説明

ミシンの縫い速度データ作成方法

【課題】位置ずれの少ない縫製データを簡便に作成し、縫い品質の低下を防止する。
【解決手段】被縫製物である布地を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針の上下動に同期して当該縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布地に所定の縫製データに基づく縫い目を形成するミシン100の縫い速度データ作成方法であって、縫い速度を変更して複数回縫製動作を行い、各縫製動作の縫い速度と当該縫い速度における縫製データの縫い目ごとに検出した位置ずれ量とをデータメモリ202に記憶する工程と、記憶された縫い目ごとの位置ずれ量が最小となる縫い速度として主軸の制限回転速度を特定する工程と、特定された前記主軸の制限回転速度に基づいて、縫製データの縫い目ごとに縫い速度を修正する工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製データに従って縫いを行うミシンの縫い速度データ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一針ごとの針落ち位置を定めた縫製データに従って任意に針落ちを行うことができる電子サイクルミシンが知られており、このミシンにあっては、縫い針を取付けた針棒の上下動に対して当該上下動方向に直交した水平移動可能な移動機構に被縫製物を保持して縫うようになっている(例えば、特許文献1参照)。
また、当該ミシンは、一般的に、縫い針が被縫製物に刺さっていない時間、即ち、直前の針が被縫製物から抜けた直後のタイミングから次に針が被縫製物に刺さる直前のタイミングまでの時間内に移動機構を移動させる。通常は、被縫製物を一定間隔で移動させる送りピッチに合わせた縫製の最高速度の上限値が決められているので、その上限値以下の速度であれば、縫い針が被縫製物に刺さっていない時間内に移動機構を移動し終えるよう制御されている。
【特許文献1】特開2008−012048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、縫製中に布の重なりが厚い段部を縫製する場合などに、上記の制御タイミングがずれると、被縫製物に縫い針が刺さったままの状態で当該被縫製物が移動することにより、移動機構の移動方向に縫い針が引っ張られる、所謂、針流れが発生してしまう。また、縫製速度がより高速になると、被縫製物をより短時間で所定ピッチ移動させる必要があるが、移動機構の駆動モータに負荷がかかり過ぎて被縫製物の送り過ぎが生じる問題もある。さらに、移動機構の保持枠の改造により当該保持枠の重量が重くなった場合にも、より高速の縫製速度では、被縫製物の移動にて送り不足や送り過ぎが生じる虞がある。
この結果、縫い目の位置がずれてしまい、被縫製物の縫い品質を低下させるといった問題がある。
【0004】
そこで、作業者が予め所定の縫製パターンに従って所定速度で縫製を行うことで、位置ずれの有無を確認し、最も良く縫える縫製速度を手動で設定するようになっている。即ち、縫製速度を低下させると、位置ずれを生じさせ難くすることができるが、縫製速度を手動で設定する作業は煩雑であり、また、縫製速度を落とし過ぎると、縫製効率が低下してしまうといった問題がある。
また、位置ずれが発生する部分だけ、縫製速度を落とすといった命令を縫製データに組み込むことも可能であるが、当該作業のために時間がかかってしまうといった問題もある。
【0005】
本発明は、位置ずれの少ない縫製データを簡便に作成することができ、縫い品質の低下を防止することができるミシンの縫い速度データ作成方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、縫い速度を入力する速度入力手段と、ミシンモータにより駆動される主軸の回転により縫い針を上下動させる針上下動機構と、被縫製物を保持する保持部を有し、位置決めモータにより前記保持部に保持された被縫製物を、前記縫い針の上下動に同期して当該縫い針に対して相対的にXY移動する位置決め機構とを備え、縫製データに従って被縫製物をXY移動させながら前記速度入力手段により入力された縫い速度で縫製動作させる縫製手段と、前記縫製動作にて実際に被縫製物に針落ちされた位置と前記縫製データに係る前記針落ち予定位置との位置ずれを検出する位置ずれ検出手段とを備えたミシンの縫い速度データ作成方法であって、前記速度入力手段により入力された縫い速度を変更して複数回縫製動作を行い、各縫製動作の縫い速度と当該縫い速度における前記縫製データの縫い目ごとに前記位置ずれ検出手段により検出した位置ずれ量とを位置ずれ量記憶手段に記憶する位置ずれデータ取得工程と、前記位置ずれ量記憶手段に記憶された縫い目ごとの位置ずれ量が最小となる縫い速度として主軸の制限回転速度を特定する回転速度特定工程と、前記回転速度特定工程により特定された前記主軸の制限回転速度に基づいて、前記縫製データの縫い目ごとに前記縫い速度を修正するデータ修正工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記ミシンは、被縫製物の厚さを入力する厚さ入力手段を備え、前記位置ずれ検出手段は、前記厚さ入力手段により入力された前記厚さに基づいて、前記縫い針が被縫製物に針落ちされる針落ちタイミングを検出するタイミング検出手段と、前記タイミング検出手段により検出された前記針落ちタイミングにおける前記保持部の位置を取得する位置取得手段と、前記位置取得手段により取得された前記保持部の位置と、前記縫製データの前記保持部の前記針落ち予定位置を比較する位置比較手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、速度入力手段は、前記縫い速度として前記主軸の制限最高速度及び制限最低速度を入力し、前記位置ずれデータ取得工程は、前記速度入力手段により入力された前記制限最高速度と前記制限最低速度との間で段階的に複数の縫い速度による前記ミシンモータの動作制御を行って、前記位置ずれ検出手段により検出した検出した位置ずれ量を縫製データの縫い目ごとに前記位置ずれ量記憶手段に記憶し、前記回転速度特定工程は、前記制限最高速度と前記制限最低速度の間で、同一の縫い目に対して位置ずれ量が最小となる縫い速度が複数ある場合に、より高速な前記主軸の制限回転速度を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、縫い速度を変更して複数回縫製動作を行い、各縫製動作の縫い速度と当該縫い速度における縫製データの縫い目ごとに検出した位置ずれ量とを位置ずれ量記憶手段に記憶して、記憶された縫い目ごとの位置ずれ量が最小となる縫い速度として主軸の制限回転速度を特定し、当該主軸の制限回転速度に基づいて、縫製データの縫い目ごとに前記縫い速度を修正するので、縫製動作を行うだけで位置ずれが検出された縫い目の主軸の回転速度を位置ずれ量が最小となるように修正した縫製データを作成することができる。即ち、予め試し縫いとして縫製動作を行うことにより、実際に被縫製物に針落ちされた位置が針落ち予定位置に対して位置ずれしていた場合には、位置ずれ量が最小となる主軸の制限回転速度を特定して、当該主軸の回転速度を位置ずれ量が最小となるように制限回転速度に修正することができる。これにより、位置ずれの少ない縫製データを簡便に作成することができ、縫い品質の低下を防止することができる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、入力された被縫製物の厚さに基づいて、縫い針が被縫製物に針落ちされる針落ちタイミングを検出して、当該針落ちタイミングにおける保持部の位置を取得して、取得された保持部の位置と縫製データに規定されている保持部の針落ち予定位置を比較するので、被縫製物の厚さを入力するだけで針落ちタイミングを簡便に検出することができ、これにより、当該針落ちタイミングにて被縫製物に針落ちされた位置の針落ち予定位置に対する位置ずれを簡便に検出することができる。従って、作業者による位置ずれの検出タイミングの設定作業を不要とすることができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、入力された主軸の制限最高速度と制限最低速度との間で段階的に複数の縫い速度によるミシンモータの動作制御を行って、検出した位置ずれ量を縫製データの縫い目ごとに位置ずれ量記憶手段に記憶し、当該制限最高速度と制限最低速度の間で、同一の縫い目に対して位置ずれ量が最小となる縫い速度が複数ある場合に、より高速な主軸の制限回転速度を特定するので、当該制限回転速度をより高速に設定することができ、ミシンの縫製速度低下に伴う生産性の低下を最小限にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(電子サイクルミシンの全体構成)
本発明の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。
本実施形態において、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布地を保持する布保持部としての保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布地に所定の縫製データ(縫い目パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
図1は本発明にかかる電示サイクルミシン100の斜視図、図2は当該ミシン100の保持枠111や中押さえ29の近傍を示す拡大斜視図である。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0013】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ、ミシン本体101を操作するためのペダルR等により構成されている。
【0014】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在でY軸方向に沿って配設された主軸及び下軸(図示略)を有している。主軸は、ミシンアーム部102aの内部に配され、下軸は、ミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0015】
主軸は、ミシンモータ2a(図3参照)に接続され、このミシンモータ2aにより回動力が付与される。また、下軸(図示省略)は、図示しない縦軸を介して主軸と連結しており、主軸が回動すると、主軸の動力が縦軸(図示省略)を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸の前端には、主軸の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、図2に示されるように、縫い針108が備えられている。かかる主軸とミシンモータ2aと針棒108aと主軸から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により、縫製手段を構成する針上下動機構が構成される。
【0016】
なお、主軸にミシンモータ2aを直結するダイレクト駆動の場合には、前記モータに内蔵されたエンコーダ2b(図3参照)により主軸の基準角度及びその基準角度の間の詳細角度を検出する回転同期信号が出力される。
また、主軸に設けたプーリとミシンモータ2aをベルト駆動する場合には、主軸に設けた針位置検出器とミシンモータ2aに内蔵されたエンコーダ2bが構成され、同様に回転同期信号が出力される。
ここで、回転同期信号として、例えば、ミシンモータ2aにより主軸が15°回転するごとに一つの出力信号を制御装置200に出力するようになっている。また、主軸の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0017】
また、下軸(図示省略)の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜(図示省略)との協働により縫い目が形成される。
なお、ミシンモータ2a、主軸、針棒108a、縫い針108、下軸(図示省略)、釜(図示省略)等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0018】
(位置決め機構)
また、ミシンアーム部102aには縫い針108の上下動による布地の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布地を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ機構(図示略)が設けられている。なお、中押さえ機構はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に遊挿されている。
【0019】
また、図1、図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド部102b内に配置されたX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として連結されている(図3参照)。
保持枠111は、被縫製物である布地を保持し、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動に伴い、保持した布地を保持枠111ごと前後左右方向にXY移動するようになっている。そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することにより、布地に所定の縫製データ202aの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
また、保持枠111は、布押さえと下板とからなっており、取付部材113はミシンアーム部102a内に配置された布押さえモータの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ下降時に下板との間で布地を挟持し保持するようになっている。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針108の上下動に同期して当該縫い針108と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め機構として機能するとともに、縫製手段を構成している。
【0020】
ペダルRは、ミシン100を駆動し、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するための、例えば、可変抵抗等から構成されるセンサ(踏み込み量検出手段)が組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置200に出力され、制御装置200はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0021】
(ミシンの制御系:制御装置)
図3は電子サイクルミシン100の制御系を示しブロック図である。ミシン100は、上述した各部、各部材の動作を制御する制御装置200を備えている。
制御装置200は、縫製プログラム201a,データ入力プログラム201b,位置ずれデータ取得プログラム201c,回転速度特定プログラム201d、データ修正プログラム201eが格納されたプログラムメモリ201と、縫製データ202a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ202と、プログラムメモリ201内の各プログラム201a〜201eを実行するCPU203とを備えている。
【0022】
また、CPU203は、インターフェイス(I/F)204を介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74aと、この表示部74aに設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74bとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74aで表示され、タッチセンサ74bで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
【0023】
また、CPU203は、インターフェイス204を介して、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bに接続され、ミシンモータ2aの回転を制御する。
なお、ミシンモータ2aはエンコーダ2bを備えており、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bにおいて、エンコーダ2bからミシンモータ2aの一回転に付き一回出力される原点信号と15°回転ごとに出力される同期信号とが、インターフェイス204を介してCPU203に入力され、この信号をカウントすることによって、CPU203は位置決めモータであるX軸モータ76a及びY軸モータ77aや後述する他のアクチュエータの動作タイミングを決定する。
【0024】
また、CPU203は、インターフェイス204及びインターフェイス204を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
また、X軸モータ76a及びY軸モータ77a、中押さえモータ(後述)、布押さえモータ(後述)には、例えば、パルスモータを用いることができる。
【0025】
なお、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの各々には、当該X軸モータ76a及びY軸モータ77aの軸の回転角度を検出するエンコーダ76c、77cが設けられている。そして、CPU203には、X軸モータ76a及びY軸モータ77aのエンコーダ76c、77cからインターフェイス204を介して検出信号が入力され、当該信号によって、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの回転角度(移動量)及び回転方向を認識できる。
これにより、CPU203は、針棒108aが保持枠111の所定位置(例えば、中央)に位置する際のX軸モータ76a及びY軸モータ77aの回転角度、即ち、原点位置を認識することができ、各モータ76a、77aの回転角度と原点位置との差異によって保持枠111の移動前後の位置を検出する。
【0026】
また、電子サイクルミシン100では、縫い針108と同期して行われる中押さえ29の上下動についてはミシンモータ2aを駆動源として行っているが、その下死点高さ調節は中押さえモータ(図示略)の駆動により行われるようになっている。かかる独立した駆動源を備えることにより、ミシンモータ2aの駆動中或いは停止中に限らず下死点高さの調節を行うことが可能である。
【0027】
また、電子サイクルミシン100は、保持枠111を上下動させて布地の保持及び解放を行う布押さえモータ(図示略)、縫製終了後に糸切りを行う糸切り装置を備えている(図示略)、縫い糸の糸張力を調節する糸調子装置等を備えている(図示略)。
【0028】
(ミシンの制御系:縫製データ)
図4(a)は、縫製パターン修正前の縫製データ202aの構成を示す説明図であり、図4(b)は、縫製パターン修正後の縫製データ202aの構成を示す説明図である。
図4(a)に示すように、縫製パターン修正前の縫製データ202aは、縫製を行う際の運針パターンを規定するものであり、少なくとも各針落ちごとに針落ち予定位置に係るX方向座標(X1,X2,X3,…)及びY方向座標(Y1,Y2,Y3,…)と、ミシンモータ2aの回転速度(縫い速度)が設定されている。
X方向座標は、X軸モータ76aによる保持枠111のX軸方向の移動量を示すパラメータ値、Y方向座標は、Y軸モータ77aによる保持枠111のY軸方向の移動量を示すパラメータ値である。CPU203は、X方向座標及びY方向座標に基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aを駆動制御することで被縫製物を移動させて針落ち位置を制御する。
また、縫製パターンの修正(後述)が行われると、図4(b)に示すように、縫製パターン修正後の縫製データ202aには、各針落ちごとにX方向座標及びY方向座標と、ミシンモータ2aの回転速度(縫い速度)の他に、ミシンモータ2aの回転速度の変更指令が設定されている。
ここで、データメモリ202は、各縫い目ごとにミシンモータ2a(主軸)の回転速度及び針落ち予定位置を規定する縫製データ202aを記憶する記憶手段として機能する。
【0029】
なお、縫製データ202aは、図示は省略するが、保持枠111の移動に係る布送りコマンド、ミシンモータ2aの回転数を定める縫い速度コマンド、下死点高さ移動量のデータを示す中押さえ高さ調節コマンド、糸切りコマンド、糸払い・押さえ上げコマンド、糸張力コマンド等が組み合わされている。そして、各コマンドは、その並び順に従って実行針数(当該コマンドが縫い開始から何針目で実行されるか)が定められている。
【0030】
(縫製プログラムによる縫製処理)
プログラムメモリ201に格納された縫製プログラム201aは、上記縫製データ202aの各コマンドを順番に読み出して、コマンドに応じて制御対象を特定し、コマンド内の設定数値に基づいてミシンモータ2a、X軸モータ76a、Y軸モータ77a、中押さえモータ、布押さえモータ、糸切りモータ、糸調子ソレノイドの動作制御を行い、縫製データ202aに従って被縫製物をXY移動させながらデータ入力処理(後述)にて入力された縫い速度で縫製動作させるプログラムである。
縫製データ202aの実行に際しては、各コマンドはいずれもその実行タイミング(実行する主軸角度)がデータメモリ202内に定められており、エンコーダ2bの出力信号をカウントすることで定められた実行タイミングで各コマンドの実行が行われる。
【0031】
縫製処理において、ミシンモータ2aは、縫製データ202aに定められた縫い速度となるように動作制御が行われる。また、X軸モータ76a及びY軸モータ77aは、縫製データ202aに定められた縫い速度となるように動作制御が行われる。
具体的には、例えば、図5に示すように、縫製パターン修正前の縫製データ202a(図4(a)参照)に基づいて、ミシンモータ2aの回転速度が2500rpmで所定座標に順次針落ちされるようになっている。
また、縫製パターン修正後の縫製データ202a(図4(b)参照)に基づいて、第1〜4針目はミシンモータ2aの回転速度が2500rpmで所定座標に順次針落ちされ、4針目と5針目の針落ちの間、即ち、4針目の針が被縫製物から抜けた直後のタイミングから5針目の針が被縫製物に刺さる直前のタイミングまでの時間内に回転速度を2200rpmに変更した後、5針目はミシンモータ2aの回転速度が2200rpmで所定座標に針落ちされ、5針目と6針目の針落ちの間に回転速度を2500rpmに変更し(戻し)た後、6針目以降はミシンモータ2aの回転速度が2500rpmで所定座標に針落ちされるようになっている。
当該プログラム201aの実行により、CPU203は、縫製データ202aに基づいてミシンモータ2a等の動作制御を実行して縫製を行う縫製手段として機能することとなる。
【0032】
(データ入力プログラムによるデータ入力処理)
データ入力プログラム201bは、操作パネル74により表示されるデータ入力画面(図示略)により縫製データ202aの作成処理を行うためのプログラムである。
データ入力プログラム201bの実行により、操作パネル74の表示部74aの入力画面には、入力される各針ごとの針落ち予定位置を表示する表示領域と、針落ち予定位置をカーソルの位置指定により入力する方向入力キーと、各種コマンドの選択キーと、その数値パラメータを入力する数値キーとが表示され、これらの操作により、一針ごとに順番に入力することができる。
また、縫製速度ティーチング処理にて、操作パネル74の表示部74aに表示された入力ボタン等が操作されることにより、縫製パターンNo.、ミシンモータ2aの制限最高速度(例えば、2500rpm等)、ミシンモータ2aの制限最低速度(例えば、2000rpm等)、被縫製物の生地厚を入力することができる。ここで、操作パネル74は、被縫製物の厚さを入力する厚さ入力手段、及び、主軸の制限最高速度及び制限最低速度(縫い速度)を入力する速度入力手段として機能する。
【0033】
(位置ずれデータ取得プログラムによる位置ずれデータ取得処理)
位置ずれデータ取得プログラム201cは、縫製速度ティーチング処理にて縫い速度を変更して当該複数の縫い速度の各々に対応して複数回縫製動作を行った際に、各縫製動作の縫い速度と当該縫い速度における縫製データ202aの縫い目ごとに検出した位置ずれ量とを位置ずれ量記憶手段としてのデータメモリ202に記憶する位置ずれデータ取得処理を行うためのプログラムである。即ち、位置ずれデータ取得プログラム201cは、データ入力処理にて入力された主軸の制限最高速度と制限最低速度との間で複数の縫い速度によるミシンモータ2aの動作制御を行った際に、検出した位置ずれ量を縫製データ202aの縫い目ごとにデータメモリ202に記憶するためのプログラムである。
具体的には、位置ずれデータ取得プログラム201cの実行により、CPU203は、操作パネル74の所定操作に基づいて入力された被縫製物の厚さに基づいて、各縫い目ごとに縫い針108が被縫製物に針落ちされる針落ちタイミングを検出するタイミング検出処理を行う。即ち、図6に示すように、被縫製物の厚さに応じて当該被縫製物に針落ちされるタイミングが異なっており、当該針落ちタイミングにおける主軸の回転角度θを算出する。ここで、CPU203は、縫い針108が被縫製物に針落ちされる針落ちタイミングを検出するタイミング検出手段として機能する。
なお、針落ちされた縫い針108は、主軸の回転角度が(360−θ)°で被縫製物から引き抜かれるようになっており、当該タイミング(主軸の回転角度(360−θ)°)から次の針落ちタイミング(主軸の回転角度θ)までの間(角度範囲2θ)に、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動により保持枠111により保持された被縫製物を次の針落ちの座標に移動させる。
また、CPU203は、位置ずれデータ取得プログラム201cの実行により、タイミング検出処理にて検出された針落ちタイミング、即ち、主軸の回転角度θにて、X軸モータ76a及びY軸モータ77aのエンコーダ76c、77cから出力された検出信号に基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aの回転角度及び回転方向を認識して、当該X軸モータ76a及びY軸モータ77aにより駆動された保持枠111の位置を取得する位置取得処理を行う。ここで、CPU203は、タイミング検出処理にて検出された針落ちタイミングにおける保持枠111の座標(Xa,Ya)を取得する位置取得手段として機能する。
また、CPU203は、位置ずれデータ取得プログラム201cの実行により、位置取得処理にて取得された保持枠111の座標と、縫製データ202aに規定されている保持枠111の針落ち予定位置であるX方向座標及びY方向座標(例えば、縫い目が5針目である場合には、X方向座標X5とY方向座標Y5)とをそれぞれ比較する位置比較処理を行って、その結果をX座標、Y座標ごとにSI単位で数値換算して位置ずれ情報d(図9参照)とする。
ここで、CPU203は、位置取得処理により取得された保持枠111の位置と、縫製データ202aの保持枠111の針落ち予定位置を比較する位置比較手段として機能する。
このように、位置ずれデータ取得プログラム201cの実行により、CPU203は、縫製速度ティーチング処理にて実際に被縫製物に針落ちされた位置と縫製データ202aに係る針落ち予定位置との位置ずれを検出する位置ずれ検出手段として機能する。
【0034】
(回転速度特定プログラムによる回転速度特定処理)
回転速度特定プログラム201dは、データメモリ202に記憶された縫い目ごとの位置ずれ量が最小となる縫い速度として主軸の制限回転速度を特定する回転速度特定処理を行う。
即ち、回転速度特定プログラム201dの実行により、CPU203は、ミシンモータ2aの制限最高速度と制限最低速度の間で、位置ずれ検出処理にて位置ずれが検出された縫い目ごとに当該位置ずれ量が最小となる主軸の制限回転速度を特定する。例えば、図9に示す位置ずれ情報d(例えば、X座標用の位置ずれ情報d)にあっては、5針目と12針目に位置ずれが生じた場合、5針目では2200rpmの位置ずれ量が最小であるので制限回転速度として2200rpmを特定し、12針目では2500rpmの位置ずれ量が最小であるので制限回転速度として2500rpmを特定する。なお、5針目では、2000rpmと2200rpmの位置ずれ量が等しくなっているが、かかる場合には、より高速の回転速度を制限回転速度として特定する。
また、被縫製物の角部を縫製する場合のように、保持枠111がX軸方向及びY軸方向の両方に移動する場合には、X座標用の位置ずれ情報dとY座標用の位置ずれ情報dにおける各縫い目毎の位置ずれ量を加算して、その値が最小となる回転速度を制限回転速度として特定する。
【0035】
(データ修正プログラムによるデータ修正処理)
データ修正プログラム201eは、回転速度特定処理にて特定された主軸の制限回転速度に基づいて、データメモリ202に記憶されている縫製データ202aの縫い目ごとに縫い速度(主軸の回転速度)を修正するデータ修正処理を行う。
即ち、データ修正プログラム201eの実行により、CPU203は、位置ずれが検出された縫い目については、回転速度特定処理にて特定された主軸の制限回転速度で縫製動作が行われるように、当該縫い目の前後で速度変更指令を出力して、縫製データ202aを修正する(図4(b)参照)。例えば、図4(b)に示すように、5針目で位置ずれが生じている場合には、4針目と5針目の針落ちの間に回転速度を2200rpmに変更する速度変更指令と、5針目と6針目の針落ちの間に回転速度を2500rpmに変更する速度変更指令とを出力して、1〜4針目と6針目以降はミシンモータ2aの回転速度が2500rpmで縫製し、5針目はミシンモータ2aの回転速度が2200rpmで縫製可能となるように縫製データ202aを修正する。
【0036】
次に、ミシン100の縫い速度データ作成方法に係る縫製速度ティーチング処理について、図7〜図10に基づいて説明する。
縫製速度ティーチング処理は、被縫製物の試し縫いとして、主軸の回転速度を制限最高速度と制限最低速度の間で所定の回転速度に設定して複数回縫製動作を行って、縫製動作の縫い速度と、縫製データ202aの縫い目ごとに検出した位置ずれ量とをデータメモリ202に記憶し(位置ずれデータ取得工程)、データメモリ202aに記憶された縫い目ごとの位置ずれ量が最小となる縫い速度として主軸の制限回転速度を特定し(回転速度特定工程)、特定された主軸の制限回転速度に基づいて、縫製データ202aの縫い目ごとに縫い速度を修正する(データ修正工程)処理である。
図7及び図8は、縫製速度ティーチング処理に係る動作の一例を示すフローチャートである。また、図9は、縫製速度ティーチング処理の結果に係る位置ずれ情報dの一例を示す図である。
【0037】
図7に示すように、操作パネル74の表示部74aに表示されている縫製速度ティーチングスイッチ(図示略)が作業者により操作されると(ステップS1)、CPU203は、操作パネル74の表示部74aにティーチング項目選択画面(図示略)を表示させる(ステップS2)。
そして、作業者による表示部74aに表示された入力ボタン等の所定操作に基づいて、CPU203は、データ入力プログラムを実行して、入力された縫製パターンNo.、ミシンモータ2aの制限最高速度(例えば、2500rpm等)、ミシンモータ2aの制限最低速度(例えば、2000rpm等)、生地厚等のティーチング項目を設定する(ステップS3)。
【0038】
次に、CPU203は、ミシンモータ2aの回転速度をティーチング項目選択画面にて入力された制限最高速度に設定した後(ステップS4)、表示部74aに表示された準備キー(図示略)が作業者により操作されると、ミシン100の各部を制御してティーチング準備状態に設定する(ステップS5)。
その後、作業者により針板110の上方に被縫製物がセットされた後(ステップS6)、作業者による押えスイッチ(図示略)の所定操作に基づいて、布押さえを下降させて当該布押さえと下板との間に被縫製物を挟持して保持する(ステップS7)。
そして、作業者によるスタートスイッチ(図示略)が所定操作されると、CPU203は、縫製プログラム201aを実行して縫製データ202aに基づいて縫製動作を開始する(ステップS8)。
【0039】
続けて、図8に示すように、CPU203は、位置ずれデータ取得プログラム201cを実行して、制限最高速度での縫製動作にて、被縫製物に縫い針108が針落ちされた位置の位置ずれを各縫い目ごとに検出して位置ずれ情報dを取得する(ステップS9)。具体的には、位置ずれデータ取得プログラム201cの実行により、CPU203は、先ず、タイミング検出処理を行って、入力された被縫製物の厚さに基づいて縫い針108が被縫製物に針落ちされる針落ちタイミングにおける主軸の回転角度θを算出する。続けて、CPU203は、位置取得処理を行って、主軸の回転角度がθとなった際に、X軸モータ76a及びY軸モータ77aのエンコーダ76c、77cから出力された検出信号に基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aにより駆動された保持枠111の位置を取得する。次に、CPU203は、位置比較処理を行って、取得された保持枠111の座標と、縫製データ202aに規定されている保持枠111の針落ち予定位置であるX方向座標及びY方向座標とを比較して、その結果を位置ずれ情報dとしてデータメモリ202に一時的に格納する。
【0040】
次に、CPU203は、ティーチング項目選択画面にて入力された縫製パターンに従って、最後の縫い目まで縫製したか否かを判定する(ステップS10)。
ここで、最後の縫い目まで縫製していないと判定されると(ステップS10;NO)、CPU203は、処理をステップS9に移行させて、各縫い目ごとに位置ずれ情報dを取得する処理を行う。
【0041】
一方、ステップS10にて、最後の縫い目まで縫製したと判定されると(ステップS10;YES)、CPU203は、制限最高速度から制限最低速度までの位置ずれ情報dを取得したか否かを判定する(ステップS11)。
ここで、制限最高速度から制限最低速度までの位置ずれ情報dを取得していないと判定されると(ステップS11;NO)、CPU203は、ミシンモータ2aの回転速度を現在の回転速度から100rpm減速させた速度(例えば、2400rpm)に設定し(ステップS12)、処理をステップS6に移行させる。これにより、前回よりも100rpm減速させた主軸の回転速度で縫製動作が行われて、上記と同様に、当該回転速度における位置ずれ情報dを取得する。
【0042】
上記の処理は、主軸の回転速度が制限最低速度(例えば、2000rpm)となるまで繰り返し実行される。そして、ステップS11にて、制限最高速度から制限最低速度までの位置ずれ情報d(図9参照)を取得した、即ち、位置ずれデータ取得工程が完了したと判定されると(ステップS11;YES)、CPU203は、回転速度特定工程及びデータ修正工程に係る修正パターン作成処理を行う(ステップS13)。
【0043】
ここで、修正パターン作成処理について、図10を参照して説明する。
図10は、縫製速度ティーチング処理における修正パターン作成処理に係る動作の一例を示すフローチャートである。
図10に示すように、CPU203は、先ず、データメモリ202から位置ずれ情報dを取得して、制限最高速度(例えば、2500rpm)での縫製に係る位置ずれ情報dに基づいて、位置ずれが発生している縫い目を検索して(ステップS131)、位置ずれが発生しているか否かを判定する(ステップS132)。
ここで、位置ずれが発生していると判定されると(ステップS132;YES)、CPU203は、回転速度特定プログラム201dを実行して、制限最高速度から制限最低速度に係る位置ずれ量を比較して、当該位置ずれ量が最小となる主軸の制限回転速度を特定する(ステップS133)。
【0044】
次に、CPU203は、位置ずれが発生している縫い目の全てについて、位置ずれ量が最小となる制限回転速度を特定したか否かを判定する(ステップS134)。ここで、位置ずれが発生している縫い目の全てについて、位置ずれ量が最小となる制限回転速度を特定していないと判定されると(ステップS134;NO)、CPU203は、処理をステップS133に移行させて、位置ずれが発生している他の縫い目について位置ずれ量が最小となる主軸の制限回転速度を特定する処理を行う。
一方、ステップS134にて、位置ずれが発生している縫い目の全てについて、位置ずれ量が最小となる制限回転速度を特定したと判定されると(ステップS134;YES)、CPU203は、データ修正プログラム201eを実行して、位置ずれが検出された縫い目について、回転速度特定処理にて特定された主軸の制限回転速度で縫製動作が行われるように当該縫い目の前後で速度変更指令を出力して、具体的には、例えば、図4(b)に示すように、4針目と5針目の針落ちの間に回転速度を2200rpmに変更する速度変更指令と、5針目と6針目の針落ちの間に回転速度を2500rpmに変更する速度変更指令とを出力して、縫製データ202aを修正する(ステップS135)。
【0045】
次に、CPU203は、位置ずれが発生している縫い目の全てについて、速度変更指令を出力したか否かを判定する(ステップS136)。ここで、位置ずれが発生している縫い目の全てについて、速度変更指令を出力していないと判定されると(ステップS136;NO)、CPU203は、処理をステップS135に移行させて、位置ずれが発生している他の縫い目について速度変更指令を出力する処理を行う。
一方、ステップS136にて、位置ずれが発生している縫い目の全てについて、速度変更指令を出力したと判定されると(ステップS136;YES)、CPU203は、当該修正パターン作成処理を終了する。
【0046】
また、ステップS132にて、位置ずれが発生していないと判定されると(ステップS132;NO)、CPU203は、制限最高速度での縫製パターンを修正パターンとして設定し(ステップS137)、修正パターン作成処理を終了する。
【0047】
次に、図8に示すように、CPU203は、操作パネル74の表示部74aに、修正後の縫製パターンを保存するか否かの選択を受け付ける画面(図示略)を表示して、当該縫製パターンを保存する指示が入力されたか否かを判定する(ステップS14)。
ここで、修正後の縫製パターンを保存する指示が入力されたと判定されると(ステップS14;YES)、CPU203は、当該縫製パターンの修正後の縫製データ202aをデータメモリ202に保存する(ステップS15)。なお、縫製パターンの修正後の縫製データ202aは、修正前の縫製データ202aに対して上書きされて保存されても良いし、別のデータとして保存されても良い。
一方、ステップS14にて、修正後の縫製パターンを保存する指示が入力されていないと判定されると(ステップS14;NO)、CPU203は、当該縫製パターンの修正後の縫製データ202aを破棄する(ステップS16)。
これにより、縫製速度ティーチング処理を終了する。
【0048】
(電子サイクルミシンの効果)
このように、本発明に係るミシン100は、縫製速度ティーチング処理にて、縫い速度を変更して複数回縫製動作を行い、各縫製動作の縫い速度と当該縫い速度における縫製データの縫い目ごとに検出した位置ずれ量とをデータメモリ202に記憶していき、記憶された縫い目ごとの位置ずれ量が最小となる縫い速度として主軸の制限回転速度を特定し、当該主軸の制限回転速度に基づいて、縫製データ202aの縫い目ごとに縫い速度を修正する。具体的には、入力された主軸の制限最高速度と制限最低速度との間で段階的に複数の縫い速度によるミシンモータ2aの動作制御を行って、検出した位置ずれ量を縫製データ202aの縫い目ごとにデータメモリ202に記憶し、当該制限最高速度と制限最低速度の間で、同一の縫い目に対して位置ずれ量が最小となる縫い速度が複数ある場合に、より高速な主軸の制限回転速度を特定する。
これにより、縫製速度ティーチング処理を行うだけで、位置ずれが検出された縫い目の主軸の回転速度を位置ずれ量が最小となるように修正した縫製データ202aを作成することができる。即ち、予め試し縫いとして縫製動作を行う縫製速度ティーチング処理を行うことにより、実際に被縫製物に針落ちされた位置が針落ち予定位置に対して位置ずれしていた場合には、位置ずれ量が最小となる主軸の制限回転速度を特定して、当該主軸の回転速度を位置ずれ量が最小となるように制限回転速度に修正することができる。従って、主軸の回転速度を手動で設定したり、位置ずれが発生する部分だけ縫製速度を落とす命令を縫製データ202aに組み込むものに比べて、位置ずれの少ない縫製データ202aを簡便に作成することができ、縫い品質の低下を防止することができる。
特に、同一の縫い目に対して位置ずれ量が最小となる縫い速度が複数ある場合に、主軸の制限回転速度を制限最高速度と制限最低速度の間でより高速に設定することができるので、ミシン100の縫製速度低下に伴う生産性の低下を最小限にすることができる。即ち、仮に制限最低速度で主軸を回転させた場合にある程度位置ずれが生じるとしても、当該位置ずれが縫い品質として許容できる範囲のものであれば、当該制限最低速度を制限回転速度として特定することができ、ミシン100の縫製速度の大幅な低下を抑制することができる。
【0049】
また、作業者による操作パネル74の所定操作により入力された被縫製物の厚さに基づいて、縫い針108が被縫製物に針落ちされる針落ちタイミングを検出して、当該針落ちタイミングにおける保持枠111の位置を取得して、当該保持枠111の位置と縫製データ202aに規定されている針落ち予定位置を比較するので、被縫製物の厚さを入力するだけで針落ちタイミングを簡便に検出することができ、これにより、当該針落ちタイミングにて被縫製物に針落ちされた位置の針落ち予定位置に対する位置ずれを簡便に検出することができる。従って、作業者による位置ずれの検出タイミングの設定作業を不要とすることができる。
【0050】
(その他)
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
例えば、主軸の制限回転速度を制限最高速度と制限最低速度の間で特定するようにしたが、これに限られるものではなく、縫いの品質向上の観点からは制限最低速度を指定せずに位置ずれが全く生じない回転速度を特定して、当該回転速度を制限回転速度としても良い。
【0051】
また、タイミング検出処理にて、入力された被縫製物の厚さに基づいて針落ちタイミングにおける主軸の回転角度θを算出するようにしたが、これに限られるものではなく、予め被縫製物の厚さと主軸の回転角度θとが対応付けられたテーブルを記憶しておいても良い。
【0052】
さらに、縫製データ202aに係る主軸の回転速度は、一例であって適宜任意に変更することができる。また、縫製速度ティーチング処理に係る制限最高速度及び制限最低速度は、一例であって適宜任意に変更することができる。
【0053】
また、ミシン100の構成は、上記実施形態に例示したものは一例であり、これに限られるものではない。
さらに、上記実施形態にあっては、縫製手段、位置ずれ検出手段、タイミング検出手段、位置取得手段、位置比較手段、回転速度特定手段、データ修正手段としての機能を、CPU203によって所定のプログラム等が実行されることにより実現される構成としたが、これに限られるものではなく、例えば、各種機能を実現するためのロジック回路等から構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかるミシンを示す斜視図である。
【図2】図1のミシンの保持枠や中押さえの近傍を示す拡大斜視図である。
【図3】図1のミシンの制御系を示すブロック図である。
【図4】図1のミシンにおける縫製データの設定内容の一例を説明するための図である。
【図5】図4の縫製データに基づく縫製動作を説明するための図である。
【図6】図1のミシンの主軸回転角度と針落ちタイミングの一例を説明するための図である。
【図7】図1のミシンにおける縫製速度ティーチング処理に係る動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】図7の縫製速度ティーチング処理の続きを示すフローチャートである。
【図9】図8の縫製速度ティーチング処理の結果に係る位置ずれ情報の一例を示す図である。
【図10】図8の縫製速度ティーチング処理における修正パターン作成処理に係る動作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
100 ミシン
2a ミシンモータ(針上下動機構、縫製手段)
74 操作パネル(厚さ入力手段、速度入力手段)
76a X軸モータ(位置決めモータ、位置決め機構、縫製手段)
77a Y軸モータ(位置決めモータ、位置決め機構、縫製手段)
111 保持枠(保持部、位置決め機構、縫製手段)
113 取付部材(位置決め機構、縫製手段)
108a 針棒(針上下動機構、縫製手段)
200 制御装置(縫製手段、位置ずれ検出手段、タイミング検出手段、位置取得手段、位置比較手段)
202 データメモリ(記憶手段、位置ずれ量記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い速度を入力する速度入力手段と、
ミシンモータにより駆動される主軸の回転により縫い針を上下動させる針上下動機構と、被縫製物を保持する保持部を有し、位置決めモータにより前記保持部に保持された被縫製物を、前記縫い針の上下動に同期して当該縫い針に対して相対的にXY移動する位置決め機構とを備え、縫製データに従って被縫製物をXY移動させながら前記速度入力手段により入力された縫い速度で縫製動作させる縫製手段と、
前記縫製動作にて実際に被縫製物に針落ちされた位置と前記縫製データに係る前記針落ち予定位置との位置ずれを検出する位置ずれ検出手段とを備えたミシンの縫い速度データ作成方法であって、
前記速度入力手段により入力された縫い速度を変更して複数回縫製動作を行い、各縫製動作の縫い速度と当該縫い速度における前記縫製データの縫い目ごとに前記位置ずれ検出手段により検出した位置ずれ量とを位置ずれ量記憶手段に記憶する位置ずれデータ取得工程と、
前記位置ずれ量記憶手段に記憶された縫い目ごとの位置ずれ量が最小となる縫い速度として主軸の制限回転速度を特定する回転速度特定工程と、
前記回転速度特定工程により特定された前記主軸の制限回転速度に基づいて、前記縫製データの縫い目ごとに前記縫い速度を修正するデータ修正工程と、
を備えることを特徴とするミシンの縫い速度データ作成方法。
【請求項2】
前記ミシンは、被縫製物の厚さを入力する厚さ入力手段を備え、
前記位置ずれ検出手段は、
前記厚さ入力手段により入力された前記厚さに基づいて、前記縫い針が被縫製物に針落ちされる針落ちタイミングを検出するタイミング検出手段と、
前記タイミング検出手段により検出された前記針落ちタイミングにおける前記保持部の位置を取得する位置取得手段と、
前記位置取得手段により取得された前記保持部の位置と、前記縫製データの前記保持部の前記針落ち予定位置を比較する位置比較手段と、を備えることを特徴とする請求項1記載のミシンの縫い速度データ作成方法。
【請求項3】
速度入力手段は、前記縫い速度として前記主軸の制限最高速度及び制限最低速度を入力し、
前記位置ずれデータ取得工程は、
前記速度入力手段により入力された前記制限最高速度と前記制限最低速度との間で段階的に複数の縫い速度による前記ミシンモータの動作制御を行って、前記位置ずれ検出手段により検出した検出した位置ずれ量を縫製データの縫い目ごとに前記位置ずれ量記憶手段に記憶し、
前記回転速度特定工程は、前記制限最高速度と前記制限最低速度の間で、同一の縫い目に対して位置ずれ量が最小となる縫い速度が複数ある場合に、より高速な前記主軸の制限回転速度を特定することを特徴とする請求項1又は2記載のミシンの縫い速度データ作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−124865(P2010−124865A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299419(P2008−299419)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】