説明

メタノール酸化触媒およびその製造方法

【課題】高活性なメタノール酸化触媒を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有するメタノール酸化触媒である。M元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークと金属結合によるピークとを示し、前記酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の2倍以下であることを特徴とする。
PtxzTau (1)
(前記一般式(1)中、M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。xは40〜98at.%、zは1.5〜55at.%、uは0.5〜40at.%である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール酸化触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池、特にメタノール水溶液を燃料とした固体高分子型燃料電池は、電極の触媒反応によって化学エネルギーを電力に変換するため、高性能な燃料電池の開発には高活性な触媒が不可欠である。
【0003】
電極の触媒反応により得られる理論電圧1.21Vであるのに対し、PtRu触媒による電圧ロスが約0.3Vあり、PtRuを越える高活性(メタノール酸化活性)のアノード触媒が求められている。一方、現有のPtRuアノード触媒にはRuの溶出による問題があり、Ru−フリ組成の高活性メタノール酸化触媒が求められる。
【0004】
これまでに、種々の組成系のメタノール酸化触媒が検討されている。例えばタングステン、タンタル、ニオブなどの金属の添加効果が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、スパッタプロセスが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)が、低Ru添加量またはRu−フリ組成に関する報告が少ない。
【0005】
触媒はナノ粒子であるため、触媒粒子の表面電子状態、粒子のナノ構造は添加元素の種類、添加量に強く依存する。高活性と高安定性を得るには、添加元素の種類、添加量、元素間の組み合わせを適切化する必要がある。これまで触媒組成、プロセスの検討はまだ不十分であり、十分なメタノール酸化活性を持つ高安定性な触媒は未だ確立されていない。
【特許文献1】米国特許公報3,506,494号
【特許文献2】特開2004−281177号公報
【特許文献3】特開2006−179445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高活性なメタノール酸化触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかるメタノール酸化触媒は、下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、M元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークと金属結合によるピークとを示し、前記酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の2倍以下であることを特徴とする。
【0008】
PtxzTau (1)
(前記一般式(1)中、M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。xは40〜98at.%、zは1.5〜55at.%、uは0.5〜40at.%である。)
本発明の一態様にかかるメタノール酸化触媒の製造方法は、前記微粒子を担持する導電性担体をさらに具備するメタノール酸化触媒の製造方法であって、導電性担体を400℃以下に保持する工程と、前記導電性担体上に、スパッタリング法または蒸着法により構成金属元素を付着させて前記微粒子を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高活性なメタノール酸化触媒およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、触媒合成プロセスと触媒組成との関係について鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。すなわち、下記式(1)で表わされる組成を有する微粒子において、M元素およびTaからなる助触媒元素と、Ptからなる主触媒元素との間の結合を金属結合とすることによって、高活性な触媒が得られる。こうした金属結合は、例えば、400℃以下の温度に保持した導電性担体にスパッタ法または蒸着法を用いて、M元素をPtに含有させることによって、形成することができる。
【0011】
PtxzTau (1)
M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。xは40〜98at.%、zは1.5〜55at.%、uは0.5〜40at.%である。
【0012】
Ptは主要触媒元素である。Ptは水素の酸化、有機燃料の脱水素反応に極めて有効である。よって、xは、40〜98at.%に規定される。Ptの一部が他の金属で置換された場合には、活性をさらに高めることができる。化学安定性に特に優れているため、Rh,Os,Ir,Pd,Ag,およびAu等の貴金属が望ましい。
【0013】
M元素およびTaは、助触媒である。M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。こうしたM元素およびTaが、Ptに添加された本発明の実施形態にかかる触媒は、高い安定性および高い活性を示す。各元素の特定の混合状態に起因した触媒の表面構造、電子状態が主因となって、安定性および活性が高められるものと推測される。特に、M元素とPtとの金属結合の存在、Taと酸素との酸素結合の存在が、安定性および活性の向上に寄与していると考えた。
【0014】
酸素結合を有するTaは、触媒粒子内部に存在するのは困難である。このため、酸素結合を有するTaは触媒の表面に存在して、高安定性と高活性に貢献したものと推測される。M元素においては、金属結合状態のほか、酸素結合状態でも存在することが多い。表面部分にもM元素が存在すると推測される。高活性を得るため、XPSスペクトルに示されるM元素の酸素結合によるピークの面積は、M元素の金属結合によるピークの面積の2倍以下であることが望ましい。
【0015】
例えば溶液法により、触媒粒子を合成した場合には、V、W,NiおよびMoなどの還元反応が生じ難く、こうした元素と主要触媒元素(Pt)との合金化が進行し難い。したがって、得られる触媒粒子の大部分は、Pt微粒子とM元素の酸化物微粒子との混合物である。溶液法により合成された触媒粒子をX線光電子分光法(XPS)によって表面分析を行なったところ、M元素の結合のほとんどは、酸素結合であった。
【0016】
XPS測定により検出できる光電子(信号)は、試料表面近傍数nm程度の深さまでのものに限定される。このため、本発明の実施形態の触媒粒子においては、表面から数nm以内の領域に金属状態としてのM元素が存在していると考えられる。M元素単独からなる金属ナノ粒子は、大気中に安定に存在することができない。これらを考慮すると、本発明の実施形態の触媒には、M元素とPtとの合金粒子が存在しているものと判断される。
【0017】
なお、XPS測定が検出した全信号強度のうちで、表面に近い部分が占める割合は極めて大きい。このため、触媒微粒子の表面に酸化層が形成された場合は、XPSスペクトルにおけるM元素の酸化結合によるピーク面積(信号)は金属結合によるピーク面積より高い可能性は大きい。したがって、高安定性と高活性とを備えた触媒を得るには、触媒の組成および製造プロセスを最適にして、PtとM元素、Taとの特定な混合状態を形成することが必要である。
【0018】
M元素の含有量zは、1.5〜55at.%に規定される。1.5at.%未満の場合には、M元素の助触媒作用が低い。一方、55at.%を越えて多量にM元素が含有されると、Pt原子が構成する主要活性サイトの数が相対的に減少して、触媒活性が低下する。M元素の含有量zは、5〜40at.%がより好ましい。
【0019】
Taの含有量uは、0.5〜40at.%に規定される。0.5at.%未満の場合には、Taの助触媒作用が低い。一方、40at.%を越えて超える多量のTaを含有させると、Pt原子が構成する主要活性サイトの数が減少して、触媒活性が低下する。Taの含有量uは、1〜15at.%がより好ましい。
【0020】
M元素の一部は、A元素により置換されてもよい。これによって、メタノール酸化活性をさらに高めることができる。A元素は、Sn,Hf,Ti,Cr,Al,Si,NbおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種である。A元素の置換量はM元素の0.5〜80%であることが好ましい。80%を越えると、触媒活性が低下するおそれがある。こうした触媒の組成は、下記式(2)で表わすことができる。
【0021】
Ptx(M1-ttzTau (2)
M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種であり、A元素は、Sn,Hf,Ti,Cr,Al,Si,NbおよびZrからなる群から選ばれる少なくとも一種である。xは40〜98at.%、zは2〜30at.%、uは0.5〜40at.%、tは0〜80%である。ここで、tはM元素に対するA元素の置換量を表わしている。全体に対するA元素の含有量(at.%)は、0〜45at.%となる。
【0022】
上記式(2)で表わされる組成を有する触媒においては、M元素は、金属結合状態のほか、酸素結合状態でも存在することが多い。高活性を得るため、XPSスペクトルに示されるM元素の酸素結合によるピークの面積は、M元素の金属結合によるピークの面積の2倍以下であることが望ましい。
【0023】
高安定性と高活性とを備えた触媒を得るには、触媒の組成および製造プロセスを最適にして、特定な触媒ナノ粒子構造と特定な混合電子状態を形成することが必要である。A元素の助触媒作用を十分に発揮させるためには、M元素に対するA元素の置換量tは、0〜60%がより好ましい。
【0024】
上述したような構成金属元素に加えて、本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒には、酸素が含有されてもよい。すでに説明したように、本発明の実施形態の触媒は、表面に酸化層が形成される可能性が高く、この酸化層は触媒の高活性および高安定性に寄与した可能性も高い。25at.%以下の酸素含有量であれば、触媒活性が著しく低下することがない。
【0025】
また、本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒には、例えばMn,Fe,Co,Cu,およびZnからなる群から選択される少なくとも一種が添加されてもよい。この場合には、活性をさらに高めることができ、1〜20at.%の量で含有されることが望ましい。
【0026】
なお、P,S,Clなどの不純物元素の含有量は、0.1at.%以下である。不純物元素は、触媒または膜電極複合体の作製、処理プロセス中に混入する可能性があるが、0.1at.%以下の含有量では特性劣化が少ない。このように、本発明の実施形態にかかる触媒の表面構造は、高い許容力を有するものと考えられる。
【0027】
本発明の実施形態にかかる触媒粒子は、ナノ微粒子であることが好ましい。この場合には、最も高い活性が得られる。微粒子の平均粒径は、10nm以下であることが望ましい。10nmを越えると、触媒の活性効率が著しく低下するおそれがある。さらに好ましい範囲は、0.5〜10nmである。0.5nm未満の場合には、触媒合成プロセスの制御が困難で、触媒合成コストが高くなる。触媒粒子としては、平均粒径が10nm以下の微粒子を単独で使用してもよいが、この微粒子からなる一次粒子の凝集体(二次粒子)を使用することもできる。また、導電性担体に担持させてもよい。
【0028】
図1に示すように、導電性担体としてのカーボン粒子2に触媒粒子(Pt−M−Ta触媒粒子)3を担持させて、カーボン担持触媒1を構成することができる。あるいは、図2に示すように、導電性担体としてのカーボンナノファイバー5に触媒粒子3を担持させて、カーボン担持触媒4を構成してもよい。図3には、カーボン粒子にされた触媒粒子により構成される触媒層のTEM写真を示す。導電性担体としては、例えばカーボンブラックを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、導電性および安定性に優れる任意の担体を使用することができる。
【0029】
導電性担体として、ナノカーボン材料、例えば、ファイバー状、チューブ状、コイル状などが開発されており、こうした担体は表面状態が異なる。本発明の実施形態にかかる触媒粒子は、これらに担持させることによって活性がさらに高められる。カーボン材料の他、導電性のセラミックス材料を担体として用いることもできる。この場合には。セラミックス担体と触媒粒子とのさらなる相乗効果が期待できる。
【0030】
本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒は、例えば、スパッタ法、蒸着法によって作製することができる。これらの方法は、含浸法、沈殿法およびコロイド法などの溶液法と比較して、金属結合を有する触媒を作製しやすいことが、本発明者らによって見出された。溶液法は、コストが高いのみならず、所望の結合状態を得ることが困難である。スパッタリング法または蒸着法には、合金ターゲットを用いることができる。あるいは、構成元素のそれぞれの金属ターゲットを用いて、同時スパッタリングまたは同時蒸着を行なってもよい。
【0031】
スパッタリング法を採用するに当たっては、まず、粒子状または繊維状の導電性担体を十分に分散させる。次に、分散した担体をスパッタ装置のチャンパーにあるホルダに収容し、攪拌しながらスパッタリングを行なって、触媒の構成金属を担体に付着させる。ここで攪拌を行なうことによって、触媒を均一に付着させることができる。スパッタリング中の担体温度は、400℃以下が望ましい。400℃を越えると、触媒粒子に相分離が生じて触媒活性が不安定になる場合がある。担体の冷却に必要なコストを削減するため、担体温度の下限値は10℃が望まれる。担体温度は、熱電対により測定することができる。
【0032】
触媒粒子がスパッタされる導電性担体として、導電性カーボン繊維を含む多孔質ペーパー、電極拡散層または電解質膜を用いることもできる。この場合は、プロセスの調整によって、触媒をナノ微粒子の状態で形成させることが必要である。上述と同様の理由から、多孔質ペーパー温度は400℃以下が望ましい。
【0033】
スパッタリング法または蒸着法により触媒粒子を形成した後には、酸洗い処理またはアルカリ処理または熱処理を施すことによって、活性をさらに高めることができる。こうした処理によって、触媒構造または表面構造がさらに適切な状態になると考えられる。
【0034】
酸洗い処理には、酸の水溶液を用いることができ、例えば硫酸水溶液が挙げられる。アルカリ処理には、アルカリの水溶液を用いることができる。熱処理によって、触媒構造または表面構造をさらに適切な状態とすることもできる。後熱処理については、10〜400℃以下、酸素分圧が5%未満の雰囲気中で処理するのが望ましい。
【0035】
微粒子の形成が促進されるため、カーボンなど他の材料を構成金属元素と同時に導電性担体に付着させてもよい。さらには、溶解性のよい金属、例えば、Cu,Zn、Niなどと構成金属元素とを同時にスパッタまたは蒸着し、その後酸洗いなどによってCu,Zn、Niなどを取り除くことも可能である。
【0036】
図4乃至図11を参照して、本発明の実施形態にかかるメタノール触媒を用いた積層型電極の製造方法を説明する。まず、図4に示すようにカーボンペーパー7を用意し、スパッタリング法により、図5に示すように表面にNi粒子8を付着させる。次に、例えば、C24/H2、400〜700℃の条件で、図6に示すようにカーボンナノファイバー(CNF)層9を合成する。
【0037】
CNF層9には、スパッタリング法により、図7に示すようにRt粒子10を担持させた後、カーボンとニッケルとを同時スパッタして、図8に示すようにカーボン粒子11とNi粒子8とを担持させる。この工程を繰り返して、図9に示すように、Rt粒子10、カーボン粒子11、およびNi粒子8をさらに積層する。
【0038】
2SO4により処理して、図10に示すようにNi粒子8を除去した後、図11に示すようにナフィオン12を減圧含浸する。以上の工程によって、積層型電極13が得られる。
【0039】
本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒は、膜電極複合体(MEA)のアノード電極として用いることができる。アノード電極とカソード電極とによりプロトン伝導性膜を挟持して、MEAが構成される。
【0040】
プロトン伝導性膜等に含まれるプロトン伝導性物質としては、特に限定されず、プロトンを伝達できる任意の材料を使用することができる。プロトン伝導性物質としては、例えば、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭化成社製)、アシブレック(旭硝子社製)などのスルホン酸基を有するフッ素樹脂や、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物などが挙げられる。
【0041】
前述したようなMEAと、アノード電極に燃料を供給する手段と、カソード電極に酸化剤を供給する手段と組み合わせることによって、燃料電池を作製することができる。使用されるMEAの数は1つでもよいが、複数でもよい。複数使用することにより、より高い起電力を得ることができる。
【0042】
以下、本発明の具体例を示すが、本発明はこの具体例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1〜17、比較例1〜7)
まず、カーボンブラック担体(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を十分に分散して、ホルダに収容した。このホルダをイオンビームスパッタ装置のチャンパー内に配置し、チャンバー内を排気した。チャンバー内の真空度が3×10-6Torr以下に達した後、Arガスを流入した。
【0044】
下記表2に示す各種組成となるように、所定のターゲットを用いてスパッタリングを行なうことにより、触媒粒子を担体に付着させた。ターゲットとしては、金属ターゲットおよび合金ターゲットのいずれを用いることもできる。
【0045】
触媒粒子が付着した担体は、酸水溶液を用いて酸洗い処理を施した。ここで用いた酸水溶液は、10gの硫酸を200gの水に加えて調製したものである。さらに、水洗いを行なった後、乾燥させてメタノール酸化触媒を得た。
【0046】
(比較例8)
まず、塩化バナジウムと塩化タンタルとを含有するエタノール溶液1000mLを調製した。溶液中におけるバナジウム金属量は31mgであり、タンタル金属量は6mgとした。得られた溶液に、カーボンブラック(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を500mg添加し、十分に撹拌して均一に分散させた。その後、撹拌しつつ55℃に加熱して、エタノールを揮発させて除去した。
【0047】
水素ガスを50mL/分の流量で流通させつつ、残留物を300℃で3時間加熱することによって、カーボンブラック上にバナジウムとタンタルを担持させた。次いで、1,5−シクロオクタジエンジメチル白金を含有するシクロヘキサン溶液300mL(白金金属量309mg)と混合した。この混合溶液中に、前述のバナジウムとタンタルを担持したカーボンを添加し、十分に撹拌して均一に分散させた。その後、撹拌下に55℃に加熱して溶媒を揮発させて除去した。
【0048】
さらに、水素ガスを50mL/分の流量で流通させつつ、上で得られた残留物を300℃で3時間加熱した。その結果、カーボンブラック上に、白金、タンタルおよびバナジウムが担持され、比較例8のメタノール酸化触媒が得られた。
【0049】
各種触媒についてPHI社製Quantum−2000を用いてXPS測定を行なった。中和銃(電子銃、アルゴン銃)によるチャージアップ補償と帯電補正(C1s:C−C=284.6eV)とを行なった。各元素の金属結合によるピークと酸素結合によるピークの同定を、下記表1に示す。
【0050】
例えば、VについてはV2pスペクトルを用いて、結合エネルギーが512〜514eV範囲にあるピークを金属結合によるものと同定し、516〜518eV範囲にあるピークは酸素結合によるものと同定した。Wについては、W4fスペクトルを用いて、結合エネルギーが31〜34eV範囲にあるピークを金属結合によるものと同定し、36〜40eV範囲にあるピークを酸化結合によるものと同定した。
【表1】

【0051】
触媒粒子中に含有されているM元素の種類が複数の場合は、最も含有量が多いM元素を主要M元素と定義する。各触媒の主要M元素の測定結果を、下記表2にまとめる。主要M元素のピーク面積倍率は、M元素の金属結合によるピーク面積を1とした際の酸素結合によるピーク面積と定義した。また、Taのピーク面積倍率は、Taの酸素結合によるピーク面積を1とした際の金属結合によるピーク面積とそれぞれ定義した。
【表2】

【0052】
表2に示されるように、実施例の触媒は、いずれもXPSスペクトル上の各主要M元素の酸素結合によるピークの面積は同元素の金属結合によるピークの面積の2倍以下であり、Taの金属素結合によるピークの面積は同元素の酸素結合によるピークの面積の2倍以下である。これに対し、溶液法によって作製した比較例8においては、M元素およびTaの結合のほとんどが酸化状態であった。
【0053】
なお、上で測定されたサンプルは、酸洗いが施された触媒である。酸洗い前の触媒は、酸洗いしたものより酸化結合のピークが高い場合がある。それは、不安定な酸化層の存在が原因であることが多いと思われる。酸洗い処理が施されない触媒は、不安定な酸化層が発電中において変化し、酸化結合によるピークの面積比は酸洗いした触媒と同レベルになることが多い。
【0054】
次に、実施例および比較例の各触媒をアノード触媒として用いてMEAを構成し、これを用いて燃料電池を作製して、その評価を行なった。
【0055】
アノード電極の作製に当たっては、まず、各触媒3gと、純水8gと、20%ナフィオン溶液15gと、2−エトキシエタノール30gとを十分に攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。得られたスラリーを、撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)にコントロールコータで塗布し、乾燥させた。こうして、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cm2のアノード電極を得た。
【0056】
一方、カソード電極の作製には、Pt触媒を用いた。Pt触媒(田中貴金属社製)2gと、純水5gと、20%ナフィオン溶液5gと、2−エトキシエタノール20gとを十分に攪拌し、分散してスラリーを作製した。得られたスラリーを、撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)にコントロールコータで塗布し、乾燥させた。こうして、貴金属触媒のローディング密度が2mg/cm2のカソード電極を作製した。
【0057】
カソード電極およびアノード電極は、いずれも電極面積が10cm2になるよう、3.2×3.2cmの正方形に切断した。プロトン伝導性固体高分子膜としてのナフィオン117(デュポン社製)を、カソード電極とアノード電極との間に挟み、熱圧着して膜電極複合体を作製した。熱圧着の条件は、125℃、10分、30kg/cm2とした。
【0058】
得られた膜電極複合体と流路板とを用いて、燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セルを作製した。燃料としての1Mメタノール水溶液を、0.6mL/minの流量でアノード電極に供給すると共に、カソード電極に酸化剤としての空気を200mL/分の流量で供給した。セルを65℃に維持した状態で150mA/cm2電流密度を放電させ、30分後のセル電圧を測定した。また、同様の運転条件で単セルを800時間発電させて、150mA/cm2電流密度における電圧の低下率を調べた。得られた結果を劣化率として、電圧とともに下記表3に示す。
【表3】

【0059】
PtおよびRuのみの比較例1と実施例1〜17との比較から、実施例1〜17の触媒は、耐久性が高められ、同レベルの活性を有することがとわかる。実施例1〜3と比較例2、4とを比較することにより、VとTaとを複合添加することによって、高い活性を維持しながら、劣化率8%以下の高い安定性が得られることがわかる。
【0060】
M元素の含有量が1.5at.%未満の場合、あるいは55at.%を越えた場合には、劣化率8%以下の高い安定性と高活性とを両立することができない。Taの含有量が0.5at.%未満の場合、あるいは40at.%を越えた場合も同様に、劣化率8%以下の高い安定性と高活性とを両立できない。これは、実施例1〜17と比較例3〜7との比較からわかる。
【0061】
高い活性を得るには、組成のみならず、元素の結合状態が制御する必要があることが、実施例1〜3と比較例8との比較から確認された。
【0062】
以上の結果は、Pt−V−Taの元素組み合わせについて確認されたものであるが、Pt−W−Ta,Pt−Ni−Ta,およびPt−Mo−Taなどの元素組み合わせについても同様な結果が得られた。
【0063】
なお、実施例のメタノール酸化触媒を改質ガス型高分子電解質型燃料電池に適用したところ、この場合も、同様の傾向が確認された。したがって、本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒は、CO被毒についても従来のPt触媒より有効であることがわかる。
【0064】
上述したように本実施形態にかかる触媒は、高活性かつ高安定性な触媒であるので、これを用いて高出力な燃料電池を作製することができる。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】一実施形態にかかるメタノール酸化触媒の概略図。
【図2】他の実施形態にかかるメタノール酸化触媒の概略図。
【図3】一実施形態にかかるメタノール酸化触媒により構成される触媒層のTEM写真。
【図4】積層型電極の製造工程を表わす断面図。
【図5】図4に続く工程を表わす断面図。
【図6】図5に続く工程を表わす断面図。
【図7】図6に続く工程を表わす断面図。
【図8】図7に続く工程を表わす断面図。
【図9】図8に続く工程を表わす断面図。
【図10】図9に続く工程を表わす断面図。
【図11】図10に続く工程を表わす断面図。
【符号の説明】
【0067】
1…カーボン担持触媒; 2…カーボン粒子; 3…触媒粒子
4…カーボン担持触媒; 5…カーボンナノファイバー; 7…カーボンペーパー
8…Ni粒子; 9…CNF層; 10…RtRu粒子; 11…C粒子
12…ナフィオン; 13…積層型電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、M元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークと金属結合によるピークとを示し、前記酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の2倍以下であることを特徴とするメタノール酸化触媒。
PtxzTau (1)
(前記一般式(1)中、M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。xは40〜98at.%、zは1.5〜55at.%、uは0.5〜40at.%である。)
【請求項2】
M元素の一部は、A元素により置換されることを特徴とする請求項1に記載のメタノール酸化触媒(A元素は、Sn,Hf,Ti,Cr,Al,Si,NbおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種である)。
【請求項3】
前記A元素は、前記M元素の80%以下の量で含有されることを特徴とする請求項2に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項4】
前記uは、1〜15at.%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項5】
前記Ptの一部は、他の貴金属により置換されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項6】
前記貴金属は、Rh,Os,Ir,Pd,Ag,およびAuからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項7】
前記微粒子の平均粒径は、10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項8】
前記微粒子の平均粒径は、0.5nm以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項9】
前記微粒子を担持する導電性担体をさらに具備することを特徴する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項10】
前記導電性担体は、カーボン材料および導電性セラミックス材料からなる群から選択されることを特徴とする請求項9に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項11】
前記カーボン材料は、ファイバー状、チューブ状、またはコイル状であることを特徴とする請求項10に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項12】
下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、M元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークと金属結合によるピークとを示し、前記酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の2倍以下であることを特徴とするメタノール酸化触媒。
PtxzTau (1)
(前記一般式(1)中、M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。xは40〜98at.%、zは1.5〜55at.%、uは0.5〜40at.%である。前記M元素の一部は、Sn,Hf,Ti,Cr,Al,Si,NbおよびZrからなる群から選択されるA元素により置換されていてもよい。)
【請求項13】
下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、M元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークと金属結合によるピークとを示し、前記酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の2倍以下であることを特徴とするメタノール酸化触媒。
PtxzTau (1)
(前記一般式(1)中、M元素は、V,W,NiおよびMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。xは40〜98at.%、zは1.5〜55at.%、uは0.5〜40at.%である。前記Ptの一部はRh,Os,Ir,Pd,Ag,およびAuからなる群から選択される少なくとも1種により置換されていてもよい。)
【請求項14】
請求項9に記載のメタノール酸化触媒の製造方法であって、
導電性担体を400℃以下に保持する工程と、
前記導電性担体上に、スパッタリング法または蒸着法により構成金属元素を付着させて前記微粒子を形成する工程と
を具備することを特徴とする製造方法。
【請求項15】
前記微粒子を酸洗いする工程をさらに具備することを特徴とする請求項14に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項16】
前記微粒子をアルカリ洗いする工程をさらに具備することを特徴とする請求項15に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項17】
前記微粒子を後熱処理する工程をさらに具備することを特徴とする請求項14乃至16のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項18】
前記後熱処理は、10℃以上400℃以下の温度、5%未満の酸素分圧の条件で行なわれることを特徴とする請求項17に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項19】
前記スパッタリング法または蒸着法は、他の材料も前記導電性担体に付着させることを特徴とする請求項14乃至18のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項20】
前記スパッタリング法または蒸着法により、溶解性金属を構成金属元素とともに前記導電性担体に付着させ、酸洗いにより前記溶解性金属を除去する工程をさらに具備することを特徴とする請求項14乃至18のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−238510(P2009−238510A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81629(P2008−81629)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(506358764)インテマティックス・コーポレーション (40)
【氏名又は名称原語表記】INTEMATIX CORPORATION
【Fターム(参考)】