説明

マイクロ波加熱装置

【課題】 共振空胴内を移動する幅の広いシート状被加熱物を均一加熱する新しいマイクロ波加熱装置を提供する。
【解決手段】 マイクロ波加熱装置は、ほぼ直方体状のマイクロ波共振空胴1と、このマイクロ波共振空胴内を通過してシート状被加熱物2を移動させる移動手段とを具備する。このシート面に平行な一対の空胴壁の片方または両方に設けられた複数の結合孔6に、マイクロ波を結合することにより空胴1内に電磁界を励起してシート2を加熱する。共振空胴1のシートの幅方向の長さを結合孔6の数で割った長さにほぼ等しい間隔を持つように共振空胴1に対して対称的に結合孔6を配設する。この結合孔6に、導波管3を介して、互いに位相がほぼ同じで大きさもほぼ等しいマイクロ波を結合することで、幅の広いシート状被加熱物2を均一加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はマイクロ波加熱装置に係り、特に、幅広シート状被加熱物の加熱度合いの均一化に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波加熱は家庭用から工業用まで広く使用されている。特に工業応用の一分野にシート状被加熱物を均一に加熱したいという要求がある。この目的のために、折れ曲がり線路、漏洩線路等の伝送線路を適切に構成したものや電磁波をある領域に放射する単一または複数個のアンテナを用いる方法などが提案されている。しかしながら、このような方式では、効率のよい加熱を期待できないだけでなく、均一性についての要求も満たすことができない。
特に、幅が広くて厚さが薄い長尺のシート状被加熱物の場合、高効率、均一加熱の要求を満たすことは極めて困難である。出願人らは、特願2003-281005号において、この要求を満たすための装置を提案している。この方法は、共振空胴を用いるとともに、この共振空胴に単一の結合孔を設けてマイクロ波を結合し、シートの偏芯挿入や空胴壁の変形を行うもので、これによりかなりの幅にわたって均一に加熱できるようになっている。しかしながら、さらに広い幅を持つシートを加熱したいという要求があって、一層の改善を求められている状況にある。
例えば、マイクロ波の共振空胴を用いる方法について、次のような問題がある。この方法では、損失のない空胴で均一な電界が得られる共振モードを使用する。しかし、被加熱物を空胴内に挿入すると、その損失の影響を受けて電界が少し変化し、このために、損失が大きいと一様加熱の目的を達成できなくなる。これを解決するため、特許文献1では、空胴の中心でなく偏芯した位置にシートを挿入したり、空胴壁を、マイクロ波を結合する結合孔から離れるにつれ少し広げたりする方法を採用してある程度の広さを持ったシートの均一加熱を達成している。しかしながら、例えば、1mないし3m幅のシートに対しては、特にマイクロ波の吸収が少ない場合を除いて、加熱の均一性の要求を満たすことができなかった。ある幅にわたって均一加熱ができるマイクロ波加熱空胴を複数個準備し、各々の空胴で分担してシートの限定された部分を加熱する手段が考えられるが、継ぎ目の部分がより昇温したり、あるいは加熱不足となったりする問題を生じていた。
一般的に、マイクロ波加熱に使用されているマイクロ波の周波数は、2,450MHzであるが、この周波数の電磁波の波長は、およそ122mmで、この波長が、均一な加熱を求められる被加熱物の寸法に比較して通常、かなり短いため、均一な加熱が困難となる。そこで、例えば、周波数を下げれば、変化の度合いが小さくなり、逆に周波数を上げれば、変化のピッチが小さくなって、より幅の広いシートに対し均一加熱の目的を満たすことができるが、この場合、マイクロ波装置の価格が大幅に上がってしまうという問題がある。
出願人は、その他に、関連する特許文献、非特許文献を知らない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、上記のような背景と要求のもとになされたものであり、マイクロ波によって均一加熱を達成する新しい手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載された発明においては、上記課題を解決するため、一つの空胴に特定の間隔をおいて設けた複数の結合孔から同相、同大の信号を印加する手段を採用する。
【0005】
請求項2に記載された発明においては、簡潔な方法で、同相、同大のマイクロ波を結合する手段を提供する。
【0006】
請求項3に記載された発明においては、マイクロ波の結合孔に複数のスロットを用いて、空胴内に均一電界を発生する手段を提供する。
【0007】
請求項4に記載された発明においては、不要なマイクロ波の抑制に対する補助的手段を提供する。
【0008】
請求項5に記載された発明においては、昇温の大きい部分を冷却して、より均一な温度分布を得る補助的手段を提供する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1および2に記載された発明においては、幅の広いシートの均一加熱に適する均一電界を空胴に発生できる効果を有する。
【0010】
請求項3に記載された発明においては、均一な大きさの磁界で空胴にマイクロ波を結合し、これによって均一加熱に適する電界を発生する効果を有する。
【0011】
請求項4に記載された発明においては、不要なモードの発生を抑える効果を有する。
【0012】
請求項5に記載された発明においては、より昇温している部分の温度を下げ、いっそう均熱性を高める効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図面を参照してこの発明の一実施形態を説明する。図1は本発明の加熱装置の基本構造を示す概略的斜視図、図2はマイクロ波を2の整数倍の数に分岐する分岐導波管系の構成図、図3は磁界によって空胴に均一電界を発生する結合孔の構造を示す加熱装置の概略的平面図、図4は本発明による均一加熱効果を示す計算結果を示すグラフ、図5はマイクロ波の不要モードの発生を抑える機構を示す加熱装置の概略的斜視図である。
【0014】
図1において、1は直方体状の共振空胴、2はこの空胴内を通過する際に空胴内の電界によって加熱されるシート、3a、3b、3c、3dは、それぞれ空胴1に同相、同大のマイクロ波を結合する導波管である。一般には結合の数は2の整数倍であるが、以下、特に、結合が4ヶ所から行われている例を取り上げて説明する。この形態のマイクロ波加熱装置のシート通過孔7は、共振空胴1の中心あるいは若干、偏芯した位置に、空胴の長手方向に伸びるように設けられる。空胴に印加されるマイクロ波は、マイクロ波電源(図示せず)や分岐導波管系につながる導波管3a、3b、3c、3dを介して図において上方から励起される。これらの同相、同大のマイクロ波は、特にシートのマイクロ波損失がゼロか十分低いときは、空胴内にTM110モード(一般にはTMmn0モード、m、nは整数)を発生する。
【0015】
図2において、4はマイクロ波源、5a、5b、5cはE分岐である。このE分岐によりマイクロ波は順次、逆相、同大に分岐され結合部の導波管3a、3b、3c、3dを介して共振空胴1にそれぞれ、同相、同大のマイクロ波を励起する(一般に分岐数は2N個、Nは整数)。最初の分波器5aとマイクロ波源4の間には、マイクロ波源から順に、アイソレータ、入反射電力モニタ、整合器が接続される(図示せず)。また必要に応じて、これらのデバイスの間に接続用の導波管、ベンド類が挿入される。すなわち最初の分波器5a以降で、必要に応じ直線状、又は曲がった導波管を挿入しても良いが、その場合でも対称性を損じないように配慮して系が構成される。分波器は通常、E分岐であるが、その変形も使用できる。
【0016】
図3において、6a、6b、6c、6dは、空胴1に形成された結合スロットを示している。この結合スロットの位置は空胴を長手方向に4分割した空胴部分のほぼ中心に対称的に設けられている。導波管3a、3b、3c、3dを伝わってきたマイクロ波が、このスロット6a、6b、6c、6dによって、空胴1内に、空胴の長手方向(z軸方向)に対し直角な方向(x方向)の磁界を発生する。この磁界によって、シートのマイクロ波損失が小さいときは、TM110 モードの電磁界が空胴1内に発生する。このTM110モードの電磁界は、電界がz方向に向かい、x成分とy成分はゼロで、磁界は電界と直角になっている。また電界の強さはx方向およびy方向に対して正弦波状に変化し、各側壁面でゼロ、中心で最大になる。z方向に対しては、空胴自身に損失がなく、シート状被加熱物が無損失の場合はまったく変化せず一定である。シート状被加熱物のマイクロ波損失が大きい場合、マイクロ波の結合点付近で電界が最大となり、この点から離れるにつれ電界の強度が少し低下する。図3に示した本発明の実施例では、同相、同大の磁界で4ヶ所から空胴にマイクロ波を励起しているので、4ヶ所の結合点付近で極大となるが、結合点を離れても、それほど電界が弱くならず、したがって大部分の領域にわたって、ほぼ大きさが一定の電界分布を得ることができる。
【0017】
図4は結合孔の数が2の場合の本発明の効果を示す図である。この図を求めるために使用したシートの誘電率は6、tanδは0.25、シート厚は1mmである。この3つの量の積は1.5mmで、シート加熱を要求される試料の中ではかなり大きい値になっている。言うまでもなく、この量が大きいほどマイクロ波損失が大きく、その結果、結合点から離れるにつれて電界が弱くなって、均一加熱ができなくなる。例えば、この値の損失を持つシートをz方向の長さが540mmの空胴を用いて加熱する場合、空胴の中心にマイクロ波を結合するが、この場合、空胴の中心を通る位置にシートを挿入すると、z方向の端部では電界が中心部のおよそ45%に減衰してしまう。これを救うために、シートを偏芯した位置に挿入する手段をとるが、その場合でも、空胴長が長くなると、均一加熱が困難になる。図4に電界の分布特性を示す装置においては、空胴1の長さを2mとする。このような長い空胴では、偏芯挿入でも、1ヶ所からの結合で均一加熱の目的を達成することは不可能である。
本発明では、同じ距離だけ離れた複数の位置から同相、同大のマイクロ波を結合する。結合孔の間隔は空胴の長さを結合孔の数で割った長さにほぼ等しくなっており、空胴端部に最も近い結合孔は空胴端部から前記結合孔間隔のほぼ半分の距離だけ離れていて、全体として結合孔が対称的になるように配置されている。これにより、マイクロ波加熱の均一性が大幅に向上して、上記のパラメータに対し電界の偏差を±4%以下に抑えることに成功している。
【0018】
本発明によれば、比誘電率とtanδとシート厚の積が小さい場合の幅広シートでは、均一加熱がさらに容易になる。例えば、厚さ2mmのアクリル板でこの値は0.25であり、水性インキのベタ塗り印刷の場合でも0.1mm程度である。この値が小さくなるほど電界の均一性が増してくるので、中心挿入であっても均一加熱の要求を満たすことができるようになる。図4に示した本発明の実施例では、2ヶ所からの結合を取り上げたが、例えば4ヶ所あるいは8ヶ所にすれば、さらに均一性が上がり、幅広のシート加熱が可能になることは言うまでもない。また、空胴の長さがより短くなると電界の偏差もそれだけ小さくできるので、さらに均一加熱の目的を達成しやすくなる。シートの昇温は電界の自乗にほぼ比例する。上記の数値例では、温度偏差は±8%程度で、決して十分、小さいというわけではないが、上記のような条件を考慮すると、通常、十分に均一加熱の目的に合致する。
【0019】
アクリルやPVC等の誘電体は温度が上がると、さらにマイクロ波を吸収するようになる。したがって、わずかな温度差があると、温度差がさらに拡大される傾向を持っている。そこで、この場合は、特に温度が上がる結合部付近に冷風を吹き付ける等の補助手段を採用する。マイクロ波によって水性インキを乾燥させる場合は、溶剤が加熱によって蒸散し、その部分の加熱が減るので、多少の温度差があってもそれが相殺される利点を持つ。薄膜の焼結のような場合は、温度が高い部分の輻射による熱放散が大きくなるので、同様に温度差を縮める効果が生まれる。
【0020】
シート幅が大きくなって空胴長が大きくなると、TM110およびz方向の高次モードTM111、TM112、TM113、・・・間の共振周波数の差が小さくなり、モード競合が起きやすくなる。しかしながら、同相、同大の結合の要求を乱さないように配慮すれば、特に致命的な問題を生じない。例えば、2分岐の場合、結合の対称性からTM111、TM112は結合しない。上記要件を満たしてなお発生する可能性がある高次モードはTM114 、TM118、・・・等であるが、周波数差が次数が上がった分だけ大きくなるので問題にはならない上、分岐の数を増して例えば4分岐にすると結合の対称性からTM114モードの発生自体を阻止できるようになる。
【0021】
他の不要モードとしてはTEモードがある。このモードは、空胴1の側面に設けたシート挿通孔7により電流がカットされるため、基本的には阻止されている。さらに阻止対策が望まれる場合は、空胴1の側面、上下面に、図5に示すようなスロット8a、8b、8c、・・・を補助的に設けても良い。TM110モードの壁面電流は、スロットと平行に流れているので、スロットの幅や空胴壁の厚さが適切に設計されている限り、TM110 モード自身に影響を与えず、このスロットからの電波漏れも殆ど生じない。同様に、シート挿通孔7からの電波漏洩も殆どない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明は、空胴に複数個のスロットを用いて磁界結合することによって、空胴内に挿入する幅の広いシートにマイクロ波損失がある場合でも、当該を均一に加熱でき、産業上広い範囲の応用展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の加熱装置の基本構造を示す概略的斜視図である。
【図2】マイクロ波を2の整数倍に分岐する分岐導波管系の構成図である。
【図3】磁界によって空胴に均一電界を発生する結合孔の構造を示す加熱装置の概略的平面図である。
【図4】この発明の実施形態に係る均一加熱効果の計算結果を示すグラフである。
【図5】マイクロ波の不要モードの発生を抑える機構を示す加熱装置の概略的斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
1 共振空胴
2 被加熱シート
3 結合導波管
4 マイクロ波源
5 分波器
6 結合スロット
7 シート挿通孔
8 不要モード抑制スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3つの仮想平面にほぼ平行な合計6つの側壁からなるほぼ直方体状のマイクロ波共振空胴と、前記3つの平面のうちの一平面にほぼ平行に前記マイクロ波共振空胴内を通過してシート状被加熱物を移動させる移動手段とを具備し、このシート面に平行な一対の空胴壁の片方または両方に設けられた複数の結合孔に、マイクロ波を結合することにより空胴内に電磁界を励起して前記シートを加熱するマイクロ波加熱装置において、
前記共振空胴のシートの幅方向の長さを前記結合孔の数で割った長さにほぼ等しい間隔を持つように前記共振空胴に対して対称的に結合孔を配設し、この結合孔に、互いに位相がほぼ同じで大きさもほぼ等しいマイクロ波を結合することを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
単一のマイクロ波発振器の出力を順次2分割し、2の整数倍だけ分岐することにより得られたほぼ同相、同大のマイクロ波のそれぞれを前記結合孔に結合したことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記結合孔がシートの移動方向と直角の方向に対して長手方向を有するスロットであることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記空胴の長手方向の壁面に、シート挿通孔以外に、長手方向と平行にスロットを設けたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記空胴における電磁波を結合する導波管の接続部付近に、被加熱シートを部分的に冷却するための冷却機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−134621(P2006−134621A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320128(P2004−320128)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(592030827)東京電子株式会社 (2)
【Fターム(参考)】