説明

マクロライド免疫抑制剤を含む新規な医薬組成物

本発明は、マクロライド免疫抑制剤の新規な医薬組成物を提供する。組成物は、親水性成分、親油性成分、および両親媒性成分を含む。好ましくは、組成物は、液体マイクロエマルションとして製剤化されている。さらに本発明は、たとえば炎症性疾患および自己免疫疾患の局所治療など、そのような組成物の使用を提供する。組成物を調製する方法をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タクロリムスなどのマクロライド免疫抑制剤の新規な医薬組成物に関する。本発明はさらに、難溶性マクロライド免疫抑制剤を可溶化することができ、局所投与に適している医薬組成物に関する。さらなる態様において、本発明は、そのような組成物の治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫抑制剤は、免疫系の活性を低下させる医薬化合物である。免疫抑制剤は、一般に自己免疫疾患の療法、ならびに臓器移植の予防および治療に用いられる。自己免疫疾患は、今日、たとえばクローン病、多発性硬化症、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、アジソン病、および他の多数の症状で知られる、免疫系のある種の過敏性に関与すると考えられている症状である。臓器移植後、レシピエントの免疫系はほとんどの場合、ドナーとレシピエントとの間のヒト白血球抗原ハプロタイプの相違のため、新しい臓器を外来性で潜在的に敵性の物質とみなし、その細胞成分を攻撃し破壊することによって、それを除去しようとする。
【0003】
治療的使用のために開発された免疫抑制剤は、それらの化学構造および/または作用機序に従って分類することができる。初期の免疫抑制剤には、特に、アザチオプリン(プリン合成阻害剤)およびメトトレキサート(葉酸拮抗剤)などの代謝拮抗剤があった。移植レシピエントに対する実質的な治療的効用は、最初のマクロライド、特にシクロスポリン、後のタクロリムスの出現によってもたらされた。関連する構造および作用を有するさらなる免疫抑制化合物には、ピメクロリムス、エベロリムス、シロリムス、デフォロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、およびゾタロリムスが含まれる。さらに最近では、免疫応答に関与する種々の細胞および非細胞標的に対する抗体および融合タンパク質、たとえばインフリキシマブ、エタネルセプト、リツキシマブ、トシリズマブ、およびアバタセプトなどが開発され、薬剤市場に導入されている。
【0004】
タクロリムス、シロリムス、エベロリムスなどのマクロライド免疫抑制剤は、ひとたび生体または標的組織に吸収されると極めて活性であるが、特に溶解性に乏しく、分子サイズが比較的大きいため、製剤化して、作用部位に送達するのが困難な化合物である。経口および静脈内投与経路による全身療法のために、マクロライド免疫抑制剤は、典型的に相当量の可溶化賦形剤、たとえば界面活性剤および有機溶媒などを含む可溶化製剤として提供されている。
【0005】
本発明において特に対象となる化合物であるタクロリムスは、希釈後に静脈内注入するための濃縮物として、および経口硬カプセル製剤として最初に開発された。注入用濃縮物では(現在、Astellasによって、たとえばPrograf(登録商標)として市販されている)、タクロリムス(5mg)はエタノール(638mg)とマクロゴールグリセロールリシノレアート(200mg)の混合物中に可溶化されており、これらの賦形剤は多くの患者にとっては十分に耐性ではないが、薬剤物質の溶解性が非常に乏しいことを考慮して、賦形剤は依然として必要であるとみなされている。これらの全身製剤は、臓器移植拒絶の予防および治療のために、もっとも頻繁には腎臓、肝臓、または心臓移植を受けた患者に用いられている。
【0006】
さらに最近、タクロリムスは、アトピー性皮膚炎を治療するための軟膏として開発された。現在市販されている製剤(たとえば、ドイツで2002年からAstellasによってProtopic(登録商標)として市販されている)は、2種の濃度(それぞれ0.3mg/gおよび1mg/g)で入手可能であり、賦形剤ワセリン、流動パラフィン、固形パラフィン、ワックス、およびプロピレンカルボナートを含有する。
【0007】
アトピー性皮膚炎の治療におけるタクロリムスの治療有効性は、米国およびヨーロッパの成人患者(1、4)、ならびに3歳から6歳の小児(23、25)による様々なプラセボ対照多施設臨床研究で実証されている。局所用タクロリムスも、接触皮膚炎の治療に有効であると考えられる(15、16)。対照的に、乾癬を治療するための局所用タクロリムスの実験的使用は、乾癬は自己免疫疾患であると明確に特定されているにもかかわらず、おそらく活性成分の浸透および取り込みに対し考慮すべき拡散障壁となり得る乾癬プラークの厚さと構造のため、一般に成功していない(11、30)。一部の特別な場合にのみ、たとえば、閉鎖条件を適用することによって(22)、リポソーム製剤を使用することによって(8)、または比較的薄い顔面の皮膚を治療、もしくは薬剤をしわに投与することによって(10、14、17、18、26、28、29)、比較的肯定的な結果が得られている。
【0008】
しかしながら、そのような特別の場合は、いくつかの欠点を伴うことに留意されたい。たとえば、皮膚の閉鎖は、患者に不快とみなされるだけでなく、皮膚の一部の領域(たとえば、顔、ひだの中、関節付近など)では実行可能性が乏しく、一般に広いかまたは複数の罹患部位の場合には受け入れられない。リポソーム製剤は、工業規模で再現可能な様式で容易に製造できないという点で不都合である。さらに、リポソーム製剤は、無傷の皮膚ではなく、罹患した部位に用いられる製品として望ましい、滅菌または無菌条件下での生産が困難である。罹患した皮膚の一部の領域のみを治療することは、明らかに他の罹患部位が未治療または治療不十分のままであるという不利益を伴う。
【0009】
タクロリムスの従来の軟膏製剤の限定された有効性は、現在入手可能な局所タクロリムス製品(Protopic(登録商標))が乾癬の治療ではなく、アトピー性皮膚炎の治療にのみ承認されているという事実によっても示される。
【0010】
他のマクロライド免疫抑制剤は、タクロリムスと同様に、難溶性で比較的大きい分子であり、これらも製剤化が困難であり、乾癬プラークの浸透に関して同じ限界を有する可能性がある。これらの化合物はいずれも、乾癬治療用の局所製剤としての開発には成功していない。
【0011】
したがって、アトピー性皮膚炎以外の他の症状の治療に適しており、有効であるタクロリムスなどのマクロライド免疫抑制化合物の改善された局所製剤が求められている。特に、閉鎖を必要とせず、リポソームを伴わず、大規模に容易に製造することができ、かつ/または組成物の今日知られている1つまたは複数の不利益のない製剤を用いて、乾癬を治療するための局所薬剤が求められている。
【0012】
本発明の目的は、そのような組成物を提供することである。さらなる目的は、マクロライド免疫抑制化合物の組成物の有益な使用、およびそのような組成物を調製する方法を提供することである。さらなる目的は、明細書および特許請求の範囲を考慮して理解されるであろう。
【0013】
WO03/053405A1は、眼科使用のため、および眼乾燥症候群の治療用に提示されたエマルションを開示していることに留意されたい。エマルションは、液滴径150nmから250nmを有し(7頁、13行)、したがって、マイクロエマルションとは対照的に、自発的には形成しない通常のエマルションであり、熱力学的に不安定で、光学的に異方性である。さらに、これらのエマルションは、90%超の水およびカチオン性界面活性剤を含む。これらの組成物が皮膚への投与に有用であり得るという示唆はない。
【0014】
EP1929996A2も眼科使用のためのo/w型エマルションを記載している。エマルションは、好ましい粒径100nmから250nmを有し(4頁、段落[0038])、マイクロエマルションとは対照的に、熱力学的に不安定で、光学的に異方性である通常のエマルションをもたらす、エネルギーの投入を要する通常の乳化技法によって調製される(5頁、段落[0043])。この文献は、皮膚を治療するためのエマルションの使用を開示していない。
【0015】
WO2006/062334A1は、水相を添加すると、自発的にマイクロエマルションを形成する、いわゆるマイクロエマルション前濃縮物(自己マイクロ乳化性薬物送達系またはSMEDDSとしても知られる)を開示している。前濃縮物は、たとえばカプセルに充填され、経口投与用である。これらの前濃縮物の発明者等は、経口摂取後、組成物がより高いタクロリムスの全身バイオアベイラビリティをもたらすことを見出した。
【0016】
US2003/0143250A1は、経口投与後、取り込まれた薬物の高い全身バイオアベイラビリティ、および低い被験者間変動を達成する、活性成分シクロスポリンを含むマイクロエマルション前濃縮物を記載している(18頁、段落[0257]から[0259])。この文献は、シクロスポリン以外の薬物を開示していない。
【0017】
GB2315216Aは、経口投与用のタクロリムスの自己マイクロ乳化性およびマイクロエマルション組成物に関する。ここでも、組成物は取り込まれた薬剤物質の改善された血漿濃度を達成する。この文献は、経口投与以外の使用を教示していない。
【0018】
US2003/0059470A1は、通常の工程によって調製され、液滴径100nmから10μm、好ましくは200nmから500nmの範囲を有し、したがって熱力学的に不安定で、光学的に異方性であるo/w型エマルションを教示している(5頁、段落[0075])。
【0019】
WO2006/123354A2は、水相を添加すると、マイクロエマルションを形成することのできる、経口で使用するための疎水性薬物の水を含まない自己マイクロ乳化性組成物(またはマイクロエマルション前濃縮物、もしくはSMEDDS)を提供する。この文献は、経口投与以外の使用を教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】WO03/053405A1
【特許文献2】EP1929996A2
【特許文献3】WO2006/062334A1
【特許文献4】US2003/0143250A1
【特許文献5】GB2315216A
【特許文献6】US2003/0059470A1
【特許文献7】WO2006/123354A2
【非特許文献】
【0021】
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、マクロライド免疫抑制剤の群から選択される治療活性成分、親水性成分、親油性成分、および両親媒性成分を含む医薬組成物を提供する。組成物はさらに、マイクロエマルションとして製剤化されていることを特徴とする。
【0023】
特に有用な実施形態において、本発明は、活性成分としてタクロリムスを含む液体マイクロエマルションを提供する。親水性、親油性、および両親媒性成分の構成成分は、好ましくは皮膚および/または粘膜によって十分に耐性である賦形剤から選択される。特に、タクロリムスマイクロエマルションは水を含むことが好ましい。
【0024】
親水性成分は、1種または複数の液体グリコール、たとえばグリセロール、プロピレングリコール、ペンチレングリコール、および/またはポリエチレングリコールなどと組み合わせて水を含むことができる。親油性成分は、化粧品または皮膚科調剤に用いられる1種または複数の油性賦形剤、たとえばイソプロピルミリスタート、イソプロピルパルミタート、ジブチルアジパート、ジイソプロピルアジパート、および/またはトリグリセリドなどからなることができる。両親媒性成分は、典型的に1種または複数の界面活性剤、たとえばリン脂質、アルキルポリグルコシド、脂肪酸とのソルビタンエステル、および/または脂肪酸とのグリセロールペグ化モノおよびジエステルなどを含む。
【0025】
本発明はさらに、局所治療のため、たとえば皮膚、粘膜、または眼に投与するための、マクロライド免疫抑制剤を含むマイクロエマルション組成物の使用を提供する。さらに、本発明は、アトピー性皮膚炎、乾癬、膠原病、腸の炎症性疾患、眼の炎症性疾患、または移植拒絶などの疾患および症状を治療するための、そのような組成物の使用を提供する。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、そのような組成物を調製する方法を提供する。この方法は、高剪断条件または加圧均質化を適用することなく、組成物の成分を組み合わせ、混合することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明によれば、マクロライド免疫抑制剤の群から選択される治療活性成分、親水性成分、親油性成分、および両親媒性成分を含む医薬組成物が提供される。組成物はさらに、マイクロエマルションとして製剤化されていることを特徴とする。
【0028】
本明細書では、医薬組成物は、少なくとも1種の医薬的に活性な化合物、および少なくとも1種の賦形剤を含み、組成物がヒトまたは動物への投与に適しているように製剤化および処理されている組成物を意味する。本発明の場合、活性成分は、マクロライド免疫抑制剤、すなわち免疫系またはその少なくとも1つの成分の活性を抑制し、1つまたは複数のデオキシ糖残基が結合していてもよい、比較的大きい大環状ラクトン環(たとえば、マクロライド抗生物質の場合14〜16員、本発明で対象となるマクロライド免疫抑制剤の場合、20環員を超えることもある)として一般に定義される、マクロライド環構造を含む化合物である。
【0029】
本発明を実施するのに有用なマクロライド免疫抑制剤には、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、リダフォロリムス、テムシロリムス、およびゾタロリムスが含まれる。特に好ましいのは、ピメクロリムス、シロリムス、エベロリムス、およびタクロリムスである。本明細書では、これらの一般名は、それぞれの活性成分の任意の塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、または他の密接に関連する誘導体を含むものとして理解される。特定の一実施形態において、活性成分は、タクロリムス一水和物(以下、「タクロリムス」とも称する)である。
【0030】
タクロリムス(C44H69NO12*H2O、MW822.05)は、融点127〜129℃を有するマクロライドラクトンである。タクロリムスは、2つのpk値、それぞれ9.97±0.7および−2.38±0.7を示す。タクロリムスの水溶解性は、pH範囲1から10にわたって非常に乏しく、pH10超でのみ、約2倍増大する(24)。タクロリムスは、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルム、酢酸エチル、およびジエチルエーテルに可溶である(20)。その高い親油性は、分配係数、logPオクタノール/緩衝液3.96±0.83にも反映されている(24)。
【0031】
タクロリムスは、1984年に日本で細菌ストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)から最初に単離された。名称タクロリムス(tacrolimus)は、発見場所である筑波(Tsukuba)、化学的コア構造、すなわちマクロライド(macrolide)、および免疫抑制剤(immunosuppressant)としての活性に由来する。その免疫抑制活性はin vitroで、シクロスポリンより50〜100倍高く、in vivoで10〜20倍高い(12)。タクロリムスとシクロスポリンは化学的にあまり密接に関連していないが、それらの作用機序は同じであるか、または少なくとも非常に類似していると考えられる。一般的に言えば、タクロリムスおよびシクロスポリンは、それぞれのサイトカインをコードする遺伝子で転写過程を阻害することによって、マクロファージからのインターロイキン−1の放出、およびTヘルパー細胞からのインターロイキン−2の放出を遮断する。
【0032】
本発明の組成物中の活性化合物の含量は、一般に、たとえば投与部位(たとえば、眼)の性質によって制限される可能性のある、投与すべき製剤の容量を考慮して、賦形剤混合物または担体への化合物の溶解度、および所望の製品の適用例に注目して選択される。タクロリムスの場合、組成物中の含量または濃度は、一般に約0.00001から約20重量%の範囲となる。より好ましくは、約0.01から1重量%の範囲で選択される。特定の実施形態において、組成物は、それぞれ約0.03重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.3重量%、0.5重量%、および1.0重量%を含む。
【0033】
本発明の組成物はさらに、組成物がマイクロエマルションであることを特徴とする。本明細書では、マイクロエマルションは、親油性成分、親水性成分、および両親媒性成分の透明で、熱力学的に安定で、光学的に等方性の混合物である。一般的に、マイクロエマルションは、「普通の」エマルションの形成に通常必要とされるような高いエネルギーの投入を必要とすることなく、成分が組み合わされ、互いに混合されたとき、自発的に形成される。マイクロエマルションは、親水性相に分散されたコロイド親油性相、または親油性相にコロイド分散された親水性相を有することができる。分散相のサイズは、通常約5nmから約400nmの範囲であり、もっとも多くは約200nm未満である。好ましい一実施形態において、粒径は、約5nmから約100nmである。
【0034】
レオロジー特性の点から、マイクロエマルションは、液体またはゲルの形態、すなわち液体または半固体形態であることができる。好ましい実施形態において、マイクロエマルションは、液体形態である。
【0035】
組成物はさらに、親水性成分を含むことを特徴とする。本明細書では、成分は、医薬的に許容される賦形剤、または賦形剤の混合物であり、親水性は、本発明においては、成分が水と混和性であるか、少なくとも実質的に水に可溶性であることを意味する。もっとも好ましくは、親水性成分は液体である。たとえば、親水性成分は、水自体(緩衝液などの主として水性の溶液を含む)、液体極性溶媒、または水と1種または複数のそのような極性溶媒との混合物からなることができる。有用な極性溶媒には、たとえば、アルコール、たとえばエタノール、および液体グリコールが含まれる。特に好ましいグリコールには、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール、および1,2−ペンタンジオール(本明細書ではペンチレングリコールとも称する)が含まれる。
【0036】
プロピレングリコールおよびペンチレングリコールなどのジオールは、いくつかの有益な作用を示すため、本発明において特に好ましい薬剤である。親水性成分の構成成分としての機能を果たすだけでなく、これらのジオールは、皮膚による耐性が非常に高い。さらに、これらのジオールは、そのためにいくらか両親媒性であるとみなすことができる比較的親油性の小さな分子領域を有し、それにより組成物の両親媒性成分の機能が強化され、水難溶性成分の可溶化が増進される。これらのジオールは、皮膚および毛髪に高い親和性を有する。さらに、これらのジオールは相当な抗菌特性を示し、そのためさらなる防腐剤を含まない、または防腐剤レベルが低減された水性局所組成物の製剤が可能になる。
【0037】
さらに、好ましい親水性成分には、(a)水と(b)液体グリコールの混合物、たとえば水とプロピレングリコール、または水とペンチレングリコールの混合物が含まれる。そのような混合物では、水とグリコール(または複数のグリコール)の比率は、自由に選択することができる。より好ましくは、比率は、約1:10から約10:1の範囲である。さらなる実施形態において、比率は、それぞれ1:3から3:1、または1:2から2:1の範囲である。有用な親水性成分の例には、水とペンチレングリコール(2:1)、水とプロピレングリコール(1:2)が含まれる。
【0038】
記載したとおり、親水性成分は、水を含むことができる。水分含量は、好ましくは、全組成物の重量に対して少なくとも約5重量%である。ある種の活性医薬成分の水を含まないマイクロエマルション、および自己マイクロ乳化性組成物が従来技術に記載されているが、これらの組成物は局所投与を想定することが困難である。たとえば、皮膚または粘膜に存在する限られた量の水は、通常、自己マイクロ乳化性組成物のマイクロエマルションへの転換を達成しない。いずれにしても、本発明者等は、親水性成分が、たとえば全組成物に対して少なくとも約5重量%の水、またはそれぞれ少なくとも10重量%、もしくは少なくとも20重量%の水自体を含むとき、本発明がマクロライド免疫抑制剤の局所投与に特に有用であることを見出した。実際、優れた特性(たとえば、良好な皮膚透過および局所耐性など)を示す製剤は、40重量%、45重量%、50重量%以上もの水を含有することができる。したがって、組成物の親水性成分は、全組成物の相当な重量分率、たとえば少なくとも約20重量%、または約50から約80重量%の範囲を占めることができる。
【0039】
組成物の別の必須成分は、親油性成分である。マイクロエマルションにおいて、親油性成分はコロイド分散親油性相の形成に実質的に寄与する。親油性成分は、親油性相を形成することができる医薬的に許容される任意の適切な親油性賦形剤、または賦形剤の混合物からなることができる。単独でまたは互いに組み合わせて親油性成分として用いることのできる好ましい賦形剤には、皮膚および/または粘膜による耐性が十分である油性化合物、たとえばトリグリセリド油、流動パラフィン、液体ワックス、特に化合物イソプロピルミリスタート、イソプロピルパルミタート、ジブチルアジパート、およびジイソプロピルアジパートなどが含まれる。
【0040】
好ましくは、親油性成分は、マイクロエマルションに分散された親油性相を生じ、組成物がo/w型マイクロエマルションの形態であるように選択される。マイクロエマルションに分散された親油性相の粒径は、好ましくは5から200nmの範囲、特に5から100nmの範囲である。
【0041】
さらに親油性成分の含量は、親水性成分の高い含量を可能にするために、全組成物に対して約50重量%または約50重量%未満に保持されることが好ましい。さらなる実施形態において、親油性成分は、それぞれ約30重量%以下、または約20重量%以下の量で存在する。他方、親油性相の量は、活性成分の多くまたはすべてを可溶化するのに十分な量であるべきである。たとえば、タクロリムスの場合、活性成分0.1%、および水を含む相当量の親水性成分(たとえば、50〜80重量%)を含む安定なマイクロエマルション組成物を、たとえばジブチルアジパートからなる10重量%の親油性成分と共に製剤化することができる。
【0042】
本発明によれば、組成物は、さらなる必須の特徴として両親媒性成分を含む。実際、両親媒性成分の存在は、マイクロエマルションの形成に必須の要件である。両親媒性成分は、少なくとも1種、場合により少なくとも2種の両親媒性賦形剤、たとえば界面活性剤を含む。好ましい実施形態において、2種以上の界面活性剤の組み合わせが、両親媒性成分に存在する。
【0043】
医薬または化粧品分野で一般に用いられるいくつかの界面活性剤は、実際には化学的に関連する分子の混合物であることに留意されたい。マイクロエマルションに関する技術文献は、両者の間に機能的相違が不在であっても、界面活性剤および共界面活性剤(co−surfactant)に言及することもあるが、本発明においては、共界面活性剤という用語を用いずに、界面活性剤は平易にそのまま称することにも留意されたい。界面活性剤は、さらに乳化剤として言及されることもある。
【0044】
両親媒性成分の構成成分として、医薬使用に適した任意の両親媒性賦形剤を選択することができる。好ましくは、両親媒性成分は、皮膚および/または粘膜に投与した後、生理学的に十分耐性である界面活性剤からなる。たとえば、1種または複数の界面活性剤は、リン脂質、アルキルポリグルコシド、脂肪酸とのソルビタンエステル、脂肪アルコール(たとえば、ラウリル、ステアリル、セチル、またはパルミチルアルコール)のポリアルキレングリコールエーテル、および/または脂肪酸とのグリセロールペグ化モノおよびジエステルの群から選択することができる。特に適切な界面活性剤の例は、レシチン、特に主としてリン脂質からなるもの、精製または合成ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ソルビタンモノオレアート、ポリオキシエチレングリコールモノステアラート、脂肪アルコールのポリオキシエチレングリコールエーテル、たとえばポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル、アルキル(ポリ)グルコシド、たとえばデシルグルコシドである。
【0045】
界面活性剤の好ましい混合物には、(a)アルキルポリグルコシドと組み合わせたレシチン、(b)ソルビタンモノオレアートと組み合わせたレシチン、および(c)ポリオキシエチレングリコールモノステアラートと組み合わせたレシチンが含まれる。2成分混合物の第1界面活性剤と第2界面活性剤の適切な比率は、通常約1:10から約10:1の範囲、好ましくは約3:1から1:3の範囲である。
【0046】
マイクロエマルション組成物中の両親媒性成分の量は、一般に65重量%未満、より好ましくは約15から約35重量%の範囲で選択されるべきである。実際、本発明の特別な利点の1つは、タクロリムスなどの難溶性のマクロライドを、25または30重量%などの比較的低い界面活性含量であっても、可溶化形態で活性成分を含む十分に耐性の組成物で局所使用するために製剤化できることである。
【0047】
さらなる態様において、組成物は、両親媒性成分より多量の親水性成分を含むことが好ましく、すなわち親水性成分と両親媒性成分の比率は、好ましくは1:1以上、たとえば約1:1から3:1の範囲である。この比率によって、マイクロエマルションにおいてマクロライド免疫抑制剤を可溶化する必要性と、皮膚および粘膜による耐性が十分であり、同時に油性残留物を残さずに、容易に皮膚または粘膜に取り込まれる製剤を患者に提供する必要性を調和させることができることを本発明者等は見出した。
【0048】
本発明の実施に必須であるとして記載した成分および賦形剤の他に、組成物は、必要に応じて、さらなる成分を含むことができる。たとえば、組成物は、さらなる活性成分、たとえば、コルチコステロイド、抗生剤、抗真菌剤、および/または抗ウイルス剤を含有することができる。さらに、組成物は、1種または複数のさらなる賦形剤、たとえば、pHを調節する薬剤(たとえば、酸、緩衝塩、塩基)、抗酸化剤(たとえば、アスコルビン酸、ビタミンEおよびその誘導体、BHT、BHA、EDTA二ナトリウムなど)、防腐剤(たとえば、カチオン性界面活性剤、たとえば塩化ベンザルコニウムなど、ベンジルアルコール、ソルビン酸など)、透過促進剤(DMSO、Transcutol(登録商標)、メタノール、オレイン酸、n−アルカノール、1−アルキル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアルカンアミド、および1,2−アルカンジオールなど)などを含むことができる。
【0049】
本発明の組成物は、マイクロエマルションの形態であるため、容易に製造され、工業規模の生産に拡大される。組成物は、高剪断条件または加圧均質化が不在であっても、成分を組み合わせ、混合することによって形成される。したがって、組成物は、適切な規模で液体医薬製剤を調製するのに適した任意の標準的な混合装置を用いて調製することができる。場合により、均質なマイクロエマルションの形成を促進するために、組み合わせた成分の超音波処理を用いることができる。
【0050】
さらなる態様において、本発明は、上に記載した組成物の薬剤としての使用を提供する。特に有益なのは、局所投与、すなわち皮膚または粘膜、たとえば口腔もしくは鼻腔、眼、または小腸もしくは大腸の粘膜などへの投与も伴う局所治療のための使用である。特定の一実施形態において、組成物は、皮膚に投与するために用いられる。
【0051】
好ましくは、局所使用は、閉鎖条件を伴わない。実際、それらの活性成分を有効に皮膚の標的層、特に真皮に送達するために、組成物の閉鎖を必要としないことが、本発明者によって見出された。これは本発明の重要で、予想外の利点であり、閉鎖条件が必要とされるとき、通常は患者が耐性でない、より広い皮膚領域の治療が潜在的に可能となる。
【0052】
本組成物の治療的使用が有益である可能性のある疾患および症状には、特に炎症および/または自己免疫過程を伴う症状、たとえばアトピー性皮膚炎、乾癬、膠原病、腸の炎症性疾患、眼の炎症性疾患、および/または移植拒絶が含まれる。マクロライド免疫抑制剤の従来技術の組成物とは対照的に、これらの組成物は、乾癬の有効な治療を可能にする特性を有し、この治療的使用は、本発明の好ましい実施形態の1つを構成する。さらなる潜在的な使用には、慢性創傷および熱傷が含まれる。本明細書では、治療的使用は、治癒的および予防的処置方法の両方を含むものとして理解される。
【0053】
さらなる実施形態は、本発明の範囲を限定することなく、いくつかの主要な態様において本発明を例示する、以下の実施例から明らかとなるであろう。
【実施例】
【0054】
<実施例1;タクロリムスを用いる水含有マイクロエマルションの調製>
それぞれの成分を組み合わせ、混合することによって、本発明による4種の異なるマイクロエマルション組成物を製剤化し、調製した。組成を表1から7に示す。混合すると、透明またはわずかに乳白色のマイクロエマルションが自発的に形成された。室温で3カ月保存した後、3種のマイクロエマルションのサンプルを目視によって検査した。物理的不安定性の兆候は認められなかった。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0055】
<実施例2;皮膚および粘膜の毒性試験>
実施例1に従って、ただし活性成分を用いずに調製した3種の製剤A、B、およびCを、皮膚および粘膜に毒性組織作用をもたらす可能性に関して、HET CAM(「鶏卵試験−漿尿膜」)法を用いて試験した。この膜は、受精後8〜10日で、すでに機能的血管系を有するが、神経組織を有さないときに用いる。活性成分ではなく、担体の刺激可能性を判定するために、プラセボ製剤を用いた。
【0056】
HET CAMモデルは、動物モデルの国際的に容認された代替法であり、どのような痛みも引き起こすことなく、類似の結果をもたらす。HET CAMモデルでは、刺激の存在は、血管過多CAMおよび血管灌流の増加を含む、血管系の変化によって示される(27)。刺激に誘発される灌流増加は、結果として生じるLDFの増加によって評価することができるため、製剤適用後、約30分の規定時間間隔後、レーザドップラ流量(LDF)を用いて、灌流を定量化した。
【0057】
本実験では、ニューハンプシャー(New Hampshire)種メンドリの自然受精卵を用いた。卵は、8日間、37℃、相対湿度55%で保持し、12時間毎に転卵した。その後、顕微手術操作のため、卵を層流箱(laminar flow box)に移した。より長い半径を有する(すなわち、凸性の弱い)卵の極において、直径1.5cmの円形開口部を卵殻から切り取り、CAMを切開した。それぞれのCAMの上に、試験溶液100μLを適用した。陰性対照としてリン酸緩衝液を用い、陽性対照としてドデシル硫酸ナトリウム溶液を用いた。その後、CAMに単色低エネルギーヘリウムネオンレーザ(632.8nm)を照射した。30分後、卵をLDF試験に供した。結果として、いずれの製剤も著しい血管灌流の増加を示さず、わずかな低下を示し、したがって刺激の可能性のないことが示された。
【0058】
<実施例3;タクロリムスの皮膚浸透>
実施例1に従って調製した3種のタクロリムスマイクロエマルションA、B、およびCを、切除したヒト乳房皮膚およびフランツ型拡散セル(Crowne Glass Company、Somerville、NY、USA)を用いて、皮膚透過実験でさらに試験した。リン酸緩衝液pH7.4を受容液として用いた。金属クリップを用いて、皮膚サンプルをフィルタの上に固定した。実験中、蒸発による損失を回避するために、フランツ型セルをガラスの蓋で覆った。一連の試験で3人のドナーの皮膚を用いた。
【0059】
各拡散実験のために、それぞれのマイクロエマルション約20μLを皮膚検体に適用した。その後、検体をフランツ型セルのフィルタに載せ、固定した。拡散セルは、32℃で、30分間、300分間、または1000分間保持した。試験期間後、マイクロエマルションの残留物を、スワブを用いて皮膚の表面から取り除き、Kromayerダイカッター(Stiefel Laboratorium、Offenbach、Germany)を用いて、直径6mmの3つの円形穿孔生検材料を、各皮膚検体から打ち抜いた。次いで、生検材料を凍結させ、顕微鏡切片を作成した。得られた水平切片を表5に記載する。
【0060】
マイクロエマルション残留物の除去に用いたスワブを、メタノール(5mL)で12時間抽出した。皮膚切片を、予期される薬剤物質の量に応じて、0.3から0.5mLのメタノールを用いて1時間抽出した。次いで、内部標準としてミコフェノール酸モフェチルを用い、MS検出を備えたHPLCによって、タクロリムスを定量化した。
【表8】

【0061】
結果として、製剤AおよびCは、皮膚、特に内在するリンパ球のために、活性成分の重要な標的である真皮に、タクロリムスを迅速かつ有効に送達したことがわかった。30分および300分後のタクロリムスレベルの急速な上昇は、製剤Bと比べて、これらの製剤でより明白である。しかしながら、1000分後では、製剤Bは他の2種の製剤とほぼ同程度のタクロリムスを真皮に送達しており、受容液に送達される薬物の量は、3種すべての製剤のなかでもっとも多い。詳細な結果を図1〜7に示す。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1〜4は、適用した用量に対する、製剤A、B、およびC(ここではそれぞれME TCL A、ME TCL B、およびME TCL Cと表す)の適用30分後、300分後、および1000分後に種々の皮膚層(図1:角質層;図2:生存表皮;図3:真皮)および受容媒質(図4)で認められたタクロリムスの用量分率を示す(n=9;x(エックスバー)±SD;*p<0.01ME TCL A対ME TCL B、#p<0.01ME TCL A対ME TCL C、+p<0.01ME TCL B対ME TCL C)。
【0063】
図5から7は、製剤A(図5)、B(図6)、およびC(図7)の適用30分後、300分後、および1000分後の皮膚深度にわたるタクロリムスの濃度を示す(n=9;x(エックスバー)±SD;角質層は示していない)。
【0064】
結論として、3種の典型的な製剤はすべて、本発明によるマイクロエマルションが、角質層に代表される主要な浸透および透過障壁を越えてタクロリムスなどのマクロライド免疫抑制剤を送達できることを実証している。さらに、本発明によるマイクロエマルションは、投与薬物の相当な分率を、閉鎖を必要とせずに、皮膚に送達することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
−シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、リダフォロリムス、テムシロリムス、およびゾタロリムスからなる群から選択される治療活性成分、
−親水性成分、
−親油性成分、および
−両親媒性成分を含み、
マイクロエマルションとして製剤化されている医薬組成物。
【請求項2】
タクロリムス、またはその塩もしくは誘導体を含み、必須的にすべてのタクロリムスが可溶化形態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
マイクロエマルションが液体形態である、請求項1または2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
親水性成分が、組成物の重量に対して、少なくとも約20重量%の量で存在する、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
親水性成分が水を含む、請求項1から4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
親水性成分が、水と、好ましくはグリセロール、プロピレングリコール、1,2−ペンチレングリコール、およびポリエチレングリコールから選択される液体グリコールとの組み合わせを含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
水と液体グリコールの比率が、約1:10から約10:1の範囲である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
親水性成分と両親媒性成分の重量比が、1:1以上である、請求項1から7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
親油性成分が、イソプロピルミリスタート、イソプロピルパルミタート、ジブチルアジパート、ジイソプロピルアジパート、およびトリグリセリドから選択された少なくとも1種の賦形剤を含む、請求項1から8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
両親媒性成分が、リン脂質、アルキルポリグルコシド、脂肪酸とのソルビタンエステル、脂肪アルコールのポリアルキレングリコールエーテル、および脂肪酸とのグリセロールペグ化モノおよびジエステルから選択された少なくとも1種の界面活性剤を含む、請求項1から9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
両親媒性成分が、少なくとも2種の界面活性剤を含む、請求項1から10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
局所投与、好ましくは皮膚、粘膜、または眼に投与する薬剤として使用するための、請求項1から11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
アトピー性皮膚炎、乾癬、膠原病、腸の炎症性疾患、眼の炎症性疾患、または移植拒絶を予防および/または治療する薬剤として使用するための、請求項1から11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1から11のいずれかに記載の医薬組成物を調製する方法であって、高剪断条件または加圧均質化を適用することなく、組成物の成分を組み合わせ、混合する方法。

【公表番号】特表2013−507337(P2013−507337A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532587(P2012−532587)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064965
【国際公開番号】WO2011/042485
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(512086242)ノバリック ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】