説明

マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤

【課題】 天然抽出物を含有したマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤を提供する。
【解決手段】 ウーロンチャを水、親水性有機溶媒の混合物で抽出処理して得られる抽出物がマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用を有することを利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚の真皮・表皮は、表皮細胞、繊維芽細胞及びこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するエラスチン、コラーゲン等の真皮細胞外マトリックスによって構成されており、若い皮膚においてはこれらの皮膚組織が恒常性を維持することにより水分保持、柔軟性、弾力性等が確保され、肌は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
【0003】
ところが、紫外線の照射、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等、ある種の外的因子の影響があったり、加齢が進んだりすることによって、真皮細胞外マトリックスの主要構成成分であるエラスチン、コラーゲン等の産生量が減少するとともに、変性や分解を引き起こす。その結果、角質は以上剥離を始め、肌は張りや艶を失い、肌荒れやシワ等の老化症状を呈するようになる。このように、皮膚の老化に伴う変化、すなわち、シワの形成、張りの消失、弾力性の低下等には、エラスチン、コラーゲン等の真皮細胞外マトリックス成分の減少、変性が関与している。
【0004】
近年、皮膚の老化に伴う変化を誘導する因子として、マトリックス系プロテアーゼの関与が指摘されている。マトリックス系プロテアーゼの中でも、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)は、皮膚の真皮細胞外マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンを分解する酵素として知られているが、その発現は紫外線の照射により大きく増加し、コラーゲンの減少・変性の一因となり、皮膚のシワの形成、弾力性の低下等の大きな要因となると考えられている。
【0005】
このような考えに基づき、MMP−1阻害作用を有する物質を、安全性の点で有利な天然物より取得する試みがなされており、例えば、ニ葉松類の樹皮からの抽出物(特許文献1)、コロソリン酸(特許文献2)などに有効性が確認されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−300893号
【特許文献2】特願2006−37114号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、安全性の高い天然物由来の物質の中から安定性や使用感にも優れた効果的なマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤を提供することにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤が提供される。本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤は優れたマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用を有するだけでなく使用感にも優れているので、各種化粧品や飲食品に配合して使用するのに好適なものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が提供することに成功したマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤は、ウーロンチャからの抽出物を有効成分としてなるものである。
【0010】
ここで言う植物抽出物、ウーロンチャとはツバキ科植物チャノキ(学名:Thea sinensis)の葉を半発酵したものを用いたものである。
【0011】
ウーロンチャからの抽出物を有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤を製造する場合、有効成分の抽出には水または含水アルコールを用いる。含水アルコールを使用する場合におけるアルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級脂肪族アルコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコールが好適であり、含水率は約30〜50%のものが適当である。
【0012】
抽出方法には特殊なものは不要であり、室温ないし還流加熱下に、任意の装置を用いて抽出することが出来る。簡単には、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、ときどき攪拌しながら可溶性成分を抽出させる。得られた抽出液を濃縮すると、濃い茶褐色の濃縮液(エキス)が得られる。乾燥して粉末化することは困難なので、通常はこのエキスをマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤に使用する。
【0013】
得られた抽出液はそのままでもマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤として使用することができるが、濃縮液又はその乾燥物としたものの方が利用しやすい。また、抽出原料となる植物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、化粧料に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。精製は、具体的には活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0014】
ウーロンチャからの抽出物は、そのままでもマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤として使用することができるが、常法に従って製剤化して提供することもできる。製剤化する場合、保存や取扱いを容易にするために、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容され得るキャリアーや、その他任意の助剤を添加することができる。
【0015】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤は皮膚に適用した場合の安全性に優れているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。皮膚化粧料には、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤のみを配合してもよいし、その他の有効素材を組み合わせて配合してもよい。
【0016】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤を配合し得る皮膚化粧料は特に限定されないが、その具体例としては、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、入浴剤等を例示することができる。
【0017】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤の配合量は、皮膚化粧料の種類や抽出物の生理活性等によって適宜調整することができるが、好適な配合率は標準的な抽出物に換算して約0.01〜10質量%である。
【0018】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤を配合する皮膚化粧料には、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用の妨げにならない限り、皮膚化粧料の製造に通常使用される各種主剤及び助剤、その他任意の助剤を配合することができ、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤のみが主剤となるものに限られるわけではない。
【0019】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤は安全性に優れているため、飲食品に配合するのに好適である。その場合の配合量は、添加対象飲食品の一般的な摂取量を考慮して成人1日当たりの抽出物摂取量が約1〜1000mgになるようにするのが適当である。
【0020】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤を配合し得る飲食品は特に限定されないが、その具体例としては、 清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物などが挙げられる。
【0021】
以上説明した本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0023】
[製造例1]
ウーロンチャの粗粉砕物100gに抽出溶媒として50%エタノールを1000ml加え、還流抽出器で80℃にて2時間抽出し、濾過した。残渣について更に同様の抽出処理を行った。得られた抽出液を合わせて減圧下に濃縮を行い、乾燥して該抽出物を得た。各抽出物の収率は表1に示す。
【0024】
[表1]抽出物の収率
原料 50%エタノール(%)
ウーロンチャ 8.4
【0025】
[試験例1]マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用試験
蓋付試験管にて、20mmol/Lの塩化カルシウムを含有する0.1mol/Lのトリス−塩酸緩衝液(pH7.1)で調整した試料溶液50μL、0.4mol/Lのマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1,シグマ社製)溶液(溶媒:20mmol/Lの塩化カルシウムを含有する0.1mol/Lトリス−塩酸緩衝液(pH7.1))50μL、及び0.01mg/mLのPz−ペプチド(BACHEM Feinchemilalien AG社製)溶液(溶媒:20mmol/Lの塩化カルシウムを含有する0.1mol/Lトリス−塩酸緩衝液(pH7.1))400μLを混合し、37℃にて30分間反応させた後、25mmol/Lのクエン酸1mlを加え、反応を停止させた。
その後、酢酸エチル5mlをさらに加えて、激しく振とうした。これを遠心分離し(1600×g,10分間)、酢酸エチル層の波長320nmにおける吸光度を測定した。また、同様の方法により空試験を行った。得られた結果から、次式に基づき、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害率(%)を算出した。
MMP−1阻害率(%)={1−(C−D)/(A−B)}×100
式中、Aは「試料無添加・酵素添加時の吸光度」を表し、Bは「試料無添加・酵素無添加時の吸光度」を表し、Cは「試料添加・酵素添加時の吸光度」を表し、Dは「試料添加・酵素無添加時の吸光度」を表す。
試料濃度を段階的に減少させて上記阻害率の測定を行い、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の活性を50%阻害する試料濃度IC50(μg/mL)を内挿法により求めた。
上記試験の結果を表2に示す。
【0026】
[表2]
試 料 IC50(μg/mL)
ウーロンチャ・50%エタノール抽出物 88.3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウーロンチャからの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)阻害剤。

【公開番号】特開2007−302604(P2007−302604A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132515(P2006−132515)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】