説明

マンゴー果汁の処理方法

【課題】マンゴ-果汁本来の混濁した外観を維持しながら、長期間の保存においても、マンゴー果汁加工品自体において、又はそれを添加した飲料において、沈殿を発生しない、香味豊かなマンゴー果汁を得るための方法を検討する必要がある。
【解決手段】パルプ分を低減したマンゴー果汁加工品の製造方法において、遠心効果1200Gで10分間遠心分離したときの濁度が3700以上であるマンゴー果汁を、酵素剤で処理し;そして酵素処理物を脱パルプ処理し、パルプ分が20%(v/v)以下であり、かつ濁度が1400NTU以上であるマンゴー果汁加工品を得る工程を含む、製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンゴー果汁入り飲料に関する。詳細には、マンゴー果汁入り飲料における混濁した外観を維持しながら、沈殿の発生を防止するための処理に関する。
【背景技術】
【0002】
マンゴーは、熟した実を生のまま食用にするほか、その果汁を原料として、種々の飲料が調製されている。ブドウ等を用いた比較的清澄な外観を有する果汁入り飲料があるのに対して、マンゴーを用いた飲料は、マンゴー果肉の柔らかな口当たりやまろやかさを想起させるような、混濁した濃い黄橙色であり、粘度が高いものが多い。
【0003】
一般に、果汁そのものは、水溶性成分と不溶性成分が混在していて濁っており、このうち、不溶性成分は、繊維質、タンパク質、ペクチン、ガム質などからなり、天然果汁特有のマイルドな味わいとコクを与え、果汁入り飲料の香味に重要な役割を果たしている。 しかしながら、不溶性成分は、果汁入り飲料において沈降して、経時的に沈殿を発生し易く、商品価値を低下させることがある。沈殿の発生を防止するための手段としては、混濁していない清澄果汁を用いたり、脱パルプ処理をした果汁を用いたりすることもできるが、通常、脱パルプ処理の際に果汁本来の優れた香味も低減してしまう。このような点において、マンゴー果汁は特殊であり、特定の脱パルプ処理を施した場合には、混濁した外観を有するにもかかわらず沈殿の発生が防止され、かつ果汁本来の優れた香味成分が充分に保持される。このマンゴーの特質を利用したものとして、特許文献1には、マンゴー果汁のパルプ分を低減したマンゴー果汁加工品であって、糖度を基準として搾汁状態の濃度にしたとき、パルプ分が容量百分率で20%以下であり、かつ濁度が2,000NTU以上である、マンゴー果汁加工品が記載されている。
【0004】
一方、リンゴやブドウ等の果汁の清澄化には、ペクチナーゼが使用されることがある。果汁は、通常、水溶性のペクチンを多量に含有している。果汁中のペクチンは、高分子のため果汁に粘性を与え、果汁中に存在する混濁粒子を安定なコロイド系に保持している。そのため、果汁中の高分子ペクチンを分解することが清澄化のために必要であると考えられ、ペクチナーゼが使用されてきた。例えば、特許文献2には、果実の圧搾液汁に酵素を添加して清澄処理するに当り、該清澄処理後の濁度が光波長600〜800nmにおける10mmセルの吸光度で0.03〜0.50となるように調整することを特徴とする半透明果汁の製造法が記載されている。ここにおいて用いられる酵素として挙げられているのは、ペクチン分解酵素剤、セルロース分解酵素剤、デンプン分解酵素剤、タンパク分解酵素剤及びこれらの酵素剤を色々と組み合わせた混合酵素剤である。また、ペクチナーゼを果汁の粘度を低減するために用いた例として、特許文献3を挙げることができる。特許文献3には、主成分がグアバ果実であり、かつBrixが25以上であることを特徴とする粘稠状グアバ加工食品を製造する方法として、濃縮グアバ果汁を準備し、この濃縮グアバ果汁に対し、セルラーゼおよびペクチナーゼのうちの少なくとも一種の加水分解酵素を用いて加水分解処理を行った後、調味料を添加してBrixが25以上になるまで混合しながら加熱することを特徴とする粘稠状グアバ加工食品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4132691号公報
【特許文献2】特許第2649587号公報
【特許文献3】特開2004-173559公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によると、特許文献1の記載に基づき、遠心分離による脱パルプ処理を行うと、汎用な栽培品種の一つであるアルフォンソ種を原料マンゴーとして用いた場合には十分な効果を奏する一方で、マグダレーナ・リバー種を原料マンゴーとして用いた場合には、脱パルプ処理物やそれを用いた飲料の保存中に沈殿の発生が見られることがあった。
【0007】
マンゴ-果汁本来の混濁した外観を維持しながら、長期間の保存においても、マンゴー果汁加工品自体において、又はそれを添加した飲料において、沈殿を発生しない、香味豊かなマンゴー果汁を得るための方法を検討する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する:
〔1〕 パルプ分を低減したマンゴー果汁加工品の製造方法において、
遠心効果1200(x G)で10分間遠心分離したときの濁度が3700以上であるマンゴー果汁を、酵素剤で処理し;そして酵素処理物を脱パルプ処理し、パルプ分が20%(v/v)以下であり、かつ濁度が1400NTU以上であるマンゴー果汁加工品を得る工程を含む、製造方法。
〔2〕 パルプ分を低減したマンゴー果汁加工品の製造方法において、ヘイデン種、トミーアトキンス種、トルベット種、及びマグダレーナ・リバー種から選択されるいずれか一のマンゴー果実から得られたマンゴー果汁をペクチナーゼ処理するが、このときペクチナーゼ処理が、ペクチナーゼを含む酵素剤を、マンゴー果汁100mlに対してペクチナーゼ活性が2.4〜7.5unitとなるように用いて、pH3.0〜6.0、30〜60℃で、15〜30分間処理するものであり;そして
ペクチナーゼ処理物を、脱パルプ処理し、パルプ分が20%(v/v)以下であり、かつ濁度が1400NTU以上であるマンゴー果汁加工品を得る
工程を含む、製造方法。
〔3〕 酵素剤のセルラーゼ活性値が、ペクチナーゼ活性値を基準として、その60倍以下である、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 脱パルプ処理が、遠心分離法である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔5〕 遠心分離法における遠心効果が、20,000〜500(x G)である、〔4〕記載の製造方法。
〔6〕 〔1〕〜〔5〕のいずれか一に定義されたマンゴー果汁加工品を得る工程;そして得られたマンゴー果汁加工品を添加する工程を含む、マンゴー果汁加工品入り飲料の製造方法。
〔7〕 マンゴー果汁加工品の添加量が、搾汁状態の濃度に換算して0.1〜99.9%である、〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕 飲料が、アルコール飲料である、〔6〕又は〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕 飲料が、ノンアルコール飲料である、〔6〕又は〔7〕に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、酵素処理工程及び脱パルプ処理工程を含む、パルプ分を低減したマンゴー果汁加工品の製造方法を提供する。
原料マンゴー:
マンゴー(Mangifera indica)は、ウルシ科(Anacardiaceae)に属する熱帯植物であり、その果実は食用に供される。マンゴー果実には、600種以上の栽培品種(以下、単に品種ともいう)があり、それぞれ固有の特徴を有する。例えば、食味がよく豊産性のキーツや、やや食味は劣るが貯蔵性がよいトミーアトキンスが主要品種であるが、この他にも日本や台湾の主要品種で香りがよいアーウィン(アップルマンゴーとして親しまれている。)、貯蔵性は劣るが食味のよいケント、インドで特に一般的な中晩生品種であるアルフォンソ、グリーン(カリフォルニア)、ジル、キンコウ、愛紅、マニラ、ヘイデン、ナムドクマイ、マグダレーナ・リバー(Magdalena River)がある。
【0010】
本発明で、マンゴー果実というときは、特に記載した場合を除き、飲料原料として用いるのに適した熟度のマンゴー果実を指す。マンゴー果実は、有機栽培されたものであることが好ましい。本発明で用いられるマンゴー果実としては、繊維質が相対的に多めの品種が好適である。具体的には、ヘイデン、トミーアトキンス、トルベット、マグダレーナ・リバーが挙げられる。ヘイデンは香りが強く食味のよいハワイの主要品種、トルベットはフロリダの早生品種、マグダレーナ・リバーはコロンビアのマグダレーナ川流域を中心として同国内全域で栽培される、香味豊かな特徴で知られる品種である。
【0011】
本発明においては、マンゴー果実の産地は特に限定されず、インド、台湾、タイ、メキシコ、などの世界中の生産国のマンゴー果実を好適に用いることができる。
本発明でいうマンゴー果汁とは、前記マンゴーの果実から搾汁した液汁を指す。マンゴー果汁は、マンゴーピューレ(マンゴー果実を破砕して裏ごしした果汁)、及びマンゴー果汁の発酵液を含む。
【0012】
本発明においては、マンゴー果汁として、マンゴーピューレを用いることが好ましい。マンゴーピューレの製造方法には特に制限はないが、例えば、選別、熟成したマンゴー果実を、洗浄、加熱、パルパー及び/又はフィニッシャーで裏ごしする工程により製造することができる。
【0013】
本発明は、不溶性固形分の特に多いマンゴーを原料として用いる場合、例えば、特許文献1の方法で脱パルプ処理したときに沈殿が観察されるようなマンゴーを原料として用いる場合に適する。このようなマンゴー果汁は、より具体的には、1200(×G)で10分間遠心し、透明容器に封入し、そして20℃恒温水槽で30分間保持したときに、容器底部に目視で沈殿が観察されるか、及び/又はその濁度が、3600NTU以上、より好ましくは3700NTU以上、さらに好ましくは4000NTU以上であるものである。
【0014】
本発明において「パルプ分」というときは、特に記載した場合を除き、果汁に含まれる不溶性成分のうちの、日本農林規格検査法で定義される不溶性固形物のことをいう。パルプ分は、日本農林規格検査法に記載の方法によって算出する。すなわち、遠心沈降管に試料を入れ、回転半径14.5cmの遠心分離機で、20℃において、3,000回転、10分間遠心した後の沈殿物の容量%を、不溶性固形物測定用遠心沈殿管(目盛り付き)で読み取り、その体積を全試料の体積の百分率として表わす(「最新果汁・果実飲料事典」、(社)日本果汁協会、1997年10月1日初版第1刷、574ページ)。
【0015】
本発明において「濁度」というときは、特に記載した場合を除き、HACH社製・濁度計2100AN型を用いて測定される濁度を用いる(濁度単位: NTU、測定レンジ0〜10,000NTU)。この方法で測定する場合、90°散乱光だけでなく前方及び後方の散乱光、透過光を検出することができるため、マンゴー果汁のような着色度の高いサンプルの濁度測定に適している。
【0016】
本発明においてマンゴー果汁加工品及びそれを添加した飲料(アルコール飲料を含む)の態様における混濁状態及び沈殿をいうときは、特に記載した場合を除き、当該サンプルを強制劣化条件(具体的には、50℃恒温器に保存)における外観の変化を目視によって確認して行う。
【0017】
酵素処理工程:
本発明においては、マンゴー果汁を酵素剤にて酵素処理を行う。本発明でいう酵素剤は、主成分の酵素以外に賦形剤等の添加物を含んでもよい。本発明における酵素処理工程で用いることができる酵素剤は、主成分の酵素として、少なくともペクチナーゼを含む。
【0018】
ペクチナーゼは、ペクチンを分解する酵素である。ペクチン(pectins)は、ペクチン質(pectic substance)又はペクチン性多糖(pectic polysaccharides)と称されることもある。ペクチンの主成分は、α-1,4結合したD-ガラクツロン酸にα-1,2結合したα-ラムノースが一部混在する主鎖をもち,アラビノース、ガラクトースなどの中性糖に富んだ側鎖をもった酸性多糖である。側鎖の多くはラムノースの4位に結合しているが,ガラクツロン酸の一部にも側鎖が結合している。ガラクツロン酸のカルボキシル基の一部は、メチルエステル化している。
【0019】
ペクチナーゼは、主鎖を分解するか、またはメチルエステル結合を分解するかで大別でき、主鎖を分解するものはさらに基質特異性(メチルエステル化されたペクチン作用するか、カルボキシル基がフリーのペクチン酸に作用するか)及び分解型(endo型か、exo型か)によりポリガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、ペクチンエステラーゼ(ペクチンのメチルエステル結合を加水分解する)、ペクチンメチルエステラーゼ等が含まれる。
【0020】
本発明に好適なペクチナーゼとしては、粘度低下に効果的なエンドポリガラクツロナーゼ(以下「Endo-PGase」とも表記する)が挙げられる。
本発明には、ペクチナーゼを含む酵素剤として、種々のものを用いうるが、特に好ましい例は、ペクチナーゼ活性(「Endo-PGase力」と表わされることもある。)が1200unit/ml以上のものである。ペクチナーゼ活性は、第三版既存添加物自主規格(平成14年11月1日)の(12)ペクチナーゼ活性測定法第3法(ペクチン粘度降下力測定法−2)に従って測定することができる。本法は、基質レモンペクチン溶液にペクチナーゼが作用するとき、ペクチンが分解されてペクチン溶液の粘度が低下するときの粘度低下を測定して酵素活性を求める方法である。
【0021】
目的の程度に酵素処理を行うとの観点からは、本発明に用いる酵素剤は、セルラーゼ等のパルプ分を分解する酵素活性がないか、又は低いものであることが好ましい。具体的にはペクチナーゼ活性値を基準として、その60倍以下、好ましくは45倍以下、さらに好ましくは33倍以下であることが好ましい。これよりもセルラーゼ活性値が高いと、マンゴー果汁の混濁が消失する可能性があるため、好ましくない。なお、ペクチナーゼ活性値を基準として、セルラーゼ活性がその60倍以下であるとは、例えばペクチナーゼ活性が1,500u/mlである酵素剤においては、セルラーゼ活性が90,000u/ml以下であることを指す。
【0022】
酵素剤は、セルラーゼ活性を実質的に有さないもの、例えば、セルラーゼ活性が1000u/g以下であってもよい。セルラーゼ活性(「繊維消化力」と称されることもある。)は、前記第三版既存添加物自主規格の(7)セルラーゼ活性測定法第2法(セルロース糖化力測定法−銅試薬法)に従って測定することができる。本法は、酵素をカルボキシルメチルセルロースに作用させる酵素反応と反応生成物である還元糖を定量する2段階からなり、還元糖の定量法として銅試薬を用いるものである。
本発明の酵素処理工程に用いることのできる酵素剤として、例えば、ペクチナーゼG「アマノ」(天野エンザイム)、ペクチナーゼPL「アマノ」(天野エンザイム)を好適に用いることができる。
【0023】
本発明の酵素処理工程において用いる酵素剤の量は、使用する酵素剤のペクチナーゼ活性により異なるが、例えば、マンゴー果汁の容量を基準として、2.4〜7.5unit/100ml、より好ましくは2.4〜5unit/100ml、の範囲とすることができる。本酵素剤の添加方法は、酵素剤の形態が液体酵素剤であれば直接マンゴー果汁に添加してもよいし、粉末酵素剤であれば水に懸濁してから添加してもよく、マンゴー果汁を以下に記載する温度範囲に達してから添加する。
【0024】
酵素処理の温度は、他の条件がいずれの場合であっても、30〜60℃、好ましくは40〜50℃、より好ましくは42〜48℃の範囲で適宜設定できる。酵素処理の時間は、他の条件がいずれの場合であっても、10〜30分間、好ましくは15〜30分間の範囲で適宜設定できる。酵素処理時間が10分間を下回ると処理後のマンゴー果汁が、脱パルプ処理しても沈殿を生じる場合があり、また処理時間が30分を超えるとマンゴー果汁の混濁が消失する場合がある。酵素処理の際のpHは、pH3.0〜6.0であることが好ましいが、マンゴー果汁そのものは多くの場合、pH4〜5であるためpHを調整せずに酵素処理することができる。
【0025】
酵素処理は、続く脱パルプ処理によって脱パルプ処理することにより、沈殿が防止できるけれどもマンゴー果汁の混濁状態が消失しない程度に行う。これは、通常のリンゴ果汁やブドウ果汁の清澄化の場合の酵素処理の終点とは異なる。酵素処理は、本来的には果汁を清澄化するためのものであるが、本発明にとっては清澄化、すなわち混濁状態が失われることは好ましくない。本発明者らの検討によると、マンゴー果汁に対する酵素処理の行き過ぎは、続く脱パルプ処理を経た加工品において、混濁が失われ、沈殿を生じることとなった。目的の程度の酵素処理を行うためには、用いる酵素の量、処理温度、処理時間に特に配慮するとよい。特に好適な組み合わせは、マンゴー果汁の容量を基準として、2.4〜7.5unit/100mlのペクチナーゼ活性を有する酵素剤を添加して30〜60℃、15〜30分、より好ましくは、2.4〜5unit/100mlペクチナーゼ活性を有する酵素剤を添加して40〜50℃、15〜30分の酵素処理を行うものである。
【0026】
以上のようにして得られたマンゴー果汁の酵素処理物は、加熱して酵素剤に由来する酵素活性を失活させる。具体的には、失活は、酵素処理物を90℃以上、例えば100℃に、15秒〜数分、例えば30行秒間保つことによる。
【0027】
脱パルプ処理工程:
本発明においては、酵素処理されたマンゴー果汁を、さらに脱パルプ処理する。
マンゴー果汁の脱パルプ処理方法は、特に限定されず、遠心分離法、濾過法および膜分離法などを用いることができるが、工業的に簡便な方法として、遠心分離法を好適に用いることができる。遠心分離機の機種は、遠心沈降機(分離板型、デカンター型、チューブ型な等)や遠心濾過機(バスケット型等)などを用いることができる。
【0028】
脱パルプ処理を遠心分離法により行う場合、遠心分離機に供給するマンゴー果汁の濃度は、所望のマンゴー果汁加工品が得られるように適宜設定できる。すなわち、マンゴー果汁をそのまま遠心分離しても良いが、マンゴー果汁は粘性が高いことから、分離効率を上げるため、水などの溶媒で希釈して用いても良い。その場合の希釈比率は、マンゴー果汁:水= 1:0.1〜1:10が好ましく、より好ましくは1:0.5〜1:5の容量比率が望ましい。
【0029】
遠心分離の処理条件は、機種、遠心分離効果( x G)、遠心分離時間、遠心分離温度、供給液流量、供給果汁の状態などを考慮して適宜決定でき、特に限定されない。遠心分離効果( x G)の例を挙げると、工業的にはおおよそ500(x G)以上60,000(x G)以下までの効果を出すことができるが、上限としては、好ましくは、20,000(x G)以下がよい。さらに、大量処理の機種の能力を考えると、より好ましくは11,000(x G)以下であることが望ましい。また、遠心分離温度としては、品質の保持を考慮して、約0℃〜60℃、好ましくは約20〜40℃が良い。遠心分離時間は、使用する機械にもよるが、1秒から1時間程度の範囲が好ましい。
【0030】
また、脱パルプ処理を行っただけのマンゴー果汁加工品には、その水溶性成分にマンゴー独特の風味成分が含まれているため、それが目的用途にとって好ましくない場合には、さらに限外濾過法などによって、水溶性成分を低減させることによって、マンゴー独特の風味を軽減することができる。
【0031】
脱パルプ処理は、マンゴー果汁加工品を添加して製造した果汁入り飲料の沈殿防止の観点からは、原料となるマンゴー果汁加工品として、パルプ分は20%以下が望ましい。さらに、のどごしを重視する必要がある場合には、パルプ分を5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下にすると良い。
【0032】
マンゴー果汁加工品:
脱パルプ処理して得られたマンゴー果汁加工品は、そのまま飲料とすることができるが、さらに、濃縮、乾燥などの加工処理を行なってもよい。マンゴー果汁加工品の形態としては、液状品、粒状品、結晶状品、顆粒状品などが挙げられ、特に限定されないが、飲料製造には、液状品を好適に用いることができる。
【0033】
本発明の飲料の種類は、特に限定されず、ノンアルコール飲料では、果汁入り飲料(特に果汁入り清涼飲料)、果実ミックスジュース、スポーツ飲料、栄養ドリンク、果汁入りのフレーバー系炭酸飲料、果汁系ニアウオーター、或いは、希釈飲料(家庭飲用用の希釈飲料、自動販売機内の希釈飲料など)などが挙げられ、アルコール飲料では、果実酒類、リキュール類などが挙げられる。本発明の果汁入り飲料は、マンゴー果汁加工品以外の果汁成分が入っていてもよい。すなわち、マンゴー以外の果汁ではパルプ成分を除去して沈殿の発生を防止しようとすると香味に乏しくなるが、そのような果汁に本発明のマンゴー果汁加工品を添加して、フルーツ本来の豊かな香味をもつ果汁入り飲料とすることができる。
【0034】
本発明の飲料に添加する、本発明のマンゴー果汁加工品の量は、果汁由来の優れた香味を付与し、粘稠性が低く、しかも、沈殿の発生を防止できる飲料となる範囲であれば、飲料の種類、各種成分の配合量、香味やコストなどを考慮して適宜決定することができる。
マンゴー果汁加工品として濃縮したものを用いれば、マンゴー果汁加工品の添加量(搾汁状態の濃度に戻したときの添加量に換算)の割合が100%を超える表示の希釈飲料などを調製することも可能である。しかしながら、各種飲料へのマンゴー果汁加工品の添加量は、搾汁状態の濃度に換算して、ノンアルコール飲料であれば0.1%〜100%が好ましく、より好ましくは、5%〜50%が望ましい。また、アルコール飲料であれば0.1%〜95%が好ましく、より好ましくは、5%〜30%が望ましい。
【0035】
本発明の飲料における容器の形態は、内容物が見えるプラスチック容器、ガラス瓶を主とするが、金属缶(スチール、アルミ)、紙容器なども用いることができ、特に限定されない。本発明によって、沈殿の発生の防止が達成されることから、消費者の購買意欲と密接に関わる内容物の色が見える透明ないし半透明容器に充填する工程を含む飲料で好適に用いることができる。
【0036】
本発明は、これまでに知られている種々の方法と組み合わせることもできる。すなわち、風味を損わない範囲で、清澄果汁を添加する方法、乳化剤を添加する方法、着色料や香料を添加する方法、或いは糊料を添加する方法などと組合せてもよい。
【実施例】
【0037】
〔実施例1:マンゴー果汁加工品での評価〕
マンゴーピューレ(コロンビア産マグダレーナ・リバー種)に、加水して糖度(Brix)を8.5〜9.0に調整した。
【0038】
この糖度を調整したマンゴーピューレに、表1に示す各酵素剤を添加し、ピューレの温度を45℃に保持して15分間酵素処理を行った。酵素処理後のマンゴーピューレを1200(x G)で10分間遠心分離することによって脱パルプ処理を行い、マンゴー果汁加工品(サンプル1〜4)を得た。
【0039】
また、前記の糖度を調整したマンゴーピューレに対して酵素処理を実施せずに、上記と同じ遠心分離条件による脱パルプ処理のみを行ったマンゴー果汁加工品を作成し、比較例とした。
【0040】
得られたマンゴー果汁加工品(比較例、サンプル1〜4)について、パルプ分及び濁度を測定した。また、製造直後での沈殿の有無及び混濁状態について評価した。具体的には、それぞれのマンゴー果汁加工品を、180mL容透明ガラス瓶に150mL容封入し、20℃恒温水槽にて30分間保持してガラス瓶底部の沈殿の有無及び外観の混濁状態について観察した。
【0041】
沈殿の有無は、目視によってガラス瓶の底部に沈殿が(−−)認められない、(−)ごくわずかに認められる、(+)認められる、(++)多量に認められる、の4段階で評価した。混濁状態は、外観が濁っているかどうかで判断した。
【0042】
結果を表1に示す。比較例は、十分外観の混濁状態が維持されていたが、ガラス瓶底部に沈殿が認められた。サンプル1及びサンプル2は、比較例と同程度の外観の混濁状態を維持しながら、沈殿が全く認められなかった。サンプル3及びサンプル4は、沈殿は認められなかったが、混濁状態が消失してしまった。したがって、ペクチナーゼPL及びペクチナーゼG処理を行って遠心分離による脱パルプ処理を行ったサンプル1及びサンプル2のみが、混濁状態を維持しながら沈殿を生成しない、優れたマンゴー果汁加工品であることが明らかとなった。
【0043】
更に、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000を用いて得られた果汁加工品中の粒度分布を測定したところ、サンプル1〜5は、粒子径が5μm以下の粒子が大部分を示したのに対し、比較例では粒子径が10μm以上の大きなサイズの粒子が残存していた。
【0044】
【表1】

【0045】
ペクチナーゼPL:ペクチナーゼの他にセルラーゼを含む。Endo Pgase力、1500u/g以上(pH3.5)、繊維消化力、50000u/g以上(pH4.5)。至適温度は、Endo-PGase力は60℃、繊維消化力は55℃。至適pHは、Endo-PGase力はpH 3.5、繊維消化力は、pH5.0。
ペクチナーゼG:ペクチナーゼ90.0%、デキストリン10.0%。ブドウ糖果汁清澄化力200u/g以上(JAC法)。Endo Pgase力、1200unit/g以上(pH3.2)。
スミチームSPC:ペクチナーゼ活性の他セルラーゼ活性あり。至適温度40〜60℃、至適pH 3.0〜5.5。0.01〜0.1%での添加を推奨(パルプ含量の多い果汁の清澄及び搾汁率向上)
ペクチナーゼST:ペクチナーゼ活性の他セルラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ活性あり。至適温度40〜60℃、至適pH 3.0〜5.5。0.01〜0.1%での添加を推奨(未熟果汁の清澄化及び幅広い果汁の清澄化に利用)
〔実施例2:果実酒での評価〕
実施例1で得られたマンゴー果汁加工品を用いて果実酒を作成し、混濁状態及び沈殿の有無について評価した。
【0046】
表2の配合表に従って各原料を調合し、対照品1と試作品1の2種類の果実酒を作成した。
ここで、表2における脱パルプ処理マンゴー果汁加工品は実施例1で得られた比較例に相当し、マンゴー果汁加工品は実施例1で得られたサンプル2に相当する。作成した果実酒は、85℃で10秒間の加熱殺菌を行った後、5℃に冷却して、遠心分離(7500(x G)、10分間のバッチ遠心処理)を行い、上清を200メッシュのストレーナーにて濾過した後、180mL容透明ガラス瓶に180mL容量瓶詰めした。瓶詰め後、60℃で7分間の殺菌処理を行った。
【0047】
【表2】

【0048】
これらの果実酒サンプル(対照品1及び試作品1)を保管試験に供した。具体的には、5℃及び50℃に温度保持した恒温器に保管した。5℃に保管したサンプルはコントロール、50℃に保管したサンプルは加速試験サンプルに相当する。これらのサンプルを経時的に恒温器から取り出し、室温まで放冷してから、ガラス瓶底部の沈殿の有無及び外観の混濁状態について観察した。
【0049】
これらの果実酒について、目視により混濁状態及び沈殿の有無を確認した。混濁状態は、5℃に保管したサンプルをコントロールとして、50℃に保管した同一サンプルの混濁状態に差があるかどうか、又は混濁状態が維持されているかどうかの相対評価で判断した。具体的には、(++)混濁状態に差が無い、又は混濁状態が維持されている、(+)混濁状態にやや差が認められる、又は混濁状態が維持されているがやや薄く見える、(−)混濁状態に明確な差が認められる、又は混濁状態が明確に薄く見える、(−−)混濁状態が失われている、の4段階で評価した。沈殿の有無は、50℃に保管したサンプルのガラス瓶の底部に沈殿が認められるかどうかの絶対評価で判断した。具体的には、ガラス瓶の底部に沈殿が(−−)認められない、(−)ごくわずかに認められる、(+)認められる、(++)多量に認められる、の4段階で評価した。
【0050】
更に、サンプルの商品価値についても評価した。本発明の商品においては、混濁状態が悪化した場合、又は沈殿が認められた場合、商品価値が大きく損なわれる。従って、混濁状態が(−−)又は(−)の場合、又は沈殿が(++)又は(+)の場合、×;商品価値なし、とした。これに対して、沈殿が(−−)又は(−)の場合で、かつ、混濁状態が(++)又は(+)の場合、○;商品価値あり、とした。
【0051】
以上の結果を(表3)に示す。比較例1は、製造直後は混濁状態で沈殿も見られなかったが、50℃・3日間保管で沈殿が生成し、商品価値を失った。これに対し、実施例1は、50℃・12日間保管でもほぼ製造直後の混濁状態が維持され、沈殿がごくわずかしか認められなかった。従って、本発明のマンゴー果汁加工品は、果実酒の態様においても、長期間にわたって混濁状態を維持し、かつ沈殿をごくわずかしか生成しない、優れた品質を持つものであることが明らかとなった。
【0052】
【表3】

【0053】
〔実施例3:ノンアルコール飲料での評価〕
実施例1で得られたマンゴー果汁加工品を用いてノンアルコール飲料を作成し、混濁状態及び沈殿の有無について評価した。
【0054】
表4の配合表に従って各原料を調合し、対照品2と試作品2の2種類のノンアルコール飲料を作成した。
ここで、表4における脱パルプ処理マンゴー果汁加工品は実施例1で得られた比較例に相当し、マンゴー果汁加工品は実施例1で得られたサンプル2に相当する。作成したノンアルコール飲料は、85℃で10秒間の加熱殺菌を行った後、5℃に冷却して、遠心分離(7500(x G)、10分間のバッチ遠心処理)を行い、上清を200メッシュのストレーナーにて濾過した後、180mL容透明ガラス瓶に180mL容量瓶詰めした。瓶詰め後、80℃で30分間の殺菌処理を行った。
【0055】
【表4】

【0056】
これらのノンアルコール飲料サンプル(対照品2及び試作品2)を実施例2と同様にして保管試験に供し、目視により混濁状態並びに沈殿の有無、及びサンプルの商品価値について評価を行った。評価方法や判断基準も実施例2に従って行った。
【0057】
比較例2は、製造直後は混濁状態で沈殿も見られなかったが、50℃・3日間保管で沈殿が生成し、商品価値を失った。これに対し、実施例2は、50℃・12日間保管でもほぼ製造直後の混濁状態が維持され、沈殿がごくわずかしか認められなかった。従って、本発明のマンゴー果汁加工品は、ノンアルコール飲料の態様においても、長期間にわたって混濁状態を維持し、かつ沈殿をごくわずかしか生成しない、優れた品質を持つものであることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ分を低減したマンゴー果汁加工品の製造方法において、
遠心効果1200(x G)で10分間遠心分離したときの濁度が3700以上であるマンゴー果汁を、酵素剤で処理し;そして
酵素処理物を脱パルプ処理し、パルプ分が20%(v/v)以下であり、かつ濁度が1400NTU以上であるマンゴー果汁加工品を得る
工程を含む、製造方法。
【請求項2】
パルプ分を低減したマンゴー果汁加工品の製造方法において、
ヘイデン種、トミーアトキンス種、トルベット種、及びマグダレーナ・リバー種から選択されるいずれか一のマンゴー果実から得られたマンゴー果汁をペクチナーゼ処理するが、ペクチナーゼ処理が、ペクチナーゼを含む酵素剤を、マンゴー果汁100mlに対してペクチナーゼ活性が2.4〜7.5unitとなるように用いて、pH3.0〜6.0、30〜60℃で、15〜30分間処理するものであり;そして
ペクチナーゼ処理物を、脱パルプ処理し、パルプ分が20%(v/v)以下であり、かつ濁度が1400NTU以上であるマンゴー果汁加工品を得る
工程を含む、製造方法。
【請求項3】
酵素剤のセルラーゼ活性値が、ペクチナーゼ活性値(u/ml)を基準として、その60倍以下である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
脱パルプ処理が、遠心分離法である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
遠心分離法における遠心効果が、20,000〜500(x G)である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に定義されたマンゴー果汁加工品を得る工程;そして
得られたマンゴー果汁加工品を添加する工程
を含む、マンゴー果汁加工品入り飲料の製造方法。
【請求項7】
マンゴー果汁加工品の添加量が、搾汁状態の濃度に換算して0.1〜99.9%である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
飲料が、アルコール飲料である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
飲料が、ノンアルコール飲料である、請求項6又は7に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−55294(P2012−55294A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204927(P2010−204927)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】