説明

マルチアームポリマー−薬物コンジュゲートの塩形態

数ある態様のなかでも特に、本明細書には、マルチアーム水溶性ポリエチレングリコール−薬物コンジュゲートのハロゲン化水素塩が、関連するその作製及び使用方法と共に提供される。ハロゲン化水素塩は安定に形成され、対応する遊離塩基形態のコンジュゲートと比べて加水分解に対する抵抗性がより高いものと思われる。本発明の1つ又は複数の実施形態では、薬学的に許容可能な組成物が提供され、この組成物は、構造(I)に対応する化合物4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンのハロゲン化水素塩(例えば、塩化水素塩)と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2009年11月18日に出願された米国仮特許出願第61/262,463号明細書、及び2009年12月24日に出願された米国仮特許出願第61/290,072号明細書の各々に対する優先権の利益を主張し、これらは双方とも、全体として参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、概して、水溶性ポリマー−薬物コンジュゲートの塩形態、その医薬組成物、並びにかかる混合酸性塩組成物の調製、製剤化、投与及び使用方法に関する。本開示はまた、概して、予め分離されたアルコキシル化オリゴマーからアルコキシル化ポリマー材料を調製するためのアルコキシル化方法、並びにアルコキシル化ポリマー材料を含む組成物、アルコキシル化ポリマー材料の使用方法などにも関する。
【背景技術】
【0003】
長年にわたり、生物学的に活性な薬剤の安定性及び送達を改善するための数多くの方法が提案されてきた。医薬剤の製剤化及び送達に関連する課題としては、いくつか例を挙げれば、医薬剤の水難溶性、毒性、バイオアベイラビリティの低さ、不安定性、及び急速な生体内分解が含まれ得る。医薬剤の送達を改善するため多くの手法が考案されているが、欠点のない手法は一つとしてない。例えば、これらの問題の1つ又は複数を解決し、又は少なくとも軽減することを目的として一般に用いられている薬物送達手法としては、リポソーム、ポリマーマトリックス、又は単分子ミセルなどへの薬物の封入、ポリエチレングリコールなどの水溶性ポリマーとの共有結合、遺伝子ターゲッティング剤の使用、塩の形成などが挙げられる。
【0004】
水溶性ポリマーの共有結合は、活性薬剤の水への溶解度を向上させるとともに、その薬理学的特性を変化させることができる。特定の例示的なポリマーコンジュゲートが、特に米国特許第7,744,861号明細書に記載されている。別の手法では、酸性又は塩基性の官能性を有する活性薬剤を好適な塩基又は酸と反応させて塩形態で市販することができる。全活性分子の半分以上が塩として市販されている(「Polymorphism in the Pharmaceutical Industry」,Hilfiker,R.編,Wiley−VCH,2006年)。塩形態に伴う課題としては、最適な塩を見付けること、並びに処理中の固体状態の挙動を制御することが含まれる。バイオ医薬品の塩は非晶質であることも、結晶質であることも、及び水和物、溶媒、様々な多形等として存在することもあり得る。興味深いことに、薬物製剤中に使用されるポリマーコンジュゲートが塩形態であることは、あるにしても極めてまれで、まして混合酸性塩形態であることはほとんどない。
【0005】
水溶性ポリマー・水の活性薬剤コンジュゲートの調製に関連する別の課題は、比較的純粋な水溶性ポリマーを一貫した再現性のある方法で調製する能力である。例えば、反応性官能基で活性化されたポリ(エチレングリコール)(PEG)誘導体は、活性薬剤(小分子及びタンパク質など)とカップリングして、それによりPEGと活性薬剤とのコンジュゲートを形成するのに有用である。活性薬剤がポリ(エチレングリコール)すなわち「PEG」のポリマーにコンジュゲートされるとき、コンジュゲートされた活性薬剤は通常、「PEG化」されていると称される。
【0006】
コンジュゲートされていない形態の活性薬剤の安全性及び効力と比較すると、コンジュゲート型は、異なる、及び多くの場合に臨床的に有益な特性を呈する。PEGASYS(登録商標)PEG化インターフェロンα−2a(Hoffmann−La Roche,Nutley,NJ)、PEG−INTRON(登録商標)PEG化インターフェロンα−2b(Schering Corp.,Kennilworth,NJ)、及びNEULASTA(登録商標)PEG−フィルグラスチム(Amgen Inc.,Thousand Oaks,CA)などのPEG化活性薬剤の商業的成功は、ペグ化により活性薬剤の1つ以上の特性が向上する可能性がどの程度あるかを実証している。
【0007】
コンジュゲートの調製では、典型的には、比較的直接的な合成手法によるコンジュゲート合成を可能にするため、ポリマー試薬が用いられる。ポリマー試薬を含む組成物を、活性薬剤を含む組成物と組み合わせることにより、比較的簡便なコンジュゲート合成を−適切な反応条件下で−実施することが可能となる。
【0008】
しかしながら、薬物製品の規制要件に適うポリマー試薬の調製は、難題となることが多い。従来の重合手法によると、比較的不純な組成物となり、及び/又は収率が低くなる。かかる不純さ及び収率は、医薬品分野以外では問題にならないこともあり得るが、ヒト用医薬との関連においては安全性及び費用が重要課題となり得る。従って、従来の重合手法は、医薬コンジュゲートの製造を目的としたポリマー試薬の合成には不適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当該技術分野では、ポリマー試薬、特に高分子量ポリマーを、比較的高い収率及び純度で調製する代替的方法が必要とされている。マルチアームポリマーの場合、十分に制御され、且つ十分に定義された特性を有し、望ましくない不純物を多量に含むことのない、利用可能な望ましい水溶性ポリマーが不足している。従って、例えば高分子量マルチアームポリ(エチレングリコール)は容易に入手することができるものの、市販のポリマーから製造された薬物コンジュゲートは、超低分子量か、又は超高分子量かのいずれかである生物学的に活性な不純物を有するポリマー−薬物コンジュゲートを多量に(すなわち>8%)有し得る。薬物組成物中にこれほどまでの活性不純物があることは許容し難いものであり得るため、従ってかかる薬物の認可は、不可能ではないにせよ、困難となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、本開示は、構造(I):
【化1】


に対応するポリマー−活性薬剤コンジュゲートのハロゲン化水素塩形態を提供し、式中、nは、約20〜約600、又は約20〜500(例えば、40〜約500)の範囲の整数であり、及び上記のコンジュゲートを含む組成物で見ると、組成物中に含まれる全てのコンジュゲートのイリノテカン部分の塩基性窒素の95モルパーセント超(及びある場合には96モルパーセント超、97モルパーセント超、及びさらには98モルパーセント超)が、ハロゲン化水素(HX)塩形態(式中Xは、フッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物から選択される)にプロトン化されている。
【0011】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、ハロゲン化水素塩は塩化水素塩である。
【0012】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、繰り返しモノマーのnは、約80〜約150の範囲の整数である。
【0013】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、あらゆる場合に(OCHCHのnは約113である。
【0014】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、ハロゲン化水素塩は塩化水素塩であり、コンジュゲートの重量平均分子量は約23,000ダルトンである。
【0015】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲート[構造(I)のコンジュゲートの水溶性ポリマー活性薬剤など]のハロゲン化水素塩の調製方法が提供され]、この方法は、(i)保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素(II)
【化2】


を、モル過剰のハロゲン化水素酸で処理するステップであって、それにより保護基を除去してグリシン−イリノテカンハロゲン化水素
【化3】


を形成するステップと、
(ii)ステップ(i)からの脱保護したグリシン−イリノテカンハロゲン化水素を4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−スクシンイミド
【化4】


と塩基の存在下でカップリングして、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩(ペンタエリスリトリル−4アーム−(PEG−1−メチレン−2−オキソ−ビニルアミノアセテート連結型イリノテカンハロゲン化水素塩)とも称される)
【化5】


を形成するステップと、
(iii)4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を沈殿により回収するステップとを含む。この方法に関して、方法の実施に用いられるポリマー試薬は特に限定されず、活性化エステルを有する他のポリマー試薬を4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−スクシンイミドの代わりに用いてもよい。
【0016】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素は、組成物中に含まれる全てのコンジュゲートのイリノテカン部分の塩基性窒素の95モルパーセント超(及びある場合には96モルパーセント超、97モルパーセント超、及びさらには98モルパーセント超)がハロゲン化水素(HX)塩形態(式中Xは、フッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物から選択される)にプロトン化されている。
【0017】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素は10倍以上モル過剰のハロゲン化水素酸で処理され、それにより保護基が除去されてグリシン−イリノテカンハロゲン化水素が形成される。
【0018】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素は10倍〜25倍の範囲でモル過剰のハロゲン化水素酸で処理され、それにより保護基が除去されてグリシン−イリノテカンハロゲン化水素が形成される。
【0019】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素は、tert−ブチルオキシカルボニル(Boc)−グリシン−イリノテカン塩化水素であり、ここでグリシンのアミノ基がBoc保護されている。
【0020】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、ステップ(i)におけるグリシン−イリノテカンハロゲン化水素は、保護された形態のグリシン−イリノテカン塩化水素であり、及び保護された形態のグリシン−イリノテカン塩化水素は塩酸で処理されて保護基が除去される。
【0021】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、保護された形態のグリシン−イリノテカン塩化水素は塩酸のジオキサン溶液で処理される。
【0022】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲートのハロゲン化水素塩の調製方法、方法は、ポリマー試薬とカップリングするステップのステップ前に、グリシン−イリノテカンハロゲン化水素を(例えば、メチルtert−ブチルエーテル「MTBE」を添加することによる沈殿により)分離するステップをさらに含む。
【0023】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、カップリングするステップにおいて使用される塩基はアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、及びジメチルアミノピリジン)である。
【0024】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、カップリングするステップは塩素化溶媒中で実施される。
【0025】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を回収するステップは、メチルtert−ブチルエーテルの添加を含む。
【0026】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲートのハロゲン化水素塩の調製方法は、(iv)回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩をハロゲン化物含有量について(例えばイオンクロマトグラフィーにより)分析するステップと、ハロゲン化物含有量が95モルパーセント未満である場合、(v)回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を酢酸エチルに溶解し、さらなるハロゲン化水素酸を添加するステップであって、それにより95モルパーセント超のハロゲン化物含有量を有する4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を形成するステップとをさらに含む。
【0027】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、添加するハロゲン化水素酸はエタノール溶液の形態である。
【0028】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、さらなるハロゲン化水素酸を添加するステップが実施される方法において、方法は、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素を沈殿により(これは、例えば冷却により達成されてもよい)回収するステップをさらに含む。
【0029】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンのハロゲン化水素塩は、本明細書に記載される方法を実施することにより提供される。
【0030】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、薬学的に許容可能な組成物が提供され、この組成物は、構造(I)に対応する化合物4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンのハロゲン化水素塩(例えば、塩化水素塩)と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む。
【0031】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、組成物が提供され、この組成物は、本明細書に記載される実施形態の任意の1つ又は複数に係る塩化水素塩と、(ii)乳酸緩衝液とを、凍結乾燥形態で含む。本発明の1つ又は複数の実施形態では、薬学的に許容可能な組成物は無菌組成物である。本発明の1つ又は複数の実施形態では、薬学的に許容可能な組成物は任意選択により容器(例えばバイアル)に提供され、任意選択により100mg用量のイリノテカン当量が収容される。
【0032】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、方法が提供され、この方法は、本明細書に記載されるコンジュゲート含有組成物を、1つ又は複数の型の癌性固形腫瘍に罹患している個体に投与するステップを含み、コンジュゲート含有組成物は任意選択により5%w/wデキストロース溶液に溶解される。本発明の1つ又は複数の実施形態では、投与は静脈内注入によって達成される。
【0033】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、癌に罹患している哺乳動物を治療する方法が提供され、この方法は、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンのハロゲン化水素塩(塩化水素塩など)の治療有効量を投与するステップを含む。ハロゲン化水素塩は、対象における固形腫瘍成長の遅延又は阻害をもたらすことが有効な哺乳動物に投与される。本発明の1つ又は複数の実施形態では、癌性固形腫瘍は、結腸直腸癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌及び非小細胞肺癌からなる群から選択される。
【0034】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩が提供され、この塩は、癌治療用医薬を製造するための抗癌剤である。
【0035】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、組成物が提供され、この組成物は、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーを好適な溶媒中でアルコキシル化してアルコキシル化ポリマー生成物を形成するステップであって、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーは300ダルトン超(例えば500ダルトン超)の既知の定義された重量平均分子量を有するステップを含む方法により調製されたアルコキシル化ポリマー生成物を含む。
【0036】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、組成物が提供され、この組成物は、92wt%超の純度を有するアルコキシル化ポリマー生成物を含み、及び高分子量生成物とジオールとを合わせた総含有量が、例えばゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)分析により測定するとき、8wt%未満(例えば、2wt%未満)である。
【0037】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、アルコキシル化ポリマー生成物は以下の構造:
【化6】


を有し、式中、各nは20〜1000(例えば50〜1000)の整数である。
【0038】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、方法が提供され、この方法は、(i)予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーを好適な溶媒中でアルコキシル化してアルコキシル化ポリマー材料を形成するステップであって、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーが300ダルトン超(例えば500ダルトン超)の既知の定義された重量平均分子量を有するステップと、(ii)任意選択により、アルコキシル化ポリマー生成物をさらに活性化して、(特に)ポリマー−薬物コンジュゲートの調製用ポリマー試薬として有用な活性化アルコキシル化ポリマー生成物を提供するステップとを含む。
【0039】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、方法が提供され、この方法は、90%超の純度を有するアルコキシル化ポリマー生成物を含む組成物から得られる、及び/又はその中に含まれるアルコキシル化ポリマー生成物を活性化するステップであって、それにより(特に)ポリマー−薬物コンジュゲートの調製用ポリマー試薬として有用な活性化アルコキシル化ポリマー生成物を形成するステップを含む。
【0040】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、方法が提供され、この方法は、活性化アルコキシル化ポリマー生成物を活性薬剤とコンジュゲートするステップを含み、活性化アルコキシル化ポリマー生成物は、90%超の純度を有するアルコキシル化ポリマー生成物を含む組成物から得られる、及び/又はその中に含まれるアルコキシル化ポリマー生成物を活性化するステップであって、それにより活性化アルコキシル化ポリマー生成物を形成するステップを含む方法により調製された。
【0041】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲートの混合塩が提供され、このコンジュゲートは、(コンジュゲーション条件下で)アミン含有活性薬剤(例えば、脱保護したグリシン−イリノテカン)をポリマー試薬(例えば、4アームペンタエリスリトリル−ポリ(エチレングリコール)−カルボキシメチルスクシンイミド)と塩基の存在下でカップリングしてコンジュゲートを形成することにより調製されており、ここでコンジュゲートは混合塩コンジュゲートの形態であり(例えば、コンジュゲートは窒素原子を有し、その各々はプロトン化されているか、又はプロトン化されていないかのいずれかであり、任意の所与のプロトン化アミノ基は、2つの異なる陰イオンのうちの一方を有する酸性塩である)、さらに、任意選択によりポリマー試薬は、本明細書に記載されるとおり調製されたアルコキシル化生成物から調製される。
【0042】
本方法、組成物などのさらなる実施形態が、以下の説明、図面、例、及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。前述の、及び以下の説明から理解され得るとおり、本明細書に記載される特徴のいずれも、及び2つ以上のかかる特徴の組み合わせのいずれもが、かかる組み合わせに含まれる特徴が互いに矛盾しないならば、本開示の範囲内に含まれる。加えて、任意の特徴又は特徴の組み合わせが、本発明の任意の実施形態から特に除かれてもよい。本発明のさらなる態様及び利点は、特に添付の例及び図面と併せて考慮されるとき、以下の説明及び特許請求の範囲に定められる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】「4アーム−PEG−Gly−Irino−20K」(4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンに対応する)の3つの異なる試料に対する加速ストレス安定性試験の結果を示すグラフであり、各々は、トリフルオロ酢酸(TFA)及び塩化水素塩、並びに遊離塩基の相対量に関して異なる組成を有する。試験した試料は、>99%HCl塩(<1%遊離塩基、三角)、94%の塩合計(6%遊離塩基、四角)、及び52%の塩合計(48%遊離塩基、丸)を含んだ。試料は25℃及び60%相対湿度で保存した;プロットは、実施例3に詳細に記載するとおり、化合物の経時的な分解を示す。
【図2】40℃及び75%相対湿度で保存した4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kの試料中における遊離イリノテカンの経時的な増加を示すグラフであり、各々は、トリフルオロ酢酸及び塩化水素塩、並びに遊離塩基の相対量に関して異なる組成を有する。試験した試料は、実施例3に記載するとおり、>99%HCl塩を含有する生成物(<1%遊離塩基、四角)、及び86%の塩合計を含有する生成物(14%遊離塩基、菱形)に対応する。
【図3】実施例3に詳細に記載するとおりの、40℃及び75%相対湿度で保存した4アーム−PEG−Gly−Irinio−20Kの試料中における小さいPEG種(PEG分解生成物)の経時的な増加を示すグラフである。試験した試料は、>99%HCl塩を含有する生成物(<1%遊離塩基、四角)、及び86%の塩合計を含有する生成物(14%遊離塩基、菱形)に対応する。
【図4】実施例5に詳細に記載するとおりの、イリノテカン一置換(DS−1)、二置換(DS−2)、三置換(DS−3)及び四置換(DS−4)4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kからの加水分解によるイリノテカンの放出を示すクロマトグラムのオーバーレイ編集である。
【図5】実施例5に記載するとおりの、加水分解速度論的モデリングデータと比較したブタカルボキシペプチダーゼBの存在下でのpH8.4の水性緩衝液中における上記に記載したとおりの様々な4アーム−PEG−Gly−Irino−20K種の加水分解の結果を示すグラフである。速度論モデルについて、いずれの種の加水分解も一次速度論を仮定した。DS4(0.36時間−1)の消失についての一次反応速度定数を使用して全ての曲線を作成した。
【図6】加水分解速度論的モデリングデータと比較したヒト血漿中における上記に記載したとおりの様々な4アーム−PEG−Gly−Irino−20K種の加水分解を示すグラフである。詳細は実施例5に提供する。速度論モデルについて、いずれの種の加水分解も一次速度論を仮定した。DS4(0.26時間−1)の消失についての一次反応速度定数を使用して全ての曲線を作成した。
【図7】実施例7に記載のとおり調製した材料のゲルろ過クロマトグラフィー後のクロマトグラムである。
【図8】実施例8に記載のとおり調製した材料のゲルろ過クロマトグラフィー後のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
ここで本発明の様々な態様について、以下にさらに詳しく説明する。しかしながら、かかる態様は多くの異なる形で具体化することができ、本明細書に示される実施形態に限定されるものとして解釈されてはならない;むしろこれらの実施形態は、本開示を徹底した完全なものとするため、及び本発明の範囲を当業者に十分に伝えるために提供される。
【0045】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、上記のものも、又は以下にあるものも、全体として本明細書によって参照により援用される。本明細書の教示と参照によって援用される技術の教示との間に不一致がある場合、本明細書の教示の意味が優先されるものとする。
【0046】
本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上特に明確に指示されない限り複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。従って、例えば「ポリマー」についての言及には単一のポリマー並びに2つ以上の同じ又は異なるポリマーが含まれ、「コンジュゲート」についての言及は単一のコンジュゲート並びに2つ以上の同じ又は異なるコンジュゲートを指し、「賦形剤」についての言及には単一の賦形剤並びに2つ以上の同じ又は異なる賦形剤が含まれる等となる。
【0047】
本発明を記載及び特許請求するにおいては、以下に記載する定義に従い以下の用語を用いる。
【0048】
「官能基」は、通常の有機合成条件下で、それが結合する実体と、典型的にはさらなる官能基を有する別の実体との間に共有結合を形成するために用いられ得る基である。官能基は、概して1つ以上の多重結合及び/又は1つ以上のヘテロ原子を含む。好ましい官能基は本明細書に記載される。
【0049】
用語「反応性」は、従来の有機合成条件下で容易に又は実際的な速度で反応する官能基を指す。これは、反応しないか、或いは反応に強力な触媒又は実際的でない反応条件を必要とする基(すなわち「非反応性」基又は「不活性」基)に対比される。
【0050】
「保護基」は、ある反応条件下で分子内の特定の化学反応性官能基の反応を阻止又は遮断する部分である。保護基は、保護される化学反応基の種類並びに用いられる反応条件及び分子内における別の反応基又は保護基の存在に応じて異なり得る。保護され得る官能基としては、例として、カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボニル基などが挙げられる。代表的な保護基として、カルボン酸に対してはエステル(p−メトキシベンジルエステルなど)、アミド及びヒドラジド;アミノ基に対しては、カルバミン酸塩(tert−ブトキシカルボニルなど)及びアミド;ヒドロキシル基に対しては、エーテル及びエステル;チオール基に対しては、チオエーテル及びチオエステル;カルボニル基に対しては、アセタール及びケタールなどが挙げられる。かかる保護基は当業者に公知であり、例えば、T.W.Greene及びG.M.Wuts,「Protecting Groups in Organic Synthesis」,第3版,Wiley,New York,1999年,及びP.J.Kocienski,「Protecting Groups」,第3版,Thieme Chemistry,2003年、並びにそこに引用される参考文献に記載されている。
【0051】
「保護された形態」の官能基とは、保護基を有する官能基を指す。本明細書で使用されるとき、用語「官能基」又はその任意の同義語は、その保護された形態を包含することが意図される。
【0052】
「PEG」又は「ポリ(エチレングリコール)」は、本明細書で使用されるとき、任意の水溶性ポリ(エチレンオキシド)を包含することが意図される。典型的には、本発明で使用されるPEGは、末端の1つ以上の酸素が例えば合成変換中に置き換わったか否かに応じて以下の2つの構造:「−(CHCHO)−」又は「−(CHCHO)n−1CHCH−」のうちの一方を含み得る。変数(n)は3〜約3000の範囲であり、末端基及びPEG全体の構造は様々であり得る。
【0053】
水溶性ポリマーは1つ又は複数の「エンドキャッピング基」を有し得る(この場合、水溶性ポリマーは「エンドキャップされている」と言うことができる。エンドキャッピング基に関して、例示的なエンドキャッピング基は、概して炭素及び水素を含有する基であり、典型的にはその基に共有結合する1〜20個の炭素原子及び酸素原子から構成される。この点について、基は、典型的にはアルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ及びベンジルオキシ)であり、炭素を含有する基に関しては任意選択により飽和であっても、又は不飽和であってもよく、並びに前述のいずれかのアリール、ヘテロアリール、シクロ、ヘテロシクロ、及び置換された形態であってもよい。
【0054】
エンドキャッピング基はまた、検出可能標識も含むことができる。ポリマーが、検出可能標識を含むエンドキャッピング基を有する場合、好適な検出器を使用することにより、ポリマー及び/又はポリマーが結合する部分(例えば、活性薬剤)の量又は位置を決定することができる。かかる標識としては、限定なしに、蛍光発光物質、化学発光物質、酵素標識で使用される部分、発色物質(例えば、色素)、金属イオン、放射性部分などが挙げられる。
【0055】
「水溶性」は、本発明のポリマー又は「水溶性ポリマーセグメント」との関連では、室温で水に対して少なくとも35%(重量)、好ましくは70%超(重量)、及びより好ましくは95%超(重量)が溶解する任意のセグメント又はポリマーである。典型的には、水溶性ポリマー又はセグメントは、フィルタリング後の同じ溶液を透過する光の少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約95%を透過させ得る。
【0056】
用語「活性化された」は、特定の官能基と結び付けて使用されるとき、別の分子上の求電子体又は求核体と易反応性の反応性官能基を指す。これは、反応に強塩基又は極めて実際的でない反応条件を必要とする基(すなわち、「非反応性」基又は「不活性」基)に対比される。
【0057】
「求電子体」は、求電子中心、すなわち電子を求める、又は求核体と反応可能な中心を有するイオン若しくは原子、又は中性若しくはイオン性の原子集合を指す。
【0058】
「求核体」は、求核中心、すなわち求電子中心を求める、又は求電子体と反応可能な中心を有するイオン若しくは原子、又は中性若しくはイオン性の原子集合を指す。
【0059】
用語「保護された」又は「保護基」又は「保護性を有する基」は、ある反応条件下で分子内の特定の化学反応性官能基の反応を阻止又は遮断する部分(すなわち、保護基)の存在を指す。保護基は、保護される化学反応基の種類並びに用いられる反応条件及び存在する場合には、分子内の別の反応基又は保護基の存在に応じて異なり得る。当該技術分野において公知の保護基は、Greene,T.W.ら,「PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS」,第3版,John Wiley & Sons,New York,NY(1999年)に見ることができる。
【0060】
「分子質量」は、PEGなどの水溶性ポリマーとの関連において、典型的には1,2,4−トリクロロベンゼンなどの有機溶媒中でのサイズ排除クロマトグラフィー、光散乱法、又は固有粘度測定により決定されるポリマーの重量平均分子量を指す。
【0061】
用語「スペーサー」及び「スペーサー部分」は、本明細書では、任意選択により相互接続部分、例えば一連のモノマーの末端と求電子体とを連結するために使用される原子又は原子集合を指して使用される。本発明のスペーサー部分は加水分解に安定であってもよく、又は生理学的に加水分解性の若しくは酵素的に分解性の連結を含んでもよい。
【0062】
「加水分解性」の結合は、生理学的条件下で水と反応する(すなわち加水分解される)比較的不安定な結合である。ある結合が水中で加水分解し易いかどうかは、2個の中心原子をつなぐ連結の全般的な種類のみならず、それらの中心原子に結合する置換基にも依存し得る。例示的な加水分解に不安定な連結としては、カルボン酸エステル、リン酸エステル、無水物、アセタール、ケタール、アシルオキシアルキルエーテル、イミン、オルトエステル、ペプチド及びオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0063】
「酵素的に分解可能な連結」は、1つ又は複数の酵素によって分解に供される連結を意味する。
【0064】
「加水分解に安定な」連結又は結合は、水中で実質的に安定な、すなわち、長期間にわたり生理学的条件下で感知し得るほどの加水分解を受けることのない化学結合を指す。加水分解に安定な連結の例としては、限定はされないが、以下が挙げられる:炭素−炭素結合(例えば、脂肪族鎖における)、エーテル、アミド、ウレタンなど。概して、加水分解に安定な連結は、生理学的条件下で1日約1〜2%未満の加水分解速度を呈するものである。代表的な化学結合の加水分解速度は、ほとんどの標準的な化学テキストに見ることができる。
【0065】
ポリマーの幾何学的配置又は全体構造に関連して「マルチアーム型」は、「コア」分子又は構造に接続される3本以上のポリマー含有「アーム」を有するポリマーを指す。従って、マルチアーム型ポリマーは、その立体配置及びコア構造に応じて、3本のポリマーアーム、4本のポリマーアーム、5本のポリマーアーム、6本のポリマーアーム、7本のポリマーアーム、8本のポリマーアーム又はそれ以上を有し得る。ある特別な種類のマルチアーム型ポリマーは、樹枝状ポリマー又はハイパーブランチポリマーと称される高度に枝分かれしたポリマーであり、単一のデンドリマー分子内に少なくとも3分枝の開始剤コア、2以上の内部分岐多重性、2以上の世代、及び少なくとも25以上の表面基を有する。本明細書での目的上、デンドリマーは、マルチアーム型ポリマーとは異なる構造を有すると見なされる。すなわち、マルチアーム型ポリマーは、本明細書において参照されるとき、デンドリマーを明示的に除外する。加えて、本明細書に提供されるとおりのマルチアーム型ポリマーは非架橋コアを有する。
【0066】
「デンドリマー」又は「ハイパーブランチポリマー」は球状のサイズ単分散ポリマーであり、ここでは全ての結合が中心焦点又はコアから規則正しい分岐パターンで、且つ各々が分岐点に寄与する繰り返し単位で半径方向に現れる。デンドリマーは、必須ではないが、典型的にはナノスケールの多段階作製プロセスを用いて形成される。段階毎に新しい「世代」が生じ、これは前の世代の2倍以上の複雑さを有する。デンドリマーはコア封入などの特定の樹枝状状態の特性を呈し、それにより他の種類のポリマーにない独自性を有している。
【0067】
「分岐点」は、ポリマーが直鎖構造から1つ又は複数のさらなるポリマーアームに分割され、又は分岐する、1つ又は複数の原子を含む二股に分かれる点を指す。マルチアームポリマーは、分枝がデンドリマーをもたらす規則正しい反復でない限り、1つの分岐点を有しても、又は複数の分岐点を有してもよい。
【0068】
「実質的に」又は「本質的に」は、ほぼ全面的に又は完全にということ、例えば何らかの所与の分量の95%以上を意味する。
【0069】
「アルキル」は、約1〜20原子長の範囲の炭化水素鎖を指す。かかる炭化水素鎖は、必須ではないが好ましくは飽和しており、分枝状であっても、又は直鎖であってもよい。例示的アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、2−メチル−1−ブチル、3−ペンチル、3−メチル−3−ペンチルなどが挙げられる。
【0070】
「低級アルキル」は1〜6個の炭素原子を含むアルキル基を指し、直鎖であっても、又は分枝状であってもよく、メチル、エチル、n−ブチル、i−ブチル及びt−ブチルによって例示されるとおりである。
【0071】
「シクロアルキル」は、架橋、融合、又はスピロ環状化合物を含む飽和環状炭化水素鎖を指し、好ましくは3〜約12個、より好ましくは3〜約8個の炭素原子から構成される。
【0072】
「非干渉性置換基」は、分子内に存在するとき、典型的にはその分子内に含まれる他の官能基との反応性を有しない基である。
【0073】
例えば「置換アルキル」にあるとおりの用語「置換されている」は、限定はされないが:C〜Cシクロアルキル、例えば、シクロプロピル、シクロブチルなど;ハロ、例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨード;シアノ;アルコキシ、低級フェニル;置換フェニルなどの1つ又は複数の非干渉性置換基で置換されている部分(例えば、アルキル基)を指す。フェニル環に対する置換について、置換基は任意の配向(すなわち、オルト、メタ又はパラ)であってよい。
【0074】
「アルコキシ」は−O−R基を指し、式中、Rはアルキル又は置換アルキル、好ましくはC〜C20アルキル(例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ等)、好ましくはC〜Cである。
【0075】
本明細書で使用されるとき、「アルケニル」は、エテニル(ビニル)、2−プロペン−1−イル(アリル)、イソプロペニル、3−ブテン−1−イルなどの、少なくとも1つの二重結合を含む1〜15原子長の分枝状及び非分枝状炭化水素基を指す。
【0076】
用語「アルキニル」は、本明細書で使用されるとき、エチニル、1−プロピニル、3−ブチン−1−イル、1−オクチン−1−イルなどの、少なくとも1つの三重結合を含む2〜15原子長の分枝状及び非分枝状炭化水素基を指す。
【0077】
用語「アリール」は、最大14個の炭素原子を有する芳香族基を意味する。アリール基としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナントレセニル(phenanthrecenyl)、ナフタセニルなどが挙げられる。
【0078】
「置換フェニル」及び「置換アリール」は、ハロ(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アルキル(例えば、Cアルキル)、アルコキシ(例えば、Cアルコキシ)、ベンジルオキシ、カルボキシ、アリールなどから選択される1個、2個、3個、4個、又は5個(例えば、1〜2個、1〜3個、1〜4個、又は1〜5個の置換基)で置換された、それぞれフェニル基及びアリール基を表す。
【0079】
無機酸は、炭素原子が存在しない酸である。例としては、ハロゲン化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。
【0080】
「ハロゲン化水素酸」は、フッ化水素酸(HF)、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、及びヨウ化水素酸(HI)などの水素のハロゲン化物を意味する。
【0081】
「有機酸」は、1つ又は複数のカルボキシ基(−COOH)を有する任意の有機化合物(すなわち、少なくとも1個の炭素原子を有する)を意味する。いくつかの具体例としては、ギ酸、乳酸、安息香酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、混合クロロフルオロ酢酸、クエン酸、シュウ酸などが挙げられる。
【0082】
「活性薬剤」は、本明細書で使用されるとき、インビボ又はインビトロで実証され得る何らかの薬理学的な、多くの場合に有益である効果を提供する任意の薬剤、薬物、化合物などを含む。本明細書で使用されるとき、これらの用語には、患者において局所作用又は全身作用を生じる任意の生理学的又は薬理学的に活性な物質がさらに含まれる。本明細書で使用されるとき、特に本明細書に記載される合成手法に関連して、「活性薬剤」は、生体内に投与されると親の「生物活性」分子を放出するその誘導体化型又はリンカー修飾型を包含することが意図される。
【0083】
「薬学的に許容可能な賦形剤」及び「薬学的に許容可能な担体」は、活性薬剤を含む組成物中に含めることができ、且つ患者に著しい有害毒性効果を引き起こすことのない賦形剤を指す。
【0084】
「薬理学的な有効量」、「生理学的な有効量」、及び「治療有効量」は、本明細書では同義的に使用され、血流中又は体内の標的組織若しくは部位に所望のレベルの活性薬剤及び/又はコンジュゲートを提供するために必要な医薬製剤中に存在する活性薬剤の量を意味する。正確な量は、数多くの要因、例えば、特定の活性薬剤、医薬製剤の構成成分及び物理的特性、対象とする患者集団、及び患者の考慮事項に依存し得るとともに、当業者は本明細書に提供される情報及び関連文献で利用可能な情報に基づき容易に決定することができる。
【0085】
ポリマーとの関連において「多官能性」は、3個以上の官能基を有するポリマーを意味し、ここで官能基は同じであっても、又は異なってもよく、及び典型的にはポリマー末端に存在する。多官能性ポリマーは、典型的には約3〜100個の官能基、又は3〜50個の官能基、又は3〜25個の官能基、又は3〜15個の官能基、又は3〜10個の官能基を含み、すなわち、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個の官能基を含む。
【0086】
「二官能基型」及び「二官能性」は、本明細書では同義的に使用され、そのなかに含まれ、典型的にはポリマー末端にある2個の官能基を有するポリマーなどの実体を意味する。官能基が同じであるとき、その実体はホモ二官能基型又はホモ二官能性と言われる。官能基が異なるとき、その実体はヘテロ二官能基型又はヘテロ二官能性と言われる。
【0087】
本明細書に記載される塩基性又は酸性反応物には、その中性形態、荷電形態、及び任意の対応する塩形態が含まれる。
【0088】
用語「対象」、「個体」及び「患者」は、本明細書では同義的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物を指す。哺乳動物としては、限定はされないが、ネズミ科動物、げっ歯類、サル、ヒト、家畜、競技用動物及びペットが挙げられる。かかる対象は、典型的には、本明細書に記載されるとおりの水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲートを投与することにより予防又は治療され得る病態に罹患しているか、又はそれを起こし易い。
【0089】
用語「約」は、特に所与の分量に関連して、プラス又はマイナス5パーセントの偏差を包含することが意図される。
【0090】
特定の病態についての「治療」及び「治療すること」は、(1)その病態に曝露され得る、又はそれに罹り易いが、まだその病態を経験又は発現していない対象において、かかる病態を予防すること、すなわち病態を発症させない、又より低い強度若しくはより小さい程度で生じさせること、及び(2)病態を抑制すること、すなわち、進行を止め、又は病態を逆転させることを含む。
【0091】
「任意選択の」又は「任意選択により」は、続いて記載される状況が、必須ではないが、その記載にその状況が起こる場合とそれが起こらない場合とが含まれるものであり得ることを意味する。
【0092】
「小分子」は、典型的には約1000未満、好ましくは約800ダルトン未満の分子量を有する有機、無機、又は有機金属化合物である。小分子は、本明細書において参照されるとき、約1000未満の分子量を有するオリゴペプチド及び他の生体分子を包含する。
【0093】
「ペプチド」は、約13〜50個程度のアミノ酸から構成される分子である。オリゴペプチドは、典型的には約2〜12個のアミノ酸を含む。
【0094】
反する旨が明示的に述べられない限り、用語「部分混合塩」及び「混合塩」は、本明細書で使用されるとき同義的に使用され、及びポリマーコンジュゲート(及び複数のかかるポリマーコンジュゲートを含む対応する組成物)の場合、1つ又は複数の塩基性アミノ基(又は他の塩基性窒素を含有する基)を含むコンジュゲート及び組成物を指し、ここで(i)コンジュゲート又はコンジュゲート組成物中の塩基性アミノ基の任意の所与の1つは非プロトン化型であるか、或いはプロトン化型であり、及び(ii)任意の所与のプロトン化塩基性アミノ基に関して、プロトン化(protonted)塩基性アミノ基は、2つの異なる対イオンのうちの一方を有し得る(用語「部分混合塩」は、化合物又は組成物中の全てのアミノ基がプロトン化されているわけではない特徴を指す−従って組成物は「部分」塩であり、一方「混合」は複数の対イオンの特徴を指す)。本明細書に提供されるとおりの混合塩は、水和物、溶媒和物、非晶質形態、結晶形態、多形、異性体などを包含する。
【0095】
「遊離塩基」形態のアミン基(又は他の塩基性窒素基)は、アミン基、すなわち第一級、第二級、又は第三級アミンが自由電子対を有するものである。アミンは中性であり、すなわち荷電されていない。
【0096】
「プロトン化形態」のアミン基はプロトン化アミンとして存在し、従ってアミノ基は正に荷電している。本明細書で使用されるとき、プロトン化しているアミン基はまた、アミンが無機酸又は有機酸などの酸と反応することで生じる酸付加塩の形態であることもできる。
【0097】
活性薬剤のアミノ基の「モルパーセント」は、ある特定の形態の、又は別の形態のポリマーコンジュゲートに含まれる活性薬剤分子中におけるアミノ基の割合又は百分率を指し、ここではコンジュゲート中におけるアミノ基の総モルパーセントが100パーセントである。
【0098】
本明細書で使用されるとき、「psi」はポンド毎平方インチを意味する。
【0099】
概要−ハロゲン化水素塩、アルコキシル化方法、及びアルコキシル化方法から調製されるポリマー生成物から調製されるポリマー試薬から調製されるコンジュゲート(及びそのハロゲン化水素塩形態)の組成物
ハロゲン化水素塩:これまでに示したとおり、本発明の1つ又は複数の実施形態では水溶性ポリマー及び活性薬剤コンジュゲートが提供され、ここでコンジュゲートはハロゲン化水素塩の形態(例えば、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンのハロゲン化水素塩)である。かかるコンジュゲートは新規の固体状態の形態を表す。イリノテカンコンジュゲートを含有する組成物を再現性のある形で調製する方法が提供され、ここで−組成物中の全てのイリノテカンコンジュゲートに関して−イリノテカンの全塩基性窒素原子の95モルパーセント超がハロゲン化水素(HX)塩形態にプロトン化されている方法が見出されたとともに、本明細書に提供される。さらに、ハロゲン化水素塩が、例えば遊離塩基形態のコンジュゲートと比較したとき、加水分解に対する安定性の向上を示すことが見出された。例えば実施例3を参照のこと。
【0100】
背景として、実施例1に詳細に記載するとおり4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンを調製する間、塩基で処理するにもかかわらず、生成物は概して、プロトン化された形態か、或いはプロトン化されていない形態の、イリノテカンの塩基性窒素原子、例えばアミノ基を有する混合酸性塩として形成されたことが見出され、ここで任意の所与のプロトン化アミノ基は、2つの異なる陰イオン(例えば、トリフルオロ酢酸又は塩化物)のうちの一方を有する酸性塩であった。得られた組成物をさらに調べるため、実質的に純粋なハロゲン化水素塩を調製する方法を考案した。概して上記に記載するとおり、本明細書に記載されるハロゲン化水素塩は、ある特定の注目すべき有利な特性を有する。本明細書には特に、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩の構造的特徴、特性、作製及び使用方法、並びにさらなる特徴について記載する。
【0101】
簡潔には、水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲートのハロゲン化水素塩、例えば塩化水素塩の特徴として典型的には以下が挙げられる。一般的に言えば、化合物はマルチアーム型ポリ(エチレングリコール)ポリマーとイリノテカンとのコンジュゲートである。イリノテカンは、その構造から明らかなとおり、1つ又は複数の塩基性アミン基(又は他の塩基性窒素原子)を有し、すなわちマルチアーム型ポリマーコアとのコンジュゲーション後のそのpKが約7.5〜約11.5である(すなわち活性薬剤は、水溶性ポリマーとのコンジュゲーション後に1つ又は複数の塩基性アミン基又は他の窒素含有基を有する)。得られたコンジュゲートはハロゲン化水素塩であり、すなわち塩基性窒素原子がハロゲン化水素塩(HX、式中Xは、フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物から選択される)としてプロトン化されている。
【0102】
本明細書で使用されるとき、イリノテカンの塩基性窒素原子の95モルパーセント超がハロゲン化水素としてプロトン化されているハロゲン化水素塩は、バルク生成物中に含まれる個々の分子種を必ず指すというよりむしろ、「バルク生成物」を指す。従って、コンジュゲート構造中のポリマーアームの本数に基づく塩中に含まれる個々の分子種は、遊離塩基形態並びに上記に記載したとおりのプロトン化形態である少数のアミン基を含み得る。さらに、4アームPEG−カルボキシメチルコンジュゲートコアは、一般には共有結合したイリノテカンによる置換が不完全であってもよく、この特徴については以下にさらに詳細に説明する。
【0103】
アルコキシル化方法:同様にこれまでに示したとおり、本発明の1つ又は複数の実施形態では、方法が提供され、この方法は、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーを好適な溶媒中でアルコキシル化して、アルコキシル化ポリマー生成物を形成するステップを含み、ここで予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーは300ダルトン超(例えば500ダルトン超)の既知の定義された重量平均分子量を有する。この他の利点として、本明細書に提供されるアルコキシル化方法により、これまでに公知の方法によって調製されたポリマー生成物と比べて(例えば一貫性及び純度の点で)優れたポリマー生成物が得られる。
【0104】
アルコキシル化方法から調製されるポリマー生成物から調製されるポリマー試薬から調製されるコンジュゲート(及びそのハロゲン化水素塩形態)の組成物:同様にこれまでに示したとおり、本発明の1つ又は複数の実施形態では、水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲートのハロゲン化水素塩が提供され、コンジュゲートは、(コンジュゲーション条件下で)アミン含有活性薬剤(例えば、脱保護したグリシン−イリノテカン)をポリマー試薬(例えば、4アームペンタエリスリトリル−ポリ(エチレングリコール)−カルボキシメチルスクシンイミド)と塩基の存在下でカップリングしてコンジュゲートを形成することにより調製され、ここでコンジュゲートはハロゲン化水素塩コンジュゲートであり(例えば、コンジュゲートは窒素原子を有し、その各々はプロトン化されるか、又はプロトン化されないかのいずれかであり、ここで任意の所与のプロトン化アミノ基はハロゲン化水素塩である)、さらに任意選択により、ポリマー試薬は、本明細書に記載されるとおり調製されるアルコキシル化生成物から調製される。
【0105】
コンジュゲート−一般的にポリマー
水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲートは(具体的にとる形態、例えば、塩基形態、塩形態、混合塩などとは無関係に)水溶性ポリマーを含む。典型的には、コンジュゲートを形成するため、水溶性ポリマー−ポリマー試薬の形態−が活性薬剤と、その活性薬剤中に含まれる求電子体又は求核体で(コンジュゲーション条件下に)カップリングされる。例えば、水溶性ポリマー(ここでも、例えば活性化エステルを有するポリマー試薬の形態)を、1つ又は複数の塩基性アミン基(又は他の塩基性窒素原子)、すなわちpKが(コンジュゲーション後に測定して)約7.5〜約11.5であるアミンを有する活性薬剤とカップリングすることができる。
【0106】
コンジュゲートの水溶性ポリマー成分は、典型的には水溶性非ペプチドポリマーである。代表的なポリマーとしては、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカライド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)、又はそのコポリマー若しくはターポリマーが挙げられる。一つの特定の水溶性ポリマーは、繰り返し単位(CHCHO)−(式中、nは約3〜約2700若しくはさらに大きい範囲、又は好ましくは約25〜約1300の範囲である)を含むポリエチレングリコール又はPEGである。典型的には、コンジュゲート中の水溶性ポリマーの重量平均分子量は約100ダルトン〜約150,000ダルトンの範囲である。コンジュゲートの例示的な総分子量は約800〜約80,000ダルトン、又は約900〜約70,000ダルトンの範囲であり得る。さらなる代表的な分子量範囲は約1,000〜約40,000ダルトン、又は約5,000〜約30,000ダルトン、又は約7500ダルトン〜約25,000ダルトン、又はさらには、この塩のより高分子量の実施形態について約20,000〜約80,000ダルトンである。
【0107】
水溶性ポリマーは、直鎖状、分枝状、フォーク状を含め、数多くの幾何学的配置又は形態のうちのいずれであってもよい。例示的実施形態では、ポリマーは直鎖状又はマルチアーム型であることが多い。水溶性ポリマーは、単に水溶性ポリマーとして市販品を入手することができる。加えて、水溶性ポリマーは好都合にはポリマー試薬として活性化形態で入手することができる(これは任意選択により、さらに修飾又は活性化することなく活性薬剤とカップリングしてもよい)。水溶性ポリマー及びポリマー試薬についての記載は、Nektar Advanced PEGylation Catalog,2005−2006,「Polyethylene Glycol and Derivatives for Advanced PEGylation」に見ることができ、特に日油株式会社及びJenKem Technology USAから購入することが可能である。
【0108】
以下は、多くの場合にPEG−2又はmPEG−2と称される、分岐したパターンの2本のポリマーアームを有する例示的な分枝状ポリマーであり:
【化7】


式中、
【化8】


は、活性薬剤中に含まれる求電子体又は求核体との反応に好適な官能基のいずれかを形成するさらなる原子のための位置を示す。例示的な官能基としては、NHSエステル、アルデヒドなどが挙げられる。
【0109】
変数「n」を含む本明細書に記載されるポリマー構造について、かかる変数は整数に対応し、ポリマーの繰り返しモノマー構造内にあるモノマーサブユニットの数を表す。
【0110】
コンジュゲートの調製に使用される例示的な構造上には、各々が最適には官能基を有する例えば3本、4本、5本、6本又は8本のポリマーアームを有するマルチアーム水溶性ポリマー試薬がある。マルチアームポリマー試薬は数多くのコア(例えば、ポリオールコア)のいずれかを有してもよく、ポリマーアームはそこから拡がる。例示的なポリオールコアとしては、グリセロール、グリセロールダイマー(3,3’−オキシジプロパン−1,2−ジオール)トリメチロールプロパン、糖類(ソルビトール又はペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールダイマーなど)、及びヘキサグリセロール又は3−(2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシエトキシ)プロポキシ)プロパン−1,2−ジオールなどのグリセロールオリゴマー、並びに他のグリセロール縮合生成物が挙げられる。例示的に、コア及びそこから拡がるポリマーアームは以下の式であってもよい:
【化9】


【化10】

【0111】
例示される実施形態において、水溶性ポリマーは上記に示されるとおりの4アームポリマーであり、ここでnは、約20〜約500、又は約40〜約500の範囲であってもよい。
【0112】
本明細書に記載されるマルチアームの実施形態において、各ポリマーアームは、典型的には以下のうちの1つに対応する分子量を有する:200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、3000、4000、5000、6000、7000、7500、8000、9000、10000、12,000、15000、17,500、18,000、19,000、20,000ダルトン又はそれ以上。本明細書に記載されるマルチアーム型ポリマー立体配置の総分子量(すなわち、マルチアーム型ポリマーの全体としての分子量)は、概して以下のうちの1つに対応する:800、1000、1200、1600、2000、2400、2800、3200、3600、4000、5000、6000、8000、10,000、12,000、15,000、16,000、20,000、24,000、25,000、28,000、30,000、32,000、36,000、40,000、45,000、48,000、50,000、60,000、80,000又は100,000又はそれ以上。
【0113】
水溶性ポリマー、例えばPEGは、活性薬剤に介在リンカーを介して共有結合してもよい。リンカーは任意の数の原子を含み得る。一般的に言えば、リンカーは、以下の範囲の1つ又は複数を満たす原子長を有する:約1原子〜約50原子;約1原子〜約25原子;約3原子〜約12原子;約6原子〜約12原子;及び約8原子〜約12原子。原子鎖長を考えるとき、全体の距離に寄与する原子のみを考慮する。例えば、構造
【化11】


を有するリンカーは、置換基はリンカーの長さに有意に寄与しないと見なされるため、11原子の鎖長を有すると見なされる。例示的なリンカーとしては二官能性化合物、例えばアミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェンルアラニン(phenlalanine)、メチオニン、セリン、システイン、サルコシン、バリン、リジンなど)が挙げられる。アミノ酸は天然に存在するアミノ酸であっても、又は天然には存在しないアミノ酸であってもよい。好適なリンカーとしてはまた、オリゴペプチドも挙げられる。
【0114】
上記のマルチアーム構造は、主としてPEG鎖が結合したポリマーコアを説明するために描かれ、及び明確には描かれないが、活性薬剤の性質及び用いられる結合化学に応じて、最終的な構造は任意選択により、各ポリマーアームの末端で酸素原子に結合するさらなるエチレン基−CHCH−を含んでもよく、及び/又は任意選択により、数多くの介在リンカー原子のいずれかを含んでもよく、それにより活性薬剤との共有結合が促進され得る。詳細な実施形態において、上記に示されるPEGアームの各々は、末端酸素原子に共有結合したカルボキシメチル基−CH−C(O)−をさらに含む。
【0115】
ポリマー組成物の改良のための新規アルコキシル化方法
これまでに示したとおり、活性薬剤とのコンジュゲート(並びにその塩形態)の調製(例えば)に有用性がある水溶性ポリマーは、市販品を入手することができる。しかしながら、本明細書にさらに記載するとおり、活性薬剤とのコンジュゲート(並びにその塩形態)の調製に特に適した水溶性ポリマーの調製方法−この方法は、これまでに記載がなされた水溶性ポリマー調製方法とは異なる−が提供される。
【0116】
これに関連して、方法が提供され、この方法は、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーを好適な溶媒中でアルコキシル化して、アルコキシル化ポリマー生成物を形成するステップを含み、ここで予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーは300ダルトン超(例えば500ダルトン超)の既知の定義された重量平均分子量を有する。
【0117】
新規アルコキシル化方法でアルコキシル化するステップ
アルコキシル化するステップは、アルコキシル化条件を用いて、オキシラン化合物の繰り返し反応によってモノマーの逐次付加が達成されるように実施される。アルコキシル化可能なオリゴマーが最初に1つ又は複数のヒドロキシル官能基を有する場合、アルコキシル化可能なオリゴマー中のそれらのヒドロキシル基の1つ又は複数が、強塩基との反応によって反応性アルコキシドに変換され得る。次に、オキシラン化合物がアルコキシル化可能な官能基(例えば、反応性アルコキシド)と反応し、それにより反応性アルコキシドに付加されるのみならず、別の反応性アルコキシドが末端となるような形でも付加される。その後、先に付加して反応させたオキシラン化合物の反応性アルコキシド末端でオキシラン化合物を繰り返し反応させると、効果的に高分子鎖が生成される。
【0118】
1つ又は複数のアルコキシル化可能な官能基の各々は、好ましくはヒドロキシルであるが、アミン、チオール及びカルボン酸のヒドロキシル基などの他の基が、許容されるアルコキシル化可能な官能基として働き得る。また、アルデヒド、ケトン、ニトリル及びアミド中のα炭素原子の水素の酸性度に起因して、これらの基をα炭素原子に付加することも、許容されるアルコキシル化可能な官能基として働き得る。
【0119】
オキシラン化合物はオキシラン基を含み、以下の式を有する:
【化12】


式中(この構造に関して):
は、H及びアルキル(好ましくはアルキルの場合には低級アルキル)からなる群から選択され;
は、H及びアルキル(好ましくはアルキルの場合には低級アルキル)からなる群から選択され;
は、H及びアルキル(好ましくはアルキルの場合には低級アルキル)からなる群から選択され;及び
は、H及びアルキル(好ましくはアルキルの場合には低級アルキル)からなる群から選択される。
【0120】
上記のオキシラン化合物の式に関して、R、R、R及びRの各々はHであることが特に好ましく、R、R、R及びRのうちの1つのみがアルキル(例えば、メチル及びエチル)で、且つ残りの置換基がHであることが好ましい。例示的なオキシラン化合物は、エチレンオキシド、酸化プロピレン及び1,2−酸化ブチレンである。最適なアルコキシル化条件をもたらすように付加されるオキシラン化合物の量は、出発物質のアルコキシル化可能なオリゴマーの量、得られるアルコキシル化ポリマー材料の所望のサイズ及びアルコキシル化可能なオリゴマー上のアルコキシル化可能な官能基の数を含め、数多くの要因に依存する。従って、より大きいアルコキシル化ポリマー材料が所望される場合、アルコキシル化条件中に比較的多くのオキシラン化合物が存在する。同様に、(Oa)が、単一のアルコキシル化可能な官能基上で所与のサイズのポリマー「成長」を実現するために必要なオキシラン化合物の量を表す場合、2個のアルコキシル化可能な官能基を有するアルコキシル化可能なオリゴマーでは2×(Oa)が必要であり、3個のアルコキシル化可能な官能基を有するアルコキシル化可能なオリゴマーでは3×(Oa)が必要であり、4個のアルコキシル化可能な官能基を有するアルコキシル化可能なオリゴマーでは4×(Oa)が必要である等となる。いずれの場合も、当業者は、アルコキシル化ポリマー材料の所望の分子量を考慮することにより、及びルーチンの実験に従い、アルコキシル化条件に必要なオキシラン化合物の適切な量を決定することができる。
【0121】
アルコキシル化条件には強塩基の存在が含まれる。強塩基の目的は、アルコキシル化可能なオリゴマー中に存在する各酸性水素(例えば、ヒドロキシル基の水素)を脱プロトン化してアルコキシドイオン種(又はヒドロキシルでないアルコキシル化可能な官能基のイオン種)を形成することである。アルコキシル化条件の一部として使用するのに好ましい強塩基は、アルカリ金属、例えば、金属カリウム、金属ナトリウム、及びナトリウム−カリウム合金などのアルカリ金属混合物;NaOH及びKOHなどの水酸化物;及びアルコキシド(例えば、オキシラン化合物の付加後に存在する)である。他の強塩基を使用することができ、当業者は特定し得る。例えば、強塩基がアルコキシドイオン種(又はヒドロキシルでないアルコキシル化可能な官能基のイオン種)を形成することができ、またアルコキシドイオン種のオキシラン分子との反応を阻害する(又は実際的でないほど遅らせることによって事実上阻害する)ようにアルコキシドイオン種を妨げることのない陽イオンを提供することもできる場合、所与の塩基を本明細書において強塩基として使用することができる。強塩基は概して少量の計算された量で存在し、この量は以下の範囲の1つ又は複数に該当し得る:全反応混合物の重量を基準として0.001〜10.0重量パーセント;及び全反応混合物の重量を基準として0.01〜約6.0重量パーセント。
【0122】
アルコキシル化条件には、アルコキシル化が起こるのに好適な温度が含まれる。アルコキシル化が起こるのに好適であり得る例示的な温度としては、以下の範囲の1つ又は複数に該当するものが挙げられる:10℃〜260℃;20℃〜240℃;30℃〜220℃;40℃〜200℃;50℃〜200℃;80℃〜140℃;及び100℃〜120℃。
【0123】
アルコキシル化条件には、アルコキシル化が起こるのに好適な圧力が含まれる。アルコキシル化が起こるのに好適であり得る例示的な圧力としては、以下の範囲の1つ又は複数に該当するものが挙げられる:10psi〜1000psi;15psi〜500psi;20psi〜250psi;25psi〜100psi。加えて、アルコキシル化の圧力は、ほぼ海面大気圧(例えば、14.696ポンド毎平方インチ±10%)であってもよい。
【0124】
ある場合には、アルコキシル化条件には、液体形態のオキシラン化合物の付加が含まれる。ある場合には、アルコキシル化条件には、蒸気形態のオキシラン化合物の付加が含まれる。
【0125】
アルコキシル化条件には、好適な溶媒の使用が含まれてもよい。最適には、アルコキシル化条件が起こる系は、脱プロトン化され得る(又はアルコキシル化条件が起こり得るpH、温度などの条件下で実質的にプロトン化されたまま残る)いかなる成分も(任意の溶媒を含め)含まないものであり得る。アルコキシル化に好適な溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン、テトラクロロエチレン、アニソール、ジメチルアセトアミド、及び前述の混合物からなる群から選択される有機溶媒が挙げられる。アルコキシル化条件の一部として使用するのにそれほど理想的ではない(しかしそれでもなお企図される)溶媒は、アセトニトリル、フェニルアセトニトリル及び酢酸エチルである;ある場合には、アルコキシル化条件は、溶媒としてアセトニトリル、フェニルアセトニトリル及び酢酸エチルのいずれも含まないものであり得る。
【0126】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、アルコキシル化条件が液相で実施されるとき、アルコキシル化条件は、アルコキシル化可能なオリゴマーと、アルコキシル化可能なオリゴマーをアルコキシル化することにより形成される所望のアルコキシル化ポリマー材料との双方が好適な溶媒中で同様の溶解度(及び好ましくは実質的に同じ溶解度)を有するのみならず、双方とも好適な溶媒に対して実質的に可溶性であるように実施される。例えば、1つ又は複数の実施形態では、アルコキシル化可能なオリゴマーは、アルコキシル化条件で使用される溶媒に対して実質的に可溶性であり得るとともに、得られるアルコキシル化ポリマー材料もまたアルコキシル化条件において実質的に可溶性であり得る。
【0127】
1つ又は複数の実施形態では、好適な溶媒中でのアルコキシル化オリゴマーとアルコキシル化ポリマー材料とのこの実質的に同じ溶解度は、好適な溶媒中での前躯分子(例えば予め分離されたアルコキシル化オリゴマーの調製で使用される)の溶解度と対照をなし、ここで前躯分子は好適な溶媒中でアルコキシル化オリゴマー及び/又はアルコキシル化ポリマー材料より低い(及びさらには実質的により低い)溶解度を有し得る。単に例として、アルコキシル化オリゴマー及びアルコキシル化ポリマー材料は、双方ともペンタエルスリトール(pentaerthritol)コアを有し得るとともに、双方ともトルエンに対して実質的に可溶性であり得るが、しかしながらペンタエルスリトール(pentaerthritol)それ自体のトルエン中での溶解度は限られている。
【0128】
アルコキシル化条件に用いられる溶媒はトルエンであることが特に好ましい。反応に使用するトルエンの量は、オキシラン化合物を完全に付加した後の反応混合物の重量を基準として反応混合物の25wt%より多く、且つ75wt%より少ない。当業者は、ポリマーの所望の分子量、アルコキシル化が起こり得る部位の数、使用するアルコキシル化可能なオリゴマーの重量などを考慮することにより、溶媒の出発量を計算することができる。
【0129】
トルエンの量は、その量が所望のアルコキシル化ポリマー材料を提供するアルコキシル化条件に十分であるように測られることが好ましい。
【0130】
加えて、アルコキシル化条件が実質的に水の存在を有しないことが特に好ましい。従って、アルコキシル化条件は、100ppm未満、より好ましくは50ppm、なおもより好ましくは20ppm、一層より好ましくは14ppm未満、及びなおもさらにより好ましくは8ppm未満の含水量であることが好ましい。
【0131】
アルコキシル化条件は好適な反応容器、典型的にはステンレス鋼製の反応器容器において行われる。
【0132】
1つ又は複数の実施形態では、アルコキシル化可能なオリゴマー及び/又は前躯分子は、α水素を有する炭素に結合するイソシアネート基を欠いており、許容される。1つ又は複数の実施形態では、予め調製されたアルコキシル化可能なオリゴマー及び/又は前躯分子はイソシアネート基を欠いている。
【0133】
新規アルコキシル化方法におけるアルコキシル化可能なオリゴマー
新規アルコキシル化方法で使用するアルコキシル化可能なオリゴマーは、少なくとも1個のアルコキシル化可能な官能基を有しなければならない。しかしながらアルコキシル化可能なオリゴマーは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個又はそれ以上のアルコキシル化可能な官能基を有してもよく、アルコキシル化可能なオリゴマーが1〜6個のアルコキシル化可能な官能基を有することが好ましい。
【0134】
これまでに述べたとおり、アルコキシル化可能なオリゴマー中の各アルコキシル化可能な官能基は、ヒドロキシル、カルボン酸、アミン、チオール、アルデヒド、ケトン、及びニトリルからなる群から独立して選択され得る。アルコキシル化可能なオリゴマー中に2個以上のアルコキシル化可能な官能基がある場合においては、各アルコキシル化可能な官能基は同じである(例えば、アルコキシル化可能なオリゴマー中の各アルコキシル化可能な官能基はヒドロキシルである)ことが典型的であるが、しかしながら同じアルコキシル化可能なオリゴマー中でアルコキシル化可能な官能基が異なる場合も同様に企図される。アルコキシル化可能な官能基がヒドロキシルである場合、ヒドロキシルは第一級ヒドロキシルであることが好ましい。
【0135】
アルコキシル化可能なオリゴマーは数多くの可能な幾何学的配置のいずれかをとり得る。例えば、アルコキシル化可能なオリゴマーは直鎖状であってもよい。直鎖状のアルコキシル化可能なオリゴマーの一例では、直鎖状のアルコキシル化可能なオリゴマーの一方の末端が比較的不活性な官能基(例えば、エンドキャッピング基)であり、他方の末端がアルコキシル化可能な官能基(例えば、ヒドロキシル)である。この構造の例示的アルコキシル化可能なオリゴマーはメトキシ−PEG−OH、又は簡潔にはmPEGであり、ここでは一方の末端が比較的不活性なメトキシ基である一方、他方の末端がヒドロキシル基である。mPEGの構造を以下に示す。
CHO−CHCHO−(CHCHO)−CHCH−OH
(直前の構造に限り、式中、nは13〜100の整数である)。
【0136】
アルコキシル化可能なオリゴマーがとり得る直鎖状幾何学的配置の別の例は、各末端にアルコキシル化可能な官能基(同じであっても、又は異なっても)を有する直鎖状有機ポリマーである。この構造の例示的アルコキシル化可能なオリゴマーは、α−、ω−ジヒドロキシルポリ(エチレングリコール)、又は
HO−CHCHO−(CHCHO)−CHCH−OH
(式中、直前の構造についてのみ、nは13〜100の整数である)であり、
これは簡潔な形ではHO−PEG−OHと表すことができ、ここで−PEG−記号は以下の構造単位:
−CHCHO−(CHCHO)−CHCH
(直前の構造に限り、式中、nは13〜100の整数である)
を表すものと理解される。
【0137】
アルコキシル化可能なオリゴマーが有し得る別の幾何学的配置は「マルチアーム型」、すなわち分枝状構造である。かかる分枝状構造に関して、アルコキシル化可能なオリゴマーにおける1つ又は複数の原子が「分岐点原子」として働き、それを介して2つ、3つ、4つ又はそれ以上の(しかし典型的には2つ、3つ又は4つの)個別的な繰り返しモノマーセットすなわち「アーム」が(直接的に、或いは1つ又は複数の原子を介して)接続する。「マルチアーム」構造は、本明細書で使用されるとき、最低でも3本以上の個別的なアームを有するが、4本、5本、6本、7本、8本、9本、又はそれ以上ものアームを有してもよく、4〜8本のアームのマルチアーム構造が好ましい(4アーム構造、5アーム構造、6アーム構造、及び8アーム構造など)。
【0138】
アルコキシル化可能なオリゴマーの例示的マルチアーム構造を以下に提供する:
【化13】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は1〜50、例えば10〜50であり(又は他の方法では、構造の分子量が300ダルトン〜9,000ダルトン(例えば、約500ダルトン〜5,000ダルトン)となるように定義され;
【化14】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は2〜50、例えば10〜50であり(又は他の方法では、構造の分子量が300ダルトン〜9,000ダルトン(例えば、約500ダルトン〜5,000ダルトン)となるように定義され;
【化15】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は2〜35、例えば約8〜約40であり(又は他の方法では、構造の分子量が750ダルトン〜9,500ダルトン(例えば、500ダルトン〜5,000ダルトン)となるように定義され;及び
【化16】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は2〜35、例えば5〜35である(又は他の方法では、構造の分子量が1,000ダルトン〜13,000ダルトン(例えば、500ダルトン〜5,000ダルトン)となるように定義される。
【0139】
直前の4つの構造の各々について、nの値はいずれの場合も実質的に同じであることが好ましい。従って、所与のアルコキシル化可能なオリゴマーについての全てのnの値を考えるとき、当該のアルコキシル化可能なオリゴマーの全てのnの値が3標準偏差内、より好ましくは2標準偏差内、及びさらにより好ましくは1標準偏差内であることが好ましい。
【0140】
アルコキシル化可能なオリゴマーの分子量に関して、アルコキシル化可能なオリゴマーは既知の定義された重量平均分子量を有し得る。本明細書での使用には、重量平均分子量は、アルコキシル化可能なオリゴマーがそれを生じた合成環境から分離されるときのアルコキシル化可能なオリゴマーについてのみ既知で定義され得る。アルコキシル化可能なオリゴマーの例示的な重量平均分子量は、以下の範囲の1つ又は複数に該当し得る:300ダルトン超;500ダルトン超;300ダルトン〜15,000ダルトン;500ダルトン〜5,000ダルトン;300ダルトン〜10,000ダルトン;500ダルトン〜4,000ダルトン;300ダルトン〜5,000ダルトン;500ダルトン〜3,000ダルトン;300ダルトン〜2,000ダルトン;500ダルトン〜2,000ダルトン;300ダルトン〜1,000ダルトン;500ダルトン〜1,000ダルトン;1,000ダルトン〜10,000ダルトン;1,000ダルトン〜5,000ダルトン;1,000ダルトン〜4,000ダルトン;1,000ダルトン〜3,000ダルトン;1,000ダルトン〜2,000ダルトン;1,500ダルトン〜15,000ダルトン;1,500ダルトン〜5,000ダルトン;1,500ダルトン〜10,000ダルトン;1,500ダルトン〜4,000ダルトン;1,500ダルトン〜3,000ダルトン;1,500ダルトン〜2,000ダルトン;2,000ダルトン〜5,000ダルトン;2,000ダルトン〜4,000ダルトン;及び2,000ダルトン〜3,000ダルトン。
【0141】
本発明の目的上、アルコキシル化可能なオリゴマーは好ましくは予め分離されている。予め分離されているとは、アルコキシル化可能なオリゴマーが、それを生じた合成環境の外部にそこから離れて(最も典型的には、アルコキシル化可能なオリゴマーの調製に使用されたアルコキシル化条件の外部に)存在することを意味し、続く使用のために実質的に変化させることなく任意選択により比較的長期間保存され、又は任意選択により短期間保存され得る。従って、アルコキシル化可能なオリゴマーは、例えばそれが不活性環境に貯蔵されている場合、予め分離されている。この点について、予め分離されたアルコキシル化オリゴマーは、実質的にオキシラン化合物を含まない(例えば0.1wt%未満である)容器に貯蔵することができる。また、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーは、その分子量が15日の間に10%より大きく変化することがない。従って、本発明の1つ又は複数の実施形態では、「予め分離された」の概念は、(例えば)前躯分子から、アルコキシル化可能なオリゴマーに対応する構造へ、アルコキシル化ポリマー材料に対応する構造へと継続的で中断のないアルコキシル化反応が進められる状況とは対照をなす;「予め分離されている」の概念は、アルコキシル化可能なオリゴマーが、それを形成した条件から離れて存在することを必要とする。しかしながら本発明に従えば、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーは、それが別個のステップとしてアルコキシル化条件に加えられると、アルコキシル化ステップに供されることになる。
【0142】
新規アルコキシル化方法におけるアルコキシル化可能なオリゴマーの供給源
アルコキシル化可能なオリゴマーは合成手段によって得ることができる。この点について、アルコキシル化可能なオリゴマーは、(a)300ダルトン未満(例えば、500ダルトン未満)の分子量を有する前躯分子をアルコキシル化して、アルコキシル化可能なオリゴマー又はプレポリマーを含む反応混合物を形成するステップと、(b)反応混合物からアルコキシル化可能なオリゴマーを分離するステップとにより調製される。前躯分子をアルコキシル化するステップは、概して先に考察したアルコキシル化するステップの条件及び要件に従う。アルコキシル化可能なオリゴマーを分離するステップは、当該技術分野で公知の任意のステップを用いて実施することができるが、反応において全てのオキシラン化合物を消費させることと、クエンチするステップを能動的に実行することと、当該技術分野で公知の手法によって最終反応混合物を分離することと(例えば、あらゆる揮発性材料を留去すること、固形の反応副産物をろ過又は洗浄で除去すること、及びクロマトグラフィー手段を適用することを含む)を含み得る。
【0143】
加えて、アルコキシル化可能なオリゴマーは商業的供給元から得ることができる。例示的な商業的供給元としては日油株式会社(日本、東京都)が挙げられ、同社は商品名SUNBRIGHT DKH(登録商標)ポリ(エチレングリコール)、SUNBRIGHT(登録商標)GLグリセリン、トリポリ(エチレングリコール)エーテル、SUNBRIGHT PTE(登録商標)ペンタエリスリトール、テトラポリ(エチレングリコール)エーテル、SUNBRIGHT(登録商標)DGジグリセリン、テトラポリ(エチレングリコール)エーテル、及びSUNBRIGHT HGEO(登録商標)ヘキサグリセリン、オクタポリ(エチレングリコール)エーテルとしてアルコキシル化可能なオリゴマーを提供している。好ましいアルコキシル化可能なオリゴマーとしては、SUNBRIGHT PTE(登録商標)−2000ペンタエリスリトール、テトラポリ(エチレングリコール)エーテル(これは約2,000ダルトンの重量平均分子量を有する)及びSUNBRIGHT(登録商標)DG−2000ジグリセリン、テトラポリ(エチレングリコール)エーテル(これは約2,000ダルトンの重量平均分子量を有する)の構造を有するものが挙げられる。
【0144】
前躯分子は、1つ又は複数のアルコキシル化可能な官能基を有する任意の小分子(例えば、アルコキシル化可能なオリゴマーの重量平均分子量未満の分子量)であってよい。
【0145】
例示的な前躯分子としてはポリオールが挙げられ、これは複数の利用可能なヒドロキシル基を有する(典型的には300ダルトン未満、例えば500ダルトン未満の分子量の)小分子である。アルコキシル化可能なオリゴマー又はプレポリマーにおいて所望されるポリマーアームの本数に応じて、前躯分子として働くポリオールは、典型的には3〜約25個のヒドロキシル基、好ましくは約3〜約22個のヒドロキシル基、最も好ましくは約4〜約12個のヒドロキシル基を含み得る。好ましいポリオールとしては、ヘキサグリセロールなどのグリセロールオリゴマー又はポリマー、ペンタエリスリトール及びそのオリゴマー又はポリマー(例えば、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール、及びエトキシ化形態のペンタエリスリトール)、並びに糖由来アルコール、例えば、ソルビトール、アラバニトール(arabanitol)、及びマンニトールが挙げられる。また、多くの市販のポリオール、例えばイノシトールの様々な異性体(すなわち1,2,3,4,5,6−ヘキサヒドロキシシクロヘキサン)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トリス)、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、{[2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ}酢酸(トリシン)、2−[(3−{[2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ}プロピル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、2−{[2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ}エタンスルホン酸(TES)、4−{[2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ}−1−ブタンスルホン酸、及び2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール塩化水素も、許容される前躯分子として働き得る。前躯分子がアルコキシル化ステップに干渉し得る1つ又は複数のイオン性基を有する場合、それらのイオン性基はアルコキシル化ステップの実施前に保護又は修飾しなければならない。
【0146】
例示的な好ましい前躯分子としては、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、ヘキサグリセロール、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエルスリトール(dipentaerthitol)、及びトリペンタエリスリトールからなる群から選択される前躯分子が挙げられる。
【0147】
本発明の1つ又は複数の実施形態では、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーも、アルコキシル化ポリマー生成物も、前躯分子のアルコキシル化可能な官能基(例えば、ヒドロキシル基)を有しないことが好ましい。
【0148】
新規アルコキシル化方法により生成されるアルコキシル化ポリマー材料
本明細書に記載される方法に基づき調製されるアルコキシル化ポリマー材料は、アルコキシル化可能なオリゴマーの構造に対応する基本構造を有し得る(すなわち、直鎖状のアルコキシル化可能なオリゴマーは直鎖状のアルコキシル化ポリマー材料となり、4アーム型のアルコキシル化可能なオリゴマーは4アーム型アルコキシル化ポリマー材料となる等)。結果として、アルコキシル化ポリマー材料は、直鎖状、分枝状及びマルチアーム型を含め、数多くの可能な幾何学的配置のいずれかをとり得る。
【0149】
分枝状の構造に関して、分枝状アルコキシル化ポリマー材料は3本以上の個別的なアームを有し得るが、4本、5本、6本、7本、8本、9本、又はそれ以上ものアームを有することもでき、4〜8本のアームの分枝状構造が好ましい(4アーム分枝状構造、5アーム分枝状構造、6アーム分枝状構造、及び8アーム分枝状構造など)。
【0150】
アルコキシル化ポリマー材料の例示的な分枝状構造を以下に提供する:
【化17】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数を満足する:10〜1,000;10〜500;10〜250;50〜1000;50〜250;及び50〜120(又は他の方法では、構造の分子量が2,000ダルトン〜180,000ダルトン、例えば2,000ダルトン〜120,000ダルトンとなるように定義される);
【化18】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数を満足する:10〜1,000;10〜500;10〜250;50〜1,000;50〜250;及び50〜120(又は他の方法では、構造の分子量が2,000ダルトン〜180,000ダルトン、例えば2,000ダルトン〜120,000ダルトンとなるように定義される);
【化19】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数であり、それを満足する:10〜750;40〜750;50〜250;及び50〜120(又は他の方法では、構造の分子量が3,000ダルトン〜200,000ダルトン、例えば12,000ダルトン〜200,000ダルトンとなるように定義される);及び
【化20】


式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数であり、それを満足する:10〜600及び35〜600(又は他の方法では、構造の分子量が4,000ダルトン〜215,000ダルトン、例えば12,000ダルトン〜215,000ダルトンとなるように定義される)。
【0151】
直前の4つの構造の各々について、nの値はいずれの場合も実質的に同じであることが好ましい。従って、所与のアルコキシル化ポリマー材料についての全てのnの値を考えるとき、当該のアルコキシル化ポリマー材料アルコキシル化可能なオリゴマー又はプレポリマーの全てのnの値が3標準偏差内、より好ましくは2標準偏差内、及びさらにより好ましくは1標準偏差内であることが好ましい。
【0152】
アルコキシル化ポリマー材料の分子量に関して、アルコキシル化ポリマー材料は既知の定義された数平均分子量を有し得る。本明細書での使用には、数平均分子量は、それを生じた合成環境から分離される材料についてのみ既知で定義され得る。
【0153】
アルコキシル化ポリマー生成物の総分子量は、意図する目的に適した分子量であり得る。任意の所与の目的に対して許容される分子量は、ルーチンの実験による試行錯誤を通じて決定することができる。アルコキシル化ポリマー生成物の例示的な分子量は、以下の範囲の1つ又は複数に入る数平均分子量を有し得る:2,000ダルトン〜215,000ダルトン;5,000ダルトン〜215,000ダルトン;5,000ダルトン〜150,000ダルトン;5,000ダルトン〜100,000ダルトン;5,000ダルトン〜80,000ダルトン;6,000ダルトン〜80,000ダルトン;7,500ダルトン〜80,000ダルトン;9,000ダルトン〜80,000ダルトン;10,000ダルトン〜80,000ダルトン;12,000ダルトン〜80,000ダルトン;15,000ダルトン〜80,000ダルトン;20,000ダルトン〜80,000ダルトン;25,000ダルトン〜80,000ダルトン;30,000ダルトン〜80,000ダルトン;40,000ダルトン〜80,000ダルトン;6,000ダルトン〜60,000ダルトン;7,500ダルトン〜60,000ダルトン;9,000ダルトン〜60,000ダルトン;10,000ダルトン〜60,000ダルトン;12,000ダルトン〜60,000ダルトン;15,000ダルトン〜60,000ダルトン;20,000ダルトン〜60,000ダルトン;25,000ダルトン〜60,000ダルトン;30,000ダルトン〜60,000;6,000ダルトン〜40,000ダルトン;9,000ダルトン〜40,000ダルトン;10,000ダルトン〜40,000ダルトン;15,000ダルトン〜40,000ダルトン;19,000ダルトン〜40,000ダルトン;15,000ダルトン〜25,000ダルトン;及び18,000ダルトン〜22,000ダルトン。
【0154】
任意の所与のアルコキシル化ポリマー材料に対して、アルコキシル化ポリマー材料を、それがポリマー試薬を形成するための特定の反応基を有するようにさらに変化させるため、任意選択のステップが実施されてもよい。従って、当該技術分野で周知されている技法を用いて、反応基(例えば、カルボン酸、活性エステル、アミン、チオール、マレイミド、アルデヒド、ケトンなど)を含むようにアルコキシル化ポリマー材料を官能化することができる。
【0155】
アルコキシル化ポリマー生成物を、それが特定の反応基を有するようにさらに変化させる任意選択のステップを実施する際、かかる任意選択のステップは好適な溶媒中で実施される。当業者は、任意の具体的な溶媒が任意の所与の反応ステップに適切であるかどうかを判断することができる。しかしながら、多くの場合に溶媒は、好ましくは非極性溶媒又は極性溶媒である。非極性溶媒の非限定的な例としては、ベンゼン、キシレン及びトルエンが挙げられる。例示的極性溶媒としては、限定はされないが、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、t−ブチルアルコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)、HMPA(ヘキサメチルホスホルアミド)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMA(ジメチルアセトアミド)、及びNMP(N−メチルピロリジノン)が挙げられる。
【0156】
アルコキシル化ポリマー材料のさらなる組成物
本明細書に提供される本発明の別の態様は、アルコキシル化ポリマー材料を含む組成物であり、これにはアルコキシル化ポリマー材料を含む任意の組成物のみならず、アルコキシル化ポリマー材料を例えばポリマー試薬にさらに変化させた組成物、並びにかかるポリマー試薬の活性薬剤とのカップリングから形成されるコンジュゲートの組成物もまた含まれる。特に、本明細書に記載される方法の有益性は、高純度のアルコキシル化ポリマー材料を含有する組成物を実現する能力である。この組成物は、実質的に低い含有量の高分子量の不純物(例えば、所望のアルコキシル化ポリマー材料の分子量より大きい分子量を有するポリマー含有種)及び低い含有量の低分子量ジオール不純物(すなわち、HO−PEG−OH)の双方を有し、いずれかの不純物タイプが(及び好ましくは双方の不純物タイプとも)合計で8wt%未満、及びより好ましくは2wt%未満であるものとして特徴付けることができる。それに加えて又は代えて、この組成物はまた、アルコキシル化ポリマー材料(並びにアルコキシル化ポリマー材料から形成されるポリマー試薬を含む組成物、及びかかるポリマー試薬と活性薬剤とをコンジュゲートすることから形成されるコンジュゲートの組成物)の純度が92wt%超、より好ましくは97wt%超であるものとしても特徴付けることができる。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)及びゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を用いてアルコキシル化ポリマー材料を特徴付けることができる。これらのクロマトグラフ法は、組成物を分子量によってその成分に分離することが可能である。実施例7及び実施例8に記載される生成物の例示的なGFCトレースを、それぞれ図7及び図8として提供する。
【0157】
アルコキシル化ポリマー材料及びそれから形成される組成物の例示的使用
本明細書に提供されるアルコキシル化ポリマー材料並びに特定の反応基を有するようにさらに修飾されたアルコキシル化ポリマー生成物(以下「ポリマー試薬」と称する)は、例えば活性薬剤とのコンジュゲートに有用である。本明細書に記載されるポリマー試薬との反応に適した生物学的に活性な薬剤の好ましい基は、求電子基及び求核基である。例示的な基としては、第一級アミン、カルボン酸、アルコール、チオール、ヒドラジン及びヒドラジドが挙げられる。本明細書に記載されるポリマー試薬との反応に適したかかる基は当業者に公知である。従って本発明は、コンジュゲーション条件下で活性薬剤を本明細書に記載されるポリマー試薬と接触させるステップを含む、コンジュゲートの作製方法を提供する。
【0158】
好適なコンジュゲーション条件は、ポリマー試薬と活性薬剤との間のコンジュゲーションを達成するのに十分な時間、温度、pH、試薬濃度、1つ又は複数の試薬官能基、活性薬剤に対して利用可能な官能基、溶媒などの条件である。当該技術分野において公知のとおり、具体的な条件は、特に、活性薬剤、所望のコンジュゲーションタイプ、反応混合物中における他の材料の存在などに依存する。任意の特定の場合においてコンジュゲーションを達成するのに十分な条件は、本明細書の開示を読み、関連文献を参照することで、及び/又はルーチンの実験を通じて、当業者により決定され得る。
【0159】
例えば、ポリマー試薬がN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル(例えば、スクシンイミジルスクシネート、スクシンイミジルプロピオネート、及びスクシンイミジルブタノエート)を含有し、且つ活性薬剤がアミン基を含有するとき、コンジュゲーションは約7.5〜約9.5のpHで室温で達成することができる。加えて、ポリマー試薬がビニルスルホン反応基又はマレイミド基を含有し、且つ薬理学的に活性な薬剤がスルフヒドリル基を含有するとき、コンジュゲーションは約7〜約8.5のpHで室温で達成することができる。さらに、ポリマー試薬に関連する反応基がアルデヒド又はケトンであり、且つ薬理学的に活性な薬剤が第一級アミンを含有するとき、コンジュゲーションは、薬理学的に活性な薬剤の第一級アミンがポリマーのアルデヒド又はケトンと反応する還元的アミノ化により達成することができる。約6〜約9.5のpHで行うと、還元的アミノ化は最初、薬理学的に活性な薬剤とポリマーとがイミン結合によって連結されているコンジュゲートを生じる。続いてイミン結合を含有するコンジュゲートをNaCNBHなどの好適な還元剤で処理すると、イミンが還元されて第二級アミンとなる。これらの及び他のコンジュゲーション反応に関するさらなる情報については、Hermanson「Bioconjugate Techniques」,Academic Press,1996年が参照される。
【0160】
例示的コンジュゲーション条件には、約4〜約10のpH、例えば、約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、又は10.0のpHでコンジュゲーション反応を実施することが含まれる。この反応は、約5分間〜約72時間、好ましくは約30分間〜約48時間、及びより好ましくは約4時間〜約24時間進められる。コンジュゲーションが起こり得る温度は、必須ではないが、典型的には約0℃〜約40℃の範囲であり、多くの場合には室温以下である。コンジュゲーション反応はリン酸緩衝溶液、酢酸ナトリウム、又は同様の系を使用して実施されることが多い。
【0161】
試薬濃度に関して、典型的には過剰のポリマー試薬が活性薬剤と組み合わされる。しかしながらある場合には、活性薬剤の反応基に対する化学量論量のポリマー試薬上の反応基を有することが好ましい。従って、例えば4つの反応基を有するポリマー試薬の1モルが4モルの活性薬剤と組み合わされる。ポリマー試薬の反応基の活性薬剤に対する例示的な比としては、約1:1(ポリマー試薬の反応基:活性薬剤)、1:0.1、1:0.5、1:1.5、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、又は1:10のモル比が挙げられる。コンジュゲーション反応は、実質的にそれ以上のコンジュゲーションが起こらなくなることを、時間の経過に伴う反応の進行を監視することにより判断し得るまで続行される。
【0162】
反応の進行は、様々な時間点で反応混合物からアリコートを抜き出し、反応混合物をクロマトグラフ法、SDS−PAGE又はMALDI−TOF質量分析法、NMR、IR、又は任意の他の好適な分析的方法で分析することにより監視することができる。形成されるコンジュゲートの量又は残存するコンジュゲートされないポリマー試薬の量に関してプラトーに達すると、反応は完了したと見なされる。典型的には、コンジュゲーション反応は数分間から数時間(例えば5分間から24時間又はそれ以上)の範囲で行われる。得られた生成物混合物は、必須ではないが、好ましくは精製され、過剰な活性薬剤、強塩基、縮合剤並びに反応副産物及び溶媒が分離して除かれる。得られたコンジュゲートは次に、クロマトグラフ法、分光法、MALDI、キャピラリー電気泳動法、及び/又はゲル電気泳動などの分析的方法を用いてさらに特徴付けることができる。ポリマー−活性薬剤コンジュゲートを精製して異なるコンジュゲート種を得る/分離することができる。
【0163】
活性薬剤に関して、アルコキシル化ポリマー材料及びアルコキシル化ポリマー材料から調製されるポリマー試薬を好適なコンジュゲーション条件下で組み合わせてコンジュゲートを得ることができる。この点について、例示的な活性薬剤は、小分子薬物、オリゴペプチド、ペプチド、及びタンパク質からなる群から選択される活性薬剤であり得る。本明細書での使用における活性薬剤としては、限定はされないが、以下を挙げることができる:アドリアマイシン、y−アミノ酪酸(GABA)、アミオダロン、アミトリプチリン、アジスロマイシン、ベンズフェタミン、ブロモフェニラミン(bromopheniramine)、カビノキサミン(cabinoxamine)、カルシトニン、クロラムブシル、クロロプロカイン、クロロキン、クロルフェニラミン、クロルプロマジン、シンナリジン、クラルスロマイシン(clarthromycin)、クロミフェン、シクロベンザプリン、シクロペントラート、シクロホスファミド、ダカルバジン、ダウノマイシン、デメクロサイクリン、ジブカイン、ジサイクロミン、ジエチルプロプリオン(diethylproprion)、ジルチアゼム、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、ドキセピン、ドキシサイクリン、ドキシラミン、ジピリダム(dypyridame)、EDTA、エリスロマイシン、フルラゼパム、ゲンチアナバイオレット、ヒドロキシクロロキン、イミプラミン、インスリン、イリノテカン、レボメタジル、リドカイン、ロクサリン(loxarine)、メクロレタミン、メルファラン、メサドン、メトチメペラジン(methotimeperazine)、メトトレキサート、メトクロプラミド、ミノサイクリン、ナフチフィン、ニカルジピン、ニザチジン、オルフェナドリン、オキシブチン(oxybutin)、オキシテトラサイクリン、フェノキシベンザミン、フェントラミン、プロカインアミド、プロカイン、プロマジン、プロメタジン、プロパラカイン、プロポキシカイン、プロポキシフェン、ラニチジン、タモキシフェン、テルビナフィン、テトラカイン、テトラサイクリン、トラナドール(tranadol)、トリフルプロマジン、トリメプラジン、トリメチルベンズアミド、トリミプラミン、トルルペレンナミン(trlpelennamine)、トロレアンドマイシン、チラミン、ウラシルマスタード、ベラパミル、及びバソプレッシン。
【0164】
さらなる例示的活性薬剤としては、アクラビスチン(acravistine)、アモキサピン、アステミゾール、アトロピン、アジスロマイシン、ベンザプリル(benzapril)、ベンズトロピン、ベペリデン(beperiden)、ブプラカイン(bupracaine)、ブプレノルフィン、ブスピロン、ブトルファノール、カフェイン、カンプトテシン及びカンプトテシンファミリーに属する分子、セフトリアキソン、クロルプロマジン、シプロフロキサシン、クラダラビン(cladarabine)、クレマスチン、クリンダマイシン、クロファザミン(clofazamine)、クロザピン、コカイン、コデイン、シプロヘプタジン、デシプラミン、ジヒドロエルゴタミン、ジフェニドール、ジフェノキシラート、ジピリダモール、ドセタキセル、ドキサプラム、エルゴタミン、ファムシクロビル、フェンタニル、フラボキサート、フルダラビン、フルフェナジン、フルバスチン(fluvastin)、ガンシクロビル、グラニステロン(granisteron)、グアネチジン、ハロペリドール、ホマトロピン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ヒドロキシジン、ヒヨスチアミン、イミプラミン、イトラコナゾール、ケテロラク(keterolac)、ケトコナゾール、レボカルブスチン(levocarbustine)、レボルフォン(levorphone)、リンコマイシン、ロメフロキサシン、ロペラミド、ロサルタン、ロキサピン、マジンドール、メクリジン、メペリジン、メピバカイン、メソリダジン、メトジラジン、メテナミン、メチマゾール、メトトリメペラジン(methotrimeperazine)、メチセルジド、メトロニダゾール、ミノキシジル、マイトマイシンC、モリンドン、モルヒネ、ナフゾドン(nafzodone)、ナルブフィン、ナルジクス酸(naldixic acid)、ナルメフェン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナファゾリン、ネドクロミル、ニコチン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オンダンステロン(ondansteron)、オキシコドン、オキシモルホン、パクリタキセル、ペンタゾシン、ペントキシフィリン、ペルフェナジン、フィゾスチグミン、ピロカルピン、ピモジド、プラモキシン、プラゾシン、プロクロルペラジン、プロマジン、プロメタジン、キニジン、キニーネ、ラウオルフィアアルカロイド、リボフラビン、リファブチン、リスペリドン、ロクロニウム、スコパラミン(scopalamine)、スフェンタニル、タクリン、テラゾシン、テルコナゾール、テルフェナジン、チオルダジン(thiordazine)、チオチキセン、チクロジピン(ticlodipine)、チモロール、トラザミド、トルメチン、トラゾドン、トリエチルペラジン(triethylperazine)、トリフルオプロマジン(trifluopromazine)、トリヘキシルフェニジル(trihexylphenidyl)、トリメプラジン、トリミプラミン、ツボクラリン、ベクロニウム、ビダラビン、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビンからなる群から選択されるものが挙げられる。
【0165】
さらに別の例示的活性薬剤としては、アセタゾラミド、アクラビスチン(acravistine)、アシクロビル、アデノシンリン酸、アロプリナール(allopurinal)、アルプラゾラム、アモキサピン、アムリノン、アプラクロニジン、アザタジン、アズトレオナム、ビサコジル、ブレオマイシン、ブロモフェニラミン(bromopheniramine)、ブスピロン、ブトコナゾール、カンプトテシン及びカンプトテシンファミリー内の分子、カルビノキサミン、セファマンドール、セファゾール(cefazole)、セフィキシム、セフメタゾール、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフォテタン、セフポドキシム、セフトリアキソン、セファピリン、クロロキン、クロルフェニラミン、シメチジン、クラダラビン(cladarabine)、クロトリマゾール、クロキサシリン、ジダノシン、ジピリダモール、ドキサゾシン、ドキシラミン、エコナゾール、エノキサシン、エスタゾラム、エチオナミド、ファムシクロビル、ファモチジン、フルコナゾール、フルダラビン、葉酸、ガンシクロビル、ヒドロキシクロロキン、ヨードキノール、イソニアジド、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ラモトリジン、ランソプラゾール、ロルセタジン(lorcetadine)、ロサルタン、メベンダゾール、メルカプトプリン、メトトレキサート、メトロニダゾール、ミコナゾール、ミダゾラム、ミノキシジル、ナフゾドン(nafzodone)、ナルジクス酸(naldixic acid)、ナイアシン、ニコチン、ニザチジン、オメペラゾール(omeperazole)、オキサプロジン、オキシコナゾール、パパベリン、ペントスタチン、フェナゾピリジン、ピロカルピン、ピロキシカム、プラゾシン、プリマキン、ピラジナミド、ピリメタミン、ピロキシジン、キニジン、キニーネ、リバベリン(ribaverin)、リファンピン、スルファジアジン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファサラジン、スルファソキサゾール(sulfasoxazole)、テラゾシン、チアベンダゾール、チアミン、チオグアニン、チモロール、トラゾドン、トリアムプテレン(triampterene)、トリアゾラム、トリメタジオン、トリメトプリム、トリメトレキサート、トリプレナミン(triplenamine)、トロピカミド、及びビダラビンからなる群から選択されるものが挙げられる。
【0166】
さらに別の例示的活性薬剤としては、カンプトテシン分子ファミリーに属するものが挙げられる。例えば、活性薬剤は一般構造:
【化21】


を有することができ、式中、R、R、R、R及びRは、各々、水素;ハロ;アシル;アルキル(例えばC1〜C6アルキル);置換アルキル;アルコキシ(例えばC1〜C6アルコキシ);置換アルコキシ;アルケニル;アルキニル;シクロアルキル;ヒドロキシル;シアノ;ニトロ;アジド;アミド;ヒドラジン;アミノ;置換アミノ(例えばモノアルキルアミノ及びジアルキルアミノ);ヒドロキシカルボニル;アルコキシカルボニル;アルキルカルボニルオキシ;アルキルカルボニルアミノ;カルバモイルオキシ;アリールスルホニルオキシ;アルキルスルホニルオキシ;−C(R)=N−(O)−R(式中、RはH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、又はアリールであり、iは0又は1であり、及びRはH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、又は複素環である);及びRC(O)O−(式中、Rはハロゲン、アミノ、置換アミノ、複素環、置換複素環、又はR10−O−(CH−(式中、mは1〜10の整数であり、R10はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、複素環、又は置換複素環である)である)からなる群から独立して選択されるか;又はRがRと共に又はRがRと共に置換又は非置換メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、又はエチレンオキシを形成し;RはH又はOR’(式中、R’はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキル、又はヒドロキシアルキルである)である。図示されないが、前掲の構造において20位以外の位置(例えば、10位、又は11位など)に対応するヒドロキシル基を有する類似体が、可能な活性薬剤の範囲内に包含される。
【0167】
例示的な活性薬剤はイリノテカンである。
【化22】

【0168】
別の例示的な活性薬剤は7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン(SN−38)であり、その構造を以下に示す。
【化23】

【0169】
さらに他の例示的な活性薬剤クラスとしては、タキサン分子ファミリーに属するものが挙げられる。この分子クラスの例示的な活性薬剤はドセタキセルであり、ここで2’位のヒドロキシル基のHが、好ましいマルチアーム型ポリマーコンジュゲートの形成に関与する:
【化24】

【0170】
本明細書に記載されるポリマー試薬は、共有結合的に、或いは非共有結合的に、膜、化学的分離及び精製表面、固体支持体、金属表面、例えば金、チタン、タンタル、ニオブ、アルミニウム、鋼、及びそれらの酸化物など、酸化ケイ素、巨大分子(例えば、タンパク質、ポリペプチドなど)、及び小分子を含む数多くの実体に結合させることができる。加えて、ポリマー試薬はまた、生化学センサ、バイオエレクトロニクススイッチ、及びゲートにおいても使用することができる。ポリマー試薬はまた、ペプチド合成、ポリマー被覆表面及びポリマーグラフトの調製、アフィニティー分配用のポリマー−リガンドコンジュゲートの調製、架橋又は非架橋ハイドロゲルの調製、及びバイオリアクター用のポリマー−補因子付加物の調製のための担体としても用いることができる。
【0171】
任意選択により、コンジュゲートは獣医学及び人間医学的用途の医薬組成物として提供することができる。かかる医薬組成物は、コンジュゲートを1つ又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤と、及び任意選択により任意の他の治療成分と組み合わせることにより調製される。
【0172】
例示的な薬学的に許容可能な賦形剤、限定なしに、炭水化物、無機塩類、抗菌剤、抗酸化剤、界面活性剤、緩衝剤、酸、塩基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるもの。
【0173】
糖、誘導体化糖、例えばアルジトール、アルドン酸、エステル化糖など、及び/又は糖ポリマーなどの炭水化物が、賦形剤として存在してもよい。具体的な炭水化物賦形剤としては、例えば:単糖類、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボースなど;二糖類、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;多糖類、例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど;及びアルジトール類、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトールなどが挙げられる。
【0174】
賦形剤にはまた、無機塩又は緩衝剤、例えば、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、及びそれらの組み合わせも含まれ得る。
【0175】
組成物はまた、微生物の増殖を予防又は防止するための抗菌剤も含むことができる。本発明の1つ又は複数の実施形態に好適な抗菌剤の非限定的な例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、チメルソール(thimersol)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0176】
抗酸化剤も同様に組成物中に存在し得る。抗酸化剤を使用すると酸化が防止され、従ってコンジュゲート又は製剤の他の成分の劣化が防止される。本発明の1つ又は複数の実施形態における使用に好適な抗酸化剤としては、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド、メタ重亜硫酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0177】
賦形剤として界面活性剤が存在し得る。例示的な界面活性剤としては、ポリソルベート、例えば「Tween 20」及び「Tween 80」、並びにプルロニクス(pluronics)、例えばF68及びF88(これらは双方ともBASF,Mount Olive,New Jerseyから入手可能);ソルビタンエステル;脂質、例えばリン脂質、例えばレシチン及び他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン(しかしながら好ましくはリポソーム形態ではない)、脂肪酸及び脂肪酸エステル;ステロイド、例えばコレステロール;及びキレート剤、例えば、EDTA、亜鉛及び他のかかる好適な陽イオンが挙げられる。
【0178】
組成物中の賦形剤として酸又は塩基が存在し得る。使用することのできる酸の非限定的な例としては、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酸が挙げられる。好適な塩基の例としては、限定なしに、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フメル酸カリウム(potassium fumerate)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される塩基が挙げられる。
【0179】
組成物中のコンジュゲート(すなわち、活性薬剤とポリマー試薬との間で形成されるコンジュゲート)の量は数多くのアクター(actor)によって異なり得るが、最適には、組成物が単位用量容器(例えばバイアル)に保存されるときに治療上有効な用量であり得る。加えて、医薬製剤はシリンジに収容され得る。治療上有効な用量は、どの量が臨床的に所望のエンドポイントをもたらすかを決定するため漸増量のコンジュゲートを反復投与することにより、実験的に決定することができる。
【0180】
組成物中における任意の個々の賦形剤の量は、賦形剤の活性及び組成物の特定の必要性によって異なり得る。典型的には、任意の個々の賦形剤の最適な量はルーチンの実験を通じて、すなわち、種々の量の賦形剤(低量から高量までの範囲の)を含む組成物を調製し、安定性及び他のパラメータについて調べ、次に著しく有害な作用なしに最適な成績が得られる範囲を決定することにより決定される。
【0181】
しかしながら、概して賦形剤は約1重量%〜約99重量%、好ましくは約5重量%〜約98重量%、より好ましくは約15〜約95重量%の量の賦形剤として組成物中に存在し、30重量%未満の濃度が最も好ましい。
【0182】
これらの前述の医薬賦形剤については、他の賦形剤と共に、「Remington:The Science & Practice of Pharmacy」,第19版,Williams & Williams,(1995年)、「Physician’s Desk Reference」,第52版,Medical Economics,Montvale,NJ(1998年)、及びKibbe,A.H.,「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,第3版,American Pharmaceutical Association,Washington,D.C.,2000年に記載されている。
【0183】
薬学的に許容可能な組成物には、あらゆる種類の製剤及び特に注射に適したもの、例えば、再構成することのできる粉末又は凍結乾燥物並びに液体が包含される。注射前に固体組成物を再構成するのに好適な希釈剤の例としては、注射用静菌水、水中デキストロース5%、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、生理食塩水、滅菌水、脱イオン水、及びそれらの組み合わせが挙げられる。液体医薬組成物に関しては、溶液及び懸濁液が想定される。
【0184】
本発明の1つ又は複数の実施形態の組成物は、必須ではないが、典型的には注射によって投与され、従って概して投与直前に液体の溶液又は懸濁液である。医薬製剤はまた、シロップ、クリーム、軟膏、錠剤、粉末などの他の形態をとることもできる。他の投与方法としてはまた、経肺、直腸内、経皮、経粘膜、経口、髄腔内、皮下、動脈内などが挙げられる。
【0185】
本発明はまた、本明細書に提供されるとおりのコンジュゲートを、コンジュゲートによる治療に応答性を示す病態に罹患している患者に投与する方法も提供する。この方法は、概して注射によって、コンジュゲートの治療有効量(好ましくは医薬組成物の一部として提供される)を患者に投与するステップを含む。先述のとおり、コンジュゲートは静脈注射により非経口的に注入して投与することもできる。非経口投与に好適な製剤タイプとしては、特に、即時注射溶液、使用前に溶媒と組み合わせる乾燥粉末、即時注射用懸濁液、使用前に媒体と組み合わせる乾燥不溶性組成物、並びに投与前に希釈する乳剤及び液体濃縮物が挙げられる。
【0186】
この投与方法を用いて、コンジュゲートの投与により治癒又は予防し得る任意の病態が治療され得る。当業者は、具体的なコンジュゲートがどの病態を有効に治療し得るかを理解する。有利には、コンジュゲートは別の活性薬剤を投与する前に、それと同時に、又はその後に患者に投与され得る。
【0187】
投与される実際の用量は、対象の年齢、体重、及び全般的な状態、並びに治療する病態の重症度、医療従事者の判断、及び投与するコンジュゲートに依存し得る。治療有効量は当業者に公知であり、及び/又は関連する参考テキスト及び文献に記載されている。概して、治療有効量は約0.001mg〜100mgの範囲、好ましくは0.01mg/日〜75mg/日の用量、及びより好ましくは0.10mg/日〜50mg/日の用量であり得る。所与の用量を、例えば症状が軽くなるまで、及び/又は完全に消失するまで、周期的に投与することができる。
【0188】
任意の所与のコンジュゲートの単位投薬量(ここでも好ましくは医薬製剤の一部として提供される)は、臨床医の判断、患者の必要性などに応じて様々な投薬スケジュールで投与することができる。具体的な投薬スケジュールは当業者に公知であり、又はルーチンの方法を用いて実験的に決定することができる。例示的な投薬スケジュールとしては、限定なしに、1日1回、週3回、週2回、週1回、月2回、月1回、及びそれらの任意の組み合わせの投与が挙げられる。臨床エンドポイントが達成されると、組成物の投与は中止される。
【0189】
本明細書に記載される特定のコンジュゲートを投与する一つの利点は、活性薬剤部分の残基と水溶性ポリマーとの間に加水分解で分解可能な連結が含まれるとき、個々の水溶性ポリマー部分が切断され得ることである。かかる結果は、ポリマーサイズに起因して生体からのクリアランスが問題となる可能性がある場合に有利である。最適には、各水溶性ポリマー部分の切断は、アミド、カーボネート又はエステルを含有する連結などの、生理学的に切断可能な及び/又は酵素的に分解可能な連結を使用することによって促進される。このように、コンジュゲートの(個々の水溶性ポリマー部分の切断を介した)クリアランスは、所望のクリアランス特性を提供し得るポリマー分子の大きさ及び官能基タイプを選択することにより調節することができる。当業者は、適切なポリマー分子の大きさ並びに切断可能な官能基を決定することができる。例えば、当業者は、ルーチンの実験を用いて、初めに種々のポリマー重量及び切断可能な官能基を有する様々なポリマー誘導体を調製し、次にポリマー誘導体を患者に投与して定期的に血液及び/又は尿試料の採取を行うことによってクリアランスプロファイルを(例えば、定期的に血液又は尿試料を採取して)得ることにより、適切な分子の大きさ及び切断可能な官能基を決定することができる。試験する各コンジュゲートについての一連のクリアランスプロファイルが得られると、好適なコンジュゲートを特定することができる。
【0190】
ハロゲン化水素塩−活性薬剤「D」に関する考察
本明細書に記載されるハロゲン化水素塩組成物は水溶性ポリマー−活性薬剤コンジュゲート、好ましくはマルチアーム型ポリマー生物活性コンジュゲートを含む。例示的な水溶性ポリマーは上記に記載される。ここで活性薬剤を考えると、活性薬剤は小分子薬物、オリゴペプチド、ペプチド、又はタンパク質である。活性薬剤は、水溶性ポリマーとコンジュゲートされるとき、アミン基などの少なくとも1個の塩基性窒素原子(すなわち、水溶性ポリマーにコンジュゲートされないアミン又は他の塩基性窒素を含有する基)を含む。ハロゲン化水素塩において、塩基性窒素原子はハロゲン化水素塩としてプロトン化された形態であり、すなわちコンジュゲート内の薬物の塩基性窒素原子の少なくとも90モルパーセント、又は少なくとも91モルパーセント、又は少なくとも92モルパーセント、又は少なくとも93モルパーセント、又は少なくとも94モルパーセント、又は少なくとも95モルパーセント、より好ましくは95モルパーセント超がHX形態にプロトン化されている。
【0191】
本明細書に記載されるとおりの混合酸性塩を提供するのに好適な少なくとも1つのアミン基又は塩基性窒素原子を含む活性薬剤としては、限定はされないが、以下が挙げられる:アドリアマイシン、y−アミノ酪酸(GABA)、アミオダロン、アミトリプチリン、アジスロマイシン、ベンズフェタミン、ブロモフェニラミン(bromopheniramine)、カビノキサミン(cabinoxamine)、カルシトニンクロラムブシル、クロロプロカイン、クロロキン、クロルフェニラミン、クロルプロマジン、シンナリジン、クラルスロマイシン(clarthromycin)、クロミフェン、シクロベンザプリン、シクロペントラート、シクロホスファミド、ダカルバジン、ダウノマイシン、デメクロサイクリン、ジブカイン、ジサイクロミン、ジエチルプロプリオン(diethylproprion)、ジルチアゼム、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、ドキセピン、ドキシサイクリン、ドキシラミン、ジピリダム(dypyridame)、EDTA、エリスロマイシン、フルラゼパム、ゲンチアナバイオレット、ヒドロキシクロロキン、イミプラミン、インスリン、イリノテカン、レボメタジル、リドカイン、ロクサリン(loxarine)、メクロレタミン、メルファラン、メサドン、メトチメペラジン(methotimeperazine)、メトトレキサート、メトクロプラミド、ミノサイクリン、ナフチフィン、ニカルジピン、ニザチジン、オルフェナドリン、オキシブチン(oxybutin)、オキシテトラサイクリン、フェノキシベンザミン、フェントラミン、プロカインアミド、プロカイン、プロマジン、プロメタジン、プロパラカイン、プロポキシカイン、プロポキシフェン、ラニチジン、タモキシフェン、テルビナフィン、テトラカイン、テトラサイクリン、トラナドール(tranadol)、トリフルプロマジン、トリメプラジン、トリメチルベンズアミド、トリミプラミン、トルルペレンナミン(trlpelennamine)、トロレアンドマイシン、チラミン、ウラシルマスタード、ベラパミル、及びバソプレッシン。
【0192】
さらなる活性薬剤としては、アクラビスチン(acravistine)、アモキサピン、アステミゾール、アトロピン、アジスロマイシン、ベンザプリル(benzapril)、ベンズトロピン、ベペリデン(beperiden)、ブプラカイン(bupracaine)、ブプレノルフィン、ブスピロン、ブトルファノール、カフェイン、カンプトテシン及びカンプトテシンファミリーに属する分子、セフトリアキソン、クロルプロマジン、シプロフロキサシン、クラダラビン(cladarabine)、クレマスチン、クリンダマイシン、クロファザミン(clofazamine)、クロザピン、コカイン、コデイン、シプロヘプタジン、デシプラミン、ジヒドロエルゴタミン、ジフェニドール、ジフェノキシラート、ジピリダモール、ドキサプラム、エルゴタミン、ファムシクロビル、フェンタニル、フラボキサート、フルダラビン、フルフェナジン、フルバスチン(fluvastin)、ガンシクロビル、グラニステロン(granisteron)、グアネチジン、ハロペリドール、ホマトロピン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ヒドロキシジン、ヒヨスチアミン、イミプラミン、イトラコナゾール、ケテロラク(keterolac)、ケトコナゾール、レボカルブスチン(levocarbustine)、レボルフォン(levorphone)、リンコマイシン、ロメフロキサシン、ロペラミド、ロサルタン、ロキサピン、マジンドール、メクリジン、メペリジン、メピバカイン、メソリダジン、メトジラジン、メテナミン、メチマゾール、メトトリメペラジン(methotrimeperazine)、メチセルジド、メトロニダゾール、ミノキシジル、マイトマイシンC、モリンドン、モルヒネ、ナフゾドン(nafzodone)、ナルブフィン、ナルジクス酸(naldixic acid)、ナルメフェン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナファゾリン、ネドクロミル、ニコチン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オンダンステロン(ondansteron)、オキシコドン、オキシモルホン、ペンタゾシン、ペントキシフィリン、ペルフェナジン、フィゾスチグミン、ピロカルピン、ピモジド、プラモキシン、プラゾシン、プロクロルペラジン、プロマジン、プロメタジン、キニジン、キニーネ、ラウオルフィアアルカロイド、リボフラビン、リファブチン、リスペリドン、ロクロニウム、スコパラミン(scopalamine)、スフェンタニル、タクリン、テラゾシン、テルコナゾール、テルフェナジン、チオルダジン(thiordazine)、チオチキセン、チクロジピン(ticlodipine)、チモロール、トラザミド、トルメチン、トラゾドン、トリエチルペラジン(triethylperazine)、トリフルオプロマジン(trifluopromazine)、トリヘキシルフェニジル(trihexylphenidyl)、トリメプラジン、トリミプラミン、ツボクラリン、ベクロニウム、ビダラビン、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビンなどの1つ又は複数の窒素含有複素環を含むものが挙げられる。
【0193】
さらなる活性薬剤としては、アセタゾラミド、アクラビスチン(acravistine)、アシクロビル、アデノシンリン酸、アロプリナール(allopurinal)、アルプラゾラム、アモキサピン、アムリノン、アプラクロニジン、アザタジン、アズトレオナム、ビサコジル、ブレオマイシン、ブロモフェニラミン(bromopheniramine)、ブスピロン、ブトコナゾール、カンプトテシン及びカンプトテシンファミリー内の分子、カルビノキサミン、セファマンドール、セファゾール(cefazole)、セフィキシム、セフメタゾール、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフォテタン、セフポドキシム、セフトリアキソン、セファピリン、クロロキン、クロルフェニラミン、シメチジン、クラダラビン(cladarabine)、クロトリマゾール、クロキサシリン、ジダノシン、ジピリダモール、ドキサゾシン、ドキシラミン、エコナゾール、エノキサシン、エスタゾラム、エチオナミド、ファムシクロビル、ファモチジン、フルコナゾール、フルダラビン、葉酸、ガンシクロビル、ヒドロキシクロロキン、ヨードキノール、イソニアジド、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ラモトリジン、ランソプラゾール、ロルセタジン(lorcetadine)、ロサルタン、メベンダゾール、メルカプトプリン、メトトレキサート、メトロニダゾール、ミコナゾール、ミダゾラム、ミノキシジル、ナフゾドン(nafzodone)、ナルジクス酸(naldixic acid)、ナイアシン、ニコチン、ニザチジン、オメペラゾール(omeperazole)、オキサプロジン、オキシコナゾール、パパベリン、ペントスタチン、フェナゾピリジン、ピロカルピン、ピロキシカム、プラゾシン、プリマキン、ピラジナミド、ピリメタミン、ピロキシジン、キニジン、キニーネ、リバベリン(ribaverin)、リファンピン、スルファジアジン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファサラジン、スルファソキサゾール(sulfasoxazole)、テラゾシン、チアベンダゾール、チアミン、チオグアニン、チモロール、トラゾドン、トリアムプテレン(triampterene)、トリアゾラム、トリメタジオン、トリメトプリム、トリメトレキサート、トリプレナミン(triplenamine)、トロピカミド、及びビダラビンなどの芳香環窒素を含むものが挙げられる。
【0194】
好ましい活性薬剤はカンプトテシン分子ファミリーに属するものである。例えば、活性薬剤は一般構造:
【化25】


を有することができ、式中、R〜Rは、各々、水素;ハロ;アシル;アルキル(例えば、C1〜C6アルキル);置換アルキル;アルコキシ(例えば、C1〜C6アルコキシ);置換アルコキシ;アルケニル;アルキニル;シクロアルキル;ヒドロキシル;シアノ;ニトロ;アジド;アミド;ヒドラジン;アミノ;置換アミノ(例えば、モノアルキルアミノ及びジアルキルアミノ);ヒドロキシカルボニル;アルコキシカルボニル;アルキルカルボニルオキシ;アルキルカルボニルアミノ;カルバモイルオキシ;アリールスルホニルオキシ;アルキルスルホニルオキシ;−C(R)=N−(O)−R(式中、RはH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、又はアリールであり、iは0又は1であり、及びRはH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、又は複素環である);及びRC(O)O−(式中、Rはハロゲン、アミノ、置換アミノ、複素環、置換複素環であるか、又はR10−O−(CH−(式中、mは1〜10の整数であり、及びR10はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、複素環、又は置換複素環である)である)からなる群から独立して選択され;又はRはRと共に又はRはRと共に置換又は非置換メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、又はエチレンオキシを形成し;RはH又はOR’(式中、R’はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキル、又はヒドロキシアルキルである)である。
【0195】
前述の構造に関連して、図示されないが、20位以外の位置(例えば、10位、又は11位等)にヒドロキシル基を有する類似体が同様に好ましい。
【0196】
詳細な一実施形態において、活性薬剤はイリノテカンである(この直後に示す構造)。
【化26】

【0197】
別の実施形態において、活性薬剤は、20−ヒドロキシル位にグリシンリンカーを有するイリノテカンである(この直後に示す構造)。
【化27】

【0198】
さらに別の詳細な実施形態において、活性薬剤は、イリノテカンの代謝産物である7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン(SN−38)であり、その構造を以下に示す。
【化28】


前述の実施形態において、活性薬剤SN−38のマルチアーム型ポリマーコアとの共有結合は、以下に示すとおり同様に20−ヒドロキシル位で、任意選択によりグリシンなどの介在リンカーを介して起こる。
【化29】

【0199】
ハロゲン化水素塩−コンジュゲートに関する考察
水溶性ポリマーと活性薬剤との例示的なコンジュゲートは、上記に記載したとおりの数多くの構造特徴のいずれかを有し得る。すなわち、コンジュゲートは直鎖状構造を有してもよく、すなわち典型的には一方又は双方のポリマー末端でそれに共有結合するそれぞれ1つ又は2つの活性薬剤分子を有してもよい。或いは、コンジュゲートはフォーク型、分枝状又はマルチアーム型構造を有してもよい。好ましくは、コンジュゲートはマルチアーム型ポリマーコンジュゲートである。
【0200】
一つの例示的なマルチアーム型ポリマーコンジュゲート構造は以下に対応する:
【化30】

【0201】
前掲の構造は、簡略な形で「4アーム−PEG−Gly−Irino」(4アーム−ペンタエリスリトリル−PEG−カルボキシメチルグリシンイリノテカン)と称される;より完全な名称は、「ペンタエリスリトリル−4アーム−(PEG−1−メチレン−2−オキソ−ビニルアミノアセテート連結型イリノテカン)」に対応する。コンジュゲートの活性薬剤部分における塩基性アミノ基及び/又は窒素基は、コンジュゲートが本明細書に詳細に記載されるとおりのハロゲン化水素塩(HX)の特徴を有するという理解のもと、上記では中性型のみ示される。上記の構造から分かるとおり、カルボキシメチル修飾4アームペンタエリスリトリルPEG試薬は、ポリマー部分と活性薬剤イリノテカンとの間に介在するグリシンリンカーを有する。
【0202】
必須ではないが、典型的にはポリマーアームの本数は、水溶性ポリマーコアに共有結合する活性薬剤分子の数に対応し得る。すなわち、ある特定の数の(例えば、変数「q」に対応する)ポリマーアームであって、各々がその末端に反応性官能基(例えば、カルボキシ、スクシンイミジルエステルなどの活性化エステル、ベンゾトリアゾリルカーボネートなど)を有するポリマーアームを有するポリマー試薬の場合、対応するコンジュゲートにおいてそれと共有結合し得る最適化された数の活性薬剤(イリノテカンなど)は、最も望ましくは「q」である。すなわち、最適化されたコンジュゲートは1.00(q)(又は100%)の薬物負荷値を有すると考えられる。好ましい実施形態において、マルチアーム型ポリマーコンジュゲートは0.90(q)(又は90%)以上の薬物負荷度によって特徴付けられる。好ましい薬物負荷は以下の1つ又は複数を満足する:0.92(q)以上;0.93(q)以上;0.94(q)以上;0.95(q)以上;0.96(q)以上;0.97(q)以上;0.98(q)以上;及び0.99(q)以上。最も好ましくは、マルチアーム型ポリマーコンジュゲートの薬物負荷は100パーセントである。マルチアーム水溶性ポリマーコンジュゲートハロゲン化水素塩を含む組成物は、ポリマーコアに結合する1個の活性薬剤を有する分子コンジュゲート、ポリマーコアに結合する2個の活性薬剤分子を有する分子コンジュゲート、ポリマーコアに結合する3個の活性薬剤を有する分子コンジュゲート等、ポリマーコアに結合する最大「q」個まで(qを含む)の活性薬剤を有するコンジュゲートの混合物を含み得る。得られる組成物は、組成物中に含まれるコンジュゲート種に関して平均化した総薬物負荷値を有し得る。理想的には、組成物は薬物の大部分、例えば50%超、しかしより好ましくは60%超、さらにより好ましくは70%超、なおさらにより好ましくは80%超、及び最も好ましくは90%超)が完全に負荷されたポリマーコンジュゲートを含み得る(すなわち各アームにつき単一の活性薬剤分子として「q」本のアームに「q」個の活性薬剤分子を有する)。
【0203】
例示として、マルチアーム型ポリマーコンジュゲートが4本のポリマーアームを含む場合、マルチアーム型ポリマー当たりの共有結合する薬物分子の数の理想値は4であり、及び−かかるコンジュゲートの組成物との関連における平均値の記載に関して−マルチアーム型ポリマーに負荷される薬物分子の値(すなわち、百分率)は理想値の約90%〜約100%の範囲であり得る。すなわち、所与の4アーム型ポリマー(4アーム型ポリマー組成物の一部としての)に共有結合する薬物分子の平均数は、典型的には完全に負荷した値の90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、及び100%である。これは、約3.60〜4.0の範囲のマルチアームポリマーコンジュゲート当たりのDの平均数に対応する。
【0204】
さらに別の実施形態では、マルチアーム型ポリマーコンジュゲート組成物について、例えば、ポリマーアームの数が約3〜約8の範囲である場合、組成物中に存在する種の大部分(例えば50%超、しかしより好ましくは60%超、さらにより好ましくは70%超、なおさらにより好ましくは80%超、及び最も好ましくは90%超)は、ポリマーコアに結合する薬物分子の理想的な数(「q」)を有するものであるか、或いはポリマーコアに結合する(「q」)個の薬物分子と(「q−1」)個の薬物分子との組み合わせを有するものである。
【0205】
前述において、ハロゲン化水素塩(及びそれを含む組成物)は、完全に薬物負荷された構造(例えば、4本のポリマーアームの各々に共有結合したグリシン修飾イリノテカン分子を有する)に加え、以下の構造の任意の1つ又は複数を含み得る:
【化31】


【化32】


【化33】


カルボン酸を有する(従って活性薬剤、例えばイリノテカンに共有結合しない)上記に示される所与のポリマーアーム末端について、4アーム−PEG−CM(「CM」=−CHC(O)−)アームから延在する他の可能な末端としては、OH、−OCH
【化34】


、−NH−CH−C(O)−OH、NH−CH−C(O)−OCH
【化35】


が挙げられる。
【0206】
例えば、本明細書には、複数の4アーム型ペンタエリスリトリル−テトラポリエチレングリコール−カルボキシメチルコンジュゲートを含む組成物が提供され、ここで組成物中のコンジュゲートの少なくとも90%は、(i)式:
C−[CH−O−(CHCHO)−CH−C(O)−TERM]
により包含される構造を有し、式中nは、いずれの場合も、20〜約500、又は40〜約500の値を有する整数であり、及びTERMは、いずれの場合も、−OH、−OCH
【化36】


、−NH−CH−C(O)−OH、−NH−CH−C(O)−OCH
【化37】


及び−NH−CH−C(O)−O−Irino(「GLY−Irino」)(式中、Irinoはイリノテカンの残基である)からなる群から選択され;及び
(ii)組成物中の4アームコンジュゲートの少なくとも90%における各Termについて、その少なくとも90%が−NH−CH−C(O)−O−Irinoであり、及び(iii)組成物中の−NH−CH−C(O)−O−イリノテカン部分の少なくとも90%のうち、イリノテカンの塩基性窒素原子の少なくとも90モルパーセントが塩化水素塩などのハロゲン化水素形態にプロトン化されている。好ましくは、組成物中の−NH−CH−C(O)−O−イリノテカン部分の少なくとも90%のうち、イリノテカンの塩基性窒素原子の少なくとも91モルパーセント、又は少なくとも92モルパーセント、又は少なくとも93モルパーセント、又は少なくとも94モルパーセント又は少なくとも95モルパーセント又は95モルパーセント超がハロゲン化水素形態にプロトン化されており、ここでハロゲン化水素含有量はイオンクロマトグラフィーにより決定することができる。
【0207】
本明細書に提供されるマルチアームポリマーコンジュゲート組成物は、かかる組成物に含まれるコンジュゲートのあらゆる立体異性体形態を包含することが意図される。コンジュゲートの詳細な実施形態において、イリノテカンのC−20における立体化学は、4アーム−PEG−Gly−Irinoの組成物のようにコンジュゲート形態にあるときインタクトなままであり、すなわちC−20は、そのコンジュゲート形態にあるとき、その(S)配置を維持する。例えば実施例4を参照のこと。
【0208】
好ましいマルチアーム型構造は、各アームのポリマー部分と活性薬剤との間に介在するグリシンリンカー(上記に示されるポリマー部分及びリンカー)を有するカルボキシメチル修飾された4アームのペンタエリスリトリルPEGであり、ここで活性薬剤は7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシンである。ここでも、本明細書には、マルチアームポリマーが(i)完全に負荷されているとともに、(ii)それに共有結合した3個の7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン分子と、(iii)それに共有結合した2個の7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン分子と、(iv)4アームポリマーコアに共有結合した1個の7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン分子とを有する実施形態が含まれる。典型的な薬物負荷は先述のとおりである。
【0209】
さらに別の代表的なマルチアーム型コンジュゲート構造は、ポリマーコアに共有結合した7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン(SN−38)分子を有するカルボキシメチル修飾された4アームのグリセロールダイマー(3,3’−オキシジプロパン−1,2−ジオール)PEGである。マルチアーム型ポリマーコアに薬物が完全に負荷されている(すなわち、それに共有結合した4個の7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン分子を有する)か、又は不完全に負荷されている(すなわち、それに共有結合した1個、2個、又は3個の7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン分子を有する)実施形態が、本明細書に含まれる。各ポリマーアームに共有結合した薬物(すなわち、7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン)を有するコンジュゲートを以下に示す。
【化38】

【0210】
さらに別の例示的な実施形態において、コンジュゲートは、ポリマーコアに共有結合したイリノテカン分子を有するカルボキシメチル修飾された4アームのグリセロールダイマー(3,3’−オキシジプロパン−1,2−ジオール)PEGを含むマルチアーム型構造である。マルチアーム型ポリマーコアに薬物が完全に負荷されている(すなわち、それに共有結合した4個のイリノテカン分子を有する)か、又は不完全に負荷されている(すなわち、それに共有結合した1個、2個、又は3個のイリノテカン分子を有する)実施形態が、本明細書に含まれる。
【0211】
ハロゲン化水素塩のパラメータ
本組成物はハロゲン化水素塩、典型的には塩化水素塩である。すなわち、上記に記載したものなどのコンジュゲートは、組成物中に、コンジュゲートにある(並びにバルク組成物にある)の塩基性窒素原子の少なくとも90%がプロトン化形態で(すなわち、ハロゲン化水素塩として)存在するように提供される。ハロゲン化水素塩組成物は、安定して再現性のある形で調製される。
【0212】
本明細書に提供されるとおりのハロゲン化水素塩は、そのバルク特性又はマクロ特性の点で特徴付けられる。すなわちコンジュゲート中の塩基性窒素原子(すなわち、アミノ基)がほぼ完全にプロトン化された形態で存在する。本組成物はバルク特性に基づき特徴付けられるが、バルク組成物中には典型的には種々の個別の分子種が含まれる。実施例6に記載される例示的な4アームポリマーコンジュゲートである4アーム−PEG−Gly−Irino−20K塩化水素を見ると、この塩生成物は多くの個別の分子種のうちのいずれかを含み、しかしながら全体の少なくとも90%がハロゲン化水素塩としてプロトン化されている。ある分子種は、各ポリマーアームが、中性形態の、すなわちそのアミノ基がプロトン化されていないイリノテカン分子を含むものである。以下の構造Iを参照のこと。別の分子種は、各ポリマーアームがプロトン化形態のイリノテカン分子を含むものである。以下の構造IVを参照のこと。さらなる分子種は、ポリマーアームのうちの3本がプロトン化形態のイリノテカン分子を含み、1本のポリマーアームが中性形態のイリノテカン分子を含むものである(構造III)。別の分子種では、4本のポリマーアームのうちの2本が中性形態の(すなわち、そのアミノ基がプロトン化されていない)イリノテカン分子を含み、4本のポリマーアームのうちの2本がプロトン化形態のイリノテカン分子を含む(構造II)。
【化39】

【0213】
実施例1に示されるとおり、特定のポリマープロドラッグコンジュゲートは、塩酸とトリフルオロ酢酸との双方の混合酸性塩として得ることができる。実施例1では、酸性塩形態の活性薬剤分子を使用することにより結果としてのポリマーコンジュゲートを形成して塩酸が導入される一方、トリフルオロ酢酸は脱保護ステップで反応混合物に導入される。活性薬剤(又は実施例1に示されるとおりの修飾された活性薬剤)を水溶性ポリマー試薬と共有結合させ、塩基で処理すると、さらなる精製ステップが実施される場合であっても、得られるコンジュゲートは部分的な混合酸性塩として得られる。
【0214】
混合酸性塩コンジュゲートは、概して定義された比率及び範囲の各成分(すなわち、遊離塩基、無機酸塩、有機酸塩)を含有する。加水分解に対する安定性の増加と最終的なコンジュゲート生成物中の塩のモル百分率の増加との間には正の相関が認められた。グラフの傾きに基づけば、遊離塩基の含有量が増加するに伴い生成物の安定性が低下すると判断することができる。
【0215】
図2は、高い割合のプロトン化アミン基(すなわち酸性塩)を有するコンジュゲートほど加水分分解に対する安定性(又は抵抗性)がより大きいことをさらに示す。例えば、14モルパーセント以上の遊離塩基を含むコンジュゲート生成物は、対応する酸性塩リッチの生成物と比べて加水分解に対する安定性が著しく低いことが観察された。
【0216】
加えて、図3に示されるとおり、測定可能量の遊離塩基を含む混合塩形態と比べると、塩化水素塩リッチの生成物は加速ストレス条件下でポリ(エチレングリコール)骨格の切断をやや受け易いように思われるが、最終組成物における緩衝化がこの特徴又は傾向を改善するのに有効であり得る。
【0217】
これらの結果をまとめると、遊離塩基単独に対するポリ(エチレングリコール)−活性薬剤コンジュゲート(4アーム−PEG−Gly−Irino−20K)のハロゲン化水素塩の予期せぬ利点が示される。
【0218】
ハロゲン化水素塩−形成方法
混合酸性塩を形成し、特徴付けたところで、実施例6に詳細に提供されるとおり、完全なハロゲン化水素塩、すなわちイリノテカンの塩基性窒素原子の少なくとも90%がハロゲン化水素塩形態にプロトン化されているものを合成する方法を考案した。水溶性ポリマーコンジュゲートの酸性塩は、化学合成の技術分野で公知の事項と併せて本明細書に提供される指針をふまえることで、市販の出発物質から調製することができる。
【0219】
直鎖状、分枝状、及びマルチアームの水溶性ポリマー試薬は、上記に記載したとおりの数多くの商業的供給元から入手可能である。或いは、マルチアーム型反応性PEGポリマーなどのPEG試薬を、本明細書に記載されるとおり合成的に調製してもよい。例えば、本明細書の実施例7を参照のこと。
【0220】
酸性塩は、活性化PEGなどの活性化ポリマーを生物学的に活性な薬剤と共有結合させる公知の化学的カップリング技術を用いて形成することができる(例えば、「POLY(ETHYLENE GLYCOL)CHEMISTRY AND BIOLOGICAL APPLICATIONS」,American Chemical Society,Washington,DC(1997年);並びに米国特許出願公開第2009/0074704号明細書及び同第2006/0239960号明細書を参照のこと)。本発明における混合酸性塩を実現するための好適な官能基、リンカー、保護基などの選択は、一部には活性薬剤上及びポリマー出発物質上の官能基に依存し、本開示の内容に基づけば当業者には明らかであろう。酸性塩の特定の特徴にかんがみて、本方法は、無機酸付加塩の形態のアミン(又は他の塩基性窒素)を含有する活性薬剤の提供、及び無機酸処理ステップを含む。合成方法との関連で「活性薬剤」に言及するとき、それは、水溶性ポリマーとの結合を促進するため共有結合したリンカーを有するように任意選択により修飾された活性薬剤を包含することが意図される。
【0221】
概して、この方法は、(i)保護された形態のアミン(又は他の塩基性窒素)を含有する活性薬剤(例えば、保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素)の無機酸塩(ハロゲン化水素酸塩)を、モル過剰のハロゲン化水素酸で処理し、それにより保護基を除去することにより脱保護して、グリシン−イリノテカンハロゲン化水素などの脱保護された酸性塩を形成するステップと、(ii)ステップ(i)の脱保護した無機酸塩を、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−スクシンイミドなどの水溶性ポリマー試薬(又は化学的に等価な活性化エステルなど)と塩基の存在下でカップリングして、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩(ペンタエリスリトリル−4アーム−(PEG−1−メチレン−2−オキソ−ビニルアミノアセテート連結型イリノテカンハロゲン化水素塩とも称される)などのポリマー−活性薬剤コンジュゲートを形成するステップと、(iii)ポリマー−活性薬剤コンジュゲートである4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を沈殿により回収するステップとを含む。
【0222】
得られるポリマー−活性薬剤コンジュゲート組成物、コンジュゲートの活性薬剤の塩基性アミノ基、例えばイリノテカンの塩基性アミノ基の少なくとも90%モルパーセントがハロゲン化水素塩形態にプロトン化されていることにより特徴付けられる。概して、生成物中におけるハロゲン化水素基のモル百分率はイオンクロマトグラフィーにより決定される。
【0223】
ここで好ましい活性薬剤クラスの一つであるカンプトテシンを見ると、カンプトテシンファミリー内の化合物の20−ヒドロキシル基は立体障害性であるため、高収率を達成するには一段階コンジュゲーション反応では困難である。結果として、好ましい方法は、生物活性出発物質、例えばイリノテカン塩化水素の20−ヒドロキシル基を、水溶性ポリマーとの反応に好適な官能基を含む短鎖リンカー又はスペーサー部分と反応させることである。かかる手法は、多くの小分子、特に入ってくる反応性ポリマーがアクセス不可能な共有結合部位を有するものに適用することが可能である。ヒドロキシル基と反応してエステル連結を形成するのに好ましいリンカーとしては、t−BOC−グリシン又は保護アミノ基と利用可能なカルボン酸基とを有するアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、及びバリンなどの他のアミノ酸が挙げられる(Zalipskyら,「Attachment of Drugs to Polyethylene Glycols」,Eur.Polym.J.,第19巻,第12号,1177〜1183頁(1983年)を参照のこと)。利用可能なカルボン酸基又はヒドロキシル基と反応性の他の官能基を有し、且つ保護アミノ基を有する他のスペーサー又はリンカー部分もまた、上記に記載されるアミノ酸の代わりに使用することができる。
【0224】
例えばグリシンアミノ基を保護するための、典型的な不安定保護基としては、t−BOC及びFMOC(9−フロウレニルメトルオキシカルボニル(flourenylmethloxycarbonyl))が挙げられる。t−BOCは室温で安定であり、トリフルオロ酢酸及びジクロロメタンの希釈溶液で容易に除去される。t−BOCはまた、酸、例えば無機のハロゲン化水素酸で処理することにより除去することもできる。FMOCは塩基性の不安定保護基であり、アミンの濃縮溶液(通常N−メチルピロリドン中20〜55%ピペリジン)により容易に除去される。
【0225】
4アーム−PEG20K−イリノテカン塩化水素の調製に関する実施例6では、N−保護グリシンのカルボキシル基をイリノテカン塩化水素(又は他の好適なカンプトテシン、例えば7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン、又は任意の他の活性薬剤)の20−ヒドロキシル基と、カップリング剤(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC))及び塩基性触媒(例えば、ジメチルアミノピリジン(DMAP)又は他の好適な塩基)の存在下で反応させて、N−保護リンカーで修飾された活性薬剤、例えばt−Boc−グリシン−イリノテカン塩化水素を提供する。塩化水素が例示されるが、他の無機酸塩が使用されてもよい。好ましくは、各反応ステップは不活性乾燥雰囲気下で実施される。
【0226】
続くステップでは、アミノ保護基のt−BOC(N−tert−ブトキシカルボニル)を、塩酸(又は別のハロゲン化水素酸)によって好適な反応条件下で処理することにより除去する。これは、実施例1にあるとおりt−BOCがトリフルオロ酢酸による処理で除去される混合酸性塩の調製とは異なる。得られる脱保護された中間体はリンカー修飾された活性薬剤、例えば20−グリシン−イリノテカンヒドロクロリデル(hydrochloridel)である。例示的な反応条件が実施例6に記載され、当業者によってルーチンの最適化によりさらに最適化されてもよい。概してモル過剰の酸を使用して保護基が除去される。好ましくは、保護されたグリシン−イリノテカンは、10倍以上モル過剰のハロゲン化水素酸で処理することによって保護基が除去される。ある場合には、10倍〜25倍のモル過剰を用いてもよい。得られる脱保護された薬物塩は、典型的には反応混合物から例えば沈殿により回収される。例として、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)の添加を用いて中間体を沈殿させてもよい。次に中間生成物を例えばろ過によって分離し、乾燥させる。
【0227】
脱保護された活性薬剤(任意選択によりリンカー修飾されている)、例えば20−グリシン−イリノテカンHClは、次に塩基(例えば、DMAP、トリメチルアミン、トリエチルアミン等)の存在下で所望のポリマー試薬、例えば4アームペンタエリスリトリル−PEG−スクシンイミド(又は任意の他の同様に活性化されたエステルカウンターパート、その性質については既述である)とカップリングされ、所望のコンジュゲートが形成される。コンジュゲーションステップは過剰塩基の存在下、例えば約1.1〜約3.0倍モル過剰で実施され得る。カップリング反応の反応収率は典型的には高く、約90%超である。
【0228】
酸性塩コンジュゲートは、例えばエーテル(例えば、メチルtert−ブチルエーテル、ジエチルエーテル)又は他の好適な溶媒での沈殿により回収される。十分なハロゲン化水素塩(すなわち、少なくとも90モルパーセントのハロゲン化水素塩)が形成されたことを確実にするため、粗生成物を例えばイオンクロマトグラフィーにより分析し、ハロゲン化物含有量を測定する。ハロゲン化水素含有量が所望量未満、例えば90モルパーセント未満、又は91、92、93、94、若しくは95モルパーセント未満である場合、次にコンジュゲート酸性塩を酢酸エチルなどの好適な溶媒に溶解し、さらなるハロゲン化水素酸で処理する。次に上記に記載したとおり生成物を回収する。
【0229】
酸性塩生成物は任意の好適な方法によってさらに精製し得る。精製及び分離方法には、沈殿と、それに続くろ過及び乾燥、並びにクロマトグラフィーが含まれる。好適なクロマトグラフ法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及びBiotage Flashクロマトグラフィーが挙げられる。別の精製方法は再結晶化である。例えば、部分酸性塩を好適な単一溶媒系又は混合溶媒系(例えば、イソプロパノール/メタノール)に溶解し、次に結晶化させる。再結晶は複数回実施してもよく、結晶はまた、不溶性であるか、又は僅かにのみ可溶性である好適な溶媒(例えば、メチルtert−ブチルエーテル又はメチル−tert−ブチルエーテル/メタノール)で洗浄してもよい。精製した生成物は、任意選択によりさらに空気乾燥又は真空乾燥させてもよい。
【0230】
好ましくは、酸性塩生成物は、酸素、水分、及び光の任意の1つ又は複数への曝露から生成物を保護するのに好適な条件下に保存される。数多くの保存条件又は包装プロトコルのうちのいずれかを用いて保存中の酸性塩生成物を好適に保護することができる。一実施形態において、生成物は不活性雰囲気下(例えば、アルゴン又は窒素下)で1つ又は複数のポリエチレン袋に入れ、アルミニウムで裏装されたポリエステル製のヒートシール可能な袋に入れることにより包装される。
【0231】
塩酸塩の代表的なモルパーセントを実施例6に提供する。そこに記載するとおり、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカン塩化水素塩は、完全な塩化水素塩として、すなわちほぼ99モルパーセントの塩化物を含有して調製される。
【0232】
ハロゲン化水素塩−ハロゲン化水素塩コンジュゲートを含有する医薬組成物
酸性塩は獣医学用途或いは人間医学用途の医薬製剤又は組成物の形態であり得る。例示的な製剤は、典型的には酸性塩を1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体との、及び任意選択により任意の他の治療成分、安定剤などとの組み合わせで含み得る。1つ又は複数の担体は、他の製剤成分と適合性があり、且つ被投与者/患者に過度に有害でないという意味で薬学的に許容可能なものでなければならない。ハロゲン化水素酸塩は、任意選択によりバルク形態又は単位用量形態で、生成物を水分及び酸素に対する曝露から保護する包装を含む容器又は入れ物に収容される。
【0233】
医薬組成物は、ポリマー賦形剤/添加剤又は担体、例えば、ポリビニルピロリドン、誘導体化セルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、Ficoll(ポリマー糖)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、デキストレート(例えば、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン及びスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン)、ポリエチレングリコール、及びペクチンを含み得る。組成物は、希釈剤、緩衝液、結合剤、崩壊剤、増粘剤、潤滑剤、防腐剤(抗酸化剤を含む)、香味剤、味マスキング剤、無機塩類(例えば、塩化ナトリウム)、抗菌剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)、甘味料、帯電防止剤、界面活性剤(例えば、「TWEEN 20」及び「TWEEN 80」などのポリソルベート、並びにF68及びF88などのプルロニック(pluronic)、BASFから入手可能)、ソルビタンエステル、脂質(例えば、レシチンなどのリン脂質及び他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、脂肪酸及び脂肪酸エステル、ステロイド(例えば、コレステロール))、及びキレート剤(例えば、EDTA、亜鉛及び他のかかる好適な陽イオン)をさらに含み得る。本発明に係る組成物における使用に好適な他の医薬賦形剤及び/又は添加剤は、「Remington:The Science & Practice of Pharmacy」,第19版,Williams & Williams,(1995年)、及び「Physician’s Desk Reference」,第52版,Medical Economics,Montvale,NJ(1998年)、及び「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,第3版,Ed.A.H.Kibbe編,Pharmaceutical Press,2000年に掲載されている。
【0234】
酸性塩は、経口、直腸内、局所、経鼻、眼内、又は非経口(腹腔内、静脈内、皮下、又は筋肉内注射を含む)投与に好適な組成物に製剤化され得る。酸性塩組成物は、好都合には単位剤形で提供されてもよく、薬剤学分野において公知の方法のいずれかによって調製されてもよい。いずれの方法も、酸性塩を、1つ又は複数の副成分を構成する担体と会合させるステップを含む。
【0235】
詳細な一実施形態において、酸性塩、例えば4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kハロゲン化水素は、注射によって使用される滅菌使い捨てバイアル内に凍結乾燥形態で提供される。一実施形態において、使い捨てバイアルに収容されるコンジュゲート生成物の量は、100mg用量のイリノテカン当量である。より詳細には、凍結乾燥組成物は4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kハロゲン化水素塩をpH3.5の乳酸緩衝液と組み合わせて含む。すなわち、凍結乾燥組成物は4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kハロゲン化水素を例えば100mg用量のイリノテカン当量で、約90mgの乳酸と組み合わせることにより調製され、溶液のpHは酸又は塩基のいずれかを添加することにより3.5に調整される。得られた溶液は、次に無菌条件下で凍結乾燥され、得られた粉末は使用まで−20℃で保存される。静脈内注入前、凍結乾燥組成物はデキストロース溶液、例えば5%(w/w)デキストロース溶液と組み合わされる。
【0236】
製剤中における酸性塩(すなわち活性薬剤)の量は、用いられる具体的な活性薬剤、その活性、コンジュゲートの分子量、並びに他の要因、例えば剤形、標的患者集団、及び他の条件によって異なり得るとともに、概して当業者により容易に決定され得る。製剤中におけるコンジュゲートの量は、化合物、例えばイリノテカン又はSN−38などのアルカロイド抗癌剤の治療有効量を、それを必要とする患者に送達することで、例えば癌を治療するための、化合物に関連する治療効果の少なくとも1つを実現するために必要な量であり得る。実際にはこれは、特定のコンジュゲート、その活性、治療する病態の重症度、患者集団、製剤の安定性などによって幅広く異なり得る。組成物は概して約1重量%〜約99重量%のコンジュゲート、典型的には約2重量%〜約95重量%のコンジュゲート、及びより典型的には約5重量%〜85重量%のコンジュゲートの範囲で含有し得るとともに、組成物中に含まれる賦形剤/添加剤の相対量にも依存し得る。より具体的には、組成物は典型的には以下の割合の少なくとも約1つのコンジュゲートを含有し得る:2重量%、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、又はそれ以上。
【0237】
経口投与に好適な組成物は、各々が所定量のコンジュゲートを粉末又は顆粒として含むカプセル、カシェ剤、錠剤、ロゼンジなどの個別の単位として;又は水性液体若しくは非水性液体などの懸濁液、例えばシロップ、エリキシル剤、乳剤、ドラフト剤などとして提供されてもよい。
【0238】
非経口投与に好適な製剤は、好都合にはプロドラッグコンジュゲートの無菌水性調製物を含み、これは被投与者の血液と等張となるよう製剤化することができる。
【0239】
鼻腔内スプレー製剤は、防腐剤及び等張剤を含むマルチアーム型ポリマーコンジュゲートの精製水溶液を含む。かかる製剤は、好ましくは鼻粘膜と同等のpH及び等張状態に調整される。
【0240】
直腸内投与用製剤は、カカオ脂、又は水素化脂肪若しくは水素化脂肪カルボン酸などの好適な担体を含む坐薬として提供され得る。
【0241】
眼用製剤は、pH及び等張性因子が好ましくは眼に一致するように調整される点を除いては、鼻腔内スプレーと同様の方法により調製される。
【0242】
局所製剤は、鉱油、石油、ポリヒドロキシアルコール又は局所製剤に使用される他の基剤などの1つ又は複数の媒体中に溶解又は懸濁されたマルチアーム型ポリマーコンジュゲートを含む。上述のとおり他の副成分の添加が望ましいこともあり得る。
【0243】
エアロゾルとして、例えば吸入による投与に好適な医薬製剤もまた提供される。これらの製剤は、所望のマルチアーム型ポリマーコンジュゲート又はその塩の溶液又は懸濁液を含む。所望の製剤は小さいチャンバに入れられ、噴霧され得る。噴霧は、圧縮空気によるか、又は超音波エネルギーによってコンジュゲート又はその塩を含む複数の液滴又は固形粒子を形成することにより達成され得る。
【0244】
ハロゲン化水素塩−ハロゲン化水素塩コンジュゲートの使用方法
本明細書に記載される酸性塩は、任意の動物、特にヒトを含めた哺乳動物における、未修飾の活性薬剤に応答性を示す任意の病態の治療又は予防に使用することができる。一つの代表的な酸性塩である4アーム−ペンタエリスリトリル−PEG−グリシン−イリノテカン塩化水素は、抗癌剤のイリノテカンを含むもので、様々な型の癌の治療において特に有用である。
【0245】
酸性塩コンジュゲート、特に小分子薬物が本明細書に記載されるとおりのカンプトテシン化合物(例えば、イリノテカン又は7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシン)又は他の腫瘍崩壊薬などの抗癌剤であるものは、乳癌、卵巣癌、結腸癌、胃癌、悪性黒色腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、甲状腺癌、腎癌、胆管癌、脳癌、子宮頸癌、上顎洞癌、膀胱癌、食道癌、ホジキン病、副腎皮質癌などの固形型腫瘍の治療において有用である。酸性塩により治療可能なさらなる癌としては、リンパ腫、白血病、横紋筋肉腫、神経芽細胞腫などが挙げられる。前述のとおり、本コンジュゲートは固形腫瘍におけるターゲッティング及び蓄積において特に有効である。コンジュゲートはまた、HIV及び他のウイルスの治療においても有用である。
【0246】
4アーム−ペンタエリスリトリル−PEG−グリシン−イリノテカンなどの代表的なコンジュゲートはまた、1つ又は複数の抗癌剤による治療に不応性を示す癌を有する患者の治療に使用するとき特に有利であることも示されている。
【0247】
治療方法は、それを必要とする哺乳動物に、本明細書に記載されるとおりの酸性塩組成物又は製剤の治療有効量を投与することを含む。
【0248】
さらなる方法は、本明細書に記載されるとおりの酸性塩組成物を投与することによる、(i)アントラサイクリン及び/又はタキサンベースの療法に耐性を示す転移性乳癌、(ii)白金耐性卵巣癌、(iii)転移性子宮頸癌、及び(iv)K−Ras遺伝子が変異した状態の患者における結腸直腸癌の治療を含む。
【0249】
転移性乳癌の治療では、本明細書に提供されるとおりの4アーム−ペンタエリスリトリル−PEG−グリシン−イリノテカンなどのコンジュゲートの酸性塩が、局所進行性・転移性乳癌患者に治療有効量で投与され、ここで患者はアントラサイクリン及び/又はタキサンベースの化学療法薬による前治療(不奏効)を2つより多くは受けていない。
【0250】
白金耐性卵巣癌の治療には、本明細書に提供されるとおりの組成物が局所進行性又は転移性卵巣癌患者に治療有効量で投与され、ここで患者は白金ベースの療法において腫瘍進行を示したことがあり、無進行期が6ヶ月未満である。
【0251】
さらに別の手法において、ハロゲン化水素酸塩(例えば、実施例6のものなど)が局所進行性結腸直腸癌を有する対象に投与され、ここで1つ又は複数の結腸直腸腫瘍は、腫瘍がセツキシマブなどのEGFR阻害薬に応答性を示さないK−Ras癌遺伝子突然変異(K−Ras突然変異型)を有する。対象は1つの前の5−FUを含む療法が不奏効であった者であり、またイリノテカン治療未経験でもある。
【0252】
任意の特定の酸性塩の治療上有効な投薬量は、コンジュゲートごと、患者ごとに異なり得るとともに、患者の病態、用いられる特定の活性薬剤の活性、癌の型、及び送達経路などの要因に依存し得る。
【0253】
イリノテカン又は7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテシンなどのカンプトテシン系活性薬剤については、約0.5〜約100mgカンプトテシン/kg体重、好ましくは約10.0〜約60mg/kgの投薬量が好ましい。他の薬学的に活性な薬剤と併せて投与されるとき、さらに少ない酸性塩であっても治療上有効であり得る。本明細書に例示されるとおりのイリノテカンの酸性塩の投与については、イリノテカンの投薬量は典型的には約50mg/m〜約350mg/mの範囲であり得る。
【0254】
治療方法はまた、本明細書に記載されるとおりの酸性塩組成物又は製剤(例えば、活性薬剤がカンプトテシン系分子である)の治療有効量を第2の抗癌剤と併せて投与することも含む。好ましくは、酸性塩の形態のかかるカンプトテシンベースのコンジュゲートは、米国特許第6,403,569号明細書に記載されるとおり、5−フルオロウラシル及びフォリン酸と組み合わせて投与される。
【0255】
ハロゲン化水素酸塩組成物は1日1回又は数回、好ましくは1日1回以下で投与され得る。治療期間は、2〜3週間の期間は1日1回であってよく、数ヶ月又はさらには数年の期間にわたり継続され得る。1日量は単回用量により個別の投薬量単位又は数個のより少量の投薬量単位の形態で投与されても、又は細かく分割された投薬量を特定の間隔を置いて複数回投与することにより投与されてもよい。
【0256】
本発明はその好ましい具体的な実施形態に関連して記載されているが、前述の記載並びに以下の例は例示を意図したもので、本発明の範囲を限定するようには意図されないことが理解されるべきである。本発明の範囲内にある他の態様、利点及び変形例は、本発明が関係する技術分野の当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0257】
実験
本発明の実施には、特に指示されない限り、当該分野の技術範囲内である有機合成などの従来技術が用いられる。かかる技術は文献に十分な記載がある。試薬及び材料は、特に反する記述がない限り市販されている。例えば、M.B.Smith及びJ.March,「March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions Mechanisms and Structure」,第6版(New York:Wiley−Interscience,2007年),上掲、及び「Comprehensive Organic Functional Group Transformations II」,第1〜7巻,第2版:「A Comprehensive Review of the Synthetic Literature」 1995−2003(Organic Chemistry Series),Katritsky,A.R.ら編,Elsevier Scienceを参照のこと。
【0258】
以下の例では、使用する数(例えば、量、温度等)に関して正確を期すよう努めたが、いくらかの実験誤差及び偏差は考慮しなければならない。特に指示がない限り、温度は摂氏温度であり、及び圧力は海面大気圧又はその近傍である。
【0259】
以下の例は本発明の特定の態様及び利点を示すが、しかしながら、本発明が以下に記載される特定の実施形態に限定されると解釈されるものでは決してない。
【0260】
略称
Ar アルゴン
CM カルボキシメチル又はカルボキシメチレン(−CHCOOH)
DCC 1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド
DCM ジクロロメタン
DMAP 4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン
GLY グリシン
HCl 塩酸
RP−HPLC 逆相高速液体クロマトグラフィー
IPA イソプロピルアルコール
IRT イリノテカン
IPC イオン対クロマトグラフィー
MeOH メタノール
MTBE メチルtert−ブチルエーテル
MW 分子量
NMR 核磁気共鳴
PEG ポリエチレングリコール
RT 室温
SCM スクシンイミジルカルボキシメチル(−CH−COO−N−スクシンイミジル)
TEA トリエチルアミン
TFA トリフルオロ酢酸
THF テトラヒドロフラン
【0261】
材料及び方法
ペンタエリスリトリルベースの4アーム−PEG20K−OHを日油株式会社(日本)から入手した。4アーム−PEG20K−OHは構造:C−(CHO−(CHCHO)H)を有し、式中、各nは約113である。
【0262】
ペンタエリスリトリルベースの4アーム−PEG20K−OH(単に4アームPEG−OHとも称する)のさらなる供給業者としては、同時にスクシンイミジル官能化型も提供しているCreative PEGWorks(Winston−Salem,NC)、及びJenKem Technology USA(Allen,Texas)が挙げられる。
【0263】
全てのHNMRデータは、Bruker製造の300又は400MHz NMR分光計により生成した。
【0264】
実施例1
ペンタエリスリトリル−4アーム−(PEG−1−メチレン−2オキソ−ビニルアミノアセテート連結型イリノテカン)−20K「4アーム−PEG−Gly−Irino−20K」混合トリフルオロ酢酸.塩化水素塩の調製
反応スキーム:
【化40】


【化41】


【化42】

【0265】
この例は、4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kの混合TFA.HCl酸性塩の合成を記載する。
【0266】
合成に使用した溶媒は全て無水であった。
【0267】
ステップ1.t−boc−グリシンのイリノテカン・HCl塩とのコンジュゲーション(>95%収率)
イリノテカン・HCl三水和物(1モル又は677g)及びDMF(10L)を60℃の蒸留器に装入した。イリノテカン・HCl三水和物がDMF中に溶解した後、徐々に完全真空を適用することによって60℃で共沸蒸留してイリノテカン・HCl三水和物から水を除去した。残留DMFから固形物が形成されると、ヘプタン(最大60L)を蒸留器に装入して40〜50℃で残留DMFを除去した。目視確認によりヘプタンが除去された後、共沸蒸留を停止して固形物(イリノテカン・HCl)を17±2℃に冷却した。カップリング反応のため、t−boc−グリシン(1.2モル)、4−DMAP(0.1モル)をDCM(1L)に溶解し、DCM(19L)を蒸留器に装入した。目視で混合物が十分に分散した後、融解したDCC(1.5モル)を添加し、反応を進めさせた。反応はアルゴン又は窒素ブランケット下で十分に混合しながら、且つポット温度17±2℃で実施した。
【0268】
2〜4時間の反応時間後、試料を抜き出して残留イリノテカン(IRT)ピーク面積パーセントをクロマトグラフィーにより計測した。残留イリノテカンは5%以下の量で存在することが決定された。カップリング反応中に形成されたDCUをろ過によって除去し、DCMで洗浄した。粗t−boc−グリシン−イリノテカン・HCl塩を含む得られたろ液を合わせ、真空下45℃未満で濃縮してDCMを除去した。その初期容量の約75%が蒸留によって除去されると、次に初期容量に達するよう濃縮物にIPAを添加し、混合物を凝縮液容量がその初期容量の約25%に達するまでさらに蒸留した。得られた澄明な溶液を室温に冷却し、続いてそれをヘプタンに混合しながら添加した。混合物をさらに0.5〜1時間混合し、その間に沈殿物が形成された。沈殿物を排出させて濾過するとウェットケーキが得られ、次にヘプタン(最大6L)で洗浄した。ウェットケーキを真空乾燥すると、ステップ2で使用するt−boc−グリシン−イリノテカン粉末が得られた。収率>95%。
【0269】
ステップ2.t−boc−グリシン−イリノテカンの脱保護
ステップ1からのt−boc−グリシン−イリノテカン(1モル)を撹拌しながらDCMに溶解し、目視で均一な溶液を形成した。この溶液にTFA(15.8モル)を、5〜10分間の時間をかけて添加し、得られた溶液を約2時間撹拌した。残留する出発物質をRP−HPLCによって計測し、約5%未満であると決定された。次にアセトニトリルを反応溶液に添加し、室温において目視で均一な溶液を形成した。次にこの溶液をMTBE(46.8kg)に添加し、35℃で十分に撹拌して結晶化を促進した。任意選択によりMTBEの使用を低減するため、15〜40℃で蒸留することにより反応溶液中のDCMをアセトニトリルに置き換えた。溶媒交換後、生成物を含有する溶液を、結晶化温度(35℃)で十分に撹拌されている約50%少ない容量のMTBE(23kg)に添加した。30分間から1時間にわたり混合を続けた。得られた固形物をろ過し、ケーキをMTBEで洗浄した。
【0270】
ウェットケーキを真空乾燥すると、ステップ3で使用するグリシン−イリノテカン塩粉末が得られた。電気伝導度検出器でのイオンクロマトグラフィーにより生成物のトリフルオロ酢酸塩及び塩化物の含有量を決定した(収率>95%)。
【0271】
ステップ3.4アーム−PEG−CM−SCMを使用したグリシン−イリノテカンのペグ化
ステップ2からのグリシン−イリノテカン・TFA/HCl塩粉末を反応容器に加え、それにDCM(約23L)を添加した。混合物を約10〜30分間撹拌してグリシン−イリノテカン・TFA/HCl塩をDCM中に分散させた。次にトリエチルアミン(グリシン−イリノテカンTFA/HCl塩粉末中約1.05モル(HCl+TFA)モル)を、ポット温度を24℃以下に維持する速度で徐々に添加した。得られた混合物を10〜30分間撹拌してGLY−IRT(グリシン修飾イリノテカン)遊離塩基を溶解させた。
【0272】
4アームPEG−SCM−20kDの総量(6.4kg)の約80%を、最長30分間をかけて反応容器に添加した。PEG試薬が溶解した後、IPCによって反応の進行を監視した(反応がプラトーに達したと見られるときに非コンジュゲートGLY−IRTの量が5%より多い場合には、4アームPEG−SCMの残りの20%を反応容器に添加し、一定の値の未反応GLY−IRTが認められるようになるまで反応の進行を監視した)。
【0273】
反応溶液を室温で撹拌されるMTBE(113.6L)に1〜1.5時間をかけて添加することにより粗生成物を沈殿させ、続いて撹拌した。得られた混合物を撹拌器付きフィルタ乾燥器に移して母液を除去した。沈殿物(粗生成物)を約10〜25℃で最小限間欠的に撹拌しながら部分的に真空乾燥させた。
【0274】
次に粗生成物を反応容器に入れ、そこにIPA(72L)及びMeOH(8L)を添加し、続いて最長30分間撹拌した。熱を加えて50℃のポット温度で目視上完全な溶解(澄明な溶液)を実現し、続いて30〜60分間撹拌した。次に溶液を37℃に冷却し、そのまま数時間維持し、続いて20℃に冷却した。混合物を撹拌フィルタ乾燥器に移し、ろ過して母液を除去すると、フィルタ上にケーキが形成された。このケーキを70%のIPA中MTBE及び30%MeOHで洗浄し、部分的に真空乾燥させた。この手順をさらに2回繰り返し、但し例外として、冷却前に50℃でインラインフィルタ(1um)を使用して4アームPEG−Gly−IRTを含む澄明なIPA/MeOH溶液をろ過し、最後の(3回目の)結晶化で一切の潜在的な微粒子を除去した。
【0275】
洗浄したウェットケーキから3つの代表試料を採取し、NMRを使用してNHSレベルを計測した。ウェットケーキを真空乾燥させた。
【0276】
生成物(「API」)を二重の袋に包装して不活性雰囲気下で封止し、遮光のもと−20℃で保存した。生成物収率は約95%であった。
【0277】
実施例2
実施例1からの「4アーム−PEG−Gly−Irino−20K」生成物の混合塩としての特性決定
実施例1からの生成物をイオンクロマトグラフィー(IC分析)により分析した。4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kの様々な生成物ロットのIC分析結果については以下の表1を参照のこと。
【0278】
【表1】

【0279】
表1に提供されるIC結果に基づけば、実施例1において形成された生成物の4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kは、生成物中のコンジュゲートしたイリノテカン分子を基準として約50モルパーセントのTFA塩と30モルパーセントのHCl塩と20モルパーセントの遊離塩基との部分混合塩であると理解することができる。塩の混合物は生成物を繰り返し(1〜3回)再結晶させた後であっても観察される。上記で分析した様々な生成物ロットでは、組成物中のイリノテカン分子の約35〜65モルパーセントがTFA塩としてプロトン化されており、組成物中のイリノテカン分子の約25〜40モルパーセントがHCl塩としてプロトン化されている一方、残りのイリノテカンの5〜35モルパーセントはプロトン化されていない(すなわち、遊離塩基としてある)ことが分かる。
【0280】
生成物の一般的構造を以下に示し、ここでイリノテカン部分は遊離塩基形態で、及びHCl及びTFAと会合して−生成物の混合塩的性質を示すものとして−示される。
【化43】

【0281】
実施例3
4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kのストレス安定性試験
4アーム−PEG−Gly−Irino−20K生成物組成物の評価を目的として加速安定性試験を実施した。様々な量のプロトン化されたイリノテカンを含み、且つHCl塩に対するTFAの量が異なる組成物を調べた。
【0282】
ストレス安定性試験
API包装条件をシミュレートするため実施例1で形成された生成物の4アーム−PEG−Gly−Irino−20K、化合物5(約1〜2g)をPEG PE「ホワールトップ(whirl top)」袋に計量し、別の「ホワールトップ(whirl top)」袋に入れた。一つの試験では(結果は図1に示す)、試料を25℃/60%RHの環境チャンバに4週間入れた。別の試験では、試料を40℃/75%RHの環境チャンバに最長数ヶ月入れた(結果は図2及び図3に示す)。試験の最中、試料を定期的に採取して分析した。
【0283】
結果
試験の結果を図1、図2及び図3に示す。図1では、25℃及び60%相対湿度で保存した試料についての4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kピーク面積パーセントが時間に対してプロットされる。示されるデータは、>99%HCl塩(<1%遊離塩基、三角)、94%塩合計(6%遊離塩基、四角)、及び52%塩合計(48%遊離塩基、丸)からなる試料についてのものである。グラフの傾きは、遊離塩基の含有量が増すほど生成物の安定性が低下することを示している。用いたストレス条件下では(すなわち、25℃、最長28日間)、4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kピーク面積の減少が遊離イリノテカンの増加と良好に相関したことから、分解様式が主としてエステル結合の加水分解によることでイリノテカンが放出されることが示される。観察された結果に基づけば、生成物中の遊離塩基の量が増すと加水分解に対する安定性の低下につながるものと思われる。従って、プロトン化されたイリノテカンを含有する割合が高い生成物ほど、プロトン化されたイリノテカンの含有が(モルパーセントを基準として)より少ない生成物と比べて加水分解に対してより高い安定性を有するものと思われる。
【0284】
図2及び図3は、40℃及び75%相対湿度で保存した>99%HCl塩(<1%遊離塩基、四角)を含む試料及び86%塩合計(14%遊離塩基、菱形)からなる試料から得られた別のデータセットを示す。図2は、双方の試料についての3ヶ月間にわたる遊離イリノテカンの増加を示す。このデータは先述の試験からのデータ(図1に要約する)と一致し、これは遊離塩基含有量が高い生成物ほど加水分解に関する安定性がより低いことを示している。図3は、同じ試料についての3ヶ月間にわたる小さいPEG種の増加を示す。小さいPEG種の増加は、複数のPEG種を提供するPEG骨格分解の指標である。データは、HCl塩に対応する生成物が、14%遊離塩基を含有する混合塩試料と比べて加速安定性条件下でPEG骨格分解を起こし易いことを示している。従って、理論による拘束を意図するものではないが、部分混合塩は主として加水分解による薬物放出により分解するように思われるが、塩化水素塩は異なる機構、すなわちポリマー骨格の分解によって分解するものと思われる。しかしながら、骨格分解の程度は、例えば保存条件の制御によって最小限に抑えることができる。
【0285】
要約すれば、観察された2つの分解様式は塩/遊離塩基の含有量に関して対照的な傾向を示す。塩化水素塩は加速安定性試験のもとで確かにより大きい骨格分解程度を示したものの(おそらくは製剤の酸性度に起因して)、塩化水素塩は遊離塩基又は混合TFA.塩化水素塩のいずれと比べても高い加水分解安定性を有することが示された。
【0286】
実施例4
キラリティー試験
4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kにおけるイリノテカンの炭素−20のキラリティーを決定した。
【0287】
販売業者の資料に詳述されるとおり、イリノテカン塩化水素出発物質は光学的に活性であり、C−20はその(S)配置である。イリノテカンにおけるC−20位は第三級アルコールを有し、これは難イオン化性であって、従ってこの部位は極端な(強酸性の)条件下以外ではラセミ化しないものと予想される。4アーム−PEG−Gly−Irino−20KにおけるC−20のキラリティーを確認するため、生成物から化学的加水分解によって放出されたイリノテカンをキラルHPLC方法を用いて分析した。
【0288】
得られたクロマトグラムに基づけば、4アーム−PEG−Gly−Irino−20K試料について(R)鏡像異性体は検出されなかった。加水分解後、コンジュゲートから放出されたイリノテカンが(S)配置であることを確認した。
【0289】
実施例5
加水分解試験
全てのPEG化イリノテカン種は(特定の形態−遊離塩基、混合TFA.塩化物塩、又は塩化物塩とは無関係に)4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kの一部と見なされる;各種はきれいに加水分解して>99%純度のイリノテカンを生じる。さらに、完全に薬物負荷された主要なDS4種(4本のポリマーアームの各々に対して共有結合したイリノテカン)及び部分的に置換された種−DS3(3本のポリマーアームに対して共有結合したイリノテカン)、DS2(ポリマーアームのうち2本に対して共有結合したイリノテカン)及びDS1種(単一のポリマーアームに対して共有結合したイリノテカン)−は全て、同じ速度で加水分解して遊離薬物のイリノテカンを放出する。
【0290】
エステル交換(CHOH中KCO、20℃)及び水性加水分解(pH10、20℃)条件下での4アーム−PEG−Gly−Irino−20K混合TFA.塩化物塩中のイリノテカン含有PEG種の運命を決定する実験を行った。エステル交換反応は45分後に>99%完了した。水性加水分解反応は24時間以内に>99%完了した。双方の反応タイプについて、イリノテカンを使用した対照反応を同一の条件下で行い、いくつかのアーチファクトピークが観察された。いずれの場合も、アーチファクトピークを調整後に生成されたイリノテカンのクロマトグラフィー純度は>99%であった。
【0291】
これらの結果に基づき、塩化水素塩などの、4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kにおける本質的に全てのPEG化種がイリノテカンを放出すると結論付けられた。水性加水分解反応から経時的にとったHPLCのオーバーレイは、DS4がDS3となり、DS2となり、DS1となり、イリノテカンとなる変換を示す。これらの種は全て、図4に示されるとおり、加水分解してイリノテカンを放出し、図4は、一置換、二置換、三置換及び四置換4アーム−PEG−Gly−Irino−20K種からの加水分解を介したイリノテカンの放出を実証している。
【0292】
4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kの主要な成分であるDS4、並びにそれより置換度が低い中間体DS3、DS2及びDS1の加水分解速度を水性緩衝液(pH8.4)中でブタカルボキシペプチダーゼBの存在下に、及びヒト血漿中で計測するさらなる実験を実施した。ブタカルボキシペプチダーゼBの存在下における水性緩衝液(pH8.4)中での加水分解は、酵素ベースの加水分解を実施しようとする試みであった。酵素を含まないpH8.4の対照実験により、加水分解がpHにより駆動され、従って主として化学的加水分解であることが後に示された。それにもかかわらずデータは、ヒト血漿中で行った加水分解から得られたデータとの比較に有益であった。これらの実験から、様々な成分の加水分解速度に有意な差はなく、理論的予測と比べても遜色がないことが示された。さらなる実験で、4アーム−PEG−Gly−Irino−20Kの主要な成分(DS4、DS3、DS2及びDS1)についての加水分解速度をヒト血漿中で計測した。これらの実験もまた、様々な成分が同じ速度で加水分解され、理論的予測と比べても遜色がないことを示している。
【0293】
図5及び図6は、それぞれ化学的加水分解(酵素の存在下)及び血漿中加水分解の実験データに対する理論的な加水分解速度を示すグラフを提供する。いずれの場合も理論的予測は、次に低次の同族体+遊離イリノテカンを生じる各種(すなわち、DS4>DS3>DS2>DS1)の加水分解が同じ速度であることに基づく。
【0294】
実施例6
ペンタエリスリトリル−4アーム−(PEG−1−メチレン−2オキソ−ビニルアミノアセテート連結型イリノテカン)−20K「4アーム−PEG−Gly−Irino−20K」塩化水素塩の調製
【化44】


【化45】


【化46】

【0295】
ステップ1.Boc−グリシン−イリノテカン塩化水素(Gly−IRT HCl)の合成
パート1:イリノテカン塩化水素三水和物(IRT.HCl.3H2O)の乾燥
IRT・HCl・3HO(45.05g、66.52mmol)を反応器に装入した。無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(666mL、14.7mL/g IRT・HCl・3HO、DMF含水量300ppm以下)を反応器に装入した。緩徐に撹拌しながら反応器を60℃(ジャケット温度)に加熱した。イリノテカン(IRT)が完全に溶解した後(5〜10分間)、5〜10mbarに達するまで真空を徐々に適用し、DMFを留去した。凝縮した留出物(DMF)の容量が初期DMF装入量の85〜90%に達したとき、真空を解放した。ヘプタン(1330mL、30.0mL/g IRT・HCl・3HO、含水量50ppm以下)を反応器に導入し、ジャケット温度を50℃に低下させた。留出物の容量がヘプタンの初期装入量の約90%になるまでヘプタンを真空蒸留した(100〜150mbar)。ヘプタン蒸留をさらに2サイクル行った(2×1330mLヘプタン装入及び蒸留)。溶媒相試料を反応器から取り出してガスクロマトグラフィーを用いてDMF含有量について分析し、試料のDMF含有量が3%w/w以下であることを確認した(残留DMFが>3.0%w/wである場合、4回目の共沸蒸留サイクルを実施する)。得られたスラリーをカップリング反応に使用した。
【0296】
パート2:カップリング反応
残留ヘプタン中の乾燥IRT・HCl(1.0当量)のスラリー(残留ヘプタンのIRT HClに対する近似質量比は3であった)が撹拌されている反応器にジクロロメタン(1330mL、29.5mのLDCM/g IRT・HCl・3HO)を装入した。反応内容物は15〜30分間撹拌し、バッチ温度は17℃に維持した。Boc−グリシン(14.0g、79.91mmol、1.2当量)及びDMAP(0.81g、6.63mmol、0.1当量)を固形物として反応器に装入した。DCC(40mLのジクロロメタン中1.5当量)のDCM溶液を調製して15〜30分間かけて添加し、得られた反応混合物を17℃(バッチ温度)で2〜3時間撹拌した。反応の完了をHPLCにより監視した。予め作製したクエンチング溶液を反応混合物に装入して残りのDCCを全てクエンチした。簡潔に言えば、予め作製したクエンチング溶液は、ジクロロメタン中におけるTFAとIPAとの予め混合された溶液であって、DCM(15.3mL、0.34mL/g IRT・HCl・3HO)中にTFA(1.53mL、0.034mL/g IRT・HCl・3HO)とIPA(3.05mL、0.068mL/g IRT・HCl・3HO)とを混合することにより調製された溶液であり、変換が少なくとも97%となったときに反応器V1に5〜10分間かけて添加した。内容物をさらに30〜60分間撹拌してクエンチさせた。DCUを含有する反応混合物を別の反応器に至る1ミクロンフィルタに通してろ過した。反応ろ液を真空下35℃で1/3の容量まで蒸留した。イソプロピルアルコール(IPA)(490.5mL、10.9mL/g IRT・HCl・3HO)を濃縮混合物に添加し、混合物を50℃(ジャケット温度)で30〜60分間撹拌した。得られた均一溶液を真空蒸留によって初期IPA装入容量の約85%に濃縮し、得られた濃縮物を20℃(ジャケット温度)に冷却した。IPA中の反応混合物を60〜80分間かけて20℃でヘプタン(1750mL、38.8mLのヘプタン/g IRT・HCl・3HO)中に移した。Boc−gly−IRT HCl沈殿物を含む得られたスラリーをさらに60〜90分間撹拌し、ろ過により生成物を回収した。反応フラスコをヘプタン(2×490mL、20.0mLのヘプタン/g IRT・HCl・3HO)でリンスし、生成物ケーキをそのリンス液で洗浄した。ウェットケーキを20℃〜25℃で真空下に最低12時間乾燥させた。収率:57.13g(110%、残留溶媒のため高い)。
【0297】
ステップ2.グリシン−イリノテカン塩化水素(Gly−IRT HCl)の合成
100ml丸底フラスコにBOC−Gly−IRT(2.34g、0.003モル)及びIPA(12ml)を装入し、そこにHCl(12ml、4M、ジオキサン中、0.045モルを10分間かけて添加した。反応混合物を室温で6時間撹拌し(及びHPLCにより反応の完了を監視し)、続いて乾燥アセトニトリル(12mL)を添加した。得られた反応混合物をMTBEの撹拌溶液(140ml)に徐々に(5分間)添加した。このように得られた固形物をろ過し、真空下で乾燥すると、Gly−IRT HCl塩が黄色い粉末として得られた。収率:2.17g。
【0298】
ステップ3.4アームPEG20K−グリシンイリノテカン塩化水素の合成
Gly−IRT HCl(5.04g 14.61wt%HCl)を100mL反応器に装入し、アルゴンでフラッシュした。ジャケット温度は20℃に設定した。DCM(100mL)及びTEA(4mL)を添加した。溶液を10分間撹拌した。
【0299】
4アーム−PEG20K−SCMの初期装入量を添加し(26.5g)、反応混合物を30分間撹拌した。試料を採取してHPLCで分析した。HPLCデータから、6.1%のGly−IRT.HClが残っていることが示された。4アーム−PEG20K−SCMの第2の装入量(1.68g)を反応混合物に添加し、溶液を約2時間撹拌した。HPLC分析のため試料を採取した。HPLC分析データから、1.2%のGly−IRT HClが残っていることが示された。
【0300】
次に反応溶液をMTBE(800mL)に徐々に添加して生成物を沈殿させた。沈殿物を30分間撹拌し、ろ過により回収した。ウェットケーキをMTBE(200mL)で2回洗浄した。生成物を真空下で乾燥させた。粗4アーム−PEG20K−イリノテカン塩化水素中間体を塩化物含有量についてイオンクロマトグラフィーにより分析した。
【0301】
表2は、得られた4アーム−PEG20K−イリノテカン塩化水素中間体塩含有量分析(ICクロマトグラフィー)を要約する。
【0302】
【表2】

【0303】
塩の調整及び酢酸エチル分離:
粗4アーム−PEG20K−イリノテカン塩化水素中間体(29.1g、83.3モル% Cl)を35℃で600mLの酢酸エチルに溶解した。目視で固形物が溶解した後、溶液を15分間撹拌した。エタノール(8.5ml)中のHClの0.1N溶液を溶液に装入して30分間撹拌した。フラスコを激しく撹拌しながら氷浴中に浸漬した。10分後、溶液から目に見える固形物が沈殿した。混合物を浴槽中で合計60分間撹拌した。軽く真空を適用することによって沈殿物をろ過でガラスフリットに回収した。ウェットケーキを30%MeOH/70%MTBE溶液(400ml)で洗浄した。生成物を真空下に置いて乾燥させた。収率:28.3g
【0304】
最終産物の塩化物含有量(イオンクロマトグラフィーにより決定するとき)は以下のとおりであった:
【0305】
【表3】

【0306】
上記の方法により調製した別のロットをイオンクロマトグラフィーにより測定すると、103.8%のモル%の塩化物を有していた(すなわち、完全に塩化水素塩の形態であった)。40℃で4週間にわたり保存して評価したとき、生成物に関連する種の合計が98.7%から97.0%に変化した一方、遊離イリノテカンが0.4%から1.25%に変化したことから、加水分解に関する塩化水素塩の安定性(すなわち、抵抗性)が示される。同じ条件下で、4週間後にポリエチレングリコール骨格の切断を検出したが、測定不能であった。
【0307】
実施例7
1.9KGスケールでのペンタエリチトールベースの4アーム−PEG−20Kの調製
材料及び方法。水分を含むとポリマージオール不純物がもたらされるため、利用可能な最小の含水量を有する極めて高い等級のエチレンオキシドを使用しなければならない。注意:エチレンオキシドは極めて反応性の高い化合物で、水分と爆発的に反応し得るため、従って反応装置及び移し替える装置における漏出は慎重に避けなければならない。また、実施においては人員に保護シールドの後方又はバンカー内で作業させることを含むよう注意を払わなければならない。
【0308】
2ガロンのジャケット付きステンレス鋼圧力反応器において無水トルエン(4L)を2時間還流した。次に、溶媒(3L)の一部を大気圧下で留去した。次に残留トルエンを排出し、反応器ジャケットに蒸気を通過させて減圧3〜5mmHgを適用することにより反応器を一晩乾燥させた。次に反応器を室温に冷却し、無水トルエン(4L)で充填し、ペンタエリチトールベースの4ARM−PEG−2K(SUNBRIGHT PTE(登録商標)−2000ペンタエリスリトール、分子量約2,000ダルトン、日油株式会社;200g、0.100モル)を添加した。溶媒を減圧下で留去し、次に乾燥窒素雰囲気下で反応器を30℃に冷却した。1リットルの分子篩で乾燥したトルエン(含水量約5ppm)及び液状ナトリウム−カリウム合金(Na22%、K78%;1.2g)を反応器に添加した。反応器を110℃に加温し、反応温度を110〜120℃に維持しながらエチレンオキシド(1,800g)を3時間かけて連続的に添加した。次に、反応器の内容物を2時間約100℃で加熱し、次に温度を約70℃に低下させた。余分なエチレンオキシド及びトルエンを減圧下で留去した。蒸留後、反応器の内容物を減圧下に保ち、窒素スパージを行って微量のエチレンオキシドを除去した。リン酸(1N)を添加して塩基性残基を中性化し、生成物を減圧下で乾燥した。最後に生成物を反応器から排出してろ過すると、冷却後に1,900gの白色固体が得られた。ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を適用することにより、アルコキシル化ポリマー生成物であるペンタエリチトールベースの4アーム−PEG−20Kを特徴付けた。この分析的方法から、分子量によって成分が分離される組成物のクロマトグラムが提供された。Shodex KW−803 GFCカラム(300×8mm)及び示差屈折率検出器を装備したAgilent 1100 HPLCシステムを使用した。移動相(0.1M NaNO)の流量は0.5ml/分であった。GFCクロマトグラムを図7に示す。
【0309】
GFC分析から、4ARM−PEG−20K生成物は以下を含むことが示された:高MW生成物0.42%、4ARM−PEG−20K 99.14%、HO−PEG(10K)−OH 0.44%。
【0310】
実施例9
市販の4ARM−PEG−20Kの分析
日油株式会社は、現在、市販用PEGの供給における主導的企業である。従って新鮮な市販のペンタエリスリトールベースの4ARM−PEG−20K(SUNBRIGHT PTE(登録商標)−20,000、分子量約20,000ダルトン、日油株式会社)を入手し、ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を用いて分析した。Shodex KW−803 GFCカラム(300×8mm)及び示差屈折率検出器を装備したAgilent 1100 HPLCシステムを使用した。移動相(0.1M NaNO)の流量は0.5ml/分であった。GFCクロマトグラムを図8に示す。
【0311】
GFC分析から、この市販の4ARM−PEG−20K生成物が、高MW生成物 3.93%、4ARM−PEG−20K 88.56%、HO−PEG(10K)−OH 3.93%、HO−PEG(5K)−OH 3.58%を含んだことが示された。
【0312】
実施例10
15Kg規模でのアルコキシル化可能なオリゴマー:ペンタエリスリトールベースの4アーム−PEG−2Kの調製
20ガロンのジャケット付きステンレス鋼圧力反応器を95℃の95kg脱イオン水で2回洗浄した。洗浄水を除去し、反応器ジャケットに蒸気を通して減圧(3〜5mmHg)を適用することにより反応器を一晩乾燥させた。反応器に25kgの無水トルエンを充填し、溶媒の一部を減圧下で留去した。次に残留トルエンを排出して反応器を減圧下に保った。次に反応器を室温に冷却し、無水トルエン(15L)を充填し、及びペンタエリスリトール(1,020g)を添加した。溶媒の一部(約8L)を減圧下で留去し、次に乾燥窒素雰囲気下で反応器を30℃に冷却した。液体ナトリウム−カリウム合金(Na22%、K78%;2.2g)を反応器に添加した。無水エチレンオキシド(14,080g)を3時間かけて連続的に添加し、反応温度を150〜155℃に保った。次に、反応器の内容物を約150℃で30分間加熱し、次に温度を約70℃に下げた。余分なエチレンオキシド及びトルエンを減圧下で留去した。蒸留後、反応器の内容物を減圧下に維持し、窒素スパージを実施して微量のエチレンオキシドを除去した。最後に生成物を反応器から排出させると、14,200gの粘稠液が得られた。ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を適用して生成物ペンタエリスリトールベースの4アーム−PEG−2Kを特徴付けた。この分析的方法から、分子量によって成分が分離される組成物のクロマトグラムが提供された。Shodex KW−803 GFCカラム(300×8mm)及び示差屈折率検出器を装備したAgilent 1100 HPLCシステムを使用した。移動相(0.1M NaNO)の流量は0.5ml/分であった。
【0313】
GFC分析から、低分子量又は高分子量不純物が検出可能限界未満で、4ARM−PEG−2K生成物が約100%の純度であったことが示された。
【0314】
実施例11
20KG規模でのペンタエリスリトールベースの4アーム−PEG−20Kの調製
20ガロンのジャケット付きステンレス鋼圧力反応器を95℃の95kg脱イオン水で2回洗浄した。水を排出し、反応器ジャケットに蒸気を通して減圧3〜5mmHgを適用することにより反応器を一晩乾燥させた。反応器に25kgのトルエンを充填し、溶媒の一部を減圧下で留去した。次に残留トルエンを排出し、反応器を減圧下に保った。次に反応器を室温に冷却し、無水トルエン(21L)を充填し、実施例10からの予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマー:ペンタエリスリトールベースの4ARM−PEG−2K(2,064g)を添加した。溶媒の一部(16L)を減圧下で留去し、次に反応器を乾燥窒素雰囲気下で30℃に冷却した。4リットルの分子篩で乾燥させたトルエン(含水量約5ppm)及び液体ナトリウム−カリウム合金(Na22%、K78%;1.7g)を添加し、反応器を110℃に加温した。次にエチレンオキシド(19,300g)を5時間かけて連続的に添加し、反応温度は145〜150℃に保った。次に、反応器の内容物を約140℃で30分間加熱し、次に温度を約100℃に下げた。氷酢酸(glacial acidic acid)(100g)を添加して触媒を中和した。余分なエチレンオキシド及びトルエンを減圧下で留去した。蒸留後、反応器の内容物を減圧下に維持し、窒素スパージを実施して微量のエチレンオキシドを除去した。最後に反応器から生成物を排出させると、20,100gの白色固体が得られた。ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を適用してアルコキシル化ポリマー生成物ペンタエリスリトールベースの4アーム−PEG−20Kを特徴付けた。この分析的方法から、分子量によって成分が分離される組成物のクロマトグラムが提供された。Shodex KW−803 GFCカラム(300×8mm)及び示差屈折率検出器を装備したAgilent 1100 HPLCシステムを使用した。移動相(0.1M NaNO)の流量は0.5ml/分であった。
【0315】
GFC分析から、4ARM−PEG−20K生成物は以下を含んだことが示された:高MW生成物 0.75%、4ARM−PEG−20K 97.92%、HO−PEG(10K)−OH 1.08%、HO−PEG(5K)−OH 0.48%。
【0316】
本明細書に示す発明は、特定の例示的な実施形態に関連して記載されている。しかしながら、前述の記載は本発明を例示される実施形態に限定することを意図するものではなく、当業者は、前述の明細書に記載されるとおりの本発明の趣旨及び範囲のなかで変形例を構成し得ることを認識すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造(I):
【化1】


に対応するポリマー−活性薬剤コンジュゲートのハロゲン化水素塩形態であって、
式中、各nは約20〜約500の範囲の整数であり、及びイリノテカンの塩基性窒素原子の95モルパーセント超がハロゲン化水素(HX)塩形態(式中Xは、フッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物から選択される)にプロトン化されている、ハロゲン化水素塩。
【請求項2】
イリノテカンの塩基性窒素原子の96モルパーセント超がハロゲン化水素塩形態にプロトン化されている、請求項1に記載のハロゲン化水素塩。
【請求項3】
イリノテカンの塩基性窒素原子の97モルパーセント超がハロゲン化水素塩形態にプロトン化されている、請求項2に記載のハロゲン化水素塩。
【請求項4】
イリノテカンの塩基性窒素原子の98モルパーセント超がハロゲン化水素塩形態にプロトン化されている、請求項3に記載のハロゲン化水素塩。
【請求項5】
前記ハロゲン化水素塩が塩化水素塩である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のハロゲン化水素塩。
【請求項6】
前記コンジュゲートの重量平均分子量が約23,000ダルトンである、請求項5に記載の塩化水素塩。
【請求項7】
nが約80〜約150の範囲の整数である、請求項5に記載の塩化水素塩。
【請求項8】
nが各アームにおいて約113の平均値を有する、請求項7に記載の塩化水素塩。
【請求項9】
構造(I)に対応するポリマー−活性薬剤コンジュゲートのハロゲン化水素塩を含む組成物の調製方法であって、
【化2】


(i)グリシン−イリノテカンハロゲン化水素を処理するステップであって、グリシンのアミノ基がモル過剰のハロゲン化水素酸により保護された形態であり、従って前記保護基が除去されると脱保護されたグリシン−イリノテカンハロゲン化水素が形成されるステップと、
(ii)ステップ(i)からの前記脱保護したグリシン−イリノテカンハロゲン化水素を、活性エステルを有するポリマー試薬と塩基の存在下でカップリングして、4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を形成するステップと、
(iii)前記4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を沈殿により回収するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
前記回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素が、ハロゲン化水素(HX)塩形態にあるイリノテカンの塩基性窒素原子を95モルパーセント超有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素が、ハロゲン化水素(HX)塩形態にあるイリノテカンの塩基性窒素原子を96モルパーセント超有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素が、ハロゲン化水素(HX)塩形態にあるイリノテカンの塩基性窒素原子を97モルパーセント超有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素が、ハロゲン化水素(HX)塩形態にあるイリノテカンの塩基性窒素原子を98モルパーセント超有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(iv)前記回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩をハロゲン化物含有量について分析するステップと、前記ハロゲン化物含有量が95モルパーセント未満である場合、(v)前記回収した4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩を酢酸エチルに溶解し、さらなるハロゲン化水素酸を添加するステップとをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記分析するステップがイオンクロマトグラフィー(IC)による、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化水素酸がエタノール溶液の形態で添加される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(v)でさらなるハロゲン化水素酸を添加した後、前記4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンハロゲン化水素塩が沈殿により回収される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(v)における前記沈殿が冷却により達成される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素が10倍以上モル過剰のハロゲン化水素酸により処理され、それにより前記保護基が除去されてグリシン−イリノテカンハロゲン化水素が形成される、請求項9〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素が10倍〜25倍の範囲でモル過剰のハロゲン化水素酸により処理され、それにより前記保護基が除去されてグリシン−イリノテカンハロゲン化水素が形成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記保護された形態のグリシン−イリノテカンハロゲン化水素がter−ブチルオキシカルボニル(Boc)−グリシン−イリノテカン塩化水素であり、グリシンのアミノ基がBoc保護されている、請求項9〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(i)における前記グリシン−イリノテカンハロゲン化水素が保護された形態のグリシン−イリノテカン塩化水素であり、及び前記保護された形態のグリシン−イリノテカン塩化水素が塩酸で処理されて前記保護基が除去される、請求項9〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記保護された形態のグリシン−イリノテカン塩化水素が塩酸のジオキサン溶液で処理される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(i)が、ステップ(ii)の前に前記グリシン−イリノテカンハロゲン化水素を分離することをさらに含む、請求項9〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(ii)前の前記グリシン−イリノテカンハロゲン化水素の分離が沈殿による、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記グリシン−イリノテカンハロゲン化水素がメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)を添加することにより沈殿される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(ii)における前記塩基がアミンである、請求項9〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記アミンが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、及びジメチルアミノピリジンから選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記塩基がトリエチルアミンである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ステップ(ii)が塩素化溶媒中で実施される、請求項9〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(iii)における前記沈殿がメチルtert−ブチルエーテルの添加を含む、請求項9〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項9〜31のいずれか一項に従い調製された4アーム−ペンタエリスリトリル−ポリエチレングリコール−カルボキシメチル−グリシン−イリノテカンのハロゲン化水素塩を含む組成物。
【請求項33】
請求項1〜8又は32のいずれか一項に記載のハロゲン化水素塩と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む、薬学的に許容可能な組成物。
【請求項34】
凍結乾燥形態で乳酸緩衝液を含む、請求項33に記載の薬学的に許容可能な組成物。
【請求項35】
使い捨てバイアルに収容される、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記バイアルに収容されるハロゲン化水素塩の量が、100mg用量のイリノテカン当量である、請求項35に記載の無菌組成物。
【請求項37】
5%w/wデキストロースの溶液中に溶解され、且つ静脈内注入により投与されるとき1つ又は複数の型の癌性固形腫瘍を治療する、請求項33〜36のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項38】
1つ又は複数の癌性固形腫瘍を有すると診断された対象に、前記対象における固形腫瘍成長の阻害を生じさせるのに有効な期間にわたり請求項33に記載の薬学的に許容可能な組成物の治療有効量を投与することによる、哺乳動物対象における癌の治療方法。
【請求項39】
前記癌性固形腫瘍が、結腸直腸癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌及び非小細胞肺癌からなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
癌の治療用医薬品を製造するための、請求項33に記載の薬学的に許容可能な組成物の使用。
【請求項41】
活性エステルを有する前記ポリマー試薬が、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーを好適な溶媒中でアルコキシル化してアルコキシル化ポリマー材料を形成するステップであって、前記予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーが300ダルトン超の既知の定義された重量平均分子量を有するステップと;前記アルコキシル化ポリマー材料を、活性エステルを有するように1つ又は複数のステップで修飾するステップであって、それにより活性エステルを有するポリマー試薬を形成するステップとを含む方法から得られる、請求項33に記載の組成物。
【請求項42】
活性エステルを有する前記ポリマー試薬が以下の構造:
【化3】


を有し、式中、各nは約40〜約500である、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
4アームポリマーコンジュゲートの塩化水素塩を含む組成物であって、前記組成物中の前記4アームコンジュゲートの少なくとも90%が、
(i)式
C−[CH−O−(CHCHO)−CH−C(O)−Term]
により包含される構造を有し、式中、
nは、いずれの場合も、5〜150(例えば約113)の値を有する整数であり、及び
Termは、いずれの場合も、−OH、−OCH
【化4】


、−NH−CH−C(O)−OH、−NH−CH−C(O)−OCH
【化5】


及び−NH−CH−C(O)−O−Irino(「GLY−Irino」)(式中Irinoはイリノテカンの残基である)からなる群から選択され;及び
(ii)前記組成物中の前記4アームコンジュゲートの少なくとも90%における各Termについて、その少なくとも90%が−NH−CH−C(O)−O−Irinoであり、及び
さらに、前記組成物中の前記4アームコンジュゲートの少なくとも90%における各Irino中の各アミノ基について、各アミノ基はプロトン化されているか、又はプロトン化されていないかのいずれかであり、任意の所与のプロトン化アミノ基が塩化水素塩である、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−511540(P2013−511540A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540065(P2012−540065)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/057292
【国際公開番号】WO2011/063158
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(500138043)ネクター セラピューティックス (32)
【Fターム(参考)】