説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】嵩密度の高い触媒を再現性良く製造できるメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であるX元素と、リンと、モリブデンと、アルカリ金属とを含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、(i)水中にモリブデン原料およびX元素の原料を添加する工程と、(ii)アルカリ金属原料を添加してヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させる工程と、(iii)リン原料を添加する工程と、(iv)全ての原料を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥して乾燥物を得る工程と、を含み、工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上である方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒(以下、単に「触媒」とも記す)の製造方法、この方法により製造される触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒としては、モリブデン元素およびリン元素を含むヘテロポリ酸系触媒が知られている。このようなヘテロポリ酸系触媒としては、カウンターカチオンがプロトンであるプロトン型ヘテロポリ酸、およびそのプロトンの一部をセシウム、ルビジウム、カリウム等のアルカリ金属で置換したヘテロポリ酸のアルカリ金属塩が知られている(以下、プロトン型へテロポリ酸を単に「ヘテロポリ酸」とも言い、プロトン型ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を「ヘテロポリ酸(塩)」とも言う。)。なお、プロトン型ヘテロポリ酸は水溶性であるが、ヘテロポリ酸のアルカリ金属塩はカチオンのイオン半径が大きいため、一般に難溶性である。
【0003】
ヘテロポリ酸(塩)の構造としては、非特許文献1に以下のような記載がある。
(a)ヘテロポリ酸(塩)は中心に異種元素(以下中心元素という)があり、酸素を共有して縮合酸基が縮合して形成される単核または複核の錯イオンを有している。縮合形態は数種類知られており、リン、ヒ素、ケイ素、ゲルマニウム、チタン等が中心元素となり得る。
【0004】
また、ヘテロポリ酸系触媒を用いてメタクロレインからメタクリル酸を製造する際に、メタクリル酸の選択率を向上させる触媒の製造方法として、特許文献1に以下の方法が開示されている。
(b)(i)水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程と、
(ii)前記水性スラリーまたは水溶液に、アルカリ金属化合物を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部のアルカリ金属塩であるヘテロポリ酸塩を析出させる工程と、
(iii)前記ヘテロポリ酸塩が析出している水溶性スラリーに、リン原料を添加する工程と、
(iv)全ての原料を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥して、乾燥物を得る工程と、
(v)前記乾燥物を熱処理する工程と、を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法、である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/013749号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大竹正之、小野田武、触媒、vol.18、No.6(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記(b)の触媒の製造方法では、乾燥して得られた乾燥物の嵩密度が低く、また触媒製造における再現性が乏しい場合がある。より嵩密度が高い触媒(乾燥物)を得ることで、所定の反応器に触媒を充填する場合に、単位体積当たりより多くの触媒を充填することができ、反応器内の体積の有効利用が可能となる。また、嵩密度が高くなり触媒の機械的強度が高くなることで、触媒成形品において酸化反応に必要な適当な細孔径が確保できる。したがって、嵩密度の高い触媒を再現性良く製造できる方法の開発が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、嵩密度の高い触媒を再現性良く製造できるメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であるX元素と、リン元素と、モリブデン元素と、アルカリ金属元素とを含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(i)水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程と、
(ii)前記水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属原料を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部をヘテロポリ酸のアルカリ金属塩として析出させる工程と、
(iii)前記ヘテロポリ酸のアルカリ金属塩が析出している水性スラリーに、リン原料を添加する工程と、
(iv)全ての原料を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥して、乾燥物を得る工程と、
を含み、
前記工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る方法によれば、嵩密度の高い触媒を再現性良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<メタクリル酸製造用触媒>
本発明に係る方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒は、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素である元素Xと、リン元素と、モリブデン元素と、アルカリ金属元素とを含む。アルカリ金属元素としては、カリウム、ルビジウムおよびセシウム等が挙げられる。該触媒は、特に下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
【0012】
MoabcCudefgh (1)
(式(1)中、Mo、P、V、CuおよびOはそれぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素を示す元素記号である。Xはケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Yはビスマス、ジルコニウム、銀、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、コバルト、マンガン、バリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Zはカリウム、ルビジウム、セシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、a=12の時、b=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0.1〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)。
【0013】
なお、前記触媒組成はICP発光分析法によって測定した値とする。
【0014】
<メタクリル酸製造用触媒の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であるX元素と、リン元素と、モリブデン元素と、アルカリ金属元素とを含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(i)水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程と、
(ii)前記水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属原料を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部をヘテロポリ酸のアルカリ金属塩として析出させる工程と、
(iii)前記ヘテロポリ酸のアルカリ金属塩が析出している水性スラリーに、リン原料を添加する工程と、
(iv)全ての原料を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥して、乾燥物を得る工程と、
を含み、
前記工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上である。
【0015】
本発明者らは、モリブデン元素およびX元素を含むヘテロポリ酸をアルカリ金属原料により析出させたヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を含む水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上であることによって、触媒の嵩密度とその再現性が大きく向上することを見出した。また、得られた触媒がメタクリル酸の製造において高いメタクリル酸収率を示すことを見出した。
【0016】
本発明者らは0.25μmを超える粒子直径を有する粒子がリン原料添加後に成長し、大きい粒子を形成すると推察している。大きい粒子が形成される場合、該粒子を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥させて得られる乾燥物は嵩密度が小さくなる。また、その再現性は低下する。したがって、この場合触媒の嵩密度は小さくなり、再現性は低下し、高いメタクリル酸収率を示す触媒が得られなくなると推察している。なお、前記特許文献1の実施例記載の方法では、本発明に係る粒子直径の規定を達成することはできない。
【0017】
また、前記工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が1〜10μmである粒子の体積が全粒子体積に対して32%以上、60%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明者らは、特に0.25μmを超えて1μm未満の粒子直径を有する粒子がリン添加後に成長し、より大きい粒子を形成すると推察している。その為、前記水性スラリー中の粒子の粒子直径を0.01〜0.25μmと1〜10μmの範囲に集中させることで、嵩密度が高い触媒を再現性良く製造でき、高いメタクリル酸収率を示す触媒が得られると推察している。
【0019】
さらに、前記工程(ii)において、前記水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属原料を添加した後、30分以上攪拌することが好ましい。
【0020】
アルカリ金属原料を添加しヘテロポリ酸の少なくとも一部がアルカリ金属塩になったヘテロポリ酸のアルカリ金属塩の粒子を30分以上攪拌することで、粒子の析出と溶解とが平衡状態に達し、触媒の嵩密度が安定すると推測している。
【0021】
なお、本発明に係る方法は、さらに後述する乾燥物を賦形する工程(賦形工程)、乾燥物を熱処理する工程(熱処理工程)を含んでもよい。
【0022】
〔工程(i)〕
工程(i)では、水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する。
【0023】
なお、リン原料は工程(i)では添加しないことが好ましいが、添加する全リン原料のうち一部のリン原料であって、X元素の原料中のX元素のモル数より少ないモル数のリン元素を含むリン原料を供給するのであれば添加してもよい。また、モリブデン原料、リン原料、X元素の原料およびアルカリ金属原料以外の原料(例えば、前記式(1)で表される組成を有する触媒を製造する場合においては、バナジウム原料、銅原料およびY元素の原料)は、工程(i)、工程(ii)および工程(iii)のいずれの段階で添加しても構わない。添加する原料の配合量は、目的とする触媒の組成に応じて適宜決定することができる。
【0024】
使用する原料としては、他の工程で添加する他の元素の原料についても同様であるが、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。モリブデン原料としては、例えばパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられる。銅原料としては、例えば硝酸銅、酸化銅、炭酸銅、酢酸銅等が挙げられる。バナジウム原料としては、例えばリンバナドモリブデン酸、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。ただし、バナジウム原料としてリンバナドモリブデン酸を用いる場合、リンバナドモリブデン酸中には、モリブデン元素およびリン元素が同時に含まれるため、リンバナドモリブデン酸の添加量に応じてモリブデン原料、リン原料の添加量を調製する必要がある。
【0025】
ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液の調製は、水に各元素の原料を加え、加熱しながら攪拌する方法が簡便であり好ましい。水に各元素の原料の水溶液、水性スラリーまたは水性ゾルを添加することもできる。工程(i)で使用する水の量は、(工程(i)で使用する原料の合計質量):(工程(i)で使用する水の質量)=1:0.5〜1:15であることが好ましく、1:1〜1:4であることがより好ましく、1:1〜1:2であることがさらに好ましい。なお、各元素の原料の水溶液、水性スラリーまたは水性ゾルを用いた場合、そのうち原料のみを「工程(i)で使用する原料」に算入し、溶媒としての水は「工程(i)で使用する水」に算入する。また、各元素の原料が水和物の場合における結晶水は、「工程(i)で使用する原料」に算入する。工程(i)で使用する水の量をこの範囲にすることでメタクリル酸の選択率が向上する。工程(i)で使用する水の量の役割は明らかではないが、工程(i)で使用する水の量が前記範囲にあることで、工程(ii)で形成されるヘテロポリ酸のアルカリ金属塩の物理構造が逐次酸化反応を抑制する最適な構造となり、メタクリル酸の選択率が向上すると推察している。水性スラリーまたは水溶液の加熱温度は、80〜130℃が好ましく、90〜130℃がより好ましい。
【0026】
調製されるヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液のpHは4以下が好ましく、2以下がより好ましい。調製されるヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液のpHが高い場合には、硝酸根等を多く含むように各原料を選択することが好ましい。
【0027】
工程(i)において水性スラリーまたは水溶液中にヘテロポリ酸が生成しているか否かは、工程(ii)においてアルカリ金属原料を添加した際に析出する析出物の構造を後述する方法で解析し、該析出物がヘテロポリ酸のアルカリ金属塩であるか否かを確認することで判断することができる。
【0028】
〔工程(ii)〕
工程(ii)では、工程(i)で得られた水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属原料を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部をヘテロポリ酸のアルカリ金属塩として析出させる。
【0029】
アルカリ金属原料を添加する前に、前記水性スラリーまたは水溶液を冷却することが好ましい。冷却温度は20〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。
【0030】
析出させるヘテロポリ酸のアルカリ金属塩は、ケギン型構造でも、ドーソン型構造等のケギン型以外の構造でも構わないが、ケギン型構造であることが好ましい。析出させるヘテロポリ酸のアルカリ金属塩がケギン型構造である場合、メタクリル酸の選択率がより向上する。ケギン型構造のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させるためには、例えばモリブデン原料として三酸化モリブデンを使用して、工程(ii)における水性スラリーのpHを3以下に調整する方法が挙げられる。水性スラリーのpH調整は、後述する方法により行うことができる。析出させたヘテロポリ酸のアルカリ金属塩の構造は、ヘテロポリ酸のアルカリ金属塩をろ過等により分離し乾燥させ、NICOLET6700FT−IR(製品名、Thermo electron社製)を用いた赤外吸収分析で測定することにより確認することができる。
【0031】
アルカリ金属原料は、溶媒に溶解または懸濁させたアルカリ金属原料の溶液またはスラリーの状態で添加することが好ましい。溶媒としては、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられるが、水性スラリーまたは水溶液と同じ水を用いることが好ましい。
【0032】
工程(ii)におけるアルカリ金属原料を添加した後の水性スラリーまたは水溶液の攪拌時間は、30分以上が好ましく、30〜60分がより好ましい。また、攪拌時の水性スラリーまたは水溶液の温度は、20〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。
【0033】
攪拌装置としては、回転翼攪拌機、高速回転剪断攪拌機(ホモジナイザー等)等の回転式攪拌装置、振り子式の直線運動型攪拌機、容器ごと振とうする振とう機、超音波等を用いた振動式攪拌機等の公知の攪拌装置が挙げられる。回転式攪拌装置における攪拌翼または回転刃の回転速度は、液の飛散等の不都合が起きない程度に、容器、攪拌翼、邪魔板等の形状、液量等を勘案して適宜調整すればよい。攪拌は連続的に、または断続的に行ってもよいが、連続的に行う方が好ましい。
【0034】
調製される水性スラリーのpHを調整するために、硝酸または硝酸化合物、アンモニア水またはアンモニア化合物を添加してもよい。硝酸化合物としては、硝酸アンモニウム等が挙げられる。アンモニア化合物としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。調製される水性スラリーのpHは4以下が好ましく、2以下がより好ましい。なお、硝酸または硝酸化合物、アンモニア水またはアンモニア化合物を添加する場合には、前述した工程(ii)におけるアルカリ金属原料を添加した後の水性スラリーまたは水溶液の攪拌時間には、硝酸または硝酸化合物、アンモニア水またはアンモニア化合物を添加した後の攪拌時間は含まれないものとする。
【0035】
本発明に係る方法では、工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上である。工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーとは、工程(ii)においてアルカリ金属原料を添加しヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた後であって、後述する工程(iii)においてリン原料を添加する直前のスラリーを示す。また、前述したように、水性スラリーのpHを調整するために、硝酸または硝酸化合物、アンモニア水またはアンモニア化合物を添加する場合には、これらを添加した後の水性スラリーを示す。
【0036】
工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上、68%以下であることが好ましく、40%以上、60%以下であることがより好ましく、40%以上、50%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が1〜10μmである粒子の体積が全粒子体積に対して32%以上、60%以下であることが好ましく、35%以上、55%以下であることがより好ましく、40%以上、50%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、前記割合は、工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーを、(株)島津製作所製のSALD−7000(商品名)を用いて、レーザ回折式粒径分布測定法にて粒子径分布の測定を行うことにより得られる値である。
【0039】
〔工程(iii)〕
工程(iii)では、前記ヘテロポリ酸のアルカリ金属塩が析出している水性スラリーに、リン原料を添加する。リン原料としては、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。リン原料の添加量は、目的とする触媒の組成に応じて適宜決定すればよい。ただし、前述のように、バナジウム原料としてリンバナドモリブデン酸を用いる場合、リンバナドモリブデン酸中にはリン元素が含まれるため、リンバナドモリブデン酸の添加量に応じてリン原料の添加量を適宜調整する必要がある。
【0040】
リン原料はそのまま添加してもよく、溶媒に溶解または懸濁させたリン原料の溶液またはスラリーの状態で添加してもよい。溶媒を用いる場合における溶媒としては、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられるが、水性スラリーと同じ水を用いることが好ましい。リン原料の溶液またはスラリーの濃度は、5〜85質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。
【0041】
リン原料を添加した水性スラリーは引き続き後述する工程(iv)に処しても、静置してもよいが、攪拌することが好ましい。攪拌装置としては、回転翼攪拌機、高速回転剪断攪拌機(ホモジナイザー等)等の回転式攪拌装置、振り子式の直線運動型攪拌機、容器ごと振とうする振とう機、超音波等を用いた振動式攪拌機等の公知の攪拌装置が挙げられる。回転式攪拌装置における攪拌翼または回転刃の回転速度は、液の飛散等の不都合が起きない程度に、容器、攪拌翼、邪魔板等の形状、液量等を勘案して適宜調整すればよい。攪拌は連続的に、または断続的に行ってもよいが、連続的に行う方が好ましい。
【0042】
攪拌時の水性スラリーの温度は、20〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。また、リン原料を添加した後の攪拌時間は、5〜60分が好ましく、10〜30分がより好ましい。
【0043】
攪拌または静置した水性スラリーは引き続き工程(iv)に処しても、さらに静置してもよい。静置する時の水性スラリーの温度は、5〜40℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。静置する時間は短いほどよいが、2日以内が好ましい。
【0044】
〔工程(iv)〕
工程(iv)では、全ての原料を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥して、乾燥物を得る。ここで、全ての原料を含む水性スラリーまたは水溶液とは、X元素の原料、リン原料、モリブデン原料、アルカリ金属原料、前記以外の他の元素の原料を添加する場合には他の元素の原料、を全て添加した水性スラリーまたは水溶液を示す。乾燥方法としては、例えば、ドラム乾燥法、気流乾燥法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法等の公知の方法が挙げられる。乾燥は通常、120〜500℃、好ましくは140〜350℃で、水性スラリーまたは水溶液が乾固するまで行う。この際に使用する乾燥機の機種や乾燥温度等の条件は特に限定されず、所望する乾燥物の形状や大きさにより適宣選択することができる。
【0045】
〔賦形工程〕
得られた乾燥物は賦形されてもよく、後述する熱処理工程後に賦形されてもよい。乾燥物または熱処理された乾燥物の賦形に用いる装置としては、打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の公知の粉体用成形機が挙げられる。賦形品の形状としては特に制限はなく、球状、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状が挙げられる。
【0046】
〔熱処理工程〕
得られた乾燥物または乾燥物の賦形品は熱処理されてもよい。熱処理条件としては、特に限定はなく、公知の熱処理条件を適用できる。熱処理は通常、空気等の酸素含有ガス流通下および/または不活性ガス流通下、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間行う。
【0047】
以上の方法により製造される本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は高嵩密度であり、高い収率でメタクリル酸を製造することができる。また。本発明に係る方法によれば高い再現性で該触媒を製造することができる。
【0048】
<メタクリル酸の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係る方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。
【0049】
具体的には、メタクロレインおよび分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒とを接触させることでメタクリル酸を製造する。この反応は通常固定床で行う。触媒層は1層でもよく、2層以上であってもよい。メタクリル酸製造用触媒は、担体に担持されていてもよく、その他の添加剤が混合されたものであってもよい。
【0050】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は特に限定されないが、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。メタクロレインは、低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的な影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。
【0051】
原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4〜4モルが好ましく、0.5〜3モルがより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。
【0052】
原料ガスは、メタクロレインおよび分子状酸素源を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。水蒸気の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高い収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1〜50容量%が好ましく、1〜40容量%がより好ましい。
【0053】
原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5〜15秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。
【0054】
反応圧力は、大気圧(0.1MPa−G)〜数気圧(例えば1MPa−G)が好ましい。反応温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0056】
工程(ii)のへテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーの粒子径分布は、(株)島津製作所製のSALD−7000(商品名)を用い、レーザ回折式粒径分布測定法にて測定した。
【0057】
触媒の嵩密度は、工程(iv)の後に得られた乾燥物を50mlのメスシリンダーに量り取り、体積50ml中の質量から下記式により算出した。
【0058】
触媒の嵩密度(g/ml)=50mlメスシリンダーに充填された乾燥物質量(g)/50(ml)
触媒組成は、触媒をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって算出した。
【0059】
原料ガスおよび生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクリル酸収率を下記式にて求めた。
【0060】
メタクリル酸収率(%)=(B/A)×100
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0061】
[実施例1]
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム2.7部、60質量%ヒ酸水溶液8.2部および硝酸銅(II)3水和物1.4部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。これを50℃まで冷却後、回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、純水20部に溶解した重炭酸セシウム11.2部を添加し、30分攪拌、その後、純水20部に溶解した硝酸アンモニウム11.6部を滴下して15分攪拌し、ヘテロポリ酸のセシウム塩を析出させた。なお、析出したヘテロポリ酸のセシウム塩を、NICOLET6700FT−IR(製品名、Thermo electron社製)を用いた赤外吸収分析により測定した結果、ケギン型構造を有することが確認された。また、このヘテロポリ酸のセシウム塩を含む水性スラリーについて前記粒子径分布の測定を行った。該水性スラリーに85質量%リン酸水溶液6.7部を滴下し、さらに15分攪拌した。得られた混合液に対し噴霧乾燥を実施し、乾燥物を得た。該乾燥物を賦形することで触媒を製造した。該触媒の酸素以外の元素組成は、Mo120.451.1As0.55Cu0.11Cs1.1であった。
【0062】
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の原料ガスを反応温度285℃、接触時間3.6秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して、メタクリル酸収率を算出した。
【0063】
以上の方法と同様にして、触媒調製とメタクリル酸の製造を4バッチ行った。
【0064】
これらの結果を表1に示す。なお、表1において粒子径分布Aは、測定した粒子径分布における、全粒子体積に対する粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積の比率(%)を示す。また、粒子径分布Bは、測定した粒子径分布における、全粒子体積に対する粒子直径が1〜10μmである粒子の体積の比率(%)を示す。
【0065】
[実施例2、比較例1、2]
純水20部に溶解した重炭酸セシウム11.2部を添加した後の攪拌時間を表1に示す時間に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸の製造を行った。
【0066】
また、実施例1と同様にして、へテロポリ酸のセシウム塩を析出させた水性スラリーの粒子径分布と触媒の嵩密度とを測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例3]
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム2.7部、三酸化アンチモン3.38部および硝酸銅(II)3水和物1.4部を溶解した。それ以降は、実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸の製造を行った。該触媒の酸素以外の元素組成は、Mo120.451.1Sb0.4Cu0.11Cs1.1であった。
【0068】
また、実施例1と同様にして、へテロポリ酸のセシウム塩を析出させた水性スラリーの粒子径分布と触媒の嵩密度とを測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
純水20部に溶解した重炭酸セシウム11.2部を添加した後の攪拌時間を表1に示す時間に変更した以外は実施例3と同様にして触媒を製造し、メタクリル酸の製造を行った。
【0070】
また、実施例1と同様にして、へテロポリ酸のセシウム塩を析出させた水性スラリーの粒子径分布と触媒の嵩密度とを測定した。結果を表1に示す。
【0071】
以下の結果から、工程(ii)のへテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上である実施例1から3では、いずれも嵩密度が高く、且つ各バッチの嵩密度から算出した嵩密度標準偏差が低いことから高い再現性で高嵩密度の触媒を製造することができた。また、メタクリル酸の製造において高い収率でメタクリル酸の製造を行うことができた。
【0072】
一方、工程(ii)のへテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%未満である比較例1から3では、いずれも嵩密度が低く、また再現性が低かった。さらに、メタクリル酸の製造においてメタクリル酸収率が低かった。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、嵩密度の高い触媒を再現性良く製造することができるため、工業的に触媒を製造する際に有用である。また、メタクリル酸製造において高い収率でメタクリル酸を製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であるX元素と、リン元素と、モリブデン元素と、アルカリ金属元素とを含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(i)水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程と、
(ii)前記水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属原料を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部をヘテロポリ酸のアルカリ金属塩として析出させる工程と、
(iii)前記ヘテロポリ酸のアルカリ金属塩が析出している水性スラリーに、リン原料を添加する工程と、
(iv)全ての原料を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥して、乾燥物を得る工程と、
を含み、
前記工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が0.01〜0.25μmである粒子の体積が全粒子体積に対して40%以上であるメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記工程(ii)のヘテロポリ酸のアルカリ金属塩を析出させた水性スラリーにおいて、粒子直径が1〜10μmである粒子の体積が全粒子体積に対して32%以上、60%以下である請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記工程(ii)において、前記水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属原料を添加した後、30分以上攪拌する請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法で製造されるメタクリル酸製造用触媒。
【請求項5】
請求項4に記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2013−6162(P2013−6162A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141795(P2011−141795)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】