説明

ミスト除去装置

【課題】液晶工場等における生産装置から発生するミストを効率的に除去する。
【解決手段】薬液を使用する各種の装置に付設されて該装置からの排ガスG中に含まれる薬液ミストを除去するためのミスト除去装置10であって、除去対象のミストを捕集するためのフィルタ11としてポリオレフィン繊維からなる不織布を用いる。フィルタを鉛直面に沿うように立てた姿勢で配置し、左右方向に沿う繊維の密度を上下方向に沿う繊維の密度よりも相対的に低くして、再液化した薬液成分が左右方向の繊維に阻害されることなく上下方向の繊維に沿って自然滴下するような滴下経路を確保する。フィルタの表面に洗浄水を散布する散水機構13を具備することが好ましく、その散水機構としては下部周面に多数の散水孔を所定間隔で形成した散水管を用いれば良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を使用する各種の装置に付設されて、該装置からの排ガス中に含まれる薬液ミストを除去するためのミスト除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、たとえば液晶工場における生産工程では各装置において各種の薬液を使用するが、その薬液のミストが排ガス中に混入することから、排ガスの処理に際しては排ガス中のミストを除去するための工程も必要である。
そのため、従来一般の液晶工場では、たとえば図5に示すように、各生産装置1から発生する排ガスGをダクト2を通して排気ファン3によって排気するための排ガス処理設備に大規模な水スクラバー4を設置しておき、その水スクラバー4によって排ガスGを洗浄処理してミストを吸収し回収してから排ガスGを大気中に放出するとともに、水スクラバー4においてミストを洗浄した洗浄水は水処理施設5において処理したうえで循環再使用することが通常である。
【0003】
また、たとえば特許文献1には、特殊なミスト除去フィルタを備えた薬液ミスト除去回収装置を各生産装置に付設して、そのような装置により各生産装置ごとにミストを回収し除去することも提案されている。
【特許文献1】特開2003−305322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図5に示すような従来一般の排ガス処理設備によることでは、各生産装置1から発生した様々なミストを含む排ガスを全て混合した状態で一括処理するものであることから、水処理施設5における洗浄水の処理工程が複雑かつ大がかりとならざるを得ない。
また、各生産装置1から水スクラバー4に至るダクト2の経路の総延長が長くなることから、ダクト2中においてミストが再液化してしまうことがあり、そのため、ダクト2の要所には液抜きのためのドレン管を設けたり、ダクト2全体を液密構造としておく必要もあり、そのことが排ガス処理設備全体のコスト増の一因ともなっている。
【0005】
その点、特許文献1に示されるように各生産装置ごとに薬液ミスト除去回収装置を設置して、各生産装置ごとにそこで発生するミストを独立に処理することとすれば、上記のような一括処理を行う場合における問題を軽減できるが、特許文献1に示される薬液ミスト除去回収装置はステンレス製の極めて特殊にして高価なミスト除去フィルタを用いるものであるし、またそれによるミストの回収効率も必ずしも充分ではなく、広く一般に普及するに至っていない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明はたとえば液晶工場における生産装置から発生するミストを効率的に回収して除去でき、かつ設備費や運転費を充分に軽減することのできる有効適切なミスト除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、薬液を使用する各種の装置に付設されて該装置からの排ガス中に含まれる薬液ミストを除去するためのミスト除去装置であって、除去対象のミストを捕集するためのフィルタを有し、該フィルタをポリオレフィン繊維からなる不織布により形成してなることを特徴とする。
【0008】
特に、本発明のミスト除去装置においては、フィルタを排ガスの流通方向に対して直交しかつ鉛直面に沿うように立てた姿勢で配置することにより、該フィルタにより捕集したミストが該フィルタの表面あるいは内部において再液化して該フィルタに沿って自然滴下可能とすることが好ましく、かつ、そのためにフィルタとしての不織布は、左右方向に沿う繊維の密度を上下方向に沿う繊維の密度よりも相対的に低くすることによって、再液化した薬液成分が左右方向の繊維によって阻害されることなく上下方向の繊維に沿って自然滴下するような滴下経路を有しているものとすることが好ましい。
【0009】
また、フィルタの表面に対して洗浄水を散布することによって、フィルタにより捕集したミストやそのガス状物質を吸収するとともに、ミストから再液化あるいは再結晶化した薬液成分を洗浄水により洗い流すための散水機構を具備することが好ましい。
さらに、その場合には、散水機構として下部周面に多数の散水孔が所定間隔で形成された散水管を用い、該散水管を排ガスの流通方向上流側に面しているフィルタの上部近傍位置に水平に配置すると良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明のミスト除去装置によれば、ミスト除去用のフィルタとしてポリオレフィン繊維からなる不織布を用いたので、そのような安価なフィルタ素材によって充分な除去効率が得られ、ミスト除去に係わる設備費および運転費を充分に軽減することが可能である。
特に、フィルタを鉛直面に沿って立てた姿勢で設置するとともに、フィルタとしての不織布の繊維密度に方向性を持たせて再液化した薬液成分が自ずとフィルタに沿って滴下するように構成することにより、薬液成分がフィルタ内に滞留したり下流側へ飛散することを有効に防止でき、除去効率を充分に高めることができる。
また、フィルタに対して洗浄水を散布する散水機構を具備することにより、ミストのみならずガス状物質を吸収でき、かつ再液化あるいは再結晶化した薬液成分を洗浄水により洗い流すことができるので、薬液成分全体に対する除去効率をより一層向上させることができる。
さらに、散水機構として散水孔を所定間隔で形成した散水管を用いることにより、極めて簡単な構成で優れた洗浄効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の実施形態であるミスト除去装置10を備えた排ガス処理設備の全体概略構成図、図2は本実施形態のミスト除去装置10の概略構成図であって(a)は平断面図、(b)は立断面図((a)におけるb−b線視図)、図3はミスト除去装置10におけるフィルタ11としての不織布の繊維密度の方向性を模式的に示す概念図、図4は本実施形態のミスト除去装置10のミスト除去性能を示す図である。
【0012】
図1に示す排ガス処理設備は液晶工場に適用されるものであって、図5に示した従来のものと同様に各生産装置1からの排ガス中に含まれるミストを一括して処理するための大規模な水スクラバー4を備えているものであるが、それに加えて本実施形態の排ガス処理設備では、それぞれの生産装置1の近傍位置にそれぞれ専用のミスト除去装置10を付設しており、生産装置1から発生したミストを周囲に拡散させることなくまずそのミスト除去装置10に通してそこで殆どのミストを除去し回収することを主眼としている。
【0013】
本実施形態のミスト除去装置10は、図2に示すように、処理対象の排ガスGの入り口および出口を有するケーシング12内を区画して排ガスGの流通経路を蛇行状態で形成し、その途中に排ガスG中のミストを捕集するためのフィルタ11が設置されたものである。
本実施形態におけるフィルタ11は、ケーシング12内の両側部において水平横方向に向かう排ガス流に対して直交するように鉛直面に沿うように立てられた姿勢で配置されており、それらフィルタ11により排ガス中のミストが効率的に捕集されるとともに、捕集したミストがフィルタ11の表面や内部において再液化した場合には、再液化した薬液成分はフィルタ11の表面や内部に留まることなくフィルタ11に沿って自ずと上から下へと自然滴下するものとなっている。
【0014】
本実施形態におけるフィルタ11は、液晶工場において使用される各種の薬液に対して優れた耐性を有するポリオレフィン樹脂からなる不織布によって形成されたものであって、そのポリオレフィン樹脂の繊維径はたとえば30〜40μm程度とすることが好適である。
そのフィルタ11としての不織布は、捕集したミストから再液化した薬液成分がフィルタに沿って自ずと滴下し易いものとなるように、たとえば図3に示すようにポリオレフィン繊維を主に上下方向に沿うように揃えることによって、左右方向に沿う繊維の密度が上下方向に沿う繊維の密度に比べて相対的に低くなるような繊維密度の方向性を有するものとされている。これにより、再液化した薬液成分の滴下は左右方向の繊維に阻害されることなく自ずと上下方向の繊維に沿って速やかにかつスムーズに滴下することになり、したがって薬液成分がフィルタ11内に滞留したり、その液滴が排ガス流によってフィルタ11を通過して下流側に飛散してしまうようなことを防止でき、優れた除去効率が得られるものである。
換言すると、繊維密度が各方向で完全に均一な不織布や、上記とは逆に左右方向の繊維の密度が上下方向の繊維の密度よりも高い不織布を用いる場合には、左右方向に沿う繊維によって薬液成分の滴下が阻害されてしまって明確な滴下経路が形成されることがなく、フィルタ11の表面や内部で再液化した薬液成分は自ずとそこに留まってしまい、やがては排ガス流によって少なからずフィルタ11を通過して下流側に飛散してしまうことになるので、充分な除去効率は望めるものではない。
【0015】
また、本実施形態のミスト除去装置10には、上記のように立て姿勢で設置されたフィルタ11の表面に対して洗浄水Wを散布するための散水機構13が備えられている。本実施形態における散水機構13は、塩化ビニールやステンレス等の耐薬品製の素材からなる小径の散水管の下部周面に多数の小径の散水孔(図示せず)を所定間隔で形成したものであり、流量計14を介して洗浄水供給管15から供給される洗浄水Wをフィルタ11の上流側の上部からその表面全体に対して水膜状に散水するものとされている。
【0016】
このように、散水機構13によってフィルタ11表面に洗浄水Wを散布することにより、散布された洗浄水Wはフィルタ11表面に沿って流下していき、その際にフィルタ11に捕集されているミストや、ミストからガス化したガス成分が洗浄水に吸収されてしまい、またフィルタ11の表面や内部において再液化したり再結晶化した薬液成分も洗浄水により洗い流されてしまい、それにより薬液成分全体に対する優れた除去効率が得られる。しかも、洗浄水Wがフィルタ11の上流側の表面全体に散布されることによってフィルタ11の目詰まりも有効に防止できるから、圧力損失の増大を防止できるとともに保守頻度も軽減することができる。
勿論、上記のようにフィルタ11には再液化した薬液成分が滴下し易いように繊維密度の方向性が調整されていることから、散布された洗浄水Wも同様にフィルタ11に沿ってスムーズに流下することになり、洗浄水Wがフィルタ11内に滞留したり水滴が下流側に飛散することもない。
【0017】
なお、各ミスト除去装置10に供給された洗浄水Wは、ケーシング12の底部から洗浄水回収管16により回収されて専用の個別水処理施設17(図1参照)に送られ、そこで洗浄水Wから薬液成分を分離除去するための水処理がなされる。したがって、各個別水処理施設17での水処理工程は単独の生産装置1から発生する特定の薬液のみを対象として行えば良く、各生産装置1からの排ガスを全て混合して一括処理する従来の水処理施設5に比べて水処理工程の単純化と処理効率の向上を図ることができる。
【0018】
図4は本実施形態のミスト除去装置10の性能確認のための実験結果を示す。実験Case1〜3はいずれもフィルタ寸法が200×250mm、フィルタ面風速1.5〜2.2m/s、散水量0.5L/min(液ガス比0.1〜0.147L/m)の条件で行ったものである。その結果から、いずれの場合も90%以上の優れた除去率が得られており、特にミストのみならずガス状物質や再液化あるいは再結晶化した成分も含めて薬液成分全体を有効に除去できることから、ミスト重量除去率よりも薬液溶質除去率が高くなっており、大気環境保全上の観点から好ましい結果が得られている。
【0019】
以上で本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、装置全体の具体的な構成、たとえばケーシング12の形態や、ケーシング12内における排ガス流通経路の形態、フィルタ11の位置や段数、フィルタ11としての不織布におけるポリオレフィン繊維の繊維径や繊維密度、散水機構13の構成(たとえば水噴霧ノズルの採用も考えられる)、その他については、除去対象のミストの種類や、要求される除去効率、処理するべき排ガス量、その他の諸条件に応じて最適設計を行えば良いことはいうまでもない。
【0020】
また、図1に示した排ガス処理設備では、各生産装置1に付設したミスト除去装置10とそれに対応する個別水処理施設17によってミストを除去し回収することに加えて、従来と同様に全ての排ガスを対象とする水スクラバー4とそのための水処理施設5を備えており、それにより工場全体として充分な処理効率と信頼性が得られるものとなっているが、本発明のミスト除去装置10を各生産装置1に付設することのみで充分な処理効率と充分な信頼性を得ることも勿論可能であるので、その場合には水スクラバー4とそのための水処理施設5を省略することも不可能ではない。
勿論、本発明のミスト除去装置は、液晶工場に限らず、各種の薬品を使用する各種の生産装置を対象として広く適用できることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態であるミスト除去装置を備えた排ガス処理設備の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施形態であるミスト除去装置の概略構成を示す図であって、(a)は平断面図、(b)は立断面図である。
【図3】同、フィルタとしての不織布における繊維の方向性を模式的に示す図である。
【図4】同、ミスト除去性能を示す図である。
【図5】従来一般の排ガス処理設備の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
G 排ガス
W 洗浄水
1 生産装置
2 ダクト
3 排気ファン
4 水スクラバー
5 水処理施設
10 ミスト除去装置
11 フィルタ(ポリオレフィン繊維からなる不織布)
12 ケーシング
13 散水機構(散水管)
14 流量計
15 洗浄水供給管
16 洗浄水回収管
17 個別水処理施設

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を使用する各種の装置に付設されて該装置からの排ガス中に含まれる薬液ミストを除去するためのミスト除去装置であって、
除去対象のミストを捕集するためのフィルタを有し、該フィルタをポリオレフィン繊維からなる不織布により形成してなることを特徴とするミスト除去装置。
【請求項2】
請求項1記載のミスト除去装置であって、
フィルタを排ガスの流通方向に対して直交しかつ鉛直面に沿うように立てた姿勢で配置することにより、該フィルタにより捕集したミストが該フィルタの表面あるいは内部において再液化して該フィルタに沿って自然滴下可能とし、
かつ、フィルタとしての不織布は、左右方向に沿う繊維の密度が上下方向に沿う繊維の密度よりも相対的に低くされていることによって、再液化した薬液成分が左右方向の繊維に阻害されることなく上下方向の繊維に沿って自然滴下するような滴下経路を有していることを特徴とするミスト除去装置。
【請求項3】
請求項2記載のミスト除去装置であって、
フィルタの表面に対して洗浄水を散布することによって、フィルタにより捕集したミストやそのガス状物質を吸収するとともに、ミストから再液化あるいは再結晶化した薬液成分を洗浄水により洗い流すための散水機構を具備してなることを特徴とするミスト除去装置。
【請求項4】
請求項3記載のミスト除去装置であって、
散水機構は、下部周面に多数の散水孔が所定間隔で形成された散水管からなり、該散水管を排ガスの流通方向上流側に面しているフィルタの上部近傍位置に水平に配置してなることを特徴とするミスト除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−275763(P2007−275763A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105218(P2006−105218)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】