説明

マルチX線発生装置

【課題】 制御性の優れたマルチX線ビームの形成を小型の装置により可能とする。
【解決手段】 マルチ電子ビーム発生部12のマルチ電子放出素子15から発生した電子ビームeは、レンズ電極19によるレンズ作用を受け、アノード電極20の透過型ターゲット13の部分で最終電位の高さに加速される。ターゲット13で発生したマルチX線ビームxは真空内X線遮蔽板23、X線取出部24を通り、更に壁部25のX線取出窓27から大気中に取り出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線源を用いた医療機器や産業機器分野の非破壊X線撮影、診断応用等に使用するマルチX線発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線管球は電子源に熱電子源を用いたものであり、高温度に加熱したフィラメントから放出される熱電子をウエネルト電極、引出電極、加速電極、及びレンズ電極を通して、電子ビームを高エネルギに加速する。そして、所望の形状に電子ビームを成形した後に、金属から成るX線ターゲットに照射してX線を発生させている。
【0003】
近年、この熱電子源に代る電子源として冷陰極型電子源が開発され、フラットパネルディスプレイ(FPD)の応用として広く研究されている。冷陰極の代表的なものとして、数10nmの針の先端に高電界を掛けて電子を取り出すスピント(Spindt)型タイプの電子源が知られている。更に、カーボンナノチューブ(CNT)を材料とした電子放出エミッタや、ガラス基板の表面にnmオーダの微細構造を形成して、電子を放出する表面伝導型電子源がある。
【0004】
これらの電子源の応用として、スピント型電子源やカーボンナノチューブ型電子源を用いて単一の電子ビームを形成してX線を取り出すことが、特許文献1、2に提案されている。そして、これらの冷陰極電子源を複数用いてマルチ電子源からの電子ビームをX線ターゲット上に照射してX線を発生させることも、特許文献3、非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−180894号公報
【特許文献2】特開2004−329784号公報
【特許文献3】特開平8−264139号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Physics Letters 86,184104(2005),J.Zhang「Stationary scanning x−ray source based on carbon nanotube field emitters」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図14は従来のマルチ電子ビームを用いたX線発生方式の構成図である。マルチ電子放出素子から成る複数の電子源により電子ビームeを発生する真空室1内において、電子ビームeをターゲット2に照射してX線を発生し、発生したX線をそのまま大気中に取り出している。しかし、ターゲット2から発生するX線は真空内で全方向に発散する。このため、大気内X線遮蔽板3のX線取出窓4から放射されるX線は、隣接したX線源から放射したX線が同じX線取出窓4を透過するため、独立したマルチX線ビームxを形成することが難しい。
【0008】
また図15に示すように、真空室1の壁部5に1個の大気内X線遮蔽板6を設けて、X線取出窓4からX線を大気側に取り出す際に、発散X線x1の中で被検体Pへの照射に不要な漏洩X線x2が多く放射する問題がある。更に、従来の単一のX線源と異なり、マルチ電子放出素子から成る複数の電子源を用いているため、一様な強度のマルチX線ビームを形成することが困難である。
【0009】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、コンパクトで散乱X線が少なく、均一性に優れたマルチX線ビームが形成できるマルチX線発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るマルチX線発生装置の技術的特徴は、マルチ電子放出素子と、該マルチ電子放出素子から放出したマルチ電子ビームを加速する加速手段と、該マルチ電子ビームを照射するターゲットとから成るX線発生装置において、前記ターゲットを前記マルチ電子ビームに対応して設け、前記ターゲットはX線遮蔽手段を備え、前記ターゲットから発生するX線をマルチX線ビームとして大気中に取り出し可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るマルチX線発生装置によれば、マルチ電子放出素子を用いたマルチX線源により、X線の発散角が制御された散乱と漏洩X線の少ないマルチX線ビームを形成することができる。また、このマルチX線ビームを用いて、ビームの均一性が優れた小型化したX線撮影装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のマルチX線源本体の構成図である。
【図2】素子基板の平面図である。
【図3】スピント型素子の構成図である。
【図4】カーボンナノチューブ型素子の構成図である。
【図5】表面伝導型素子の構成図である。
【図6】マルチ電子放出素子の電圧電流特性のグラフ図である。
【図7】X線遮蔽板を備えたマルチ透過型ターゲットの構成図である。
【図8】透過型ターゲットの構成図である。
【図9】X線遮蔽板を備えたマルチ透過型ターゲットの構成図である。
【図10】X線・反射電子線遮蔽板を備えた透過型ターゲットの構成図である。
【図11】X線遮蔽板にテーパ状のX線取出部を設けた構成図である。
【図12】実施例2の反射型ターゲットによるマルチX線源本体の斜視図である。
【図13】実施例3のマルチX線撮影装置の構成図である。
【図14】従来のマルチX線源の構成図である。
【図15】従来のマルチX線源の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を図1〜図13に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1はマルチX線源本体10の構成図であり、真空室11内にはマルチ電子ビーム発生部12、透過型ターゲット13が配置されている。マルチ電子ビーム発生部12は、素子基板14と、その上に複数個のマルチ電子放出素子15が配列された素子アレイ16により構成され、電子放出素子15は駆動信号部17により駆動が制御されるようになっている。電子放出素子15から発生するマルチ電子ビームeを制御するために絶縁体18に固定されたレンズ電極19とアノード電極20が設けられ、これらの電極19、20に高電圧導入部21、22を介して高電圧が供給されている。
【0015】
発生したマルチ電子ビームeが衝突する透過型ターゲット13は、マルチ電子ビームeに対応して離散的に配置されている。更に、ターゲット13に重金属から成る真空内X線遮蔽板23が設けられ、この真空内X線遮蔽板23にX線取出部24が設けられ、その前方の真空室11の壁部25にはX線透過膜26を備えたX線取出窓27が設けられている。
【0016】
マルチ電子放出素子15から発生した電子ビームeは、レンズ電極19によるレンズ作用を受け、アノード電極20の透過型ターゲット13の部分で最終電位の高さに加速される。ターゲット13で発生したX線ビームxはX線取出部24を通り、更にX線取出窓27から大気中に取り出される。
【0017】
マルチ電子放出素子15は図2に示すように素子アレイ16上に二次元的に配列されている。近年のナノテクノロジの進歩に伴って、決められた位置にnmサイズの微細な構造体をデバイスプロセスによって形成することが可能であり、電子放出素子15はこのナノテクノロジ技術を使って製作されている。また、これらの電子放出素子15のそれぞれは、駆動信号部17を介して後述する駆動信号S1、S2によって個別に電子放出量の制御が行われる。このことは、駆動信号S1、S2のマトリックス信号により素子アレイ16の電子放出量を個別に制御することで、マルチX線ビームのオン/オフを制御できることになる。
【0018】
図3はスピント型のマルチ電子放出素子15の構成図である。Siを材料とした素子基板31上に絶縁体32と引出電極33が設けられ、その中心のμmサイズの溝に金属や半導体材料から成る先端径が数10nmの円錐状のエミッタ34がデバイス製作のプロセスを用いて形成されている。
【0019】
図4はカーボンナノチューブ型のマルチ電子放出素子15の構成図である。エミッタ35の材料として、数10nmの微細な構造体から成るカーボンナノチューブを用いたものであり、エミッタ35が引出電極36の中心に形成されている。
【0020】
これらのスピント型素子とカーボンナノチューブ型素子は、引出電極33、36に数10〜数100Vの電圧を印加することで、エミッタ34、35の先端に高電界が印加され、電界放出現象によって電子ビームeが放出される。
【0021】
更に、図5は表面伝導型のマルチ電子放出素子15の構成図を示し、ガラス素子基板31の上に形成した薄膜電極37の隙間に、ナノ粒子から成る微細な構造体がエミッタ38とされている。この表面伝導型素子は電極間に10数Vの電圧を印加することで、電極間の微粒子で形成された微細なギャップに高電界が印加され、それによって伝導電子が発生する。同時に、真空中に電子ビームeが放出され、比較的低電圧で電子放出を制御することができる。
【0022】
図6はこれらのスピント型素子、カーボンナノチューブ型素子、表面伝導型素子の電圧電流特性を示している。一定の放射電流を得るためには、平均の駆動電圧Voに対して補正電圧ΔVの補正した電圧を、駆動電圧としてマルチ電子放出素子15に供給することで、電子放出素子15のエミッション電流のばらつきを補正することができる。
【0023】
上述の電子放出素子以外のマルチX線ビーム発生用の電子源として、MIM(Metal Insulator Metal)型素子、MIS(Metal Insulator Semiconductor)型素子が適用である。更には、半導体のPN接合、ショットキー接合型等の冷陰極型電子源の適用が可能である。
【0024】
このような冷陰極型電子放出素子を電子源としたX線発生装置は、カソードを加熱せずに室温で、しかも電子放出素子に低電圧を供給することで電子が放出するので、X線発生のための待ち時間は必要はない。また、カソード加熱のための電力を必要としないため、マルチX線源を構成しても低消費電力型X線源を造ることができる。そして、これら電子放出素子は駆動電圧の高速駆動で電流のオン/オフ制御が可能であることから、駆動する電子放出素子を選択し、かつ高速応答するマルチアレイ状のX線線源を製作することができる。
【0025】
図7〜図11はマルチX線ビームxの形成方法の説明図である。図7はマルチ型透過型ターゲット13の一例を示し、真空室11内にマルチ電子放出素子15に対応したターゲット13が並んでいる。マルチX線ビームxを形成するためには、1個所の電子ビームeがターゲット13に照射して発生するX線と、隣接の電子ビームeによって発生するX線ビームxとが混合せずに、区別して真空室11から外部に取り出すことが必要である。
【0026】
そのために、真空内X線遮蔽板23とマルチ型の透過型ターゲット13とを一体構造にしている。この真空内X線遮蔽板23に設けられたX線取出部24は、必要な開き角のX線ビームxがターゲット13から取り出せるように、マルチ電子ビームeに対応した位置に配列されている。
【0027】
金属薄膜で形成された透過型ターゲット13は一般的に熱放散が低いため、大きな電力投入が難しいとされている。しかし、本実施例のターゲット13は電子ビームeを照射してX線ビームxを取り出す領域以外は、厚い真空内X線遮蔽板23で覆われ、ターゲット13とX線遮蔽板23は機械的かつ熱的にコンタクトしている。そのため、X線遮蔽板23を通して熱伝導によりターゲット13の熱を放熱する機能を有している。
【0028】
従って、従来型の透過型ターゲットに比べて遥かに大きな電力を投入し、かつ複数に配列した透過型ターゲット13を構成することが可能となる。そして、厚い真空内X線遮蔽板23を用いることで面精度が向上するため、X線放射特性の揃ったマルチX線源を製作することができる。
【0029】
透過型ターゲット13は図8に示すようにX線発生層13aとX線発生支持層13bから成り、X線の発生効率が高く、機能性に優れている。そして、X線発生支持層13b上には真空内X線遮蔽板23が設けられている。
【0030】
X線発生層13aはX線ビームxが透過型ターゲット13を透過する際に生ずる吸収を軽減するために、数10nm〜数μm程度の重金属により形成されている。また、X線発生支持層13bはX線発生層13aの薄膜層を支持すると同時に、電子ビームeの照射により加熱したX線発生層13aの冷却効率を高め、X線ビームxの吸収により強度減衰を軽減するために、軽元素から成る基板を用いている。
【0031】
従来のX線発生支持層13bは一般的には、基板材料として金属ベリリウムが有効であるとされてきたが、本実施例では0.1mm〜数mm程度の厚さのAl、AlN,SiCを単独に又は組合わせて用いている。この材料は熱伝導性が高くX線透過性に優れ、X線ビームxの低エネルギ領域でX線透過像の像質への寄与が少ないX線ビームxを50%以下に有効に吸収し、X線ビームxの線質を変えるフィルタ機能を有するからである。
【0032】
図7において、マルチX線ビームxの発散角は真空室11内に配置されたX線取出部24の開口条件で決められるが、撮影条件によってX線ビームxの発散角を調整したい場合がある。図9はこの要望に対応して2つの遮蔽手段を有し、真空内X線遮蔽板23に加えて、真空室11の外側に設けた大気内X線遮蔽板41が組み合わせられている。この大気中に設けられた大気内X線遮蔽板41の交換は容易であることから、被検体の照射条件に合わせて、X線ビームxの発散角を自在に選択することができる。
【0033】
真空内X線遮蔽板23、大気内X線遮蔽板41を設けて、隣接したX線源からのX線ビームの漏洩を防止するためには、次の条件が必要である。即ち、マルチX線ビームxの間隔をd、透過型ターゲット13と大気内X線遮蔽板41の間隔をD、真空内X線遮蔽板23から放射するX線ビームxの放射角αとしたとき、d>2D・tanαの関係を維持して、遮蔽板23、41とX線取出部24を設定する。
【0034】
また、高エネルギのマルチ電子ビームeが透過型ターゲット13に当たると、反射する方向にX線ビームxだけでなく反射電子が散乱される。これらのX線や電子線は、X線源の漏洩X線や高電圧の微小放電が原因になると考えられる。
【0035】
図10はこの問題の対策を施したものであり、透過型ターゲット13のマルチ電子放出素子15側に、電子ビーム入射孔42を設けたX線・反射電子線遮蔽板43が設けられている。電子放出素子15から放出したマルチ電子ビームeは、このX線・反射電子線遮蔽板43の電子ビーム入射孔42を通過して、ターゲット13に照射する構造となっている。これにより、ターゲット13の表面から電子源側に発生するX線と反射電子、及び2次電子を遮蔽板43で遮蔽することができる。
【0036】
高エネルギの電子ビームeを透過型ターゲット13に照射してマルチX線ビームxを形成する場合に、X線ビームxの配列密度の制限はマルチ電子放出素子15の配列密度により制限されるものではない。この配列密度はターゲット13で発生するマルチX線源の中からそれぞれ分離したマルチX線ビームxとして取り出すための遮蔽板により決まる。
【0037】
表1は100KeVの電子ビームeを透過型ターゲット13に照射して、発生するX線ビームxのエネルギを想定して、50KeV、62KeV、82KeVの各エネルギのX線ビームxに対する重金属(Ta,W,Pb)の遮蔽効果を示している。
【0038】
表1 遮蔽材の厚さ(単位cm、減衰率1/100)
遮蔽材 82KeV 62KeV 50KeV
Ta 0.86 1.79 0.99
W 0.72 1.48 0.83
Pb 1.98 1.00 0.051
透過型ターゲット13から発生するX線ビームx同士の遮蔽規準として、X線画像に影響しない量として減衰率1/100が適当であり、この減衰率を達成するための遮蔽板の厚さとして、約5〜10mm厚の重金属が必要になることが分かる。
【0039】
このことから、100KeV程度の電子ビームeを用いたマルチX線源本体に本方式を適用した場合に、図11に示す遮蔽板43、23の厚さD1、D2を、5〜10mmに設定することが適当である。また、真空内X線遮蔽板23のX線取出部24をテーパ状の窓にすることで、遮蔽効率を高めることができる。
【実施例2】
【0040】
図12は実施例2の構成図であり、反射型ターゲット13’を備えたマルチX線源本体10’の構造を示している。真空室11’内にマルチ電子ビーム発生部12’と、反射型ターゲット13’、電子ビーム入射孔42’とX線取出部24’を備えたX線・反射電子線遮蔽板43’とから成るアノード電極20’により構成されている。
【0041】
マルチ電子ビーム発生部12’では、マルチ電子放出素子15で発生したマルチ電子ビームeはレンズ電極を通過して高エネルギに加速され、X線・反射電子線遮蔽板43’の電子ビーム入射孔42’を通って反射型ターゲット13’に照射される。ターゲット13’で発生したX線ビームxは、X線・反射電子線遮蔽板43’のX線取出部24’からマルチX線ビームxとして取り出される。また、高電圧放電の原因となる反射電子の散乱も、このX線・反射電子線遮蔽板43’によって大幅に抑制することができる。
【0042】
更に、図9で真空内X線遮蔽板23と大気内X線遮蔽板41を用いてマルチX線ビームxの放射角を調整したように、図12の構成においてもX線ビームxの放射角を大気内X線遮蔽板41を用いて調整することができる。
【0043】
実施例2では、平面構造の反射型ターゲット13’への適用例について述べたが、マルチ電子ビーム発生部12’とアノード電極20’及びターゲット13’を円弧状に配置したマルチX線源本体においても適用することができる。例えば、ターゲット13’が置かれる位置として、被検体を中心とする円弧状に配列して、X線遮蔽板23、41を設けることで、図15の従来例に示す漏洩X線x2の領域を極端に少なくすることができる。なお、この配列は透過型ターゲット13においても同様に適用できる。
【0044】
このように、実施例2ではマルチ電子ビームeが反射型ターゲット13’に照射して、発生するX線ビームxの中から散乱X線や漏洩X線の極めて少ないS/Nの高い独立したマルチX線ビームxを取り出すことができる。従って、このX線ビームxを用いてコントラストの高い高画質のX線撮影を実施することができる。
【実施例3】
【0045】
図13はマルチX線撮影装置の構成図を示している。この撮影装置は図1で示すマルチX線源本体10の前方に、透過型X線検出器51を備えたマルチX線強度測定部52が配置され、更に図示しない被検体を介してX線検出器53が配置されている。強度測定部52、X線検出器53はそれぞれX線検出信号処理部54、55を介して制御部56に接続されている。また、制御部56の出力はマルチ電子放出素子駆動回路57を介して駆動信号部17に接続されている。更に制御部56の出力は、高電圧制御部58、59を介してそれぞれレンズ電極19、アノード電極20の高電圧導入部21、22に接続されている。
【0046】
マルチX線源本体10でマルチ電子ビーム発生部12から取り出した複数の電子ビームeを、透過型ターゲット13に照射してX線を発生する構成であることは、実施例1で説明した通りである。発生したX線ビームxは壁部25に設けられたX線取出窓27を通してマルチX線ビームxとして、大気中のマルチX線強度測定部52に向けて取り出される。X線ビームxは強度測定部52のX線検出器51を透過した後に被検体に照射される。そして、被検体を透過したX線ビームxはX線検出器53で検出され被検体のX線透過画像が得られる。
【0047】
素子アレイ16上に配列されたマルチ電子放出素子15では、電子放出素子15間の電流電圧特性に多少のばらつきが生ずる。このエミッション電流のばらつきは、マルチX線ビームxの強度分布のばらつきとなり、X線撮影の際にコントラストのむらとなるため、電子放出素子15のエミッション電流の均一化が必要となる。
【0048】
マルチX線強度測定部52のX線検出器51は半導体を利用した検出器である。このX線検出器51はX線ビームxの一部を吸収して電気信号に変換し、その後にX線検出信号処理部54でデジタルデータに変換され、マルチX線ビームxのそれぞれの強度データとして制御部56に保存される。
【0049】
更に、制御部56には図6の各マルチ電子放出素子15の電圧電流特性に相当する電子放出素子15の補正データが保存されており、マルチX線ビームxの検出強度データと比較して、各電子放出素子15に対する補正電圧の設定値が決められる。この補正電圧を用いて、マルチ電子放出素子駆動回路57が制御するマルチ放出素子駆動信号部17による駆動信号S1、S2の駆動電圧を補正する。これにより、電子放出素子15のエミッション電流の均一化ができると同時に、マルチX線ビームxの強度の均一化を図ることができる。
【0050】
この透過型X線検出器51を用いたX線強度補正方法は、被検体に関係なくX線強度が計測できるため、X線撮影中にリアルタイムでマルチX線ビームxの強度の補正を行うことができる。
【0051】
上述の補正方法とは別に、撮影用のX線検出器53を用いてもマルチX線ビームxの強度補正が可能である。X線検出器53はCCD固体撮像素子やアモルファスシリコンを用いた撮像素子等の二次元型のX線検出器を用いており、それぞれのX線ビームxの強度分布を計測することができる。
【0052】
X線検出器53を用いてマルチX線ビームxの強度補正を行うには、1個のマルチ電子放出素子15を駆動して電子ビームeを取り出し、発生するX線ビームxの強度をX線検出器53で同期検出ればよい。この場合、マルチX線ビームのそれぞれの発生信号と撮影用のX線検出器からの検出信号を同期させて計測すれば、効率的な強度分布計測ができる。この検出信号はX線検出信号処理部55でデジタル変換処理された後に、データは制御部56に保存される。
【0053】
全てのマルチ電子放出素子15に対してこの操作を行い、全マルチX線ビームxの強度分布データとして制御部56に保存すると同時に、X線ビームxの強度分布の一部、又は積分値を用いて各電子放出素子15に対する駆動電圧の補正値が決定される。
【0054】
そして、被検体のX線撮影時に、マルチ電子放出素子駆動回路57は駆動電圧の補正値に従ってマルチ電子放出素子15を駆動する。これらの一連の操作は、通常は定期的な装置校正として行うことで、マルチX線ビームxの強度の均一化を図ることができる。
【0055】
ここでは、マルチ電子放出素子15を個別に駆動してX線強度測定する例を説明をしたが、X線検出器53上で放射X線ビームxが重ならない個所のX線ビームxを、複数個所で同時に放射して計測を高速化することもできる。
【0056】
更に、本補正方法は個々のX線ビームxの強度分布をデータとして持っているため、X線ビームx内のむら補正にも使用することができる。
【0057】
本実施例のマルチX線源本体10を用いたX線撮影装置は、上述したようにマルチX線ビームxを並べて被検体サイズの平面型X線源を実現できるため、マルチX線源本体10とX線検出器53の間を接近させて、装置を小型化することもできる。更に、X線ビームxは上述したように、マルチ電子放出素子駆動回路57の駆動条件や駆動する素子領域を指定することで、X線照射強度と照射領域を任意に選択することができる。
【0058】
また、マルチX線撮影装置は図9に示す大気内X線遮蔽板41を変えて、マルチX線ビームxの放射角が選択できることから、マルチX線源本体10と被検体の距離や解像度等の撮影条件に合わせて、最適なX線ビームxが得られる。
【符号の説明】
【0059】
10 マルチX線源本体
11 真空室
12 マルチ電子ビーム発生部
13 透過型ターゲット
13’ 反射型ターゲット
13a X線発生層
13b X線発生支持層
15 マルチ電子放出素子
16 素子アレイ
23 真空内X線遮蔽板
24 X線取出部
41 大気内X線遮蔽板
42 電子ビーム入射孔
43 X線・反射電子線遮蔽板
51 透過X線検出器
52 マルチX線強度測定部
53 X線検出部
56 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ電子放出素子と、該マルチ電子放出素子から放出したマルチ電子ビームを加速する加速手段と、該マルチ電子ビームを照射するターゲットとから成るX線発生装置において、
前記ターゲットを前記マルチ電子ビームに対応して設け、
前記ターゲットはX線遮蔽手段を備え、
前記ターゲットから発生するX線をマルチX線ビームとして大気中に取り出し可能としたことを特徴とするマルチX線発生装置。
【請求項2】
前記マルチX線ビームは、該X線ビームの照射条件に基づいて、冷陰極型電子源で構成した電子放出素子に対する電圧制御により、前記X線ビームのオン/オフを可能としたことを特徴とする請求項1に記載のマルチX線発生装置。
【請求項3】
前記ターゲットに散乱X線及び反射電子線を抑制する更に他の遮蔽手段を取り付け、該他の遮蔽手段は電子ビームの入射孔を備えたことを特徴とする請求項1に記載のマルチX線発生装置。
【請求項4】
前記ターゲットは透過型ターゲットであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載のマルチX線発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−33505(P2012−33505A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242580(P2011−242580)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2007−50942(P2007−50942)の分割
【原出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】