説明

マニュアルソルダリング用無鉛はんだ合金

【課題】Sn37Pb(共晶合金)に近い耐こて先喰われ性と安定した成分のはんだの製造が可能なSnCu系のマニュアルソルダリング用無鉛はんだ合金を提供する。
【解決手段】Cuを0.1〜1.5重量%、Agを0.05〜0.5重量%含有するSnCu系無鉛はんだ合金であって、Coを0.01重量%以上でかつ0.05重量%未満、Feを0.01〜0.05重量%含有し、残部をSnとすることにより、良好な耐鉄食われ性と成分の安定性を兼備したはんだとした。さらに、遷移金属あるいはその混合物であるミッシュメタルを0.001〜0.05重量%含有すると、鉄喰われ抑制性が増進すると共に銅喰われも抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気・電子機器の金属接合等に使用されるマニュアルソルダリング用無鉛はんだ合金に係り、詳記すれば、優れた耐こて先喰われ性を有し、しかも安定したはんだの製造が可能なマニュアルソルダリング用のSnCu系無鉛はんだ合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子機器の金属接合に使用するはんだ合金としては、Snが63重量%、Pbが37重量%等の鉛を含有するはんだ合金が一般的に用いられてきた。
【0003】
しかしながら、鉛を含有するはんだは、人体に有害であることから鉛を含有しない多くの無鉛はんだ合金が検討されている。具体的には、SnCu系合金、SnAgCu系合金、SnZn系合金やこれらの合金にBi、In等を添加したものが検討されている。
【0004】
この中でSnCu系合金は、SnAgCuの共晶合金が217℃であるのに対して、Sn0.7Cuの共晶合金でも227℃と他の無鉛 はんだ合金に比べて融点は高いが、比較的濡れ性に優れ、且つ低価格であることから、実用化が期待される材料の一つである。
【0005】
SnCu系の鉛フリー合金としては、Sn-0.7Cuとこれに添加物を加えたSn−0.7Cu−0.3Ag、Sn−0.7Cu−0.05Ni、Sn−0.7Cu−0.3Ag−0.03Co、更にSn−0.7Cu−0.3Ag−1Biなどが提案され、検討されている。
【0006】
一方、マニュアルソルダリングとは、固形フラックスをコアとした線状のはんだを、はんだこてを用いてはんだ付けする工法である。
【0007】
このマニアルソルダリングは、はんだこてで部品の端子をはんだ付けする方法であるため、こて先温度の設定が300℃〜450℃の高温であっても、部品への熱負荷が比較的少ない工法である。そのため、SnCuの共晶合金をベースとしたはんだの融点が高いことは、使用にあたっての大きな障害とはならない。
【0008】
しかしながら、SnCu系の鉛フリーはんだは、SnPb系はんだに比べてはもちろんであるが、Sn−3Ag−0.5Cuに代表されるSnAgCu系の鉛フリーはんだに比較しても、鉄を溶解し易く、銅の表層を鉄メッキしたこて先の寿命が短くなるという、いわゆる鉄喰われあるいはこて先喰われが大きいという欠点を有する。また、Snベースの鉛フリーはんだは、SnPb系はんだに比較して、融点が高いうえに、濡れ性が悪いことから、こて先の温度は40℃程度高く設定されるのが一般的であるが、SnCu系の場合は、SnAgCu系より10℃程度さらに高くする必要があるため、こて先の寿命はさらに短くなり、これが大きな問題となっている。
【0009】
この鉄喰われの問題を解決するために、Co:0.001〜0.5重量%、Ni:0.01〜0.1重量%を添加するSnAgCu系合金が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、本発明者等の研究によれば、これをSnCu系合金に適用すると、350℃程度の比較的こて先温度が低い場合は、こて先喰われ抑制の効果を発揮するが、400℃を越える場合は、その効果が少ないことが判明した。
【0010】
【特許文献1】特許公開2005−246480
【0011】
更に、鉄喰われの問題を解決するために、Fe、NiとCoを添加する鉛フリーはんだ合金が特許されている(特許文献2参照)。このはんだは、FeとCo、Niを添加することでSn37Pb(共晶合金)に近いこて先喰われ抑制効果を発揮する。しかしながら、本発明者等の研究によれば、FeとCo、Niの添加量が多すぎると、SnとFe、Co、Niの高融点の金属間化合物が溶解工程で生成し易くなり、金属間化合物が酸化物とともにドロスとして系外に排出され、安定した成分のはんだの製造が困難となることが判明した。
【0012】
【特許文献2】日本特許第3602529号
【0013】
従って、従来のSnCu系のはんだ合金は、Sn37Pb(SnPb共晶合金)に近い耐こて先喰われ性と製造上の問題である成分の安定性という観点から、未だ全く不満足であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明は、このような点に鑑みなされたものであり、Sn37Pb(共晶合金)に近い耐こて先喰われ性を有し、安定した成分のはんだの製造が可能な、SnCu系のマニュアルソルダリング用無鉛はんだ合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明者等は、鋭意研究の結果、Cuを0.1〜1.5重量%、Agを0.05〜0.5重量%含有するSnCu系無鉛はんだ合金であって、Coを0.01重量%以上でかつ0.05重量%未満、Feを0.01〜0.05重量%含有し、残部がSnよりなるSnCu系無鉛はんだ合金が、Sn37Pb(共晶合金)に近い耐こて先喰われ性を有し、安定した成分の製造ができるはんだであることを見出し、本発明に到達した。
【0016】
即ち本発明のマニュアルソルダリング用はんだ合金は、Cuを0.1〜1.5重量%、Agを0.05〜0.5重量%含有するSnCu系無鉛はんだ合金であって、Coを0.01重量%以上でかつ0.05重量%未満、Feを0.01〜0.05重量%含有し、残部がSnよりなることを特徴とする。
【0017】
本発明のはんだをSnCu系と考えている理由は、SnAgCu系は強度的に優れているのが特徴であるが、この効果が現れるのは、Agが0.7〜0.9重量%以上であるからである。即ち、Agが0.7重量%程度まではSnCu系と判断されるのである。
【0018】
上記したように、Agを少量添加した特定の組成からなるSnCu系無鉛はんだ合金は、Coを0.01重量%以上でかつ0.05重量%未満、Feを0.01〜0.05重量%添加することによって、Sn−Fe−Coの金属間化合物層が形成されることと、Feがはんだ中にあらかじめ添加されることで界面の鉄の濃度勾配が小さくなることから、鉄のはんだ中への溶出が抑制される。
また、上記のはんだ合金に、La、Ce、Pr、Ndなどの遷移金属あるいはこれらの混合物であるミッシュメタル[Mischmetall:独語、mixed metals:英語(以下MMと略す場合がある)]を添加すると、その量が多いと酸化物の発生量が増加したり、濡れ性が低下するが、0.001〜0.05重量%の範囲で添加すると、鉄喰われ抑制が増進すると共に銅喰われも抑制される。
【0019】
特許文献1の段落[0007]には、鉛フリーはんだへの鉄の混入は、はんだの濡れ性を著しく阻害してはんだ付け時間を延ばし、結局鉄めっき層を浸食する旨記載されている。しかしながら、本発明の組成のSnCu系無鉛はんだに、上記少量のCoとFeを加えると、はんだの濡れ性は殆ど阻害されないことが実験により確認されている。その理由は、Coの添加がはんだの表面張力を下げるので、これがFeによる濡れ性の低下を補完しているものと考えている。また、特許文献2の段落[0038]には、NiにはFeやCoの添加によって低下しがちなハンダゴテのコテ先のぬれ性を高める効果がある旨記載されている。この記載から、Coの添加がFeによる濡れ性の低下を補完することは、予想外のことである。
【0020】
要するに本発明の効果が得られる理由は、次の理由によると考えられる。
【0021】
即ち、少量のFeとCoとを添加することにより、Sn−Fe−Coの金属間化合物層が形成されることと、Feがはんだ中にあらかじめ添加されることで界面の鉄の濃度勾配が小さくなることから、鉄のはんだ中への溶出が抑制される。更に、Coの添加ははんだの表面張力を下げることで、濡れ性を向上させるとともに、鉄との界面に生成するSn−Feの金属間化合物に固溶してバリア作用を強化することで、鉄の溶解を抑制するが、この抑制効果はCoとFeを併用することで、大きく改善されることにあると考えられる。
【0022】
しかしながら、CoとFeの添加量が多すぎると金属間化合物が過度に析出され、ドロスが形成される。そのため、安定的に製造するためには、Coの添加量を0.05重量%より少なくし、Feの添加量を0.05重量%以下に制限する必要がある。
遷移金属あるいはその混合物であるミッシュメタルは、0.03重量%程度の単独の添加(CoとFeが無い場合)でも鉄喰われを抑制する効果があるが、CoとFeを含有するはんだに添加すると、微量の添加で鉄喰われと銅喰われの両方を顕著に抑制する。その効果は0.001重量%より少ない添加では発現しないし、0.05重量%より多く添加すると、ドロスを発生し易くなったり、濡れ性が低下する。
【発明の効果】
【0023】
以上述べた如く、所定の組成のSnCu系合金にAg、Co、Feを所定の少量添加することによって、Sn37Pb(共晶合金)に近い耐鉄喰われ性と安定した成分のはんだの製造が可能となる。このようなSnCu系のはんだ合金は、従来強く求められていたにもかかわらず得られなかったものであるから、これは極めて画期的な効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
本発明で含有するCuの範囲は0.1〜1.5重量%の範囲であり、Cuは0.1重量%より少ないと濡れ性が劣り、1.5重量%より多いと融点が上昇し、はんだ付けの作業性が劣る。
【0026】
Agの添加は、耐鉄喰われ性の効果は少ないが、濡れ性を向上させる。その効果は、0.05重量%より少ないと発現せず、0.5重量%より多いとドロスが形成され易くなる。
【0027】
Coを0.01重量%以上でかつ0.05重量%未満、Feを0.01〜0.05重量%含有させることによって、従来のSn−Pb系はんだ並に鉄喰われを抑制できる。
【0028】
CoとFeの含有量がそれぞれ0.01重量%より少ないと、こて先中の鉄との界面に形成される金属間化合物層の厚さが薄くなり、鉄の溶出を抑制する効果が少なくなる。また、Coの添加量を0.05重量%以上、Feの添加量を0.05重量%より多くすると、溶融はんだ中に金属間化合物の析出によるドロスが形成され易くなり、安定した成分のはんだの製造が困難となる。
【0029】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【実施例】
【0030】
後記表1の組成となる実施例(No1〜No3)及び比較例(No1〜No5)のはんだをそれぞれ4kg作成した。
尚、Sn0.7Cu0.3Ag0.04Co0.03Fe(実施例1)は、Cuが0.7重量%、Agが0.3重量%、Coが0.04重量%、Feが0.03重量%、残部をSnとしたはんだ合金を意味する。
【0031】
得られたはんだについて、固相線温度/液相線温度(℃)、鉄喰われ量(430℃)、ドロス発生の有無及びゼロクロスタイム(秒)を測定した。試験方法は以下のようにして行った。
【0032】
〔固相線温度/液相線温度(℃)〕
500gのはんだを使用し、冷却法で融点〔固相線温度/液相線温度(℃)〕を測定した。
【0033】
〔鉄喰われ量(g/1時間)〕
2.5kgのはんだを磁性の皿に入れ、加熱溶解して430℃とした。このはんだ中に幅30mm、厚さ2mmのSPC鉄板を、φ60の攪拌羽根に取り付けてSPC鉄板の先端15mmをはんだ中に浸漬した。続いて、攪拌羽根を30rpmで1時間間攪拌した。この場合のはんだ中の鉄板の移動速度は約1m/分である。試験終了前後の鉄板の重量を測定して、鉄のはんだ中への溶出量を求めて鉄喰われ量とした。
【0034】
〔ドロス発生の有無〕
2.5kgのはんだを磁性の皿に入れ、加熱溶解して270℃とした。このはんだ中に、φ60の攪拌羽根(3枚羽根)を用いて、60rpmで30分間表面を攪拌し、回収した酸化物が通常の乾いた酸化物か湿ったドロスを含む酸化物かを観察した。
【0035】
〔ゼロクロスタイム(秒)〕
7×50×0.2mmの銅板を用い、浸漬深さ2mm、浸漬速度2.5mm/秒、浸漬時間10秒の条件で濡れ性試験機を用いてゼロクロスタイム(秒)を測定した。なお、試験温度は255℃で行い、フラックスは天然ロジンの25%2−プロパノール溶液とした。
【0036】
【表1】

【0037】
上記結果から明らかなように、実施例1〜3の430℃における鉄喰われ量は、0.02〜0.06g/60分であり、比較例5のSn37Pb(共晶合金)に近く、かつドロスの発生は無い。一方、比較例1〜3はドロスの生成は無いが、430℃の鉄喰われ量は0.12〜1.25g/60分と高温での鉄喰われ量が大きい。また、比較例4は430℃の鉄喰われ量は0.03g/60分と少ないが、ドロスが生成される。
【0038】
実施例1〜3のはんだは、前記特許文献2の記載に反して、Feを含有しない比較例3のはんだと比べても、若干濡れ性は低下するが、実用上問題の無いレベルである。しかも、430℃の鉄喰われ量では、本発明のはんだは、比較例3のはんだと比べて遥かに優れている。
このことから、Cuが0.1〜1.5重量%、Agが0.05〜0.5重量%、残部をSnとするはんだに、微量のCoとFeを添加したはんだが、良好な耐鉄喰われ性と成分の安定性を兼備したはんだとし得ることがわかる。
また、実施例3のはんだは、430℃の鉄喰われ量は、0.02g/60分であり、実施例1の0.04g/60分、実施例2の0.06g/60分と比べて、鉄喰われ量が少ない。このことから、ミッシュメタルは、微量(0.001〜0.05重量%)の添加で、鉄喰われを抑制することがわかる。また、ミッシュメタルは、微量(0.001〜0.05重量%)の添加で銅喰われをも抑制することが実験により確認されている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを0.1〜1.5重量%、Agを0.05〜0.5重量%含有するSnCu系無鉛はんだ合金であって、Coを0.01重量%以上でかつ0.05重量%未満、Feを0.01〜0.05重量%含有し、残部がSnよりなることを特徴とするマニュアルソルダリング用無鉛はんだ合金。
【請求項2】
さらにLa、Ce、Pr、Ndなどの遷移金属あるいはこれらの混合物であるミッシュメタルを、0.001〜0.05重量%含有する請求項1に記載の無鉛はんだ合金。





【公開番号】特開2008−188672(P2008−188672A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297501(P2007−297501)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【出願人】(595163375)株式会社日本フィラーメタルズ (5)
【Fターム(参考)】