説明

マイクロ流体チップ

【課題】本発明は、接着剤を使用しないで接合でき、流路等の表面への機能物質の固定化が可能な、機能性に優れ安価で量産性の高い樹脂製のマイクロ流体チップを提供することを目的とする。
【解決手段】架橋性の硬化性樹脂からなり平坦な表面を有しその少なくとも一部にミクロな凹構造を有するマイクロ構造体に、熱可塑性樹脂が主たる成分である蓋体を接合したマイクロ流体チップであって、前記マイクロ構造体は、表面の少なくとも一部にカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つが結合していて、
前記蓋体は、表面の少なくとも一部にカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを含有する重合体が結合し結晶融解ピーク温度が140℃以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋体により上部が閉じられたマイクロ流路などからなるマイクロ流体チップに関し、特に接着剤を用いることなく蓋体をマイクロ構造体に接合でき、マイクロ流路などに抗体、酵素などの機能分子を固定化することもできるマイクロチップに係る。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体チップは、微量な液体や懸濁液などを混合、反応、分離したりする機能を有することが可能であり、それにより小さなチップ上で分析、検査、合成などを実施できるため、医療、環境、食品などの様々な分野で高度な応用が期待され、開発が進んでいる。
従来、このような高機能なマイクロ流体チップはシリコンやガラスにより開発されてきたが、近年、コストダウンや量産のために樹脂化が進められている。
樹脂よるマイクロ流体チップの開発では、これまでに微細構造成形、蓋体の接合などが主な課題として取り組まれてきている。
さらにチップへの機能付与のために、流路等の表面への機能物質の固定化についても検討されている。
樹脂の微細構造成形については、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン樹脂、プロピレン樹脂などで一部可能になっているが、さらにそれに蓋体を接合してマイクロチップとするための技術は現状では十分とは言えない。
このような接合においては、接着剤や接着プライマーのような塗布により層を形成するものはマイクロ流路のような微細構造を埋めてしまい、従来の接着手法を使用できないことが接合を困難にしている主要な原因の一つとなっている。
本発明者らは、先に接着剤を用いない密着接合性構造体を提案しているが、本発明はマイクロ構造体に架橋性の硬化性樹脂を用いることでさらに改良を図ったものである(特許文献1)。
流路等の表面への機能物質の固定化については、前記のような微細構造成形に用いられる市販樹脂では表面が不活性なため、一般に選択的に機能物質を固定化することは困難である。
樹脂表面の疎水性を利用して疎水性の機能物質を吸着により固定化できる場合はあるものの、このような表面には不必要な物質まで吸着するためチップ性能を低下させるなどの問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−181740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、接着剤を使用しないで接合でき、流路等の表面への機能性分子の固定化が可能な、機能性に優れ安価で量産性の高い樹脂製のマイクロ流体チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のマイクロ流体チップは、架橋性の硬化性樹脂からなり平坦な表面を有しその少なくとも一部にミクロな凹構造を有するマイクロ構造体に、熱可塑性樹脂が主たる成分である蓋体を接合したマイクロ流体チップであって、前記マイクロ構造体は、表面の少なくとも一部にカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つが結合していて、
前記蓋体は、表面の少なくとも一部にカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを含有する重合体が結合し結晶融解ピーク温度が140℃以上であることを特徴とする。
前記マイクロ構造体を架橋性の硬化性樹脂としたのは、該構造体を光硬化などの高速な成形方法により低コスト、高量産性で製造するとともに、熱による塑性変形性を低減する、またはなくすためである。
前記マイクロ構造体のミクロな凹構造の寸法としては、マイクロ流体チップとして微少流体を取り扱うことを考慮すると、開口部の接円直径が1〜200μm、深さが1〜200μmの範囲にあるのが好ましい。
また前記マイクロ構造体の表面の少なくとも一部にカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つが結合するのは、これらの官能基を蓋体との接合や機能分子との結合に利用するためである。
前記蓋体の表面の少なくとも一部にはカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを含有する重合体が結合するのは、これらの官能基をマイクロ構造体との接合や機能分子との結合に利用するためである。
また前記蓋体が、結晶融解ピーク温度が140℃以上である熱可塑性樹脂が主たる成分であることは、該蓋体を前記マイクロ構造体と接合することに関係する。
このような接合は、マイクロ構造体表面の官能基および蓋体表面の官能基を100〜130℃程度の高温で、直接または各々の官能基と反応する架橋剤で結合させることにより行うため、反応温度で蓋体が変形しないようにその結晶融解ピーク温度は140℃以上であるのが好ましい。
マイクロ構造体および蓋体を直接接合するにあたっては、各々の表面の官能基の組み合わせとして、少なくともエポキシ基/カルボキシル基の組み合わせが含まれるように選択すると、反応性の点から好ましい。
マイクロ構造体および蓋体を、架橋剤を用いて接合するにあたっては、多官能性のアミンなどエポキシ基、カルボキシル基の両方と反応する化合物を用い、先にマイクロ構造体または蓋体の官能基と反応させた後に、もう一方の官能基と反応させることにより接合することができる。
またマイクロ構造体および蓋体が同じ官能基を有する場合は、エポキシ基に対しては多官能性のカルボン酸、カルボキシル基に対しては多官能性のエポキシ化合物を架橋剤として用いて前記同様に接合してもよい。
本発明に係るマイクロ構造体の架橋性の硬化性樹脂は、重合体Aと重合体Bとを主たる成分とする重合体組成物であり、重合体Aは、1個の重合性二重結合を有することでフリーラジカル重合により重合する性質を有し、カルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを有する単量体Zと、当該単量体Zと混合した時に均一な液体となり1個の重合性二重結合を有することでフリーラジカル重合により重合する性質を有し単量体Zを含まない単量体Xと、当該単量体Xと混合した時に均一な液体となり2個以上の重合性二重結合を有することでフリーラジカル重合により重合する性質を有する単量体Yとからなり、
前記(単量体X+単量体Z)の合計と単量体Yの質量比が90/10〜55/45の範囲にあり、重合体Bは、単量体Xと単量体Yと単量体Zとの混合液体に溶解またはコロイド状に分散する性質を有することが好ましい。
単量体Zは、1個の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合し、カルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを有するものであれば特に限定はない。
このような単量体の例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ビニルシクロヘキサンモノエポキサイド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸、ケイ皮酸、こはく酸(2−アクリロイルオキシエチル)、こはく酸(2−メタクリロイルオキシエチル)などが挙げられる。
単量体Xは、単量体Zと均一に混合し、1個の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合する単量体Zを含まないモノマーであれば特に制限は無く、ビニルモノマー類、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類などを使用することができる。
単量体Xは、微細構造体を製造する際の生産性を高める観点からは重合速度が速いことが好ましく、このような単量体としては(メタ)アクリロイル基の化学構造を有する単量体が好ましい。
また単量体Xは、自家蛍光が小さいものが好ましく、その点で芳香族化合物でないものが好ましい。
以上のような単量体Xとしては、アルキル基、シクロアルキル基がエステル部分に結合した(メタ)アクリレートが挙げられる。
このような単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ノニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ノニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。
単量体Yは、単量体Xと混合したした時に均一な液体となり2個以上の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合するモノマーであれば特に制限は無いが、蛍光の観点からは芳香族化合物でないものが好ましい。
このような単量体Yの例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,10−デカンジオール、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
単量体X,Y及びZの割合において、(単量体X+単量体Z)と単量体Yとの重量比を90/10〜55/45の範囲に設定したのは、単量体Yが架橋剤として作用することで成形後の型への粘着性を抑えることで離型性を改善したものであり、また逆に単量体Yが多くなり過ぎても樹脂の弾性が失われ離型性が低下するから上記の範囲に設定した。
また、単量体Xと単量体Zの割合は、単量体Xと単量体Zの重量比を97/3〜60/40の範囲に設定するのが好ましい。
マイクロ構造体表面の官能基は単量体Zにより導入されるので、表面の反応性のためには単量体Zが多いほうが好ましいが、単量体Zが多くなりすぎると樹脂の弾性低下や粘接着性の増大から離型性が低下するので、単量体Zの含有量を前記範囲とした。
本発明に係るマイクロ構造体に弾性をある程度付与し、離型性を向上させるには単量体Xは、それを重合した重合体のガラス転移温度が20℃以下であるようにしてもよい
重合体Bは、重合体Bは、単量体X,Y及びZの混合液体に溶解またはコロイド状に分散する重合体であれば特に制限はなく、ポリ(メタ)アクリレート類、ビニル系ポリマー類、ジエン系ポリマー類、縮合系ポリマー類等が使用できる。
また重合体Bは、コア・シェル型の高分子微粒子としてもよい。
重合体Bをコア・シェル型の高分子微粒子とした場合には、本発明に係る微細構造体を単量体X,Y及びZの混合物に重合体Bを溶解又は分散させ、光重合により硬化させる際に粘度の上昇が抑えられ取扱いが容易となる。
重合体Bのコア・シェル型高分子微粒子は、伸張した歪100%の状態における発生応力が100MPa以下であるのが好ましく、20MPa以下であるのがより好ましい。
前記のとおり微細構造体を構成する重合体組成物には、離型性を向上するために弾性を付与することが必要なため、重合体Bは柔軟であることが好ましい。
コア・シェル粒子の粒子径には特に制限が無いが、製造方法としては乳化重合を使用しやすいことを考慮すると、粒子径は0.01〜10μmの範囲にあるものが使用しやすい。
コア・シェル粒子のシェルに使用される高分子は特に制限は無いが、製造方法として乳化重合を使用しやすいことや蛍光の発生を考慮すると、ポリメチルメタクリレートのような(メタ)アクリレート重合体およびその共重合体、ポリ酢酸ビニルおよびその共重合体などが挙げられる。
コア・シェル粒子のコアに使用される高分子は特に制限は無いが、製造方法として乳化重合を使用しやすいことや蛍光の発生を考慮すると、ポリブチルアクリレートのような(メタ)アクリレート重合体およびその共重合体、ポリ酢酸ビニルおよびその共重合体などが挙げられる。
コア・シェル型の高分子微粒子は、形状を保持するために、少なくともコア部分が架橋されているのが好ましい。
これにより重合体Bは微細構造体を構成する重合体組成物の中で安定に分散相を形成し、柔軟な場合には弾性体として良好に機能することができる。
架橋を形成する単量体については特に制限が無く、ジビニルモノマー類、ジ(メタ)アクリレート類、アリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
本発明に係る蓋体の熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンおよび/またはプロピレンが主たる成分であるプロピレン共重合体である重合体Cと、炭化水素からなる非晶性または低結晶性であるエラストマーおよび/または該エラストマーブロックを含む共重合体からなるエラストマーDとからなることが好ましい。
重合体Cは、ポリプロピレンおよび/またはプロピレンが主たる成分であるプロピレン共重合体であれば特に限定されず、本発明に係る蓋体の熱可塑性樹脂に必要な結晶融解ピーク温度を達成するため好適なことや自家蛍光がほとんどないことから用いられる。
エラストマーDは、重合体Cとの相溶性の観点から、炭化水素からなる非晶性または低結晶性であるエラストマーが好ましい。
エラストマーDを構成する単量体は、エチレン、プロピレンなどのアルケン、炭化水素からなるジエンなどが挙げられるが、炭化水素から構成される単量体であれば特に限定されない。
またエラストマーDは、相溶性の観点からは炭化水素からなる非晶性または低結晶性であるエラストマーブロックを含むブロック共重合体、グラフト共重合体でもよい。
エラストマーDを重合体Cに混合することにより、蓋体の熱可塑性樹脂に求められる弾性率を達成したり、透明性を向上したりすることができる。
熱可塑性樹脂のエラストマーDは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Pと重合体Pおよび重合体Aに相溶しない重合体Qとからなるブロック共重合体および/またはグラフト共重合体でも良い。
重合体Pは、重合体CとエラストマーDの間の相溶性がより良好となるように選ばれた、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体が好ましい。
重合体Pに使用される共役ジエンはブタジエン、イソプレンが好ましく、重合体Pにシス−1,4結合以外の1,2結合など(イソプレンでは3,4結合を含む)を水素添加した構造が含まれると、重合体CとエラストマーDの相溶性の点からはより好ましい。
重合体CとエラストマーDの相溶性が良好であることは、重合体CとエラストマーDとを混合して得られる組成物の透明性が、重合体C単体の透明性よりも優れることなどから判断できる。
重合体Qは、エラストマーDの溶融粘度を調整して重合体CとエラストマーDの溶融混練を容易にしたり、エラストマーDのハンドリング性を良くしたりする点から、重合体Pと共重合される。
重合体Qの種類は特に限定されないが、重合や入手のしやすさからはポリスチレンなどのビニル芳香族ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリオレフィンなどが好ましい。
重合体Pと重合体Qの割合は、重合体Cとの相溶性、非晶や低結晶ポリマーによるグラフト反応性向上の点からは重合体Pが多いほうが好ましいが、重合体Pが多すぎると重合体CとエラストマーDの溶融混練が困難になったり、エラストマーDに粘着性が発現したりするので、エラストマーDにおける重合体Pの割合は40〜95重量%の範囲にあるのが好ましい。
本発明に係る蓋体の表面の少なくとも一部に結合したカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを含有する重合体としては、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、ポリメタクリル酸、メタクリル酸共重合体、こはく酸(2−アクリロイルオキシエチル)重合体、こはく酸(2−アクリロイルオキシエチル)共重合体、ポリグリシジルアクリレート、グリシジルアクリレート共重合体、ポリグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート共重合体などを使用することができる。
蓋体に前記重合体を結合する方法としては、前記樹脂からなる蓋体の表面に光や熱などで重合開始するラジカル重合開始剤を付着させたのちに、光照射や加熱を行いながら単量体と接触させることにより、蓋体表面にグラフトポリマーを生成させる方法などを用いることができる。
本発明のマイクロ流体チップを構成するマイクロ流路、液だめなどの表面の少なくとも一部には、タンパク質、ポリペプチド、DNA、RNA、蛍光分子、キレート分子、クロミック分子のいずれか一つ以上を固定化してもよい。
固定化は、マイクロ流路、液だめなどの表面に結合した官能基と前記分子の官能基とを反応させることにより実施できる。
タンパク質としては酵素、抗体などが挙げられるが、特にこれらに限定されずチップに求める機能に応じて自由に使用できる。
タンパク質の固定化は、アミノ基を有するタンパク質の場合にはチップ側に結合した官能基としてエポキシ基を選択すれば直接反応させることができ、またカルボキシル基を選択すればカルボジイミド類などで活性エステルとしたうえで反応させることができる。
またカルボキシル基の場合は、コハク酸イミドエステル構造に変換して、アミノ基と直接反応させることもできる。
本発明のマイクロ流体チップは、ガラス、プラスチック、金属のいずれかからなる基板にマイクロ流体チップを接合した基板付マイクロ流体チップとしてもよい。
基板付マイクロ流体チップとすることにより、チップを検出装置などに容易に搭載できるようになるなどの効果がある。
本発明のマイクロ流体チップ、基板付マイクロ流体チップのうち、いずれかを用い、細胞スクリーニングチップとして好適に使用できる。
本発明のマイクロ流体チップ、基板付マイクロ流体チップのうち、いずれかを用い、分析化学チップとして好適に使用できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のマイクロ流体チップは、表面にカルボキシル基、エポキシ基などが結合したミクロな凹構造を有するマイクロ構造体と、表面にカルボキシル基、エポキシ基などを含有する重合体が結合した蓋体からなるため、加熱などによりミクロな構造を損なうことなく製造することができる。
また本発明のマイクロ流体チップは、前記マイクロ構造体表面の官能基や蓋体表面の官能基を利用することにより、タンパク質、ポリペプチド、DNA、RNA、蛍光分子、キレート分子、クロミック分子などをマイクロ流路表面に固定化できるため、高機能なチップとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係るマイクロ流体チップを用いた送液試験器の外観を示す。
【図2】流路の蛍光顕微鏡写真を示す。
【図3】流路に抗体が固定化された蛍光顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係るマイクロ構造体の作製の原材料として、和光純薬製のn−ブチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸グリシジル、東京化成工業製のこはく酸(2−アクリロイルオキシエチル)、日本油脂製のブレンマーPDE−100(ジエチレングリコールジメタクリレート)、クラレ製のパラペットSA−NW201(コア・シェル型高分子微粒子)を使用した。
比較例のマイクロ構造体の作製の原材料として、日本油脂製のブレンマーE(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)を使用した
光重合開始剤として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製の光重合開始剤 Ciba DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)を使用した。
本発明に係る蓋体の作製の原材料として、出光石油化学株式製のJ−3021GR(プロピレン共重合体、クラレ製のハイブラー7311S(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体を水素添加した重合体で、スチレン含有量が12%)を用いた。
J−3021GRとハイブラー7311Sとを5/5(重量比)で配合し、200℃で溶融混練してペレットを作製し(ペレットを示差走査熱量計により測定した結晶融解ピーク温度は148.0℃)、そのペレットを熱プレスにより厚さ1mmのシートに成形した。
ハンドプレスによりシートから15mm角のパーツを打ち抜き、実施例1のマイクロ構造体の溝端と位置が合うように、スクリュウポンチで直径1mmの穴をあけて蓋体用パーツとした。
【実施例1】
【0009】
40重量部のアクリル酸、40重量部のn−ブチルアクリレート、40重量部のブレンマーPDE−100、20部重量のパラペットSA−NW201をガラス製サンプル管に量り取って混合したのち、重合体が溶解して均一に分散するまで室温の暗所で攪拌し、光硬化性樹脂を用意した。
光硬化性樹脂にCiba DAROCUR 1173を2部加えて撹拌、減圧脱泡したのち、鋳型(シリコン基板をドライエッチングして作製したもので、図中の上面に高さ50μm、長さ10mmで幅10、30、50、100μmの4個の直線状凸構造が3mm間隔で平行に並んだ構造を有する)の上に前記の光硬化性樹脂を置き、さらにその上からガラスプレート(使用直前まで信越化学工業製のLS−2940(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)に12時間以上浸漬した)をのせて光硬化性樹脂が鋳型上面全体に広がるようにした。
このようにして用意した鋳型、光硬化性樹脂、ガラスプレートを窒素雰囲気中におき、スライドガラス上面からの高さが2cmのところに紫外線ランプ(アズワン株式会社製 LUV−16、22W)を置いて30分間紫外線照射したのちに鋳型を外して、ガラスプレート上にマイクロ構造体を作製した。
【実施例2】
【0010】
40部のアクリル酸の代わりに40部のこはく酸(2−アクリロイルオキシエチル)を用いる以外は実施例1と同様にし、マイクロ構造体を作製した。
【実施例3】
【0011】
40部のアクリル酸の代わりにメタクリル酸グリシジルを用いる以外は実施例1と同様にし、マイクロ構造体を作製した。
【0012】
(比較例1)
40部のアクリル酸の代わりに40部のn−ブチルアクリレートを用いる(すなわち80部のn−ブチルアクリレートを用いる)以外は実施例1と同様にし、マイクロ構造体を作製した。
【0013】
(比較例2)
40部のアクリル酸の代わりに40部のブレンマーEを用いる以外は実施例1と同様にし、マイクロ構造体を作製した。
【実施例4】
【0014】
前記の蓋体用パーツの表面をメタノールで洗浄して乾燥させ、Ciba DAROCUR 1173に24時間浸漬したのち、該パーツを取り出してメタノールで洗浄したのちに表面を乾燥させた。
このようにした蓋体用パーツを用い、その上にアクリル酸/蒸留水=10/90(重量比)のモノマー溶液を置き、さらにその上からスライドガラスを載せてモノマー溶液が蓋体用パーツ上面全体に広がるようにした。
このようにした蓋体用パーツ、モノマー溶液、スライドガラスに、スライドガラス上面からの高さが2cmのところに紫外線ランプ(LUV−16)を置いて、10分間紫外線照射した。
照射ののち蓋体用パーツを取り出し、メタノールで洗浄し乾燥して蓋体とした。
【実施例5】
【0015】
アクリル酸/蒸留水=10/90(重量比)のモノマー溶液の代わりにメタクリル酸グリシジルを用いる以外は実施例4と同様にし、蓋体を作製した。
【実施例6】
【0016】
厚さ3mmのガラス板上に実施例1のガラスプレート付きマイクロ構造体を溝がある面を上にして載せ、その上に実施例5の蓋体をポリマーグラフトした面を下にして載せ、マイクロ構造体の溝端部と蓋体の穴の位置が一致するように調整した。
さらに蓋体の上に厚さ3mmのガラス板を載せて、2枚のガラス板を挟み込むようにクリップで固定した。
このようにして固定したガラスプレート付きマイクロ構造体、蓋体、ガラス板2枚を、130℃にセットした恒温槽に入れて2時間放置したのちに取り出し、クリップ、ガラス板を外してマイクロ流体チップを得た。
マイクロ流体チップの溝の両端にある蓋体の穴に外径1mm、内径0.5mmのシリコーンチューブをそれぞれ差し込み、チューブと蓋体とをシリコーン接着剤で固定した(図1)のちに、シリコーンチューブの一方の端をマイクロシリンジポンプに接続して、送液試験した。
液体として蒸留水に0.01重量%の濃度でフルオレセインイソチオシアネート溶解した溶液を、0.4μL/minの流速で流しながら、蛍光顕微鏡観察した結果を図2に示す。
図2の左右方向に緑色蛍光で明るく見える部分が流路(幅および深さが50μm)であり、流路以外の部分には蛍光が認められないことは、流路からの漏れがないこと示しており、蓋体によりマイクロ構造体の溝がきちんと閉じられていることを確認した。
幅が、10、30、100μmの流路についても同様にして流路からの漏れがないことを確認した。
【実施例7】
【0017】
実施例1のガラスプレート付きマイクロ構造体の代わりに実施例2のガラスプレート付きマイクロ構造体を用いる他は実施例6と同様にして送液試験したところ、図2と同様な結果が得られ、蓋体によりマイクロ構造体の溝がきちんと閉じられていることを確認した。
【実施例8】
【0018】
実施例1のガラスプレート付きマイクロ構造体の代わりに実施例3のガラスプレート付きマイクロ構造体を用い、実施例5の蓋体の代わりに実施例4の蓋体を用いる他は実施例6と同様にして送液試験したところ、図2と同様な結果が得られ、蓋体によりマイクロ構造体の溝がきちんと閉じられていることを確認した。
【0019】
(比較例3)
実施例1のガラスプレート付きマイクロ構造体の代わりに比較例1のガラスプレート付きマイクロ構造体を用いる他は実施例6と同様にしてマイクロ流路を用意しようとしたところ、130℃の加熱の後にクリップ、ガラス板を外したときにマイクロ構造体から蓋体が外れてしまい、マイクロ流体チップを用意できなかった。
【0020】
(比較例4)
実施例1のガラスプレート付きマイクロ構造体の代わりに比較例2のガラスプレート付きマイクロ構造体を用いる他は実施例6と同様にしてマイクロ流路を用意しようとしたところ、130℃の加熱の後にクリップ、ガラス板を外したときにマイクロ構造体から蓋体が外れてしまい、マイクロ流体チップを用意できなかった。
【0021】
(比較例5)
実施例1のガラスプレート付きマイクロ構造体の代わりに比較例2のガラスプレート付きマイクロ構造体を用い、実施例5の蓋体の代わりに実施例4の蓋体を用いる他は実施例6と同様にしてマイクロ流路を用意しようとしたところ、130℃の加熱の後にクリップ、ガラス板を外したときにマイクロ構造体から蓋体が外れてしまい、マイクロ流体チップを用意できなかった。
【実施例9】
【0022】
実施例6で作製したシリコーンチューブを接続したマイクロ流体チップを用い、マイクロ流路への抗体の固定化を試みた。
1mlの蒸留水に、2μgの蛍光標識抗体(CEDARLANE製、Cy3 Goat F(ab’)2 Anti−Mouse IgG(H+L))、24mgの1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド メト−p−トルエンスルホナート(和光純薬工業製)を溶解した溶液をマイクロ流路に充填し2時間放置したあと、流路内部を蒸留水で洗浄して乾燥した。
得られたマイクロ流体チップを蛍光観察した結果を図3に示す。図3では流路に赤い蛍光発光が認められ、流路内部に蛍光標識抗体が固定化されたことを確認した。
【実施例10】
【0023】
実施例8で作製したシリコーンチューブを接続したマイクロ流体チップを用い、マイクロ流路への抗体の固定化を試みた。1mlの蒸留水に2μgの蛍光標識抗体(前記のCy3 Goat F(ab’)2 Anti−Mouse IgG(H+L))を溶解した溶液をマイクロ流路に充填し12時間放置したあと、流路内部を蒸留水で洗浄して乾燥した。得られたマイクロ流体チップを実施例9と同様に観察したところ、図3と同様に流路に赤い蛍光発光が認められ、流路内部に蛍光標識抗体が固定化されたことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性の硬化性樹脂からなり平坦な表面を有しその少なくとも一部にミクロな凹構造を有するマイクロ構造体に、熱可塑性樹脂が主たる成分である蓋体を接合したマイクロ流体チップであって、
前記マイクロ構造体は、表面の少なくとも一部にカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つが結合していて、
前記蓋体は、表面の少なくとも一部にカルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを含有する重合体が結合し結晶融解ピーク温度が140℃以上であることを特徴とするマイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記マイクロ構造体は、重合体Aと重合体Bとを主たる成分とする重合体組成物であり、
重合体Aは、1個の重合性二重結合を有することでフリーラジカル重合により重合する性質を有し、カルボキシル基、エポキシ基のうちの少なくとも1つを有する単量体Zと、
当該単量体Zと混合した時に均一な液体となり1個の重合性二重結合を有することでフリーラジカル重合により重合する性質を有し単量体Zを含まない単量体Xと、
当該単量体Xと混合した時に均一な液体となり2個以上の重合性二重結合を有することでフリーラジカル重合により重合する性質を有する単量体Yとからなり、
前記(単量体X+単量体Z)の合計と単量体Yの質量比が90/10〜55/45の範囲にあり、
重合体Bは、単量体Xと単量体Yと単量体Zとの混合液体に溶解またはコロイド状に分散する性質を有することを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記重合体Bは、コア・シェル型の高分子微粒子からなることを特徴とする請求項2記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
蓋体は、ポリプロピレンおよび/またはプロピレンが主たる成分であるプロピレン共重合体である重合体Cと、
炭化水素からなる非晶性または低結晶性であるエラストマーおよび/または該エラストマーブロックを含む共重合体からなるエラストマーDとからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記エラストマーDは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Pと、
重合体Pおよび重合体Cに相溶しない重合体Qとからなるブロック共重合体および/またはグラフト共重合体であることを特徴とする請求項4記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
マイクロ流体チップを構成するマイクロ流路、液だめなどの表面の少なくとも一部に、タンパク質、ポリペプチド、DNA、RNA、蛍光分子、キレート分子、クロミック分子のうち、いずれか一つ以上を固定化したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロ流体チップ
【請求項7】
ガラス、プラスチック、金属のうち、いずれかからなる基板に、請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロ流体チップを接合したことを特徴とする基板付マイクロ流体チップ。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロ流体チップ、請求項7に記載の基板付マイクロ流体チップのうち、いずれかを用いたことを特徴とする細胞スクリーニングチップ。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロ流体チップ、請求項7に記載の基板付マイクロ流体チップのうち、いずれかを用いたことを特徴とする分析化学チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−70644(P2012−70644A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216093(P2010−216093)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】