説明

マグネシウム部品の締結構造

【課題】マグネシウム又はマグネシウム合金を用いた部品のボルトによる締結構造において、比較的高温環境において使用することができ、しかも廉価で締結軸力の低下が少ないマグネシウム部品の締結構造を提供する。
【解決手段】マグネシウム又はマグネシウム合金から成る第1部材1に、金属製ボルト3を用いて第2部材2を締結するに際して、鉄系材料、アルミニウム合金又は耐熱マグネシウム合金から成り、上記金属製ボルト3に螺合する雌ねじ部4aと共に、当該第1部材2からの抜け防止手段及び回転防止手段を備えた金属部材4を第1部材1に鋳包んで鋳包み部となし、第2部材2に形成したボルト挿通孔2aに通したボルト3を鋳包み部4の雌ねじ部4aに螺着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネシウム部品のボルトによる締結構造に係わり、例えば自動車のエンジンやパワートレイン部品等、比較的高温環境において使用さると共に、軽量化が要求される部品同士をボルトによって締結するのに用いられるマグネシウム合金部品の締結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のエンジンやトランスミッションなどのパワートレイン部品等、比較的高温環境で使用され、しかも軽量化が要求される部品をボルト接合するに際しては、図3に示すように第1の部材51と第2の部材53の両方または一方をマグネシウム合金製の部品とし、鋼やアルミニウム合金など、金属製のボルト3によって上記両部材51および53を締結するようにしているが、長期間使用すると、エンジンの熱影響により第1の部材51の雌ねじ部51aや、第2の部材53のボルト座面部53aにへたりが生じ、締結軸力の低下を生じることがあった。
【0003】
そこで、このような締結軸力低下の対策として、従来では、上記第1の部材51や第2の部材52として用いるマグネシウム合金にカルシウム(Ca)やストロンチウム(Sr)、あるいは希土類金属を添加し、耐熱性を向上させたマグネシウム合金製の部品を用いたり、また、締結部の面積を確保するためボルトの長さや径などを変化させた特殊なボルトを使用したりするようにしていた。
さらには、締結部のボルト本数を増加することによって、締結力の増強を図る試みがなされていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したマグネシウム合金にカルシウムやストロンチウム、あるいは希土類金属を添加することによって耐熱性を向上させたマグネシウム合金製の部品は、一般的に鋳造時の生産性に問題があり、その性能を十分に発揮することができなかった。
さらに、これらの金属を添加したマグネシウム合金は、原料面からコスト高にならざるを得ず、また種々の金属元素が含有されているためリサイクル性においても困難な状況であった。
【0005】
また締結に用いるボルトの噛み合い長さやボルト径等、サイズを変更して特殊なボルトにして用いることや、締結部位においてボルト本数を増加させるような設計変更を行なうことについても、同様にコストアップに繋がるという問題点があると共に、ボルトのサイズを変更したり本数の増加に際しては、部品のレイアウト上の制約が生じたりまた部品重量が増加する等、多くの問題点があり、これら多くの問題点を解決することが課題となっていた。
【0006】
本発明は、従来のマグネシウム部品のボルト締結における上記のような課題に鑑みてなされたものであって、マグネシウム又はマグネシウム合金を用いた部品のボルトによる締結構造において、比較的高温環境において使用することができ、しかも廉価で締結軸力の低下が少ないマグネシウム部品の締結構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的の達成に向けて、鋭意検討を重ねた結果、金属製ボルトに螺着する雌ねじ部や、金属製ボルトの頭部に当接するボルト座面部を鉄系材料やアルミニウム合金、あるいはけい素やカルシウム、希土類金属などを添加した耐熱マグネシウム合金など、耐熱強度の優れた異種金属で形成し、この部分を被締結部材(第1あるいは第2の部材)を構成する鋳造性に優れた汎用マグネシウム合金で鋳包み、この部分で両部材をボルト締結するようになすことによって、マグネシウム部品のへたりを防止し、締結軸力を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明のマグネシウム部品の第1の締結構造は、マグネシウム又はマグネシウム合金から成る第1部材に、金属製ボルトを用いて第2部材を締結するマグネシウム部品の締結構造であって、鉄系材料、アルミニウム合金又は耐熱マグネシウム合金から成り、上記金属製ボルトに螺合する雌ねじ部と共に、当該第1部材からの抜け防止手段及び回転防止手段を備えた鋳包み部が第1部材中に鋳包まれている一方、第2部材が上記金属製ボルトを挿通するボルト挿通孔を備えていることを特徴とし、本発明のマグネシウム部品の第2の締結構造は、金属製ボルトを用いて、第1部材にマグネシウム又はマグネシウム合金から成る第2部材を締結するマグネシウム部品の締結構造であって、第1部材が上記金属製ボルトに螺合する雌ねじ部を備える一方、鉄系材料、アルミニウム合金又は耐熱マグネシウム合金から成り、上記金属製ボルトを挿通するボルト挿通孔及びボルト頭部に圧接するボルト座面と共に、当該第2部材からの抜け防止手段及び回転防止手段を備えた鋳包み部が第2部材中に鋳包まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エンジンの熱影響によるへたりが生じやすい第1部材の雌ねじ部や第2部材のボルト座面部を鉄系材料、アルミニウム合金あるいは耐熱マグネシウム合金から成る耐熱性に優れた異種材料によって形成し、この異種材料部分を第1部材や第2部材の本体部分を形成するマグネシウム材料によって鋳包むようにしていることから、第1部材や第2部材に合金成分の少ない、安価で鋳造性に優れた汎用のマグネシウム系合金材料を用いたとしても、エンジンの熱影響を長時間に亘って受けた場合に、上記雌ねじ部やボルト座面部にへたりが生じるようなことがなく、比較的高温環境において使用でき、且つ廉価で締結軸力の低下が少ないマグネシウム部品の締結構造とすることができ、例えばトランスミッションケースやエンジンのオイルパン等に適用することによって、自動車の軽量化に貢献することができるという極めて優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のマグネシウム部品の締結構造について、さらに具体的に説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態を示すものであって、当該マグネシウム部品の締結構造においては、マグネシウム又はマグネシウム合金から成り、後述する雌ねじ部4aを備えた被締結部材1(第1部材)と、締結部材2(第2部材)とを金属製ボルト3によって締結するようにしている。
【0012】
図において、第2部材である締結部材2は、上記金属製ボルト3を通すためのボルト挿通孔2aが形成されている。
一方、第1部材である被締結部材1は、上記ボルト3に形成された雄ねじ部に螺合する雌ねじ部4aを備えた金属部材4を締結部材2との締結面側に備えている。この金属部材4は、アルミニウム合金、鋼材や鋳鉄などの鉄系材料、あるいは後述するような金属元素を添加して成る耐熱マグネシウム合金の中から選ばれる1種の金属からあらかじめ形成されたものであって、当該被締結部材1を構成する上記マグネシウム合金によって鋳包まれ、被締結部材1中の鋳包み部となっている。
【0013】
この金属部材4(鋳包み部)は、ボルト締結時においてへたりを防止する作用を有しており、上記したようにアルミニウム合金、鉄系材料、あるいは耐熱マグネシウム合金、例えば、けい素(Si)、銀(Ag)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、及び希土類金属(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の中から選ばれる1種以上の金属を添加したマグネシウム合金から選ばれる1種の金属から成り、これをダイカスト用マグネシウム合金であるMg−Al−Zn系合金やMg−Al−Mn系合金などで鋳包むことによって上記被締結部材1が形成されている。
【0014】
ここで、耐熱マグネシウム合金中における上記金属の添加量としては、質量比で0.1〜2.0%の範囲とすることが望ましい。すなわち、添加金属量が0.1質量%以下では、へたり防止金属として用いられるマグネシウム合金の耐へたり効果が少なくなる一方、2.0質量%以上添加しても耐へたり効果が一定となって、それ以上ほとんど向上せず、コスト高にもなるため、この範囲内で添加するのが好ましい。
へたり防止金属部材として用いるマグネシウム合金に、上記金属の1種以上を添加すると、マグネシウム金属自体の耐熱性が向上することによって加圧部における耐へたり性が向上すると共に、常温での引張り特性をも向上させることができ、その結果、ボルト締結時における軸力低下を防止することができる。
【0015】
鋳包み部を形成している金属部材4は、図1に示すように、鋳ぐるみ後の金属部材4が被締結部材1から脱落しないように保持するための抜け防止手段として、締結部材2との接触面側から、被締結部材1の内部側に向けて拡大する形状を有しており、さらに締結後の金属部材4がボルト3と連れ回りすることによって強固な締結ができないようになるのを防止する回転防止手段として、ボルト回転軸に垂直方向の断面の一部または全部が真円ではなく楕円形状となっている。
【0016】
すなわち、抜け防止手段としては、上記金属部材4がボルト回転軸に垂直方向の断面積に最大部又は最小部を有し、この最大又は最小部分が上記被締結部材1の表面以外の部位に位置するようにすればよいことになる。また、回転防止手段としては、上記金属部材4ボルト回転軸に垂直方向の断面の少なくとも一部が非円形であればよく、例えば楕円、三角形、四角形などの多角形、星形や歯車のような凹凸形状とすればよいことになる。
【0017】
被締結部材1(第1部材)として用いる鋳包み母材は、上記したようにMg−Al−Zn系合金やMg−Al−Mn系などの汎用マグネシウム合金を用いることができる。
一方、締結部材2(第2部材)の金属材料としては、特に限定されず、その数についても、図示したような1個のみに限定される訳ではなく、被締結部材1に複数の締結部材2をボルト締めすることも可能である。
【0018】
上記したマグネシウム部品の締結構造においては、締結部材2に形成したボルト挿通孔2aに通した金属製ボルト3を被締結部材1の鋳包み部4に形成された雌ねじ部4aに捩じ込むことによって、両部材1及び2を締結することができ、ボルト締結部の雌ねじ部分のみに金属部材を鋳包み部として用いるようにしているため、被締結部材としてのマグネシウム部品の軽量化を図ることが可能となり、トータルとして軽量で廉価な締結構造とすることができる。
【0019】
図2は、本発明の第2の実施形態を示すものであって、当該マグネシウム部品の締結構造においては、雌ねじ部11aを備えた被締結部材11(第1部材)に、マグネシウム又はマグネシウム合金から成る締結部材12(第2部材)を金属製ボルト3によって締結するようにしている。
【0020】
図において、第1部材である締結部材11は、上記したように金属製ボルト3に形成された雄ねじ部に螺合する雌ねじ部11aが形成されている。
一方、第2部材である被締結部材12は、当該被締結部材12と同じ厚さ寸法を有し、上記ボルト3を通すためのボルト挿通孔14aと、ボルト3の頭部に頭部に当接するボルト座面14bを備えた金属部材14を備えており、この金属部材14は、上記同様にアルミニウム合金、鋼材や鋳鉄などの鉄系材料、あるいは耐熱マグネシウム合金の中から選ばれる1種の金属からあらかじめ形成されたものであって、当該締結部材12を構成するマグネシウム合金によって鋳包まれ、鋳包み部となっている。
【0021】
この金属部材14も同様に、ボルト締結時においてへたりを防止する作用を有しており、上記したようなアルミニウム合金、鉄系材料、あるいは、例えばSi、Ag、Ca、Sr、Y、Zr、及び希土類金属の中から選ばれる1種以上の金属を添加した耐熱マグネシウム合金から選ばれる1種の金属から成るものであって、この金属部材14を上記のようなMg−Al−Zn系合金やMg−Al−Mn系合金などのマグネシウム合金で鋳包むことによって上記締結部材12が形成されている。なお、金属部材14は、ボルト挿通孔14aとボルト座面14bを備えておれば、必ずしも締結部材12を貫通した状態になっていなくても差し支えない。
【0022】
鋳包み部であるは、図2に示すように、ボルト回転軸に垂直方向の断面積の最小部が締結部材12板厚中央部分に位置するように、縦断面形状がH字形となるようになっており、これが抜け防止手段として機能するようになっている。また、締結後の回転防止手段として、ボルト回転軸に垂直方向の断面の一部又は全部が真円ではなく楕円形状となっている。
【0023】
被締結部材11(第1部材)を構成する金属材料としては、特に限定されない。一方、締結部材12(第2部材)として用いる鋳包み母材は、上記した実施形態と同様に、Mg−Al−Zn系合金やMg−Al−Mn系などの汎用マグネシウム合金を用いることができ、その数についても、1個に限定されることはなく、被締結部材11に複数の締結部材12をボルト締めすることもできる。
【0024】
上記したマグネシウム部品の締結構造においても、締結部材12に鋳包まれた金属部材14に形成したボルト挿通孔14aに通した金属製ボルト3を被締結部材11に形成された雌ねじ部11aに捩じ込むことによって、両部材11及び12を締結することができ、ボルト締結部のボルト座面部分にのみ金属部材を鋳包むようにしていることから、締結部材としてのマグネシウム部品の軽量化を図ることが可能となり、上記の実施形態と同様に、トータルとして軽量で廉価な締結構造とすることができる。
【0025】
なお、図1及び図2に示した金属部材4及び14の材料として、アルミニウム合金を用いた場合にも、汎用マグネシウム合金に比べて締結軸力の低下が少ないので、良好な結果を得ることができる。このとき、ダイカスト用のアルミニウム合金が好適に用いることができる。
さらに金属部材4及び14の材料としては、鋼材や鋳鉄などの鉄系材料鉄鋼もダイカスト用のアルミニウム合金と同様に、汎用マグネシウム合金に比べて締結軸力の低下が少ないため好ましく用いられる。これらの金属部材4及び14は、Mg−Al−Zn系合金やMg−Al−Mn系合金で鋳包まれているため、被締結部材1,11や締結部材2,12を全てアルミニウム合金または鉄鋼材料で作製した部品に比べて極めて軽量な部品とすることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
まず、図1に示すように、多角形状の縦断面形状を有すると共に、高さ60mm、ボルト回転軸に垂直方向の断面積の最大部分が長径40mm、短径30mmの楕円形をなし、JIS H5302にアルミニウムダイカストとして規定されるADC12材(Al−Si−Cu系)から成る金属部材4を作製し、この軸芯部に8mm径の下穴を50mm深さに穿設した後、M8の雌ねじ部4aを形成した。
次に、この金属部材4をASTMにAZ91Dとして規定される汎用マグネシウム合金(Mg−Al−Zn系)で鋳包むことによって、図に示すように部材表面に鋳包み部を備えた被締結部材1(第1部材)を得た。
【0028】
次いで、上記ADC12材から成る厚さ20mmの板材に9mm径のボルト挿通孔2aを形成して締結部材2(第2部材)とし、このボルト挿通孔2aに通したスチール製ボルト3(M8×50mm長さ)を被締結部材1の鋳包み部4に形成された雌ねじ部4aに、初期面圧が100MPaとなるようにねじ込むことによって、図1のようなマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
【0029】
そして、100MPaの初期面圧で締結した上記ボルト締結継手を125℃の雰囲気中に200時間保持した後、再度面圧を測定し、上記初期面圧に対するボルトの軸力保持率を求めた。
その結果を、各材料の組み合わせと共に、表1に示す。
【0030】
(実施例2)
金属部材4の素材として、JIS G5502に球状黒鉛鋳鉄として規定されるFCD700材を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによって、図1に示すようなマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
そして、当該ボルト締結継手を同様に125℃の雰囲気中に200時間保持し、同様にボルトの軸力保持率を求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0031】
(実施例3)
金属部材4の素材として、ASTMにAS21として規定される耐熱マグネシウム合金(Mg−Al−Si系、Si:1.0%、希土類金属:0.1%添加)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによって、図1に示すようなマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
そして、当該ボルト締結継手を同様に125℃の雰囲気中に200時間保持した後、同様にボルトの軸力保持率を求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0032】
(実施例4)
まず、図2に示すように、H字をなす縦断面形状を有すると共に、高さ20mm、ボルト回転軸に垂直方向の断面形状が長径40mm、短径30mmの楕円形をなし、ASTMにAS21として規定される耐熱マグネシウム合金(Mg−Al−Si系、Ca:1.0%、希土類金属:3.0%添加)から成り、その中心部に9mm径のボルト挿通孔14aを備えた金属部材14を作製し、この金属部材14をASTMにAZ91Dとして規定される汎用マグネシウム合金(Mg−Al−Zn系)で鋳包むことによって、図に示すように部材表裏に貫通する鋳包み部を備えた板厚20mmの締結部材12(第2部材)を得た。
【0033】
次いで、上記ADC12材から成る被締結部材11(第1部材)の締結側面に8mm径の下穴を50mm深さに穿設した後、M8の雌ねじ部11aを形成し、締結部材12の鋳包み部14に形成されたボルト挿通孔14aに通したスチール製ボルト3(M8×50mm長さ)を被締結部材11の上記雌ねじ部11aに、初期面圧が100MPaとなるようにねじ込むことによって、図2のようなマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
【0034】
そして、同様に、100MPaの初期面圧で締結した上記ボルト締結継手を125℃の雰囲気中に200時間保持した後、再度面圧を測定し、上記初期面圧に対するボルトの軸力保持率を求めた。
その結果を、各材料の組み合わせと共に、表1に併せて示す。
【0035】
(実施例5)
金属部材14の素材を上記ADC12材から成るものとしたこと以外は、上記実施例4と同様の操作を繰り返すことによって、図2に示すようなマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
そして、当該ボルト締結継手を同様に125℃の雰囲気中に200時間保持した後、同様にボルトの軸力保持率を求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0036】
(実施例6)
金属部材14の素材として、ASTMにAS21として規定される耐熱マグネシウム合金(Mg−Al−Si系、Si:1.0%、希土類金属:0.1%添加)を用いたことを除いて、上記実施例4と同様の操作を繰り返すことによって、図2に示すようなマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
そして、当該ボルト締結継手を同様に125℃の雰囲気中に200時間保持し、同様にボルトの軸力保持率を求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0037】
(比較例1)
図3に示すように、金属部材4を鋳包むことなく、上記の汎用マグネシウム合金から成る被締結部材51(第1部材)に形成した雌ねじ部51aに上記ボルト3を捩じ込んだことを除いて、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによってマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
そして、得られたボルト締結継手を同様に125℃の雰囲気中に200時間保持し、同様にボルトの軸力保持率を求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0038】
(比較例2)
図3に示すように、金属部材14を鋳包むことなく、上記の汎用マグネシウム合金から成る締結部材53(第2部材)に形成したボルト挿通孔に上記ボルト3を通したこと以外は、上記実施例4と同様の操作を繰り返すことによってマグネシウム部品のボルト締結継手を得た。
そして、得られたボルト締結継手を同様に125℃の雰囲気中に200時間保持した後、同様にボルトの軸力保持率を求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0039】
【表1】

【0040】
上記実施例及び比較例について、ボルト締結後の軸力と、125℃×200時間経過後のボルト軸力保持力を比較した結果、雌ねじ部あるいはボルト座面部に従来のマグネシウム合金、すなわち汎用マグネシウム合金を用い、相手部材にアルミニウム合金を用いた比較例1及び2においては、いずれも軸力保持率が60%となり、へたりが大きいことが確認された。
【0041】
これに対して被締結部材の雌ねじ部に鉄系材料から成る部材を鋳包んだ実施例2においては、軸力保持率が100%となり、軸力の低下は認められなかった。また、雌ねじ部あるいはボルト座面部に、アルミニウム合金から成る金属部材を鋳包んだ実施例1及び5における軸力保持率はいずれも98%となり、へたりが少ないことが認められた。
さらに、雌ねじ部あるいはボルト座面部に、所定金属元素を添加した耐熱マグネシウム合金から成る金属部材を鋳包んだ実施例3、4及び6についても、軸力保持率はそれぞれ87%、93%及び87%となり、へたりが少ないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のマグネシウム部品の締結構造の一実施形態を示す断面説明図である。
【図2】本発明のマグネシウム部品の締結構造の他の実施形態を示す断面説明図である。
【図3】従来のマグネシウム部品の締結構造を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1、11 被締結部材(第1部材)
2、12 締結部材(第2部材)
2a ボルト挿通孔
3 金属製ボルト
4、14 金属部材(鋳包み部)
4a 雌ねじ部
11a 雌ねじ部
14a ボルト挿通孔
14b ボルト座面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製ボルトを用いて、マグネシウム又はマグネシウム合金から成る第1部材に、第2部材を締結するマグネシウム部品の締結構造において、
上記第1部材が当該第1部材を形成するマグネシウム又はマグネシウム合金により鋳包まれた鋳包み部を有し、該鋳包み部が鉄系材料、アルミニウム合金又は耐熱マグネシウム合金から成り、上記金属製ボルトに螺合する雌ねじ部と共に、第1部材からの抜け防止手段及び回転防止手段を備え、
上記第2部材が上記金属製ボルトを挿通するボルト挿通孔を備えていることを特徴とするマグネシウム部品の締結構造。
【請求項2】
上記鋳包み部におけるボルト回転軸に垂直方向の断面積の最大部又は最小部が上記第1部材の表面以外の部位に位置していることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム部品の締結構造。
【請求項3】
金属製ボルトを用いて、第1部材にマグネシウム又はマグネシウム合金から成る第2部材を締結するマグネシウム部品の締結構造において、
上記第1部材が上記金属製ボルトに螺合する雌ねじ部を備え、
上記第2部材が当該第2部材を形成するマグネシウム又はマグネシウム合金により鋳包まれた鋳包み部を有し、該鋳包み部が鉄系材料、アルミニウム合金又は耐熱マグネシウム合金から成り、上記金属製ボルトを挿通するボルト挿通孔及びボルト頭部に圧接するボルト座面と共に、第2部材からの抜け防止手段及び回転防止手段を備えていることを特徴とするマグネシウム部品の締結構造。
【請求項4】
上記鋳包み部におけるボルト回転軸に垂直方向の断面積の最大部又は最小部が上記第2部材の表面以外の部位に位置していることを特徴とする請求項3に記載のマグネシウム部品の締結構造。
【請求項5】
上記鋳包み部におけるボルト回転軸に垂直方向の断面の少なくとも一部が非円形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のマグネシウム部品の締結構造。
【請求項6】
上記耐熱マグネシウム合金は、けい素、銀、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム及び希土類金属から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のマグネシウム部品の締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−205174(P2006−205174A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16642(P2005−16642)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】