説明

マイクロ3D

【課題】顕微鏡写真による二次元情報を三次元情報にするためには、標本の位置と角度をそろえる必要がある。
【解決手段】連続切片のプレパラート上の標本は位置、傾きが一定ではないので連続するデジタル顕微鏡写真が重なり合うようにコンピューター上で位置と角度を調整する必要がある。このために、連続切片のデジタル画像上で三点の特徴的な位置を選択し、その三点をマーカーとして連続する二枚の画像が重なるように回転、平行移動、伸縮する。この操作において二枚の画像をモニター上で交互に点滅させ残像を利用して最も動きが少なくなるように位置と角度を微調整する。このようにして得られた画像のビットマップファイルデータを切片の厚さを有するボクセル情報とし、その情報を積み重ねることによって、顕微鏡レベルの生体組織のデジタル三次元情報を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡写真のデジタル情報を再構成することによって生体の顕微鏡レベルの三次元構造を明らかにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な組織検査にはホルマリン固定された標本をパラフィンに包埋し、2μmの厚さに薄切された切片をプレパラートに貼り付けた後に染色し、顕微鏡で観察することによって研究、診断に供している。
【0003】
その際に得られる情報は平面的なものであり、組織の三次元構造を解明しようとする場合は連続切片から得られる平面的な情報を人の脳で再構成し、模式図として表していた。
【0004】
一方、平面情報がデジタルデータとして得られる場合は、それをコンピューター上でボクセルとして再構成することにより、連続する平面データから三次元構造を得ることが出来る。
【0005】
顕微鏡写真の三次元表示についての技術に関連する参考技術文献として、三次元画像作成方法に関するものが特公平11−337464に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体組織の微細な三次元構造を明らかにする手段として、生体組織の連続切片の顕微鏡写真をデジタルカメラで撮像し、そのデジタル情報を切片の厚さを有するボクセル情報とし、その情報を積み重ねることによって、顕微鏡レベルの微細な生体組織のデジタル三次元情報を得ることが出来る。
【0007】
一般に、スライドガラス上の標本の位置と角度、およびそれを撮影した顕微鏡写真上の標本の位置と角度はばらばらであり、デジタル写真の二次元情報を三次元情報とするためには標本の位置と角度をそろえる必要がある。
【0008】
この目的で、試料近傍にあらかじめ目印を立てておくなどの手順が必要とされたが、試料と共にパラフィン包埋される目印は、薄切以後の必要な操作によって、試料との位置関係が容易にずれるために、必ずしも有効な指標とはならないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明では生体組織の連続切片の顕微鏡デジタル写真について標本内の特徴的な三点をマーカーとして、それらのマーカーのその角度と位置をコンピューターでそろえることによって生体の顕微鏡レベルの三次元構造を表示しようとするものである。
【0010】
その際、連続する二枚の写真を交互に点滅させることによって、人間の目の残像を利用して映像が最も静止して見えるように調整することで、二枚の写真のずれを最小限にすることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
任意の組織で、顕微鏡レベルの三次元構造がデジタル情報として得られることにより、あらゆる組織の微細な三次元構造をコンピューター画面上で表示することが出来る。
【0012】
従来、組織の微細な三次元構造はほとんど未知の領域であり、この発明によって顕微鏡的スケールの解剖学は新たな進展を見せることが期待できる。
【0013】
病理学の分野でも例えば正常の消化管粘膜と、腺癌に見られるような癌化に伴う三次元構造の変化を詳細に研究することが可能になる。
【0014】
発生学の分野でも胎児の全割連続切片を再構成することによって各臓器の三次元構造の発生過程を顕微鏡レベルで明らかにすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
現在の技術ではパラフィンに包埋された組織は2μmに薄切することが安定的になされている。したがって1mmの標本からは500枚の連続顕微鏡写真を得ることが出来る。顕微鏡写真の平面をXY軸とし、三次元方向をZ軸としたとき、Z軸の画像分解能はこの切片の厚さに逆相関する。
【0016】
顕微鏡写真のモニター表示は画像を重ねて3Dに再構成する場合1ピクセル幅が実物の2μmに相当するので960x1280画素の場合モニターに表示される写真は実物では縦2mm横3mmに相当する。通常この拡大率は40倍の拡大率の顕微鏡写真を960x1280画素でモニターに表示することに相当する。
【0017】
細胞の大きさを直径10μmの球とすると、厚さ2μmの連続切片では組織における細胞はそれぞれZ軸に関して5枚の切片の平面に分割された顕微鏡写真のデジタルデータとして得ることが出来る。拡大率を40倍にすることによって960x1280画素のデジタル顕微鏡写真ではXY軸に関しても2μmが1ピクセルに相当するので、相当の解像度を供した場合、直径約約10μmの球に対しては65ボクセルのデータを得ることが出来、組織レベルでの三次元構造を明らかにするには十分な解像度を得ることが出来る。
【0018】
プレパラート上の標本は位置、傾きが一定ではないので撮影される顕微鏡写真も位置、傾きは様々である。三次元のデータを得るためには連続する顕微鏡デジタル写真画像を可及的に重なり合う画像としなければならない。
【0019】
そこで、まず図1のように顕微鏡写真のX1に特徴的な三点a1,b1,c1と連続する写真X2の相対する三点a2,b2,c2をマーカーとし、画像X1上の二点a1,b1を結ぶ直線と次の画像X2で相対する二点a2,b2を結ぶ直線との角度θを算出する。
【0020】
次に、画像X2上の二点a2,b2を中心として一辺40ピクセルの正方形のマーカー画像A2,B2を画像X2より抽出し、そのマーカー画像A2,B2をX1画面上でA2の中心a2がa1に重なるように平行移動する。
【0021】
次にマーカー画像B2をa2を中心とし、線分a2b2を半径としてで角度θ回転移動し、さらにマーカー画像A2,B2を角度θ回転し画像X1上に表示すると画像X2上のマーカー画像A2,B2は画像X1上で対応するa1,b1の位置と角度に表示される。
【0022】
ここで、マーカー画像A2,B2を点滅させつつ必要に応じて上下左右に移動させ、残像を利用して、それぞれのマーカー画像が最も静止して見える位置に調整する。この調整されたマーカー画像をA2’,B2’、その中心をa2’,b2’とする。
【0023】
ここで、画像X1上の二点a1,b1を結ぶ直線とa2’,b2’を結ぶ直線との角度をθ’とし、画像X2を角度θ’回転し、a2’がa1重なるように平行移動し画像X2’を得る。このときc2はc2’に位置する。
【0024】
次に、線分a2’b2’の長さが線分a1b1に、直線a2’b2’と点c2’間の距離を直線a1b1と点c1間の距離になるように画像X2’を上下左右方向に伸縮する。
【0025】
このようにして得られた画像X2’を画像X1上で点滅させ、最も静止して見えるように上下左右の平行移動、伸縮の微調整を行い元の画像X1に位置と角度の重なりあう画像X2’を得る。
【0026】
上記の操作を繰り返すことにより、連続切片のデジタル顕微鏡画像のビットマップファイルをXY平面の二次元配列データとして順に並べ、図2に示すように組織のZ軸上に対応する三次元配列データを得ることができる。
【0027】
この三次元配列データによってXY、YZ、ZX平面の画像をコンピューター上で容易に得ることができる。さらこの三次元配列データをもとに立体構造を持つ組織の任意の平面での割面を表示することが出来る。
【実施例】
【0028】
胆嚢壁について実際にマイクロ3D法を実施し、YZ平面を図3、ZX平面を図4示す。図に示すように拡大率40倍の顕微鏡レベルでの胆嚢壁の三次元構造は明らかにすることができるが、胆嚢壁その薄さゆえに切片作成時にたわみなどの変形を生じ細胞レベルでの分析は困難であるのが現状である。
【0029】
標本自体については、カッター交換時の連続切片の中断、標本の変形、薄切切片の厚さの変化による染色の不均一などがあり、変形、中断のない安定的な連続切片作成技術の開発が必要である。
【0030】
また、画像処理についてはコンピューターによる画像の自動重ね合せ、標本の変形の修正などが今後の課題である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
マイクロ3D法によって得た三次元デジタル情報からCAD(Computer Aided Design)の方法を用いて組織表面の三次元画像を得ることが出来る。
【0032】
さらにレンダリングにより毛細血管、リンパ管、細胆管、微細膵管、消化管上皮腺菅、細気管支、腎尿細管、糸球体などのバーチャル顕微内視鏡を行うことが出来る。
【0033】
筋神経系では脳脊髄の神経線維の走行を追及することが出来る。また筋線維、膠原線維の走行も三次元的に明らかにすることが出来る。
【0034】
病理学の分野でも正常の消化管粘膜と、腺癌に見られるような癌化に伴う三次元構造の変化を従来の細胞異型度に加えて癌の診断に供することが出来る。
【0035】
発生学の分野でも胎児の全割連続切片を再構成することによって各臓器の三次元構造の発生過程を細胞レベルで明らかにすることが出来る。
【0036】
ES細胞を用いた臓器再生の過程でも三次元構造の解析は必須であり、マイクロ3Dの方法が、将来の人工的な臓器再生の研究に貢献することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】胆嚢壁を表した顕微鏡写真である。右下のX1画像の三点a1,b1,c1をマーカーとし,次の画像X2で相対するマーカーa2,b2,c2の位置を決定しこれらが合致するように画像の角度と位置を調整する。
【図2】胆嚢壁の連続切片を表した顕微鏡写真である。画像のビットマップファイルをXY座標の二次元ボクセルデータとし、連続切片の順にZ軸上に並べることによって組織の三次元データを得ることが出来る。
【図3】得られた三次元データから胆嚢壁のYZ平面画像を再構成したものである。
【図4】得られた三次元データから胆嚢壁のZX平面画像を再構成したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡連続切片のデジタル写真画像を可及的に重なり合う画像とするために標本内の特徴的な三点をマーカーとして重ねあわすべき画像の相対する二点が重なるように画像を回転し、さらに三点が重なるように平行移動伸縮して位置を合わせる方法。
【請求項2】
この操作において近似的に重なりあうように調整した二枚の画像をモニター上で交互に点滅表示させ残像を利用して最も静止して見えるように二枚の画像の位置と角度を微調整する方法。
【請求項3】
このようにして得られた連続切片のデジタル情報を切片の厚さを有するボクセル情報とし、その情報を積み重ねることによって、顕微鏡レベルの微細な生体組織のデジタル三次元情報を得る方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−46098(P2008−46098A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243432(P2006−243432)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(501489432)
【Fターム(参考)】