説明

マルチチャンネル音場処理装置

【目的】ホール空間の臨場感を実際のスピーカ配置に適応して付与するマルチチャンネル音場処理装置を提供する。
【構成】マルチチャンネル音場処理装置20は、マルチチャンネル音声入力信号に対して、所定のホール空間を対象として初期反射音の振幅、角度及び到来時間の幾何学応答をシミュレーションして得た音響特性データを基に、初期反射音の到来方向と振幅と遅延時間のスピーカ配置角度に応じた配分の音場処理係数データDist1、Dist2、Gainl、Gain2、Delayを所定アルゴリズムで求め、デジタル信号処理装置DAPにてマルチチャンネル音場処理を行う構成であり、音場処理係数データをDAPによる音場処理の起動時にメモリ装置7に予め記憶された音響特性データと外部から入力された実際の各チャンネルのスピーカの位置情報とに基づき所定アルゴリズムで算出する音場処理係数データ算出手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチチャンネルの音場処理技術に関し、特に、映画などが記録されたDVDビデオなどの3チャンネル以上のマルチチャンネル音声信号に対し、ユーザーの実際のオーディオ再生空間において、実在する種々の寸法形状のホールの臨場感を与えるように音場処理されたマルチチャンネルオーディオ信号を生成するマルチチャンネル音場処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD(Compact Disc)やFM放送などを前提とした2チャンネルの音声入力信号から、家庭に居ながらあたかもコンサートホールで聴取するような臨場感を与える音響特性を再現するために、所定のホール空間における直接音、反射音及び残響音をシミュレートした音響信号を前記音声入力信号に付加してマルチチャンネルで再生するための所謂デジタルアコースティックプロセッサ(Digital Acoustic Processor略してDAPと以後称する。)が高級オーディオ機器で用いられるようになってきている(前記DAPはデジタル信号処理装置(DSP;Digital Signal Processor)の一種である。)。
【0003】
最近では、DVDに代表される映画を典型とするパッケージメディアの音声出力がマルチチャンネル化し、5.1chあるいは7.1chといった3チャンネル以上のマルチチャンネル音声入力信号に対する音場処理が可能なマルチチャンネル対応の音場処理装置の実用化に至っている。
【0004】
図4に上記マルチチャンネル音声入力信号対応(7.1チャンネルの場合)の音場処理装置10の信号生成のアルゴリズムを説明するためのブロック図を示す。また、図5の(a),(b),(c)にそれぞれユーザー側のオーディオ再生空間(家庭の居間など)における理想的な2チャンネル(ステレオ)、5.1チャンネル、7.1チャンネルの聴取者Mに対するスピーカ配置を示す。
【0005】
図4の上記7.1チャンネルのマルチチャンネル音場処理装置10における前記DAPによるマルチチャンネル音声入力信号(L,R,Sl,Sr,C,Bl,Br)に対する7.1チャンネル(L,R,Sl,Sr,C,LFE(サブウーファ),Bl,Br)の信号処理は、実在するホールの図面データを使い、マルチチャンネルの複数の音源をホールの各所に適正配置して所定位置(概ねホールの中央またはそのやや後方)の聴取者までの直接音、初期反射音及び残響音の幾何学応答(インパルス応答)をシミュレーションにより算出して当該ホールの音響特性データを求め、これを基に以下の音場処理係数データが前記ユーザー側におけるオーディオ再生空間の理想的なスピーカ配置(図5の(c)参照)を前提に所定のアルゴリズムで算出されて外部メモリ装置9に全て記憶され、これに基づき前記DAPのCPU8からの信号処理部の制御によって信号処理が行われている。
【0006】
即ち、聴取者Mの耳に入ってくる音を(a)直接音、(b)初期反射音、(c)残響音の3つの要素に大別し、各々独立した演算を各チャンネルの音声入力信号に対して行っている。以下、個々に概説する。
【0007】
(a)直接音(Direct Sound)は、各々のマルチチャンネルの音源から直接に聴取者Mに届く音であり、その距離Dと方向に応じた遅延と減衰がある。図6の(a)にホール空間Hにおける5.1チャンネルの各音源PA Lch,PA Rch,PA Slch,PA Srch,PA Cch,PA LFEからの直接音の水平面に投影した音線の方向と距離(遅延)を示し、(b)にユーザー側のオーディオ再生空間の理想的な7.1chスピーカ配置との距離と前記音線の方向の関係を示す。
【0008】
(b)初期反射音(Early Reflection)は、壁面(ホールの左右の壁面、前後壁面、上下面)に音波が当たり跳ね返って聴取者Mに届く音であり、これも前記直接音と同じように遅延と減衰がある。これらの音は、聴取者Mには、壁面に対して音源と線対称な位置に音源(虚音源IMS)が存在すると知覚されるので虚音と呼んでいる。この虚音は図7のPA Rchを音源とする一次反射音の例に示されるように、行路A+Bの距離分の遅延と空気減衰、また壁面の吸音による減衰の後、聴取者Mへは虚音源IMSの位置に音源があるものと知覚される。この一次反射から三次反射(壁面を三回反射後、聴取者Mに到来する反射音)までを特に初期反射音といい、四次反射以降は壁面を周回する音と捉え、以下の残響音として音響エネルギの減衰と捉えられている。図8の(a)にホール空間Hにおける左右両壁面で反射した各チャンネルの音源の一次反射音の音線の例と、(b)にユーザー側のマルチチャンネルオーディオ再生空間の理想的なスピーカ配置と前記一次反射音の音線の方向の関係を示す。
【0009】
(c)残響音(Reverberation)は、空間上に放たれた音が壁面を反射しながら減衰する音である。残響音の信号処理には、残響音を付加するリバーブ(reverberant filter)と呼ばれる残響音生成フィルタが用いられており、その残響音生成フィルタにより生成された残響音信号をオーディオ信号に付加している。上記残響音生成フィルタの信号処理については、残響時間の調節が可能なコムフィルタ(Comb Filter)と、全周波数が通過帯域であって反射音の密度を上げるのに有効で位相ズレ(遅延)による色づけされた音の発生を防止するのにも有効なオールパスフィルタ(Allpass Filter)とを組み合わせた構成をとるSchroeder氏の考案したアルゴリズムが用いられている(詳細は[特許文献1]を参照)。
【0010】
次に、上記直接音と初期反射音に関する前記音場処理係数データを求める演算のアルゴリズム関して以下述べる。
【0011】
図4は、マルチチャンネル対応のDAPにおける初期反射音パターンの係数の生成アルゴリズムを表しており、実在する幾つかのホールの図面データを使い、音源を各所に配置して、聴取者までの幾何学応答をシミュレーションにより算出して得た音響特性データ(初期反射音の振幅(energy)、角度(angle)、到来時間振幅(del))から、これを基にSource(入力信号の到来方向)、Delay(反射音の到来時間(遅延時間))、Dist1,Dist2(反射音の方向(角度に応じた配分))、Gainl,Gain2(反射音の振幅(角度に応じた配分))からなる音場処理係数データを作成して前記外部メモリ装置9に全て記憶している。
【0012】
現在では、1ホールにつき数百本に及ぶ初期反射音の音場処理係数データ(反射音1本あたり6Byte)をすべてDAP外の外部メモリ装置9(ROMなどの不揮発性メモリIC)に格納し、DAP起動時にユーザーによって指定された所定のホールに対する前記音場処理係数データの読み込みを行っている。
【0013】
ここで、実際のホールで聴取者Mにどのように音が到達するかをフロントのPA Rchの音源からの音について考察すると、まず、聴取者Mには図7から判るように直接音Dが到達する。この直接音Dを家庭内のオーディオ再生空間(居間など)に配置されたマルチチャンネルスピーカで再現する場合、RスピーカとSRスピーカからその角度情報に応じた適切なレベル配分の振幅、及び遅延を加えることで、その方向から来た音源として知覚することができる。この出力レベルgR、gSRは到来時の振幅をgfr1とすると、
【0014】
【数1】

【0015】
【数2】


で求められる。これに、距離Dなる行路分の遅延を加えることで直接音の再生がなされる。同様に初期反射音A+Bについても、その振幅、到来方向の角度、到来時間(遅延時間)の情報を使い音場処理係数データが算出される。
【0016】
前記シミュレーションは、これら3つのパラメータ(反射音の到来時間Delay、反射音の方向Dist1,Dist2、反射音の振幅Gainl,Gain2)から再生されるべきスピーカを選択して、式[数1]から計算した係数を用いている。ここで再生されるスピーカは必ず隣接する2本のスピーカからであるので、図4に示すアルゴリズム図となる。1本の反射音を構成するには、遅延された任意のチャンネルの信号1つと、2つの振幅係数、さらにこの振幅を掛けた信号をどの2本のスピーカから再生するかの情報によって実現している。
【0017】
信号処理は直接音、初期反射音、残響音(リバーブ)の各独立した演算を、各チャンネルの音声入力信号に対して行っている。初期反射音は前述の音線法によるシミュレーションから求めている。図9に幾何学応答図の例を示す。
【0018】
上記マルチチャンネル音場処理装置10を搭載した本出願人の開発したオーディオ機器(典型としてAVアンプ)の音場モード(DAPモード)は、下記[表1]に示す10種のホール空間を提供している。
【0019】
【表1】

現在は、DAPの処理能力向上により、ディスクリート7chのディレイラインを設定することができるようになり、音場再生時に約450本の初期反射音を信号処理する(たたみ込める)までになっている。
【0020】
なお、上記DAPによる残響音の音場処理については、本願出願人が先に出願し公開された下記[特許文献1]に、新しい残響音信号生成方法とその装置及び残響音信号付加装置についての発明の詳細が開示されている。
【0021】
即ち、メモリ容量の少ないハードウェア構成で、遅延時間が長く、かつ反射音密度の高い残響音を生成する残響音生成装置の実現を目的として、高域周波数に対し中域周波数以下で所定の位相遅延量を有する複数のオールパスフィルタを縦接続した遅延部と、その遅延部の信号を所定量取得する信号取得手段と、その取得した信号と、供給された音響信号を加算する加算手段と、その加算された信号をオールパスフィルタ手段に再び供給するようにして巡回的にオールパスフィルタ処理を行うことにより残響信号を得るというものである。
【0022】
【特許文献1】特開2001−350487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記DAPを用いたマルチチャンネル音場処理装置10の課題として、前述のように、搭載された実在するホールの臨場感を得るマルチチャンネル音場処理モード(DAPモードという。)の10種に及ぶ各モード(表1参照)における5チャンネルの場合と7チャンネルの場合の想定される聴取ポイント2箇所の計4パターンについて数百本(例えば450本)に及ぶ初期反射音の係数データ(反射音の到来時間Delay、反射音の方向Dist1,Dist2、反射音の振幅Gainl,Gain2)をすべて外部メモリ装置9に格納し、DAP起動時にユーザーが選択した該当するモードの該当チャンネル数の該当聴取位置の係数データの読み込みを行っていた。
【0024】
而して、全モードにつきそれぞれ4パターンの初期反射音(前例では各パターンで450本)の膨大な音場処理係数データを外部メモリ装置(ROMなど)に格納しなければならないことになり、実際そうしている。
【0025】
しかし、利用できるメモリ容量には自ずと制限があって、より精緻なマルチチャンネル音場処理化の実現のネックになっており、可及的に小さなメモリ容量で済ませるようにしつつ同等以上の音場処理能力を実現することが望まれる。
【0026】
また、従来はユーザー側での理想的なスピーカ配置のマルチチャンネルオーディオ再生空間を前提に、前記初期反射音の音場処理係数データを予め算出している。即ち、初期反射音の到来方向(角度)・振幅・遅延時間は、図5の(b),(c)のようにオーディオ再生空間における理想的なマルチチャンネルのスピーカ配置を前提として算出しているので、現実のユーザーの家庭内のスピーカ配置や環境設定によっては、予期されたホール音場の再現が十分に得られない場合があり得る。
【0027】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、聴取者(ユーザー)側の実際のオーディオ再生空間における現実のマルチチャンネルのスピーカ配置に対する初期反射音の音場処理係数データを、ユーザーが選択したモード(所定のホール)に対してその都度算出し、これを基に音場処理を行うようにして実際のユーザーのマルチチャンネルオーディオ再生空間に適した音場処理を実現するとともに、メモリ装置に格納される音場処理に必要なデータ量を低減して必要なメモリ容量を削減可能にするマルチチャンネル音場処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、マルチチャンネル音声入力信号L,R,Sl,Sr,C,Bl,Brに対して、所定の寸法形状のホール空間Hを対象として複数配置されたマルチチャンネルの音源PA Lch,PA Rch,・・・から所定の聴取位置に至る複数の初期反射音の振幅、角度及び到来時間の幾何学応答をシミュレーションして得た音響特性データenergy、angle、delを基に、各チャンネルの出力信号に加算される前記初期反射音の到来方向と振幅と遅延時間のスピーカ配置角度に応じた配分の音場処理係数データDist1、Dist2、Gainl、Gain2、Delayを所定のアルゴリズムで求め、デジタル信号処理装置DAPにて前記音場処理係数データに応じてマルチチャンネル音場処理を行うマルチチャンネル音場処理装置20であって、前記初期反射音の音場処理係数データDist1、Dist2、Gainl、Gain2、Delayを、前記デジタル信号処理装置DAPによるマルチチャンネル音場処理の起動時に、メモリ装置7に予め記憶された前記音響特性データと外部から入力された当該マルチチャンネルオーディオ再生空間における各チャンネルのスピーカの位置情報とに基づいて、前記所定のアルゴリズムで算出する音場処理係数データ算出手段を備えることを特徴とするマルチチャンネル音場処理装置20を提供することにより、上記課題を解決する。
【0029】
なお、本発明におけるホール空間とは、所謂コンサートホールや大小の映画館、スタジアム、アリーナ、チャーチなど、凡そ映像や音楽の鑑賞が多人数でなされうる空間を意味する。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るマルチチャンネル音場処理装置は、上記のように構成されているため、
(1)マルチチャンネル音場処理の起動時に、ユーザーによって選択されたモード(所定のホール空間)に対する音場処理係数データをその都度算出する音場処理係数データ算出手段を備えるため、従来のように多数のホール空間に対する数百本に及ぶ初期反射音の音場処理係数データを予めメモリ装置に記憶させておく必要がないので、メモリ装置の必要なメモリ容量を低減することができ、コスト削減に資する。
(2)実際のユーザー側のマルチチャンネルオーディオ再生空間のマルチチャンネルのスピーカ配置に対する初期反射音の適正な音場処理が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明に係るマルチチャンネル音場処理装置の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0032】
なお、DAPに関する上述の従来技術と同様処理についての説明は省略し、専ら音場処理係数データ算出手段について詳述する。
【0033】
本発明の実施の形態では、DAPによるマルチチャンネル音場処理における初期反射音に関して音場処理係数データの算出ステップを変更するものであり、残響音、直接音については従来通りとしている。
【0034】
図1は本発明に係るマルチチャンネル音声入力信号対応(7.1チャンネルの場合)の音場処理装置20の信号生成のアルゴリズムを説明するためのブロック図である。図2及び図3は本発明に係るマルチチャンネル音場処理装置における音場処理係数データを求めるアルゴリズムを説明するための図である。
【0035】
図1において、マルチチャンネル音場処理装置20は、マルチチャンネル音声入力信号L,R,Sl,Sr,C,Bl,Brに対して、所定の寸法形状のホール空間Hを対象として複数配置されたマルチチャンネルの音源PA Lch,PA Rch,・・・から所定の聴取位置(聴取者M)に至る複数の初期反射音の振幅energy、角度angle及び到来時間delの幾何学応答をシミュレーションして得た音響特性データを基に、各チャンネルの出力信号に加算される前記初期反射音の到来方向と振幅と遅延時間のスピーカ配置角度に応じた配分の音場処理係数データDist1、Dist2、Gainl、Gain2、Delayを所定のアルゴリズムで求め、デジタル信号処理装置DAPにて前記音場処理係数データに応じてマルチチャンネル音場処理を行うマルチチャンネル音場処理装置20であって、前記初期反射音の音場処理係数データDist1、Dist2、Gainl、Gain2、Delayを、前記デジタル信号処理装置DAPによるマルチチャンネル音場処理の起動時に、メモリ装置7に予め記憶された前記音響特性データ(初期反射音の振幅energy、角度angle及び到来時間del)とテンキー入力装置6などによって外部からユーザーによって入力された当該マルチチャンネルオーディオ再生空間(ユーザーの家庭の居間などのマルチチャンネルAVシステムが設置されている空間)における各チャンネルのスピーカの位置情報(配置角度の情報など)とに基づいて、前記所定のアルゴリズムで算出する音場処理係数データ算出手段を備える構成となっている。
【0036】
ここで、従来のマルチチャンネル音場処理装置10において、[表1]の10種類の所定ホールについてのDAPモード(マルチチャンネル音場処理モード)が用意され、それぞれにつき各音源に対する5ch化と7ch化の音場処理が2箇所の聴取位置について用意されている場合は、合計40パターンにつきそれぞれ多数(450本程度)の初期反射音の音場処理係数データを外部メモリ装置9に予め記憶させておく必要があるが、本発明の上記マルチチャンネル音場処理装置20では、音場処理係数データはメモリ装置7には予め記憶されておらず、DAP内のメモリ装置7に記憶されているデータは、前記10種類の所定ホールについてのシミュレーションによって得られた各音源に対する2箇所の聴取位置についての音響特性データのみであり、その必要とするメモリ容量は従来に比して格段に減少している。
【0037】
そして、マルチチャンネル音場処理の際に必要な450本に及ぶ初期反射音の音場処理係数データは、ユーザーが選択した1つのDAPモードについてのみ、DAPの起動時にDAP内のCPU8でメモリ装置7から読み出した該当チャンネル数の該当聴取位置での音響特性データと、ユーザーが入力した実際のマルチチャンネルスピーカの各スピーカ配置の角度データを基にして適切に算出されて、音場処理に用いられる。
【0038】
以上のようにDAP内部でマルチチャンネル音場処理の係数データを自動算出・設定することによって、DAP周辺の外部メモリ容量を削減することができ、且つ、ユーザー側の実際のマルチチャンネルオーディオ再生空間のスピーカ配置を考慮した、最適のマルチチャンネル音場処理の生成が実現するのである。
【0039】
ここで、上記音場処理係数データDist1、Dist2、Gainl、Gain2、Delayの自動算出のアルゴリズムは、以下のステップ1〜ステップ3のとおりである。
【0040】
先ず、ステップ1で実際のマルチチャンネルオーディオ再生空間におけるスピーカ位置(スピーカ配置角度)の設定を行う。
【0041】
実際の聴取環境または視聴環境におけるマルチチャンネルの各スピーカの位置情報(スピーカ配置角度)を初めにユーザーが外部から入力装置6によるテンキー入力操作で入力して設定する。スピーカ配置角度の情報は、ユーザの正面を基準0°とし、反時計回りの角度とする。例えば、図2において、(a)の理想的な7chスピーカ配置に対して、(b)のように前方左側のスピーカFLがα°ずれている場合、このスピーカFLの位置(角度)は30°+α°となる。なお、各スピーカの位置情報としては角度情報の他に距離の情報も採用することができる。
【0042】
次に、ステップ2でユーザー選択されたDAPモード(所定のホール)の所定聴取場所における音響特性データの初期反射音の本数分の振幅(energy)、角度(angle)、到来時間(del)をメモリ装置7から読み込む。
【0043】
次に、ステップ3でそれぞれの初期反射音の音場処理係数データである到来方向(Dist1,Dist2),初期反射音の振幅(Gainl,Gain2)、遅延時間(Delay)をDAP内に設けた所定のアルゴリズムに従った算出ルーチンでステップ1で得たスピーカ位置情報(角度情報)を踏まえて以下のように算出する。
【0044】
先ず、図3に示される初期反射音の振幅(Gain)は、以下の式で表される。
【0045】
【数3】

【0046】
【数4】

なお、m=Y/X+Y,n=X/X+Yである。
【0047】
次に、初期反射音の遅延時間サンプルは以下の式[数5]で算出される。
【0048】
【数5】

ここに、上記first.delは直接音Sの到達時間サンプルであり、fsはサンプリング周波数、delは反射音A+Bの到達時間である。
【0049】
また、反射音の到来方向(Dist1、Dist2)は反射音角度angleがステップ1の実際のスピーカ配置の角度に対してどの位置(どのスピーカ間にある)かで決定される。例えば、スピーカFL=35°、スピーカC=10°、angle=20°のとき、Dist1はスピーカFLに、Dist2はスピーカCに与えられる。
【0050】
以上のようにして、ステップ1で得たユーザー側の実際のマルチチャンネルオーディオ再生空間におけるスピーカ配置角度に応じた、音場処理の適切なレベル・遅延配分が可能となることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るマルチチャンネル音声入力信号対応(7.1チャンネルの場合)の音場処理装置の信号生成のアルゴリズムを説明するためのブロック図である。
【図2】本発明に係るマルチチャンネル音場処理装置における音場処理係数データを求めるアルゴリズムを説明するための図である。
【図3】本発明に係るマルチチャンネル音場処理装置における音場処理係数データを求めるアルゴリズムを説明するための図である。
【図4】マルチチャンネル音声入力信号対応(7チャンネルの場合)の音場処理装置の信号生成のアルゴリズムを説明するためのブロック図である。
【図5】ユーザー側のオーディオ再生空間(家庭の居間など)における理想的な聴取者Mに対するスピーカ配置を表す(a)2チャンネル、(b)5.1チャンネル、(c)7.1チャンネルの場合の模式図である。
【図6】(a)はホールにおける5.1チャンネルの各音源からの直接音の音線の方向と距離(遅延)を示す模式図であり、(b)はユーザー側のオーディオ再生空間の理想的な7chスピーカ配置との距離と前記音線の方向の関係を示す模式図である。
【図7】(a)はホールにおけるPA Rchを音源とする一次反射音の模式図であり、(b)はユーザー側のオーディオ再生空間の理想的な7chスピーカ配置との距離と方向の関係を示す模式図である。
【図8】(a)は左右両壁面で反射した各チャンネルの音源の一次反射音の音線の例であり、(b)はユーザー側のオーディオ再生空間の理想的なスピーカ配置と前記一次反射音の音線の方向の関係を示す模式図である。
【図9】従来のDAP処理による所定ホールにおける音線の幾何学応答図の例を示す3次元模式図である。
【符号の説明】
【0052】
6 入力装置
7 メモリ装置(ROM)
8 CPU
9 外部メモリ装置
10、20 マルチチャンネル音場処理装置
H ホール空間
L,R,Sl,Sr,C,Bl,Br マルチチャンネル音声入力信号
PA Lch,PA Rch,・・ 音源
Energy 初期反射音の音響特性データの振幅
Angle 初期反射音の音響特性データの角度
del 初期反射音の音響特性データの到来時間
Dist1,Dist2 初期反射音の到来方向の音場処理係数データ
Gainl,Gain2 初期反射音の振幅の音場処理係数データ
Delay 初期反射音の遅延時間の音場処理係数データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチチャンネル音声入力信号に対して、所定の寸法形状のホール空間を対象として複数配置されたマルチチャンネルの音源から所定の聴取位置に至る複数の初期反射音の振幅、角度及び到来時間の幾何学応答をシミュレーションして得た音響特性データを基に、各チャンネルの出力信号に加算される前記初期反射音の到来方向と振幅と遅延時間のスピーカ配置角度に応じた配分の音場処理係数データを所定のアルゴリズムで求め、デジタル信号処理装置にて前記音場処理係数データに応じてマルチチャンネル音場処理を行うマルチチャンネル音場処理装置であって、
前記初期反射音の音場処理係数データを、前記デジタル信号処理装置によるマルチチャンネル音場処理の起動時に、メモリ装置に予め記憶された前記音響特性データと外部から入力された当該マルチチャンネルオーディオ再生空間における各チャンネルのスピーカの位置情報とに基づいて、前記所定のアルゴリズムで算出する音場処理係数データ算出手段を備えることを特徴とするマルチチャンネル音場処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−157210(P2006−157210A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341764(P2004−341764)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】