説明

マイクロ流体装置とその継手

【課題】マイクロ流体素子と送液系あるいは排液系との結合を容易にできて,マイクロ流体素子を小型化したい。
【解決手段】少なくとも2個の供給口から供給された種類の異なる液体を微小流路に導き微小流路で液体の混合もしくは化学反応を行わせて微小流路の下流にある排出口から所望の液体を得るマイクロ流体素子10と、マイクロ流体素子の各供給口に種類の異なる液体を送液する送液系20と、マイクロ流体素子における排出口から所望の液体を受ける排液系30を有するマイクロ流体装置1であり、各供給口と排出口のそれぞれに弾性部材よりなる継手60を装着してあり、各継手60の先端部外面は楔状で2個の傾斜面と両傾斜面を結ぶ長円状扁平面を有し、内部には先端が長円状扁平面に沿った楔状の空間を有しており、 送液系と排液系は各継手の楔状空間に挿入し、長円状扁平面から各供給口と排出口側に向けて先端を突出させた送液管および排液管を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2個の供給口から供給された種類の異なる液体を微小流路に導き該微小流路で該液体の混合もしくは化学反応を行わせて該微小流路の下流にある排出口から所望の液体を得るマイクロ流体素子と、該マイクロ流体素子の各供給口に種類の異なる該液体を送液する送液系と、該マイクロ流体素子における該排出口から所望の液体を受ける排液系を有するマイクロ流体装置とその継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種マイクロ流体装置は、マイクロ流体素子に設けた100〜200μm程度の幅あるいは深さを持つ微小流路に流体を流すことにより起きる特異的な物理現象を利用して、異なる液体同士を短時間で均一に混合したり反応させたりする装置で、マイクロミキサーやマイクロリアクタと呼ばれて、免疫分析や化学反応(合成)を行うものとして一部実用に供されている。
【0003】
マイクロミキサーとマイクロリアクタは基本的にマイクロ流体素子の構造は共通であるが、単なる混合の場合にはマイクロミキサー、化学反応を伴う場合にはマイクロリアクタと呼ばれており、以下、これらをマイクロ流体装置と総称して説明する。
【0004】
なお、マイクロ流体装置を示すものとして下記の特許文献1がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−210963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロ流体素子は、少なくとも2種類の液体をマイクロチャンネル(またはマイクロキャピラリー)と呼ばれる幅あるいは深さが100〜200μm程度の微小流路に流してその液体同士を混合あるいは反応させるもので、流路面積に対して液体同士の界面の面積が相対的に大きくなる。
【0007】
従って、この界面での分子同士の拡散がより顕著になり(この分子拡散時間は距離の二乗に比例する)、混合又は反応が素早く、均一且つ連続的に行われ、物理現象を起す場所が微小窪み(微小流路)であるため、反応時間や温度制御などを精密に行うことができるという利点がある。
【0008】
同じことを大容積のビーカやタンクで行うと、上記界面の相対的面積は小さく、混合又は反応時間が長くなるので、所期の目的とは異なる副生成物ができる恐れがある。またバッチ処理のため一次生成物が容器内に滞留するため、さらにこの一次生成物が反応して多量の副生成物ができて、生成効率が低下するなどの問題点がある。
【0009】
上述のように、マイクロ流体素子は微小窪み(微小流路)でのプロセスに基づくものであり、いかに微小窪みを微細化し、それに伴って装置を微小化するかが重要である。
【0010】
このマイクロ流体素子に外部から送液をすることや出来上がった所望の液体を外部に取り出す排液についての検討はあまり行われていない。
【0011】
上記従来技術では、配管で用いられてきたネジ式の継手を小型化して螺合により取り付けて、送液系や排液系と結合(接続)している。
【0012】
混合や反応に利用する液体の種類が変わるたびにマイクロ流体素子は交換する必要があり、上記従来技術ではマイクロ流体素子を交換する都度、継手毎に手作業で螺合を解き、新らしいマイクロ流体素子に組み付けなければならず、マイクロ流体素子を小型化できればできる程、マイクロ流体装置に期待される機能・性能は理想に近づくにも係わらず、マイクロ流体素子と送液系あるいは排液系との結合技術が充分ではなく、マイクロ流体素子の小型化に限界があった。
【0013】
それゆえ本発明の目的は、マイクロ流体素子と送液系あるいは排液系との結合を容易にできてマイクロ流体素子の小型化が可能なマイクロ流体装置を提供することにある。
【0014】
また、それゆえ本発明の目的は、マイクロ流体素子と送液系あるいは排液系との結合を容易にできてマイクロ流体素子の小型化が可能な継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する本発明の特徴とするところは、少なくとも2個の供給口から供給された種類の異なる液体を微小流路に導き該微小流路で該液体の混合もしくは化学反応を行わせて該微小流路の下流にある排出口から所望の液体を得るマイクロ流体素子と、該マイクロ流体素子の各供給口に種類の異なる該液体を送液する送液系と、該マイクロ流体素子における該排出口から所望の液体を受ける排液系を有するマイクロ流体装置において、該各供給口と排出口のそれぞれに弾性部材よりなる継手を装着してあり、該継手の先端部外面は楔状で2個の傾斜面と両傾斜面を結ぶ長円状扁平面を有し、内部には先端が該長円状扁平面に沿った楔状の空間を有しており、該送液系と排液系は各継手の楔状空間に挿入し、該長円状扁平面から該各供給口と排出口側に向けて先端を突出させた各送液管および排液管を備えていることにある。
【0016】
上記継手は、楔状の先端部が該各供給口と排出口に挿入されているように装着する。
また、上記継手は、先端部外面の長円状扁平面と該長円状扁平面に沿った楔状空間の先端の間に該各送液管および排液管の挿入により破裂する封止膜部を備えていることにある。
【0017】
さらに、上記継手は楔状先端部の各傾斜面に該長円状扁平面から張り出した肩部を設けたことにある。
さらにまた、上記継手は楔状先端部における該長円状扁平面の各端部に該各供給口と排出口側に向けて張り出した突出部を設けたことにある。
【0018】
上記目的を達成する本発明の特徴とするところは、少なくとも2個の供給口から供給された種類の異なる液体を微小流路に導き該微小流路で該液体の混合もしくは化学反応を行わせて該微小流路の下流にある排出口から所望の液体を得るマイクロ流体素子と、該マイクロ流体素子の各供給口に種類の異なる該液体を送液する送液系と、該マイクロ流体素子における該排出口から所望の液体を受ける排液系を有するマイクロ流体装置における該各供給口および該排出口に装着してあり該送液系および該排液系とそれぞれ接続する継手において、該各継手は弾性部材よりなり、先端部に截頭断面が長円状扁平面である錐状の外斜面を有し、内部には先端が該長円状扁平面に沿った該送液系および該排液系における各送液管および排液管が挿入される楔状空間をそれぞれ有していることにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マイクロ流体素子の交換時には送液管や排液管をマイクロ流体素子における該各供給口と排出口に装着した各継手に挿入したり抜き取るだけで、マイクロ流体素子と送液系あるいは排液系との結合や各継手での気密性の確保を得ることができ、該各供給口と排出口に装着する各継手は該各供給口と排出口が小口径であっても装着は可能であるため、マイクロ流体素子と送液系あるいは排液系との結合は容易で、マイクロ流体素子の小型化に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図に基づいて本発明の一実施例を説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明になるマイクロ流体装置1の概略構成を示している。
図1において、マイクロ流体装置1は後述するように複数の液体供給口と1個の排出口を有し両口間に微小流路を有するマイクロ流体素子10,送液系20,排液系30,マイクロ流体素子10を保持固定する装置のフレーム40,送液系20を制御する制御部50、およびマイクロ流体素子10の複数の液体供給口と1個の排出口に装着してありマイクロ流体素子10と送液系20や排液系30を結合する継手60a〜60m,60nで構成されている。
【0022】
作業者が制御部50のキーボード51から入力した指示データは制御装置52に記憶し、制御装置52では送液系20に対する所用の指令値に変換して送液系20を制御するようになっている。
【0023】
送液系20は、複数の種類の異なる液体を貯留したタンク21a〜21mと各タンクから貯留した各液体を汲み上げるポンプ22a〜22mと電磁弁23a〜23mとマイクロ流体素子10の複数の液体供給口と1個の排出口に装着ある継手60a〜60m,60nに挿入する複数の送液管および1個の排液管を備えた送排液管ユニット24と送排液管ユニット24の複数の送液管および電磁弁23a〜23mを連結する送液用配管25a〜25mとから構成される。
【0024】
排液系30は、マイクロ流体素子10における液体の排出口に装着した継手60nに挿入した送排液管ユニット24の排液管に接続した排液用配管31と排液用配管31により導かれる排液を貯留するタンク32とから構成される。
【0025】
送液用配管25a〜25mや排液用配管31は、耐薬品性に優れたフッ素系樹脂のチューブ等を使用し、後述する送排液管ユニット24の送液管や排液管の頭部を送液用配管25a〜25mや排液用配管31の端部に刺し込んで、結合する。
【0026】
マイクロ流体素子10の複数の液体供給口と1個の排出口に装着ある継手60a〜60m,60nに送排液管ユニット24の複数の送液管および1個の排液管を挿入することで、マイクロ流体素子10と送液系20および排液系30が接続される。
【0027】
次に、各部の構成を詳細に説明する。
【0028】
図2はマイクロ流体素子10を示し、図2(a)は表蓋12Aを取り外し、裏面に裏蓋12Bと図1に示した送排液管ユニット24を付けた形で示したマイクロ流体素子10のマイクロ流体素子本体11の平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A切断線に沿った位置でのマイクロ流体素子本体11にさらに表蓋12Aを付け、裏面の送排液管ユニット24は除去した形で示した縦断面図である。
【0029】
図2(a)において、マイクロ流体素子本体11には表側の上面部に左端側を円弧状としたほぼ長方形で深さが100μm程度の窪み13を設けてある。窪み13の右端側から中央右側に掛けてのマイクロ流体素子本体11の下面部には、図2(a)の上下方向に複数の窪み14a〜14mを設けてあり、下面部の各窪み14a〜14mと上面部の窪み13を連通するように複数の孔15a〜15mを設けてある。
【0030】
そして複数の孔15a〜15mの周囲には窪み13の底部から上面部に至る左に向けて開放した馬蹄形の流れ規制壁16a〜16mを設けてある。なお、図2(a)では後述する説明の都合上、一部の流れ規制壁16a〜16mは図示を省略している。
【0031】
窪み13の左端側の裏側下面部にも円形の窪み17があり、この窪み17と上面部の窪み13を連通する孔18を設けてある。
【0032】
マイクロ流体素子本体11の下面部では各窪み14a〜14mと窪み17を設けた周囲を囲むように凸状の突出部19a〜19m,19nを設けてある。裏蓋12Bにはこの吐出部に対応する凹部を設けてあり、凹凸を嵌め合わせることで容易にマイクロ流体素子本体11と裏蓋12Bを結合することができる。突出部19a〜19mはそれぞれ略長円形で、突出部19nは円形である。
【0033】
裏蓋12Bに継手60a〜60m,60nを装着してあり、継手60a〜60m,60nに送排液管ユニット24が挿入される。
【0034】
流れ規制壁16a〜16mの上面部はマイクロ流体素子本体11における表側の上面部と同じ高さとしてあり、表蓋12Aを取り付けると、窪み13と表蓋12Aで深さが100μm程度の微小流路Gを形成し、送液系20から適宜に液体を供給送液することで、この微小流路Gで液体の混合もしくは化学反応が行われる。
【0035】
図3は裏蓋12Bを示し、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)中のB-B断面線に沿った縦断面図である。
【0036】
裏蓋12Bには、マイクロ流体素子本体11の窪み14a〜14m,17に対応する位置に後述する継手60a〜60m,60nを嵌め込むための孔12Baa〜12Bam.12Banを設けてある。孔12Baa〜12Bam,12Banは、マイクロ流体素子10の各供給口と排出口として機能する。
【0037】
なお、12Bba〜12Bbm,12Bbnはマイクロ流体素子本体11における各窪み14a〜14mと窪み17を設けた周囲を囲む凸状の突出部19a〜19m,19nと嵌り合う凹部である。孔12Baa〜12Bam,12Banの内径は凹部12Bba〜12Bbm,12Bbnの幅や内径より小さくしてあり、孔12Baa〜12Bam,12Banにフランジ部Fをそれぞれ形成した形になっている。
【0038】
継手60a〜60m,60nは同一形状のものを用いており、以下総括的に説明する場合は継手60とし、個別的に説明する場合は継手60a〜60m,60nで説明する。
【0039】
図4は継手60を示し、図4(a)は斜視図、図4(b)は図4(a)中のC−C断面線に沿った縦断面図、図4(c)はD−D断面線に沿った縦断面図である。
【0040】
継手60は、耐薬品性と弾力性と液体シール性に優れ柔軟な素材、例えばシリコーンゴムなどを成形して得たものである。
【0041】
継手60の先端部外面は楔状で2個の傾斜面61と両傾斜面61を結ぶ長円状扁平面62を有し、内部には先端が該長円状扁平面に沿った楔状の空間63を有している。2個の傾斜面61には、長円状扁平面62から張り出した肩部64を設けたあり、また長円状扁平面62の各端部に張り出した突出部65を設けてある。
【0042】
継手60の中央外面部に溝66を設けてあり、この溝60は裏蓋12Bにおける孔12Baa〜12Bam,12Banのフランジ部Fと嵌り合うことで、継手60が裏蓋12Bに装着されるようにしてある。従って、傾斜面61,長円状扁平面62,肩部64,突出部65などの継手60の先端部は裏蓋12Bの凹部12Bba〜12Bbm,12Bbnに進入し、突出部65は、マイクロ流体素子10の各供給口と排出口として機能する孔12Baa〜12Bam,12Banに向けて張り出した形になっている。
【0043】
楔状空間63の下側は下部がやや拡がっている円筒状の空間67としてあり、円筒状の空間67の下端は開孔68となっている。開孔68から送排液管ユニット24の各送液管および排液管を挿入するが、長円状扁平面62と楔状空間63の上端部の間は僅かな距離があり、この距離を厚さとする薄膜があり、挿入前においては、長円状扁平面62はこの薄膜の上面で構成され、楔状の空間63はこの薄膜で封止された形になっている。そこで、長円状扁平面62におけるこの薄膜を封止膜部と呼ぶ。
【0044】
次に、送排液管ユニット24について説明する。
図5は送排液管ユニット24を示す斜視図で、送排液管ユニット24は各継手60a〜60m,60nに対応するように配列したパイプ形状の送液管24aa〜24amと排液管24bおよびこれらを連結している帯状の連結部材24cで一体化してある。
【0045】
送液管24aa〜24amと排液管24bの一端を各各継手60a〜60m,60nに刺し込み(挿入し)、他端に送液系の送液用配管25a〜25mや排液用配管31を接続する。
【0046】
図6は裏蓋12Bに装着してある各継手60a〜60m,60nに送排液管ユニット24を取り付けた場合の一部を示している。各継手60a〜60m,60nに送排液管ユニット24の各送排液管24aa〜24am,24bを刺し込むと、各継手60a〜60m,60nの弾力で各送排液管24aa〜24am,24bを締め付け、抜けを阻止するだけでなく気密性も確保する。従って、送排液管ユニット24をマイクロ流体素子10に固定する部材は必要でなく、ワンタッチでマイクロ流体素子10と送排液管ユニット24を一体化できる。
【0047】
図4に戻り、2個の傾斜面61,長円状扁平面62,肩部64,突出部65および溝66などの機能について説明する。
【0048】
先ず、2個の傾斜面61であるが、継手60が先細りのたけのこ形状となるため。組立て時に特別な工具を使うこと無く、指で押し込むだけで容易に裏蓋12Bに装着することが可能となる。
【0049】
継手60の空間63,67に開孔68から送排液管ユニット24における各送排液管24aa〜24am,24bを挿入し長円状扁平面62の封止膜部を突き破ると、送液系20とマイクロ流体素子10の結合ができるが、逆に送排液管ユニット24を各継手から抜き取ると、図7に示すように、長円状扁平面62には封止膜部を破った跡として一文字状のスリット69が残る。このスリット69の周囲は送排液管ユニット24を各継手60に挿入したときに弾性変形をして、後述する肩部64の機能も相俟って各送排液管24aa〜24am,24bと密着し液漏れを阻止する。
【0050】
マイクロ流体素子本体11における各窪み14a〜14mと窪み17に存在する液体の流体圧が2個の傾斜面61に作用すると、その流耐圧はこのスリット69を塞ぐ作用力として働くので、送排液管ユニット24を各継手から抜き取っても、マイクロ流体素子10から液体が漏れる恐れはない。特に、特定の送液管24aa〜24ambを連結部材24cから着脱自在として、特定の送液管24aa〜24ambを外して送液を継続するような場合でも、液漏れの恐れは全くない。
【0051】
肩部64は、送排液管ユニット24における各送排液管24aa〜24am,24bをスリット69へ差し込んだ時のスリット開方向(図中の切断線C−Cに沿う方向)の肉厚を増やし、図4(b)の軸中心方向への内部応力を増加させることができる。これにより、スリット69が閉じようとする力が強化され、各送排液管24aa〜24am,24bを刺し込んだ時に各送排液管24aa〜24am,24bとスリット69が密着して液漏れを防ぐ。また、各送排液管24aa〜24am,24bを刺し込まない場合や送液後に送液管28を引き抜いた場合も軸中心方向への内部応力でスリット69は閉じた状態を維持し、液体が逆流する(漏れる)ことを防ぐことができる。
【0052】
一文字状のスリット69に対し、十字状のスリットや米字状のスリットは弾力が大幅に低下し、各送排液管24aa〜24am,24bとの密着性が低く液漏れを起すことが確認された。また、十字状のスリットや米字状のスリットでは各送排液管24aa〜24am,24bを引き抜いた場合、当該スリットを閉じようとする力が弱く、裏蓋12Bにおける各窪み14a〜14mや窪み17に存在する液体の流体圧で変形して同様に液漏れを起し、継手60はスリット69が一文字状である形状が重要であった。
【0053】
長円状扁平面62の両端に設けた突出部65は、各送排液管24aa〜24am,24bを差し込んだ場合にスリット69の端部より発生する可能性のある亀裂の予防及び、発生した亀裂の進行防止を果たす。この突出部65を設けることで、継手60に各送排液管24aa〜24am,24bを繰り返し刺し込んでもスリット69の形状を保つことができ、継手60の長寿命化が図れる。
【0054】
中段に設けられた溝66は裏蓋12Bにおける孔12Baa〜12Bam,12Banに嵌め込んだ時にフランジ部Fでしまりばめとなるように作られており、孔12Baa〜12Bam,12Banの内面と密着して液漏れを防ぐ。
【0055】
継手60の寸法の一例では、図4(2)において、全高さh1は4.5mm、2個の傾斜面61の高さh2は1mm、外径Φ1は4mm、先端部の外径Φ2は2.5mm、そして空間67での内径Φ3は1.6mmである。
【0056】
このような構成の継手60を使用することによって、図1に実線や点線の矢印で示すように液漏れなく液体をマイクロ流体素子10内に送液することができ、水溶液を用いて送液した結果、0.2MPaまでは液漏れなくシールできることを確認した。
【0057】
図1において、所要の処理を行なうために、キーボード51でマイクロ流体素子本体11に供給する液体の種類とその比率などのデータを入力すると、制御装置52はポンプ22a〜22mの中から所要のポンプを決めてその回転数を設定する。そして、電磁弁23a〜23mの中から所要の電磁弁を選択して開く指示を出す。マイクロ流体素子本体11には液体を同時に供給する必要があり、選択されたポンプと電磁弁のそれぞれに制御装置52から同時に動作指令が出される。
【0058】
すると、図2(a)に示すように孔15a〜15mのうち開かれた電磁弁23a〜23mに連通する送液管送排液管24aa〜24amから点線の矢印で示すように所望の液体が窪み14a〜14mに噴出する。噴出した液体は各孔15a〜15mが並んだ方向(図2(a)においては上下方向)へ移動し、各窪み14a〜14mを満たす。この結果、液体は各孔15a〜15mに均一に供給されることになり、各窪み14a〜14mは液体の分配器の機能を果たしている。
【0059】
各孔15a〜15mが供給口となって窪み13に流出した液体は、流れ規制壁16a〜16mがあるために、実線の矢印で示すように孔18の方向に流れを変える。各孔15a〜15mから流れ出た各液体は、下流側の流れ規制壁16a〜16mの間を流れるので、前後において流れは並行し、液体同士の接触面積は大きなものとなっている。
【0060】
従って、マイクロ流体素子本体11は鋳型に樹脂を流し込んで流れ規制壁16a〜16mや突出部19a〜19m,19nを一体成形により製作し、上面部に蓋12Aを密着固定すると窪み13は特異的な物理現象を起す微小流路Gとなり、混合や反応の所要の処理結果を得ることができる。
【0061】
各孔15a〜15mから流れ出た各液体が下流側の流れ規制壁16a〜16mの間を並行して流れるようにするために、前後(上流と下流)に位置する各孔15a〜15mは千鳥配置にすれば良い。
【0062】
同じ液体を用い、成分比率を変えて所要の処理を行なう場合は、マイクロ流体素子10はそのままで良いが、異なる液体を用い異なる処理を行なう場合は、マイクロ流体素子10を交換し、所要の処理に無関係の液体が混入することを避ける必要がある。
【0063】
この場合は、送排液管ユニット24をマイクロ流体素子10の裏蓋12Bから引き抜いて、裏蓋12Bに継手60a〜60m,60nを装着した新たなマイクロ流体素子10を準備し、新たなマイクロ流体素子10における継手60a〜60m,60nに送排液管ユニット24を突き刺して連結すれば、送液系20と排液系30は簡単にマイクロ流体素子10と結合し一体化できる。
【0064】
送排液管ユニット24は裏蓋12Bに装着されている継手60a〜60m,60nとの位置関係が決まっているから、送液管24aa〜24amの方向性など配慮する必要が無く、作業は短時間に済み、熟練を必要としない。送液管28の吐出口は横向きに設けてあるので、目詰まりを起し難く、マイクロ流体素子10交換時の清掃作業も簡単でよい。
【0065】
マイクロ流体素子10は送排液管ユニット24を外すだけで送液系20や排液系30に対し簡単に交換できるので、マイクロ流体素子10の小型化を図ることができ、小型化によりマイクロ流体素子10を一層性能や機能に優れたものとすることができる。
【0066】
継手60が弾力性に富み、送排液管ユニット24を繰り返して抜き差ししてもスリット69の切れ目が進行しない耐裂帛性に優れた材料で成形する場合、図4に示した肩部64や突出部65を設けない図8に示す継手60Aを用いても良い。
【0067】
図4に示した肩部64や突出部65を持たない継手60Aは、図4の継手60の原型であり、2個の傾斜面61,長円状扁平面62および溝66をそのまま保有している。
【0068】
なお、長円状扁平面62に示した点線は、各送液管24aa〜24amおよび排液管24bの挿入により封止膜部が破裂してできる一文字状スリットの位置である。
【0069】
図9は、継手60の変形になる継手60Bを示している。
継手60Bは、先端部に截頭断面(先端の頭頂部を図において水平に切断したときに表れる断面)が長円状扁平面62である錐状の外斜面61Bを有し、図示していないけれども、内部には先端が該長円状扁平面62に沿った楔状の空間を有しており、溝66の両側は同じ外径としてあり、長円状扁平面62には各送液管24aa〜24amおよび排液管24bの挿入により破裂する封止膜部を備えている
この継手60Bも図3のように裏蓋12Bのフランジ部Fと溝66が嵌り合うようにして裏蓋12Bに装着する。そして、送排液管ユニット24を図6のように、その楔状空間に挿入し、長円状扁平面62から先端を突出するように刺し込むことができる。
【0070】
継手60Bは先端部が錐状であることから、内部の楔状空間との関係で図4に示した肩部64の位置が厚くなって高弾力となるので、送排液管ユニット24に対する高い密着性やスリットにおける高い閉鎖性を持っている。
【0071】
また、図10は継手60Bの更なる変形になる継手60Cを示し、図9のように先端部に截頭断面が長円状扁平面ある錐状の外斜面61Cについて長円状扁平面の中央を一段下げた長方形扁平面62Cとし、その一段高い両側を図4の突出部65に相当する突出部65Cとしたものである。図において溝66の上下の両側については、先端側の外径をやや小さくして、裏蓋12Bの孔12Baa〜12Bam,12Banに挿入しやすいようにしてある。
【0072】
突出部65Cがあることで、送排液管ユニット24を抜き刺しして長方形扁平面62Cにできるスリットに対する高い耐裂帛性を持っている。
【0073】
図11は図3に示した裏蓋12Bの変形になる裏蓋12Cを示している。
平面でみれば、図3の裏蓋12Bと同じ形であるが、図11(a)のE−E切断線に沿った縦断面では図11(b)のように、各供給口と排出口として機能する孔12Caa〜12Cam,12Canにおけるフランジ部Fを上面と下面の間の内部に設けてあり、継手60a〜60m,60nを容易に挿入できるようにしてある。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明になるマイクロ流体装置の概略構成を示した図である。
【図2】図1に示したマイクロ流体装置におけるマイクロ流体素子の詳細な構成を示す図である。
【図3】図1に示したマイクロ流体装置における裏蓋の詳細な構成を示す図である。
【図4】図3に示した裏蓋に装着する継手の斜視図及び断面図である。
【図5】図1に示した送排液管ユニットの詳細な構成を示す図である。
【図6】図2に示したマイクロ流体素子と図5に示した送排液管ユニットの結合状況を示す図である。
【図7】図4に示した継手にできるスリットについて説明する図である。
【図8】図4に示した継手の変形になる継手を示す図である。
【図9】図4に示した継手の変形になる他の継手を示す図である。
【図10】図9に示した継手の変形になる継手を示す図である。
【図11】図3に示した裏蓋の変形になる裏蓋を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1…マイクロ流体装置
10…マイクロ流体素子
20…送液系
24…送排液管ユニット
30…排液系
60、60a〜60m,60n…継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の供給口から供給された種類の異なる液体を微小流路に導き該微小流路で該液体の混合もしくは化学反応を行わせて該微小流路の下流にある排出口から所望の液体を得るマイクロ流体素子と、該マイクロ流体素子の各供給口に種類の異なる該液体を送液する送液系と、該マイクロ流体素子における該排出口から所望の液体を受ける排液系を有するマイクロ流体装置において、
該各供給口と排出口のそれぞれに弾性部材よりなる継手を装着してあり、該各継手の先端部外面は楔状で2個の傾斜面と両傾斜面を結ぶ長円状扁平面を有し、内部には先端が該長円状扁平面に沿った楔状の空間を有しており、
該送液系と排液系は該各継手の楔状空間に挿入し、該長円状扁平面から該各供給口と排出口側に向けて先端を突出させた各送液管および排液管を備えている、
ことを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項2】
少なくとも2個の供給口から供給された種類の異なる液体を微小流路に導き該微小流路で該液体の混合もしくは化学反応を行わせて該微小流路の下流にある排出口から所望の液体を得るマイクロ流体素子と、該マイクロ流体素子の各供給口に種類の異なる該液体を送液する送液系と、該マイクロ流体素子における該排出口から所望の液体を受ける排液系を有するマイクロ流体装置において、
該各供給口と排出口のそれぞれに弾性部材よりなる継手を装着してあり、該各継手は先端部に截頭断面が長円状扁平面である錐状の外斜面を有し、内部には先端が該長円状扁平面に沿った楔状の空間を有しており、
該送液系と排液系は各継手の楔状空間に挿入し、該長円状扁平面から該各供給口と排出口側に向けて先端を突出させた各送液管および排液管を備えている、
ことを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のマイクロ流体装置において、
該各継手は、楔状の先端部が該各供給口と排出口に挿入されているように装着するものであることを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のマイクロ流体装置において、
該各供給口と排出口はそれぞれ内部にフランジを有し、該各継手は外周に該フランジと嵌り合う溝を有したものであることを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のマイクロ流体装置において、
該各継手は、先端部外面の長円状扁平面と該長円状扁平面に沿った楔状空間の先端の間に該各送液管および排液管の挿入により破裂する封止膜部を備えているものであることを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項6】
請求項1に記載のマイクロ流体装置において、
該各継手は、楔状先端部の各傾斜面に該長円状扁平面から張り出した肩部を設けたものであることを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のマイクロ流体装置において、
該各継手は、先端部における該長円状扁平面の各端部に該各供給口と排出口側に向けて張り出した突出部を設けたものであることを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項8】
少なくとも2個の供給口から供給された種類の異なる液体を微小流路に導き該微小流路で該液体の混合もしくは化学反応を行わせて該微小流路の下流にある排出口から所望の液体を得るマイクロ流体素子と、該マイクロ流体素子の各供給口に種類の異なる該液体を送液する送液系と、該マイクロ流体素子における該排出口から所望の液体を受ける排液系を有するマイクロ流体装置における該各供給口および該排出口に装着してあり該送液系および該排液系とそれぞれ接続する継手において、
該各継手は弾性部材よりなり、先端部に截頭断面が長円状扁平面である錐状の外斜面を有し、内部には先端が該長円状扁平面に沿った該送液系および該排液系における各送液管および排液管が挿入される楔状空間をそれぞれ有していることを特徴とする継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−317309(P2006−317309A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140835(P2005−140835)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000233077)株式会社 日立インダストリイズ (97)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【出願人】(597096161)株式会社朝日ラバー (74)
【Fターム(参考)】