができない」という短所を持っているが、駆動システムB単体での壁面移動は可能であると考えられる。すなわち、駆動システムAより安定した伸縮運動ができ、収縮時にバイオメタルに大きな負荷がかかることもない。これらの理由から壁面移動マイクロマシンの伸縮させる胴体への利用が考えられる。
【0077】
(5.3 駆動システムCについての考察)
駆動システムCについては駆動システムAと駆動システムBを合成したものを作製したが、4.4.1節の駆動実験の結果において、「伸縮運動ができない」という短所を持つことがわかった。伸縮運動ができない原因については駆動システムBと同様にバイオメタルの長さの違いから発生する誤差が考えられる。
【0078】
しかし、もしバイオメタルの長さが均一であっても、取り付けられた三本のバイオメタルの内いずれか一本のバイオメタルに電圧をかけると駆動システムAと同様に湾曲した状態になる。しかしこの時、電圧がかかっていない残り二つのバイオメタルは、負荷がかかるため、少しではあるが引き伸ばされてしまう。このため収縮していたバイオメタルが復元バネにより元の状態に引き伸ばされたとき、各バイオメタルの長さに差が生じてしまい、収縮時間に差が生じるので、推進するための安定した伸縮運動はできないと考えられる。
【0079】
以上の理由により、駆動システムCは駆動システムAと同様に湾曲した状態になることが可能である長所を持つが、復元バネは引っ張りバネの方がよいため、壁面移動型マイクロマシとしては利用できないことが考えられる。
【0080】
5.1.1〜5.1.3節から、図50のように、駆動システムAを頭部に、駆動システムBを胴体部にした構造にすることで伸縮運動、方向転換の両方が可能だと考えられる。なお、図51にバイオメタル(BMF100とBMF200のみ)の特性と仕様を示しておく。
【0081】
(6 まとめ)
以上、本実施例の概要を纏めれば、次のとおりである。
【0082】
● 駆動システムAは「いずれか一本のバイオメタルに電流を流すことにより、湾曲した状態になることが可能」という長所を持つことから、適用方法として壁面移動型マイクロマシンの頭部に利用できる。
【0083】
● 駆動システムBは「バイオメタルに大きな負荷のない安定した伸縮運動が可能である」という長所を持つことから、適用方法として壁面移動型マイクロマシンの胴体部として利用できる。
【0084】
● 駆動システムCは駆動システムAと同じ長所を持つが、復元する際の効率において駆動システムAに劣るので壁面移動型マイクロマシンとしては利用できない。
【0085】
すなわち、駆動システムA、駆動システムBは壁面移動型マイクロマシンに応用できる。
【0086】
また、本発明のマイクロマシンでは、電力が無線供給されたり、遠隔操作が可能であったりすることも好ましい。この場合、バイオメタルをどのように無線や磁力で駆動させるかが課題となる。
【0087】
(7 発明の効果)
本発明によれば、従来のカプセル内視鏡のような生体の蠕動運動にまかせた動きではなく、自律的に自由に運動することができ、その速度や方向の制御も可能となるとともに、信頼性の高いマイクロマシンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】圧力センサの図である。
【図2】3軸加速度センサの図である。
【図3】カプセル内視鏡の図である。
【図4】カプセル内視鏡の図である。
【図5】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図6】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図7】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図8】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図9】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図10】車輪型マイクロマシンの図である。
【図11】伸縮型マイクロマシンの図である。
【図12】伸縮型マイクロマシンの図である。
【図13】尺取虫型マイクロマシンの図である。
【図14】足部の種類を示す図である。
【図15】完全な形状記憶効果を示す合金の組成と諸性質の表を示す図である。
【図16】形状記憶合金における結晶変化の模式図である。
【図17】形状記憶合金の各温度における応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図18】形状記憶効果と超弾性の出現範囲を示すグラフである。
【図19】BMX10020とBMX20020の特性と仕様の表を示す図である。
【図20】バイオメタル・へリックスの写真を示す図である(上はBMX10020、下はBMX20020)。
【図21】バイオメタルの写真を示す図である(左は通常時、右は通電時)。
【図22】駆動システムAの構造図である。
【図23】駆動システムAの動作概念を示す図である。
【図24】駆動システムAの写真を示す図である。
【図25】駆動システムBの構造図である。
【図26】駆動システムBの動作概念を示す図である。
【図27】駆動システムBの写真を示す図である。
【図28】駆動システムCの構造図である。
【図29】駆動システムCの動作概念を示す図である。
【図30】駆動システムCの写真を示す図である。
【図31】足部の写真を示す図である。
【図32】実験装置の写真を示す図である。
【図33】進行方向及び速度測定実験の手順を示す図である。
【図34】二本のバイオメタルに電流を流したときの状態の写真を示す図である。
【図35】一本のバイオメタルに電流を流したときの状態の写真を示す図である。
【図36】電流を流すのを止めたときの状態の写真を示す図である。
【図37】三本のバイオメタルに同時に電圧をかけたときの状態の写真を示す図である。
【図38】電圧をかけるのを止めたときの状態の写真を示す図である。
【図39】計算結果の表を示す図である。
【図40】各回での進行方向測定結果を示すグラフである。
【図41】1ストローク当りの進行距離の表を示す図である。
【図42】1ストローク当りの速度の表を示す図である。
【図43】各回の平均速度の表を示す図である。
【図44】三本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態の写真を示す図である。
【図45】一本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態の写真を示す図である。
【図46】電圧をかけるのを止めたときの状態の写真を示す図である。
【図47】任意の一本のバイオメタル収縮による他二本のバイオメタルへの影響を示す図である。
【図48】側面加工の違いから生じる接地面での摩擦力の違いを示す図である。
【図49】バイオメタル切り取り長さの違いから生じる収縮時のマシンの傾きを示す図である。
【図50】駆動システムAと駆動システムBの結合型を示す図である。
【図51】バイオメタル(BMF100とBMF200のみ)の特性と仕様を示す表の図である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔実施の形態〕
(1.緒言)
本発明は、床面または壁面に沿って移動、制御させることができるマイクロマシンに関するものである。
【0002】
(1.1 研究背景)
マイクロマシンとは、μmから数cm単位の小型機械のことである。また、このようなミクロの機械に関する技術を、マイクロマシン技術(アメリカではMEMS=Micro Electro Mechanical Systems、ヨーロッパではMST=Micro System Technology)と呼んでいる。
【0003】
マイクロマシンの研究は、1980年代後半から始まった。アメリカのカリフォルニア大学で、直径100μmのモータが作成されたことが発端で、日本でも1991年に通産省によるマイクロマシン開発のプロジェクトが推進された。
【0004】
現在、マイクロマシンは様々な分野での活躍が考えられている。またマイクロマシンの製造過程や用いられる技術も応用が期待されている。現在は、インクジェットプリンタのヘッド部分、図1に示す、自動車のエンジン制御圧力センサ、エアバッグやDNAチップ等のMEMS技術を用いた製品が実用化されている。最近では、図2に示すようなMEMS技術を用いて作製される加速度センサが自動車向けを中心に需要が拡大し、市場が活発化している。
【0005】
医療分野もマイクロマシンの活躍が期待されている分野の1つである。例えば、胃や大腸の検査を行う場合、内視鏡検査を行うが、小腸については、腸管の内径が小さく、外部からの支持もなく、複雑に曲がっているため、内視鏡が小腸の奥深くまで侵入できない。そこで、小腸の検査がマイクロマシンを用いて実現できないかと期待されている。実際、図3に示す、イスラエルのGIVEN imaging社製の消化器診察用カプセル内視鏡「M2A」が実用化され、アメリカではすでに8万個、世界で20万個が使用されている。日本国内では、オリンパス社が国内初のカプセル内視鏡を開発したことを発表した(図4)。
【0006】
しかし、どちらのカプセル内視鏡も患部の位置がわからないため、リアルタイムで位置を確認できるシステムや、全方向誘導システム、自立走行システムの開発が必要とされている。これらの技術を用いて小腸の検査が可能になることにより、小腸の病気が解明され、早期発見、適切な治療が可能となる。
【0007】
このように、マイクロマシンは医療分野を含めた広い分野での応用を期待されており、研究開発が求められている。
【0008】
カプセル内視鏡としてのマイクロマシンは、生体の蠕動運動などに任せて自走できない形態のものが実用化されており、自走可能なものとして考案されているものも液体中または筋肉などの生体中において流体や環境物質による流体抵抗を利用して移動、制御させる鞭毛型などが主であった。カプセル内視鏡としてのマイクロマシンによれば、小型カメラを用いて生体内や配管内の写真撮影を行い、その映像によって腫瘍などの病変や異常を検査することができる。
(1.2 従来技術の問題点)
従来のマイクロマシンに採用されるアクチュエータシステムは、生体の消化管や血管などの中を移動させるのに液体や筋肉内でアクチュエータを運動させたときの流体抵抗の反力を利用して移動、制御させるため、液体環境中でなければ適用できなかったので検査前に生理用水などの液体を予め飲む必要があった。そこで、検査をより容易にするにはこれらの環境条件を必要とせずに消化管の床や壁などの面との摩擦力を利用して移動、制御することができるマイクロマシンの開発が求められている。また、従来の内視鏡では患者の苦痛が大きいので苦痛を軽減できる検査法の開発も望まれている。
【0009】
前節でも述べた通り、マイクロマシンは様々な分野で活躍が期待されている。本研究では、体内検査や体液採取など、医療分野での活躍を考えたマイクロマシンの開発を目標としている。そこで、壁面を移動するマイクロマシンの開発を目標とし、今回は種々の方式による壁面移動型のアクチュエータシステムを備えるマイクロマシンを考案した。
【0010】
本アクチュエータシステムは、床面や壁面との摩擦を利用して移動できるよう、車輪型または伸縮型の駆動システムを用いることによって、流体などの環境条件を必要とせずに適用できるようにした。また伸縮型の場合、往復運動を一方向のみ進行し得るようにするため、方向性のある摩擦抵抗を有する足部を設けることによって解決した。
【0011】
(2.基礎知識と理論)
(2.1 マイクロアクチュエータ)
この章ではマイクロマシンを駆動させるためのアクチュエータの説明、および駆動システムに採用したバイオメタルの説明を述べる。
【0012】
(2.1.1 一般的なマイクロアクチュエータ)
マイクロアクチュエータは、マイクロマシンを動かす力を発生する部品である。マイクロアクチュエータの駆動方法には、大きく分けて「場」の力を用いるものと、材料自体の性質を用いるものがある。前者の例として静電力、後者の例として形状記憶合金などがある。どちらにおいても、場を作るための構造の製作や、機能材料の加工にマイクロマシニングが用いられる。
【0013】
マイクロアクチュエータの大きさは10μmから1mm程度であるため、微小化による寸法効果が効いてきて、マクロのものの単なる小型化では、十分な性能が得られない。また、マイクロマシニングの製造プロセスで、容易に作成できる構造と材料でできている必要がある。このため、新しい原理に基づくアクチュエータの開発が行われている。図5〜図9に示したように、駆動原理は静電気、圧電素子、形状記憶合金、熱膨張、超電導体の反発力、電磁力など多岐にわたっている。またその構造も、自分自身が変化するもの、可動部が固定部と接触しながら自由に動くもの、可動部が浮上して動くものなどいろいろな工夫がされている。微小化すると、重力や慣性力に対して摩擦力が支配的になる。摩擦の影響を最小限にして、小さな力で大きな動きや早い動きを得るためにこのような工夫が必要である。
【0014】
いろいろあるマイクロアクチュエータの中で、一概にどれが優れているということは難しく、用途に応じてアクチュエータを選び、要求仕様を満たすように最適化する必要がある。考慮すべき事項には、次の事項等がある。
・ 許容されるアクチュエータの大きさ
・ 要求される可動範囲と精度
・ 要求される動作速度
・ 要求される発生力
・ チップ上への集積化の必要性
・ 許容される消費電力や電圧の上限
・ 使用環境の良し悪し
・ 許容される製造コスト
静電アクチュエータはチップ内に集積化しやすく、制御も容易で消費電力が少ないので、システム内で完了する機械的動作を行うのに適している。一方、熱や磁気を利用したアクチュエータは頑丈で大きな力や変位を発生できるので、外界に作用を及ぼす応用に向いている。
【0015】
(2.1.2 壁面移動型マイクロマシンの例)
壁面移動型マイクロマシンには、2.1.1節で述べたような様々な種類のアクチュエータを応用することができる。ここでは、今回考案した壁面移動型マイクロマシンを説明する。
【0016】
(1)車輪型マイクロマシン
車輪型は図10に示すようにボディに磁石を埋め込み、車輪をつけたもので、外部の交番磁場(a)、または静磁場(b)によって駆動し、壁面を移動するマイクロマシンである。外部磁場で駆動させるため、非接触の遠隔操作が可能である。また、動力を搭載していないので電池のように途中で供給エネルギがなくなることがないのが長所である。
【0017】
(2)伸縮型マイクロマシン
(i) 交流磁場を利用した伸縮移動型マイクロマシン
交流磁場を利用した伸縮移動型マイクロマシンは、図11に示すようなシリコン等で作製したボディに磁石を埋め込み、交流磁場によって伸縮させることによって壁面を推進するマイクロマシンである。足部は一方向に摩擦抵抗が高くなるようにしてある。交流磁場により、遠隔操作が可能であることが長所である。
【0018】
(ii) 形状記憶合金をアクチュエータとして用いた伸縮移動型マイクロマシン
形状記憶合金をアクチュエータとして用いた伸縮移動型マイクロマシンは、図12のようにボディと形状記憶合金アクチュエータと復元バネから成り、形状記憶合金アクチュエータに電圧をかけることにより収縮することと、復元バネが形状記憶合金を再び引き伸ばすことが交互に起こることで伸縮運動を行うマイクロマシンである。
【0019】
(3)交流磁場を利用した尺取虫型マイクロマシン
交流磁場を利用した尺取虫型マイクロマシンは、図13に示すように磁石を取り付け、足部を一方向に摩擦抵抗が高くなるようにし、交流磁場によって尺取虫のように推進するマイクロマシンである。非接触での遠隔操作ができ、構造が単純で動力が不要であるのが長所である。
【0020】
(4)足部
上記の(1)以外はいずれも一方向にマイクロマシンを移動させるようにする必要がある。そのためには摩擦係数が一方に高く、逆方向に低い物質を足部分に取り付ければよい。そのような足部材としては図14に示すように、次のようなものが考えられる。
【0021】
(a)ノコギリ刃状の形状を持つ固定形状部材
(b)ゴムやプラスティックの薄い板状の可とう性のある部材
(c)毛のような形状のものを、または複数束ねた可とう性のある部材
単純に一方向のみ進行させるのであれば(a)でよいが、途中で進行方向を変える必要がある場合、(b)または(c)は、一端持ち上げて湾曲方向を変えるだけで方向転換できるので有効である。
【0022】
今回、比較的構造が簡単な形状記憶合金アクチュエータを用いた壁面移動型マイクロマシンを考案した。
【0023】
(2.2 形状記憶合金アクチュエータ)
(2.2.1 形状記憶合金の歴史)
形状記憶合金は、1960年頃に、アメリカの海軍省の材料研究所において発見された。すなわち、Ti−50at%Ni合金を室温で外力を加えて変形したのち加熱すると、合金は変形前の形に戻ることを見つけ、形状記憶合金(shape memory alloy)と名づけられた。その後、多数の研究者によって研究が行われ、Ti−50at%Ni合金以外の多くの合金が発見された。
【0024】
現在では、眼鏡のフレームやブラジャー、Ti−Ni管継ぎ手など、広い分野で使用されており、様々な応用も考えられている。
【0025】
(2.2.2 形状記憶効果の原理)
図15に形状記憶効果(sharp memory effect)を示す合金の諸性質をまとめたものを示す。一般に、形状記憶合金は、熱弾性型マルテンサイト変態(thermo-elastic martensitic transformation)を伴う。これは鉄鋼のマルテンサイトと同じ名前で呼ばれているが、その内容は非常に異なる。すなわち、熱弾性型マルテンサイト変態においては、一般に、母相とマルテンサイト相との界面の整合性がよく、そのため変態の温度ヒステリシスや変態潜熱が小さく、しかも変態が結晶学的に可逆的であることが特徴である。このような結晶学的可逆性の原因は、母相とマルテンサイト相が共に規則構造を持っており、両者の間に単一な格子対応があって、マルテンサイト相が母相に戻るとき、母相の規則構造を壊すような過程は母相の自由エネルギーを高めるために、元の経路をたどって母相に戻るためである。図15からわかるように、形状記憶合金のほとんどは規則格子構造を持つ。In−Tl、Fe−Pd、Mn−Cuは例外的に不規則格子である。
【0026】
図16は、典型的な形状記憶合金における、母相(オーステナイト)→双晶マルテンサイト相→変形マルテンサイト相→母相への変化に伴う結晶構造変化の様子を模式的に示したものである。
【0027】
図16の(1)はオーステナイトで、Af点以上の温度であり、結晶構造は立方晶である。図16の(2)は双晶マルテンサイトで、Mf点以下の温度に母相を冷却すれば、母相はマルテンサイト相に変態する。一般に、マルテンサイト相は立方晶ではなく、格子変形を伴っている。図16では形状は菱形の格子とし、格子変形を誇張して示してある。なお、格子変形の他に、格子不変変形が起こって、その結果、マルテンサイト相には双晶が伴う。このような双晶は内部双晶と呼ばれ、熱弾性型マルテンサイトに不可欠なものである。マルテンサイト相はこのような双晶を含むために、外形が母相の外形にほぼ近いものとなり、変態に伴う系全体のひずみエネルギーが極端に高くなるのを抑制する。このような格子不変変形による抑制作用を自己修正(self accommodation)という。
【0028】
図16の(3)は変形マルテンサイトで、双晶マルテンサイトに外力を加えて変形を与えたときに生成する。外力によるせん断変形の結果、双晶マルテンサイトの双晶が消滅して単一バリアントとなる。これは、通常の金属・合金の塑性変形がすべり転位の運動による格子面のすべりで起こることとは全く異なる別の機構に基づく変形である。すなわち、多数のバリアントを有する双晶マルテンサイトが、単一バリアント化して変形マルテンサイト相となる過程として、形状記憶合金結晶の変形は特徴づけられる。
【0029】
最後にこのような変形マルテンサイト相をAf点以上の温度に加熱し、逆マルテンサイト変態を起こさせて、母相に戻す場合を考えてみる。マルテンサイトが母相に戻って結晶が立方晶になるにつれて、先の格子変形も格子不変変形も共に消滅してしまう。これに伴って双晶マルテンサイトに与えられた変形も消滅し、外形は元の形(母相のときの形)に戻ってしまう。これが形状記憶効果の原理である。
【0030】
(2.2.3 形状記憶効果と超弾性)
図17は、Ti−Ni合金の各温度における応力−ひずみ特性を三次元的に表示したものである。合金の引張特性が温度によって非常に大きく異なることが特徴である。以下、三つの温度での挙動を順に述べる。
【0031】
(1)Mf点以外の温度T1では、図16の(2)と同様に、合金は双晶マルテンサイトの結晶構造を持ち、通常の形状記憶効果が現れる。双晶マルテンサイトの変形により変形が進行して、最終的には変形マルテンサイトが生じる。図17の(1)では、除荷後に約4%の残留ひずみを生じているのは、このためである。この合金を加熱すると、AS点付近の温度から残留ひずみの減少が始まり、Af点で残留ひずみは完全に回復して、変形前の母相の形に戻る。これは前節で述べた通りの形状記憶効果である。
【0032】
(2)Af点の直上の温度T2では、合金は母相の結晶構造を持ち、超弾性(super elasticity)と呼ばれる特異な性質が現れる。これは疑弾性(pseudo-elasticity)とも呼ばれている。母相に変形を加えると、初めに母相の弾性変形が起こるが、これに引き続いて、ある臨界応力以上でマルテンサイト相が応力誘起される。この応力誘起マルテンサイトは、図16の(2)で述べたような母相を冷却して生じる一般のマルテンサイト(熱誘起マルテンサイトと呼ぶ)とは異なり、外部応力のもとで生じる一種の変形マルテンサイトである。このような応力誘起マルテンサイトと熱誘起マルテンサイトとの相互関係については、図18を参照されたい。このような応力誘起マルテンサイト生成の結果として、約4%のひずみを生じるが、このひずみは試料を除荷するとたちまち消滅してしまう。すなわち図18から明らかなように、応力誘起マルテンサイトは外部応力のもとでのみ安定であって、Af点直上のこの温度においては、マルテンサイトは不安定であり、合金は母相の状態に戻ってしまう。したがって、応力を除去すると、変形はほぼ100%回復する。このような性質は荷重をかけて試料に与えられた変形が、除荷後に元に戻るという意味では弾性的であるが、これはあくまでも結晶の真の弾性(原子間のポテンシャルエネルギーにより生じた弾性)ではない。その意味で疑弾性と呼ばれている。まるでゴムのように伸び縮みするので、金属とは思えないほどしなやかであり、柔らかである。この現象は、通常に金属材料の弾性限をはるかに超える大きなひずみ(数%〜数十%)を伴うので、超弾性と呼ばれて、実用的に重宝される。
【0033】
(3)Af点より十分高い温度T3では、母相が安定である。母相は一般に硬くて、わずかにしか変形しない。温度が十分高いときは、応力誘起マルテンサイト相を生じることはない。ここでは弾性率が高くて、形状記憶合金の形状回復力が大きいゆえんである。
【0034】
形状記憶効果と超弾性は、それぞれ互いに関連しながら観測されるが、それぞれの出現条件を、温度−応力平面上に図示すると、図18のようになる。マルテンサイトは熱でも応力でも誘起されることは上述したとおりであるが、マルテンサイトを誘起するための臨界温度は温度軸上の 点にある。一方、マルテンサイトを応力誘起させるための臨界応力を表す直線ABと、結晶のすべりに対する臨界応力を表す直線CDとで囲まれた範囲においてのみ、これら2種類の効果が観察される。したがって、両効果の出現のためには、すべりに対する臨界応力がなるべく大きいことが必要である。例えば、直線C’D’のようにこの臨界応力が低いときは、動作可能な温度と応力の範囲が狭くて不適当である。そのためには、合金の塑性変形に対する抵抗、言い換えると降伏応力を高めることが必要とされる。実際、合金硬化のための種々の工夫が各合金で行われている。
【0035】
(2.3 バイオメタル)
(2.3.1 バイオメタルとは)
バイオメタルとは、トキ・コーポレーション社が開発したTi−Ni形状記憶合金を原料とした繊維状のアクチュエータで、電流を流すことによって筋肉のように自分で緊張収縮−弛緩伸張する。バイオメタルは一般的な形状記憶合金とは違い、素材内に組織化された構造性を持っており、細くなるほど耐久性や自己伸縮性などの諸性能が向上する傾向がある。バイオメタルには繊維状の「バイオメタル・ファイバー」とバイオメタル・ファイバーを、細いコイル・スプリング状に加工した「バイオメタル・へリックス」の2種類がある。本研究ではコイル・スプリング状のバイオメタル・へリックスを用いた。
【0036】
(2.3.2 バイオメタル・へリックス)
前節で述べたようにバイオメタル・へリックスはバイオメタル・ファイバーを細いコイル・スプリング状に加工したものである。バイオメタル・へリックスには、次のような特徴がある。
(1)大きな操作量と発生力
(2)静かで滑らかな動作
(3)低電圧、小電力で作動
今回用いたバイオメタル・へリックス(製品名 BMX10020、BMX20020)の特性と仕様を図19に示し、その外観写真を図20に示す。
【0037】
また、図21からわかるように引き伸ばされたバイオメタルに電流を流すと、元の長さに収縮する。電流を流すのを止めると、重りにより再び引き伸ばされる。この往復動作を、適切な負荷と運動範囲内において500万回繰り返すことができる。また、動作ひずみは5%であることがわかっている。
【0038】
しかし電流が流れていないときや収縮しているときに許容範囲を超える大きな負荷をかけてしまうとバイオメタルの構造自体が崩れてしまい、収縮しなくなるので、注意が必要である。
【0039】
(3 駆動システムの構造)
この章では駆動システムの実施例の構造を説明する。
【0040】
(3.1 駆動条件)
駆動システムの条件として、次の二条件を満たすことを目的とした構造を考え、三つの駆動システムを開発した。それぞれの駆動システムを駆動システムA、駆動システムB、駆動システムCとする。
● バイオメタルと復元バネによる伸縮運動を行い、進行する。
● 側面がどこを向いても同じ動作ができる。
【0041】
(3.2 駆動システムA)
駆動システムAの構造を図22に示す。アクチュエータとしてBMX10020を使用した。
【0042】
駆動システムAでは図23のように、三本のバイオメタルの内二本を収縮させることと、復元バネ(曲げバネ)によって再び引き伸ばされることが交互に起こることにより、尺取虫のような伸縮運動を行って推進させることを考えた。ただし、2.3.2節でも述べたように、バイオメタルは収縮しているときに大きな負荷をかけると壊れてしまう可能性があるので、任意のバイオメタルを収縮させるのは、残りのバイオメタルが復元バネにより完全に電圧をかける前の状態に戻ってから行うものとした。また、このシステムには三本の内一本のバイオメタルを収縮させることによって方向転換ができるようにすることを考え作製した。実際に作製した駆動システムAの写真を図24に示す。
【0043】
(3.3 駆動システムB)
駆動システムBの構造を図25に示す。アクチュエータとしてBMX10020を使用した。
【0044】
駆動システムBでは駆動システムAとは違い、図26のように、三本のバイオメタルを同時に収縮させることと、復元バネ(圧縮バネ)によって再び引き伸ばされることが交互に起こることにより伸縮運動を行って推進させることを考えた。金属芯は復元バネが曲げられずに安定した伸縮運動が行えるようにボディの中央に搭載した。実際に作製した駆動システムBの写真を図27に示す。
【0045】
(3.4 駆動システムC)
駆動システムCの構造を図28に示す。アクチュエータとしてBMX10020を使用した。
【0046】
駆動システムCでは駆動システムAと駆動システムBの構造を組み合わせており、図29のように、3本のバイオメタルを同時に収縮することと、復元バネである曲げ及び圧縮バネにより再び引き伸ばされることによる伸縮運動で進行させることと、詳しい内容は後の4章で述べるが、駆動システムAの特徴である湾曲した状態にさせるため、任意の一本のバイオメタルを収縮させることにより湾曲した状態ができるように考えた。実際に作製した駆動システムCの写真を図30に示す
(4 駆動実験・結果)
ここでは、実験方法と、各駆動システムの駆動実験を行った結果を述べる。
【0047】
(4.1 実験方法)
駆動実験は以下の順番で行う。
【0048】
(1) 駆動システムの動作確認
作製した駆動システムが考案した通り伸縮運動を行うかを確認した。この時点で伸縮運動ができなかった駆動システムに関して、次の実験は行わなかった。
【0049】
(2)進行方向の測定
上記(1)で安定した伸縮運動が可能であった駆動システムのみ、この実験で進行方向の精度を測定した。駆動システムには一方向のみ摩擦抵抗が高くなるように足部にノコギリ刃状の足部材を取り付けた。進行方向を測定する装置として、図32に示すように胃や腸の表面を平らにした状況を想定し、アクリル板に方眼紙を貼り付け、その上からゴム手袋を貼り付けたものを使用した。この装置の上に駆動システムを駆動させ,各測定点から最小二乗法で求めた線分とY軸との間の角度を測定することを5回繰り返した(図33を参照)。
【0050】
ただし、(1)、(2)とも有線により電力の供給を行った。
【0051】
(4.2 駆動システムAの実験結果)
(4.2.1 駆動実験結果)
図34に二本のバイオメタルに電圧をかけたとき、図35に一本のバイオメタルに電圧をかけたとき、図36に電圧をかけるのを止めたときの状態の写真をそれぞれ示す。
【0052】
図34、図36を見るとわかるように、3.4節で検討した通りの伸縮運動を行うことが確かめられた。しかし、図34をよく見てみると、二本のバイオメタルに電圧がかかってないときは、電圧をかけていない残り一本のバイオメタルに大きな引張負荷がかかっているのがわかる。2.3節でも述べたように、バイオメタルに大きな負荷がかかるとバイオメタルの構造自体が崩れて収縮しなくなる。つまり、この伸縮運動はバイオメタルを壊す可能性があるので、駆動システムAは安全な伸縮運動ができないことがわかった。
【0053】
ただし、次に、図35のように、一本のバイオメタルに電圧をかけたとき、湾曲した状態になれることがわかった。このとき、図34の場合に比べて、電圧のかかっていない二本のバイオメタルが引張負荷を分担するので、このバイオメタルが破損する可能性が低くなるので、駆動システムAの機構として有利であると考えられる。この状態は4.3節で述べる駆動システムBにはできない動作であった。
【0054】
以上の結果より駆動システムAの長所、短所は、次のとおりであることがわかった。
【0055】
長所:一本のバイオメタルに電流を流すことによって湾曲した状態なれる。
【0056】
短所:バイオメタルに比較的大きな負荷がかかるため、安全な伸縮運動を繰り返し行うには許容条件について注意を払う必要がある。
【0057】
(4.3 駆動システムBの実験結果)
(4.3.1 駆動実験結果)
図37に電圧をかけたときの状態、図38に電圧をかけるのを止めたときの状態の写真をそれぞれ示す。図37、図38からわかるように、金属芯が効果的に働き、安定した伸縮運動ができることがわかった。また、駆動システムAのように、三本のバイオメタルが復元バネによる引張力を均等に分担するため、バイオメタルに加わる負荷は少なくなる。よって、駆動システムBは、駆動システムAよりも安定で、安全な伸縮運動が可能であることがわかった。
【0058】
しかし、金属芯があるため駆動システムAのように湾曲した状態になることはできず、真っ直ぐにしか推進できない、という欠点があることがわかった。
【0059】
以上より、駆動システムBの長所、短所は、次のとおりであることがわかった。
長所:金属芯が効果的に働き、安定した伸縮運動を行うことができる、また、バイオメタルにかかる負荷が軽減されるので、駆動最中に壊れる可能性は低い。すなわち、駆動システムAよりも安全性の高い伸縮運動を行うことができる。
短所:金属芯のために湾曲した状態にはなれないので、真っ直ぐにしか推進できない。
【0060】
(4.3.2 伸縮運動による進行方向の測定結果)
駆動システムBは安定した伸縮運動が可能であったため、4.1節の(2)の手順で進行方向の測定を行った。駆動システムBには、前述の足部を設けた。各回での駆動システムBの移動軌跡を図40に示し、その測定結果から最小二乗法で近似直線の傾きを求め、Y軸との間の角度を求めた結果を図39に示す。
【0061】
また、一度のストロークでの進行距離をΔLとして求めた結果を図41に、進行距離ΔLから求めた速度Vの結果を図42に、1ストローク当りの平均時間Δt=2.0とし、図42から得られた各回での平均速度V(上付線)を図43にそれぞれ示す。
【0062】
仮に、駆動システムBが設計上正しく作製できていれば、実験装置上を真っ直ぐに進むはずである。しかし、図39や図43より、全ての測定で進行方向が真っ直ぐではないことがわかる。つまり、今回作製した駆動システムBの加工精度が原因と考えられる。
【0063】
(4.4 駆動システムCの実験結果)
(4.4.1 駆動実験結果)
図44に三本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態、図45に一本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態、図46に電圧をかけるのを止めたときの状態の写真をそれぞれ示す。
【0064】
三本のバイオメタルに電圧をかけると図44のようになり、駆動システムBのように安定した伸縮運動ができないことがわかった。また、一本のバイオメタルに電圧をかけると駆動システムAのように湾曲した状態になることがわかった。
【0065】
以上より、駆動システムCの長所、短所は、次のとおりであることがわかった。
【0066】
長所:任意の一本のバイオメタルに電圧をかけることで、駆動システムAのように
湾曲した状態にすることができる。
短所:三本のバイオメタルを同時に伸縮させても、駆動システムBのような安定した伸縮運動ができない。
【0067】
(5 考察)
(5.1 駆動システムAについての考察)
今回作製した駆動システムAについては目標通りに湾曲運動はできたが、安全な伸縮運動はできなかった。
【0068】
ここで、4.2.1節で述べたように、駆動システムAが安全な伸縮運動を行えない原因として、バイオメタルへの大きな負荷が挙げられるが、仮にバイオメタルに大きな負荷がかからなかったとする。このとき、駆動システムAが安全な伸縮運動を行うことが可能かを考えてみる。
【0069】
もう一度図46を見てみると、一本の収縮したバイオメタルが復元バネによって元の長さに引き伸ばされたとき、他の二本のバイオメタルとの長さに差が生じていることがわかる。長さに差が生じると、各々のバイオメタルの収縮時間に差が生じてしまい、一度伸縮運動を行うと、そのとき接地面であった側面でのみ安定した伸縮運動を行えるが、他の側面が接地面になると、安定した伸縮運動を行うことができなくなることが考えられる(図47を参照)。
【0070】
しかし、4.2.1節の結果から得られた「一本のバイオメタルに電圧をかけると、湾曲した状態になることができる」という長所に着目すると、カメラの向きを変更することや、マイクロマシンの進行方向を変えること等に使用できる可能性がある。よって壁面移動型マイクロマシンにおいて、カメラ等を搭載する頭部、または先端部への利用が考えられる。
【0071】
また、この駆動システムAはバイオメタルの代わりとしてネオジウム磁石を搭載し、外部磁場によって外力を与えることによっても同じ動作が可能ではないかと考えられる。
【0072】
(5.2 駆動システムBについての考察)
今回作製した駆動システムBについてはも目標通りに伸縮運動させることができたが、4.3.2節で得られた結果より、進行方向に関しては精度が悪いことがわかった。進行方向の誤差が生じたこの原因として、次の三つが挙げられる。
【0073】
(1)アクリルでボディを作製した時に生じた誤差
(2)三ヶ所に取り付けられたバイオメタルの長さの違いから生じた誤差
(3)実験装置から発生した誤差
(1)についてはアクリル板から手作りでボディを作製したため側面の加工精度が悪く、マシン自体が傾き、進行の際に働く摩擦力の違いから誤差が生じたと考えられる(図48を参照)。
【0074】
(2)については、バイオメタルを設定した長さに切り取ったとき、切り取った長さに違いが生じたこと、およびアクリル板の取り付ける時の取り付け方法の不具合により、取り付け方法に差異が生じたため、バイオメタルの収縮時の長さに差が生じてしまい、誤差が発生したと考えられる(図49を参照)。
【0075】
(3)についてはゴム手袋を貼り付けるとき、緩みが発生しているところがあり、その緩みにより、足部の摩擦係数に影響を与えたと考えられる。
【0076】
また、4.3.1節の結果から得られたように「湾曲した状態になることができない」という短所を持っているが、駆動システムB単体での壁面移動は可能であると考えられる。すなわち、駆動システムAより安定した伸縮運動ができ、収縮時にバイオメタルに大きな負荷がかかることもない。これらの理由から壁面移動マイクロマシンの伸縮させる胴体への利用が考えられる。
【0077】
(5.3 駆動システムCについての考察)
駆動システムCについては駆動システムAと駆動システムBを合成したものを作製したが、4.4.1節の駆動実験の結果において、「伸縮運動ができない」という短所を持つことがわかった。伸縮運動ができない原因については駆動システムBと同様にバイオメタルの長さの違いから発生する誤差が考えられる。
【0078】
しかし、もしバイオメタルの長さが均一であっても、取り付けられた三本のバイオメタルの内いずれか一本のバイオメタルに電圧をかけると駆動システムAと同様に湾曲した状態になる。しかしこの時、電圧がかかっていない残り二つのバイオメタルは、負荷がかかるため、少しではあるが引き伸ばされてしまう。このため収縮していたバイオメタルが復元バネにより元の状態に引き伸ばされたとき、各バイオメタルの長さに差が生じてしまい、収縮時間に差が生じるので、推進するための安定した伸縮運動はできないと考えられる。
【0079】
以上の理由により、駆動システムCは駆動システムAと同様に湾曲した状態になることが可能である長所を持つが、復元バネは引っ張りバネの方がよいため、壁面移動型マイクロマシとしては利用できないことが考えられる。
【0080】
5.1.1〜5.1.3節から、図50のように、駆動システムAを頭部に、駆動システムBを胴体部にした構造にすることで伸縮運動、方向転換の両方が可能だと考えられる。なお、図51にバイオメタル(BMF100とBMF200のみ)の特性と仕様を示しておく。
【0081】
(6 まとめ)
以上、本実施例の概要を纏めれば、次のとおりである。
【0082】
● 駆動システムAは「いずれか一本のバイオメタルに電流を流すことにより、湾曲した状態になることが可能」という長所を持つことから、適用方法として壁面移動型マイクロマシンの頭部に利用できる。
【0083】
● 駆動システムBは「バイオメタルに大きな負荷のない安定した伸縮運動が可能である」という長所を持つことから、適用方法として壁面移動型マイクロマシンの胴体部として利用できる。
【0084】
● 駆動システムCは駆動システムAと同じ長所を持つが、復元する際の効率において駆動システムAに劣るので壁面移動型マイクロマシンとしては利用できない。
【0085】
すなわち、駆動システムA、駆動システムBは壁面移動型マイクロマシンに応用できる。
【0086】
また、本発明のマイクロマシンでは、電力が無線供給されたり、遠隔操作が可能であったりすることも好ましい。この場合、バイオメタルをどのように無線や磁力で駆動させるかが課題となる。
【0087】
(7 発明の効果)
本発明によれば、従来のカプセル内視鏡のような生体の蠕動運動にまかせた動きではなく、自律的に自由に運動することができ、その速度や方向の制御も可能となるとともに、信頼性の高いマイクロマシンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】圧力センサの図である。
【図2】3軸加速度センサの図である。
【図3】カプセル内視鏡の図である。
【図4】カプセル内視鏡の図である。
【図5】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図6】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図7】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図8】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図9】マイクロアクチュエータの分類表を示す図である。
【図10】車輪型マイクロマシンの図である。
【図11】伸縮型マイクロマシンの図である。
【図12】伸縮型マイクロマシンの図である。
【図13】尺取虫型マイクロマシンの図である。
【図14】足部の種類を示す図である。
【図15】完全な形状記憶効果を示す合金の組成と諸性質の表を示す図である。
【図16】形状記憶合金における結晶変化の模式図である。
【図17】形状記憶合金の各温度における応力−ひずみ曲線を示すグラフである。
【図18】形状記憶効果と超弾性の出現範囲を示すグラフである。
【図19】BMX10020とBMX20020の特性と仕様の表を示す図である。
【図20】バイオメタル・へリックスの写真を示す図である(上はBMX10020、下はBMX20020)。
【図21】バイオメタルの写真を示す図である(左は通常時、右は通電時)。
【図22】駆動システムAの構造図である。
【図23】駆動システムAの動作概念を示す図である。
【図24】駆動システムAの写真を示す図である。
【図25】駆動システムBの構造図である。
【図26】駆動システムBの動作概念を示す図である。
【図27】駆動システムBの写真を示す図である。
【図28】駆動システムCの構造図である。
【図29】駆動システムCの動作概念を示す図である。
【図30】駆動システムCの写真を示す図である。
【図31】足部の写真を示す図である。
【図32】実験装置の写真を示す図である。
【図33】進行方向及び速度測定実験の手順を示す図である。
【図34】二本のバイオメタルに電流を流したときの状態の写真を示す図である。
【図35】一本のバイオメタルに電流を流したときの状態の写真を示す図である。
【図36】電流を流すのを止めたときの状態の写真を示す図である。
【図37】三本のバイオメタルに同時に電圧をかけたときの状態の写真を示す図である。
【図38】電圧をかけるのを止めたときの状態の写真を示す図である。
【図39】計算結果の表を示す図である。
【図40】各回での進行方向測定結果を示すグラフである。
【図41】1ストローク当りの進行距離の表を示す図である。
【図42】1ストローク当りの速度の表を示す図である。
【図43】各回の平均速度の表を示す図である。
【図44】三本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態の写真を示す図である。
【図45】一本のバイオメタルに電圧をかけたときの状態の写真を示す図である。
【図46】電圧をかけるのを止めたときの状態の写真を示す図である。
【図47】任意の一本のバイオメタル収縮による他二本のバイオメタルへの影響を示す図である。
【図48】側面加工の違いから生じる接地面での摩擦力の違いを示す図である。
【図49】バイオメタル切り取り長さの違いから生じる収縮時のマシンの傾きを示す図である。
【図50】駆動システムAと駆動システムBの結合型を示す図である。
【図51】バイオメタル(BMF100とBMF200のみ)の特性と仕様を示す表の図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形または多角形の2枚の固定板の間に1つまたは複数の線状の形状記憶合金および復元用バネを取り付け、さらに必要に応じて剛な芯棒を取り付けたマイクロアクチュエータについて、1つまたは複数の形状記憶合金に電流を通電・遮電を繰り返して収縮と伸張を繰り返させることによって固定板の間隔を繰り返し変化させ、この運動により床面または壁面を自由に移動可能ならしめるか、または固定板を互いに傾斜させることによって方向を変化させることを可能ならしめることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項2】
蝶番で接続された2本の棒がボディ本体を構成し、棒の軸と互いに直交するよう磁石を取り付けたマイクロアクチュエータに対して外部から交番磁場を与えることにより、床面または壁面を自由に移動可能ならしめ、なおかつ外部磁場の波形を変化させることによりその速度や方向を制御可能ならしめることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項3】
床面または壁面と接触する部分に、(a)鋸刃状の固定形状部材、または(b)ゴムやプラスティックなどの可撓性のある板状部材、(c)ゴムやプラスティックなどの可撓性のある単数または複数の毛状部材、のいずれかを取り付けることにより、摩擦抵抗に異方性を持たせた足部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロマシン。
【請求項4】
車輪を有するボディに磁石を埋め込んだマイクロアクチュエータに外部から磁石軸に直交する方向の交番磁場または磁石軸に平行な静磁場を与えることにより床面または壁面を自由に移動可能ならしめ、なおかつ外部磁場の波形を変化させることによりその速度や方向を制御可能ならしめることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項5】
小型カメラを備え、写真撮影が可能となっていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマイクロマシン。
【請求項6】
分泌液などの採取機構を備え、分泌液などの採取が可能となっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のマイクロマシン。
【請求項7】
薬剤または薬液など配送機構を備え、薬剤または薬液などの運搬および投与が可能となっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のマイクロマシン。
【請求項1】
円形または多角形の2枚の固定板の間に1つまたは複数の線状の形状記憶合金および復元用バネを取り付け、さらに必要に応じて剛な芯棒を取り付けたマイクロアクチュエータについて、1つまたは複数の形状記憶合金に電流を通電・遮電を繰り返して収縮と伸張を繰り返させることによって固定板の間隔を繰り返し変化させ、この運動により床面または壁面を自由に移動可能ならしめるか、または固定板を互いに傾斜させることによって方向を変化させることを可能ならしめることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項2】
蝶番で接続された2本の棒がボディ本体を構成し、棒の軸と互いに直交するよう磁石を取り付けたマイクロアクチュエータに対して外部から交番磁場を与えることにより、床面または壁面を自由に移動可能ならしめ、なおかつ外部磁場の波形を変化させることによりその速度や方向を制御可能ならしめることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項3】
床面または壁面と接触する部分に、(a)鋸刃状の固定形状部材、または(b)ゴムやプラスティックなどの可撓性のある板状部材、(c)ゴムやプラスティックなどの可撓性のある単数または複数の毛状部材、のいずれかを取り付けることにより、摩擦抵抗に異方性を持たせた足部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロマシン。
【請求項4】
車輪を有するボディに磁石を埋め込んだマイクロアクチュエータに外部から磁石軸に直交する方向の交番磁場または磁石軸に平行な静磁場を与えることにより床面または壁面を自由に移動可能ならしめ、なおかつ外部磁場の波形を変化させることによりその速度や方向を制御可能ならしめることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項5】
小型カメラを備え、写真撮影が可能となっていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマイクロマシン。
【請求項6】
分泌液などの採取機構を備え、分泌液などの採取が可能となっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のマイクロマシン。
【請求項7】
薬剤または薬液など配送機構を備え、薬剤または薬液などの運搬および投与が可能となっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のマイクロマシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【公開番号】特開2006−212220(P2006−212220A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28280(P2005−28280)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】
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