説明

マルチカーエレベータ装置

【課題】乗りかごが定格速度を超えて互いに接近する方向に走行したときには、その乗りかごを所定の減速度で減速させながら安全に停止させ、乗りかごが定格の速度で走行する通常の運転時には、双方の乗りかごをごく近くまでまで接近させて隣り合う上下の階床に同時に停止させることができるマルチカーエレベータ装置を提供する。
【解決手段】乗りかご21a,21bが互いに接近する方向に移動して所定の距離まで近づいたときに、その双方の乗りかごが接近する相対速度を検出するガバナローラ41´と、ガバナローラ41´で検出される双方の乗りかごの相対速度が所定の速度を超えるときに、その接近する一方の乗りかごに制動力を加えて所定以下の減速度で減速させるブレーキ機構44と、ブレーキ機構44の作動で減速しながら双方の乗りかごがさらに接近するときに、その双方の乗りかごを所定以下の減速度で減速させる緩衝装置34,27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの昇降路に上下に渡って少なくとも2台の乗りかごが設けられ、その各乗りかごがそれぞれ個々に駆動されて上下に移動するマルチカーエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチカーエレベータ装置については、従来から種々の提案がなされている。その1つの例を図8に示す。このマルチカーエレベータ装置においては、1つの昇降路1に2台の乗りかご2a,2bが上下に渡って配置され、これらの乗りかご2a,2bがそれぞれ独立して昇降路1内でガイドレール3に沿って上下に走行移動する。
【0003】
各乗りかご2a,2bは、かご枠5およびこのかご枠5の内側に設置されたかご室6とを備え、かご枠5は上梁5aと立枠5bと下梁5cとで構成され、かご室6は下梁5cの上に設置されている。
【0004】
下側の乗りかご2bにおけるかご枠5の上梁5aには緩衝装置(バッファ)7が取り付けられ、上側の乗りかご2bにおけるかご枠5の下梁5cには前記緩衝装置7に対応して受板8が取り付けられている。緩衝装置7は上梁5aの中間部に、受板8は下梁5cの中間部にそれぞれ設けられている。
【0005】
各乗りかご2a,2bは、それぞれ独立して上下に走行移動する。したがってその双方の乗りかご2a,2bが互いに接近する方向に走行して接触することが想定される。双方の乗りかご2a,2bが接触するときには、緩衝装置7と受板8とが突き当り、この動作で緩衝装置7が弾性的に縮小してそのエネルギが吸収され、乗りかご2a,2bに加わる衝撃が緩和される。
【0006】
図9には、別の構成のマルチカーエレベータ装置を示してある。このマルチカーエレベータ装置においては、昇降路1に上下に渡って配置された各乗りかご2a,2bにおけるかご枠5の下梁5cの両端部がその両側に突出し、下側の乗りかご2bにはその下梁5cの両側の突出部に緩衝装置7が取り付けられている。
【0007】
双方の乗りかご2a,2bが接触しようとしたときには、下側の乗りかご2bの緩衝装置7と、上側の乗りかご2aの下梁5cの両側の突出部とが突き当り、この動作で緩衝装置7が弾性的に縮小してそのエネルギが吸収され、乗りかご2a,2bに加わる衝撃が緩和される。
なお、図9に示す9は、昇降路1の最下部のピットに設けられた緩衝装置であり、この緩衝装置9により乗りかご2bの下がり過ぎが防止される。
【0008】
図10には、さらに異なる別の構成のマルチカーエレベータ装置を示してある。このマルチカーエレベータ装置においては、各乗りかご2a,2bの上下部にそれぞれセフティ装置12a,12bおよびそのセフティ装置12a,12bを連動するリンクレバー13a,13bが設けられている。
【0009】
各セフティ装置12a,12bは、通常時には乗りかご2a,2bの走行をガイドするガイドレール3と摺動自在に係合し、リンクレバー13a,13bを介して所定の操作力が入力されたときにガイドレール3をくさび作用で把持して乗りかご2a,2bを停止させるようになっている。
【0010】
双方の乗りかご2a,2bが衝突しようとしたときには、上側の乗りかご2aの下部に設けられたセフティ装置12aのリンクレバー13aが下側の乗りかご2bに突き当り、下側の乗りかご2bの上部に設けられたセフティ装置12bのリンクレバー13bが上側の乗りかご2aに突き当り、この動作で各セフティ装置12a,12bが作動し、この作動で乗りかご2a,2bが減速して停止し、その衝突が避けられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、1つの昇降路に対して1台の乗りかごが配置され、その1台の乗りかごのみが昇降路内で走行する通常のシングルカーエレベータ装置の場合、昇降路の最下部のピットに緩衝装置が設けられ、乗りかごのブレーキ機構が適正に作動せずに、乗りかごが昇降路の最下部のピットにまで下降したときには、その緩衝装置により乗りかごを減速させ、停止させるようになっている。
【0012】
このような緩衝装置の設計基準は、乗りかごの定格速度の115%に対し、平均減速度1G以下で乗りかごを減速して停止させることとなっている。この緩衝装置に要求される動作ストロークhは、重量加速度をg、乗りかごの定格速度をVとすると、次の式で表される。
【0013】
h=(1.15×V/(2×g)
いま、乗りかごの定格速度を180m/分とすると、停止に必要な動作ストロークhは約0.6mとなる。上式から分る通り、この減速動作に必要な乗りかごの停止ストロークは、速度の2乗に比例し、下降速度の増加とともに指数関数的に増大する。
【0014】
次に、マルチカーエレベータ装置の場合において考える。1つの昇降路内で2台の乗りかごが互いに接近する方向に移動する場合、2台の乗りかご間で必要な停止ストロークは、乗りかごの定格速度を180m/分としたときに、0.6m×2=1.2mとなる。
【0015】
エレベータが設置される建屋の上下の階床間の距離(階床高さ)は約3m、かごの床から天井までの高さは2.5m程度である。マルチカーエレベータ装置の乗りかごが隣り合う上下の階床間に停止する場合、その下側の乗りかごと上側の乗りかごとの間に生じる空間の高さは、3m−2.5m=0.5m程度となる。すなわち、前述の停止ストローク1.2mに対し、停止に必要な距離が0.7mも不足することになる。実際には、乗りかごの天井部や床下には各種の構造材や機器類が配設されているため、2台の乗りかご間に生じる実質的な空間の高さはさらに小さくなる。
【0016】
このようなことを考慮すると、実際のマルチカーエレベータ装置の運転にあたっては、上下2台の乗りかご間の距離が常に建屋の階床高さ以上となるように制御しなければならず、このため例えば上側の乗りかごを3階に、下側の乗りかごを2階に同時に停止させるようなことができない。
【0017】
また、2台の乗りかごを常時一定以上の間隔を保って走行させるための複雑で面倒な制御が必要となり、さらに2台の乗りかごを同時に隣り合う階床に停止させることができないから、その階床の乗客に対して無用の待ち時間を与えてしまう。
【0018】
一方、このような運転上の問題とは別に、図8に示すマルチカーエレベータ装置にあっては、下側の乗りかご2bに設けられた緩衝装置7がかご枠5における上梁5aの中間部に取り付けられており、このため上梁5aは緩衝装置7が上側の乗りかご2aの受板8に突き当る際の衝撃に十分耐え得るだけの強度を必要とし、その分、上梁5aの寸法、重量が大きくなる。
【0019】
上梁5aに十分な強度がある場合でも、かご枠5に作用する力は下梁5cの両端部にかかるため、緩衝装置7の位置がずれていたり、上下の乗りかご2a,2bに偏荷重が生じていたりすると、左右の立枠5bに不均等な荷重が加わり、かご枠5が変形してしまう恐れがある。
【0020】
図9に示すマルチカーエレベータ装置にあっては、各乗りかご2a,2bにおけるかご枠5の下梁5cの両端部がその両側に突出し、下側の乗りかご2bの下梁5cの両側の突出部に緩衝装置7が乗りかご2bの側面と隣り合うように設けられており、このため各乗りかご2a,2bの全体の横幅が大きくなる。
【0021】
マルチカーエレベータ装置の場合、シングルカーエレベータ装置と比較して昇降路に設置するロープ類やガバナ装置、各種のスイッチ類などの品目が多く、乗りかご2a,2bの横幅が大きくなることには問題がある。この対策として、かご室6を小さくしてしまうと、乗客に対するサービス性が低下してしまう。
【0022】
図10に示すマルチカーエレベータ装置にあっては、各乗りかご2a,2bのリンクレバー13a,13bをガイドレール3から離れた位置に設置する必要があり、このためリンクレバー13a,13bが昇降路中の他の機器類と干渉する恐れがある。
【0023】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、上下に独立して走行する乗りかごが定格速度を超えて互いに接近する方向に走行したときには、その乗りかごを所定の減速度で減速させながら安全に停止させることができ、乗りかごが定格の速度で走行する通常の運転時には、双方の乗りかごをごく近くまでまで接近させて隣り合う上下の階床に同時に停止させることができ、また緩衝装置を備える乗りかごの強度を高め、横幅の増大を抑え、さらに昇降路内の機器類との干渉を防止することができるマルチカーエレベータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
請求項1の発明は、1つの昇降路に上下に渡って設けられ、それぞれ個々に駆動されて上下に移動する少なくとも2台の乗りかごと、前記乗りかごが互いに接近する方向に移動して所定の距離まで近づいたときに、その双方の乗りかごが接近する相対速度を検出する速度検出機構と、前記速度検出機構で検出される前記双方の乗りかごの相対速度が所定の速度を超えるときに、その接近する双方の乗りかごのうちの少なくともいずれか一方の乗りかごに制動力を加えて所定以下の減速度で減速させるブレーキ機構と、前記ブレーキ機構の作動で減速しながら双方の乗りかごがさらに接近するときに、その双方の乗りかごを所定以下の減速度で減速させる緩衝装置とを備えることを特徴としている。
【0025】
請求項2の発明は、前記速度検出機構が、各乗りかごに対応する釣合い重り間に設けられていることを特徴としている。
【0026】
請求項3の発明は、前記ブレーキ機構が、乗りかごの釣合い重りと、この釣合い重りをガイドするガイドレールとの間に設けられていることを特徴としている。
【0027】
請求項4の発明は、前記ブレーキ機構が、乗りかごを駆動する巻上機に設けられていることを特徴としている。
【0028】
請求項5の発明は、前記緩衝装置が、乗りかごと、乗りかごの釣合い重りとに設けられていることを特徴としている。
【0029】
請求項6の発明は、前記緩衝装置が、乗りかごと、この乗りかごの釣合い重りと、この釣合い重りと共に乗りかごを吊り下げるロープの端部とに設けられていることを特徴としている。
【0030】
請求項7の発明は、前記緩衝装置が、乗りかごにおけるかご枠の上部で、かつかご枠の立枠の近傍の位置に設けられていることを特徴としている。
【0031】
請求項8の発明は、前記緩衝装置が、ばねにより構成されていることを特徴としている。
【0032】
請求項9の発明は、前記緩衝装置が、ゴムまたは発泡スチロールにより構成されていることを特徴としている。
【0033】
請求項10の発明は、前記緩衝装置が、座屈変形が可能な部材により構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、上下に独立して走行する乗りかごが定格速度を超えて互いに接近する方向に走行したときには、その乗りかごを所定の減速度で減速させながら安全に停止させることができ、乗りかごが定格の速度で走行する通常の運転時には、双方の乗りかごをごく近くまでまで接近させて隣り合う上下の階床に同時に停止させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1ないし図4を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0036】
図1には、マルチカーエレベータの全体の構成を示してある。1つの昇降路11内には、2台の乗りかご21a,21bが上下に渡って配置され、これらの乗りかご21a,21bがそれぞれ独立して駆動されてガイドレール(図示せず)に沿って上下に走行移動する。
【0037】
また、昇降路11内には、上下に渡って2つの釣合い重り22a,22bが配置されている。上側の乗りかご21aはロープ23aを介して下側の釣合い重り22aと釣合うように昇降路11内に吊り下げられ、乗りかご21aが上昇移動するときには釣合い重り22aが下降移動し、乗りかご21aが下降移動するときには釣合い重り22aが上昇移動する。
【0038】
下側の乗りかご21bはロープ23bを介して上側の釣合い重り22bと釣合うように昇降路11内に吊り下げられ、乗りかご21bが上昇移動するときには釣合い重り22bが下降移動し、乗りかご21bが下降移動するときには釣合い重り22bが上昇移動する。各釣合い重り22a,22bは乗りかご21a,21bのガイドレールとは別のガイドレール24に沿って走行する。
【0039】
各乗りかご21a,21bは、かご枠25およびこのかご枠25の内側に設置されたかご室26とを備え、かご枠25は上梁25aと立枠25bと下梁25cとで構成され、かご室26は下梁25cの上に設置されている。下側の乗りかご21bには、かご枠25における上梁25aの両端部、つまり立枠25Bの近傍の位置において緩衝装置27が取り付けられている。
【0040】
各乗りかご21a,21bにおけるかご枠25の下部には、2つのかごシーブ30が回転自在に設けられ、これらかごシーブ30にロープ23a,23bが巻き掛けられている。
【0041】
下側の釣合い重り22aには、その側部から上方に垂直に延びように緩衝装置34が取り付けられている。
【0042】
上側の釣合い重り22bには、緩衝装置34に対応する部分に受け部35が設けられている。この受け部35には、緩衝装置34との間の距離を調整するための複数枚の調整板36が備えられている。また、上側の釣合い重り22bには、棒状の案内子38が取り付けられている。この案内子38は釣合い重り22bの下部側面からその下方に垂直に延びるように支持されている。
【0043】
下側の釣合い重り22bには、案内部40として複数のガイドローラ41が回転自在に設けられている。複数のガイドローラ41は、上下方向に2列に並列して並び、その並列するガイドローラ41間に案内子38が、上側の釣合い重り22bと下側の釣合い重り22aとの接近に応じて進入するようになっている。
【0044】
ここで案内部40には、ガイドローラ41と並んで速度検出用のガバナローラ41´が回転自在に設けられている。ガバナローラ41´は、案内部40に案内子38が進入にしたときにその案内子38と接触して回転し、その回転の速度に基づいて上側の釣合い重り22bと下側の釣合い重り22aとが接近する相対速度を検出する。
【0045】
下側の釣合い重り22aにはブレーキ機構44が設けられている。ブレーキ機構44は非作動時には釣合い重り22aをガイドするガイドレール24と摺動自在に係合し、作動時にそのガイドレール24に圧着して釣合い重り22aに制動力を加える。
【0046】
速度検出用のガバナローラ41´は、リンク45を介してブレーキ機構44に連結されている。そしてガバナローラ41´が所定の回転速度以上で回転するときにリンク45を介してブレーキ機構44を作動させるようになっている。
【0047】
次に、本実施形態の作用について図2を参照して説明する。図2には、2つの釣合い重り22a,22bが互いに接近する方向に移動するときの状態を示してある。
【0048】
上側の乗りかご21aが下方向に、下側の乗りかご21bが上方向にそれぞれ同じ定格の速度Vで走行する場合を考える。このとき、上側の乗りかご21aと連係する下側の釣合い重り22aは上方向に、下側の乗りかご21bと連係する上側の釣合い重り22bは下方向にそれぞれ速度Vで走行する。
【0049】
2台の乗りかご21a,21bが十分な距離をあけて離れているときには、2つの釣合い重り22a,22bも十分な距離をあけて離れ、図2(A)に示すように、釣合い重り22bの案内子38と釣合い重り22aの案内部40とが接触しない状態に保たれる。
【0050】
一方、何らかの理由で、2台の乗りかご21a,21bが定格速度を超える速度Vで互いに接近する方向に移動して所定の距離まで接近すると、図2(B)に示すように、釣合い重り22bの案内子38が釣合い重り22aの案内部40に進入する。
【0051】
そして案内子38とガバナローラ41´との接触でガバナローラ41´が回転する。この回転の速度は、双方の乗りかご22a,22bが互いに接近する相対速度に対応する。このとき、双方の釣合い重り22a,22bは定格速度を超える速度で互いに近づいており、このためガバナローラ41´が所定以上の回転速度で回転し、乗りかご22a,22bの移動速度の異常が検出される。
【0052】
この異常の検出に応じてリンク45を介してブレーキ機構44が駆動され、このブレーキ機構44がガイドレール24に圧着し、釣合い重り22aに制動力が加わり、釣合い重り22aが減速する。このときの釣合い重り22a,22b間の距離h1は、乗りかご21a,21bがそれぞれ減速度1G以下で停止するために必要な距離以上に設定されている。また、ブレーキ機構44による制動力は、上側の乗りかご21aが減速度1G以下で減速するように設定されている。
【0053】
このような動作で上側の乗りかご21aは減速するが、この間にも下側の乗りかご21bは上方向へ速度Vで走行を続けており、乗りかご21a,21b間の距離および釣合い重り22a,22b間の距離はどんどん縮まっていく。釣合い重り22a,22b間の距離がh2に達すると、図2(C)に示すように、上側の釣合い重り22bの受け部35が下側の釣合い重り22aの緩衝装置34に突き当る。
【0054】
この突き当りに応じて緩衝装置34が弾性的に圧縮され、釣合い重り22aが乗りかご21aと共に減速する。そして乗りかご21a,21b間の距離がさらに縮まると、上側の乗りかご21aが下側の乗りかご21bの緩衝装置27に突き当り、緩衝装置27が弾性的に圧縮され、乗りかご21aがさらに減速され、最終的に停止する。この一連の減速動作中の乗りかご21bの減速度は、1G以下となるように設定されている。
【0055】
なお、乗りかご21a,21bが定格速度以下で互いに接近する方向に移動して釣合い重り22bの案内子38が釣合い重り22aの案内部40に進入したときには、ガバナローラ41´が所定の速度以下で回転し、したがってブレーキ機構44は作動せず、釣合い重り22aに制動力が加わらない。
【0056】
このように、乗りかご21a,21bが互いに接近する方向に移動するときのその移動の速度が定格の速度を超えているときには、乗りかご21a,21bが1Gの減速度で停止するために必要な最小距離に近づく前に、その移動の速度がガバナローラ41´で検出される。そして、この検出に基づいて一方の乗りかご21aと連係する釣合い重り22aにブレーキ機構44により制動力が加えられて減速し、さらにこの後その双方の乗りかご21a,21bが近づく動作に応じて緩衝装置34,27が順次作動する。このため、最終的に乗りかご21a,21bを1G以下の減速度で安全に停止させることができる。
【0057】
したがって、2台の乗りかご21a,21bが定格の速度で走行する通常の運転時には、その2台の乗りかご21a,21を階床間の距離よりも小さな距離まで接近させることができ、これにより乗りかご21a,21bを隣り合う上下の階床に同時に停止させることができる。したがって、乗客に対するサービス性が向上し、またその運転の制御も容易となる。
【0058】
図3にはこの発明の第2の実施形態を示してある。この実施形態においては、第1の実施形態の場合と同様に、上側の乗りかご21aがロープ23aを介して下側の釣合い重り22aと釣合うように接続され、下側の乗りかご21bがロープ23bを介して上側の釣合い重り22bと釣合うように接続されている。
【0059】
下側の乗りかご21bと上側の釣合い重り22bとの間に引き回されたロープ23bは、その途中が昇降路11の上部に設置された巻上機50のシーブ51に巻き掛けられている。このロープ23bの一端側の端部は、昇降路11の上部に設置された緩衝装置52に接続され、他端側の端部は昇降路11の上部に直接接続されている。
【0060】
そして巻上機50の駆動でシーブ51が回転し、このシーブ51の回転で下側の乗りかご21bと上側の釣合い重り22bが上下に走行するようになっている。巻上機50には、シーブ51に制動力を加えるブレーキ機構53が設けられている。
【0061】
また、第1の実施形態の場合と同様に、上側の釣合い重り22bには案内子38、受け部35が設けられ、下側の釣合い重り22aには案内部40、ガバナローラ41´、ブレーキ機構44、緩衝装置34が設けられている。
【0062】
次に本実施形態の作用について説明する。
【0063】
2台の乗りかご21a,21bが互いに接近する方向に走行するときに、何らかの理由で、その2台の乗りかご21a,21bが定格速度を超える速度Vで所定の距離まで接近すると、釣合い重り22bの案内子38が釣合い重り22aの案内部40に進入し、ガバナローラ41´により乗りかご21a,21bの相対速度の異常が検出される。これに応じてブレーキ機構44が作動し、釣合い重り22aに制動力が加わり、下側の釣合い重り22aおよび上側の乗りかご21aが減速する。
【0064】
ガバナローラ41´により乗りかご21a,21bの相対速度の異常が検出されときには、その信号が巻上機50のブレーキ機構53に送られ、このブレーキ機構53が作動し、シーブ51に制動力が加わり、この制動力で上側の釣合い重り22bおよび下側の乗りかご21bが減速する。ブレーキ機構53による制動力は、下側の乗りかご21bの減速度が1G以下となるように設定されている。
【0065】
2台の乗りかご21a,21bがさらに接近すると、釣合い重り22bの受け部35が釣合い重り22aの緩衝装置34に突き当り、この突き当りにより乗りかご21a,21bがさらに減速する。この減速でも乗りかご21a,21bが停止せずにさらに接近すると、上側の乗りかご21aが下側の乗りかご21bの緩衝装置27に突き当り、この緩衝装置27が作動するとともにロープ23bの張力で昇降路11の上部の緩衝装置52が作動し、これら緩衝装置27,52の作動で乗りかご21a,21bがさらに減速し、最終的に停止する。
【0066】
この実施形態の場合には、乗りかご21a,21bが1Gの減速度で停止するために必要な最小距離に近づく前に、その移動の速度がガバナローラ41´で検出され、この検出に基づいて双方の乗りかご21a,21bが釣合い重り22aのブレーキ機構44と巻上機50のブレーキ機構53によりそれぞれ制動力が加えられて減速し、この後その双方の乗りかご21a,21bがさらに近づく動作に応じて緩衝装置34,27,52が順次作動する。このため、最終的に乗りかご21a,21bを深刻なダメージを与えることなく1G以下の減速度で安全に停止させることができる。
【0067】
このように、乗りかご21a,21bが定格速度を超える速度で互いに移動するときには、その異常を検出して乗りかご21a,21bが1Gの減速度で停止するために必要な最小距離に近づく前に、ブレーキ機構44,52で乗りかご21a,21bを減速させるから、2台の乗りかご21a,21bが定格の速度で走行する通常の運転時には、その2台の乗りかご21a,21をごく近くまでまで接近させることができる。これにより乗りかご21a,21bを隣り合う上下の階床に同時に停止させることができ、乗客に対するサービス性が向上する。また、その運転の制御も容易となる。
【0068】
図4には、接近する釣合い重り22a,22bの相対速度(接近する乗りかご21a,21bの相対速度)を検出する速度検出機構の変形例を示してある。
【0069】
この速度検出機構においては、上側の釣合い重り22bに案内部40、ガバナローラ41´、ブレーキ機構44が設けられ、ガバナローラ41´とブレーキ機構44とがリンク45で連結されている。そして、案内子38が案内部40を挿通して上側の釣合い重り22bに上下動自在に設けられている。案内子38は、通常時には支持部55に支持され、その下部側が釣合い重り22bの下方側に大きく突出するように保持されている。
【0070】
下側の釣合い重り22aには、上端面に案内子38に対向して受け部56が設けられている。この受け部56には案内子38との距離を調整するための調整板57が複数枚備えられている。
【0071】
この速度検出機構の場合には、通常時には図4(A)に示すように釣合い重り22bの案内子38が支持部55から垂れ下がるように支持されている。そして、釣合い重り22a,22bが互いに接近する方向に移動して所定の距離まで近づくと、図4(B)に示すように、案内子38の下端が釣合い重り22aの受け部56に当接し、釣合い重り22a,22bがさらに接近することにより図4(C)に示すように案内子38が上側の釣合い重り22bに対し相対的に上昇移動する。
【0072】
案内子38が移動することにより、この案内子38と接触しているガバナローラ41´が両釣合い重り22a,22b間の相対速度に応じる速度で回転し、釣合い重り22a,22bの相対速度を検出する。
【0073】
釣合い重り22a,22bが定格速度を超える速度Vで接近するときには、その速度に応じた回転数でガバナローラ41´が回転してその異常を検出する。そしてこの異常の検出に応じてブレーキ機構44が作動し、釣合い重り22aに制動力が加わり、釣合い重り22aが上側の乗りかごと共に減速される。
【0074】
なお、接近する乗りかご21a,21bの相対速度を検出する速度検出機構は、釣合い重り22a,22b間に設ける場合のほか、乗りかご21a,21b間に設けることも可能である。
【0075】
図5には、下側の乗りかごの上部に設けられる緩衝装置の具体的な構造の例を示してある。
【0076】
図5(A)に示す緩衝装置において、緩衝部材としてコイルばね27aが用いられている。この例では、上側の乗りかごと下側の乗りかごとが互いに接近して衝突する直前に緩衝部材としてのコイルばね27aに上側の乗りかごが当接してそのコイルばね27aが弾性的に圧縮し、この弾性的な圧縮で下側の乗りかごおよび上側の乗りかごの運動エネルギが吸収されてその相対速度が減速され、両乗りかごが安全に停止する。
【0077】
図5(B)に示す緩衝装置において、緩衝部材としてゴムまたは発泡スチロールのブロック27bが用いられている。この例では、上側の乗りかごと下側の乗りかごとが互いに接近して衝突する直前に緩衝部材としてのゴムまたは発泡スチロールのブロック27bに上側の乗りかごが当接してそのブロック27bが弾性的に圧縮し、この弾性的な圧縮で下側の乗りかごおよび上側の乗りかごの運動エネルギが吸収されてその相対速度が減速され、両乗りかごが安全に停止する。
【0078】
図5(C)に示す緩衝装置においては、緩衝部材として周面にその周方向に沿う溝状の凹凸部28を有する座屈が可能な金属製の部材、例えば中空のパイプ27cが用いられている。この例では、上側の乗りかごと下側の乗りかごとが互いに接近して衝突する直前に緩衝部材としての金属製のパイプ27cに乗りかごが当接してその金属製のパイプ27cが周面の凹凸部28を圧縮させるように軸方向に座屈して潰れ、この潰れにより下側の乗りかごおよび上側の乗りかごの運動エネルギが吸収されてその相対速度が減速され、両乗りかごが安全に停止する。
【0079】
なお、このような構造の緩衝装置は、図1ないし図4に示す釣合い重り22aや昇降路の上部に設ける緩衝装置34,52においても用いることができる。また、このような構造の緩衝装置のほかに、油圧シリンダを用いたダンパー方式のものを用いることも可能である。
【0080】
図6には、下側の乗りかご21bの変形例を示してある。この乗りかご21bにおいては、かご枠5における両側の立枠5bの途中に座屈変形部29が設けられている。
【0081】
このような構成の乗りかご21bにおいては、下側の乗りかご21bが上側の乗りかごと衝突した際に、座屈変形部29が座屈を起こして圧縮するように潰れ、この潰れにより下側の乗りかご21bおよび上側の乗りかごの運動エネルギが吸収されてその相対速度が減速され、両乗りかごが安全に停止する。
【0082】
図7には上側の乗りかご21aおよび下側の乗りかご21bの変形例を示してある。この例の乗りかご21a,21bにおいては、かご枠5の下方にかごシーブ30を備えるシーブ枠31が配置され、このシーブ枠31とかご枠5の下梁5cとの間に緩衝装置32が一対設けられて、これら緩衝装置32でかご枠25とシーブ枠31とが互いに連結されている。一対の緩衝装置32は、かご枠25における立枠25bの近傍の位置に配置されている。
【0083】
このような構成の乗りかご21a,21bにおいては、上側の乗りかご21aと下側の乗りかご21bとが互いに接近する方向に移動して衝突した際に、その運動エネルギが緩衝装置32により吸収されてその相対速度が減速され、両乗りかご21a,21bが安全に停止する。
【0084】
図1および図3に示すように、下側の乗りかご21bに設けられた緩衝装置27は、かご枠25における上梁25aの両端部、つまり立枠25bの近傍の位置に設けられており、このためその緩衝装置27に上側の乗りかご21aが突き当るときの荷重を立枠25bで受け止めることができ、かつその荷重がかご枠25の両側の立枠25bに均等に加わる。
【0085】
したがって、乗りかご21bの強度を高めることができ、またかご枠25の変形を防止することができる。そして、緩衝装置27が上梁25aの両端部に配置されているから、乗りかご21bの横幅が大きくなることもなく、さらに緩衝装置27が昇降路11内の他の機器と干渉するようなこともない。
【0086】
図6に示す乗りかご21bにおいては、かご枠5における立枠5bの途中に緩衝装置として機能する座屈変形部29を設けているから、別個の緩衝装置が不要であり、コストを軽減でき、また乗りかご21bの横幅が大きくなることもない。
【0087】
図7に示す乗りかご21a,21bにおいては、緩衝装置32がかご枠5における立枠5bの近傍の位置に設けられており、このためその緩衝装置32に荷重が加わるときに衝撃を立枠5bで均等的に受け止めることができ、したがって乗りかご21a,21bの強度を高めることができ、また緩衝装置32がかご枠5とシーブ枠31との間に配置されているから、乗りかご21a,21bの横幅が大きくなることもなく、さらに緩衝装置32が昇降路内の他の機器と干渉するようなこともない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマルチカーエレベータ装置の構成図。
【図2】そのマルチカーエレベータ装置における釣合い重りの部分の動作説明図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るマルチカーエレベータ装置の構成図。
【図4】マルチカーエレベータ装置の速度検出機構の変形例を示す動作説明図。
【図5】マルチカーエレベータ装置の緩衝装置の具体的な構造例を示す構成図。
【図6】マルチカーエレベータ装置の乗りかごの変形例を示す構成図。
【図7】マルチカーエレベータ装置の乗りかごのさらに異なる変形例を示す構成図。
【図8】従来のマルチカーエレベータ装置を示す構成図。
【図9】従来の他のマルチカーエレベータ装置を示す構成図。
【図10】従来のさらに異なる他のマルチカーエレベータ装置を示す構成図。
【符号の説明】
【0089】
21a.21b…乗りかご
22a.22b…釣合い重り
23a.23b…ロープ
24…ガイドレール
25…かご枠
25a…上梁
25b…立枠
25c…下梁
26…かご室
27…緩衝装置
27.32.34.52…緩衝装置
27b…ブロック
27c…金属製のパイプ
28…凹凸部
29…座屈変形部
38…案内子
40…案内部
41…ガイドローラ
41´…ガバナローラ
44.52.53…ブレーキ機構
50…巻上機
51…シーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの昇降路に上下に渡って設けられ、それぞれ個々に駆動されて上下に移動する少なくとも2台の乗りかごと、
前記乗りかごが互いに接近する方向に移動して所定の距離まで近づいたときに、その双方の乗りかごが接近する相対速度を検出する速度検出機構と、
前記速度検出機構で検出される前記双方の乗りかごの相対速度が所定の速度を超えるときに、その接近する双方の乗りかごのうちの少なくともいずれか一方の乗りかごに制動力を加えて所定以下の減速度で減速させるブレーキ機構と、
前記ブレーキ機構の作動で減速しながら双方の乗りかごがさらに接近するときに、その双方の乗りかごを所定以下の減速度で減速させる緩衝装置と、
を備えることを特徴とするマルチカーエレベータ装置。
【請求項2】
前記速度検出機構は、各乗りかごに対応する釣合い重り間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項3】
前記ブレーキ機構は、乗りかごの釣合い重りと、この釣合い重りをガイドするガイドレールとの間に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項4】
前記ブレーキ機構は、乗りかごを駆動する巻上機に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項5】
前記緩衝装置は、乗りかごと、乗りかごの釣合い重りとに設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項6】
前記緩衝装置は、乗りかごと、この乗りかごの釣合い重りと、この釣合い重りと共に乗りかごを吊り下げるロープの端部とに設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項7】
前記緩衝装置は、乗りかごにおけるかご枠の上部で、かつかご枠の立枠の近傍の位置に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項8】
前記緩衝装置は、ばねにより構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項9】
前記緩衝装置は、ゴムまたは発泡スチロールにより構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項10】
前記緩衝装置は、座屈変形が可能な部材により構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−315796(P2006−315796A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138622(P2005−138622)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】