説明

マイクロ流体回路の製造方法およびその方法により製造したマイクロ流体回路

【課題】マスクの位置合せが不要で、マスクの位置ズレがなく、製造コストの低廉なマイクロ流体回路の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、透明な上プラスチック基板を、光吸収性の下プラスチック基板に積層し、上プラスチック基板を通して光を照射することにより上プラスチック基板と下プラスチック基板とを溶着して接合するマイクロ流体回路の製造方法であって、上プラスチック基板の底面および/または下プラスチック基板の天面に、マイクロチャネルを有し、上プラスチック基板を通して光を照射するとき、マイクロチャネルへの光の透過量が減衰する光減衰領域を上プラスチック基板に形成する工程を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞または血液などの生化学検査に使用するマイクロ流体回路の製造方法に関する。また、化学合成または環境分析などに使用するμTAS(Micro Total Analysis system)などとして有用なマイクロ流体回路に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体回路は、実験室で行なっている一連の実験操作を、2cm角で厚さ2mm程度のチップの中で行なうため、試料および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができるなどの利点がある。また、試料を採取した現場で直ちに結果を得ることができる。
【0003】
マイクロ流体回路の平面図を図1に例示する。この回路は、肝機能検査用の回路であり、図1に示すように、10μL程度の血液を試料注入口1から回路内に注入し、遠心分離により血球部と血漿部に分離した後、血漿のみを血漿保持室2に移し、秤量室3において血漿の量を測定し、配合室7へ移す。つぎに、試薬保持室4にある試薬を配合し、混合室5において血漿と試薬を混合した後、計測室6で肝機能を検査する。計測は、短波長レーザを照射し、吸光量をフォトダイオードにより測定して行なう。このようにして、採取した血液の前処理から計測までの一連の操作をマイクロ流体回路内で行ない、γ−GTP、AST(GOT)、ALT(GPT)および乳酸脱水素酵素(LDH)などの検査を行なうことができる(非特許文献1参照)。
【0004】
従来のマイクロ流体回路の製造方法を図4に例示する。この方法では、マイクロ流体回路におけるマイクロチャネル(流路)および試薬保持室などを、フォトリソグラフィ、エッチングおよびモールドを組合わせた微細加工技術により形成する。まず、シリコン基板を酸素雰囲気下で加熱し、シリコン基板41上にSiO2膜42を形成した後(図4(a))、SiO2膜42上にレジスト43を形成する(図4(b))。レジストには、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのポリメタクリル酸エステルを主成分とする樹脂、または紫外線(UV)に感受性を有する化学増幅型樹脂などを用いる。
【0005】
その後、レジスト43上にマスク44を配置し、マスク44を介してUV45を照射する(図4(c))。マスク44は、製造するマイクロ流体回路におけるマイクロチャネルおよび試薬保持室などの配置と形状に応じて形成したUV吸収層44bと、透光性基材44aとからなる。透光性基材44aには石英ガラスなどを用い、吸収層44bにはクロムなどを用いる。ポジレジストを使用する場合、UV45を照射すると、吸収層44bによりレジスト43bのみが露光して変質するため、現像によりレジスト43bが除去され、レジスト43aが残る(図4(d))。一方、ネガ型レジストを使用する場合は、逆に露光部が残り、非露光部が除去されるので、ポジ型レジストの場合とは逆のマスクパターンを使用する。
【0006】
つぎに、レジスト43aをマスクとして、プラズマエッチングまたはウェットエッチングを行なった後(図4(e))、レジスト43aを除去する(図4(f))。得られたSiO2膜42a上から蒸着などにより金属膜を形成し(図4(g))、シリコン基板41およびSiO2膜42aを、ウェットエッチングまたは機械的な剥離により除去し、金型46を得る(図4(h))。つづいて、得られた金型46を使用して、溶融したプラスチックにより射出成形などを行ない(図4(i))、上プラスチック基板47aを製造する(図4(j))。プラスチックには、たとえば、ポリエチレンテレフタレートを使用する。最後に、上プラスチック基板47aを、対向する下プラスチック基板47bを接合すると、マイクロチャネルを有するマイクロ流体回路47が得ることができる(図4(k))(非特許文献1参照)。
【0007】
上プラスチック基板47aと、対向する下プラスチック基板47bとを接合する方法としては、熱プレスもしくは超音波による熱融着法、または接着剤による方法などがある。しかし、熱プレスもしくは超音波による熱融着法は、過剰の熱により、マイクロチャネルが変形しやすく、また、固定化されている生理活性物質に悪影響を及ぼして、機能を阻害することが多い。一方、接着剤による方法は、余剰の接着材がマイクロチャネルに滲出し、マイクロチャネルを封鎖し、内壁の汚染が生じやすい。
【0008】
このような点を改良した方法として、レーザ接合法がある。従来のレーザ接合法を図2に例示する。レーザ光源21から照射されるレーザビーム22は、上プラスチック基板24と下プラスチック基板25の接触面26に直角に入射するように配置され、また、上プラスチック基板24はレーザビーム22を透過し、下プラスチック基板25はレーザビームを吸収するような材料で構成されている。このため、レーザ光源21を矢印の方向に走査しながら、レーザビーム22を照射すると、露光により、上プラスチック基板24と下プラスチック基板25の接触面26が溶融し、その後、冷却して接合する。上プラスチック基板24の底面にはマイクロチャネル(図示していない。)が形成されているため、溶着時に、接触面26と同様のレーザビーム22をマイクロチャネルに照射すると、マイクロチャネルが発熱し、変形する。そこで、マスク23を使用し、マイクロチャネルにはレーザビームが照射されないようにして接合する(特許文献1と特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−74796号公報
【特許文献2】特許第3303259号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「電機・機械企業が総出でバイオチップ市場争奪戦」、日経バイオビジネス、2003.12、pp.42−43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、マスクにより遮光する方法は、使用するマスクを製作する必要があり、マスクとマイクロチャネルとの位置合せ工程が別途、必要となるため、マイクロ流体回路の製造効率が低下し、コストを高める要因となる。また、マスクとマイクロチャネルの位置ズレが発生しやすく、位置ズレが発生すると、マイクロチャネルが熱変形し、接合が不均一となって液漏れの原因となったり、正確な測定が困難になる。
【0012】
本発明の課題は、マスクの位置合せが不要で、マスクの位置ズレがなく、製造コストの低廉なマイクロ流体回路の製造方法およびその方法により製造したマイクロ流体回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、透明な上プラスチック基板を、光吸収性の下プラスチック基板に積層し、上プラスチック基板を通して光を照射することにより上プラスチック基板と下プラスチック基板とを溶着して接合するマイクロ流体回路の製造方法であって、上プラスチック基板の底面および/または下プラスチック基板の天面に、マイクロチャネルを有し、上プラスチック基板を通して光を照射するとき、マイクロチャネルへの光の透過量が減衰する光減衰領域を上プラスチック基板に形成する工程を備えることを特徴とする。また、本発明のマイクロ流体回路は、透明な上プラスチック基板と、上プラスチック基板に接合する光吸収性の下プラスチック基板とを備え、上プラスチック基板の底面および/または下プラスチック基板の天面に、マイクロチャネルを備えると共に、上プラスチック基板は光減衰領域を有し、上プラスチック基板を通して光を照射するとき、光減衰領域によりマイクロチャネルへの光の透過量が減衰することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
遮光用のマスクを使用しないため、マスクを別途、製造する必要がなく、マスクの位置合せが不要で、マスクの位置ズレがない。したがって、製造コストを低減することができ、高精度のマイクロ流体回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マイクロ流体回路の平面図である。
【図2】従来のレーザ接合法を示す斜視図である。
【図3】本発明のマイクロ流体回路の構造を示す断面図である。
【図4】従来のマイクロ流体回路の製造方法を示す工程図である。
【図5】本発明のマイクロ流体回路の製造方法を示す工程図である。
【図6】実施の形態2における上プラスチック基板の断面図である。
【図7】実施の形態3における上プラスチック基板の断面図である。
【図8】実施の形態4における上プラスチック基板の断面図である。
【図9】実施の形態5における上プラスチック基板の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のマイクロ流体回路は、図3に示すように、透明な上プラスチック基板32と、上プラスチック基板32の底面に接合する光吸収性の下プラスチック基板33とを備え、上プラスチック基板の底面および/または下プラスチック基板の天面に、マイクロチャネルを備えると共に上プラスチック基板32は光減衰領域34を有し、上プラスチック基板32を通してレーザ光35などの光を照射するとき、光減衰領域34によりマイクロチャネル31への光の透過量が減衰することを特徴とする。上プラスチック基板上に形成する光減衰領域が、従来のマスクとしての機能を発揮するため、別途、マスクを製造する必要がなく、光減衰領域は、射出成形などにおいて、プラスチック基板と同時に形成することができるため、製造コストを低減することができる。
【0017】
図3(a)には、上プラスチック基板32の底面にマイクロチャネル31を備える態様を例示する。また、図3(b)には、下プラスチック基板33の天面にマイクロチャネル31を備える態様を例示する。図3(a)に示すように、上プラスチック基板32の底面にマイクロチャネル31を備える態様では、マイクロチャネルと光減衰領域とが一体化しており、従来のようなマスクの位置合せが不要となり、製造工程を簡略化できる。さらに、マイクロチャネルと光減衰領域とが一体化しているため、マイクロチャネルと光減衰領域との位置ズレが生じない。したがって、マイクロチャネルへの透過光のみを減衰することが可能であり、マイクロチャネルの熱変形を防止し、上プラスチック基板と下プラスチック基板の接触面を確実に溶着し、液漏れを防止して、高精度のマイクロ流体回路を提供することができる。
【0018】
また、図3(b)に示すように、下プラスチック基板33の天面にマイクロチャネル31を備える態様においても、従来、不可欠であったマスクが不要となるため、製造コストを低減することができ、マスクとマイクロチャネルとの位置合せ工程を削除できる。さらに、マイクロ流体回路に要求される製品仕様によっては、上プラスチック基板の底面と、下プラスチック基板の天面の双方にマイクロチャネルを備える態様とすることができ、かかる態様も本発明に含まれる。以下、図3(a)に示す態様を例に取り挙げて、本発明を説明する。
【0019】
本発明のマイクロ流体回路は、透明な上プラスチック基板を、光吸収性の下プラスチック基板に積層し、上プラスチック基板を通して光を照射することにより上プラスチック基板と下プラスチック基板とを溶着し、接合して製造することができる。また、上プラスチック基板における光減衰領域は、射出成形などにより、形成することができる。マイクロチャネルにおける光の透過量は、マイクロチャネルの熱変形を防止して、高精度のマイクロ流体回路を提供するために、光減衰領域により、上プラスチック基板への光の照射量の80%以下に減衰する態様が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。マイクロチャネルへの光の透過量の減衰は、光減衰領域における表面粗さの調整、照射光が垂直に入射しない面を備える空孔部の形成、または遮光性材料の含有などにより行なうことができる。
【0020】
実施の形態1
本実施の形態では、上プラスチック基板の光減衰領域の表面粗さと、マイクロチャネルにおける光の透過量との関係について検討する。本発明のマイクロ流体回路の製造方法を図5に示す。まず、シリコン基板51上にSiO2膜52を形成し(図5(a))、SiO2膜52上にレジスト53を形成する(図5(b))。レジストには、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を使用する。その後、レジスト53上にマスク54を配置し、マスク54を介してUV55を照射し(図5(c))、現像する(図5(d))。つぎに、プラズマエッチングを行ない(図5(e))、レジスト53aを除去し(図5(f))、蒸着により金属膜を形成する(図5(g))。つづいて、シリコン基板51およびSiO2膜52aをウェットエッチングにより除去し、金型56aを得る(図5(h))。
【0021】
つぎに、金型56aに対向する金型56bにブラスト加工を施し、光減衰領域に接する面の算術平均表面粗さRaを1μm〜50μmに調整する。その後、溶融したポリエチレンテレフタレート(PET)液により射出成形を行なうと(図5(i))、算術平均表面粗さRaが1μm〜50μmである光減衰領域59を天面に有し、幅200μm、深さ200μm程度のマイクロチャネル58を底面に有する上プラスチック基板57aが得られる(図5(j))。上プラスチック基板は、厚さ7mm程度であり、天面のうち、光減衰領域以外の表面は、算術平均粗さが1μm未満である。算術平均表面粗さRaの測定は、JIS−B0601およびJIS−B0651により行ない、たとえば、レーザーテック株式会社製のVL2000Dにより測定することができる。射出成形用樹脂としては、PET以外に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンポリマー(COP)などの熱可塑性樹脂を使用することができる。PETとして、たとえば、三菱レーヨン株式会社製ダイアナイトMA521を使用するときは、ダイアナイトMA521を、熱風乾燥機により150℃で5時間〜10時間処理して除湿し、その後、成形温度275℃、樹脂圧15kg/cm2で射出成形する。また、射出成形以外に、インプリント法などによりプラスチック基板を製造することができる。
【0022】
つぎに、上プラスチック基板57aを通して、上プラスチック基板57aに垂直な方向からレーザ光を照射し、マクロチャネル58における光の透過量が、光減衰領域59により、どの程度減衰するかを測定する。レーザ光は、波長940nm(赤外線)、出力30Wとし、10mm/sでスキャンする。また、レーザ光の照射量およびマイクロチャネルでの透過量は、フォトダイオード(PD)により測定する。測定の結果、光減衰領域の算術平均表面粗さRaが1μm〜50μmであるとき、上プラスチック基板57aに照射するレーザ光は、光減衰領域59において乱反射するため、マイクロチャネルでの透過量が、上プラスチック基板への照射量の80%以下となり、Raが5μm〜50μmであるとき、マイクロチャネルでの透過率が50%以下となる。したがって、Raは1μm〜50μmが好ましく、5μm〜50μmがより好ましい。
【0023】
最後に、粒径30nm〜50nmのカーボンブラックを5質量%含有するPETを使用して射出成形を行ない、レーザ光透過率が0%である光吸収性の下プラスチック基板57bを製造する。下プラスチック基板は、厚さ0.5mm程度が好ましい。つぎに、下プラスチック基板57b上に、上プラスチック基板57aを積層し、上プラスチック基板57aを通して、上プラスチック基板57aに垂直となるように、レーザ光を照射することにより、上プラスチック基板57aと下プラスチック基板57bとを溶着して接合すると、マイクロ流体回路57が得られる(図5(k))。このマイクロ流体回路57は、マイクロチャネルに熱変形がなく、上プラスチック基板と下プラスチック基板とが接触面において接合する高精度のマイクロ流体回路である。本実施の形態では、レーザ接合法を使用したが、ランプ溶着法なども使用することができる。
【0024】
実施の形態2
本実施の形態では、上プラスチック基板の光減衰領域が、照射光が垂直に入射しない面を有する例として、光減衰領域の断面が三角形である空孔部を有する例について検討する。実施の形態1と同様にして、金型56aを製造した(図5(h))。つぎに、金型56aに対向する金型であって、上プラスチック基板の光減衰領域の断面が三角形となるように凸形状に加工した金型を用いて、実施の形態1と同様に射出成形をする。得られる上プラスチック基板の断面図を図6に示す。この上プラスチック基板は、厚さd、屈折率nであり、天面に光減衰領域64を有し、底面に幅wのマイクロチャネル61を有する。
【0025】
図6において、照射光65が光減衰領域64に入射し、光減衰領域64の斜面で屈折し、屈折光66は、マイクロチャネル61の端部に到達する。照射光65は、光減衰領域64の斜面に対して角度θで入射し(θ1=90−θ)、角度θ2で屈折する。マイクロチャネル61における光の透過量が、光減衰領域64により、上プラスチック基板への光の照射量の50%に減衰する場合を想定すると、マイクロチャネル61の幅w/2に照射する光のうち、
(w/2)×(1.00−0.50)=w/4
に照射する光が、マイクロチャネルに到達しないため、
tan(θ1−θ2)≒(w/4)/d=w/4d
一方、スネルの法則により、
sinθ1/sinθ2=n/1
であるから、両式より、
tan〔θ1−sin-1{(sinθ1)/n}〕=w/4d
θ1=90−θより、
tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧w/4d
(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧0.25
であるとき、マイクロチャネル61における光の透過量が、光減衰領域64により、上プラスチック基板への光の照射量の50%以下に減衰する。したがって、上プラスチック基板の光減衰領域が、照射光が垂直に入射しない面を備える空孔部を有することにより、光減衰領域によりマイクロチャネルへの光の透過量を減衰することができる。
【0026】
同様にして、マイクロチャネルにおける光の透過量が、光減衰領域により、上プラスチック基板への光の照射量の80%に減衰する場合を想定すると、マイクロチャネルの幅w/2に照射する光のうち、
(w/2)×(1.00−0.80)=w/10
に照射する光が、マイクロチャネルに到達しないため、
tan(θ1−θ2)≒(w/10)/d=w/10d
tan〔θ1−sin-1{(sinθ1)/n}〕=w/10d
tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧w/10d
(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧0.1
であるとき、マイクロチャネルにおける光の透過量が、光減衰領域により、上プラスチック基板への光の照射量の80%以下に減衰する。
【0027】
したがって、(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕=Aとすると、上プラスチック基板の光減衰領域が、照射光が垂直に入射しない面を備える空孔部を有することにより、光減衰領域によりマイクロチャネルへの光の透過量を80%以下に減衰する点で、A値は0.1以上が好ましい。また、透過量を50%以下に減衰する点で、A値は0.25以上が好ましい。
【0028】
最後に、実施の形態1と同様に、光吸収性の下プラスチック基板を射出成形により製造し、下プラスチック基板上に、上プラスチック基板を積層し、上プラスチック基板を通して、上プラスチック基板に垂直となるようにレーザ光を照射して、上プラスチック基板と下プラスチック基板を接合すると、マイクロ流体回路が得られる。このマイクロ流体回路は、マイクロチャネルに熱変形がなく、上プラスチック基板と下プラスチック基板が均一に接合する高精度のマイクロ流体回路である。
【0029】
実施の形態3
本実施の形態では、上プラスチック基板の光減衰領域が、照射光が垂直に入射しない面を有する例として、光減衰領域の断面が半円である空孔部を有する場合について検討する。実施の形態1と同様にして、金型56aを製造する(図5(h))。つぎに、金型56aに対向する金型であって、上プラスチック基板の光減衰領域の断面が半円となるように凸形状に加工した金型を用いて、実施の形態1と同様に射出成形をする。得られる上プラスチック基板の断面図を図7に示す。図7に示すように、この上プラスチック基板は、厚さd、屈折率nであり、天面に光減衰領域74を有し、底面に幅wのマイクロチャネル71を有する。
【0030】
図7において、照射光75は、光減衰領域74の斜面に対して角度θで入射し、斜面で屈折し、屈折光76は、マイクロチャネル71の端部に到達する。マイクロチャネル71における光の透過量が、光減衰領域74により、上プラスチック基板への光の照射量の50%以下に減衰する場合を想定すると、実施の形態2と同様に、
tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧w/4d
(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧0.25
である。
【0031】
たとえば、光減衰領域に形成された半円の直径が、マイクロチャネルの幅wに等しい場合には、θ=60°であるから、
(d/w)tan{30−sin-1(1/2n)}≧0.25
であるとき、マイクロチャネル71における光の透過量が、光減衰領域74により、上プラスチック基板への光の照射量の50%以下に減衰する。
【0032】
同様にして、マイクロチャネルにおける光の透過量が、光減衰領域により、上プラスチック基板への光の照射量の80%以下に減衰するための条件は、実施の形態2と同様に、(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧0.1
である。
【0033】
たとえば、光減衰領域に形成された半円の直径が、マイクロチャネルの幅wに等しい場合には、cosθ=80/100より、θ=37°であるから、
(d/w)tan{53−sin-1(4/5n)}≧0.1
であるとき、マイクロチャネル71における光の透過量が、光減衰領域74により、上プラスチック基板への光の照射量の50%以下に減衰する。
【0034】
したがって、(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕=Aとすると、上プラスチック基板の光減衰領域が、照射光が垂直に入射しない面を備える空孔部を有することにより、光減衰領域によりマイクロチャネルへの光の透過量を80%以下に減衰する点で、A値は0.1以上が好ましい。また、透過量を50%以下に減衰する点で、A値は0.25以上が好ましい。
【0035】
最後に、実施の形態1と同様に、光吸収性の下プラスチック基板を射出成形により製造し、下プラスチック基板上に、上プラスチック基板を積層し、上プラスチック基板を通して、上プラスチック基板に垂直となるようにレーザ光を照射して、上プラスチック基板と下プラスチック基板とを溶着して接合すると、マイクロ流体回路が得られる。このマイクロ流体回路は、マイクロチャネルに熱変形がなく、上プラスチック基板と下プラスチック基板とが均一に接合する高精度のマイクロ流体回路である。
【0036】
実施の形態4
本実施の形態では、上プラスチック基板の光減衰領域が、照射光が垂直に入射しない面を有する例として、光減衰領域の断面が円弧である空孔部を有する場合について検討する。実施の形態1と同様にして、金型56aを製造した(図5(h))。つぎに、金型56aに対向する金型であって、上プラスチック基板の光減衰領域の断面が円弧となるように凸形状に加工した金型を用いて、実施の形態1と同様に射出成形をする。得られる上プラスチック基板の断面図を図8に示す。図8に示すように、この上プラスチック基板は、厚さd、屈折率nであり、天面に光減衰領域84を有し、底面に幅wのマイクロチャネル81を有する。
【0037】
図8において、照射光85は、光減衰領域84の斜面に対して角度θで入射し、斜面で屈折し、屈折光86は、マイクロチャネル81の端部に到達する。マイクロチャネル81における光の透過量が、光減衰領域84により、上プラスチック基板への光の照射量の50%以下に減衰する場合は、実施の形態2と同様に、
tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧w/4d
(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧0.25
である。
【0038】
同様にして、マイクロチャネルにおける光の透過量が、光減衰領域により、上プラスチック基板への光の照射量の80%以下に減衰するための条件は、実施の形態2と同様に、(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕≧0.1
である。
【0039】
したがって、(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕=Aとすると、上プラスチック基板の光減衰領域が、照射光が垂直に入射しない面を備える空孔部を有することにより、光減衰領域によりマイクロチャネルへの光の透過量を80%以下に減衰する点で、A値は0.1以上が好ましい。また、透過量を50%以下に減衰する点で、A値は0.25以上が好ましい。
【0040】
最後に、実施の形態1と同様に、光吸収性の下プラスチック基板を射出成形により製造し、下プラスチック基板上に、上プラスチック基板を積層し、上プラスチック基板を通して、上プラスチック基板に垂直となるようにレーザ光を照射し、上プラスチック基板と下プラスチック基板とを接合すると、マイクロ流体回路が得られる。このマイクロ流体回路は、マイクロチャネルに熱変形がなく、上プラスチック基板と下プラスチック基板が均一に接合する高精度のマイクロ流体回路である。
【0041】
実施の形態5
本実施の形態では、上プラスチック基板の光減衰領域が、遮光性材料を含有する場合について検討する。このような上プラスチック基板を図9に示すような方法で製造する。まず、図9(a)に示すような金型96aを、実施の形態1と同様に製造する。つぎに、金型96aに対向する金型96bを組合わせて、実施の形態1と同様に射出成形をする。この金型には、内部に可動式金型96cを備えており、図9(b)に示すように、射出成形後、可動式金型96cを移動し、空間97を形成することができる。つぎに、図9(c)に示すように、カーボンブラックなどの遮光性材料を含有する樹脂材料95を、空間97に射出成形する。このような2色成形法により、図9(d)に示すような上プラスチック基板98が得られる。この上プラスチック基板98の光減衰領域99は、遮光性材料を含有しているため、レーザ光94などを照射すると、マイクロチャネル93への光の透過量を減衰することができる。たとえば、粒径30nm〜50nmのカーボンブラックを5質量%含有する樹脂材料95を厚さTが100μmとなるように形成すると、マイクロチャネル93における光の透過量は0%にまで減衰する。
【0042】
最後に、実施の形態1と同様に、光吸収性の下プラスチック基板を射出成形により製造し、下プラスチック基板上に、上プラスチック基板を積層し、上プラスチック基板を通して、上プラスチック基板に垂直となるようにレーザ光を照射し、上プラスチック基板と下プラスチック基板とを接合すると、マイクロ流体回路が得られる。このマイクロ流体回路は、マイクロチャネルに熱変形がなく、上プラスチック基板と下プラスチック基板が均一に接合する高精度のマイクロ流体回路である。
【0043】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
製造コストが低廉で、高精度のマイクロ流体回路を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
31,58 マイクロチャネル、32,57a 上プラスチック基板、33,57b 下プラスチック基板、34,59 光減衰領域、35 レーザ光、51 シリコン基板、52 SiO2膜、53 レジスト、54 マスク、55 UV、57 マイクロ流体回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な上プラスチック基板を、光吸収性の下プラスチック基板に積層し、上プラスチック基板を通して光を照射することにより上プラスチック基板と下プラスチック基板とを溶着して接合するマイクロ流体回路の製造方法であって、
上プラスチック基板の底面に、マイクロチャネルを有し、
上プラスチック基板を通して光を照射するとき、マイクロチャネルへの光の透過量が減衰する光減衰領域を上プラスチック基板に形成する工程を備え、
前記マイクロチャネルと前記光減衰領域とが一体化している、マイクロ流体回路の製造方法。
【請求項2】
前記光減衰領域において、乱反射によりマイクロチャネルへの光の透過量が減衰する請求項1に記載のマイクロ流体回路の製造方法。
【請求項3】
マイクロチャネルにおける光の透過量が、前記光減衰領域により、上プラスチック基板への光の照射量の80%以下に減衰する請求項1に記載のマイクロ流体回路の製造方法。
【請求項4】
上プラスチック基板の前記光減衰領域は、算術平均表面粗さRaが1μm〜50μmである表面を有する請求項1に記載のマイクロ流体回路の製造方法。
【請求項5】
上プラスチック基板の前記光減衰領域は、照射光が垂直に入射しない面を備える空孔部を有する請求項1に記載のマイクロ流体回路の製造方法。
【請求項6】
前記上プラスチック基板は、厚さd、屈折率nであり、底面に幅wのマイクロチャネルを有し、マイクロチャネルへ透過する照射光の入射角をθとすると、(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕の値が0.1以上である請求項に記載のマイクロ流体回路の製造方法。
【請求項7】
上プラスチック基板の前記光減衰領域は、遮光性材料を含有する請求項1に記載のマイクロ流体回路の製造方法。
【請求項8】
透明な上プラスチック基板と、該上プラスチック基板に接合する光吸収性の下プラスチック基板とを備えるマイクロ流体回路であって、上プラスチック基板の底面に、マイクロチャネルを備えると共に、上プラスチック基板は前記マイクロチャネルと一体化された光減衰領域を有し、上プラスチック基板を通して光を照射するとき、光減衰領域によりマイクロチャネルへの光の透過量が減衰するマイクロ流体回路。
【請求項9】
前記光減衰領域において、乱反射によりマイクロチャネルへの光の透過量が減衰する請求項8に記載のマイクロ流体回路。
【請求項10】
マイクロチャネルにおける光の透過量が、前記光減衰領域により、上プラスチック基板への光の照射量の80%以下に減衰する請求項に記載のマイクロ流体回路。
【請求項11】
上プラスチック基板の前記光減衰領域は、算術平均表面粗さRaが1μm〜50μmである表面を有する請求項に記載のマイクロ流体回路。
【請求項12】
上プラスチック基板の前記光減衰領域は、照射光が垂直に入射しない面を備える空孔部を有する請求項に記載のマイクロ流体回路。
【請求項13】
前記上プラスチック基板は、厚さd、屈折率nであり、底面に幅wのマイクロチャネルを有し、マイクロチャネルへ透過する照射光の入射角をθとすると、(d/w)tan〔90−θ−sin-1{(sin(90−θ))/n}〕の値が0.1以上である請求項12に記載のマイクロ流体回路。
【請求項14】
上プラスチック基板の前記光減衰領域は、遮光性材料を含有する請求項に記載のマイクロ流体回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−63366(P2012−63366A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272261(P2011−272261)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【分割の表示】特願2006−136783(P2006−136783)の分割
【原出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】