説明

マイクロ波反応場用複合触媒及びその製造方法、並びに同触媒を用いてエステルを製造する方法

【課題】量産性に優れた固体酸触媒を提供することと、固体酸触媒を用いて量産性に優れたエステル製造方法を提供する。
【解決手段】官能基と、物質輸送に適した細孔構造を有し且つマイクロ波を吸収する炭素構造体とを備えることを特徴とするマイクロ波反応場用複合触媒であって、前記細孔構造が、メソ孔を多数有するものであって、10m2/g以上2000m2/g以下の全細孔表面積と、全細孔表面積に対して10%以上100%以下のメソ孔面積とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波反応場用複合触媒及びその製造方法、並びに同触媒を用いてエステル化合物を製造する方法に関する。このエステル化触媒は、バイオディーゼル燃料の製造に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸をアルコールでエステル化する方法などによって得られる脂肪酸エステルは、ディーゼル機関の燃料として期待されている。エステル化反応では原料を加熱する必要があり、加熱手段として、外部加熱に比べて反応時間を短縮できることなどからマイクロ波照射が提案されている(特許文献1)。外部加熱が,基質と反応剤に熱伝導というかたちで熱エネルギーを伝達するのに対し,マイクロ波加熱はこれらの分子に直接的にエネルギーを授受し、より短時間、低温度で反応を進行させることが可能だからである。
【0003】
また、触媒としては硫酸などに代表される均一系触媒が比較的高い反応性を示す一方で、反応後の中和過程や塩の除去過程を必要とするのに対し、反応後に中和過程や塩の除去過程を要せず、回収もしやすくて地球環境を害さない固体酸触媒が良いとされ、スルホン酸官能性を有するイオン交換樹脂が例示されている(特許文献1、2)。固体酸触媒としては、スルホ基が導入された無定形炭素も提案されている(特許文献3)。スルホ基が導入されたこの無定形炭素は、ナフタレンなどの芳香族有機化合物を多量の硫酸とともに15時間も加熱し、過剰の硫酸を減圧蒸留で除去することによって、製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−151923
【特許文献2】特開2006−315991
【特許文献3】国際公開2005−29508
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スルホン酸官能性を有するイオン交換樹脂は、合成困難でコストが高いため量産に適さない。また、スルホ基が導入された無定形炭素も15時間も加熱する必要があることから、コストが高い。いずれにしても、固体酸触媒を用いた場合のエステル化率に影響を及ぼす要因について、未だ解明されていない部分が多く残されている。
それ故、この発明の課題は、量産性に優れた固体酸触媒を提供することと、固体酸触媒を用いて量産性に優れたエステル製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その課題を解決するために、この発明のマイクロ波反応場用複合触媒は、
官能基と、物質輸送に適した細孔構造を有し且つマイクロ波を吸収する炭素構造体とを備えることを特徴とする。
この発明の複合触媒は、細孔構造を有し且つマイクロ波を吸収する炭素構造体を備えるので、これにマイクロ波を照射すると炭素構造体が容易にマイクロ波を吸収して発熱する。このため、官能基の周囲の原料が短時間で高温に熱せられて、触媒との界面上で速く反応する。
【0007】
官能基が、スルホ基またはスルホ誘導基であって前記炭素構造体に化学的に結合されているものであれば、エステル化反応後に中和過程が簡略化される。炭素構造体としては、多孔質構造、ナノチューブ構造またはグラファイト構造を有する炭素材料が挙げられる。
この複合触媒は、このような炭素構造体と硫酸及び発煙硫酸のうち一種以上との混合物を20℃以上200℃以下の温度で加熱することによって製造される。この場合の加熱手段もマイクロ波照射が利用できる。従って、減圧装置などの大がかりな設備が無くても短時間で効率よく製造することができる。
前記混合物のpHを5以下、好ましくは4以下に調整した後に前記加熱を行うと、エステル化率が特に高くなる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、この発明の複合触媒は、短時間で効率よく製造することができるので、それ自体の量産性に優れる。そして、この触媒によれば、エステル化反応後に中和過程を要しないうえ、短時間で反応系が加熱されるので、エステルの量産性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】各種炭素材料へのマイクロ波照射時間と温度上昇との関係を示すグラフである。
【図2】活性炭の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】二種類の活性炭の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図4】図3のグラフから計算したマイクロ孔分布と、メソ孔分布を示すグラフである。
【図5】複合触媒(エステル化触媒)の酸性度とエステル化率との関係を示すグラフである。
【図6】複合触媒製造過程のおける混合物のpHとエステル化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
炭素材料としては、図1に示すように活性炭(グラファイト)も炭素ナノチューブもマイクロ波吸収能に優れるので、いずれも適用可能である。フラーレンはマイクロ波吸収能が乏しいので不適である。触媒製造のための硫酸は、濃硫酸、発煙硫酸、これらの混合物のいずれも適用可能である。前記触媒製造方法において用いられる硫酸は、これらの全てを含む広義に解される。
前記官能基は、好ましくは複合触媒全体に対して0.1〜50重量%の量で含まれている。0.1重量%に満たないと効果に乏しく、50重量%を超える量で複合触媒中に含ませるのは困難だからである。
物質輸送に適した前記細孔構造としては、孔径2nm以上50nm以下の多数のメソ孔を有するものであるか、または100m2/g以上2000m2/g以下の全細孔表面積と、全細孔表面積に対して10%以上100%以下のメソ孔面積とを有するものが好ましい。メソ孔の比率の高い程、反応基質が触媒内を移動しやすく、触媒活性に富むからである。
【実施例】
【0011】
[触媒のスルホン化]
活性炭(キシダ化学株式会社製48−250mesh)2gと濃硫酸140mLとを混合し、混合物に2.45GHzのマイクロ波を照射することによって、混合物の温度を7分で150℃まで上昇させ、その温度で30分間保持した。放冷後、混合物をろ過し、ろ物を炭酸水素ナトリウム水、0.1M塩酸及び水で各々洗浄し、乾燥させることによって、触媒を製造した。
【0012】
得られた触媒100mgを0.1M水酸化ナトリウム水溶液10mLに溶かし、0.1M塩酸で中和滴定することにより、触媒の酸性度を求めたところ、1であった。この触媒と元の活性炭の赤外吸収(IR)スペクトルを観察したところ、図2に示すように触媒のスペクトルのみ1154cm-1及び1023cm-1の波長で吸収率の増加が認められた。これらの吸収は、スルホン酸塩の吸収1175cm-1及び1055cm-1にほぼ一致することから、触媒においては活性炭がスルホン化されているといえる。
【0013】
[触媒の調製] 細孔分布の異なる2種類の市販の活性炭a、bを重量比で約18倍の濃硫酸中に添加し、室温で1時間攪拌した後、60℃に加熱した発煙硫酸を加えた。パラフィルムで蓋をして混合物を25min攪拌した後、冷却し、蒸留水を加えて全量を1Lにした。その後混合物をろ過した。ろ液のpHを測定し、pHが中性域に入るまで蒸留水による洗浄を繰り返した。洗浄後、100℃真空中で3時間乾燥することにより固体触媒A、Bを得た。前記[触媒のスルホン化]で得られた触媒と同様にIRスペクトルで観察したところ、固体触媒A、Bもスルホン化されていた。
【0014】
[細孔分布の解析]
エステル化反応に先立ち、窒素吸着法による活性炭a、bの細孔表面積・細孔分布解析を行った。図3に二種類の活性炭の窒素吸着等温線を示す。表1に図3の結果から求めた細孔全表面積とメソ孔面積を示す。なお、細孔全表面積はBET法、メソ孔面積はDH法により求めた。
【0015】
【表1】

【0016】
解析の結果、細孔の全表面積は、活性炭aと活性炭bで殆ど同じであるのに対し、メソ孔面積は大きく異なっていることがわかる。実験に供した活性炭の全表面積に占めるメソ孔比率は、活性炭bが活性炭aの約13倍であった。活性炭の細孔構造は、幾つかの要因によって決定されることがわかっているが、主に焼成温度の影響によってグラファイト層の構成単位が成長し、マイクロ孔比率が大きくなっていくことが報告されている。
【0017】
図4に図3の結果から計算したマイクロ孔分布と、メソ孔分布を示す。なお、マイクロ孔分布はMP法(R.S.Mikhail, S.Brunauer, E.E.Bondor, J.colloid Interface Sci., 26, 49(1968))、メソ孔分布はDH法(D.Dollimore, G.R.Heal, J.Colloid Interface Sci., 33, 508(1970))を使用して解析した。こちらの解析結果からも活性炭bの細孔がより大きな孔径に分布していることがわかる。
【0018】
[エステル製造]
下記反応式に示すとおり、オレイン酸とメタノールのエステル化反応を以下の手順で行った。
【0019】
【化1】

【0020】
得られた触媒AまたはB1.2g、オレイン酸42.5g、メタノール5.2g(1.2当量)を反応容器に入れ、マイクロ波を照射することによって、90℃まで温度を上昇させ、マグネットスターラーで撹拌しながらその温度で10分間保持した。生成物を高速液体クロマトグラフィーで分析することにより、メチルエステル収率を求めた。マイクロ波照射前の反応物のpHは3.2であった。収率を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2に示されるように、メソ孔比率の違う活性炭を使用した場合で収率に約10%の差が認められた。この結果に寄与する要因として、以下の3点が考えられる。
(1)活性炭bを担体に使用した系が活性炭aの系に比べ、基質の物質輸送に優れるメソ孔の寄与により、基質及びプロトンの輸送速度がより高められた。
(2)基質及び反応剤が活性炭内表面の官能基にアクセスする際、物質の輸送経路はメソ孔内部における表面拡散と細孔内拡散の二つが考えられるが、細孔内表面上を移動する表面拡散は拡散速度が温度に依存するため、マイクロ波の照射により効率的に拡散が促進された。
(3)酸性度においても活性炭bが活性炭aの約2倍の値を示したことから、スルホン基を中心とする酸性官能基が活性炭bの方がより効率的に導入された。
【0023】
[エステル化条件の最適化]
触媒製造における活性炭と濃硫酸との比率、及び触媒、オレイン酸及びメタノールの投入量を種々異ならせて、触媒の酸性度、又は触媒製造過程における活性炭と硫酸との混合物のpHとエステル化率との関係を調べた結果を図5及び図6に示す。図に示すように酸性度とエステル化率との間には相関が認められなかったが、混合物のpHとエステル化率との間には認められた。尚、触媒の酸性度及び混合物のpHは、混合物10mgを2mLの水に溶かしたときの値とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基と、物質輸送に適した細孔構造を有し且つマイクロ波を吸収する炭素構造体とを備えることを特徴とするマイクロ波反応場用複合触媒。
【請求項2】
前記官能基が、スルホ基またはスルホ誘導基であって前記炭素構造体に化学的に結合されている請求項1に記載の複合触媒。
【請求項3】
前記官能基が、0.1〜50重量%の量で含まれている請求項1または2に記載の複合触媒。
【請求項4】
前記炭素構造体が、多孔質構造、ナノチューブ構造またはグラファイト構造を有する炭素材料である請求項1〜3のいずれかに記載の複合触媒。
【請求項5】
物質輸送に適した前記細孔構造が、孔径2nm以上50nm以下のメソ孔を多数有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の複合触媒。
【請求項6】
物質輸送に適した前記細孔構造が、メソ孔を多数有するものであって、10m2/g以上2000m2/g以下の全細孔表面積と、全細孔表面積に対して10%以上100%以下のメソ孔面積とを有する請求項1〜4のいずれかに記載の複合触媒。
【請求項7】
物質輸送に適した細孔構造を有し且つマイクロ波を吸収する炭素構造体と、硫酸及び発煙硫酸のうち一種以上との混合物を20℃以上200℃以下の温度で加熱することを特徴とするマイクロ波反応場用複合触媒の製造方法。
【請求項8】
前記加熱手段が、マイクロ波照射である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6の複合触媒の存在下で、脂肪酸とアルコールとを含む原料にマイクロ波を照射することを特徴とするエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
前記混合物のpHを5以下に調整した後に前記加熱を行う請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記エステル化合物がバイオディーゼル燃料である請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−212567(P2011−212567A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82227(P2010−82227)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(508067736)マイクロ波環境化学株式会社 (7)
【Fターム(参考)】