説明

マイクロ流路デバイス

【課題】マイクロ流路に導入した微小粒子を含む液体中で、微小粒子の分離・輸送を行う。
【解決手段】非対称電極をアレイ状に配置し、これに順次交流電圧を印加し、液体中の微小粒子の分離・輸送を行う。特に非対称電極を対にし、相対する電極に位相を180°ずらして交流電圧を印加し、電極アレイ間に非対称な電界分布をつくることで、微小粒子の分離・輸送を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の微小粒子を操作するマイクロ流路デバイス、及びこのデバイスの作製方法、操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路チップは、ガラス・シリコン・プラスチック基板上に、幅と深さが数μm〜1数百μmほどの流路を作製したものである。微小液体の制御や反応制御が容易であるため、DNAチップや電気泳動チップなどに応用され、更に化学・生化学分析のための操作を全てマイクロ流路チップに集積するというマイクロ化学分析システム(μTAS: Micro Total Analysis System)が提案され活発に研究が行われている。このような技術は、特許文献としても数多く挙げられるが、例えば特許文献1や特許文献2である。特許文献1ではマイクロ流路構造を工夫し、検査液の溶解・混合処理の精度を向上するとしている。また特許文献2ではマイクロリアクタシステムについて記載されている。
【0003】
現在、細胞・タンパク質などの機能解析や医療用薬品・化学薬品の開発・製造のために、マイクロ流路チップを用いた細胞分析システムの構築が盛んに研究されている。通常の細胞培養実験方法では細胞や培地を必要以上に消費し、更に操作は通常ピペットなどを用い行われるため、操作時間も長くなる。マイクロ流路チップを用いると、分析に必要となる細胞や培地、試薬等も微量ですみ、かつチップ中流体の操作が容易であるため、実験分析が簡便となる。ただ現在のマイクロ流路チップを用いた細胞分析システムは、チップ中の流路と流体に外部から印加した圧力で制御するため、マイクロ流路チップ中の細胞分離・輸送の自由度は低い。また特許文献3ではマイクロ流路チップの開口部より電圧印加し、電気泳動により細胞操作するとしているが、チップ開口部からの電圧印加なので高い電圧が必要であり、また電圧印加方法など流路構造ごとに設計する必要がある。誘電泳動力は、液体中に細胞などの微小粒子があるとき、これに交流電圧を加えると、周波数と電界の勾配に応じて微小粒子は力を受ける。この誘電泳動力の文献として、例えばレビューとして、非特許文献1がある。誘電泳動力を用いた非対称電極による微小粒子の制御方法として、非特許文献2に示されるクリスマスツリー型電極を用いたものがあるが、独立した2つの電極を用い、物理的形状によるブラウン運動の非対称性を利用したものであり、確率論的な制御方法であり不確実なものである。本発明は、独立した複数の非対称電極を用い、マイクロ流路チップ中の細胞分離・輸送を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−151770号公報
【特許文献2】特開2008−221095号公報
【特許文献3】特開2008−237073号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. P. Hughes, Electrophoresis, 23, 2569-2582 (2002).
【非特許文献2】J Rousselet, L. Salome, A. Ajdari and J. Prostt, Nature 370, 446 - 447 (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロ流路に導入した微小粒子を含む液体で、微小粒子の分離・輸送を行う。
【0007】
本発明によれば、非対称電極をアレイ状に配置し、これに順次交流電圧を印加し、液体中の微小粒子の分離・輸送を行う。特に非対称電極を対にし、相対する電極に位相を180°ずらして交流電圧を印加し、相対する電極間に非対称な電界分布をつくることで、微小粒子の分離・輸送を行う。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のマイクロ流路デバイスは、
基板上に作製した微細液体流路中に非対称電極をアレイ状にならべ、これに電圧を印加することで流路液体中の微小粒子を操作することを特徴としている。
【0009】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
非対称電極のアレイに順次電圧印加を行い、液体中の微小粒子を連続的に操作することを特徴としている。
【0010】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
非対称電極を対にし、対向した電極に位相を180°ずらした交流電圧を印加し、液体中の微小粒子を連続的に操作することを特徴としている。
【0011】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
非対称電極対をアレイ状にならべ、非対称電極対に順次電圧印加を行うことで、液体中の微小粒子を連続的に操作することを特徴としている。
【0012】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
非対称電極のアレイに複数の周波数の違う交流電圧を印加し、液体中の微小粒子を操作することを特徴としている。
【0013】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
液体中の微小粒子が細胞であることを特徴としている。
【0014】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
流路中の液体が血液であることを特徴としている。
【0015】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
非対称電極への電圧印加を、同一基板上に作製した半導体素子を用いて制御することを特徴としている。
【0016】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
半導体素子がトランジスタであることを特徴としている。
【0017】
本発明のマイクロ流路デバイスは、
半導体素子が薄膜トランジスタであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マイクロ流路中の微小粒子の分離・移動を局所的・連続的に行うことができ、マイクロ流路チップを用いた細胞分析システムでの応用ではチップ中の特定の細胞の分離・移動が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例によるマイクロ流路チップの概略を説明するための図である。
【図2】本発明の実施例によるマイクロ流路チップ作製工程の例である。
【図3】本発明の実施例による非対称電極による電界分布の例である。
【図4】本発明の実施例による電極への電圧印加方法を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例によるマイクロビーズ制御の例を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例による電極への電圧印加制御を、半導体素子を用いて行う方法を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係るマイクロ流路デバイスを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は本発明の実施例によるマイクロ流路チップの概略を説明する図である。図1を参照すると、まず基板上に電極を形成する。電極は例えばチタンと白金の多層膜で作製されている。これにマイクロ流路を形成したPDMS(Polydimethylsiloxane)を張り合わせマイクロ流路チップとする。マイクロ流路中には非対称な形状をした電極が露出している。この非対称な形状により電界分布を形成し、電極に順次電圧印加を行うことにより、微小粒子の移動を行う。図2は本発明の実施例によるマイクロ流路チップ作製工程の例である。図3は本発明の実施例による非対称電極での電界分布の例である。左から2つめの電極対に電圧を印加している。電極が非対称であるため、電位分布も非対称である。図4は本発明の実施例による交流電圧印加方法を説明するための図である。図5は非対称電極を用いた微小粒子の移動操作を行った実施例の写真である。図6はマイクロ流路チップに制御用半導体素子を用いた例を説明するための図である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係るマイクロ流路デバイスは、例えば微小粒子を含む液体で、微小粒子の分離・輸送に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0023】
1 基板
2 電極パッド
3 PDMS
4 マイクロ流路
5 金属配線
6 非対称電極
7 半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に作製した微細液体流路中に非対称電極をアレイ状にならべ、これに電圧を印加することで流路液体中の微小粒子を操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、非対称電極のアレイに順次電圧印加を行い、液体中の微小粒子を連続的に操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項3】
請求項1において、非対称電極を対にし、対向した電極に位相を180°ずらした交流電圧を印加し、液体中の微小粒子を連続的に操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項4】
請求項3において、非対称電極対をアレイ状にならべ、非対称電極対に順次電圧印加を行うことで、液体中の微小粒子を連続的に操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項5】
請求項1において、非対称電極のアレイに複数の周波数の違う交流電圧を印加し、液体中の微小粒子を操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項6】
請求項1において、液体中の微小粒子が細胞であることを特徴とする、液体中の微小粒子を操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項7】
請求項1において、流路中の液体が血液であることを特徴とする、液体中の微小粒子を操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項8】
請求項1において、非対称電極への電圧印加を、同一基板上に作製した半導体素子を用いて制御することを特徴とする、液体中の微小粒子を操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項9】
請求項7において、半導体素子がトランジスタであることを特徴とする、液体中の微小粒子を操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。
【請求項10】
請求項7において、半導体素子が薄膜トランジスタであることを特徴とする、液体中の微小粒子を操作する方法、及びこれを行う装置と装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227735(P2010−227735A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74999(P2009−74999)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】