説明

マイクロ波によるアスベスト廃棄物の処理方法

【課題】危険なアスベスト廃棄物を、空中に飛散させることなく比較的低温で減容処理することができる経済性に優れたアスベスト廃棄物の処理方法を提供する。
【解決手段】マイクロ波透過性の耐火性容器2の内部に、アスベスト廃棄物と、マイクロ波吸収能を有するコークス等の炭素系物質と、金属系酸化物と、CaO等の酸化物系助剤とを収納して密閉オーブン1内でマイクロ波を照射する。マイクロ波で炭素系物質を発熱させることにより金属系酸化物を還元すると同時に、発生した溶融スラグ中でアスベスト廃棄物を処理して無害化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を利用してアスベスト廃棄物を処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベストはこれまで建築物をはじめ多くの分野に広く使用されてきたが、最近になってその有害性が社会問題となり、建築物等からの除去や解体が進行している。アスベストは単体である場合も、他の材料と混合されている場合もあるが、何れの場合にも回収されたアスベスト廃棄物を処理して無害化する必要がある。
【0003】
アスベストは繊維状珪酸塩好物であり、その太さが毛髪の数千分の一であるために空中に浮遊し易く、空気とともに体内に侵入して呼吸器官に障害を引き起こす。また自然環境中ではその結晶構造は半永久的に変化しないといわれている。このためアスベスト廃棄物を処理するためにはセメント等の内部に封入するか、炉内で高温溶融し繊維状の結晶構造を変化させる方法(特許文献1,2)が普通である。
【0004】
しかしセメント等の内部に封入する方法は、空中への飛散は防止し易いが二次廃棄物が増量されるという問題がある。一方、高温の炉内に投入して溶融する方法は減容効果には優れるが、排ガスとともにアスベストが空中に飛散しやすく、また1500℃以上の高温を必要とするため炉材の損傷が早く、経済性の点で問題があった。
【特許文献1】特開2001−317713号公報
【特許文献2】特開2003−181412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、危険なアスベスト廃棄物を空中に飛散させることなく溶融して減容処理することができ、しかも処理温度が比較的低温であって経済性に優れたアスベスト廃棄物の処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、マイクロ波透過性の耐火性容器の内部に、アスベスト廃棄物と、マイクロ波吸収能を有する炭素系物質と、金属系酸化物と、酸化物系助剤とを収納して密閉オーブン内でマイクロ波を照射し、炭素系物質を発熱させることにより金属系酸化物を加熱還元すると同時に、アスベスト廃棄物を処理して無害化することを特徴とするものである。
【0007】
なお耐火性容器として、外周がセラミックファイバーにより断熱された密閉可能なセラミック容器を使用することが好ましく、マイクロ波吸収能を有する炭素系物質として、コークスを使用することが好ましい。また金属系酸化物の還元生成物を酸化物系助剤とともに溶融スラグとし、アスベスト廃棄物との接触効率を高めることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマイクロ波によるアスベスト廃棄物の処理方法によれば、マイクロ波透過性の耐火性容器の内部にアスベスト廃棄物とマイクロ波吸収能を有する炭素系物質とを収納して密閉オーブン内でマイクロ波を照射し、炭素系物質を発熱させて加熱するので、危険なアスベストが周囲に飛散するおそれがない。しかもバーナー加熱方式とは異なり大量の排ガスが発生することもない。
【0009】
また本発明によれば、金属系酸化物と炭素系物質とCaO系の酸化物系助剤も同時に耐火性容器の内部に収納してあり、炭素系物質は金属系酸化物の還元剤として作用するので、金属系酸化物は還元されて溶融金属として回収することができる。このためトータル的なランニングコストを引下げることができる。しかも、金属系酸化物の還元生成物は酸化物系助剤とともに高温の溶融スラグを生成し、アスベスト廃棄物との接触効率を高める。このため、処理温度を1300℃程度としても十分にアスベストの無害化が可能であり、耐火性容器の損傷も少なく、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1において1は密閉オーブン、2はその内部に設置されたマイクロ波透過性の耐火性容器である。耐火性容器2としては、外周がセラミックファイバー3により断熱された密閉可能なセラミック容器が適している。耐火性容器2及びセラミックファイバー3の材質としてはアルミナ−シリカ系セラミックやジルコニア系セラミックが好ましく、炭化珪素系はマイクロ波を吸収するので、部分的な使用に留める方が良い。密閉オーブン1の外部には公知のマイクロ波発振装置4が設置されており2.45GHzのマイクロ波を導波管5を介して耐火性容器2に向けて発射する。マイクロ波はセラミックファイバー3及び耐火性容器2を貫通してその内部に到達する。
【0011】
耐火性容器2の内部には、アスベスト廃棄物と、マイクロ波吸収能を有する炭素系物質と、金属系酸化物と、酸化物系助剤とを収納する。前述したように、アスベスト廃棄物はアスベスト単体であっても、他の建築材料等と混合されたものであってもよい。マイクロ波吸収能を有する炭素系物質としては、コークスを使用することが好ましいがカーボン粉末やSiCを使用することもできる。これらの炭素系物質はマイクロ波を吸収して発熱するとともに、還元剤としても機能する。
【0012】
本発明では耐火性容器2の内部に、金属系酸化物と酸化物系助剤とを同時に収納する。金属系酸化物として代表的なものは金属工場や製鋼工場などから排出される金属汚泥やダスト類であり、特に比較的高価なNi,Crのような金属を含有する金属系酸化物は、回収された金属を販売することにより処理コストを引き下げる上で有利である。酸化物系助剤として代表的なものはCaOである。
【0013】
これらの混合比率は特に限定されるものではないが、質量比でコークスが約4割、金属系酸化物と酸化物系助剤とが合計量で約4〜5割、アスベスト廃棄物が1〜2割程度とすることが好ましい。金属系酸化物の種類やアスベスト廃棄物の種類により、混合比率は適宜変化させることができる。
【0014】
このように、耐火性容器2の内部にアスベスト廃棄物と、炭素系物質と、金属系酸化物と、酸化物系助剤とを収納して密閉オーブン1内にセットし、マイクロ波発振装置4からマイクロ波を照射すると、マイクロ波はセラミックファイバー3及び耐火性容器2を貫通して炭素系物質に吸収され、炭素系物質を発熱させる。その結果、炭素系物質は金属系酸化物から酸素を奪って還元するとともに、それ自体は酸化されて酸化熱を生じる。
【0015】
金属系酸化物は還元されて耐火性容器2の底部に溶融金属として流下する一方、還元生成物は酸化物系助剤とともに溶融スラグを形成する。酸化物系助剤としてCaOを使用すればスラグの融点が降下し、耐火性容器2の内部を1300℃程度に維持すれば溶融状態を維持する。なお、アスベストを含有する物質の主成分はCaOであることが多く、その場合にはCaOを別に添加する必要はない。
【0016】
アスベスト廃棄物はこの溶融スラグとの接触により溶融される。アスベストのうちクリソタイル(白石綿)の融点は1521℃であるが、本発明のように炭素系物質、金属系酸化物、酸化物系助剤とともにマイクロ波で加熱すると、1300℃で完全に溶融させることができる。その理由は、溶融スラグが溶融補助剤として作用するためと考えられる。アスベスト廃棄物は溶融スラグ中に浸漬された状態となるので接触効率が高まり、1時間程度1300℃に維持すれば完全に無害化される。
【0017】
なお、炭素系物質が酸化されることに伴い炭酸ガスが発生するが、バーナー加熱方式ではないため発生量は少量である。発生ガスは排出管6から系外に抜き出し、高温集塵器7を通して排出すればよい。仮に少量のアスベストが排ガス中に飛散していても、高温集塵器7により回収することができ危険性はない。
【0018】
このように本発明によれば、危険なアスベスト廃棄物を密閉オーブン1内で溶融して減容処理することができ、空中に飛散させることがない。しかも処理温度をアスベスト単体処理の場合よりも下げることができ、耐火性容器2の損傷も防止できるうえ、同時に金属酸化物を還元して有用金属を回収することもできるので、経済的である。なお金属とアスベストとの比重は大きく異なるため、回収された金属中にアスベストが混入することはない。
【実施例】
【0019】
アルミナ85%、シリカ15%のセラミックからなる耐火性容器に、建築物壁面から剥離したアスベスト廃棄物100gと、コークス400gと、金属酸洗ラインから回収された中和汚泥350gと、CaO100gとを収納し、4.5kWのマイクロ波発信装置を備えたオーブンを用いて2.45GHzのマイクロ波を照射した。熱電対により内部温度を測定したところ、照射開始後55分で1300℃に達したので、マイクロ波発信装置の出力を1.5kWに落として20分間1300℃を維持し、その後自然放冷した。
【0020】
耐火性容器の底部から約120gの金属鉄が回収された。また残渣は全部で350gであった。残渣中からアスベスト廃棄物の痕跡を回収し、X線回折パターンを測定したところ、図3に示すとおりであった。一方、処理前のアスベストのX線回折パターンは図2の通りであり、本発明の処理によりアスベストが消滅したことが確認できた。
【0021】
また、最高保持温度を1200℃として同様の実験を行い、残渣のX線回折パターンを測定したところ、図4に示すとおりであった。図2に示される処理前のアスベストのX線回折パターンと対比すると、1200℃でもアスベストが消滅したことが確認できる。
【0022】
なお、これらの図2、3、4における測定条件は次の通りである。
・X線発生装置:3kW
・線源:1.54056A(Cu)
・モノクロメータ:使用
・管電圧:40.0kW
・管電流:30.0mA
・サンプリング幅:0.0100deg
・走査速度:3.0000deg/min
・発散スリット:0.50deg
・散乱スリット:0.50deg
・受光スリット:0.15deg
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】処理前のアスベストのX線回折パターンである。
【図3】1300℃で処理後のアスベストのX線回折パターンである。
【図4】1200℃で処理後のアスベストのX線回折パターンである。
【符号の説明】
【0024】
1 密閉オーブン
2 耐火性容器
3 セラミックファイバー
4 マイクロ波発振装置
5 導波管
6 排出管
7 高温集塵器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波透過性の耐火性容器の内部に、アスベスト廃棄物と、マイクロ波吸収能を有する炭素系物質と、金属系酸化物と、酸化物系助剤とを収納して密閉オーブン内でマイクロ波を照射し、炭素系物質を発熱させることにより金属系酸化物を加熱還元すると同時に、アスベスト廃棄物を処理して無害化することを特徴とするマイクロ波によるアスベスト廃棄物の処理方法。
【請求項2】
耐火性容器として、外周がセラミックファイバーにより断熱された密閉可能なセラミック容器を使用することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波によるアスベスト廃棄物の処理方法。
【請求項3】
マイクロ波吸収能を有する炭素系物質として、コークスを使用することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波によるアスベスト廃棄物の処理方法。
【請求項4】
金属系酸化物の還元生成物を酸化物系助剤とともに溶融スラグとし、アスベスト廃棄物との接触効率を高めることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波によるアスベスト廃棄物の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−272529(P2008−272529A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161924(P2006−161924)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(506200094)ニコー物産株式会社 (3)
【Fターム(参考)】