説明

マニピュレータの制御装置

【課題】ロボットアームと多指ハンドとを備えたマニピュレータの制御方法であって、アームとハンドの制御装置の独立性を保ちながら、アーム側はハンドの位置姿勢情報に基づくツール位置を制御することができ、ハンド側は作業空間における自身の位置姿勢を制御することを可能にする。
【解決手段】指令装置側に作業プログラムとは別に、周期的に動作する補助プログラムを設け、ロボットアームと多指ハンドの位置姿勢を座標変換してアームのツール位置姿勢とハンドの作業空間における位置姿勢を設定させる。これによって、作業プログラムは作業空間における多指ハンドの動作指令や、ハンドの作業点を作業空間における指定位置に動作させるようなロボットアームの動作指令をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアーム先端に多指ハンドを備えたマニピュレータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアーム先端に多指ハンドを備えたマニピュレータの従来の制御装置では、ロボットアーム制御系と多指ハンド制御系との間で互いの位置姿勢情報を座標変換して送受信し、協調制御系を構成して制御していた。(例えば、特許文献1参照)
図3に従来のマニピュレータの制御装置の模式図を示す。図3において、ロボットアーム制御装置4はアーム制御系401、座標設定部404、位置姿勢検出部405を備え、同様に多指ハンド制御装置5はハンド制御系501、座標設定部504、位置姿勢検出部505を備えている。多指ハンドの制御装置5には、多指ハンドの位置姿勢を座標変換してツール座標としてアーム側に出力する座標変換部506と、ロボットアームから受信した位置姿勢を座標変換してハンドの空間的な位置姿勢を算出する座標変換部507とがあり、これによってアーム側はハンドの位置姿勢を把握し、ハンド側は作業空間における自身の位置姿勢を把握することによって、協調制御系を構成している。
このように、従来のロボットアームと多指ハンドを備えたマニピュレータの制御装置では、ロボットアーム制御部と多指ハンド制御部で互いの位置関係を把握して座標変換演算を行い、協調制御系を構成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−104985号公報(第11頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のロボットアームと多指ハンドを備えたマニピュレータの制御装置は、ロボットアームの制御装置と多指ハンドの制御装置とがデータを相互に変換および直接的に送受信して協調制御系を構成していた。従来のマニピュレータ制御装置は、ロボットアーム制御装置と多指ハンド制御装置のみで構成されて、動作指令にマニピュレータの動作を応答させていたので、ロボットアームと多指ハンドに対して同一の座標系で動作指令(図3の403、503)を行うようにするには、ロボットアームの制御装置と多指ハンドの制御装置とがロボットアームと多指ハンド互いの位置関係を把握して、各々の制御装置で変換演算を行う必要があった。この場合、ロボットアームに多指ハンドを取り付ける位置や姿勢が変更されるたびに、制御部においてロボットアームにおける座標変換の演算を再調整しなければならないという問題があった。あるいは、ロボットアームにおける位置や姿勢が変更されるたびに、制御部において多指ハンドにおける座標変換の演算を再調整しなければならないという問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ロボットアームと多指ハンドそれぞれの制御装置の独立性を保つとともに、ロボットアームと多指ハンドの位置姿勢情報を指令装置により相互に伝達する。これにより、ロボットアーム側は、多指ハンドにおける座標変換の演算をすることなく、多指ハンドの位置姿勢情報に基づいてツール位置を制御することができる。また、多指ハンド側は、ロボットアームにおける座標変換の演算をすることなく、作業空間における多指ハンドの位置姿勢を制御することが可能な制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、本発明は、次のようにしたのである。本発明はロボットアームの先端に多指ハンドを装着したマニピュレータの制御装置に関し、ロボットアームの先端座標と、多指ハンドのベース座標と間の座標変換情報(Tint)を有する指令装置(3)であって、多指ハンドの指先の位置姿勢指令(Ttool、Ttip)に基づいて、座標変換情報(Tint)を用いて第1の変換行列(Tat)と、第2の変換行列(Thb)とを算出する、指令装置と、
指先の位置姿勢指令(Ttool)と、第1の変換行列とを用いて、ロボットアームを動作させる第1の制御装置(1)と、
指先の位置姿勢指令(Ttip)と、第2の変換行列とを用いて、多指ハンドを動作させる第2の制御装置(2)と、を備え、
第1の制御装置と第2の制御装置とは独立して構成され、第1の変換行列(Tat)は、第2の制御装置から送出された多指ハンドの位置姿勢情報(Thl)と、座標変換情報(Tint)とに基づいて算出され、第2の変換行列(Thb)は、第1の制御装置から送出されたロボットアームの位置姿勢情報(Taf)と、座標変換情報(Tint)とに基づいて算出されることを特徴とする、マニピュレータの制御装置を特徴とする。
また、本発明は、さらに指令装置が、マニピュレータの作業手順を記述した作業プログラム(301)と補助プログラム(302)とを有し、補助プログラムは周期的にロボットアームの制御装置(第1の制御装置)からロボットアームの位置姿勢情報(Taf)を、多指ハンドの制御装置(第2の制御装置)から多指ハンドの姿勢姿勢情報(Thl)を取得するマニピュレータの制御装置を特徴とする。
また、本発明は、さらに補助プログラムが起動される周期は作業プログラムによって変更可能であるマニピュレータの制御装置を特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明によると、ロボットアームや多指ハンドの姿勢が変化して、作業空間における多指ハンドの位置姿勢が変わったり、ロボットアームにとっての多指ハンドの指先に設定されるツールの位置姿勢が変わったりした場合にも、指令装置3は自動的にロボットアームと多指ハンドの各制御装置から送出された位置姿勢情報を取得し、伝えることができる。指令装置は各制御装置から送出された位置姿勢情報と、予め規定された座標変換情報とを用いて、他方の制御装置へ送出する変換行列を生成する。ロボットアーム制御装置1は、指令装置により生成された第1の変換行列に基づいてロボットアームの各関節へ与える動作指令を生成すれば良い。また、多指ハンド制御装置2は、指令装置3により生成された第2の変換行列に基づいて多指ハンドの各関節へ与える動作指令を生成すればよい。
また、請求項2に記載の発明によると、補助プログラムの周期的な動作によって作業プログラムが実行する作業の種類に応じて周期的にロボットアームの位置姿勢情報、及び多指ハンドの位置姿勢情報を取得することを特徴としている。作業プログラムはロボットアームや多指ハンドの位置姿勢を意識することなく、作業空間における多指ハンドの動作指令や、ハンドの作業点を作業空間における指定位置に動作させるようなロボットアームの動作指令を行うことができる。
また、請求項3に記載の発明によると、補助プログラムの動作周期を変更することができ、多指ハンドが複雑な動作をして多指ハンドの作業点が絶えず変化するような作業でも、補助プログラムの動作周期を短くすることによって多指ハンドの作業点が速やかにロボットアームに伝達されて作業空間内での作業点をロボットアームによって制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1a】本発明のマニピュレータの構成図
【図1b】本発明のマニピュレータ制御装置の構成を示す模式図
【図2】ロボットアーム制御装置、多指ハンド制御装置で使用する座標系の位置関係を示す模式図
【図3】従来のマニピュレータの制御装置の構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の方法の具体的実施例について、図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1aは、本発明の多指ハンドとロボットアームとで構成されるマニピュレータを示す図である。多指ハンドはロボットアームの先端の多指ハンド取り付け箇所を介して取り付けられ、取り外すことも可能である。多指ハンドは、ベース部と、各指部とで構成されている。各指部は多指ハンドのベース部に接続されている。
図1bは、本発明の多指ハンドを有するマニピュレータの制御装置の構成例を示す模式図である。本発明に係るシステムは、ロボットアームを制御するロボットアーム制御装置1と、多指ハンドを制御する多指ハンド制御装置2と、指令装置3とから構成される。指令装置3は、ロボットアーム制御装置1と、多指ハンド制御装置2とそれぞれ接続されている。また、図示されていないが、ロボットアーム制御装置1、及び多指ハンド制御装置2はそれぞれメモリを備えている。
【0010】
ロボットアーム制御装置1は、ロボットアームの動作を制御するアーム制御系101と、指令装置3からの指令を処理して応答を返す動作指令応答部102と、ツール座標設定部104と、アームの位置姿勢検出部105とを備える。
アーム制御系101は、ツール座標設定部104により設定されたツール座標に対応するようアームの制御を行う。具体的には、アーム制御系101は、アームを構成する各関節に与える動作指令103(Ttool)を動作指令応答部102より受け取る。また、アーム制御系101は、後述する同次変換行列Tatに関する情報をメモリより読み出し、動作指令103と、同次変換行列Tatとに基づいて各アームの動作角度をそれぞれの関節へ与える。なお、各関節へ与える指令は、動作速度、または動作加速度であっても良い。また、図示されているアームは4つのリンクと、3つの関節により構成されているが、本発明におけるアームは、2以上のリンクと、1以上の関節により構成することもできる。
【0011】
動作指令応答部102は指令装置3の作業プログラム301からの指令に応じて、アーム制御系101に対し動作指令103を送出する。より詳細には、動作指令部102は、作業プログラム301から、目標点に関する位置・姿勢情報指令(Ttool)を受け取り、該情報をアーム制御系101へ送出する。ここで、目標点に関する情報とは、多指ハンドにより把持されるツール(多指ハンドの指先)位置の作業空間における位置姿勢指令Ttoolである。目標点とは、ロボットアームに取り付けられた多指ハンドが指先で把持するツールに対し、予め指定した動作をさせるために、設定した作業空間上の目標とする点である。
【0012】
また、動作指令応答部102は、補助プログラム302により算出されたツールの位置姿勢を示す同次変換行列Tatに係る情報をツール座標設定部104へ送出する。
さらに、動作指令応答部102は、指令装置3からの要求に応じて、ロボットアームの位置姿勢検出部105により算出されるロボットアームの現在の位置姿勢情報Tafを、応答として指令装置3へ送出する機能を備える。ここでロボットアームの位置姿勢情報とは、ロボットアームを構成する各関節の角度情報から求められるアーム先端の位置姿勢情報である。なお、本実施形態においては、ロボットアームの位置姿勢情報は、関節角度情報に基づいて構成されているが、角速度情報、角加速度情報に基づいて構成されてもよい。
【0013】
ツール座標設定部104は、ロボットアームの多指ハンド取り付け箇所における座標系Rafからロボットアームに取り付けた多指ハンドの指先のツール座標系Ratへの位置姿勢の変位を表す同次変換行列Tatを設定する。具体的には、ツール座標設定部104は、補助プログラム302により算出された同次変換行列Tatに係る情報をロボットアーム制御装置1のメモリへ格納する。
【0014】
ロボットアームの位置姿勢検出部105は、アーム制御系101より算出されるアームの位置姿勢情報Tafを取得し、動作指令応答部102へ送出する。そして、動作指令応答部102は、アームの位置姿勢検出部105より得られた位置姿勢情報Tafを指令装置3の補助プログラム302へ送出する。
【0015】
また、多指ハンド制御装置2は、多指ハンドの動作を制御するハンド制御系201と、指令装置3からの指令を処理して応答を返す動作指令応答部202と、指先座標設定部204、ハンドの位置姿勢検出部205とを備える。
【0016】
ハンド制御系201は、指先座標設定部204により設定された多指ハンドのベース座標に対応するよう各指の制御を行う。具体的には、ハンド制御系201は、多指ハンドを構成する各関節に与える動作指令203(Ttip)を動作指令応答部202より受け取る。また、多指ハンド制御系201は、後述する同次変換行列Thbに関する情報をメモリより読み出し、多指ハンドのローカルなベース座標系Rhbに対する各指関節の動作角度をそれぞれの関節へ与える。なお、各指関節へ与える指令は、動作速度、動作加速度であっても良い。
【0017】
動作指令応答部202は指令装置3の作業プログラム301からの指令に応じて、ハンド制御系201に対し動作指令203を送出する。より詳細には、動作指令応答部202は、作業プログラム301から、多指ハンドの指先に関する位置・姿勢情報(Ttip)を受け取り、該情報を動作指令203としてハンド制御系201へ送出する。ここで、多指ハンドの指先に関する位置・姿勢情報Ttipは、作業プログラム301によって算出される多指ハンド指先の作業空間上の位置・姿勢情報である。ここで、Ttipと、Ttoolとは同じ情報で構成されており、共に多指ハンド指先の作業空間上の位置・姿勢情報で構成される。多指ハンドの指先でツールを操作することから、多指ハンドの指先位置はツール位置となる。本発明においては、多指ハンドの指先位置姿勢指令Ttipと、アームへの制御指令Ttoolとを便宜的に区別するために、多指ハンドに関する位置・姿勢情報としてTtipを用い、アームに関する位置・姿勢情報としてTtoolを用いている。
【0018】
また、動作指令応答部202は、補助プログラム302により算出された作業空間でのロボットアームの位置姿勢を示す同次変換行列Thbに係る情報を指先座標設定部204へ送出する。
さらに、動作指令応答部202は、指令装置3からの要求に応じて、ハンドの位置姿勢検出部205により算出される、多指ハンドのベース座標系Rhbにおけるハンドの現在の指先位置情報Thlを応答として指令装置3へ送出する。
【0019】
指先座標設定部204は、ハンド座標系における位置姿勢を、作業空間、すなわちベース座標系Rabに対する多指ハンドの位置姿勢へと変換するための同次変換行列Thbを設定する。具体的には、指先座標設定部204は、補助プログラム302により算出された同次変換行列Thbに係る情報を多指ハンド制御装置2のメモリへ格納する。
【0020】
多指ハンドの位置姿勢検出部205は、ハンド制御系201より得られる各指の各関節の位置姿勢情報Thlを取得し動作指令応答部202へ送出する。そして、動作指令応答部202は、多指ハンドの位置姿勢情報Thlを読み出し、補助プログラム302へ送出する。
【0021】
次に、指令装置3は、作業プログラム301,補助プログラム302、座標変換情報303、及び補助プログラム302の起動周期を設定する起動周期設定部304を備えている。指令装置3はロボットアーム制御装置1および多指ハンド制御装置2に接続されており、マニピュレータの作業手順を記述した作業プログラム301と補助プログラム302を実行している。
【0022】
作業プログラム301はマニピュレータの作業手順を記述したプログラムを記憶している。ここで、作業プログラム301が記憶している作業手順は、作業空間上の多指ハンドの先端に対する作業手順である。作業プログラム301は、起動周期設定部304に指令を出力して補助プログラム302の起動周期を設定する。本起動周期は作業内容に応じて調整することができる。
作業プログラム301は、補助プログラム302を周期的に起動して機能させる。これにより各制御装置は自動的にロボットアームと多指ハンドの位置姿勢情報を取得することができる。作業プログラム301はロボットアームや多指ハンドの位置姿勢を意識することなく作業空間における多指ハンドの指先の動作Ttipを指令することができ、また多指ハンドが作業しやすい位置姿勢にロボットアームを動作させるよう指令(Ttool)することができる。従って、ロボットアームと多指ハンドを同一の座標系で指令することができる。
【0023】
作業プログラム301では、状況に応じて関節角度指令やロボットアームや多指ハンドのローカルな座標系に基づく動作指令と組み合わせて、マニピュレータの作業を記述して指令する。補助プログラム302を起動しない場合には、アームとハンドを独立に動作させることができ、補助プログラムを周期的に起動する場合には、アームとハンドの動作を協調して動作させることが可能になる。
例えば、多指ハンドの指先で作業対象物(ツール)を把持して指の動作で物体を操る場合、一般的に指の動作範囲が狭いため、広範囲な操作ができない。本発明における多指ハンド及びロボットアームに接続された指令装置を用いることによって、多指ハンドの動作をアームの動作に同期させ、ロボットアームと多指ハンドとの合成動作をロボットアーム制御装置、多指ハンド制御装置に対し別個に指令することで、広範囲な動作を指令することができる。この際、アームとハンドに同じ座標系基準で指令を出すことができることの利便性が高い。さらに、本発明においては、指令装置3は、ロボットアームの座標系と多指ハンドの座標系との両方を把握しており、ロボットアームの座標系と多指ハンドの座標系との間の座標変換を行う。これにより、ロボットアーム制御装置、及び多指ハンド制御装置は、互いに独立性を保って、指令装置より取得された動作指令に対して動作することができる。
【0024】
補助プログラム302は座標変換情報303を備えている。座標変換情報303は多指ハンドのベース座標系Rhbにおける位置姿勢をロボットアーム先端のツール取り付け箇所の座標系Rafにおける位置姿勢へ変換するための同次変換行列Tintである。補助プログラム302では、この座標変換情報303(Tint)を用いて座標変換を行う。補助プログラム302は、座標変換情報303に基づいて、ロボットアーム制御装置1内のツール座標設定部104と多指ハンドの制御装置2内の指先座標設定部204にそれぞれ座標系を設定する指令を送出する。
【0025】
ロボットアーム制御装置のツール座標設定部104により設定されるツールの位置姿勢を示す同次変換行列Tatは、補助プログラム302により算出される(Tat=Tint・Thl)。多指ハンド制御装置の指先座標設定部204により設定される作業空間での多指ハンドの位置姿勢を示す同次変換行列Thbは、補助プログラム302により算出される(Thb=Taf・Tint)。
【0026】
補助プログラム302は周期的に起動されて、動作するロボットアームの位置姿勢情報Tafと多指ハンドの位置姿勢情報Thlとを、座標変換し他方の制御装置へと伝達する。そのため、補助プログラム302は周期的にロボットアーム制御装置1の動作指令応答部102よりTafを取得し、また、多指ハンド制御装置2の動作指令応答部202よりThlを取得する。次に、補助プログラム302は、多指ハンド制御装置側から取得された多指ハンドの位置姿勢情報Thlを用いて、Tatを算出して、ロボットアーム制御装置側の動作司令部102へTatを送出する。また、補助プログラム302は、ロボットアーム制御装置側から取得されたロボットアームの位置姿勢情報Tafを用いて、Thbを算出して、多指ハンド制御装置側の動作指令応答部202へThbを送出する。動作指令応答部102は得られたTatをツール座標設定部104へ送出し、動作指令応答部202は得られたThbを指先座標設定部204へ送出する。
【0027】
より詳細には、補助プログラム302は、ハンド制御系201より得られた現在の多指ハンドのベース座標系における位置姿勢情報Thlを動作指令応答部202より取得する。そして、取得された多指ハンドの位置姿勢情報Thlを、座標変換情報303を用いて座標変換(Tint・Thl)する。次に、補助プログラム302は取得された同次変換行列Tat(=Tint・Thl)を、ロボットアーム制御装置1側の動作指令応答部102へ送出する。これにより、ロボットアーム制御装置1は、多指ハンドの位置姿勢を意識することなく、補助プログラムよりツール座標系Tatを取得することにより、ロボットアームの各関節へ与える角度の動作指令を算出することができる。
【0028】
一方、補助プログラム302は、アーム制御系101より得られた現在のロボットアームのベース座標系における位置姿勢情報Tafを動作指令応答部102より取得する。そして、取得されたアームの位置姿勢情報Tafを、座標変換情報303を用いて座標変換する(Taf・Tint)。次に、補助プログラム302は取得された同次変換行列Thbを、多指ハンド制御装置側の動作指令応答部202へ送出する。これにより、多指ハンド制御装置2は、ロボットアームの位置姿勢を意識することなく、補助プログラムより同次変換行列Thb(=Taf・Tint)を取得することにより、多指ハンドの各関節へ与える角度の動作指令を算出することができる。
【0029】
従って、本発明においては、指令装置3が、ロボットアーム側の位置姿勢情報と、多指ハンド側の位置姿勢情報を取得しているため、ロボットアーム制御系と多指ハンド制御系とは互いの座標系を意識することなく、動作指令を行うことができる。このため、ツールの位置姿勢が変化した場合にも、補助プログラムが自動的に座標変換を行うため、ロボットアーム制御装置は多指ハンドにおける座標変換の演算をすることなく、多指ハンドの位置姿勢情報に基づいてツール位置を制御することができる。また多指ハンド指先の位置姿勢が変化した場合にも、補助プログラムが自動的に座標変換を行うため、多指ハンド制御装置はロボットアームにおける座標変換の演算をすることなく、ロボットアームの位置姿勢情報に基づいてツール位置を制御することができる。従って、本発明においては、それぞれロボットアーム制御装置1、及び多指ハンド制御装置2における計算負荷が大幅に削減される。
【0030】
図2は各制御装置で使用する多指ハンドの指先に設定されるツール座標系Rat、ロボットのベース座標系Rab、ツール取り付け箇所の座標系Raf、および多指ハンドのベース座標系Rhbとの位置関係を示す模式図である。
図2に示されるように、制御するマニピュレータは多関節のロボットアームとアーム先端に装着された多指ハンドからなる。多指ハンドを構成する指は複数であっても1つであっても良い。また、多指ハンドを構成する各指はそれぞれ複数の関節を有していても良いし、1の関節を有していても良い。
【0031】
マニピュレータの制御装置はそれぞれ独立したロボットアームを制御するロボットアーム制御装置1と、多指ハンドを制御する多指ハンド制御装置2とを備える。
ここで、ツール座標系Ratとは、多指ハンドの指先(ツール)に対して設けられた座標系である。ツール座標系Ratは多指ハンドを構成する各指の位置姿勢、ロボットアームの位置姿勢により変化する。
【0032】
Rabは、マニピュレータのベース部分を基準に設定したベース座標系である。Rafは、ロボットアーム先端の多指ハンド取り付け箇所を基準に設定された座標系である。Rhbは多指ハンドのローカルなベース座標系であり、多指ハンドの指部分がベース部分に接続されている面を基準にしたベース座標系である。本発明においては、ロボットアームと、多指ハンドとは独立して構成されており、ロボットアームの先端に様々な多指ハンドを接続することができる。なお、Rat、Rab、Raf、Rhbは一般的にはXYZ座標系である。
【0033】
また、Tatは、多指ハンドの指先に設けられたツール座標系Ratにおける位置姿勢を多指ハンド取り付け箇所の座標系Rafにおける位置姿勢に変換するための同次変換行列である。Tatは、ロボットアームの先端、すなわち多指ハンド取り付け箇所からのツールの位置姿勢情報を有する。アーム制御系101がロボットアームでツールの位置姿勢を制御する際はこの同次変換行列Tatを用いてロボットアームの各関節に与える動作動作を算出する。
【0034】
Thlは多指ハンドの指先位置姿勢を示すツール座標系Ratにおける位置姿勢を多指ハンドのローカルなベース座標系Rhbにおける位置姿勢に変換するための同次変換行列である。すなわち、Thlは多指ハンドのローカルなベース座標系に基づく多指ハンドの位置姿勢情報を有する。
【0035】
Tafは、ロボットアーム先端の多指ハンド取り付け箇所の座標系Rafにおける位置姿勢をマニピュレータのベース座標系Rabにおける位置姿勢に変換するための同次変換行列である。すなわち、Tafはマニピュレータのベース座標系に基づくロボットアーム先端の位置姿勢情報を有する。
【0036】
Thbは、多指ハンドのベース座標系Rhbにおける位置姿勢をロボットアームのベース座標系Rabにおける位置姿勢に変換するための同次変換行列である。ハンド制御系201が多指ハンドの指先位置姿勢を制御する際はこの同次変換行列Thbを用いて多指ハンドの各指関節に与える動作を算出する。
【0037】
Ttoolは、ロボットアームへ与えるツールの作業空間上の目標点に関する位置姿勢指令である。Ttipは、多指ハンドへ与える多指ハンド指先(ツール)の作業空間上の目標点に関する位置姿勢指令である。なお、TtoolとTtipは、共に、多指ハンドの指先(ツール)に与えられる位置姿勢指令であり同じ指令である。ロボットアームへ与える指令と、多指ハンドへ与える指令とを区別するために、便宜上区別して記載している。
【0038】
Tintは多指ハンドのベース座標系Rhbにおける位置姿勢を多指ハンド取り付け箇所、すなわちロボットアーム先端の座標系Rafにおける位置姿勢に変換するための同次変換行列である。なお、Tintは、多指ハンドをロボットアーム先端に取り付けた際の位置関係の情報として、予め補助プログラム302に格納されている。
【0039】
従って、作業空間、すなわちロボットアームのベース座標系Rabで表した多指ハンドの指先位置姿勢Ttoolは、多指ハンド取り付け箇所の座標系Rafにおける位置姿勢をアームのベース座標系Rabへ変換するための同次変換行列Tafを用いると、Taf・Tatで算出される。Tafはロボットアームの各関節角度によって変化するキネマティクスの式に用いられる同次変換行列である。作業プログラム301から、ツールの位置姿勢がTtoolとして指令されたとき、アーム制御系101は、逆キネマティクス演算Taf =Ttool・Tat-1 を行い、算出された行列Tafにより、各関節に与える動作角度を取得し、各関節を制御する。
【0040】
一方、作業空間、すなわちロボットアームのベース座標Rabで表した多指ハンドの指先の位置姿勢Ttipは、多指ハンドのローカルなベース座標系に基づく多指ハンドの位置姿勢情報Thlを用いると、Thb・Thlで算出される。。Thlは、多指ハンドの各指を構成する各関節角度によって変化するキネマティクスの式に用いられる同次変換行列である。作業プログラム301から、ロボットのベース座標系Rabに対する多指ハンドの指先位置姿勢がTtipとして指令されたとき、多指ハンド制御系201は、逆キネマティクス演算Thl=Thb-1・Ttip を行い、算出された行列Thlにより、各指関節に与える動作角度を取得し、各指関節を制御する。
【0041】
本発明においては、補助プログラム302の周期的な動作によって自動的にロボットアームと多指ハンドの各位置姿勢情報を、各制御装置に伝えることができるため、作業プログラムではロボットアームと多指ハンドの位置姿勢を意識することなく一の座標系で指令することができる。すなわち、作業プログラムはロボットアームや多指ハンドの位置姿勢を意識することなく、作業空間における多指ハンドの動作を指令(Ttip)でき、また多指ハンドが作業しやすい位置姿勢にロボットアームを動作させるよう作業空間におけるロボットアームの動作を指令(Ttool)することができる。
【0042】
多指ハンドをロボットアームに取り付けた際の位置関係の情報は、Tintとして指令装置3の補助プログラム302に内蔵されている。本発明においては、ロボットアーム制御装置1や多指ハンド制御装置2には、各々の制御装置が必要とする座標情報のみが設定されるため、各制御装置、すなわちロボットアーム制御装置1と、多指ハンド制御装置2との独立性を保つことができる。これは、ロボットアームや多指ハンドが、制御装置を含めたアームユニットやハンドユニットとして提供されている場合、指令装置3のアプリケーションにアームとユニットの間の組み合わせ情報Tintを収納している点で有効である。本発明においては、この組み合わせ情報Tintを座標変換情報303としている。
【0043】
さらに、本発明においては、ロボットアームユニットと多指ハンドユニットとの独立性を確保するために、指令装置3は、ロボットアームに関する情報と、多指ハンドに関する情報とを取得する。これにより本発明においては、独立して構成されるロボットアーム制御装置1や多指ハンド制御装置2を、互いの処理を意識することなく、協調して処理させることができる。すなわち、ロボットアーム制御装置1、及び多指ハンド制御装置2の上位レイヤに位置する指令装置3に備えられているアプリケーション、すなわち、補助プログラム302と、作業プログラム301を用いることによりロボットアームユニットと多指ハンドユニットとの独立性を確保することができる。
【0044】
さらに、本発明においては、作業プログラム301が実行する作業の種類に応じて補助プログラム302の動作周期を起動周期設定部304により変更することができる。これにより、多指ハンドが複雑な動作をして多指ハンドの目標点が絶えず変化するような作業でも、補助プログラム302の動作周期を短くすることによって多指ハンドの作業点が速やかにロボットアームに伝達されて作業空間内での作業点をロボットアームによって制御することができる。
【0045】
また、本発明においては、各制御装置内の座標系設定は補助プログラムが行い、各制御装置では独立した処理の中で該当する座標変換が行われる仕組みになっており、各制御装置が独立性を保ったまま機能することを特徴とする。これにより、各制御装置1,2は一方の制御装置における処理を意識することなく、処理することが可能であり、各制御装置にかかる計算負荷が低減される。
【符号の説明】
【0046】
1 ロボットアーム制御装置
2 多指ハンド制御装置
3 指令装置
101 アーム制御系
102 動作指令応答部
103 動作指令
104 ツール座標設定部
105 アームの位置姿勢検出部
201 ハンド制御系
202 動作指令応答部
203 動作指令
204 指先座標設定部
205 ハンドの位置姿勢検出部
301 作業プログラム
302 補助プログラム
303 座標変換情報
304 起動周期設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの先端に多指ハンドを装着したマニピュレータの制御装置であって、
前記ロボットアームの先端座標と、前記多指ハンドのベース座標と間の座標変換情報を有する指令装置であって、前記多指ハンドの指先の位置姿勢指令に基づいて、前記座標変換情報を用いて第1の変換行列と、第2の変換行列とを算出する、指令装置と、
前記指先の位置姿勢指令と、前記第1の変換行列とを用いて、前記ロボットアームを動作させる第1の制御装置と、
前記指先の位置姿勢指令と、前記第2の変換行列とを用いて、前記多指ハンドを動作させる第2の制御装置と、を備え、
前記第1の制御装置と前記第2の制御装置とは独立して構成され、前記第1の変換行列は、前記第2の制御装置から送出された前記多指ハンドの位置姿勢情報と、前記座標変換情報とに基づいて算出され、前記第2の変換行列は、前記第1の制御装置から送出された前記ロボットアームの位置姿勢情報と、前記座標変換情報とに基づいて算出されることを特徴とする、マニピュレータの制御装置。
【請求項2】
前記指令装置は、前記マニピュレータの作業手順を記述した作業プログラムと補助プログラムとを有し、前記補助プログラムは周期的に前記第1の制御装置から前記ロボットアームの位置姿勢情報を取得し、前記第2の制御装置から前記多指ハンドの姿勢姿勢情報を取得する、請求項1記載のマニピュレータの制御装置。
【請求項3】
前記補助プログラムが起動される周期は前記作業プログラムによって変更可能であることを特徴とする、請求項2記載のマニピュレータの制御装置。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−240418(P2011−240418A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112356(P2010−112356)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】