説明

マイクロ反応装置およびマイクロ反応装置のマイクロ流路への気液供給方法

【課題】構成簡単にして並列化したマイクロ流路を形成するとともに、当該マイクロ流路に均一に光触媒を担持させ、効率的に大容量の光化学反応を行うことができるマイクロ反応装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係るマイクロ反応装置は、周断面形状が円形であって長手方向に光を透過する丸棒の周面に光触媒を担持させ、前記丸棒の内部を透過する光が前記光触媒を担持した周面から漏光するように構成された光触媒担持棒を複数本束ねて構成され、少なくとも3本の前記光触媒担持棒の周面によって区画されて形成されるマイクロ流路を有する光反応部を備え、前記光反応部の第1の端部側から、液体成分と気体成分とを導入し、前記液体成分が該マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、前記気体成分が中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列に形成した複数の微細な流路内において光化学反応を行うことができるマイクロ反応装置に関するものである。また、当該マイクロ反応装置のマイクロ流路に液体成分および気体成分を流通させるための気液供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ反応装置は、径が数μm〜数百μmの微細な流路内において化学反応、分離等を行う反応器を備えた反応装置であり、従来のバッチ方式に比べ数多くの利点を有している。
【0003】
特に、光触媒反応では、前記微細な流路に光触媒を担持させたマイクロ反応装置が用いられ、光触媒を反応容器中に懸濁させて反応を行うバッチ方式に比して、反応に用いる光を効率的に利用して当該反応を短時間で行うことができるとともに、反応後に触媒を分離する必要が無い点で優れており、注目されている。
【0004】
実験室レベルで用いられるマイクロ反応装置は、例えば、ガラスや石英等のプレートに微細な流路を成す溝を形成し、該溝に光触媒を担持させ、反応原料の供給口や反応液の取り出し口が設けられたプレートホルダーを接合することによって構成されている(特許文献1)。また、接着性樹脂フィルムに細隙状の貫通孔を設け、前記接着性樹脂フィルムの両面に、光触媒を担持させたガラスや石英等のプレートを接合させて、微細な流路を形成した構成のものもある(特許文献2)。
【0005】
このようなプレート状のマイクロ反応装置を用いる反応をスケールアップする場合には、特許文献2に記載されているように前記微細な流路を同一プレートに複数並列に形成することによって反応系の大容量化が行われている。
【0006】
しかしながら、前記プレート状のマイクロ反応装置では、微細な流路を形成するための加工が難しくコストがかかる上、光触媒を流路全体に均一に担持させることが困難であった。また、スケールアップに際し、並列に形成した多数のマイクロ流路に均一に試料を分配することの困難性や、多数のマイクロ流路の制御システムが複雑化する問題が指摘されるようになってきている。
【0007】
ところで、前述した従来のバッチ方式(光触媒を反応容器中に懸濁させて反応を行う)では、反応容器が大きくなると外部から光を照射しただけでは光を効率的に利用できないが、反応容器の外部から照射した光が届かないような溶液中において光触媒による光化学反応を行うため、光ファイバーの表面に光触媒を備えた漏光型光触媒ファイバーが開発されている(特許文献3)。
【0008】
特許文献3では、前記漏光型光触媒ファイバーをプラスチックチューブに挿入し、当該チューブに被処理水を流して光触媒反応を行っている。このことによって、反応液内部まで光が届かないような濃厚な反応液においても効率的に光化学反応を行えると記載されている。また、反応容器(プラスチックチューブ)中に挿入する前記漏光型光触媒ファイバーの本数を増やすと光触媒と被処理水との接触面積も増加し、当該接触面積の増加に応じて反応効率が上がっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−239640号公報
【特許文献2】特開2008−194568号公報
【特許文献3】特開2005−349373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、マイクロ流路を有するマイクロ反応装置を用いる反応系について、その実用化に対応する反応量の増大を課題とし、構成簡単にして並列化したマイクロ流路を形成するとともに、当該マイクロ流路に均一に光触媒を担持させ、効率的に光化学反応を行うことができるマイクロ反応装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係るマイクロ反応装置は、周断面形状が円形であって長手方向に光を透過する丸棒の周面に光触媒を担持させ、前記丸棒の内部を透過する光が前記光触媒を担持した周面から漏光するように構成された光触媒担持棒を複数本束ねて構成され、少なくとも3本の前記光触媒担持棒の周面によって区画されて形成されるマイクロ流路を有する光反応部と、前記光反応部の第1の端部側から、液体成分と気体成分とを導入し、前記液体成分が該マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、前記気体成分が中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成された気液導入部と、前記光反応部に対し、少なくとも一方の端部側から前記光触媒担持棒の長手方向に沿って光を照射する光照射部と、前記光反応部の第2の端部側から前記マイクロ流路を流通した液体成分及び気体成分を排出する気液排出部と、を備えている。ここで、「周断面形状が円形」とは、棒の長手方向に対して垂直な断面形状が円形であることを指すものである。
【0012】
本態様に係るマイクロ反応装置は、マイクロ流路を有する光反応部を形成するにあたり、周断面形状が円形であって長手方向に光を透過する丸棒の周面に光触媒を担持させ、前記丸棒の内部を透過する光が前記光触媒を担持した周面から漏光するように構成された光触媒担持棒を、複数本束ねたときに、少なくとも3本の前記光触媒担持棒の周面によって区画される空間をマイクロ流路として用いるものである。
【0013】
前記光触媒担持棒は細密構造になるように束ね、前記マイクロ流路は、図4(A)のように3本の光触媒担持棒の周面によって区画されて形成されていることが望ましいが、図4(B)のように4本の光触媒担持棒の周面によって区画されていてもよい。
【0014】
本態様によれば、マイクロ流路の内面全体に均一に触媒を設けることが可能であるともに、複数の光触媒担持棒(例えば20本〜1000本)を束ねることによって、数十〜数百の並列のマイクロ流路を簡単に形成することができる。更に、デッドボリュームを極小にして光触媒を担持した部分のほとんどを、マイクロ流路を構成するために用いることができる。
【0015】
また、光触媒担持棒は長手方向に光を透過し、光触媒担持棒の内部を透過する光が光触媒を担持した周面から漏光するように構成されているので、光照射部から前記光触媒担持棒の長手方向に沿って光を照射することによって、前記の全部のマイクロ流路全部への光照射を簡単に実現することができる。
【0016】
また、本態様に係るマイクロ反応装置は、前記光反応部のマイクロ流路において、液体成分が該マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、気体成分が中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成することができるように構成されている。光触媒反応は、光触媒に近い部分においてその反応が効率的に行われる。前記パイプフローを形成させることによって、液体成分、すなわち反応液が光触媒に押し付けられる。このことによって、当該反応液を光触媒の近くに集中させて光触媒反応を高効率で行うことができる。
【0017】
本発明の第2の態様に係るマイクロ反応装置は、第1の態様において、前記光反応部は、前記複数の光触媒担持棒を所定のマイクロ流路長に設定されたフレームに充填して束ねる構成であり、前記光触媒担持棒は前記フレームよりも長く形成され、少なくとも前記光反応部の第2の端部側において前記フレームから突出して設けられ、該フレームから突出した光触媒担持棒同士の隙間から、前記マイクロ流路を通過した液体成分および気体成分を取り出し可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、複数の光触媒担持棒をフレームに充填することによって、構成簡単にして光触媒担持棒を束ねて、並列の複数のマイクロ流路を有する光反応部を構成することができる。また、前記フレームを所望のマイクロ流路長に設定することによって、前記マイクロ流路の長さを正確に設定することができる。
【0019】
更に、前記フレームよりも長く形成された光触媒担持棒が、少なくとも前記光反応部の第2の端部側において前記フレームから突出している。このフレームから突出した部分はフレームに拘束されない自由端となり、液体成分および気体成分を圧送する際の圧力によって複数の光触媒担持棒同士の間が広げられて隙間ができる。前記隙間から、マイクロ流路を通過した液体成分および気体成分を取り出すことができる。そして、前記光反応部の第2の端部側の光触媒担持棒の端面から、当該光触媒担持棒の長手方向に沿って光を照射する構成とすることができる。
【0020】
尚、前記光触媒担持棒の自由端(フレームから突出させる部分)の長さは、長すぎると前記第2の端部側の光触媒担持棒の端面の向きがばらついて光の入射効率が低くなってしまうので、当該端面を面一に保持できる長さに設定されることが望ましい。
【0021】
本発明の第3の態様に係るマイクロ反応装置は、第1または第2の態様において、前記丸棒の径は0.05mm〜3mmであることを特徴とするものである。
【0022】
本態様によれば、前記パイプフローを用いた光触媒反応を行うために適した大きさ(流路径)のマイクロ流路を形成することができる。
【0023】
本発明の第4の態様に係るマイクロ反応装置は、第1の態様から第3の態様のいずれか一つにおいて、前記丸棒は石英またはホウ珪酸ガラスによって形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
本態様によれば、石英またはホウ珪酸ガラスの丸棒の周面に光触媒を担持することによって、その周面において光触媒反応を行うために適した漏光性を得ることができるため、前記光触媒担持棒を容易且つ安価に作成することができる。
【0025】
本発明の第5の態様に係るマイクロ反応装置は、第2の態様から第4の態様のいずれか一つにおいて、前記光反応部のマイクロ流路に前記液体成分と前記気体成分を送り込む気液導入部を構成する第1ハウジングと、前記第1ハウジングと接続されるとともに前記光反応部を保持する第2ハウジングと、前記光反応部の第2の端部側において前記第2ハウジングと接続され、前記光反応部のマイクロ流路を通過した液体および気体を排出する気液排出部を構成する第3ハウジングと、を備え、前記光反応部の第2の端部側において前記フレームから突出して設けられた光触媒担持棒の端面は、前記第3ハウジングの一面に接触して設けられ、前記第3ハウジングは、少なくとも前記光触媒担持棒の接触面が透明に構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
本態様によれば、光反応部に対して確実に光を照射することができるとともに、第2の態様から第4の態様のいずれか一つの態様と同様の作用効果を得ることができる。また、本態様のハウジングにより、マイクロ流路を有する光反応部を外部と区画することが可能となり、当該マイクロ流路におけるパイプフローの形成を容易に実現することができる。
【0027】
本発明の第6の態様に係るマイクロ反応装置は、第5の態様において、前記光反応部は長手方向を重力方向に沿って配設されていることを特徴とするものである。
【0028】
本態様によれば、前記光反応部の第2の端部側(気液流通方向に対して下流側)の光触媒担持棒の端面を前記第3ハウジングの一面に確実に接触させることが可能となり、第5の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【0029】
本発明の第7の態様に係る気液供給方法は、第1の態様から第6の態様のいずれか一つの態様のマイクロ反応装置の光反応部に形成されているマイクロ流路に、液体成分および気体成分を供給する気液供給方法であって、前記気液導入部から前記液体成分の飽和蒸気を含む前記気体成分を光反応部のマイクロ流路に供給し、前記光反応部を、前記気体成分に含まれる前記液体成分の飽和蒸気が凝縮する温度にすることを特徴とするものである。
【0030】
本態様によれば、並列する多くの前記マイクロ流路において、前記パイプフローの形成を容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、周面に光触媒を設けた光触媒担持棒を複数本束ねて、当該光触媒担持棒の周面によって区画される空間をマイクロ流路として用いるので、前記マイクロ流路の内面全体に均一に触媒を設けることが可能であるともに、複数の光触媒担持棒(例えば20本〜1000本)を束ねることによって、数十〜数百の並列のマイクロ流路を簡単に形成することができる。更に、前記光触媒担持棒は長手方向に光を透過し、光触媒担持棒の内部を透過する光が光触媒を担持した周面から漏光するように構成されているので、光照射部から前記光触媒担持棒の長手方向に沿って光を照射することによって前記の全部のマイクロ流路への一様な光照射を容易に実現することができる。また、並列配置される多くのマイクロ流路においてパイプフローを形成させて反応を行うことによって、液体成分(反応液)を光触媒の近くに集中させて光触媒反応を高効率で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1に係るマイクロ反応装置の縦断面図である。
【図2】本発明に係る光反応部の一例を示す図であり、図2(A)は斜視図であり、図2(B)は平面図である。
【図3】図2の光反応部の横断面の概略図である。
【図4】光触媒担持棒の周面によって区画されて形成されるマイクロ流路を説明する図であり、図4(A)は3本の光触媒担持棒の周面によって区画されるマイクロ流路の例であり、図4(B)は4本の光触媒担持棒の周面によって区画されるマイクロ流路の例である。
【図5】実施例2に係るマイクロ反応装置の縦断面図である。
【図6】本発明に係るマイクロ反応装置の光反応部に形成されているマイクロ流路に、液体成分および気体成分を供給する気液供給方法の一例を説明するである。
【図7】本発明に係るマイクロ反応装置の光反応部に形成されているマイクロ流路に、液体成分および気体成分を供給する気液供給方法の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0034】
[実施例1]
図1は、実施例1に係るマイクロ反応装置の縦断面図である。図2は、本発明に係る光反応部の一例を示す図であり、図2(A)は斜視図であり、図2(B)は平面図である。図3は、図2の光反応部の横断面の概略図である。図4は、光触媒担持棒の周面によって区画されて形成されるマイクロ流路を説明する図であり、図4(A)は3本の光触媒担持棒の周面によって区画されるマイクロ流路の例であり、図4(B)は4本の光触媒担持棒の周面によって区画されるマイクロ流路の例である。
【0035】
本実施例に係るマイクロ反応装置1は、流路の内面に光触媒11を担持したマイクロ流路3を有する光反応部2を備えている。前記光反応部2のフレーム4は第2ハウジング8に保持され、前記光反応部2の一方の側の端部(図1中、光反応部2の上側の端部:以下、第1の端部5と称する場合がある)に第1ハウジング7が接続されており、同じく光反応部2の他方の側の端部(図1中、光反応部2の下側の端部:以下、第2の端部6と称する場合がある)に第3ハウジング9が接続されている。
尚、本実施例において、前記第2ハウジング8へのフレーム4の保持、および、ハウジング同士の接続はシール材26を用いて行っているが、ハウジングを構成する材料の熱融着によって接続することも可能である。前記シール材26としては耐溶媒性を有する材料を用いることが好ましい。
【0036】
まず、光化学反応を行う前記光反応部2について詳細に説明する。前記光反応部2は、図2に示されるように、周断面形状が円形であって長手方向に光を透過する丸棒10であって、該丸棒10の周面に光触媒11が担持された光触媒担持棒12を、所定のマイクロ流路長に設定されたフレーム4に複数本(例えば20本〜1000本)充填して束ねて構成されている。
【0037】
長手方向に光を透過する丸棒10としては、ホウ珪酸ガラス、石英、透明樹脂等の材料によって形成された棒が用いられ、ホウ珪酸ガラスまたは石英の丸棒を用いることが好ましい。また、光ファイバーを用いることも可能である。また、前記丸棒10の径は0.05mm〜3mmであることが望ましい。
【0038】
前記光触媒担持棒12は、前記石英棒、ガラス棒、光ファイバー等の丸棒10の表面に光触媒11をゾルゲル法等の公知の方法によって担持させ、その内部を透過する光が前記光触媒11を担持した周面から漏光するように構成されている。光触媒11としては、例えば二酸化チタン(TiO)等を用いることができる。
【0039】
本実施例では、前記フレーム4に前記光触媒担持棒12が密に充填されることによって、図4(A)または図4(B)に示されるように、少なくとも3本の前記光触媒担持棒12の周面によって区画された空間13が形成されている。この空間13をマイクロ流路3として用いる。
【0040】
ここで、光触媒担持棒12にその一方の端部から長手方向に光を照射すると、光触媒担持棒12の周面からの漏光により、光源から遠ざかるほど光は減衰する。したがって、光触媒担持棒12の長さは、前記空間13によって形成されるマイクロ流路3の全長に亘って光化学反応を行うことができる漏光が得られる長さに設計されている。
【0041】
本発明に係るマイクロ反応装置1のマイクロ流路3では、後述するように、液体成分Lが該マイクロ流路3の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、前記気体成分Gが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成させる。したがって、前記マイクロ流路3を成す光触媒担持棒12は、前記パイプフローを形成させるように液体成分Lおよび気体成分Gを送り込む圧力を受けた状態で、前記マイクロ流路3として保持されるように束ねられている。
【0042】
本実施例のように、光触媒担持棒12をフレーム4に充填することによって、構成簡単にして光触媒担持棒12を束ね、パイプフローを形成させて液体成分Lおよび気体成分Gを流通させるための圧力に耐えるマイクロ流路3を形成することができる。更に、デッドボリュームを極小にして光触媒11を担持した部分のほとんどを、マイクロ流路3を構成するために用いることができる。尚、複数の光触媒担持棒12を束ねる構成は、前記空間13が前記パイプフローを形成可能なマイクロ流路3として保持されるように束ねることができる構成であればよく、前記フレームに光触媒担持棒12を充填する構成に限られるものではない。
【0043】
前記光触媒担持棒12は、図3に示されるように、フレーム4に最密充填されることが望ましく、図4(A)のように、3本の前記光触媒担持棒12の周面によって区画された空間13をマイクロ流路3として用いることが望ましい。図4(B)のように4本、またはそれ以上の本数の光触媒担持棒12の周面によって区画されていてもよい。
【0044】
前記フレーム4の内壁14と光触媒担持棒12の周面によって区画された空間15も、マイクロ流路3として利用可能である。フレーム4の内壁14に光触媒11を設けることによって、一部がフレーム4の内壁14により区画されている空間15も有効に利用することができる。
【0045】
尚、図3は、前記最密充填の状態を分かりやすくするために光触媒担持棒12の本数を少なく示した図であり、実際は図2のようにフレーム内には20本〜1000本の光触媒担持棒12が充填されていることが望ましい。また、本実施例では、横断面が三角形のフレーム4を用いているが、フレーム4の形状は本実施例の形状に限られるものではなく、円形、四角形、六角形等のフレームを用いることができる。
【0046】
また、前記光触媒担持棒12は前記フレーム4よりも長く、少なくとも前記光反応部2の第2の端部6側において前記フレーム4から突出して設けられている。一方、前記光反応部2の第1の端部5側は、図1、図2(A)および図2(B)に示されるように、その端面から前記光触媒棒12が突出することなく面一に構成されることが望ましい。
【0047】
前記フレーム4から突出した前記光触媒担持棒12はフレーム4に拘束されず自由端となるため、該光触媒担持棒12同士の隙間から、前記マイクロ流路3を通過した液体成分Lおよび気体成分Gを取り出す気液取り出し部16として用いることができる。そして、前記光反応部2の第2の端部側の光触媒担持棒12の端面は、当該光触媒担持棒12の長手方向に沿って光を照射する光照射面として用いることができる。
尚、前記光触媒担持棒の自由端(フレームから突出させる部分)の長さは、長すぎると前記第2の端部側の光触媒担持棒の端面の向きがばらついて光の入射効率が低くなってしまうので、当該端面を面一に保持できる長さに設定されることが望ましい。
【0048】
尚、前記気液取り出し部16は、前述のようにフレーム4に拘束されず、光触媒担持棒12間に隙間ができるので、厳密には前記光触媒担持棒12の周面によって区画されたマイクロ流路3ではない。前記気液取り出し部16となる前記光触媒担持棒12の自由端は、光触媒11を担持させない構成とすることも可能であるが、光触媒11を担持させていてもよい。光触媒11を担持させた場合、気液取り出し部16においても液体成分Lが接触している限り、光触媒反応を行うことができる。
【0049】
次に、光反応部2のマイクロ流路3に前記液体成分Lと前記気体成分Gを送り込む気液導入部17について説明する。第2ハウジング8に保持された前記光反応部2は、前述のように第1の端部5側において第1ハウジング7と接続され、前記気液導入部17が構成されている。前記気液導入部17は、前記光反応部2の第1の端部5側から液体成分Lと気体成分Gとを導入し、前記パイプフローを形成可能に構成されているものである。
【0050】
前記第1ハウジング7は、気体成分Lおよび液体成分Gの貯蔵タンク(図示せず)に接続され、ポンプ等の送り込み装置(図示せず)を介して前記液体成分Lと前記気体成分が送り込まれる気液供給口18と、前記光反応部2の第1の端部5の端面に対して均一な圧力をかけるための空間19を有している。気液導入部17における液体成分Lおよび気体成分Gの具体的な導入方法については、実施例3および実施例4において詳細に説明する。
【0051】
次に、光反応部2のマイクロ流路3を通過した液体成分および気体成分を排出する気液排出部20について説明する。前記光反応部2はフレーム4を第2ハウジング8に保持されており、前記フレーム4から突出して設けられた光触媒担持棒12によって構成される前記気液取り出し部16を覆うように、第3ハウジング9と前記第2ハウジング8とが接続されている。
前記気液取り出し部16から取り出される液体成分(反応液)は、気液排出口21に接続される反応液貯蔵タンク22等に回収される。反応に用いられた気体成分Gは、用いられる気体成分Gの種類や反応によって生じた副生成物質の種類に応じて大気開放またはボンベ等(図示せず)に回収される。
【0052】
ここで、前記光反応部2の第2の端部6側(気液流通方向に対して下流側)の光触媒担持棒12の端面は、前記第3ハウジング9の一面23に接触して設けられ、前記第3ハウジング9は、少なくとも前記光触媒担持棒12の接触面(図1中、前記一面23の矢印24の範囲)が透明に構成されている。前記透明な面に対向する位置に光照射部25を設けることによって、光反応部2の光触媒担持棒12の長手方向に沿って光を照射することができる。その際、前記光反応部2をその長手方向が重力方向に沿うように配設することによって、前記第2の端部6側の端面と前記第3ハウジング9の一面23とを確実に接触させることができる。
【0053】
尚、前記第1ハウジング7、第2ハウジング8、および第3ハウジング9は、全て透明な材料(光透過性)によって形成されていてもよいが、光を透過すべき部分(光照射面)だけを透明に形成することもできる。また、前記光反応部2の第2の端部6側の光触媒担持棒12の端面が、第3ハウジング9を貫通して装置系外に露出している構成とすれば、該第3ハウジング9の全体を遮光性(光不透過性)の材料で形成することができる。
【0054】
以上、説明したマイクロ反応装置1によれば、周面に光触媒を設けた光触媒担持棒12を複数本束ねて、当該光触媒担持棒12の周面によって区画される空間13をマイクロ流路3として用いるので、前記マイクロ流路3の内面全体に均一に触媒を設けることが可能であるともに、光触媒担持棒12を20本〜1000本束ねることによって、数十〜数百の並列のマイクロ流路3を簡単に形成することができる。
【0055】
更に、前記光触媒担持棒12は長手方向に光を透過し、光触媒担持棒12の内部を透過する光が光触媒11を担持した周面から漏光するように構成されているので、光照射部25から前記光触媒担持棒12の長手方向に沿って光を照射することによって前記の全部のマイクロ流路3への一様な光照射を容易に実現することができる。
【0056】
更に、前記光反応部2のマイクロ流路3において、液体成分Lが該マイクロ流路3の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、気体成分Gが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成して反応を行うので、液体成分L、すなわち反応液が光触媒11に押し付けられ、当該反応液を光触媒11の近くに集中させて光触媒反応を高効率で行うことができる。
【0057】
[実施例2]
次に、本発明に係るマイクロ反応装置の他の実施例について説明する。図5は、実施例2に係るマイクロ反応装置の縦断面図である。実施例1では、光反応部2への光照射を、該光反応部2の第2の端部6側の光触媒担持棒12の端面からのみ行っているが、本実施例は、光反応部2の第1の端部5側からも光照射を行う構成としたものである。図5において、実施例1に係るマイクロ反応装置1と共通の部材については、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0058】
すなわち、第1ハウジング32はL字状に形成され、前記光反応部の第1の端部5側の端面に対向する一面33が設けられ、その一面33は透明に構成されている。前記透明な一面33に対向する位置に光照射部35を設けることによって、前記光反応部2の光触媒担持棒12の長手方向に沿って光を照射することができる。
このことによって、光反応部2の両側の端部から光を照射するので、光照射可能なマイクロ流路3の範囲が広くなり、以ってマイクロ流路長を長くすることが可能となる。
【0059】
尚、前記第1ハウジング32は、前記光反応部2の第1の端部5の端面に対して均一な圧力をかけるための空間34を有しているため、第2の端部6側から行う光照射(光触媒担持棒12の端面が第3ハウジング9の一面23に接触している場合)よりも光照射の効率は悪くなる。しかし、前記光反応部2の第1の端部5の端面に対しする均一な圧力をかけるために必要な空間34を確保しつつ、第1ハウジング32の前記一面33を、該光反応部2の第1の端部5の端面にできるだけ近づけるように設計し、更に、第1ハウジングの内面に鏡面加工し、光照射を行う一面33のみを透明に形成することによって、第1ハウジング32外に光が漏れることによる光の減衰を抑え、マイクロ流路3に光を照射することができる。
【0060】
[実施例3]
次に、本発明に係るマイクロ反応装置の光反応部2のマイクロ流路3に液体成分Lおよび気体成分Gを供給する気液供給方法について説明する。本実施例は、例えば、光触媒による水の分解反応(液体成分として水、気体成分として酸素を用いる)や、トルエンの酸化反応(液体成分としてトルエン、気体成分として酸素を用いる)のように、単一の液体成分Laを気体成分Gとともにマイクロ流路に送り込む場合について説明する。
尚、説明には実施例1のマイクロ反応装置1を用い、図6は、本発明に係るマイクロ反応装置1の光反応部2に形成されているマイクロ流路3に、液体成分Laおよび気体成分Gを供給する気液供給方法の一例を説明する図である。
【0061】
マイクロ反応装置1の気液供給口18は、原料である液体成分Laが貯蔵される液体La貯蔵タンク41に接続されている。前記液体La貯蔵タンク41には、当該液体La貯蔵タンク41中の液体成分Laに気体成分Gが吹き込まれる吹き込み管42が設けられ、前記液体成分Laの飽和蒸気を含む気体成分Gaが前記気液供給口18に送り込まれるように構成されている。更に、前記液体La貯蔵タンク41には、該タンク41内の温度を調節可能な温度調節装置43が設けられている。
【0062】
前記気体成分Ga中に含まれる液体成分Laの飽和蒸気量は、気体成分Gaの温度によって変化する。したがって、前記温度調節装置43により前記液体La貯蔵タンク41内の温度を調節することによって、前記気体成分Ga中に含まれる液体成分Laの量を調節することができる。以って、マイクロ反応装置1のマイクロ流路3に送り込む液体成分Laと気体成分Gの量を調整することができる。
【0063】
前記気体成分Gaは、マイクロ反応装置1の気液供給口18から第1ハウジング7の空間19内までは、該気体成分Gaに含まれる液体成分Laが液化しない状態を維持するように構成されている。そして、前記空間19から光反応部2のマイクロ流路3内に、前記気体成分Gaが入り込み、当該マイクロ流路3の内壁に接して気体成分Gaの熱が奪われることにより、飽和蒸気の状態で含まれていた液体成分Laが凝縮して液化する。そして、前記液体成分Laが該マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、マイクロ流路3内の温度における液体成分Laの飽和蒸気を含んでいる気体成分G´aが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成することができる。
【0064】
特に、マイクロ流路3内に設けられた光触媒11が二酸化チタンであり、且つ、液体成分Laが親水性の液体である場合には、二酸化チタンは親水性であるため、液体成分Laが二酸化チタンの近傍に優先的に近づいて付着して液化し、速やかに前記パイプフローが形成される。
【0065】
尚、液体成分Laの飽和蒸気を含む気体成分Gaは強制的に冷却しなくても、マイクロ流路3の内壁に付着するだけで熱が奪われて液体成分Laが凝縮、液化するが、より多くの液体成分Laを気体成分Gaに含有させるため、当該気体成分Gaを高温にした場合には、光反応部2のマイクロ流路3の第1の端部5近傍を冷却する構成としてもよい。
【0066】
[実施例4]
次に、複数種の液体成分を気体成分Gとともにマイクロ流路に送り込む場合について説明する。本実施例では、2種の液体成分Lbおよび液体成分Lcを用いる場合について説明する。本実施例は、例えば溶媒としてエタノールを用い、トルエンの酸化を行う場合等に用いることができる。図7は、実施例4に係るマイクロ反応装置への気液供給方法を説明する図である。
【0067】
液体成分Lbおよび液体成分Lcは、それぞれ別の液体Lb貯蔵タンク51および液体Lc貯蔵タンク61に貯蔵されており、それぞれの貯蔵タンク51および貯蔵タンク61に対して気体成分Gが吹き込まれる吹き込み管52と吹き込み管62、および該貯蔵タンク内の温度を調節可能な温度調節装置53と温度調節装置63が設けられている。液体Lb貯蔵タンク51の配管54からは、前記液体成分Lbの飽和蒸気を含む気体成分Gbが送られる。液体Lc貯蔵タンク61の配管64からは、前記液体成分Lcの飽和蒸気を含む気体成分Gcが送られる。
【0068】
前記配管54と配管64とを合流させ、前記気体成分Gbおよび気体成分Gcを混合することによって、所望の割合で液体成分Lbと液体成分Lcの飽和蒸気を含む気体成分Gbcを得て、該気体成分Gbcがマイクロ反応装置1の気液供給口18に送り込まれるように構成されている。
【0069】
このことによって、マイクロ反応装置1のマイクロ流路3内に、液体成分Lbおよび液体成分Lcを所望の割合で混合した液体成分Lbcと気体成分G´bc(マイクロ流路3内の温度における液体成分Lbcの飽和蒸気を含んでいる)とを、パイプフローを形成させて流通させることが可能となる。
【0070】
3以上の複数種の液体成分を用いる場合も、それぞれの液体成分の飽和蒸気を含む気体成分を合一させることによって、前記複数種の液体成分を所望の割合で混合した液体成分を前記マイクロ流路3に流通させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、並列に形成した複数の微細な流路内において光触媒による光化学反応を行うマイクロ反応装置および該マイクロ装置のマイクロ流路への気液供給方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 マイクロ反応装置、 2 光反応部、 3 マイクロ流路、
4 フレーム、 5 第1の端部、 6 第2の端部、
7 第1ハウジング、 8 第2ハウジング、 9 第3ハウジング、
10 丸棒、 11 光触媒、 12 光触媒担持棒、
13 空間、 14 内壁、 15 空間、 16 気液取り出し部、
17 気液導入部、 18 気液供給口、 19 空間、
20 気液排出部、 21 気液排出口、 22 反応液貯蔵タンク、
23 第3ハウジングの一面、 24 透明に形成される範囲、
25 光照射部、 26 シール材、
31 マイクロ反応装置、 32 第1ハウジング、
33 第1ハウジングの一面、 34 空間、 35 光照射部、
41 液体La貯蔵タンク、 42 吹き込み管、 43 温度調節装置、
51 液体Lb貯蔵タンク、 52 吹き込み管、
53 温度調節装置、 54 配管、
61 液体Lc貯蔵タンク、 62 吹き込み管、
63 温度調節装置、 64 配管、
L、La、Lb、Lc、Lbc 液体成分、
G、Ga、Gb、Gc、Gbc 気体成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周断面形状が円形であって長手方向に光を透過する丸棒の周面に光触媒を担持させ、前記丸棒の内部を透過する光が前記光触媒を担持した周面から漏光するように構成された光触媒担持棒を複数本束ねて構成され、少なくとも3本の前記光触媒担持棒の周面によって区画されて形成されるマイクロ流路を有する光反応部と、
前記光反応部の第1の端部側から、液体成分と気体成分とを導入し、前記液体成分が該マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、前記気体成分が中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成された気液導入部と、
前記光反応部に対し、少なくとも一方の端部側から前記光触媒担持棒の長手方向に沿って光を照射する光照射部と、
前記光反応部の第2の端部側から前記マイクロ流路を流通した液体成分及び気体成分を排出する気液排出部と、
を備えたマイクロ反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたマイクロ反応装置において、前記光反応部は、前記複数の光触媒担持棒を所定のマイクロ流路長に設定されたフレームに充填して束ねる構成であり、
前記光触媒担持棒は前記フレームよりも長く形成され、少なくとも前記光反応部の第2の端部側において前記フレームから突出して設けられ、該フレームから突出した光触媒担持棒同士の隙間から、前記マイクロ流路を通過した液体成分および気体成分を取り出し可能に構成されていることを特徴とするマイクロ反応装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたマイクロ反応装置において、前記丸棒の径は0.05mm〜3mmであることを特徴とするマイクロ反応装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載されたマイクロ反応装置において、前記丸棒は石英またはホウ珪酸ガラスによって形成されていることを特徴とするマイクロ反応装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載されたマイクロ反応装置において、
前記光反応部のマイクロ流路に前記液体成分と前記気体成分を送り込む気液導入部を構成する第1ハウジングと、
前記第1ハウジングと接続されるとともに前記光反応部を保持する第2ハウジングと、
前記光反応部の第2の端部側において前記第2ハウジングと接続され、前記光反応部のマイクロ流路を通過した液体および気体を排出する気液排出部を構成する第3ハウジングと、を備え、
前記光反応部の第2の端部側において前記フレームから突出して設けられた光触媒担持棒の端面は、前記第3ハウジングの一面に接触して設けられ、
前記第3ハウジングは、少なくとも前記光触媒担持棒の接触面が透明に構成されていることを特徴とするマイクロ反応装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたマイクロ反応装置において、前記光反応部は長手方向を重力方向に沿って配設されていることを特徴とするマイクロ反応装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載されたマイクロ反応装置の光反応部に形成されているマイクロ流路に、液体成分および気体成分を供給する気液供給方法であって、
前記気液導入部から前記液体成分の飽和蒸気を含む前記気体成分を光反応部のマイクロ流路に供給し、
前記光反応部を、前記気体成分に含まれる前記液体成分の飽和蒸気が凝縮する温度にすることを特徴とする気液供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−183276(P2011−183276A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49284(P2010−49284)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(505252698)株式会社 IME (14)
【Fターム(参考)】