説明

マグネシア−クロム質耐火物及び銅製錬炉並びに連続製銅炉

【課題】銅製錬炉や連続製銅炉の炉本体に適用した場合においても、銅製錬溶体が含有する酸化銅(I)(CuO)により浸食される虞が無く、耐食性に優れ、しかも、炉本体の寿命を延長することが可能なマグネシア−クロム質耐火物及び銅製錬炉並びに連続製銅炉を提供する。
【解決手段】本発明のマグネシア−クロム質耐火物は、スラグ中のCaO及びSiOがCaO/SiO≧0.11(質量比)を満たすように制御された銅製錬炉にて用いられるマグネシア−クロム質耐火物であり、1550℃以上の高温にて焼成され、フラックス成分は、SiO≦1.5質量%かつ0.6≦CaO/SiO≦2.5(質量比)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシア−クロム質耐火物及び銅製錬炉並びに連続製銅炉に関し、銅製錬炉あるいは連続製銅炉における炉本体の寿命を延長することが可能な耐火物に係る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原料を加熱溶融して金属溶湯を生成する製錬炉の中には、炉本体の内壁にマグネシア−クロム(MgO−Cr)質耐火物が用いられている。
このマグネシア−クロム質耐火物は、酸化クロム(Cr)を含んでいるために、酸性から塩基性までの広い範囲のスラグ組成に対して優れた耐食性を有する。
このマグネシア−クロム質耐火物に含まれるフラックス成分であるカルシア(CaO)及びシリカ(SiO)が、この耐火物の機械的特性に影響を及ぼすことが指摘されている。その原因としては、CaO/SiO比が増大するとともに、マグネシア(MgO)の粒界に生成する二次スピネルの形状が角状からフィルム状へと変化することによるものと推定されている(非特許文献1)。
【0003】
また、鉄鋼製錬の分野においては、マグネシア(MgO)焼結体の粒界にフィルム状の二次スピネルが形成されたマグネシア−クロム質耐火物を、鉄鋼の二次製錬炉の炉本体の内壁に用いた場合、この二次製錬過程で生成するスラグが内壁へ浸透するのを抑制する効果があるといわれている(非特許文献2)。
一方、銅製錬の分野においても、マグネシア−クロム質耐火物が銅製錬炉の炉本体の内壁に用いられているが、この場合、銅製錬溶体が含有する酸化銅(I)(亜酸化銅:CuO)がマグネシア−クロム質耐火物を構成しているマグネシア(MgO)焼結体の粒界に強い浸食作用を及ぼすともいわれており(非特許文献3)、マグネシア−クロム質耐火物を銅製錬炉に適用した場合の品質基準が確立されているわけではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】池松 明夫他、「電融原料を用いたマグネシア・クロミア耐火物の熱機械特性に及ぼす微量不純物の役割」、日本セラミックス協会学術論文誌、第111巻、第1291号、第407頁〜第412頁 2003年発行(Akio IKEMATSU et al, "Roll of small content impurity on the thermo-mechanical properties of magnesia-chrome refractories using electro-fused materials", Journal of the Ceramic Society of Japan, Vol.111, No.1291, pp407-412 (2003))
【非特許文献2】杉本泰崇 北村伸一 前田克彦 「2次スピネルを発達させたマグクロれんが」、耐火物、耐火物技術協会、第61巻、第8号、第22頁〜第23頁、2009年発行
【非特許文献3】H.プレスリー アンド J.ホワイト、「フェーズ リレーションシップス アンド マイクロストラクチャーズ イン サーテン カッパー オキサイド−コンテイニング システムズ アンド ゼア ベアリング オン ジ アタック オブ カッパー スラッジス オン ベーシック レフラクトリーズ」、トランサクション オブ ザ、ブリティッシュ セラミック ソサエティ、第78巻、第1号、第4頁〜第10頁 1979年発行(H.Pressley and J.White, "Phase relationships and microstructures in certain copper oxide-containing systems and their bearing on the attack of copper slags on basic refractories", Transaction of the British Ceramic Society, Vol.78, No.1, pp4-10 (1979))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のマグネシア−クロム質耐火物は、確かに、銅製錬炉の炉本体の内壁に用いられているものの、銅製錬炉に適したマグネシア−クロム質耐火物を判別するための基準が確立されていないために、マグネシア−クロム質耐火物の組成を試行錯誤により個々の銅製錬炉に合わせて改良してきている。しかしながら、この試行錯誤によるマグネシア−クロム質耐火物の改良では、銅製錬操業の推移に応じて取得したマグネシア−クロム質耐火物の使用成績が評価の対象となるために、マグネシア−クロム質耐火物の評価は銅製錬の操業状態により大きく変わることとなり、したがって、マグネシア−クロム質耐火物自体の品質評価は明確にならないという問題点があった。
その結果、ある時点で採用したマグネシア−クロム質耐火物は、銅製錬の操業条件が経時的に変化すると、耐食効果が低下することもある。
【0006】
そこで、鉄鋼製錬の分野において効果的とされたマグネシア(MgO)焼結体の粒界にフィルム状の二次スピネルが形成されたマグネシア−クロム質耐火物を、銅製錬炉の炉本体の内壁に用いることも考えられるが、銅製錬炉と鉄鋼製錬炉とでは、耐火物の使用条件が大きく異なり、とりわけ鉄鋼製錬スラグはCuOを含有しないために、鉄鋼製錬炉で効果的とされた組成のマグネシア−クロム質耐火物を銅製錬炉に適用したとしても、必ずしも効果的であるとはいうことができない。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、銅製錬炉や連続製銅炉の炉本体に適用した場合においても、銅製錬溶体が含有する酸化銅(I)(亜酸化銅:CuO)により浸食される虞が無く、耐食性に優れ、しかも、炉本体の寿命を延長することが可能なマグネシア−クロム質耐火物及び銅製錬炉並びに連続製銅炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、マグネシア−クロム質耐火物のフラックス成分を、SiO≦1.5質量%かつ0.6≦CaO/SiO(質量比)を満足するように制御し、このマグネシア−クロム質耐火物を、スラグ中のCaO及びSiOが0.11≦CaO/SiO(質量比)を満たすように制御された銅製錬炉の炉本体等に適用すれば、銅製錬溶体が含有する酸化銅(I)(CuO)により浸食される虞が無く、耐食性に優れたものとなり、しかも、炉本体の寿命を延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のマグネシア−クロム質耐火物は、スラグ中のCaO及びSiOがCaO/SiO≧0.11(質量比)を満たすように制御された銅製錬炉にて用いられるマグネシア−クロム質耐火物であって、1550℃以上の高温にて焼成され、フラックス成分は、SiO≦1.5質量%かつ0.6≦CaO/SiO≦2.5(質量比)であることを特徴とする。
【0010】
本発明の銅製錬炉は、銅を主成分とする溶体を製錬処理する銅製錬炉の炉本体及び前記溶体が流出する樋のうち、少なくともスラグが接触する領域に、本発明のマグネシア−クロム質耐火物を用いたことを特徴とする。
【0011】
本発明の連続製銅炉は、銅を主成分とする溶体を連続的に製錬処理する銅製錬炉を複数連結してなる連続製銅炉の炉本体及び前記溶体が流出する樋のうち、少なくともスラグが接触する領域に、本発明のマグネシア−クロム質耐火物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマグネシア−クロム質耐火物によれば、フラックス成分を、SiO≦1.5質量%かつ0.6≦CaO/SiO≦2.5(質量比)としたので、マグネシア(MgO)粒子の粒界にフィルム状の二次スピネルを発達させることができ、この粒界のフィルム状の二次スピネルにより、銅を主成分とする溶体から生成するスラグに含まれる酸化銅(I)(亜酸化銅:CuO)が粒界を浸食するのを防止することができる。
したがって、マグネシア−クロム質耐火物自体の耐食性を向上させることができ、その結果、このマグネシア−クロム質耐火物を銅製錬炉の炉本体及び樋に適用することにより、この炉本体及び樋の寿命を延長することができる。
【0013】
本発明の銅製錬炉によれば、銅を主成分とする溶体を製錬処理する銅製錬炉の炉本体及び溶体が流出する樋のうち、少なくともスラグが接触する領域に、本発明のマグネシア−クロム質耐火物を用いたので、銅を主成分とする溶体から生成するスラグに含まれる酸化銅(I)(亜酸化銅:CuO)が、このマグネシア−クロム質耐火物を浸食するのを防止することができる。
したがって、マグネシア−クロム質耐火物が適用された銅製錬炉の炉本体及び溶体が流出する樋のスラグに対する耐食性を向上させることができ、その結果、銅製錬炉の炉本体及び樋の寿命を延長することができる。
【0014】
本発明の連続製銅炉によれば、銅を主成分とする溶体を製錬処理する銅製錬炉の炉本体及び溶体が流出する樋のうち、少なくともスラグが接触する領域に、本発明のマグネシア−クロム質耐火物を用いたので、銅を主成分とする溶体から生成するスラグに含まれる酸化銅(I)(亜酸化銅:CuO)が、このマグネシア−クロム質耐火物を浸食するのを防止することができる。
したがって、マグネシア−クロム質耐火物が適用された連続製銅炉の炉本体及び溶体が流出する樋のスラグに対する耐食性を向上させることができ、その結果、連続製銅炉の炉本体及び樋の寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の連続銅製錬設備を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の連続銅製錬設備の溶錬炉を示す縦断面図である。
【図3】マグネシア−クロム質レンガのSiO量(質量%)とスピネル結合の割合(%)との関係を示す図である。
【図4】マグネシア−クロム質レンガのCaO/SiO(質量比)と酸化銅(I)の浸透深さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のマグネシア−クロム質耐火物及び銅製錬炉並びに連続製銅炉を実施するための形態について説明する。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の連続銅製錬設備を示す縦断面図であり、この連続銅製錬設備1は、銅を主成分とする溶体を連続的に製錬処理する銅製錬炉を複数連結し、各銅製錬炉においては溶体に対してそれぞれ銅製錬の少なくとも一つの段階における処理を施す連続銅製錬設備である。
このような連続銅製錬設備を構成する各銅製錬炉は、炉本体内への原料または溶体の供給を連続的に行うとともに、炉本体内の溶体を連続的に取り出す、いわゆる連続製銅炉とされている。
【0018】
この連続銅製錬設備1は、原料である銅精鉱を加熱溶融してマットMとスラグSとを有する溶体(M+S)を生成する溶錬炉(銅製錬炉)2と、この溶錬炉2で生成された溶体(M+S)からマットMとスラグSとを分離する電気炉からなる分離炉(銅製錬炉)3と、この分離炉3で分離されたマットMをさらに酸化して粗銅CとスラグSとを生成する製銅炉(銅製錬炉)4とにより構成されている。
【0019】
これら溶錬炉2、分離炉3、製銅炉4及び精製炉5は、樋6A、6B、6Cにより直列に連結されており、溶体(M+S)が重力により溶錬炉2、分離炉3、製銅炉4、精製炉5の順に移動することができるように、これらの炉には、この順に高低差がつけられており、これらの高低差に合わせて樋6A、6B、6Cにも勾配が付けられている。
【0020】
そして、溶錬炉2及び製銅炉4の天井部には、銅精鉱、酸素富化空気、溶剤、冷剤等を炉内に供給するための複数の管からなるランス7が、これらの炉の天井部を挿通して上下方向に移動自在かつ任意の位置に固定可能に設けられ、また、炉内から発生するガスを排出するためのアップテーク8が設けられている。
さらに、分離炉3の溶体(M+S)中には、保温用の電極10が挿入され、また、アップテーク8には、排ガスの含有熱を利用する廃熱回収ボイラ11が接続されている。
【0021】
溶錬炉2は、炉内に貯留されている溶体内部に向かって、原料である銅精鉱を酸素富化空気とともに吹き込み、銅精鉱の酸化反応熱によって加熱溶融してマットMとスラグSとを有する溶体(M+S)を生成し、かつスラグS中のCaO及びSiOが0.11≦CaO/SiO(質量比)を満たすように制御された銅製錬炉である。
【0022】
この溶錬炉2は、図2に示すように、銅精鉱Cを加熱溶融する炉本体21と、この炉本体21を支持する有底筒状のシェル31と、ランス7と、アップテーク8と、樋6Aとにより構成されている。
炉本体21は、銅精鉱Cを加熱溶融してマットMとスラグSとを有する溶体(M+S)を生成する有底筒状のもので、炉床22と、側壁23と、天井24とにより構成されている。
【0023】
この炉本体21は、複数のレンガ(耐火物)をルツボ状に積み上げてレンガ同士を圧着固定したもので、炉床22、側壁23及び天井24は、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ(耐火物)により構成されている。
樋6Aも炉本体21と同様、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ(耐火物)により構成されている。
【0024】
このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガは、マグネシア(MgO)を50質量%以上かつ90質量%以下、酸化クロム(Cr)を7質量%以上かつ40質量%以下、残部をマグネシア(MgO)及び酸化クロム(Cr)以外の金属酸化物、例えば、アルミナ(Al)、酸化第二鉄(Fe)、酸化カルシウム(CaO)、シリカ(SiO)等としたものである。
このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガは、SiO≦1.5質量%かつ0.6≦CaO/SiO(質量比)を満たすようになっている。
【0025】
ここで、シリカ(SiO)をSiO≦1.5質量%、好ましくは0.3質量%≦SiO≦1.5質量%と限定した理由は、この範囲がマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガが溶体(M+S)が含有する酸化銅(I)(CuO)に対して耐食性を発揮する範囲だからである。
【0026】
ここで、SiOが1.5質量%を上回ると、マグネシア(MgO)粒子の支配的な結合状態がスピネル結合からシリケート結合に変化し、マグネシア(MgO)粒子を取り囲む粒界にケイ酸質物質が生成し易くなるとともに、この粒界における二次スピネルの生成が阻害されることとなり、その結果、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガが溶体(M+S)が含有する酸化銅(I)(CuO)に対して過剰に浸食されることとなるので、好ましくない。
【0027】
なお、SiOが0.3質量%未満では、場合によっては、このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガの焼成時に液相焼結が十分に進行し難くなり、所望の機械的強度を有するマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガが得られなくなる虞がある。
【0028】
また、このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガでは、スラグS中のCaO及びSiOを、0.11≦CaO/SiO(質量比)を満たすように制御する必要がある。
ここで、スラグS中のCaO及びSiOを、0.11≦CaO/SiO(質量比)を満たすように制御した理由は、この0.11≦CaO/SiO(質量比)を満たす範囲が、溶錬炉2を構成するマグネシア−クロム(MgO−Cr)質耐火物が工業的に有意な耐食性を発現することができる範囲だからである。なお、スラグS中のCaO及びSiOが0.11(質量比)未満となった場合には、このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質耐火物が工業的に有意な耐食性を発現することができなくなる虞がある。
【0029】
図3は、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ中のSiO量(質量%)と粒界におけるスピネル結合の割合(%)との関係を示す図である。このスピネル結合の割合(%)は、下記の式(1)により求めることができる。
スピネル結合の割合(%)
=スピネル結合/(スピネル結合+シリケート結合)×100…(1)
【0030】
図3によれば、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガに含まれるSiOが1.5質量%以下の範囲では、スピネル結合が50%以上となり、したがって、マグネシア(MgO)粒子を取り囲む粒界層に二次スピネルが効果的に生成されていることが分かる。これにより、このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガは、溶体(M+S)が含有する酸化銅(I)(CuO)に対して浸食され難くなることが分かる。
【0031】
また、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ中の酸化カルシウム(CaO)の質量とシリカ(SiO)の質量との比CaO/SiO(質量比)は、0.6≦CaO/SiO≦2.5(質量比)が好ましく、より好ましくは0.7≦CaO/SiO≦1.5である。
【0032】
ここで、CaO/SiO(質量比)を上記の範囲に限定した理由は、この範囲がマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガが溶体(M+S)が含有する酸化銅(I)(CuO)に対して耐食性を発揮する範囲だからである。
ここで、CaO/SiOが0.6(質量比)を下回ると、粒界に生成する二次スピネルが角状化してフィルム状になり難くなり、その結果、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガが溶体(M+S)が含有する酸化銅(I)(CuO)に対して浸食されることとなるので、好ましくない。
【0033】
また、CaO/SiOが2.5(質量比)を超えると、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ中のマグネシア(MgO)が大気中の水分または結露水と化学反応して水酸化マグネシウム(Mg(OH))に変質してしまい、このレンガの耐食性が劣化する虞があるので、好ましくない。
【0034】
この耐食性が劣化する現象は、消化(hydration)と称され、350℃以下の温度領域にて、下記の式(2)の化学反応により進行することが知られている。
MgO+HO=Mg(OH)…(2)
この式(2)の化学反応を加速させる因子として、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガに含まれる酸化カルシウム(CaO)の形態が強く関与することが知られている。
【0035】
すなわち、シリカ(SiO)と化合してケイ酸塩となっている酸化カルシウム(CaO)は不活性であるから、水分を吸収することは無いが、ケイ酸塩から遊離している酸化カルシウム(CaO)は活性が高く、下記の式(3)の化学反応により容易に水分を吸収する。
CaO+HO=Ca(OH)…(3)
式(3)の化学反応により酸化カルシウム(CaO)に固定された水分は、マグネシア(MgO)粒子に向かって移動し、このマグネシア(MgO)粒子の粒界にて上記の式(2)の化学反応により消費される。
【0036】
このようにして、ケイ酸塩から遊離した酸化カルシウム(CaO)は、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガの品質に悪影響を及ぼす。
この酸化カルシウム(CaO)がケイ酸塩から遊離する条件は、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガに含まれるフラックス成分中のCaO/SiO(質量比)により予測することができる。CaO/SiO(質量比)が2.5以下であれば、酸化カルシウム(CaO)はケイ酸塩に全量固定されているが、CaO/SiO(質量比)が2.5を超えると、酸化カルシウム(CaO)はケイ酸塩に全量固定されず、一部が遊離することとなる。したがって、CaO/SiO(質量比)の上限値は2.5となる。
【0037】
図4は、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ中のCaO/SiO(質量比)と、溶体(M+S)が含有する酸化銅(I)(CuO)がマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ中に浸透する深さとの関係を示す図である。この図では、酸化銅(I)(CuO)の浸透深さを相対的な数値で表してある。
図4によれば、CaO/SiOが0.6≦CaO/SiO≦2.5(質量比)の範囲内であれば、溶体(M+S)中の酸化銅(I)(CuO)はマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ中に浸透し難くなっており、上記の範囲を外れると、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガ中に浸透し易くなることが分かる。
【0038】
次に、このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガの製造方法について、説明する。
このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガの原料は、粗骨材(粒径1mm以上)、細骨材(粒径0.1mm以上)及び粉末の混合物であり、約60質量%は粗骨材により占められている。
このマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガは、マグネシア(人工原料)とともに、クロム鉱(天然原料)、電融マグクロ(マグネシアとクロム鉱を2400℃で溶融し、その鋳塊を破砕、粉砕した人工原料)のいずれか一方または双方を配合し、これらを混合し、さらにバインダーを加えて混練する。
バインダーとしては、樹脂、ピッチ、ワックス等の有機物、または硫酸塩等の無機物の水溶液が用いられる。
【0039】
次いで、得られた混練物を加圧成形し、次いで、大気中、100℃〜300℃にて3時間〜24時間、乾燥する。
この混練物では、塊状に凝集した原料を除去するために、加圧成形前に篩等を用いて塊状物を除去しておくことが好ましい。
次いで、この乾燥した加圧成形物を、トンネルキルン等の焼成炉を用いて、大気中、1550℃以上の高温にて焼成する。
以上により、マグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガを得ることができる。
【0040】
このようにして得られたマグネシア−クロム(MgO−Cr)質レンガは、SiOが1.5質量%以下、かつCaO/SiO(質量比)が0.6以上かつ2.5以下であるから、マグネシア(MgO)粒子の粒界にフィルム状の二次スピネルを発達させることができ、この粒界のフィルム状の二次スピネルにより、銅を主成分とする溶体から生成するスラグに含まれる酸化銅(I)(CuO)が粒界を浸食するのを防止することができる。
したがって、マグネシア−クロム質耐火物自体の耐食性を向上させることができ、その結果、このマグネシア−クロム質耐火物を銅製錬炉の炉本体及び樋に適用することにより、この炉本体及び樋の寿命を延長することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のマグネシア−クロム質耐火物によれば、SiO≦1.5質量%かつ0.6≦CaO/SiO≦2.5(質量比)としたので、銅を主成分とする溶体から生成するスラグに含まれる酸化銅(I)(CuO)が耐火物を浸食するのを防止することができる。
したがって、マグネシア−クロム質耐火物自体の耐食性を向上させることができ、その結果、このマグネシア−クロム質耐火物を銅製錬炉の炉本体及び樋に適用することにより、この炉本体及び樋の寿命を延長することができる。
【0042】
また、本実施形態の連続銅製錬設備1によれば、銅を主成分とする溶体を製錬処理する溶錬炉2の炉本体21及び樋6Aに、本実施形態のマグネシア−クロム質レンガを用いたので、銅を主成分とする溶体から生成するスラグSに含まれる酸化銅(I)(CuO)が、このマグネシア−クロム質耐火物を浸食するのを防止することができる。
したがって、マグネシア−クロム質耐火物が適用された連続銅製錬設備1の炉本体21及び樋6AのスラグSに対する耐食性を向上させることができる。その結果、連続銅製錬設備1の炉本体21及び樋6Aの寿命を延長することができる。
【0043】
本実施形態の連続銅製錬設備1では、溶錬炉2の炉本体21及び樋6Aに、本実施形態のマグネシア−クロム質レンガを用いた構成としたが、本実施形態のマグネシア−クロム質レンガは、連続銅製錬設備1におけるスラグSに接触する領域であれば良く、上記以外の部分に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 連続銅製錬設備
2 溶錬炉(銅製錬炉)
3 分離炉
4 製銅炉(銅製錬炉)
6A、6B、6C 樋
7 ランス
8 アップテーク
10 電極
11 廃熱回収ボイラ
21 炉本体
22 炉床
23 側壁
24 天井
31 シェル
M+S 溶体
M マット
S スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ中のCaO及びSiOがCaO/SiO≧0.11(質量比)を満たすように制御された銅製錬炉にて用いられるマグネシア−クロム質耐火物であって、
1550℃以上の高温にて焼成され、フラックス成分は、SiO≦1.5質量%かつ0.6≦CaO/SiO≦2.5(質量比)であることを特徴とするマグネシア−クロム質耐火物。
【請求項2】
銅を主成分とする溶体を製錬処理する銅製錬炉の炉本体及び前記溶体が流出する樋のうち、少なくともスラグが接触する領域に、請求項1記載のマグネシア−クロム質耐火物を用いたことを特徴とする銅製錬炉。
【請求項3】
銅を主成分とする溶体を連続的に製錬処理する銅製錬炉を複数連結してなる連続製銅炉の炉本体及び前記溶体が流出する樋のうち、少なくともスラグが接触する領域に、請求項1記載のマグネシア−クロム質耐火物を用いたことを特徴とする連続製銅炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179793(P2011−179793A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47112(P2010−47112)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】