説明

メタセシスに使用される金属錯体

【課題】オレフィンメタセシス反応、原子若しくは基転移のラジカル重合または付加反応、およびビニル化反応における触媒成分として有用な金属錯体の提供およびその使用。
【解決手段】一般式(IC)及び(ID)


(式中、Mは、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11、および12族からなる群より選択される遷移金属であり(特にルテニウム)、Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’、およびSbR’’’’からなる群れより選択され、R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、C1−6アルキルなどを示す)の5配位金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンメタセシス反応、原子若しくは基転移のラジカル重合または付加反応、およびビニル化反応における触媒成分として有用な金属錯体に関する。また、本発明は、好ましくは該金属錯体のサブクラスに関して、適度な温度において高い活性を有するα−オレフィンおよび所望により共役ジエンの重合のための触媒系成分としてのその使用に関する。
【0002】
また、本発明は、リビング重合反応により、極めて狭い分子量分布を有する重合体を得ることに関する。また、本発明は、該金属錯体の製造方法、およびこのような方法に関与する新規な中間体に関する。さらに、本発明は、担体に共有結合するのに適した該金属錯体の特定の誘導体に関する。該共有結合の産物は、不均一触媒反応のための担持型触媒として有用である。
【0003】
また、本発明は、ジアリル化合物からのピロール、フラン、およびチオフェン化合物の直接1工程合成に関する。最後に、本発明は、限外濾過により反応混合物から除去可能な触媒である、コア分子に結合した金属錯体を含むデンドリマー物質に関する。特に本発明は、N−複素環カルベン配位子を担持したルテニウムアルキリデン錯体のシッフ塩基誘導体、その製造方法、並びに非環状モノオレフィン、ジエン、環状オレフィン、およびアルキン等の多くの不飽和炭化水素のメタセシスのための触媒としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
オレフィンメタセシスは、下記式(1)に従って、重要な工程として、第1のオレフィンおよび第1の遷移金属アルキリデン錯体の間の反応を含み、これにより不安定な中間体であるメタロシクロブタン環を形成し、次いで、これを第2のオレフィンおよび第2の遷移金属アルキリデン錯体に変換することを含む触媒過程である。この種の反応は、可逆的であり、かつ、互いに競合的であるため、全体的な結果は、それら各々の速度と、揮発性または不溶性の生成物の形成が起こる場合には、平衡の移動とに大きく依存している。
【0005】
【化1】

【0006】
モノオレフィンまたはジオレフィンのメタセシス反応の幾つかの非限定的な例を、以下の式(2)〜(5)に示す。式(2)におけるエチレンの如き生成物の系からの除去は、所望のメタセシス反応の過程および/または速度を劇的に変化させるが、それは、エチレンがアルキリデン錯体と反応してメチレン(M=CH2)錯体を形成し、これがアルキリデン錯体のうち最も反応性が高く、かつ、最も安定性が低いためである。
【0007】
【化2】

【0008】
ホモカップリング(式2)よりも潜在的に利点が大きいものは、2種の異なる末端オレフィン間の交差カップリングである。ジエンの関与するカップリング反応は、鎖状若しくは環状の二量体、オリゴマー、並びに最終的には鎖状または環状の重合体をもたらす(式3)。一般的に、後者の反応は、非環式ジエンメタセシス(以下、「ADMET」と称する)と呼ばれており、これは、極めて高濃度の溶液またはバルクにおいて好都合であるのに対し、環化は、低濃度において好都合である。ジエンの分子内カップリングが、環状アルケンが生成するように起こる場合、該工程は、閉環メタセシス(以下、「RCM」と称する)と呼ばれる(式4)。
【0009】
環状オレフィンを開環して、オリゴマー化または重合体化することができる〔式5に示す開環メタセシス重合(以下、「ROMP」と称する)〕。アルキリデン触媒が、成長中の重合体鎖における炭素−炭素二重結合に対するよりも環状オレフィン(例えば、ノルボルネンまたはシクロブタン)に対してより急速に反応する場合には、「リビング開環メタセシス重合」が起こる。即ち、重合反応中またはその後に、殆ど停止が起こらない。
【0010】
明確に定義された単一成分の金属カルベン錯体からなる多数の触媒系が調製されており、オレフィンメタセシスにおいて利用されている。オレフィンメタセシスにおける1つの大きい発展は、グラブス等によるルテニウムおよびオスミウムのカルベン錯体の発見であった。
【0011】
米国特許第5,977,393号は、このような化合物のシッフ塩基誘導体を開示している。これは、オレフィンメタセシス触媒として有用であり、金属が中性の電子供与体〔例えば、トリアリールホスフィンまたはトリ(シクロ)アルキルホスフィン〕とアニオン性の配位子とによって配位されている。このような触媒は、極性プロトン性溶媒中においてもメタセシス活性を維持しながら、改善された熱安定性を示す。これらは、塩酸ジアリルアミンを塩酸ジヒドロピロールに環化することもできる。
【0012】
グラブスのカルベン錯体に関して解決すべき問題点は、(i)触媒の安定性の改善(即ち、分解を遅延させること)とメタセシス活性の両者を同時に改善すること、並びに(ii)このような触媒を使用することにより達成可能な有機生成物の範囲を拡張すること(例えば、高度に置換されたジエンを閉環して、トリおよびテトラ置換オレフィンとする能力を与えること)である。
【0013】
一方、リビング重合系がアニオン性およびカチオン性の重合について報告されているが、その産業上の応用は、高純度の単量体と溶媒、反応開始剤、および無水条件を必要とするため、限定されていた。これとは対照的に、フリーラジカル重合は、高分子量の重合体を得るための最もよく知られた商業的方法である。酸素が存在しないことを必要とするが、水の存在下で実施できる比較的単純な実験条件下で、広範な種類の単量体をラジカル重合および共重合することができる。しかし、フリーラジカル重合方法は、制御されない分子量と高い多分散性とを有する重合体を形成することが多い。従って、リビング重合とラジカル重合とを組み合わせることは、極めて好都合なことであり、そして、(1)原子または基の転移経路と(2)ラジカル中間体とを含む米国特許第5,763,548号の原子(または基)転移ラジカル重合法(以下、「ATRP」と称する)により達成されている。
【0014】
この種のリビング重合では、転移および停止等の鎖切断反応が実質的に存在せず、分子量、分子量分布、および末端官能性などの高分子構造の種々のパラメータの制御が可能である。これは、種々の共重合体、例えば、ブロックおよび星型共重合体の調製も可能とする。リビング/制御ラジカル重合は、種々の潜在種との平衡状態において、ラジカルの低い定常濃度を要する。これは、種々の遷移金属化合物と重合開始剤(例えば、アルキルハライド、アラルキルハライドまたはハロアルキルエステル)との間の酸化還元反応において、成長中のラジカルの可逆的形成に基づいた新しい重合開始系を利用する。ATRPは、潜在種中の炭素−ハロゲン共有結合の可逆的な遷移金属触媒による切断によって確立される、成長ラジカルと潜在種との間の動的な平衡に基づいている。この概念を利用した重合系は、必要な平衡を確立するために、例えば、銅、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、ロジウム、および鉄の錯体を用いて開発されている。
【0015】
ATRPの開発により、近年、カラーシ(Kharash)反応への関心が更に高まり、これは、以下の機構:
【0016】
【化3】

【0017】
に従ったラジカル機序によるオレフィン両端へのポリハロゲン化アルカンの付加よりなるものである。
【0018】
ATRPは、カラーシ反応に極めて近似しているため、原子転移ラジカル付加(以下、「ATRA」と称する)とも呼ばれている。
【0019】
オレフィンメタセシス反応におけるルテニウムアルキリデン錯体の効率は、ATRPおよびATRAにおけるその活性に反比例していること、即ちオレフィンメタセシス反応のための最も効率的な触媒は、ATRPおよびATRAにおいて、最も低い活性を示すことが実験によりわかっている。従って、オレフィンメタセシス反応と、ATRPおよびATRAとの両方において、高い効率を示すことのできる触媒成分が当該分野において必要とされている。また、極めて穏やかな条件下、例えば室温において、オレフィンメタセシス反応を開始することのできる触媒成分が当該分野で必要とされている。最後に、高い効率でビニル化反応を開始することのできる触媒成分も当該分野で必要とされている。
【0020】
更に、米国特許第5,977,393号の触媒を得るための現在使用可能な合成経路は、ルテニウムビスホスファンカルベンの変換を介して進行するため、等しいか更に良好な性能特性を有するが、他の遷移金属を含むより安価で容易に入手可能な原料から直接合成できる触媒の開発がなお、当該分野で必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第5,977,393号
【特許文献2】米国特許第5,763,548号
【特許文献3】WO02/02649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ポリエチレン、ポリプロピレン、並びにエチレンとプロピレンおよび/または1−ブテンとの共重合体などのポリ−α−オレフィンは、全ての種類の押出、共押出および金型成型物などの種々の分野において極めて広範に使用されている。種々の物性を有するポリ−α−オレフィンの必要性は、ますます増大している。また、その生産性を改善するために、触媒量当たりのポリオレフィンの収量の増大および連続製造の期間に渡る触媒活性の維持も、重要な要件である。
【0023】
WO02/02649号は、(A)イミン構造部分を含む2座配位子を有し、好ましくは遷移金属がチタン、ジルコニウムまたはハフニウムである遷移金属化合物、(B−1)化合物(A)と反応して該イミン構造部分を金属アミン構造に転換できる還元能を有する化合物、および、(B−2)化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物を含むオレフィン重合触媒系を開示している。しかしながら、WO02/02649号は、金属がカルベン配位子に対して配位している遷移金属化合物を教示していない。WO02/02649号の教示に関し、オレフィン重合活性とその維持を改善する必要性がなお当該分野に存在する。
【0024】
上記した必要性の全ては、本発明により達成されるべき種々の目的を構成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、改良されたオレフィンメタセシス触媒が、従来技術のルテニウムおよびオスミウムのシッフ塩基誘導体または他の遷移金属の相当する誘導体を修飾することにより、pKが少なくとも15である拘束立体障害基を配位子として与えることにより、および/または縮合芳香族環系を形成するカルベン配位子を与えることにより、および/またはカルベン配位子としてクムリリデン基を与えることにより、得ることができるという、予測できなかった知見に基づいている。好都合にも、このようなルテニウム、オスミウムおよび他の遷移金属の修飾されたシッフ塩基誘導体は、従来技術の触媒よりもより安価で入手の容易な原料から直接製造することができる。
【0026】
また、本発明は、ルテニウム、オスミウムおよび他の遷移金属のこのように修飾されたシッフ塩基誘導体が効率的なオレフィンメタセシス触媒であるのみならず、ATRPまたはATRAおよびビニル化反応、例えば、エノール−エステル合成等の原子(または基)転移のラジカル反応の触媒または開始において極めて効率的な成分であるという、予測できなかった知見に基づいている。
【0027】
本発明の別の予測できなかった知見は、従来技術のルテニウムおよびオスミウムの特定のシッフ塩基誘導体並びに他の遷移金属の相当する誘導体は、ATRPまたはATRAおよびビニル化反応、例えば、エノール−エステル合成等の原子(または基)転移のラジカル反応の触媒または開始においても使用することができるという点である。
【0028】
更に、本発明は、新規な触媒活性修飾シッフ塩基誘導体を調製するための方法に使用される新規な中間体を包含する。本発明の更に別の特徴は、触媒活性シッフ塩基誘導体およびこれを担持するのに適する担体を含む不均一触媒反応において使用するための担持型触媒を包含する。
【0029】
特に本発明は、シッフ塩基の金属錯体を更に化学修飾することにより、多孔性の無機固体(例えば、非晶質または準結晶性物質、結晶性モレキュラーシーブ、または無機酸化物などの変性層状物質)または有機ポリマー樹脂などの担体への共有結合に適するものとした誘導体を提供する。
【0030】
本発明の別の特徴は、限外濾過により反応混合物から触媒を良好に除去するために、触媒活性シッフ塩基誘導体の2種以上がコア分子に結合しているデンドリマー物質を包含する。
【0031】
最後に、本発明の他の知見は、遷移金属の特定の2金属シッフ塩基誘導体が、相当する1金属シッフ塩基触媒とは異なり、ジヒドロピロール、ジヒドロフランまたはジヒドロチオフェン化合物で反応を終了することなく、ジアリル化合物からのピロール、フラン、およびチオフェン化合物の直接1段階合成を触媒することができるという点である。更に別の本発明の知見は、適度の温度で高い活性を有するα−オレフィンおよび共役ジエンの重合のための触媒系の成分として、特定の金属化合物を使用することができるという点である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の実施形態による一般式(IA)を有するルテニウム触媒化合物を製造するための合成経路を示す。
【図2】図2は、本発明の別の実施形態による一般式(IC)を有するルテニウム触媒化合物を製造するための合成経路を示す。
【図3】図3は、1金属錯体の一般式(IA)および(IB)、本発明の2金属錯体の一般式(IVA)および(IVB)、並びに式(IA)および(IB)において、その遊離基RおよびRが一緒になっている縮合環系の式(VI)を示す。
【図4】図4は、1金属中間体錯体の式(IIA)、(IIB)、(IIIA)、および(IIIB)、並びに本発明の他の1金属錯体の一般式(IC)および(ID)を示す。
【図5】図5は、本発明の1金属中間体錯体の式(IIIC)および(IIID)を示す。
【図6】図6は、メソポーラスな結晶性モレキュラーシーブへの本発明の1金属錯体の誘導体の投錨を示す模式図である。
【図7】図7は、担体に共有結合することができる本発明の1金属錯体の誘導体を製造するための2種の代替合成経路を示す。
【図8】図8は、本発明の不均一触媒の存在下の原子転移ラジカル重合により製造されたポリスチレンの分子量および分散度の時間または転化率の関数としての展開を示す。
【図9】図9は、本発明の不均一触媒の存在下の原子転移ラジカル重合により製造されたポリスチレンの分子量および分散度の時間または転化率の関数としての展開を示す。
【図10】図10は、本発明の2金属錯体を製造するための合成経路を示す模式図である。
【図11】図11は、本発明のルテニウム1金属錯体のカチオン種の調製を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(定義)
本明細書において、錯体または配位化合物という用語は、金属(アクセプター)と、それぞれが非金属の原子若しくはイオンを含む配位子と呼ばれる数種の中性分子若しくはイオン化合物(ドナー)との間のドナー−アクセプター機構またはルイス酸−塩基反応の結果物を指す。孤立電子対を有する原子1個以上を有する配位子を多座配位子と呼ぶ。
【0034】
本明細書において、C1−6アルキルという用語は、炭素原子1〜6個を有する直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素の1価の遊離基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロプル、n−ブチル、1−メチルエチル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、n−ペンチル、ジメチルプロピル、n−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル等であり;C2−6アルキルとは、炭素原子2〜6個を有する類似の遊離基を意味するなどである。
【0035】
本明細書において、C1−6アルキレンという用語は、上記定義したC1−6アルキルに対応する2価の炭化水素遊離基を意味する。
【0036】
本明細書において、C3−10シクロアルキルという用語は、炭素原子3〜8個を有する単環の脂肪族遊離基(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、メチルシクロブチル、シクロペンチル、メチルシクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等)、または炭素原子7〜10個を有するC7−10多環式脂肪族遊離基(例えば、ノルボルニルまたはアダマンチル)を意味する。
【0037】
本明細書において、C3−10シクロアルキレンという用語は、上記で定義したC3−10シクロアルキルに対応する2価の炭化水素遊離基を意味する。
【0038】
本明細書において、アリールという用語は、モノ−およびポリ芳香族の1価の遊離基(例えば、フェニル、ベンジル、ナフチル、アントラセニル、アダマンチル、フェナントラシル、フルオランテニル、クリセニル、ピレニル、ビフェニリル、ピセニル等)を意味しており、例えば、インダニル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレニル、フルオレニル等の縮合ベンゾ−C5−8シクロアルキル遊離基を含む。
【0039】
本明細書において、ヘテロアリールという用語は、窒素、酸素、イオウ、およびリンからなる群より各々独立して選択されるヘテロ原子1個以上を含むモノ−並びにポリ複素芳香族の1価の遊離基を意味し、例えば、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、トリアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、ピロリル、フリル、チエニル、インドリル、インダゾリル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、キノリル、キナゾリニル、キノキサリニル、カルバゾリル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、キサンテニル、プリニル、ベンゾチエニル、ナフトチエニル、チアントレニル、ピラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、フェノキサチイニル、インドリジニル、キノリジニル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、シンノリニル、プテリジニル、カルボリニル、アクリジニル、ペリミジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピロリニル、ピロリジニル等、およびこれらの全ての可能な異性体型が含まれる。
【0040】
本明細書において、C1−6アルコキシという用語は、酸素原子に結合したC1−6アルキル遊離基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等が挙げられ;C2−6アルコキシとは、炭素原子2〜6個を有する類似の遊離基を意味するなどである。
【0041】
本明細書において、ハロゲンという用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択される原子を意味する。
【0042】
本明細書において、C1−20アルキルという用語は、C1−6アルキル(前述の通り定義される)、および炭素原子7〜20個を有するより高級なその類似体(例えば、ヘプチル、エチルヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、オクタデシル等)を含む。
【0043】
本明細書において、ポリハロC1−20アルキルという用語は、各々の水素原子が独立して、ハロゲン(好ましくはフッ素または塩素)で置換されているC1−20アルキルとして定義され、例えば、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、オクタフルオロペンチル、ドデカフルオロヘプチル、ヘプタデカフルオロオクチル等である。
【0044】
本明細書において、C2−20アルケニルという用語は、1個の2重結合を含みかつ2〜20個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の炭化水素遊離基として定義され、例えば、ビニル、2−プロペニル、3−ブテニル、2−ブテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、3−メチル−2−ブテニル、3−ヘキセニル、2−ヘキセニル、2−オクテニル、2−デセニル、および全ての可能なこれらの異性体であり、更に、C4−20シクロアルケニル、即ち1個以上の二重結合を含み4〜20個の炭素原子を有する環状炭化水素遊離基(例えば、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル、シクロオクタジエニル、シクロペンタジエニル、シクロオクタトリエニル、ノルボルナジエニル、インデニル等)も包含される。
【0045】
本明細書において、C2−20アルキニルという用語は、1個以上の3重結合を含みかつ2〜20個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の炭化水素遊離基として定義され、例えば、アセチレニル、2−プロピニル、3−ブチニル、2−ブチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、3−メチル−2−ブチニル、3−ヘキシニル、2−ヘキシニル等、および全ての可能なこれらの異性体が挙げられる。
【0046】
本明細書において、C1−20アルコキシという用語は、20個までの炭素原子を有する、C1−6アルコキシ(上記のとおり定義される)のより高級な類似体を意味し、例えば、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、オクタデシルオキシ等が挙げられる。
【0047】
本明細書において、アルキルアンモニウムおよびアリールアンモニウムという用語は、それぞれ上記のとおり定義されるC1−6アルキル、C3−10シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリール基に結合した4配位の窒素原子を意味する。
【0048】
本明細書において、「拘束立体障害(constraint steric hindrance)」という用語は、その運動が拘束された基または配位子、通常は、分枝鎖または置換された基若しくは配位子に関し、即ち、その基の大きさにより、X線回折によって測定可能な分子の歪(角歪または結合の伸長)が生じるような基を指す。
【0049】
本明細書において、「エナンチオマー(鏡像異性体)」という用語は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%の光学純度(当該分野で標準的な方法で測定した場合)を有する、本発明の化合物の各々独立した光学活性型を意味する。
【0050】
本明細書において、「溶媒和物」という用語は、プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒、および非極性溶媒、例えば、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル、脂肪族炭化水素、アルコール、エステル、ケトン、アミドおよび水からなる群より選択される溶媒の分子と本発明の金属錯体との会合を指す。
【0051】
その最も広範な解釈において、本発明は、カルベン配位子、多座配位子、および1個以上の他の配位子を含み、該他の配位子の少なくとも1個が15以上のpKを有する拘束立体障害配位子である5配位金属錯体、その塩、その溶媒和物、またはそのエナンチオマーに関する。
【0052】
この5配位金属錯体は、1金属錯体または2金属錯体であってよく、該2金属錯体は、1個以上の中性配位子および1個以上のアニオン性配位子に対して、一方の金属が5配位であり、他方が4配位であるものである。後者の場合には、2個の金属は、同じかまたは異なっていてよい。多座配位子は、2座配位子であってよく、その場合には、本発明の金属錯体は、2個の他の配位子を含み、または3座配位子であってよく、その場合には、金属錯体は、他の配位子1個を含む。
【0053】
本発明の5配位金属錯体中の金属は、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11、および12族からなる群より選択される遷移金属であることが好ましい。該金属は、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、パラジウム、白金、ロジウム、バナジウム、亜鉛、カドミウム、水銀、金、銀、ニッケル、およびコバルトからなる群より選択されることがより好ましい。
【0054】
本発明の5配位金属錯体の多座配位子は、金属の配位に使用されるヘテロ原子を少なくとも2個含むことが好ましい。2個のヘテロ原子のうちの少なくとも1個が窒素原子であることがより好ましい。2個のヘテロ原子のうちの1個が窒素原子であり、他方のヘテロ原子が酸素原子であることが最も好ましい。
【0055】
本発明の5配位金属錯体のカルベン配位子は、アレニリデン配位子でもクムレニリデン配位子であってもよく、例えば、テトラ−1,2,3−トリエニリデン、ペンタ−1,2,3,4−テトラニリデン等であってよい。
【0056】
該金属錯体を有機溶媒の存在下に使用する場合に特に有用な1つの特徴において、本発明の5配位金属錯体中に存在する該他の配位子の1個は、アニオン性配位子である。アニオン性配位子という用語の意味は、当該分野で従来用いられているものであり、好ましくは米国特許第5,977,393号の定義と合致するものである。
【0057】
該金属錯体を水の存在下に用いる場合に特に有用な別の特徴において、該他の配位子の1個は、溶媒であり、該金属錯体は、アニオンと会合したカチオン性種である。後者の目的のために適するアニオンは、テトラフルオロボレート、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、アルキル基が1個以上のハロゲン原子で置換されていて良いアルキルスルホネート、およびアリールスルホネートからなる群より選択される。このようなカチオン性種において、金属と配位するために適する溶媒は、プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒、および非極性溶媒から選択され、例えば、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル、脂肪族炭化水素、アルコール、エステル、ケトン、アミド、および水などである。
【0058】
より具体的に、本発明の金属錯体の中心的特徴である15以上のpKを有する拘束立体障害配位子は、非イオン性プロホスファトラン超強塩基またはイミダゾール−2−イリデン、ジヒドロイミダゾール−2−イリデン、オキサゾール−2−イリデン、トリアゾール−5−イリデン、チアゾール−2−イリデン、ビス(イミダゾリン−2−イリデン)、ビス(イミダゾリジン−2−イリデン)、ピロリリデン、ピラゾリリデン、ジヒドロピロリリデン、ピロリリジニリデン、およびこれらのベンゾ縮合誘導体からなる群より選択されるN−複素環カルベンの誘導体であって、1個以上の水素原子が拘束立体障害を与える基により置換されているものである。
【0059】
更に、本発明は、(i)多座配位子および1個以上の他の配位子を含み、該他の配位子の少なくとも1個が15以上のpKを有する拘束立体障害配位子である4配位金属錯体を、(ii)アルキニル化合物、ジアゾ化合物、およびジアルキニル化合物からなる群より選択され、金属に対するカルベン配位子を与えることができる反応体と反応させることにより、5配位1金属錯体を製造する工程を含む、前述において開示した5配位金属錯体の製造方法を提供する。また、本発明は、5配位金属錯体の別の製造方法を提供し、これは、下記工程:
−(i)多座配位子と、15以上のpKを有する拘束立体障害配位子以外であって、かつ、カルベン配位子以外である他の配位子1個以上とを含む4配位金属錯体を、(ii)アルキニル化合物、ジアゾ化合物およびジアルキニル化合物からなる群より選択され、金属に対するカルベン配位子を与えることができる反応体と反応させることにより、カルベン配位子を含む5配位1金属錯体を製造する第1の工程;並びに、次いで、
−第1の工程で得られた5配位1金属錯体を、15以上のpKを有する拘束立体障害基を含む種と、該15以上のpKを有する拘束立体障害基を含む種がカルベン配位子以外の他の配位子1個の代わりに金属に対して配位できるような条件下で、反応させる第2の工程;
を包含する。
【0060】
両方の方法とも、1金属または2金属の何れかに拘わらず、本発明の全ての金属錯体に適用される。
【0061】
本発明の5配位金属錯体が、一方の金属が5配位であり、他方の金属が4配位である2金属錯体である場合、上記方法の各々は、好ましくは更に、あらかじめ製造された5配位1金属錯体を、各金属が4配位である2金属錯体と反応させる工程を更に含む。このような反応性4配位2金属錯体は、例えば、[RuCl(p−クメン)]またはその類似体等の2量体構造であってよい。或いは、反応性4配位2金属錯体は、テルペネンをルテニウム、ロジウムまたはコバルトの3塩化物と接触させることにより、その場(in situ)で形成することができる。該反応性4配位2金属錯体の金属は、該5配位金属錯体の金属と同じかまたは異なっていてよい。
【0062】
上記した全ての方法において、各金属は、独立して、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11、および12族からなる群より選択される。
【0063】
特定の実施形態において、上記一般的方法の第1工程において使用される5配位金属錯体は、1個のアニオン性配位子を含むことにより、1個のアニオン性配位子を含む5配位1金属錯体を与える。更に、該方法は、該5配位1金属錯体を溶媒の存在下に塩と反応させることにより、該5配位1金属錯体から該アニオン性配位子を分離する工程を包含し、これにより、アニオンと会合したカチオン性種である5配位1金属錯体を形成し、その際、金属が溶媒に対して配位する。
【0064】
別の実施形態において、本発明は、多座配位子配位子および1個以上の他の配位子を含む4配位1金属錯体であって、該他の配位子の少なくとも1個が15以上のpKを有する拘束立体障害配位子である上記金属錯体を提供する。このような4配位1金属錯体は、意外にも触媒成分を製造するための中間体として有用であるのみではなく、ROMP、ATRP、ATRA、およびビニル化反応においても、それ自体触媒活性を有している。
【0065】
より具体的に、本発明は、図3に示す一般式(IA)および(IB)の1つを有する金属錯体から選択される5配位金属錯体であって、該式中、
− Mは、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11、および12族からなる群より選択される遷移金属、好ましくは、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、ロジウム、バナジウム、亜鉛、金、銀、ニッケル、およびコバルトから選択される金属であり;
− Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’、およびSbR’’’’からなる群より選択され;
− R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アリール、およびヘテロアリールからなる群より選択されるか、あるいはR’’およびR’’’は、一緒になってアリールまたはヘテロアリール遊離基を形成し、該遊離基の各々(水素原子と異なる場合)は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの1個以上、好ましくは1〜3個で置換されており;
− R’は、一般式(IA)を有する化合物中に含まれる場合は、R’’、R’’’およびR’’’’と同じに定義され、あるいは一般式(IB)を有する化合物中に含まれる場合は、C1−6アルキレンおよびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択され(該アルキレンまたはシクロアルキレン基は、所望により1個以上の置換基Rで置換されている);
− Rは、15以上のpKを有する拘束立体障害基であり;
− Rは、アニオン性配位子であり;
− RおよびRは、各々、水素原子またはC1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、アリール、アリールオキシ、C1−20アルコキシカルボニル、C1−8アルキルチオ、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキルスルフィニル、C1−20アルキルスルホネート、アリールスルホネート、C1−20アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−20アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より選択される遊離基であり;
− R’とRおよびRの一方とは、相互に結合して2座の配位子を形成することができ;
− R’’’およびR’’’’は、相互に結合して、窒素、リン、砒素、およびアンチモンからなる群より選択されるヘテロ原子を含む脂肪族環系を形成することができ;
− RおよびRは、一緒になって縮合芳香族環系を形成することができ、並びに、
− yは、MとRおよびRを担持する炭素原子との間のsp炭素原子の数を示し、かつ、0〜3の整数を含んでいる、
5配位金属錯体、その塩、溶媒和物、およびエナンチオマーを提供する。
【0066】
本発明の化合物の上記した定義において、基Rは、拘束立体障害を与える能力とそのpK値とにより制限されるのみであり、後者は、当該分野において従来どおり定義され測定されるものである。このようなR基の好適で非限定的な例としては、拘束立体障害を与える基で1個以上の水素原子が置換されている、以下の高pK基の誘導体が包含される。
【0067】
− イミダゾール−2−イリデン(pK=24)、
− ジヒドロイミダゾール−2−イリデン(24より高いpK)、
− オキサゾール−2−イリデン、
− トリアゾール−5−イリデン、
− チアゾール−2−イリデン、
− ピロリリデン(pK=17.5)、
− ピラゾリリデン、
− ジヒドロピロリリデン、
− ピロリリジニリデン(pK=44)、
− ビス(イミダゾリン−2−イリデン)およびビス(イミダゾリジン−2−イリデン)、
− インドリリデン等のベンゾ縮合誘導体(pK=16)、並びに
− 非イオン性プロホスファトラン超強塩基〔例えば、米国特許第5,698,737号に記載のもの、好ましくはフェルカデ(Verkade)超強塩基として知られているトリメチリトリアザプロホスファトランP(CHNCHCHN〕。
【0068】
拘束立体障害基は、例えば、分枝鎖または置換されたR’基、例えば、t−ブチル基、置換C3−10シクロアルキル基、C1−6アルキル置換基の2個以上を有するアリール基〔例えば、2,4,6−トリメチルフェニル(メシチル)、2,6−ジメチルフェニル、2,4,6−トリイソプロピルフェニルまたは2,6−ジイソプロピルフェニル〕、または2個以上のC1−6アルキル置換基を有するヘテロアリール基(例えば、ピリジニル)である。
【0069】
本発明の化合物の上記定義において、基Rは、アニオン配位子であり、好ましくは、C1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、アリール、アリールオキシ、C1−20アルコキシカルボニル、C1−8アルキルチオ、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキルスルフィニル、C1−20アルキルスルホネート、アリールスルホネート、C1−20アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−20アルキルアンモニウム、アリールアンモニウム、ハロゲン(好ましくは塩素)、およびシアノからなる群より選択される。
【0070】
本発明のカルベン配位子について、以下に詳述する。第1に、従来技術のシッフ塩基とは異なり、1〜3個のsp炭素原子が金属MとRおよびR基を支持する炭素原子との間に存在し、化合物のこのような種の各々についての合成経路は、製造工程に関して明細書中に後述するとおり異なっている。即ち、アレニリデンまたはクムレニリデン等の不飽和炭素鎖(例えば、ブタ−1,2,3−トリエニリデン、ペンタ−1,2,3,4−テトラエニリデン等)が、該カルベン配位子内に存在することができる。製造経路の単純化のために、好ましい実施形態は、y=2であるカルベン配位子よりなる。
【0071】
しかしながら、y=1またはy=3であるカルベン配位子を有する化合物を製造するための方法も提供される。従来技術のシッフ塩基誘導体の場合と同様、yは、0であってもよい。第1の好ましい実施形態は、RおよびRの各々がフェニル基であるものよりなる。第2の好ましい実施形態においては、RおよびRは、一緒になって図3の式(IV)を有する縮合芳香族環系を形成する。
【0072】
式(IA)を有する本発明の化合物の上記定義において、基R’は、メチル、フェニルおよび置換されたフェニル(例えば、ジメチルブロモフェニルまたはジイソプロピルフェニル)から選択されることが好ましい。式(IB)を有する本発明の化合物の場合、基R’は、メチレンまたはベンジリデンであることが好ましい。
【0073】
本発明のより特定の実施形態において、特に上記化合物がオレフィンメタセシス反応において用いることを意図している場合は、Mは、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、およびレニウムからなる群より選択されることが好ましい。
【0074】
また、本発明は、式(IA)および(IB)の一方を有する5配位金属錯体の製造のための第1の方法であって、一般式(IIA)または(IIB)の一方を有する4配位金属錯体〔これらの式中、M、Z、R、R’、R’’、R’’’、R’’’’およびRは、一般式(IA)および(IB)について上記した通り定義されるものであり、並びにRは、脱離基である。〕を、式RYを有する化合物〔式中、Rは、前述の通り定義されるものであり、並びにYは、脱離基である。〕と反応させることにより、図4中に示される一般式(IIIA)または(IIIB)を有する中間体を形成し、更に該中間体を、
− 式RCC≡CHを有するアルキニル化合物〔式中、RおよびRは、一般式(IA)および(IB)について上記した通り定義されるものであり、並びにRは、水素原子、ヒドロキシルおよびRからなる群より選択されるものである(y=2の場合)〕、
− 式NCRを有するジアゾ化合物〔式中、RおよびRは、前述の通り定義されるものである(yが0である場合)〕、
− 式RC≡CHを有するアルキニル化合物〔式中、Rは、前述の通り定義されるものである(yが1の場合)〕、並びに
− 式R21C≡C−C≡CR22を有するジアルキニル化合物〔式中、R21およびR22は、各々独立して水素原子およびトリアルキルシリルから選択されるものである(yが3の場合)〕、
からなる群より選択される反応体と反応させること、を含む方法を提供する。
【0075】
上記方法を実施するために、脱離基Yは、当該分野で一般的に定義されるとおりであり(例えば、Organic Chemistry, Structure and Function(1999), 3rd ed., W.H.フリーマン&Co.,New-York, p.216-217, 227)、好ましくは、水素原子、C1−6アルコキシ(例えば、t−ブトキシ)、PRおよびNR〔式中、Rは、前述の通り定義されるものである。〕からなる群より選択される。
【0076】
上記した通り、方法の第2の工程において使用される反応体は、yの値により種ごとに異なる。例えば、yが2である場合、適当なアルキニル化合物は、RおよびRの各々がフェニル基であり、並びにRがヒドロキシである化合物である。yが3である場合は、適当なジアルキニル化合物は、ブタジインまたはトリメチルシリルブタジインである。
【0077】
また、本発明は、一般式(IA)および(IB)の一方を有する5配位金属錯体の調製のための第2の方法であって、第1の工程において、図4に示す一般式(IIA)または(IIB)の一方を有する化合物〔これらの式中、M、Z、R、R’、R’’、R’’’、R’’’’およびRは、式(IA)および(IB)に関して上記した通り定義されるものであり、並びにRは、脱離基である。〕を、
− 式RCC≡CHを有するアルキニル化合物〔式中、RおよびRは、式(IA)および(IB)に関して上記した通り定義されるものであり、並びにRは、水素原子、ヒドロキシルおよびRからなる群より選択されるものである(y=2の場合)。〕、
− 式NCRを有するジアゾ化合物〔式中、RおよびRは、上記した通り定義されるものである(yが0である場合)〕、
− 式RC≡CHを有するアルキニル化合物〔式中、Rは、上記した通り定義されるものである(yが1の場合)。〕、並びに
− 式R21C≡C−C≡CR22を有するジアルキニル化合物〔式中、R21およびR22は、各々独立して水素原子およびトリアルキルシリルから選択されるものである(yが3の場合)。〕、
からなる群より選択される反応体と反応させ、次いで、第2の工程において、第1の工程の反応生成物を、式RYを有する化合物〔式中、Rは、上記した通り定義されるものであり、並びにYは、脱離基である。〕と更に反応させること、を包含する方法を提供する。この第2の方法において、脱離基Yの適当な例は、第1の方法について開示したとおりである。
【0078】
上記方法において、Rは、好ましくは芳香族および不飽和の脂環族基(例えば、シクロオクタジエニル、ノルボルナジエニル、シクロペンタジエニル、およびシクロオクタトリエニル)基であり、該基は、所望により1個以上のC1−6アルキル基で置換されたものである。このような基の適当な例は、メチルイソプロピルフェニルであり、ここでフェニル基のメチルおよびイソプロピルの各置換基は、パラ位にある。
【0079】
また、本発明は、図4に示す一般式(IIIA)または(IIIB)の一方を有する4配位金属錯体〔これらの式中、
− Mは、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11、および12族からなる群より選択される遷移金属であり、好ましくは、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、ロジウム、バナジウム、亜鉛、金、銀、コバルト、およびニッケルから選択される金属であり;
− Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’、およびSbR’’’’からなる群より選択され;
− R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、アリール、およびヘテロアリール遊離基からなる群より選択されるか、または、R’’およびR’’’は、一緒になってアリール若しくはヘテロアリール基を形成し、該基各々は、場合により、ハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの1個以上、好ましくは1〜3個で置換されており;
− R’は、一般式(IIIA)を有する化合物中に含まれる場合、R’’、R’’’およびR’’’’と同様に定義され、または、一般式(IIIB)を有する化合物中に含まれる場合は、C1−6アルキレンおよびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択され、該アルキレン若しくはシクロアルキレン基は、場合により置換基Rの1個以上で置換されており;
− Rは、15以上のpKを有する拘束立体障害基であり;
− Rは、アニオン性配位子である。〕、
その塩、溶媒和物、およびエナンチオマーを提供する。
【0080】
また、本発明は、図4に示す一般式(IIA)または(IIB)の一方を有する4配位金属錯体〔これらの式中、
− Mは、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11および12族からなる群より選択される遷移金属であり、好ましくは、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、ロジウム、バナジウム、亜鉛、金、銀、コバルト、およびニッケルから選択される金属であり;
− Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’およびSbR’’’’からなる群より選択され;
− R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群より選択される遊離基であるか、または、R’’およびR’’’は、一緒になってアリールまたはヘテロアリール遊離基を形成し、各該遊離基は、所望によりハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの1個以上、好ましくは1〜3個で置換されているか、または、R’’およびR’’’は、一緒になってアリール若しくはヘテロアリール遊離基を形成し、該遊離基は、臭素、ヨウ素、C2−6アルキル、C2−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、アルキルアンモニウムおよびアリールアンモニウムからなる群より選択される置換基Rの1個、または、ハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの2個以上で置換されており;
− R’は、一般式(IIA)を有する化合物中に含まれる場合は、R’’、R’’’およびR’’’’と同様に定義され、または、一般式(IIB)を有する化合物中に含まれる場合は、C1−6アルキレンおよびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択され、該アルキレン若しくはシクロアルキレン基は、所望により置換基Rの1個以上で置換されており;
− Rは、アニオン性配位子であり;
− Rは、芳香族および不飽和の脂環族であり、好ましくはアリールおよびC4−20シクロアルケニル(例えば、シクロオクタジエニル、ノルボルナジエニル、シクロペンタジエニル、およびシクロオクタトリエニル)基であって、該基は、C1−6アルキル基の1個以上で所望により置換されたものである。〕
、その塩、その溶媒和物、およびそのエナンチオマーを提供する。
【0081】
中間体化合物の上記したクラスに関するRおよびRのより典型的な定義は、それぞれ一般式(IA)および(IB)の化合物に関して既に記載した。一般式(IIA)、(IIB)、(IIIA)および(IIIB)を有するこのような化合物の全ては、一般式(IA)および(IB)の一方を有する化合物を製造するための中間体として有用である。
【0082】
式(IIA)を有する中間体は、まず、下記一般式:
R’’’C(OH)=C(R’’)CHO
を有するヒドロキシアルデヒド、例えば、サリチルアルデヒド(Zが酸素の場合)または相当するチオアルデヒド(Zがイオウの場合)、アミノアルデヒド(ZがNR’’’’の場合)、ホスフィノアルデヒド(ZがPR’’’’の場合)、アルシノアルデヒド(ZがAsR’’’’の場合)、またはスチビノアルデヒド(ZがSbR’’’’の場合)〔ただし、ヒドロキシ、チオ、アミノ、ホスフィノ、アルシノまたはスチビノ基は、アルデヒド基に対してβ位にある。〕を、第1脂肪族または芳香族のアミンと縮合し、次いで、得られたアルジミンを、例えば周期表のIA、IIAまたはIIIA族の何れかの金属(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはタリウム)のアルコキシドとの反応によりその塩に変換し、次いで、該塩を、例えば[RuCl(p−クメン)]等の不安定な配位子(例えばハロゲン)を有する金属錯体と反応させる、ことを包含する公知の方法と類似の方法で調製することができる。
【0083】
式(IIB)を有する中間体の第2のクラスは、所望の5員のキレート配位子を得るために、まずベンズアルデヒド等のアルデヒドを、o−ヒドロキシアニリン(Zが酸素の場合)、アミノチオール(Zがイオウの場合)、ジアミン(ZがNR’’’’の場合)、アミノホスフィン(ZがPR’’’’の場合)、アミノアルシン(ZがAsR’’’’の場合)、またはアミノスチビン(ZがSbR’’’’の場合)〔ただし、ヒドロキシ、チオ、第2アミノ、ホスフィノ、アルシノまたはスチビノ基は、第1アミノ基に対してβ位にある。〕のようなアミノアルコールと縮合させ、次に、得られたアルジミンをその塩に変換し、次いで、該塩を、上記化合物(IIA)に関して示したのと同様の方法で、不安定な配位子を有する金属錯体と反応させることにより調製することができる。
【0084】
また、本発明は、
(a)前記の触媒活性5配位金属錯体、および、
(b)該触媒活性5配位金属錯体(a)を担持するのに適した担体の担持量、
を含む不均一触媒反応において使用するための担持型触媒を提供する。
【0085】
このような担持型触媒において、該担体は、多孔性無機固体(シリカ、ジルコニア、アルミノシリカを包含する)、例えば、非晶質または準結晶物質、結晶性モレキュラーシーブおよび変性層状物質(例えば、1種以上の無機酸化物)、並びに有機重合体樹脂(例えば、ポリスチレン樹脂およびその誘導体)からなる群より選択することができる。
【0086】
本発明の触媒とともに用いることができる多孔性の無機固体は、その触媒活性および収着活性を増強するこれらの物質の比較的大きい表面積に、分子を接触可能とする開放微小構造を有する。これらの多孔性の物質は、分類の根拠となるその微小構造の詳細を用いて、3種の広範なカテゴリーに分類することができる。これらのカテゴリーは、非晶質または準非晶質の物質、結晶性モレキュラーシーブ、および変性層状物質である。
【0087】
これらの物質の微小構造における詳細な相違点は、物質の触媒挙動および収着挙動における重要な相違点として、並びにそれらを特徴付けるために用いられる種々の観察可能な特性、例えば、その表面積、孔径およびこれらの孔径のばらつき、X線回折パターンの有無およびこのようなパターンの詳細、並びにそれらの微小構造を透過電子顕微鏡および電子回折法により検討する場合の物質の概観における相違点として現れる。
【0088】
非晶質または準非晶質の物質は、産業上の用途において長年に渡り使用されてきた多孔性無機固体の重要なクラスである。このような物質の典型的な例は、触媒組成物において一般的に使用されている非晶質シリカ、並びに固体酸性触媒および石油精製触媒担持体として使用されている準非晶質の遷移アルミナである。「非晶質」という用語は、本明細書において長距離秩序(long range order)を有しない物質を指すが、ほぼ全ての物質が少なくとも局所的規模においてはある程度まで秩序を有しているため、幾分誤解を招く可能性がある。これらの物質を記載するために使用されている別の用語は「X線中立性(indifferent)」である。シリカの微小構造は、緻密な非晶質シリカの100〜250オングストロームの粒子よりなり(カーク−オスマー,Encyclopedia of Chemical Technology, 3rd.ed., vol.20,766-781(1982))、多孔性は、粒子間の空隙より生じるものである。
【0089】
遷移アルミナ等の準非晶質物質も広い孔径分布を有するが、通常は、数個のブロードなピークよりなる明確なX線回折パターンを有する。これらの物質の微小構造は、濃縮されたアルミナ相の小さい結晶領域よりなり、該物質の多孔性は、これらの領域の間の不規則な空隙によるものである(K.Wefers and Chanakya Misra, Oxides and Hydroxides of Aluminum, Technical Paper No.19 Revised, Alcoa Research Laboratories, 54-59(1987))。何れの物質の場合も、物質の孔径を制御する長距離秩序がないため、孔径の多様性は、典型的に極めて高くなる。これらの物質の孔径は、例えば、約15から約200オングストロームの範囲内の孔を含むメソポーラス(中間細孔)な範囲と称される領域に属する。
【0090】
これらとは極めて対照的に、構造的に定かではない固体は、物質の微小構造の厳密に反復性の結晶の性質により制御されるため、 その孔径分布が極めて狭い物質である。これらの物質は「モレキュラーシーブ」と呼ばれ、その最も重要な例はゼオライトである。天然および合成のゼオライトは共に、炭化水素変換の種々の形態のための触媒特性を有することが以前より明らかにされている。
【0091】
特定のゼオライト物質は、X線回折により測定した場合、明確な結晶構造を有する秩序化された多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩であり、更に内部に多数のより小さい空洞があり、これが更に多数のより小さいチャンネルまたは孔により相互に連結されている。これらの空洞または孔は、特定のゼオライト性物質内では均一な孔径を有する。これらの孔の寸法は、特定の寸法の吸着分子は受領するが、より大きい寸法のものは拒絶するようなものであり、これらの物質は「モレキュラーシーブ」として知られており、これらの特性を活用する多くの種類の方法において利用されている。このようなモレキュラーシーブは、天然および合成のものの両方が広範な陽イオン含有結晶性ケイ酸塩を含む。
【0092】
これらのケイ酸塩は、SiOおよび周期表IIIB族元素の酸化物、例えばAlOの剛性の3次元骨格として説明でき、それらにおいては、4面体は酸素原子を共有することにより交差結合しており、これにより全てのIIIB族元素(例えば、アルミニウム)およびIVB族元素(例えば、ケイ素)の原子の酸素原子に対する割合は、1:2となる。IIIB族元素(例えば、アルミニウム)を含む4面体の電子価は、陽イオン(例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオン)が結晶中に包含されることにより均衡化される。
【0093】
このことは、IIIB族元素(例えば、アルミニウム)の種々の陽イオン(例えば、Ca、Sr、Na、KまたはLi)に対する比が1に等しい場合に示される。陽イオンの1種は、従来の方法におけるイオン交換法を用いて別の種類の陽イオンに完全または部分的に交換することができる。このような陽イオン交換により、あるケイ酸塩の特性を適当な陽イオンの選択により変化させることができる。
【0094】
これらのゼオライトの多くが文字または他の好都合な符号により命名されており、例えば、ゼオライトA(米国特許第2,882,243号);X(米国特許第2,882,244号);Y(米国特許第3,130,007号);ZK−5(米国特許第3,247,195号);ZK−4(米国特許第3,314,752号);ZSM−5(米国特許第3,702,886号);ZSM−11(米国特許第3,709,979号);ZSM−12(米国特許第3,832,449号);ZSM−20(米国特許第3,972,983号);ZSM−35(米国特許第4,016,245号);ZSM−23(米国特許第4,076,842号);MCM−22(米国特許第4,954,325号);MCM−35(米国特許第4,981,663号);MCM−49(米国特許第5,236,575号);およびPSH−3(米国特許第4,439,409号)が挙げられる。後者はまた、PSH−3と称される物質の結晶性モレキュラーシーブ組成物、およびヘキサメチレンイミン(層化されたMCM−56を合成するための指向性物質として機能する有機化合物のひとつ)を含有する反応混合物からのその合成に言及している。
【0095】
別の構造要素を有する同様の組成物が欧州特許出願第293,032号に記載されている。ヘキサメチレンイミンはまた、米国特許第4,954,325号において結晶性モレキュラーシーブMCM−22;米国特許第4,981,663号においてMCM−35;米国特許第5,236,575号においてMCM−49;また、米国特許第5,021,141号においてZSM−12の合成における使用について説明されている。モレキュラーシーブ組成物SSZ−25は、米国特許第4,826,667号および欧州特許出願第231,860号に記載されており、該ゼオライトは、アダマンタン第4アンモニウムイオンを含む反応混合物から合成されている。
【0096】
ゼオライト、REY、USY、REUSY、脱アルミニウム化Y、超疎水性Y、ケイ素高含有脱アルミニウム化Y、ZSM−20、Beta、L、シリコアルミノホスフェートSAPO−5、SAPO−37、SAPO−40、MCM−9、メタロアルミノホスフェートMAPO−36、アルミノホスフェートVPI−5、およびメソポーラス結晶MCM−41からなる群より選択されるモレキュラーシーブ物質が本発明の担持型触媒内に含まれるのに適している。
【0097】
膨潤剤で隔離することができる層を含む特定の層化物質を柱状化(pillared)することにより、高水準の多孔性を有する物質を得ることができる。このような層化物質の例は、クレイである。このようなクレイは、水で膨潤され、これにより該クレイの層が水分子により隔離される。
【0098】
他の層化物質は、水で膨潤できないが、特定の有機性の膨潤剤(例えば、アミンおよび第4アンモニウム化合物)により膨潤することができる。このような非水膨潤性の層化物質の例は、米国特許第4,859,648号に記載されており、層化ケイ酸塩、マガダイト、ケニャイト、トリチタネート、およびペロブスカイトが含まれる。非水膨潤性層化物質の別の例は、特定の有機膨潤剤により膨潤できるものであり、米国特許第4,831,006号に記載の空孔含有チタノメタレート物質が挙げられる。
【0099】
層化物質が一旦膨潤すると、物質は、隔離された層の間においてシリカ等の介在する熱安定性物質により支柱化される。上記米国特許第4,831,006号および第4,859,648号は、そこに記載されている非水膨潤性層化物質を柱状化するための方法を記載しており、柱状化および柱状化された物質の定義に関して参照により本明細書に組み込まれる。層化物質の柱状化および柱状化された生成物を記載した他の特許には、米国特許第4,216,188号;第4,248,739号;第4,176,090号;および第4,367,163号、並びに欧州特許出願第205,711号が包含される。
【0100】
柱状化層化物質のX線回折パターンは、膨潤および柱状化が、通常は十分に秩序化された層化微小構造を破壊する程度により、かなり変化する。一部の柱状化層化物質における微小構造の規則性は、X線回折パターンの低角度領域における1つのピークのみが、柱状化物質内の層間反復に相当するd間隔において観察されるほど極端に破壊される。破壊度の低い物質は、全般的にこの基礎的リピートの秩序であるこの領域における数個のピークを示す。層の結晶構造によるX線の反射もまた、場合により観察される。これらの柱状化層化物質内の孔径分布は、非晶質および準非晶質物質のものよりも狭小であるが、結晶骨格物質のものよりも広い。
【0101】
本発明は、上記した広範な許容範囲内にある5配位金属錯体または一般式(IA)および(IB)の1つを有する5配位金属錯体であって、好ましくは、金属Mが、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、およびルテニウムからなる群より選択される5配位金属錯体、あるいは上記で定義した担体を含む担持型触媒の、メタセシス反応、原子転移ラジカル反応、付加重合反応、およびビニル化反応からなる群より選択される反応における触媒成分としての使用をも提供する。
【0102】
第1の実施形態において、該反応は、第1のオレフィンを、第2のオレフィン(該第1のオレフィンとは異なる)の少なくとも1種に、あるいは直鎖状のオレフィンオリゴマー若しくは重合体または環状オレフィンに変換するためのメタセシス反応である。即ち、本発明は、所望により適当な担体に担持された一般式(IA)および(IB)の1つを有する触媒活性金属カルベン化合物に、第1のオレフィンの少なくとも1種を接触させることを包含する、メタセシス反応を行う方法に関する。
【0103】
本発明の金属カルベン化合物の高水準のメタセシス活性は、これらの化合物を、全てのタイプのオレフィンに配位させて、これらのオレフィン間でのメタセシス反応を触媒する。本発明の金属カルベン化合物により可能となる反応の例は、例えば、環状オレフィンの開環メタセシス重合、非環状ジエンの閉環メタセシス、非環状または環状のオレフィンの少なくとも1種が関与する交差メタセシス反応、およびオレフィン系重合体の解重合であるが、これらに限定されない。
【0104】
特に、本発明の触媒は、少なくとも3つの原子を持つ環サイズの環状オレフィンを触媒することができる。このようなメタセシス反応において使用することができる環状オレフィンの例は、ノルボルネン並びにその機能的誘導体(例えば、後述の実施例において説明するもの)、シクロブテン、ノルボルナジエン、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロヘプテン、シクロオクテン、7−オキサノルボルネン、7−オキサノルボルナジエン、シクロオクタジエン、およびシクロドデセンを包含する。
【0105】
本発明のメタセシス反応は、不活性雰囲気中、金属カルベン触媒の触媒量を溶媒に溶解し、次いで、所望により溶媒に溶解した環状オレフィンを、好ましくは攪拌しながら該カルベン溶液に添加することにより行うことができる。メタセシス反応を実施するために使用することができる溶媒は、水性溶媒のみならず、プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒および非極性溶媒などの重合条件下において不活性な全ての種類の有機溶媒を包含する。
【0106】
より具体的な例には、二酸化炭素(反応は超臨界条件下に行う)などの超臨界溶媒のみならず、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル、脂肪族炭化水素、アルコール、エステル、ケトン、アミド、水、およびこれらの混合物が包含される。好ましい溶媒には、ベンゼン、トルエン、p−キシレン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ペンタン、メタノール、エタノール、水、またはそれらの混合物が包含される。
【0107】
メタセシス重合反応の間に形成される重合体の溶解度は、選択される溶媒および得られる重合体の分子量により変化する。反応温度は、典型的には約0から約100℃、好ましくは20から50℃に変化できる。反応時間は、約1から約600分間である。触媒のオレフィンに対するモル比は厳密ではなく、約1:100から約1:1,000,000、好ましくは1:100から約1:300,000、より好ましくは1:200から1:10,000の範囲である。形成した重合体が固化する前または任意に重合体の所望の分子量が達成できた時点で、酸化防止剤および/または重合停止剤(または連鎖移動剤)を反応混合物に添加することができる。使用する重合停止剤の選択は、該重合停止剤が、通常の温度条件の下で、触媒カルベン金属化合物(IA)または(IB)と反応して、不活性で、反応を更に進行することができない別のカルベン金属化合物を生成するものである限り、本発明にとって重要ではない。このような重合停止剤の適当な例には、フェニルビニルスルフィド、エチルビニルエーテル、酢酸ビニル、およびN−ビニルピロリドンなどのビニル化合物が包含される。
【0108】
本発明の5配位金属錯体、特に(IA)および(IB)の5配位金属錯体は、種々の官能基の存在下で安定であるため、広範な種類の製造条件下において、広範な種類のオレフィンを触媒するために用いることができる。特に、メタセシス反応において転換されるべき第1のオレフィン化合物は、1つ以上の官能性の原子または基を含むことができる。
【0109】
1つ以上の官能性の原子または基としては、例えば、ヒドロキシル、チオール(メルカプト)、ケトン、アルデヒド、エステル(カルボキシレート)、チオエステル、シアノ、シアナト、エポキシ、シリル、シリルオキシ、シラニル、シロキサザニル、ボロナト、ボリル、スタニル、ジスルフィド、カーボネート、イミン、カルボキシル、アミン、アミド、カルボキシル、イソシアネート、チオイソシアネート、カルボジイミド、エーテル(好ましくはC1−20アルコキシまたはアリールオキシ)、チオエーテル(好ましくはC1−20チオアルコキシまたはチオアリールオキシ)、ニトロ、ニトロソ、ハロゲン(好ましくはクロロ)、アンモニウム、ホスホネート、ホスホリル、ホスフィノ、ホスファニル、C1−20アルキルスルファニル、アリールスルファニル、C1−20アルキルスルフォニル、アリールスルフォニル、C1−20アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、スルホンアミド、およびスルホネート(好ましくはパラトルエンスルホネート、メタンスルホネートまたはトリフルオロメタンスルホネート)からなる群より選択されるものが挙げられる。該第1のオレフィンの官能性の原子または基は、第1のオレフィンの置換基の部分であるか、または第1のオレフィン化合物の炭素鎖の部分の何れかであってよい。
【0110】
また、本発明の5配位金属錯体の高水準のメタセシス活性は、例えば、ジアリル化合物〔ジアリルエーテル、ジアリルチオエーテル、ジアリルフタレート、ジアリルアミノ化合物(例えば、ジアリルアミン、ジアリルアミノホスホネート、ジアリルグリシンエステル等)〕、1,7−オクタジエン、置換1,6−ヘプタジエン等の非環状ジエンの閉環メタセシスを、溶媒の存在下または非存在下、比較的低温(約20から80℃)で触媒する際に、これらを有用なものとしている。上記したジアリル化合物の場合において、使用する5配位金属錯体が一方の金属が5配位で、他方が4配位の2金属錯体であれば、反応は意外にも更に進行し、ピロリル化合物、フラニル化合物またはチオフェニル化合物、即ち脱水素化合物を与える。
【0111】
本発明の5配位金属錯体は、テレケリック重合体、即ち、鎖伸長工程、ブロック共重合体合成、反応射出成型、および重合体ネットワーク形成のために有用な物質である反応性末端基を1個以上有する巨大分子の調製のためにも使用することができる。その例は、ヒドロキシルテレケリックポリブタジエンであり、これは、1,5−シクロオクタジエン、1,4−ジアセトキシ−シス−2−ブテンおよび酢酸ビニルから得ることができる。
【0112】
大部分の用途においては、高度な官能性を有する重合体、即ち、鎖当たり少なくとも2個の官能基を有する重合体が必要である。開環メタセシス重合によるテレケリック重合体の合成のための反応スキームは、当該分野でよく知られている。このようなスキームにおいて、非環状オレフィンは、製造されるテレケリック重合体の分子量を調節するための連鎖移動剤として作用する。α,ω−2官能性のオレフィンを連鎖移動剤として用いる場合、2官能性のテレケリック重合体が実際に合成できる。
【0113】
要約すれば、本発明のメタセシス反応法は、第1のオレフィン化合物が非環状モノオレフィンである場合に実施することができる。例えば、交差メタセシスによるオレフィンカップリングのための該方法は、第1の非環状オレフィンまたは官能性が付与されたオレフィン(例えば、上記したもの)を第2のオレフィンまたは官能性が付与されたオレフィンの存在下、本発明の金属カルベン化合物と接触させる工程を包含する。より好ましくは、該交差メタセシス反応は、式RCH=CHR10を有するモノオレフィンおよび式RCH=CHR11を有するモノオレフィンの混合物(式中、R、R、R10およびR11は、独立して、C1−20アルキル基から選択され、該C1−20アルキル基は、所望により上記した官能性の原子または基の1個以上を支持している。)を、式RCH=CHRを有するモノオレフィンおよび式R11CH=CHR10を有するモノオレフィンの混合物に変換するためのものであることができる。
【0114】
あるいは、該第1のオレフィン化合物は、ジオレフィンであっても、少なくとも3個の原子の環の大きさを持つ環状モノオレフィンであってもよく、かつ、該メタセシス反応は、該ジオレフィンまたは環状モノオレフィンから直鎖オレフィンのオリゴマーまたは重合体への変換のために適した条件下で行われることが好ましい。該第1のオレフィン化合物がジオレフィンである場合は、該メタセシス反応はまた、該ジオレフィンを環状モノオレフィンと脂肪族アルファオレフィンとの混合物に変換するために適した条件下で行われる。
【0115】
メタセシス反応のための原料基材の選択および製造される最終有機分子の意図される用途に応じて、該メタセシス反応は、生物活性化合物を含む極めて広範な最終生成物を与えることができる。例えば、該反応は、2種の異なるオレフィンの混合物の変換のためのものであって、その少なくとも一方が(i)炭素原子5〜12個を含むシクロジエン、および(ii)下記式:
【0116】
【化4】

【0117】
を有するオレフィンから選択されるアルファオレフィンを、下記式:
【0118】
【化5】

【0119】
を有する不飽和の生物活性化合物に変換するためのものであり得る。
【0120】
上記式中、
aは、0〜2の整数であり、
bは、1および2から選択され、
cは、0および1から選択され、
mおよびpは、式(V)の炭化水素鎖が炭素原子10〜18個を含むようになるものであり、
rおよびtは、式(IV)の2種の異なるオレフィンの炭化水素鎖中の炭素原子の合計が12〜40となるものであり、
zは、1〜10の整数であり、
X、X’およびX’’は、水素原子、ハロゲン、メチル、アセチル、−CHOおよび−OR12から独立して選択される原子または基である。R12は、水素原子、並びにテトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、t−ブチル、トリチル、エトキシエチル、およびSiR131415からなる群より選択されるアルコール保護基から選択されるものである。R13、R14およびR15は、各々独立して、C1−6アルキル基およびアリール基から選択される。
【0121】
式(V)を有する不飽和の生物活性化合物は、フェロモンまたはフェロモン前駆体、殺虫剤または殺虫剤前駆体、医薬活性化合物または医薬中間体、芳香剤または芳香剤前駆体である。該不飽和の生物学的活性化合物の幾つかの例として、7,11−ヘキサデカジエニルアセテート、1−クロロ−5−デセン、トランス,トランス−8,10−ドデカ−ジエノール、3,8,10−ドデカトリエノール、5−デセニルアセテート、11−テトラデセニルアセテート、および1,5,9−テトラデカトリエンを挙げることができる。
【0122】
7,11−ヘキサデカジエニルアセテート立体異性体の混合物を含むゴシプルアー(Gossyplure)は、特に標的が設定された昆虫種の交配および生殖の周期を破壊する場合のその有効性に鑑みて、害虫駆除において有用な市販フェロモンである。これは、1,5,9−テトラデカトリエンから好都合に製造でき、後者は、シクロオクタジエンおよび1−ヘキセンから本発明に従って得ることができる。
【0123】
本発明のメタセシス反応を実施する際、大部分の場合において、該反応は、極めて急速に進行するが、特定のオレフィンについては、反応速度および/またはメタセシス反応の収率を向上させるために、更に、第1のオレフィン化合物および所望により第2のオレフィン化合物を、有機または無機の酸または当該分野でよく知られているアルミニウム、チタンまたはホウ素系のルイス酸に接触させることが好都合である。
【0124】
逆に、後述する実施例の幾つかによって説明されるとおり、本発明の触媒を使用する開環メタセシス重合(ROMP)反応は、適切な手段がない場合に重合の制御が問題となるようなノルボルネンおよび置換ノルボルネン等の単量体について、極めて急速な態様で進行させることができる。この種の問題は、反応射出成型(「RIM」)技術におけるように、液状オレフィン単量体および触媒を混合し、次いで、金型内に注入、キャスティングまたは射出し、そして、重合完了(即ち、製品の「キュアリング」)時には、必要であれば後硬化処理前に、成型部分を金型から取り出す、熱硬化性重合体の成型中に起こる可能性が高い。
【0125】
反応速度、即ち反応混合物のポットライフを制御できる能力は、より大型の部品の成型においてより重要となる。本発明の触媒を用いること、ポットライフを延長すること、および/またはメタセシス重合反応の速度を制御することは、例えば、触媒/オレフィンの比率の増大、および/または重合遅延剤の反応混合物への添加などの種々の方法で行うことができる。
【0126】
更に、これは、
(a)前述のメタセシス触媒(所望により担持されている)を、オレフィンと、反応器中、該メタセシス触媒が実質的に非反応性(不活性)である第1の温度において接触させる第1の工程、および、
(b)反応器の温度を、該触媒が活性となる、第1の温度を超えた第2の温度とする(例えば、該反応器を加熱する)第2の工程、
を含む改良された実施形態により達成することができる。
【0127】
より典型的な実施形態において、熱活性化は、例えば工程(a)および(b)の手順を反復することにより、持続的ではなくむしろ爆発的に起こる。
【0128】
該制御された重合方法において、第1工程の触媒の非反応性は、第1の温度に依存するのみならず、オレフィン/触媒混合物のオレフィン/触媒の比にも依存している。好ましくは、第1の温度は、約20℃(室温)であるが、特定のオレフィンおよび特定のオレフィン/触媒の比率に対しては、オレフィン/触媒混合物を室温より低温に、例えば約0℃にまで冷却することが適する場合がある。第2の温度は、好ましくは約40℃であり、約90℃までの温度であってよい。
【0129】
後述する実施例により説明するとおり、本発明の触媒を用いた開環メタセシス重合反応は、約25,000から600,000の範囲の分子量(数平均)および約1.2から3.5、好ましくは約1.3から約2.5の範囲の分散度(Mw/Mn)等の良好に制御された特性を有するポリノルボルネンおよびその官能性誘導体等の重合体を容易に達成する。
【0130】
本発明の触媒を用いた開環メタセシス重合反応は、特にRIM法のように金型中で行われる場合、当該分野で知られるとおり、静電気防止剤、抗酸化剤、セラミックス、光安定剤、可塑剤、染料、顔料、充填剤、強化繊維、潤滑剤、接着促進剤、粘度上昇剤、および離型剤などの配合助剤の存在下に起こる。
【0131】
一般式(IA)および(IB)の1つを有し、かつ、金属Mが好ましくはルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、およびレニウムからなる群より選択される本発明の金属カルベン化合物の更に別の用途は、オレフィンへのポリハロゲン化アルカンのラジカル付加反応(いわゆる、カラーシ反応)のための触媒としての使用である。
【0132】
このような反応は、好ましくは有機溶媒の存在下、ポリハロゲン化アルカンのモル過剰量において、かつ、約30から100℃の温度範囲において行われる。本発明のこの実施形態において使用されるポリハロゲン化アルカンの適当な例は、4塩化炭素、クロロホルム、トリクロロフェニルメタン、および4臭化炭素である。適当なオレフィンの例は、ビニル芳香族単量体(例えば、スチレンまたはビニルトルエン)、α,β−エチレン性不飽和酸エステル(例えば、C1−10アルキルアクリレートおよびメタクリレート)、アクリロニトリル等である。
【0133】
また、本発明は、ラジカル(共)重合性の単量体の原子または基転移ラジカル重合のため、あるいはATRAまたはビニル化反応のための触媒系の触媒成分として、前記に開示したような所望により担体上に担持された5配位金属錯体、または、図4に示す一般式(IC)および(ID)の一方を有する5配位金属化合物若しくはそのカチオン性種(アニオン性配位子を抽出して得られる)を、所望により担体の担持量と組み合わせたものの使用を提供する。
【0134】
ここで、一般式(1C)および(1D)において、
− M、Z、R’、R’’、R’’’、R’’’’、R、R、Rおよびyは、式(IA)および(IB)に関して前述のとおり定義したものであり、
− R16は、中性の電子供与体である。
【0135】
化合物(IA)および(IB)の拘束立体障害基Rとは異なり、化合物(IC)および(ID)の中性電子供与体R16は、約15未満のpKを有する。R16の適当な例は、式PR171819のホスフィン(式中、R17、R18およびR19は、各々独立して、C1−10アルキル、C3−8シクロアルキルおよびアリールからなる群より選択される。)であり、例えば、トリシクロヘキシルホスフィン(pK=9.7)、トリシクロペンチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィンおよびトリフェニルホスフィン(pK=2.7)、並びに官能性が付与されたホスフィン、アルシン、スチルベン、アレン、ヘテロアレン等である。
【0136】
化合物(IC)および(ID)は、オレフィンメタセシス反応の触媒作用において、化合物(IA)および(IB)より効果が低いが、それらは、AATRP、ATRAおよびビニル化反応の触媒作用においては、効率的であることが見出されている。
【0137】
一般式(IC)および(ID)の一方を有する化合物の一部、特にyが0であり、かつ、Mがルテニウムまたはオスミウムであるものは、当該分野でよく知られており、メタセシス触媒として米国特許第5,977,393号に記載されている。yが1〜3またはyが0であるが、Mが鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、ロジウム、バナジウム、亜鉛、金、銀、コバルトまたはニッケルからなる群より選択される金属である一般式(IC)および(ID)の一方を有する化合物は、当該分野でまだ知られていないが、本発明の第2および第3の実施形態として、本明細書に記載した方法の何れかにより適宜調製でき、その際、該当する方法の工程の原料において、RとR16とを単に置き換えればよい。
【0138】
既に上記した通り、本発明の第7の実施形態として意図されるリビング/制御されたラジカル重合を良好に行うためには、低い定常状態の濃度(約10−8モル/lから10−6モル/l)で存在する成長中のラジカルと、より高い濃度(典型的には、約10−4モル/lから1モル/l)で存在する不活性な鎖との間の急速な交換を達成することが重要である。従って、これらの濃度範囲が達成されるように、本発明の触媒成分およびラジカル(共)重合モノマーのそれぞれの量を調節することが望ましい。
【0139】
成長中のラジカルの濃度が約10−6モル/lを超える場合は、反応中に存在する活性種の量が過剰となり、これにより副反応の反応速度の望ましくない上昇が起こる(例えば、ラジカル−ラジカルクエンチング、触媒系以外の種からのラジカル抽出等)。成長中のラジカルの濃度が約10−8モル未満である場合は、重合速度の望ましくない低下が起こる。同様に、不活性鎖の濃度が10−4モル/l未満である場合は、生成される重合体の分子量が劇的に上昇し、その多分散性の制御が行えなくなる可能性がある。一方、不活性種の濃度が1モル/lより大きい場合は、反応生成物の分子量は過小になる傾向があり、約10単量体単位より大きくないオリゴマーの特性がもたらされる。塊状物中、約10−2モル/lの不活性鎖の濃度が、約100,000g/モルの分子量を有する重合体を与える。
【0140】
本発明の種々の触媒成分は、(メタ)アクリレート、スチレンおよびジエンを含む如何なる急速に重合するアルケンのラジカル重合にも適している。それらは、ブロック、ランダム、勾配型、星型、グラフト、櫛型、過分枝鎖型、および樹状型の(共)重合体を含む種々の構造を有する制御された共重合体を与えることができる。
【0141】
より典型的には、本発明の第7の実施形態によるリビングラジカル重合に適する単量体は、式R3132C=CR3334のものを含んでいる。該式中、
− R31およびR32は、相互に独立して、水素原子、ハロゲン原子、CN、CF、C1−20アルキル(好ましくはC1−6アルキル)、α,β−不飽和C2−20アルキニル(好ましくはアセチレニル)、α,β−不飽和C2−20アルケニル(好ましくはビニル)〔所望により、(好ましくはα位において)ハロゲン、C3−8シクロアルキル、フェニル(所望により置換基1〜5個を支持している)で置換されたもの〕からなる群より選択され;
− R33およびR34は、独立して、水素原子、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素または塩素)、C1−6アルキルおよびCOOR35(式中、R35は、水素原子、アルカリ金属またはC1−6アルキルから選択される)からなる群より選択され;並びに、
− R31、R32、R33およびR34の少なくとも2つは、水素原子またはハロゲン原子である。
【0142】
従って、本発明の単量体として使用できる適当なビニル複素環は、2−ビニルピリジン、6−ビニルピリジン、2−ビニルピロール、5−ビニルピロール、2−ビニルオキサゾール、5−ビニルオキサゾール、2−ビニルチアゾール、5−ビニルチアゾール、2−ビニルイミダゾール、5−ビニルイミダゾール、3−ビニルピラゾール、5−ビニルピラゾール、3−ビニルピリダジン、6−ビニルピリダジン、3−ビニルイソオキサゾール、3−ビニルイソチアゾール、2−ビニルピリミジン、4−ビニルピリミジン、6−ビニルピリミジン、および何れかのビニルピラジンを包含し、最も好ましくは、2−ビニルピリジンである。
【0143】
その他の好ましい単量体は:
− C1−20アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、
− アクリロニトリル、
− C1−20アルコールのシアノアクリル酸エステル、
− C1−6アルコールのジデヒドロマロネートジエステル、
− アルキル基のα炭素原子が水素原子を載せていないビニルケトン、および、
− 所望によりビニル部分(好ましくはα炭素原子)にC1−6アルキル基およびフェニル環上に1〜5個の置換基を載せたスチレン〔該置換基は、C1−6アルキル、C1−6アルケニル(好ましくはビニル)、C1−6アルキニル(好ましくはアセチレニル)、C1−6アルコキシ、ハロゲン、ニトロ、カルボキシ、C1−6アルコキシカルボニル、C1−6アシルで保護されたヒドロキシ、シアノ、およびフェニルからなる群より選択される〕、
を包含する。
【0144】
最も好ましい単量体は、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アクリロニトリル、およびスチレンである。
【0145】
本発明の第7の実施形態において、ATRP触媒系は、金属成分と重合開始剤との間の酸化還元反応における成長中のラジカルの可逆的形成に基づいているため、本発明の触媒成分は、より好ましくはラジカル転移可能な原子または基を有する重合開始剤と組み合わせて使用される。
【0146】
適当な重合開始剤として、式R353637CXを有するものが挙げられる。該式中、
− Xは、ハロゲン原子、OR38〔R38は、C1−20アルキル、ポリハロC1−20アルキル、C2−20アルキニル(好ましくはアセチレニル)、C2−20アルケニル(好ましくはビニル)、所望により1〜5個のハロゲン原子またはC1−6アルキル基で置換されたフェニル、およびフェニル置換C1−6アルキルから選択される〕、SR39、OC(=O)R39、OP(=O)R39、OP(=O)(OR39、OP(=O)OR39、O−N(R39、およびS−C(=S)N(R39からなる群より選択され、ここで、R39は、アリールまたはC1−20アルキルであるか、またはN(R39基が存在する場合は、2個のR39基が一緒になって5、6または7員の複素環を形成し(上記ヘテロアリールの定義に従う)、並びに、
− R35、R36およびR37は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−20アルキル(好ましくはC1−6アルキル)、C3−8シクロアルキル、C(=O)R40(R40は、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、アリールオキシまたはヘテロアリールオキシからなる群より選択される)、C(=O)NR4142(式中、R41およびR42は、相互に独立して、水素原子およびC1−20アルキルからなる群より選択されるか、または、R41とR42は、一緒になって炭素原子が2〜5個のアルキレン基を形成する)、COCl、OH、CN、C2−20アルケニル(好ましくはビニル)、C2−20アルキニル、オキシラニル、グリシジル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、およびアリール置換C2−20アルケニルからなる群より選択される。
【0147】
これらの重合開始剤において、Xは、好ましくは臭素であり、これにより高い反応速度および低い重合体の多分散性が得られる。
【0148】
アルキル、シクロアルキルまたはアルキル置換アリール基がR35、R36およびR37の1つとして選択される場合、アルキル基は、更に上記したX基で置換されていてもよい。即ち、重合開始剤は、分枝鎖型または星型(共)重合体のための原料分子として機能することができる。このような重合開始剤の1例は、2,2−ビス(ハロメチル)−1,3−ジハロプロパン〔例えば、2,2−ビス(クロロメチル)−1,3−ジクロロプロパンまたは2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−ジブロモプロパン〕であり、その好ましい例は、R35、R36およびR37の1つが、各々が独立して更にX基で置換されていてもよいC1−6アルキル置換基の1〜5個で置換されたフェニルである場合である〔例えば、α,α’−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−クロロメチルまたはα−ブロモメチル)ベンゼン〕。好ましい重合開始剤には、1−フェニルエチルクロリドおよび1−フェニルエチルブロミド、クロロホルム、4塩化炭素、2−クロロプロピオニトリル、および2−ハロ−C1−6カルボン酸(2−クロロプロピオン酸、2−ブロモプロピオン酸、2−クロロイソ酪酸、2−ブロモイソ酪酸等)のC1−6アルキルエステルが包含される。
【0149】
重合開始剤および不活性重合体鎖の酸化還元サイクルに関与することができるが、重合体鎖と直接の炭素−金属結合を形成しない何れかの遷移金属成分、例えば、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタニウム、レニウム、銅、クロム、マンガン、ロジウム、バナジウム、亜鉛、金、銀、ニッケル、およびコバルトが、本発明の本実施形態において使用するのに適している。
【0150】
本発明の第7の実施形態において、本発明の触媒金属カルベン成分は、アニオン性配位子Rが、好ましくはハロゲン原子、C1−6アルコキシ、スルフェート、ホスフェート、ヒドロゲノホスフェート、トリフレート、ヘキサフルオロホスフェート、メタンスルホネート、アリールスルホネート(好ましくは、ベンゼンスルホネートまたはトルエンスルホネート)、シアノ、テトラフルオロボレート、およびC1−6カルボキシレートからなる群より選択されるものである。
【0151】
当業者に周知のように、テトラフルオロボレート等のアニオン性配位子を有するこのような触媒成分は、適宜、アニオン性配位子Rとしてハロゲン原子を有する金属カルベン成分を、ハロゲン原子を抽出して置き換えることのできる別のアニオンを有する金属化合物(例えば、テトラフルオロホウ酸銀)と反応させ、これによりカチオン性のアルキリデン錯体を形成することによる配位子交換により好適に調製することができる。このようなカチオン性アルキリデン錯体は、ハロゲン配位子に配位している相当する金属カルベン錯体よりも良好な触媒活性を示すことが意外にも見出された。
【0152】
本発明のこの特徴において、重合開始剤と遷移金属カルベン化合物の量および相対的比率は、ATRPを実施するために有効なものである。重合開始剤に対する遷移金属カルベン化合物のモル比率は、0.0001:1〜10:1、好ましくは0.1:1〜5:1、より好ましくは0.3:1〜2:1であり、最も好ましくは0.9:1〜1.1:1である。
【0153】
本発明のATRPは、溶媒の非存在下、即ち塊状で実施してよい。しかしながら、溶媒を使用する場合、適当な溶媒には、エーテル、環状エーテル、アルカン、シクロアルカン、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドおよびそれらの混合物、並びに超臨界溶媒(例えばCO)が包含される。ATRPは、公知の懸濁法、乳化法、または沈殿法に従って実施することもできる。
【0154】
適当なエーテルには、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ジ−t−ブチルエーテル、グライム(ジメトキシエタン)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)等が包含される。適当な環状エーテルには、テトラヒドロフランおよびジオキサンが包含される。適当なアルカンには、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタンおよびドデカンが包含される。適当な芳香族炭化水素にはベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンおよびクメンが包含される。選択されたハロゲン化炭化水素は、反応条件下において重合開始剤として機能しないことを確認しておく必要があるが、適当なハロゲン化炭化水素には、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、および1〜6個のフッ素原子/塩素原子で置換されたベンゼンが包含される。
【0155】
ATRPは、密封された容器またはオートクレーブ中で、気相において(例えば、ガス状の単量体を触媒系の床を通過させることにより)行うことができる。(共)重合は、約0℃から160℃、好ましくは約60℃から120℃の温度で行うことができる。典型的には、反応時間は、30分間から48時間、より好ましくは1〜24時間である。(共)重合は、約0.1から100気圧、好ましくは1〜10気圧の圧力で実施することができる。
【0156】
別の実施形態によれば、ATRPは、単量体を懸濁するための懸濁媒体中の乳液または懸濁液中において、(共)重合体のエマルジョンまたは懸濁液が形成されるような方法で、界面活性剤と組み合わせて本発明の金属カルベン錯体を用いながら行うこともできる。懸濁媒体は、通常は無機の液体、好ましくは水である。本発明のこの実施形態においては、有機層の懸濁媒体に対する重量比は、通常は1:100〜100:1であり、好ましくは1:10〜10:1である。所望により懸濁媒体は、緩衝液としてよい。好ましくは、界面活性剤は、エマルジョンの安定性を制御するため、即ち、安定なエマルジョンを形成するために選択される。
【0157】
不均一媒体中で重合を行うためには(懸濁媒体中、即ち水またはCO中、単量体/重合体が不溶であるか、僅かに可溶性である場合)、金属触媒成分は、単量体/重合体中に少なくとも部分的に可溶性でなければならない。即ち、重合の対象である疎水性単量体中における触媒の溶解度を増大させるような長いアルキル鎖を含む配位子等の、上記条件に触媒が合致するような配位子を適切に選択する場合のみ、良好で制御されたATRP重合を本実施形態の水媒介系において達成することができる。本発明の触媒活性金属カルベン錯体において、金属Mに配位する配位子に関する上記説明から、当業者は適当な選択が可能となる。
【0158】
本実施形態の安定なエマルジョンの調製における重要な要素は、初期の単量体の懸濁液/エマルジョンおよび成長中の重合体粒子を安定化させ、かつ、粒子の望ましくない凝固/凝集を防止するために、界面活性剤を使用することである。しかしながら、エマルジョン中でATRPを実施するためには、触媒または不活性鎖の末端に干渉しない界面活性剤を選択するように留意しなければならない。適当な界面活性剤には、非イオン系、アニオン系およびカチオン系の界面活性剤が包含され、非緩衝溶液中では、カチオン系および非イオン系の界面活性剤が好ましい。特に好ましい非イオン系の界面活性剤には、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、およびポリオキシエチレンソルビタンモノアルキルが包含される。好ましいカチオン系界面活性剤は、臭化ドデシルトリメチルアンモニウムである。使用する界面活性剤に関わらず、良好な分散液またはラテックスを得るためには、効率的な攪拌が好ましい。
【0159】
界面活性剤は、通常は、重合反応器中に導入される全ての成分、即ち、懸濁媒体、単量体、界面活性剤および触媒系の総重量に基づいて、約0.01から50重量%の濃度で存在する。
【0160】
懸濁媒体中の高い溶解度は、乳化重合を開始するための貧水溶性エチル2−ブロモイソブチレートの使用により明らかにされるとおり、重合開始剤にとって必要条件とはならない。重合開始剤および他の反応成分の添加順序はいずれでもよいが、開始剤を乳化前の反応混合物に添加すると、通常、安定なラテックスが得られる。好適な重合開始剤は、ATRP法における溶媒の実施形態において前述したとおりである。重合開始剤はまた、ラジカル転移可能な原子または基を含むマクロ分子であることができる。このようなマクロ分子の典型的な種類は、水溶性または両親媒性であってもよく、反応開始後は、重合体粒子内に取り込まれてよく、また、マクロ開始剤の親水性セグメントにより成長中の粒子を安定させてよい。
【0161】
(共)重合工程が終了した後、形成した重合体を知られた操作法、例えば、適当な溶媒中における沈殿、沈殿した重合体の濾過、次いで、濾取された重合体の洗浄および乾燥により単離する。沈殿は、典型的には、適当なアルカンまたはシクロアルカン溶媒、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン若しくは鉱油を用いるか、またはアルコール(例えば、メタノール、エタノールまたはイソプロパノール)、あるいは適当な溶媒の何れかの混合物を用いて行うことができる。
【0162】
沈殿した(共)重合体は、重力によるか、真空濾過により濾過することができ、例えば、ブフナー漏斗およびアスピレーター等を使用してよい。次に、所望により、重合体を沈殿させるために使用した溶媒で重合体を洗浄することができる。沈殿、濾過および洗浄の工程は、所望により反復してよい。単離した後には、(共)重合体は、真空により(共)重合体から空気を吸引することにより乾燥してよい。次に、乾燥した(共)重合体を、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーまたはNMRスペクトル分析により、分析および/または特性決定することができる。
【0163】
本発明の触媒工程により製造された(共)重合体は、一般的に、成型材料(例えば、ポリスチレン)として、および、バリアまたは表面材料(例えば、ポリメチルメタクリレート)として有用である。しかしながら、典型的には、従来のラジカル重合により製造された重合体よりも更に均一な特性を有することが、特殊な用途においては最も適している。
【0164】
例えば、ポリスチレン(PSt)およびポリアクリレート(PA)のブロック共重合体(例えば、Pst−PA−PSt)の3ブロック共重合体は、有用な熱可塑性エラストマーである。ポリメチルメタクリレート/アクリレート3ブロック共重合体(例えば、PMMA−PA−PMMA)は、有用で完全にアクリル性の熱可塑性エラストマーである。スチレン、(メタ)アクリレート、および/またはアクリロニトリルの単独重合体並びに共重合体は、有用なプラスチック、エラストマー、および接着剤である。スチレンおよび(メタ)アクリレートまたはアクリロニトリルのブロックまたはランダム共重合体は、高い耐溶媒性を有する有用な熱可塑性エラストマーである。更に、本発明により製造された、ブロックが極性の単量体と非極性の単量体との間で交互となるようなブロック共重合体は、高均一性の重合体ブレンド物を製造するための有用な両親媒性の界面活性剤または分散剤である。スチレンブタジエン星型共重合体などの星型(共)重合体は、有用な耐衝撃性共重合体である。
【0165】
本発明の触媒法により製造された(共)重合体は、一般に、約1,000から1,000,000、好ましくは5,000から250,000、より好ましくは10,000から200,000の数平均分子量を有する。その構造は、リビングラジカル重合の高度な柔軟性のため、ブロック、マルチブロック、星型、勾配、ランダム、過分枝鎖、グラフト、くし型、および樹枝状共重合体を包含することができる。これらの種々の共重合体の各々は、後に説明する。
【0166】
ATRPは、リビング重合法であるため、実際は、自在に開始し、停止することができる。また、重合体生成物は、更なる重合を開始するために必要な官能基X保持している。したがって、1つの実施形態において、第1の単量体が初期重合工程において一旦消費されると、次に第2の単量体を添加し、第2の重合工程において成長中の重合体鎖上に第2のブロックを形成することができる。同じか異なる単量体との更なる追加の重合を行うことにより、マルチブロック共重合体を調製することができる。更に、ATRPは、ラジカル重合であるため、これらのブロックは、本質的にどのような順序で調製することもできる。
【0167】
本発明の触媒法により製造された(共)重合体は、極めて低い分散度を有しており、その重量平均分子量の数平均分子量に対する比Mw/Mnは、一般に、約1.1から1.9、好ましくは1.2から1.8である。
【0168】
リビング(共)重合体鎖は、末端基として、または1つの実施形態においては重合体鎖の単量体単位における置換基として、Xを含む重合開始剤のフラグメントを保持しているため、それらは、末端官能性若しくは鎖内官能性の(共)重合体と考えることができる。このように、このような(共)重合体は、架橋、鎖延長(例えば、長鎖のポリアミド、ポリウレタンおよび/またはポリエステルを形成するため)、反応射出成型等を含む更なる反応のため、他の官能基を有する(共)重合体に変換することができる(例えば、ハロゲンは、公知の方法によりヒドロキシル基またはアミノ基に変換することができ、また、ニトリルまたはカルボン酸エステルは、公知の方法により加水分解してカルボン酸とすることができる)。
【0169】
本発明の5配位金属錯体は、所望により炭素原子4〜20個を有するジエンの1種以上と組み合わせて、炭素原子2〜12個を有するα−オレフィンの1種以上の付加重合にも有用である。より好ましくは、このような反応用の触媒活性5配位金属錯体は、一般式(IB)を有する錯体のように、多座配位子が金属とともに5員環構造を与えるようなものである。
【0170】
また、好ましくは、該錯体は、所望により炭素原子4〜20個を有するジエンの1種以上と組み合わせた、炭素原子2〜12個を有するα−オレフィンの1種以上の付加重合のための触媒系であって、下記要素:
(A)一般式(IB)を有する錯体、
(B)化合物(A)と反応することにより、そのイミン成分(moiety)を金属アミン構造に変換する能力を有する化合物、および、
(C)化合物(A)と反応することにより,イオン対を形成する能力を有する化合物、
を含む触媒系において使用される。
【0171】
この目的のための適当な成分(B)には、有機アルミニウム化合物が含まれ、特に、トリ−n−アルキルアルミニウム(例えば、トリエチルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−n−ペンチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム、トリ−n−デシルアルミニウム)、およびその分枝鎖類縁体;ジアルキルアルミニウム水素化物、トリアルケニルアルミニウム、アルキルアルミニウムアルコキシド、ジアルキルアルミニウムアルコキシド、ジアルキルアルミニウムアリールオキシド、ジアルキルアルミニウムハライド)が包含される。
【0172】
この目的のための適当な成分(C)には、ルイス酸(好ましくは、3フッ化ホウ素およびトリアリールホウ素)、イオン性化合物(例えば、カルボニウム、オキソニウム、アンモニウム、ホスホニウム、フェロセニウム等)、ボラン化合物(例えば、デカボラン)、およびその塩類、金属カルボラン、並びにヘテロポリ化合物(例えば、ホスホモリブデン酸、シリコモリブデン酸、ホスホモリブドバナジン酸等)が包含される。
【0173】
上記した触媒系は、大気圧下、約40℃から約80℃の範囲の中等度の温度で連続式またはバッチ式でα−オレフィンを重合する際、および、高い生産性で明確(well-defined)な重合体を得る際に効率的である。
【0174】
所望により、当該分野でよく知られているように、市販のイオン交換樹脂を添加することにより、重合媒体から遷移金属触媒の除去を行うことができる。しかしながら、後に記載するとおり、限外濾過法による除去を促進するために、該触媒を修飾してデンドリマー物質とすることも望ましい。
【0175】
不均一触媒反応における本発明の5配位金属カルベン化合物の使用を促進するために、本発明は更に、特に一般式(IA)および(IB)のひとつを有する、担体への共有結合に適する該化合物の誘導体であるが、ただし、R’および/またはR’’が、下記式:
【0176】
【化6】

【0177】
(式中、
− R20は、C1−6アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、およびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択される遊離基であり、該遊離基は、所望により、C1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、C2−20アルコキシカルボニル、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキルスルフィニル、C1−20アルキルチオ、アリールオキシ、およびアリールからなる群より各々独立して選択される1個以上の置換基R24で置換されており;
− Dは、酸素、イオウ、ケイ素、アリーレン、メチレン、CHR24、C(R24、NH、NR24、およびPR24からなる群より選択される2価の原子または遊離基であり;
− R21、R22およびR23は、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、およびR24からなる群より選択され;
− nは、1〜20の整数である;
(ただし、R21、R22およびR23の少なくとも1個は、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、C2−20アルコキシカルボニル、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキニルスルフィニル、C1−20アルキルチオ、およびアリールオキシからなる群より選択される)
を有する基で取り替えられているか、または置換されている該誘導体に関する。
【0178】
上記グループ内で最も好ましいものは、R’が3−(トリエトキシシリル)プロピル基で取り替えられているか、または置換されている誘導体である。あるいは、好適な誘導体は、EP−A−484,755号に開示されているような、成形した有機シロキサン共縮合生成物を包含する。
【0179】
別の実施形態において、本発明は、(a)上記のとおり定義される誘導体と、(b)無機酸化物の1種以上または有機重合体物質を含む担体との共有結合の生成物を含む、不均一触媒反応において使用するための担持型触媒に関する。好ましくは、該無機担体は、シリカ、アルミノシリカ、ジルコニア、天然および合成のゼオライト、並びにこれらの混合物から選択されるか、または、該有機重合体担体は、芳香族環がC1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、アリール、およびヘテロアリールから選択される1個以上の基で置換されているポリスチレン樹脂またはその誘導体である。好適な担体のより詳細な例は、既に上記した通りである。
【0180】
前述の通り、反応媒体から触媒成分をより簡単に除去する目的のために、本発明はまた、直接または間接的にスペーサー分子を介して、そのNおよび/またはZ原子により、および/または、R’、R’’若しくはR’’’が官能基を担持している場合には、該官能基により、コア分子(これは、本発明の担持型触媒の実施形態において存在する担体と混同してはならない)に各々が結合している、前述した一般式(IA)、(IB)、(IIA)、(IIB)の何れかを有する5配位金属錯体、並びに一般式(IIIA)および(IIIB)の何れかを有する4配位金属錯体から選択される化合物の2種以上を含むデンドリマー物質を提供する。
【0181】
コア分子は、本発明のこの特徴のためには厳密ではなく、対象となる金属カルベン化合物との、あるいはデンドリマー物質中にスペーサー分子が存在する場合には、該スペーサー分子との、その反応性により制限されるのみである。
【0182】
例えば、コア分子は、
− アリール、ポリアリール、ヘテロポリアリール、アルキル、シクロアルキル、および複素環シクロアルキル基、並びに
− 式A(R203−n〔R20は、C1−6アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、およびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択される遊離基であり、該遊離基は、所望により、C1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、C2−20アルコキシカルボニル、C1−20アルキスルホニル、C1−20アルキスルフィニル、C1−20アルキルチオ、アリールオキシ、およびアリールからなる群より各々独立して選択される1個以上の置換基R24で置換されており;Aは、周期表のIIIA族の元素(好ましくはホウ素若しくはアルミニウム)または窒素である。〕;または式G(R204−n〔Gは、IVA族の元素(好ましくは炭素、ケイ素またはスズ)である。〕;または式J(R205−n〔Jは、窒素以外のVA族の元素(即ち、好ましくはリン、砒素若しくはアンチモン)である。〕;または式E(R202−n〔Eは、VIA族の元素(好ましくは酸素若しくはイオウ)である。〕(これらの式において、Xは、水素またはハロゲンである。)を有する基、並びに、
− 周期表のIIB、IIIB、IVB、VB、VIB、VIIB、およびVIIIB族の何れかの金属の、有機または無機遷移金族化合物(例えば、4塩化チタン、3塩化バナジウム、4塩化ジルコニウム、C1−6アルキルチタネート、バナデート、ジルコネート等)、
からなる群より選択される。
【0183】
スペーサー分子を本発明のデンドリマー物質の形成に用いる場合は、該スペーサー分子は、コア分子および金属カルベン化合物の双方との反応性により限定されるのみである。例えば、これは、一般式R20−(CH)−D(R20、nおよびDは、担体への共有結合に適する誘導体に関して前述したとおり定義されるものである。)を有することができる。
【0184】
本発明のデンドリマー物質は、当該分野で知られた方法を用いて、上記したような5または4配位金属錯体の2種以上に、コア分子(例えば、上記したもの)を反応させることにより製造することができる。
【0185】
このように、本発明のデンドリマー物質は、第1のオレフィンを、少なくとも1種の第2のオレフィンに、または直鎖オレフィンのオリゴマーまたは重合体に変換させるための触媒として使用することができる。該触媒は、限外濾過による反応混合物からの除去に適するものである。
【0186】
さらに、本発明は、ヘテロジアリル化合物から1−ヘテロ−2,4−シクロペンタジエン化合物を合成する1段階法を提供する。この方法の1つの具体的な実施形態において、該ヘテロジアリル化合物は、一方の金属がカルベン配位子、多座配位子および他の配位子の1個以上に対して5配位であり、他方の金属が中性の配位子の1個以上およびアニオン性配位子の1個以上に対して4配位である2金属錯体と接触させる。意外にも、この方法は、ジヒドロピロール化合物(原料のヘテロジアリル化合物に応じて、各々ジヒドロフランまたはジヒドロチオフェン化合物)への閉環メタセシスをもたらすのみならず、後者の異性化および脱水素により1−ヘテロ−2,4−シクロペンタジエン化合物をもたらす。
【0187】
使用することができる2金属錯体は、例えば、図3の一般式(IVA)および(IVB)において示すとおりである〔M、Z、R’、R’’、R’’’、RおよびRは、式(IA)および(IB)に関して前述したとおり定義され、M’は、Mに関して前述したとおり定義される金属であり(MおよびM’は、同じかまたは異なる)、X、XおよびXは、Rに関して前述したとおり定義されるアニオン性配位子であり、並びにLは、R16に関して前述したとおり定義される中性の電子供与体である。〕。
【0188】
この方法の1段階で製造することができる1−ヘテロ−2,4−シクロペンタジエン化合物は、ピロール、フラン、チオフェン、およびこれらの誘導体からなる群より選択される。ヘテロ原子が窒素の場合、ヘテロ原子上に置換基が存在すると、予測されない反応が起こることを防止しない。特に、アルキル基が炭素原子1〜4個を有するジアルキル1H−ピロール−1−イルメチルホスホネートなどの特定の新しいピロール誘導体は、このような方法において、アルキル基が炭素原子1〜4個を有する新しいジアルキルジアリルアミノメチルホスホネートから、後述する実施例に記載するとおり製造することができる。
【0189】
より広範には、本発明は、上記方法により得られる新しい1−ヘテロ−2,4−シクロペンタジエン化合物に関する。
【実施例】
【0190】
本発明について、以下の一連の実施例を参照することにより更に説明するが、これは、本発明の範囲を限定することなく、その種々の実施態様を説明するのみであると理解すべきである。
【0191】
第1に、y=2である本発明の一般式(IA)を有するルテニウム化合物の調製のための一般的な手順について、図1を参照しながら説明する。まず、式(I)〔上記式(IA)および(IB)と混同してはならない〕を有するシッフ塩基配位子を、下記式:
R’’’C(OH)=C(R’’)CHO
を有するアルデヒド(好ましくはサリチルアルデヒド)を、式HNR’を有する第1アミンと、還流温度で、有機溶媒(例えばテトラヒドロフラン)中で縮合させることにより、当該技術分野で公知の方法を用いて調製し、精製する。冷却後、粘稠な黄色の油状の縮合生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、これにより、式(I)の所望のサリチルアルジミン配位子を得る。第2工程において、式(II)〔上記式(IIA)および(IIB)と混同してはならない〕を有するシッフ塩基置換ルテニウム錯体を、当該技術分野で知られた方法を用いて、金属アルコキシド(好ましくはタリウムエトキシド)を式(I)の配位子の有機溶液に添加し、次に、得られた固体を不活性雰囲気下に濾過し、該当するタリウム塩を定量的に得ることにより調製し、精製する。
【0192】
次いで、該タリウム塩の有機溶液を室温で[RuCl(p−クメン)]の有機溶液と反応させた。塩化タリウム副生成物を濾過し、溶媒を蒸発させた後、残存物を結晶化し、洗浄し、乾燥して、赤茶色固体の外観を有する式(II)のシッフ塩基ルテニウム錯体を得た。
【0193】
第3段階を実施する前に、「mes」が2,4,6−トリメチルフェニルの略称である式(III)〔上記式(IIA)および(IIB)と混同してはならない〕を有するt−ブトキシル化化合物の有機溶液を、カリウムt−ブトキシドの有機溶液を室温で1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾリウムテトラフルオロボレートの有機溶液に添加し、次に、不活性雰囲気下でカリウムテトラフルオロボレート副生成物を濾過することにより調製する。
【0194】
式(II)の錯体の有機溶液と式(III)を有するt−ブトキシル化化合物の有機溶液との混合物を、70〜80℃で1時間加熱した。溶媒を蒸発させた後、固体残存物を洗浄し、再結晶し、真空下に乾燥することにより、茶色の微結晶固体として、式(IV)の純粋なシッフ塩基置換ルテニウム錯体を得た。
【0195】
式(V)を有する純粋なシッフ塩基置換アレニリデン錯体は、式(IV)を有する錯体の有機溶液をジフェニルプロパルギルアルコールの有機溶液に添加し、混合物を17時間室温で攪拌し、溶媒を真空下に蒸発させ、次に、残存する固体残存物を再結晶する4工程で、暗茶色の微結晶性固体として得られる。
【0196】
別の合成経路に従って、式(VI)を有するシッフ塩基置換インデニリデン錯体は、式(II)を有するルテニウム錯体の有機溶液をジフェニルプロパルギルアルコールの有機溶液に添加し、混合物を室温で17時間攪拌し、溶媒を真空下に蒸発させ、次に、残存する固体残存物を再結晶することにより、赤茶色の微結晶固体として得られる。次いで、式(VII)を有するシッフ塩基置換ルテニウム錯体は、まず式(III)を有するt−ブトキシル化化合物の有機溶液を式(VI)を有するシッフ塩基置換インデニリデン錯体の有機溶液に添加し、混合物を70〜80℃で1時間攪拌することにより調製する。溶媒を除去した後、固体残存物を洗浄し、再結晶し、その後、真空下に乾燥することにより、赤茶色の微結晶固体として式(VII)を有する純粋な化合物を得る。
【0197】
第2に、y=2である本発明の一般式(IC)を有するルテニウム化合物の調製のための一般的な手順を、図2を参照にしながら説明する。第1に、式(I)を有するシッフ塩基配位子およびそのタリウム塩を、上記した通り調製する。別途、ジクロロジシクロヘキシルホスフィノビニリデンルテニウム錯体は、溶媒中の[RuCl(p−クメン)]をジシクロヘキシルホスフィンおよび置換アセチレンの両方と70℃において反応させることにより調製する。次いで、得られた暗茶色微結晶固体の溶液を、次に、上記で調製したシッフ塩基タリウム塩と反応させる。
【0198】
添付の図1および2に示した種々の合成経路について、ルテニウム錯体に関して本明細書に記載したが、当業者であれば、例えば、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、ロジウム、バナジウム、亜鉛、金、銀、ニッケル、およびコバルトなどの他の遷移金属の相当する錯体も、上記の説明を利用しながら、かつ、[RuCl(p−クメン)]に相当する各々の金属錯体およびその類縁体を原料として、製造することが可能である。
【0199】
[実施例1]−式(I.a)〜(I.f)のシッフ塩基配位子の調製−
RおよびR’が添付の図1の下端に示す意味を有し、Meがメチルであり、iPrがイソプロピルである式(I.a)〜(I.f)を有するシッフ塩基リガンドを、以下の通り調製し、精製した。サリチルアルデヒドと脂肪族第1級アミン(即ち、R’が脂肪族または脂環族のラジカルである)との縮合は、還流温度で2時間、テトラヒドロフラン(以後、THFと記載する)中で攪拌することにより行った。室温に冷却後、粘稠な黄色の油状の縮合産物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、式(I.a)及び(I.b)を有する所望のサリチルアルジミン配位子を、それぞれ95%および93%の収率で得た。
【0200】
サリチルアルデヒドと芳香族第1級アミンとの縮合は、同様に、80℃で2時間、エタノール中で攪拌することにより行った。0℃に冷却することにより、黄色固体が反応混合物から析出した。この固体を濾過し、冷エタノールで洗浄し、次に真空下に乾燥して、式(I.c)〜(I.f)を有する所望のサリチルアルジミン配位子を90%から93%の収率で得た。これらの配位子は、物理化学的変化を起こすことなくデシケーター中で数ヶ月間にわたって保存できる。
【0201】
化合物(I.a〜d)は、プロトン核磁気共鳴(以後、NMRという)スペクトル分析(25℃でCDCl中実施)および赤外スペクトル分析(IR)により特性決定がなされ、これらの分析の結果は、以下の通りとなった。
【0202】
化合物(I.a):黄色液体;1H-NMR (CDCl3) δ 12.96 (s, 1H), 8.75 (s, 1H), 7.50 (d, 1H), 7.15 (d, 1H), 7.27 (t, 1H), 6.78 (t, 1H)および3.30 (d, 3H);13C-NMR (CDCl3) δ 166.4, 161.7, 137.0, 133.8, 120.8, 119.9, 118.4および45.9;IR (cm-1) 3325 (νOH, br), 3061 (νCH, w), 2976 (νHC=N, w), 2845-2910 (νCH3, br), 1623 (νC=N, s), 1573 (νC=C(Ph), w), 1525 (νC=C(Ph), w), 1497 (νC=C(Ph), w), 1465 (νC=C(Ph), w)および1125 (νCO, br)。
【0203】
化合物(I.b):黄色液体;1H-NMR (CDCl3) δ 13.18 (s, 1H), 8.98 (s, 1H), 8.10 (d, 1H), 8.03 (d, 1H), 7.67 (d, 1H)および3.41 (d, 3H);13C-NMR (CDCl3) δ 168.2, 164.3, 143.4, 137.9, 134.7, 123.1, 120.8および49.4;IR (cm-1) 3329 (νOH, br), 3067 (νCH, w), 2986 (νHC=N, w), 2840-2912 (νCH3, br), 1618 (νC=N, s), 1570 (νNO2, s), 1546 (νC=C(Ph), w), 1524 (νC=C(Ph), w), 1492 (νC=C(Ph), w), 1465 (νC=C(Ph), w), 1329 (νNO2, s)および1133 (νco, br)。
【0204】
化合物(I.c):黄色固体;1H-NMR (CDCl3) δ 12.85 (s, 1H), 8.32 (s, 1H), 7.45 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 7.30 (t, J = 7.1 Hz, 1H), 7.03 (s, 2H), 6.99 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 6.9 Hz, 1H)および2.21 (s, 6H);13C-NMR (CDCl3) δ 164.0, 160.9, 138.0, 132.4, 130.1, 129.8, 127.6, 127.1, 117.6, 117.3, 116.4および18.2;IR (cm-1) 3342 (νOH, br), 3065 (νCH, w), 3031 (νCH, w), 2850-2925 (νCH3, br), 1620 (νC=N, S), 1569 (νC=C(Ph), w), 1523 (νC=C(Ph), w), 1491 (νC=C(Ph), w), 1467 (νC=C(Ph), w)および1093 (νCO, br)。
【0205】
化合物(I.d):黄色固体;1H-NMR (CDCl3) δ 13.93 (s, 1H), 8.43 (s, 1H), 8.33 (d, J = 3 Hz, 1H), 8.29 (d, J = 9 Hz, 1H), 7.26 (s, 2H), 7.12 (d, J = 9 Hz, 1H)および2.18 (s, 6H);13C-NMR (CDCl3) δ 166.2, 165.3, 145.5, 139.9, 131.2, 130.2, 128.7, 128.5, 118.5, 118.0, 117.4および18.1;IR (cm-1) 3337 (νOH, br), 3068 (νCH, w), 3036 (νCH, w), 2848-2922 (νCH3, br), 1626 (νC=N, s), 1567 (νNO2, s), 1548 (νC=C(Ph), w), 1527 (νC=C(Ph), w), 1494 (νC=C(Ph), w), 1467 (νC=C(Ph), w), 1334 (νNO2, s)および1096 (νCO, br)。
【0206】
[実施例2]−式(II.a)〜(II.f)のシッフ塩基置換ルテニウム錯体の調製−
添付の図に示す式(II.a)〜(II.f)を有するシッフ塩基置換ルテニウム錯体を2工程で調製し、以下の通り精製した。第1の工程において、実施例1に従って調製した式(I.a)〜(I.f)の適切なシッフ塩基のTHF(10ml)中の溶液に、THF(5ml)中のタリウムエトキシドの溶液を室温で滴加した。添加直後、淡黄色の固体が形成した。次いで、反応混合物を20℃で2時間攪拌した。固体をアルゴン雰囲気下に濾過することにより、定量的収率で該当するサリチルアルジミンタリウム塩が得られた。これは、更に精製することなく次の工程において直ちに使用した。
【0207】
THF(5ml)中の該サリチルアルジミンタリウム塩の溶液に、THF(5ml)中の[RuCl(p−クメン)]の溶液を添加し、次に、反応混合物を6時間室温(20℃)で攪拌した。塩化タリウム副生成物を濾過して除去した。溶媒を蒸発させた後、残存物を最少量のトルエンに溶解し、0℃に冷却した。次に、得られた結晶を冷トルエン(3×10ml)で洗浄し、乾燥し、赤茶色の固体として式(II.a)〜(II.f)のシッフ塩基ルテニウム錯体を得た。
【0208】
[実施例3]−式(IV.a)〜(IV.f)のシッフ塩基置換ルテニウム錯体の調製−
THF(5ml)中のカリウムt−ブトキシドの溶液1当量を、THF(10ml)中の1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾリウムテトラフルオロボレートの溶液に添加し、反応混合物を室温(20℃)で5分間攪拌した後、カリウムテトラフルオロボレート副生成物を不活性雰囲気下に濾去し、式(III)を有するt−ブトキシル化化合物を定量的収率で形成した。溶媒を蒸発させた後、化合物(III)をトルエン(10ml)に溶解し、更に精製することなく次の工程において直ちに使用した。実施例2に従って調製した式(II.a)〜(II.f)の1つを有する適切なシッフ塩基置換ルテニウム錯体のトルエン(10ml)中の溶液1当量を添加した後、反応混合物を激しく攪拌しながら70〜80℃で1時間加熱した。溶媒を蒸発させた後、固体の残存物をヘキサン(3×10ml)で洗浄し、トルエン/ペンタン混合物から0℃で再結晶させた。その後、真空下に乾燥して90%から95%の範囲の収率で、茶色の微結晶固体として、式(IV.a)〜(IV.f)の純粋なシッフ塩基置換ルテニウム錯体を形成した。
【0209】
[実施例4]−式(V.a)〜(V.f)のシッフ塩基置換ルテニウム錯体の調製−
式(V.a)〜(V.f)を有するシッフ塩基置換アレニリデン化合物は、実施例3に従って調製した式(IV.a)〜(IV.f)の1つを有する適切なシッフ塩基置換ルテニウム錯体のトルエン(15ml)中の溶液を、市販のジフェニルプロパルギルアルコールのトルエン(5ml)中の溶液の1.2当量に添加し、次いで、室温(20℃)で17時間反応混合物を攪拌することにより得た。トルエンを真空下に蒸発させ、残存する固体残存物をジクロロメタン/ヘキサン混合物から再結晶し、ヘキサン(3×10ml)で洗浄して、80〜90%の範囲の収率で、暗茶色の微結晶性固体として所望の化合物を得た。
【0210】
[実施例5]−式(VI.a)〜(VI.f)のシッフ塩基置換ルテニウム錯体の調製−
式(VI.a)〜(VI.f)のシッフ塩基置換インデニリデン化合物は、実施例2に従って調製した式(II.a)〜(II.f)の1つを有する適切なシッフ塩基置換ルテニウム錯体のトルエン(15ml)中の溶液を、市販のジフェニルプロパルギルアルコールのトルエン(5ml)中の溶液の1.2当量に添加し、次いで、室温(20℃)で17時間、反応混合物を攪拌することにより得た。トルエンを真空下に蒸発させ、残存する固体残存物をジクロロメタン/ヘキサン混合物から再結晶し、ヘキサン(3×10ml)で洗浄して、70%より高い収率で、赤茶色の微結晶性固体として所望の化合物を得た。
【0211】
[実施例6]−式(VII.a)〜(VII.f)のシッフ塩基置換ルテニウム錯体の調製−
実施例5に従って調製した式(VI.a)〜(VI.f)の1つを有する適切なシッフ塩基置換ルテニウム錯体のトルエン(10ml)中の溶液に、実施例3の通り調製した式(III)を有するt−ブトキシル化化合物のトルエン(10ml)中の溶液の1当量を添加した。次に、70〜80℃で1時間、反応混合物を激しく攪拌した。溶媒を蒸発させた後、固体の残存物をヘキサン(3×10ml)で洗浄し、ジクロロメタン/ヘキサン混合物から再結晶した。その後、真空下に乾燥し、定量的収率で、赤茶色の微結晶固体として、式(VII.a)〜(VII.f)の純粋な化合物を得た。
【0212】
[実施例7]−開環メタセシス重合−
種々の環状オレフィンの開環メタセシス重合を、溶媒としてトルエン1ml中において実施し、その際、触媒として実施例4で調製した式(V.a)を有するシッフ塩基置換アレニリデン化合物0.005ミリモルを用いた。以下の表1は、オレフィン単量体の名称、オレフィン/触媒のモル比、重合温度T(℃表示)、および重合時間t(分表示)を示すものであり、また、時間tにおける重合収率を示している。
【0213】
【表1】

【0214】
[実施例8]−閉環メタセシス反応−
種々のジエンの閉環メタセシス反応は、溶媒として重水素化ベンゼン1ml中で行い(ただし、塩酸ジアリルアミンの場合のみ溶媒として重水素化メタノールを使用)、その際、下記を使用した。
【0215】
− 触媒として、実施例4で調製した式(V.a)を有するシッフ塩基置換アレニリデン化合物0.005ミリモル、および、
− ジエン/触媒のモル比100。
【0216】
以下の表2に使用したジエンの名称、反応温度T(℃表示)、反応時間t(分表示)を示し、また、時間tにおける反応収率(%表示)、および得られた生成物の名称も示した。
【0217】
【表2】

【0218】
[実施例9]−原子転移ラジカル重合−
種々のオレフィンの原子転移ラジカル重合を、下記に示す温度(℃表示)において、下記を使用しながら、8時間トルエン1ml中で行った。
【0219】
− 触媒として、実施例4で調製した式(V.a)を有するシッフ塩基置換アレニリデンルテニウム錯体0.0116ミリモル、
− 重合開始剤として、エチル−2−メチル−2−ブロモピロピオネート(単量体がメタクリレートの場合)、メチル−2−ブロモプロピオネート(単量体がアクリレートの場合)、1−ブロモシアノエタン(単量体がアクリロニトリルの場合)、または(1−ブロモエチル)ベンゼン(単量体がスチレンの場合)、
− [触媒]/[重合開始剤]/[単量体]のモル比1:2:800。
【0220】
以下の表3は、使用したオレフィンの名称、重合温度、および重合収率(%表示)を示す。
【0221】
【表3】

【0222】
[実施例10]−水中での原子転移ラジカル重合−
種々のオレフィンの原子転移ラジカル重合を、溶媒として水中において、
− 触媒として、テトラフルオロホウ酸銀1当量であらかじめ処理しておいた実施例4で調製した式(V.a)を有するシッフ塩基置換アレニリデン化合物0.0116ミリモル〔より詳細には、化合物(V.a)の上記量をトルエン1mlおよびトルエン中0.2MのAgBF溶液56μlに添加し、次に、AgClの濁りが観察されるまで20分間攪拌し、これによりクロリドの配位子が取り去られてトルエンにより置き換えられているカチオン性ルテニウム錯体とした。〕、
− 実施例9において既に記載したものと同様の重合開始剤、および、
− [触媒]/[重合開始剤]/[単量体]のモル比1:2:800、
を使用しながら、以下の表4に示す温度で8時間行った。触媒および重合開始剤をトルエン中に溶解し、トルエン:水の容量比を1:1とした。以下の表4は、使用したオレフィンの名称、重合温度、および重合収率(%表示)を示す。
【0223】
【表4】

【0224】
[実施例11]−ビニル単量体の原子転移ラジカル(共)重合−
種々のビニル単量体の原子転移ラジカル重合および共重合を、以下を用いて行った。
【0225】
− 実施例9において使用したものと同様の重合開始剤、および、
− 触媒として、以前にチャン(Chang)らのOrganometallics(1998)17:3460にオレフィンメタセシス触媒として開示されており、そして、下記式:
【0226】
【化7】

【0227】
(式中、Cyは、シクロヘキシルを示し、Phは、フェニルを示し、Meは、メチルを示し、iPrは、イソプロピルを示す)
を有するルテニウムカルベン錯体(A.a)〜(A.f)。
【0228】
この目的のための典型的な手順は、以下の通りである。即ち、重合は、密封ガラスバイアル中、アルゴン雰囲気下に行った。触媒0.0117ミリモルを、磁気攪拌子の入った3方向ストップコックでキャップされたガラス試験管(真空−窒素サイクル3回により脱気)に入れた。次に、単量体および重合開始剤を添加することにより、[触媒]/[重合開始剤]/[単量体]のモル比を1/2/800とした。全液体を、アルゴン雰囲気下で乾燥シリンジを用いて取り扱った。次に、反応混合物を85℃〔(メタ)アクリレートの場合〕または110℃(スチレンの場合)の反応温度で17時間加熱した。冷却後、これをTHF中に希釈して、激しく攪拌しながらn−ヘプタン〔(メタ)アクリレートの場合〕50mlまたはメタノール(スチレンの場合)50ml中に注ぎ込んだ。次に、沈殿した重合体を濾過し、一夜真空下に乾燥した。
【0229】
以下に示す表5は、使用した単量体および触媒ルテニウム錯体の関数としての重合収率を示す。
【0230】
【表5】

【0231】
表6は、それぞれメチルアクリレート(第1の数字)、スチレン(第2の数字)、またはメチルメタクリレート(第3の数字)からルテニウムカルベン錯体(A.c)〜(A.f)を用いて形成された単独重合体の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および分散度(PDI)を示す。
【0232】
【表6】

【0233】
[実施例12]−カチオン性ルテニウム錯体の存在下のビニル単量体の原子転移ラジカル(共)重合−
種々のビニル単量体の原子転移ラジカル重合および共重合を、溶媒S中で下記を用いて実施した。
【0234】
− 実施例9において使用したものと同じ重合開始剤、および、
− 触媒として、後述するスキームに従って、溶媒Sの存在下において、適切な式(A.a)〜(A.f)を有する実施例11のルテニウムカルベン複合体を塩で処理することにより、図11に示したスキームに従って得られるカチオン性ルテニウムカルベン錯体(B.a)〜(B.f)〔Tosは、トシレート(p−トルエンスルホネート)の略号であり、Tfは、トリフレート(トリフルオロメタンスルホネート)の略号である。〕。
【0235】
トルエンを溶媒として用いた場合、単量体、重合開始剤および触媒を少量のトルエンに溶解することにより、単量体/トルエンの比を1/1(容量/容量)とした。水/トルエン混合物中の懸濁重合の場合は、単量体、重合開始剤および触媒を少量のトルエンに溶解し、次いで、蒸留水を有機溶液に溶解することにより、単量体/トルエンの比を1/3.5(容量/容量)とし、かつ、水/有機層の比を1/1(容量/容量)とした。分散助剤または界面活性剤(粒子安定化剤)は、重合媒体に添加しなかった。
【0236】
触媒活性に対する対イオンの影響を調べるために、3種の異なる塩(テトラフルオロホウ酸銀、p−トルエンスルホン酸銀、およびトリメチルシリルトリフレート)を使用して、錯体(A.a)〜(A.f)から塩化物を抽出した。
【0237】
以下に示す表7は、使用した単量体、溶媒、およびメチルアクリレート(第1の数字)、スチレン(第2の数字)またはメチルメタクリレート(第3の数字)のそれぞれのカチオン性触媒ルテニウム錯体の関数としての重合収率を示す。
【0238】
【表7】

【0239】
以下に示す表8は、メチルアクリレート(第1の数字)、スチレン(第2の数字)またはメチルメタクリレート(第3の数字)からカチオン性ルテニウムカルベン錯体(B.b)を用いて形成された単独重合体の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および分散度(PDI)を示す。
【0240】
【表8】

【0241】
[実施例13]−ビニルオレフィンの原子転移ラジカル付加−
種々のビニルオレフィンへの4塩化炭素の原子転移ラジカル付加を、有機溶媒中、触媒として実施例4で調製した式(V.a)を有するシッフ塩基置換アレニリデン化合物を用いて実施した。該触媒(0.03ミリモル)をトルエン(1ml)に溶解し、その後、隔膜を通して、トルエン(3ml)中のビニル単量体(9ミリモル)および4塩化炭素(13ミリモル)の溶液に添加した。次いで、反応混合物を65℃で17時間加熱した。以下の表9は、試験したビニル単量体の名称および得られた塩素化飽和付加生成物の収率(%表示)を示す。
【0242】
【表9】

【0243】
[実施例14]−ジクロロロジ(トリシクロヘキシルホスフィン)ビニリデンルテニウム錯体の調製−
トルエン(17ml)中の[RuCl(p−クメン)](306mg、0.5ミリモル)の懸濁液に、それぞれ、トリシクロヘキシルホスフィン(0.617g、2.2ミリモル)およびフェニルアセチレンCC≡CH(0.102g、1ミリモル)を添加した。混合物をゆっくり70℃に加熱し、24時間攪拌した。揮発性物質を吸入排出することにより、約4mlまで混合物を濃縮した。アセトン10mlを添加し、−78℃まで冷却することにより、暗茶色の微結晶固体を析出させ、これを濾過し、真空乾燥した。この固体は、収率85%で得られたが、プロトンNMRスペクトル分析(CDClで30℃で実施)により、ClRu{=C=CHC}(PCyであると特性決定がなされ、以下のデータが得られた。δ 7.16-7.08, 6.97-6.88 (両m, 5H, phenyl), 4.65 (t, JPH = 3.3 Hz, 1H), 2.83-2.71, 2.26-2.12, 1.77-1.45, 1.28-1.01 (各m, C6H11)。
【0244】
同様の手順を用いて、ClRu{=C=CHt−C}(P(シクロヘキシル)を調製したが、ここでは、モル過剰量のテトラブチルアセチレンを使用し、最初の4時間は反応混合物を40℃に維持した。該ルテニウム錯体は、収率69%で得られたが、プロトンNMRスペクトル分析(CDClで30℃で実施)により特性決定がなされ、以下のデータが得られた。δ 2.81 (t, JPH = 3.0 Hz, 1H), 2.65-2.51, 2.14-1.99, 1.86-1.53, 1.33-1.12 (各m, 66H, C6H11)および1.01 (s, 9H)。
【0245】
[実施例15]−シッフ塩基ビニリデンルテニウム錯体の調製−
実施例14において得られたジクロロジシクロヘキシルホスフィンビニリデンルテニウム錯体(3ミリモル)のTHF(5ml)中の溶液に、実施例2の第1工程の終了時に得られたサリチルアルジミンタリウム塩のTHF(10ml)中の溶液を添加した。反応混合物を20℃で4時間攪拌し、形成した塩化タリウムを濾過して分離した。固体の残存物を−70℃でペンタンから再結晶し、式(IC)を有するシッフ塩基ビニリデンルテニウム錯体を得た。
【0246】
この方法により、4種の異なる錯体が製造された。図2において4aとして同定された錯体(即ち、Rは、水素原子であり、Rは、フェニルである)を、収率81%で茶色固体として回収し、プロトンNMRスペクトル分析(Cで25℃で実施)により特性決定がなされ、以下のデータが得られた。δ 8.20 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 7.30 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.22-7.14, 6.99-6.94, 6.89-6.79 (各m, 5H), 7.13 (s, 2H), 7.06 (t, J = 7 Hz, 1H), 4.36 (t, J = 4.2 Hz), 2.14 (s, 3H), 1.61-1.31 (m, 20H), 1.27 (d, J = 6 Hz, 3H)および1.19 (m, 10H)。
【0247】
図2において4bとして同定された錯体(即ち、Rは、ニトロであり、Rは、フェニルである)を、収率80%で暗茶色固体として回収し、プロトンNMRスペクトル分析(Cで25℃で実施)により特性決定がなされ、以下のデータが得られた。δ 8.24 (d, J = 2.5 Hz, 1H), 8.08 (dd, J = 9 Hz, 2.4 Hz, 1H), 7.94 (d, J = 5.6 Hz, 1H), 7.56 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.29 (d, J = 9.8 Hz, 1H), 7.16 (s, 2H), 7.13-7.07 (o-H), 7.02-6.96 (p-H), 6.89-6.80 (m-H) (各m, 5H), 4.25 (t, J = 5 Hz), 2.44 (q, J = 11 Hz, 3H), 2.34 (s, 3H), 1.70-1.63 (bs, 20H), 1.54 (d, J = 12Hz, 3H)および1.36-1.08 (bs, 20H)。
【0248】
図2において5aとして同定された錯体(即ち、Rは、水素原子であり、Rは、t−ブチルである)を、収率78%で暗茶色固体として回収し、プロトンNMRスペクトル分析(Cで25℃で実施)により特性決定がなされ、以下のデータが得られた。δ 8.28 (d, J = 2.7 Hz, 1H), 7.42 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.23 (t, J = 7.0 Hz, 1H), 7.06 (m, 3H), 6.74 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 2.83 (t, J = 3 Hz), 1.78-1.50 (m, 23H), 1.26-1.15 (m, 10H)および1.08 (s, 9H)。
【0249】
図2において5bとして同定された錯体(即ち、Rは、ニトロであり、Rは、t−ブチルである)を、収率70%で茶色固体として回収し、プロトンNMRスペクトル分析(Cで25℃で実施)により特性決定がなされ、以下のデータが得られた。δ 8.30 (d, J = 2.9 Hz, 1H), 7.6 (dd, J = 9, 2.3 Hz, 1H), 7.37 (d, J = 5 Hz, 1H), 7.13 (s, 2H), 6.99 (d, J = 9.8 Hz, 1H), 3.06 (t, J = 4 Hz), 2.50 (q, J = 12 Hz, 3H), 2.38 (s, 3H), 1.88-1.75 (bs, 20H), 1.60 (d, J = 12.5 Hz, 3H), 1.34-25 (m, 10H)および1.07 (s, 9H)。
【0250】
[実施例16]−環状オレフィンの開環メタセシス重合−
後に記載するスキームの6〜17の式および参照番号により識別される環状オレフィンの開環メタセシス重合を、以下の手順に従って実施した。
【0251】
【化8】

【0252】
単量体6〔即ち、ノルボルネン〕(7.5ミリモル)をCHCl(2.0ml)に溶解し、容器内で、実施例15に従って調製したシッフ塩基ビニリデンルテニウム錯体(7.5μモル)のCHCl(2ml)中の溶液に、添加混合した。容器をアルゴンでフラッシュし、油浴中で80℃の一定温度に維持した。2時間後、混合物は、極めて粘稠になり、もはや攪拌できなくなった。該混合物をビーカーに移し、酸化抑制剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(0.4ミリモル))および重合停止剤としてエチルビニルエーテル(4ミリモル)を含有するCHCl(10ml)で処理した。得られた溶液を1時間攪拌し、シリカゲルカラムで濾過した後、激しく攪拌したメタノール中で析出させた。得られた白色の粘稠な重合体を濾過し、メタノールで洗浄し、真空下に乾燥した。
【0253】
他の環状オレフィンについては、実験方法は同様としたが、使用する単量体の量を6ミリモル(単量体7〜16)または1.87ミリモル(単量体17)に変更した。
【0254】
以下の表10は、順次、実験番号(第1列)の後に、触媒として使用したシッフ塩基ビニリデンルテニウム錯体(実施例15と同じ識別番号を使用)、6〜17の単量体参照番号(括弧内において単量体/触媒のモル比が後続する)、重合の温度、時間、および収率、並びに、共にポリスチレン標準物質を用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した数平均分子量Mnおよび分散度Mw/Mnを示す。
【0255】
【表10−1】

【0256】
【表10−2】

【0257】
【表10−3】

【0258】
【表10−4】

【0259】
d:分子量は、重合体が不溶性のため測定できなかった。
【0260】
[実施例17]−閉環メタセシス反応−
種々のジエンの閉環メタセシス反応を以下の手順に従って実施した。10mlのシュレンク試験管中、ジエン0.095ミリモル、メシチレン13.2μl(0.095ミリモル)、および実施例15に従って調製したシッフ塩基ビニリデンルテニウム錯体50μlを重水素化ベンゼン1mlに添加し、次いで、攪拌しながら70または85℃に加熱した(以下の表11に記載するとおり)。形成されたエチレンを、10分間間隔で真空下に除去した。2時間後、溶液を20℃に冷却し、NMR試験管内に注ぎ込んだ。生成物の収率は、アリル性プロトンの積分によるH−NMRで測定する。環状異性体、オリゴマーまたはテロメアの形成は、反応混合物のGC−MS分析により除外した。シリカゲルカラム上のフラッシュカラムクロマトグラフィーによって濃縮した反応混合物の精製により、反応生成物を同定した(ヘキサン/酢酸エチル=6:1、Rf=0.3)。
【0261】
以下の表11は、順次、各実験について、反応温度T(℃表示、第1列)の後に、使用したジエンの構造、得られた生成物の構造、反応時間(時間で表示)、および反応収率を、触媒として使用したシッフ塩基ビニリデンルテニウム錯体の各々について示す(実施例15と同様の識別番号を使用)。
【0262】
【表11】

【0263】
[実施例18]−メソポーラスな結晶性モレキュラーシーブにシッフ塩基含有ルテニウム錯体が投錨している触媒の調製
全ての反応および操作は、従来のシュレンク試験管法を用いることにより、アルゴン雰囲気下で行った。アルゴンガスは、P(アルドリッチ製、97%)を通して乾燥した。H−NMRスペクトル(500MHz)は、ブルカーAM分光分析器上に記録した。化学シフトは、ppmで表示し、TMSを比較対照化合物として使用した。
【0264】
固相NMRスペクトルは、ブルカーDSX−300分光光度計を、H−NMRの場合は300.18MHz、13C−NMRの場合は75.49MHz、31P−NMRの場合は121.51MHz、および29Si−NMRの場合は59.595MHzで操作することにより得た。スペクトルは、12KHzまでのスピン周波数を与える慣用的な4mmのプローブヘッドを用いて、MAS条件下において記録した。
【0265】
均一な触媒の投錨は、FRA106モジュールを有するラマン分光光度計ブルカーEquinox 55により確認した。不均一ハイブリッド触媒の負荷は、Varian Liberty ICP/MS分光光度計、およびARL9400SequentialXRF分光光度計により測定した。XRDスペクトルは、ジーメンス回折光度計D5000で記録した。元素分析は、CarloErbaEA1110装置で実施した。
【0266】
BET分析は、Flow prep060脱気装置を有するGeminiマイクロメトリック2360表面積分析器で行った。試料を423°Kで一夜乾燥し、室温に冷却してから吸着させた。空気酸化の可能性のため、官能性が付与された物質による特別の留意が必要であり、従って、天秤への移動および系の脱気は迅速に行った。窒素等温曲線は、77°Kで記録した。比表面積をBETプロットの直線部分から求めた(P/P=0.05〜0.3)。
【0267】
か焼(calcination)の後、メソポーラスな結晶性モレキュラーシーブMCM−41を、XRD、N吸着、およびラマン分光光度分析により特性決定した。MCM−41を423°Kで真空下一夜乾燥し、シリカ表面からの物理吸着水の熱的脱着を行った。
【0268】
固体担持型触媒5および11のそれぞれの合成について、図7に示す2種類の経路を試験した。
【0269】
第1の実施形態においては、図7に示すシッフ塩基ルテニウム錯体10を経路2により作成し、以下の通り特性決定した。即ち、2ミリモルのサリチルアルデヒド1をTHF15mlに溶解した。攪拌しながら、2ミリモルの4−ブロモ−2,6−ジメチルアニリン6を添加し、次いで、反応混合物を還流温度で2時間攪拌した。得られたサリチルアルジミン生成物は、0℃に冷却すると析出し、固体の黄色の生成物が形成した。固体を濾過し、洗浄し、真空下に乾燥し、優れた収率(95%)で所望のサリチルアルジミン配位子7を得た。
【0270】
THF15ml中のシッフ塩基配位子7(2ミリモル)の溶液に、室温でTHF(5ml)中のタリウムエトキシド2ミリモルの溶液を滴下した。添加直後、淡黄色の固体が形成し、反応混合物を室温で2時間攪拌した。定量的に形成した塩8は、更に精製することなく次の工程に直ちに使用した。THF(10ml)中のMg粉2ミリモルの懸濁液に、ブロモプロピルトリメトキシシラン2ミリモルを滴下し、次に、混合物を室温で3時間攪拌して、定量的に塩8に変換し、室温で6時間攪拌し、緑黄色の固体としてスペーサー修飾シッフ塩基配位子9を得た。
【0271】
エトキシル化タリウム塩9の溶液に、THF10ml中の触媒[RuCl(PCy=CHPh]2ミリモルの溶液を添加した。反応混合物を4時間室温で攪拌した。溶媒を蒸発させた後、残存物を最少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却した。塩化タリウムは、濾過して分離した。次に、所望の錯体を冷ベンゼンで洗浄(10mlで3回)し、濾液を蒸発させた。固体の残存物をペンタン(−70℃)から再結晶させ、緑茶色の固体としてシッフ塩基修飾錯体10を得、以下の通り特性決定した。
【0272】
1H-NMR (CDCl3) δ (ppm) 19.41 (d, 1H), 8.18 (d, 1H), 7.96 (d, 1H), 7.91 (d, 2H), 6.93 (d, 1H), 7.53 (t, 1H), 7.31 (t, 1H), 7.20 (t, 2H), 7.03 (t, 1H), 7.00 (s, 1H), 6.95 (s, 1H), 3.71 (m, 6H), 2.44 (q, 3H), 2.29 (s, 3H), 1.77 (d, 3H), 1.69 (t, 2H), 1.17-1.67 (m, 30H), 1.15 (m, 4H), 1.11 (t, 9H);
31P-NMR (CDCl3) δ (ppm) 58.19;
− 元素分析値(%):RuC49H73PO4NClSi(935.61)の計算値:C 63.90, H 7.86, N 1.50;測定値:C 62.97, H 7.73, N 1.53。
【0273】
次に、2ミリモルのシッフ塩基修飾錯体10をTHF15mlに溶解した。この溶液を定量的に3gのMCM−41に移行させ、これを150℃で一夜乾燥した。
【0274】
THF中で24時間還流した後、不均一触媒11を窒素雰囲気下に濾過し、次いで、濾液が無色になるまでTHFおよびトルエンで十分に洗浄した。その後、真空下に乾燥し、緑色粉末として不均一触媒11を得た。
【0275】
第2の実施形態においては、シッフ塩基修飾錯体4を図7に示す経路1により製造し、以下の通り特性決定した。
【0276】
1H-NMR (CDCl3) δ(ppm) 19.92 (d, 1H), 8.95 (d, 1H), 7.55 (t, 1H), 7.02-7.35 (br m, 7H), 6.83 (t, 1H), 3.89 (m, 6H), 3.57 (q, 3H), 1.86 (t, 2H), 1.25-1.81 (m, 30H), 1.21 (m, 4H), 1.17 (t, 9H);
31P-NMR (CDCl3) δ(ppm) 58.70;
− 元素分析値(%):RuC41H65PO4NClSi(831.46)の計算値:C 59.22, H 7.88, N 1.68;測定値:C 58.71, H 8.54, N 1.60。
【0277】
次に、不均一触媒5を触媒11の場合と同様の方法でシッフ塩基修飾錯体4から調製した。
【0278】
次に、不均一触媒5および11の両方を更に特性決定し、それらの構造をX線回折、窒素吸着分析、ラマン分光分析、X線蛍光、および固体状態NMR分析により原料のMCM−41物質と比較した。結果を以下に示す。
【0279】
XRD測定結果によれば、合成されたメソポーラスな担持体がMCM−41構造を有していることが確認された。か焼したMCM−41は、3.733nm(100)のdスペーシングで極めて強力なピークを示し、また、3つの弱いピークを2.544nm(110)、2.010nm(200)、および1.240nm(210)で示した。これらの4つのピークは、a=4.310nm(a=2d100/√3)の6方晶系単位セルに一致する。
【0280】
不均一触媒5の場合は、d100スペーシングおよびaは、それぞれ3.611nmおよび4.170nmとなる。触媒11の場合は、数値は、それぞれ3.714nmおよび4.289nmとなる。不均一触媒のXRDパターンは、本質的に元のMCM−41のものと同じであるため、担持体の長距離秩序の構造は、温存されていることが確認された。
【0281】
吸着測定およびXRD分析から得られたデータを、以下に総括する。
【0282】
【表12】

【0283】
a:N吸着等温曲線の脱着分岐部から得られたBET表面積(BET表面積=ブルナー−エメット−テラー表面積)。b:Barrett−Joyner−Halenda式から得られた孔容量。c:メソポア(中間細孔)直径は、PSD曲線から得た(PSD曲線=孔径分布曲線)。d:壁厚=a−APD(APD=平均孔径)。
【0284】
触媒の表面積、孔容量および孔径は、メソポーラス物質に関して期待されていた通りであった。更にまた、MCM−41および不均一触媒の両方の多孔度の測定によれば、IV型のIUPAC吸着−脱着等温曲線であった。上記した通り、不均一触媒のBET表面積および孔容量は、MCM−41と比較した場合、約60%減少した。これらの全ての結果は、MCM−41の内部細孔が触媒錯体により占有されており、中間細孔の接触容易性および構造が修飾後にも維持されていることを示している。
【0285】
トリス(アルコキシ)シリル官能性付与均一錯体(それぞれ4および10)とMCM−41表面との間の共有結合の形成を確認するために、ラマン分光分析を実施した。ここでは、不均一触媒5を与える投錨工程のみを論じる。MCM−41(下記の図A)とスペーサー修飾MCM−41(下記の図B)のラマンスペクトルの比較によれば、MCM−41ベースライン上のスペーサーの振動の重複が明らかに示されている。MCM−41および不均一触媒5(下記の図D)のラマンスペクトルの比較によれば、均一種4のグラフト化が判明する。
【0286】
スペーサー修飾均一触媒4(下記の図C)と触媒5のラマンスペクトルの比較を行うことにより、均一触媒の化学結合に関する如何なる疑問点も排除される。均一触媒4のスペクトルの各ピークが、不均一触媒5のスペクトル中にも存在することが明らかにされる。図Cと比較した場合の図Dにおける一部のピークの僅かなシフトは、担体への触媒の化学結合に由来する種々の官能基の化学環境の変化を示している。結論として、ラマンおよびBETデータの両方が、望ましい共有結合の投錨を確認するものであるといえる。
【0287】
【表13】

【0288】
図:MCM−41(A)、MCM−41+スペーサー(B)、スペーサー修飾均一触媒4(C)、および不均一触媒系5(D)のラマンスペクトル
【0289】
XRF測定によれば、0.1069ミリモルのRu錯体/g不均一触媒5および0.054ミリモルのRu錯体/g不均一触媒11の含有量(loading)が明らかにされる。
【0290】
不均一触媒5および11の構造は、固体状態NMRによっても調べた。MCM−41の場合、プロトンスペクトルは、シラノール基または水の存在を明らかにするのみである。MCM−41の29Si CP MAS NMRにおいては、90ppm、100ppm、および110ppmの3種のピークが観察された。これらの値は、それぞれSi(OH)(OSi)、Si(OH)(OSi)、およびSi(OSi)に帰属させることができる。MCM−41+アミノプロピルトリエトキシシランおよびMCM−41+ブロモプロピルトリエトキシシランのプロトンスペクトルは、−CHおよび−CH基の存在を明らかにするのみである。0ppm近傍の小さいシグナルは、スペーサー分子のSiCHに帰属させることができる。
【0291】
しかしながら、これらの試料の13C CP MAS NMRスペクトルは、ある興味深い特徴を明らかにしている。MCM−41+アミノプロピルトリエトキシシランについては、50ppmおよび70ppmの2つのピークは、それぞれ−OCH−および−CHN−の立体配置に帰属させることができる。MCM−41+ブロモプロピルトリエトキシシランについては、50ppmおよび36ppmの2つのピークは、それぞれ−OCH−および−CHBr−の立体配置に帰属させることができる。ブロードな未分解のピークとして観察される50ppm近傍のシグナルは、グラフト化が完了していないことを示している。
【0292】
MCM−41+アミノプロピルトリエトキシシランについては、29Si CP MAS NMRスペクトルは、−58.34ppmにおける(SiO)SiC−種および−106.98ppmにおける(SiO)(OEt)SiC−種の存在を明らかに示している。MCM−41+ブロモプロピルトリエトキシシランについては、これらのシグナルは、それぞれ−59.69ppmおよび−106.0ppmにおいて観察される。両方の試料について、(SiO)(OH)SiC−シグナルの存在が分解される。MCM−41+アミノプロピルトリエトキシシランおよびMCM−41+ブロモプロピルトリエトキシシランについては、これらのシグナルは、それぞれ−43.26ppmおよび−43.98ppmにおいて観察される。Si−OH種の存在は、1.8ppmにおける小さいシグナルを示す2つの試料のプロトンスペクトルにより確認される。
【0293】
不均一ハイブリッド触媒のプロトンスペクトルは、ブロードな未分解のピークとして芳香族および脂肪族のプロトンの存在を明らかにするのみである。それぞれ8.96ppmおよび8.18ppmにおいて、触媒5および11のイミンプロトンの小さいピークが明らかにされる。不均一触媒の13C CP MAS NMRスペクトルは、それぞれ錯体5および11の166.1ppmおよび164.2ppmにおいて、−C=N−結合の炭素を明らかにする。
【0294】
ここでもまた、スペクトルから芳香族および脂肪族の炭素原子が明らかにされる。5.24ppm近傍、各々4.91ppmにおいては、触媒5および11の−CHおよび−SiCH−ピークの重複が観察される。不均一触媒の29Si CP MAS NMRスペクトルは、(SiO)SiC−、(SiO)(OEt)SiC−、および(SiO)(OH)SiC−種の存在をも明らかにしている。不均一触媒の31P CP−MAS NMRスペクトルは、不均一触媒5および11について、それぞれ58.73ppmおよび58.23ppmにおいてP(シクロヘキシル)の存在を明らかにしている。これより、本発明者らは、MCM−41上へのスペーサー分子を介した均一触媒の投錨は、2または3個の共有結合により起こっていると結論する。
【0295】
[実施例19]−不均一触媒による開環メタセシス重合−
実施例18の不均一触媒5および11の両方を使用して、溶媒中の種々のオレフィンの開環メタセシス重合を行った。シクロオクテンおよびノルボルネン誘導体を、アルドリッチ社より購入し、使用前に、窒素下でCaHから蒸留した。市販品等級の溶媒を乾燥し、窒素雰囲気下に適切な乾燥剤上で24時間脱酸素処理し、蒸留した後に使用した。
【0296】
典型的なROMP実験において、トルエン中の触媒の懸濁液0.005ミリモルを15ml容の容器に移し、その後、トルエン/ジクロロメタン中の単量体を添加した(ノルボルネンは、2000当量、シクロオクテンは、200当量、およびノルボルネン誘導体は、800当量)。反応混合物を35℃で6時間攪拌し続けた。触媒を不活性化するため、エチルビニルエーテル/2,6−ジ−t−ブチル−メチルフェノール(BHT)溶液2.5mlを添加し、完全な不活性化が起こるまで溶液を攪拌した。溶液をメタノール50ml(0.1%BHT含有)に注ぎ込み、重合体を析出させ、濾過した。
【0297】
重合体をCHClに溶解することにより触媒を濾過した。次に、高粘度となるまでCHClを真空下に重合体溶液から除去し、その後、メタノール100mlを添加することにより重合体を析出させた。次に、白色の重合体を濾過し、一夜真空下に乾燥した。重合体の数平均分子量と重量平均分子量(MnおよびMw)、並びに分散度(Mw/Mn)を、ポリスチレン標準物質を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(CHCl、25℃)により測定した。使用したGPC機材は、PLゲルカラムを装着したWatersのMaxima820システムである。DSC測定は、サーモメカニカル分析器(TMA2940)を使用しながら、TA機器DSC−TGA(SDT2960)により行った。形成された重合体の収率[%]を以下の表12に示す。
【0298】
【表14】

【0299】
更に、表13にまとめたデータは、使用した溶媒が、得られた重合体の特性にとって非常に決定的であることを示している。分散度が低く重合開始剤の効率が高くなるほど、トルエンではなくジクロロメタンを使用することにより、更に制御された状態で重合が進行することを示しているため、これは、使用する触媒とは無関係である。
【0300】
【表15】

【0301】
[実施例20]−不均一触媒の存在下の閉環メタセシス重合−
乾燥した10ml容の容器内に触媒5モル%を計り込み、固体をベンゼン2ml中に懸濁することにより、空気中の実験台上で反応を行った。ベンゼン(2ml)中の適切なジエン基質(0.1ミリモル)の溶液を、内標準のドデカンとともに添加した。反応混合物を、以下の表14に示す適切な温度で適切な時間攪拌した。生成物の形成およびジエンの消失は、ガスクロマトグラフィー(GC)でモニタリングし、アリル性メチレンのピークの積分を介して、H−NMRスペクトル分析による再現性試験において確認した(溶媒は、重水素化ベンゼンであり、内標準は、1,3,5−メシチレンとした)。また、反応混合物のGC分析は、シクロ異性体、オリゴマーまたはテロメアの形成を除外した。
【0302】
表14は、幾つかの代表的な基質を用いて得られた結果をまとめたものであり、ここでは、実施例18の触媒5および11の活性に対する反応温度および反応時間の影響を検討した。使用した温度や反応時間にかかわらず、触媒系11は、系5よりも高い効率を示した。1,7−オクタジエン、ジアリルエーテル、およびジエチルジアリルマロネートは、55℃で僅か4時間の時間でも両触媒系において円滑に環化を進行したが、トリおよびテトラ置換マロネート誘導体の転換のためには、より過酷な条件が必要である。良好な触媒性能を達成するために、反応温度が決定的な因子であることも明らかである。重要な点は、閉環反応生成物の後処理は、単に触媒の濾別および溶媒の真空下での蒸発よりなる点である。
【0303】
【表16】

【0304】
[実施例21]−不均一触媒存在下の原子転移ラジカル重合−
従来の方法により、全試薬および溶媒を乾燥し、蒸留し、−20℃で窒素下に保存した。典型的なATRP実験においては、実施例18において製造した不均一触媒11の0.0117ミリモルを、磁気攪拌子の入った3方向ストップコックでキャップしたガラス管(3回の真空−窒素サイクルにより脱気しておく)内に入れた。次に、モル比[触媒]/[重合開始剤]/[単量体]が1:2:800となるように、スチレン(単量体として)および1−ブロモメチルベンゼン(重合開始剤として)を添加した。全液体は、乾燥シリンジを用いながらアルゴン下に取り扱った。
【0305】
反応混合物を110℃で17時間加熱し、冷却した後、THF中に希釈し、激しく攪拌しながらメタノール50ml中に注ぎ込み、その後、析出したポリスチレンを吸引濾過した。最後に、重合体をCHClに溶解することにより触媒を濾別した。次に、高粘度となるまでCHClを重合体溶液から真空下に除去し、次いで、メタノール100mlを添加することにより重合体を析出させ、濾別し、15分間真空下に乾燥して分析した。重合体の収率は73%であり、分子量(Mn)は39,000であり、かつ、分散度(Mw/Mn)は1.62であった。
【0306】
ATRP反応のリビング特性を確認するために、本発明者等は、以下の速度論的実験を行った。即ち、単量体の転化率および数平均分子量(Mn)を時間の関数として追跡し、単量体の転化率に対する分子量および分散度の依存性を図8に示した。Mnについて観察された直線的依存性は、一定数の成長鎖を有する制御された過程と合致している。更に、重合進行中の分散度の有意な低下(転化率73%において1.62の値に達した)は、ラジカルが長寿命であることを示している。更に、一次速度論的プロット(図9)は、直線的な時間依存性を示しており、これは、重合停止反応がほぼ完全に排除されたことを示している。したがって、本発明者等は、重合が制御された態様で進行し、これにより所定の分子量と狭い分散度を有するポリスチレンの合成が可能となったと結論した。
【0307】
[実施例22]−不均一触媒の存在下のカラーシ付加−
従来の方法により、全試薬および溶媒を乾燥し、蒸留し、−20℃で窒素下に保存した。反応は、実施例18の触媒5または11の0.01ミリモルを乾燥した10ml容の容器に計り込み、固体をトルエン2mlで懸濁することにより、空気中の実験台上で行った。次に、トルエン(1ml)中のアルケン(3ミリモル)、CCl(4.33ミリモル)、およびドデカン(0.083ml)の溶液を添加し、反応混合物を、表15に示す適切な反応温度において17時間加熱した。得られた生成物の収率は、内標準としてドデカンを用いた反応混合物のGC分析により求め、以下の表15に示した。
【0308】
【表17】

【0309】
[実施例23]−不均一触媒の存在下のビニル化反応−
典型的なビニル化実験において、カルボン酸(ギ酸または酢酸)4.4ミリモル、アルキン(フェニルアセチレンまたは1,7−オクタジイン)4.4ミリモル、および実施例18の触媒5または11の0.04ミリモルを、トルエン3mlの入った15ml容のガラス容器に移した。次に、反応混合物を不活性雰囲気下100℃で4時間加熱した。総収率は、フェニルアセチレンまたは1,7−オクタジインのνC≡Cの強度低下を追跡し、検量線を用いながら、ラマン分光分析により測定した。得られた生成物の立体配座は、異性体の種々のフラグメント化を用いながらGC/MSにより測定した。GC/MS測定により、以下に報告するもの以外の生成物の形成を除外した。
【0310】
これらのビニル化実験の結果を表16に総括する〔Mは、マルコウニコフ(Markovnikov)の略〕。1,7−オクタジインを基質として使用した場合は、両方のカルボン酸の添加により、使用した触媒系にかかわらず、三重結合への酸の位置選択的および立体選択的なアンチ−マルコウニコフ付加に相当する(E)−アルカン−1−エニルエステルの選択的形成が起こった。しかし、総収率は、使用した触媒およびカルボン酸の種類に依存している。(E)−アルカン−1−エニルエステルの形成のほかに、低い比率の(Z)−アルカン−1−エニルエステル、マルコウニコフ付加産物およびジ置換エノールエステルも得られた。アルキンとしてフェニルアセチレンを使用した場合、総収率は、1,7−オクタジインよりも明らかに高値となった。後者は、ビニル化過程において完全に異なる選択性を誘導し、即ち、不均一触媒は、マルコウニコフ付加産物の形成のために高い水準の反応性をもたらした。
【0311】
【表18】

【0312】
[実施例24]−シッフ塩基修飾ホモ2金属ルテニウム錯体の調製−
本合成は、図10に示すスキームに従って進行させた。式(2.a−f)を有するシッフ塩基置換ルテニウム錯体を以下のとおり2工程において調製し、精製した。第1の工程においては、実施例1に従って調製した式(1.a−f)の適切なシッフ塩基のTHF(10ml)中の溶液に、THF(5ml)中のタリウムエトキシドの溶液を室温で滴下した。添加終了直後、淡黄色固体が形成され、次いで、反応混合物を20℃で2時間攪拌した。アルゴン雰囲気下に固体を濾過し、定量的収率で得られた各々のサリチルアルジミンタリウム塩を更に精製することなく直ちに次の工程において使用した。
【0313】
第2の工程においては、THF(5ml)中の該サリチルアルジミンタリウム塩の溶液にTHF(5ml)中の式[RuCl(PCy=CHC]を有する触媒の溶液を添加した。反応混合物を室温で4時間攪拌した。溶媒を蒸発させた後、残存物を最少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却した。塩化タリウムを濾別した。溶媒を蒸発させた後、残存物をペンタン(−70℃)から再結晶させ、各々のシッフ塩基置換ルテニウム錯体(2.a−f)を良好な収率で茶色固体として得た。
【0314】
次に、シッフ塩基置換ルテニウム錯体(2.a−f)1ミリモルのベンゼン溶液(25ml)に、式[RuCl(p−クメン)]を有する二量体錯体(1ミリモル)のベンゼン溶液(25ml)を添加した。溶液を室温で4時間攪拌し、その間、溶液から固体沈殿が形成された。この固体を不活性雰囲気下に濾過して単離し、ベンゼンで洗浄(30mで3回)し、[(p−クメン)RuClP(シクロヘキシル)]副生成物、および未反応の原料がある場合はこれを除去した。クロロベンゼン/ペンタン混合物から再結晶させ、次いで、更にペンタン10ml(2回)で洗浄することにより残存クロロベンゼンを除去した後、生成物を真空下に乾燥し、以下に示す収率で2金属のシッフ塩基置換ルテニウム錯体3.a−fを得た。該錯体を更に核磁気共鳴(NMR)および赤外スペクトル分析(IR)で特性決定した。その分析結果は、以下のとおりとなった。
【0315】
2金属ルテニウム錯体3.a:橙緑色粉末として0.419g(63%)。1H-NMR (CDCl3) δ 19.97 (d, 1H), 9.03 (d, 1H), 7.64 (t, 1H), 7.09-7.44 (br m, 7H), 7.01 (t, 1H), 5.58 (d, 1H), 5.46 (d, 1H), 5.29 (d, 1H), 5.15 (d, 1H), 3.31 (d, 3H), 2.92 (septet, 1H), 2.19 (s, 3H), 1.35 (d, 3H)および1.32 (d, 3H)。IR (cm-1) 3060 (νCH, w), 3054 (νCH, w), 2838-2901 (νCH3, br), 2806 (νCH2, w), 1617 (νC=N, s), 1605 (νC=C(Ph), w), 1583 (νc=c(ph), w), 1506 (νC=C(Ph), w), 1455 (νC=C(Ph), w), 1449 (νCH2, w), 1382 (skel.iPr, m), 1361 (skel.iPr, m), 1106 (νRu-O-Ph, w), 1003 (νskel.PCy3, w), 773 (γCH, w), 564 (νRu-O-Ph, w), 544 (νRu-o-Ph, w), 512 (νRu-Cl, w)および440 (νRu-N, w)。元素分析値(%):Ru2C25H28ONCl3 (666.96)の計算値:C 45.02, H 4.23, N 2.10;測定値:C 45.10, H 4.25, N 2.11。
【0316】
2金属ルテニウム錯体3.b:橙緑色粉末として0.476g(67%)。1H-NMR (CDCl3) δ 20.02 (d, 1H), 9.08 (d, 1H), 8.34 (d, 1H), 8.19 (d, 1H), 7.53 (d, 2H), 7.45 (t, 1H), 7.38 (t, 2H), 7.16 (d, 1H), 5.64 (d, 1H), 5.52 (d, 1H), 5.33 (d, 1H), 5.19 (d, 1H), 3.36 (d, 3H), 2.96 (septet, 1H), 2.21 (s, 3H), 1.40 (d, 3H)および1.37 (d, 3H)。IR (cm-1) 3054 (νCH, w), 3047 (νCH, w), 2835-2898 (νCH3, br), 2802 (νCH2, w), 1615 (νC=N, s), 1600 (νc=c(ph), w), 1577 (νC=C(Ph), w), 1550 (νNO2, s), 1500 (νC=C(Ph), w), 1447 (νC=C(Ph), w), 1441 (νCH2, w), 1382 (skel.iPr, m), 1363 (skel.iPr, m), 1332 (νNO2, S), 1098 (νRu-O-Ph, w), 997 (νskel.PCy3, w), 768 (γCH, w), 558 (νRu-O-Ph, w), 540 (νRu-O-Ph, w), 503 (νRu-Cl, w)および437 (νRu-N, w)。元素分析値(%):Ru2C25H27O3N2Cl3 (711.94)の計算値:C 42.17, H 3.82, N 3.93;測定値:C 42.24, H 3.84, N 3.91。
【0317】
2金属ルテニウム錯体3.c:橙色粉末として0.511g(61%)。1H-NMR (CDCl3) δ 19.48 (d, 1H), 8.21 (d, 1H), 8.12 (d, 1H), 8.06 (d, 2H), 7.72 (t, 1H), 7.44 (t, 2H), 7.38 (t, 1H), 7.12 (t, 1H), 7.09 (s, 1H), 7.06 (d, 1H), 7.02 (s, 1H), 5.45 (d, 1H), 5.30 (d, 1H), 5.17 (d, 1H), 5.06 (d, 1H), 2.84 (septet, 1H), 2.06 (s, 3H), 2.03 (s, 3H), 1.89 (d, 3H), 1.28 (d, 3H)および1.24 (d, 3H)。IR (cm-1) 3052 (νCH, w), 3038 (νCH, w), 2848-2968 (νCH3, br), 1601 (νC=N, S), 1579 (νC=C(Ph), w), 1523 (νC=C(Ph), w), 1466 (νC=C(Ph), w), 1443 (νC=C(Ph), w), 1385 (skel.iPr, m), 1367 (skel.iPr, m), 1062 (νRu-O-Ph, w), 1003 (νSkel.PCy3, w), 801 (γCH, w), 784 (γCH, w), 692 (νC-Br, s), 666 (νRu-N, w), 554 (νRu-O-Ph, w), 527 (νRu-O-Ph, w)および492 (νRu-Cl, w)。元素分析値(%):Ru2C32H33ONCl3Br (835.97)の計算値:C 45.97, H 3.98, N 1.68;測定値:C 46.03, H 4.01, N 1.65。
【0318】
2金属ルテニウム錯体3.d:暗橙色粉末として0.602g(68%)。1H-NMR (CDCl3) δ 19.50 (d, 1H), 8.36 (d, 1H), 8.31 (d, 1H), 8.10 (d, 2H), 7.76 (t, 1H), 7.71 (d, 1H), 7.43 (t, 2H), 7.15 (d, 1H), 7.11 (s, 1H), 7.07 (s, 1H), 5.49 (d, 1H), 5.36 (d, 1H), 5.21 (d, 1H), 5.11 (d, 1H), 2.86 (septet, 1H), 2.09 (s, 3H), 2.06 (s, 3H), 1.96 (d, 3H), 1.31 (d, 3H)および1.29 (d, 3H)。IR (cm-1) 3045 (νCH, w), 3031 (νCH, w), 2844-2963 (νCH3, br), 1597 (νC=N, s), 1576 (νC=C(Ph), w), 1541 (νNO2, s), 1517 (νC=C(Ph), w), 1458 (νC=C(Ph), w), 1440 (νC=C(Ph), w), 1389 (skel.iPr, m), 1369 (skel.iPr, m), 1322 (νNO2, S), 1044 (νRu-O-Ph, w), 995 (νskel.PCy3, w), 793 (γCH, w), 779 (γCH, w), 683 (νC-Br, S), 659 (νRu-N, w), 541 (νRu-O-Ph, w), 514 (νRu-O-Ph, w)および482 (νRu-Cl, w)。元素分析値(%):Ru2C32H32O3N2Cl3Br (880.95)の計算値:C 43.63, H 3.66, N 3.18;測定値:C 43.71, H 3.70, N 3.17。
【0319】
2金属ルテニウム錯体3.e:黄緑色粉末として0.597g(73%)。1H-NMR (CDCl3) δ 19.71 (d, 1H), 8.12 (d, 1H), 7.96 (d, 2H), 7.55 (t, 1H), 7.11-7.44(br m, 8H), 6.66 (t, 1H), 5.42 (d, 1H), 5.27 (d, 1H), 5.12 (d, 1H), 5.01 (d, 1H), 3.41 (septet, 1H), 2.81 (septet, 1H), 2.25 (septet, 1H), 2.01 (s, 3H), 1.67 (d, 3H), 1.29 (d, 3H), 1.26 (d, 3H), 1.21 (d, 3H)および0.82 (dd, 6H)。IR (cm-1) 3059 (νCH, w), 3040 (νCH, w), 2857-2961 (νCH3, br), 1607 (νC=N, s), 1586 (νC=C(Ph), w), 1527 (νC=C(Ph), w), 1469 (νC=C(Ph), w), 1445 (νC=C(Ph), w), 1383 (skel.iPr, m), 1364 (skel.iPr, m), 1070 (νRu-O-Ph, w), 1009 (νskel.PCy3, w), 806 (γCH, w), 794 (γCH, w), 688 (νRu-N, w), 564 (νRu-O-Ph, w), 537 (νRu-O-Ph, w)および508 (νRu-Cl, w)。元素分析値(%):Ru2C36H42ONCl3 (813.18)の計算値:C 53.17, H 5.21, N 1.72;測定値:C 53.23, H 5.24, N 1.74。
【0320】
2金属ルテニウム錯体3.f:橙色粉末として0.587g(68%)。1H-NMR (CDCl3) δ 19.81 (d, 1H), 8.32 (d, 1H), 8.22 (d, 1H), 8.16 (d, 1H), 7.34-7.98 (br m, 8H), 7.06 (d, 1H), 5.39 (d, 1H), 5.25 (d, 1H), 5.08 (d, 1H), 4.97 (d, 1H), 3.51 (septet, 1H), 2.77 (septet, 1H), 2.32 (septet, 1H), 1.98 (s, 3H), 1.74 (d, 3H), 1.34 (d, 3H), 1.20 (d, 3H), 1.16 (d, 3H)および0.88 (dd, 6H)。IR (cm-1) 3054 (νCH, w), 3037 (νCH, w), 2850-2965 (νCH3, br), 1602 (νC=N, s), 1582 (νC=C(Ph), w), 1550 (νNO2, s), 1528 (νC=C(Ph), w), 1464 (νC=C(Ph), w), 1444 (νC=C(Ph), w), 1387 (skel.iPr, m), 1366 (skel.iPr, m), 1331 (νNO2, s), 1100 (νRu-O-Ph, w), 1057 (νskel.PCy3, w), 798 (γCH, w), 785 (γCH, w), 678 (νRu-N, w), 557 (νRu-O-ph, w), 529 (νRu-O-Ph, w)および496 (νRu-Cl, w)。元素分析値(%):Ru2C36H41O3N2Cl3 (858.16)の計算値:C 50.38, H 4.82, N 3.26;測定値:C 50.44, H 4.85, N 3.25。
【0321】
[実施例25]−ジエチルジアリルアミノメチルホスホネートの調製−
ジエチルアリルアミノエチルホスホネート0.60g(2.9ミリモル)を乾燥ジエチルエーテル50mlに溶解し、次いで、トリエチルアミン1.17g(11.6ミリモル)を添加した。室温で15分間攪拌した後、アリルブロミド1.40gを滴下した。混合物を4日間還流した。水50mlを混合物に添加し、その後、50mlのCHClで3回抽出した。有機層を合わせ、MgSO上で乾燥した。MgSOを濾過し、溶媒を蒸発させ、得られた生成物を高真空蒸留により更に精製し、0.1mbarの低圧力下において、65℃の沸点を有するジエチルジアリルアミノメチルホスホネート0.6g(2.4ミリモル、84%収率)を得た。この生成物は、以下のスペクトルにより更に特性決定された。
【0322】
1H-NMR (270 MHz, CDCL3):シフト 1.32 (3H, t, J=7, 1 Hz, O-CH2-CH3), 1.33 (3H, t, J=6.9 Hz, O-CH2-CH3), 2.87 (2H, d, JP-H=10.9 Hz, N-CH2-P), 3.25 (4H, d, J=6.27 Hz, 2x N-CH2-CH=CH2), 4.14 (4H, m, 2x, O-CH2-CH3), 5.19 (4H, m, 2x N-CH2-CH=CH2)および5.83 (2H, m, 2x, N-CH2-CH=CH2);
13C-NMR (68 MHz, CDCl3):シフト 16.50 (d, Jp-c=4.8 Hz, 2x O-CH2-CH3), 48.19 (d, JP-C=163.6 Hz, N-CH2-P), 58.09 (d, JP-C=7.3 Hz, 2x N-CH2-CH=CH2), 61.90 (d, JP-C=3.6 Hz, 2x O-CH2-CH3), 118.17 (d, JP-C=2.5 Hz, 2x N-CH2-CH=CH2)および135.04 (2x N-CH2-CH=CH2);
31P-NMR (109 MHz, CDCl3) δ:26.01;
− 赤外分析:光吸収帯1260cm-1 (P=O)および1643cm-1 (C=C);
− 質量スペクトル分析:247 (M+, 3), 232 (M+ -15.7), 206 (30), 110 (M+-PO(OEt)2, 100), 81 (14), 68 (21)および41 (26)。
【0323】
[実施例26]−ジエチル1H−ピロール−1−イルメチルホスホネートの調製−
実施例25において調製したジエチルジアリルアミノメチルホスホネート0.1g(0.41ミリモル)をクロロベンゼン2mlに溶解し、次に、実施例24において調製した2金属ルテニウム錯体3.eを0.014g(0.02ミリモル)添加し、次いで、混合物を60℃で16時間攪拌した。クロロベンゼン蒸発後、カラムクロマトグラフィーにより触媒を除去し、ジエチル1H−ピロール−1−イルメチルホスホネート0.04g(0.18ミリモル、収率45%)を得た。この生成物は、以下のスペクトルにより更に特性決定がなされた。
【0324】
1H-NMR (270 MHz, CDCl3) δ:1.27 (6H, t, J=6.9 Hz, 2x O-CH2-CH3), 3.97-4.05 (4H, m, 2x O-CH2-CH3), 4.26 (2H, d, JP-H=9.6 Hz, N-CH2-P), 6.17 (2H, s, 2x N-CH=CH), 6.72 (2H, s, 2x N-CH=CH);
13C-NMR (68 MHz, CDCl3)δ:18.07 (d, JP-C=6.1 Hz, 2x O-CH2-CH3), 47.50 (d, JP-C=157.5 Hz, N-CH2-P), 64.48 (d, JP-C=6.1 Hz, 2x O-CH2-CH3), 110.69 (2x N-CH=CH), 123.54 (2x N-CH=CH);
31P-NMR (109 MHz, CDCl3) δ:19.72;
− 赤外分析:光吸収帯1244cm-1 (P=O)および1496cm-1 (C=C);
− 質量スペクトル分析:217 (M+, 57), 202 (M+ -15.17), 174 (13), 107 (29), 80 (M+-PO(OEt)2, 100)および53 (14)。
【0325】
[実施例27]−ジアリルグリシンメチルエステルの調製−
塩酸グリシンメチルエステル1.5g(11.9ミリモル)を、100mlの乾燥THFに添加し、次いで、トリエチルアミン3.61g(35.8ミリモル)を添加した。室温で15分間攪拌した後、アリルブロミド4.33g(35.8ミリモル)を滴下し、次いで、混合物を16時間還流した。2N塩酸100mlを添加し、次に、ジエチルエーテル100mlで抽出した。水相を、酸抽出後に、KCOでアルカリ化し、次いで、CHCl(100mlで3回)で抽出した。有機層をMgSO上で乾燥し、溶媒を蒸発させた後、生成物を更にカラムクロマトグラフィーで精製し、100%の選択性で0.78g(5.75ミリモル、収率49%)のジアリルグリシンメチルエステルを得た。この生成物は、以下のスペクトルにより更に特性決定がなされた。
【0326】
1H-NMR (270 MHz, CDCL3) δ:3.24 (4H, d, J=6.6 HZ, 2x N-CH2-CH=CH2), 3.32 (2H, s, N-CH2-COOMe), 3.69 (3H, s, COOCH3), 5.13-5.24 (4H, m, 2x CH2-CH=CH2), 5.86 (2H, ddt, J=17.2 Hz, J=10.2 Hz en J=6.6 Hz, CH-CH=CH2);
13C-NMR (68 MHz, CDCl3) δ:51.39 (N-CH2-COOMe), 53.71 (COOCH3), 57.27 (2x N-CH2-CH=CH2), 118.20 (2X CH2-CH=CH2), 135.42 (2x CH2-CH=CH2)および171.75 (COOMe);
− 赤外分析:光吸収帯1643cm-1 (CH=CH2)および1741cm-1 (C=O);
− 質量スペクトル分析:169 (M+ -41.25), 110 (M+-COOMe, 100)および41 (CH2=CH-CH2+, 28)。
【0327】
[実施例28]−メチル−1H−ピロール−1−イルアセテートの調製−
実施例27で調製したジアリルグリシンメチルエステル0.22g(1.3ミリモル)をクロロベンゼン3mlに溶解し、次いで、実施例24で調製した2金属ルテニウム錯体3.eを0.046g(0.064ミリモル)添加した。混合物を65℃で16時間攪拌した。クロロベンゼン蒸発後に、触媒をカラムクロマトグラフィーにより除去し、100%の選択性でメチル1H−ピロール−1−イルアセテート0.05g(0.36ミリモル、収率28%)を得た。この生成物は、以下のスペクトルにより更に特性決定がなされた。
【0328】
1H-NMR (270 MHz, CDCL3) δ:3.76 (3H, s, COOCH3), 4.56 (2H, s, N-CH2-COOMe), 6.21 (2H, T, J=1.98 Hz, 2x N-CH=CH)および6.67 (2H, t, J=1.98 Hz, 2x N-CH=CH);
13C-NMR (68 MHz, CDCl3) δ:50.68 (N-CH2-COOMe), 52.51 (COOCH3), 109.09 (2x N-CH=CH), 121.74 (2x N-CH=CH)および169.22 (COOMe);
− 赤外分析:光吸収帯1745cm-1 (C=O);
− 質量スペクトル分析:139 (M+, 63)および80 (M+-PO(OEt)2, 100)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(IC)及び(ID)
【化1】

(式中、
− Mは、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11、および12族からなる群より選択される遷移金属であり;
− Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’、およびSbR’’’’からなる群より選択され;
− R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アリール、およびヘテロアリールからなる群より選択されるか、あるいはR’’およびR’’’は、一緒になってアリールまたはヘテロアリール遊離基を形成し、該遊離基の各々は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの1個以上で置換されており;
− R’は、一般式(IC)を有する化合物中に含まれる場合は、R’’、R’’’およびR’’’’と同じに定義され、あるいは一般式(ID)を有する化合物中に含まれる場合は、C1−6アルキレンおよびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択されるものであり、該アルキレンまたはシクロアルキレン基は、所望により1個以上の置換基Rで置換されており、;
− Rは、アニオン性配位子であり;
− RおよびRは、各々、水素原子またはC1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、アリール、アリールオキシ、C1−20アルコキシカルボニル、C1−8アルキルチオ、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキルスルフィニル、C1−20アルキルスルホネート、アリールスルホネート、C1−20アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−20アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より選択される遊離基であり;
− R’とRおよびRの一方とは、相互に結合して2座の配位子を形成することができ;
− R’’’およびR’’’’は、相互に結合して、窒素、リン、砒素、およびアンチモンからなる群より選択されるヘテロ原子を含む脂肪族環系を形成することができ;
− RおよびRは、一緒になって縮合芳香族環系を形成することができ;
− yは、1〜3の整数であり;並びに
− R16は、中性電子供与体である。)
の1つを有する5配位金属錯体。
【請求項2】
一般式(IC)及び(ID)
【化2】

(式中、
− Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’、およびSbR’’’’からなる群より選択され;
− R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アリール、およびヘテロアリールからなる群より選択されるか、あるいはR’’およびR’’’は、一緒になってアリールまたはヘテロアリール遊離基を形成し、該遊離基の各々は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの1個以上で置換されており;
− R’は、一般式(IC)を有する化合物中に含まれる場合は、R’’、R’’’およびR’’’’と同じに定義され、あるいは一般式(ID)を有する化合物中に含まれる場合は、C1−6アルキレンおよびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択されるものであり、該アルキレンまたはシクロアルキレン基は、所望により1個以上の置換基Rで置換されており、;
− Rは、アニオン性配位子であり;
− RおよびRは、各々、水素原子またはC1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、アリール、アリールオキシ、C1−20アルコキシカルボニル、C1−8アルキルチオ、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキルスルフィニル、C1−20アルキルスルホネート、アリールスルホネート、C1−20アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−20アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より選択される遊離基であり;
− R’とRおよびRの一方とは、相互に結合して2座の配位子を形成することができ;
− R’’’およびR’’’’は、相互に結合して、窒素、リン、砒素、およびアンチモンからなる群より選択されるヘテロ原子を含む脂肪族環系を形成することができ;
− RおよびRは、一緒になって縮合芳香族環系を形成することができ;
− Mは、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、ロジウム、バナジウム、亜鉛、金、銀、コバルト、パラジウム、白金、及びニッケルからなる群より選択される金属であり;
− yは、0であり;並びに
− R16は、中性電子供与体である。)
の1つを有する5配位金属錯体。
【請求項3】
一般式(IC)及び(ID)
【化3】

(式中、
− Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’、およびSbR’’’’からなる群より選択され;
− R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アリール、およびヘテロアリールからなる群より選択されるか、あるいはR’’およびR’’’は、一緒になってアリールまたはヘテロアリール遊離基を形成し、該遊離基の各々は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの1個以上で置換されており;
− R’は、一般式(IC)を有する化合物中に含まれる場合は、R’’、R’’’およびR’’’’と同じに定義され、あるいは一般式(ID)を有する化合物中に含まれる場合は、C1−6アルキレンおよびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択されるものであり、該アルキレンまたはシクロアルキレン基は、所望により1個以上の置換基Rで置換されており、;
− Rは、アニオン性配位子であり;
− Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり;
− yは、0であり;
− R16は、中性電子供与体であり;並びに
− R及びRは、一緒になって縮合芳香族環系を形成している。)
の1つを有する5配位金属錯体。
【請求項4】
16が、15未満のPKを有する請求項1乃至3の何れか1項に記載の5配位金属錯体。
【請求項5】
16が、式PR171819(式中、R17、R18及びR19は、各々独立に、C1−10アルキル、C3−8シクロアルキル、及びアリールからなる群より選ばれる。)のホスフィンである請求項1乃至4の何れか1項に記載の5配位金属錯体。
【請求項6】
下記構造式
【化4】

(式中、Rは、水素原子であり、Rは、フェニル基である。)
で表わされる請求項1記載の5配位金属錯体。
【請求項7】
下記構造式
【化5】

(式中、Rは、ニトロ基であり、Rは、フェニル基である。)
で表わされる請求項1記載の5配位金属錯体。
【請求項8】
下記構造式
【化6】

(式中、Rは、水素原子であり、Rは、t−ブチル基である。)
で表わされる請求項1記載の5配位金属錯体。
【請求項9】
下記構造式
【化7】

(式中、Rは、ニトロ基であり、Rは、t−ブチル基である。)
で表わされる請求項1記載の5配位金属錯体。
【請求項10】
が、C1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、アリール、アリールオキシ、C1−20アルコキシカルボニル、C1−8アルキルチオ、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキルスルフィニル、C1−20アルキルスルホネート、アリールスルホネート、C1−20アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−20アルキルアンモニウム、アリールアンモニウム、ハロゲン、及びシアノからなる群より選択される請求項1乃至5の何れか1項に記載の5配位金属錯体。
【請求項11】
が、クロロである請求項1乃至5の何れか1項に記載の5配位金属錯体。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れかに記載の5配位金属錯体のATRAまたはビニル化反応用触媒系における触媒成分としての使用。
【請求項13】
一般式(IA)及び(IB)
【化8】

(式中、
− Mは、周期表の4、5、6、7、8、9、10、11、および12族からなる群より選択される遷移金属であり;
− Zは、酸素、イオウ、セレン、NR’’’’、PR’’’’、AsR’’’’、およびSbR’’’’からなる群より選択され;
− R’’、R’’’およびR’’’’は、各々、水素原子、C1−6アルキル、C3−8シクロアルキル、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アリール、およびヘテロアリールからなる群より選択されるか、あるいはR’’およびR’’’は、一緒になってアリールまたはヘテロアリール遊離基を形成し、該遊離基の各々は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−6アルキル−C1−6アルコキシシリル、C1−6アルキル−アリールオキシシリル、C1−6アルキル−C3−10シクロアルコキシシリル、アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より各々独立して選択される置換基Rの1個以上で置換されており;
− R’は、一般式(IA)を有する化合物中に含まれる場合は、R’’、R’’’およびR’’’’と同じに定義され、あるいは一般式(IB)を有する化合物中に含まれる場合は、C1−6アルキレンおよびC3−8シクロアルキレンからなる群より選択されるものであり、該アルキレンまたはシクロアルキレン基は、所望により1個以上の置換基Rで置換されており、;
− Rは、約15以上のPKを有する拘束立体障害配位子であり;
− Rは、アニオン性配位子であり;
− RおよびRは、各々、水素原子またはC1−20アルキル、C2−20アルケニル、C2−20アルキニル、C1−20カルボキシレート、C1−20アルコキシ、C2−20アルケニルオキシ、C2−20アルキニルオキシ、アリール、アリールオキシ、C1−20アルコキシカルボニル、C1−8アルキルチオ、C1−20アルキルスルホニル、C1−20アルキルスルフィニル、C1−20アルキルスルホネート、アリールスルホネート、C1−20アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C1−20アルキルアンモニウム、およびアリールアンモニウムからなる群より選択される遊離基であり;
− R’とRおよびRの一方とは、相互に結合して2座の配位子を形成することができ;
− R’’’およびR’’’’は、相互に結合して、窒素、リン、砒素、およびアンチモンからなる群より選択されるヘテロ原子を含む脂肪族環系を形成することができ;
− RおよびRは、一緒になって縮合芳香族環系を形成することができ;並びに
− yは、0〜3の整数である。)
の1つを有する5配位金属錯体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−77128(P2010−77128A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−218735(P2009−218735)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2003−562130(P2003−562130)の分割
【原出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(508214547)テレーヌ ソシエテ パル アクシオン サンプリフィエー (3)
【Fターム(参考)】