説明

ミロエステロールの製造法

【課題】 マメ科植物の塊状根部から単純かつ短工程操作で効率よくエストロゲン様作用物質の一つであるミロエステロールを抽出する製造法を提供する。
【解決手段】 プエラリア ミリフィカの塊状根部の粉末から酢酸エチルで抽出し、得られた酢酸エチル抽出物を順相カラムクロマトグラフィー、次いで逆相クロマトグラフィーに付し、溶出物を低級アルコールで洗浄し、ミロエステロールの結晶性純品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン様作用物質であるミロエステロールの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトに存在するエストロゲンは、主として卵巣によって17β−エストラジオールが生成されている。生成されたエストロゲンは女性の2次性徴の発達、子宮内膜の増殖、性機能の調節、骨代謝の調節、脂質代謝の調節等において重要な働きを果たしている。従って、女性の加齢や卵巣機能の低下に伴って、体内のエストロゲンが欠乏すると、特定の医学症状、例えば、閉経に関連する自律神経失調症状、脂質代謝異常及び血管運動障害、更年期障害、萎縮性膣炎、性機能低下、骨粗鬆症等が起こるが、これらに対してはエストロゲンの補充療法が実施されている。
【0003】
エストロゲンを長期投与すると副作用が発現することもあり、副作用の発現を抑えたエストロゲン様作用を示すエストロゲン様作用物質の薬剤が望まれている。エストロゲン様作用物質は、人工的に合成することもでき、またマメ科植物等にも存在することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
マメ科クズ属植物に属するプエラリア ミリフィカ(Pueraria mirifica)の塊状根部は、ミャンマーやタイ北部等で回春効果を有する秘薬として珍重されている。このプエラリア ミリフィカの塊状根部には、ミロエステロールが存在していることが知られている。このミロエステロールは、エストロゲン欠乏に起因する疾患の治療薬につながる可能性のあるエストロゲン様作用物質であることが示唆されている(非特許文献2)。
【非特許文献1】Environmental Health Perceptoves,第61巻,97−110頁,1985年
【非特許文献2】Nature,第188巻,774−777頁,1990年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マメ科植物等の塊状根部に存在するエストロゲン様作用物質の単離では、塊状根部に多量に含まれている糖成分等を除去してエストロゲン様作用物質を単離するため、煩雑な分離操作、例えば、2連式カラムシステムを含む多段階カラムクロマト分離等を要している。エストロゲン様作用物質の一つであるミロエステロールを、単純かつ短工程操作で効率よく抽出することが望まれていた。
【0006】
本発明の目的は、マメ科植物からエストロゲン様作用物質の一つであるミロエステロールを単純かつ短工程操作で単離精製するミロエステロールの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、マメ科植物に属するプエラリア ミリフィカの塊状根部からエストロゲン様作用物質を選択的に抽出できる抽出用有機溶剤である酢酸エチルを用いてエストロゲン様作用物質を抽出し、引き続き順相カラムクロマトグラフィー次いで逆相カラムクロマトグラフィーに付して溶出物を得ることにより、単純かつ短工程操作で結晶性純品のエストロゲン様作用物質の一つであるミロエステロールを製造することができることを見出した。
【0008】
本発明は、プエラリア ミリフィカ(Pueraria mirifica)の塊状根部の粉末から酢酸エチルで抽出し、得られた酢酸エチル抽出物を順相カラムクロマトグラフィー、次いで逆相カラムクロマトグラフィーに付し、溶出物を低級アルコールで洗浄することを特徴とするミロエステロールの製造法を提供したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マメ科植物等の塊状根部からエストロゲン様作用物質の一つであるミロエステロールの単離精製を単純かつ短工程操作で可能にすることができ、ミロエステロールの生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の目的物であるミロエステロールは、次式(1)で表される。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明においては、まずプエラリア ミリフィカの塊状根部の粉末から酢酸エチルで抽出する。抽出溶剤として酢酸エチルを用いることにより、スクロース等の糖成分が効果的に除去できる。原料となるプエラリア ミリフィカの塊状根部の粉末は、市販品を利用することができる。プエラリア ミリフィカの塊状根部の粉末に対する酢酸エチルの使用量は、該粉末1質量部に対し、0.1から10容量部、さらに0.5から5容量部、特に0.5から3容量部が好ましい。抽出温度は、常圧下で0℃から酢酸エチルの沸点の温度(76.8℃)でよいが、40〜77℃が特に好ましい。また、抽出手段は、通常の手段、例えばプエラリア ミリフィカの塊状根部の粉末に酢酸エチルを添加し、混合した後、酢酸エチル相を分取すればよいが、ソックスレー抽出器を用いるのが特に好ましい。
【0013】
なお、ミロエステロールを効果的に酢酸エチル相に抽出する点から、酢酸エチル抽出の前にヘキサン、石油エーテル、ベンゼン等の酢酸エチルより極性の小さい溶剤を用いてプエラリア ミリフィカの塊状根部の粉末を洗浄することが好ましい。洗浄温度は0〜100℃で、さらに洗浄する溶剤は還流させることが好ましい。
【0014】
得られた酢酸エチル相を順相カラムクロマトグラフィーに付す。順相カラムクロマトグラフィーの固定相としては、シリカゲル、フロリジール、アルミナ等が挙げられるが、このうちシリカゲルが好ましい。溶出溶媒としては、ヘキサン:酢酸エチル=1:1〜5、さらに1:2〜4、特に1:3の混合溶剤が好ましい。ここでカラム温度は、10〜35℃が好ましい。また、順相カラムクロマトグラフィーの圧力は中圧が好ましい。順相カラムクロマトグラフィーの流速は、20〜50mL/分が好ましく、30mL/分が特に好ましい。
【0015】
順相カラムクロマトグラフィーの溶出物を、次いで、逆相カラムクロマトグラフィーに付す。逆相カラムクロマトグラフィーの固定相としては、オクタデシル化シリカゲル(ODS)、オクチル化シリカゲル、ブチル化シリカゲル、トリメチルシリル化シリカゲル等が挙げられるが、ODSが特に好ましい。溶出溶媒としては、アセトニトリル:水:酢酸=100〜450:1200〜500:1、特に200〜250:800〜750:1のグラジュエントが好ましい。ここでカラム温度は、10〜35℃が好ましい。また、逆相カラムクロマトグラフィーの圧力は中圧が好ましい。逆相カラムクロマトグラフィーの流速は、10〜40mL/分が好ましく、25mL/分が特に好ましい。
【0016】
順相カラムクロマトグラフィーと逆相カラムクロマトグラフィーは、連続して行うことが好ましい。すなわち、順相カラムクロマトグラフィーで得られた溶出液をそのまま逆相カラムクロマトグラフィーに付すのが好ましい。また、当該順相カラムクロマトグラフィーと逆相カラムクロマトグラフィーは、2回連続して行うことがさらに好ましい。
なお、ミロエステロールの検出は、薄層クロマトグラフィー、分析用カラムクロマトグラフィー等を用いて200〜400nm、特に254nmの紫外線で行うことができる。
【0017】
得られた溶出液は、低級アルコールで洗浄することにより、ほぼ純粋なミロエステロールが得られる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられるが、エタノールが特に好ましい。洗浄は、5〜30℃の温度で行うのが好ましい。洗浄することにより、目的物であるほぼ純粋なミロエステロールの結晶性の粉末が得られる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
プエラリア ミリフィカの塊状根部の粉末(1.08kg)に酢酸エチル4.8L添加後、ソックスレー抽出装置を用い、8時間還流抽出した。抽出物が含まれた酢酸エチル相をろ過して残渣を除去後エバポレータで濃縮し、ミロエステロールを含む抽出物(10.17g、0.94%)を調製した。
【0019】
調製したミロエステロールを含む抽出物を、中圧カラムクロマトシステム(流速25−30mL/分、カラム温度約25℃)を用い、順相カラムクロマトグラフィー(バイオタージ社;S (40+M))、次いで逆相カラムクロマトグラフィー(バイオタージ社;C18 HS (25+M))に付してミロエステロールの溶出物(0.049g、0.0045%)を得た。
【0020】
実施例では、溶出溶媒として、順相カラムクロマトグラフィーでヘキサン:酢酸エチル=1:3、逆相カラムクロマトグラフィーでアセトニトリル:水:酢酸=200:800:1から250:750:1のグラジュエントを用いた。このとき、ミロエステロールは、アセトニトリル:酢酸エチル:水=220:780:1の際に溶出された。
【0021】
実施例で得たミロエステロール溶出物を、エタノールで洗浄し、ミロエステロール(0.014g、0.0013%)の結晶性純品を得た。
【0022】
図1〜4に示すように、各工程におけるミロエステロールの検出を、分析用カラムクロマトグラフィー(ナカライテスク社、5C18−AR−IIカラム、直径4.6x長さ250mm)を用いて行った。測定条件は、カラム温度25℃、流速1.0mL/分、検出波長254nm、溶出溶媒にアセトニトリル:酢酸エチル:水=220:780:1で行った。
図1に酢酸エチル抽出工程、図2に酢酸エチル抽出工程後順相カラムクロマトグラフィー溶出画分分取工程、図3に酢酸エチル抽出工程後、順相次いで逆相カラムクロマトグラフィー溶出画分分取工程、図4に酢酸エチル抽出工程後順相次いで逆相カラムクロマトグラフィー溶出画分分取工程、さらにエタノール洗浄工程の測定結果を示す。
図4に示すように、エタノール洗浄工程後得られた結晶性純品は高純度であることを認めた。下記にミロエステロールの結晶性純品のHRMS、IR、UV、ORD、1H,13C−NMR等の測定結果を示す。
【0023】
<ミロエステロールの結晶性純品>
HRMS m/z:357.1339(357.1339 calcd, for C20216(M-1));IR(KBr)cm-1:(OH)、(CO);3497,1741;UV(MeOH)nm:nm:203.5(log ε 4.29),217.5(4.22),263.5(3.35),285.5(3.51);[α]D(25℃)247°(c=0.4x10-3mmol/L,MeOH);
【0024】
1H―NMR(600MHz,CD3OD);0.56(3H, s, Me)、1.23(3H, s, Me),1.88(1H, dd, J=14,8.6 Hz, C19−H)、1.99(1H, br.t, J=12.1 Hz, C19−H)、2.43(1H, d, J=5.5 Hz, C13−H)、2.58(1H, dd, J=18, 5.2 Hz, C16−H)、2.74(1H, ddd, J=12,9.5, 5.5 Hz, C12−H)、2.90(1H, d, J=18.5 Hz, C16−H)、3.31(1H, s, C9−H)、3.69(1H, s, C18−H)、6.29(1H, s, C7−H)、6.30(1H, d, J=2.5 Hz, C4−H)、6.50(1H, dd, J=8.4、2.5 Hz, C2−H)、6.99(1H, d, J=8.4 Hz, C1−H);
【0025】
13C−NMR(150 MHz,CD3OD);22.5(Me),32.5(Me),38.0(C)、40.7(CH2)、40.8(C)、45.6(CH),51.2(CH)、55.3(CH2),78.0(C),79.3(CH),79.7(C)、103.7(CH)、112.0(CH)、113.5(C)、116.4(C)、131.2(CH)、139.7(CH)、153.8(C)、158.3(C)、210.5(CO)。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】酢酸エチル抽出物の分析用カラムクロマトグラフィーの結果を示す。
【図2】酢酸エチル抽出後、順相カラムクロマトグラフィーにより得られた溶出画分の分析用カラムクロマトグラフィーの結果を示す。
【図3】酢酸エチル抽出後、順相カラムクロマトグラフィー、次いで逆相カラムクロマトグラフィーにより得られた溶出画分の分析カラムクロマトグラフィーの結果を示す。
【図4】酢酸エチル抽出後、順相カラムクロマトグラフィー、次いで逆相カラムクロマトグラフィー、さらにエタノール洗浄により得られた結晶性純品の分析カラムクロマトグラフィーの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プエラリア ミリフィカ(Pueraria mirifica)の塊状根部の粉末から酢酸エチルで抽出し、得られた酢酸エチル抽出物を順相カラムクロマトグラフィー、次いで逆相カラムクロマトグラフィーに付し、溶出物を低級アルコールで洗浄することを特徴とするミロエステロールの製造法。
【請求項2】
順相カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒がヘキサン:酢酸エチル=1:1〜5であり、逆相カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒が、アセトニトリル:水:酢酸=400〜150:1200〜500:1である請求項1に記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−290822(P2006−290822A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115453(P2005−115453)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年2月1日 日本薬学会年会Webページ(http://nenkai.pharm.or.jp/125/pc/imulti_result.asp)にて発表
【出願人】(000234605)白鳥製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】