説明

メタノール製造装置及びメタノール製造方法

【課題】二酸化炭素と水素を含むガスを原料ガスとするメタノール合成であって、ある温度及び圧力下における平衡転化率を超えてメタノール転化率を十分に高めることができ、反応生成物であるメタノールと水を分離するためのメタノール蒸留工程が要らず、以てコストダウンを図ることができるメタノール製造装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、水素と二酸化炭素を含む原料ガスを反応器1内で触媒及び有機溶媒の存在下で反応させてメタノールを製造するものであって、反応器1は反応生成物の一方のメタノールは気体となり、副生する他方の水は液体となる反応条件で反応させるように構成され、該反応器内から前記副生した水を含む液相を一部抜き出して、該液相を、水と、有機溶媒に富む相に分離する分離器11を備え、前記有機溶媒に富む相を前記反応器に戻して循環するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と二酸化炭素を含む原料ガスを触媒の存在下で反応させてメタノールを製造するメタノール製造装置及びメタノール製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタノールの合成方法として、一般に水素と一酸化炭素および/または二酸化炭素から成る原料ガスを、所定の反応条件下で触媒反応させる接触水素化法が知られている。これらの合成法には気相合成法と液相合成法がある。これらの反応式は以下の通りである。

CO +2H=CHOH (1)
CO+3H=CHOH
+ HO (2)

水素と二酸化炭素を含む原料ガスを用いる場合、上記(2)式に示したように、メタノールと等モルの水が生成する。この水は触媒を劣化させる問題がある。
【0003】
また、上記(2)式は発熱反応で、モル数減少型平衡反応である。したがって、化学平衡上、低温高圧条件ほどメタノール合成に有利な反応である。
【0004】
メタノールの平衡転化率は上記(2)式の熱力学的平衡定数によって決定され、例えば250℃、5MPaの条件下で21%と低い値である。反応圧力を例えば15MPaに高めると平衡転化率は40%まで改善されるが、原料ガスの圧縮動力が大きくなってしまう。したがって、水素と二酸化炭素を含む原料ガスを用いたメタノール合成反応において、化学平衡の制約から解放されない限り、高いワンパス転化率を得ることはできない。化学平衡の制約から解放するには、化学平衡を生成側にシフトさせる必要があり、これまで、以下のような方法が検討されている。
【0005】
(A)メタノール水溶液をほとんど溶解しないドデカン等を反応溶媒とし、反応容器から反応溶媒とメタノール水溶液を連続的に系外に排出する液相合成法が、特公平7−47554号公報(特許文献1)又は特開平9−227423号公報(特許文献2)に記載されている。
前者の公報には、原料ガスからメタノールを製造する際に、反応器内におけるメタノール及び水の少なくとも一部が液体として存在するのに十分な高圧力下で反応させ、反応生成物であるメタノールと水をメタノール水溶液として分離除去して反応器外に排出すると記載されている。
【0006】
(B)原料ガスと反応生成物(メタノールと水)を高分子膜で合成しながら分離するメタノール製造方法が、特表平9−511509号公報(特許文献3)に記載されている。
ここで、高分子膜は反応生成物であるメタノール及び/又は水を分離する旨が記載されている。しかし、具体的に開示されている高分子膜は過フッ化陽イオン交換膜等の過フッ化イオノマーからなる膜だけであり、該膜はメタノールと水を一緒に未反応ガスから分離するものである。同公報の明細書には水だけを分離除去する高分子膜については具体的には全く記載されていない。
更に、合成反応を行う前に、塩化リチウム溶液を高分子膜に接触させることによって、リチウムイオンを該膜にドープして一方の面は化学物質に対して安定性を備え、他方の面は約250℃までの良好な温度安定性を有すると記載されている。すなわち、ここで開示されている高分子膜は、合成反応に用いる前に、リチウムイオンをドープさせる前処理が必要なものである。
【0007】
【特許文献1】特公平7−47554号公報
【特許文献2】特開平9−227423号公報
【特許文献3】特表平9−511509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(A)の特公平7−47554号公報等に記載されたメタノール合成法では、反応器から取り出した液相を有機溶媒とアルコール水溶液に分離するために温度を下げて行っており、そのため分離した有機溶媒を再循環して反応器に戻す前に再加熱して反応温度まで高める必要がある。更に、反応生成物がメタノール水溶液として分離されるので、メタノールと水を分離するためにメタノールの蒸留工程が更に必要となる。このため前記再加熱や蒸留のためのエネルギーがかかりコストダウンの妨げとなっていた。
【0009】
上記(B)の特表平9−511509号公報に記載されたメタノール合成法は、原料ガスからメタノールを合成しながら高分子膜によって反応生成物を反応系外に分離除去するので、平衡反応はメタノール生成側にシフトし、前記メタノール転化率を高めることができる。しかし、具体的な開示内容によれば、反応生成物のメタノールと水を一緒に未反応ガスから分離する方法である。従って、メタノールと水を分離するためにメタノールの蒸留工程が更に必要となり、蒸留のためのエネルギーがかかりコストダウンの妨げとなる問題がある。
【0010】
また、ここに記載されている高分子膜は、上記の如く合成反応に用いる前にリチウムイオンをドープさせる前処理が必要なものであるので、前処理工程に伴うコストアップと共に、このような前処理を施しても高分子膜自体の耐熱性及び耐久性は不十分なものであった。
【0011】
本発明の目的は、二酸化炭素と水素を含むガスを原料ガスとするメタノール合成であって、ある温度及び圧力下における平衡転化率を超えてメタノール転化率を十分に高めることができ、反応生成物であるメタノールと水を分離するためのメタノール蒸留工程が要らず、以てコストダウンを図ることができるメタノール製造装置及びメタノール製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係るメタノール製造装置は、水素と二酸化炭素を含む原料ガスを反応器内で触媒及び有機溶媒の存在下で反応させてメタノールを製造するメタノール製造装置であって、前記反応器は、反応生成物の一方のメタノールは気体となり、副生する他方の水は液体となる反応条件で反応させるように構成され、該反応器内から前記副生した水を含む液相を一部抜き出して、該液相を、水と、有機溶媒に富む相に分離する分離器を備え、前記有機溶媒に富む相を前記反応器に戻して循環するように構成されていることを特徴とするものである。
ここで、有機溶媒に富む相とは、メタノール合成反応で副生した水が混ざっている水・有機溶媒混合状態の液相が分離器による分離処理が行われて、該分離処理前よりも水の割合が減少して有機溶媒の割合が増えた状態の液相を言う。すなわち、反応器内の液相より有機溶媒の割合が多く、水の割合が少ない状態に分離器で分離処理された液相を意味する。
【0013】
本発明によれば、反応生成物であるメタノールは生成と同時に気体となって反応液相から分離し、副生する水は液体となって反応液相中に留まる。そして、分離器によって水と分離された有機溶媒に富む相が連続的に反応器に戻されるので、平衡反応はメタノール生成側にシフトし、メタノール転化率を高めることができる。
【0014】
また、合成反応と同時にメタノールと水を分離することができるので、メタノール蒸留工程が不要となり、その蒸留に必要なエネルギーを大幅に削減できることに加えて、共沸蒸留に必要な第3成分も不要となり、以て大幅なコストダウンを図ることができる。
【0015】
また、本発明の第2の態様に係るメタノール製造装置は、第1の態様において、前記分離器は前記反応器に設定される反応温度と反応圧力の少なくとも一方をほぼ同じ条件にして分離を実行するように構成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、当該分離器において、反応器に設定されている反応温度や反応圧力と同じ温度、圧力で分離が行われるので、分離後の有機溶媒に富んだ相を前記反応器に戻して再循環させるに際し、再加熱したりする必要がなく、ほとんどそのまま戻すことができる。したがって、溶媒再循環のための補助加熱手段等が不要となり、装置全体としてのコストダウンを図ることができる。
【0017】
本発明の第3の態様に係るメタノール製造方法は、水素と二酸化炭素を含む原料ガスを反応器内で触媒及び有機溶媒の存在下で反応させてメタノールを製造する方法であって、前記反応器にて反応生成物の一方のメタノールは気体となり、副生する他方の水は液体となる反応条件で反応させ、該反応器内から前記副生した水を含む液相を一部抜き出して、分離器により、該液相を、水と、有機溶媒に富む相に分離し、該有機溶媒に富む相を前記反応器に戻して循環させることを特徴とするものである。本発明によれば、第1の態様と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、二酸化炭素と水素を含むガスを原料ガスとするメタノール合成であって、ある温度及び圧力下における平衡転化率を超えてメタノール転化率を十分に高めることができ、反応生成物であるメタノールと水を分離するためのメタノール蒸留工程が要らず、以てコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明に係るメタノール製造装置の一実施の形態について詳細に説明する。図1は本実施の形態に係るメタノール製造装置を示す概略構成図である。
【0020】
図1に示したように、本実施の形態に係るメタノール製造装置の反応器1は、水素と二酸化炭素を含む原料ガス15を反応器1内で触媒及び有機溶媒を含んだ反応液相2の中で反応させてメタノールを製造するものである。反応器1は、反応生成物の一方のメタノールは気体となり、副生する他方の水は液体となる反応条件で反応させるように構成されている。
この反応条件は、反応温度を100℃〜220℃、反応圧力を2MPa〜7MPaとすることで実現され、図示しない温度調整手段および圧力可変手段によって維持される。尚、望ましい反応条件は反応温度が150℃〜170℃、反応圧力が3MPa〜5MPaである。
【0021】
そして、分離器11により反応器1内から前記副生した水を含む液相2を一部抜き出して、該液相2を、水と、有機溶媒に富む相に分離すると共に、該有機溶媒に富む相を循環ライン13を通って前記反応器1に連続的に戻すように構成されている。
【0022】
反応器1内の液相2は、触媒として公知のCu/ZnOを含有する化合物が用いられ、その大きさや形状は反応器1の構成や方式により適宜設定される。また有機溶媒としては、反応条件下で液相を示し、反応温度と同じ温度で水と液液分離できるものが選択でき、デカン、ドデカン等の飽和炭化水素類、1−ヘプタノール、1−オクタノール等のアルコール類等が挙げられる。また複数の種類の有機溶媒を合わせて使用することもできる。
【0023】
このような構成における本実施の形態に係る装置の更に具体的な構造と動作原理および作用について以下に説明する。原料ガス15はコンプレッサー3、予備加熱器4を介して反応器1の下方から供給される。原料ガス15は反応液相2中で触媒と接触し、通過しながら反応し、メタノールと水が生成される。ここで、メタノールは気体状態で生成され、一方水は液体状態で副生される。ここで、水は水蒸気も含む意味で用いられている。尚、図示しない攪拌機で反応液相2を撹拌しても良い。
【0024】
生成したメタノールと未反応ガスは、反応器1のトップ位置に設けられた気相排出ライン5から排出される。気相排出ライン5には、有機溶媒と水がメタノール及び未反応ガスと一緒に排出されないように冷却器6が設けられ、冷却器6で冷却され、凝縮された有機溶媒と水は反応器1内に戻りライン16を通って戻されるようになっている。その後メタノールと未反応ガスは、コンデンサー7を介して気液分離器8に送られ、メタノールと未反応ガスに分離される。未反応ガスは必要に応じてその一部がパージガスとして除かれ、コンプレッサー9を介して原料ガス15の供給流路に戻される。
【0025】
一方、副生した水を含んだ反応液相2は反応器1から一部を液相取り出しライン10を通って連続的に取り出される。反応器1より取り出された液相2は、反応器1の反応温度と同じ温度と圧力で液液分離器11に供給され、そこで水と、有機溶媒に富む相に分離され、水は水ライン12から系外に排出され、有機溶媒に富む溶媒相は循環ライン13から循環ポンプ14を介して、反応器1内へ再循環される。尚、このように反応器1から反応液相2の一部を取り出すことにより、反応液相2が吸収した反応熱も一部外部に取り出したことになり、反応熱を反応系から減少させることも同時にできる効果がある。
【0026】
反応器1には、その周囲を囲う冷却室17が設けられ、該冷却室17は冷却熱媒体供給口18と冷却熱媒体排出口19を有する。本発明は液相反応であるのでメタノール合成反応における反応熱を効率よく反応液相2で除くことができる。この反応熱を当該冷却室17を設けたことで反応液相2から除くことができる。冷却室17で回収した熱はたとえば熱交換器などで利用することができる。
【0027】
以上説明したように、反応生成物であるメタノールは気体として生成させてそのまま系外に除き、一方、副生する水は液体として反応液相中に留め、後段の分離器に一部を取り出して水と、有機溶媒に富む相に分離し、該有機溶媒に富む相を再び反応器内に戻すので、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノール合成反応を継続させることができる。その結果、メタノール合成反応が促進され、化学平衡に制約されない高い反応転化率を得ることが可能となる。そして、平衡転化率を上回るワンパス転化率を得ることができるので、未反応ガス量を低減でき、ガス循環動力を小容量のものにすることができる。
【0028】
さらに後段の液液分離器による分離を、反応器の反応条件と同じ温度と圧力で行うことにより、分離された有機溶媒に富む相の再循環のための補助熱量を削減できる効果が得られる。さらに、メタノール、有機溶媒、水に関連した従来の複雑な分離、蒸留工程を省略できるので、必要なエネルギーを大幅に削減することができる。さらに、メタノール合成の反応熱は反応液相を一部取り出しての前記分離処理により反応系外(反応器外)へ効率的に除去することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。以下の実施例は図1に示したメタノール製造装置のベンチテスト級実験装置を用いた結果を示す。
【0030】
コンプレッサー3へ原料ガス15(組成 CO:25体積%、H:75体積%)を流量168NL/hで供給した。この原料ガスはコンプレッサー9から送られる未反応ガス(流量89.2NL/h)と合流し、反応器1へ供給される。反応器1には有機溶媒として1−オクタノール1.6L、触媒Cu/ZnO/Alを320g入れ、温度170℃、圧力3MPaの反応条件で反応させた。
【0031】
液相取り出しライン10から水9.3重量%を含む1−オクタノール溶液が1.6L/hで液液分離器11へ供給される。この条件において水ライン12からは46.1g/hの水が回収された。
【0032】
反応器1からは気相側にメタノールなどが蒸発する。そのガスは冷却器6、コンデンサー7で一部が凝縮され、反応器1に戻りライン16を通って戻される。冷却器6の温度を110℃に保つことによって、気液器分離器8からメタノール86.0重量%、水14.0重量%の液が132g/hで回収された。気液分離器8で分離された未反応ガスは、コンプレッサー9を通して原料ガス15と合流する。このときのワンパスのメタノール転化率は61.9%となった。従来の気相反応の反応装置では170℃、3MPaの反応条件におけるメタノールの平衡反応率33.1%を越えることはないが、この図1の構成の装置によってその平衡転化率を超える61.9%のメタノール転化率を達成できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、水素と二酸化炭素を含む原料ガスを触媒の存在下で反応させてメタノールを製造するメタノール製造装置及びメタノール製造方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施の形態に係るメタノール製造装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1:反応器 2:反応液相 3:コンプレッサー
4:予備加熱器 5:気相排出ライン 6:冷却器 7:コンデンサー
8:気液分離器 9:コンプレッサー 10:液相取り出しライン
11:液液分離器 12:水ライン 13:循環ライン 14:循環ポンプ
15:原料ガス 16:戻りライン 17:冷却室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と二酸化炭素を含む原料ガスを反応器内で触媒及び有機溶媒の存在下で反応させてメタノールを製造するメタノール製造装置であって、
前記反応器は、反応生成物の一方のメタノールは気体となり、副生する他方の水は液体となる反応条件で反応させるように構成され、
該反応器内から前記副生した水を含む液相を一部抜き出して、該液相を、水と、有機溶媒に富む相に分離する分離器を備え、
前記有機溶媒に富む相を前記反応器に戻して循環するように構成されていることを特徴とするメタノール製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記分離器は前記反応器に設定される反応温度と反応圧力の少なくとも一方をほぼ同じ条件にして分離を実行するように構成されていることを特徴とするメタノール製造装置。
【請求項3】
水素と二酸化炭素を含む原料ガスを反応器内で触媒及び有機溶媒の存在下で反応させてメタノールを製造する方法であって、
前記反応器にて反応生成物の一方のメタノールは気体となり、副生する他方の水は液体となる反応条件で反応させ、
該反応器内から前記副生した水を含む液相を一部抜き出して、分離器により、該液相を、水と、有機溶媒に富む相に分離し、該有機溶媒に富む相を前記反応器に戻して循環させることを特徴とするメタノール製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−55973(P2007−55973A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245939(P2005−245939)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】