説明

マグネトロン真空計及び低真空領域の真空度判別方法

【課題】 マグネトロン真空計は一度放電が停止してしまうと再度放電させるまでに長時間を要するという点であり、また、マグネトロン真空計では低真空領域の測定ができず、定電流による測定は陽極を破壊してしまう虞もあり、異常大電流を抑えて単に定電流を流しても非線形となっているため、そのままでの測定はできないという点である。
【解決手段】 熱エネルギーを与え、吸着脱離時間を短縮させ、電子の運動エネルギーを増加させることで放電開始時間を短縮することとし、また、複数種の定電流を切り換えてマグネトロン真空計の両端電圧、周波数及び振幅を測定してその各定電流による測定値データを比較して真空度を表示することとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネトロン真空計及び低真空領域の真空度判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空計には種々のタイプ、構成のものが知られているが、低真空から超真空までのあらゆる領域をカバーし、一つのゲージで測定することができる真空計は存在していない。その真空計のうちの一つであるマグネトロン真空計は円筒形をした陰極と、その陰極の中心位置に配された陽極とを有し、前記した円筒形陰極の外部から、通常リング状とした磁石によって磁場がかかるようになっている。
【0003】
上記した構造となっていることから、マグネトロン真空計には気体が埋蔵し、気体をため込むポンプ作用を有している。使用開始時には清浄になっているため難なく放電が開始するが、長時間が経過し、気体の原子分子が積層されてくると、停電等の何らかの原因により一度放電が停止してしまうと再度放電させるには数時間という長い時間を要してしまうことがある。
【0004】
この放電を開始するのに影響がある陰極表面の原子分子を取り除く方法として、高電圧を一瞬パルスで出力するという方法もあるが、電極構造加工、高電圧回路、フィールドエミッションによる表面破壊、基本構成部のほかに追加加工をする必要がある。
【0005】
また、このマグネトロン真空計は高真空領域を測定するには3kV定電圧にすることで可能であるが、低真空領域を測定するには定電圧にすると放電不安定領域が存在するため、10-1Paまでしか測定することができなかった。
【0006】
これは、低真空領域を測定する際に定電圧で測定すると真空計の両電極管の真空のインピーダンスが急激に低下して大電流が流れようとし、この結果マグネトロン真空計の両端に大電流が流れ、陽極が破壊されマグネトロン真空計自体が故障してしまう原因ともなっている。
【特許文献1】本願発明に関し、出願人は先行する技術文献の調査を行なったが格別に関連すると思われる文献を発見することはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、マグネトロン真空計は一度放電が停止してしまうと再度放電させるまでに長時間を要するという点であり、対処するため高電圧を一瞬パルスで出力するとすると、電極構造加工、高電圧回路、フィードエミッションによる表面破壊、基本構成部のほかに追加加工を必要としてしまう点である。
【0008】
また、マグネトロン真空計では低真空領域の測定ができず、定電流による測定は陽極を破壊してしまう虞もあり、異常大電流を抑えて単に定電流を流しても非線形となっているため、そのままでの測定はできないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した問題点を解決するために、本発明は熱エネルギーを与え、吸着脱離時間を短縮させ、電子の運動エネルギーを増加させることで放電開始時間を短縮することを特徴とし、前記した熱エネルギーはヒータによる加熱で得ることを特徴としている。
【0010】
また、本発明は複数種の定電流を切り換えてマグネトロン真空計の両端電圧、周波数及び振幅を測定してその各定電流による測定値データを比較して真空度を表示することを特徴とし、前記した複数種の定電流は1mA及び8mAの2種としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1及び請求項2に記載の発明によれば、格別に既存の表面構造を変えることなく、電界放出効果を使わずにヒータ加熱を行うことで得られる熱エネルギーによって表面から原子分子の吸着脱離時間を短縮し、電子の運動エネルギーを増加させることによって一度放電が停止した後の放電再開開始時間を短縮することができる。
【0012】
また、請求項3及び請求項4に記載の発明によれば、1mA、8mAとした定電流による電圧特性、圧力特性によって、そのデータ比較で低真空領域の真空度も判定できることとなり、1基のマグネトロン真空計によって低真空から高真空までを測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図で示す実施例のように構成することで実現した。
【実施例1】
【0014】
次に、本発明の好ましい実施の例を図面を参照して説明する。図1は本発明に係るマグネトロン真空計の放電開始時間の短縮回路ブロック図、図2は同じく放電電流と時間、温度の関係を示す図、図3は同じく別の条件で示す図、図4は同じく別の条件で示す図、図5は同じく別の条件で示す図、図6は低真空領域を測定するための定電流回路ブロック図、図7は同じく1mA、8mA定電流、電圧と真空度の関係を示す図、図8は同じく1mA、5k、50kΩの定電流特性を示す図、図9は同じく8mAの定電流特性を示す図、図10は同じく1mA定電流のP‐P特性を示す図、図11は同じく8mA定電流のP‐P特性を示す図、図12は同じく1mA定電流の周波数特性を示す図、図13は同じく8mA定電流の周波数特性を示す図、図14は同じく特に低真空測定を行なうフローチャート図である。
【0015】
これらの図にあって1はマグネトロン真空計(ゲージ)を示している。この実施例におけるマグネトロン真空計1は円筒型陰極外部から磁場がかかるようにした、いわゆる逆マグネトロン真空計を想定している。このマグネトロン真空計1には電気回路として3kV、10mAの定電流の電源2が組み込まれている。
【0016】
また、図中3は電圧を検出するアンプであり、このアンプ3には電圧、電流、ヒータを制御する制御部(制御回路)4、数値をリニアラインに補正する補正回路5、及び圧力値をデジタル表示する表示部6が電気的に接続されている。
【0017】
さらに、このマグネトロン真空計1の周囲には磁石と共に、特に真空度検出部の周囲にヒータ7が巻装して備えられており、このヒータ7によってマグネトロン真空計1自体の温度を上昇させることができる構成としてある。
【0018】
図2乃至図5は前記したヒータ7の作用によって、高真空領域で4つのゲージの温度を上昇設定した時の放電開始時間の温度特性を示している。図2は後述する表1と対応し、図3は表2と対応し、図4は表3と対応し、図5は表4に対応しており、各ゲージでは20℃の基本温度の場合と100℃、150℃あるいは90℃に設定した状況で比較している。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
この温度特性を示す図で理解できるように20℃でおよそ40分程度の時間を要していたものが加熱により、温度が上昇されることで前述した作用が生じ、約6分程度にまで時間が短縮される。この放電開始時間はその時の環境状態で多少の差異が生じるのは当然であるが、温度を上昇させることで放電開始時間が短くなることは明白となっている。
【0024】
次いで、図6として示す回路には電圧検出のアンプ3に加え、電流検出のアンプ8が組み込まれている。この電流検出のアンプ8及び電圧検出のアンプ3には、電圧、電流そして1mA、8mAのスイッチを介して制御する制御部(制御回路)4aが接続されその制御部4aには補正回路5を介して圧力値、電流値をデジタル表示する表示部6aが接続されている。9は安定化のための抵抗である。
【0025】
この構成は、低真空領域も一基のマグネトロン真空計1によって良好に測定することができるように図ったもので、冷陰極電離型で、簡単な構造であり、丈夫である特性に着目してなされたものである。高真空領域は一般的に3kV電圧で放電電流の測定を行なうこととなる。
【0026】
低真空領域は定電圧制御をするとゲージ内のインピーダンスが急激に下がり、異常電流が流れゲージを破壊する可能性がある。そこで、異常電流が流れないようにマグネトロン真空計とシリーズに挿入し、定電流制御で測定することを考えた。しかし、定電流で固定して真空計の両電圧を測定しても非線形となっているため、そのままでは測定できず、2種の定電流を用い、真空計の両端電圧、周波数、振幅を測定し、両データを比較して真空度を表示するようにした。定電流として選ばれた1mAと8mAは繰り返し行った実験の結果、最良と判断されたものである。
【0027】
図8、図9には各々圧力とゲージ両端電圧の関係特性を示している。図8は1mA定電流、図9は8mA定電流の場合で各々5k、50kΩで設定されている。この図8、図9で明らかなように1mAの定電流では101〜102Pa、8mAでは100〜101Paの圧力領域で5k、50kΩの電圧急落領域にずれが生じるが、その領域以外では特性は略同等である。
【0028】
また、図10、図11にはゲージ両端電圧と圧力特性(P‐P特性)を示している。図10は1mA定電流、図11は8mA定電流の場合で、1mAでは5k、50kΩで略同等の変化を示している。5×101Paから約300VのP‐P発振が始まり、そこから圧力を上げていくと、2×102Pa付近でP‐Pが約150Vまで下がり、その圧力から、圧力を上げるとP‐Pも高くなって1.0×104Paでは約1kVとなる。
【0029】
8mAの場合、環境条件によって違いが生じるが、2×103Paから約20VのP‐P発振が始まり、そこから圧力を上げるにつれてP‐Pも高くなって、1.0×104Paでは約60Vになる。
【0030】
さらに、図12、図13は周波数と圧力との関係特性を示しており、図12は1mA定電流、図13は8mA定電流の場合である。1mAの場合、約5×101Paから発振が始まり、圧力が上がるにつれて周波数が高くなり、2×102Paで5k、50kΩ共にそれぞれ8kHz、18kHzの最大になる。更に圧力を上げると次第に周波数は低くなり、1.0×104Pa付近で5k、50kΩはそれぞれ1kHz、3kHzとなる。
【0031】
8mAの場合、測定条件によって違いが生じるが、約2×103Paから発振が始まり、その際5k、50kΩはそれぞれ2.9kHz、1.5kHzである。さらに、圧力を上げていくと周波数は低くなっていく傾向があり、大体1×104Paで5k、50kΩの周波数は70Hz、65Hzとなる。
【0032】
【表5】


この表5は1mA、8mAの低真空領域でのゲージ電圧をはじめ、安定度、電圧変動範囲、周波数範囲を表わしている。
【0033】
本実施例にあっては上記した種々の特性要因を1mAと8mAの電流を切り換えることによってデータを得、それを比較して低真空領域の真空度として表示することとなるが、1mAと8mAが定電流であり、相互に表示ラインが非線形に変形されるがそのクロス部分をチェックすることでこの真空度とできる。
【0034】
次に、図14として本実施例による真空度判断(測定)のフローチャートを示す。測定開始後、まず、3kV定電圧測定を行ない、その測定で放電電流が1mA以下であるか否かをチェックする。
【0035】
ここでYESであれば高真空測定として3kV定電圧制御を行ない、放電電流の測定を行なって真空度を表示する。また、NOであればV1mAが600V以上でかつ安定しているか否かをチェックする。
【0036】
このチェックがYESであればゲージ両端電圧V1mAを測定して真空度を表示することとなる。また、NOであれば低真空測定として、1mA、8mA定電流切替制御を行ない、V1mAとV8mAを比較し、真空度を表示することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るマグネトロン真空計の放電開始時間の短縮回路ブロック図である。
【図2】放電電流と時間、温度の関係を示す図である。
【図3】別の条件で示す図である。
【図4】別の条件で示す図である。
【図5】別の条件で示す図である。
【図6】低真空領域を測定するための定電流回路ブロック図である。
【図7】1mA、8mA定電流、電圧と真空度の関係を示す図である。
【図8】1mA、5k、50kΩの定電流特性を示す図である。
【図9】8mAの定電流特性を示す図である。
【図10】1mA定電流のP‐P特性を示す図である。
【図11】8mA定電流のP‐P特性を示す図である。
【図12】1mA定電流の周波数特性を示す図である。
【図13】8mA定電流の周波数特性を示す図である。
【図14】特に低真空測定を行なうフローチャート図である。
【符号の説明】
【0038】
1 マグネトロン真空計
2 電源
3 電圧検出のアンプ
4 制御部
4a 制御部
5 補正回路
6 表示部
6a 表示部
7 ヒータ
8 電流検出のアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーを与え、吸着脱離時間を短縮させ、電子の運動エネルギーを増加させることで放電開始時間を短縮することを特徴とするマグネトロン真空計。
【請求項2】
前記した熱エネルギーはヒータによる加熱で得ることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロン真空計。
【請求項3】
複数種の定電流を切り換えてマグネトロン真空計の両端電圧、周波数及び振幅を測定してその各定電流による測定値データを比較して真空度を表示することを特徴とするマグネトロン真空計による低真空領域の真空度判別方法。
【請求項4】
前記した複数種の定電流は1mA及び8mAの2種としたことを特徴とする請求項3に記載のマグネトロン真空計による低真空領域の真空度判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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