説明

マルチセンサ判定装置及びプログラム

【課題】所定時間内に観測された観測値の大半を外れ値が占める場合であっても、適切に外れ値を判定する。
【解決手段】状態推定部20で、マルチセンサ12で観測された観測値D(各観測値d)から推定値xを推定し、事前分布算出部26で、観測値Dから推定される推定値xの事前確率分布p(x)を算出し、事後分布算出部28で、観測プール24に記憶された観測値Dを用いて、観測値Dの尤度p(D|x)、及び推定値の事前確率分布p(x)に基づいて、推定値の事後確率分布p(x|D)を算出する。観測値分布算出部30で、推定値の事後確率分布p(x|D)と各観測値の尤度p(d|x)とに基づいて、各観測値の確率分布p(d)を算出し、外れ値判定部32で、新たに観測された観測値Dの各観測値dと、各観測値の確率分布p(d)の各々とを観測値の次元毎に比較して、外れ値を判定し、外れ値ではないと判定された観測値を観測プール24へ記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチセンサ判定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DOP(Dilution Of Precision:位置精度劣化指数)とUERE(User Equivalent Range Error:使用者等価距離誤差)との積を用いて測位精度を算出するGPS受信機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、複数のセンサの検出値をカルマンフィルタを用いて統合して、測位解を推定するGPSレシーバにおいて、カルマンフィルタの推定値の算出過程で算出される誤差共分散行列の対角要素を用いて、GPS測位解の精度を判定するGPSレシーバが提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0004】
また、衛星組の機能的残差APR、DOP、及び衛星数の各々に重み付けを行って算出した評価値に基づいて、測位された現在位置を評価するなど、観測値の情報を用いて推定精度を評価する手法が提案されている(例えば、特許文献5及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−51047号公報
【特許文献2】特開2001−337150号公報
【特許文献3】特開2008−20365号公報
【特許文献4】特開2008−26282号公報
【特許文献5】特開2008−281553号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Position and velocity reliability testing in degraded GPS signal environments
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜4の技術では、DOPやカルマンフィルタの共分散行列を手がかりに観測値から推定された推定値の信頼度を算出しているが、DOPやカルマンフィルタの共分散行列は、観測値の値とは独立であるため、実際に観測値に含まれる外れ値(推定される状態との残差が所定値以上となる観測値、異常値)を検出及び排除することができない、という問題がある。
【0008】
また、特許文献5及び非特許文献1では、観測値を用いて推定値の信頼度を算出しているが、観測値のうち外れ値が大半を占める場合には、外れ値の判定に失敗する、という問題がある。この問題を図8を参照して説明する。例えば、同図(a)に示すように、複数の観測値のうち1つが外れ値であった場合には、同図(b)に示すように、各観測値から推定される推定値の分布に基づいて、容易に外れ値を判定することができる。しかし、同図(c)に示すように、複数の観測値の大半が外れ値の場合には、同図(d)に示すように、正常な観測値による推定値の分布の方が例外的な分布となってしまい、適切に外れ値を判定することができない。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、複数のセンサで構成されたマルチセンサで観測された次元の異なる複数の観測値から状態を推定する場合において、所定時間内に観測された観測値の大半を外れ値が占める場合であっても、適切に外れ値を判定することができるマルチセンサ判定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のマルチセンサ判定装置は、各々次元の異なる観測値を観測する複数のセンサで構成されたマルチセンサと、前記マルチセンサの各センサにより過去に観測され、かつ外れ値を含まない前記各々次元の異なる観測値から推定される状態を示す推定値の確率分布を算出する確率分布算出手段と、前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布に基づいて算出された前記観測値各々の確率分布と、前記マルチセンサで観測された新たな観測値各々とを次元毎に比較して、前記新たな観測値各々が外れ値か否かを判定する判定手段と、を含んで構成されている。
【0011】
本発明のマルチセンサ判定装置によれば、確率分布算出手段が、各々次元の異なる観測値を観測する複数のセンサで構成されたマルチセンサの各センサにより過去に観測され、かつ外れ値を含まない各々次元の異なる観測値から推定される状態を示す推定値の確率分布を算出する。そして、判定手段が、確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布に基づいて算出された観測値各々の確率分布と、マルチセンサで観測された新たな観測値各々とを次元毎に比較して、新たな観測値各々が外れ値か否かを判定する。
【0012】
このように、外れ値ではないと判定された観測値のみで算出された推定値の確率分布に基づいて、新たに観測された観測値が外れ値か否かを判定するため、所定時間内に観測された観測値の大半を外れ値が占める場合であっても、適切に外れ値を判定することができる。また、次元の異なる観測値から推定された推定値の事後確率分布から、各観測値の確率分布を算出して、外れ値の判定を行うため、次元の異なる複数の観測値を比較して矛盾を判定することができ、精度の高い判定を行うことができる。
【0013】
また、前記判定手段により外れ値ではないと判定された観測値を記憶する観測値記憶手段を含み、前記確率分布算出手段は、前記観測値記憶手段に記憶された観測値を用いて、前記推定値の確率分布を算出することができる。
【0014】
また、本発明のマルチセンサ判定装置は、前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布を記憶する確率分布記憶手段と、前記確率分布記憶手段に記憶された推定値の確率分布を、前記判定手段により外れ値ではないと判定された観測値を用いて更新する更新手段と、を含んで構成することができ、前記判定手段は、前記更新手段により前記推定値の確率分布が更新された場合には、該更新された推定値の確率分布を用いて、前記新たな観測値各々が外れ値か否かを判定することができる。これにより、外れ値ではないと判定された観測値自体を記憶しておく場合と比較して、計算量及びメモリ量を削減することができる。
【0015】
また、前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布、または前記複数のセンサ各々の誤差分布に基づいて算出される前記推定値の事前確率分布に基づいて、前記推定値の信頼度を算出する信頼度算出手段を含んで構成することができる。このように、次元の異なる複数の観測値から算出した推定値の確率分布に基づいて推定値の信頼度を算出するため、精度良く信頼度を算出することができる。
【0016】
また、前記マルチセンサを、GPS衛星から送信された信号を受信するGPS装置、前記マルチセンサが搭載される移動体の速度を検出する速度センサ、前記移動体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、及び地図情報を取得するセンサの少なくとも1つを含んで構成し、前記確率分布算出手段は、前記移動体の位置または速度の確率分布を算出するようにすることができる。これにより、マルチパスの影響により、外れ値が連続して生じるような場合でも、外れ値を精度良く判定することができる。
【0017】
また、本発明のマルチセンサ判定プログラムは、コンピュータを、各々次元の異なる観測値を観測する複数のセンサで構成されたマルチセンサで観測された観測値を取得する取得手段、前記マルチセンサの各センサにより過去に観測され、かつ外れ値を含まない前記各々次元の異なる観測値から推定される状態を示す推定値の確率分布を算出する確率分布算出手段、及び前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布に基づいて算出された前記観測値各々の確率分布と、前記マルチセンサで観測された新たな観測値各々とを次元毎に比較して、前記新たな観測値各々が外れ値か否かを判定する判定手段として機能させるためのプログラムである。
【0018】
なお、本発明のプログラムを記憶する記憶媒体は、特に限定されず、ハードディスクであってもよいし、ROMであってもよい。また、CD−ROMやDVDディスク、光磁気ディスクやICカードであってもよい。更にまた、該プログラムを、ネットワークに接続されたサーバ等からダウンロードするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明のマルチセンサ判定装置及びプログラムによれば、外れ値ではないと判定された観測値のみで算出された推定値の確率分布に基づいて、新たに観測された観測値が外れ値か否かを判定するため、所定時間内に観測された観測値の大半を外れ値が占める場合であっても、適切に外れ値を判定することができ、また、次元の異なる観測値から推定された推定値の確率分布から、各観測値の確率分布を算出して、外れ値の判定を行うため、次元の異なる複数の観測値を比較して矛盾を判定することができ、精度の高い判定を行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態の原理を説明するためのイメージ図である。
【図2】第1の実施の形態に係るマルチセンサ判定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】外れ値の判定を説明するための図である。
【図4】信頼度の算出を説明するための図である。
【図5】第1の実施の形態に係るマルチセンサ判定装置におけるマルチセンサ判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施の形態に係るマルチセンサ判定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施の形態に係るマルチセンサ判定装置におけるマルチセンサ判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図8】従来技術の問題点を説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施の形態の原理について説明する。
【0023】
図1に示すように、時刻t−1までに観測された観測値のうち、予め外れ値ではないと判定済みの観測値を用いて、推定値の確率分布を算出する。この推定値の確率分布と、時刻tで新たに観測された観測値とを比較することにより、新たな観測値が外れ値か否かを判定する。そして、外れ値であると判定された場合には、その観測値を廃棄し、外れ値ではないと判定された場合には、次時刻において、推定値の確率分布の算出に用いられる。
【0024】
このように、外れ値ではないと判定された観測値のみを推定値の確率分布の算出に用いることで、連続して外れ値が発生し、所定時間内に観測された観測値の大半を外れ値が占める場合でも、常に正常な過去の観測値のみに基づいて、外れ値の判定に用いる推定値の確率分布を適切に算出することができ、正確な外れ値判定を行うことができる。
【0025】
以下で、各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態では、車両に搭載され、複数のセンサを備えたマルチセンサの観測値から自車両の位置を推定する場合において、マルチセンサの外れ値の判定、及び推定される状態の推定値の信頼度を算出するマルチセンサ判定装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0026】
図2に示すように、第1の実施の形態におけるマルチセンサ判定装置10は、異なる次元の観測値を各々観測する複数のセンサで構成されたマルチセンサ12と、外れ値の判定及び推定値の信頼度の算出の処理を実行するコンピュータ16とを備えている。
【0027】
マルチセンサ12は、複数のセンサとして、GPS衛星から送信された信号を受信するGPS装置、自車両の速度を検出する速度センサ、自車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、及び地図情報を取得する地図情報取得部を含んで構成されている。これらの各センサから、擬似距離、INS速度、ドップラー周波数、位相、地図情報等が観測値として観測される。
【0028】
コンピュータ16は、CPU、後述するマルチセンサ判定処理ルーチンを実現するためのプログラムを記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、及びHDD等の記憶装置を含んで構成されている。
【0029】
このコンピュータ16を以下で説明するマルチセンサ判定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、図2に示すように、マルチセンサ12で観測された観測値から自車両の位置(状態)を推定する状態推定部20と、初期条件に基づいて観測値が外れ値か否かを判定する初期プールフィルタ22と、初期プールフィルタ22及び後述する外れ値判定部32を通過した観測値が記憶される観測プール24と、観測値から推定される推定値の事前確率分布を算出する事前分布算出部26と、推定値の事前確率分布及び観測プールに記憶された観測値に基づいて、推定値の事後確率分布を算出する事後分布算出部28と、推定値の事後確率分布に基づいて、各観測値の確率分布を算出する観測値分布算出部30と、各観測値の確率分布と新たに観測された観測値とを比較して、外れ値か否かを判定する外れ値判定部32と、事後確率分布に基づいて、推定値の信頼度を算出する信頼度算出部34と、を含んだ構成で表すことができる。
【0030】
なお、事後分布算出部28が本発明の確率分布算出手段の一例であり、観測値分布算出部30及び外れ値判定部32が本発明の判定手段の一例である。
【0031】
状態推定部20は、マルチセンサ12で観測された観測値Dを取得し、観測値Dに基づいて状態を示す推定値xを推定する。ここでは、観測値Dは、擬似距離ρ(衛星位置xsat)、INS速度v、地図情報における自車両から最も近い道路上の位置xnearmap等の各観測値を含んでいる。また、推定値xは自車両の位置である。観測値Dに基づく推定値xの推定は、従来既知の手法を用いることができる。なお、以下では、各観測値をまとめて表現する場合には、観測値Dと表記し、観測値Dに含まれる個々の観測値を表現する場合には、観測値dと表記する。
【0032】
初期プールフィルタ22は、観測プール24に観測値が記憶されていない場合に、初期条件に従って観測値を観測プールへ記憶するか否かを判定する。例えば、GPS装置により観測された観測値の場合には、GPS衛星からの信号のS/Nや衛星仰角に基づいて、受信状況が良好か否かにより判定したり、DOPにより衛星の配置が良好か否かを判定したりすることができる。また、電波を受信した衛星数や、観測値や残差の時系列のばらつき等により判定するようにしてもよい。初期プールフィルタ22における初期条件は、厳しい条件を設定しておくことが好ましい。
【0033】
観測プール24には、初期プールフィルタ22を通過した観測値が記憶される。また、後述する外れ値判定部32で外れ値ではないと判定された観測値が記憶される。
【0034】
事前分布算出部26は、マルチセンサ12を構成する各センサの誤差分布など、予め知識として把握できる情報に基づいて、各観測値dの事前確率分布を算出し、この各観測値dの事前確率分布に基づいて、観測値Dから推定される推定値xの事前確率分布p(x)を算出する。観測値dの事前確率分布としては、例えば、擬似距離ρについて、下記(1)式に示すような擬似距離精度σGPSを用いることができる。
【0035】
【数1】

【0036】
なお、推定値の事前確率分布p(x)として、後述する事後分布算出部28において、一時刻前に算出された推定値の事後確率分布を用いてもよい。
【0037】
事後分布算出部28は、事前分布算出部26で算出された推定値の事前確率分布p(x)、及び観測プールに記憶された観測値Dを用いて算出される、推定値xに対する観測値Dの確からしさを示す尤度p(D|x)に基づいて、下記(2)式に従って、推定値の事後確率分布p(x|D)を算出する。
【0038】
【数2】

【0039】
なお、Zは正規化定数である。
【0040】
より具体的には、まず、観測値の尤度p(D|x)を、観測値d毎に算出し、これをp(d|x)とする。例えば、擬似距離の尤度p(ρ|x)、INS速度vから得られる移動ベクトルの尤度p(x|xt−1)、及び自車両と道路とがどれくらい離れているかの指標lの尤度p(l|x)は、下記(3)〜(5)式により算出することができる。
【0041】
【数3】

【0042】
ここで、Cbはクロックバイアスである。また、N(μ,σ)は、平均μ、標準偏差σの正規分布を表す。(3)〜(5)式を用いた場合には、(2)式は、下記(6)式のように表すことができる。また、各式のxは、各観測値dが観測された際に、状態推定部20で観測値dを含む観測値Dに基づいて推定された推定値xである。
【0043】
【数4】

【0044】
観測値分布算出部30は、事後分布算出部28で算出された推定値の事後確率分布p(x|D)を現在の推定値の分布として用い、この現在の推定値の分布と各観測値の尤度とに基づいて、各観測値の確率分布p(d)を算出する。例えば、擬似距離ρの場合には、下記(7)式により、擬似距離ρの確率分布p(ρ)を算出することができる。
【0045】
【数5】

【0046】
外れ値判定部32は、マルチセンサ12で観測された各観測値dと、観測値分布算出部30で算出された各観測値の確率分布p(d)とを次元毎に比較して、観測された各観測値dが外れ値か否かを判定する。例えば、図3に示すように、観測された擬似距離ρについては、擬似距離の確率分布p(ρ)と比較して、観測された擬似距離の内側確率を外れ値である確率とし、外れ値である確率が予め定めた所定値以上か否かにより、観測された擬似距離が外れ値か否かを判定することができる。また、外れ値判定部32は、外れ値であると判定した観測値dを破棄し、外れ値ではないと判定した観測値dを観測プール24に記憶する。
【0047】
信頼度算出部34は、事後分布算出部28で算出された推定値の事後確率分布p(x|D)に基づいて、状態推定部20で推定される推定値xの信頼度を算出する。例えば、図4に示すように、推定値の事後確率分布p(x|D)の平均を中心に幅aの区間を設定し、この区間に入る確率を信頼度として算出することができる。区間幅aは、要求される精度に応じて定めることができる。
【0048】
次に、図5を参照して、第1の実施の形態のマルチセンサ判定装置10において実行されるマルチセンサ判定処理ルーチンについて説明する。
【0049】
ステップ100で、マルチセンサ12で観測された観測値D(各観測値d)を取得し、観測値Dに基づいて状態を示す推定値xを推定する。
【0050】
次に、ステップ102で、観測プール24に過去に観測された正常な観測値が記憶されているか否かを判定する。観測プール24に観測値が記憶されていない場合には、ステップ104へ移行して、初期プールフィルタ22を通過した観測値dを観測プール24へ記憶し、初期プールフィルタ22を通過しなかった観測値dを廃棄する。一方、観測プールに観測値が記憶されている場合には、ステップ106へ移行する。
【0051】
ステップ106では、マルチセンサ12を構成する各センサの誤差分布など、予め知識として把握できる情報に基づいて、観測値Dから推定される推定値xの事前確率分布p(x)を算出する。なお、一時刻前に算出された推定値xの事後確率分布p(x|D)を用いてもよい。
【0052】
次に、ステップ108で、観測プール24に記憶された観測値Dを用いて、推定値xに対する観測値Dの確からしさを示す尤度p(D|x)を算出する。次に、ステップ110で、上記ステップ106で算出された推定値の事前確率分布p(x)、及び上記ステップ108で算出された尤度p(D|x)に基づいて、(2)式に従って、推定値の事後確率分布p(x|D)を算出する。
【0053】
次に、ステップ112で、上記ステップ110で算出した推定値の事後確率分布p(x|D)を現在の推定値の分布として用い、この現在の推定値の分布と各観測値の尤度p(d|x)とに基づいて、各観測値の確率分布p(d)を算出する。
【0054】
次に、ステップ114で、上記ステップ100で取得した観測値Dの各観測値dと、上記ステップ112で算出した各観測値の確率分布p(d)の各々とを観測値の次元毎に比較する。次に、ステップ116で、上記ステップ114の比較結果に基づいて、上記ステップ100で取得された観測値Dの各観測値dが外れ値か否かを判定する。観測値dが外れ値の場合には、ステップ118へ移行して、その観測値dを破棄し、観測値dが外れ値ではない場合には、ステップ120へ移行して、その観測値dを観測プール24に記憶する。
【0055】
次に、ステップ122で、上記ステップ110で算出された推定値の事後確率分布p(x|D)に基づいて、上記ステップ100で推定された推定値xの信頼度を算出して出力し、ステップ100に戻る。
【0056】
以上説明したように、第1の実施の形態のマルチセンサ判定装置によれば、外れ値ではないと判定された観測値のみを観測プールに記憶し、観測プールに記憶された観測値に基づいて、外れ値の判定に用いる推定値の確率分布を算出するため、連続して外れ値が発生し、所定時間内に観測された観測値の大半を外れ値が占める場合でも、適切に外れ値を判定することができる。
【0057】
また、次元の異なる観測値から推定された推定値の事後確率分布から、各観測値の確率分布を算出して、外れ値の判定を行うため、次元の異なる複数の観測値を比較して矛盾を判定することができ、精度の高い判定を行うことができる。
【0058】
また、上記のように次元の異なる複数の観測値を統合して算出した推定値の事後確率分布から推定値の信頼度を算出するため、精度良く信頼度を算出することができる。
【0059】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、外れ値ではないと判定された観測値を記憶しておくのではなく、そこから算出された推定値の事後確率分布を記憶しておく点が、第1の実施の形態と異なる。なお、第2の実施の形態のマルチセンサ判定装置において、第1の実施の形態のマルチセンサ判定装置10の構成と同様の構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0060】
図6に示すように、第2の実施の形態におけるマルチセンサ判定装置210は、マルチセンサ12と、コンピュータ216とを備えている。このコンピュータ216を以下で説明するマルチセンサ判定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、図6に示すように、状態推定部20と、初期プールフィルタ22と、事前分布算出部26と、事後分布算出部228と、算出された推定値の事後確率分布を記憶する事後分布記憶部36と、観測値分布算出部230と、外れ値判定部32と、外れ値ではないと判定された観測値を用いて推定値の事後確率分布を更新する事後分布更新部38と、信頼度算出部34と、を含んだ構成で表すことができる。
【0061】
事後分布算出部228は、初期プールフィルタ22を通過した観測値に基づいて、推定値の事後確率分布p(x|D)を算出する点が、観測プール24に記憶された観測値に基づいて、推定値の事後確率分布を算出する第1の実施の形態における事後分布算出部28と異なるだけである。
【0062】
観測値分布算出部230は、事後分布記憶部36に一旦記憶された推定値の事後確率分布に基づいて、観測値の確率分布p(d)を算出する点が、第1の実施の形態における観測値分布算出部30と異なるだけである。
【0063】
事後分布更新部38は、外れ値判定部32で外れ値ではないと判定された観測値を用いて、事後分布記憶部36に記憶された推定値の事後確率分布p(x|D)を更新する。
【0064】
次に、図7を参照して、第2の実施の形態のマルチセンサ判定装置210において実行されるマルチセンサ判定処理ルーチンについて説明する。なお、第1の実施の形態のマルチセンサ判定処理ルーチンと同一の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0065】
ステップ100で、マルチセンサ12で観測された観測値D(各観測値d)を取得し、観測値Dに基づいて状態を示す推定値xを推定する。
【0066】
次に、ステップ202で、事後分布記憶部36に推定値の事後確率分布が記憶されているか否かを判定する。推定値の事後確率分布が記憶されていない場合には、ステップ204へ移行し、記憶されている場合には、ステップ112へ移行する。
【0067】
ステップ204では、上記ステップ100で取得された観測値Dに初期プールフィルタ22を適用し、次に、ステップ106で、推定値xの事前確率分布p(x)を算出する。次に、ステップ208で、上記ステップ204で初期プールフィルタ22を通過した観測値Dを用いて、観測値Dの尤度p(D|x)を算出し、次に、ステップ110で、推定値の事後確率分布p(x|D)を算出する。次に、ステップ209で、上記ステップ110で算出した推定値の事後確率分布p(x|D)を事後分布記憶部36に記憶して、ステップ100へ戻る。
【0068】
上記ステップ202で肯定判定されて、ステップ112へ移行した場合には、ステップ112〜116を実行して、上記ステップ100で取得された観測値Dの各観測値dが外れ値か否かを判定し、観測値dが外れ値の場合には、ステップ118へ移行して、その観測値dを破棄し、観測値dが外れ値ではない場合には、ステップ220へ移行して、その観測値dを用いて、事後分布記憶部36に記憶された推定値の事後確率分布p(x|D)を更新する。
【0069】
次に、ステップ122で、推定値xの信頼度を算出して出力し、ステップ100に戻る。
【0070】
以上説明したように、第2の実施の形態のマルチセンサ判定装置によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏すると共に、外れ値ではないと判定された観測値自体ではなく、そこから算出された分布を記憶しておくため、計算量及びメモリ量を削減することができる。
【0071】
なお、上記第1及び第2の実施の形態では、(7)式に従って観測値の確率分布p(d)を算出する場合について説明したが、下記(8)式及び(9)式に従って算出してもよい。
【0072】
【数6】

【0073】
ここで、Hは観測方程式のデザイン行列、Qは観測値yの共分散行列、rは観測値yの残差、a及びbはパラメータである。
【0074】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、推定値の事後確率分布に基づいて推定値の信頼度を算出する場合について説明したが、推定値の事前確率分布に基づいて信頼度を算出するようにしてもよい。例えば、下記(10)に示す観測値yの分散行列、及び下記(11)式に示す観測方程式から、下記(12)式に示す推定値の事前確率分布を算出し、この推定値の事前確率分布Qに基づいて、推定値の信頼度を算出することができる。
【0075】
【数7】

【符号の説明】
【0076】
10、210 マルチセンサ判定装置
12 マルチセンサ
16、216 コンピュータ
20 状態推定部
22 初期プールフィルタ
24 観測プール
26 事前分布算出部
28、228 事後分布算出部
30、230 観測値分布算出部
32 外れ値判定部
34 信頼度算出部
36 事後分布記憶部
38 事後分布更新部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々次元の異なる観測値を観測する複数のセンサで構成されたマルチセンサと、
前記マルチセンサの各センサにより過去に観測され、かつ外れ値を含まない前記各々次元の異なる観測値から推定される状態を示す推定値の確率分布を算出する確率分布算出手段と、
前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布に基づいて算出された前記観測値各々の確率分布と、前記マルチセンサで観測された新たな観測値各々とを次元毎に比較して、前記新たな観測値各々が外れ値か否かを判定する判定手段と、
を含むマルチセンサ判定装置。
【請求項2】
前記判定手段により外れ値ではないと判定された観測値を記憶する観測値記憶手段を含み、
前記確率分布算出手段は、前記観測値記憶手段に記憶された観測値を用いて、前記推定値の確率分布を算出する
請求項1記載のマルチセンサ判定装置。
【請求項3】
前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布を記憶する確率分布記憶手段と、
前記確率分布記憶手段に記憶された推定値の確率分布を、前記判定手段により外れ値ではないと判定された観測値を用いて更新する更新手段と、を含み、
前記判定手段は、前記更新手段により前記推定値の確率分布が更新された場合には、該更新された推定値の確率分布を用いて、前記新たな観測値各々が外れ値か否かを判定する
請求項1記載のマルチセンサ判定装置。
【請求項4】
前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布、または前記複数のセンサ各々の誤差分布に基づいて算出される前記推定値の事前確率分布に基づいて、前記推定値の信頼度を算出する信頼度算出手段を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のマルチセンサ判定装置。
【請求項5】
前記マルチセンサを、GPS衛星から送信された信号を受信するGPS装置、前記マルチセンサが搭載される移動体の速度を検出する速度センサ、前記移動体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、及び地図情報を取得するセンサの少なくとも1つを含んで構成し、
前記確率分布算出手段は、前記移動体の位置または速度の確率分布を算出する
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のマルチセンサ判定装置。
【請求項6】
コンピュータを、
各々次元の異なる観測値を観測する複数のセンサで構成されたマルチセンサで観測された観測値を取得する取得手段、
前記マルチセンサの各センサにより過去に観測され、かつ外れ値を含まない前記各々次元の異なる観測値から推定される状態を示す推定値の確率分布を算出する確率分布算出手段、及び
前記確率分布算出手段により算出された推定値の確率分布に基づいて算出された前記観測値各々の確率分布と、前記マルチセンサで観測された新たな観測値各々とを次元毎に比較して、前記新たな観測値各々が外れ値か否かを判定する判定手段
として機能させるためのマルチセンサ判定プログラム。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のマルチセンサ判定装置を構成する各手段として機能させるためのマルチセンサ判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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